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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」2
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最強議論は不毛だよな
>>1乙
>>1乙
いや、単にこの設定だと一方通行は風を反射できないなあって思っただけなんだけど…
>>456
もしかするとできないのかも
もしかするとできないのかも
乙
今回はただ単に一方さんが絹旗の能力知らなかったから攻撃通ったんだと思うけど
でもssで一方さん負かすのは大変だよね
反射の時点ですでにチートなのに
今回はただ単に一方さんが絹旗の能力知らなかったから攻撃通ったんだと思うけど
でもssで一方さん負かすのは大変だよね
反射の時点ですでにチートなのに
ちゃんと>>395に注意書きが書いてあるのにお前らときたら…。
まあ話の展開上一方さんに苦戦してもらわないとならなかったという事でしょ。
だいたいこの程度の事にいちいち突っ込んでたら原作なんてとてもじゃないけど読めないじゃん。
だいたいこの程度の事にいちいち突っ込んでたら原作なんてとてもじゃないけど読めないじゃん。
そもそもファンタジーに科学的考察を持ち込むなんて無粋の極みだろ
空想科学読本愛読してるけど
空想科学読本愛読してるけど
ところで美琴の出力が上がったのは何かのフラグかな
何度か能力に変調があるって描写があった気がする
何度か能力に変調があるって描写があった気がする
窒素や酸素がどうとか科学とかいうより、一通さんの反射のホワイトリストの再演算の可否を話してる感じっぽい
スレチには変わりないのでもうやめた方がいいが
ところで一通さん、ミサワ、絹旗もそろったことで暗闇の五月計画をミサワが本格的に教わるフラグが立ったなー
スレチには変わりないのでもうやめた方がいいが
ところで一通さん、ミサワ、絹旗もそろったことで暗闇の五月計画をミサワが本格的に教わるフラグが立ったなー
>>464
そういえば前スレで滝壺がそんなこと言ってたね、原子崩しを掻き消したりもしてたっけ
そういえば前スレで滝壺がそんなこと言ってたね、原子崩しを掻き消したりもしてたっけ
暦の上では原作から一月半進んでいるが、今頃新入生やグレムリンは何をしているのだろうか
こんばんは
週末どころか翌週半ばになってしまいました……orz
絹旗VS一方通行ですが、あくまで「解析され、対処される前に即効で潰す」ことが前提になるもので、
窒素さえ操れればいつでも一方さんをフルボッコ☆ とは考えていません
タネさえ分かってしまえば触れられる前にミンチになってしまうわけですし、
今回通用したのは「結標の能力による奇襲」かつ「初撃で顎に一撃入れて体力を奪う」ことに成功したからということでどうか一つ……
読めば読むほど矛盾が出てきて読み返すのが辛い
では投下していきます
週末どころか翌週半ばになってしまいました……orz
絹旗VS一方通行ですが、あくまで「解析され、対処される前に即効で潰す」ことが前提になるもので、
窒素さえ操れればいつでも一方さんをフルボッコ☆ とは考えていません
タネさえ分かってしまえば触れられる前にミンチになってしまうわけですし、
今回通用したのは「結標の能力による奇襲」かつ「初撃で顎に一撃入れて体力を奪う」ことに成功したからということでどうか一つ……
読めば読むほど矛盾が出てきて読み返すのが辛い
では投下していきます
「──うわぁ、殺風景」
番外個体が間の抜けた声を出せば、それは空間に響いた。
ここは一方通行の作った拠点の一つで、以前とは場所が異なるがここも雑居ビルを借りて作られていた。
広さはおよそ20畳。その中央にソファーベッドやらテーブル、いくつかの家具類が置いてあるほかはがらんどうだ。
テーブルの上には何台かのノートパソコンが載っており、今は動いていない。
ソファーベッドに傷ついた絹旗を寝かすように指示し、一方通行は一同に向き直る。
一方通行、番外個体に現『グループ』を加えて6人。
人を入れることなど想定していない場所だ。椅子などない。
ストーブの電源を入れた一方通行は「適当に座るか立ってろ」と無慈悲な言葉を発した。
いち早くソファーの手すり部分を確保した番外個体が、部屋の中を見まわし呑気な声を出す。
「ふーん、ここが第一位の"巣"なんだね。もっとショボイところに住んでるのかと思った」
「……オマエは何を想像してたンだ」
「『核戦争後の地球でも生き延びられる』がキャッチフレーズだったし、路地裏にダンボールでも敷いて寝てるんじゃないかなって」
「言ってろアホ」
温冷庫からコーヒーを取りだした一方通行は、そのまま温冷庫に寄りかかった。
「それで、だ」
一方通行の瞳が鋭くなり、周囲の空気が一変する。
「改めての状況を整理しよォじゃないか。クソガキは話を聞いてなかったみたいだしな」
「まずはこちらの状況から話させてもらう」
応えたのは土御門。
「……10月17日。『ドラゴン』の出現と同時に倒されたオレたちは、3人別々に収監されていた。
お前も捕まっていると思ったんだが、上手く逃げおおせたと聞いてびっくりしたよ。
で11月4日、オレたちは突如解放された」
このあたりの事情は土御門と、結標や海原では少し違う。
学園都市の最上層部の事情に通じているか、いないのか。その差によるものだ。
「その後数日は大人しくしていたさ。戦争が起こった後だし、表も裏も大混乱だったからな。
オレたちは自分たちが守りたいものを守るので必死だった」
「そのころからでしょうか。『闇』からの締め付けが、少しずつ弱まって行ったのは」
元々の『グループ』は、皆大事なものを学園都市の『闇』に人質に取られた人間の集まりだった。
一方通行は打ち止めや『妹達』を。
土御門は義妹を。
結標は仲間たちを。
海原は大切な少女たちを。
ある者は監視され、ある者は監禁されて、彼らを無理やり働かせるための『エサ』とされていた。
が、その頃から『エサ』に対する脅威が少しずつ和らいでいった。
もちろん、完全になくなったわけではない。
それでも気にならないレベルにまではなったのだ。
その働きかけを行ったのが目の前にいる一方通行であることを、結標や海原は知らない。
それでも、その『どこかの誰か』には感謝していた。
「私たちの守りたいものは少なくとも今すぐどうこうされるってことはなくなったけれど。
あなたはどうなのかしら、一方通行?」
笑いかける結標に、だが一方通行は渋い顔を返す。
「「第三次製造計画」」
一方通行と土御門の声がハモり、たがいに嫌そうな顔をする。
「……今『グループ』が動いているのは、親船最中からの依頼があったからだ。
彼女の情報網に、統括理事の誰かが不穏な動きをしていて、それを潰してほしいとのことだ」
「親船、ねェ」
確かに統括理事会の中ではまだ信用できる人間だ。
が、統括理事会そのものに対する不信感が根強い今、彼女をそう簡単に信用していいものか。
「親船から受けた依頼は2つ。
1つは『第三次製造計画』に関わる施設・データの破棄と、生み出されたクローンたちの保護。
もう1つは、『超電磁砲』のDNAサンプルの回収」
「DNAサンプル?」
「ああ。彼女からDNAマップを得る際に提供された毛髪。その標本が『絶対能力者進化計画』後に行方不明になっていてな。
標本と言えど細胞の鮮度が保たれる処置がされている。いくら施設を破壊したところで、そのサンプルさえあればいくらでも研究再開できてしまう」
「本当に『超電磁砲』のクローン製造を根絶したければそのサンプルを回収しなきゃならないというわけ。
まあ生きたサンプル採集元が世界に一万人ほどいるけど、そっちは手を打ってあるらしいし」
親船最中と貝積継敏、そして『あの』雲川芹亜がバックについているの。
そうそう危害を加えられるようなことはない、というのが『グループ』の共通見解だ。
「本当にそれで大丈夫かは疑問だが、あいにく体は一つしかねェ。
優先順位の高い順に問題を解決していく必要がある」
「その通りだ。だが、どうやら今度の敵さんは狡猾で、中々尻尾を出さない。
行き詰った俺たちの元に、とある上方が舞い込んできた」
「それが、この『番外個体』ってわけ?」
黙って聞いていた番外個体が、ここで初めて口を開いた。
「ああ。親船のルートから、統括理事の誰かがロシアにいる一方通行を殺すために『妹達』を送り込んだという情報が入ってきた。
その既存とは違う『妹達』はロシア行の間一方通行と行動を共にし、学園都市帰還後に消息不明になった。
調べてみる価値はあると思ったんだ」
「ふーん、ふん、ふん。ミサカってば意外と有名なんだね」
「単刀直入に言おう、番外個体。お前の正体はなんだ」
土御門の詰問に、番外個体は一方通行をちらりと見る。
数秒考えた後、彼は小さくうなずいた。
「ご察しの通り、ミサカは『超電磁砲』のクローン。最新モデルである『第三次製造計画』の一人だよ」
「……やっぱりか」
「でも、ま、なんて言ってもこのミサカは試作品だし、そもそも一月半も前に死んでるはずの個体だし?
あなたの欲しい情報なんてほとんど持ってないと思うよ?」
「ふむ。じゃあ、『第三次製造計画』の拠点は?」
「知らない」
「『第三次製造計画』で作られてる『妹達』の数は?」
「知らない」
「……『第三次製造計画』の首謀者は誰だ?」
「知らなーい」
あっけらかんと答える番外個体に、土御門の苛立ちが募る。
「だってさ、さっきも言った通りミサカは使い捨ての試作体だよ?
これから死に行く鉄砲玉にそんな重要な情報教えるわけないじゃん」
「確かにそれは一理あるけれど……本当に何も知らないの?」
「ミサカはずっと研究所で育ったし、他の『第三次』からは隔離されてたし……。
そもそも、ミサカネットワークに初めてアクセスしたのってロシアに向かう戦闘機の中なんだよね。
研究所から飛行機に乗せられるまでの間は薬で眠らされてたし」
「あの時降ってくる直前か」
「そうそう。それに、このミサカは『第三次』なのに、『第二次』のミサカネットワークにしかアクセスできないようになってる。
『第三次』のネットワーク接続できない以上、そっちとの情報共有はできないよ」
「……? ミサカネットワークというのは、『妹達』全員で構築しているのではないのですか?」
科学に疎い海原が、疑問符を頭の上に浮かべた。
「『妹達』でくくらず、『第二次』と『第三次』で分けて考えて。
今あなたたちが『ミサカネットワーク』と呼んでいるのは、検体番号20001号までの『妹達』が構築してる旧ネットワーク。
『第三次』は旧ネットワークとは別に、独自に自分たちだけの新たなネットワークを構築できるはず。
ミサカの頭の中のスペックシートが正しければね?」
「つまり、お前は意図的に情報封鎖されていて有益な情報は持っていないということか」
「『暗部』の人間のパーソナルデータとか、死亡した『妹達』の詳細な死因とか、そういうのはぎっしり詰まってるんだけどねぇ。
ま、バカじゃなければ身元がバレるような情報なんて与えないでしょ?」
「お前が育った施設について、なンか覚えてることはねェのか」
一方通行の言葉に、番外個体は天井を睨んで考え込む。
「ミサカが入れる所って、何カ所かだけって決まってたんだよ。
ひたすら牢獄みたいな部屋と実験場を往復する日々だったし」
起きて栄養剤を与えられ、ひたすら一方通行を殺すための技術を獲得し、そしてまた牢獄のような部屋に戻って寝るだけの日々。
もうあそこには戻りたくない。
『第三次製造計画』の姉妹たちは、今もあそこに居るのだろうか。
「……一度だけ、施設の見取り図を見たことがあるんだよね。
その時ミサカネットワークに繋げてたら記憶を保存できてたんだけどなぁ。
どうなってたっけ……?」
腕を組み、記憶をたどる。
「……えーっと、確か……3Dモデルだと建物は下に伸びて行ってたような……?
B6フロア、B7フロアみたいに呼ばれてたし、多分どこかの地下なんじゃないかな」
「地下、か」
学園都市の優れた建築技術により、地下の商業・工業的開発技術は日本の他都市や諸外国に比べて格段に発達している。
十分な耐震性能を持った巨大な地下構造物を設置可能だと言うのは、商業施設が地下数百メートルまで設置されている第二十二学区の存在からも明らかだ。
当然地下に研究施設を持つところも数多くあり、これだけでは範囲は絞れない。
「あとは……大きい穴があったかな」
「穴?」
「そう、見取り図だと研究所の最上層から最下層までどの階層にも大きな円形のスペースが同じところにあったと思う。
多分、吹き抜けになった巨大な円筒状の空間になってるんじゃないかなぁ」
「……地下研究所、巨大な円筒状の空間……」
一同は考え込む。
この二つのキーワードを結びつける物はなんだろう。
そこにきっと、『第三次製造計画』の本拠地があるはずだ。
「……考えるのは、互いに情報を全て出しきってからにしよう」
────────
「……なるほど、木山さんは脳科学者なんですね」
上条、美琴、白井、木山の4人は場を実験場近くのファミレスに移し、遅い昼食を取っていた。
ちなみに能力開発の担当教官は「データの分析をして報告書を書かねばならない」ということで帰ってしまった。
この中で木山のことを良く知らない上条が、木山にいろいろと質問をしていた。
「まあね。と言ってもかつての私のチームは解散してしまったし、今では雇われの下っ端に過ぎないが」
「……? 何かあったんですか?」
「とある事件を起こしてしまってね。それで周囲からの信頼はどん底さ」
「ですが、その目的は純粋に子供たちの為だったわけですし。
真摯に罪を償っていけば、きっと信頼を取り戻せる日も来るでしょう」
白井が微笑めば、木山もそうだな、と応えた。
そんな三人の様子を面白くなさそうに見ているのは美琴だ。
そもそも席順からして気に入らない。
テーブルを挟んで
木山 美琴
■■■■■
上条 白井
のように並んでいるのだが、上条が座った瞬間横に白井が座ってしまったのだ。
上条の隣に座りたかったものの言いだす勇気もない美琴としては、歯噛みして黙る他ない。
「じゃあ、今はどんなお仕事を?」
「教員免許を取るための勉強の傍ら、新たな能力開発の為の教材づくりに関わっていてね。
実は今日御坂くんに協力をお願いしたのは、このためなんだ」
「私の演算パターンを元に最適化した演算式を使って、『電撃使い』の子のための教育ソフトを作るんだってさ」
「はぁ、御坂ってやっぱりすげぇんだな……」
感嘆のため息をもらす上条に、何故だか美琴の心がざわついた。
感心されるよりも、対等に扱ってほしいのに。
「その私より凄い能力を持ってるくせに、なーにを言ってんのよっ!
ねぇ木山せんせい、こいつの能力解析できないの?」
「そうだな……」
木山は顎に手を当て、考え込み始めた。
先ほどの超電磁鬼ごっこの際、木山も能力開発の教官も、上条の持つ『幻想殺し』の効果を確かにその目で見た。
レベル5第三位の電撃を軽々と消してしまうほどの出力。
それでいて、『身体検査』の際には何も引っかからず無能力判定されてしまう矛盾。
加えて、右手"だけ"にしか適用されない効果範囲。
規格外の能力に、二人して頭を抱えたものだ。
「君のその右手は、どんな能力も消せるのだろう?」
「一応そう言う風には聞いてますが、記憶には……」
「むぅ」
約一月半前に記憶を失い先日まで入院していた少年に、「能力を打ち消す能力」を使う機会などないだろう。
「私が知る限りから考えると、多分学園都市のどんな能力者でも消しちゃうでしょうよ。
なんせレベル5の能力だって軽々消しちゃうんだから」
美琴の電撃も一方通行の反射も容易く打ち消してみせた上条の右手。
その中には、どれだけの力が内包されているのだろう?
「能力ならば何でも消せる、ただし効果範囲は右手だけ……。
一体どのような『自分だけの現実』をお持ちになれば、そんな能力になるのやら。
殿方さん、あなた能力が発現する前、『……くっ、この右手に封じられた邪気が疼く……ッ!!』とかおやりになってたタチではありませんの?」
「何それ、うわぁ」
「……やってないと信じたいが、明確に否定することもできない……ッ!?」
まさかの厨二病疑惑。
今はもう思い出すこともかなわぬ中学生時代、自分はもしかしてそんなに痛々しい存在だったのだろうか。
想像して悶絶する上条を、現役中学生二人は呆然と眺めていた。
「……御坂の演算パターンを使った教材作りって、具体的にはどんなものなんですか?」
「あ、無理やり話を逸らしましたの」
上条は苦し紛れに話題を変えようとするも、あっさり見破られる。
「君は『幻想御手』を知っているかい?」
「名前くらいは聞いたことがあるような、ないような……」
昔の自分がどこかで聞いたのかもしれない。
エピソード記憶を失った上条にも、単語名くらいは心当たりがあった。
「部外者の君にはあまり詳しくは話せないが、『幻想御手』とは他者の『自分だけの現実』や演算能力を間借りして出力を高めるものなんだ。
今回はその仕組みに手を加え、御坂くんの演算パターンを用いて擬似的に高レベルを体験できるようなものを作ろうとしているというわけだ」
「簡単に言えば、『私がどんな風に能力を使っているか』を直に体感して、自分の能力に役立ててもらおうってこと」
「……うーむ、どんな仕組みなのかさっぱり想像がつかん」
「確か『マインドサポート』という技術と、スパコンを使った演算補助を行うのでしたわよね?」
「ああ。『これを被ってる間は能力が向上する』ヘッドギアを作っていると考えてくれればいい」
「ヘッドギアを被るだけで能力向上……なんだか聞いてる分にはもの凄く胡散臭く聞こえるんですが……」
入院中、大量の「脳を活性化させる十二の栄養素が入った能力上昇パン 」なる味気ないパンを差し入れられた身としては、にわかに信じがたい。
「あんたね、木山せんせいはガチの優秀な脳科学者なのよ?
そんなプラシーボ効果頼りのしょっぱい物と一緒にしないでよ」
「うーむ、簡単に能力が上がると言われると途端に眉唾に思えるのはレベル0のサガなのだろうか……。
……ん? 待てよ。『御坂がどんな風に能力を使っているか』を直に体感するんですよね?」
「ああ、そうだが」
「いくら学園都市製とはいえスパコンとかに繋がってる精密機器が、至近距離で雷と同じ威力の電撃を浴びて大丈夫なんですか……?」
「え」
「え?」
「あっ」
上条の素朴な疑問に、残る三人が固まる。
美琴の出力は10億ボルトを優に超え、自然界における雷と同等の威力を持つ。
今回はあくまで「美琴の演算パターンを用いて『自分だけの現実』を補強する」という物であるため同等の威力が出ることはないはずではあるが、
過去の『幻想御手』事件ではレベル5の被害者がいなかったにもかかわらず、質を数で補ったことで多大な効果を発揮した実績を持つ。
スパコンによる演算補助とレベル5の演算パターンによる能力補助、それが織りなす効果は今だ未知数だ。
「……万が一ということもあるし、材質を選び直したり、設計レベルから作り直したほうが良いかもしれないな」
「ということは、研究の完成は……」
「まあ、大分遠のくな」
はぁ、とため息をつく木山。
「あの、なんだかすみません……」
「いや、君にはむしろ礼を言わなければ。『このアイデアをどう実現するか』ということにばかり気が向いていて、構造の耐久性にまでは考えが及んでいなかった。
あくまで能力開発の為の教材だからね、『安全である』と言うことが何よりも大事だ」
もちろん効果の高さもね、と付け加える。
「だから、御坂くんに頂いた貴重なデータも、上条くんの意見も大事な糧にして、私はこの研究を絶対に完成してみせるよ。
それが私に出来る罪滅ぼしだと思っているし、何よりもレベルが上がらずに悩む子供たちのためになると思うからね」
そう語る木山の表情はとても明るく、思い描く未来への希望と自信に満ちている。
過去の楔から解き放たれ、ようやく自分の生きる道を見つけた人間だけが出来る、とても魅力的な笑顔だ。
「頑張ってください、木山せんせい。私たち皆、応援してますから!」
「ああ、期待していてくれ」
そう言って、木山は笑ったのだった。
────────
情報を粗方出し終え、しばしの小休止。
立ちっぱなしで疲れた体を休めるべく壁に寄りかかる者、腹ごしらえをすべく近くのコンビニへ向かう者などさまざまだ。
そんな中、ずっとソファーベッドに臥せっていた絹旗がようやく目を覚ました。
「…………ここは?」
「おや、やっとお目覚め?」
それに気付いた番外個体が声をかけると、絹旗は一瞬びくりと肩を震わせ、敵意丸出しの視線を番外個体にぶつける。
「あー、そんな怯えなくてもいいよ。第一位とあなた達のリーダー、協同歩調を取ることになったみたいだし」
「……それでも、左腕の風穴と電撃の恨みは超忘れてませんよ」
「じゃあいつでもかかっておいでよ、『窒素装甲』」
にやにやと甘い悪意を口の中で転がすような表情の番外個体に、絹旗はそっぽを向く。
「ところで服が血とコーヒーとジュースで超べたべた、甘ったるい匂いがして超嫌なんですけど。
シャワーないですか、第一位」
冷蔵庫から缶コーヒー取り出していた一方通行に、絹旗が尋ねた。
「あるにはあるが、使った事がねェからちゃンと動くかは分からねェぞ。
最悪水でも良いなら好きに使え。シャツくらいなら貸してやる」
「シャワー使ったことない……って、ここあなたのねぐらじゃないの?」
「あの場所から一番近かったからここに来ただけで、設置はしたけどほとンど使ってない拠点なンだよ」
補充を終えた一方通行が引き出しから適当に2、3枚Tシャツや無地のYシャツを引っ張り出し、絹旗の前のテーブルに置いた。
それを戸惑うように眺める番外個体と絹旗。
「ンだよ」
「一方通行……あなたって、幼女に自分の服を着せて喜ぶ性癖なの?」
その言葉に、一方通行と絹旗は同時に噴き出した。
「ンなわけねェだろ!」
「いっつもしましまのダサイシャツしか着てないあなたがわざわざ白無地のシャツを出して最終信号に着せてるなんて、おかしいとは思ってたんだ……。
まさかフェチのためにポリシーを捨ててただなんて……そんなに幼女に自分の服を着せたいのね、この変態!」
「そろそろ黙ろォか、それとも黙らせてやろォか?」
「あなたがチョーカーのスイッチを入れてミサカを黙らせるのと、ミサカがメールを送るの、どっちが早いと思う?」
番外個体が一方通行に携帯電話の画面を見せた。
【TO】おねーさま
【sub】緊急
------------------------
第一位は幼女に自分の服を着せて喜ぶ変態
最終信号のYシャツを脱がしたほうがいいよ!
「オマエは何を送ろォとしてンだァ!」
「面白おかしくしたじ・じ・つ☆」
「それは事実って言わねェ。というか事実じゃねェよ捏造すンな!」
携帯電話を巡り取っ組み合いが始まりかける中、絹旗は蒼白な顔で自分と番外個体の胸部を見比べつつぶつぶつと何かを呟いていた。
「私が幼女……? いえ総合的に考えれば私の方が超スタイルはいいはず……しかしあの盛り上がりは無視するわけには……」
「あいつら、何やってんだ?」
コンビニから帰ってきた土御門が、海原と結標に問う。
「仲がいい事は良いことではないですか?」
「あれが仲良いって言うのかしら……」
絹旗がシャワーを浴び終えるのを待って、再び話し合いが再開される。
ちなみに絹旗は結局一方通行のシャツを着ていた。
番外個体によってその写メールを送られた打ち止めからメールや電話が一方通行の携帯電話へと山のように送られてくるが、それはあえて無視。
「……というか、オマエいつのまに携帯電話買ったンだ」
「お姉様に姉妹の中でミサカだけ持ってないって言ったら買ってくれたよ。
最終信号は黄泉川に、他のミサカたちは冥土帰しに貰ってたしさ」
分類としてはスマートフォンに入るのだろうか。
番外個体はキーのない機体を器用に手の中で弄ぶ。
「……話を戻すぞ。
さっき挙げた『地下の研究所』『大きな縦穴』という条件で学園都市中の施設を調べたところ、大分絞れた。
役所への建築申請書類、軌道衛星からの各種分析、他にも色々あるけどどれから見たい?」
「全部出せ、まどろっこしい」
「了解」
土御門がノートパソコンを操作すると、学園都市の衛星写真上に数多くのアイコンが乗った画像が表示される。
うんざりするほどあるアイコンの一つ一つが怪しい施設なのだろう。
「とりあえず、条件に該当する施設はおよそ752カ所。
さあ、ここからどうやって絞る?」
「ひとまずバイオ関連の施設から当たってみるのはどうでしょう?」
「確かにバイオ系にカモフラージュしてる可能性はあるが、してねェ可能性の方が高いと思うぞ。
なンせ『絶対能力者進化計画』ン時は航空産業から発電所まで、幅広く偽装してたンだからな」
「専用インフラの超整備されてるところから当たってみては?
水や電気、あるいは資材の調達は超必須事項でしょうし、超誤魔化しきれるものでもないでしょう」
「そんなのはどうとでもなるんじゃない。
最悪学園都市の端から端まで物資調達用のパイプラインを通すくらい、苦もなくやってのけるでしょ?」
「必要ならばやりかねないな。そもそもここ学園都市は教育と研究の街。
都市内のどこであっても研究に必要なインフラは無尽蔵に手に入る」
ああでもない、こうでもないと議論が紛糾する中、番外個体だけがその議論に加わっていなかった。
「番外個体、お前の意見を聞かせてくれないか」
土御門が意見を出さない番外個体のほうを向いた。
「んー、さっきも言ったけど、ミサカは施設内の一部しか入れなかったから、さっき挙げた以上の特徴は思いつかないなぁ。
あえて挙げるなら、綺麗な水が入手しやすい場所じゃない?」
「水?」
「ほら、生物は水がなければ生きていけないでしょ?
学園都市のクローン技術って代謝速度を上げて短期間で急成長させるから、その分不要物ももの凄い速度で出るんだよ。
不要物で汚れた培養液内って言うのは生物の成長には適さないし、その浄化のためには大量の水が必要。
綺麗な水を大量に安定供給できるっていうのは重要なファクターじゃないかな?
もちろん工業用水じゃなくて、飲用可能なレベルのものね」
「ふむ……」
番外個体の意見を付け加え再検索すると、候補数は一気に半減した。
それを地図上に表せば、学園都市の西側に集中していることが分かる。
その中心は、学園都市でもっとも西側に位置する第二十一学区。
貯水用のダムなどを多く抱え、学園都市全域に飲料水や工業用水を配給するための水源地となっている学区だ。
ここに多くのアイコンが表示されている。
「確かにこの付近なら綺麗な水を安価で大量に安定供給できる。
インフラも外部から隔離されている学園都市は、東側に行くほど水道代が高くなるからな」
「この図を元に当たってみる価値は高いってわけか」
「そうじゃない? ま、ミサカにゃそういう分析スキルはないし、そこらは任せるよ」
それよりさ、と番外個体は続けた。
「あなた達は今、『第三次』の本拠地を"見つけるまで"の話をしてるけどさ。
ミサカとしては"見つけたあと"の話をした方が良いんじゃないかと思うんだよね」
「どォいう意味だ」
「意味も何も、そのまんま。
『第三次製造計画』の本拠地を見つけました。悪者をやっつけて、囚われのクローンを救出して、これで全部解決だやったね!
で終わると思ってるの?」
「……………………」
「まあはっきり言っちゃうとさ、そんなことは『絶対に』ない」
番外個体は確信を込めて言い切る。
「何故そう思う?」
「決まってるじゃん。ミサカ達は『軍隊』だよ? そしてその司令塔たる新しい上位個体はきっと研究者たちに握られてる。
暗部の研究者たちが自分たちのテリトリーに踏みこまれて権益を奪われようとしてるのに、馬鹿正直に全面降伏すると思う?」
「しないでしょうね」
「侵入者たちを排除できるだけの力を持った軍隊があって、しかもそれに対して自由に命令できる。
だったらさ、それを使わない手はないよねぇ?」
「つまり、オマエはこォ言いてェのか。
研究者どもが『第三次製造計画』を俺たちにぶつけてくるかもしれねェ、と」
「しれない、じゃなくて確実にぶつけてくるよ。少なくともミサカならそうする。いざという時に使わない『兵器』ほどもったいないものもないしね。
……自分で言うのも何だけど、ミサカたちは強いよ? 特に『第三次』は『第二次』よりもさらにパワーアップしてる。
『レベル5を除く全暗部構成員に対し、一対一で余裕を持って打倒できる』くらいのスペックを要求されてるんだし」
それが実際に与えられたかどうかは、先ほどの番外個体と絹旗の戦いを思い出せば明らかだ。
さして時間もかけず満身創痍になった絹旗に対し、番外個体はかすり傷一つ負ってはいない。
相性や情報格差の問題もあるだろうが、プロトタイプである番外個体でさえこれくらいの力を持っているのだ。
さらに磨き上げられているだろう正式ナンバーでは、その性能はどれほど向上していることか。
レベル4以下では相手にならない。
この場で唯一のレベル5である一方通行は、彼女たちに攻撃することができない。
質と数、両方を兼ね揃えた『敵』にどう立ち向かうべきか。
さらに、もう一つの問題がある。
「それに、ミサカたちに酷い事したりされたりすると、『敵』がもう一人増えるかもよ。
お姉様のこと、忘れてないよね?」
御坂美琴。
『妹達』のオリジナルであり、彼女たちを自分の大事な『妹たち』として守り通そうとする少女。
彼女はきっと、『妹達』を傷つけることも、その手を汚させることも許さない。
敵の敵が味方とは限らない。彼女にしてみれば『グループ』も研究者たちも両方敵としてみなされるかもしれない。
レベル5である彼女による介入は、事態を収拾不能にしかねない。
番外個体を遥かに超える、『電撃使い』の頂上に立つ少女。
彼女と正面からやり合って、無事でいられる人間がどれだけいるだろう。
強大な力を持つ『第三次製造計画』を傷つけたり、逆に傷つけられることなく保護し、その上で黒幕たちを捕まえる。
その概要を聞いただけで、成功確率は限りなく低そうに思える。
それでも、
「それでも、やらなきゃならねェンだ」
一方通行は言い切る。
それは償いきれないほどの罪を償うためであり、守りたいと願った人たちの笑顔を守るためでもある。
危険だからやらない。可能性が低いから手を出さない。
そんな次元には、最初からいやしない。
「……ま、それが仕事だしな。付き合ってやるさ」
ため息をつき、同意を示す土御門。海原や結標もそれに続く。
利害の上だけでの繋がりでも、仕事上だけの付き合いでも、それでも今後あるかしれない『もしも』のために恩を売っておくことは悪くない。
「とりあえず、手分けして怪しい施設を片っ端から当たろう。
『妹達』にどう対処するかは、状況を確認しないことには手を打てないしな」
今日は解散することとなり、めいめい己の休息場所へと帰って行く。
『表』の顔での居場所に戻る者もいれば、『グループ』の拠点の一つで体を休める者もいるだろう。
一方通行の拠点であるこの部屋には、一方通行と番外個体、そして土御門だけが残った。
「オマエは帰らないのか」
「帰るさ。だがその前に大事な話があるんだ。
……番外個体。5分でいいから外に出ていてくれないか」
「えー? ミサカは仲間はずれなの? つまんねー」
「……オマエ、まだ俺の財布持ってるだろ。コンビニで好きなもン好きなだけ買って待ってろ」
「……しょうがないな。早くしないと、あなたのキャッシュカードを暗証番号付きで募金箱に叩きこむからね」
などと優しいのだか悪意まみれなのだか分からない軽口を叩きつつ、番外個体は出て行った。
「で、話ってのはなンだ」
「今回の、『グループ』に降りてきた依頼の出所についてだ」
「親船が情報を掴んで、オマエたちに依頼したンだろ? 自分で言ってたじゃねェか」
「……そうだな。確かにお前たちや『グループ』のメンバーにはそう話した。
だが、実際には違うんだ」
一方通行は眉をひそめる。
暗部組織にとって依頼人の意向は絶対だ。特にわざわざ依頼元を明かしてきた時などは、「依頼人の領域に影響がないように」任務を遂行する必要があるということだ。
なのに、何故わざわざ依頼人を偽るのだろう。
「……他の統括理事の誰かか」
「それも違う。オレたちに、……正確にはオレに任務を与えたのは、その更に"上"のヤツだ」
土御門は人差し指を掲げ、上方を示す。
学園都市を統べる統括理事会の、更に上。それを示す人物は一人しかいない。
「……おい、まさか」
「そう、『第三次製造計画』を潰せと命じたのは、統括理事長アレイスター=クロウリー本人だよ」
思わず立ち上がり、大声を出しそうになる。
一方通行はそれほどまでに強い怒りを覚えた。
『量産超能力者計画』『絶対能力者進化計画』を利用して全世界に『妹達』を配備したのも、
その『妹達』のネットワークを張り直すために新たに個体を製造しようとしているのも、
何より、ネットワークを利用して何度も打ち止めを狙ったのも。
全て、アレイスターの何かしらの目的のためだったのだろう。
あのエイワスさえも、極論してしまえばその目的を遂げるための過程で発生した副産物にすぎないのかもしれない。
「……どォしてあの野郎が『第三次製造計画』を止めたがる!?
あの野郎の目的のためには、『妹達』を自由に製造・配備出来た方がいいンじゃねェのか?」
「それは分からん。必要な数は作ったと言うことなのかもしれないし、何か他の理由なのかもしれん。
あるいは、あの男の計画に『妹達』が不要になった、ということかもしれないしな」
「…………」
「で、どうするんだ」
「どうするって、何をだ」
「今回の件だよ」
土御門は壁に背を預けたまま、一方通行に問う。
「『第三次製造計画』を潰せば、それはアレイスターの目論見通りになる。
あくまでアレイスターの言いなりになることを避けるのならば、『第三次』を見過ごすしかない」
「決まってンだろ。『第三次』を潰したうえで、あのクソ野郎の思い通りになンかさせねェ道を選ぶ」
「……ま、お前はそう言うと思ってたにゃー」
声のトーンを明るくさせた土御門が、ひらひらと手を振り玄関へと向かう。
「それだけ分かってりゃ十分だぜぃ。さてと、オレももう帰るかにゃー」
「………いきなりその馬鹿口調に戻るの、気が抜けるからやめろ」
「日常と非日常を行き来するなら、気持ちを切り替えるためにわざと口調を変えるっていうのは意外と有効なんですたい」
土御門は悪友に向けるような笑顔を一方通行に向けて見せた。
対する一方通行は渋面のまま。
「んじゃ、また明日な。何かあったらいつでも連絡をくれ」
そう言って、土御門は帰って行った。
昼食やその後のお茶を終え、美琴ら四人は実験場の駐車場まで戻ってきていた。
「──ふむ、どうしようか」
自身の車の前で、木山は考え込む。
彼女の愛車・ランボルギーニは後部座席が無く、4人も乗ることはできない。
無理やり押し込めば乗れるかもしれないが、そんなことをすれば間違いなく警備員に捕まってしまう。
「私たちほとんど同じ方向だから、一緒に電車で帰ろうと思ってるんだけど」
「……むぅ、そうするしかない、かな」
木山はごそごそと自分の財布を漁り始めた。
「これだけあれば帰りの電車賃には十分だろう」
と差し出されたのは樋口一葉が描かれたお札。
帰りの電車賃に十分、どころか数往復は出来てしまう額だ。
それを三人分。
「こ、こんなにたくさん受け取れないですよ」
「そうですわ。依頼を受けたお姉様はともかく、わたくしと上条さんは勝手に見物に来ただけなのですから。
気持ちだけ、ありがたく頂いておきますの」
「なぁに、気にしないでくれ。君たちを置き去りにして自分だけ車でさっさと帰ると言うのは私としても心苦しいんだ。
お小遣い程度に思って受け取ってくれると嬉しい」
そう言われれば受け取るしかなく、三人はお札をそれぞれのポケットに収めた。
それを木山は満足げに見つめると、愛車の運転席へと滑りこむ。
「御坂くん、今日は本当にありがとう」
「ええ。また何かあったら、喜んで協力させていただくわ」
軽く握手を交わして、美琴らは木山を見送った。
「──さあ、ぶらぶらしながら帰ろっか」
「ぶらぶらって、まっすぐ帰んねーと俺はともかく中学生は門限ヤバいんじゃねーか?」
「確かに日も沈みかけてますし、あまり時間的余裕は……あら?」
白井の言葉を遮るように、携帯電話が鳴る。
それは美琴のでも、上条のでもなく、白井自身のものだ。
「少々失礼を」
と言って、白井は美琴と上条から距離を取る。
電話越しに何事か話していた白井は、すぐにしかめっ面になって戻ってきた。
「……申し訳ありません、お姉様。初春が大至急ヘルプで手伝ってほしいことがあるそうですの」
「風紀委員の仕事?」
「ええ。それで……あの、その……」
とここで白井は美琴ではなく、何故か上条の事を値踏みするようにじろじろと眺めまわした。
「……殿方さん、決して門限破りなどせぬよう、きっちりとお姉様をエスコートして差し上げるんですのよ!」
「お、俺が?」
「他にどなたがいらっしゃいますの。ちゃんとレディーをエスコート出来ぬ殿方に、紳士を気取る資格はありませんの。
……と言うわけでお姉様、黒子は先を急ぎますのでこれにてごきげんよう」
一方的にまくしたてたのに、空間に溶けるように消えてしまう。
『空間移動』の能力で一足先に駅へと飛んで行ったのだろう。
あとには、ぽかんと口を開けたままの上条と、何故か赤くなった美琴だけが残されていた。
二人が駅に着く直前に、第七学区方面への電車は発車してしまっていた。
白井はちゃんと電車に乗れたようで、ホームにその姿は見当たらない。
次の電車までの待ち時間を、美琴と上条はベンチに並んで座って待っていた。
「聞きそびれてたんだけどさ、その右手、どうしたんだ?」
「ああ、これ?」
上条の言葉に、美琴は包帯の巻かれた右手を軽く持ち上げた。
その下には、いまだ痛々しい傷口が残っている。
「何日か前に思いっきりぶつけちゃってね。傷口、結構酷いのよ」
「痛そうだな……女の子だし、傷痕残らないといいな」
「男の子だと『傷痕は男の勲章だー!』なんて言えるんでしょうけど」
「まーなぁ。俺の膝小僧なんて傷痕だらけですよ。
きっと怪我が治る前に次の怪我をするような、そんなやんちゃ坊主だったんじゃねぇかなぁ」
断定ではなく、推量。
もう思い出すこともできないことに対する彼の口調に、美琴は少しだけ寂しいものを覚えた。
「そーいやさ、その……この間あげたネックレス、つけてないのか?」
「これ?」
美琴は首元までシャツのボタンを一つ外し、中に隠していたネックレスを引きずりだした。
「授業じゃないとはいえ教師が一緒に居たしさ、没収されたら嫌だから服の中に隠してたのよ。
シャツを首元まで閉めてれば分かんないしさ」
「そっか」
「何よ―、私がネックレスつけてるかどうか、気になるの?」
「そ、そりゃあまあ、自分があげたのを相手が付けてくれてるかどうか、気にならない奴はいないだろ?」
「んふふー、そっか、私がネックレスをつけてるとあんたは嬉しいんだ」
「嬉しいって、別に……」
ふい、とそっぽを向く上条に、にまにまと口元を緩める美琴。
以前だったらきっと、真っ赤になって泡を吹いていたかもしれないシチュエーションだ。
だが、自分の中に生まれた想いとどう向き合っていくか。その筋道をちゃんと付けさえすれば、感情に振り回されることなんてない。
恋は人を成長させると言うが、この時美琴は確かに少しずつ成長しているのだろう。
「さすがに学校につけてはいけないけどさ、休日寮を離れる時はつけてるから安心しなさいって」
「いやだから、安心も何も……」
上条の言葉を遮るように、電車の到着を告げるベルが鳴った。
これ幸いとばかりに、上条は学生カバンを抱え立ち上がる。
「……よし、じゃあ帰るか!」
「……逃げた」
唇を尖らせる美琴に、上条は気付かないふりをした。
その夜。
『──『ティルフィング』第7ロット精製完了。続いて第8ロットの精製に取り掛かります』
『──『ミステルティン』は第8シークエンスまで終了。完成率85%に達しました』
電子音が作業の進行状況を伝える中、布束砥信はそのギョロリとした目をモニターに向ける。
『新素材』によって作られた最新鋭の携行兵器が出来上がっていく様を、憂鬱そうに眺めていた。
(……あなたもひたすら災難に遭うわね、『超電磁砲』)
それに加担している私が言うのもなんだけど、とため息をつく布束の耳に、馴染みとなったハイヒールの音が飛び込む。
背後に立ったのは、テレスティーナだ。
「布束さん、進捗状況は?」
「about...『ティルフィング』は第7ロットまで完成。『ミスティルティン』は85%完成。
先ほどそう報告があったわ」
「そう」
布束につられて、テレスティーナもモニターに目を向ける。
そこに映っているのは、『期待の新装備』の精製ラボだ。
不思議な色の液体の入った水槽の底から、1mほどの円柱状の物体が何本も林立している。
表面はとても滑らかだが有機物とも無機物ともとれぬ不思議な質感を持ち、その側面には金色に光る文字が書かれている。
『Tirfing』
『第三次製造計画』によって生み出された個体に制式兵装として与えられる予定の新装備の一つだ。
「これで『最上位個体』以外の現存する『第三次』全員に一通り行き渡る分の装備が整ったわけだけど、慣熟訓練の方は?」
「『ティルフィング』『スレイプニル』は既に終了しました。
あとは『ミスティルティン』が完成次第、『最上位個体』と併せて最終調整を」
「精製に手間取っている分、スケジュールが押しているわね。
そっちのほうも急いで頂戴」
「了解しました」
「By the way...あの『棺』の件なのだけれど」
布束は『新素材』を発生させる装置のことをそう呼んでいた。
なんとなく他の研究員が呼ぶように、『工場長』と呼ぶ気にはなれなかった。
「先日の『バージョンアップ』以来何やら挙動がおかしい件については、原因は分かりましたか?」
「特に問題はないわ。必要な量の素材は得られているのだし」
「But...このままではいつか、大きなトラブルにつながるのでは?」
「その時は『処分』するわ。元々それ込みでの運用なわけだし」
テレスティーナの笑みが冷たさを帯び始め、布束はこれ以上口を出さないほうが良いと判断する。
頷いて了承の意を示せば、テレスティーナは満足そうにうなずき返した。
踵を返し立ち去るテレスティーナの背中を、布束は諦観の面持ちで見つめた。
自分だけが闇に落ちるのなら、それは因果応報かもしれない。
だが『妹達』まで巻き込むのはごめんだ。
ちらりと『工場長』が安置されている部屋の方向を見る。
『バージョンアップ』以来、通常の駆動とは異なる強い振動を起こしたり、計器に突如異常をきたしたり。
『中に人が入っている』ことを知ってしまった今、ただ調子が悪いだけとも思えない。
あの時インストールしたプログラムに、何か問題があったとしか思えない。
『棺』に打ち込まれたプログラムの名は『Prometheus(プロメテウス)』。
人間に火を与え、代わりに永遠の責め苦を受け続けることになったという神の名であること以外、布束には分からない。
ただ『新装備』と異なりギリシア神話から名を取られたことに違和感を覚えただけだった。
『第三次製造計画』の停止と引き換えに御坂旅掛によって学園都市にもたらされたソレは、今なおこの『棺』の中で息づいている。
終わらぬ苦痛によってその臓物を喰われ続ける代償に、プロメテウスが地上へともたらした『天界の火』。
仮にこの場に『棺』の中で何が起きているかを知っている人間がいれば、その名の由来に納得し頷いたかもしれない。
敬虔な十字教徒がいれば、その神の持つキーワードからあるものを連想したかもしれない。
『天界』に住む天使を束ね、『右方の炎』を司る大天使の名を。
──すなわち、『神の如き者(ミカエル)』を。
12月18日、深夜。
木山は自身に与えられた研究室で、コンピュータの画面とにらめっこしていた。
机の端におかれた夕食代わりのカップラーメンはとうに伸びきり常温になってしまっている。
それほどまでに木山を夢中にさせているのは、御坂美琴から得られたデータの解析と分析。
それが今彼女の頭の中を占めている事柄だ。
得られるものは多く、実に興味深い。
(数ヶ月前の彼女と、今の彼女。出力だけではなく、脳の活動状況にまで大きな変化があった)
常盤台中学から提供された美琴の脳波グラフなどを含む大量の詳細データ。
それを今回得たデータと比較してみると、その差異は一目瞭然だった。
基本的に人間の脳はある動作に習熟すると、それに伴いその動作を行った時に働く脳の部位や脳波の変化パターンが次第に固定されていく。
習熟済みの同じ行動をしているはずなのに、二つの時点で脳の活動状況が大きく異なるというのは、通常考えにくいことだ。
変化の理由として考えられる可能性は2つ。
1つは、美琴自身が意図的に行動を、この場合は能力使用に関する演算パターンを改変しようとしている場合。
もう1つは、「何らかの原因により、彼女の心身に大きな変化をもたらしている」場合。
思春期の学生では、心身の成長のバランスが取れていないために変調をきたす者が少なからずいる。
そのような学生では、能力強度の上下に伴い脳波の乱れが見られることもある。
だが、今回の美琴のようにここまで大幅な変化を見せる学生は、木山のこれまで触れてきた学生たちのデータにも見られない。
まるで精神そのものに大きな衝撃を受けたような、それほどまでに大きな心の振れ幅。
『自分だけの現実』を変質させてしまうほどのショッキングな出来事があったのだろうか。
「御坂美琴……君に、一体何があったのだろうか」
「────オリジナルがロシアで直面した出来事を考えるに、さして不思議はないかと」
木山しかいないはずの研究室。
なのに、背後から少女の声がした。
驚き振り返ろうとした木山の口元を、少女の左手が無理やりにふさいだ。
パチンという音がして部屋の照明が落ち、光っているのは木山のコンピュータだけとなる。
片手で壁に押し付けた木山の脇腹に、少女は硬いものを押しつけた。
拳銃。体の影になって見えないが、木山はそう判断した。
唯一の光源であるモニターとの位置関係のせいで少女の顔は見えないが、十代半ばくらいのようだ。
目深にかぶったフードの下から、冷たい光を帯びた瞳が見えた。
「木山春生博士でお間違いないでしょうか。正解であれば瞬きを続けて二度」
当惑する木山は、少女の命令には応えない。
少女は目を細め、無造作に右手を動かした。
かしゅん、という小さな音がした。
直後、内臓を灼かれたかと思った。
遅れて、腹を撃たれたのだと木山は理解した。
「ぐ、が、あああああああああああああああああああああああッッッ!?」
苦しみ悲鳴を上げる木山を少女は無造作に投げ捨てた。
それきり興味を失い、木山のデスクへ向かう。
「……脳波のモニタリングにより木山博士本人だと確認しました。
セキュリティシステムは殺してありますし、この施設は研究を妨げぬために全室完全防音であることは確認済みです。
どれだけ悲鳴を上げたところで、助けに来てくれる人はいません」
「…………君は、うぐ、何者だ。何が……目的だ」
床に倒れ伏した木山は、目だけを動かし少女を見上げた。
何事かをしているようだが、木山の位置からでは何をしているのかはよく分からない。
位置関係が変わり、コンピュータのモニターが少女の顔を照らしているのが見えた。
色素の薄い髪。
無機質な表情。
その造形は、見知った少女によく似ていた。
「『第三次製造計画』における先行試作評価体、『リプロデュース』と言ったところでしょうか」
少女はこともなげに自らの出自を明かして見せた。
だが、それに木山の知っている単語は含まれていない。
自分が狙われた理由が分からない。
少女の目的すらも分からない。
ただあの少女に関係しているのであれば、何があろうともそのことを伝えなければならない。
木山の目的は一貫して「子供たちを守る」こと。
直接受け持ったことはなくても、彼女はもう木山の守りたい人間の範疇に入っているのだから。
そんな木山の決意を嘲笑うかのように、『リプロデュース』は黒光りする銃口を向けた。
「では、『お姉様』によろしくお伝えください」
弾丸が消音器を通過する擦れたような音がして。
木山の意識は、そこで途絶えた。
乙!
き、木山センセー死んでないよね…?
しかし科学一辺倒かと思いきや右方とかミカエルとか…まさか工場長天使化フラグか?
き、木山センセー死んでないよね…?
しかし科学一辺倒かと思いきや右方とかミカエルとか…まさか工場長天使化フラグか?
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