私的良スレ書庫
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元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」2
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パート1から読み直してきたが、やっぱ良いssだね
続き首をながーくして待ってます
続き首をながーくして待ってます
冬休みどころかセンターも終わっちゃったよ!
もう私大一般試験始まってるよ!
というわけで久しぶりに投下していきます
もう私大一般試験始まってるよ!
というわけで久しぶりに投下していきます
「──だーかーらぁ、それがなんだっつーんだよ!」
『水源地水位監視センター』の『所長室』で、テレスティーナ=木原=ライフラインは苛立たしげにテレビ電話をしていた。
猫を被ることもせず、彼女の素である粗野な口調を丸出しにしているところからも、彼女がいかに不快を感じているかが伺えるだろう。
実際問題、ようやく待ちに待った瞬間が訪れようとしているところだというのに老人の退屈な話を聞くはめになれば誰だって不愉快にもなる。
電話の相手は統括理事の椅子に座る『木原』。彼女のパトロンであり、一族の重鎮でもある男だ。
『超電磁砲の介入を許した時点で、"第三次製造計画"は大きくつまづいているのだぞ。
テレスティーナ、それをお前は本当に理解しているのか?」
「そんなもん超電磁砲を消せば丸く収まる話だろーがよ」
『……レベル5ほどの有名人を消すのはコトだ。特に超電磁砲のような、暗部にも落ちていない表の世界の有名人はな』
常に脚光を浴びる存在であるが故に、姿をくらませばたちまち騒動となる。
そんなところへ、仮に彼女が変死体で発見されたらどうなるだろう? あるいは、どれだけ時間が経とうとも痕跡一つ見つからなければ?
レベル5である超電磁砲がそう簡単に殺されるわけがない。そこにゴシップに飢えた民衆は必ず(根拠の有無に関わらず)陰謀の匂いをかぎ取るだろう。
真に闇へと身を隠すのであれば、裏の情報に通じない一般人に「存在するのではないか」と思わせることすら許してはならない。
その程度のことさえできない個人や組織など、瞬く間に殲滅されてしまうだろう。
『彼女の場合、母親も母親だからな……』
学園都市が大規模な襲撃を受けた0930事件後、保護者たちが自分の子を手元へ取り戻そうとした『回収運動』は記憶に新しい。
その中心人物であったのは御坂美琴の母親である美鈴だ。
仮に娘が行方不明になったとすれば、彼女は周囲を巻き込んで大きな騒ぎを起こすだろう。
それは"彼ら"にとっても、学園都市にとっても好ましい事態ではない。
「じゃあどうしろっつーんだ。超電磁砲はもう攻め込んできてるんだぞ。
みすみすぜーんぶ明け渡しちまえってか?」
冗談ではない。この計画には、多くの資材や資本、労力が投入されているのだ。
それを成就目前で無償で引き渡すなどという馬鹿げたことがあってたまるか。
『そうは言っていないだろう。テレスティーナ、お前は昔から思慮が足りんからな。
私の方で一つ手を打っておいた』
テレビ電話とは別のモニター、テレスティーナの私用PCの画面に一通のメールが届いた通知が為された。
発信者は画面の中の老人であり、開くととある文書ファイルが表示された。
訝しげなテレスティーナだったが、それを読み進めるにつれ口角がニヤニヤと上がっていく。
「……さぁっすが、政治に長けたジジイだぜ。やることがえげつねぇ」
『文句を言われるのが嫌ならば、文句を言えないようにしてしまえというのはこの世界の基本則だぞ。
それに、何らかの保険くらいにはなるかもしれないしな』
「だろーなぁ。逆に言えば、これが通用しないような奴ならこんなところに攻めてきたりしねーよ」
楽しそうに文書を眺めていたテレスティーナだが、ふと表情を変え、老人の顔を見つめる。
「んで? 私の計画をフォローする目的は何だ? ウチらは慈善団体じゃあない。
他者への政治的便宜を図る代わりに自らの地位を固め、そこまでのし上がったアンタだ。
どうせ何か見返りを求めているんだろ?」
『話が早くて助かるよ。私からの要求は一つ。
どうせなら、"できる限り、面白く"して見せろ』
にぃ、と笑みを浮かべる老人。
いくら研究者ではなく政治畑に身を置く人間であったとしても、この男とてまた『木原』。
みなぎる好奇心を抑える理由などありはしない。
言うまでもなく、レベル5の肉体は貴重なサンプルだ。
能力開発のノウハウが詰まっているだけではなく、なぜ『レベル5』たる能力を振るえるのか、レベル0と比べて何が異なるのかという比較対象としても最適だ。
それを解き明かすことは、能力開発技術に更なる飛躍をもたらすだろう。
だが、レベル5は極めて貴重な存在だ。重要性に反して、その肉体の調査が進んでいるわけではない。
表の世界に生きるレベル5には人権が存在し、闇の世界に生きるレベル5は貴重な戦力として運用されている。
彼らの体を調べると言ってもせいぜい影響の残らないサンプル提供程度が関の山であり、その身体構造が詳細に調べられたことはない。
当然、『木原一族』と言えどレベル5を解体したことは未だかつてない。
『どうせ"壊して"しまうなら、その過程を心行くまで楽しんでも構わんだろう?』
下衆な笑みを浮かべる老人。
人間は誰だって美しいもの、可憐なものを好む。
だが、時にはそれを穢し、傷つけ、自らの望むままに征服することに快感を覚える人種もいる。
例えば真っ白な壁面に、派手なペンキでべったりと下品なマークを書き散らすように。
例えば降り積もったばかりの足跡一つない新雪を、思う存分踏み荒らして回るように。
「……ご要望はそれだけか?」
『出来る限り長く楽しめるようなものをお願いしたいね。
私は一瞬で終わってしまうような快楽には興味がないのだ』
気丈に振る舞い反抗的な目をした少女が臆面もなく泣き喚いて許しを乞うようになり、やがては心を手放して行く様は美しい。
そこには破壊と衰退の美学、ある種の『侘び寂び』すら存在するのではないか。
レベル5の少女という貴重な得がたい素材だ。一瞬で終わらせてしまうのはあまりに贅沢が過ぎると言えよう。
その情景を夢想するようにニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべる老人。
『超電磁砲の命を奪う』こと自体はテレスティーナの到達目標だ。それを妨げはしない。
だが、どうせならそこに至るまでの過程も素晴らしいものにしてもらいたい。
「りょーかい。だが『解体』は私主導でやる。他のヤツには関わらせない。それは約束しろよ」
『いいとも。私は楽しいものが見られればそれでいい』
「あいあい。せいぜい期待して待ってろよ」
では楽しみにしている、と言い残し老人の顔が画面から消える。
残されたテレスティーナは暗い画面の中に自分の顔を見ながら、愉快な空想に思いを巡らせる。
例えば思いつく限りの凌辱を彼女に加えたら、彼女はどんな声で鳴くのだろう?
例えば意識を保たせたまま四肢を切り落とし、内臓を引っ張りだしたら彼女はどんな表情をするのだろう?
例えば、例えば、例えば。脳内で瞬時に10回は御坂美琴を虐殺したテレスティーナは壮絶な笑みを浮かべた。
デスクの上の電話機が、内線の着信を告げる。恐らくは侵入者への対応策を求める部下からだろう。
楽しい想像を中断させられた彼女は舌打ちをすると、面倒臭そうに受話器を取り上げた。
『しょ、所長、今どちらに!?』
「所長室に。……状況は?」
『正面ゲートが破られました。戦力は2、片方は恐らく超電磁砲です!』
「慌てないで。想定されていたことでしょう。事前に立てたプランに沿って対応を。
超電磁砲が連れているのは誰?」
『分かりませんが、背格好から見るに恐らく同年代の学生ではないかと』
「ふむ……?」
超電磁砲と同年代かつ戦地に伴えるような実力者と言うと、彼女の後輩である空間移動能力者か。
連れてくるとは思っていなかったが、しかし対応するには十分なデータを蓄積している相手だ。
『う、うわぁっ!?』
悲鳴ののちザザァッとノイズが走り、そしてぶつりと通話が途切れた。
恐らくは電話の相手が超電磁砲か、その相方の攻撃を受けたのだろう。
一度受話器を置くと、テレスティーナはは別の部署へと電話をかけ始めた。
「……私よ、正面ゲート周囲に侵入者2」
『……彼女たちに迎撃させますか?』
「いいえ、まずは小手調べ。『カルテル』に相手をさせるわ。
『第三次製造計画』には施設内の精査を。侵入者が彼女たちだけとは限らないわ」
了解、と告げた部下の声を聞きながら、テレスティーナは獰猛な笑みを浮かべる。
ついに、計画を成就させる時がやってきた。もうここから先は戻れない。
テレスティーナが本懐を遂げ、超電磁砲を打倒するか。
それとも超電磁砲が彼女の計画を打ち砕き、妹たち全員を保護することに成功するか。
賽は投げられた。
あとは全身全霊をこめて、敵を潰すだけ。
地下10階 下層・通路。
「──それで、これからいかがなさいますの?」
なだらかなスロープとなっている通路を走りながら、白井は美琴に尋ねた。
正面ゲート周囲にいた防衛隊など物ともせずに蹴散らした2人は間近にあった階段を駆け降り、下層へと向けて進行中である。
それ以来ここまでは一本道で何の障害もないが、派手にやらかしたあとだ。
『第三次製造計画』の首謀者たちに侵入がバレていないなどという虫のいい願望は抱かない。
「まずは首謀者を引きずり出してとっちめてやらなきゃ。
いるとしたら……下層のほうでしょ。上層のほうはただの研究施設みたいな感じだもの」
「利便性を考えたら、むしろ研究室に近い方に根城を置くかもしれませんわ」
「その時はその時よ。最下層まで行って影も形もなかったら、上まで戻ってくればいいわ。
どっちみち、下層にある妹たちの生産ラインもどうにかしなきゃいけないんだから」
「『量産超能力者計画』に『絶対能力者進化計画』、それに加えて『第三次製造計画』……。
よっぽどお姉様のクローンを作ることに固執している方がいらっしゃるようですわね」
「レベル5の中では私は比較的オーソドックスなほうの能力だし、心理掌握と違って出力の計測もしやすいし。
『レベル5の量産型を作る』という観点からしたら私やあの子たちはうってつけなのかもね。嬉しくもなんともないけどさ」
第一位である一方通行や第二位である垣根帝督、第七位である削板軍覇のように、レベル5の半分は類似能力なし・再現不能の能力者である。
彼らは基本的に能力開発を受けたその瞬間から高位認定を受けており、従って低レベル時における能力開発のカリキュラムというものが存在しない。
対して美琴は学園都市に数多くいる『電撃使い』であり、そのカリキュラムは豊富に存在している。
能力強度の劣化が予言されていたクローン作製にあたり、そのあたりが素体選定の為の判断材料とされたのではないだろうか。
「あ、そうだ」
何かを思い出した美琴が、ごそごそと自身のポケットを漁る。
「はいこれ、あんたにあげる」
「これは……」
白井が受け取ったのは安眠用の耳栓だ。謳い文句は『音のない世界をあなたに』。
「……何に使いますの?」
「んー、経験から言ってなんだかこういう建物にはキャパシティダウンとかなんかそんな感じの対能力者用装備がありそうに思えたのよね。
さすがに3回も引っ掛かれば勘が働くようになるのかしら?
私はいざとなったら砂鉄を固めて耳に突っ込むからさ、それはあんたが持っておきなさい」
「いえ、お姉様のものなのですから、お姉様がお使いになってくださいまし」
キャパシティダウンは音響兵器の一種であり、耳栓で防いでしまおうというのは理には適っている。
しかし、白井はレベル4で、美琴はレベル5。有事の際にどちらがより強力な戦力であるかということを考えるならば、これは美琴が持つべきだろう。
「何言ってんのよ。仕切り直すにしろ、撤退するにしろ、あんたの能力の方が役に立つでしょ。
いいからあんたが持ってなさい」
そう言い、美琴は受け取ろうともしない。
仕方なく白井は自分のポケットへと耳栓をしまう。
研究所内の細い通路を歩く二人。その後ろを、美琴が放つ磁力に吸い寄せられた大量の砂鉄が追いかけて行く。
「それにしても、人っ子ひとり見当たらないのはどういうわけなのでしょう?」
「そうね、さっきから変だと思っていたのよ」
ゲートを破られたことにより異常事態を告げるブザーが鳴り響いているが、二人の前にも後ろにも、人の姿は見えない。
正面ゲートを突破する際あれだけド派手に騒いだというのに、最初に防衛部隊が出てきたっきり音沙汰もないというのはどういうわけなのだろう。
稼働中の研究所なのだし、慌てた研究員の一人や二人くらいは彼女らの前に姿を現してもいいはずなのだ。
「そういう研究員をとっ捕まえて、情報を吐かせようと思ってたのになぁ」
「……あまり道を外すようなことはしないでくださいましね」
「状況が状況だし、やむを得ない事情っていうものもあるでしょ。手段を選んでる場合じゃない」
「それでも、最低限越えてはならないというラインはわきまえておくべきですの。
外道を相手取るからこそ、こちらはあくまで高潔でいなくてはならないという考え方もございますでしょう」
「そりゃ人殺しにまではなるつもりはないけどさ。
それでも、妹たちを苦しめている奴ら相手に、手加減するつもりもないわ」
やがて通路は、大きな扉へと行き当たった。
扉の上に掲げられたプレートには、『23番大試験場』の文字が。
砂鉄を使って扉を開け、扉の影から様子をうかがう二人。
どうやら数階層分をぶち抜いた大きな実験用スペースの底部のようだ。
戦闘実験でも行われたのだろうか。床は片づけられているものの、壁面には大きな傷痕が刻まれたりもしている。
「……こんなところに妹たちを押しこめて、武器を持たせて戦うための訓練でもさせてたのかしら」
静かに呟く美琴。だが、その瞳には怒りが燃えている。
一刻も早く『第三次製造計画』を止めたい。一秒でも早く妹たちを自由にしてやりたい。
そう思う美琴の気が立っていることを、白井は感じ取っていた。
だから、ともすれば先走りがちな美琴のストッパーになろうと心に決めた。
緊急放水路外周部・非常用階段。
巨大な構造物にの周囲や内部には必ずメンテナンス用の空間が存在する。
いくら学園都市の技術力が優れているとはいえ、やはり人の目によるチェックは欠かせない分野もあるのだ。
縦穴である放水路の外郭を取り囲むようにキャットウォークが何十層も設けられ、各階層間を非常用の階段が繋いでいる。
外壁に沿って大きく螺旋を描くその階段を番外個体と一方通行は降りていた。
「メンテナンス用の階段なのに、通路の外側にあってどォすンだ。
内側の方が壊れやすそォな気がするが」
「内側にも一応通路や階段はあるらしいよ? ただ水を流し込んだ時のショックで壊れると困るから、使う時以外は壁面に格納されてるらしいけどさ。
排水する時は何千トンって水を捨てるんだろうし、ちょっとした抵抗でももの凄い負荷になりそうね」
一方通行は杖突きの身であるが、ただ歩くだけのことに能力を使ってチョーカーの電源を無駄使いするのも馬鹿らしい。
速度の都合から必然的に先行する形になる番外個体の肩や腰には、いくつかの火器が吊るされていた。
例えば『妹達』の標準装備であった『オモチャの兵隊(トイソルジャー)』など見慣れたものも含まれている。
「……そンな重火器、どこから調達しやがった」
ざっと見ただけでもアサルトライフルが1挺、拳銃が数挺、そして彼女が動くたびに何やらゴツゴツした物音を立てる大きなミリタリーバッグ。
大きなサバイバルナイフや手榴弾と思しき物体もいくつか腰にぶら下げていた。
「んー? 病院のミサカたちに借りた分と、あとは冥土帰しに調達してもらった。
ほら、この『演算銃器(スマートウェポン)』なんか、ゴツくてカッコいいでしょ」
見せびらかすように番外個体が取り出してみせたのは、引き金の手前に太いマガジンが二本突き刺さった奇妙なフォルムの大型拳銃。
かつて一方通行が殺害した駒場利徳が所持していたものと同一モデルであり、これもまた一方通行に苦い思いを抱かせた。
「『鋼鉄破り(メタルイーター)』は威力としては申し分なかったんだけど、あれデカいし重いんだよね。
機動攻撃を主軸とした高速戦闘を前提に戦略を組み立てられてる『第三次製造計画』のミサカじゃあ、あれの真価は発揮できない」
「そもそもあれって超遠距離狙撃用の対戦車ライフルだろ。今回みたいな施設攻略には向いてねェンじゃねェか?」
「こういう閉所戦だと大口径の火器は充分な脅威になるよ。
別に徹甲弾に限らず、同じ口径の焼夷弾ぶっ放してもいいわけだし。
ま、今回は相手に死人を出しちゃいけないって縛りもあるけどねぇ」
「それにしちゃァ、ずいぶん装備が豪勢じゃねェか」
アサルトライフルに大型拳銃。
それだけでも人を殺害するには十分すぎる火力ではないか。
「中身はゴム弾に変えてあるよ。これでも距離によっちゃ非致死性武器とはいかないけどねぇ。
必要とあらば実弾に変えるけど?」
「……いや、いい」
『妹達』に人殺しはさせない。
これもまた、一方通行が自分に課した最低限のルール。
手を下す必要が有るのならば、それは既に血にまみれた自分が行う。
わざわざ『妹達』の綺麗な手を汚させる必要はない。
「そっちの装備は意外に貧弱そうだけど、大丈夫?」
一方通行が所持しているのは、腰に差した拳銃が1つ。予備として右脇のホルスターに収納した拳銃を入れて、計2つ。
どちらも口径は小さく、一撃の威力よりかは連続して銃弾を叩きこむことを主眼としたチョイスだ。
「まァな。利き手じゃねェ左手一本で扱う以上、これ以上ゴツいモンは使えねェし」
「あなたって能力なきゃ非力そうだもんね」
ケラケラと笑う番外個体は、腰に差していた拳銃の弾倉を実弾の物へと変更し、一方通行に差し出した。
彼が装備しているものと比べて、やや大きめだ。
「『オモチャの兵隊』から無反動性という要素だけを抽出して小型化した軍用拳銃。
3歳児でも撃った時のリコイルに負けることはないって代物だけど?」
銃を受け取った一方通行は持ち上げたり構えたりしていたが、
「悪くねェな。預かっておく」
「お値段は1ミサカ分となっております」
「カエルにでもツケとけ。っつゥか、そォ言うもの言いはやめとけ。"アネキ"が悲しむぞ」
あ、いけね、と舌を出す番外個体。
目の下の隈は薄れても、生まれ持った性質はなかなか変えられるものではないらしい。
「超電磁砲と言やァ、もう突入して大暴れしてやがンだろ?
その割には、随分と静かじゃねェか」
この施設のような非合法の研究所が襲撃された場合、研究員たちはまず捕まらないように施設から退避することを優先するだろう。
頭の回る人間なら少しでも多くのデータを持ち出したり、足がつかないように記録を抹消したりすることを考える。
当然ひっくり返したような大騒ぎになっているはずで、規模から言って研究員がほとんど見当たらないというのは不自然極まる。
「当然いるだろう防衛用の兵隊はお姉様の方に行ってるとして、一般研究員までいないのは不自然だね。
大暴れしてハチの巣を突いてみる?」
「しばらく何にもねェよォならそれも手だな。元々俺らの役割は陽動だ。
放っときゃこっちの方が被害が甚大だと判断すれば、超電磁砲も楽になンだろ」
「わーお、驚き。さんざん巻き込むなと言っておきながら、お姉様を立てる気はあるんだね」
「出来ることなら、首根っこ掴ンで放り出してェけどな」
非常階段と施設内部は分厚い鋼板で出来た防火用シャッターで隔てられている。
2人はその両脇に分かれ、番外個体が電装部品を操作してシャッターを上げさせる。
警戒していた施設内部からの攻撃はない。
コンパクトミラーで施設内部の様子をうかがっていた番外個体がそれをパチンと閉じた。
「……目視問題なし、電磁波レーダーにも反応なし。
施設の重要性からするといきなりハチの巣くらいは考えてたんだけどな。
まさかハズレってことはないよね?」
「海原を信用する限りならそれはねェな。
……だが、施設は壊しちゃならねェ。敵はいねェ。注目を引けと言ってもどォしろってンだ」
閉塞感のある白い通路は、はるか向こうの突き当たりまで見渡しても誰もいない。
その通路の両側にある扉を覗き込んだり、時には蹴り倒したりするが、先ほどまで誰かがいた痕跡はあっても人自体は見つからないのだ。
いくつか交差する通路を越えたころ、いらつき始めた一方通行は耳に取りつけた通信機をいじる。
「オイ土御門、本当にこの施設で合ってンだろォな。とても襲撃を受けている最中の研究所とは思えねェぞ。
これで場所が間違ってました、本命の研究所は余所でこの隙に逃げられましたなンて事態になったら、そのサングラスをケツに突っ込ンで粉砕してやるぞ」
『……超電磁砲ちゃんは突入時にちょっとやりあったっぽい気配はあるが、結標・絹旗ペアは今のところ進攻はスムーズだな。
海原が潜入しているんだし、何らかの異変があればすぐに知らせてくるはずだが』
「海原さん、もう消されていたりしてね?」
番外個体が悪戯っぽく言うが、一方通行も土御門もそれを咎めたり否定したりはしない。
潜入任務とはそういうものだ。身元が割れれば即座に始末される運命なのだ。
彼はそれを承知で敵地へと赴いた。無抵抗にやられるとは考えにくいが、そうなっている可能性は否定出来るものではない。
「……ヤツがくたばっちまったかどォかは今は調べよォがねェ。
とりあえず、俺たちは敵に行きあうまでこのまま下層まで降りて行く。いいな?」
『ああ。そこは敵地だ。くれぐれも警戒は怠るなよ』
通信を切った一方通行は、そこで番外個体がぴたりと動きを止めたことに気がついた。
「どォした?」
「……どうやら、場所を間違えたわけではなさそうね」
一方通行がは? と聞き返すよりも早く、番外個体は身を翻す。
大きく伸ばされた手から音速で放たれた鉄釘は、先ほど通り過ぎた通路の影に身を潜めていた何者かの手を抉った。
悲鳴を上げ思わず手にした銃器を取り落とす何者か。正体は知れないが、友好的な人物でないことだけは確かだ。
奇襲の失敗を悟ったのか、いくつもの銃口が曲がり角から2人へと向けられる。
「……よォやくお出ましか。ヤる気に満ち満ちているよォで何よりだ」
「とりあえずノしちゃう?」
「意識が残るくらいにな。聞き出さなくちゃいけねェことが山ほどあるからよォ」
「りょーかい」
発砲タイミングを虎視眈々と狙う襲撃者たちの銃口に身をさらしながら、悠然と向かっていく一方通行と番外個体。
銃弾程度は意にも介さぬ高位能力者2人の大胆不敵な笑み目がけて、先走った襲撃者の1人が引き金を引いてしまう。
それが、戦闘開始の合図となった。
「──防衛隊第8班、一方通行および30000号と交戦開始」
「『カルテル』各メンバー、迎撃位置につきました」
「非戦闘員は全員シェルターに避難済みです」
本来は実験を管理するための管制室には、今は大きなモニターいっぱいに施設各所の監視カメラの映像が映し出されている。
下層の通路を歩く御坂美琴とその後輩や、防衛隊と交戦している一方通行らの映像も当然、含まれていた。
施設の規模を考えれば、あまり広くはない。オペレーターたちも20人いるかどうかというところだ。
階段状になっている部屋の最上段にあるデスクに、テレスティーナと天井は座っていた。
「……ついに始まったわね、天井博士」
「ああ。……だが、本当に上手くいくだろうか」
何度もシミュレーションし、幾度となく提案と廃案を繰り返し、練り上げた計画が始まった。
そこに不備はないはずだ。しかし、敵は学園都市最強の2人なのだ。
イレギュラー要因を書き出せば、それこそ対策を練るために『樹形図の設計者』が必要となるくらいの数になる。
「そういくように、これまで積み上げてきたのでしょう? 必ず成功するわ」
「だと良いのだがなぁ……」
それでも、一度一方通行と対峙しその恐ろしさを身を持って知っている天井は心配そうにモニターを見つめた。
その心境を知ってか知らずか、テレスティーナは机の上にあったマーブルチョコの箱を持ち上げた。
「手を出して?」
「は?」
「そうね、……黄色」
意味が分からぬままおずおずと差し出した天井の手の上で、テレスティーナはチョコの箱を振った。
チョコの糖衣が触れ合う心地良い音と共に落ちてきたのは、黄色のチョコレートだ。
「幸先いいわね」
「え、あ、あぁ」
満足そうにチョコの箱を元の位置に戻す彼女を首をかしげつつ見ながら、天井はチョコレートを口の中へ放り込む。
糖分は脳のエネルギー源になると言うが、まさかこんなチョコレート一粒でどうにかなるものではないだろう。
モニターの中では、一方通行と番外個体に防衛隊が駆逐されつつあった。
「……ま、あの程度でどうにかできる連中ではないことは分かっていたものね」
「どうするんだ。彼らを迎撃に出すのか」
「当然、このために高いお金を出して雇った連中ですもの」
婉然と微笑むテレスティーナは通信機のスイッチを入れる。
「──お仕事の時間よ、『カルテル』」
ガコン!! と、遥か頭上で何かが外れるような音がした。
美琴が目をやると、大きな天井材のようなものが落下してきたのが見えた。
そして、その上方には赤い光のようなものがちらりと。
その光は、何故だか美琴の背筋をぞくりとさせた。
「危ない!!」
美琴はとっさに白井を突き飛ばし、同時に大量の砂鉄で二人を覆う。
直後、落ちてきた天井材が"爆発"した。
いや、正確に言えば天井材自体が爆発したわけではない。
その上方で発生した爆炎に飲み込まれ、飴細工のようにひしゃげ、弾け飛んだのだ。
砂鉄に突き刺さった天井材の破片や残骸の放つ焦げた臭いを嗅ぎながら、美琴は意識を切り替える。
夏休みに研究所を潰して回り、暗部組織との戦いも経験した。
今の状況はそれと同じだ。向こうだってそれなりの戦力を備えているに違いない。
押し倒したような状態になっている白井を起こし、敵襲に備える。
「──レベル5とはいえ暗部にも触れちゃいないただのお嬢様かと思ったけど、意外と……」
断続的に何かが爆発する音が鳴り響いたのち、靴底が床を叩く音が実験場に響き渡った。
天井から降り立ったその人物を、美琴は砂鉄の盾越しに見た。
そこに立っていたのは背の高い赤髪の少女だ。年の頃は高校生といったところか。
ジャケットからインナー、ジーンズに至るまであちこちにフレアラインがあしらわれていることや、先ほどの攻撃からすると『発火能力者』なのかもしれない。
「『業火焔弾(メテオライト)』」
「…………?」
「あんたらを燃やす女の名前だよ」
内ポケットから煙草を1本取り出しくわえる少女。
明らかに"場馴れ"しているその挙動は単なる伊達や酔狂ではなく、恐らくはどこかの暗部組織に属するものなのだろう。
「……黒子」
「ええ、お姉様」
美琴の脳裏をよぎるのは、夏休みに戦った『アイテム』との戦闘。
彼女たちはチームとして美琴たちの前に現れ、見事な連携プレーをもって美琴を追い詰めた。
目の前の少女が同じような組織の一員であるならば、他に仲間がいる可能性は極めて高い。
正面を見据えつつ周囲にも気を配る2人に対し、赤髪の少女は手のひらを向ける。
その手の中に生み出されたのは紅い光。それは周囲の空気を巻き込み瞬時に少女の身長と同じくらいの大きさにまで膨れ上がる。
少女の顔が火球の照り返しを受けて紅蓮に染まった。
「あんたらに恨みはないけど、これも仕事だ。骨も残さず灰にしてやるよ」
直後周囲の酸素を喰らい尽くす轟音を放ちながら、火球はさらに膨れ上がり美琴たちに襲いかかった。
「──いぎぎぎッ!? し、知ってることは全部話した! 今話したので全部だ!」
うつ伏せにされ番外個体にキャメルクラッチを極められた状態の哀れな防衛隊員は、血のにじむ唇でそう喚き立てた。
頼みの綱の同僚たちは皆気絶させられてそこらに適当に転がされており、助けは望めない。
もっとも、銃器全てを破壊された丸腰の状態で高位能力者に立ち向かえる力など元から持ち合せてはいないのだが。
番外個体の柔らかな手は背後から防衛隊員の首や顎を掴むような格好になっているが、その親指は防衛隊員のこめかみに添えられている。
脳内の電気信号の計測による嘘発見器。いつかロシアで行った尋問を再びここでも行っているのだ。
「どうする? 嘘はついていないみたいだけど」
番外個体の言葉に同調するように可能な範囲で首をカクカクカクと動かす防衛隊員の惨めったらしい様子に、さすがに一方通行も気を殺がれたのだろう。
「……使えねェ。適当にお仲間と一緒に転がしとけ」
あいよー、という番外個体の声と共に空気の爆ぜる音が鳴り、悲鳴を上げて防衛隊員が崩れ落ちる。
彼の体の上から降りた番外個体は律儀に仲間の横まで引きずっていきつつ、その装備を見分した。
「……装備のレベルとしては警備員に毛が生えた程度。戦力としての練度も同じくらいだろうね。
他のを叩き起こして情報抜き取ったところで、どうせろくなものは出てこないと思うけど」
「せいぜいが雇われの兵隊か。暗部の中でも、随分浅いレベルの……」
番外個体に下品な落書きをされている防衛隊員の顔から視線を上げた一方通行の動きが止まった。
一瞬前までは何もなかったはずだ。
なのに、突如床面から生えるように"それ"は伸びあがった。
"それ"は無防備な番外個体の背中に向け、その腕を振り上げ……。
「後ろだッ!!」
一方通行が叫ぶのと同時に、番外個体は身を翻しその場を飛び退く。
「ッ!?」
番外個体の髪を数本切断しつつ、黒い刃が彼女の顔をかすめた。
彼女の背後に現れたのはフード付きのコートを目深に被った人物。
右腕には前腕部から手首、その先を飲みこんで伸びる黒く大きな刃が。
たった一太刀で諦めたりはしない。
返す刀で横薙ぎの斬撃を放つべく、襲撃者は滑るように番外個体へと肉薄した。
「このッ!」
のけ反るように身を引いた番外個体の胸元を刃がかすめる。
大きく体勢を崩した彼女を追撃すべく襲撃者は刃を引くが、遮るように現れた一方通行の飛び蹴りがその胸板を直撃した。
一方通行のチョーカーのスイッチはすでに入っている。
ベクトル操作によって力を一点に集約された蹴りを受けた襲撃者は錐もみ回転し、バウンドすらせずに十数メートル吹き飛んだ。
床に激突して勢いよく転がり、ようやく起き上がった頃には既に番外個体も体勢を立て直している。
牽制程度の一撃とはいえ、並の人間なら粉砕されているほどの攻撃を受けてなお、平然と立ち上がる襲撃者。
相当の防御力を備えた能力者なのかもしれない。
しかし2対1。単純に考えて不利なのは襲撃者の方だ。おまけに2人とも単純に数では数えられない高位能力者でもある。
にも関わらず、襲撃者はそのフードの奥で笑みを隠そうともしない。
「何がおかしい」
「別に?」
声からするとフードの襲撃者は女性、それもそこまで年齢を重ねているわけではなさそうだ。
彼女はさもおかしくて仕方がないというように、忍び笑いをしながら、
「ただ、案外チョロいなと思って」
どういうこと? という番外個体の詰問は、言葉として発せられることはなかった。
直前、彼女の足元が泥のようにぬかるんだからだ。
元々、通路の床は白い塩化ビニルで出来ていた。踵で叩けばよく音が響く。
だが、今や彼女の周囲だけではなく見渡す限りの廊下の床がどす黒く変色し、靴を滑らせればねちゃねちゃと粘性の音を立てた。
そしてそれは突如として番外個体や一方通行を飲みこまんとすべく液体へと姿を変える。
「……クソッ!!」
能力を駆使し飲みこまれるのを防いだ一方通行だが、番外個体はそうはいかない。
一気に腰のあたりまで沈みこんでしまう。
一方通行は手を伸ばしかけるが、能力を発動した今の状態で彼女に触れればどうなるか。それは、彼自身が一番よく知っている。
一瞬の躊躇がこの場の明暗を分けた。
「!? 何かミサカの足に触れ」
番外個体の言葉はそこで途切れた。
完全に液体へと沈んでしまったわけではない。その姿そのものが虚空へと消え去ってしまったのだ。
彼女がいた証拠である床にぽっかりと空いた空間に黒い液体が流れ込んで行き、やがて完全に埋めてしまう。
(……『空間移動』能力者。黒い粘液の中に隠していやがったのか)
だとすれば、床を溶かしたのは目の前の襲撃者か。
どんな能力なのかは得体が知れないが、恐らくは分解あるいは腐食のような効果をもたらすのだろうか。
何にせよ、一方通行の能力に通用する類のものではないだろう。
幸いにして番外個体は位置マーカーを身につけている。
例え拉致されたのだとしても、目の前の敵をさっさと片づけて救出に向かえばいい。
「……ひょっとして、ちゃっちゃっと私を倒してあっちの子を助けに行こうとかなんとか考えているのかな?」
そんな思考を見透かすような襲撃者の声に、一方通行は眉を寄せる。
その声色に籠っているのは侮蔑と自信。
自分の力が一方通行に、『学園都市第一位』に通用すると本気で思っている者の声。
「駄目だね。全然駄目だよ、第一位。そんなオゴった考え方じゃこの先の人生はやってけないよ?」
鬱陶しそうにフードを跳ね上げた少女の明るい茶色の短髪に乗っているのは、どこかで見たような軍用ゴーグル。
一方通行は一瞬息が詰まりそうになった。
だが目が違う。鼻も違う。耳や口元も違う。髪の色や長さ、ゴーグルという類似点はあっても、その顔つきは全くの別人だ。
(……敵の作戦だ。流されるな)
だが、努めて意識しないように考えれば考えるほど、嫌でもその相貌が目に飛び込んでくる。
人間は視覚から80%以上の情報を得ているという。相手のトラウマを刺激するような格好で心理的圧迫を与える作戦はそこまで理屈から外れたものでもない。
一方通行の苦々しげな表情を愉快そうに見つめながら、襲撃者は言う。
「わざわざ自慢の黒髪ロングを切って染めたかいがあったみたいでよかったよ。
これで反応なしだったら女がすたるってものだし」
「……その貧相な体で興奮して欲しかったらケツ振っておねだりでもしてみやがれ、クソボケ」
「好みじゃない男にそこまで大盤振る舞いするほど安売りするつもりもないなぁ。一応まだ"きれい"な身体なもんでね」
笑いながら、少女はゴーグルをはめる。顔のパーツがいくらか隠れた分、より印象は『彼女たち』に近づく。
渋面の一方通行に、襲撃者は揶揄するような言葉をぶつけた。
「……それではただいまより戦闘(じっけん)を開始します、ってね!」
同時刻、神奈川県某所。
夜の住宅街をひた走る影が1つ。
「な、な、なんなのよもうっ!?」
影の主の名は御坂美鈴。見た目は大学生とといったところだが、れっきとした1児の母である。
夫は単身赴任で娘は学園都市の寮。2人とも正月には帰省してくるらしいが、今は帰っても彼女1人。
家を守りつつ、気ままなキャンパスライフを送る身だ。
その彼女が何故脱兎のごとく走り続けているかと言えば、理由はごくシンプルだ。
何者かに後をつけられているから。
最初に"彼ら"を目にしたのは、所属する大学のゼミナール仲間と行った忘年会の会場である居酒屋だった。
彼女らが座っていた席と隣り合う位置のテーブルには、揃えたように黒のスーツをきっちり着込んだ数人の男たち。
頼んだ酒に口もつけずただ黙々と軽食を口にする姿は居酒屋の陽気な空気からするともの凄く浮いて見えたが、
恐らくはうかつに酒を飲めない職業なのではないかと思い気にも留めなかった。
はしごして彼女らが足を運んだバーでも同様のグループを見た。
店の隅のテーブルに陣取り、前の店で見た連中と同じように酒を頼むが口は付けず、ただ何かを待っているような様子。
少しだけ気味悪く感じたのを覚えている。
その後も駅のホームで、電車の中で、帰りがけに寄ったコンビニで、美鈴は黒服の男たちを何度も見た。
全員顔は違ったが、ここまで来ると気持ち悪くもなる。
みんな同じ企業か団体の構成員ということは考えにくい。スーツを統一するようなところならば、どこかにロゴが入っていてもおかしくないはずだ。
酔いなど覚めてしまった。早く帰って寝てしまおう。
念のため、家から最寄りの交番の電話番号を携帯電話に入力し、発信ボタン1つでかけられようにしておこう。
そう思った彼女が携帯電話をポケットから取り出すと、はずみで家の鍵が落ちてしまう。
「おっとっと」
不気味さで神経が敏感になっているのだろうか、鍵がアスファルトの路面に落ちる音がやけに響いたように思えた。
慌てて鍵を拾おうと振りむいたその時、美鈴は唐突に気がついてしまった。
黒服の男が、美鈴の遥か後方を歩いている。しかも単独ではなく複数だ。
通行人を装いながら少しずつ、少しずつ着実に彼女との距離を詰めている。
それに気付いた瞬間、美鈴の背筋をぞわりと冷たいものが走った。反射的に思わず駆け出してしまう。
後方で黒服の男たちも走り出したのを横目でちらりと確認し、美鈴は出せる限りの速度で駆けた。
人通りなどほとんどない深夜の住宅街だ。防犯ブザーは最近失くしてしまったのを面倒くさがって放置したままである。
追いかけ回されていると通報しようにも、警察が保護してくれるまで彼女が無事でいるとは限らない。
いっそ自分の足で交番に駆け込んだ方が早いと考え、美鈴は現在地から交番までの最短ルートを思い浮かべつつ行き先を変える。
住宅街を駆け抜け、公園を突っ切り、付近の住人しか知らないような宅地裏の小道で身を縮めて黒服の男たちをやり過ごした。
男たちが明後日の方向へと駆けて行ったのを確認した後、今のうちに逃げてしまおうと身を翻したその時、いきなり背後から口元をふさがれた。
抵抗しようと放った裏拳はなんなく受け止められ、手首を掴まれてしまう。
何をされるのかと怯える美鈴の耳朶を、襲撃者の柔らかな声が叩いた。
「……御坂美鈴様でお間違いないですね?」
やはり狙いは自分なのか。美鈴が一瞬身をすくませたのを肯定ととらえたのか、背後の男は美鈴をそのまま裏道の向こうへと引きずって行く。
その先の路地に停められていたのは闇に溶け込むような黒塗りのリムジンだ。
男はその後部座席に美鈴を放り込むと、自らは助手席に乗り込んだ。
リムジンは静かに走り出し、住宅街を抜け、街中を走り、やがて高速道路へと乗る。
スモーク塗りの窓ガラス越しに、美鈴はかろうじて案内標識の文字を読み取ることができた。
『学園都市』。
絶句する美鈴を乗せたまま、リムジンは猛スピードで夜の高速道路を駆けて行った。
オリ要素に違和感がないのがすごいところ。
にしても、いよいよヒーローの出番か?
にしても、いよいよヒーローの出番か?
乙!
オリキャラとか特に悩むところなんだろうな・・・・・・
相手が科学サイド最強戦力だから同じ科学サイドの敵となると余計に
オリキャラとか特に悩むところなんだろうな・・・・・・
相手が科学サイド最強戦力だから同じ科学サイドの敵となると余計に
オリはべつに良いんだが。
最近時間かかってるようだし、この風呂敷ちゃんと畳んでくれるよね…?
最近時間かかってるようだし、この風呂敷ちゃんと畳んでくれるよね…?
いかん、ちょっと待機しすぎてて嫌みっぽくなってしもた
オリ入っても期待してるので、最後まで完逐頼みますってことで。
オリ入っても期待してるので、最後まで完逐頼みますってことで。
美琴をいたぶる発言にもだえたかつ黒い液体と聞いて相園ちゃんを連想し、番外の服が解ける妄想までした俺は変態ではないww
……つまり>>1乙と言うことだ!!
……つまり>>1乙と言うことだ!!
乙です
穢れた美琴を長く見つめて楽しむだと…?
おのれ木原のエロジジイめ!
穢れた美琴を長く見つめて楽しむだと…?
おのれ木原のエロジジイめ!
原作のパラレル展開として超オモローですなわけですが、美琴せんせーがパワーアップしたうえに黒子も参戦となると
残骸編最後の黒子の「目標を見つけた」宣言が効いてくるのかな~とか思ったり
あわきんも近くにいるし超wktkが停まりません!
残骸編最後の黒子の「目標を見つけた」宣言が効いてくるのかな~とか思ったり
あわきんも近くにいるし超wktkが停まりません!
こんばんは
>>787
想定より長くなってしまい、元々予定されていた忙しい時期へと突入してしまったというのが正直なところです
読んでくださっている方々には長らくお待たせしてしまい、本当に申し訳ございません
それでは投下していきます
>>787
想定より長くなってしまい、元々予定されていた忙しい時期へと突入してしまったというのが正直なところです
読んでくださっている方々には長らくお待たせしてしまい、本当に申し訳ございません
それでは投下していきます
階層不明・小実験場。
「……参ったな」
周囲を見回し、番外個体は呟いた。
『空間転移』能力者に拉致され連れてこられたのは、廃機材で埋め尽くされた小さな実験場だ。
小さいと言っても、高さも面積も本格的な室内スポーツができるくらいの大きさは優にあるのだが。
機密保持の関係で外部に廃棄できないものを収める倉庫、あるいは廃棄物の保管場所となっているらしい。
中身が飛び出した大きな機械や埃をかぶったパソコンなどさまざまなものがかなりの高さにまで積み重なり、まるでうっそうと茂る森林のようだ。。
うず高く積まれた機材の間を苦労して抜けながら、番外個体は脱出路を探す。
空間転移能力者を仮に『同伴移動(アブダクター)』としよう。
この場所に転移してきた瞬間にちらりと見えたその横顔は、番外個体の外見年齢と同じ程度かやや幼いくらいの少女のもの。
彼女は番外個体が状況を認識し反撃に転じる前に物陰へと姿を隠してしまい、それ以来姿を見ていない。
「防衛部隊はただの足止め。本命は一方通行とミサカの隔離……かな?」
敵戦力の分断および各個撃破は対複数を想定した戦闘ではごく当たり前に狙われる手段だ。
彼我の物量差が同程度であるならば、少しずつ着実に敵戦力を殺いでいったほうが作戦の成功確率は高くなる。
しかし、学園都市最強の能力者相手に数的有利の論理は通用しない。
ならば狙われているのは自分と見るべきか。
一方通行と番外個体、どちらが狙いやすいかと言われれば、残念ながら反論の言葉はない。
「むざむざやられるつもりはないけれど、そうとなると早めに脱出したいところだよね」
番外個体の目の前にそびえたつのは実験場とその外を隔てる鋼鉄の扉。
押しても引いてもびくともしないし、システムはあらかじめ殺されているらしく彼女の能力にも反応はなし。
当然、拳銃程度ではわずかに凹みがつく程度だ。
わざわざ転移させてきた以上、ここは襲撃者にとって有利なフィールドであると考えるべきだ。
現に空間の随所に仕掛けられた装置の放つ高出力の電磁波が、番外個体の電磁波レーダーを乱している。
加えて所々に高く積まれた廃機材の山は視界を遮り、電磁波を放つ装置がどこにあるかを分からなくさせていた。
敵の動きは明らかにこちら側の情報を得て、それに対応すべく行われている。
恐らくは施設内への侵入を許したのも、入念な準備を済ませた自陣内へと誘い込むため。
冗談ではない。そんな蟻地獄のようなところに、いつまでも留まっていてやる義理はない。
扉を吹き飛ばしてやろうと腰の手榴弾を持ち上げた瞬間、背後でがちり、という音がする。
まるで、銃の安全装置を外したような。
「ッ!?」
慌てて身をかがめ、物陰へと逃げ込む。
直後、爆風と轟音が実験場内を駆け廻った。
「こんにゃろう!」
腰から拳銃を引き抜きお返しとばかりに数発撃ち返すが、既に物陰に隠れてしまった相手には届かない。
榴弾の爆発を受け、機材の山が付近の山を巻き込んで崩壊して行く。
(……着弾が拳銃に比べて遅かったし、ロケット独特の噴進音も聞こえなかった。
わざわざ銃弾じゃなくて榴弾で狙ってきたって事は、グレネードランチャーかな。
"当てれば終わる"武器って事は腕に自信がないのかな? とはいえサブ兵装にライフルやらサブマシがないとは限らないし)
巨大で重い機材が多かったことが幸いしたのだろう。
倒壊の連鎖は実験場の一部だけで終わり、番外個体も爆風からの盾にした何かを納めるタンクの下敷きにならずに済んだ。
が、肝心の扉はと言えば倒れた機材のせいでその上部すらも見えなくなってしまっている。
脱出は容易には困難。そんな素振りを見せようとすれば、襲撃者が攻撃を仕掛けてくる。
だが、
「……面白いじゃん」
番外個体は"笑う"。
こんな場面で笑えるのは根っからの戦闘狂か、あるいは頭のネジが数本ぶっ飛んでいる奴だけ。
どちらかと言えば自分は後者なのだろう、と番外個体は自答する。どうせまともな生まれ方はしていない。
襲撃者はこんな裏稼業に身を落としているいるような奴だ。
そのうちに溜め込んだ悪意はさぞかし熟成されているに違いない。
それでこそ倒し甲斐が、否、"踏みにじり甲斐"がある。
自分の悪意が敵の悪意を粉砕する瞬間ほど、番外個体にとって心が躍る瞬間はない。
屈服させたい。ちらりと見えたあの可愛らしい顔を涙と鼻水まみれにさせて思い切り嘲笑ってやりたい。
そんな嗜虐心に心を湧かせながら、番外個体は右手に『演算銃器』を、左手に『オモチャの兵隊』を構える。
「さーてどこかな兎ちゃん。頑張って逃げないとこわーい狐さんに食べられちゃうぞ」
地下10階・23番大試験場。
火球が炸裂し、美琴が盾にした砂鉄が爆ぜる音が響く。
心もとなくなった盾を補強しつつ、美琴は別の操作を砂鉄に加える。
彼女の周囲の床には、彼女の磁力に引き寄せられてきた砂鉄が無尽蔵にばらまかれている。
それは美琴の意のままに動き、一斉に浮かび上がった。
「おー、『電撃使い』ってこんな能力の使い方もできるんだね」
軽口を叩く『業火焔弾』の周囲を、砂鉄の奔流が取り囲む。
それは横薙ぎに斬り裂く刃、鋭く貫く槍など数十の凶器へと姿を変え、あらゆる角度から敵を狙う。
こんな場所で浪費する体力も時間もない。さっさと片をつけてしまうに限る。
「……お姉様、さすがにやりすぎでは」
「死なせはしないわよ、っと!」
美琴が号令をかけるように軽く手を振り、それを合図に砂鉄の凶器が一斉に襲い掛かる。
1つ1つがほぼ必殺の威力だ。当たればただではすまない。
だが、
「そんなお砂遊びじゃ、私には届かないよ」
凶器が直撃する直前、『業火焔弾』の足元から轟々とうなりを上げ、炎の壁が噴き上がる。
もちろん、実体のない炎に実体のある砂鉄を防げる道理はない。
しかし、
「砂鉄が……!?」
凶器が炎の壁に触れるかどうかというその刹那、突如としてその動きが鈍る。
形状を保てなくなるどころか美琴の支配も受け付けなくなった砂鉄の凶器は重力に従って落下し、炎壁の熱を浴びて赤熱する。
やがてどろりと溶けだし、さながらマグマのようになって床材へと絡みついた。
(……私の磁力操作に対する砂鉄の反応が鈍い。一撃防いだ時点で思い出すべきだったわね)
磁力に敏感に反応するような強磁性体には、それ以上の温度になると強磁性を失う『キュリー温度』というものが存在する。
砂鉄の主成分である磁鉄鉱のキュリー温度は摂氏にして580度前後。溶けてしまうほどの熱量を与えられれば強磁性を失ってしまう。
完全に操れなくなったわけではないにしても、やはり磁力に対する反応は格段に鈍くなる。
冷えたとしても、一度溶けてしまった砂鉄はもはや粒子状ではなく歪な鉄塊となってしまっている。
美琴が得意とする繊細な砂鉄操作にはもう用いることはできない。
「その程度か、超電磁砲とそのお供ちゃん。
大人しくさっさと燃やされてくれるとおねーさんも助かるんだけど」
「誰が!!」
髪を逆立たせ、美琴は右手に意識を集中させる。
手の中から溢れだすのは青白いスパーク。最大出力10億ボルトを越え、光速で駆け抜ける雷撃の槍。
最強の『電撃使い』たる美琴の真骨頂とも言うべき一撃だ。
だが、出力が大きいからこその問題というものもある。
『電撃使い』と言えど、普段からその最大出力の電圧を生みだしているわけではない。
そんな事をしていれば日常生活などとても送れやしない。
したがって、高出力で能力を使う際にはどうしても数秒の"溜め"が必要になり、それは最大出力に近づけば近づくほど長くなる。
それでも、たかが数秒。しかし暗部との戦いでは、その数秒が命取りとなる。
美琴の眼前で、突如空気が爆ぜる。
彼女が放とうとしていた電撃の副産物ではなく、『業火焔弾』が小さな爆発を起こしたのだ。
反射的に腕で目を覆ってしまい、指向性を失った電流が美琴の周囲を走った。
(コイツ、手元だけじゃなく離れたところでも能力を……!)
「いただき!」
手中に赤い光を宿しつつ美琴めがけて襲撃者が突撃する。
それを遮るように、白井が美琴の前へと身を躍らせた。
「させませんの!」
彼女の手中にあった鉄針が虚空へと消え、直後肉を穿つ音と共に『業火焔弾』の右肩から突き出すように姿を現した。
だが、苦悶の表情を唸りを漏らしながらも彼女の勢いは止まらない。
彼女の左手の赤い光が今にも迸ろうとした瞬間、白井の首根っこを引っ張る手が。
「なっ、めんなっ!!」
寸前まで白井がいた空間を、足元から巻き起こった黒い暴風が吹き荒れる。
それに飲みこまれることを避けるように後ろへと飛び退く『業火焔弾』。
そこへ狙い澄ましたかのように美琴が放つ雷撃の槍が彼女の体を撃ち抜いた。
しかしチャージなしの一撃は、彼女の意識を刈り取るまでには至らない。
弾かれたように吹き飛びつつも、彼女は美琴らに向けてある物を投げつけた。
大きめの携帯電話と同じくらいのサイズの、黒い粉末が詰まったパッケージ。
それは美琴が自分たちの前に展開した砂鉄の渦に粉砕され、こぼれおちた中身は渦に飲み込まれ、巻き上げられて──。
「テルミットって、知ってる?」
『業火焔弾』の言葉に美琴らが顔をひきつらせたときにはもう遅い。
爆ぜた火花が空間を伝播し、砂鉄に混じる粉末を燃焼させていく。
全てを灼き尽くす凄まじい爆炎が、周囲の空間全てを飲み込んだ。
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