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これ以上目を合わせていてはいけない。
俺の脳内で警告音がけたたましく鳴り響く。
しかし、目を逸らすことができなかった。
「ねぇ、放課後空いているかしら?少しお話したいことがあるの」
一体何をする気だ。
「あら、警戒しなくてもいいわよ。楽しみは最後までとっておいた方がいいもの」
今度は「にっこり」と微笑んだ。
「あなたも長門さんに聞きたいことがあるんじゃない?」
チャイムが鳴った。
俺の脳内で警告音がけたたましく鳴り響く。
しかし、目を逸らすことができなかった。
「ねぇ、放課後空いているかしら?少しお話したいことがあるの」
一体何をする気だ。
「あら、警戒しなくてもいいわよ。楽しみは最後までとっておいた方がいいもの」
今度は「にっこり」と微笑んだ。
「あなたも長門さんに聞きたいことがあるんじゃない?」
チャイムが鳴った。
教師が教室に入ってくると同時に、すかさず朝倉が号令をかけた。
起立、礼、着席。
雑音に紛れ、朝倉の声。
「ちょうどいいわ。放課後、文芸部室ね」
もう一度にっこり微笑むと、すっかり委員長モードに戻った朝倉が授業の準備をはじめた。
俺も前に向き直る。
……朝倉の誘いにホイホイついて行ってもいいものだろうか。
しかし長門に聞きたいことがある、というのも確かである。
黒板とすっかり親友になっている教師の背中を見ながら、
俺は早くハルヒに会いたいと思った。
起立、礼、着席。
雑音に紛れ、朝倉の声。
「ちょうどいいわ。放課後、文芸部室ね」
もう一度にっこり微笑むと、すっかり委員長モードに戻った朝倉が授業の準備をはじめた。
俺も前に向き直る。
……朝倉の誘いにホイホイついて行ってもいいものだろうか。
しかし長門に聞きたいことがある、というのも確かである。
黒板とすっかり親友になっている教師の背中を見ながら、
俺は早くハルヒに会いたいと思った。
………
……
…
「わたしの家に来て欲しい」という長門の申し出に、俺たちは頷いた。
これ以上は喫茶店なんぞでは話せない、ということだったんだろう。
長門が一人暮らししているらしいマンションへ向かっている最中、俺は隣を歩く古泉から多数の質問を受けていた。
北高に入学してから今までになにか変わったことは起きなかったか。
部活動は。
放課後は何をしていたか。
「そんなこと聞かれてもお前の期待には応えられないぞ俺は」
「ありのままを話してくれればいいのですよ」
ありのまま、ねぇ。
俺は入学してから2学年に上がった今まで、特になにもなく、平凡な高校生活を送っていたに過ぎない。
目の前に宇宙人が現れたりとか、時空を超えただとか、そんなことは一切なかった。
「ではこちらから質問します。去年の12月のことです。些細なことでもいいので、何か変わったことはありませんでしたか」
「……そういえば」
去年の12月と言われて思い出した。
……
…
「わたしの家に来て欲しい」という長門の申し出に、俺たちは頷いた。
これ以上は喫茶店なんぞでは話せない、ということだったんだろう。
長門が一人暮らししているらしいマンションへ向かっている最中、俺は隣を歩く古泉から多数の質問を受けていた。
北高に入学してから今までになにか変わったことは起きなかったか。
部活動は。
放課後は何をしていたか。
「そんなこと聞かれてもお前の期待には応えられないぞ俺は」
「ありのままを話してくれればいいのですよ」
ありのまま、ねぇ。
俺は入学してから2学年に上がった今まで、特になにもなく、平凡な高校生活を送っていたに過ぎない。
目の前に宇宙人が現れたりとか、時空を超えただとか、そんなことは一切なかった。
「ではこちらから質問します。去年の12月のことです。些細なことでもいいので、何か変わったことはありませんでしたか」
「……そういえば」
去年の12月と言われて思い出した。
12月の中頃だっただろうか。
俺の記憶が3日間、ぽっかりと穴があいていることがあった。
何を言われても、その時自分が何をしていたのか覚えていないのだ。
だが友人によれば「確かに学校に来ていた」と言う。
しかもおかしなことばかり口走って、明らかにいつもと様子がおかしかったと、皆口を揃えて言うのだ。
「それです。今のあなたの言葉で確信しました」
古泉は得意げに笑った。
「それがなんだって?」
「詳しいことは長門さんのマンションでお話します。もうすぐそこですよ」
古泉がそう言ってから5分後くらいだろうか。長門が立ち止まった。
見上げる。いかにも高級そうなマンションである。こんなところに一人で暮らしているのか。
長門は玄関のキーロックに暗証番号を打ち込んで施錠を解除し、そのままロビーへ向かった。
4人で無言でエレベーターに乗り込む。
長門はまっすぐ前だけ向いていて、古泉は笑ったまま顔を固定している。
朝比奈さんは何かに怯えているように身を縮めていた。
そういえば会ってからあんまり喋っていないが、この人はお喋りが苦手なんだろうか。
エレベーターが止まる。すこし歩き、ある扉の前で立ち止まった。
708号室。
「入って」
長門が静かに言った。
俺の記憶が3日間、ぽっかりと穴があいていることがあった。
何を言われても、その時自分が何をしていたのか覚えていないのだ。
だが友人によれば「確かに学校に来ていた」と言う。
しかもおかしなことばかり口走って、明らかにいつもと様子がおかしかったと、皆口を揃えて言うのだ。
「それです。今のあなたの言葉で確信しました」
古泉は得意げに笑った。
「それがなんだって?」
「詳しいことは長門さんのマンションでお話します。もうすぐそこですよ」
古泉がそう言ってから5分後くらいだろうか。長門が立ち止まった。
見上げる。いかにも高級そうなマンションである。こんなところに一人で暮らしているのか。
長門は玄関のキーロックに暗証番号を打ち込んで施錠を解除し、そのままロビーへ向かった。
4人で無言でエレベーターに乗り込む。
長門はまっすぐ前だけ向いていて、古泉は笑ったまま顔を固定している。
朝比奈さんは何かに怯えているように身を縮めていた。
そういえば会ってからあんまり喋っていないが、この人はお喋りが苦手なんだろうか。
エレベーターが止まる。すこし歩き、ある扉の前で立ち止まった。
708号室。
「入って」
長門が静かに言った。
「お邪魔します」
長門の部屋はぱっと見た感じ、こたつしかない。
「座って」
そう促され、俺は適当に腰を下ろした。古泉が俺の左隣に座る。
朝比奈さんは俺の右隣に腰を下ろそうとして、はっとしたように口を開いた。
「あっ、あたし、お茶淹れます。い、いいですか?」
長門が朝比奈さんを見る。
いかにもオドオドとしている朝比奈さんに向かってゆっくり顔を縦に振ると、
朝比奈さんはそれを笑顔で受け取り、キッチンへと向かった。
それを見送り、長門は俺の正面に腰をおろした。
「さて、どこから説明しましょうか」
古泉の問いかけに答えたのは長門だった。
「わたしから」
喫茶店で改変がどうの異次元がどうの言っていたよな。
俺は、どんな電波話が繰り出されるのかと身構えた。
長門が静かに口を開く。
長門の部屋はぱっと見た感じ、こたつしかない。
「座って」
そう促され、俺は適当に腰を下ろした。古泉が俺の左隣に座る。
朝比奈さんは俺の右隣に腰を下ろそうとして、はっとしたように口を開いた。
「あっ、あたし、お茶淹れます。い、いいですか?」
長門が朝比奈さんを見る。
いかにもオドオドとしている朝比奈さんに向かってゆっくり顔を縦に振ると、
朝比奈さんはそれを笑顔で受け取り、キッチンへと向かった。
それを見送り、長門は俺の正面に腰をおろした。
「さて、どこから説明しましょうか」
古泉の問いかけに答えたのは長門だった。
「わたしから」
喫茶店で改変がどうの異次元がどうの言っていたよな。
俺は、どんな電波話が繰り出されるのかと身構えた。
長門が静かに口を開く。
長門の口からは俺の想像以上の規模の電波話が繰り出された。
とても俺の脳みそでは処理しきれない。
古泉は時々「なるほど」やら「確かに」などと相槌を打っていたが、本当に分かっているのか。
そうか、頭がお花畑だったんだっけな。
「……つまり、長門は人間じゃなくて、その対有機なんたらっていう……」
「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
「簡単に言ってしまうと宇宙人なわけです」
「涼宮ハルヒとかいう女の監視をするために地上に降りてきた宇宙人ってとこか」
「そんなところですね」
これはどこから突っ込めばいいのかね。
「にわかには信じられないかもしれませんが」
「でも、信じて」
長門と古泉の目は、真っ直ぐに俺を捕らえていた。
信じて、ねぇ。
「お待たせしましたぁ」
そこにカチャカチャと音を立てて、朝比奈さんがキッチンから現れた。
湯のみを乗せたお盆を持ったその足取りは、なんとも危なっかしいものだ。
「わたしからも、お話ししなければならないことがあります」
朝比奈さんは長門、古泉、俺の順に湯飲みを目の前に置いていき
最後に自分の前に盆ごと置き、腰を降ろして俺と目を合わせる。
「聞いてもらえますか?」
この人からも電波話を聞かなければならないのか。
そこにカチャカチャと音を立てて、朝比奈さんがキッチンから現れた。
湯のみを乗せたお盆を持ったその足取りは、なんとも危なっかしいものだ。
「わたしからも、お話ししなければならないことがあります」
朝比奈さんは長門、古泉、俺の順に湯飲みを目の前に置いていき
最後に自分の前に盆ごと置き、腰を降ろして俺と目を合わせる。
「聞いてもらえますか?」
この人からも電波話を聞かなければならないのか。
信じちゃうううううう僕ゆきりんしんじちゃうううううううう!!
だから気持ちいいいことしよ!ね!しよ!ゆきりんはああああああん!!
はぁはぁはぁはぁはあああああああああああんゆきりいいいんん!!!
あいしてるよゆきりいいいいいいいいいん!!!!!!!!
だから気持ちいいいことしよ!ね!しよ!ゆきりんはああああああん!!
はぁはぁはぁはぁはあああああああああああんゆきりいいいんん!!!
あいしてるよゆきりいいいいいいいいいん!!!!!!!!
結局、2時間かけて3人から各々の視点で「涼宮ハルヒ」という存在を説明された。
それから、SOS団とかいう涼宮ハルヒが立ち上げた団での出来事なども聞かせていただいた。
電波話もここまで詳しく、しかも3人から聞かされてしまうと信じてしまいたくなる。
「あなたはこの話が僕たちが妄想で造り上げた話かと思っているかもしれませんが、全て本当のことなんです」
そう言う古泉は至って真剣な顔をしている。朝比奈さんもだ。
長門は相変わらず無表情である。
視線が突き刺さる。
「……分かったよ。お前たちを信じる」
負けた。付き合ってやろうじゃないか。
「お前は、俺がその涼宮ハルヒにとって鍵である存在だって、言ってたよな」
「その通りです」
「……俺はどうすればいいんだ」
「そこが問題です」
「涼宮さんには、このことは黙っていたほうがいいのでしょうか」
このこと、とは俺が「涼宮ハルヒを知らない世界」から来たってことだろう。
俺の言動が涼宮ハルヒに大きな影響を与えるのだとしたら、下手な行動は取れないんじゃないだろうか。
「隠し通せる可能性は低い」
「記憶喪失ってことにすれば……いいんじゃないですか?」
朝比奈さんが控えめな口調で言った。
「やはりそれが一番いいでしょう」
「では、彼は自宅の階段からすべり、頭の打ち所が悪く記憶をなくしてしまった、ということにしましょう」
古泉の言葉に朝比奈さんと長門が頷く。
やけに軽く言われたような気がするが、まぁ大体合ってると言っちゃ合ってるんじゃないだろうか。
実際、涼宮ハルヒと過ごしていた記憶は俺にはないんだ。目の前の古泉や長門、朝比奈さんに対しても同じだが。
「では明日の朝一番、部室に集合です。涼宮さんには僕から連絡しておきます」
古泉が立ち上がる。長門と朝比奈さんもそれに倣い、俺もつられて立ち上がった。
今日はこれにてお開き。
このこと、とは俺が「涼宮ハルヒを知らない世界」から来たってことだろう。
俺の言動が涼宮ハルヒに大きな影響を与えるのだとしたら、下手な行動は取れないんじゃないだろうか。
「隠し通せる可能性は低い」
「記憶喪失ってことにすれば……いいんじゃないですか?」
朝比奈さんが控えめな口調で言った。
「やはりそれが一番いいでしょう」
「では、彼は自宅の階段からすべり、頭の打ち所が悪く記憶をなくしてしまった、ということにしましょう」
古泉の言葉に朝比奈さんと長門が頷く。
やけに軽く言われたような気がするが、まぁ大体合ってると言っちゃ合ってるんじゃないだろうか。
実際、涼宮ハルヒと過ごしていた記憶は俺にはないんだ。目の前の古泉や長門、朝比奈さんに対しても同じだが。
「では明日の朝一番、部室に集合です。涼宮さんには僕から連絡しておきます」
古泉が立ち上がる。長門と朝比奈さんもそれに倣い、俺もつられて立ち上がった。
今日はこれにてお開き。
長門のマンションからの帰路。俺はぼんやりと考えていた。
世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。長門と古泉と朝比奈さん。
この世界の俺はSOS団と一緒に野球大会に出たり、でかいカマドウマと戦ったり、七夕には3年前に行ったり、
孤島で嵐に遭ったり、夏休みを1万回も繰り返したり、映画を撮ったり、雪山で遭難したり、していたのか。
ここの俺は頭がおかしかったんじゃないだろうか。
ほんの少しだが、楽しそうだなと思ってしまった俺を殴るべきだろうか。
世界崩壊寸前を立ち会ったり、同級生に刺されるなんてのはまっぴらごめんだが
宇宙人と未来人と超能力者と、そんな体験をしている俺を羨ましいと思ってしまった。
この世界に居たはずの俺は、今どんな気持ちでいるのだろうか。
いかんな。俺も頭がおかしくなってきたらしい。
「そういえば」
帰宅後。
自分の部屋に入り、携帯電話を部屋に忘れていった事に今更気づき、思い出した。
古泉が確信したとか言っていた、俺の12月の3日間の記憶がない理由。
それをまだ説明されていないぞ。
今から電話したら、多分すぐに出るだろう。
携帯電話を手にとり、やめた。わざわざ電話しなくてもいい。明日聞くことにしよう。
こちらの世界でも毎朝妹が起こしにくるのだろうか。
そんなことを思いながら俺はベッドに潜った。
帰宅後。
自分の部屋に入り、携帯電話を部屋に忘れていった事に今更気づき、思い出した。
古泉が確信したとか言っていた、俺の12月の3日間の記憶がない理由。
それをまだ説明されていないぞ。
今から電話したら、多分すぐに出るだろう。
携帯電話を手にとり、やめた。わざわざ電話しなくてもいい。明日聞くことにしよう。
こちらの世界でも毎朝妹が起こしにくるのだろうか。
そんなことを思いながら俺はベッドに潜った。
………
……
…
放課後。
女子と談笑する朝倉を横目に、俺は急ぎ足で教室を出た。
向かうところはひとつしかない。文芸部室だ。
朝倉の物言いからして、長門は文芸部室に居るはずだ。
居てくれ、長門。
「文芸部」と書かれたプレート。
その上にハルヒの字でSOS団と書かれた紙なんて、やはり貼ってなかった。
なにを期待しているんだ俺は。分かっていただろう。
扉を軽くノックする。2回。
中から返事は聞こえなかったが、俺はドアノブに手を伸ばした。
……
…
放課後。
女子と談笑する朝倉を横目に、俺は急ぎ足で教室を出た。
向かうところはひとつしかない。文芸部室だ。
朝倉の物言いからして、長門は文芸部室に居るはずだ。
居てくれ、長門。
「文芸部」と書かれたプレート。
その上にハルヒの字でSOS団と書かれた紙なんて、やはり貼ってなかった。
なにを期待しているんだ俺は。分かっていただろう。
扉を軽くノックする。2回。
中から返事は聞こえなかったが、俺はドアノブに手を伸ばした。
「……長門」
安心した。
そこには、一度見たことがある光景が広がっていた。
本棚と数個のパイプ椅子、長テーブルとその上に置いてある旧式のデスクトップパソコン。
本を読む長門有希。
長門は膝元に置かれた分厚い本から顔をあげ、俺を見た。
…………あれ?
長門は眼鏡をかけていた。ここまでは予想通りである。
しかし、眼鏡の奥にある瞳はとても落ち着いたものだった。
「待ってた」
落ち着いた声で呟いた長門は、昨日も一緒にSOS団部室に居た、長門有希そのものだった。
安心した。
そこには、一度見たことがある光景が広がっていた。
本棚と数個のパイプ椅子、長テーブルとその上に置いてある旧式のデスクトップパソコン。
本を読む長門有希。
長門は膝元に置かれた分厚い本から顔をあげ、俺を見た。
…………あれ?
長門は眼鏡をかけていた。ここまでは予想通りである。
しかし、眼鏡の奥にある瞳はとても落ち着いたものだった。
「待ってた」
落ち着いた声で呟いた長門は、昨日も一緒にSOS団部室に居た、長門有希そのものだった。
思い出した。
短針銃を撃ったんだ。
俺の前で頬を紅く染め、微笑むような長門有希を、
俺の良く知っている宇宙人・長門有希が撃った。
そうだった……。
またあの長門に会えるかもしれない、と心の片隅で楽しみにしていた俺を誰か殴ってくれ。
むしろよかったじゃないか。こっちの長門のほうが頼りになる。
頼りになるから……。
目の前で項垂れている俺を見て、眼鏡をかけた長門は首をかしげた。
短針銃を撃ったんだ。
俺の前で頬を紅く染め、微笑むような長門有希を、
俺の良く知っている宇宙人・長門有希が撃った。
そうだった……。
またあの長門に会えるかもしれない、と心の片隅で楽しみにしていた俺を誰か殴ってくれ。
むしろよかったじゃないか。こっちの長門のほうが頼りになる。
頼りになるから……。
目の前で項垂れている俺を見て、眼鏡をかけた長門は首をかしげた。
「どうしたの」
長門の声で我に返った。
そうだ。こんなことで落ち込んでいる場合ではない。なんてお気楽野郎だ俺は。
しかし2度目ということもあってか、
何があっても結局は元の世界に戻れるんじゃないかという余裕が俺の中にはあった。
この世界には俺の知っている長門も居る。案外簡単に戻れるんじゃないか?
コン、コン
長門が俺に向かって何かを言おうと口を開いた、ちょうどその時だった。
「長門さん、わたしよ」
朝倉の声だ。
長門の声で我に返った。
そうだ。こんなことで落ち込んでいる場合ではない。なんてお気楽野郎だ俺は。
しかし2度目ということもあってか、
何があっても結局は元の世界に戻れるんじゃないかという余裕が俺の中にはあった。
この世界には俺の知っている長門も居る。案外簡単に戻れるんじゃないか?
コン、コン
長門が俺に向かって何かを言おうと口を開いた、ちょうどその時だった。
「長門さん、わたしよ」
朝倉の声だ。
反射で背筋が伸びる。
いかんな。こんな調子では朝倉の思う壺ではなかろうか。
長門は朝倉の声を受け取り、俺のほうに目をやった。
……俺の許可を待っているのか、これは。
試しに頷いてみる。
それを見て、長門は扉に向かって「入って」と言った。
「お邪魔するわよ」
両手でドアノブを持って扉を開ける朝倉の顔には、委員長スマイルが広がっていた。
「キョン君ったら、置いて行っちゃうなんて酷いんじゃない?」
「朝倉涼子」
パタン。
長門が膝元で開かれていた本を閉じた。
「何しに来たの」
バタン。
朝倉が微笑んだまま後ろ手でドアを閉めた。
「その言い方は酷いんじゃないかしら、長門さん」
いかんな。こんな調子では朝倉の思う壺ではなかろうか。
長門は朝倉の声を受け取り、俺のほうに目をやった。
……俺の許可を待っているのか、これは。
試しに頷いてみる。
それを見て、長門は扉に向かって「入って」と言った。
「お邪魔するわよ」
両手でドアノブを持って扉を開ける朝倉の顔には、委員長スマイルが広がっていた。
「キョン君ったら、置いて行っちゃうなんて酷いんじゃない?」
「朝倉涼子」
パタン。
長門が膝元で開かれていた本を閉じた。
「何しに来たの」
バタン。
朝倉が微笑んだまま後ろ手でドアを閉めた。
「その言い方は酷いんじゃないかしら、長門さん」
「2人っきりで居るところをお邪魔したのは悪かったわ」
「朝倉涼子」
長門の顔には「これ以上喋るな」と書かれていたようだ。
朝倉は長門の顔を見て、笑顔で肩をすくめた。
「さっきの質問だけど」
朝倉はドアの側に立てかけてあったパイプ椅子を長門の隣に持って行き、広げた。
「このキョン君に話があるの」
あなたも座ったら?と朝倉。
俺はそれに従った。
パイプ椅子を、机を挟んで長門の正面になる位置へ持っていく。
「そういえば、俺のことが分かるか?長門」
我ながら可笑しな質問だと思ったが、長門には意味が通じたようだ。
「……あなたはこの世界のあなたではない」
「朝倉涼子」
長門の顔には「これ以上喋るな」と書かれていたようだ。
朝倉は長門の顔を見て、笑顔で肩をすくめた。
「さっきの質問だけど」
朝倉はドアの側に立てかけてあったパイプ椅子を長門の隣に持って行き、広げた。
「このキョン君に話があるの」
あなたも座ったら?と朝倉。
俺はそれに従った。
パイプ椅子を、机を挟んで長門の正面になる位置へ持っていく。
「そういえば、俺のことが分かるか?長門」
我ながら可笑しな質問だと思ったが、長門には意味が通じたようだ。
「……あなたはこの世界のあなたではない」
「確認するがお前は、えっと……対有機生命体」
「コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
俺が最後まで言い終わる前に言われてしまった。
ここに居る長門は宇宙人らしい。
「お前もだよな?朝倉」
俺の問いに朝倉は笑顔で答えた。朝倉も宇宙人、と。
俺は長門に向かって聞いた。
「一体どうなっているんだ?説明してくれ」
「他人に答えを請う前に少しは自分で考えろって教わらなかったのかしら」
すかさず朝倉が口を挟んだ。ぐ、その言葉は痛い。
怯んだ俺を見てニヤリと笑った。長門は朝倉を見ている。
「わたしが説明するわね」
「コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
俺が最後まで言い終わる前に言われてしまった。
ここに居る長門は宇宙人らしい。
「お前もだよな?朝倉」
俺の問いに朝倉は笑顔で答えた。朝倉も宇宙人、と。
俺は長門に向かって聞いた。
「一体どうなっているんだ?説明してくれ」
「他人に答えを請う前に少しは自分で考えろって教わらなかったのかしら」
すかさず朝倉が口を挟んだ。ぐ、その言葉は痛い。
怯んだ俺を見てニヤリと笑った。長門は朝倉を見ている。
「わたしが説明するわね」
「あ、その前にひとつ。言おうと思ってたことがあったんだわ」
ぱんっと両手を合わせて、俺を見てにっこり笑った。
「わたしね、もうあなたに殺意なんて抱いていないのよ」
それだけよ。朝倉は言った。
「はぁ?」
おっと、思ったことがそのまま口に出てしまった。
「じゃあ、さっきのは」
「さっきって言うのは教室で話してたことかしら、あれね」
長門が不思議な表情で朝倉を見ていた。この表情は、見たことがないな。
「あなたの反応がとっても面白かったから、ついからかってみたくなっちゃって」
ウインクから星が出そうな勢いである。随分楽しそうだな。
勘弁してくれ。
ぱんっと両手を合わせて、俺を見てにっこり笑った。
「わたしね、もうあなたに殺意なんて抱いていないのよ」
それだけよ。朝倉は言った。
「はぁ?」
おっと、思ったことがそのまま口に出てしまった。
「じゃあ、さっきのは」
「さっきって言うのは教室で話してたことかしら、あれね」
長門が不思議な表情で朝倉を見ていた。この表情は、見たことがないな。
「あなたの反応がとっても面白かったから、ついからかってみたくなっちゃって」
ウインクから星が出そうな勢いである。随分楽しそうだな。
勘弁してくれ。
「だから、これからもうあなたの命を狙うようなことはしないわ。安心して」
そうは言われても、俺は既に朝倉に2度も殺されそうになっているのである。
易々と信じられる自信はないな。
「約束するわ」
朝倉は寂しそうに言った。
その目は「わたしのことを信じられないのね」と言っているようだ。
「……分かったよ」
何が分かったんだろうな、俺。
「大丈夫」
聞き役に徹していた長門がようやく口を開いたようだ。
「朝倉涼子の言葉が嘘であったとしても、わたしがあなたを守る」
俺をまっすぐに捕らえる長門の瞳。
「必ず」
それは見たことがあるようで、見たことのない瞳だった。
この世界の長門は、やっぱり俺がよく知る長門ではないようだ。
そうは言われても、俺は既に朝倉に2度も殺されそうになっているのである。
易々と信じられる自信はないな。
「約束するわ」
朝倉は寂しそうに言った。
その目は「わたしのことを信じられないのね」と言っているようだ。
「……分かったよ」
何が分かったんだろうな、俺。
「大丈夫」
聞き役に徹していた長門がようやく口を開いたようだ。
「朝倉涼子の言葉が嘘であったとしても、わたしがあなたを守る」
俺をまっすぐに捕らえる長門の瞳。
「必ず」
それは見たことがあるようで、見たことのない瞳だった。
この世界の長門は、やっぱり俺がよく知る長門ではないようだ。
「そんな怖い顔をしないでよ、長門さん」
朝倉はきゃぴきゃぴという擬音が似合いそうな仕草で長門の肩をつついた。
対して長門は無表情……いや、拗ねているような、呆れているような顔をしている。
それは完全に、俺の知らない長門有希だった。
この世界の長門は、俺の知っている長門よりも感情豊かなのかもしれない。
というか、そうである。先程から驚かされてばかりだ。
俺の知っている長門も、初めて会った頃に比べれば、随分人間くさくなったもんだ。
冗談を言ったり、朝比奈さんの台詞を真似たりな。
今俺の前に居る長門は、それよりも一段階も二段階も人間に近いのかもしれない。
俺はこの長門ともっと喋ってみたいと思った。
朝倉はきゃぴきゃぴという擬音が似合いそうな仕草で長門の肩をつついた。
対して長門は無表情……いや、拗ねているような、呆れているような顔をしている。
それは完全に、俺の知らない長門有希だった。
この世界の長門は、俺の知っている長門よりも感情豊かなのかもしれない。
というか、そうである。先程から驚かされてばかりだ。
俺の知っている長門も、初めて会った頃に比べれば、随分人間くさくなったもんだ。
冗談を言ったり、朝比奈さんの台詞を真似たりな。
今俺の前に居る長門は、それよりも一段階も二段階も人間に近いのかもしれない。
俺はこの長門ともっと喋ってみたいと思った。
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