元スレ川内「好きの形」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
201 :
そう…
202 :
早速秋雲を手に入れて投下を忘れていた鳥頭ですがよろしくね!
以下投下
203 :
「……お盆?」
基本的に鎮守府内での食事は食堂でと決まっているが、そんなものは意味をなしていない。
お盆を返すのなら、迷惑にならない常識的な範囲でなら食事が許されているのだ。
「那珂ちゃんが持ってきませんでした?提督と食べるって張り切ってましたけど」
「……それはいつ頃だ?」
「えっと……1時前ぐらいです」
「私は正午前に鎮守府を出たのだが」
「……えっ?そうなんですか?」
狐につままれたように私たちは困惑した。
「……すまない、私は執務室に戻ろうと思う」
私を待ちくたびれて、そのまま寝てしまったのかも知れない。私はそう考えたのだ。
「え、えぇ。夕食の際はお声をかけて下さい」
少し戸惑いながらも、伊良湖はそのまま廊下を歩いて行った。
「……ふむ」
私は振り返って執務室に向かう……と言っても、たかだか数秒で到着した。
「……那珂?」
小声で呼びながらそっと扉を開ける。
寝ていても、起こさないようにする配慮だ。
「あっ!提督ー!」
だが、それは杞憂だった。
「遅かったね。さ、一緒にご飯食べよ?」
那珂は、お盆を持って立っていたのだ。
204 = 1 :
「……どうしたの?那珂ちゃん、お腹空いちゃったよー」
お盆にはコーンポタージュと思われるスープにサンドイッチが乗せられていた。
「…………那珂」
「んー?食べようよー」
那珂は一旦お盆を机に置き、はしゃぎながら私の席の対面に椅子を用意する。
「早く!もうすっかり冷めちゃってるよ!」
扉を開けてから一歩も動いていない私に唇を尖らせるその姿は、ただの日常を切り取ったように自然体だった。
「提督!」
あまりの衝撃に立ち尽くしていた私に呼び掛ける声。我を取り戻し振り返ると、焦り顔の神通がいた。
「那珂ちゃんは!?」
「いや、それが……」
ちらりと目配せすると、きょとんとした那珂と目があう。
「……え?もしかして神通ちゃんも食べるの?」
「……その、だな…」
「……あっ!」
どう答えようかと頭を抱えていたところに、那珂は不敵に笑いだした。
「ごめんね?神通ちゃん。提督は那珂ちゃんと『二人っきりで』ご飯を食べるんだー……ね?」
嫌に冷たい空気が執務室に流れ込んできた気がした。
205 = 1 :
「…………ふふっ…そうですか」
「…神通?」
難しい顔をしていた神通だったが突然笑みを溢した。
「でもごめんなさい。私は提督とご飯をいただいてきたので」
「えっ……」
那珂の笑顔が音もなく崩れる。徐々に下がっていく口角とは逆に目は大きく開いていく。
「……嘘だよね?那珂ちゃんと食べるって約束したよね?」
視線を私に戻した那珂の言葉は、確認と言うよりも懇願に近かった。
「そんなわけありません。嘘をつくのはやめなさい?」
だが神通はそれをバッサリと切り捨てた。あり得ないはずなのに、吐き捨てるように言った彼女が笑って見えるほどに清々しいものだった。
「……したよね?ね?」
私はそのような約束を交わした覚えが全くない。
無いが……ここまで項垂れる彼女を見る限り、私が忘れている可能性の方が高い。
「したもん……絶対にしたんだもん……」
口を閉じて悩んでいると、とうとうすすり泣きだしてしゃがみこんでしまった。
訴えるように何度も呟く彼女を見ていると、心が痛んできた。
何せ彼女は私との昼食をあれほど楽しみにしていたのだ。
「……すまない。今度一緒に行こうな」
優しく丁寧に話すと、彼女の不安定な嗚咽が治まった。
「……ほんと?」
「あぁ、」
正直約束は覚えていないが、おくびにも出さないように平常を装う。
「なら……明日、行こ?」
赤く腫れた目元を軽くこすった彼女は顔をあげる。いつも通りの優しい笑顔に戻っていた。
206 = 1 :
「そうと決まれば、夕食の時間だから食堂に行こうか」
「……提督は?」
聞かれて一瞬言葉が詰まる。
「……いや、食べたいのは山々なんだが、仕事があったことを思い出してな」
「!なら、那珂ちゃんと――」
「いや、心配しなくていい」
那珂が涙のあとが残る顔を輝かせるが、私はそれを制した。
「ずいぶん遅くなりそうなもんで、付き合ってもらっていては那珂も夜更かしすることになりそうだ」
なんせ明日の分の書類を今日中に終わらせるのだ。悠長に食事できるほどの時間があるかどうか……
「でも……」
「わがまま言うのはやめなさい」
神通の凛とした声で那珂は口を閉じる。
「明日連れていってもらえるんでしょう?今日はおとなしく食堂で食べていなさい」
「……その言い方は…」
「…………はい」
那珂が小さく頷いたので私は口を閉じた。
やや刺があるように感じたが、那珂が頷いたのだからよしとしよう。
「じゃあ那珂ちゃん、行ってらっしゃい」
神通はわざわざ扉を開け、外へ出るように手を廊下へ向ける。
「……神通ちゃんは?」
「私は秘書艦ですので」
神通は申し訳なさそうに、だがそれでいて誇らしげに呟いた。
やはり、どこか無理をしているのではないだろうか。
私には彼女が何かに苛立っているように見えた。
「…………別に手伝わなくとも――」
楽しくもあったが、同時に疲れも溜まっているからだろう。
私は神通の背中も廊下に押そうと手を乗せた。
「っ!」
だが、その手は彼女に払い落とされた。
207 = 1 :
書き溜めと言うのもおこがましい量でしたが、今日はここまでで
某神通スレが終わって早2週間。ヤンデレのハッピーエンドは初めて見た気がしました。あれぐらい書けたらなぁ…
え?翔鶴?知らない子ですね
209 :
乙、あのスレは良い終わり方だったね
210 :
何それkwsk
211 :
やきうスレのことか?(直接表現を避けながら)
212 :
乙
川内と神通のダブル主人公、いいと思います。
勘違いだったら申し訳ないんだけど、神通スレってもしかしてこんなトリップだった?
213 :
ありがてぇ……ありがてぇ……
214 :
Vitaの予約を忘れていてテンション下がりまくりですが今夜投下しようと思います
215 :
艦これ改のVitaセットの話かな?
216 :
報告乙
平日深夜に予約開始は無理だわ…見張ってたけどログイン不可、今日も仕事だし途中で諦めた
217 :
皆さんこんばんは。村雨の可愛さに狼狽えていました
>>215そうです
>>216社会人の方には厳しいものでしたね……私は単に忘れていただけですけど
以下投下
218 = 1 :
「なんでですか!?私がいては迷惑なのですか!?」
突然の怒声。思わず私は手を引っ込める。
「い、や……そういうわけではない。疲れているかと思ったんだが」
なぜ私がしどろもどろに弁解するのだろうか。
そのような疑問を浮かべながら神通をなだめる。
「お気遣いありがとうございます。ですが、私はがんばります。頑張らせて下さい」
「……神通ちゃん、一緒に出ていこ?ね?」
「那珂ちゃん、あなたは出ていきなさい」
刺々しい物言いだが那珂は笑顔を崩さない。
「提督?私は邪魔ですか?いらない存在なのですか?違いますよね?」
「あ……あぁ、そうだが…」
「そのような私を追い出して、仕事が捗るとでも?いいえ、そんなわけありません。私が手伝いますから、一緒に二人で頑張りましょう?」
提案、というよりも懇願。捲し立てる彼女の目には闘志が宿っているように錯覚してしまうほどの剣幕だ。
「……神通、本当に疲れていないんだな?」
「ええ、そんなことでは秘書艦など勤まりません」
……確かに一理ある。彼女は出撃した日も変わらずここに来て手伝ってくれているのだ。
それにこの必死さ。何が彼女を刺激したのかは定かでは無いが、ここまで言ってくれる彼女を易々と無下にはできない。
「……なら、頼めるだろうか」
「はい!」
そう言うと、彼女は満面の笑みで頷いた。思えば、今日一日で最高の笑顔だ。
「……というわけで」
そのままクルリと向きを変え、那珂に振り返る。
「私は残りますので、那珂ちゃんは出ていってください」
幸せに満ちた顔で那珂を押し出した神通。不意を突かれた那珂はよろめきながら廊下へされるがままに追い出される。
廊下まで押しきった彼女は追い討ちのごとく扉を勢いよく押した。
219 = 1 :
「いくらなんでもやりすぎでは…」
そう言ってみるも神通は態度を和らげない。それどころか、鍵までかけて満足そうに頷いたのだ。
……やはり仲が悪くないか?
「……神通ちゃんは残っても良いのに、那珂ちゃんはダメなの?」
扉越しに那珂の声が聞こえた。
「いや、そんなことは――」
フォローを入れようと扉に近寄ったが、神通が後ろから抱きつくように私の口を抑えた。
「ええ、あなたは秘書艦では無いでしょ?邪魔になるだけです」
違う。そんなことはない。
神通ほどで無いが那珂だって執務はある程度理解している。少なくとも邪魔になることはあり得ない。
「静かに」
「じ……んぐ!?」
声を大にして言いたかったが、出来なかった。
開けた口に神通の指がするりと入ってきたのだ。
「提督?那珂ちゃんは邪魔なの?」
声を出したいが、舌を指で抑えられ口も塞がれている今どうすることもできない。
「早く戻りなさい。ついでに私たちの夕食は断っておいてください」
どうしても喋らせまいとする神通を見て私は理解した。
彼女は正気ではない。
「神通ちゃん……秘書艦って、ズルいね」
「図々しくここに残っても怒られないあなたの方がズルいです」
それを聞いた那珂は、ゆっくりと食堂へ向かっていった。
220 = 1 :
「……っあ!……はぁ……」
私の口が解放されたのは、それから5分後のことだった。
足音がしなくなり静まり返ったことを確認した神通は、ようやく手を引っ込めたのだ。
「お前……」
「大丈夫ですか?」
心配そうに私を見つめる神通。
その豹変ぶりに私の背筋は凍りついた。
「少し乱暴にしてしまって申しわけございませんでした。でも、ああしなければ那珂ちゃんが出ていかないと思ったので……」
「……出て行かせる意味はあったのか?」
切れ切れだった息が落ち着いた私は、冷静を装い尋ねた。
私の問いかけに神通は首を傾げる。
「何故って……那珂ちゃんは邪魔ですよね?むしろ、私以外は邪魔なはずでしょう?」
「……………………」
今日何度目かわからないが、私はまたしても彼女との壁を感じざるを得なかった。
私の疑問が信じられないと言いたげな目。恐らく本心なのだろう。
「さぁ、そんなことより早く仕事をやってしまいましょう」
「……そうだな」
何故かわからないが彼女はこの部屋を異様なまでに気に入っていて、この部屋の主である私以外の誰かが入ってくることをひどく嫌う。
こういうことも精神崩壊というのだろうか。どちらにしろ解決策は簡単に浮かぶものではない。
「……やるか」
ひとまず私は椅子に座り書類を取る。いつもより体が重く感じる原因は疲労だけではないはずだ。
「楽しいですね♪」
「……あぁ」
から返事で対応しつつ頭を働かせる。
……そういえば聞いたことがある。
艦娘含む軍人で精神疾患を患った者のための施設があると。
「明後日にでも行くか」
そう決めた私は重く苦いため息を吐いた。
221 = 1 :
「終わりましたね……」
「あぁ……なんとか」
人間やろうと思えばなんでもできる。それはあながち間違いでも無いようだ。
明日…正確には今日の仕事は、日付が変わるとほぼ同時に完了した。
神通も那珂がいなくなるといつも通り落ち着きを取り戻し、十二分に秘書艦の仕事をまっとうしてくれた。
「では、私はそろそろ部屋に戻りますね」
「あ……あぁ、おやすみ」
「はい、お休みなさい」
扉の前で振り返って軽く頭を下げた神通は、そのまま何事もなく出ていった。
那珂のもとへ向かうということに不安を感じたが、本人が取り乱していないので問題は無さそうだ。
「…………ふむ」
何故彼女はこの部屋に固執するのだろうか……
確かに居心地は良いが、中年間近の男性と二人きりだ。年頃の少女なら嫌がるはずだ。
頭を悩ませていると、控えめなノックの音がした。
222 = 1 :
今日はここまで
できればまた近いうちに
それではお休みなさい
224 :
乙
>>207 遅レスだが、モバマスのヤンデレssでハッピーエンド?のがあったな。最後アイドル達に自分の身体の一部与えて蒸発するみたいなの
225 :
乙
ハッピーエンドってなんだろうな(混乱)
226 :
乙
アカン…
227 :
これから川内ちゃんがハッピーになるんだろ?
なお提督
228 :
那珂ちゃんを泣かせる姉の屑
229 :
見てくれている方、遅くなって申し訳ありません
近いうちになんて言葉を残した癖に満足のいく書き溜めができていない現状です
明日か明後日には……
230 :
そう…
231 :
待ってるよ
233 :
書き溜めはできましたか?(小声)
234 :
出来ました(小声)
待ってくれていた方々申し訳ございませんでした
駄文ですが心ぴょんぴょんをお楽しみ頂けたら幸いです
以下投下
235 = 1 :
「……提督?入ってもいい?」
時間としてはいつも通り。だが、その大人しい声で一瞬誰かわからなかった。
「……川内か?いいぞ」
珍しく大人しい川内は、ゆっくりと扉を開けた。
「どうしたんだ?君が静かにしているなんて珍しい」
「酷いね……」
軽く笑うが、やはりいつもの元気さは見られない。
「ねぇ…今話してもいいかな?」
恥じるように一歩引いたような態度で尋ねる彼女はますます珍しい。
「なんだ?いつもみたいに騒ぎ立てたらいいじゃないか」
「私って、提督から見たらそんなキャラなの……?」
不服そうに苦笑いをするが、残念ながら私個人の印象では無いはずだ。
「えっと、そうじゃなくて……」
ようやく部屋に足を踏み入れた彼女は、ゆっくりと私に近づいてくる。
「どうし――」
「やっぱ提督は暖かいね…」
ふわりと流れるように川内は私に抱きついてきた。
236 = 1 :
「……ど、どうしたんだ?」
焦りを悟られないよう、いつもより低めの声を出す。
ここに来て女性に対する免疫はできたとは言え、こうも唐突に抱きつかれては混乱してしまうのは仕方ない。
だが、それを見透したかのように彼女は笑った。
「提督って、優しいよね」
「……それは今朝も言われたな」
そっぽを向いて赤くなっている顔を隠す。
「それで……その」
「はっきりしないか。らしくない」
そう茶化すと、彼女は俯いてしまった。
……なんだこれは。
まるで少女が思い人に告白するような雰囲気ではないか。
「私ってさ、どう思う?」
「どう……とは?」
「いや、その……私って、少しいい加減なところとかあって、女の子っぽくないじゃん?そういうのはどうなのかなって……」
目をそらしながら手をくねらせる仕草は、まごうことなく可愛らしい女子のそれである。
「やっぱり変なのかな……?」
煮え切らない言葉をもごもごさせながら、悲しそうな目でチラリとこちらを見た。
「……!川内」
私はすぐに理解した。
「お前、誰かにいじめられてるのか?」
237 = 1 :
「……はい?」
「そんなことを気にして夜にこっそり訪ねに来るから…違うのか?」
私が訪ねると、先程までの視線とは一転、一瞬にして軽蔑混じりの冷たいものに変化した。
どうやら違ったようだ。
ひとまず胸を撫で下ろす。
「……いじめなんか無いよ。そういうのじゃなくってさ…ただ……」
「ただ?」
「お、女の子っぽくなった方が、提督は好みかな……なんて」
徐々に小さくなる声と、それに伴い揺れる視線。
恥ずかしいのなら尋ねなければいいのに。
「なんだ。そんなことか」
つい溢した言葉は彼女の気を悪くしたらしく、半目で私を見る。
「お前はお前だろ?元気いっぱいでみんなを引っ張る俺の自慢の……」
「……自慢の?」
そこで言葉が詰まってしまった。
さて、なんと言えば良いのだろうか。
仲間は皆にも言えることで、特別なものではない。付き合いのながい川内たちは否応なしに贔屓してしまうのだ。
部下……と言うと、壁が厚く感じてしまう。
「相棒……か?」
自分で言って疑問符を着けるのもどうかと思うが、これ以上に合う言葉は無さそうだ。
「…………そっか」
川内は安心したような落胆したような、読みとれない複雑な表情で笑った。
「相棒……ね」
私の台詞を反芻する川内。思うところがあるのだろう。
「相棒ってさ、誰のこと?」
238 = 1 :
「……は?」
すっとんきょうな声だと自分でもわかる。だがあげずにはいられなかった。
「いや……川内たちだが」
むしろ話の流れからしてそうなるはずだ。
「そうなんだけどさ…いやー……」
噛み合わない会話だと彼女も思っているのだろう。
苦笑いをしながら頭をかく。
そのようながさつな態度でも絵になるのはもはや才能の類いだ。
「ほら?相棒って言ったら一人のことじゃない?」
「……ふむ、なるほど」
彼女の言わんとしていることが理解できた。
「提督の言う相棒ってさ、誰のこと?」
笑っていた川内の口角が下がる。
何故か寒気を感じた。
「あれだよね?神通や那珂も含めて相棒って言ったんでしょ。相棒ってのは普通唯一無二の存在だよ?」
「あ…あぁ」
「相棒って、誰のこと?」
怖い。
彼女をそう感じたのは初めてだ。
別に怒っているのでは無い……と思う。
般若というよりも、どちらかと言えば能面のような。そんなゾッとする何かがあった。
「……そこまで深い意味で言ったわけでは無いのだが」
言葉を濁して打ち切ろうと試みる。
何故かいい予感がしない。
「私気になるな。順番を付けようとしたら誰が一番になるの?」
川内は逃がすまいと追撃を仕掛ける。
「…………ねー提督ー」
「せ、川内だ!」
239 = 1 :
柄にもなく反射的に大声で答えてしまった。
「……ほんと?」
「いや……あぁ」
嘘も方便。この場をやり過ごすにはこのまま貫き通すのが最善策に思える。
「ふーん……」
意味ありげに私をなめるように見る川内。
先ほどの答えの真偽を確かめようとしているのだろう。
「……先程も言ったが、特に深い意味は無い」
予防線を張るも脇目も振らず凝視をやめない。
「……まぁ、いっか」
川内がそっぽを向いたことで空気がどっと軽くなる。
私の体内を脱力感が駆け巡った。
「提督は嘘なんかつかないだろうし」
「……そうかもな」
「あー、神通たちに聞かせたかったなぁ」
欠伸と同時に声をあげる。
いつもよりは小さいので怒られることも無いだろう。
「……そ、それほど…自慢したいのか?」
小さく深呼吸して息を整えた私は何とか会話を続けようと焦りの色をひたかくす。
「ん……まぁね。とにかく、提督は今の私が好きってことだよね?」
240 = 1 :
「好きって…まぁ。女の子があんまりそういうこと言うべきではないが」
「そっか……んへへ」
川内は照れくさそうにはにかむ。
十分少女らしい笑顔だった。
「……そろそろ私も寝ようかな」
「ん?……あぁ、おやすみ」
結局何がしたかったのか意図をつかめないまま川内は廊下に出た。
「あっ、そうだ」
扉を閉めきる前に川内が顔を覗かせる。
「提督、今日の私がなんで静かなのか教えてあげようか?」
「ん…?」
「今日は聞かせる必要が無いからだよ」
謎の言葉を残して彼女は出ていった。
静まり返った執務室。おそらくこの部屋以外は消灯しているのだろう。
「…………寝るか」
時計を確認して、私も就寝することにしたのだった。
241 = 1 :
今回はここまでで
書き溜めができたら戻ってきます
あと秋刀魚下さい
242 :
乙乙
待ってた
244 :
乙、>>224モバマスはヤンデレssが多い気がす
245 :
何しやがった川内
246 :
>>245川内はいい子なのでなにもしてません(嘘)
お久しぶりです
誰だよ秋までかかるとか言ったやつ。もうすぐ冬じゃん(震え声)
以下投下
247 = 1 :
「……ん?」
けたたましいノックの音。否が応でも起こされる。
「……誰だ」
「提督!?大丈夫ですか!?」
返ってきたのは真剣な声。恐らく神通だ。
「開けてください!!お願いします!!」
本気でぐっすり寝たいと思った私は珍しく鍵をかけて寝たのだが、それが仇となったようだ。
若干デジャヴを感じる状況に溜め息をつきながら、布団から体を起こして目を擦る。
ちらりと見えた時計は、4時を指していた。
「静かにしろ。今開ける」
「提督!?早く開けてください!!」
聞こえなかったのかノックは止まない。
それどころか神通の声はヒステリックなそれになりつつあった。
「おい……」
いくら私でもこれは叱ってやろう。
そう思って扉を開けると、目を真っ赤にした神通が胸に飛び込んできた。
「大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」
「あ……あぁ、なんともない」
必死な形相に私は面食らって、喉まできていた文句を飲み込んでしまった。
「よかった……」
本当に安心したのだろう。緊張がとけた神通は大きく息を吐いて顔を私の胸に埋めた。
「…………どうしたんだ?」
駆逐艦あたりなら怖い夢を見た等で片付くだろうが、あのしっかり者の神通だ。
「……姉さんが何かしたのではないかと思いまして」
248 = 1 :
「…………川内が?」
川内で何故あれほど取り乱していたのか不思議に思ったが、神通はこくりと頷いた。
「……起きたら、こんな時間で。提督を守れなかったのかと怖くなって……」
「……そうか」
適当に相づちを打ったが意味がまったく分からない。
つまり、川内が私に何かしたと勘違いして心配になった。そういうことだろうか。
「…すまない神通。要領を得られないんだが」
川内の何に怯えていたのか。そして川内をどう思っているのか。
私たちの間には、なにかすれ違いがあるようにかんじた。
「……提督は知らなくても良いことです。私が何とかします」
気づけば震えも涙も止まり、いつもの……いや、それ以上に落ち着き払う神通がいた。
「これは私たちの問題です。提督は介入しないで下さい」
「いや、しかし……」
いくらなんでも虫がよすぎる。彼女たちの間になにか因縁紛いのものがあることを知っていて、それを見逃すことはできようか。
「お願いします」
どうしようかと考えていたとき、彼女と視線がぶつかった。
深淵を思わせる瞳。何故か私は身震いした。
「……皆の迷惑にならんよう、いざとなったら私に頼りなさい」
悩んだ末に、私は見逃すことにした。
彼女たちも子供ではない。物事の良し悪しはわかっているはずだ。
「はい、提督の迷惑にならないようすぐにします」
彼女の目には冷たい怒りが宿っているように見えた。
249 = 1 :
しかし……あまりの衝撃にすっかり目は覚めてしまった。二度寝しても目覚めを悪くするだけだ。
しかも喜ばしいことに仕事が無い。
はっきり言って暇だった。
「……提督」
何をしようかと考えていたところ、恐る恐る神通が口を開いた。
「よろしければ、朝の散歩などご一緒にいかがですか?」
「……散歩か」
正直外は暗いが、じきに日が昇るだろう。それを拝むのも悪くない。
「よし、行くか。先に玄関に行っておいてくれ」
「はい」
短い返事をして神通は部屋から出ていった。
それを見送った私は押し入れを開けて服を見繕いはじめる。
滅多に着ないので、目当てのジャージは奥深くに眠っていた。
「……さて」
出して寝巻きから素早く着替えると、そのまま扉の方を向いた。
別に大したことはない。廊下へ出るなら自然な体運びだ。
「………………」
しかし、私の体は向いただけで固まってしまった。
扉の隙間からこちらを覗く目と目があったからだ。
血走っている訳でも白目を向いていたわけでもなく、ただ観察するような凝視。
一挙一動を見逃すまいと言いたげな眼力があった。
数秒……もしかしたら数十秒は思考が停止していたかもしれない。
私は首を伝う冷や汗で意識を取り戻した。
「……神通か?」
虚勢を張るように低めの声で尋ねる。
震えていたのが自分でもわかった。
だが、声をかけると扉の向こうにいた者は何処かへ行ってしまった。
250 = 1 :
「……なんだったんだ」
私は先程とは違った理由で困惑した。
元来幽霊など信じない質だが、流石に今のは胆が冷えた。
見えていたのは片目だけだったが、狂気を孕んでいることは十分伝わってきた。
「……提督?」
神通の声に私は我にかえった。
「朝日、昇っちゃましたよ」
気がつくと、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。
「……いや、なんでもない」
寝不足の脳の幻覚だと思い直し、私は玄関へ急いだ。
「では…………」
外へ出るとすぐ海が見える。
神通は散歩という名目をすぐさま忘れ、その雄大な景色を見入った。
「……綺麗ですね」
「……そうだな」
海岸を臨む神通は楽しそうに呟いた。
私もそれに同調する。
しかし、私の頭には先程の目のことでいっぱいだった。
勿論あれは見間違いであって、幻に他ならないという結論に至った。
だが、別の違和感が生まれていたのだ。
「……どうかしました?つまらないですか?」
私の異変に気づいたのか、神通は心配そうに顔を覗かせる。
「……いや、私も少し考え事をな」
こんな下らないことを言えるはずもなく、私ははぐらかして水平線を見た。
「……無理は止めてくださいね。いざとなれば私がついていますから」
神通は半歩私に近づくと、こちらを向いて微笑みながらそう言った。
「……ありがとう」
笑いかけると彼女は視線を再び水平線へうつす。
私は、あの目に既視感を感じていたのだ。
みんなの評価 : ☆
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