元スレ朝潮「制裁」
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301 = 297 :
朝潮を眺めながら、提督がぼそりと言う。
提督 「昨日のタ級とやはり違ったか」
朝潮 「やはりですか?今戦ったのも同じ戦艦タ級フラグシップでしたよね?」
提督 「ぱっと見は同じだ」
提督 「しかし、同じ戦艦タ級フラグシップでも違う」
朝潮 「確かに強さが違いましたけど」
煙の中から荒潮を打ち抜いた凄みが一戦目のタ級にはなかった。
提督 「便宜上わけているが同じ戦艦タ級フラグシップでもピンキリだ」
提督 「艦娘と同じだよ」
朝潮 「そんなに違いますか」
提督 「あぁ、違う」
提督 「同じ艦娘でも練度で強さが違うのと同じだ」
朝潮 「提督は・・・次にあのタ級が来たらわかる自信がおありですか?」
提督 「ある」
朝潮 「発光が違うからですか」
提督 「それもある」
提督 「朝潮は深海棲艦が強力になるほど人間に近くなるという話は聞いたことがあるか」
朝潮 「あります」
朝潮 「強くなるほど武装を外部化して人型に近付くと」
提督 「そうだ」
提督 「鬼や姫と言われる強力な深海棲艦の外見は化け物というより艦娘に近いとさえ言われる」
提督 「ただ、それだけじゃない」
朝潮 「?」
302 = 297 :
提督 「本部からの命令で所属鎮守府合同で作戦に当たるよう言われることがままある」
提督 「おれはその時、鬼や姫に何度か会ってる」
提督 「人語を解して喋るぞ、奴らは」
朝潮 「本当ですか?」
提督 「軍事機密だ、緘口令が出てる」
朝潮 「知性が・・・」
提督 「そうだ、鬼や姫以外の深海棲艦も強力な個体ほど高い知性を持っている」
提督 「昨日の戦艦タ級フラグシップもその一種だろうな」
劣勢と見るや仲間を盾にやり過ごすことを画策し、艦隊の油断を確認し反転攻勢に出る。
近付く艦娘をただただ攻撃する一般的な深海棲艦とは一線を画していた。
それは朝潮でもわかった。
提督 「高い知性といっても昨日みたいな気紛れな奴だけじゃない」
提督 「旗艦、練度の低い艦娘、損傷が激しい艦娘を優先的に狙って足止めを図る奴もいるし」
提督 「千差万別だ」
朝潮 「しかし、知性は見てもわかりませんよね?」
提督 「お前は中破してたからわからなかっただろうな」
朝潮 「あの時タ級が何か?」
提督 「お前と荒潮を大破させたとき・・・あのタ級は笑ってたんだよ」
提督 「感情があるんだ、知性と一緒にな」ニヤ
朝潮 「」ブルッ
303 = 297 :
朝潮 「・・・」
提督 「このままあいつが現れないといいが」
朝潮 「他の鎮守府に倒された可能性はないんでしょうか?」
提督 「この海域は小中破から轟沈させる深海棲艦がいるからな」
提督 「怖がって他の鎮守府から来るのはいない」
朝潮 「そうなんですか」
提督 「だからこそ戦果も優遇されているし狩り放題で助かる面もあるがな」
朝潮が艦隊全員を確認し終えた時、指揮作戦艇前方に加賀から通信のあったコアが波間に見えた。
深海棲艦の武器部分から発生するコアは艤装や武装の開発資材となる貴重な資源だ。
提督 「ゆっくり積んでいい」
朝潮 「次の敵艦隊がすぐ来るのでは?」
提督 「運がいい、上手く敵艦隊群の防衛ラインを一つ抜けた」
朝潮 「?」
提督 「ボス艦隊まで一回分戦闘を回避できたと言えば、わかるか」
朝潮 「三戦の見通しで一戦回避できたから・・・ボス艦隊まで後一戦ということでしょうか?」
提督 「正解だ」
朝潮 「みんなに伝えます」
提督 「この悪天候も捨てたものじゃないな」
提督 「深海棲艦の索敵能力が落ちるのも仕方ない」
朝潮 「加賀さんから了解という通信とともに進路上に深海棲艦が投棄したと見られる資源が流れていると」
提督 「無理のない程度に積み込め」
こういう時も旗艦に休みはない。
前衛の加賀と荒潮はそれぞれ対空・対潜の警戒。
ビスマルクとプリンツが通信を私事で使っている。
内容はドイツ語でわからない。
旗艦の後方にいる羽黒は朝潮が取りこぼした投棄資材のドラム缶をおろおろ避けていた。
波のせいで投棄資材の多くは回収できなかった。
それでも止まれば敵の艦隊が殺到する可能性もある。
損傷の確認と同様に投棄資材の回収に時間をかけることはできなかった。
304 = 297 :
朝潮 「司令官!加賀さんからボス艦隊前の最終防衛ラインの敵艦隊が接近と」
提督 「こちらもレーダーで捉えた」
提督 「軽空母3に軽巡1と駆逐2か、こちらの航空戦力を削ぐ気だな」
提督 「加賀に航空戦に集中させるため、荒潮は加賀の護衛に注力させろ」
朝潮 「了解です」
加賀 (敵の軽空母ヌ級エリートの制空能力は空母ヲ級フラグシップ並み、妥当な判断)
加賀 (けど・・・)
加賀 「荒潮、対潜装備以外はないのだから無理は禁物よ」
荒潮 「装備がなくても艤装で頑張ります、大丈夫ですよ」
複縦陣で加賀と並ぶ荒潮が微笑む、能面のように白い顔で。
加賀 「朝潮の旗艦出撃を成功で終らせたいとか考えているの?」
荒潮 「いえ・・・轟沈がないように、それだけです」
加賀 「でしょうね」
加賀 「そのまま生きることだけを考えなさい、それで集中できるなら」
加賀 「でないと死ねわよ」
荒潮 「はい」
言葉と目に力はない。
近い艦の同調状態がわかる加賀には荒潮がどうしようもなく不安定に感じられた。
ただ、加賀ほどの艦娘でも戦闘中に他艦に気をかけられるような生ぬるい海域ではなかった。
305 = 297 :
先に仕掛けたのは深海棲艦だ。
敵軽空母3隻から艦載機が放出されいなごの群れのように無軌道に散開した。
加賀も弓を引く。
何時見ても綺麗だと朝潮は思う。
パラパラ機銃の音がするかと思うと空中のそこかしこで火を噴き花火のように戦闘機が炸裂した。
加賀のように強い艦娘になりたい朝潮は加賀に似たニーソックスをどこか誇らしげにはいていた。
朝潮は今日なかった加賀の特訓を思いつつ加賀の姿に自分を重ねていた。
敵艦載機の圧倒的物量に加賀もとりこぼす。
朝潮は近付く敵艦載機に対空砲火を浴びせつつ、
指揮作戦艇から離れない範囲で敵を引き寄せて回避をする。
荒潮も同様に加賀を守るように動く。
何度も練習した動きだ。
提督 「そろそろ砲撃の射程距離だ」
提督 「加賀には悪いがセオリー通り軽空母の護衛役軽巡以下から砲撃するよう伝えろ」
朝潮 「了解」
軽空母を護衛する深海棲艦三隻は軽巡以下とは言え手強かった。
軽巡洋艦ホ級フラグシップ一隻と駆逐艦ロ級フラグシップ二隻で、全艦がフラグシップだからだ。
一戦目で風や波の影響を覚えた戦艦と重巡の攻撃が操艦で避けられた。
306 = 297 :
提督 「優秀な深海棲艦だな、護衛艦としての役をしっかり果たしてる」
朝潮 「どうします?」
提督 「このまま同じ目標に砲撃を続けさせろ」
朝潮 「はい・・・」
風や波の影響を受けやすく一向に当たらない砲撃に比べ、
近距離から投下され当たりやすい艦載機の攻撃はこの悪天候で脅威だ。
加賀がどうしてもとりこぼす敵艦載機が少しずつ味方艦隊にダメージを与えつつあった。
朝潮 「司令官!!ビスマルクと羽黒が敵艦載機から被弾!!」
提督 「見えている、小破ごときで慌てるなと言っておけ」
味方の砲撃で発生する水柱から海水を浴びた深海棲艦は黒勝ちな体を更に妖しく光らせた。
敵艦隊が味方艦隊に肉薄しつつあった。
朝潮 「雷撃は?」
提督 「まだだ!!」
提督 「これなら少しは当たるだろ」
提督 「目標を敵軽空母に変更して可能全艦に砲撃させろ」
朝潮 「え?」
護衛役の残った状態から、敵軽空母を攻撃しても庇っていなされるのがわかっていた。
提督 「速くしろ!!!」
朝潮 「はい!」
307 = 297 :
通信をするとビスマルクの大口径主砲が重低音を鳴らし回頭する。
空気を振動させて主砲が発射され、うるさい風の音が一瞬止んだ。
続いてプリンツ・羽黒による軽空母への面攻撃が行われた。
近付いたお陰で精度が上った砲撃が集中し何本も水柱が上り軽い霧が発生する。
霧が晴れてくると大破した深海棲艦の姿があらわになる。
その姿は軽空母ではなかった。
朝潮 「なんで・・・」
大破して炎上するのは軽巡洋艦ホ級だ。
提督 「あのタ級のようなのもいれば、こういうのもいる」
提督 「人間と同じだ、知性や感情があるということは個性が生まれるということだ」
提督は敵の誰かが庇いに来るとわかっていてやったのだ。
炎上する軽巡洋艦ホ級は、仲間の軽空母に対する攻撃の殆どを庇って被弾していた。
その操艦技術に驚くとともに朝潮は後味の悪さを感じた。
提督 「ぼやぼやするな。お望みの雷撃だ」
朝潮 「了解しました」
308 = 297 :
瞬間、駆逐艦ロ級フラグシップ二隻が不気味な叫びを上げた。
仲間を失った慟哭か。
悲しい響きのする叫びは朝潮に向けて放たれたかのような圧力を朝潮に感じさせた。
朝潮は知らない。これが悪意や害意を越えた殺意であるということを。
朝潮 「各員、雷撃を」
通信が終るか終らないかで深海棲艦から雷撃が放たれる。
全雷撃の目標は朝潮だ。
朝潮 「司令官、数本命中コース!!!」
提督 「な?!」
朝潮 「対ショック体勢!!!司令官!掴まってっ!!!」
波間に雷跡が見える。
旗艦は避けられない。指揮作戦艇を守らねばならなかった。
他の艦は雷撃の準備中だ。
―――――
―――
309 = 297 :
魚雷のコースに走りこむ影が見え朝潮の手前で魚雷が爆発した。
一緒に放たれた魚雷が誘爆し爆発が続き、林立する水柱で壁ができる。
最後に魚雷に割って入った影自身が少し遅れて爆発し視界の水しぶきを吹き飛ばした。
影は荒潮であった。
朝潮 「大丈夫?!」
荒潮 「ハァハァハァ」
提督 「狼狽えるな!!雷撃の準備中に庇ったから装填中の魚雷が誘爆しただけだろ」
荒潮 「そうよ・・・大丈夫・・大丈夫」
荒潮の制服は見紛うことなく中破であることを示している。
ただ、限りなく大破よりの中破だ。
制服に血がにじむ。
提督 「荒潮、加賀だけでなく旗艦の護衛までやるとは大したもんだ」
提督 「すぐボス艦隊と接触する、陣形の持ち場にもどれ」
朝潮 「な?!進撃するお積もりですか?」
提督 「中破ごときで騒ぐな、朝潮」
朝潮 「司令官!!」
提督 「黙れ」
提督 「昨日の約束に今日の進退は含まれてない」
荒潮 「約束?」
朝潮 「司令官!!!!」
朝潮は荒潮から視線を感じつつ提督をにらみつけた。
310 = 297 :
提督 「おぉ、こわいなぁ」ニヤ
提督 「荒潮は知らなかったのか」
提督 「朝潮のお陰でお前は明日旗艦で出撃したら第一艦隊から
朝潮 「荒潮!!!持ち場にもどって!!!!」
提督 「そうだ、それでいい」ニヤニヤ
荒潮 「う、うん」
朝潮は震えた。
同時にタ級へ感じた恐怖、それに対する既視感の原因がわかった。
朝潮 (この司令官がばらまく悪意に対する恐怖と同じなんだ)
ただ、戦艦タ級フラグシップには抵抗も砲撃も雷撃もできた。
抵抗の出来ない安全圏から悪意を振るう提督は何なのか。
提督 「おい、ぼやっとするな。速く損傷の確認をしろ」
朝潮 「はっはい」
持ち場へもどる荒潮の後ろ姿が見える。
足は海面に少し沈みよろけながら進んでいた。
311 = 297 :
朝潮 「ビスマルク・プリンツオイゲン・加賀が小破、羽黒と荒潮が・・・中破、でしょうか」
提督 「正解だ」
提督 「加賀が小破とは珍しいな」
朝潮 「荒潮がこちらの護衛に回りましたから」
提督 「それでか」
朝潮 「コアは発見できなかったようです」
提督 「どちらにしても残存兵力が多い中コアの回収は危険だからやらん」
朝潮 「司令官」
提督 「何だ?」
朝潮 「昨日のことは荒潮に言わないでもらえますか」
提督 「お願いか?」ニヤ
朝潮 「っ・・・」
提督 「お、ボス艦隊のお出ましだ」
朝潮 「加賀さんが艦隊のみんなにもう伝えてます」
提督 「そうか」
提督 「総員戦闘準備、陣形は複縦陣のまま」
朝潮 「了解しました」
天候は荒れたままだ。
彼方に深海棲艦の黄色い光が朧に見え始めた。
手前には波に手を付きながら進む荒潮がいるが今敵を見据える朝潮には見えていない。
―――――
―――
312 = 297 :
本日投下分終了です。
ご読了ありがとうございます。
313 = 1 :
>>278 様
お米ありがとうございます。
アニメ続編ですってね。
お陰様で古参の吹雪改二を解体したい衝動に駆られて困ってしまいます。
>>279 様
お米ありがとうございます。
いちゃらぶを書きたいのに、こういう話になってしまいました。
お詫び申し上げます。
>>280 様
お米ありがとうございます。
廃れましたね。轟沈ありますとB勝利以下ですからね。
捨て艦がいる艦隊で轟沈してB勝利は厳しいので当然の趨勢。
ただ、廃な人ほど勝利数が多いので多少の敗北は痛くもかゆくもなくないものです。
>>281 様
お米ありがとうございます。
仲間の轟沈を見て士気の上る・・・
轟沈があると見えない鯖での処理でペナルティあると面白そうですよね。
危険鎮守府として艦娘が着任したがらずドロップ率低下とか。
士気が下がって命中などが落ちるとか
>>282 様
お米ありがとうございます。
脱がした女性がユニクロとかの安い下着つけてると萎えますよね。
>>283 様
お米ありがとうございます。
最終的に音楽を楽しむのって肌で感じるために裸で聞くに行き着くと思うんですよね。
>>284 様
お米ありがとうございます。
もろ描写あります。ご期待ください。
>>285 様
お米ありがとうございます。
お待たせし申し訳ありません。
>>289 様
お米ありがとうございます。
嬉しいお言葉です。もう忘れられてるかと思っていました。
326 :
>>314 様
お米ありがとうございます。
前米が前回投下前に米する予定のものでして、
モロ描写は前回投下の朝潮母のモツを指しています。
>>315 様
お米ありがとうございます。
禁断症状の対処法としてかわいい朝潮のssを書くという方法を当院はおすすめしています。
>>316 様
お米ありがとうございます。
力みなくして解放のカタルシスはありえねぇ・・・
>>317 >>320 様 >>322 様
お米ありがとうございます。
この朝潮がどうなるかはお楽しみに以上のことを今は言えません。
話の本筋は前述の通り米しません。
ストーリーものということで先のことを話すとつまらなくなるためです。仕方ないね。
そのため、地の文多用・SS初心者等の注意書きもできず、
不快に思われる方にはただただ申し訳ないと思っています。
>>318 様
お米ありがとうございます。
朝潮の乳輪は小さめで色素は薄いでしょうけど
どす黒くでかい乳輪というのもギャップがあっていいかもですね。
>>319 様
お米ありがとうございます。
個人的には娘に欲しい。
>>321 様
お米ありがとうございます。
おれも荒潮にあらあらされたい。
>>323 様
お米ありがとうございます。
真面目勢はおとしてもよし、めでてもよし、さげすまれてもよし、隙がない。
>>324 様
お米ありがとうございます。
お体心配です。大事になさって。
>>325 様
お米ありがとうございます。
ほもはせっかち。
327 = 1 :
投下再開します
328 = 1 :
投下再開します
329 = 1 :
文中の陣形と配置
複縦陣
進行方向↑
加賀 荒潮
ビス 朝潮
プリ 羽黒
330 = 1 :
荒潮が体を引き摺るように加賀に近付く。
加賀 「よく旗艦を守ったわね、お手柄よ」
荒潮 「・・・」
加賀 「荒潮、聞いているの?」
荒潮 「え?」
加賀 「ここは私の持ち場であなたの持ち場じゃないわよ」
荒潮 「あら・・・」キョロキョロ
荒潮 「すいません」
加賀 「戦闘中じゃないからって気を抜きすぎ」
加賀 「手柄を上げた後は油断しやすいのだから気をつけなさい」
荒潮 「・・・はい」
加賀 「いいわ、早く自分の持ち場に行きなさい」
荒潮 「・・・」
加賀 「危ないと思ったら私の後ろに来なさい」
荒潮 「?」
加賀 「足手まといに前でちょろちょろされると集中できないの」
荒潮 「・・・大丈夫です、中破ですから」
加賀 「この海域での中破は轟沈しない保証にはならないのよ」
荒潮 「大丈夫です」
加賀 「?」
331 = 1 :
か細い声はうるさい風の音に半ばかき消され霞む。
荒潮のボロボロの制服は所々が赤く滲んでいる。
加賀 (艤装による治癒力が落ちてる?)
足は時々ひざ下まで沈み足元はおぼつかない。
腕に装着した艤装の重さが辛いのか腕は垂れ気味だ。
ぼろぼろの制服から晒された皮膚は血と爆煙に塗れ浅黒く汚れている。
荒潮はそのまま何事もないかのように加賀の横を通り持ち場へ向かった。
加賀 (まるで・・・)
大破進軍すると轟沈する。
それは大破した戦闘において艦娘は轟沈しないという意味でもある。
大破した艦娘は、その戦闘中だけはいくら攻撃を受けてもゾンビのように立ち上がることができた。
理由は大破してから時間がある程度経たないと轟沈しないから等言われているが正確なことはわかっていない。
―――――
―――
332 :
ずっとずっと待ってたんだ
良かったよ来てくれて
333 = 1 :
指揮作戦艇と平行して進む朝潮へ欄干にもたれた提督が指示を出す。
提督 「荒潮に加賀を死んでも護衛しろと伝えろ」
朝潮 「中破とは言えふらふらですし難しいのではないでしょうか?」
提督 「ほぅ・・・なら朝潮は荒潮がどう動くべきと考える?」
朝潮 「定跡通り対潜対空戦闘で艦隊全体を守るべきです」
提督 「理由は?」
朝潮 (守れと言われれば・・・)
先ほど荒潮は自分の命を差し出して旗艦の朝潮を守った。
その時、荒潮に後悔の表情はなかった。
朝潮は荒潮が第一艦隊から外れたい理由が少し理解できた気がした。
この荒潮の強すぎる責任感が、この危険な海域でいずれ確実にわが身を滅ぼすとわかっていたのだと思う。
朝潮 (言ってもわからない)
朝潮 「二点・・・あります」
朝潮 「一点目、大破よりの中破で荒潮には庇うような動きが難しいと思いました」
朝潮 「それと航空戦力だけでなく砲撃戦力も守ることで火力の底上げができると思いました」
提督 「教科書通りの回答か」
提督 「一般的な戦場を想定した一番失敗しない戦法だ」
提督 「そして、現実から一番遠い」
提督 「折角だから講義してやる」
提督 「今考えられる最悪なパターンは何だ?」
朝潮 「相手の攻撃で損傷がかさみ艦隊火力が落ちることでは?」
提督 「ここは教科書にある戦場とは違う」
提督 「ここにおいての正解は、加賀が中破して武器の弓矢が破損、航空攻撃ができなくなることだ」
朝潮 「加賀の航空攻撃はそこまで重要でしょうか」
朝潮 「ビスマルクや重巡たちだって砲撃ができますし・・・」
朝潮は彼女達に目を走らせる。
悠々と強力な艤装に包まれた彼女達が荒れた海面を進む。
その勇壮さは小中破の損傷を感じさせない。
334 = 1 :
提督 「今日、航空攻撃以外の攻撃がまともに当たったか?」
朝潮 「いえ・・・しかし、弾着修正だってしています」
提督 「そんなものは一戦目からしているんだよ」
提督 「覚えておけ、実戦と言うものはなぁ現在の状況から最良の手を選ぶことを言うんだ」
朝潮 「しかし、荒潮が余り動けないのは明白です」
提督 「だからいい」
朝潮 「!?」
提督は前方を進む荒潮を見る。
提督 「敵だって弱っている荒潮には攻めっ気が出る」
提督 「加賀の近くにいるだけでいい囮になる」
朝潮 「小中破で轟沈する海域です」
朝潮 「集中して攻撃を受けるのは危険です!!!」
提督 「確かにな、だが言葉は選べ」
提督 「昨日ビクビクしてたのに艤装を付けて気が大きくなったか?あ?」
朝潮 「」ビク
提督の低い声と視線が朝潮を萎縮させる。
提督 「次口答えすれば・・・そうだな」
提督 「明日荒潮が旗艦の時に昨日の朝潮がよがる様子でも話して聞かせようか」
朝潮 「そんなこと荒潮は信じません」
信じないどころかもうばれているかもしれない。
提督 「さっきおれの発言を止めておいてよく言う」
提督 「いや、荒潮と親しいお前がそう言うなら動画も見せるか」
提督が懐からスマホを取り出しいじった。
朝潮 「っ・・・旗艦は艦隊運用に付いて司令官に意見具申できるはずです」
提督 「おっと、もう口答えか?」
提督 「お前はそんなに自分の痴態を荒潮に知って欲しいのか?」
提督 「背徳感で興奮するのか?」
朝潮 「っ・・・」
335 = 1 :
朝潮は提督が嫌いだ。
なんでこんなに酷いことをするんですか、と泣き言を吐きたい気持ちを抑え込む。
そんな言葉を吐いても俯いたり唇を噛んだり口惜しさを見せても、提督を喜ばせるだけだ。
そんな気がしていた。
朝潮は提督を真っ直ぐと見据える。
提督 「お前はおれに似ている、近いと言ってもいい」
朝潮 「私は・・・変態じゃありません」
提督 「ハッ、面白い、口答えにカウントしないでやろう」
提督 「似ているのは目的のために手段を選ばない、そういう人間性がだ」
朝潮 「私と司令官が似てる?」
提督 「そうだ、お前は荒潮を守るために倫理に囚われず選びうる最良の選択をした」
朝潮 「・・・」イラ
提督 「後悔しているのか?昨日のことを」
提督 「それは違う、お前は正しいことをした」
朝潮 「正しい?何を・・・」
提督 「荒潮を救いたかったんだろ?」
朝潮 「手段が正しいかの答えにはなりません」
提督 「本当に間違いと思うなら何で拒否しなかった?」
朝潮 (誘導したくせに・・・)
提督 「責める訳じゃない、寧ろ褒めている」
提督 「誰にもできることじゃない」
提督 「おれもお前のように正しい目的のために手段は選ばない」
朝潮 「正しい?荒潮だけを、一人の少女を危険に晒すことを正当化できる目的があるんですか」
提督 「そうだ、国と国民を守るという崇高な目的のために必要な手段だと言っている」
提督は気味の悪い笑顔を浮かべている。
336 = 1 :
朝潮 「私はあなたを軽蔑します」
朝潮 「何であなたみたいな人間が司令官に・・・」
提督 「軽蔑する相手を間違っているぞ」
提督 「お前の憧れる他の鎮守府や提督がおれより優れてるとでも思っているのか」
朝潮 「?」
提督 「自由な意見を言い合い、弱い艦や損傷した艦をいたわる、挙句始まる友達ごっこ、恋人ごっこ」
提督 「これが朝潮、お前が幻想を抱く一般的な鎮守府の提督と艦娘だ」
提督 「上からお咎めがない戦果だけ稼げばいい、過度な出撃は艦娘に嫌われる」
提督 「殆どの提督がそういう倫理に縛られたまま、中級提督という海に溺れて沈む」
提督 「それで海は安全になるのか?」
提督 「何時かは深海棲艦も絶滅するだろう」
提督 「誰かが鬼を姫を倒してくれるだろう」
提督 「逃げ道という鎮痛剤で責任を誤魔化し麻痺した感覚で合同作戦で醜態を晒す」
朝潮 「それは一般的な鎮守府の話ですよね?」
提督 「上級の鎮守府も変わらん・・・いや、もっと酷い」
提督 「資源のかからない潜水艦で深海棲艦に威嚇射撃を繰り返し・・・」
提督 「かすり傷を付けたことをさも一方的に攻撃を加えたかのように報告書に喧伝し戦果を稼ぐ」
朝潮 「信じられません・・・そんなこと・・・」
提督 「ハハッ、脳内お花畑か、余り失望させてくれるなよ」
提督 「ニュースで、訓練学校の空気で、鎮守府への見学で 、選考試験で」
提督 「少なからず感じていた筈だ、お前なら、弛緩した空気を」
提督 「誰も深海棲艦の駆逐なんて考えちゃいないんだよ」
提督 「上からも下からも評価が良く、欲を言えば執務椅子の座り心地も良ければそれでいい」
提督 「それが今の鎮守府と提督だ」
脳天を殴られたような感覚がする。
戦闘の興奮で忘れていた頭痛がもどってきた。
風と波の音がうるさい。
337 = 1 :
朝潮 「それと・・・私が司令官に似ていることに関係がありますか?」
提督 「大破艦はおとりに使う、上下関係をはっきりさせる、奇策妙策を迷いを持たせず実行させる」
提督 「能力の低い艦は使わない、轟沈があっても厳しい戦闘の見込まれる海域であろうと出撃を減らさない」
提督 「全部だ、全部深海棲艦を皆殺しにして国を、国民を守るためだ」
提督 「おれが間違っているか?」
朝潮 「っ・・・」
正しいはずの大義名分が提督の手が触れるだけで汚いものに思えた。
それでも言っていることはどこか正しく、朝潮にどす黒い感情が鬱積してゆく。
提督 「荒潮への指示を速くしろ」
朝潮 「・・・わかりました」
提督 「安心しろ、荒潮は沈まない」
朝潮 「何でですか?」
提督はそれ以上何も言わない。
大人の男である提督の手にさえ余る大きい軍用双眼鏡で敵艦隊を眺めている。
荒潮に通信を行う。
朝潮 「荒潮」
荒潮 「・・・」
朝潮 「荒潮!」
荒潮 「なに~?」
朝潮 「司令官が対潜対空戦闘を捨てて加賀さんを護衛するようにと」
荒潮 「了解~」
朝潮 「気を付けて」
荒潮 「・・・」
朝潮 「荒潮?」
荒潮 「大丈夫よ、ふふ」
波しぶきに洗われる衣服は荒潮の出血を隠してしまっていた。
朝潮は荒潮の異常に気付かない。
提督 「加賀は目標を問わず積極的に航空攻撃を狙うように」
提督 「砲戦はセオリー通り護衛重巡以下から撃破、その後は旗艦を狙わせろ」
提督 「後、戦艦と重巡たちにはいい加減仕事しろと言っておけ」
朝潮 「了解しました」
荒潮の異常より朝潮に今明確だったのは既に反転撤退する余裕がないということだった。
敵はもう目前に迫っている。
朝潮の頭痛はいつのまにか消えかけている。
雑念を振り払い集中力を高めた朝潮には加賀の弓を引く音が聞こえるような気がした。
―――――
―――
338 = 1 :
提督 「敵艦隊は輪形陣で旗艦が空母ヲ級フラグシップ」
提督 「残りは、戦艦タ級フラグシップ1・重巡1・軽巡1・駆逐2」
朝潮 「司令官、敵の艦隊にいるタ級は・・・あのタ級でしょうか」
提督 「だからなんだ?作戦に変更はない」
提督 「お前は、いや・・・艦隊全員が旗艦を潰すことだけを考えればいい」
朝潮 「B勝利では駄目なのですか?」
提督 「くどい」
提督 「潜水艦で水遊びして喜ぶカスどもと一緒になれというのか?」
朝潮 「いえ・・・」
提督 「一番海域の安全に繋がるのは旗艦の撃破だ、おれはそれしか狙わない」
戦闘に入れば、提督の悪意は全て深海棲艦に向けられる。
そのせいか否か戦闘に近付き益々落ち着いてくる自分を朝潮は感じる。
朝潮 「加賀が航空戦を開始」
パラパラと音がして、最初に戦闘機同士の制空権争いが始まる。
ヲ級の周囲から湧き上がった奇形の戦闘機が加賀の戦闘機に襲い掛かる。
エンジン音の独特な音が空中戦の熾烈さを表わすかのようにめまぐるしく変化する。
三次元で狂ったような軌道を描き加減速を繰り返す戦闘機たちを加賀は冷静に操る。
艤装の能力をただ爆発させる戦艦と違い空母系は繊細な同調や能力の使用が求められた。
339 = 1 :
やがて双方に被弾し墜落する戦闘機が出る。
墜落する戦闘機は不整脈を起こしたかのようにエンジン音を乱し
火と黒煙を吹き落下し空中もしくは海面で炸裂してゆく。
戦闘機による空中戦の間隙を狙い双方の攻撃機・爆撃機が飛び交う。
それを狙い、おとりにし、空母同士の駆け引きは戦闘中絶え間なく続く。
その中で加賀が撃墜した敵爆撃機が空中に大輪の花を咲かせた。
大きさに息を呑む。
その大きさは二戦目の敵軽空母が放った爆撃機のそれと比べ物にならない。
ただ、二戦目の敵軽空母3隻から放たれた戦闘機より数が減ったそれを加賀は何とか抑えていた。
対空戦闘を準備している陣形先頭の荒潮の元にさえ空母ヲ級の刃は届いていない。
そんな中、制空権争いの激しい空域を加賀の爆撃機数機が抜け、敵駆逐艦直上を掠める。
直後、その敵駆逐艦が炸裂し損傷から火を噴き連続した爆発音と叫びを上げつつ沈んだ。
朝潮 「敵輪形陣六時駆逐艦一、撃沈 」
提督 「艦隊最後尾の進路が予測しやすい艦から潰したか」
朝潮 「何か問題でも?」
提督 「いつもの加賀なら陣形の先頭から叩く」
提督 「陣形の先頭を叩けば敵も動揺するし、陣形の進路が制限されて追撃もし易い」
提督 「この鎮守府必勝のパターンだ」
朝潮 「それだけ航空戦が厳しいということでは」
提督 「そうだな・・・」
340 = 1 :
朝潮 「続いて砲撃始めます」
提督 「全艦に通信、敵艦隊とすれ違いから減速して急旋回、艦隊の進路を敵艦隊のけつに向けろ、と」
朝潮 「撃沈した敵駆逐艦の隙を狙うんですね」
提督 「それもある」
朝潮 「?」
提督 「ケツについたら航速を上げ出来る限り接近させる」
提督 「胸ぐらを掴み合って殴りあいだ」
朝潮 「え?」
艦娘には実際の艦と違う点がいくつかある。
その一つが、具現化や艤装による攻撃は全方向への全力の砲撃を可能としたという点だ。
現実の艦の欠点である方向により稼動できる砲が増減し攻撃力が変わるという問題がない。
ただ、それは深海棲艦も同じだった。
つまり、実際の海戦のように横合いや背後から殴りつければ、一方が有利不利ということがない。
一方が最大火力で攻撃を加えられる位置にいる時、相手もまた同様な状態にあった。
朝潮 「荒潮が護衛に失敗すれば同じく陣形先頭の加賀が危険です」
朝潮 「司令官が重視している加賀の航空攻撃ができなくなる可能性が高くなります」
朝潮の艦隊は複縦陣を取っており、
一列目が加賀・荒潮、二列目がビスマルク・朝潮、三列目がプリンツ・羽黒の二列縦隊となっている。
既に戦闘が始まり陣形の変更が出来ない今、
過度な接近が一列目の加賀と荒潮の二人を危険に晒すことは火を見るより明らかであった。
341 = 1 :
提督を値踏みするような目で朝潮の目を覗く。
提督 「本音は荒潮の心配か」
提督 「お前の言ったとおり加賀が苦戦してる」
提督 「原因までわからなかったようだな」
朝潮 「制空権は取ることができているのに加賀が本来の動きをしていないように見えました」
提督 「殆ど正解だ、加賀の艦攻艦爆が攻撃態勢に入るのを敵戦闘機がうまく邪魔している」
提督 「二戦目に加賀の艦載機を減らしすぎたか・・・」
提督 「このまま加賀に頼るとジリ貧になる可能性さえある」
朝潮 「だから砲雷撃ですか」
提督 「そうだ」
提督 「さて、砲雷撃を当てるにはどうすればいい?」
朝潮 「それで接近ですね」
朝潮 「しかし、加賀が被弾して航空攻撃ができなくなってもいいのですか?」
提督 「その時はもっと近付けばいい」
朝潮 「そんな・・・」
提督 「悲観し過ぎだ、お前は」
提督 「言うほど悪いことにはならん」
朝潮 「何を根拠に・・・」ボソ
聞こえないよう文句を言いつつ艦隊各員に作戦を伝達する。
各艦娘の反応は予想以上に良かった。
砲戦に入る直前の作戦変更に浮き足立つことはない。
提督に期待されていると思ったビスマルクプリンツ羽黒は意気軒昂に了解と答えてくる。
342 = 1 :
直後、一番射程の長いビスマルクが最初に海面を隆起させ主砲を具現化する。
具現化した主砲を目標の品定めをするようにゆっくり回頭させると主砲側面を伝い海水が勢いよく零れ落ちる。
同時に深海棲艦側も最長射程のタ級が砲身を妖しく光らせ砲撃準備を始めるのが見えた。
先に砲撃をしたのはビスマルクだった。
自慢の主砲が火を噴き渇いた発射音を戦場に響かせ、風や波の音を吹き飛ばす。
発射後の砲塔は残っていた水気が発射の振動と熱で散り湯気を放っているように見えた。
放たれた主砲弾は折からの天候に曲げられながら飛んでゆく。
提督 「まだ遠いか」
提督が呟き砲弾から視線を外す。
確かに砲弾はこれまでと同じく大きく曲がり見る艦娘たちをも絶望させた。
次に砲撃を行うプリンツと羽黒がどこか迷いを持ったまま武装の具現化に入る。
また外れるのか、気紛れな天候にため息を吐く。
ただ、これまでと違ったのは。
曲がりに曲げられたビスマルクの砲弾が意思を持っているかのように敵駆逐艦の一隻に命中したことだ。
まだ静かな戦場を引き裂く炸裂音に各自作戦行動を行っている艦娘全員の視線が集まる。
朝潮 「敵陣形零時駆逐艦一隻、撃沈」
提督 「陣形先頭の駆逐艦か」
朝潮 「そうです」
提督 「見てみろ、あいつ」
提督 「これまで当てられなかったくせに、当たるのが当たり前かのように平然なふりしてるぞ」ク
ビスマルクは驚きか喜びか顔色を変えないまま強く拳を握っていた。
提督はそれを見て嘲笑か喜びか顔をゆがませる。
駆逐艦ハ級は被弾したことに理解が追いつかないのか、黒煙を噴きつつ静かに波にのまれた。
ほぼ同時に発射されたタ級の荒潮を狙った砲撃は外れて落ちる。
343 = 1 :
提督 「ビスマルクから弾着修正の情報を他艦に伝えさせろ、急げ」
朝潮 「はい!!」
提督 「この撃沈が艦隊全員の心に火をつける」
提督 「朝潮もわくわくするだろう?」
朝潮 「少し」
提督 「誰でも心が躍る」
双方の重巡以下の砲撃戦が始まとうとしていた。
提督 「この撃沈の意味は大きい、なぜかわかるか?」
朝潮 「撃沈だけなら加賀もしてます・・・」
朝潮 「今日初めてまともに砲撃が当たったからですか?」
提督 「正解でいいだろ」
提督 「初弾、一番長く難しい距離を目標に当てた」
提督 「当てられることに対する希望だ」
まだ射程に入らないプリンツオイゲンと羽黒が具現化した砲を並べ今か今かと砲撃開始を待つ。
その中で、交わされるビスマルクとタ級の砲撃は、ビスマルクの精度の優位を更に露にした。
朝潮 「プリンツ、羽黒がビスマルクからの情報を元に射程に入り次第砲撃を開始」
提督 「陣形に二つも穴ができればたてなおしに距離を起きたがる」
提督 「敵艦隊は撃沈した先頭敵駆逐艦の左舷へ進路を取る」
提督 「そこに砲撃をばら撒け」
朝潮 「了解しました」
全艦による本格的な砲撃戦が始まる。
艦娘と深海棲艦、双方の砲が灰色の中空に大小の火を噴き上げ熱を帯びた鉄塊が発射される。
砲弾は着弾し水を巻き上げ水柱を築きその水柱は風になぎ倒され散る。
少しずつ砲撃が増え砲の渇いた音と水の塗れた音が交差し徐々に大気に満ちる。
やがて音を肌で感じられるほどに空気の響きが飽和する。
―――――
―――
344 = 1 :
激しい砲撃戦の中、背後に迫る艦娘たちの艦隊を振り切ろうとする深海棲艦の艦隊は蛇行する。
提督 「こちらも蛇行する」
朝潮 「?追うのなら当然蛇行になりますよね」
提督 「そういうことじゃない、蛇行する敵艦隊を蛇行しながら追うということだ」
朝潮 「それでは移動距離が伸びて敵艦隊に接近するのが難しくなるのでは?」
提督 「進路の予測し易い最短距離を追撃して蜂の巣になりたいのか?」
提督 「軽くなったら航速も上りそうだな、やってみるか?」
朝潮 「・・・」
提督 「黙るな、聞こえてるかわからん」
朝潮 「はい」
提督 「お前はおれの指示通り進路を艦隊に伝えればいい」
提督 「安心しろ、想像すればわかるがお互い蛇行すれば嫌でも交差する」
提督の言葉通り航跡は絡み合う蛇のように錯綜した。
航跡が交差する場所は特に多くの水柱の跡ができ上空からは火花が飛んでいるかのように見える。
砲撃戦が始まり飛ぶ高度を上げたウミネコからはさぞ綺麗に見えたことだろう。
345 = 1 :
交差において何度も危険な近距離砲撃戦が起こるも深海棲艦を仕留めるまで行かない。
深海棲艦は輪形陣の先頭としんがりの二隻が撃沈されても動揺はなく。
喪失した艦の隙に残存護衛艦を配し巧みに艦隊行動を続ける。
提督 「荒潮が先ほどから先行し過ぎだ」
朝潮 「はい」
提督 「こちらの方が至近弾を加えているからと言って焦らないように伝えろ」
朝潮 「伝えます」
艦娘の戦闘可能時間は限られている。
深海棲艦の艦隊群にいる他艦隊が救援に来るまでに退却を完了させねばならないからだ。
それを知っているかのように敵は逃げに専念した。
提督の近距離砲撃戦を狙った過度の追撃はその深海棲艦が最も嫌がることであった。
だからこそ、深海棲艦は足止めを狙い追撃する艦娘の進路を中心とした砲撃が増え。
皮肉にも陣形先頭の加賀と荒潮、当然他艦娘への直接攻撃の手数が確実に減っていた。
これも提督の狙い通りか。
提督 「荒潮が今度は下がりすぎだ、二列目にぶつかるぞ」
朝潮 「そうですね・・・」
提督 「おとりになれとは言ったが敵砲撃の散布界に二隻入れるまでサービスする必要はない」
提督 「荒潮を執拗に狙っているのがタ級だから臆すのは多少仕方ないがな」
朝潮 「伝えます」
初撃から荒潮はずっとタ級に付け狙われている。
少しずつ射撃誤差を修正したタ級の砲撃は至近弾となって絶えず荒潮を襲っていた。
346 = 1 :
提督 「それにしても、旗艦のヲ級はいい仕事をする、艦隊の航路・陣形の配置・喪失艦の補填」
提督 「手堅い戦法をノンタイムで打ってくる」
提督 「お前が大きくなったらあんな感じになりそうだ」
そう言うと、艦娘に目標の指示のみして戦況を見ているだけだった提督が動く。
提督 「相手にそろそろ慣れも出てくる、時間もないし本格的に狩るか」
朝潮 「?」
提督 「ここからの指示は機械的に全艦娘に伝えろ、迅速に寸分違わずな」
朝潮 「了解しました」
提督 「さて・・・残り四隻、空母ヲ級・戦艦タ級・重巡リ級・軽巡ト級か」
提督 「中央の旗艦ヲ級を守る形で前方タ級で後方はリ級とト級が配されてる」
提督 「輪形陣をよく理解している」
提督 「こちらも向こうも小中破ばかりで決定打を出せていない」
提督 「朝潮ならどうする?」
朝潮 「まさか・・・もっと距離を詰めるお積もりですか!?」
提督 「それを敵が許すと思っているのか」
朝潮 「すいません」
提督 「謝るな、意味がない」
提督 「着眼点がずれてる」
提督 「何で敵が砲撃を避けることができていると思う?」
朝潮 「???」
提督 「こちらの戦法が読まれている」
提督 「ビスマルクは頑なに本体狙い、プリンツはビスマルクと合わせて同目標を斉射」
提督 「残った羽黒は補助と威嚇だけ、と砲撃主力三艦の動きが今こうなってる」
提督 「一隻ずつ潰すには悪くない戦法だ」
朝潮 「はい」
提督 「大方敵は寸前の弾着でおれたちの砲撃のずれを確認」
提督 「それに加えてビスマルクの操艦と砲塔の向きだけに注目して砲撃を避ければ」
提督 「続く二艦の砲撃も外れるという寸法」
朝潮 「そんな馬鹿な」
提督 「あぁ、普通ならわかってても避けられん」
提督 「ただ、ここは小中破から轟沈させる深海棲艦がいる元より異常な海域だ」
提督 「これくらい驚くことじゃない」
提督 「そのままビスマルクは好きにやらせておけ」
提督 「プリンツと羽黒を敵の予想回避進路に砲撃させる」
提督 「通用するのは一回のみ、タイミングは指示する」
朝潮 「了解しました」
347 = 1 :
提督の指示の下、敵艦隊の進路を制限するために砲撃での牽制が行われる。
敵に気付かれないように、平静を装い重巡のプリンツと羽黒が敵艦隊に最大限接近するのを見計らう。
提督 「次のビスマルクの砲撃に合わせて・・・やる」
朝潮 「はい」
深海棲艦の動きのくせ、ビスマルクの射撃誤差から敵の回避進路を予想する。
提督 「目標軽巡ト級、三時方向50-100mに砲撃をばら撒け」
朝潮 「了解しました」
プリンツと羽黒に通信した時、何も知らないビスマルクの砲撃が盛大に外れた。
それを回避した軽巡ト級にプリンツと羽黒二隻の砲撃がスコールのように降り注ぐ。
林立する水柱とそれが崩れる滝のような水音に紛れ低い爆音が響く。
朝潮 「敵は?!」
提督 「無事でないことは確かだ」
提督 「次、ビスマルクとプリンツに重巡リ級、十時方向50-100mに砲撃」
提督 「護衛艦も減った、羽黒には単独で旗艦を狙わせろ」
朝潮 「はっはい!!」
重巡リ級は未だ霧のたつ軽巡ト級の被弾地点へ提督の予想通り舵を取った。
そして、待ち構えるビスマルクの砲撃に当たりに行く形で轟沈。
加速していた船体は黒い泡を吹きながら潜水艦が潜航するように沈んで行った。
重巡リ級の向かう筈だった進路の先、霧の晴れた後には軽巡ト級の残骸しか浮いていなかった。
朝潮 「重巡リ級と軽巡ト級の撃沈を確認」
提督 「重畳重畳、後二隻か」
敵戦力は空母ヲ級フラグシップと戦艦タ級フラグシップの二隻のみとなった。
348 = 1 :
朝潮 「提督、二隻目の重巡リ級の進路は何でわかったのでしょうか」
提督 「敵旗艦のヲ級は慎重で手堅い戦法を取ってる、お前のようにな」
提督 「抜けた軽巡ト級の穴に重巡リ級を向かわせるのはわかっていた」
朝潮 「なるほど、なら・・・」
提督 「次はタ級か?無駄だ」
提督 「こんなの一回しか通用しない」
提督が視線をやる先にいるタ級は先ほどの二の舞にならないよう、
陣形の先頭から慎重に航路を取り艦娘達の艦隊と敵艦隊の間に移動していた。
この出撃の最終決戦が始まろうとしている。
今や最高潮に達していた砲撃音の飽和は収まり始めていた。
しかし、減少した砲撃の一発一発が持つ殺意は未だ衰えないどころか増しつつ飛び交っている。
砲撃音にかき消されていた戦闘機の音、波の音、風の音がもどってくる。
349 = 1 :
提督 「このタ級はフラグシップのくせにポンコツだな」
提督 「目ぼしい戦力は旗艦のヲ級のみか」
提督 「無視しても構わんが一応羽黒にタ級を狙わせろ」
朝潮 「はい」
馬鹿の一つ覚えにただただ荒潮を狙ったタ級の砲撃は一発も命中していなかった。
提督 「ビスマルクとプリンツは旗艦目標で一斉射、砲撃は二人に任せる」
提督 「ヲ級を釘付けにしろ」
提督 「砲撃が当たればよし、当たらなくてもいい」
提督 「回避行動で空母ヲ級の発艦が難しくなればとどめは加賀が刺す」
提督 「すぐ伝えろ」
朝潮 「了解しました」
全員に通信すると荒潮からのみ返答がない。
荒潮を見るとタ級からの砲撃をふらつきながら避けていた。
提督 「どうした?」
朝潮 「荒潮から返答が」
提督 「捨て置け、どうせ残った二隻には駆逐艦じゃお話にならん」
朝潮 「司令官、タ級は何でこんなに執拗に荒潮を狙うのでしょうか?」
提督 「こんな時に何だ」
提督は砲撃を避ける旗艦ヲ級を舐めるように観察していた。
提督 「荒潮?護衛の駆逐艦からやるのは敵でも同じだ」
朝潮 「それは荒潮に庇われて加賀への攻撃が減衰させられるから、ですよね?」
提督 「そうだ」
朝潮 「荒潮はあんなに元からぼろぼろなんですよ」
朝潮 「加賀に直接攻撃しても今の荒潮ならさっきのように庇いに行けません」
提督 「ん・・・」
違和感を覚えたのか提督がタ級と荒潮に顔を向ける。
ぼろぼろの荒潮が避ける姿は余りにも痛々しかった。
足はひざ下まで沈み底なし沼にもがく鹿のようだ。
350 = 1 :
提督 「タ級が砲撃が当てられなくてやけになっているんじゃないのか?」
提督 「おれたちの艦隊も当たるようになったのはこの戦闘からだ、おかしくない」
朝潮 「それであんなに正確に至近弾を加えることができますか?」
タ級は羽黒の砲撃を避けながら同じ距離を刻み至近弾を荒潮に加え続けている。
ダメージがあるかないかという距離で、正確に。
提督 「荒潮をもてあそんでいると言いたいのか」
タ級の様子は捉えて弱った獲物を逃がしては捕まえてを繰り返して遊ぶ猫かのようだった。
朝潮にはタ級が笑っているように見えた。
提督に悪意を向けられた時の比じゃない悪寒がする。
朝潮 「こんな・・・酷い、このままじゃ」
制服の損傷、全身の傷、半ば沈みかけた足、全てが荒潮が大破し轟沈しかけていることを表している。
轟沈の二文字が、風呂場で聞いた荒潮のエコーの聞いた声が、頭を走る。
恐怖に飲まれ、同調を乱し、轟沈していく。この鎮守府の話が。
提督 「落ち着け!!!」
目を白黒させる朝潮に叫ぶ提督の額にはこの風と寒気の中にも汗が光っている。
朝潮は考えるより先に体が荒潮のもとへ前へ出そうになる。
加賀 「待ちなさい」
突如、加賀から通信が入る。
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