元スレ朝潮「制裁」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ○
351 = 1 :
今回分投下終了です。
ご読了まことにありがとうございました。
352 = 332 :
おつ
353 :
乙
面白い
でも
ターン制限や撃沈基準みたいなゲーム設定にあまり拘る必要ないんじゃないかな
と、感じた
354 = 1 :
>>332 様
お米ありがとうございます。
お待ちになってくれる人がいるなんて本当に申し訳ないやら有難いやら。
今後も宜しくお願い申し上げます。
>>352 様
お米ありがとうございます。
投下中に気付くことが多く、訂正や書き直しをすると投下に時間かかってしまいます。
>>353 様
お米ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。
ご指摘の件、私の作意を酌んでいただけているようで嬉しく感じています。
ゲーム設定に近くしているのは世界観をわかりやすくするためという側面が強いです。
強いですと言ったのは、自身の貧弱な文章力でリアル海戦をしたり世界観の説明を始めたり変な展開を描ききれるか不安だったのが多少。
このssは最後まで骨子が決まっているので、次書くことがあれば冒険する勇気を持とうと思います。
356 :
まだでちか?
357 :
更新ないなぁ
358 :
>>355 様
しゅ
>>356 様
まだ大丈夫でち
>>357 様
お待たせ致しました。
今後ともよろしくご愛読のほどお願い申し上げます。
投下再開します。
359 = 1 :
朝潮 (戦闘前に荒潮の損傷を確認した時は間違いなく中破だった筈)
朝潮 (けど、今は・・・)
朝潮は昨日のことを思い出していた。
大破し意識を失った荒潮に肩を貸し指揮作戦艇へ運んだことを。
朝潮 (あの時みたいに大破から時間が経って同調が切れかけてる?)
朝潮 (荒潮・・・)
朝潮は砲艤装を持つ右手を固く握り構える。
加賀の通信で、飛び出す寸前だった朝潮はその場に踏みとどまっていた。
提督は予期した朝潮の暴走が止まったことに疑問を感じるのもつかの間、
加賀が勝手に動き出したことに気付いた。
提督 「どうなってる!?」
朝潮 「加賀が・・・荒潮が異常だから援護に行くと」
提督 「ぁあ!?どういうことだ!!」
朝潮 「荒潮に一番近い加賀が荒潮を救出、即時反転撤退します」
提督 「加賀自身でか!?」
360 :
間に合ったか良かった
ここの掲示板は作者の書き込みが二ヶ月無い時点で落とされるから気をつけろよ
投下する文章が書き上がってなくても定期的に生存報告を書き込む事を推奨する
361 = 1 :
勝手に動いているのは加賀だけではない。
加賀は可能全艦に提督の命令を無視しヲ級の集中攻撃を命じていた。
加えて艦隊運動においても、艦隊の前進を止め陣形の変更を指示。
複縦陣の右列(先頭から荒潮・朝潮・羽黒)の前方、
敵との間に割り込むように加賀を除く左列(先頭から加賀・ビスマルク・プリンツ)の前進を指示していた。
命令に基づき、ビスマルク・プリンツが速やかに砲を旗艦のヲ級に向け斉射しつつ前進する。
ここに荒潮救出作戦が始まった。
呼応するように敵艦隊も前進を止め、
荒潮への攻撃しかしていなかったタ級が初めて動き、艦娘達とヲ級の間に立ちふさがる。
お互いの艦隊は陣形を変えつつ危険な距離を保って静止した。
艦娘達の顔には緊張がみなぎっている。
対するタ級の顔に動揺は一切感じられない。
他の同個体のような無表情でない意味不明な微笑を保ったままであった。
提督 「この作戦が成功すると思っているのか?」
提督 「止めるよう加賀を説得しろ、朝潮」
朝潮 「荒潮を見捨てろと言うんですか?」
提督 「馬鹿馬鹿しい」
提督 「荒潮は沈まん」
朝潮 「???」
朝潮 (何を・・・)
提督は戦場で根拠のないことを言わない人間だった。
朝潮 (止めさせるための嘘か・・・)
朝潮の脳はその時そう処理していた。
362 = 1 :
はっとして、加賀に視線を戻し対空戦闘の準備にもどる。
加賀の援護が、それだけがこの場の朝潮にできることだった。
加賀は機関銃のように目にも取らぬ速度で矢を放っていた。
そこに弓道の型は存在しない。
艦娘たる人外の能力を遺憾なく発揮した連射が行われる。
弦に弾き出された矢が加速し切った瞬間に輝き、艦載機を具現化し次々と飛んでゆく。
最後に加賀は矢筒の淵をなで矢がないことを確認し、荒潮に向け飛び出した。
タ級の砲が狙うのは走る加賀か沈みかける荒潮か。
艦娘からの砲撃に晒されているのにも関わらず、
タ級は子供がお菓子を選ぶ時のように上気した顔で加賀と荒潮の間で砲を揺らしていた。
時間は刻々と進む。
提督 「今ならまだ遅くない、戻るように言え」
朝潮 「もう止められません」
朝潮 「それに司令官は沈まないと言いますけど、荒潮の様子が見えないんですか?!」
あれからタ級の砲撃が止んでいるにも拘らず、
波濤に上下する荒潮の四つん這いに突っ張った手足は刻一刻と海に取り込まれていた。
363 = 1 :
提督 「轟沈はしない」
提督 「荒潮には轟沈の兆候がない」
朝潮 「兆候?」
提督 「今は説明する暇がない」
提督 「そもそも救出作戦自体が無茶だと言っている」
提督 「艦隊全員が危険に晒されるぞ」
朝潮 「どういうことですか?」
提督 「すぐわかる」
タ級はその標的を加賀としたようだ。
走る加賀をタ級の大口径砲が襲う。
提督 「忠告も・・・もう手遅れか」
提督は舌打ちをする。
提督 「すぐだ、すぐ後悔することになる」
朝潮は提督の言葉を無視し、
加賀の進路を邪魔する敵艦載機に艤装による対空射撃を加える。
364 = 1 :
ビスマルク・プリンツ・羽黒は集中砲火を続けていた。
砲弾達がホースでまかれた水のようにヲ級とタ級に襲い掛かり、
その周囲に水柱が数え切れないほどそそり立つ。
砲に掻き混ぜられたヲ級とタ級の周囲の海面だけが、
他の波打つ海面と全く別の生き物のようにうごめいていた。
ヲ級とタ級はその不安定な足場で、
踊るように艦娘の砲撃をあるいは避けあるいは防御壁で弾きつつ加賀を攻撃していた。
堅牢なタ級の防御壁の側面は、弾かれた艦娘の砲弾が走り綺麗な火花をいくつも散らしていた。
朝潮 「何でこれだけの攻撃を・・・」
歯軋りする朝潮へ戦況を覚めた目で見ていた提督が言葉を発す。
提督 「おれたちの砲はここまでの砲撃で加熱され精度が落ちてる」
提督 「あちらは二隻になり、艦隊という己を守るだけでなく縛っていた鎖が解かれた」
提督 「そうやってただでさえ当たらないのにあれだけの防御壁」
提督 「砲弾が芯から当たっても抜くことができるか」
提督 「まぁ、当たっていないのは加賀も同じか」
敵の砲撃と艦攻の雷撃による線、艦爆による点の飽和攻撃を、
加賀はほぼ最短距離を最小の挙動で避けながら進んでいた。
敵の攻撃がぬるい訳ではない。
水柱の高さは艦娘による砲撃のそれ以上の高さで上っており、
全ての攻撃が致命傷を狙って加賀予想進路の正中線に正確にばらまかれていた。
365 = 1 :
朝潮 「凄い・・・どうやって」
提督 「敵の位置、砲や艦載機の向きや動き、視線や構えからの情報」
提督 「それだけでなく、戦艦空母は偵察機や艦載機の視界も二次視覚的に把握できる」
提督 「ここまでは常識だし、朝潮も知っているだろ」
朝潮 「はい」
提督 「加賀はそれに加えて深海棲艦の同調状態がわかる」
朝潮 「同調がわかる?」
提督 「敵の艤装による行動の予兆を掴む事ができるという意味だ」
提督 「加賀が逃げに専念すれば、そう当たらん」
朝潮 「そうなんですか」
提督 「攻撃に使えば相手の進路を先読みすること」
提督 「戦闘中で一番隙ができる相手の攻撃に合わせてこちらが仕掛けることも可能だ」
提督 「これが加賀の能力だ」
提督 「驚いたか?」
提督は戦いを忘れたかのように満足した顔で語る。
実際、演習に飽き足らず自鎮守府の艦娘同士を戦わせる提督から言わせても、加賀は異質の存在だった。
一般的に強いと言われる艦娘よりも頭一つ以上飛びぬけて強かった。
何より、この異能を持っているのが、
提督の広く知っている艦娘たちの中で加賀のみだったことが大きい。
だからこそ次に朝潮から出る言葉は提督を驚かせた。
366 = 1 :
朝潮 「私も集中すれば少し感じることがありますけど、避けられるまでは・・・」
提督 「何?」
提督の間の抜けた言葉に、朝潮は対空射撃をしつつ横目で提督を見る。
提督はいぶかしむような目で朝潮を見ていた。
朝潮 「いえ、今の敵みたいな強い深海棲艦の攻撃だけなら・・・ですけど」
朝潮 「艦隊同士が接近しているからかもしれません」
提督 「・・・敵の艦載機の攻撃に合わせて対空射撃を加えてみろ」
朝潮 「はい?」
提督 「やってみろ」
朝潮 「いえ、だから私は集中しないと難しいので、時間がかかります」
朝潮 「それより多く撃って敵を牽制する方が・・・」
提督 「かすりもしない対空射撃に牽制の意味があるのか?」
事実、朝潮はヲ級の艦載機の動きに翻弄され有効な射撃が一回もできていなかった。
提督 「やらないなら、これから一切の対空射撃は加賀の進路に合わせようとするな」
朝潮 「何故ですか?」
提督 「当たらないまま撃ち続ければ、加賀の進路情報を相手に与えるだけだ」
朝潮 「それは・・・」
ビスマルクの砲撃が軽々避け続けられていた情景が朝潮の脳裏に浮かぶ。
あの時、確かにヲ級はビスマルクからの何らかの情報を持って避けていた。
運よく全弾避けることなどできないのだから。
提督の言うことは正しい。
367 = 1 :
提督 「おれの言ってることに間違いがあるか?」
提督 「どうせ負ける戦闘だ・・・が」
提督 「当たらないなら当たらないなりに悪あがきしてみろ」
提督 「一発だ・・・敵艦載機の攻撃に合わせて撃て」
朝潮 「・・・はい」
対潜装備しか積んでいない朝潮は、原寸に近い巨大な砲を具現化できない。
腕に付いた貧相な艤装の攻撃では、残った戦艦タ級と空母ヲ級にダメージは期待できなかった。
それでも、艦載機なら。
しかし、ヲ級に巧みに操られる奇形の艦載機にはこれまでかすってもいない。
朝潮 (どうせ当たらないなら・・・か)
今も提督がこの作戦に賛同しているとは思っていない。
それでも、荒潮を助けるためなら何でもできたし、提督の指揮に置ける有能さだけは信じることができた。
ヲ級とタ級の攻撃は、加賀を殺すだけでなく荒潮に近付かせないようにばら撒かれていた。
朝潮の対空射撃が当たっていれば、もう加賀は荒潮に手が届いていたかもしれない。
朝潮 (当てる、荒潮のために・・・)
368 = 1 :
攻撃軌道はどのような艦載機も一定の軌道をたどる。
艦爆なら急降下、艦攻なら低空侵攻、と、
艦載機自体や武装の特性から攻撃軌道が制限されるからだ。
朝潮 (狙うなら機種は比較的攻撃軌道が読み易い艦攻、けど・・・)
深海棲艦は異様な形だけでなくかなりの速度で動き回っており、
それら敵艦載機ををはっきり判別するのは難しかった。
朝潮 (時間がない、敵艦載機の中でも機数の多い機種に絞って攻撃軌道を覚えるしかない)
朝潮 (そうすれば狙える目標も増える)
朝潮のこの判断が功を奏す。
今、ヲ級が加賀を攻撃するのに一番多く用いているのは、幸運にも艦上攻撃機であった。
これは手堅い戦略を取るヲ級が、
全力で制空権争いをしていた先ほどまで、艦上爆撃機を中心とした編成で攻撃を行い、
正に今まで攻撃軌道が読みやすく落とされやすい艦攻を温存していたためであった。
狙った一機の攻撃までの飛行ルートを、全力で朝潮は目に焼き付ける。
敵艦載機は水面すれすれを低空侵攻した。
朝潮 (よし!!!艦攻!!!)
369 = 1 :
すぐさま朝潮は同じ機種を目標として狙いを定め、右手の艤装に力を込める。
朝潮 「落ちてッ!!!」
敵が攻撃する寸前の気配を頼りに裂帛の気合と共に砲撃を行う。
気紛れな風と大口径主砲の轟音渦巻く戦場に小さい発砲音はかき消される。
小さな砲弾は誰にも注目されず静かに飛翔した。
その砲弾の進路に敵艦載機は吸い込まれるように飛び込む。
敵艦載機はガンと高い音を立てると上下に回転しながら爆弾を抱いたまま炸裂した。
空中で不自然に赤々と爆発した敵艦載機は戦場で一際目立った。
加賀の瞳が燃え熱風が脇をすり抜ける。
朝潮 「やった・・・やりました司令官!!!」
提督 「見ればわかる、喋る暇があれば牽制を混ぜながら続けろ」
ヲ級が朝潮を細目で見つめていた。
同じように提督も朝潮を見ていた。
提督 「続けながら聞け」
朝潮 「はい?」
提督 「朝潮、お前、荒潮の同調状態がわかるか?」
―――――
―――
370 = 1 :
加賀 「立ちなさいっ」
加賀がうつ伏せで沈みかける荒潮の片手を乱暴に掴み引き上げる。
だらんとした荒潮の体を血と汗と海水が伝った。
朝潮の援護もあって、加賀は攻撃を避けつつ遠回りしながら荒潮の元にたどり着いていた。
その時、加賀の死角からタ級の砲弾が二人を襲う。
加賀は荒潮をかき寄せ、素早く後方へ飛びそれを何とかかわす。
加賀 (荒潮はさながら目標ブイか)
荒潮 「なんで??」
加賀 「危ないなら私の後ろに来なさいと言ったわよね」
荒潮 「すいま・・せん」
荒潮は加賀の中で両手を握り静かに震えている。
傷が治癒せず血が流れ続けたせいか健康的だった肌は青白く。
精神的にも、長く恐怖に晒された影響か、意識を保つのさえぎりぎりな様子が見て取れた。
声に力はなく、目がにごっている。
加賀 「頑張ったわね」
荒潮 「はい・・・」
加賀 「逃げるわよ」
加賀は撤退するタイミングを見計らう。
ヲ級とタ級は、その様子を静観しながら何か話すような素振りをしている。
371 = 1 :
提督 「終わりだ」
提督が煙草に火を付け呟く。
朝潮 「もう撤退するだけではないでしょうか?」
あれから朝潮は数機の敵艦載機を落としていた。
提督 「時間がかかり過ぎたんだよ」
朝潮 「後は先ほどのように加賀が荒潮を抱えて避けながら逃げるだけですよね?」
提督 「空を見ろ」
提督が指差す空は先ほどより不気味に静かになっていた。
朝潮 「あ・・・」
提督 「今、最後の一機が落ちた」
一本の矢がくるくるときりもみしながら静かに水面に着水した。
大気には敵艦載機の唸り声だけが舞っていた。
372 = 1 :
提督 「具現化した矢は一定時間しか飛べない」
提督 「それが切れればあぁなる」
朝潮 「え・・・」
提督 「加賀には弓を構え矢を番える余裕も着艦させる余裕もなかった」
提督 「あれだけの攻撃を避けながら全速で移動していればできるわけがない」
提督 「こうなるのはわかっていた」
朝潮 「それでも・・・艦載機の二次視覚がなくなっても加賀なら・・・」
提督 「現実を見ろ」
朝潮 「・・・」
提督 「お前は敵の艦載機を見るので精一杯だったようだがなぁ」
提督 「加賀は避けながら自分の戦闘機で命中ルートの敵艦載機だけは落としていた」
朝潮 「では・・・」
提督 「これからは敵の攻撃が当たる、それも加賀にだけじゃない」
提督 「我が物顔に飛び交う敵艦載機に四方八方から蹂躙される」
提督 「当然こちらの攻撃は観測機を落とされ命中しない」
提督 「ふふ、いつも深海棲艦に沈み方を教えてやれと激励する側がこうなるとはな」
朝潮 「・・・」
提督 「笑えよ、お前が招いた事態だ」
提督は涼しい顔で話す。
それは諦めか、何なのか。
373 = 1 :
朝潮 「どうすれば・・・」
提督 「それをおれに聞くのかぁ?」
提督 「ヲ級とタ級に命乞いでもしたらどうだ」クク
朝潮 「っ・・・」
苦笑した顔から一変、表情を冷たくした提督は、
もう何度もしてきたかのように機械的な言葉で言い放つ。
提督 「幕を引くのだけは手伝ってやる」
提督 「逃げる準備をしろ」
提督 「それと・・・ないと思うが荒潮が万が一の時の覚悟をしておけ」
提督 「轟沈したくなかったらな」
朝潮 「・・・」
朝潮は提督の言っている意味がわかった。
仲間の轟沈で同調を崩せばお前も死ぬぞ、と言っているということが。
374 = 1 :
朝潮の前方で加賀は深海棲艦最後の猛攻に備え身構えていた。
頼れるのは自身の感覚のみになった今、
攻撃寸前の深海棲艦特有のどす黒い同調の高まりを逃さないよう集中し神経を張り詰める。
周囲をハゲワシのように旋回する敵艦載機の一機一機の動きを加賀は掴んでいた。
加賀は諦めていない。
加賀 (どう来る?!)
荒潮 「無理なら私を・・・」
加賀 「轟沈するのは許さないわ」
荒潮 「提督が指示したんですか」
加賀 「・・・えぇ、朝潮が頼み込んでね」
荒潮 「朝潮ちゃん・・・」
友人の名前を聞き目に涙をためる荒潮は年相応の少女でしかなかった。
加賀は未だ震えが止まらない小さい荒潮を強く抱きしめた。
加賀 「一緒に逃げるの」
加賀 「朝潮が待ってるから絶対に諦めないで、同調を保ちなさい」
荒潮 「はい・・・」
加賀の初めて聞く優しい声と体温に慰められ、荒潮は顔を加賀に押し付け涙を隠す。
375 = 1 :
加賀はその時、水柱の林にいるタ級の砲撃を見逃していた。
油断していたからではない。
過剰な砲撃でできた水柱により、見えた者は艦隊にもいなかった。
ただ、その瞬間にあの加賀が何ゆえ気付かなかったのか。
加賀 「!!」
直後、加賀は背後で敵艦載機の攻撃の予兆を捉え、後ろを向く。
視界に入った敵艦載機は朝潮の対空射撃を避けながら抱えている魚雷を投下した。
魚雷進路を見極めようと着水する魚雷を注視する。
加賀 (何で一発、しかも十分に避けられる遠い位置に・・・)
その時、加賀の背中を不意に鈍い痛みが襲った。
ドン
加賀 「くぅっ・・・(どこから?!)」
荒潮 「きゃっ」
衝撃に加賀が荒潮を抱えたまま水面を勢いよく転がる。
タ級の砲弾は加賀の防御壁でかなり威力が弱められていた。
それでも、加賀の背中に直撃したそれには加賀を弾き飛ばすくらいの威力は残っていた。
376 = 1 :
加賀が海面を転がるのを何とか踏みとどまろうとするも、
折からの高波に体が跳ねすぐ止まることができない。
踏み止まり体を起こせた時には敵艦載機の魚雷は直前まで来ていた。
雷跡の先端にある魚雷から出る異様な気配に加賀の感覚は明らかな危険信号を発していた。
加賀 (当たったら不味い)
瞬間、加賀は荒潮を突き飛ばした。
加賀 (荒潮だけでもっ)
加賀 「離れてなさい!!」
荒潮 「きゃっ」
大破で同調が切れかけた荒潮は加賀と違い水面に半ば沈みながら転がった。
そのため、波に捕まった荒潮は殆ど加賀から離れられずに止まる。
加賀 (しまっ・・・
ヲ級の雷撃は加賀に直撃した。
爆発が荒潮をも襲う。
朝潮 「荒潮ー!!!!!」
強烈な爆発音が海上にこだました。
―――――
―――
377 = 1 :
爆発により生じた熱線が距離のある朝潮の皮膚をヒリヒリと焼いた。
黒煙の渦巻く爆心地から加賀が弾き飛ばされ出てくる。
朝潮 「加賀、大破!荒潮は・・・?」
荒潮は未だ爆煙に包まれたまま確認できない。
黒煙は根元である海面付近がゆらゆらと輝いている。
その輝きから新たな煙をぼこぼこと沸き立たせながら、黒煙は風をものともせず灰色の空に聳え立つ。
提督 「・・・荒潮は爆発に弾き飛ばされなかったな?」
朝潮 「今も・・・煙の中です」
提督 「同調が残っていれば防御壁があるなら、攻撃を受ければ弾き飛ばされる」
朝潮 「何が言いたいんですか?!」
朝潮 「荒潮は轟沈しないんじゃなかったんですか?!」
提督 「・・・」
朝潮は提督のいる指揮作戦艇に詰め寄る。
睨みつけた提督の冷たい目は朝潮の視線を跳ね返した。
朝潮に焦燥感だけが募っていく。
378 = 1 :
その時、一陣の強風が朝潮達の海域を吹き抜け、朝潮の長い黒髪をなびかせた。
上空の敵艦載機と指揮作戦艇を中心に旋回していたかもめ達がふわりと上下し揺れる。
荒潮を包んでいた黒煙が吹き散り、そこに皆の視線が集まった。
戦場が静止した。
提督 「戦争とはよく言ったものだ」
提督 「交戦規定も何もないこの深海棲艦との闘争を」
提督 「降伏も許されず・・簡単に死ぬことも許されない」
冷静に語る提督をよそに朝潮は声が出ない。
石に潰された蛙のように艤装に潰され荒潮はうつ伏せにされ、
その背中でぼろぼろの艤装が重油の血を流し黒煙を噴き燃えている。
火の海に浮かぶ荒潮のほぼ焼け落ちた制服は体中に刻まれた無残な傷をあらわにさせていた。
そこから覗く皮膚は炎に炙られ火傷でぷつぷつと泡立って爆ぜ黒ずんで行っていた。
荒潮は残る力を振り絞り立とうとしていた。
海面に突いた手は海面を突き抜け、それでも何度も何度も手で燃える海面をかき荒潮はあがいていた。
379 = 1 :
提督がぼそりと呟く。
提督 「沈ませてやれ、お前が」
荒潮の生存への喜びが希望が、荒潮の痛み苦しみへの同情が、
朝潮の中でどろどろに混ざり合い、抱いていた熱い焦燥感は押し潰され冷たい絶望に変わる。
朝潮を除く艦隊の全員がその惨状から目を逸らし、敵を恨めしそうに睨んでいた。
その視線誘導を待っていたかのように、タ級は戦場を見渡すと悠々と砲身を荒潮に向けた。
朝潮はどす黒い同調の高まりを感じ、追ってタ級に視線を投げる。
朝潮 「止めて・・・お願い・・・まだ」
タ級の砲身が禍々しい光を放ち砲弾が発射されていた。
―――――
―――
380 = 1 :
今回分投下終了です。
ご読了ありがとうございました。
381 = 1 :
>>360 様
お気遣いありがとうございます。
生存報告了解です、そしてそれしなくていいようにせっせと書きます。
何かご指摘ご質問ありましたら、できる範囲で全て答えます。
話が変わりますが、
朧でSS一本書くほど好きなんで今回の水着グラ最高で涙出そうになりました。
383 :
おつおつ
386 :
ほ
391 :
大変申し訳ございません。生存報告します。
ほの人だけかもしれませんが、ご期待に添えられるよう頑張ります。
392 :
期待してるよ
393 :
まってるよー
395 :
ほ
396 :
こんな時間ですが再開します。
くたびれた方たちにとって一抹の清涼剤にでもなりましたら幸いです。
397 = 1 :
―――――
―――
あれほど痛かったのに、もう痛覚はない。
体の震えも止まっていた。
荒潮 (もう・・・・・・疲れたわ・・・)
頬を火が舐めるに任せる。
体どころか顔を上げる力さえ込められなくなっていた
視界は赤から真っ白に霞み音はもうしない。
細胞が静止してゆく。
感覚が閉じて行く中で、荒潮は自分の精神の中へ落ちてゆく。
恐怖で摩耗しきった精神も、安息を求め深海に沈むんでゆくように暗く冷たく静かになってきていた。
荒潮 (あれほど生きたいと願っていたのに)
荒潮 (もう開放されたい・・・)
遠くから朝潮の声が聞こえたような気がした。
―――――
―――
398 = 1 :
タ級の砲撃がなされたと同時に朝潮は指揮作戦艇を離れ荒潮へ向けて走り出していた。
正面からは殺意の塊が迫っている。
提督は朝潮を止めなかった。
一寸一秒も無駄にできないのは朝潮だけではない。
圧倒的優位にある敵から、どう損耗せずに撤退するか。
次の戦いは始まり、艦隊の命運は提督の采配にかかっていた。
指揮作戦艇に付いた拡声器で艦隊をまくしたてる。
提督 「羽黒は全速前進して一時旗艦となって指揮作戦艇に付け」
提督 「ビスマルク・プリンツは砲撃と合わせて雷撃をばらまいて敵を近づけさせるな」
提督 「同時に砲弾を撃ち切って体を少しでも軽くして指揮作戦艇へ後退を始めろ!」
提督 「加賀ァ!!!」
加賀は弦の切れた弓を支えに海面に何とか立っていた。
大破の影響で今も肩で息をしている。
提督 「ビスマルク!命令を追加だ、隙を見て加賀を拾え!!!」
了解の合図に手を挙げるビスマルクのすぐ横を、タ級の砲弾が通過する。
飛翔する敵砲弾をビスマルクは自身の防御壁で弾こうとも防ごうこともしない。
それが荒潮への優しさだとビスマルクは思っていた。
風圧で飛びそうになった帽子を目深に押さえビスマルクは手で十字を切った。
朝潮は走っていた。
走っても間に合わないのは明確だった。
砲弾が荒潮に接近するほど不思議に朝潮の集中は増し時が遅くなるように感じた。
朝潮 (荒潮の死を遠ざけるため?)
走る朝潮の目から涙がこぼれた。
にじむ視界の中で砲弾は荒潮に着弾した。
朝潮 「荒潮!!!!!!!」
―――――
―――
399 = 1 :
砲弾は防御壁を貫き四つん這いで伏せる荒潮の背部艤装に直撃。
聞きなれた重い着弾音とほぼ同時に、
命中した荒潮の艤装はアルミ缶を一瞬で潰したような甲高い金属音の悲鳴を発して歪んだ。
次の瞬間、砲弾が炸裂し光と衝撃を放つ。
朝潮は反射的に両手をかざし耐ショック姿勢をとり目をきつく閉じた。
閉じた視界が真っ白に焼き付く。
衝撃波で朝潮の体はほぼ水平に数メートルずれた。
飛びそうになる意識を衝撃波につづいて巻き起こった熱風が引き戻す。
かざした両腕の艤装が甲高く連続して鳴り、
朝潮の皮膚がやすりをかけられたように熱く痛む。
四散した艤装の鉄片が衝撃波に混ざり凶悪に吹き荒んでいた。
爆音でほぼ失われた聴覚に機関銃弾が掠めたような音がする。
暴風の弱まりにかざした両手の隙間から着弾地点を伺う。
砲弾の衝撃で海面が異様に大きくおわん状にへこんでおり、荒潮は見えなかった。
朝潮 (荒潮はどこ・・・
爆発に押し付けられ圧縮していた海面が元にもどろうと膨張を開始していた。
朝潮は耐ショック姿勢をとり、その目は再び闇を迎える。
水柱が空中を駆け上る。
同時に質量を持った水の塊が横なぶりに朝潮を襲った。
つむった目、爆発で一時的に失っている聴力でも、違和感はしていた。
肌を伝う海水の温度や粘度。
どれもいつも浴びる海水のものと違った。
朝潮は色も音もない静止した世界から、固く閉じた瞼を開き外界を見た。
腕、いや全身が、視界が全て真っ赤に染まっていた。
―――――
―――
400 = 1 :
朝潮にとってコマ送りのように起こった一連の出来事は、
艦隊の他の人間からは一瞬に起きた出来事に過ぎなかった。
羽黒 「ひっ・・・」
既に旗艦代理として指揮作戦艇に付いていた羽黒が悲鳴を小さく上げる。
しかし、それ以上の悲鳴を飲み込み羽黒は震えながら砲を再び構え直した。
荒潮を喪った悲しさより、死に対する恐怖が勝っていた。
その恐怖が羽黒を素早く現実に引き戻した。
悲しむ暇などない戦場だった。
頭上では我が物顔で敵艦載機が飛び交い、殺気を含んだ重圧を振りまいている。
提督 (いつでも殺せるとでも言いたいのか)
提督 (いや・・・なら、何故攻撃を始めない?)
羽黒 「ど、どうしました?」
提督 「敵艦載機・・・」
羽黒 「え!?敵艦載機が来てますか?!」ビクビク
提督 (気のせいか?)
赤い水柱がその形を崩そうとしていた。
―――――
―――
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