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    元スレ朝潮「制裁」

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    451 = 1 :




     責任に押しつぶされそうな朝潮を見ながら提督が長い息を吐く。


    提督 「ふー・・・」

    提督 「十分反省しているようだし・・・・今回は許してやる」

    朝潮 「は?え?ゆるす?」


     頭が付いて行かない朝潮は上げた顔で提督を見る。


    提督 「最終戦の行動は全部おれが指示したことにしてやる」

    提督 「荒潮救出作戦も、お前の単独攻撃も全てだ」

    提督 「これで命令違反はなくなる」

    朝潮 「・・・」

    提督 「お前が艦隊全員を殺しかけたことは当然おれの胸にしまっておく」

    朝潮 「はぁ・・・????」

    提督 「つまり・・・だ」

    提督 「今日からお前は荒潮の仇討ちにヲ級とタ級を駆逐艦ながら倒した英雄となるわけだ」

    提督 「不足はないだろ」

    朝潮 「えっと・・・・あっありがとうございます」


     朝潮は笑顔で応えていた。

     喜びでなく安堵で生み出された卑屈な笑顔の下にはいびつな首輪が付けられていた。

    452 = 1 :



    提督 「後なぁ、タ級とヲ級は撃沈したことにする」

    朝潮 「はい?」

    提督 「・・・」

    朝潮 「既に申し上げました通りっ」


     朝潮は自身の知覚を信じ、煙の向こうで撤退しているヲ級とタ級のことは既に報告していた。


    朝潮 「私の感覚が正しければヲ級とタ級は撤退しているはずです」

    朝潮 「それに

    提督 「黙れ」


     空気が凍った。


    提督 「朝潮」

    朝潮 「・・・はい」

    提督 「今回は特別に許すと言った」

    提督 「初めての轟沈、しかも親友だ、動揺もする」

    提督 「だが、次は・・・ない」

    提督 「命令違反にも今のような考えなしの口答えにもな」

    提督 「もし、そんなことがあれば・・・そうだな」

    提督 「お前が命令違反を脅迫してもみ消したと、熨斗を付けて上に報告してやる」

    朝潮 「申し訳ありません」


     提督の言いたいことが朝潮にはよくわかった。

     昨日まで脅す材料だった荒潮の命が朝潮自身の命になっただけだった。

    453 = 1 :



    提督 「・・・お前の代わりはいくらでもいる」

    提督 「それなのにお前を救ってやる意味を・・・恩を忘れるな」

    提督 「いいな?」

    朝潮 「はい・・・」

    提督 「話を戻す、おれの決定に問題でもあるか?」

    朝潮 「っ・・・ありません」

    提督 「遠慮するな、言おうとしたことを言ってみろ」

    朝潮 「強力な深海棲艦の生存は・・・」

    朝潮 「周知されないと他鎮守府の艦隊や民間船舶が危険ではないかと・・・思っただけです」

    提督 「問題ない」

    提督 「本出撃の海域は荒潮がそうであるように小中破轟沈がある危険海域だ」

    提督 「お前には言ってなかったかも知れんが、当海域に挑むのは我々の鎮守府だけだ」

    提督 「よって、我々が内々に処理をして注意をすればいい話だ」

    提督 「そうだな?」

    朝潮 「・・・はい」

    提督 「それにお前も荒潮の最終評価が良い方がいいだろう?」


     最終戦闘の内容、突き詰めれば轟沈時の働き如何で、死後の昇進や遺族への保障が変わった。

    454 = 1 :



    朝潮 (荒潮・・・)


     荒潮の家族を考えれば迷う余地もなかった。

     しかし、朝潮にとって戦果を水増しするという不正行為に未だ抵抗感があった。


    提督 「何を迷う」

    提督 「既に命令違反の隠蔽と虚偽報告、二つの罪に加担してるだろうが・・・」


     提督が急かすようにモニターを指で叩く。

     その目は、穴を覗き込むような暗い瞳をしていた。


    朝潮 (違う!!私は!!!)

    朝潮 「・・・」

    提督 「そもそも・・・だ」

    提督 「お前の知覚とやらは正確なのか?」

    朝潮 「提督も見ていらっしゃいましたよね?」

    朝潮 「私は敵の動きを掴んで攻撃ができていました!!!」

    朝潮 「私の知覚は・・・正確です」

    朝潮 (そう荒潮の時も・・・)


     朝潮の語気が荒くなる。

     それを気にも留めずに提督は子供をあやすようにゆっくり言葉をつなげる。

    455 = 1 :



    提督 「たまたま運良く予想が当たっただけじゃないのか?」

    提督 「一戦だけだぞ?それだけの成功で何でそんなに自信が持てる?」

    朝潮 「そ、それは・・・」

    提督 「朝潮、戦果の誤認が第二次大戦で日常茶飯事だったのは知ってるか?」

    朝潮 「よくあることだから問題ないと仰りたいのですか?」

    提督 「違う」

    提督 「誤認したのは熟練した兵士が多かったんだ」

    提督 「戦場で興奮状態、加えてその作戦で命を落とした仲間もいる」

    提督 「歴戦の経験があった彼らが目で耳で直に確認できていても」

    提督 「冷静な確認や判断ができなくなる」

    提督 「お前は経験がないどころか実際に見たわけでもないのだろう?」

    提督 「知覚というあやふやなもので感じただけに過ぎない」

    提督 「それなのにヲ級とタ級が撃沈できていないと何で断言できる?」

    朝潮 「断言は・・・」


     苛立たしさを感じる。

     朝潮の新知覚への自信が提督の言葉に溶かされる。

     確信や自信を持つには朝潮の経験は浅く、

     この新しい知覚のことは朝潮が拠り所とする教科書に書かれていない。

    456 = 1 :



    朝潮 (本当に私はヲ級やタ級を捉えられていたの)

    朝潮 (集中力が高まって時間を遅く感じたのは荒潮の死の直前から)

    朝潮 (あの時の現実逃避が続いて都合のいい幻影を見続けていただけ?)


     既に提督からの圧力で潰されそうな朝潮の自我が、唯一縋っていた知覚への信頼が揺らぐ。


    朝潮 (司令官の前だと、私が壊されてゆく)


    提督 「お前も火が収まったあの場所に大量に落ちていた深海棲艦の艤装片を見ただろ?」

    朝潮 「見ました」

    提督 「そういうことだ」

    朝潮 「しかし、コアが・・・」

    提督 「戦果の確認まで時間を明ければコアが見つからないこともある」

    提督 「ヲ級とタ級の撃沈は・・・戦果の虚偽報告ではない、客観的事実だ」

    提督 「そうだな?」

    朝潮 「・・・はい」

    提督 「安心しろ」

    提督 「事実はどうあれ、虚偽報告をしてもばれるどころか疑われすらしない」

    提督 「命懸けで戦う者を疑うのは卑しい・・・美しい日本の美徳だな」

    朝潮 「はい・・・」

    提督 「もういい、下がれ」

    朝潮 「了解・・・しました」

    457 = 1 :



     ドアノブに手をかける朝潮の背中に提督が更に言葉を投げる。


    提督 「待て」

    朝潮 「何でしょう?」

    提督 「それとな」

    提督 「お前が最終戦闘で得たという新しい能力」

    提督 「その知覚に付いては許すまで今後一切口に出すな」

    提督 「おれが言った通り運がいいだけという可能性も残ってる」

    提督 「また何かあれば・・・おれにだけ報告しろ」

    朝潮 「はい・・・」

    提督 「そうだ、今日からお前は英雄だったな」

    提督 「亡き親友の仇、ヲ級とタ級を勇敢に討ち果たした・・・な」

    提督 「命令違反がばれたくなければ胸をはれ、辛気臭い顔は止めろ」

    朝潮 「・・・はい」

    提督 「これも命令だ」

    朝潮 「はい・・・失礼します」ガチャ


     朝潮は敬礼して退室した。

     ドアを閉める音が静かな室内に響く。

    458 = 1 :



    提督 「・・・加賀、どう思った?」


     無言で横に立っていた加賀が口を開く。


    加賀 「命乞いなんて可愛いところもあるのね」

    提督 「・・・違う、朝潮の知覚のことだ」

    加賀 「そちらね・・・はっきりとは言えないけれど」

    加賀 「以前話した私の能力と同質のものかと」

    提督 「そうか、今はそれだけわかればいい」

    加賀 「それだけ・・・ですか」

    提督 「当然まだ聞きたいことはある・・・が後は鎮守府で聞こう」

    加賀 「そうですか」


     提督が立ち上がり加賀に目をやると、

     損傷で破れ煤けた衣服の隙間から美しい白い肌が全身にちらちらと見える。

     提督の手が吸い寄せられるように、加賀のはだけた首元に触れる。

     左の肩は、肩紐以外の衣服ははだけ肌が完全に露出していた。


    提督 「もう傷は治っているのか?」


     首元から左の肩に向けて提督のごつごつした手がなでる。

     加賀の白磁のように白くきめ細かい肌は程よい弾力で提督の手を押し返し、

     その手を女性らしい丸みを帯びた肩の稜線にそいって首元鎖骨肩先へ氷上にあるかのように滑らせる。


    加賀 「えぇ」

    加賀 「体の傷だけは・・・殆ど治っています」

    加賀 「同調は艤装を直さないとどうにもならないから大破した今、戦闘は無理ね」

    提督 「そうか」

    459 = 1 :



     提督がなでたことで袖を絞る肩紐が少しずれ、

     そこに白い皮膚に真っ直ぐ薄紅を引いたような跡をのぞかせた。

     死にかけた故の生殖本能か、加賀の艶めかしい色気か、

     湧き上がる情欲に提督は体の芯に熱を感じていた。


     視線を感じた加賀が肩紐を直し、知ってか知らずか提督から離れ部屋の出口に向かう。


    加賀 「鎮守府が見える前に口裏合わせが必要でしょう?」

    提督 「ふ・・・そうだな」


     加賀が開けたドアを出て提督は甲板に上がる。

     そこで以下二つの指示が提督から艦隊全員に下された。


     ・最終戦闘は全て提督の指揮で行われたことにする

     ・現場海域の漂流物からフラグシップタ級とフラグシップヲ級は撃沈したこととする


     敵艦隊全滅で戦闘評価が通常Sのところ、荒潮轟沈による減点でBとなることも告げられた。



    ―――――
    ―――

    460 = 1 :




     指揮作戦艇が鎮守府の港に着岸するときには、

     鎮守府所属艦娘全員が荒潮の沈没した海域に向けて整列していた。

     作戦に参加していた朝潮たち第一艦隊所属の艦娘たちもすぐ列に加わる。

     簡単な葬儀が行われた。

     提督の弔辞、全員による黙祷が捧げられ、大和の弔砲が澄んだ空を震わせた。

     何かぎこちなさを朝潮は感じた。


     最後に提督から荒潮の勇敢な死と深海棲艦を許さないとの演説がされた。

     場にあった死の悲しみは、朝潮がそうであったように恨みや戦意へと容易に転換したようだった。
     
     ぶつけどころのない悲しみよりそうした方が救われることを鎮守府全員が知っていた。


     解散の号令で散っていく艦娘たちをかきわけ朝潮は加賀の元に向かっていた。


    朝潮 (私の知覚は本当に正しかったの?)


     知っているのは加賀だけだった。


    朝潮 (知りたい・・・)

    朝潮 「加賀さ

     「加賀さん」


     朝潮より先に大和が加賀に話しかけていた。

     朝潮の声は風音とともに掻き消された。

     加賀の肩に大和が背後から手をかける。

    461 = 1 :



     「あなたが付いていながら荒潮が轟沈するとはどういうことですか?」

    加賀 「どうもこうも駆逐艦が一人轟沈しただけじゃない?」

    朝潮 「・・・」ズキ


     加賀が振り返りながら大和の手を払う。


     「良くもそんな不謹慎なことが言えますね」

    加賀 「事実でしょう?」

    加賀 「それに大和さん・・・」

    加賀 「あなたが秘書艦をしていた時は轟沈が私の時より遥かに多かったわよね」

    加賀 「慣れてるんでしょ?私より・・・轟沈に」フフ

     「発言を撤回してください!!」


     大和の艤装砲塔が静かに揺れる。


     「確かに大和が秘書艦をしていた時はあの海域の敵艦隊群と接触したばかりでしたし」

     「轟沈が多かったのは認めます!!」

     「けれど、一つ一つの轟沈の悲しみと経験を糧に轟沈を減らしていったんです」

     「轟沈を気にもかけない、あなたとは違うんです」

    加賀 「違う?秘書艦が私に変わっても轟沈数の減少は変わらず続いているじゃない?」

    加賀 「悲しみを糧にしてやっと私と同等なの?」

    加賀 「・・・笑わせるわ」

     「大和が今も秘書艦ならあなたよりもっと轟沈を減らせています!」

     「惰性で減ってるに過ぎない現状に満足しているあなたに言われたくありません!!」

    加賀 「言われたくない?あなたがふっかけてきたんでしょう」


     加賀が特大のため息をつく。

    462 = 1 :



     「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」


     大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。


     「珍しく被弾なさったみたいですね」

     「そのせいですか?」

     「慣れてないんでしょうけど・・・」

     「艦娘が大破如きで動揺するなんで敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」

     「ふふ・・・」

    加賀 「・・・」

     「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」

     「あっ、そうだ」

     「今日は旗艦じゃないんでしたね」

     「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ

    加賀 「大和さん、嬉しそうね」

    加賀 「一対一僚艦なしの模擬演習で私に手も足も出なかったからって」

    加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」

    加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」

     「・・・」

    463 = 1 :

    >>462
    誤字訂正次レス

    464 = 1 :



     「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」


     大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。


     「珍しく随分被弾なさったみたいですね」

     「そのせいですか?」

     「慣れてないんでしょうけど・・・」

     「艦娘が大破如きで動揺するなんて敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」

     「ふふ・・・」

    加賀 「・・・」

     「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」

     「あっ、そうだ」

     「今日は旗艦じゃないんでしたね」

     「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ

    加賀 「大和さん、嬉しそうね」

    加賀 「一対一の模擬演習で私に手も足も出なかったからって」

    加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」

    加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」

     「・・・」

    465 = 1 :


    長門 「止めないか、お前たち」


      長門と陸奥が歩み寄る。


    長門 「鎮守府の多くが聞いてるぞ」


     朝潮が振り返ると朝潮から更に遠巻きに、

     解散したと思っていた艦娘たちがぞろぞろと集まり加賀と大和を見つめていた。


    長門 「加賀、大和の方が鎮守府では古株なんだから立てたらどうなんだ?」

    加賀 「今の秘書艦は私よ」

    陸奥 「まぁまぁ~」

    陸奥 「もう寒いし解散しましょ、ね?」


     誰ともなく大和からその場を離れ他の艦娘たちも散った。

     朝潮の前を加賀が通り過ぎる。

     その時には加賀への失望で話しかける気は消えていた。



    ―――――
    ―――

    466 = 1 :




     艤装を入渠させ、新しい制服を大和に支給してもらい、お風呂に入る。

     今日の新しい制服は普通にノリの臭いがした。

     清潔な体で新しい制服に袖を通す。


     自室まで色々な艦娘に賞賛や慰めの言葉をかけられた。

     言葉少なに応じても荒潮の轟沈に気を落としていると思われるのか

     提督が心配したように命令違反を疑われることはない。


     自室に入りベッドへ手に持っていた畳まれたダンボールを投げる。

     大和から新しい制服と一緒に支給されていた。


     椅子へ座りため息を吐く。


    コンコン


    朝潮 「はい」

    霞 「入るわよ」

    朝潮 「どうぞ」

    大潮 「朝潮ちゃん?」

    朝潮 「いらっしゃい」


     霞と大潮の大きい目は赤くなっていた。

    467 = 1 :



    霞 「もうダンボールがあるなら話は早いわね」

    霞 「手伝うわ」

    大潮 「いつまでなんですー?」

    朝潮 「できればと言われてるけど」

    朝潮 「大和さんに夕方の周回トラックに載せるよう言われているわ」

    霞 「早いわね、ならとっとと始めましょう」


     言葉少なに作業が始められる。

     荒潮のような轟沈した艦娘の私物は遺族へ送られる。

     当然その作業は同室の朝潮に命令されていた。


    霞 「まず、荒潮の私物を全て並べてからね」

    霞 「種類を分けて綺麗にダンボールに入れるわよ」

    霞 「その方が隙間が減って物同士で傷付け合うことないし」

    霞 「それに、一つの箱に沢山入って節約にもなるわ」

    大潮 「おー」


     霞が朝潮を気遣って陣頭指揮を執る。

     荒潮の私物は少なく、並べるのはすぐ終わった。


    朝潮 「これ・・・全部どうするのかしら」


     荒潮らしい少し大人びて落ち着いた私物が多かった。

     文具や本、日用品や私服は持ち主を喪ったせいか、どこか寂しげに並んでいる。


    霞 「孤児院で他の子に使うか・・・」

    霞 「艦娘の適正は遺伝みたいなところもあるって言うから」

    霞 「荒潮の妹に適正があればそのまま使うんじゃないの」

    大潮 「妹ちゃんたちはなりたいと思いますかね?」

    霞・朝潮 「・・・」

    霞 「ばっかねぇ、なりたいって思うわよ」

    大潮 「そうですよね」

    朝潮 「・・・」

    朝潮 (荒潮は勇敢だったとだけ伝えられる)

    朝潮 (けど、その活躍のために乗り越えてきたものは伝えられない)

    468 = 1 :



     並べられた私物に目を落とす。

     朝潮の目にふと一つのノートが飛び込む。


    朝潮 「このノート・・・」

    霞 「あっ!」


     ノートはキャラクターものや可愛い動物のシールが貼られた実に少女趣味なものだった。

     ただ、荒潮の私物たちからは浮いていた。


    大潮 「満潮ちゃんのノート・・・」

    霞 「とってたのね・・・」

    朝潮 「満潮?・・・以前轟沈した満潮?」

    大潮 「そうです・・・」

    霞 「・・・」

    朝潮 「これが?・・・荒潮が昨日お風呂で言ってた満潮の日記?」

    大潮 「朝潮ちゃんに話してたんですね」

    霞 「知ってるなら、止めないけど・・・読む気?」

    朝潮 「うん、読んでおきたい」


     朝潮はノートを開く。

     ノートの前半は荒潮が昨日風呂で語っていた満潮の日記となっていた。

     パラパラめくると日々の思いや出撃の苦悩がそれに合わない可愛い字で綴られている。

     内容は荒潮が話した通りだった。

    469 = 1 :



    朝潮 「あれ・・・日記の後半から文字が変わってる?」

    朝潮 「これ、荒潮の字だ・・・」

    霞 「えっほんと?!」ズイ

    大潮 「見せてくださいー」ヒョコ

    霞 「文字が変わってる日、満潮が轟沈した日付と同じ・・・」

    大潮 「満潮ちゃんの日記の後ろに荒潮ちゃんの日記が続いてますね」


     朝潮は日記を三人の真ん中に広げ読み進める。


    大潮 「凄く・・・報告書に似てますね」

    朝潮 「あぁ・・・」

    霞 「そうね・・・」


     日記にしては病的なほど思いも感情もない報告書のような文体は、

     満潮のそれと対照的で自身の感情を殺そうとする荒潮の苦悩が感じられた。


    霞 「「~だと思いました」「頑張ります」を連発する大潮の報告書よりよっぽどしっかりしてるわ」

    霞 「本当に日記なの?これ」

    大潮 「さり気なくバカにされた気がします」


     客観的過ぎる荒潮の日記は一見わかりくいものだった。

     しかし、一緒に出撃していた朝潮にとってその全てが目新しいものではなかった。


    朝潮 「間違いなく荒潮の日記よ・・・一緒に出撃してたからわかる」

    大潮 「そうですかー」


     しかし、一部わからないものがあった。

    470 = 1 :



    朝潮 「これ・・・霞交換、大潮交換って何かわかる?」


     最後数日の日記末尾に付く、暗号のような文字。

     ページを見せながら霞と大潮に尋ねる。


    大潮 「んー・・・」

    霞 「あ・・・知らないわね」

    朝潮 「?」

    大潮 「あっ思い出したそれ、制服交換 モガモガ

    霞 「もうっ!!・・・」

    朝潮 「制服交換?」


     霞がためいきを吐きながら、大潮の口から手を外す。


    霞 「はー・・・そうよ」

    朝潮 「荒潮と?」

    大潮 「そうです!」

    霞 「もう・・・」

    朝潮 「???」

    霞 「この前、遠征艦隊だと制服の交換が基本的に認められないって話したでしょ?」

    朝潮 「あぁ・・・あの話」


     少し前の食堂で、荒潮を含めた四人で話していた時の話題だ。

     あの時、霞が古い制服を着続るのは辛いと愚痴っていたのを朝潮は思い出す。

    471 = 1 :



    朝潮 「そういえば、あの時は霞と大潮の制服によれと汚れがあったけど・・・」

    朝潮 「今はなくなってるわね」

    朝潮 「荒潮と交換してもらってたのね」

    霞 「余り驚かないのね」

    朝潮 「荒潮だから」

    大潮 「・・・」

    朝潮 「私も言ってくれたら交換したのに・・・」

    霞 「あきれた、ばれたら懲罰ものよ」

    朝潮 「けど、ばれないでしょ?」

    朝潮 「廃棄される制服はぼろぼろでチェックされないじゃない?」

    霞 「確かに足はつかないかもしれないけど、イコールばれないじゃないのよ?」

    大潮 「そうです、朝潮ちゃんみたいに制服の変化に気付く人もいるかもしれませんし」

    朝潮 「それはそうかもしれないけど・・・」

    朝潮 「言ってくれたら何時でも交換するわよ」

    大潮 「大潮はもう交換しなくて大丈夫ですー」

    大潮 「余り綺麗な制服を遠征艦隊で着てるとばれないかと気が気じゃないですし!」

    霞 「私もパス」

    霞 「孤児院出身なんて、ものは壊れてからが本番でしょ?」

    霞 「新品の制服なんて着慣れてないからむず痒くなっちゃうわ」

    霞 「それに、荒潮もあなたを巻き込みたくなくて言わなかったんじゃないの?」

    朝潮 (荒潮・・・)


     目を落とすと一番新しいと思われる交換のしるしが目に入った。

    472 = 1 :



    朝潮 「最後のしるしは・・・一昨日で霞が交換でいいの?」

    霞 「そうよ」

    朝潮 「一昨日はあの危険海域でなく通常海域への出撃だったわね」

    朝潮 「私と荒潮二人で小破したの、覚えているわ」

    霞 「その時支給されたピッカピカの制服を荒潮と交換したのよ」

    霞 「交換?って言うより追い剥ぎされたというか」

    朝潮 「?」

    大潮 「あー・・・」

    霞 「一昨日急に荒潮が部屋に入ってきてね」

    大潮 「ありましたねー」

    霞 「新品の制服を着てきて「交換しましょ」って言ってきたのよ」

    朝潮 「じゃあ、霞は一昨日に荒潮が手に入れた新しい制服を着てるのね」

    霞 「そうなるわね、私最初は断ったんだけど・・・」

    霞 「荒潮は妹や弟いるじゃない?」

    霞 「それで慣れてるせいか良いように脱がされちゃって・・・」

    大潮 「騙されてばんざいして一瞬でしたねー」

    霞 「何すんのよって言って取り返そうとすると既に私の制服を奪って着た荒潮がね」

    霞 「「脱がす気?!やだ~ウフフ」って茶化してきてね」

    大潮 「あの時の霞ちゃん可愛かったですねー」

    霞 「・・・何言ってんのよ、そんなことないわよ」

    朝潮 「そうよ、霞は何時も可愛いじゃない」

    霞 「あのねー・・・」


     朝潮は霞の視線を躱し最後の数ページへ進む。



    ―――――
    ―――

    473 = 1 :




    朝潮 「『朝潮が執務室に呼ばれたまま、戻らない』」

    朝潮 (昨日の日記・・・)


     荒潮の第一艦隊所属を止めてもらうよう提督に身を捧げ交渉していた、昨日。

     朝潮には力がなく、そうすることでしか荒潮を守ることができないと思った。

     同じ決意で挑んだ今日の戦闘で荒潮を喪い艦隊を危険に晒した。


    朝潮 (もっと早く知覚を手に入れてれば・・・)

    朝潮 (いや、知覚を知っている提督の発言、加賀の無言)

    朝潮 (私の知覚は本物?)


    大潮 「この時、朝潮ちゃんは執務室で何してたんですー?」

    霞 「今日は朝潮が旗艦で活躍したって提督が言ってたでしょ?」

    大潮 「凄いですよねー」


    朝潮 (最終戦闘・・・)

    朝潮 (覚醒する前の弱い知覚で戦闘中に荒潮の同調の大きな変化は感じなかった)

    朝潮 (だから最後の砲撃まで全くと言っていいほど荒潮に被弾はなかったと思う)

    朝潮 (同調は変わらないまま、気付いた時には轟沈前の弱い同調だった)


    霞 「だから、旗艦として執務室であのクズと作戦とか打ち合わせしてたんでしょ?ね?朝潮」

    朝潮 「あぁ・・・うん」

    大潮 「打ち合わせって何するんです?」

    大潮 「・・・朝潮ちゃん?」

    474 = 1 :



    朝潮 (最終戦闘の最初から・・・最初から荒潮は・・・大破してた?)


    大潮 「朝潮ちゃん?」オズ

    朝潮 「ん!何?!」

    霞 「あんた大丈夫?」

    朝潮 「あっごめん!・・・執務室のことね」

    朝潮 「今日から制服の損耗判定を提督だけでなく旗艦もすることになってね」

    朝潮 「その打ち合わせと他の第一艦隊の先輩たちの損耗表を覚えるのが長引いちゃって・・・」

    大潮 「あー、だぶるチェック?ってやつですか」

    霞 「あのクズも必死よねー」


    朝潮 (そうだ、私だけじゃない・・・提督も制服の損耗判定をしたんだ)

    朝潮 (大破進軍なんてあるわけない)

    朝潮 (なら、私の知覚がやっぱり間違ってたの?・・・)


    大潮 「慎重なのは良いことだって龍田さんいつも言ってます!」

    霞 「まぁ、そうよ」

    霞 「特に轟沈の危険がある第一艦隊にはね」


    朝潮 (確かなのは荒潮が轟沈したことと艦隊を危険に晒してしまったことだけ・・・)


     許されることではなかった。

     その責任を差し置いて知覚について思い悩むことが、

     生真面目な朝潮にとって責任から逃げているように感じられ、知覚への思考を鈍らせた。

    475 = 1 :



    霞 「ね、朝潮!・・・朝潮?」

    霞 「あんたさっきから顔色悪いわよ・・・大丈夫?」

    大潮 「後は大潮たちに任せて休んでもいいですよ?」

    朝潮 「いや、大丈夫。ごめん、心配かけて・・・」

    霞 「馬鹿ねぇ、気にせず頼りなさいよ、仲間でしょ?」

    大潮 「何かあったら大潮も力になります!」

    朝潮 「ありがとう」


     止まっていた手でページをめくる。


    朝潮 「『朝潮の代わりに自分と朝潮の艤装を入渠ドッグに取りに行く』」

    朝潮 「『入渠ドッグに着いた時、艤装の入渠はバケツが使われたのか両方終わっていた』」

    朝潮 「『艤装倉庫に二つとも収める』」

    朝潮 「あぁ、そうか」

    朝潮 「昨日は艤装を入渠ドッグへ引き取りに行けなかったんだ」

    霞 「そうそう、あんた執務から部屋帰ったらすぐ寝て今日の出撃まで起きなかったんでしょ」

    霞 「修復液まみれの艤装は流石にこの時期つらいわよ」

    朝潮 「そうね、荒潮にはお世話になりっぱなし・・・」

    朝潮 「それにしても入渠時間の短い駆逐艦に高速修復材を使うものかしら?」

    朝潮 「大破の荒潮はまだしも私は中破よ」

    霞 「昨日はあの後も出撃繰り返していたでしょ」

    霞 「そういう時は状況が変わって途中から高速修復材なんてザラよザラ」

    霞 「別に珍しいことじゃないわ」

    朝潮 「そうなんだ」

    476 = 1 :


    朝潮 (中破と大破・・・)


     昨日の中破で帰港した時を思い出そうにも、虚ろだったことで記憶や感覚がはっきりしない。


    朝潮 (虚ろだった?虚ろだったのは・・・?)


     考えがまとまらない。



    ―――――
    ―――



     固まった朝潮を置いて、大潮が荒潮の最後の日記を読み上げる。


    大潮 「『朝潮が深夜まで帰ってこない』」

    霞 「あんたが執務室に殴り込みした日と同じで荒潮心配してたわよ」

    大潮 「私は部屋で待機してました」

    霞 「一応また探したのよ」

    朝潮 「また夜遅くまで探してくれてたんだ」

    朝潮 「ごめん・・・」


     朝潮の脳裏に今朝の体調が悪そうな荒潮の顔が浮かぶ。


    霞 「気にすることないわ」

    霞 「悪いのはあの海域よ」

    霞 「朝潮は悪くない」


     知らず朝潮の顔に浮かんでいた苦悩の表情に霞が慰めの言葉をかける。

    477 = 1 :



     大潮も朝潮の気分を転換させるため、頭を捻って話題を絞り出す。


    大潮 「そう言えば、葬儀がされたのは荒潮が初めてですね」

    霞 「そうね、荒潮はあれで寂しがりやだったから良かったじゃない」

    朝潮 「初めて?」

    大潮 「いつもは葬儀しないんです」

    朝潮 「あ」


     荒潮が昨日お風呂で話していたことを思い出す。


    霞 「いつもは葬儀しないどころか、轟沈を報告するだけで次の部隊で出撃してるのよね」

    霞 「あいつ艦娘を何だと思ってるのかしら」

    大潮 「深海棲艦がいる限り戦争が続いて轟沈がなくならないなら、大潮は仕方ない気もします」

    霞 「まぁね、出撃するしかないのもわかるけど・・・」

    大潮 「その御蔭か、あの海域の轟沈って減ってたんですね!」

    大潮 「大和さんと加賀さんの話を聞いて初めて知りました」

    朝潮 「私も・・・」

    霞 「はぁ・・・それくらい知っておきなさいよ」

    大潮 「霞ちゃんは

    霞 「物知りさんですー?」

    霞 「大潮、あんた私を褒めとけば便利とか黒いこと考えてないでしょうね?」

    大潮 「黒い?」

    霞 「まぁいいわ」

    478 = 1 :


    霞 「あの海域の轟沈は減ってるのよ」

    霞 「本当に少しずつだけどね」

    朝潮 「ふーん」

    大潮 「いつか轟沈はなくなるんですかねー」

    霞 「このペースだと十数年かかりそうよ」

    大潮 「うえぇぇ」

    大潮 「そんな少しの減少で大きい小さいって加賀さんと大和さんはやってたんですかー」

    霞 「あんた言い難いこと割と容赦なく言うのここだけにしなさいね」

    朝潮 「轟沈の話もそうだけど、加賀さんと大和さんは仲が良くないの?」

    霞 「見てたらわかるでしょ?」

    霞 「険悪ってレベルじゃないわよ」

    朝潮 「何かあるの?」

    大潮 「あります、恋のライバルです!」

    霞 「そんな綺麗事じゃなくてもっと根深いわよ!」

    朝潮 「そうなの?」

    霞 「あの危険海域って元々出撃禁止が検討されてたの知ってる?」

    朝潮 「え?!」

    479 = 1 :


    霞 「少中破からの轟沈が多発するんで異常だって、当然よね」

    霞 「それで何度も大本営から査察、不正を疑われて憲兵から臨検とか色々あったらしいわ」

    霞 「そういう面倒事や疑惑を晴らして、あの海域攻略のレールを引いたのが大和さんなのよ」

    霞 「それをぽっと出の加賀さんにとられたようなもんだから・・・誰だって面白くないでしょ?」

    朝潮 「とられた?」

    大潮 「加賀さんが大和さんから秘書艦をとった話ですー?」

    霞 「そう、それ」

    霞 「正確には大和さんが秘書艦としてさっき言ったレールを引き終わった後ね」

    霞 「加賀さんが配属になってすぐ模擬演習で大和さんを倒して提督のお気に入り」

    霞 「で、すぐ大和さんに代わって新しい秘書艦になったってわけ」

    朝潮 「あの司令官ならやりそうね」

    霞 「まぁ、そういうわけよ」

    大潮 「大潮は大和さんは秘書艦とあの危険海域に思い入れがあるって聞いてますねー」

    霞 「ふーん」

    朝潮 「思い入れって・・・あの海域攻略のレールを引いた以外に?」

    大潮 「ですですー」

    霞 「何それ話してみなさいよ」

    大潮 「大和さんは加賀さんと違って、前任の秘書艦が轟沈して秘書艦になったらしいんです」

    霞 「あー聞いたことあった」

    大潮 「大和さんが継いだ・・・轟沈した前任の秘書艦が仲の良かった武蔵さんで」

    大潮 「その武蔵さんが轟沈したのがあの海域らしいですー」

    480 = 1 :


    霞 「そりゃ、あの危険海域で秘書艦として暴れて敵討ちしたいでしょうね」

    朝潮 「え?!武蔵があの海域で轟沈してるの?!」

    大潮 「そうです、間違いなく大和型二番艦の武蔵さんですよ」

    霞 「別に驚くことじゃないわ」

    霞 「殆どの艦種で轟沈は起こってるし、戦艦が例外ってこともないわ」

    朝潮 「殆ど?」

    霞 「って、こんなんじゃ作業終わらないじゃない」


     時計を見上げれば、周回トラックの来る刻限が迫っていた。

     霞の号令の元、三人でダンボールに荒潮の私物を積めて行く。


     荒潮が朝潮に言った通り、轟沈した荒潮の体は骨も何も一切残らなかった。

     その荒潮の全てとなった私物が一つずつ、ダンボールに埋葬される。

     それぞれの私物に三人それぞれ荒潮との思い出が詰まっていた。


     大潮がまん丸い目玉に今にも溢れんばかりに水を貯める。霞も上を向く。

     この時、朝潮は気付く、霞と大潮は涙が枯れたのでなく朝潮の前で泣かまいとしていることに。

     それが優しさからの心遣いだと思うと朝潮は素直に泣けなかった。


     無理やり涙を止めすぎて大潮は涙を止めたまま引きつけを起こしたかのように震えた。

     霞はぼそぼそと馬鹿とつぶやきながら作業を続ける。

     積め終わる頃には三人の目から涙が止めどなく溢れ声を出して泣いていた。



    ―――――
    ―――

    481 = 1 :




     加賀が執務室をノックすると、入れ違いで大和が出てくる。


     「・・・」キッ

    加賀 「・・・こんにちは」


     大和はひと睨みすると挨拶もせず廊下へ消えた。

     加賀は執務室に入る。


    提督 「遅かったな」

    加賀 「そういう割にはぎりぎりまで大和さんとよろしくやっていたようね」

    提督 「離してくれなくてな」

    加賀 「座っても?」

    提督 「許可する」


     加賀は秘書艦用の机に着く。

     執務室は何時もより煙たい。

     提督の机の灰皿は一杯になろうとしていた。

    482 = 1 :



    提督 「さてと・・・どこから話してもらおうか」スパー

    提督 「まずは荒潮の救助作戦だ」

    提督 「何故おれの命令を無視して荒潮を助けようとした?」

    加賀 「提督が朝潮に言っていた通り・・・提督の安全のためよ」

    提督 「・・・他に方法はなかったのか?」

    加賀 「朝潮と旗艦を交代するとか他にも方法はあったでしょうね」

    加賀 「けれど、どの方法も朝潮の暴走の可能性を考えると・・・無理ね」

    加賀 「指揮作戦艇の防御に隙を生まないためにはあの方法しかなかった、断言できるわ」

    提督 「そうか」

    提督 「しかし、制空圏を抑えなければいずれ負けることもわかっていただろ?」

    加賀 「あの時、私が何より優先したのは朝潮を指揮作戦艇の側にいさせることよ」

    加賀 「負けることや、それで荒潮が轟沈しようがどうでも良かったわ」

    提督 「その割には荒潮を守るのに必死だったように見えたが」

    加賀 「必死?」

    加賀 「本気で言ってるの?」

    提督 「・・・」

    483 = 1 :


    加賀 「いつもなら・・・いつもなら荒潮が轟沈しようがどうでも良かった、けれどね」

    加賀 「新地方本部長官の選考中で轟沈を控えるように言われて出撃を止めていた危険海域」

    加賀 「そこへの出撃を再開した途端に轟沈となれば・・・どうなると思う?」

    加賀 「当て付けと思われるか、能力不足と思われるか」

    加賀 「どちらにしろ上の心証は最悪よ」

    提督 「それでお前らしくもなく駆逐艦如きを命懸けで守りました、と」

    加賀 「茶化さないで」

    加賀 「私の進退にも関わるのよ、本気にもなるわ」

    提督 「ふふ、悪いな」

    加賀 「聞いていい?」

    提督 「何だ?」

    加賀 「何でいまさら小規模とは言え荒潮の葬儀をしようと思ったの?」

    加賀 「それに何時もなら轟沈に構わず連続出撃してたわよね?」

    提督 「お前にくらい話しておくか」

    提督 「出撃再開してすぐの轟沈、おれも目が付けられるとわかってる」

    提督 「だから、反省している振りをするためというのが一つ」

    提督 「後は単純に出撃頻度を減らして轟沈数を減らしたいという理由からだ」

    加賀 「本当に新地方長官になるつもり?」

    提督 「・・・」

    加賀 「なら何で荒潮を殺したの?」



    ―――――
    ―――

    484 = 1 :




    提督 「ごほっごほっっ・・・・はぁ?!」


     むせた提督が灰皿の残った狭いスペースに煙草を押し付け加賀を睨む。


    提督 「冗談がきついぞ」

    加賀 「私の知覚が確かなら、荒潮は最終戦闘開始時には大破していたわ」

    提督 「なんだと?!」

    加賀 「昨日荒潮が大破したばかりで、その同調の乱れを私が覚えていたこと」

    加賀 「最終戦の前に陣形を乱した荒潮が同調を感じられる距離まで私に近づいてきたこと」

    加賀 「この2つでおぼろげながら知覚することができたの」

    提督 「なら何で進言しなかった」

    加賀 「おぼろげながらと言ったでしょ」

    加賀 「この知覚について他言無用と言った時に・・・言ったはずよね」

    提督 「不安定で実戦の勘も絡むから精度は低いというやつか?」

    加賀 「そうよ、不正確なことはわざわざ進言できないわ」

    加賀 「それに、さっきも言ったけどこの時期に轟沈があると思わないでしょ?」

    提督 「はぁ?!」

    提督 「何でおれの都合が悪い時に轟沈が起こらないと思っているんだ?」

    加賀 「どう取ってくれても結構よ」

    加賀 「けどね」

    加賀 「これまでの轟沈では、沈む娘を、囮にしたり、煙幕代わりにして奇襲したり」

    加賀 「轟沈がわかっていたかのようにそれを利用して勝利してきたわよね?」

    提督 「今日は敗走しようとしてただろ」

    加賀 「何かイレギュラーなことが起こったんじゃないの?違う?」


     提督は新たな煙草に火を付け吸って吐くという作業を繰り返すだけだ。

    485 = 1 :



    加賀 「まぁ、いいわ」

    加賀 「私だって深く知りたくない」

    提督 「なぁ」

    加賀 「何かしら?」

    提督 「お前らの知覚はそうポンポン手に入るものなのか?」

    加賀 「ないわ、地方本部に一人いるかいないかじゃないかしら?」

    提督 「この鎮守府に二人いるぞ」

    加賀 「今まで見たことある?」

    提督 「ない」


     色々な鎮守府と交流する提督の立場から聞いたことさえない能力だった。


    提督 「できることは、損傷度の把握・敵の行動の予知、の2つだけか」

    加賀 「多分・・・」

    提督 「多分?」

    加賀 「私も我流でやっているのよ」

    加賀 「提督が言った2つだけと断言はできないということよ」

    提督 「ほぅ」

    486 = 1 :


    加賀 「それに朝潮・・・」

    提督 「朝潮がどうした?」

    加賀 「蝙蝠は人間より広い可聴域によって耳を音を聞くだけでなくレーダー代わりに使っているわ」

    提督 「お前より知覚が優れているから使い方も増えるということか」

    加賀 「可能性の話よ」

    提督 「朝潮はその可能性を加賀に感じさせるほどには優れているわけだ」

    加賀 「・・・」

    提督 「言うほど朝潮は優れているのか、信じられんな」

    加賀 「私が覚醒したのは朝潮よりもっと後よ」

    加賀 「加えて、荒潮の損傷度に対する感度ね」

    加賀 「私は近距離でやっとわかるのに、朝潮は集中すれば距離があっても問題なかった」

    提督 「加賀がべた褒めか、これなら明日からの出撃が楽しみだ」

    加賀 「果たしてそう上手く行くからしらね・・・」

    提督 「問題でもあるのか?」

    加賀 「明日、朝潮は満足に動けないまますぐ大破すると思うわよ」

    提督 「今日の最終戦闘ではそのような素振りはなかったが・・・」

    加賀 「朝潮に対してヲ級とタ級からの攻撃はあった?」

    提督 「・・・」

    加賀 「なかったでしょ?」

    加賀 「知覚に慣れるまでは、新たな感覚に脳みそをかき回されてる状態よ」

    加賀 「避けるとか、撹乱するとか、動きが伴うとボロが出るわよ」

    487 = 1 :


    提督 「慣れるまでどれくらいかかる?」

    加賀 「さぁ?不確定要素が多過ぎるわ」

    加賀 「このまま駄目になる可能性もあるわ」

    加賀 「確かなのは、朝潮の知覚を提督が否定したから慣れるまでの期間が延びてるだろうことだけよ」

    提督 「嫌味か?」

    加賀 「・・・」

    提督 「まぁ、いい」

    提督 「一応、明日の出撃は朝潮を旗艦に据え、挙動が怪しければすぐ撤退するよう配慮しよう」

    加賀 「お優しいことね」

    提督 「貴重な能力だからな」

    提督 「ところで、この能力は大和みたいな強力な艦娘なら習得できたりしないのか」

    加賀 「不可能ね」

    提督 「お前に艦種の相性で負けても大和が弱いわけではないだろう」

    提督 「あいつに何が足りない?」

    加賀 「砲艦はこの知覚に対して適正がないのよ」

    提督 「どういうことだ」

    加賀 「この知覚というのは、端的に言えば同調に対する感覚よ」

    加賀 「必要なのは、繊細な同調といかなる時も冷静でいられる心の強さ」

    提督 「同調ねぇ・・・」

    488 = 1 :


    加賀 「艤装だけでなく艦載機とも繊細な同調を求められる空母はまだしも砲艦にはとても無理よ」

    提督 「そこまで違うのか」

    加賀 「砲艦は・・・感情の爆発を同調に乗せることで砲撃の威力を出すのでしょ?」

    提督 「同調に感情という異物が入るというのか」

    加賀 「どちらかと言うと、感情を出すから冷静でいられないことが問題ね」

    提督 「大和も、轟沈した金剛も、戦艦で強いのは確かに直情的かもな」

    提督 「だからこそ強かったとも見ることができるが・・・」

    提督 「それに比べて確かに空母には冷静な落ち着いた奴が多いな」

    加賀 「五航戦のような例外もいるけどね」

    提督 「余りいじめるなよ」

    加賀 「ふん」

    提督 「だから、加賀の艤装に適性のある朝潮が覚醒できたのか」

    提督 「そうなると・・・益々大和の考えがわからんな」

    加賀 「どうしたの?」

    提督 「お前と模擬演習をさせてくれとさっきまでゴネられててな」

    加賀 「ふーん・・・」

    提督 「あれだけ加賀に惨敗して挑むには勝算があってだろ」

    加賀 「ふふ、どんな奥の手を用意しているのかしらね」

    提督 「挑むだけなら可愛い、けどなぁ秘書艦を賭けろと言うんだ」

    加賀 「じゃあ、明日の舟遊びの同伴も」

    提督 「当然そうだ」

    提督 「大和に損はなく加賀に何の利益もない」

    提督 「だから、加賀の回答次第だと言ってあ

    加賀 「良いわよ、大和と遊んであげても」


     提督は、驚きを隠さず加賀を見つめる。



    ―――――
    ―――

    489 = 1 :




    提督 「お前に何の意味がある?」

    加賀 「意味?格の違いを教えてあげるくらいかしら」

    提督 「・・・大和に同情するよ」

    加賀 「さて、そうなるかしらね」

    提督 「ん?」

    提督 「まぁ、大和に知らせておくか」


     提督は電話へ手を伸ばし、受話器を取り内戦のボタンを押す。

     瞬間、電話がけたたましく鳴り提督の手が止まる。


    加賀 「外線よ」

    提督 「わかってる」


     受話器を耳にかけたまま、フックを押す。


    提督 「はい、こちら鎮守・・・これは地方長官」

    提督 「お孫さんが生まれまし・・・はぁ・・・え?・・・存じ上げませんが」

    提督 「はい・・・・いえ、全く身に覚えが・・・・・・・・はい、その通りです」

    提督 「いえ・・・そうです、はぁ・・・承知しました」

    提督 「恐らく、新地方長官レースの対抗馬からでしょう・・・・そうです・・・デマですよデマ」

    提督 「・・・はい、勿論です」

    提督 「ありがとうございます・・・では失礼します」


     提督は受話器を置きため息を付く。

    490 = 1 :



    加賀 「どうしたの?」

    提督 「今日の命令違反をチクったのがいる」

    加賀 「はぁ?!」

    加賀 「ありえない・・・」

    加賀 「命令違反を密告させないように艦隊全員に対して朝潮同様きつく脅しをかけたじゃない?!」

    加賀 「本当なの?」

    提督 「・・・憲兵隊から地方長官に、おれの身元について照会があったらしい」

    提督 「反乱、命令違反の疑いがあるから戦績や人柄などの情報を出すよう言われたそうだ」

    加賀 「チっ・・・」ギリ

    提督 「犯人探しはいい」

    加賀 「しかし・・・」

    提督 「リンチでもする気か?それをすれば本当に問題になるぞ」

    加賀 「はぁ・・・そうね」

    加賀 「けど、安全を考えて明日の舟遊びはなしね」

    提督 「ふふ・・・」

    加賀 「何が可笑しいの?」

    提督 「この件のもみ消しでもっと金がいる・・・舟遊びはやる」

    提督 「楽しみだな、そうだろ?」

    加賀 「・・・」


     舟遊びという名のコアの密売への同行へ加賀は不安な表情を見せる。


    提督 「不安か?」

    加賀 「普通はそうよ・・・」


     提督からは髪に隠れて見えない加賀の右耳にはめられた受信機が微音を発していた。


    受信機 「ガガ・・・ガチャ・・・朝潮・さん」



    ―――――
    ―――

    491 = 1 :

    本日投下分はこれまで。
    ご読了まことにありがとうございます。
    恐らく後二回前後の投下で終わる見込みです。
    何卒最後までお付き合いをよろしくお願い申し上げます。

    493 :

    おつ

    494 :


    生きてて良かった

    495 :

    >>492>>493>>494
    乙お米ありがとうございます
    これからも頑張って生き残りSS書きます

    496 :


    おかえり!

    497 :

    >496
    ただいまです。お米ありがとうございます。
    後投下は二回前後と書いたものの、いまさら二桁回かかりそうな気もしてきました。
    気長にお付き合いいただければ幸いです。

    498 = 1 :

    投下再開します

    499 = 1 :




    加賀 「提督、間違いがないように第一艦隊の所在を確認だけしてくるわ」ガタ

    提督 「他の人間に気取られんよう慎重に行え」

    提督 「おれの名前を使ってもいい」

    加賀 「提督も密告した犯人が第一艦隊なら、もう鎮守府にいないと思う?」

    提督 「思う」

    提督 「証人保護プログラムで身をくらましてるだろ」

    加賀 「そうね」

    提督 「いない奴がいれば、そいつが嘘を言ってるように口裏合わせ」

    提督 「もし、全員残っていれば、口が軽いのから聞いた第三者だ」

    提督 「その時は第一艦隊に口止めを徹底すれば事足りる」

    加賀 「同感ね」

    加賀 「あ、そうそう」

    提督 「何だ?」

    加賀 「大和さんと話したのは模擬演習のことだけ?」

    提督 「?そうだが・・・」

    提督 「大和とすれ違った時に煙草以外の臭いでもしたか?」

    加賀 「いえ、戦果が悪い時の癖でも出たのかと思ったけど違うのね」

    提督 「ふっ・・・」

    提督 「いる間は始終、模擬演習に出せ出せだったよ」

    加賀 「残念そうね」

    提督 「言わせるな」

    提督 「代わりにお前が付き合うか?夜にどうだ?」


     加賀は思案顔をしつつ椅子を机に収めると後ろ手を振りながら口を開く。


    加賀 「今日の夜は明日の模擬演習に向けて集中したいから・・・」

    加賀 「それに提督とは明日できるでしょ?」

    提督 「そうか、しょうがないな」

    加賀 「もう行っていい?」

    提督 「あぁ、問題があればすぐ言え」

    加賀 「わかったわ」


     提督の振る手を見て加賀は執務室を出た。


     結果として出撃した第一艦隊のメンバーは全員鎮守府にいた。

     提督と加賀はこれ以上動揺させないよう軽い口止めを行うに留めた。



    ―――――
    ―――

    500 = 1 :




    ~訓練所~


     月はなく星だけが照らす暗い夜。

     倉庫街の間を艤装を装備して歩く朝潮。


    朝潮 「はぁ・・・」

    朝潮 (荒潮の私物が詰まったダンボールを送り出し・・・)

    朝潮 (戦闘後の会議が終わったと思ったら、その後に加賀さんに集められて口止め)

    朝潮 (やっと開放されたかと思ったら・・・)

    朝潮 (荒潮のことを忘れたかのように加賀さんと大和さんの模擬演習で食堂の話題は持ち切り)

    朝潮 (明日も出撃があるのに悲しむ暇さえ・・・)


     目的地のすぐ側にいくつかの倉庫をぶちぬいて作られた射撃訓練所があった。

     朝潮が中を覗くとレーンは全て第一艦隊所属の艦娘で埋め尽くされていた。

     あるレーンでロープに足を吊られた羽黒が射撃訓練をしている。

     その羽黒を吊るロープを那智が竹刀で不規則に叩き揺らしていた。


    羽黒 「ひいいいいいい」

    那智 「馬鹿者ォ!!!荒れた海上はこんな揺れでは済まんぞ!!!」

    羽黒 「はっはい」

    那智 「言われんでも、もっと・・・腰を、入れんかああ!!!」

    羽黒 「ひゃいいいい!」


     羽黒のレーンに限らず訓練場は戦闘前の指揮作戦艇のように殺気に満ちていた。

     全員が何かを拒絶し振り払うかのように訓練に打ち込んでいる。


    朝潮 (みんな恐いんだ・・・)


     朝潮は静かに訓練所を出て、指定された場所に歩を進める。

     波の音が大きくなり訓練場から連発する発砲音と競り合うように響く。

     指定された訓練所すぐ裏の埠頭で海に向かい、朝潮に背を向けてある艦娘が立っていた。


    朝潮 「先にいらっしゃってたんですね」

    朝潮 「遅れて申し訳ありません・・・・・・大和さん」



    ―――――
    ―――


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