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    元スレ朝潮「制裁」

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    551 = 1 :



     「・・・」ハァ

     「・・・どこから聞いてらしたんですか?」

    加賀 「・・・全部、ね」

     「全部?」

    加賀 「あなたが朝潮の部屋へ、彼女を呼びに行ったところから」

     「はぁ?」

    加賀 「ここにあなたと朝潮の会話の全てを録音したデータもあるわ」

     「・・・」

    加賀 「不味いことがわかっているから・・・朝潮に話していた内容を私に伏せていたのでしょう?」

     「何を仰ってるのかわかりませんね・・・」

    加賀 「私でも気付いたのよ」

    加賀 「録音データを提督に聞かせたらどうなるかしらね・・・」

     「加賀さんが悪趣味な盗聴女ということがわかるだけではないですか?」

    加賀 「・・・お互い様よねぇ」

    加賀 「私は朝潮に・・・けど、大和さんは執務室に盗聴器をしかけているんでしょう?」

     「いい加減なことを言わないでもらえますか?」

     「執務室を盗聴なんて、加賀さんの命令違反ほどじゃなくても軍事裁判ものですよ」

    加賀 「明らかなことをとぼけてもね、追求する相手を逆なでするだけよ」

     「証拠がないのに明らか?・・・加賀さん日本語は大丈夫ですか?」

    加賀 「大和さん、まだ・・・「朝潮を呼ぶ時まだ加賀は提督と話していたのに不可能よ」・・・とか」

    加賀 「そう思ってる?」

     「・・・」

    552 = 1 :



    加賀 「朝潮が提督を殺そうと執務室に乗り込んだ夜・・・」

    加賀 「あの夜から朝潮を監視する必要を感じていたわ」

     「はぁ?」

    加賀 「私の提督のために・・・」

     「・・・」ギリ

    加賀 「朝潮に、脱走されたり、レイプされたと通報されれば、証拠はなくても提督の評判が落ちるもの」

    加賀 「だから内線をかければ良い呼び出し如きで朝潮と荒潮の部屋を尋ね・・・」

    加賀 「その時、勧められた椅子に盗聴器を仕掛けていたのよ」

    加賀 「まさかそれが、こんな場面で役に立つなんて私も驚いているのよ」フフ

     「心底気味の悪い自白ですね」

     「大和でなく憲兵にでもしてもらえませんか」

    加賀 「提督には、”朝潮が暴走しないよう手を打つ”と執務室で言ったのだけど・・・」

     「先ほどから大和が知っている前提でお話ししているようですけど・・・」

     「何度も言ってます通り、執務室の盗聴なんてしていませんので何もわかりませんよ」

    加賀 「なら、朝潮に話した話していた内容は?」

    加賀 「提督と私しか知らない会話の内容をどうやって知ったというの?」

     「提督に聞いたとか、色々方法はあるでしょう・・・」

    加賀 「それは不可能ね、命令違反の密告者探しで提督も私も忙しかったから」

     「・・・今回はたまたま提督と加賀さんが執務室で話しているのを、ドア越しに聞いただけです」

     「加賀さんが、暗闇から大和と朝潮さんの会話を盗み聞きしたように、です」

    加賀 「執務室のドアは艤装を付けたまま入れるように大きいけどね」

    加賀 「防諜のために一般的なドアより数倍厚くて多少の音は通さないわ」

    加賀 「ドアのノックや提督が致す時のように大きな振動や大声なら話は別だけどね」

    加賀 「ドア越しに会話を聞いた?・・・普通の会話の盗み聞きなんてまず不可能よ」

    加賀 「これからも嘘を付いて行く積もりなら最低限できるかを試した方がいいわよ」

    553 = 1 :



     「・・・何時からですか」

    加賀 「はぁ?」

     「何時から執務室の盗聴に気付いていたんですか」

    加賀 「随分と素直ね」

     「・・・」

    加賀 「私が気付いたのは、朝潮が荒潮の第一艦隊除隊を頼んできた時に都合よくあなたが現れた時からかしら」

     「・・・そうですか」

     「でしたら、大和や朝潮さんを殺すよう提督に提案していたのは、大和を釣るためだったんですか?」

    加賀 「・・・さぁ?」

     「はぁ?」

    加賀 「そんなことどうでもいいけれど、役に立ったでしょ?」

     「・・・随分急ごしらえに感じますけど、本当に録音できているんですか?」

    加賀 「ご心配どうも」

    加賀 「朝潮の部屋に仕掛けた盗聴器と同じものを、入渠していた朝潮の艤装に仕掛けるだけ」

    加賀 「砲撃音に負けないように馬鹿みたいに大声で話していたから、音質も問題ないわ」

    加賀 「ところで大和さん、自身がどういう状況にいるかわかっているの?」

    加賀 「余裕そうだけど」

     「当然でしょう?、未だ大和の方が有利なのですから」

    加賀 「有利・・・有利ねぇ・・・」

     「おわかりでないんですか?」

     「大和が執務室を盗聴していたことを自白した意味を・・・」

     「こちらにも加賀さんが命令違反をした確たる証拠があるということです」

     「命令違反という重罪を犯した加賀さん・・・それに対し執務室の盗聴をした大和」

     「罪の重さも交渉の材料においても大和が勝っていることは、火を見るより明らかです」

    加賀 「ふふ、交渉に置いて、要求や条件を出せるのは、有利な立場にある者だけど、まぁ・・・」

    加賀 「大和さんにも、交渉しているという意識はあったのね、驚いたわ」

    554 = 1 :



     「どういう意味ですか」

    加賀 「大和さんはご自慢の証拠に価値があると本当に思っているの?」

    加賀 「私と艦隊の命令違反を上や憲兵に訴えたとして提督が認めると?」

    加賀 「大和さんが朝潮に言っていたのと同様に、提督が保身のため揉み消すのがオチだとわからないの?」

     「もう揚げ足を取ることしかできませんか?」

     「それにもみ消しは加賀さんの盗聴についても言えますよね」

    加賀 「そうね」

     「なら・・・

    加賀 「出撃が減って、頭でも錆びついているの?」

    加賀 「私が言いたいのは、お互いの情報自体には価値がないということよ」

     「はぁ?・・・交渉だなんだと偉そうに仰っておいて何が仰りたいんですか」

    加賀 「わかりやすく説明してあげるわ」

    加賀 「私の情報は、提督に聞かせて、初めて価値が出るということよ」

     「最初に加賀さんが「録音を聞いて提督が気付くことがある」と言っていたことですか?」

     「そんなの恥ずかしながら、大和が嫉妬で盗聴していたと思われておしまいですよ」

    加賀 「恐竜並の脳みそしかないと思っていたけど、記憶力だけは良いのね」

     「加賀さん、立場を弁えずに吠えても痛々しいだけですよ」

    加賀 「そういえば、今日の命令違反を密告した人間がいることはご存知よね?」

    555 = 1 :



     「・・・」

    加賀 「今更隠す必要もないじゃない?」

    加賀 「提督と私で密告者を探そうとしていたことまでは知っているわね?」

    加賀 「結果として、密告者は出撃艦隊の艦娘にはいなかった」

     「どうしてそう判断したんですか」

    加賀 「本当に命令違反を密告していた艦娘がいたら、すぐに鎮守府から逃走しているもの」

    加賀 「提督と私で探したと言っても、彼女たちを呼んで所在を確認するだけの簡単な作業だったわ」

     「何で密告していたら鎮守府にいないと言い切れるんですか」

    加賀 「密告した裏切り者がいるとわかれば、出撃艦隊の他の娘が放っておくと思う?」

    加賀 「自身の命が懸かっているのよ・・・聖人君子だって、その手を汚すわ」

    加賀 「こういう時、口止めに艤装で木っ端微塵にして海に流すくらいはよくある話よ」

    加賀 「だから密告者は安全のため、鎮守府から身を隠すよう憲兵から指導されたり、保護される筈なのよ」

    加賀 「それもなかった」

    加賀 「出撃艦隊に犯人がいないことを示す、これ以上に有用な証拠があるかしら」

     「ないかもしれませんね」

    加賀 「さて・・・じゃあ、出撃艦隊以外の誰が密告したのかしらねぇ?」

     「・・・さぁ、大和にわかるわけないじゃないですか」

    加賀 「わからない?嘘も大概にして欲しいものね」

    加賀 「出撃艦隊以外の艦娘で、命令違反を唯一知っているのは、執務室を盗聴していた大和さんだけなのよ」

     「・・・」

    加賀 「あなただったのね・・・密告した裏切り者は・・・」



    ―――――
    ―――

    556 = 1 :




     「断定的な物言いですね、証拠もないのに」

    加賀 「証拠なんていると思っているの?」

    加賀 「お利口にも、軍法・軍規違反を交渉材料として用意したあなたを見てて思っていたけど・・・」

    加賀 「ほんっと・・・ずれてるわね、大和さん」

     「軍の統制を軽視した危険思想ですよ、訂正してください」

    加賀 「別に良い子ぶることないでしょう、ここには私とあなたしかいないのだから」

    加賀 「あなたも軍法や証拠なんかに意味がないことはわかっている筈よ、この鎮守府において」

     「・・・」

    加賀 「この鎮守府唯一にして絶対の権力は、大本営とか軍上層部とか憲兵とか軍法とか・・・そんなものじゃないでしょ」

     「提督ですか・・・」

    加賀 「そう、提督が全てよ」

    加賀 「提督を動かせない交渉材料しか用意できない時点で、大和さんは負けていたのよ」

    加賀 「さて・・・私の録音データを聞いた提督は大和さんをどうするかしらねぇ・・・」

     「提督に渡す積もりですか・・・」

    加賀 「止めて欲しい?」

     「・・・」

    加賀 「外に出してない積もりでしょうけど動揺しているようね」

    加賀 「艤装との同調が不安定になってるわよ」

    加賀 「ほら・・・」

     「?」

    557 = 1 :



     ビンッと聞き慣れない音に続いてめりと肉が軋む音が、訓練所の砲声の中で微かに響いた。


     「あ゛」


     大和の制服から露出した太ももを、細い線が貫いている。


    加賀 「ただの矢が簡単に刺さる」

     「あ゛、あ゛あ゛あ゛っ」

    加賀 「体は正直ね」

     「いたぁっ・・・」

    加賀 「一々五月蝿いわね、返しもない弓道用の普通の矢よ」

     「ふ、普通の矢??そんな・・・」


     大和は自身に刺さった矢を手で抑えつつかがみ、闇を上目で睨む。


    加賀 「感情が同調に出やすい砲艦というのが災いしたわね」

    加賀 「防御壁が一瞬途切れていたわよ?」

     「な・・・」

    加賀 「あなたが密告者ということは、今ので確信に変わったわ」

     「ぅ・・・確認のためだけに矢を?」


     大和は、矢に手をかける。


    加賀 「あぁ、抜かないで」

    加賀 「抜こうとしたら、また射るわよ」

     「はぁ?!」

    加賀 「この暗闇で制服と急所を避けて撃つのは難しいから大人しくして欲しいわね」

     「痛ぅっ、加賀さんっ、あなた頭がおかしいんじゃないですか・・・」

    加賀 「私を殺そうとしていたあなたがそれを言うの?」フフ

     「っ・・・」

    加賀 「それに、吹けば飛ぶような命の軽い鎮守府で、足の一本二本が何よ」

    加賀 「艦娘だから、傷はすぐ癒えるし、痛みもそこまで感じないでしょう」

    558 = 1 :



     「・・・一体何が目的ですか?」

    加賀 「いくつかの質問に答えてほしいのよ」

    加賀 「肉が締まって艦娘でも悶絶するほど矢を抜くのが痛くなる前にね」

     「っ・・・拷問のつもりですか」

    加賀 「あなたが答えないと言ったら、そうなるわね」

     「何が・・・聞きたいんですか?」

    加賀 「何で密告なんてしたの?」

     「明日の舟遊びを、中止してもらう・・・ためにです」

    加賀 「ふーん」

    加賀 「憲兵の調査が入れば中止せざるを得ないし、そうでなくても提督が止めると思った?」

     「そうです」

    加賀 「あなたなりに提督を動かそうとしたようね」

    加賀 「けど、残念ね」

    加賀 「憲兵にはいたずらと思われたんでしょうね」

    加賀 「上官に問い合わせるだけの杜撰な捜査、いえ確認だけで片付けられてるわよ」

    加賀 「提督もそれがわかってるから、明日の舟遊びはやると言ってるわ」

    加賀 「私は念を入れてやらないよう進言したのだけど」

     「あなたが秘書艦に代わるまで、何でも・・・提督のためにしてあげていたんです」

     「それなのにないがしろにされて・・・大和と提督の最後の繋がりである舟遊びまで奪われたら」

    加賀 「何でもしてた・・・ねぇ」

     「大和の燃費が悪いから、そう多く出撃できないのはわかります」

     「けれど、艦隊最強で提督の最愛は大和であるべきなんです」

     「大和に相性が良くて勝ったくらいで尊大な加賀さんが嫌いでした」

    559 = 1 :



    加賀 「私が好かれたいとか考えているように見える」

     「・・・どうでもいいんでしょうね」

     「そういう人を見下した態度も全部・・・」

     「あなたでは提督は幸せにできません」

     「加賀さんが好きなのは地方長官候補というブランドや、提督の地位や名声でしょう?」

    加賀 「正解・・・」

     「そうですよね」

     「大和なら関係ありません!!提督を、提督の全てを愛することができます」

    加賀 「馬鹿ねぇ・・・」

    加賀 「私がそうであるように・・・提督も同じように地位と名声を欲していた」

    加賀 「結果として、強い私を選んだだけ・・・提督に近いのは大和さんより私だったということよ」

    加賀 「それにしても、私をハメようと思ったのでしょうけど、とんだ墓穴を掘ったものね」

    加賀 「地位と名声を求める提督が、密告の犯人を許さないことは大和さんにもわかっていたでしょう?」

     「っ・・・」

    加賀 「あなたの愛は実際のところ、自分に都合の良い自分だけの提督が欲しいだけ・・・」

     「ちがっ・・・」

    加賀 「想像以上に初心ね、提督が初めてだったの?」

     「・・・違います!!!」

    加賀 「まぁ、どうでもいいわ・・・」

    加賀 「次の質問、大和さんがしてた執務室盗聴の目的は何?」

    加賀 「提督か私の弱みを握るために?・・・それとも、提督に処分されるのを恐れたの?」

     「処分?・・・大和を提督が?、ありえません」

    加賀 「・・・」

     「あなたの弱みを握るためです」

     「わかりきっていますよね、大和と朝潮さんとの会話で」

    加賀 「・・・そう」

    560 = 1 :



    加賀 「次、全ての轟沈は、私が大破進軍をさせたせいだ・・・と、本当に思ってる?」

     「・・・」

    加賀 「答えなさい!」


     弓を張る音と弾く音と矢が走る音が混ざり異様な音を一瞬に立る。

     闇から伸び出た矢は大和に避ける暇を与えず飛び、一本目と違う大和の足がまためりと悲鳴を上げる。

     大和は刺さった矢が体内で動く痛みを抑えるのに、立った姿勢を崩さず顔を伏せた。


    加賀 「さすが”元”筆頭秘書艦・・・二本目は情けない声を上げないのね」

     「あなた・・・本当に・・・」


     その時、大和は矢の飛んできた方向、加賀のいる方向におもむろに手をあげる。

     闇を背景に蠢く大和の艤装主砲達が、その手の動きに確かに連動していた。

     吹き上げるような戦艦特有の同調の高まりが、質量を持っているかのように加賀を押した。


    加賀 「!」


     その時、闇を介し睨み合う二人と離れた場所から、ガンと無機物がぶつかる音が響く。


     「誰ですか!!!」


     声は闇に吸われて消える。

     大和も加賀も音の発生源へ視線が吸い寄せられる。


    加賀 「同調も感じないし、風でゴミが転がっただけでしょう」

     「そうですか・・・」


     加賀が気付いた時には、大和の同調の高まりは嘘のように消えていた。

     加賀は闇の中で位置を変えた。足音は砲声が消す。

     お互いの声は砲声に潰され平面的に聞こえ、その位置を正確には捉えることができなかった。


    加賀 「怯えすぎて神経過敏なんじゃない?」

     「・・・そうかもしれません」

    561 = 1 :



    加賀 「私の知覚で周囲の艦娘の位置はわかるのよ、安心するといいわ」

    加賀 「そんなことより答えなさい・・・全ての轟沈が私のせいだと思っているの?」

     「全ての轟沈までは・・・わかりません」

    加賀 「歯切れが悪いわね、はっきり答えてくれない?」

     「轟沈は、海域の強力な深海棲艦によるものが殆どかと」

    加賀 「はっきりと答えなさいと言ったわよね?」

     「轟沈したのが加賀さんのせいだと思ったのは、荒潮さんの轟沈した今日の出撃においてのみです」

     「他はわかりません」

     「これでいいですか」

    加賀 「今日の出撃のみねぇ・・・」

    加賀 「傍から聞いていたら、全ての轟沈が私のせいみたいな言い方になってたわよ」

    加賀 「大和さんも酷なことをするのね」

    加賀 「正義感の強い朝潮なら、なりふり構わず動くと思ったんでしょ」

     「違います」

     「轟沈自体は、大和が秘書艦の時から、加賀さんの赴任前からあるのですから・・・」

     「そんな勘違いを朝潮さんがするとは思えません」

    加賀 「轟沈の話が基本タブーな鎮守府で、朝潮が、知ってると思った?」

    加賀 「引っかかるけど、まぁ・・・いいわ」

    加賀 「次・・・」

    加賀 「私が損傷表を入れ替えたと本当に思うなら・・・」

    加賀 「何で大和さんは損傷表を証拠として密告しなかったの?」

     「今の質問で確信に変わりました」

     「既に損傷表を、偽物から本物へ入れ替えているんでしょう?」

     「それに加賀さんがした証拠がないと、損傷表を管理する提督にも疑惑がかかって迷惑が・・・」

    加賀 「私でなく提督が損傷表を入れ替えた可能性はないの?」

     「大和が秘書艦をしていた時に、提督はそんなことしていませんでしたから・・・」

    加賀 「ふーん、そう」

    562 = 1 :



    加賀 「そういえば、損傷を誤認させる方法はいくらでもあると朝潮に言ってたわよね」

    加賀 「例えば、制服に細工するという方法もあるわよね?」

     「制服の損傷を都合よく誤認させる方法があるとでも?」

    加賀 「可能性の話よ」

     「・・・制服を管理する私を疑っているんですか?」

    加賀 「さぁ・・・提督にも言ったけどね、今はどうでもいいのよ」

    加賀 「話のついでに聞いただけ・・・」

    加賀 「聞きたいことはもうないわ、矢を抜いても構わないわよ」

    加賀 「見る限り肉が締まり切っちゃってるけど」

     「・・・」


     大和は両手を添えると少しためらった後に、緊張で震える手に力を加える。

     自身の体を傷付けないよう、体外へ真っ直ぐにゆっくりと引く。

     眉根に皺を寄せ呼気を荒げ白い息を吐き呻きながら、大和は矢を体から少しずつ抜いてゆく。

     体外へ出てゆく矢の表面は血で赤く染まり鈍く煌めく、最後に体外へ出た先端の鏃は血の糸を引いた。

     艦娘の治癒力で締まり切ってしまった肉にも関わらず、加賀の宣言通り出血は少なく、

     唯一の出血は、矢の刺さっていた傷から一条の涙のように皮膚を伝い黒いストッキングの縁を黒く染めるだけだった。

     大和は抜いた矢を折り海へ落とし、二本目へ移る。

    563 = 1 :



     「はぁ・・・・はぁ・・・」

    加賀 「喘いでいるようで絵になるわ」

     「人の苦しむ様を見てそんなに楽しいですか」

    加賀 「愉快ねぇ、それが自分の嫌いな相手なら尚更・・・」

     「っ・・・」イラ

    加賀 「私のいない方向に睨んでいる姿が実に滑稽ね」フフ

    加賀 「最後に質問でなく、命令があるわ」

    加賀 「これを守れば、暫くは録音データを提督に渡さないようにするわ」

     「・・・今後、大和が加賀さんの意に沿わないことをすれば、暴露するお積もりですか」

    加賀 「言うまでもないことね、精々私を満足させるように踊ってね」

    加賀 「そうそう、話を戻すけど・・・大和さん、明日の模擬演習を辞退してもらえる?」

     「・・・」

    加賀 「・・・」

     「・・・訓練所の砲声で、少し聞こえませんでした」

     「できればでいいですけど・・・加賀さん、もう少し近付いてもらえませんか?」

    加賀 「は?」

     「・・・両足が痺れて大和はまだ動けないんです」

    加賀 「ふーん・・・無理ね」

     「・・・近付いた加賀さんを大和が攻撃するとでも?」

    加賀 「するわね」

    加賀 「あなたが本気で艤装を使って砲撃すれば、どうなるか・・・」

    加賀 「艤装と同調していない私なんて塵一つも残さず消滅して、大和さんの秘密は守られる」

    加賀 「多少残った悪い風評は、私を消した後に力で正当化していけば良い話よね」

    加賀 「提督は私がいなくなれば、また大和さんを重用するのは明らかなんだから」

    564 = 1 :



     「ご冗談を・・・そんなことをするわけありません」

    加賀 「本当かしら?」

    加賀 「提督のためなら、何でもてきるんでしょう?」

     「それは・・・そうですけど」

    加賀 「二本目の矢が大和さんに刺さった時、私の位置を確かめるためわざと同調を解いたわよね?」

     「違います」

    加賀 「そもそも密会場所を訓練所の裏にしたのも、砲声に紛れて攻撃ができるし、艤装を持っていても怪しまれないからでしょう?」

    加賀 「やる気満々ね、邪魔者がいれば消すつもりだったんじゃないかしら?」

     「違います!!もっと常識的に考えてください」

     「加賀さんの後ろの訓練所に大穴があけば、訓練所にいる艦娘たちが押し寄せるんですよ?」

     「悔しいですけど、前回の模擬演習では大和が大敗してるんです」

     「"明日の模擬演習でも勝てないと思った大和が、加賀さんを闇討ちした"」

     「なんて駆けつけた艦娘たちに思われれば、大和の強者としてのブランドはお終いですよ」

    加賀 「そうね・・・訓練所を背にする限り私は安全ね」

    加賀 「なら朝潮は?」

    加賀 「会話で最初に「海の向こうには~」なんてとぼけたことを言って海岸に誘導していたわね」

    加賀 「もし、朝潮があなたを拒否したら・・・木っ端微塵にして海にまいて、処理する積もりだったんじゃないの?」

     「ありえません、妄想が過ぎるんじゃないですか?」

     「ご自身で知覚の精度は良くないと仰ってましたよね?・・・執務室で、提督に」

    加賀 「そうね・・・けど、このままの距離で話をさせてもらうわ」

    加賀 「慣れ合う関係でもないでしょ」

     「お好きになさってください・・・そこまで怪しまれるのは大和も気分が悪いですし」

    加賀 「元々決定権は大和さんにないのよ」

     「・・・そうでしたね」

     「それだけ録音データで大和が言いなりになる自信がおありなら、負けろと言えば良いじゃないですか?」

     「何故はっきりとさせずに、大和に模擬演習を辞退させるのですか」

    565 = 1 :



    加賀 「何が聞こえにくいよ」

    加賀 「聞こえてるじゃない?模擬演習を辞退するようにって私の言葉が」

     「明瞭に聞こえなかっただけですから・・・勘違いさせていましたか?」

    加賀 「食えない女・・・」ボソ

     「何ですか?」

    加賀 「何でもないわ、辞退してもらうのはあくまで念のためよ」

     「はぁ・・・わかりました」

     「他に命令はないんですか?」

    加賀 「やけに従順ね、何が言いたいの?」

     「朝潮さんが勝手に暴れて、大和のせいにされて提督に秘密を暴露されても困るんで」

    加賀 「大和さんが、朝潮に「加賀が荒潮さんを殺してなかった」と言ってくれるの?」

     「そうです」

    加賀 「・・・好きにしたら?」

     「はぁ?」

    加賀 「あなたの大破進軍の推理材料にした、私と提督の会話は本物よ」

    加賀 「だから、私が荒潮を意図的に殺したというのは、実に筋が通ってるわ」

    加賀 「今更否定したら逆に怪しい位にね」

    加賀 「けど、私と同じ能力者の朝潮だけが気付くことがある」

     「?・・・どういうことですか」

    加賀 「あなたにはわからないことでしょうね」

    加賀 「そして、教える義理もないわ」

     「そうですか・・・」

    加賀 「もう、何もなければ解散しましょう・・・じゃあね」


     加賀が気配を消した。

     大和も頭を整理するためか、少し海を眺めた後に時間を置いて歩き出した。

     最後に暗闇でごとりと音を立て、朝潮が艤装を持ち上げた。


     朝潮は、暗闇からこの会話を全て聞いていた。

     艤装を下ろし、同調を消し、完璧な・・・筈だった。

     大和の同調に当てられ、音を立ててしまうその時までは。

     静かにその場を去る朝潮の心は、破裂寸前の風船のように混乱で一杯になっていた。



    ―――――
    ―――


    566 = 1 :

    本日分投下終了です。
    ご読了有難うございました。

    567 = 1 :

    重ね重ねとなりますが、予告を違え申し訳ありません。
    書き直しに書き直しを重ねていたところ、際限がなくなり時間がかかっていました。
    次はお盆前に一本投下できればと思っています。何卒今後とも宜しくお願い申し上げます。

    574 :

    遅ればせながら保守お米の皆様有難うございます。

    >>568
    読んで頂けるだけで大感謝です。
    お上品な文章を書けるよう精進してまいります。

    >>569>>570>>572
    お米励みになります、有難うございます。

    >>571
    朝潮ちゃああああああああん
    エタってらっしゃいますね。私とどちらが先に終わりますかね。

    >>573
    お米有難うございます。今後も頑張ります。

    最後に以前作った作品の宣伝を。
    両方ラブストーリーで、片方は夏にぴったりなものなので。
    今作と違い、今作の投下一回分8000文字前後の文量でさっくり読むことができるものとなっています。
    尚、作品ごとの全て(鎮守府・提督・艦娘・世界観等)が全く別物となっていますので、ご注意を。

    時雨 「西村艦隊はむらむら」
    http://elephant.2chblog.jp/archives/52106640.html

    提督「朧駕籠」
    http://elephant.2chblog.jp/archives/52110528.html

    576 :

    了解です

    577 :

    ほっしゅ

    586 :

    謹賀新春です。保守の人ありがとうございます。
    以前もあった推敲している内に殆ど書き直したくなるという症状が出て、時間をかけていました。申し訳ありません。
    ひとまず、次回分の投下が今週中できそうで、最終分の投下を1/24までにできるようせっせと書いています。
    なにとぞ宜しくお願い申し上げます。

    589 :

    待ってたよ

    590 :

    投下再開します

    591 = 1 :




     息の白さがはっきりわかる外灯の元でようやく人心地がつく。


     噴き出すような大和の同調の高鳴りに四肢を吹き飛ばされたような錯覚が全身に残る。

     朝潮は自身の両手両足をさするようにあらためた。


    朝潮 (良かった・・・)


     艤装との同調を解除していた小さい体は冷え切っていた。

     かじかむ手をニギニギしつつ、深呼吸をすると朝潮は艤装と同調する。


     暗闇で背負い直したためか、艤装の肩紐は変によれていた。

     肩紐と制服の間に小さい親指をすべらせ、それを正しつつ考える。


    朝潮 (艤装に付いた盗聴器で、私が盗み聞きしてたのはばれるかもしれない)

    朝潮 (どうしよう・・・)

    朝潮 (いっそ今、艤装に付いた盗聴器を壊す?・・・・・・)

    朝潮 (そんなこと・・・盗み聞きしてたのを自白するようなものよね)ハァ


     闇に吸い込まれるように、ため息が風に流され消えていく。

     白い息を照らす外灯は、訓練所のものだった。


    朝潮 (訓練所・・・)

    朝潮 (さっきの埠頭と殆ど同じ音のする訓練所にいたということにすれば・・・)


     誤魔化せるかもしれない、淡い期待で朝潮は訓練所に入る。

     ドアを開けると、室内に充満した熱気と火薬の匂いが朝潮を出迎える。

     間近に感じる砲声による振動が、冷やした肌に心地いい。

     戦場にいるという異常な感覚は、今の朝潮を逆に冷静にさせた。


     朝潮は壁際に並べられた待機用の椅子に腰をおろす。

     吹き荒れる混乱は、朝潮の心の風車を音が鳴るほどかき回す。


    朝潮 (・・・どうなっているの?)

    朝潮 (味方だと思っていた大和さんは、提督を好きで・・・命令違反を密告してた)

    592 = 1 :



     提督に裏切られた時の怒りや絶望がごちゃ混ぜになった感覚が朝潮に蘇る。

     命令違反をした艦娘の末路・・・、提督に言われた「死刑は確実だ」という言葉が頭で響く。

     朝潮は体を震わせる。


    朝潮 (あんな親身になってくれていた人が密告して、私を・・・殺そうと・・・・・・)

    朝潮 (いえ・・・命令違反未遂は事実。大和さんだって好きで通報したわけじゃ・・・)

    朝潮 (いや、大和さんの行動は・・・いや、そんなわけ・・・)


     信じたくない気持ちから、朝潮は自身の善良な心根を大和へも投影していた。

     それが提督に裏切られていたにも関わらず。


    朝潮 (そんなことより、荒潮の轟沈に真実はあるの・・・)

    朝潮 (大和さんが私に話した情報は、執務室を盗聴して得たもので正しいのよね?)

    朝潮 (加賀も、大和さんの推理材料を事実だと言ってたもの)

    朝潮 (なら、加賀が私を殺そうとしたことも、私の能力を認めていることも・・・事実)

    朝潮 (加賀は否定しなかった)

    朝潮 (けど、加賀が荒潮を殺した犯人というのは本当だったのかしら?)

    朝潮 (否定はしていないけど、肯定もしてない)

    朝潮 (寧ろ…荒潮の轟沈に関して私が知覚で気付くこと、これで何かわかるっていうの?)

    朝潮 (完全にわからないこともある)

    朝潮 (舟遊び?損傷度を誤認させる方法?過去の轟沈?・・・)

    朝潮 (いえ、わからないことがあっても問題ないわ)

    朝潮 (私の知覚が、確かであるとわかったのだから・・・それで、きっと十分・・・)


     危険を冒してまで盗み聞きして良かったと思えた。

     決意を固めるように、右腕の砲塔艤装を強く握る。

    593 = 1 :



    朝潮 (この力で・・・


    瑞鶴 「朝潮、大丈夫?」

    朝潮 「・・・え?」


     瑞鶴と翔鶴が並んで朝潮の前に立っていた。

     戦場にそぐわない美しさを感じた。


    朝潮 「大丈夫?・・・ですけど」

    翔鶴 「思い詰めた顔をしていたから・・・」

    瑞鶴 「悩み事があるんなら聞くわよ、色々あったでしょ?今日」

    朝潮 「あ、はい・・・ご心配ありがとうございます」

    朝潮 「けど・・・大丈夫です」

    翔鶴 「?」

    瑞鶴 「なら、いいけど・・・」

    瑞鶴 「そうだ、朝潮の前を空母の人が通らなかった?」

    朝潮 「すいません、考えこんでたので・・・」

    瑞鶴 「そうかー」ガックリ

    朝潮 「どうされたんですか?」

    翔鶴 「実は訓練用の矢が所定の数から減ってて探してるの」


     訓練所では、専用の模擬弾や訓練用の矢が使われた。

     専用弾は、弾頭や炸薬量が違うという物理的な違い以外に、

     海上より狭い射撃場で同調が互いに干渉しないよう、同調を必要としない作りになっていた。

    594 = 1 :



    朝潮 「どなたかが、間違えて持ち帰ったかもしれないんですか?」

    翔鶴 「訓練場を一通り探してなかったから、そうだと思うんだけど・・・」

    翔鶴 「こうなると、訓練所にいた空母の人たち全員に聞くしかないわね」

    瑞鶴 「あーもう最悪・・・全員に聞けば流石にばれるわよね、大目玉だわ」

    翔鶴 「困ったわね」

    朝潮 「ばれるって誰にですか?」

    瑞鶴 「決まってるじゃない、加賀さんよ」

    朝潮 「・・・加賀・・・さん」

    瑞鶴 「空母のトップなのはわかるけど、ことある毎にうるさいったらないわ」

    瑞鶴 「ほんと、あおっちろい顔のまま無表情で怒るから不気味だし怖いのよねぇ」

    翔鶴 「瑞鶴、陰口はお止めなさい」

    瑞鶴 「別にいいじゃない、加賀さんの前でも言うんだし」

    翔鶴 「あのねぇ・・・」

    瑞鶴 「翔鶴姉は加賀さんの肩を持ち過ぎじゃないの?」

    翔鶴 「加賀さんがいて上手く回ってる部分もあるのよ」

    瑞鶴 「上手くって空母に轟沈がないこと?」

    朝潮 「?」

    瑞鶴 「だったら、赤城さんが仕切ってた時からでしょ」

    朝潮 「空母に轟沈がない?」

    瑞鶴 「知らなかったの?」

    朝潮 (自身の仕切ってる空母艦娘に轟沈がない?)

    朝潮 「はい・・・、え、じゃあ空母の人で轟沈した人はいないんですか」

    瑞鶴 「そういうことになるけど」

    朝潮 「これまでずっとですか?」

    翔鶴 「ずっとね、鎮守府が始まって以来じゃないかしら」

    朝潮 「凄い・・・」

    595 = 1 :



    瑞鶴 「そんなに凄いことじゃないのよ」

    朝潮 「どういうことですか?」

    瑞鶴 「提督が原因なの、空母を旗艦に編成することが多いのよ」

    瑞鶴 「別に空母が特別強いからとかじゃないわ」

    朝潮 「旗艦は、陣形の中心にいるから比較的安全とは聞きますけど・・・」

    瑞鶴 「よく知ってるわね、その通り」

    瑞鶴 「射線が通らなくて元々狙われにくいし、攻撃されても庇われることが多いの」

    瑞鶴 「だから、この鎮守府は元々空母が轟沈しにくいってわけ」

    朝潮 「ほぉ・・・何か、加賀さんが特別にやっていることはないんですか?」

    瑞鶴 「何か?空母が轟沈しないために?」

    朝潮 「はい」

    瑞鶴 「訓練訓練訓練、訓練くらいよ・・・」

    翔鶴 「訓練ね」

    朝潮 「ただの訓練ですか」

    瑞鶴 「文字通りただの訓練よ、それも実戦を離れた基礎的な内容ばかりよ」

    瑞鶴 「何の意味があるんだか」ハァ

    瑞鶴 「普通の訓練で轟沈しない同じ成果を出してた赤城さんの方が、よっぽど優秀だったわよ」

    朝潮 「そうなんですか・・・」

    翔鶴 「余り言いすぎては駄目よ、瑞鶴」

    翔鶴 「空母だって重点育成艦娘がいる時は旗艦を外れるのだから、轟沈する危険はあるわ」

    翔鶴 「それに、訓練で私達空母の攻撃力が増せば、それだけ他艦の轟沈を防ぐことに繋がる」

    瑞鶴 「あの基礎的な訓練で?!」

    翔鶴 「基礎が一番大切って言うでしょう?」

    翔鶴 「それを別にしても、轟沈がないせいで空母に対して他艦の子から風当たりが強かったわ」

    翔鶴 「あの時の、お互いにぎすぎすしてた空気を瑞鶴は覚えてるでしょ?」

    瑞鶴 「まぁね・・・」

    翔鶴 「轟沈しないのは空母が卑怯だからとか、轟沈は空母のせいじゃないかとか・・・」

    翔鶴 「言われてたわよね?」

    瑞鶴 「・・・」

    翔鶴 「加賀さんが猛特訓を始めたお陰で、あの空気がなくなったのも事実じゃないかしら」

    瑞鶴 「加賀さんの訓練が厳しすぎて他のみんながドン引きしただけでしょ?」

    翔鶴 「それもあるでしょうけど、結果は結果よ」

    翔鶴 「基礎的な訓練も何か深い目的があってのことと思うわ」

    瑞鶴 「うーん・・・」

    瑞鶴 「私達への嫌がらせじゃない?」

    翔鶴 「もう・・・」

    596 = 1 :



    朝潮 「具体的にどんな訓練をするんですか?」

    瑞鶴 「艤装との同調・解除を100セットとか」

    朝潮 「え、えぇ・・・」

    瑞鶴 「ほら、朝潮も引いてるじゃない?翔鶴姉」

    翔鶴 「はぁ・・・そうね」

    瑞鶴 「朝潮も似たようなもんでしょ、戦闘の合間に加賀の艤装と同調させられてるんでしょ?」

    翔鶴 「朝潮さんの同調は、他艦種艤装への同調で私達と比べられるものじゃないわ」

    瑞鶴 「まぁね」

    瑞鶴 「なんであんな危険なことさせるのかしら。いつも考えてることわからないわ、あの人」

    翔鶴 「上には上の考え方があるのだし、余り考えすぎても混乱するだけよ」

    瑞鶴 「その考え方が私達下々のもののためでもあってほしいわねー」

    朝潮 「あの・・・」

    瑞鶴 「ん?」


     朝潮は喉から出掛かった加賀のことを聞きたい、知りたいという気持ちを抑える。

     まだ艤装には盗聴器が付いているはずで、怪しい動きはできなかった。


    朝潮 「・・・訓練用の矢を探すの手伝いましょうか?」

    597 = 1 :



    瑞鶴 「ありがとう、けどさっき言った通り訓練所は一通り探したのよ」

    翔鶴 「もう覚悟するしかないわね」

    翔鶴 「訓練用とは言え備品を失くすのは不味いものね」

    瑞鶴 「訓練用の矢なんて弓道に使われるような普通の矢だから殺傷力は低いけど・・・」

    瑞鶴 「そういう問題じゃないもんね・・・」ハァ

    朝潮 「弓道・・・訓練用の矢・・・」


     大和の足に刺さった矢が、折られて海に投げられたのを思い出す。

     あの矢は訓練用の矢と、加賀が言っていた筈だった。


    朝潮 「矢なら加賀さんが・・・も・・・」

    瑞鶴 「加賀さん?」

    朝潮 「!」


     朝潮は背後から急に現れた同調に、振り返る。


    朝潮 「加賀っ・・・さん」

    瑞鶴 「げぇっ!!」

    翔鶴 「すいません!!訓練用の矢を紛しっ

    加賀 「朝潮・・・何で矢のことを知っているのかしら?」

    朝潮 「!!!」


     朝潮は弾かれたように飛び出した、加賀の脇を縫って出口へ。

     朝潮が加賀の脇を抜けようかという瞬間に、加賀は艤装をがっちりと掴み引き戻す。


    朝潮 (くっ・・・・・・)


     慣性で突き進む体に肩紐が大和の時より深くめり込み、朝潮の小さい心臓だけが前に飛び出しそうになる。

     少し漏れたような気がした。



    ―――――
    ―――


    598 = 1 :




     朝潮は、自身の艤装を武器庫に収めるために暗い廊下を歩いていた。

     非番の時、警戒要員以外の艤装は、武器庫に保管することになっている。


    朝潮 (加賀の言葉)


     あの後、加賀は一言耳打ちすると、朝潮をすぐ解放した。


    加賀 「死にたくなかったら・・・明日の出撃で、全ての攻撃を避けなさい」


    朝潮 (どういうこと?)

    朝潮 (加賀には、会話を盗み聞きしていたのはばれてる、それは間違いない)

    朝潮 (あそこで殺すことができなくても、私を捕まえて連れ出すなり出来たはず)

    朝潮 (そんな素振りもなかった)

    朝潮 (だったら、加賀にとってあの会話は聞かれても問題ないということ???)

    朝潮 (それより・・・言葉の意味は?)

    朝潮 (加賀の言った”荒潮の死に付いて私が能力で気付くこと”・・・)

    朝潮 (それが、明日の全ての攻撃を知覚で避ければ、わかるってこと?)


     考え込みながらも体はいつもの通り動き、武器庫に着いていた。

     朝潮は定形の挨拶をして、自身の艤装を担当の陸奥に差し出す。


    朝潮 「艤装をよろしくお願いします」

    陸奥 「はーい、お疲れ様」

    朝潮 「陸奥さんもお疲れ様です。では、失礼します」

    陸奥 「あ、朝潮ちゃん、ちょっと待って」

    朝潮 「はい?」

    陸奥 「大和さんが朝潮ちゃんが来たら衣料室に呼ぶようにと言ってたから」

    朝潮 「そうですか・・・」

    陸奥 「制服に何かあったの?」

    朝潮 「あっ・・・っはい、そうなんです」

    陸奥 「?」

    朝潮 「・・改めて失礼します!」ササッ

    陸奥 「行ってらっしゃ~い、若いんだから早く寝なさいよ~」ヒラヒラ

    朝潮 (大和さんと加賀の会話で呼ばれるのはわかってたけど)トコトコ

    朝潮 「早すぎる・・・」ボソ


     加賀に盗み聞きが露呈したことへの動揺がぶり返す。

     大和にも盗み聞きがばれるのではないかという不安が、朝潮の頭をかすめた。


    朝潮 (ありえない・・・わよね?)

    599 = 1 :



     歩く朝潮の横で海風に吹かれ窓がカタカタと鳴っていた。

     朝潮は立ち止まり、窓に映る自分の顔を見る。

     疲れて血色が悪くハリのない顔が、廊下の切れかけた蛍光灯に照らされていた。

     それを拭うように首を振る、意味がないのはわかっていた。

     悶々としたまま衣料室に着く。部屋の前で大和が待っていた。


     「顔色が優れませんけど、大丈夫ですか」

    朝潮 「いえ、頭を整理しようと訓練所にいたら加賀が来て・・・逃げてきました」

    朝潮 (本当のことだ、これなら・・・動揺していてもおかしくない)

     「そうですか、何もなかったんですか?」

    朝潮 「はい、すぐ逃げたので」

     「本当ですか?」

    朝潮 「え・・・本当です」


     大和が朝潮を覗き込むように見ている。

     緊張から来る汗が朝潮の皮膚を這う。


    朝潮 (話を変えないと・・・)

    朝潮 「そうです!何で私を呼んだんですか?」

     「ここからは・・・衣料室の中で話しましょうか」

    朝潮 「はい」

     「どうぞ」


     大和の手に導かれて入室する。

     武器庫からそう遠くない白い一室。

     窓口が付いており、ここで朝潮は何度も新しい制服を支給してもらっていた。

     しかし、中に入るのは初めてだった。


    朝潮 「失礼します」


     中は窓口近くに机と椅子が二つずつある以外、棚が壁に沿って所狭しと並んでいる。

     朝潮は純粋な興味のまま、並んだ棚を眺める。

    600 = 1 :



    朝潮 「この棚は・・・制服を収める棚ですか?」

     「そうです」

    朝潮 「これ、全部が・・・」

     「ふふっ、中を見るのは初めてですか」

    朝潮 「はい」

     「この鎮守府も300人を超える大所帯ですから」

     「種類だけでなく皆さんが安心して戦えるようにそれぞれの在庫の量も多くなってます」

    朝潮 「なるほど・・・、棚の中を見てもいいですか?」

     「どうぞ」


     棚の側面には艦種・艦型のタグが貼り付けられていた。

     朝潮は一通り棚の側面を歩きながら眺めると、「朝潮型」のタグが付いた列に入る。

     自身や同じ朝潮型の制服が、綺麗に積み重ねられていた。


    朝潮 (霞、大潮・・・荒潮・・・朝潮、これが)コ


     朝潮がちらりと横目で見ると、大和は窓口にカーテンを引いている。

     朝潮は、それを確認すると梱包された自身の制服に無言で手を伸ばす。


    朝潮 (この制服が・・・原因かもしれない)ゴクリ


     鼓動は速く、手は慣れないことに戸惑い止まりかけのオルゴールのように小刻みに震えた。


    朝潮 (盗る?盗ってもどうやって隠して持ち出すの?)


     「初めてで興味深く気になってしまうのはわかります」

    朝潮 「っ」ビクッ

     「しかし、制服も燃料弾薬のように重要な戦略物資です」

     「触るだけにして、間違いのないよう元に戻してくださいね」

    朝潮 「はっはいっ」パッ


     朝潮は、反射的に手を引っ込める。

     声の方を見ると、大和は朝潮が入った棚と棚の入り口にもたれかかって朝潮を見ていた。

     棚は部屋の壁面に垂直に並べられており、朝潮から見て大和の反対側には壁しかない。

     息苦しさを感じ、引っ込めた手を再び伸ばし自身の制服を手に取り、食い入るように見る。

     梱包する半透明の袋が、パリパリとその場の空気にそぐわない軽快な音を発している。

     その奥の制服は、何時も支給されている何の変哲もない制服でしかなかった。


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