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元スレ朝潮「制裁」
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提督は諦めた風に首を振る。
提督 「そうだな」
加賀 「残念そうね」
提督 「あぁ、教えられることなら良かったと思う」
加賀 「そう都合よくいかないものよ、ところで・・・」
提督 「ん」
加賀 「朝潮の処分はどうするの?」
提督 「・・・」
提督は朝潮の才能を認めていた。
提督 「加賀・・・わざとか?」
加賀 「?・・・先ほどの命令違反に付いて聞いているだけなのだけど」
提督 「加賀、顔が怖いぞ」
加賀 「処分をどうするか聞いてるだけじゃない」
加賀 「それに朝潮はこの頃成績も振るわないわよね」
最近の朝潮の成績は至って普通だ。悪いわけではない。
ただ、最初の才能から提督が期待した伸びは一切なかった。
加賀 「第一艦隊からおろしたら?」
提督 「第一艦隊所属の駆逐艦としてはまだ新入りなんだから大目に見ないといかんだろ」
加賀 「そうかしら」
加賀 「寧ろ他に改二持ちの高性能な駆逐艦がいるのだから、朝潮と荒潮はもういらないんじゃない?」
夕立時雨など他にも第一艦隊所属の駆逐艦は他にも存在する。
基本的に二隻一組で運用されていた。
提督 「加賀・・・おかしいぞ」
提督 「二隻轟沈したまま運用できていたのに、念のため駆逐艦を補充しようと言ったのは加賀だっただろ」
加賀 「そうだったかしら」
朝潮が着任した時に、加賀が提督に進言したことだ。
提督 「それに朝潮の成績が落ちているのは、少なからず加賀の訓練が影響しての部分があるだろ」
加賀 「・・・」
提督 「沈黙は肯定ととらえるぞ」
加賀 「くだらない」
加賀は無表情で声は低く平坦に話している。
こういう時は不機嫌な時だと提督はわかる。
提督 (これだからプライドの高い女は・・・)
男が妥協するまで、こういう女は妥協点に気付いていても知らない演技をするか折れない。
こういう女の面倒な姿勢は提督を苛立たせもしたが、行為の時にその女を屈服させるのは提督を強烈に興奮させた。
この加賀の姿勢にイラつきより興奮を覚えた提督は、気付かないうちに加賀に調教されていたのだろうか。
提督自身もわからないまま苛立つ演技を続ける。
提督 「少しずつ確実に加賀の艤装との同調を朝潮に上げさせているだろ」
提督 「常態化して誰も文句を言わんがな」
加賀 「あなたのせいで落ち込んだ朝潮に自信をつけようとしただけですよ」ニコ
提督 「ならもう止めろ」
提督 「呼応するように朝潮の同調が落ちている、成績にも出ているし傍目にもわかる」
加賀 「まぁ、私は止めてもいいのだけれど」
提督 「すぐ止めろ」
提督 「お前がいるから朝潮はここでは加賀になれん」
提督 「意味がないのに何故続けるだ?」
加賀 「この頃は朝潮から私に訓練をお願いしてくるんですよ」ニコニコ
提督 「同調に敏感な加賀なら尚更気付いてるだろ」
提督 「これ以上同調が落ちると危険だ」
加賀 「だから?」
提督 「朝潮を殺す気か」
加賀 「さぁ?・・・」ニッコリ
加賀が提督に朝潮を殺す提案をしたことは何度かあった。冗談・・・と提督は思っていた。
それを本気のように感じさせる不気味な笑顔だった。
提督 「この出撃体制だといずれにしろ駆逐艦は足りん、旗艦にして練度を上げてでも使うからな」
提督は独り言のように言い放つ。
言葉は風と一緒に後方に流れ、加賀は素知らぬ顔だ。
もうそろそろ前方に陸が見えるはずだ。
―――――
―――
港には第二陣の面々が待っていた。
提督 「ちょっと早くなったがすぐ出るぞ」
さっさと乗り換えを済まし指揮作戦艇はすぐ出発した。
加賀 「荒潮の回復を待ちたいので反省会は夕方にしましょう」
それだけ伝えると加賀は早歩きで執務室に向かい。
五月蝿い加賀のいなくなったのを待ち、利根と筑摩はすぐどこかへ消えた。
日向は荒潮を背負ったまま朝潮に話しかける。
日向 「荒潮を医務室に寝かせてくるから、艤装を入渠ドッグにお願いできるか?朝潮」
朝潮 「はい」
日向 「加賀の奴、少しは部下を・・・」ブツブツ トコトコ
正直に言えば、朝潮もすぐ艤装と一緒に意識を投げ出したいほど疲れていた。
朝潮 (コンクリート・・・柔らかそう、横になりたい)
少し休もうと自分の艤装を降ろし腰掛ける。
すると一瞬だけ意識が飛んだ。
視界が暗くなり夜になったかとびっくりして意識を取り戻す。
目の前で大和が朝潮の顔を覗いていた。
暗くなったのは大和の傘の影に入ったからであった。
お気に入りの傘をさして微笑む大和は戦場を微塵も感じさせない優雅さがある。
大和 「どうしたの?」
朝潮 「?!」
朝潮 (どれだけ意識を失ってたのかしら?)
大和 「風邪引くわよ、怪我とかに強くても病気はかかるんだから」
中破してぼろぼろの制服はよく風を通した。
朝潮 「すいません、心配おかけして」
立ち上がるもふらつく。それでも何とか艤装二つを動かせるくらいには回復していた。
大和 「加賀さんにしごかれたの? 随分お疲れだけど」
朝潮 「いえ、不注意で被弾しました」
大和 「そう? 中破の参り方じゃないけど」
朝潮 「・・・」
大和 「その様子だと色々あったようね。もし何かあったら言ってね」
朝潮 「はい・・・」
大和 「艤装運ぶの手伝いましょうか?」
朝潮 「いえ、大丈夫です。有難うございます、失礼します」タタッ
大和 「無理そうなら、そこらへんの娘捕まえてお願いしなさいね~」フリフリ
大和 「さて・・・あの様子だと衣料室にすぐ来るかしら」トコトコ
加賀が嫌われていた分、大和は人気があった。
千歳の事件も大和がなだめたお陰で収束していた。
時間は朝潮が気を失ってそんなにたっていなかった。
朝潮 (早く入渠ドッグに艤装を預けて荒潮のお見舞に行こう)
入渠ドッグまで途中幾人かとすれ違ったが、皆が朝潮を他人のように気にかけなかった。
中破はこの鎮守府の出撃において当たり前すぎて気にするほうが可笑しかった。
朝潮は何度か休んでやっと入渠ドッグにたどり着く。
入渠ドッグに建造ドッグが並ぶここは鼻が曲がりそうな異臭を放っている。
この異臭に安堵を覚える日がこようとは朝潮は今日まで思わなかった。
入渠ドッグで一番目に付くのは、見た目から危なそうな緑色の液体がみなぎる四つの巨大な試験管だ。
この試験管の中の液体に艤装を浸けることで修復される仕組みになっている。
中の液体は修復材と呼ばれ、海水と艤装の素材と軍事機密の怪物質を混ぜて作られていた。
試験管の上下左右は修復材の上記構成物質を供給する配管とタンクが大量に並びかなりごちゃごちゃしていた。
それらの供給を掌るモーターが絶えず駆動音を発し、
雑多な配管で反響したそれは心臓の鼓動のような重低音を施設内に満たした。
入渠自体は、艦娘が試験管の前にあるクレーンに艤装をセットすると後は自動で行われた。
朝潮はチェーンで先に荒潮の艤装を固定すると、ボタンを押した。
すると、チェーンが巻き上げられ高いところにある試験管の口に艤装が移動する。
朝潮 (ユーフォーキャッチャーみたいだ・・・したことないけど)
破損でできた穴たちが液体を吸い込みつつ、ぼこぼこ音を立てながら荒潮の艤装が沈んでいく。
朝潮 (私をあの日から支えてくれた荒潮を・・・今度は私が・・・)
その決心を鈍らせないように朝潮は荒潮の艤装が完全に修復材に沈むまで見守った。
片手間でセットした自分の艤装は朝潮に想われるでもなく見られるでもなく寂しく沈んでいく。
その側面は荒潮同様に穴だらけであった。
―――――
―――
艤装を浸けたら後はやることはない。
入渠ドッグから出た朝潮は荒潮の元に向かう。
医務室は、ベッドと薬品棚だけが並ぶ部屋だ。担当の艦娘が一人詰めている。
回復能力の高い艦娘は大破した時くらいしか使わない。
季節によっては、共同生活で感染拡大しやすい風邪などの病気にかかった娘を隔離するのに使われたりもする。
朝潮 「失礼します」ガラリ
静かに入室し荒潮を探す。
壁の側面に薬品棚が並んでいるのに目が行く。
ここから避妊薬をもらったことはつい最近のことなのに遠い過去のように思えた。
朝潮 (医務室担当の人いないのかしら・・・)
がらんとした部屋でカーテンの引かれたベッドは一つで荒潮の居場所はすぐわかった。
ベッドを囲む間仕切りりのカーテンをめくる。
中ではベッドで横になる荒潮の横で日向が椅子に座って本を読んでいた。
日向 「お・・・朝潮来たか」パタン
朝潮 「日向さん」
日向 「荒潮ももう落ち着いてきたよ」
朝潮 「そうですか、良かった・・・」
朝潮 「今日はすいませんでした」
日向 「朝潮、そう気に病むな。仲間を思いやることは大切なことだよ」
日向 「伊勢の時・・・私も駆け寄れていればと思うことがあるよ」
朝潮 「・・・」
日向 「湿っぽくなったな、言ってることは無茶苦茶だしな」
日向 「仲間のために私たちができることは、より多くの深海棲艦を倒すことだけなのだから」
朝潮 「はい・・・」
日向 「もう行くよ、二人で話すこともあるだろう」
日向 「夕方の会議までに風呂に入ってさっぱりするといい」
朝潮 「はい、お疲れ様です」
日向は手を振りながらカーテンを割って出て行った。
日向が座っていた見舞い用の四脚丸いすに朝潮は腰を下ろす。
荒潮を見ると時々苦しそうな顔をするものの呼吸も落ち着き穴だらけの制服から見える肌の傷は殆ど癒えていた。
荒潮 「朝潮ちゃん?」
朝潮 「!」
朝潮 「心配したのよ、大丈夫?」
荒潮 「えぇ」ニコ
朝潮 「体はどこも痛くない?」
荒潮が上半身を起こし体を軽く動かした。
荒潮 「えぇ、大丈夫」ゴソゴソ
朝潮 「じゃあ、お風呂でも行かない?」
荒潮 「いいわね~、体の煤は日向先輩が軽くぬぐってくれたみたいだけど綺麗にしたいわ~」
朝潮 「決まりね」
微笑むと荒潮は軽快にベッドから降りた。
一緒にベッドを軽く整えて、囲っているカーテンを開けると死角のベッドで加古が寝ていた。
朝潮 「もしかして・・・」
荒潮 「多分、今日の医務室当番ね」フフ
置かれている管理ノートに使用終了の旨を静かに記入する。
朝潮 「まず、制服を受け取りに行かなくちゃね」
荒潮 「そうね~」
大和のいる衣料室に向かい新品の制服をもらう。
入渠ドッグに行き艤装を預け、衣料室で新しい制服をもらうことは、第一艦隊所属の艦娘には手馴れた作業だ。
大和 「朝潮ちゃん待ってたわ、荒潮ちゃん大変だったわね」
荒潮 「いえいえ~」
大和 「荒潮ちゃん朝潮ちゃん、今回も同じサイズで大丈夫?」
荒潮 朝潮 「はい」
大和 「はい、これね」
朝潮 「ありがとうございます」
荒潮 「ありがとうございます~」
新品の制服は綺麗に袋詰めされている。
大和 「これからお風呂?」
朝潮 「はい」
大和 「破れた制服はいつもどおり、脱衣所の専用かごにお願いね」
朝潮 「了解しました」
荒潮 「失礼します~」
大和 「いってらっしゃーい」フリフリ
部屋を出た朝潮と荒潮は大浴場へ向かう。
二人の抱える制服を包むビニール袋がぱりぱり小気味いい音をたてた。
―――――
―――
カポーン
早い時間でも人がちらほらいる、ここはこの鎮守府に一つだけの大浴場。
一番大きな湯船には鉱泉を暖めたお湯が常時注がれ小さい滝のようになっていた。
小さな滝の音と鉱泉の臭いのにぎやかさが、入浴する艦娘たちに安らぎを与えていた。
美肌効果があるということで足しげく通う艦娘も多い。
朝潮と荒潮はお互いの髪を洗いっこするのが日課になっている。
風に流れる美しい長い髪は洋上から戻る時には塩気を吸い痛みべたついた。
今は朝潮の髪を荒潮が洗っている。
荒潮 「朝潮ちゃんは綺麗な黒髪ね、お母さまもそうだったの~?」クシクシ
朝潮 「うーん、お父さん似かもしれない」
災厄直後から父親は行方不明だ。
親が~なんてことは鎮守府でよくあるのでタブーでもなんでもない。皆あけすけに聞いた。
死は私生活においても艦娘の生活においてもすぐそばにあった。
荒潮 「女の子は父親に似るって言うものね」
朝潮 「荒潮は?」
荒潮 「母親似かな~くせっ毛とか。朝潮ちゃんの真っ直ぐの髪素敵ね~」
朝潮 「ありがと」
朝潮 「そんなこと言うけど、私は荒潮のくせのある髪カールが可愛くて好きよ」
荒潮 「ふふふ、ありがとう~」
荒潮が朝潮を洗髪してくれる間、朝潮は安心感に包まれる。
荒潮が頭皮に走らせる指、髪をすく指、終った時に背中をぽんと押す手の平の感触。
どれも心地よかった。
荒潮 「流すよ~?」
朝潮 「うん」
ザバー
ポン
荒潮 「終わり!」
朝潮 「次は荒潮ね」
荒潮 「は~い」
背中を押すのは荒潮流の終わりの合図だ。朝潮の母も同じことをしていた。
朝潮 (姉と私でどちらが先にお母さんに髪を洗われるか喧嘩したっけ・・・)
荒潮 「どうしたの~?朝潮ちゃんぼーっとして」
朝潮 「ごめん・・・荒潮がうまかったからどうしたら同じようにできるかなって」
荒潮 「ふふふ、私ほどの腕前になるのは難しいわよ~」ニコニコ
朝潮は荒潮ほど髪を洗うのはうまくない。
水で流すまで目をつむらないでもいい朝潮と、終始目をつむる荒潮を見ても一目瞭然であった。
朝潮 「なんでそんなに上手なの?」
荒潮 「ん~妹と弟が多かったからかな~」
朝潮 「みんなの髪洗ってたの?」
荒潮 「洗えない子たちのだけよ~」
朝潮 「たち・・・」
荒潮 「ふふふ、孤児院でもずっと一緒」
朝潮 「いいわね」
荒潮 「うん、けど・・・だから私寂しがりやなのかもしれないわ」
荒潮 「朝潮ちゃん・・・私」
急に荒潮の声が小さくなり、気になった朝潮が半身をずらし荒潮を写す鏡を見る。
荒潮 「第一艦隊から外してもらおうと思うの」
朝潮 「・・・そう」
荒潮の目はつむって見えないものの、表情はいつも通り微笑んだままだった。
朝潮 「聞いてもいい? 理由」
荒潮 「このまま話したら寒いし、湯船でお話しましょ~」
朝潮 「うん」
そこからは無言で髪を洗いタオルで巻き、それぞれ体を洗った。
いつもなら話しながらすることを無言でするのは寂しかった。
朝潮 (出撃も一人だと寂しいだろうな)
荒潮の覚悟が決まっていて今日の大破でそれが確定的となったことを朝潮は感じていた。
―――――
―――
>>145 様
お米ありがとうございます!
お米ありがとうございます!
>>173 様
お米ありがとうございます。お待ちしています。
お米ありがとうございます。お待ちしています。
少し高いところから注がれる鉱泉が落水音を絶えず放つ。
湯の表面は音と一緒に常に発生する波で海のようだ。
朝潮と荒潮は湯船でも注がれる場所の近くにいて、二人の話し声は殆ど漏れない。
朝潮と荒潮は二人並んで座っている。
朝潮はこんな時でも背筋を伸ばし荒潮はふちにもたれかかっている。
荒潮 「知ってる~?昔の鎮守府のお風呂」
朝潮 「まぁ、こんなにしっかりしたお風呂ではなかったでしょうね」
荒潮 「艦娘も少ないし、運用に慣れてなかったから、自衛隊のお風呂そのまま作ったらしいわ」
朝潮 「自衛隊のお風呂?」
荒潮 「凄く浴槽が深かったらしいわ」
朝潮 「どれくらい?」
荒潮 「朝潮ちゃんの身長くらいかな」
朝潮 「なんで?」
荒潮 「立つことになるから長風呂にならないでしょ~それに一緒に沢山入ることができるから~」
朝潮 「おぼれそう・・・」
荒潮 「鎮守府の数少ない娯楽だから艦娘に不評ですぐ終ったらしいわ」
朝潮 「そうなんだ」
言葉少なに朝潮は返す。
朝潮はこの浴槽で色々なことを荒潮から聞いた。
荒潮は周囲への気配りの延長で色々な情報を持っている娘だった。
荒潮が両手でお湯をすくい、それを見つめる。
荒潮 「何で第一艦隊を外れたいかよね~」
朝潮 「その前に聞いてもいい?」
荒潮 「な~に~?」
荒潮はすくったお湯が手から零れ落ち尽くしたらまたすくうを繰り返していた。
朝潮は荒潮を見たり周囲に視線を配ったりしている。
朝潮 「今日の出撃であんなに気が散ってたのは何で?」
荒潮 「このことを提督に言おうか迷ってて、そのまま戦闘になったから~」
朝潮 「本当なの?」
荒潮 「えぇ」
小中破から轟沈させる深海棲艦のいる海域で気を散らすなんて異常だ。
深く考えなくても嘘とわかる。
朝潮 「そう・・・」
荒潮 「そんなに真面目だと疲れない?」
朝潮 「え?」
荒潮 「茶化す気はないわよ~」
荒潮は手を止めていつもの微笑みをたたえた顔で朝潮を見る。
荒潮 「第一艦隊を外れたい理由を話すわね」
朝潮 「うん」
荒潮 「一言で言えば轟沈したくないからかな」
朝潮 「ん?」
荒潮 「不思議~?」
朝潮 「うん」
出撃となれば轟沈の危険はあった。
朝潮 「これまでも戦って危険なことは何度もあったでしょ?」
荒潮 「今更?って思うわよね」
朝潮 「えぇ」
荒潮 「朝潮ちゃんにはわからないだろうけどね」
荒潮 「これからの出撃で仲間がどんどん轟沈するわ」
平時の語り口調で淡々と轟沈を口にする荒潮。
湯に温められいつもは健康的に朱が挿す少女の顔も肩も白い、朝潮もそうだった。
朝潮 「今日の会議で提督が言った通常の出撃体制に戻すって話?」
荒潮 「そうよ~」
朝潮 「会議じゃそんな風には・・・」
荒潮 「普通怖いし動揺するわよね?」
ふと朝潮の頭に千歳のことが思い浮かぶ。
荒潮 「けど、ここは轟沈が多いから・・・今更怖がる娘はいないわ」
朝潮 「そんなことありえるの?」
荒潮 「怖がると同調が崩れて轟沈する危険は増すから」
朝潮 「そうなの?」
荒潮 「そうよ。だから、怖いと思ってもみんなその気持ちを抑え込んで戦ってる」
荒潮 「今朝も動揺してるように見えなかったでしょう」
朝潮が少し距離を置いて見てた限り、荒潮の言うとおりに思えた。
そこに動揺はなく轟沈のあった海域へ敵討ちに行く一体感があっただけだ。
荒潮 「それに・・・」
朝潮 「それに?」
荒潮 「さっき言ったとおり、精神の不安定は同調に影響するでしょ?」
朝潮 「そうね」
精神の不安定や疲労による集中力低下は同調に影響した。
同調の際は波打つ海上であろうと精神はコップの水のように静かでなければならなかった。
荒潮 「轟沈する娘は怖さに囚われて同調を乱したからとみんな思ってるわ」
朝潮 「そんなこと思い込みじゃ」
荒潮 「同室の子、轟沈した満潮ちゃんは・・・」
荒潮はすくったお湯に映る自分を見る。
荒潮 「そうだ、朝潮ちゃんは轟沈ってわかる?」
朝潮 「言葉は」
荒潮 「言ってみて」
朝潮 「戦闘中に同調が切れて絶命することよね」
荒潮 「教科書通りね~、凄く正しい」
荒潮 「ところで、轟沈した艦娘がどう死ぬかわかる?」
朝潮 「・・・」
荒潮 「朝潮ちゃんは考えなかっただけでわかるはずよ~・・・大破した時の痛みで、傷で」
荒潮 「同調が切れた瞬間に艦娘は死ぬそうよ」
朝潮 「そうなんだ」
荒潮の指摘通り朝潮はおおよそわかっていた。初出撃の大破のときから。
けど、今荒潮がその話をすることが朝潮にはわからない。
荒潮 「痛覚を抑える能力が落ちて絶命するほどの痛みを感じるからか」
荒潮 「防御壁が消えて生命維持が不可能なほど体がボロボロになるからか」
荒潮 「正確なことはわからないらしいわ」
荒潮 「けど、朝潮にもここまでは想像が付くでしょう?」
朝潮は無言でうなづく。
荒潮 「で、死体はどうなると思う?」
朝潮 「海上に浮翌遊する能力も消えるから・・・沈むんじゃない?」
荒潮 「正解よ」
荒潮 「轟沈した艦娘はね、沈むの」
荒潮 「艤装に海底へ引きずり込まれるとか言われているわ」
荒潮 「だから死体は出ないし、出ても千切れた部位だけ」
荒潮 「満潮ちゃんも・・・何も・・・帰ってこなかった」
荒潮のすくったお湯の波が強くなる。
手が震えていた。涙はぬれた頬に流れているかはわからない。
荒潮 「轟沈した艦娘に鎮守府がすることはないの」
荒潮 「葬式も何も・・・動揺するからってないわ」
荒潮 「千歳さんが言ってたように、緊急の戦力補強を名目に資材が少し多く配当されるだけ」
荒潮 「轟沈してすぐ満潮ちゃんは完全に消えたわ」
荒潮 「みんな忘れようとしてた」
荒潮 「泣いてる私に遠征が何度も指示されて・・・」
荒潮 「轟沈した時に同じ第一艦隊だった時雨ちゃんも何もないように・・・」
荒潮 「むしろ、満潮ちゃんの轟沈前より張り切って出撃していたわ」
朝潮 「だから、それは・・・それしか満潮ちゃんのためにできることがなかったからじゃないの?」
荒潮 「そうすることを満潮ちゃんが望むの?」
朝潮は答えられない。
荒潮 「みんな時雨ちゃんのように・・・提督の言葉に近い想いを持って出撃してるわ」
荒潮 「轟沈した仲間のために・・・いい言葉よね」
朝潮 「そうするしかないじゃない」
荒潮 「そうかもね、何があったって深海棲艦の侵攻は止まらないのだから」
朝潮 「そうよ、悲しみを抑え込んで必死に戦うしかない」
荒潮 「悲しみ?必死に戦う?最初だけなのよ」
少し話すトーンの変わった荒潮に朝潮が視線を向けると無表情な荒潮がこちらを見ている。
話し方は機械の様に平坦で、目に力はない。
荒潮 「本当に最初だけ」
朝潮 「最初だけ?」
荒潮 「無茶な出撃が益々出撃と轟沈に拍車をかける」
荒潮 「轟沈した艦娘の分まで出撃しなければならない疲労と精神的な重圧・・・」
荒潮 「私の涙が枯れた頃に満潮ちゃんの轟沈のせいで出撃が増えたと愚痴る時雨ちゃんを見たわ」
荒潮 「怖がって同調を乱して勝手に沈んでいい迷惑だよって」
前を見据える荒潮の声は震えてきていた。
朝潮 「時雨ちゃんも本心で言ったんじゃ・・・」
荒潮 「本心よ。それに別に時雨ちゃんだけじゃない」
鎮守府の事情に通じた荒潮がいい加減なことを話すことはなかった。
荒潮 「よくあることなのよ」
朝潮 「そんな・・・」
荒潮 「だから轟沈した娘のために出撃するのはほんの最初だけ」
朝潮 「人間そんなにすぐ忘れられないわよ」
荒潮 「いつも誰かが轟沈してるから一々深く悲しんだりしてられない」
朝潮 「そんな・・・異常よ」
荒潮 「異常なことも頻繁にあればそれが普通になるわ」
朝潮 「おかしいわよ」
荒潮 「信じられない?」
朝潮 「だってそんなに轟沈があるなら高い戦果と士気が説明できない」
荒潮 「いつも誰かが轟沈してるって言ったでしょ?」
朝潮 「えぇ」
荒潮 「毎日変わるのよ、轟沈した仲間のためにの”仲間”がね」
朝潮 「どういうこと?」
荒潮 「満潮ちゃんのために出撃があったのが三日と言えばわかる?」
朝潮 「次の轟沈が起こったってこと?」
荒潮 「そう」
轟沈は熟練提督なら年で一人出るか出ないかだ。
この頻度は異常と朝潮でもわかる。
荒潮 「満潮ちゃんは・・・仲間だって帰ってこない」
荒潮 「それなのに日々変わる轟沈した仲間のために出撃してまた轟沈する」
荒潮 「そうやってるから結果的に士気と戦果が高いだけよ。この鎮守府は」
荒潮がすくったお湯が指の隙間からこぼれる。
朝潮 「言い過ぎよ・・・」
荒潮 「満潮ちゃんは・・・いい子だったわ、朝潮ちゃんみたいに真面目で」
荒潮 「人を思いやって鎮守府のみんなが大好きで!」
朝潮 「荒潮だってそうじゃない」
荒潮 「私は違う!・・・違うのよ」
荒潮はすくったお湯で時々顔をぬぐった。
荒潮 「満潮ちゃんは」
荒潮 「この鎮守府の朝潮型で初の第一艦隊になった艦娘よ」
荒潮 「それでも私たちと気取ることな接してくれていたわ」
荒潮 「私と朝潮もそうだけど、こっちの方が異常なの。お給金も待遇も違うのだから」
荒潮 「他にも第一艦隊所属の駆逐艦がいるのに私たちに集まるのはそういう訳なのよ」
朝潮 「そう・・・」
荒潮 「満潮ちゃんは今の私たちみたいに色々話してくれたわ」
荒潮 「深海棲艦それも戦艦の強力な攻撃をかいくぐって砲撃して小破させたとか、色々ね」
荒潮 「私と霞と大潮の憧れだった、大切な友達だった」
荒潮 「轟沈する前日も二段ベッドの上下で明日も頑張ってねと話してたわ、私たちがするように」
荒潮 「変わらない日常だったのよ、何の前触れもなく満潮ちゃんは轟沈した」
荒潮 「誰も悲しんでいないから言われるまで轟沈に気付かなかったの、笑えるでしょ」
荒潮 「翌日満潮ちゃんに家族がいないから前いた孤児院に残った荷物を送ることになったわ」
荒潮 「同室だから私が作業に当たった」
荒潮 「荷物を整理していると読んだことのない満潮ちゃんが大事にしてた日記が出てきたの」
荒潮 「今でも読まなければと思うことがあるわ」
荒潮 「日記の方は殆ど私たちと一緒だった時のことばかり嬉しそうに書いてあった」
荒潮 「誇らしげに話してた出撃の日記の内容は危なかったとか怖い辞めたいばかりだった」
荒潮 「私たちは誰も何も満潮ちゃんの気持ちをわかってなかった」
荒潮 「今思えば轟沈への恐怖の中で私たちと話してたのが一番楽しい思い出だったのかもしれない」
荒潮 「私は同じ部屋にいる満潮ちゃんのことを自分の半身のように思ってた」
荒潮 「戦果を上げたことを自分のことのように喜んでたわ」
荒潮 「けど、それだけで・・・悲しさも恐怖も共有できていなかったのよ」
荒潮 「満潮ちゃんは寂しかったと思う」
荒潮 「それでも勇気を振り絞ってそれを見せないで出撃してた」
荒潮 「それなのに私・・・自分勝手よ」
朝潮 「そんなことない!!」
荒潮 「慰めなんていらない・・・」
荒潮 「満潮ちゃんの勇気を見てきたのに、もう第一艦隊から外れたいなんて」
荒潮 「けど怖いのよ、亡くなって数日で忘れられて、それどころか陰口を叩かれるのが」
荒潮 「寂しがりやだから嫌なのよ、何もなくなるのも。朝潮にも忘れられたくない、家族にも、みんなにも・・・」
荒潮 「そう思っちゃいけない?」
朝潮 「・・・」
こちらを見た荒潮の目の赤さが未だ白い肌に際立った。
荒潮 「死ぬのが怖いの」
荒潮 「こんなこと朝潮に話すことじゃないわよね、ごめんなさい」
朝潮 「じゃあ、今日の出撃は」
荒潮 「満潮ちゃんの日記で恐怖の部分だけが現実味を帯びて大きくなっていってるのよ」
荒潮 「この頃夢で見たことない満潮ちゃんの轟沈した場面を見るの」
荒潮 「自分が第一艦隊で出撃しているから日に日に内容が鮮明になるのよ」
荒潮 「さっきのは嘘、今日の出撃では平静を保つので精一杯だったのよ」
荒潮 「よくできてたでしょ?」
朝潮 「大破しちゃってたじゃない」
荒潮 「そうね」フフ
荒潮が自嘲気味に笑う。初めて荒潮がそう笑うのを朝潮は見た。
朝潮 「満潮の戦いも、残された第一艦隊の戦いも無駄じゃない」
朝潮 「誰かがやらないといけないことだから」
朝潮 「私たち艦娘が」
朝潮 「艦娘だけが戦って守ることができるのだから」
荒潮 「そうね」
荒潮 「勝手に適性を与えられて生死の狭間で戦わされるのは私たちにしかできないことよ」
荒潮 「それを誇らしいと思わないことはない、今も意味がないこととは思わない」
荒潮 「けど、私には無理なの、さっき言った気持ちの部分だけじゃないわ」
荒潮 「私は何より孤児院の家族が大切で見捨てられない」
朝潮 「見捨てる?」
荒潮 「満潮ちゃんのいた孤児院から手紙が来たの遺族補償じゃ足りないから献金が欲しいって」
荒潮 「日記を読んだんでしょうね、私の名前が一番多く書いてあったから」
荒潮 「駆逐艦が轟沈しても大して遺族補償なんて出ないのよ」
荒潮 「階級や仕官年数で遺族補償が変わるように入って間もない駆逐艦に大した額が支給される訳ない」
朝潮 「払ったの?」
荒潮 「払ったわ・・・少し」
朝潮 「・・・」
荒潮 「妹たち弟たちのためにも。私は[ピーーー]ないのよ・・・」
朝潮は何もなぐさめることができないのが悔しかった。
>>189 訂正
次の私の米と入れ替えを
次の私の米と入れ替えを
朝潮 「満潮の戦いも、残された第一艦隊の戦いも無駄じゃない」
朝潮 「誰かがやらないといけないことだから」
朝潮 「私たち艦娘が」
朝潮 「艦娘だけが戦って守ることができるのだから」
荒潮 「そうね」
荒潮 「勝手に適性を与えられて生死の狭間で戦わされるのは私たちにしかできないことよ」
荒潮 「それを誇らしいと思わないことはない、今も意味がないこととは思わない」
荒潮 「けど、私には無理なの、さっき言った気持ちの部分だけじゃないわ」
荒潮 「私は何より孤児院の家族が大切で見捨てられない」
朝潮 「見捨てる?」
荒潮 「満潮ちゃんのいた孤児院から手紙が来たの遺族補償じゃ足りないから献金が欲しいって」
荒潮 「日記を読んだんでしょうね、私の名前が一番多く書いてあったから」
荒潮 「駆逐艦が轟沈しても大して遺族補償なんて出ないのよ」
荒潮 「階級や仕官年数で遺族補償が変わるように入って間もない駆逐艦に大した額が支給される訳ない」
朝潮 「払ったの?」
荒潮 「払ったわ・・・少し」
朝潮 「・・・」
荒潮 「妹たち弟たちのためにも。私は死ねないのよ・・・」
朝潮に反論する気は元からなくても、何もなぐさめることもできないのが悔しい。
唇をかみ締める朝潮にいつもの顔の荒潮が話しかける。
荒潮 「話したらすっきりしちゃった」
朝潮 「・・・」
荒潮 「満潮ちゃんならこんな相手に何かを背負わせるような話はしなかったわ」
荒潮 「私は満潮ちゃんになりたかったけどなれなかった」
朝潮 「荒潮と満潮は違うのだから仕方ないわよ」
それ以上何も言えなかった。
荒潮 「あがる~?」
朝潮 「うん」
ちゃぽん
浴室内の水滴が付いた時計は朝潮が思ったより時間が経過していないことを示していた。
大浴場にいるメンバーは余り変わっていない。
しかし、朝潮にとって脱衣所まで目に映る人間が全て当初より別人のように思えた。
―――――
―――
パリパリ
新しい制服を包むビニール袋を開ける。
新しい衣服のにおい、のりのにおい、それと・・・。
朝潮 クンクン
荒潮 「いつもしてるけど、何してるの~?」
朝潮を覗きこむ荒潮。格好は二人とも下着のみ。
艦娘の制服は常在戦場を旨とする鎮守府内では着用必須だ。
ただ、女性ばかりの寮関係施設では、夏は下着のままうろつく艦娘さえいる。
朝潮 「引かないでね?」
荒潮 「うん?」
朝潮 「新しい制服のにおいをかいでいるの」
荒潮 「何かにおうかしら?」クンクン
朝潮 「潮とすっぱい?においかな・・・」クンクン
荒潮 「工場のにおいじゃないんだ、へ~」クンクン
朝潮 「少し前までそうだったわ、今はこんなにおい」
荒潮 「なるほど、すえたにおいね・・・」クン
荒潮が難しそうな顔をする。
朝潮 「どうしたの?」
荒潮 「朝潮ちゃん、このこと余り話さない方がいいかもしれないわ~」
朝潮 「ごめん、はしたないよね?」
荒潮 「違うわよ~」フフ
朝潮 「な、なんで?」
荒潮 「 」ヒソヒソ
朝潮 「えっ」
荒潮 「今でも提督は大和さんと衣料室で仲良しみたいねー」ウフフ
朝潮 「ハハ・・・」
提督が艦むすと二人きりになることができる空間は割と少ない。
荒潮 「朝潮ちゃんは下着にこだわりあるのー?」
損傷がわかる高性能な制服は艦種で完全指定だ。
しかし、制服以外の部分はいくらか選ぶことができた。
(靴下タイツスパッツ手袋腕当てリボンネクタイ髪留めアクセサリー下着etcetc)
と言っても選択できるのは全て海軍の審査を受けたものだけだ。
当然、制服のように対衝撃耐熱対磨耗に優れていた。
時々、審査外の化繊下着やアクセサリーを付けた艦娘が、
戦闘の熱で皮膚にそれを癒着させてしまい自己回復能力が働かなくなる事故があった。
朝潮 「んー、ニーソックス?少しでも体を覆う布の面積があった方が安全かな・・・なんて」
荒潮 「なるほど、朝潮ちゃんらしいわね」フフ
朝潮は他にも色々想像していた。
足に艤装を付けるような艤装を緊急で任される時があるかもとか、色々だ。
朝潮 「荒潮はスパッツにこだわりがあるの?」
荒潮 「なんで~」
朝潮 「朝潮型は足に艤装付けないから特にスパッツじゃなくてもいいわよね」
朝潮型が腕当てを付けるのは艤装を腕に付けるからで、
同様に足に艤装を付ける艦種はスパッツやタイツで艤装の触れる部分を覆う艦娘が多かった。
荒潮 「そうね~・・・こだわりはないけど」
荒潮 「艦娘になる前に余りスカートってはかなかったから~」
朝潮 「そうなんだ」
荒潮 「スカートって小さい子が引っ張るから」
朝潮 「そういえば私も小さい頃お姉ちゃんのひっぱってたかも・・・」
荒潮 「どこも同じね~」フフ
朝潮 「けどそうやってはけなかったなら尚更スカートでおしゃれしたいとかは?」
荒潮 「私も同じこと考えてのたけど、いざ慣れないスカートだけだと」
朝潮 「?」
荒潮 「すーすーするのが」
朝潮 「なるほどね。ふふ、それにしても意外」
荒潮 「ん~?」
朝潮 「荒潮はそういうのみんなに合わせるイメージがあるから」
艦隊や寮の割り振りは、指導や運用の都合から同じ艦種かつ~型で一緒にされやすい。
当然、同じ艦種や~型で仲良くなれば制服以外の格好を揃える娘も多かった。
荒潮 「同調するのに集中力を使うから慣れた格好を今から変えるのもね~」
朝潮 「そういうこと荒潮も気を付けるのね」
荒潮 「私は人一倍気を付けてるわよ~」
朝潮 「そう・・・」
着替えの終わった二人はお互いの髪を乾かす。
ここでも荒潮は上手だ。乾かし方より頭を走る指が気持ちいい。
してあげる妹や弟に静かにしてもらうためのテクニックなのだろう。
朝潮 「うーん・・・衣装を変えないって言うほど効果あるの?」
荒潮 「ないかな~気休めとか験をかつぐために近い感じよ~」
朝潮 「験をかつぐ?」
荒潮 「うん、そういえば他の人も同じようこと色々してるわ~こういう鎮守府だから」
朝潮 「そうなんだ、気付かなかった・・・」
荒潮 「朝潮ちゃんはそういうの信じなさそうよね」
朝潮 「そうかも・・・」
荒潮 「そうだと気付かないわよね」
朝潮 「具体的にはどういうことやるものなの?」
荒潮 「人によるわよ~、気付いてるだけでも沢山」
荒潮 「よくあるのが朝食を決めたものにしたり、指揮作戦艇に乗る足を限定したりね~」
朝潮 「そんなにあるんだ、気付かなかった」
荒潮 「気にしていなければ気付かないわよ~」
朝潮 「そうかな?」
荒潮 「そうよ、わざわざ人に言うことじゃないから~」
朝潮 「荒潮は信じてるの?」
荒潮 「信じてると思うわ」
朝潮 「思う?」
荒潮 「それで少しでも気持ちが上向きになればいいなって、いいことしか信じないの」
朝潮 「荒潮らしい」フフ
朝潮 「荒潮の験担ぎって何か教えてもらえる?」
荒潮 「制服をまめに新しいのに変えたりかしら~」
朝潮 「綺麗好きだなとは思ってたけど」
荒潮 「朝潮ちゃんは真面目すぎよ~」
朝潮 「え?何が?」
荒潮 「少しの損傷なら制服変えないでしょ、制服も貴重な物資だからとか思ってる?」
朝潮 「そうかも・・・」
荒潮 「それは験担ぎ以前の問題よね~」
朝潮 「うーん」
荒潮 「制服より朝潮ちゃんの方が大事なんだから~」
朝潮 「ありがとう、けど孤児院のくせでものを捨てられないというか・・・」
荒潮 「気持ちはわかるけどね~」
朝潮 「でしょ?」
荒潮 「でも、ものを大切にする朝潮ちゃんが危険な目にあうのをそのものは喜ぶかしらね~」
朝潮 「うっ、ものさん心配かけてごめんなさい」
荒潮 「フフフ」
これまでも色々話してきた。
けど、このようなお互いを改めて確認するような話はしなかった。
それはそれが必要なかったからだ。今はこの時間が惜しい。
朝潮 「荒潮、ごめん」
荒潮 「な~に~?」
朝潮 「荒潮は、タイミングとか考えてると思うけど」
だから朝潮は、風呂から出てからこの話題には触れなかった。
朝潮 「今執務室にいる加賀さんにさっきのこと話した方がいいと思う」
それにいいようのない卑怯さを朝潮は感じていた。
荒潮 「提督に言った方が・・・」
朝潮 「そんなこと言ってたら出撃の時みたいになるかもしれないじゃない」
荒潮 「それはそうだけど」
朝潮 「一緒に行くから言いに行こう」
朝潮は荒潮の穴だらけの制服を自分の破れた制服と一緒に脱衣所すみの専用かごに投げ込むと、荒潮の手を引く。
荒潮 「うーん・・・」
何かいいたげに考え込む荒潮が気にかかった。
―――――
―――
~執務室~
加賀 「・・・無理よ」
加賀は視線をPCのモニターに向けたまま言い放つ。
加賀 「これ以上、用がないなら下がりなさい」
荒潮 「・・・」
朝潮 「何でですか?」
加賀 「この出撃体制が当分続くからよ」
加賀は目の前の機械より冷たく機械的に話した。
朝潮 「轟沈するからですか?」
荒潮 「朝潮ちゃん・・・」
加賀 「そうよ、だから減ると回らないの」
朝潮 「轟沈が前提なら尚更一人くらい抜けても大丈夫ではないでしょうか?」
荒潮 「朝潮ちゃん!!!」
朝潮 「」ビクッ
荒潮 「朝潮ちゃん、加賀さんじゃどうにもできないわ」
朝潮 「?」
荒潮が何か言いたそうにしてるのを、朝潮は決心が鈍らないよう無理やり引っ張って来ていた。
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