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    元スレ朝潮「制裁」

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    601 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 03:46:11.59 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,+0)


    朝潮 「何時もの制服ですね」シゲシゲ

     「それはそうですよ」

     「梱包で密封されて、空調の利いたこの部屋で数量を含めしっかり管理されています」

     「轟沈を防ぐためのものですから、当然ですけどね」

    朝潮 「なるほど・・・」

    朝潮 (無理・・・か)


     手に取った自身の制服を元あった場所に置く。

     大和の方を向くと、大和が悲しそうな顔で口を開いた。


     「朝潮さん、重要な話があります」

     「大和は明日の模擬演習を辞退します」

    朝潮 「え??・・・何でですか!?」


     衣料保管のためか、空調のきいた室内は清浄で乾燥していた。舌が乾く。


    朝潮 「説明してもらえますか?」

     「申し訳ありませんが、理由は言えません」

    朝潮 「加賀が・・・犯人ではなかったんですか?」

     「何で、そう思ったんですか?」

    朝潮 「あ、いえ・・・止めるということはそういうことかと」

     「・・・加賀さんとは決着をつけます」

     「後日、改めて、模擬演習を挑んで」

    朝潮 「加賀が受ける保証はあるんですか?」

     「受けざるを得なくします」

     「けれど、加賀さんが懲らしめられる姿は、朝潮さんは見られないかも知れません」ニコ


     質問を許さない大和自信満々の笑顔。


    朝潮 (加賀がやられる姿を私が見られない???・・・)

    朝潮 (再戦を加賀に約束させるために邪魔な私を・・・)


     制服は密封されており、少々の血が付いても簡単に処理できるだろう。

     この密室は、朝潮を縊り殺すのにちょうどよく思えた。


    朝潮 (まさか・・・)ハハ

    602 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 03:49:08.12 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,+0)


    朝潮 「何で見られないんでしょうか?」

     「私達の会話は全て聞かれていましたから」

    朝潮 「えっ・・・」

    朝潮 (ばれたの?!)

     「そんなに驚かなくても・・・」

     「会話を聞かれていたのは、加賀さんの口振りから想像がつくかと思いましたけど」

    朝潮 (・・・大和さんと加賀のじゃなく、大和さんと私の会話か)

    朝潮 「すいません・・・全てということは、作戦の方も?」

     「勿論です」

     「なので、加賀さんに再戦してもらうため、朝潮さんに新たな協力をしてもらいたいんです」

    朝潮 「出撃中に加賀の同調に私が介入する、とかですか?」

     「作戦は聞かれていたんです」

     「あの抜け目ない加賀さんなら何か対策をするでしょうし、同じ手は通じないでしょう」

     「そもそも、その方法では同調の解ける朝潮さんが実戦だと非常に危険です」

     「それに、同調が解けていれば犯人というのも周囲に丸わかりです」

    朝潮 「確かに…」

    朝潮 (そうか、同調を解けば沈むわよね・・・)

     「なので、朝潮さんに同調へ介入してもらうのは止めるということです」

     「ただし、大和が模擬演習を加賀さんに改めて申し込む日に・・・・」

     「大和が提督にお願いして、朝潮さんには遠征などで鎮守府を離れてもらうことになります」

    朝潮 「私がいなければ、公正な模擬演習として加賀も受けざるを得ないということですか…」

     「その通りです、今日も一度は受けたんです」

     「改めて申し込んでも、プライドの高い加賀さんなら絶対に受けるでしょう」

    朝潮 「わかりました」

     「ありがとうございます」

     「協力して頂けると思っていました」ニコ

    603 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 03:51:59.64 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,-137)


     言い終えるか、大和が朝潮に近付いた。

     抜き身の刃物のような威圧感が、朝潮のほぼ直上から叩きつけられる。

     朝潮は直前の様子から想像できない事態に、後ずさる。


     「ところで・・・」

    朝潮 「?」

     「何を聞いたんですか?」

    朝潮 「っ!!!!!!」

    朝潮 (今度こそ埠頭での盗み聞き?!ばれっ?!!何で!!!)


     想定した問答を終え、朝潮は油断していたのもある。

     後退する朝潮の体を、大和がしっかりと両腕で捉えた。

    604 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 03:57:50.34 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,-202)


    朝潮 「なっ、何のことですかっ?」

     「朝潮さんはわかりやすいですね」

     「何か隠していることはわかっていました、最初から」

     「大和と話していた時に比べて、加賀さんに対し攻撃的でなくなっていませんか?」

     「大和と話していた時のままなら、訓練場で一悶着ある方が自然というものです」

    朝潮 「・・・」

     「訓練所で加賀さんに何かされたか・・・吹き込まれたんじゃないですか?」

     「その動揺が証左です、素直に教えてくれませんか?」

    朝潮 (埠頭の盗み聞きは、ばれてない!??)


     ほっと吐きたい息を飲み込み、俯き動揺したふりをしたまま答える。


    朝潮 「ここで言わなくても良いようなことでしたので・・・」

     「というのは?」

    朝潮 「”明日の出撃で全ての攻撃を避けなさい”、と」

     「・・・」

    朝潮 「どういう意味なんでしょう?」

    朝潮 「あんな危険海域で、わざと攻撃に当たることなんてありえないのに・・・」


     頭に突き刺すような大和からの視線を感じる。

    605 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 03:59:07.09 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,-282)


     「そうですか・・・」ジッ

     「本当のようですね」パッ

     「しかし、それは・・・大和にも意味がわかりませんね」トコトコ

     「気負わせて朝潮さんにプレッシャーをかける積もりではないですか?」

     「現に朝潮さんは動揺していらっしゃるわけですから」

    朝潮 「なるほど・・・」

     「しかし、朝潮さん、安心なさってください」

     「提督が朝潮さんを気遣って、明日出撃させる際は旗艦にして様子を見ると仰っていました」

    朝潮 「そうなんですか・・・」

    朝潮 (執務室盗聴で得た情報?)

     「正直に話してくれてありがとうございます」

     「また何か加賀さんに言われたり、されたら、大和に話して下さいね」

     「出来る限りお力になりますから」

    朝潮 「はい」

     「さ、話はお終いです。夜も遅いですし解散しましょう」

     「これから大和は提督に明日の模擬演習辞退を伝えないといけないんです」

     「おやすみなさい、朝潮さん」

    朝潮 「はい、おやすみなさい、大和さん」


     追い立てられるように朝潮は衣料室を出される。

     時間を置いて、大和も衣料室を出て鍵をかける。

     提督のもとへ向かう大和の手元の紙袋から、パリパリと音がなっていた。



    ―――――
    ―――


    606 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:02:35.71 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,-298)


     朝潮は、鎮守府から寮への廊下を歩く。

     消灯時間の過ぎた寮は非常灯以外の照明が切れ暗く、闇が住人に代わり息づいている。


    朝潮 (大和さんに会っても、わからないことが多過ぎる)

    朝潮 (もう、私がどうするかを考えるしかない)

    朝潮 (次の轟沈が出る前に、轟沈が人の手によるものか・・・私が判明させる)

    朝潮 (でも・・・できるの?未だに何をすればいいのかもわからないのに・・・)


     思い出したように、歩く足が震えていた。


    朝潮 (情けない・・・)

    朝潮 (そもそも犯人がいたとして、こんな私に何ができるのかしら・・・)


     悪い考えは蓋を外すと一斉に溢れ出しそうになる。

     それでも両足に力を込めて進む。


    朝潮 (わかること、できることからやっていくしかないわよね)

    朝潮 (まず、加賀の言うように知覚で逃げ回って何が・・・)


    加賀 「死にたくなかったら・・・明日の出撃で、全ての攻撃を避けなさい」


    朝潮 (死にたくなかったら・・・死にたくない、ん?)

    朝潮 (この意味って・・・被弾したら危ない、ということじゃ・・・ない!??)

    朝潮 (明日の出撃で私が被弾すると、加賀に不都合だから許さない殺すって意味にも・・・)

    朝潮 (だとしたら・・・)

    朝潮 (損傷度の確認で、加賀に不都合な事実があるってこと??)


     制服を触ったり引っ張ったりしてみる。いつもの制服だ。

    607 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:05:14.84 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,+0)


    朝潮 (大和さんの言葉を信じるなら、明日は私が旗艦)

    朝潮 (まず轟沈しないのも、この予感を裏付ける・・・)

    朝潮 (私が確かめるしかない・・・被弾してでも)

    朝潮 (もし、本当に被弾が危険でも、私なら損傷度が知覚でわかる)

    朝潮 (私にしかできない!!)

    朝潮 (けど・・・私が損傷度や制服におかしい点がある、と出撃中に報告しても・・・)

    朝潮 (提督は進撃を止める?)

    朝潮 (止めなければ・・・その時は、同調が落ちていようが、知覚で避けるしかない)

    朝潮 (同調が、落ちていようが?・・・無理よね、昨日は中破でさえ・・・あれ・・・)

    朝潮 (昨日の荒潮大破と私の中破・・・違和感・・・荒潮の日記・・・一昨日の制服交換)


     記憶が手品師の口から出る万国旗のようにハタハタと繋がり飛び出してくる。

     朝潮は自身の部屋の前で踵を返し、霞と大潮の部屋へ歩き出した。


    朝潮 「・・・」コンコン

    大潮 「は~い」

    霞 「誰よ、こんな時間に」ガチャ

    大潮 「朝潮ちゃん?」

    霞 「はぁ・・・寂しいの?しょうがないわね!一緒に寝てあげてもいいわよ」

    大潮 「お泊りですか?!」

    朝潮 「霞・・・」

    霞 「?・・・何よ?じろじろ見て」

    朝潮 「服、脱いで」

    霞 「はぁ?!///////////」



    ―――――
    ―――


    608 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:09:25.78 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,+0)



    ~翌日 深夜 洋上~


     指揮作戦艇は照明も付けず、自動操縦である地点に向かって闇の中を走っている。

     艇内、朝潮を絞った部屋に提督と加賀はいた。


    加賀 「二日連続で出撃が少なかったわね」

    提督 「そんなこともある」

    加賀 「朝潮のせいよね?」

    提督 「お前の言った通り・・・混乱した朝潮が、戦闘中やけに被弾してな」

    加賀 「報告書を見たけど、旗艦の朝潮を狙った攻撃には殆ど当たっていたようね」

    提督 「そうだ・・・で、加賀に聞こうと思っていた」

    提督 「何で朝潮がこうなったかわかるか?」

    加賀 「元々不安定な能力なのよ」

    加賀 「友人の死、能力の否定、不幸が重なったとしか言えないわね」

    提督 「そんなことくらいで満足に能力も発揮できないのか」

    加賀 「これまでも言ってきた筈よ」

    提督 「それにしても、一戦目二戦目・・・雑魚ばかりの海域で満足に動けんとは」

    加賀 「ふーん・・・」

    提督 「おい、まさか・・・、知覚は強い敵の動きしか察知できないとは言わんよな?」

    加賀 「半分正解ね」

    加賀 「光に例えるとわかりやすいわ」

    加賀 「強力な深海棲艦ほど同調の高まりは大きい、言い換えれば強い光だと思えばいいわ」

    加賀 「その中で、弱い深海棲艦の攻撃、つまり弱い光を捉えるのは、慣れや経験がいるわ」

    提督 「知覚に開眼したばかりの朝潮は、文字通り目の開いたばかりの赤子と同じということか」

    提督 「だから、昨日”朝潮が混乱の末に大破する”と言ってたのか」

    609 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:11:24.93 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,+0)


    加賀 「そうよ」

    提督 「見えてきたぞ」

    提督 「昨日の戦闘で、加賀が弱い攻撃にわざと当たって、荒潮を見捨てたように見えたのも」

    加賀 「ご名答、タ級は弱い攻撃で意図的に私の体勢を崩しに来ていたわ」

    提督 「矢張り・・・」

    提督 「敵はお前の能力に気付いていたのか?」

    加賀 「さぁ・・・、タイミングやタ級の戦闘能力を考えれば限りなく黒でしょうね」

    加賀 「こちらからも質問いいかしら?」

    提督 「ん?」

    加賀 「被弾が多かったとは言え、報告書で朝潮は中破となっているわよね」

    加賀 「何で大破もしていないのに撤退したの?」

    提督 「被弾を怖がってな・・・」

    加賀 「ふーん」

    提督 「何だ」

    加賀 「てっきり・・・制服が中破なのに大破してる気がする、と朝潮が言い出したのかと思ったわ」

    提督 「やけに具体的だな」

    加賀 「違うの?」

    提督 「間違ってない、これも朝潮の不安定な知覚のせいか」

    加賀 「かもしれないわね」

    加賀 「それにしても・・・出撃後、あなたが私でなく大和さんを執務室に呼んでいたけど」

    加賀 「あなたも大和さんと朝潮が仲がいいのを知っていたのね」

    提督 「・・・あぁ、大和には朝潮の精神的フォローを頼んだ」

    提督 「PTSDだったら、除隊させることも考える」

    加賀 「ありえないわね」

    提督 「PTSDがか?」

    加賀 「そう」

    提督 「だろうな」クク

    提督 「朝潮はもう壊れてるよ」

    610 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:14:05.00 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,+0)


    加賀 「?」

    提督 「加賀は艦娘が人を殴る時に、何%の力が出るかわかるか?」

    加賀 「身体を壊さないよう脳がストッパーをかけて、人間は10%前後しか力が出せないって話?」

    加賀 「そうなら、艦娘はそのストッパーを外すから、100%じゃないかしら?」

    提督 「次第点の回答だな、実際は50%かそこいらだろ」

    提督 「人を殴るのに脳内でかかるストッパーは、自身の保護だけじゃない」

    提督 「一人の人間を終わらせることへの躊躇い、いわゆる精神的なストッパーも働く」

    提督 「非力な女に多いと思われてる滅多刺しな、確実に殺すために何度も刺すことだが」

    提督 「余り知られていないが男も多い、無意識に加減して男でも人一人簡単に殺せやしない」

    加賀 「それと朝潮に何か」

    提督 「朝潮はな、荒潮が轟沈した戦闘で、タ級へ攻撃した時、躊躇いが一つもなかった」

    加賀 「はい?人間の話から何で対象が深海棲艦の話になるの?」

    提督 「深海棲艦は強いものほど、人型に近付き知識を持ち人語を解し感情を持つ」

    提督 「言ってしまえば、人間臭くなる」

    加賀 「そこに躊躇いが生まれる・・・」

    提督 「そうだ、お前のように生粋の職業軍人のように処理できる者は少ない」

    提督 「が、朝潮にもその資質がある」

    提督 「おれがそうした」

    加賀 「それを壊れてるというなら、この鎮守府は崩壊しているも同然ね」

    加賀 「これだけ沢山深海棲艦を殺し、轟沈で味方に死人を出し、戦意が落ちないのだから」

    提督 「理想の鎮守府だ」

    加賀 「偉くなったら離れることになるわよ、この海とも」

    提督 「そうだな」

    加賀 「あなたはどうする積もりなの?偉くなって」

    611 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:17:12.97 ID:3KTl2DBd0 (+99,+30,+0)


    提督 「おれは何も変わらない、これまで通り力を求めるだけだよ」

    加賀 「力? 私や大和さんじゃ足りないの?」

    提督 「あぁ、足りんな」

    提督 「それに、そもそも力として質が違う」

    加賀 「質が?」

    提督 「お前は力を何だと思ってる?」

    加賀 「敵を打ち倒す能力じゃないの?」

    提督 「実にお前らしいな、間違ってない」

    提督 「力とは、目的を実現する能力だ」

    提督 「その目的が、お前は敵を打ち倒す能力だったということだ」

    加賀 「だとしたら、あなたの目的は?」

    提督 「おれの戦術・思想で結果を出し、軍をおれ色に染めることだ」

    加賀 「本気?」

    提督 「人間どこかで欲望の限界を知る」

    提督 「法、社会、道徳、能力、どこかでな・・・おれは未だ折れたことはない、が」

    提督 「おれの目的を、我を通すのに、いつしかおれじゃなく周囲を折れば良いと気付いたんだよ」

    加賀 「回りくどいことをしないで、政府でも転覆させれば?」

    提督 「できると思うか?」

    加賀 「・・・」

    提督 「艦娘が兵器として優れていることは論を俟たないが、所詮生身の小娘よ」

    提督 「補給がなければ戦闘継続は困難、毒でも盛られれば一瞬で終わるだろうな」

    提督 「それに艦娘としての弱点もある」

    加賀 「海から離れるほど艤装能力が発揮できなくなること?」

    提督 「それも一つだ」

    提督 「入居ドックと開発工廠の技術を一部の国が握り込んで離さないのも大きい」

    提督 「だから、商売になる訳でもあるが・・・」

    加賀 「取引のこと?」

    提督 「それはいいとして、今はこんなものもあるしな」


     提督が鉄の塊を加賀に投げてよこす。

     加賀はそれを受け取ると、手で回しながら見る。

    612 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:19:39.52 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,-234)


    加賀 「ただの自動拳銃じゃ・・・ないわね」

    提督 「お前ならすぐ気付くと思ったよ」

    提督 「横のマガジンリリースボタン、そうだ、その出っ張りを押してマガジンを見てみろ」

    加賀 「これ・・・まさか」

    提督 「そのまさかだ」

    提督 「この拳銃弾は、深海棲艦のコアを削り化学処理をかけて作られた特殊弾頭になってる」

    加賀 「地上軍が、対深海棲艦用に火砲弾として使ってるとは聞いていたけど・・・」

    提督 「拳銃弾まで小型化されてるのは極秘だ、これは一部提督にしか配られていない」

    加賀 「轟沈などが多くて、艦娘に寝首をかかれそうな提督かしら?」

    提督 「そうだ」クク

    加賀 「つまり、これなら艦娘も・・・」

    提督 「防御壁を中和して貫通し殺せる、ということだ」

    提督 「今や、人間にとって艦娘はそこまで脅威でないということだな」


     一頻り眺めた加賀は、マガジンを拳銃に収めると、提督に手渡す。

    613 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:21:49.89 ID:3KTl2DBd0 (+88,+30,+0)


    提督 「ところで、女には男の権力・身分・地位と結婚する人種がいる」

    加賀 「は?」

    提督 「そういう女にお前を見習わせたいよ」

    加賀 「いきなり何?」

    提督 「月が綺麗ですね、という言葉を知ってるか」

    加賀 「文豪が英語の愛してるを翻訳したという話かしら」

    提督 「そうだ」

    提督 「愛とは、究極なところ価値観や思想の同化もしくは共有とは思わんか?」

    加賀 「セックスしてお互い気持ち良ければ愛なのかしら?随分チープね」

    提督 「確かにそれも一つの愛だ」クク

    提督 「おれはこの鎮守府を愛し、おれ色に染めた」

    提督 「死と戦闘への恐怖は練度に、怒りは戦意に」

    加賀 「次は地方本部を愛して、血みどろの戦場に変えるの?」

    提督 「おかしいのは制服の損傷度でほぼ安全に戦える今と思ったことはないか?」

    提督 「剣、弓、鉄砲、大砲、空爆、ミサイル、ドローン、兵器だけじゃない」

    提督 「命令系統も、上に上にと、上意下達の絶対服従、殺し殺される対象は今や国が決めてる」

    提督 「戦争の歴史は、殺し殺される感覚・意識からどれだけ兵士を遠ざけるかという歴史と言っていい」

    加賀 「士官学校の復習は結構なのだけど」

    提督 「まぁ、聞け」

    提督 「それで強い兵士ができると思うか? Noだ」

    提督 「空爆やドローン、地上戦ではNVゴーグルで一方的な戦闘を展開してる某軍隊が」

    提督 「年々排出するPTSD患者がどれだけいると思う? 大戦時より多いぞ 」

    提督 「人間は弱くなったんだよ、戦争が安全に清潔になってな」

    提督 「おれはその戦場に牙を取り戻そうというんだ」


     その時、提督はモニターに現れた輝点を認める。

    614 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:27:53.16 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,+0)


    提督 「時間だ、上がるぞ」

    加賀 「本当に私は何もしなくていいの?」

    提督 「あぁ」

    提督 「この紙袋と相手のブツを交換したら、下部扉を解放してコアを流しながら当海域を離脱するだけだ」

    提督 「取引はスマートにしないとな」

    加賀 「そう」


     歩く提督が揺らす紙袋からパリパリと音が漏れる。

     天気は曇り、甲板からは宇宙を臨むような暗黒が広がっていた。

     提督は甲板に上がるとライトを振る。

     すると、暗闇からエンジン音とともに外国語で識別記号の書かれた船体が滑り出してきた。

     同時に、指揮作戦艇と取引相手の正体不明の船体が、カッと照らされる。


    ?? 「そこの所属不明艦二隻、臨検を行うので直ちに停止しなさい」

    提督 「はぁ?!・・・甲板から身を隠せ!!!」

    加賀 「はいっ!」


     二隻の船上でカンカンと、騒がしく人間が蠢く音が交差し、ほぼ同時に逆方向に発進した。


    提督 「ははははは、憲兵か」

    加賀 「そのようね、どうするの?」

    提督 「鎮守府に戻る」

    加賀 「正気?」

    提督 「あぁ」

    提督 「少ししたら、加賀は甲板に上がって憲兵が追ってくるか確認しろ」

    提督 「もし、追いつきそうなら・・・そうだな」

    提督 「向こうが証拠と誤認しそうな艇内の備品をばらまけ、追撃の手も鈍る」

    加賀 「わかったわ」


     重い沈黙が、艇内を包む。

     それでも提督に悲壮感はなく、寧ろ胸が踊っていそうなほどにこやかだった。


    ―――――
    ―――


    615 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:44:18.10 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,-252)


     提督の指示で加賀は甲板に立ち、後方を警戒している。

     あれから暫く、提督は指揮作戦艇を蛇行させ続けていた。

     加賀が、追手が確認しないのを待って鎮守府へ戻る算段だ。

     加賀の後ろで足音がする。


    提督 「追手は来ているか?」カツカツ

    加賀 「いえ、今のところは」

    提督 「そうか」

    加賀 「無事で良かったわね」

    提督 「ハッ、憲兵も流石にいきなり撃ってくることはないだろ?」

    加賀 「そちらじゃないわ、取引相手よ」

    加賀 「こちらを沈まない程度に攻撃すれば、指揮作戦艇が沈まないように憲兵隊を一隻・・・」

    加賀 「こちらが重傷を負えば、軍病院への搬送でもう一隻、足を止められたわ」

    提督 「なるほど」

    加賀 「殺されるかもしれなかったのよ?!」

    提督 「心配してくれて嬉しいよ」

    提督 「けど、お別れだ」ゴリ


     冷たい鉄の感覚が加賀の頭に押し付けられる。

     さっき触った対艦娘用自動拳銃が、自身に突きつけられていることに加賀は気付く。

    616 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 04:45:59.11 ID:3KTl2DBd0 (+95,+30,-216)


    加賀 「どういうことかしら」

    提督 「シナリオはこうだ」

    提督 「お前に脅迫され、嫌々取引に参加していたおれが、隙を突きお前を殺す」

    提督 「鎮守府の再評価には時間がかかるが、仕方ないだろう」

    加賀 「あなたに情はないの?」

    提督 「残念だと思ってるよ」

    提督 「できれば、追ってくる憲兵にお前が証拠品を投棄する姿を見せ、主犯と思わせてから殺したかったんだがな」

    加賀 「人でなし!!」

    加賀 「私の能力がなくて、やっていける積もり?!」

    提督 「問題ない、知覚のある朝潮をおれ色に染めて使うことにした」

    加賀 「っ・・・!!!!」

    提督 「せめてもの情けで楽に殺してやる」


     引き金は軽かった。

     パンパンパン、三発の乾いた銃声が海上に響き、すぐ波音に消えた。



    ―――――
    ―――


    617 : ◆oUFoaE - 2017/01/15(日) 04:48:07.70 ID:3KTl2DBd0 (+90,+30,-48)
    本日分投下終了です。
    ご読了有難うございました。
    次回、最終投下予定です。最後まで宜しくお願い申し上げます。
    618 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 11:00:49.83 ID:hoNAola4O (+19,+29,-5)

    面白くなってきたな
    619 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 11:11:29.43 ID:pbl2FvVRO (+24,+29,-5)
    おつおつ
    加賀さんが死んでこれは大和さん大勝利ですわ
    620 : 以下、名無しにか - 2017/01/15(日) 15:55:42.69 ID:UDCaDj3n0 (+24,+29,-19)

    続きがめっちゃ気になってきたので、ラスト楽しみ

    ところで霞ちゃんを脱がすシーンの回想はまだですか?
    621 : 以下、名無しにか - 2017/01/16(月) 00:41:05.86 ID:fyN3IFBl0 (+24,+29,-5)
    エタったかとおもってた
    続きが読めて嬉しいゾ
    622 : 以下、名無しにか - 2017/01/19(木) 06:42:26.83 ID:B+T50EHLo (+11,+26,-2)
    続きあく頼む
    623 : 以下、名無しにか - 2017/01/25(水) 00:28:16.59 ID:26UqdTCTo (+19,+29,-6)
    これは最終回詐欺の予感……!
    624 : 以下、名無しにか - 2017/02/13(月) 07:48:01.44 ID:DLmHF/HBO (-3,+11,-2)
    625 : 以下、名無しにか - 2017/02/14(火) 10:00:43.43 ID:AUTOLIbq0 (-5,+9,-3)
    626 : 以下、名無しにか - 2017/02/27(月) 11:12:05.44 ID:bG0qADiAO (-3,+11,-2)
    627 : 以下、名無しにか - 2017/03/11(土) 00:19:42.36 ID:Gl6quoDeO (-3,+11,-2)
    628 : 以下、名無しにか - 2017/03/24(金) 09:49:50.58 ID:gmB0g8C4O (-3,+11,-2)
    629 : 以下、名無しにか - 2017/04/13(木) 23:33:09.20 ID:IcSaExDCO (-3,+11,-2)
    630 : 以下、名無しにか - 2017/04/29(土) 23:17:05.33 ID:thYXRPiqO (-3,+11,-2)
    631 : 以下、名無しにか - 2017/05/17(水) 20:20:21.10 ID:QkG1v+4LO (+10,+25,-3)
    ほっしゅ
    632 : 以下、名無しにか - 2017/06/02(金) 23:50:56.90 ID:bikLIdNeO (-3,+11,-2)
    633 : ◆oUFoaE - 2017/06/17(土) 04:09:41.20 ID:rrPIBLhv0 (+24,+29,-2)
    お待たせし申し訳ありません。生存報告です。
    634 : 以下、名無しにか - 2017/06/17(土) 06:41:10.90 ID:DmEDgDBXO (+19,+29,-3)
    良かった生きてたか
    635 : 以下、名無しにか - 2017/06/17(土) 23:40:32.56 ID:ZZwDViBAo (+15,+30,+0)
     
    636 : 以下、名無しにか - 2017/06/19(月) 17:42:01.11 ID:krQUfC+G0 (+15,+30,+0)


    637 : 以下、名無しにか - 2017/06/24(土) 20:53:21.04 ID:dguoe2yCo (-19,-7,-3)
    638 : 以下、名無しにか - 2017/06/25(日) 12:23:01.79 ID:WCMyY0aU0 (+15,+30,+0)
    639 : 以下、名無しにか - 2017/07/12(水) 07:19:30.66 ID:VD/0SoBaO (-3,+11,-2)
    640 : ◆oUFoaE - 2017/07/15(土) 00:27:59.93 ID:AV7gH2v10 (+37,+29,-18)
    誤字修正
    >>611
    を、次のレスと入れ替えお願いします。
    641 : 以下、名無しにか - 2017/07/15(土) 00:28:45.03 ID:AV7gH2v10 (+95,+30,+0)

    提督 「おれは何も変わらない、これまで通り力を求めるだけだよ」

    加賀 「力? 私や大和さんじゃ足りないの?」

    提督 「あぁ、足りんな」

    提督 「それに、そもそも力として質が違う」

    加賀 「質が?」

    提督 「お前は力を何だと思ってる?」

    加賀 「敵を打ち倒す能力じゃないの?」

    提督 「実にお前らしいな、間違ってない」

    提督 「力とは、目的を実現する能力だ」

    提督 「その目的が、お前は敵を打ち倒す能力だったということだ」

    加賀 「だとしたら、あなたの目的は?」

    提督 「おれの戦術・思想で結果を出し、軍をおれ色に染めることだ」

    加賀 「本気?」

    提督 「人間どこかで欲望の限界を知る」

    提督 「法、社会、道徳、能力、どこかでな・・・おれは未だ折れたことはない、が」

    提督 「おれの目的を、我を通すのに、いつしかおれじゃなく周囲を折れば良いと気付いたんだよ」

    加賀 「回りくどいことをしないで、政府でも転覆させれば?」

    提督 「できると思うか?」

    加賀 「・・・」

    提督 「艦娘が兵器として優れていることは論を俟たないが、所詮生身の小娘よ」

    提督 「補給がなければ戦闘継続は困難、毒でも盛られれば一瞬で終わるだろうな」

    提督 「それに艦娘としての弱点もある」

    加賀 「海から離れるほど艤装能力が発揮できなくなること?」

    提督 「それも一つだ」

    提督 「入渠ドックと開発工廠の技術を一部の国が握り込んで離さないのも大きい」

    提督 「だから、商売になる訳でもあるが・・・」

    加賀 「取引のこと?」

    提督 「それはいいとして、今はこんなものもあるしな」


     提督が鉄の塊を加賀に投げてよこす。

     加賀はそれを受け取ると、手で回しながら見る。

    642 : 以下、名無しにか - 2017/07/15(土) 14:59:48.55 ID:ZpGWGg8eO (-4,+10,-1)
    ktkr
    643 : 以下、名無しにか - 2017/08/03(木) 12:14:14.61 ID:nU9VEFNgO (-3,+11,-2)
    644 : ◆oUFoaE - 2017/08/07(月) 02:44:56.38 ID:k1kaA+zU0 (+24,+29,-22)
    投下再開します。
    投下の遅れに加え、レスにて指摘のあった最終回詐欺を強行することをご容赦願いたく。
    645 : 以下、名無しにか - 2017/08/07(月) 02:47:05.42 ID:k1kaA+zU0 (+95,+30,+0)



     ~少し前 鎮守府~


     カーテンの隙間から差し込む夜の暗い光が、机の上のきれいに畳んだ制服に当たる。

     朝潮はベッドに体を倒し、布団を被り暗闇を睨んでいた。


    朝潮 (今日の出撃も・・・私は絶対に大破してた)

    朝潮 (それは間違いないけど・・・)


     連日の事件で朝潮は心も体も擦り減っていた。

     しかし、掴み取った事実は、モルヒネを打ったように朝潮の意識を覚醒させていた。

     その時、窓から入る複数のエンジン音に気付く。


    朝潮 (司令官に来客?・・・それにしては少し時間が遅いような)


     ベッドから身を起こし、窓のカーテンを開ける。

     艦娘寮からは鎮守府の建物に遮られて、姿形は確認できない。

     しかし、動く照明と駆動音から、数台の車が鎮守府正面に乗り付けたのがわかった。

     続いて、暗闇に砂利を踏む音が大量に聞こえ、最低限の明かりを残し消灯されていた鎮守府が全灯される。


    朝潮 「何?・・・」


     明るくなった鎮守府の廊下を、見慣れない制服を着た人間が列を成し進んでいる。

     統率のとれた集団は、執務室と提督の自室に綺麗に吸い込まれていった。


    朝潮 「・・・!」


     朝潮が部屋から出ると、同じように異変を察知した艦娘が薄暗い廊下のそこかしこで塊を作っていた。

     その塊を縫いながら寮と鎮守府を繋ぐ連絡通路へ歩き出す。

     そこでは、先程の制服を着た男が二人、集まった艦娘たちを押し留めていた。

     前列で年長者である戦艦や空母の艦娘が、その男たちと押し問答をしている。


    憲兵 「この鎮守府の提督に、軍を脱走した嫌疑がかかっている」

    憲兵 「証拠品の押収に、鎮守府は一時閉鎖する」

    憲兵 「寮も一部艦娘の部屋には、証拠品の押収に立ち入る予定だ」

    艦娘達 「ざわざわ」


     男の背後に見える鎮守府の廊下では、同じ制服の男たちがダンボールをせわしなくピストン輸送している。

    646 : 以下、名無しにか - 2017/08/07(月) 02:48:02.48 ID:8suOUahN0 (-4,+10,-1)
    ktkr
    647 : 以下、名無しにか - 2017/08/07(月) 02:49:39.45 ID:k1kaA+zU0 (+95,+30,+0)



    長門 「深海棲艦が強襲してきたらどうする積もりだ!」

    憲兵 「鎮守府にいた当直の艦娘たちには、そのまま部屋で待機してもらっている」

    憲兵 「代わりに指揮できる者、代理の提督と指揮作戦艇も用意してある」

    憲兵 「安心して部屋で休むといい」

    長門 「そうは行くか!!提督がいなくなったらこの鎮守府はどうなる!?」

    憲兵 「それを決めるのは我々ではない」

    長門 「明日からの出撃は?代理提督がずっと指揮をするのか???」

    憲兵 「明日と言わず沙汰が下りるまで、緊急事態を除き出撃はありえない」

    憲兵 「それだけでなく、鎮守府と寮からは出ないでもらうことになる」

    長門 「軟禁か?!私達も疑っているということか!」

    憲兵 「変に抵抗をすれば、その嫌疑も濃くなるだろうな」

    長門 「ぐぅ・・・」

    赤城 「すいません」オズ

    憲兵 「何だ?」

    赤城 「加賀さんがいないのですけど・・・」

    憲兵 「その者は、提督と一緒に脱走した疑いがある」

    赤城 「え?!」

    憲兵 「代わりの加賀の艤装は既に武器庫に収めてある」

    憲兵 「後、大和は臨時秘書艦としての引き継ぎと事情聴取のため、鎮守府にいる」

    憲兵 「もし、他に寮にいない艦娘がいるようだったら、可及速やかに申し出るように」

    憲兵 「以上だ、これ以上話すことはない」


    艦娘達 「ざわざわざわざわざわ」


     その後、男たちは寮の加賀の部屋にも立ち入り、全ての荷物を運び出し、深夜には消えていた。

     空のダンボールが転がされた執務室にいる代理提督は、外出禁止を命じる以外は何も知らないと言う。

     残された艦娘たちの喧騒は行き場をなくし、やがて静かになる。

     静寂の中でゆったりと夜が更け、提督がいないことは実感に変わり、

     残された艦娘の殆どが、鎮守府の、地獄の終わりを受け入れ始めていた。

     しかし、朝潮は違った。


    朝潮 (何も終わってない・・・何も・・・)


     部屋に戻った朝潮は、机に向かいボタンのようなものを手で転がしている。

     その時、部屋のドアノブが回った。



    ―――――
    ―――

    648 : 以下、名無しにか - 2017/08/07(月) 02:51:46.06 ID:k1kaA+zU0 (+95,+30,+0)



    ドア 「ガチャ」

    提督 「っ・・・」ビクッ


     ドアの音に覚醒した提督は、起き抜けには眩しい光に目を細める。

     その目は、何かを察したように正面のドアに向けられ動かない。

     ドアから顔の白い女が入ってくる。

     その存在は白い部屋の壁に相まって虚ろに感じられた。


    提督 「どこだ、ここは」

    ?? 「さぁ・・・」

    提督 「天国か?」

    ?? 「面白い冗談ね」


     提督がポケットを探ると煙草だけで、ライターはなくなっていた。

     凝り固まった首を鳴らしながら回す。

     腰に手を当てるとベルトは抜き取られ、椅子を触っても一切動く気配がない。


    提督 (溶接されて動かない椅子、机もか)グルリ

    提督 (右手の壁面には大きな鏡・・・いや、マジックミラーか)コキコキ


     椅子に座ったまま部屋を見渡し、腕を回し体の各所をひねってほぐす。


    提督 「俗に言う・・・取調室か」

    ?? 「ほぼ正解」

    提督 「ほぼ・・・ね」


     目の前の女は、持ってきた書類・電気じかけの四角い箱を机に置き、そのまま座った。


    提督 「しかし、いつも見られているような気はしていたが、まさかお前がな・・・」

    提督 「てっきり好意からのものだと思っていたが」クク

    ??「・・・」ガサリ

    ビニール袋 「ゴトン」


     女が最後に懐から何かを取り出し机に置く。

     ビニールに包まれたひしゃげた黒い鉄塊に、提督は見覚えがあった。



    ―――――
    ―――

    649 : 以下、名無しにか - 2017/08/07(月) 02:57:10.06 ID:k1kaA+zU0 (+95,+30,+0)



     ~数時間前 海上~


    提督 「せめてもの情けで楽に殺してやる」


     加賀の後頭部に突き付けた拳銃の引き金を絞る。

     薄明りの中、加賀が両手を挙げようとしているのを提督は辛うじて確認していた。


    提督 (超常の力を持つ艦娘でもここからの脱出はできまい)

    提督 (だからといって、命乞いか? つまらん・・・)


     哀れみの表情を浮かべる提督の前で、

     上げられかけた加賀の左手は腰に付けられた矢筒の底に到達していた。

     加賀はその左手の掌底で、矢筒の端を思い切り叩き回転させる。

     矢筒は繋がれた腰紐を中心に戦闘機のプロペラのように回転し、

     後頭部に突き付けられていた提督の拳銃を弾いた。

     勢いで飛び出した矢が矢筒から船上に散らばりバラバラと音を立てる。


    提督 「くっ」


     提督は飛ばされそうになった拳銃を握りしめると、再度狙いを定めようとする。

     しかし、次に提督の視界が捉えたのは自身に対し正面を向いた加賀であった。

     加賀は矢筒を押すと同時に、体を捻り提督の正面に向きを変えていた。

     提督は本能的に加賀と距離を取るために後ずさろうとする。

     しかし、自動拳銃がぴくりとも動かず、その行動は中止された。

     視線を落とすと銃身がガッチリと加賀に握られている。

    650 : 以下、名無しにか - 2017/08/07(月) 02:58:26.17 ID:k1kaA+zU0 (+95,+30,-257)


     ~現在 白い部屋~


    提督 (あの時、おれは即座に引き金を引いていた)

    提督 (スライドの抽挿で加賀の手が離れると思ったからだ)

    提督 (甘かった・・・三発目の発砲でスライドは後退したまま動かなくなった)

    提督 (拳銃が軋む音がした時には、天地がひっくり返っていた・・・)

    提督 (強かに投げられ、堅い甲板に叩きつけられたところから今まで記憶がない)

    提督 (それより、どれだけ経ってる!?)


     腕時計を見ると、正午を回っていた。

     提督は薄ら笑いを浮かべる。


    提督 「で、この取調室ではVIPをどうもてなしてくれるんだ・・・加賀」

    ?? 「もう私はあなたの加賀じゃないの・・・加賀は死んだわ」

    提督 「なら、お前をどう呼べばいい?」

    ?? 「今の制服でわかるでしょう?」


    提督 「加賀・・・いや、あきつ丸、煙草を吸うから火をよこせ」

    あきつ丸 「・・・」

    提督 「だんまりか」フー


     あきつ丸は表情を変えずに提督を見つめる。

     一方で提督はマジックミラーに向かい、髪を整えていた。



    ―――――
    ―――


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