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元スレ朝潮「制裁」
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霞 「ふーん」パク
大潮 「凄いですー」モグモグ
朝潮 「そこまでじゃ・・・」
荒潮 「うふふ」
霞 「そういえば、あんたたち町に行かなくて良かったの?」パクモグ
有力な提督や地方本部は、港町の近くに置かれており町の防備をも行っていた。
この鎮守府の提督も有力者だ。ただし、この鎮守府は前線で危険ということで近くに人のいる町は存在しない。
朝潮 「町って人気だけど行く人って何するものなの?」キョトン
荒潮 「買い物と美味しいお店は基本よね~」
荒潮 「後は~大人の人はエステとか合コンとかするらしいわ~」パクパク
大潮 「いいなー」キラキラ
霞 「私と大潮は遠征艦隊だからお給金少なくて行く気がしないのよね」パクパク
荒潮 「それくらい出すわよ~、一緒にパフェとか食べに行きましょうよ~」フフ
霞 「命かけて稼いだんだから自分で使いなさいよ」
大潮 「そうですよー」モグモグ
霞 「私たちに気使って行かないなんて馬鹿なことしないでよね」プイ
大潮 「お給金たまったら一緒にいきましょー」
朝潮 「みんなで行ったら楽しそうね」
荒潮 「うふふ、そうね~」
朝潮 「そういえば、いつも出撃の話ばかりだけど遠征艦隊って何やってるの?」
朝潮は遠征を何も知らなかった。
霞 「聞いてもなーーーんにも面白くないわよ」
大潮 「やることは地方本部の全海域を通る商船の警護が一番多いですー」
霞 「そうそう、それでやることって言っても殆どないのよね」
霞 「近くに深海棲艦がいたら威嚇射撃するだけで、基本商船の甲板で待機よ」
朝潮 「え? 強力な空母とか潜水艦とか来たらどうするの?」
霞 「ないない、制海権の取れてる安全な海域だからイ級レベルしか出ないわ」
朝潮 「イ級でも普通の商船には危ないんじゃ・・・」
霞 「大丈夫大丈夫、今の商船はソナーもしっかりしてるし速力もあるから単艦でも実は問題ないのよ」
霞 「万が一のために乗ってるだけよ、ほんと」
朝潮 「そうなんだ」
霞 「張り合いないったらありゃしないわよ、甲板で干物になるんじゃないかって思うわ」
荒潮 「私好きよーひなたぼっこ」フフ
大潮 「大潮もですーぽかぽかします」
朝潮 「日焼けとか大丈夫なの?」
荒潮 「日焼けなら出撃の方がひどいわ~」
朝潮 「え?」
荒潮 「海上は上からはもちろん海面からの反射があるから二倍よぉ二倍」
荒潮 「治癒能力のせいか防御壁でさえぎられてるせいか私たち日焼けしないけどね~」
朝潮 「確かに艦娘って白い人しかいないわね」
荒潮 「黒い人もまれにいるけどね~」
霞 「・・・」
朝潮 「そうなんだ」
大潮 「それに商船のおじさんたちお菓子とか一杯くれます」
霞 「餌付けされてんじゃないわよ」パクパク
荒潮 「任務中はお腹壊したらまずいから食べちゃ駄目よ~」モグ
霞 「荒潮の言うとおりよ、危ないもんでも入ってて襲われたらどうするのよ」
大潮 「大丈夫ですよー、今食べてるお菓子ももらったものですよ?」
霞 「・・・」
荒潮 「美味しいからいいじゃない、それにしても大潮ちゃんは可愛がられる体質よね」ナデナデ
大潮 「そぉですかね?」
荒潮 「私が遠征艦隊にいたころ、他の鎮守府の軽巡のお姉さんとか商船の乗組員さんとかに可愛がられてなかったかしら」
大潮 「うーん」
霞 「荒潮、この子いつでも自然体だから自覚ないわよ」
朝潮 「他の鎮守府の娘も来るんだ」
大潮 「楽しいですよー、おじさんたちや同じ艦娘の子とお話するの」
朝潮 「いいなぁ、遠征行ってみたいなぁ」
霞 「荒潮も大潮も良いことばかり言ってるけど、遠征って退屈よ、お給金だって低いし」
霞 「それにもっと嫌なことがあるわ。何って服よ、制・服」
荒潮 「わかるわ~」
霞 「制服が高性能で高価ってのはわかるけど、年頃の私たちに一種類数着着まわしって何よ、本部ってなんていうの・・・」
大潮 「なんていうんでしょー」
霞 「でりかしーがないわよ!ほんと!」
大潮 「でりかしーってどういう意味です?」
霞 「・・・」ガツガツパクパク
荒潮 「遠征艦隊だと成長とかよっぽどの理由がないと新品くれないものね~」
荒潮 「第一艦隊の今は制服が破れるお陰で毎日新品で気持ちいいもの~」
大潮 「第一艦隊のお姉さまたちは何時もぱりっと綺麗な制服着こなしてうらやましいですー」
霞 「私たちが遠征で稼いだ資源で出撃してるくせに不公平よ!」
大潮 「うーん」
朝潮 「けど、大和さんと加賀さんは余り新しい制服を着ているイメージないけれど」
荒潮 「大和さんはいざという時にしか出撃しないし、加賀さんは朝潮も見てる通り殆ど被弾しないから~。凄いわよね~」
大潮 「そういうの格好いいですー」
朝潮 「そうね、私もそうなりたい」
霞 (いいわね)
霞は褒めるのが苦手であった。
朝潮 「あ、そうだ」
朝潮 「同型だから同じ制服だし交換しようか?私まだ弱いからどうせすぐ服かえることになるし」
霞 「いやよ、お古着るの朝潮になるじゃない」
霞は甘えるのも苦手であった。
荒潮 「私もいいわよ~、折角同じ朝潮型じゃな~い」
霞 「そういう問題じゃないの、青葉新聞のこともあるじゃない。危ないわよ」
千歳の噂は燎原の火のごとく広がった。
地本部で注意を受けるくらいだから、いずれはと提督は覚悟していたことだ。
青葉新聞には第一艦隊所属の艦娘へのインタビューが載っており、全員が大破進軍を否定していた。
記事は青葉が陰謀論を展開し真相の究明を続けるという言葉で締められていた。
大潮 「青葉新聞は日付しか正しくないってみんな言ってますよー」
朝潮 「日付だけって・・・」
霞 「いーや!あのクズよ、やりかねないわよ」
大潮 「そんなことより、青葉新聞は伊八先生の連載小説『かん空』を楽しむものですよー」
大潮 「私もあんな純愛してみたいです」キラキラ
『かん空』、鎮守府を渡りながらセックスと妊娠中絶を繰り返す一人の艦娘の物語だ。
過度なエロ描写と秋雲の挿絵が受けている。内容は『恋○』に似ていた。
霞 「またあの女妊娠してたじゃない?!4回前に子宮全摘出したはずじゃないの?」
大潮 「そうでしたっけ?」
荒潮 「詳しいわね~」ニコニコ
朝潮 「霞ちゃん、そういうの読むんだ・・・」ジト
霞 「ちっちがうわよ!しょしょじょ食堂で話す子がいたから!!!」
荒潮 「あらあら~」ニコニコ
霞 「もうっ、そんなのどうでもいいのよ!荒潮と朝潮は轟沈したりしないでよね?」
荒潮 「大丈夫だと思うわ、朝潮ちゃんは~?」
朝潮 「・・・問題ないと思う、多分」
朝潮を提督に対して人間性を除いた部分で尊敬するようになってきていた。
霞 「朝潮まであいつの肩持つの?」
霞 「あの事件もあったし、最近は報告書届けに執務室行ったらって話あったわよね」
朝潮 「そう、陸奥さんを・・・後ろから・・・ / / / 」プシュー
あれから提督の視線を感じても求められることはなかった。
ただ、提督は相変わらずやりたい艦娘を秘書艦にして指揮作戦艇か執務室でよろしくやっていた。
霞 「何これくらいで真っ赤になってんのよ」
大潮 「むっつりさん2号です」
霞 「・・・」 ←1号
荒潮 「あらあら・・・まぁ、人間性は別として指揮は優れてると思うわ」
朝潮 「そう・・・よね」
言葉に出来ない部分で気の利く提督だった。
人間関係を加味した連携のとれる艦隊の編成。
経験の浅い艦娘には、弱い艦種から弱いクラスからと少しずつ強い敵の経験を積ませる心遣い。
戦場でも広い視野で指揮を取り、女性関係は爛れていたのに信望は厚かった。
一部先輩は手篭めにされることを喜んでいるように朝潮は感じている。
朝潮の中の提督は分裂してきていた。
霞 「荒潮たちがどう言っても轟沈させるクズなのは事実よ!」
霞 「私が第一艦隊入りするまで死ぬんじゃないわよ!」
荒潮 「待ってるわ~」
朝潮 「霞はこれからの艦種どうする積もりなの?」
霞 「希望は重巡よ」
駆逐艦から始まる鎮守府生活は、戦艦or空母or潜水艦orその他で四つの方向があった。
多くの艦娘が軽巡や重巡から花形の戦艦になるルートを目指した。
霞 「あくまで希望だから、適性試験が無理なら軽巡でも・・・」
霞 「どっちにしても最後は戦艦目指して行くわよ」
大潮 「お~私もそれがいいなー」
荒潮 「私もそうかな~、朝潮ちゃんはやっぱり空母?」
朝潮 「うーん・・・」
霞 「何を迷うことがあるのよ? 加賀の艤装と同調できるって凄い話じゃない」
荒潮 「個人的には本部で量産できるようになってる赤城もいいと思うわ~」
大潮 「もしかして、朝潮ちゃん戦艦が好きなのに加賀先輩に勧められて引けなくなってどうしようとかです?」
霞 「うわっ、それ本当だったら確かに気まずいわね、どうなのよ?朝潮」
朝潮 「いや、まだ少しピンと来なくて・・・」
霞 「自分で聞いておいてそれ?!」
朝潮 「だから聞いてみたというか・・・」
大潮 「潜水艦はどうです?」
朝潮 「うーん・・・」
霞 「潜水艦が嫌ってのはわかるけどね。制服が水着ってのがねぇ・・・超激務って話も聞くし」
荒潮 「折角だから聞きたいけど、急ぐことはないわよね~」
大潮 「朝潮ちゃんが空母になると荒潮ちゃん霞ちゃんと私の戦艦でバランスがいいので空母オススメです!」ビシッ
霞 「何よそれ」フ
大潮 「あー笑ったー霞ちゃんんのそういうところ嫌いだなー」プンスコ
荒潮 「あらあら~」ニコニコ
朝潮 「ふふふ」
そんな騒がしい食堂と比較して執務室はいつもの活気がなく、
持ち主が離れていた部屋は無機物のくせに人を拒絶するようなすねた空気をまとっていた。
その空気を意に介せず、加賀は自分の机に座って執務を行う。
ふと、加賀が強化された聴力で提督の足音を捉え、何時もより早い戻りに驚きつつ暖房を入れた。
艦娘は紫外線だけでなく暑さや寒さにも強い。
加賀 「おかえりなさい、早いわね。提督」ダキ
提督 「あぁ、ただいま」ダキ
加賀 「どうしたの?」
提督 「加賀お前は満足したことがあるか?」
提督と加賀には身長の差があった。
そして、加賀の豊満な胸のふくらみのお陰で顔が丁度交差している。
お互いの体の熱を感じ、声はお互いをふるわせた。
加賀 「?」
提督 「おれはない」
提督 「金で贅沢をしても、女を抱いても、戦果で一等になっても、地本部や鎮守府でもてはやされても・・・」
提督 「唯一満たされる感覚のある深海棲艦狩りも今の規模じゃ満足にはほど遠い」
加賀 「・・・」
提督 「地方本部長官から、総本部の要職に就いて、総本部で上に行って・・・今はそれで満足できるかもしれないと思ってる」
加賀 「私は今でも十分幸せなのだけど」
提督 「そうか・・・」
語勢の落ちた提督に加賀が優しい言葉で続ける。
加賀 「けど、あなたが満足できればもっと幸せになれると思うわ」
提督 「そうか」
加賀 「えぇ」
抱き合っているので、お互いの顔は見えない。
だから、加賀も提督も会話の間お互いが終始仮面を被ったように無表情であったことを知る由もなかった。
抱き合ったまま提督は加賀の美しい黒髪を何度も手ですいた。
肩口まである真っ直ぐな黒髪は、ごつごつした男の指を滑らかに上下させ、提督を落ち着かせた。
暫くして、提督は加賀の肩を両手で持ち、静かに身を離した。
提督は加賀をそのままに自分の椅子に座った。
加賀は何かの予見が外れたのか不思議そうな顔をしつつ、自分の椅子に戻る。
加賀 「今日は本部の近くの町で贅沢してないんでしょ?」
加賀に濡れた目で見つめられ提督の体の芯に火花が飛ぶ。
提督 「何時もはもっと遅いが、そういうことしてると思われてたのか」
提督 「そんな金もないし、今日はそういう気分じゃない」
いつもは金があるので、地方本部から夜の街に消えていた。
加賀に気付かれていたことにはさして驚かない。
提督の渋い顔は何の不満か。体の芯の火花は消えていた。
加賀 「そう・・・どうしたの?」
提督 「地方本部長官になるために、明日から通常の出撃体勢に戻すことになった」
加賀 「だからね・・・」
加賀の顔も暗くなる。
加賀 「元々この轟沈しない出撃体勢は地方本部の命令だったわよね?」
提督 「あぁ」
加賀 「振り回してくれたことに文句は言ったの?」
提督 「言わないな、ころころ命令が変わるのは慣れてる」
加賀 「そう」
二人でため息を付く。
提督 「それに、上に文句を言っても評価が落ちるだけだ」
加賀 「そこまで愚鈍?」
提督 「老人は自身が正しいと思うもんだ」
提督 「自身の命令に従わないもの、自身の行っていた行動と違うことをするものは、彼らにとって排斥対象だ」
提督 「自身が築いてきたものを否定されたくないんだよ、奴らはな」
加賀 「そう・・・」
提督 「また・・・轟沈するな」ハァ
加賀 「轟沈しても海域の安全を守らないと人がもっと死ぬわ、私はそう思う」
提督 「そうだな」
気が重いことを加賀に伝え終わり、提督は椅子に深く体を預ける。
加賀 「・・・他の娘の話は大和から聞いた?」
提督 「あぁ」
提督 「第一艦隊の所属艦娘が俺が大破進軍しているんじゃないかと疑心暗鬼になっている問題か?」
加賀 「それもそうなんだけど・・・」
提督 「?」
加賀 「表面化していないけど、この頃の出撃で彼女達の士気が落ちているわ」
提督 「当然そうなるな、俺のような大破進軍してるかもしれない提督の下で戦いたくない」
提督は冗談めかした話し方を使う。
実際は艦娘達がそう思っていない確信が提督にはある。
轟沈しない限りには比叡の言葉通りこの鎮守府は給金と名誉が手に入る天国だ。
加賀 「彼女達も提督が大破進軍していないことはわかっています」
提督 「なら何で士気が落ちる?」
加賀 「轟沈への恐怖や悲しみの矛先を求めているのよ、無意識に」
加賀 「・・・そこにあなたがいた、それだけよ」
提督 「わからないことに理由付けしたがるのは人間のさがだな」
加賀 「そうね」
提督 「その士気低下で問題は出そうか?」
加賀 「殆どないと思うわ」
加賀 「今は轟沈が出るような熾烈な攻撃を行ってないせいで内省する余裕があるからこうなってるけど」
加賀 「これから制海戦闘を本格化させれば、その余裕がなくなるし・・・」
加賀 「喜ばしいことではないけど、轟沈する艦が出ればそれ自体が潔白の証明になるでしょ」
提督 「そうか」
加賀 「ただ・・・」
提督 「何だ?」
加賀 「いずれにしろ、今の内に潔白を証明する行動を起こした方がいいと思うわ」
加賀 「今は無意識に士気が下がる程度に済んでるけど、何が引き金に爆発するかわからないわよ」
提督 「それは考えてるがな」
加賀 「考えておいて・・・それと深海棲艦のコアの入出庫数が所々違うわ」
提督 「どこだ・・・」
加賀 「紙にまとめておいたわ、ココとココ・・・ココ・・・かしら、もっとあるかもしれないわ」
紙の上を動く人差し指は、紙の白さと比してなお泳ぐ白魚のように美しい。
提督 「それはコアが実は死んでたり傷付いていたり開発失敗したやつでな」
提督 「本部に出すのも面倒だから大和と捨てたんだ」
食品・リネン・日用品の管理担当は軽巡以上の艦娘が当番で行い。
軍需資材・深海棲艦のコア・制服、等の軍需品は、この鎮守府では信頼のできる大和型と長門型が管理を担当していた。
加賀 「そうなの? なら、ちゃんと修正しておいて」
提督 「あぁ、すまない・・・」
加賀は提督が冷静な顔を崩さないまま視線を少し右上に動かしたのを見逃さなかった。
―――――
―――
翌日から、戦闘を避けていた深海棲艦の制海圏へ出撃が始まる。
大会議室で朝一に行われる編成の発表で提督が最後に強く言葉を発した。
提督 「人類の海を取り戻すのは勿論・・・轟沈した艦娘達への手向けとなる戦いだ」
提督 「各員一層奮起せよ」
こう言われ部屋の第一艦隊所属の艦娘達は沸き立った。
轟沈の経験がない朝潮は周りの熱に浮かされることはなく、どこか冷静にその場を見ていた。
出撃が始まる。
朝潮と荒潮は朝一の出撃艦隊に組まれていた。
二人で指揮作戦艇に向かう。
朝潮 「頑張らなきゃね」
荒潮 「そうね・・・」
いつもふわふわとしている荒潮は、轟沈が絡むと朝潮にとって完全につかみどころのない何かになった。
指揮作戦艇に乗った後に、敵艦隊群の情報説明と作戦の指示が行われる。
荒潮は普通を装っていた。しかし、朝潮には荒潮が何も聞いていないことがわかった。
指示が終わり接敵までの時間は自由だ。集中力を高めるのに各々の時間を過ごす。
朝潮 「荒潮・・・荒潮・・・」
荒潮 「・・・ん、なぁに?」
朝潮 「朝の会議から顔色が悪いわよ」
荒潮 「心配かけたかしら」
朝潮 「これ、さっきの敵艦隊群の情報と作戦をまとめたから」
荒潮 「あ、ありがと~」
朝潮には荒潮がそれでも集中力を欠いている気がした。
朝潮は横に付いて渡したメモを指差しながら説明する。
朝潮 「今日の敵艦隊群はフラグシップタ級を中心として潜水艦が混ざった編成で」
荒潮 「朝潮ちゃん」
朝潮 「ん?」
荒潮 「あのね」
朝潮 「うん・・・」
加賀 「朝潮、また艤装を貸すから同調しなさい」
加賀に話をさえぎられる。
荒潮は力なく手を振り、朝潮に加賀の元に行くよう促す。
後ろ髪を引かれる思いを感じるものの、加賀の命令は艦隊で絶対であった。
加賀 「今日からは同調して海面を走ってみましょうか」
朝潮 「・・・はい」
朝潮は深呼吸をして切り替える。
加賀 「同調が遅いわ」
朝潮 「はい!」
加賀 「海面の移動も駆逐艦と違うのよ、加賀を潜水艦にする積もり?」
朝潮 「すいません!」
朝潮の特訓はもう常態化し、危険を指摘する娘も賛辞を送る娘もいない。それでも朝潮は止めなかった。
加賀は朝潮に課す訓練を適度に難しくして行き、それをこなす度に起こる達成感は朝潮を酔わせた。
朝潮は加賀の艤装にのめりこみ、同調を上げるため空母加賀の戦歴等も調べ自分のものとしていた。
お陰で朝潮は初出撃の事件など忘れ自信を取り戻していた。
ただ、加賀の艤装との過度な同調は朝潮の艤装との同調に少しずつ影響を与え始めていた。
日向 「おーい、加賀そろそろ敵艦隊群が視認できるぞ」
加賀 「今日はここまでにします」
朝潮 「はい、有難うございます」
敵艦隊群に突っ込むともう訓練する余裕はない。
一つの敵艦隊を倒したらすぐ次の敵艦隊と、艦隊群を突きぬけボス艦隊を倒すか逃げるまで休めない。
だから、艤装の損傷を悠長に時間のかかる検査機器で調べず、制服の損傷で即断できるようにしていた。
提督 「総員戦闘準備、複縦陣」
掛け声を元に旗艦以外の艦娘は陣形の位置に移動する。陣形と配置は事前に伝えられている。
敵艦隊群を捕まえるために朝潮と荒潮は陣形の先頭で並列だ。
皆が指揮作戦艇から飛び降りる時に、
朝潮 「対潜攻撃は私達に一任されているから頑張ろうね」
確認の意味で朝潮が放った一言に荒潮は軽くうなづいた。
朝潮は荒潮の動きに力を感じることができなかった。
しかし、加賀の訓練後で朝潮の艤装との同調に集中力を保たねばならない朝潮は、それ以上の思考を止めた。
いざとなれば、かばってでも助ける。それだけだと思った。
旗艦以外の艦娘は以降の提督の命令を旗艦を通じてテレパシーのようなもので受け取る。
インカムで行っていたこともあるそうだが、すぐ吹き飛ぶか壊れてかえって混乱を招くので採用されなくなった。
提督 「またフラグシップとエリートばかりだな」
加賀 「そうね」
提督の覗く双眼鏡に黄や赤の光を放つ異形の深海棲艦が現れる。
提督 「まずは定跡通り雑魚掃除だ、先制の爆撃で派手に挨拶しろ」
加賀 「任せなさい」
言うが早いか構え放たれた矢は光を帯び艦載機を具現化し敵に攻撃を始める。
深海棲艦の軽空母も大きく口を開け、艦載機を放出し迎えうった。
艦隊と艦隊の空中で火花が爆ぜ、折れた矢や深海棲艦の艦載機のかけらが雨のように落ちる。
その間隙を縫った加賀の艦上爆撃機が、狙いをつける敵駆逐艦の直上から爆弾を投下した。
沈みこそしないものの、先頭の被弾と大破に敵艦隊の陣形は混乱をきたしていた。
提督 「よくやった加賀ぁ、順次砲撃を始めさせろ」
加賀 「了解」
すぐ日向の大口径主砲が大音響で砲撃を始め、敵の雷巡が火を噴き沈降する。
かばうことのできる深海棲艦を最初に落とす。これはセオリーだ。
かばわれるということは、当初狙っていた目標へ攻撃できないだけでなく、着弾がずらされ攻撃が十分な威力を発揮しなくなる。
追って、利根筑摩加賀朝潮荒潮、次々と有効射程に入り次第攻撃を開始する。
先頭の朝潮と荒潮から射程が短い順に複縦陣形で並んでいたため、
陣形のしんがりにいた日向の攻撃から間髪入れず艦娘の攻撃が雨あられに続き面白いように当たった。
随伴潜水艦は朝潮が一撃目で沈め、早々に朝潮と荒潮は爆雷投射を止め砲撃に移っていた。
深海棲艦は次々と火を噴き、一応の撃ち合いが続いていたものの優劣は明らかで消化試合の様相を呈していた。
艦娘が海面から具現化した武装を隆起させ攻撃するのに対し、
深海棲艦は自身に付いた砲塔からの攻撃が光を帯び威力を持っていた。
艦娘が深海棲艦を真似て武装を付けないで自身の艤装からの攻撃だけに頼ると威力は全くでない。
今の朝潮・荒潮は正にその状態であった。
対潜装備だけの朝潮たちは威力のない砲撃を、少しでも敵をかく乱させることを祈りつつ繰り返していた。
頬を優しくはたくようなその行為がひそかに生き残っていたフラグシップタ級の戦意を焚きつけた。
敵が武装を具現化しないことは、艦娘の攻撃が具現化を経ることで予想が付きやすいのと対照的に、
加賀 「荒潮、危ない!!!!!!」
敵の攻撃が読みにくいことを示していた。
フラグシップタ級の大口径主砲の砲撃は、消化試合で断続的砲撃が続くのみとなった戦場の静かな大気をつんざき響き渡った。
朝潮がタ級の砲撃に気付いた時には、背後の荒潮に着弾音と炸裂音がし悲鳴が響いた。
荒潮 「きゃあああああ!!!」
朝潮の体は勝手に動き荒潮の方向に向かった。ただただ心配だった。
爆煙の中から制服がぼろぼろで煤で黒くなった荒潮が何とか立っているのが見える。
朝潮 「荒潮!!!!大丈夫?!」
荒潮 「もう・・・ひどい格好ね」ケホケホ
荒潮は虚ろな目で自身を払いながら朝潮が目の前にいないかのように言葉を発した。
朝潮が支えようと近付くと朝潮に気付いたのか荒潮はなんでという顔で眼を見開いた。
瞬間荒潮の瞼が落ちかけ、海面に両手と膝をついた。朝潮が駆け寄る。
それを見た提督と加賀は青ざめた。陣形を乱されたからではない。
提督 「馬鹿・・・戦闘中だぞ」
加賀 「ちっ・・・朝潮!!離れなさい!!!」
矢を弓につがえタ級を狙う。
艦隊全員が、誰が当てたか噴煙を上げて沈没寸前と思っていたタ級は無傷であった。
大破し火と煙を上げる深海棲艦の軽空母を背負っていただけだったのだ。
深海棲艦は人型に近いほど、帯びる光が強いほど、強く賢くなった。
タ級はすぐ砲撃体勢に移る。同じ砲撃をすれば弾着補正も何もいらない。難なく朝潮に当たるのだ。
日向 「沈めえええええ!!!!」ドォン
日向の主砲がタ級に向かい火を噴いた。
加賀は日向の攻撃に期待するしかない。
空母の攻撃はタイムラグがあるため、タ級を止めるには遅すぎる。
弓でタ級を狙ったままとどまり、万が一のために備えた。
日向の砲撃を眺めながら提督は煙草に火をつけていた。
提督 (大破か想定以上に弱い弱すぎる・・・退却か)
提督 「あほくさ・・・」ボソ
提督が紫煙を風に乗せる。
提督 「加賀、風が変わった。日向の当たらんから撃て」
加賀 「間に合わないわよ」キリキリ
提督 「知ってる」ニコ
加賀 「あっそ」ヒュン
艦載機は艦娘の意思によって進行や爆撃地点を変えられるので風の影響は砲撃ほど強く受けない。
提督の予想通り日向の砲撃はタ級をかすって外れた。
加賀の艦載機は最短距離を飛んだものの予想通り間に合わず、タ級は砲撃体勢を解かずに最大威力で砲弾が発射された。
日向 「朝潮おおおおおお!!!!よおけろおおおおおお!!!!」
提督 「うるさいな、あいつ・・・」
加賀 「提督黙って!!」
加賀は艦載機の操作に集中する。
タ級の攻撃の着弾音とともに大きな水柱が上り、朝潮が荒潮を抱えたまま吹き飛んで海面を転がった。
加賀 「今!!」
その時、艦載機の決めた急降下爆撃は着弾音に隠れる形で敵に最接近していた。
誰がどう見てもベストタイミングな攻撃であった。
しかし、タ級はあらかじめそれを察していたかのように背負っていた仲間である深海棲艦の軽空母を放り投げ、爆撃を相殺した。
加賀 「くっ・・・」
提督 「このまま複縦陣形のまま艦隊行動、この指揮作戦艇で朝潮と荒潮を拾って退却するぞ」
加賀 「夜戦まで持ち込めばタ級を倒せますが・・・」
提督 「いい、皆に安全海域まで緊張を崩すなと言っておけ」
加賀 「了解しました」ハァ
夜戦は、艦隊同士の近距離殴り合いだ。何故か夜戦と言う。
誤爆の可能性で空母の攻撃は禁止、真下近くに来る潜水艦には攻撃が通りづらい。
遠ざかるタ級は笑っているように見えた。
―――――
―――
朝潮 「動ける?荒潮」
荒潮 「いえ、もう疲れちゃったぁ」
朝潮 「私も・・・」
荒潮 「心配かけてごめん」
朝潮 「うん・・・」
疲労と痛みで二人とも動けないで浮かんでいる。喋るのも億劫だ。
指揮作戦艇が近付き浮き輪を投げられ、順に拾われた。
朝潮が虚ろなまま甲板で横になっていると、安全海域まで来れたのか日向が指揮作戦艇に戻って来た。
突然、朝潮は加賀に髪を掴み引き摺り起こされる。何とか、甲板の端にある柵を支えに立つ。
加賀 「朝潮、中破なのに何寝転がってるの?!」ギロ
朝潮 「っつぅ・・・」
朝潮は何を言っているかわからない。この痛みと無力感は、初出撃で大破したときと同じ感覚の筈だ。
加賀は益々引き上げる手に力を入れ朝潮を睨んだ。
朝潮が柵を支えにしなくても立てそうなくらい入った加賀の力で朝潮の体は浮きかける。
朝潮 「えっ・・・中破??」
加賀 「被害妄想も大概にしなさい、制服見れば一目瞭然じゃない!!」
提督 「おい、一応中破でも損傷があるんだから、横にさせておけ」
提督が慌てて仲裁に入る。
日向 「そうだ、中破だって立派な損傷だぞ!!」
加賀 「一々五月蝿いわね、このぽんこつ戦艦」
日向 「なにぃ!」
朝潮 (どういうこと?!大破しているはず)
加賀 「提督も甘いわ!どれだけこの子が艦隊を危機に晒したかわかってるの?」
朝潮 「すいません・・・」ボロボロ
朝潮はことの重大さに気付いた。
実際に、先の敵艦隊群は先頭深海棲艦の大破で総崩れになっていた。
ここで指揮作戦艇に最後に上ってきた利根と筑摩は甲板の不穏な気配を察し、
二人でこそこそ話した後に気を失った荒潮を艇内のベッドに運ぶ振りをして逃げた。
日向 「それはそうかもしれないが謝ってるじゃないか」
加賀 「そうやって甘やかすから覚えないのよ!!」
パン
髪を放され体勢を崩した朝潮に加賀のビンタが飛んできた。
食らった朝潮は初日のことを思い出しながら甲板を転がり、柵の下から海に投げ出された。
ビンタはあの時と違って凄く痛かった。
海面に着水する一瞬間に水面に朝潮の姿が映る、制服の損傷具合は中破だった。
朝潮 (なんで・・・・・・・・・・)
海中に体が沈んだと同時に朝潮は意識を失った。
日向 「やりすぎだ!馬鹿!」
加賀 「!?」
日向 「おい、提督!作戦艇を止めろ!」
提督 「わかったっ」
提督が操舵室へ走り、日向は海に飛び込み朝潮を引き上げる。
それを加賀は何か考え込むように難しい顔をしながら眺めていた。
甲板に上った日向は加賀に馬鹿力と言い放ち、朝潮を背負ったままベッドのある艇内に消えた。
気まずいのか操舵室にこもる提督を確認した加賀は甲板に残った制服の切れ端を懐に収めた。
―――――
―――
お米有難うございます。
大変申し訳ありません。
当初は今週金曜前後に終る予定でした。
しかし、色々設定を膨らました結果、終らないことが判明致しました。
完走は間違いなくしますので、何とか寛大なお心で引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
大変申し訳ありません。
当初は今週金曜前後に終る予定でした。
しかし、色々設定を膨らました結果、終らないことが判明致しました。
完走は間違いなくしますので、何とか寛大なお心で引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
作中の戦闘陣形が想像しにくいかと思うので、下記配置表置いておきます。
複縦陣
進行方向↑
朝潮 荒潮
加賀 利根
筑摩 日向
複縦陣
進行方向↑
朝潮 荒潮
加賀 利根
筑摩 日向
もし、今から読む方がいれば、投下ごとに分けて読んだ方がいいと思われます。
長くなっている上に、地の文多用を途中から解禁しているため疲れるかと存じます。
長くなっている上に、地の文多用を途中から解禁しているため疲れるかと存じます。
暫くして操舵室から出た提督は、甲板で風に吹かれ続ける加賀を認めた。
提督 「お前でも今艇内に入るのは気まずいか?」
加賀 「別に・・・」
風は刃物のように提督の顔を打った。顔はただ痛く、寒さは感じない。
提督 「うぅ・・・さむ」
加賀 「あなたは暖かい艇内で朝潮と荒潮でもなぐさめたら?」
提督 「なぐさめなきゃいけないほど締め上げたお前がそれを言うか?」
加賀の表情は動かない。
加賀 「怒る時に怒る、痛くないと覚えない」
提督 「男みたいだな、お前は」
加賀はすぐ手を出した。
そして、加賀は怒った後に決していびり続けるような女々しいことはしない。
ただ、加賀の乏しい表情に怒られた方はまだ怒っているのかと萎縮したり、ねちっこいと反感を持つことが大半だ。
だから、加賀は鎮守府の艦娘に嫌われていた。
提督 「もっと素直になれないのか」
加賀 「無理だとわかっているのでしょう?」
加賀が人と仲良くしようとするところを見たことがない提督はそれ以上何も言わない。
ふと気付いたように話を切り替える。
提督 「・・・なぁ」
加賀 「?」
提督 「加賀は・・・目は口ほどにものをいうって言葉を知っているか」
加賀 「何がいいたいの?」
提督 「人間の目は白目と黒目の部分があるだろう」
加賀 「他の生物もみんなそうでしょう?まぶたの裏に白目の部分があるだけで」
提督 「そうだ、よく知ってるな」ハハハ
提督 「白目と黒目がある眼球の構造はどの生物も不思議なことに殆ど同じだ」
加賀 「それがどうしたの?」
提督 「この白目部分が人間にあるのは進化の過程でできたと言われているのは知っているか?」
加賀 「今そんな情報が必要?」
提督 「まぁ、聞け。人間も昔は猿同様黒目か黒目勝ちだったといわれてる」
提督 「それが狩りなどで協力する時にアイコンタクトが発達して、人間の白目が大きく発達したらしい」
加賀 「なら三白眼の強面の人間が一番協調性があって」
加賀 「黒目勝ちな俗に可愛いといわれる子は協調性のない自己中心的な人物が多いの?」
提督 「そこまでいってないが、そうかもしれん」
提督 「ここで加賀に問題だ」
提督 「人間と違って黒目や黒目勝ちな生物の利点はなんだと思う?」
加賀 「さっき言った通り可愛い感じがするけど・・・利点ではないかしらね」
提督 「不正解。黒目や黒目勝ちの利点はアイコンタクトと逆で」
加賀 「相手に情報を伝えないこと・・・目は口ほどにものを言うの逆ですか」
提督 「遅いが正解だ。黒目は草食動物のような弱い生物に多い、ねずみ・馬・牛とかな」
提督 「そんな動物に白目があると黒目の動きが見えて体調から逃げる方向まで相手に伝えてしまい捕食される危険が増す」
加賀 「なるほど」
提督 「人間でも同じだ。目は情報を伝えすぎる」
提督 「古今東西あらゆる一流の剣豪や拳法家も相手の目を見れば繰り出す技を読めると言ってる」
提督 「だから要人護衛とか特殊部隊では色入り眼鏡を付けて視線を隠す」
提督 「ところで、深海棲艦の目は何色だ?加賀」
加賀 「色も何も眼球は全て同じ色で発光してるわよね、黒目とは言わないでしょうけど」
提督 「そうだな・・・なんで、荒潮への攻撃に気付いた?」
タ級の第一撃の砲撃寸前、タ級は背負っていた敵軽空母の噴煙で指揮作戦艇の付近からは姿は見えなかった。
見えていたのは、噴煙の中に微かに光るタ級の目だけだった。加賀も提督と同じ状態であったはずだ。
提督 「あの時加賀には何が見えていた?」
加賀 「何も見えてはいなかったわ」
提督 「目もか?何も見えていなかったのか、ならどうやって気付いた?」
加賀 「どうやって気付いたと言われるとカンと言うほかないのだけれど・・・」
加賀 「艦娘の同調が他に影響を及ぼすのは知っているわよね」
提督 「あぁ」
加賀 「私は仲間の同調や具現化に敏感というか・・・おおよそなら察知できるわ」
加賀 「その感覚でおぼろげに深海棲艦の感情なのか攻撃する意思、殺意と言ってもいいかもしれない」
加賀 「それがわかるのよ」
提督 「そう・・・か」
加賀 「感覚だけじゃなくて実戦経験からのカンの部分もあるからそこまであてにならないけどね・・・」
加賀 「余り広めないでくれる?」
提督 「あぁ・・・しかし、本当か?」
加賀 「私の被弾率を見たらわかるでしょ」
こう言われると提督も認めざるを得ない。加賀は殆ど被弾しない。
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