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元スレ京太郎「虹の見方を覚えてますか?」
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コンコン
京太郎「洋榎さん、俺です」
洋榎「うちに『俺』なんて知り合いおれへん」
京太郎「うーん……あっ、今の『俺』と『おれへん』をかけてるんですね。なるほど、うまいなぁ」
洋榎「……」
ガチャリ
京太郎「ひでぇ!?」
京太郎「つまらない冗談言ったのは謝りますから、鍵開けてくださいよー」
ガチャ
京太郎「し、失礼しまーす…」
洋榎「なんか用?深夜の1時やで」
京太郎「いえ、トイレ行ったら明かりがついていたんで、何をしてるのかなーと」
机の上を見ると、いくつかの教本とおびただしい数の牌譜。勉強していたのだろう
京太郎「あまり根をつめても仕方がないと思いますよ」
京太郎「まぁ、その、つまり…早く寝た方がいいです。寝不足はお肌の大敵ですよ」
洋榎「……」
京太郎「洋榎さん?」
洋榎「駄目なんや。うまくいけへんのや、なんべんやっても」
洋榎「今までは、いつも通りにやれば勝てたし、たとえ負けてもそれは想像の範囲内やったんや」
京太郎「……」
洋榎「これまで、負けるつもりで麻雀打ったことなんていっぺんない」
洋榎「せやけど、あいつらと打ってる時に考えてしまったんや」
洋榎「負けてもいいから早く終って、てな」
京太郎「……」
洋榎「反射が反応へ変化した気分や」
洋榎「昔は、リーチしたら、向こうから勝手に牌がやってきたのにな」
京太郎「現実に冒されたんですね」
洋榎「はっ…」
洋榎「実力で勝ってるような相手にも、勝負には負けて……どないしたらええのか、もう分かれへん」
洋榎「いっそのこと、どっかに嫁でも行こうか。なーんてな…はは」
京太郎「……」
洋榎「なぁ、京太郎。鼠すら捕れなくなった猫に、一体何の価値があるんや?」
京太郎「…随分と可愛らしい猫ですね」
洋榎「ああああ、あほっ///!真面目に質問してるんや!」
京太郎「……いいんじゃないですか?そういう猫がいても」
洋榎「なんやと…!?」
京太郎「物語とは多様に読みうるものです」
洋榎「何の話や?」
京太郎「洋榎さんもイラチな人ですね。人間の話です」
京太郎「一般相対性理論では、高校で習うような平らな空間じゃなく、曲がった空間を扱うって知ってます?」
京太郎「複素数って単に数学の産物じゃないんです。物理や工学でも実際に利用されるんですよ」
京太郎「素粒子物理では、もはや8元数を使うとかなんとか」
京太郎「ほんの少し見方を変えるだけで、世の中の別の側面が見えてくるなんておもしろいですよね」
洋榎「意味分からんわ…」
京太郎「洋榎さん、確かにあなたは鼠を捕れなかったかもしれません」
京太郎「けど俺は、そんな猫でも好きですよ」
洋榎「えーと」
洋榎「……」
洋榎「……」
洋榎「へ」
京太郎「まあ、俺は猫派、犬派というよりは、カピバラ派なんですけど」
洋榎「予想外の答え来たっ!?」
京太郎「それに、洋榎さん」
京太郎「俺にはその猫――…猫と言うよりは虎に見えます」
京太郎「だから鼠なんかじゃなく、もっと大きな獲物を狙えるような気がするんですけどね」
洋榎「……」
京太郎「はは、柄にもなく、ちょっとカッコつけすぎちゃいました」
京太郎「さて、俺はもう寝ますね。寝不足はお肌の大敵なんで」
京太郎「おやすみなさい」
洋榎「……」
バタン
――2月上旬 大阪
須賀京太郎の朝は早い
大阪府は上町線の沿線にある閑静な住宅街の一画
清澄高校麻雀部部員、須賀京太郎が現在居候しているのがここ愛宕家である
プロ雑用、須賀京太郎の仕事場である
世界でも屈指のプロ雑用
彼の仕事は決して世間に知られるものではない
我々は、彼の一日を追った
Q.朝、早いんですね?
京太郎「朝はやることがたくさんあるんです」
京太郎「一日のスタートをどう切るかが、その日の雑用の質を決めるんですよ」
Q.これから何を?
京太郎「ランニングです。朝の日課なんです」
京太郎「身体が資本ですから、こういう積み重ねが後々大事になってくるんです」
Q.どこまで行くんですか?
京太郎「家から長居公園まで行って、公園を一周して帰ってくるんです」
京太郎「朝の公園って、空気が澄んでいてとても気持ちいいんですよね」ニコリ
彼の笑顔とは裏腹に、その行程はゆうに10キロを越える
我々は彼のプロ雑用としての覚悟を、わずかながら感じることができた
ランニングを終え、朝の6時になる頃、我々は愛宕家に再び戻ってきていた
クールダウンを済ませた彼は、どうやら部屋に戻るようだ
Q.今度は何を?
京太郎「はは、軽い筋トレですよ」
Q.雑用に筋トレ、ですか?
京太郎「自動卓を運ぶこともありますからね、少しくらいはしておかないと」
そう言うと、彼は30キロのダンベルを使ってトレーニングを始めた
戯れに我々も同じようにしてみたが、とんでもない重量で早々床に降ろすハメに
その鍛錬の過酷さに、思わず唾を飲み込んでしまった
シャワーを浴び、汗を流すと今度は台所に向かった
ご飯が炊けているのを確認すると、フライパンに油を入れ熱し始めた
それと並行して、冷蔵庫から卵と味噌を取り出す。卵焼きと味噌汁を作るのだろう
Q.朝食の準備ですか?
京太郎「ええ、皆が起きてくる前に用意しなくちゃいけませんから」
京太郎「気付かれる前に済ませておく、雑用の基本です」
Q.寂しくはありませんか?
京太郎「はは、元々何やっても気付かれない身ですからね」
京太郎「それに……たとえ気付かれなくても、皆が笑顔でいられのが一番の幸せですから」
彼の何気ない一言に込められた真意を、我々は掴みきることはできなかった
しかし、彼のその表情からは――
バーン!!!!
洋榎「京太郎っ!!」
京太郎「…~~っ!?キャーッッ!!!エッチーー!!!」
洋榎「乙女の悲鳴っ!?」
京太郎「ちょ、ちょっと!今『ひとり情熱大陸ごっこ』してるんですから、ひと声かけてくださいよ!」
洋榎「自分、何やってんのっ!?」
京太郎「いやー、これやると仕事が捗るんですよねー」
京太郎「今度一緒にやってみませんか?あ、洋榎さんは『プロフェッショナルの流儀』派でした?」
洋榎「ほんま、よう言わんわ…」
京太郎「ちなみに10キロとか30キロ、ってのは流石に嘘ですので」
洋榎「何の話?」
京太郎「いい気になると、人は話を盛ることが多いってことです」
洋榎「?」
京太郎「それで、どうしたんですか?こんな朝早くに」
洋榎「え、え~とな…そのー」モジモジ
京太郎「どうしました?トイレならあっちですよ」
洋榎「トイレちゃうわ、あほっ!!」
京太郎「ならなんです?」
洋榎「京太郎と話してから、よう考えてみたんやけど…」
京太郎「はい」
洋榎「やっぱ、うじうじ悩んでるのはうちらしくないし…」
洋榎「せやけど、うちこういうの初めてやから……どないしたらええのかよう分かれへんし」モジモじ
京太郎「……」
なるほど、洋榎さんは大きな挫折というものを今までしてこなかったのだろう
才能豊かな分、多くの人間が当たり前のように経験することをできていなかったのだ
俺とは違う
京太郎「はい、なんとなく話は理解しました」
洋榎「ならっ!」
京太郎「でも、急に自信を取り戻したり、急激に強くなったりなんて都合のいいものはありませんよ」
京太郎「それに俺、麻雀のことはそこまで詳しくありませんし」
洋榎「そ、そう…」シュン
京太郎「けど、教えてくれる人は知っています。助けてくれそうな人も」
洋榎「?」
京太郎「洋榎さん、こういう時に自分の力でなんとかするのも大事なことだと思います」
京太郎「だけど、他の人の助けを借りるのもそれと同じくらいに大事なことなんですよ」
洋榎「なんやそれ、映画の台詞?」
京太郎「我が部の先人が残してくれた、偉大な知恵です」
洋榎「?」
京太郎「確か今、自由登校なんでしたっけ?」
洋榎「せやけど…なんで?」
京太郎「ふふ、都合がいいです」
京太郎「洋榎さん、多くの物語において、力不足を感じた主人公が次に取る行動ってなんだか知ってます?」
洋榎「さ、さぁ…」
京太郎「修行です」
洋榎「……」
洋榎「……」
洋榎「……」
洋榎「……」
洋榎「はぁ!?」
――2月上旬 岩手
洋榎「え?寒っ!!」
洋榎「寒っ!!」
洋榎「……」
洋榎「え?寒っ!!!」
京太郎「何回言えば気が済むんですか」
修行と言えば、やはり全国行脚の武者修行だろう
というわけで、まず岩手は宮守女子高校まで行くことにした
洋榎さんは道のりを詳しく知らないので、俺が案内することに
まさかこんなところで、今までの全国高校巡りの経験が活きることになるとは
人生とは、先の読めないことばかりだ
大阪国際空港からいわて花巻空港までひとっ飛び
その後は、釜石線で電車に揺られながら宮守駅までやってきていた
流石、雪国岩手県。気温の低さもそうだが、降雪量もかなりのものだ
辺りを見回すと一面雪景色。思わず長野での冬を思い出す
洋榎さんはこのレベルの寒さ慣れていないようで、さっきからやかましくらい同じ台詞を繰り返している
まあ、大阪じゃあせいぜい0度付近にしかならないので、仕方ないのかもしれない
京太郎「仕方ないですねぇ…はい、これどうぞ」
洋榎「なんやこれ?」
京太郎「使い捨てのカイロです。無いよりはましでしょう?」
洋榎「ここは、さりげなく相手の手を握る場面ちゃう?」
京太郎「そういう砂糖吐きたくなるラブコメみたいなことをしたいならいいですけど」
京太郎「……この寒さだと、余計に冷えますよ」
洋榎「わぁー、カイロってめっちゃぬくいなぁー(棒)」
京太郎「賢明です」
洋榎「おっ、なんやあの橋?変わった形してるなぁ」
京太郎「めがね橋ですね。観光名所らしいですよ」
洋榎「めがね?」
京太郎「めがねです」
洋榎「まぁ、頑張ればめがねに見えへんこともないか」
京太郎「正式名称は宮守川橋梁(きょうりょう)らしいですけどね」
京太郎「用が無かったら、この辺ぶらぶら散歩するのもよかったかもしれませんね」
洋榎「いややわ…うちは早いとこぬくもりたい…」ブルブル
京太郎「はは、そうしときますか」
それからしばらく歩いていると、コンクリート製の比較的大きな建物が見えてきた
10月以来となる、宮守女子高校だ
京太郎「今日の連絡の方はもう済ませてあるんですよね?」
洋榎「もち。部室に来てくれればええ言うてた」
京太郎「じゃあ、さっそく行きましょう。案内しますよ」
洋榎「おー」
当たり前のことだが、いきなり他校に突撃しても失礼になる
「たのもー!!」、が通じるのは漫画やアニメの中だけである
なのであらかじめ、姫松の赤阪監督を通じて、宮守には連絡がとってある
赤阪さんの意外なほど豊富な人脈には感謝しなくてはならないだろう
京太郎「ここです。さっ、入りましょう」
洋榎「ちょ、ちょお待ってぇな…!」
京太郎「なんです?」
洋榎「何か変なところあれへん?」
京太郎「洋榎さんって結構気にしぃですよね」
洋榎「ぅ…」
京太郎「大丈夫、いつもと同じでとても可愛らしいです」
洋榎「せ、せやろか…///」ポリポリ
京太郎「そうですよ」
京太郎「それに、大丈夫ですよ洋榎さん」
京太郎「なにせ、宮守の人たちはみんな――――天使ですからね」
ガチャ
洋榎「あ、ちょ…勝手に――」
パーン!パーン!
「「ようこそっ!宮守女子高校へ!!」」
洋榎「」ポカーン
エイスリン「ナ、ナラナカッタ…」アセアセ
白望「そういう時もある…」
豊音「ほ、本物の愛宕さんだよー。感激だよー」
塞「ありゃー、ちょっとはずしちゃったかな」
胡桃「そんなことない」
洋榎「何やこれ」
京太郎「ね」
既に知っている人もいたが、簡単に自己紹介を済ませた
塞「さぁ、どうぞどうぞ」
洋榎「部室に炬燵っ!?なんでやねん!」
白望「さぁ…」
洋榎「って、知らんのかい!」ビシッ
豊音「本場のツッコみ…感動だよー」
胡桃「うるさい」
エイスリン「アノ。オチャ、ドウゾ」
洋榎「おー、ありがとう」
エイスリン「……」ドキドキ
洋榎「ああ、温もるなぁー。めっちゃうまいわ」
エイスリン「ソ、ソウ?ヨカッタ」ニコッ
洋榎・京太郎「」キュン
守りたい、この笑顔
豊音「あのー、愛宕さん…?」
洋榎「同い年やろ?洋榎でええよ」
豊音「じゃあ、洋榎さん。そのー、あのー…サインお願いします!」ズイッ
洋榎「ん、ええよ」
豊音「わぁ~、やったー!」
洋榎「……」カキカキ
洋榎「……」カキカキ
洋榎「はい、これでどや」
京太郎「流石に慣れてますね」
豊音「ううう、嬉しいです。これ、家宝にします!!」ニコッ
洋榎・京太郎「」キュン
守りたい、この笑顔
洋榎「何やここ。天使ばっかやないか」ボソ
京太郎「いえ、まだですよ」
洋榎「?」
京太郎「あっちで茶菓子の用意をしてる、臼沢さんを見てください」
洋榎「ん、ああ……で?」
京太郎「で、じゃないです。心の目でよーく見てみるんです」
洋榎「ん~~……あっ、あれは!」
洋榎「割烹着っ!それに三角巾も!?」
京太郎「クク、洋榎さんにも見えましたね。"アレ"が」
京太郎「けど、それだけじゃないんですよ。用意しているお菓子を見てください」
洋榎「あ、あれは!?…おばあちゃん家でよく見る謎のお菓子の数々!!」
京太郎「あれ、どこで買ってくるんでしょうね?」
洋榎「日本七不思議のひとつやね」
塞「はい、遠慮なく食べてね」ゴト
洋榎・京太郎「こ、これは…!?」
洋榎・京太郎「おばあちゃんのぽたぽた焼きっ!!」
洋榎・京太郎「ばあちゃん…」ウルッ
塞「あれ、そんなに嬉しかった?わざわざ用意した甲斐があったよ」
白望「これ、貸してあげる…」
胡桃「これとか言うなー」
洋榎「はい?」
白望「湯たんぽ代わりになる…」
胡桃「こんな鶏がらみたいなのじゃ、充電にならない!」
京太郎「と、鶏がら……ぷっ」プルプル
洋榎「おい」
白望「?」
胡桃「はぁ、仕方ないなぁ。今回だけだから」ポスン
洋榎「お、おう」
胡桃「充電?むしろ、充電されているような…?」
洋榎「……」
洋榎「ああ、でも……これ気持ちええなぁ」モフモフ
洋榎「あ゛あ゛~、このままじゃ蕩けてまう~。ダメになってまうやんか~」
胡桃「きもちわるい…!」
白望「……」グッ
洋榎「……」グッ
ガチャ
トシ「何やってんだい、あんた達…」
「「あっ」」
トシ「なるほど、あなたが愛宕洋榎さんね」
洋榎「は、はい!」
トシ「ふーむ、なるほどねぇ…うんうん」ジー
洋榎「?」
トシ「緊張しなくていいよ。赤阪さんから事情は聞いているし」
洋榎「……」
トシ「なんでわざわざ、こんなことをしようと思ったんだい?」
洋榎「こんなこと、ですか?」
トシ「こんな辺鄙なところまで来て練習だなんて、さ」
洋榎「その…きょ、友達が教えてくれたんです。こういう時はもっと他人を頼っていいんだって」
洋榎「だからっ」
トシ「ふふ、いい友達を持ったね。大事にしてあげるといい」
洋榎「は、はぁ…」
トシ「うーん…もしかして、男の子かな?」
洋榎「なっ、なななななんで!?」
トシ「な・い・しょ」
その仕草、実にキュートだ
トシ「さあ、早速練習始めようか。私の指導についてこられるかな」
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「「お疲れ様でしたー!」」
練習が終った
洋榎さんは相変わらず調子を取り戻せないでいるようだ
なんとか試行錯誤しているようだが、俺の目から見ても明らかに以前の打ち筋とは違う
洋榎「はぁ」
あと、姉帯さんや小瀬川さんはともかく、熊倉さんめちゃくちゃ強ええ
この全国クラスの打ち手相手に3人同時飛ばしとか……ちょっと他とは違いすぎる
トシ「さて、愛宕さんは今日どこに泊まるんだい?」
洋榎「え、空港の近くにホテル予約してますけど」
豊音「えっ」
エイスリン「えっ」
洋榎「えっ」
エイスリン「ガッシュクジョ。トマラナイノ?」
京太郎「!!」
洋榎「でも、キャンセル料が…」
京太郎「いやー、いいじゃないですか。せっかくなんで泊まっていきましょうよー(棒)」
洋榎「いや、でも…」
豊音・エイスリン「……ダメ?」ウルッ
洋榎・京太郎「」キュン
洋榎「泊まります!!」
トシ「はは、そうしなさい。明日は休日だし、朝から練習ね」
洋榎「はい!」
トシ「あんまり羽目をはずさないように。頼んだよ、二人とも」
塞「はい」
白望「ダルいけど、仕方ない…」
豊音「うわー、お泊りなんて久しぶりだよー」
エイスリン「ウン!!」
胡桃「はぁ、うるさくなりそう」
京太郎「気分は修学旅行ですね」
洋榎「せやな」
和気あいあいと食事を済ませ、お風呂にも入った
複数人用の浴槽だったので、久しぶりにゆっくりとお湯に浸かれて気持ちよかった
あ、俺は教職員用のを使わせてもらいました、残念
洋榎さん、後で残り湯分けてもらえませんかね?
そして俺は今、洋榎さんたちとは別の部屋にいる
洋榎さんたちは、今頃部屋の電気を消してガールズトークに励んでいるのだろう
布団は勝手に拝借させてもらったので寝るには全く問題がない
ちなみに、女子高生の残り香スーハー。なんてことはやっていない
残念ながら、加齢臭しかしなかったからだ。職員用のだし仕方ないね
世知辛い世の中である
さて、一仕事済ませてから寝ることにしますかね
~~~~~~~~~~~~~~~~
豊音「はいはい、質問質問!」
洋榎「なんや?」
豊音「やっぱり洋榎さんくらいになると、彼氏の一人くらいはいるのかなー?」
洋榎「!! ま、まぁ…?うちくらいになると男の方から勝手に寄ってきて、それはもう行列が──」
豊音「わ、わわわー///共学ってすごいんだねー」カァァ
エイスリン「ヒロエ、オトナ!」
洋榎「もてる女は辛いなぁ、なーんてな!あっはっは」
白望「……」
白望「本当のところは…」
洋榎「す、すみません、嘘つきましたぁ!男のおの字もございません!!」
塞「なーんだ」
胡桃「嘘はよくない」
洋榎「そないなこと言うても、うちの周りにだって男っ気のあるやつなんておれへんからなぁ」
豊音「へぇー、共学って言っても女子高とあんまり変わらないんだねー」
塞「そんなもんでしょ」
エイスリン「……」
エイスリン「ジャア、スキナヒトハ?」
塞「おっ、それ聞いちゃう」
白望「ダルい…」
洋榎「スキナヒト?スキ、スキ……?えっ、好きな人!?」
胡桃「あからさまに動揺してる。怪しい」
エイスリン「アヤシー」
塞「怪しいね」
洋榎「そ、そないなこと――」アタフタ
クゥーン…
洋榎「ん?」
クゥーン…
洋榎「あれ?今、犬の鳴き声せえへんかった?」
胡桃「話題を逸らそうとしてる」
洋榎「い、いや、ほんまに」
塞「鹿とか熊が出ることはあっても、犬はないよー」
洋榎「それはそれですごいな…」
洋榎「悪いけど、ちょっと気になるから見てくるわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
バタン
シーン…
洋榎「なんや、何もおれへんやんか」
クゥーン…
洋榎「ん?」
クゥーン…
洋榎「何や?」
京太郎「くぅ~ん、人肌が恋しいワン」
洋榎「……」
京太郎「僕もみんなと一緒に寝たいワン。布団も一緒だと尚いいワン」
洋榎「……」
京太郎「寒いから早くお家に入れて欲しいワン。おもちが恋しいワン」
洋榎「……(ゴミを見る目)」
バタン
京太郎「閉められた!?」
ガチャリ
京太郎「鍵掛けられた!?」
「何かいたー?」
「はは…喋るゴミが一匹な」
「なにそれー、あはは」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「ちぇ、欲を出すとすぐこれだ。まいったね、どうも」フッ
京太郎「洋榎さんが犬派だから、犬でいいやと考えたのが安易だったか…ちっ」
京太郎「……」
どうやらちゃんと馴染めているみたいだ
普段は飄々としてるけど、変なところで気の小さいところがあるからなぁ
いいかげん、俺も気にしぃかな。人のこと言えない
――2月上旬 岩手
2日目――と言っても今日の練習が終ったら帰る予定なので、岩手での修行最終日
今日は休日ということで、朝から練習に明け暮れている
みんな進路が既に決まっているとはいえ、献身的に洋榎さんに付き合ってくれている
やはり、宮守女子高校の(元)麻雀部員は天使で構成されているようだ
いや、大天使、権天使をやすやすと超えて、座天使、智天使すら及ばず、もはや熾天使だ!!
だが、残念ながらその甲斐もなく、なかなか洋榎さんの調子は戻らない
熊倉さんも考えあぐねているいるようで、色々試してはいるが効果上がらず苦戦中
スランプというものは得てしてそういうものだろうが、なかなか直らないものだ
さらに言えば、問題はスランプ脱出だけではない
仮想敵の戦力を考えると、さらなる実力向上も必要になってくる
キッカケというか、もっと根本的な何かが必要なのだろうか?
タン
タン
タン
あっ
京太郎「洋榎さん、それです」
洋榎「え」
トシ「それだよ、ロン」
京太郎「ほら」
洋榎「……前にも」ポツリ
_______
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洋榎「なぁ、京太郎」
京太郎「なんです?」
洋榎「さっきの……前にもあったよな」
京太郎「さっき?」
洋榎「さっき、うちが熊倉さんから直撃くらったときや」
京太郎「ああ、あれですか」
洋榎「あれって別に、熊倉さんの待ちを見てたわけやないんやろ?」
京太郎「ええ、まぁ…」
洋榎「前におかんと打ってたときも一緒や」
洋榎「あん時も京太郎はうちらとは離れていたはずなのに、当たり牌が分かってるみたいやった」
洋榎「もしかして……」
京太郎「もしかして…?」ゴクリ
洋榎「未来のことが分かるんか?」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「俺が未来から来たって言ったら、笑う?」
洋榎「ま、まさか…」
京太郎「……」
京太郎「ぷっ。あはははっ!!!」
洋榎「な、なんや…人が真面目に質問してるっちゅうのに!」
京太郎「あはは、すみません。あまりに突飛な考えだったもんで、つい」
洋榎「むぅ」プクー
京太郎「はは、怒らないでくださいよ」
洋榎「なら、一体全体何なんや。さっきのは!?」
京太郎「うーん、なんて言うんですかねぇ……」
京太郎「なんというか、危険なものが分かるんですよ」
洋榎「危険?」
京太郎「ええ、さっきの当たり牌なんか特にそうです。なんとなく分かっちゃうんですよ」
京太郎「どの牌を切るべきかとか、このタイミングでリーチをかけて大丈夫なのかとか、ここでカンしていいのかとか」
京太郎「とにかく、あらゆる場面で危険性が直感的に分かるんです」
洋榎「なんやそれ、チートやないか…」
京太郎「そうですね。けど、俺はどのみち対戦することができないんで、麻雀での意味はありませんが」
洋榎「それは、まぁ」
京太郎「もちろん、麻雀限定じゃないですよ、これ」
京太郎「洋榎さんが風邪を引いたとき、熱が高くなることを予測しましたし」
京太郎「大会で、彼らと当たる前にその実力を予想しました」
京太郎「ああいうのも分かるんです。すごいでしょ?」
洋榎「一種の未来予知やな」
京太郎「ええ。ですけど、危険に関するものだけですし、範囲もだいぶ限られてますよ」
洋榎「どゆこと?」
京太郎「せいぜい俺と、俺に近い人のことくらいしか分かりません。例えば、洋榎さんとか」
京太郎「それに、『なぜ?』そうなるのかの原因まではよく分からないんですよ」
京太郎「危険性の有無やその強度は分かるんですけど、その理由まではちょっと…」
洋榎「うーん、なるほどなぁ……でも、なんでそないなこと急に?」
京太郎「……」
京太郎「大事は小事より起こる、と言いますが。今の俺にとって小事は致命傷そのものになりますから」
そう、単なる風邪でさえ
京太郎「いわばこれは、か弱い俺がこの世の中で生きていくために、急遽必要になった生存戦略なんです」
洋榎「京太郎…」
ああ、そんな顔しないでほしい
だから、この話題は出したくなかったんだ
京太郎「ここで、闘うことよりも逃げることを選んだところは正に俺らしいですけどね。はは」
洋榎「……なぁ、なら。それ…うちにも教えてくれへんか?」
京太郎「は?えーと、感覚的なものなんで教えるも何も、ムリムリムリのデンデンムシですよ」
洋榎「いや、その。感覚やなくてな」
洋榎「ただ、うちが打ってる時、京太郎が危険だと思ったら、そのことを教えてくれるだけでええんや」
京太郎「まぁ、別に構いませんけど……そんなことに意味なんてあるんでしょうか?」
洋榎「意味はうちが考える。だから頼むっ!」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「分かりました」
洋榎「!!」
京太郎「洋榎さんのためなら、一肌脱ぎますよ」
洋榎「京太郎!」
京太郎「よしっ、そうと決まればやるだけだ!」
京太郎「さぁ、洋榎さん!!生存戦略、しましょうか?」
_________
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__
洋榎「ありがとうございましたー!!」ペコリ
豊音「ううん。私も久しぶりに打てて楽しかったよ!」
塞「確かに、麻雀なんて何ヶ月ぶりに真面目に打ったことか」
白望「たまには、こういうのもダルくない…」
胡桃「麻雀はともかく、マナーは上達してたかな?」
洋榎「う、うっさい」
トシ「あまり教えることができたとは言えないけど、応援してるよ」
洋榎「そんなことありません。すごくタメになりました」
トシ「ふふ、そう言ってもらると少しは気が楽になるよ」
トシ「あと、途中から打ち筋が微妙に変わってたけど、あれは結局何だったんだい?」
洋榎「えと……アカンかったですか?」
トシ「いや、そんなことないよ。こういう時に試行錯誤するのはいいことだと思う」
トシ「ただ、何というか。異様な…」
洋榎「?」
トシ「いや、やっぱりなんでもないよ。気をつけて帰りなさい」
洋榎「は、はい」
エイスリン「エト……ヒロエ」
洋榎「?」
エイスリン「行ってらっしゃい」
洋榎「ん、行ってきます」
京太郎「いやー、宮守女子高校。いいところでしたねー」
洋榎「その台詞だけ聞くと変態みたいやで」
京太郎「否定はしませんが」
洋榎「うわ…流石女子の部屋までわざわざやってくる駄犬やな」
京太郎「ひでぇ言われよう」
洋榎「せやけど、みんなええ人達ばっかだったちゅうのは同意するわ」
京太郎「でしょう?」
洋榎「今度来るときは、麻雀じゃなく観光しにきたいなぁ」
京太郎「時間があればそうしたかったんですけどね。次がありますよ」
洋榎「そうやね」
京太郎「俺としては、温泉入りたかったんですけどね」
洋榎「どーせ覗くつもりやったんやろ」
京太郎「滅相もない」
洋榎「あ、めがね橋」
京太郎「ライトアップされてますね。こんなんなるなんて知りませんでしたよ」
洋榎「きれいやなぁー」
京太郎「きれいですねー」
──2月上旬 鹿児島
洋榎「あったか~い」
京太郎「何やってるんですか。バスの本数少ないんだからとっとと行きますよ」
洋榎「イラチやなぁ。情緒っちゅうもんがあるやろー」
京太郎「洋榎さんにだけは言われたくないですね、それ」
岩手は宮守の次は、鹿児島は霧島市までやってきていた
大阪国際空港から鹿児島空港まで1時間と少し。あっという間に南の国だ
正直、気温はそこまで高くはないが、先日まで雪国にいたこともあり確かに暖かく感じてしまう
京太郎「でも、直接神社の方に来てくれって、結構変わってますよね」
洋榎「うちも最初に聞いたときはびっくりしたわ。どひぇー、えらいこっちゃー!!、てな感じで」
京太郎「そこまでではなかったですけど」
京太郎「個人的には永水女子高校に直接行きたかったんですけどねぇ」
洋榎「……変態」
京太郎「男の性ですね。しゃーない」
洋榎「そう言えば、宮守も永水も、次行く新道寺もみんな女子高やったな」
洋榎「京太郎の行ったことのある高校って、女子高ばっかりなんやな」ジロリ
洋榎「もしかして、女子高マニアなん?」
京太郎「ククク、バレてしまいましたか」
京太郎「そうです。長野が誇る女子高愛好家の京ちゃんとは俺のこと」
洋榎「キモ…」
京太郎「そのかわいそうな人を見る目、やめてもらえません?」
洋榎「ごめんな、あまりに気持ち悪くて」
京太郎「まぁ、それは冗談なんですけど。強豪校が女子高ばかりなのがいけないですね」
洋榎「それは確かに。なんでやろ?」
京太郎「さぁ?大人の事情なんじゃないですか?」
洋榎「ふーん」
京太郎「あ、バス来ましたね。行きましょう」
洋榎「おー!」
鹿児島空港からバスに乗り、途中で乗り換えを済ませると霧島山(きりしまやま)の麓近くまでやってきた
ここからさらに北西に進むといくつもの温泉が名を連ねるが、残念ながら今回は行く暇はない
残念だが仕方がない。うむ、実に残念だ…残念だ……
洋榎「うぅ~、寒っ!」
京太郎「そうですね。この辺まで来ると少し寒いです」
京太郎「向こうの霧島山なんて、雪積もってますよ。鹿児島でも降るもんなんですねぇ」
洋榎「はよ行こ、はよ」ブルブル
京太郎「そうしますか
バスを降りて、徒歩で少し歩くと大鳥居が見えてきた
さらに歩を進め、二の鳥居、三の鳥居をくぐるといよいよ社殿がその姿を現した
おのぼりさんよろしく、辺りをキョロキョロしていると向こうから見知った顔が…
?「お待ちしておりました。愛宕洋榎さんですね、私は石戸霞と申します」ペコリ
京太郎「石戸さん来たーーー!!!」
洋榎「キャラ違うてるで」
霞「?」
洋榎「あ、なんでもありません。わざわざご丁寧にどうも…」ペコリ
洋榎「でも、敬語は別にええで。同い年やろ、確か?」
霞「あら、そう?ならそうさせてもらうわね」
洋榎「変わり身早いなー」
霞「ふふ。さあ、行きましょう。案内するわ」
霞「愛宕さん、あなたそれ少し寒くないかしら?」
洋榎「多少」
霞「鹿児島だと思って甘く見たわね。たまにいるのよね、そういう人」
洋榎「うっ」
霞「だから、はいこれ。私のコート貸してあげるわ」
洋榎「ええの?」
霞「そのために持ってきたんだもの。いいに決まっているわ」
洋榎「ありがとう。んじゃ遠慮なく」
京太郎「いや、しかし神社の中ってこんなになってるんですね。すごく不思議な気分です」
洋榎「……」チラチラ
霞「あら、落ち着かない?」
洋榎「こういう所初めてやし。なんていうか場違いな気がして」
京太郎「落ち着かないのはいつも通りですけどね」
洋榎「」ギロッ
京太郎「ひえー…」
霞「大丈夫。すぐに慣れるわ」
霞「それにこの建物、実はそんなに古いものじゃないのよ」
洋榎「えっ」
霞「ほら、すぐ近くに霧島山があるでしょう?」
洋榎「うん」
霞「あれ火山だから、時々噴火するのよね。だから昔は噴火のたびに火事になっていたらしいわ」
洋榎「ひょえー」
霞「だから、今のこの社殿は1700年頃に再建したものなの」
洋榎「それでも十分古いと思うけどなぁ」
霞「最近では新燃岳が噴火したじゃない?その時もすごい騒ぎだったんだから」
洋榎「昔の人はこんな所によう神社なんか作ろう思うたな…」
京太郎「もはやここまでくると、意地すら感じますね」
会話をしながら歩いていると、いつの間にか目的地であろう部屋に到着した
神社特有の静謐な雰囲気に当てられて、どうやら感覚が鈍っているようだ
どこをどう来たのかよく思い出せない
霞「さあ、どうぞ」
ギィィ
小蒔「あっ、お久し振りです愛宕さん!私、神代小蒔と申します」ペコリ
小蒔「寒いですか?今暖房強くしますね」
小蒔「お昼ご飯は食べましたか?もしまだ食べていないんだったらこちらで──」
洋榎「お、おう…」タジタジ
春「姫様、困ってる…」ポリポリ
小蒔「あ、すみませんでした。私調子に乗って、つい…」シュン
洋榎「いやいや、わざわざ気ぃ使うてもろて…ありがとうな」
小蒔「は、はい!」
霞「さて、こちらが愛宕洋榎さんよ。今日と明日みんなよろしくね」
洋榎「いや、お世話になるのはこっちやから、そんなに気ぃ使わんでも」
小蒔「そういうわけにはいきません。大事なお客様なんですから」
初美「そうそう、黙ってお世話されちゃえばいいんですよー」
巴「困ったことがあったら、遠慮なく言ってくださいね」
春「気楽に……」ポリポリ
宮守ではどちらかというとアットホームな感じだったが、ここではお客様待遇なようだ
各高校の特色が出ていてなかなかおもしろい
しかし、永水の最大の特徴は何といっても──
京太郎「でけぇ…」
洋榎「でっか…」
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