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元スレ京太郎「虹の見方を覚えてますか?」
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まだ朝ということもあり、結構人ごみがすごい
お上りさんよろしく、少し道に迷いながらも梅田駅に到着した
京太郎「おーい、みんな着いてきてるか?」
咲「う、うん…なんとか」
「……」
京太郎「あれ?咲だけ?」
咲「え、おかしいなぁ。さっきまでここに…」
京太郎「おいおい、さっそく迷子かよ…勘弁してくれ」
ブーブーブー
京太郎「なんだよ、こんな時に、メール?えーと…」
『やっぱ我慢できなかった。芝の感触を確かめてくる』
京太郎「お前らが試合するわけじゃねぇだろうが…」プルプル
咲「きょ、京ちゃん落ち着いて」
『追伸 おみやげは甲子園の砂でいいかな?』
京太郎「ちきしょう…あいつら帰ってきたら縛り上げて、頭部死球喰らわせてやる」プルプル
咲「ま、まあまあ。子供じゃないんだし、大丈夫だよ。最悪連絡とれば、ね」
今だけは、咲が天使に見える
京太郎「咲さんかわいい」
咲「何言ってるの!?」
京太郎「もういいや…行こうぜ、咲」
咲「うん」
駅のホームで電車を待っていると、前方に水色の髪をした美少女が目に入った
その後ろには、明らかに怪しいおっさんがいる
おっさん「デュフフ、デュフ…」
なんだ、このむさ苦しいおっさんは
今日は対して暑くもないのに、大量の汗をかいている
そして、地面には荷物と思われる鞄が無造作に置いてある
キラッ
今光ったな
京太郎「ふーむ」
なるほど、そういうことか
まあ、これはあれだろうな……盗撮だ
自分で使うためか、あるいはよそに売るためか
どういうことかは知らんが、卑劣な行為であることには変わりない
ましてや、こんな国の重要文化財級のおもちの持ち主に対して行うとは
おもちマイスターの風上にもおけぬ!
京太郎「余の顔を見忘れたか!!」
京太郎「成敗!!」
咲「急に何っ!?」
京太郎「すみません、駅員さん?あそこに盗撮魔が──」
駅員「なんやて!兄ちゃん、ありがとな」
咲「自分でやらないんだ!?」
タッタッタッ
おっさん「な、なんですか、あなた達!?」
駅員「ちょっと、鞄の中を見せてもらってもいいかな?」
おっさん「い、いやだ。何の事だかさっぱりだ。見せるもんか!」
駅員「うーん…いや、あんた前に見たことあるなぁ……」
おっさん「!!」ビクッ
駅員「ああ、確か前にもっ!!」
おっさん「今はやってない、やってないんだ…!」アタフタ
ゴトッ
おっさん「あ」
駅員「あ」
おっさん「…ビデオカメラですね」
駅員「…ビデオカメラやな」
おっさん「…駅員室ってどこでしたっけ?」
駅員「あっち」
おっさん「い、いやだー!!もうあそこは、あそこだけは…!!」
駅員「はいはい、中身確認するだけだからこっち来ようねー」
おっさん「いやだー!!もう、今度こそ……ケツが、ケツが……!!」
おっさん「いやーーー!!!!」
ふっ、勝利とは空しいものだな
でも、ケツってなんだろう?うん、知らない方がいいな
咲「京ちゃん、えらい!でも、よく分かったね?」
京太郎「ああ、それはな――」
あれっ…?何で分かったんだ…?証拠なんてほとんどなかったはずなのに…
京太郎「……」
咲「京、ちゃん?」
??「……」ジー
京太郎「えーと、何か…?」
さっき見た美少女だ。こっちを見ている
水色の髪をした、活発そうな女の子だ。赤みがかったツーブリッジのメガネをしている、珍しい
どうやら眼鏡にはこだわりがあるようだ
そしてなにより、かなりのおもちの持ち主である。うむ
??「さっきの、なんやったんやろ?知ってます?」
京太郎「ああ、盗撮魔らしいですよ」
??「そうやったんやぁ。怖いなぁ」
京太郎「ですねぇ」
??「……」ジー
京太郎「……」ジー
??「えーと、前にどこかでおうたこと…?」
京太郎「奇遇ですね、俺もどこかであなたとあったことがあるような…」
しかも、一度や二度じゃない。もっと、ずっと…
咲「ああ、誰かと思ったら愛宕さんですね?」
??「えと……ああ、あなた清澄の!」
咲「宮永咲です。お久しぶりです、愛宕絹恵さん」
絹恵「宮永さん、久しぶりやなぁ。せやけど、何で大阪に?」
咲「修学旅行でこっちに来てるんですよ」
絹恵「そうなんやぁ。せっかくやから、案内したいとこやねんけど…」
咲「別にいいですよ。京ちゃんいますし、大丈夫です」
絹恵「京ちゃん?」
咲「隣のこれです」
京太郎「これとか言うな。どこかで見たと思ったら、インターハイの時ですね」
絹恵「ああ、なるほど!あん時かぁ。ということは麻雀部なんやね」
京太郎「その通りです」
咲「結構荷物ありますけど、買い物ですか?」
絹恵「そうそう、お姉ちゃんと梅田で買い物してん」
お姉ちゃん…?
咲「あれ、でも今は一人みたいですけど?」
絹恵「ああ、よう知らんけど『用事思いだした』、言うてどっか行ってもうた」
咲「うちの部長みたいな人ですね…」
京太郎「あ、電車来ましたね。愛宕さんもこれに?」
絹恵「絹恵でええよ、お姉ちゃんと間違えてまうから」
そうだよ、この人にはお姉さんがいたんだ……えーと、たしか
咲「京ちゃん、電車に乗り遅れるよ」
京太郎「…ああ」
絹恵「私は別のやから、ここでお別れやな」
咲「そうですね、また大会で会いましょう」
絹恵「ほなな、宮永さん」
京太郎「さようなら、絹恵さん」
絹恵「うん、また会おな…京太郎くん」
絹恵さんと別れてから、御堂筋線を使って心斎橋まで来た
心斎橋商店街を見て回って、途中に買い物も少しした
戎橋を渡ったし、グリコのアレも見た
『アレアレ言うな!』
道頓堀の名物看板を見た
くいだおれ太郎、かに道楽のカニ、龍に牛にふぐにマグロの握りずし、全部
そして、お昼頃
京太郎「そろそろ、昼ご飯食べるか」
咲「そうだね。でも、どこにしよう。お店がいっぱいあり過ぎて決められないよ…」
京太郎「うーん、そうだな。どっか適当なところで済ますか」
京太郎「おっ、あの店がいいんじゃないか?」
咲「本当に適当だね…」
京太郎「他の店は人が多いみたいだし、あそこでいいだろ」
京太郎「それにあの店、外見はあんなんだけど、味は最高なんだぜ」
咲「京ちゃんがそこまで言うなら…」
─食事処『男女兼用』
店長「あら~、いらっしゃ~い」ニコリ
女性だ。おもちはあまり無いが、容姿は整っており儚げな美人と言ったところか
でも、なぜか俺の中の防衛本能が、この人物に対してヤバイと警報を鳴らしている
京太郎「ども」
店長「……お、おとこぉ!?久しぶりにフィーーシュ!!きたきた、来ましたわー!!」
京太郎「ひっ…」
咲「ん」ゴッ
店長「あら、私としたことが。仕事中だったわね。さっ、席に座ってちょうだい」
さすが咲さん
京太郎「は、はい」
咲「どうも」
店長「さ、何にする?といっても、定食以外ないんだけどね!」
京太郎「ああ、じゃあこの男日照り定食と行かず後家定食を一つずつ」
咲「私まだ決めてないんだけど!?」
京太郎「大丈夫。これでいいんだ」
店長「了解!お兄さん、お嬢ちゃんちょっと待っててね」
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食事が終わり、簡単に自己紹介を済ませると、会話が始まった
店長「へぇ、京太郎ちゃん達は麻雀部員だったのね」
京太郎「俺はてんでダメですけど、こいつは正直かなりのもんですよ」
咲「ちょ、ちょっと…恥ずかしいから//」
店長「ふーん…うちの常連の娘にもね、麻雀やってる娘がいるんだけど、これがまた滅法強いらしいわよ」
咲「へぇ、誰だろう?プロの人かな?」
店長「さあ、私にもよく分からないの。けど、なかなか見どころのある嬢さんなのよ」
咲「そうなんですか?」
店長「ああ……今でこそうちは、女の人も受け入れているけど、昔は女人禁制だったの」
咲「うわぁ」
店長「そんな時に、颯爽とうちの暖簾をくぐってきたのが、そのお嬢さんだったんだ」
店長「最初は追い返そうとしたのよ?けど、逆にこっちに喧嘩を売る始末」
店長「試すつもりで、うちでも一番の量の料理を出したら難なく食べてちゃってねぇ…」
店長「あれは今でも忘れられないわ。あの時の彼女は間違いなくイイ漢だった」
咲「うーん…すごいの、かな?」
店長「それ以来、店の名前を変えて、こうやって営業してるってわけ」
咲「へぇ」
店長「実は、京太郎ちゃん達が来る少し前まで。ここにいたんだけどね。その前に帰っちゃった」
咲「そうなんですか、ちょっと見てみてたかったですね」
店長「ちょっと時間がずれてればね。会わせてやりたかったわ」
京太郎「……」
食事を食べ終わり、会計を済ませた
京太郎・咲「ごちそうさまでした」
店長「ありがとう。久しぶりにイイ男と会話できて、若返った気分だわ」
京太郎「ははは…でも、あんなにおいしい料理がたったワンコインだなんてすごいですよ」
咲「正直、外見で判断してました。とてもおいしかったです」
店長「そう言ってもらえると嬉しいわ。こっちにいる間、また来てちょうだいね」
カランカラン
咲「いやー、おいしかったね」
京太郎「そう、だな」
咲「?、でもよかったの、さっきからちょくちょくお金払ってもらったりしてるけど」
京太郎「大丈夫大丈夫。賭けで儲けた金なんざ、さっさと使っちまうに限る」
咲「ああ、野球の…一体いくら稼いだのさ?」
京太郎「内緒だ」ニヤリ
その後は、天王寺をブラブラした
通天閣、天王寺公園、そして天王寺動物園
動物園には『カミマス』看板は無かったけど、『ツッツキマス』や『アブナイ』看板はあった
これぞ、大阪文化というものだろう
『んなもん、知らんわ!』
京太郎「はは」
咲「何いきなり笑って…気持ち悪い」
京太郎「え、今俺笑ってたか?」
咲「そうだよ。前は冗談で言ったけど、ほんと頭に異常があるじゃない?」
京太郎「そんなことねえよ……ないよね?」
そして、天王寺動物園を出てすぐに、それは起こった
京太郎「あれ、咲……?」
そう、俺は忘れていたのだ
京太郎「どこ行った?」
最近、咲と出掛けることもなかったので心に留めていなかった
京太郎「咲……?」
あいつは、少し目を離したら、迷子になってしまう奴だということを…
京太郎「あ、雨。そういえば、傘忘れたな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
咲「京ちゃん、京ちゃん!見て、あれあれ……えーと、あれっ?」
咲「京ちゃん?」
咲「……」
咲「……」
咲「……」
うーんと、これはあれだね。久しぶりだから、油断してたみたいだよ。はは
咲「ま、迷った~…」グスッ
どどどどど、どうしよ~…?
ここら辺の地理、全く分からないよ…
こういうの京ちゃんに任せっきりだったからなぁ。まったく、まいっちゃうよね
咲「うぅ…京ちゃ~ん」ウルウル
仕方なく人気のない道を恐る恐る進んでいく
しかし、周りに人はおらず道を尋ねることすらできない
咲「な、なんで~…」オロオロ
あっ、人がいた!あの人たちに尋ねれば……
咲「あ、あの、道をお尋ねしたいんですけど…」
「なにかなお嬢ちゃん。迷子かなー?」ニヤニヤ
「ふふふ…」
「じゅるり…」
あ、ヤバイ。人選間違えた…明らかにガラの悪い女の人たち
「へぇ、中々ええ足してるやないか…どーれ」
咲「ひゃ、ひゃい!!」ビクッ
「あらあら、初々しい反応してくれるやないの」
や、やばい…この人たち、アレだ。あっち側の人たちだ
咲「いいいいいい、いえ。わわわた、私、急いでますので…!!」
「でも、迷子なんやろ。ええやん、一緒にあ・そ・ぼ」
咲「ひっ…!!」
今更だけど、まず京ちゃんに電話すればよかったんじゃん!
私のバカ!ポンコツ!貧乳!……品乳!!
あばばばばばば…まずいよ。貞操の危機だよ!!
何だよ、京ちゃん!
大阪いいとこ、一度はおいで。酒はうまいし、姉ちゃんは綺麗だ。とか抜かして…
全然、全く、これっぽちもよくないよ!ただ今身の危険を感じてるよ!
咲「……」ブルブル
「震えちゃって。かーわいー!」
気分は生まれたての子羊だよ!
「さあ、はよこっちに来ぃや。新しい世界見せてあげるで」
そういうのは、読書で十分間に合ってますから!
「あまり痛い目はみとうないやろ?さあ、さあ!」
万事休す!
さあ、こういう時はあれだね。懺悔タイム!!
もうやけくそだよっ!
京ちゃん、ごめんね。練習とはいえ、10回連続で飛ばしたのはさすがに謝るよ
でも、最近少し打てるようになったからって、調子に乗るのはいけないよね?
優希ちゃん、ごめん。勝手にタコス食べちゃって。でも、ダイエット中だったから仕方ないよね?
和ちゃん、ごめん。えーと…あれ?うん、特に何もないかな
部長、ごめんなさい。前部室に置いてあった少しBL風味な本、実は私のだったんです。後で返してくださいね?
もし気に入ったようでしたら、今度『BANANA FISH』と『日出処の天子』貸してあげます
竹井先輩、ごめんなさい。私──
って、あー、もうっ!!いちいち考えるのが面倒くさい!!
もう、この際誰でもいいから、誰か──!!
助け──
?「おやおや、私の咲さんを涙目にさせるとは趣味のいい……じゃなかった」
?「なんたる悪逆非道の行い。許せませんね」キリッ
??「まったく、のどちゃんが急いでるのを見かけて、何だと思ったら…」
?「少し教育をしてあげましょう」
咲「あ、あなたは…!」
咲「和ちゃん!!」
和「ごめんなさい、少し遅れてしまいました」
??「間に合ってよかったじぇ」
咲「それに、優希ちゃんもっ!!」
優希「一人ということは、また迷子か咲ちゃん…?」
咲「うっ、恥ずかしながら」
和「さて、私が来たからにはもう安心してください」
和「こんな雑魚ども、三分もあれば伸び切ったカップ麺状態にしてあげますよ」
「な、なんやと…!」
「くっ…」
「ほう」
咲「ごめん、『こいつ、できるっ…!!』みたいな反応されても、正直よく分からないです」
「調子に乗ってっ!!」
ヒュッ
和「残像です。後ろですよ」
「な、なにっ、いつの間に!?」
「見えへんかった…」
「は、速い…」
咲「ねえねえ優希ちゃん。喉乾かない?自販機で何か買ってくるよ」
優希「なら、力水で」
咲「りょーかい。あれ結構おいしいよね」
和「ああ、そのまま動かない方がいいですよ。私はレズです」
「……」
和「おや、驚かないんですね?」
「大阪の女をなめたらアカンで。うちもレズや」
和「ほう、少しは楽しめそうですね」
咲「優希ちゃんは天王寺動物園行った?」
優希「行った行った。ヌートリアが可愛かったじぇ」
咲「ああ、たしかに。でも何といっても一番は?」
咲・優希「マレーグマ!!」
和「しかし、私とやるのはやめておいた方がいいですよ」
和「なにしろ──」
和「私の性闘力は53万です」
「なっ、なんやと?せやけど、私だってっ!!」
和「なるほど、威勢だけいいようですね」
和「ですが、それだけで私に勝てるほど、世の中甘くないはないのだということを教えてあげますよ」
和「手とり足とり、ね」ニヤリ
咲「でさぁ、途中に寄った定食屋さんがすごかったんだよ」
優希「それは、私も行きたかったじぇ」
咲「なら、明日一緒に行こうよ。もう、班なんてあってないようなものだし」
優希「やった!」
まさかここでBANANA FISHと日出処の天子の名前を見るとは思わなかった
和「あ、そうそう。一つ言い忘れていました」
「まだ、何かあるんか…!?」
和「私はまだ、変身を3回残しています」
「な、な、な……」プシャー
和「ふっ、他愛のない。きたねぇ花火ですね」
和「さて、残りのあなたたちは、これでもまだ戦うつもりですか?」
「二人同時にかかれば、あるいはっ…!」
「……いや、もうやめよう」
「せ、せやけど」
「うち、聞いたことあんねん。長野には、超ド級の淫乱レズピンクがおるって」
「まさか、こいつが!?」
和「さて、私にはよく分かりませんが」ニヤリ
「ちっ…」
「ずらかるで!」
和「ふっ、行ったか…」キリッ
咲「かっこつけてるところ悪いんだけど、全然かっこよくないからね」
和「そ、そんなぁ~」
優希「これぽっちも見習いたくないけど、さすがのどちゃん。すごかったじぇ」
和「それ、褒めてないですよね?」
和「ああ、せっかく咲さんの評価をあげる絶好の機会だったのに」
優希「普段の行いが悪いから、こうなるんだじぇ」
和「まあ、でもいいんです。私は咲さんが無事なら、それで」ボソッ
優希「……」
和「さっ、厄介事も片づきましたし、行きましょうか」
優希「うん」
咲「あっ、ちょっと待って」
和「?」
咲「言いたいことは山ほどあるけど、今回のは本当に感謝してるよ」
咲「ありがとう、和ちゃん」ニコ
和「……」
和「……」
和「……」ポロポロ
咲「ど、どうしたの!?」
和「い、いえ…何でもないんです…私、それだけで……十分ですから…」ポロポロ
優希「ふぅー、まったく。世話のかかる友人だじょ……やれやれだじぇ」
優希「うーん、でも何か忘れているような…」
優希「あっそうだ。京太郎は?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
京太郎「電話出ねー、咲の奴マナーモードにでもしてるのか?」
京太郎「いやいや、もしかしたら事件に巻き込まれて、出るに出られないという可能性も…」
京太郎「例えば、とりあえずどうすればいいか分からなくて、彷徨っているうちに」
京太郎「人気のない場所に紛れ込んでしまい、運よく人を発見し道を尋ねようとするも」
京太郎「その人たちは、実はあっちな気の3人組の女性で、今頃とても俺の口からは言えないような」
京太郎「責苦という名の快楽調教の真っ最中なのかもしれない」
京太郎「くそっ……」ムラムラ
あ、間違えた
京太郎「くそっ……」ムカムカ
京太郎「うぁ~…、考えれば考えるほど不安になる…」
京太郎「ていうか、ここどこだ?」
さっと周囲を見回すと、でかいビルが一本ニョキっと地面から生えているの目に付く
さらに、注意してみると、ショッピングモールらしきものも
あべのハルカスとキューズモールだ。ということは、ここは阿倍野か
阿倍野?
ええと、今やキタ・ミナミに次ぐ第三の繁華街は天王寺・阿倍野って?
いや、違うな…
京太郎「あ、チン電。上町線か」
そうだ、上町線、阪堺電気軌道。──館の帰りに、いつもあれに乗って帰ってたじゃないか
帰る?どこへ…?
『ほな、帰ろか』
─榎さん?
ドンッ
京太郎「す、すみません」
やべぇ、ボーとしてたみたいだ
「どこ見とんじゃ、こらぁ!!」
「ああー、今ので骨折れたたなぁ、こりゃあ」ニタニタ
京太郎「はっ、そんなわけ」
「せやから、慰謝料として財布おいていきな。分かるやろ?」
分からねえよ
どうやら、頭のネジの緩いやばい奴らみたいだ。数は5人、しかも武器も所持と
こりゃ絶対に勝てないな
仕方ない、こういう時は──逃げるっ!!
「逃がさねえぜ、兄ちゃんよぉ」
「へっへっへ」
ちっ、やばい囲まれた!?
咲の奴もまだ見つけてないっていうのに、こんなこと!
ああ、全くなんてツイてないんだ俺
「さあて、もう逃げられないよん」
「こいつ、たぶん修学旅行生だぜ。金持ってるぜきっと。他にもいねえか見てこようぜ」
「あっ、それいいかも!ギャハハ!!」
こんな馬鹿共に、これから何されるか想像するだけでも、怖気が湧く
ちくしょう、せめて他に仲間がいれば──
??「あら、京太郎ちゃんじゃない。傘も差さずにこんなところでどうしたの?」
京太郎「あ、あなたは!?」
京太郎「店長!!」
「なぁんだ、こいつ?」
「こいつもまとめてヤッちゃおうぜ」
店長「ふぅむ、どうやらやばい感じのようね…」
ダメだ、いくら店長が常人離れした、男日照りの行かず後家女でも、この数は…
店長「ねぇ、あなた達。この子は私のお客さんなの、見逃してあげてくれないかしら?」
「ははっ、こいつ何言うてるんや。アホやろ」
「あんたも財布置いていったら考えてもやらんこともない、かもよ?」
店長「馬鹿な子達」
店長「……」
店長「108、よ」
「は?」
店長「108……この数字の意味が分かるかしら?」
「?」
確か、煩悩の数だったような…
「これは、私が今まで男に言い寄って逃げられてきた数よ」
やっぱり煩悩だ!!
「このババア、何言って――」
グシャ
「おげぇぇぇ……」ビシャビシャ
昼飯はお好み焼きか……
店長「お姉さん、でしょ?」ニコリ
京太郎「お姉さん」
店長「あらあら、うちじゃあもんじゃ焼きは扱ってないんだけど」
店長「男を追いかけてるうちに、未だ人類が到達したことがない一つの頂を踏破してしまった私の女子力、見せてあげるわ」
女、子…?
「なんだ、こいつ!?尋常じゃねえ!」
「ちくしょう、こうなったら…!お前ら、出合え!出合え!!」
あ、僕それ、時代劇で見たことあります
ゾロゾロゾロゾロゾロ
店長「ゴキブリみたいな連中ね」
京太郎「いくら、なんでもこれは…」
店長「うーん、確かにねえ」
京太郎「やっぱり…」
店長「夜の営業に間に合うか心配だわ~」
京太郎「そこですかっ!?」
「いっくぜっー!!!」
来る!!
ファッサー
「ぎゃあー、目がっ!目がぁー…!!」
「たくっ、こんなところで甲子園の砂を使っちまうことになるとはなぁ」
「念のために、サイン入りバット買っといてよかったぜ」
京太郎「お、お前ら!」
「ヒーローは遅れてやってくるってね」
「たまたまだけどね」
「おい、ここで借り作っておけばさっきまでの自由行動、先生にチクられないよう頼めるだろ!」
京太郎「おい、聞こえてんぞお前ら」
「俺らだけじゃないぜ」
ズバン!!
「150キロのストレートなんていらないんですよ。アウトロー(顔面)に決まればいいんです」
京太郎「隣のクラスの桑田くん!」
「僕が言いたいのは『永遠』」
京太郎「外国語科の有くんも!!」
「それだけじゃねえぜ。前田、中村、k原、t浪、──他にもみんな来てる」
京太郎「みんな…」
店長「どうやら、役者は揃ったようね」
店長「終わったら、みんなうちに来なさい。サービスするわよ」
「「いっやほー!」」
店長「よっしゃー!!男子高校生、ゲットだぜっ!!」
「「……」」
店長「さ、京太郎ちゃん。さっさと行きない。あと、傘は貸しておくわ」
京太郎「いや、俺も!」
店長「だーめ。さっき一緒にいた、咲ちゃんだったかしら?、いないわよね。迷子じゃないのかしら」
京太郎「ぐっ…」
店長「あなたにはあなたの仕事があるわ。さ、早く行きない」
京太郎「…この恩は、必ず」
店長「ふふ、なら明日私とデートしてちょうだい」
京太郎「……一回だけですからね」
店長「わかってるわ。だって、あなたには――」
京太郎「?」
店長「……なんだったかしら?忘れちゃった」
京太郎「」ズルッ
店長「まあ、いいわ。デートの場所考えておかないと、だ・め・よ」
京太郎「ああ、それならいい場所が!映画館に行きましょう!!」
『初恋なんて実らないものなのかもね』
店長「映画館、か……あれ以来、避けていたんだけど」ボソ
京太郎「?」
店長「うーん、ベタだけど悪くは無いわね。楽しみにしてるわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
店長「行ったわね…」
店長「さあ、行くわよ野郎ども!!少し早めのオールスターと洒落込もうじゃない!!」
「「おう!!」」
店長「ん、何かしらこれ?」
店長「財布と、携帯ね……学生証?ああ、京太郎ちゃんのか」
「どうやら、さっきのいざこざで落としてしまっていたようですね」
店長「そう見たいね」
店長「悪いけどあなたたち、後でこれ届けておいてくれないかしら?」
「いいっすよ」
店長「……」ジー
「どうしたんですか、そんなにじっと見て?」
店長「……はは、なるほど。そういうことだったのね。私も歳かもしれないわ」
「?」
店長「いつもありがとう、京太郎ちゃん」
店長「またあの時みたいに、二人でうちの暖簾くぐってくれるのを待っているわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ちっ、2人?3人…?何人か追ってきやがる
とりあえず、ここは逃げねえと
「待ちやがれー!!!」
待つかよ!
それから、必死に走った。道も分からず、雨の中
「こらぁー!!」
あべの筋から横に逸れて、右へ左へ迷い込み、上り下りを繰り返した
「おい…ま……」
古びたアパートとマンションの間を抜けて、猫も通らないような細い道を行った
「…………」
民家と民家の間にあった石畳を渡って、意味不明で錆びついた看板を何回も見た
そして…
京太郎「はぁはぁ…さすがにもう追ってこないか」
京太郎「えーと…」
なんだ、この建物
京太郎「映画館…?」
言い方は悪いかもしれないが、随分寂れた映画館だ
だが、その古臭さがアクセントになって、逆にある種の荘厳さがそこにあった
うーん、なんというか
京太郎「ラストアクションヒーローに出てきそうな映画館だな」
京太郎「あっ、そうだ。咲に電話しないと」
……あれ?ん、あれ?…ない?ないじゃん!
京太郎「ちくしょー…さっきので落としたか、ツイてねぇ…」
さすがにまた、あの地獄絵図の中に飛び込む勇気は俺にはない
仕方ない、この映画館の人に電話借りるか
雨でだいぶ濡れてしまったし、乾かすついでだ
入口を通ると、外観とは打って変わって清潔感に溢れた綺麗な造りだ
通りにはルージュの絨毯が敷かれており、歴史的な建造物を彷彿とさせる
天井には大きさは控えめながらも、煌びやかなシャンデリア
頭を横に向ければ、和・洋・中様々な調度品が所狭しと並べられている
一見するとちぐはぐな印象だが、全体として見れば調和がそこを支配している
それら全てが、異様な雰囲気を漂わせ、まるで白昼夢を見ているかのような気分になる
カウンターには、一人の若い男性がいた
その若さは、年季の入ったこの場からは明らかに浮いており、ミスマッチにさえ思える
しかし、それでもやはり、不思議とここに馴染んでいた
京太郎「あの、すみません」
館長「はい、なんでしょう?」
京太郎「不躾なんですが、電話を貸してもらえないでしょうか?」
館長「ええ、もちろん構わないですよ。さあ、どうぞ」
京太郎「ありがとうございます」
早速、咲の携帯に電話を掛ける
咲『はい、もしもし』
掛かった!
京太郎「おお、咲!無事か、今どこだ?」
咲『京ちゃん?知らない番号だったから、誰かと思ったよ』
京太郎「まぁ、色々あってな」
咲『そう?今、和ちゃんと優希ちゃんと一緒にいるの』
咲「こっちも色々あったけど、大丈夫。どうする、合流する?」
タイムリープの時もそうだったけど暴走する時はとことん行くねぇ
京太郎「うん、そうだな──」
館長「いえ、それは止めておいた方が良いかと」
京太郎「え」
館長「まだびしょ濡れですし、それに雨風も強くなっているようです」
館長「ここでしばらく一休みしておくのが賢明でしょう」
うーん、そうだな…
咲『京ちゃん?』
京太郎「あ、ああ。すまんが雨が強くなってるみたいだし、ホテルで合流しよう。だから、またな」
咲『うん、了解』
京太郎「気をつけてな」
咲『分かった、じゃあね』
どうやら、無事だったようだ。ひとまず安心だ
京太郎「電話、ありがとうございました。とても助かりました」
館長「いえ、お役に立てたようでなによりです」
うーむしかし、ここで待つといっても、何もしないというのは気が引けるというもの
京太郎「ここって映画館なんですよね?」
館長「はい」
京太郎「今日は何の映画を上映しているんですか?面白いですか?」
館長「見てからのお楽しみです」
京太郎「変わってるんですね」
館長「当館の方針でして、私の選んだ映画しか上映しないことになっております」
京太郎「へぇ…」
館長「それに…面白いか、面白くないかはあなた次第です」
館長「しかし、絶対に後悔はしないと思いますよ」
京太郎「分かりました、ならチケット一枚もらえますか?」
館長「かしこまりました」
京太郎「じゃあ、これ……あれ?、あれ…?」
館長「どうされました?」
京太郎「あ、あああ……しくったー…」
京太郎「携帯はおろか財布まで落としてしまっていたとは……」ガクッ
館長「……」
京太郎「すみません。そういうことなので、さっきのは無しということに」
館長「それは残念ですね」
京太郎「そう、ですね…」シクシク
仕方がない、ラウンジの椅子を貸してもらって、しばらく時間を潰すしかないか
とほほ…ジュースすら買えないとは
館長「ですが──」
京太郎「?」
館長「ですが、あなたの場合は違うようだ。だって、ほら」
そう言うと、自分のポケットを指でトントンと叩く仕草をする
ポケット?
京太郎「この中には何も……」
いや、紙くずの感触。開いてみると、これは
京太郎「入場引換券…?」
館長「ふふっ、だから言ったでしょう?」
館長「それは単なる紙ですが、それ以上の意味を持つことがある、と」
館長「今のあなたにとって一番大事なものは何か、思い出すんです」
館長「そうすれば、きっと…」
館長「さあ、行ってらっしゃい。どうやら、私にできるのはここまでのようだ」
京太郎「あなたは、一体…」
俺の疑問に答えることはなく、二度だけ首を振り、ニコリと笑ってこう言った
館長「お客様がお待ちですよ」
中に入る。小さめのスクリーンと少ない座席が目に入った
先客は一人しかいない。よく見ると、女性らしかった
ピンクと赤のちょうど中間の色をした髪を後ろに束ねている。所謂ポニーテールというやつだ
その色は、なんというか…濃い桜の花びらのような、そんな印象を受けた
『寒緋桜』
タレ目だが、気の強そうな雰囲気を漂わせている。おもちはない
でも、とても綺麗な人だ。そう、今まで見た誰よりも
京太郎「……」
??「ん、どないしたん?」
この声を聞くだけで、どうしようもなく懐かしい気持ちになる
ああ、またこの感じだ。あと少しで思い出せそうな…大事な
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