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元スレ京太郎「虹の見方を覚えてますか?」
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ジリリリリリリリリリリ!!!!
ああ、うるさい
この音って……?
鐘の音?いや、目覚ましか?起きろって?
いやだ、ここは居心地がいいんだ
ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!
京太郎「うるさいっ!!」
バンッ!!
何かが壊れる音がした
「京太郎っ!!」
京太郎「っ……!」
母「すごい音したから来てみれば……自分で目覚まし時計買いなさいね」
京太郎「え……あれっ?もう朝…?」
母「まだ寝ぼけてるみたいね」
京太郎「母……さん…?」
母「どうしたの?」
京太郎「いや…その……」
母「まるで、電車の中で急に便意を催してしまったけど、しばらく電車は駅に止まりそうはなくて」
母「脂汗を流しながら我慢に我慢を重ねて、暴発しないようにロボット歩行をしながらトイレに着いたはいいけれど」
母「個室が全部使用中だった時のような顔をしてるわよ」
京太郎「どんな顔だよ…」
母「ふふ、冗談よ。でも、豆鉄砲食らった鳩みたいな顔してたわよ」
京太郎「いや…」
母「まあ、いいわ。早く降りてきて朝ごはん食べちゃいなさい」
バタン
――9月上旬 長野
首を少し傾けると、無残に破壊された目覚まし時計が目に入る
京太郎「やべぇ…壊しちまった…新しく買わないとな、とほほ」
ベットから上半身を起こして、思いっきりカーテンを開ける
うっ…
京太郎「眩しい…」
朝ってこんなに明るかったっけ?
すごく爽やかな気分だ。さっきまであったダルさが嘘のよう
早く起き上がって、朝食を食べて、歯を磨いて、登校して、勉強して、麻雀して……
とにかく、力が湧いてくる。今なら何でもできそうだ
京太郎「あほか」
まぁ、いいか。着替えよう
京太郎「…あれっ、なんだこれ?」
いつの間に手に何かを持っている
紙くず…?ゴミか。なら捨て──
『重要に見えないことが、後になって──』
いや、やっぱり引き出しにしまっておこう
まだ時間には余裕があるし、今日はゆっくり学校に行けるな
階段を降りて、台所に向かう
なんだろう、まるでホテルにでも来たような変な感覚だ。俺の家なのに
懐かしい
母「今日はトーストでよかったかしら?」
京太郎「ああ、うん」
母「じゃあ、はい、どうぞ」
京太郎「ありがとう」
綺麗に焼けたパンに、市販の安いバターを塗る。なんていい香りなんだ
京太郎「おいしい…」
母「そう?なら、愛の力ね」
京太郎「パン変えた?」
母「いえ、いつもと同じスーパーで買ってくる、いつもの食パンよ」
おかしい、味が全然違う。こんなにおいしいものだったか?
食事を済ませて、制服に袖を通す。なんだがすごい新鮮な感じがする
まるで初めて着た時みたいな
京太郎「じゃあ、母さん。行ってくるよ」
母「ええ、行ってらっしゃい」
京太郎「行ってきます」
京太郎「カピも行ってくるな、元気にしてるんだぞ?」
カピ「キュ~!」
なんだろうこの気持ちは
ただの挨拶のはずなのに、涙が出てきそうになるくらい、嬉しい
家を出て少しすると、近所のおばちゃんが目に入った
何やら、花の手入れをしているようだ
すごく繊細で綺麗な花だ。美しい黄色い花を咲かしている
京太郎「おはようございまーす!」
「あら、おはよう京太郎ちゃん。今日もバッチリ決まってるわね!」
京太郎「はは、どうも。その花、綺麗ですね」
「あらー、分かる―?うちの主人はこういうのダメでねぇ、まいっちゃうわ」
京太郎「そうなんですか?こんなに綺麗なのに…」
「わたしもこれくらい可愛かったら、京太郎ちゃんみたいないい男をゲットできたのにねぇ」
京太郎「ははは…」
なんと反応してよいやら
京太郎「あれ、その余ってるのは植えてやらないんですか?」
「ああ、適当にやってたら植える場所がなくなっちゃって…」
京太郎「そうなんですか…もったいない」
「そうだ!せっかくだから京太郎ちゃんにあげるわ。ほら、持っていって!」
京太郎「いや、俺これから学校──」
「いいからいいから。ほらっ!!」
半ば無理やり花を持たされてしまったが、家に戻るのも面倒なのでそのまま登校する
京太郎「すぅー……はぁー…」
天気は晴れ。まだ夏の暑さは残っているが、朝の空気は澄んでいて、深呼吸をすると肺に溜まった毒が抜けるようだ
太陽に照らされて、木々の葉が煌めいて見える
そこに風が吹くと、サラサラと葉っぱが音を出しながら揺らめいて、いとも簡単に心を落ち着かせてくれる
さらに歩を進めていくと、小川が目に入った
やはりこれも、太陽の光に照らされて、その不規則な光の反射がとても美しい
そこを魚が力いっぱい元気に泳いでいる。生命の躍動
いや、木や小川や魚だけじゃない
朝の何気ないやりとりや朝食のトースト、そこら辺の石ころや雑草でさえも、愛おしく感じてしまう
世界ってのは、こんなに輝いているものだったか?
________
_____
__
ガラガラガラ
京太郎「おはよー」
「須賀君、おはよう」
「Good mornig! スガサン」
「おはようさん」
「おう、おはよー」
京太郎「……」
咲「京ちゃん、おはよう」
京太郎「咲…ああ、おはよう」
咲「どうかした?なんか変かな?」
京太郎「…いや、変なのは俺みたいだ」
咲「?」
席に着こうとすると、男子の会話が耳に入ってくる
「昨日の試合見たか、おい?すごかったよな!」
「ああ、かなり燃える展開だったな。やっぱ首位攻防戦はこうでなくちゃな」
「7回に追加点取られたときは、正直もうダメかと思ったね」
「そこで、9回のあのホームランだろ。俺はどっちのファンでもないけど痺れたよ」
「そういえば、阪神は?」
「また負けた。ありゃあ、Aクラスも厳しいかも分からないね」
「「阪神(笑)」」
むっ…
京太郎「そんなことない、ここから阪神は追い上げていって、最後は優勝するに決まってるだろ!」
咲「きょ、京ちゃん!?」
「おーおー、須賀は阪神ファンだったか。すまんな」
「けどあの調子じゃあ無理だろ。チームはバラバラ、投打もかみ合わない」
「監督の采配もことごとく外れるしな」
「正直言って、5位にいられるのがおかしいくらいだぜ」
「優勝なんて夢のまた夢、CS行けたら奇跡だね」
そんなことない!
京太郎「……」
京太郎「いいぜ、だったら賭けしないか?」
「「はぁ…!?」」
咲「ちょっと!」
京太郎「阪神がもしCSに進んで、最終的に優勝したら俺の勝ち」
京太郎「阪神の優勝の可能性がゼロになったら、その時点で俺の負け。簡単だろ?」
「おいおい、そこまでムキにならんでも…」
「別に俺たちだって、阪神をバカにしてるわけではなくてだな…」
「いや、いいじゃねーか。おもしろそうだから、やってみようぜ」
「おい…」
「うーん」
咲「どうしたの、京ちゃん!?止めようよ、こんなこと」
京太郎「……」
咲「野球に興味なんてなかったじゃん、どうしたの急に?」
京太郎「大丈夫だ、安心しろ、咲。阪神は勝つよ」
咲「え?」
京太郎「負けるわけないだろ?だって」
だって、──さんが、あんなにも
京太郎「……」
咲「京、ちゃん?」
京太郎「ん、どうかしたか?」
咲「それはこっちの台詞だよ…」
「結局どうするんだ?」
京太郎「もちろんやるぜ」
「うーん…まあ、いいけどね」
「でも、賭けるって何賭けんの?」
京太郎「お金」
「え」
京太郎「バレット・ストロングのヒット曲で、ビートルズがカバーした曲としても有名なのは?」
「Money」
「That's What I Want……俺も金が欲しいぜ」
京太郎「もちろん、そんな大金は賭けるつもりはねえよ」ニヤリ
「巻き上げるみたいでいい気はしないなぁ…」
京太郎「言ってろ」
「止めた方がいいと思うけど…」
京太郎「詳しいことはまた後で決めようぜ、先生にばれると怒られちまう」
「そうだな」
咲「もうっ、私知らないからね!」
京太郎「そうしてくれ」
咲「まあ、それは別にいいんだけどさ」
京太郎「うん」
咲「それなに?」
京太郎「花」
咲「見れば分かるよ…なんでそんなもの」
京太郎「えーとだな、運命のいたずらというか、おばちゃんの強引さが生んだ結果というか」
咲「意味が分からないよ…」
京太郎「すまん、俺にもよく分からん」
咲「ふふ、なんだか今日の京ちゃんちょっとおかしいみたい」
京太郎「…そうかもな」
咲「綺麗だね、それ」
京太郎「ああ」
本当に綺麗だ
授業が始まった。数学の時間、なんだかウキウキする
おもしろいな、もっと色んなことを知りたい
先生「じゃあ、この問題、誰かにやってもらおうかな?」
シーン…
先生「うーん…ちょっと難しかったか。では――」
いや、なんだか解けそうだぞ
京太郎「はいはい、俺やります!」
先生「はい!?」
咲「はい!?」
京太郎「おいおい、先生はともかく。咲、その反応なんだよ…」
咲「え、いや…だって」
先生「じゃあ、須賀。頼んだぞ」
京太郎「了解っす」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「……」
先生「おい、どうした?」
京太郎「先生、これってどうやって解くんですか?」
先生「って、分からないのかよっ!!」
ドッ
咲「ああもう、こっちまで恥ずかしくなってくるよ…//」
京太郎「ははは…まいったまいった」
おかしいな、こんな問題簡単に解けると思ったんだけど…
________
_____
__
京太郎「さて、今日は何を食べるかな」
咲「普通のB定食でも食べれば?」
京太郎「つれないなー、咲さん。いつもの頼むよ」
咲「はぁー…またー?」
また?そうだったけ…?
京太郎「なっ、この通り!」
咲「…調子いいなぁ。わかったよ」
京太郎「恩に着るぜ」
咲「じゃあ、はい。どうぞ、京太郎くん」
京太郎「ありがとうな、咲。金はいつものところに振り込んでおくから」
咲「ああ、すまねえな……って違うでしょ!今すぐ払ってよ!」
京太郎「残念、騙されないか」
咲「もうっ、京ちゃんは…」
京太郎「悪い悪い」
いつも通りの日替わりレディースランチ。今日もうまそうだ
今日も?
京太郎「……」
咲「どうしたの?食べないの?」
京太郎「いや、食べるよ。いただきます」
パクッ
京太郎「……」
咲「またボーっとして。もしかして味変?」
京太郎「変というより…変わった?よく分からねぇ」
咲「?」
でも、うまいのは確かだ。おいしい。昨日と全然違う
いや、味付けや風味や食感は大差ない。なのに、なんでこんなに……
________
_____
__
ガチャ
京太郎「こんにちはー」
まこ「おお、京太郎か。早いな」
京太郎「ああ、ホームルームが早く終わったんで、先に来ました」
まこ「咲の奴はどうしたんじゃ?」
京太郎「日直で少し遅れるそうです」
まこ「おお、そうか」
京太郎「部長は何してたんですか?こんな早くに」
まこ「これか?次の大会で当たりそうなところの牌譜見たり、対策練ったり、いろいろな」
机の上を見ると、牌譜の山とそこに記されたびっしりと埋め尽くされたメモ
各校のデータと、三年がいなくなってからの新しいメンバーの情報をまとめた紙の束
さらに、教師に提出しなくてはいけない書類もいくつか見える。しかし、手つかず
これは少しやり過ぎだ
しかも、俺の視線に気付くと、すぐにそれらを鞄の中にしまってしまった
いじらしい人だ
こういう時はどうすればいいんだ?
えーと、たしか──
『困ったときは、みんながあなたの手をとってくれるから』
京太郎「あー…実は先生に、部の書類を早く提出しろをせっつかれていまして」
まこ「そ、そうか…」
京太郎「今日はたまたま時間もありますし、俺がやっときますよ。たしか部長が持ってるんですよね?」
まこ「お、おう」
京太郎「なら、それちょっと借りますね。家でパパっと片づけてきちまうんで」
まこ「いや、でもこれは…」
京太郎「あー、あと咲のやつが今度の大会で当たるところのデータ欲しがってましたよ」
京太郎「あいつ、今暇してるっぽいんでついでに分析させとくといいですよ。俺も手伝いますし」
まこ「これはわしの仕事じゃから──」
京太郎「部長の仕事は、みんなをまとめることだと思います」
京太郎「決して、全部を一人でやるのが部長ってなわけじゃないです」
京太郎「ほら、竹井先輩も俺によく雑用させてたじゃないですか?あんなんでいいんですよ」
まこ「…もしかして、京太郎はMの人なんか?」
京太郎「ええ、そうです。実は他人にいじめられることに、極度の快感を覚えることを最近発見しまして」
京太郎「特に言葉攻めにはたまらなく憧れますね」
京太郎「和にジト目で見下され軽蔑されながら、なお且つ敬語で罵られるのが今月の目標なんです」キリッ
まこ「すまん、正直気持ち悪い」
京太郎「そんなぁ~…」
まこ「……」
まこ「ぷっ、あはは!分かった分かった!なら、この書類頼むけぇの」
京太郎「…了解です、部長!!」
ガチャ
久「あら、須賀くんに京太郎くんにまこじゃない?早いわね」
京太郎「いつの間に俺、分裂したんですかねえ…」
まこ「まったく…」
ガチャ
和「こんにちは」
咲「こんにちはー」
優希「こんちはー」
まこ「よしっ。一人部外者がいるが、みんな来おったか」
久「それって私のことかしら?」
まこ「はは、冗談じゃ冗談。さっ、部活始めるとするかのう」
部活が始まる。そう、いつも通り、いつも通りだ
久「うーん……」ペラペラ
和「勉強なら家でやればいいんじゃないでしょうか?」
久「やあね、私が一人でそんなことできると思う?」
優希「思わないじぇ」
咲「思いません」
京太郎「残念ながら」
久「何気にみんな酷いわね」
まこ「普段の行いが悪いんじゃな」
久「ちぇ」
久「うーん…」ジー
京太郎「何ですか、ジロジロと?」
久「ねぇ、須賀くん。気のせいかもしれないんだけど、あなた今日少し変な感じするわね」
京太郎「なんすか、それ?」
久「女の勘」
京太郎「はぁ?」
咲「そうなんですよ、先輩。朝から京ちゃんちょっとおかしくて」
京太郎「おい、俺を変な人扱いするなよ」
咲「あ、ごめん」
久「なーんか、顔つきが変わったわね。恋でもしたのかしら?」
京太郎「恋をすると可愛くなるって、女性の話でしょう…?勘弁してくださいよ」
久「それに、花なんか持って色気づいちゃって。私へのプレゼントと考えていいのかしら?」
咲「それ、近所の人にもらったらしいですよ」
久「あ、そう」
まこ「ぷっ」
久「こら」
咲「その花って何なんでしょう?見たことはありますけど」
和「よく分からないですね。私はそんなに詳しくありませんし」
和「ですが、そんな咲さんにはこの素敵な百合の花が似合うと──」
咲「優希ちゃんは分かる?」
和「ちっ……」
優希「うむ、これは新種の花に違いないじぇ。そうだ、タコス花と命名しよう」
京太郎「全然タコスに見えねえよ」
久「ふふふ、ここは私の出番のようね。それはオミナ──」
まこ「オミナエシじゃな」
久「エシ……」
咲「さすが、部長!」
優希「よっ、日本一!!」
京太郎「花に詳しい人って素敵ですよね」
まこ「おいおい、そんなに褒めても何もでんぞ…///」
久「オミナエシ……」ボソッ
京太郎「素朴ですけど、黄色くて小さな花が綺麗ですよね」
まこ「秋の七草の一つじゃな」
和「女性の一人としては、やはり花言葉が気になりますね」
咲「確かに」
まこ「すまん、さすがにそこまでは分からんのう…」
久「……」
久「くぁー!どーせ、愛だの恋だのに決まってるわよ!!まったく!」
京太郎「なんで怒るんですか…」
まぁ、花言葉なんて大体そんなもんだとは思うけど
久「あーいやだいやだ!もう少し世間様は受験生に気を使うべきだと思うのよね!」
まこ「これは、受験勉強で脳がだいぶやられてきておるようじゃな…」
久「そういうわけで、今日はもう帰るわね。おつかれさんさん、さんころり~」
久「なーんてね。若人よ頑張りたまえ。んじゃ」
バタン
「「……」」
京太郎「相変らず自由っすね」
まこ「引退して、吹っ切れた感があるな…」
和「あれ?何か忘れていったようですけど」
咲「写真だね。ああ、インターハイのときの…」
どうやら、わざと置いていったみたいだ
和「ああ、こんな写真まで…あとでデータを買う必要があるようですね」
咲「ダメに決まってるでしょ」
和「ちぇ…」
ハラリ
京太郎「あっ、何か落ちたぞ」
まこ「なんじゃろ?」
咲「ああ、これは…」
みんなで、最後に撮った集合写真だ
優希「懐かしいじぇ」
和「そうですね」
咲「この頃はまだ、和ちゃんまともだったのにね…」
まこ「そうじゃな…」
和「皆さん最近、私に対する扱い酷くないですか…」
咲「でも、こういうの見ちゃうと来年もみんなでここに行きたくなっちゃうね」
優希「うん」
和「行けますよ。私たちなら」
まこ「そうじゃな」
……
京太郎「あれっ、それって俺も入ってるの?」
咲「当たり前じゃん、何言ってるの京ちゃん」
優希「まあその前に、地区予選を突破するための地獄の練習が京太郎には必要だじぇ」
京太郎「うげぇ…」
和「まずは、基本をしっかりですね」
咲「大丈夫。私たちが教えれば、間違いなく、いやたぶん、おそらく……えーと、とにかく大丈夫だよ!」
京太郎「どんどん確率下がって行ってるんですけど、咲さん…」
まこ「ははは…」
そうか、俺もそこにいていいんだ
________
_____
__
「「おつかれさまー!!」」
京太郎「んじゃ、帰りますか」
優希「なぁーに言ってるのかな、京太郎くん」
和「今日の対局のおさらいをしましょう。正直、理解不能な打ち方してましたよ」
まこ「たしかに今日のは特に酷かったのう」
京太郎「ひぇー」
咲「うーん……みんなは先に帰っていいよ。私が見るから」
和「いや、ですけど」
優希「咲ちゃんの指導じゃ甘すぎるじぇ。もっとこう鞭で叩くような──」
咲「大丈夫、私にまかせて」
優希「うーん、咲ちゃんがそこまで言うなら…」
和「須賀くん、くれぐれも咲さんに粗相のないように」
京太郎「粗相ってなんだよ…」
まこ「分かった、じゃあ部室の鍵よろしく頼む」
京太郎「了解です」
まこ「おつかれさま」
優希「おつかれだじぇ」
和「お疲れ様です」
何か言い忘れているような…気が
『誰かが壁にならないといけないと思うんです』
京太郎「あーと、和」
和「なんですか?」
京太郎「咲のこと、いつもありがとな」
和「…なんのことだかさっぱりですね」
京太郎「すまん、俺にもよく分からん」
和「はは、なんですかそれ。ああ…なら、私からも」
和「いつもありがとうございます」
京太郎「何だそれ?」
和「私にもよく分かりません」
咲「さっきのは何だったの?」
京太郎「いや、俺にもよく分からないんだよな」
京太郎「でも、なんだか言わなきゃいけないような気がして…」
咲「変なの」
咲「変と言えば、今日の対局どうしたの?明らかにおかしかったよ」
京太郎「ええ、咲までかー。どこがおかしかったんだ?」
咲「なんでその牌切るの?、って場面が多すぎるよ」
京太郎「んー…だってなぁ。なんだか危ないな感じがして、『それはダメ』、みたいな気になるんだよ」
咲「何言ってるの?それでめちゃくちゃにされてたじゃん…」
京太郎「それはそうなんだが、おかしいなぁ」
咲「これは、優希ちゃんが言うみたいにスパルタが必要かもしれないね」ゴッ
京太郎「それだけはやめてください。死んでしまいます」
________
_____
__
京太郎「ただいまー」
母「お帰りなさい。遅かったじゃない」
京太郎「鬼教官の指導がきつくてさ」
母「何言ってるんだか」
母「あら、綺麗な花ねえ。オミナエシじゃないかしら。どうしたの、それ?」
京太郎「登校中に近所のおばさんにもらった」
母「誰から?」
京太郎「ほら、あのコンビニの角曲がったところの」
母「そうなの?後でお礼言わないとね」
京太郎「ねぇ、母さん。この花の花言葉って分かるかな?」
母「いやぁ、ちょっと分からないわね」
京太郎「そう」
母「でも、どうせ、愛だの恋だの決まってるわよ」
京太郎「うちの先輩と同じこと言ってる」
母「それは、まだ私が女子高生でも通用するくらいピチピチってことかしら?」
京太郎「何言ってんだよ…その二の腕のたるみを見てから言ってくれ」
母「ひっどーい!」
母「ねえ、お父さん。京太郎が私のこといじめるの…助けて」シクシク
父「なんだとっ、京太郎!!」
京太郎「な、なんだよ」
父「一つ良いことを教えておいてやる!」
父「母さんをいじめていいのは、この世でたった一人。俺だけだ!!」
母「あなた…」
父「おまえ…」
うげぇ…
京太郎「ごちそうさま…」
帰って早々こんなのを見せられては堪らないので、そそくさと自室に行く
制服を脱ぎ捨て、上半身裸になり、鏡の前でポーズをとる
京太郎「ふんっ!、ふんっ!!……いいじゃん」
ああ、何やってんだろ俺
花言葉か…
パソコンの電源を入れて、『オミナエシ 花言葉』でググる
瞬時に検索結果が表示される。グー○ル様様だな、本当に
上の方から、順に見ていく
『親切』、『美人』、『はかない恋』、『深い愛』、『心づくし』、……
まじで、愛だの恋だのなんだな。ていうか、多いなぁ。もう少し統一した方がいいと思うけど
というか、これ以外にもまだあるのかよ…
えーと、なになに
『約束を守る』
約束……約束か
あっ、そうだ!そういえば、隣のクラスの松井くんににDVD返すの忘れてたわ
今度ニューヨークに留学に行くらしいから早く返さないと
あれ…、それだけだったけ?もっと大事な…
京太郎「……」
母「京太郎ー!ご飯よー!降りてらっしゃーい!」
京太郎「あ、ああ。今行くよ」
_______
____
__
京太郎「母さん。そういえば、さっきの花言葉分かったよ」
母「へえ、何だって?」
京太郎「約束守れ、ってさ」
母「あら、いい言葉じゃない」
京太郎「そうだけど、当たり前のことすぎない?せっかくだから、もっとこう、捻りをね」
母「ふふ、あなたもまだまだ若いわね」
京太郎「?」
母「歳をとってくると、当たり前のことが当たり前にできなくなってくるから」
母「だから、そのことを忘れないよう、昔の人は私たちのためにそういう言葉を選んでくれたのよ」
京太郎「…ふーん」
父「うんうん、そうだぞ京太郎。約束を忘れちゃあいかん」
父「特に、結婚記念日の約束だけは覚えておいた方がいい」
京太郎「でないとどうなるの?」
父「……」ツー…
何かを悟った風な顔をしながら、親指を首に当ててゆっくりと横に引き、首を切る仕草をした
いったい何があったんだい、父さん……
母「あらあら、うふふ」
母「でもいいのよ、あなた。今まで一つだけ、それだけは守っていてくれているから」
父「はて、なんだっけ?」
母「ずっと私のこと愛してくれる、って」
父「……いやん///」
母「きゃー!!言っちゃった、言っちゃった!!」
何この夫婦…
母「京太郎、あなた何でもほどほどにこなすくせに、肝心なことはダメだったりするから」
父「麻雀とかね」
京太郎「うっせ」
母「だから、その言葉肝に銘じておくといいわ」
京太郎「うん」
母「それにね、京太郎」
京太郎「?」
人差し指を口元に持っていき、こう言った
母「約束を守れない男の子はモテないわよ」
京太郎「……」
やっぱり、女子高生でも通用するかも
──10月中旬 長野 清澄高校
担任「えー、皆もう聞いているとは思うが──」
なんだか最近ボーっとしっぱなしだ
使い古された言い方をするなら、心にぽっかり穴が空いたような感覚
表面はうまく取り繕ってはいるが、中身に何か一番大事なものが抜けているような、そんな感じだ
咲「どうしたの?」
京太郎「思い出せないことがあるんだよ」
咲「若年性アルツハイマーの気があるね。早く病院に行くのをおすすめするよ」
京太郎「おいこら」
担任「3月に予定している、修学旅行の行き先は──」
咲「うそうそ、冗談。何か悩み事でもあるの?」
京太郎「悩み事…なのか?それすら、よく分からん」
咲「ふーん」
京太郎「こう喉まで出かかってはいるんだが…」
京太郎「例えて言うなら、福神漬けのないカレーライスを食べている感覚みたいな」
咲「ごめん、私らっきょう派なんだ」
京太郎「くしゃみが出そうになるんだけど、結局出なかった時のようなやるせなさというか」
咲「あ、それは分かるかも」
担任「各班の行き先をまとめて、私に提出して──」
咲「今度の修学旅行、京都、奈良、大阪だってね」
大阪、か
京太郎「『修学』してないのに、修学旅行とはこれいかに」
咲「最近はうちみたいに、1年生の内にやっちゃうところも結構あるらしいよ」
京太郎「世も末だな」
咲「でも、京都、奈良、大阪って……ちょっと無難過ぎないかな」
咲「それに私、大阪にあまりいいイメージ持ってなくて…」
京太郎「いや、そんなことないぞ、咲」
京太郎「ミナミは確かにごちゃごちゃしたイメージがあるかもしれないが」
京太郎「活気あふれるいい街だし戎橋・道頓堀は有名だよな千日前なんて」
京太郎「道具屋筋商店街みたいなマニア心をくすぐるものもあるしそこから」
京太郎「少し下って行くと天王寺があるんだが天王寺といえばパリのエッフェル塔を」
京太郎「模した通天閣が有名だ動物園、美術館、公園もあって遊ぶのには困らないし」
京太郎「じゃりン子チエの舞台にもなっているジャンジャン横丁は今も昔も愛される」
京太郎「新世界の名物だなでも阿倍野周辺は再開発が進んでしまって」
京太郎「もうすでに魔法商店街の面影は見られないが、キューズモールやハルカス」
京太郎「ができてキタに行くまでもなくショッピングが楽しめてしまうなけどそういう」
京太郎「商業施設だけじゃなく四天王寺に行けば寺だって楽しめるし近くには大江神社っていう」
京太郎「阪神ファンの聖地ともされる場所があって──」
咲「長い」
京太郎「あ、すまん」
咲「別にいいけどね」
まだ全然言い足りないんだけど
だって、ほら。日本一小さい天保山とか奇抜な外観の海遊館とかいかにもおもしろいし
住吉大社でぶらぶらするのもいい、長居公園で朝の散歩をするのは最高だ
キタはちょっとハイソだけど、それはそれでいいものだし、梅田の地下街で迷ってみるのも一興かもしれない
京太郎「まあ、つまり、大阪はいい街なんだよ」
『せやろ!』
咲「そうなんだ。京ちゃん、もう修学旅行の下調べしてくれてたんだ」
咲「これなら、私達の班は大丈夫そうだね。ありがとう」
京太郎「あ、ああ…」
そんなことしてないような
________
_____
__
京太郎「あ~…、疲れだー」
咲「あんなんでへばってたら、インターハイなんて夢のまた夢だよ」
京太郎「へいへい」
咲「まぁ、でも、最近は前にあった変な癖も直ってきたみたいだし。そこは進歩かな?」
京太郎「へへ~、それもこれも咲様のおかげです」
咲「調子いいんだから」
時間は夕方、部活の帰り道。咲と二人
日が沈む少し前、影のできない特別な時間。マジックアワーだ
全てのものが際立って見えて、宙に浮いているような気さえしてくる
ああ、世界ってのはなんて綺麗なんだろう
咲「最近京ちゃん変わったね」
京太郎「そうか?」
咲「そうだよ」
京太郎「どんなとこが?」
咲「うーん、RPGに例えてみるとね」
京太郎「例えるなよ」
咲「前はね、小さな町の入口に立ってる村人Aで、主人公たちに『ようこそ』って言って町の案内をしてくれるんだけど」
咲「その夜町が魔物に襲われて、残念ながらあっけなく死んでしまう。そんな感じだったんだ」
京太郎「ひでぇ」
咲「でも今はね、序盤は主人公たちの親友ポジションなんだけど」
咲「中盤に裏切って、ラストバトル直前に主人公たちに戦いを挑んで儚く散っていく。そんな感じにランクアップしたよ」
京太郎「結局死ぬんじゃねえか!」
咲「途中でいなくなる奴に限って結構強キャラだから、種とか使って大事に育てたりしちゃうんだよね……嫌になっちゃうよ」
京太郎「咲に『種は全部キーファにあげるといいよ』、と笑顔でアドバイスされたことは一生忘れません」
咲「ごめんごめん。あれは若気の至りで、ついね」テヘ
京太郎「あの時の俺の気持ちを、お前に教えてやりたいよ…」
咲「最近はやたら真面目に勉強するようになったし、麻雀だって少しは上達してきてるし」
咲「なにより、うーん…性格?顔つき?うまく言えないんだけど、そう、かっこよくなったよ」
京太郎「そうか?でも、そう言われると悪い気はしない、かな…///」ポリポリ
咲「ふふ、どういたしまして」
京太郎「そういう咲だって、インターハイが終わってから変わったぞ」
咲「そう?」
京太郎「前は泣く子も黙る、カンするマシーン、清澄の白い悪魔、ってな感じだったけど」
咲「何それっ、初めて聞いたよ!?」
京太郎「初めて言ったからな」
咲「京ちゃん、私のことそんな風に見てたんだね…ひどい」ジー
京太郎「へっ、さっきのお返しだ」
咲「ふんっ!」プイッ
京太郎「すまんすまん。でも最近はほんと、楽しそうに打つようになったよな」
咲「そうかな?自分ではよく分からないけど」
京太郎「そうだな…あえて言うなら、かわいくなったよ。ほんと」
咲「何それ、落とし文句?だとしたら、20点以下の赤点だね」
京太郎「うっせー、そんなんじゃねぇよ。たくっ、正直に褒めなきゃよかったぜ…」
咲「あはは」
こんなバカみたいな会話をできることが、何よりも嬉しい
京太郎「修学旅行、楽しみだな」
咲「そうだね」
──3月下旬 大阪 修学旅行
咲「大阪っ!」
京太郎「うん、大阪だな」
俺たちの班は、大阪駅まで来ていた
咲がはしゃぐのもよく分かる。長野の片田舎に比べれば、このビル群は圧倒的だ
東京もすごかったが、ここも中々のものだ
咲「ここが大阪駅かぁ…思ってた以上に思ってた以上だよ」
「ここから少し行けば、甲子園に行けるのか…なんだか感慨深いぜ」
「ここから少し行けば、京セラドームに行けるのか…なんだか感慨深いぜ」
京太郎「お前ら何しに来たんだよ…」
咲「あっ、見て見て京ちゃん!高速道路がビルに突っ込んでる!」
京太郎「ゲートタワービルだな。大阪のスケールのでかさをよく表してるよ」
咲「そうだね」
京太郎「まあ、ほんとは土地関係でいろいろあって、あんなんになっただけらしいけど」
咲「…現実は夢がないね」
京太郎「そう言うな、咲」
京太郎「さて、とりあえ予定通り梅田駅に行こうか」
「「おおー!」」
こんなに咲さんと正妻のような会話を繰り広げてるのに何故か結ばれない気がする
不思議だ
不思議だ
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