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元スレ八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「これで最後、だね」
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もう少ししたら投下するでー
うむむ、皆運が良いなぁ……
そして今月ピンチなんだよなぁ……いやまぁ自業自得なんだけども。フィギュアーツの鎧武がカッコ良過ぎるのが悪い!
うむむ、皆運が良いなぁ……
そして今月ピンチなんだよなぁ……いやまぁ自業自得なんだけども。フィギュアーツの鎧武がカッコ良過ぎるのが悪い!
>>1 来ないな寝よ。
待ってた!
取り敢えず限度額ぎりぎりまで出ない呪いを掛けた。
取り敢えず限度額ぎりぎりまで出ない呪いを掛けた。
*
それから順調にライブは進んでいき、そろそろ終盤に差し掛かる頃。
ラストから3番目。つまり次は、渋谷凛の番である。
八幡「どうだ? まだ緊張してるか?」
舞台袖で深呼吸している凛に、それとなく聞いてみる。
ちなみに凛が来ている衣装は、以前川崎が用意してくれたものを再リメイクしたもの。黒いゴシック調のドレスが、白い肌に良く栄える。
以前は時間があまり無かったので妥協した部分を、完璧に仕上げているらしい。もう川何とかさん専属になってくれないかしら。
凛「……うん。相変わらず緊張はするけど、それ以上に楽しみかな」
そう言って微笑みを見せる辺り、精神的に成長したのが伺える。
まぁ、凛も伊達に仕事をこなしてきたわけじゃないからな。
ライブを楽しむ余裕も、今の彼女にはあるらしい。
凛「けど、愛梨の前っていうのはやっぱり少し緊張するね」
八幡「……悪いな。順番はどうしても俺がこうしたかったからよ」
凛「ううん、大丈夫。プロデューサーが、私の事信頼してくれてるって分かってるから」
そう言って、またはにかむ凛。
……いや、言ってる事は確かにその通りなんだがな。そう真っ正面から言われると、正直むず痒くて堪らん。
俺が思わず目を背けると、そこで二人の人物が目に入った。
十時愛梨と、そのプロデューサーだ。
モバP「愛梨、大丈夫か? ちゃんと準備出来たか?」
愛梨「もう、大丈夫ですよプロデューサーさん! 子供じゃないんですからっ!」
モバP「そんな事言って、この間だって衣装のボタン、か、かけ忘れてたじゃないか」カァァ
愛梨「あぅ……すいません。………でも、プロデューサーさんにだったら、別に見られても…」
モバP「あ、愛梨っ!?」
…………………。
八幡「…………」
凛「ぷ、プロデューサー? どうかしたの?」
八幡「……俺、今ならカメハメ波打てるわ」
凛「急に何!?」
凛のツッコミも、今は耳に入らない。
え、なんなのあれ。
トップ(に近い)アイドルとそのプロデューサーともなると、あんなリア充みたいなやり取りすんの? あんなイチャコラ空間を常時発生したりすんの? 何それうらy……恨めしい。
俺がいつも以上に腐った目で睨んでいると、十時のプロデューサーがこちらに気付いたのか、咳払いをして歩いてくる。その顔はまだ若干赤い。
モバP「えっと、今日はライブに誘って下さってありがとうございました。次、出番ですよね。頑張ってください」キラキラ
な、なんだこの爽やかオーラは……!?
俺の腐った目じゃ直視出来ない程の光を放っておる。この感じ、思わず葉山を思い出す。
……なるほど、このプロデューサーあってあのアイドルありってか。プロデューサーもイケメンとか反則だろ。
凛「はい。こちらこそ光栄です。今日はよろしくお願いしますね」
俺がキラキラオーラに困惑していると、隣の凛が笑顔で応える。
……なんか、心なしか凛の表情までキラキラして見える。あれか、やっぱ爽やかイケメンが良いのか。風早くんなのか? この間のアレは伏線だったのか!?
しかし、端から見ても美男美女の取り合わせだな。そしてその光景を見ていると……
凛「? どうかした? プロデューサー」
八幡「……なんでもねぇよ」
……何故かは知らんが、その光景を見ているとあまり良い気がしなかった。
お互い笑顔で話しているその様子には、苛立ちすら感じてしまう。本当に何故かは知らんが。
なんとなくそのまま見ているのも面白くないので、俺は凛に少し被るように前へ出る。
八幡「急にライブの申し出なんてしてすいませんでしたね。そちらも忙しかったでしょうに」
自分でも不思議になるくらい嫌味な言い方である。
しかし、それでも目の前の爽やかイケメンは笑ってみせた。
モバP「いえいえ。アニバーサリーライブ前にこうして経験を得られるのは、とても良い機会です。本当に感謝しています」キラキラ
八幡「そ、そうっすか」
モバP「それにこんな忙しい時期にライブを企画出来るなんて、比企谷さんの敏腕ぶりには目を見張るばかりですよ」キラキラキラ
八幡「ど、ドーモ」
モバP「僕なんかよりずっとお若いのに、頭が下がります」キラキラキラキラ
八幡「うごごご……」
だ、ダメだ……人間的に勝てる気がしない……
なんなの? このさっきから見える星は。ホントにプロデューサー版葉山みたいな奴だ。
モバP「…………」
八幡「?」
しかし、さっきまで爽やかな笑みを浮かべていた十時のプロデューサーは、一転表情を曇らせる。
まるで、何か不安にかられているように。
モバP「……神崎さんの件、本当に実行に移すおつもりですか?」
八幡「……ええ」
沈痛な面持ちで切り出したのは、蘭子について。
なるほどな。危惧しているのはその事か。
確かに、ライブの都合上十時たちには仕込みの内容をある程度話してある。
その上で、本当に成功するのか心配しているのだろう。
モバP「正直、僕は神崎さんの件に関してはあまり肯定的ではありません」
愛梨「ぷ、プロデューサーさんっ!」
真剣な表情で言葉を口にし、思わず遮ろうとする十時を手で制する。
モバP「アニバーサリーライブも目前という今の時期、ミニライブとは言え新人のアイドルにトリを任せる。正直、自殺行為です。彼女は、一度もライブを経験した事が無いんでしょう?」
八幡「……」
モバP「もしも失敗したら……下手をすれば、プロダクションの評価まで下げかねない。そして、それで一番傷つくのは彼女なんじゃないですか? 自分だけでなく、他の人にまで迷惑をかけたとなれば、本当に立ち上がれなくなるかもしれません」
八幡「……」
モバP「あなたは、それで責任を取れるんですか?」
真っ直ぐな目で、射抜くように俺を見る。
その言葉は、一言一言がまるで刃のように、俺の胸へと突き刺さる。
正論だ。彼の言った事全てが、紛う事無き正論である。
彼は言っているのだ。ここは意地を張らずに、引くべきだったと。
ここは涙を飲んで引いて、また別の機会で挑戦するべきだったと。
今回のアニバーサリーライブは無理でも、それからもチャンスは幾らでもある。
ゆっくりと力を付けていって、地道に経験を積んでいけば、成功できるだけの力が蘭子にはある。
彼は、そう言っているんだ。
それは、否定のしようもない正論。俺だってそう思う。
だから、
だからーー
八幡「だから、それがどうした?」
モバP「ッ!」
八幡「責任なんていくらでもとってやるよ。俺が本気になりゃ、土下座も靴舐めも余裕だ」
俺が放った言葉に、彼も、十時も目を見開いて驚いている。
チラッと横目で見ると、凛は呆れたように笑っていた。
きっと、内心『本気の方向を間違えてるよ』とか思っているのだろう。
八幡「確かに本当にあいつの事を考えるなら、ここは無茶をするべきじゃなかっただろうな。手堅く、別の機会を狙うのが定石だ」
モバP「なら、なんで…!」
食い下がるように言う十時のプロデューサーに、俺は尚も落ち着いたまま言葉を吐く。
八幡「それでも、俺が無茶したかったんだよ」
モバP「は?」
八幡「俺だけじゃない。あいつも、蘭子もやりたかったんだ。……なら、やるしかねぇだろ」
思い出されるのは、始めて蘭子に会った時の、彼女の言葉。
『だから私は、もう自分に嘘をつきたくない……これが、私だから』
八幡「次の機会でも、その内でもない。“今”あいつは、自分を貫こうとしてんだ」
モバP「……」
八幡「そんで、俺もをそれを手伝いたい。……なら、あとはやるのがプロデューサーなんじゃねぇの」
俺の言葉に、彼はもう何も言わなかった。
きっと、ただの精神論なんだろう。
十時のプロデューサーの言った事が大人の正論なら、俺のは、ただのガキの我が侭だ。
けど、それでもやりたい。
俺もアイツも、そう思っているんだ。
モバP「……そうですか。なら、僕はもう何も言いません」
八幡「……」
モバP「でも、もしも僕があなたの立場でも、きっと僕は僕の決断をしたでしょう」
そう言って、彼は悲し気に笑った。
彼も、きっと俺たちの事を心配しているからこそ、さっきのような事を言ったのだろう。
俺たちの身を案じてくれる、本当に良い人。
だがーー
八幡「……それでも、葉山には敵わなかったな」ボソッ
あいつなら、たとえ方法が浮かばなくても、解決に導けずとも。
無茶も先延ばしもせず、最後まで諦めずに解決を目指しただろう。
愚かで馬鹿正直な、ホントに本当の、お人好しだ。
モバP「え?」
八幡「いえ、なんでも」
我ながら、らしくもない阿呆な考えに苦笑が漏れる。
海老名さんに察知される前に、余計な思念を振り払った。
十時とプロデューサーは最後の調整か、隅の方へ向かい何やら打ち合わせを始める。
さっきまでと違い真剣な表情を見せる十時は、やはり本物のアイドルを感じさせた。
ふとステージを見ると、もう曲が終わりに近づいている。
そろそろ、凛の出番だな。
凛「ふふ……」
八幡「…………なに笑ってんだ」
さっきまで緊張していたと言うのに、今では笑う余裕があるらしい。
ワーナンデダロウネー、敏腕プロデューサーデモ居ルノカナー。
凛「ホント、プロデューサーは腐った目の割に、よく見てるよね」
八幡「おい。それもう褒めてないからな。悪口の方が勝ってるからな」
俺がそう言うと、またクスクスと笑う。
そして少しだけ考える素振りをした後、頬を少しだけ染めて口を尖らせつつ言ってくる。
凛「今回は蘭子のプロデュースの為のライブだし、そっちにかまけちゃうのも分かるけど……」
八幡「……けど?」
凛「ちゃんと、私の事も見ててよ」
そう言うと、一転して凛は不適に笑った。
……なんか妙に余裕があるせいか、小悪魔みたいな印象を抱かせるな。
思わず、目を反らす。
八幡「わぁってるよ。最近蘭子に付きっきりだったが、それはまた今度埋め合わせすっから」
凛「えっ、本当に?」
と、何故か驚いたように聞き返してくる凛。
あっるぇー、こういう反応を期待してたんじゃなかったの?
八幡、不覚をとる。
八幡「ホントだホント。ハニトーでもなんでも奢って…………あ」
そして、何故かいらん事まで思い出す。
……っべーなぁ、完全に忘れてた。つーか、よく考えたら美嘉のサインも忘れてた。
凛「? どうしたの?」
八幡「いやなんでもない。ごめんねガハマさんってだけだ」
今度、なんとか暇を作ってお返ししとこう。
たぶん、美嘉もサインくらいなら快く書いてくれそうだし。つーかこの際、直接紹介してやった方が喜ぶんじゃね?
八幡「ま、なんか埋め合わせは考えとくから、期待せずに待ってろ」
凛「ふーん……まぁ、そう言うなら期待して待ってるよ」
この子、人話聞いてた?
俺がジト目で睨んでいると、そこで前の曲が終わる。
いくつかのトークを終え、やがてかかり始める曲。
“Never say never”
いよいよ、凛の番だ。
凛「じゃあ、行ってくるね」
八幡「おう。行ってこい」
軽く手を挙げる凛に、こちらも手を掲げ、打ち合う。
ハイターッチもちょっとやってみたかったが、たぶんお互い恥ずかしいから無理だな。やよいちゃんとやりたかったなぁ!
そしてステージへと向かっていく凛の背中を、ただ、信じて見送った。
……さて、俺もそろそろ準備に取りかかりますか。
そして今気付いたが、よく見れば十時とそのプロデューサーもいなくなっている。
そういや、あいつらは逆の舞台袖から出る手筈だったな。
こっちに来たのは、俺たちへの挨拶の為だったらしい。
八幡「とりあえず、蘭子を呼ばねぇと…」
「っ!」ビクッ
八幡「……」
呼ぶ必要なんて無かった。
物音のした方を見てみれば、カーテンに包まった謎の人物が。
というか蘭子だった。
八幡「おい。何隠れてんだ」
蘭子「うぅ……だって……」
カーテンから、ひょっこりと顔を出す蘭子。
その様は大変可愛らしいが、何処か既視感を覚える。ああ、輝子だ。そういやこんな事してたわ。
八幡「なんだ、緊張でもしてんのか?」
蘭子「う、うん……」
というか、さっきから素が出まくりの蘭子だった。
これから本番だってのに、そんなんで大丈夫なのだろうか。
八幡「はぁ……ほら、こっから見てみろ」
軽く溜め息を吐き、蘭子を手招く。
逡巡した後、おずおずとカーテンから出て寄ってくる蘭子。
その格好は……いや、やめとこう。楽しみが半減する。
蘭子が俺の横まで来ると、その表情は、一変した。
大きく目を見開き。
頬を紅潮させ。
口から、言葉に出来ない吐息を漏らす。
そしてその気持ちは、俺にも分かる。
色とりどりに光る、波のようなサイリウム。
ここまで伝わってくる、観客席の熱気。
見るものと聴くもの全てを魅了する、歌姫。
その景色は、何度見ても、目を奪われて仕方がない。
食い入るように見つめる蘭子の瞳は、キラキラと輝いていた。
まるで、舞踏会を夢見るシンデレラのように。
やがて、彼女は恍惚とした表情で呟いた。
蘭子「すごい……さすがは蒼き乙女…凛ちゃん…!」
すごい、聞いただけなのに漢字が分かる。青じゃなくて蒼なのね。
蘭子の凛を見る目は、まさに憧れのそれだった。
蘭子「凛ちゃん、カッコイイから憧れるな~。私もカッコよく…」
八幡「いや無理だと思う」
蘭子「はうぁっ!」グサァッ
思わず出てしまった本音に、ショックを受けたように胸を抑える蘭子。
しまった。言葉を抑え切れなかった。ほら、俺って正直者だから。
八幡「つーかなに、お前って凛のファンなの?」
蘭子「うう……前にテレビで見て、それからずっとファンだもん。……まさか実際に会うとは思わなかったけど」
テレビってーと、あん時の生放送か。
確かに、あの時の凛は憧れを抱くには充分な姿だった。
765勢にも負けない、紛う事無きアイドル。
そして蘭子の言葉聞いて、気付く。
凛ももう、誰かに憧れられるような存在になったのだと。
実際、プロデューサーとしてそれは本当に嬉しい。
凛も、今の話を聞いたら顔を真っ赤にして照れるだろうな。
蘭子「……私も、凛ちゃんみたいになれるかな」
見ると、今度は真剣な表情で、俯きがちに言う蘭子。
だから、俺はまたこう言ってやる。
八幡「なれるかよ。どう足掻いたって、お前は凛にはなれない」
誰かの背中を見たって、誰かの後を追いかけたって。
その人には、絶対なれない。だからーー
八幡「だから……お前はお前になれ。蘭子」
蘭子「っ!」
凛でも、十時でも、ましてや“普通の”アイドルでもない。
八幡「全身全霊全力で、自分になれ。それが例え、中二病でもな」
中二病で、ちょっと痛くて、ちょっと頭の悪い、可愛らしい女の子。
それが、他の誰でもない、神崎蘭子だ。
蘭子「……それでもし、受け入れられなかったら? 後ろ指をさされたら?」
八幡「そうならない為の今日の作戦だろうが。それに、別に後ろ指指されたっていいだろ。そいつより前に進んでんだからよ」
蘭子「……なんか、どこかで聞いた事あるような台詞」
ほっとけ。言っとくがパクリじゃないぞ。今の時代、オマージュとかパロディとか言ってりゃなんとかなる。ソースはラノベ。
蘭子「……じゃあ、プロデューサーは?」
八幡「あ?」
その言葉に、思わず聞き返す。
蘭子は少しだけ顔を赤くして、上目遣いで聞いてきた。(悶え)殺す気か。
蘭子「プロデューサーは、私の事を受け入れてくれる?」
何かと思えば、聞いてきたのはそんな事。
一体、何を今更。この俺を誰だと思っている。
八幡「ハッ、本気で訊いてんのか?」
蘭子「っ!」
八幡「同じ“瞳”を持つ者同士、だろう?何を今更言っている」ニヤリ
ちょっとだけポーズを付けて言ってみた。何これ死にたい。
恥ずかし過ぎて頬が痙攣しているのが自分で良く分かる。やべぇな、ブランクがあるとは言えこんなにハズイのか……
蘭子「~~っ!」パァァ
しかし蘭子には好評のようだった。
はは、その目映い笑顔が見れただけでやった甲斐があるよ。二度とやらないけどね!
と、ここで歓声が沸き起こる。
凛の曲が終わったのだ。
この次は十時の番。正直、今回これを目当てに来てる客は多い。
だがだからこそ、そいつらの度肝を抜く。
こいつの、とっておきの武器でな。
八幡「……さて、そろそろ俺らも準備に取りかかりますかね」
蘭子「うむ……今宵も血が疼く……」
そして、中二モードへと移行する蘭子。
心なし、その表情はいつもよりノリノリだ。
俺の眼前へ、ゆっくりと手を差し出す。
蘭子「さぁ、我が舞台の幕開けだ。……その能力、私に捧げてくれるか? 眷属よ」
八幡「……ハァ、仰せのままに。シンデレラ」
俺は恭しく、その小さな手を取った。
*
ざわざわ
「愛梨ちゃん凄かったね~」
「ああ。確かに凄かった(バストが)」
「最後を締めるに相応しい歌だっだな!」
「あれ、でもまだ閉演時間まで少しあるね」
「アンコール分じゃね?」
「っ! おい! 幕が上がるぞ!」
「ん? あれは……」
蘭子「……」
ざわざわ
「な、なんだあの子。お前知ってる?」
「いや、初めて見るな。結構可愛いし、新人のアイドルじゃないか?」
「でもあんで黒いローブなんて纏って……」
「お、曲が始まった」
蘭子『ーー言ノ葉は 月のしずくの恋文 哀しみは 泡沫の夢幻』
「ん? この曲って……」
「ああ。確か、『黄泉がえり』の主題歌だったよな。懐かしいな」
蘭子『匂艶は 愛をささやく吐息 戦 災う声は 蝉時雨の風』
「奇麗な声……」
「スポットライトが一筋だけ当たってて、なんか幻想的……」
蘭子『時間の果てで 冷めゆく愛の温度 過ぎし儚き 思い出を照らしてゆく』
「……」
「……」
「……」
蘭子『「逢いたい…」と思う気持ちは そっと 今、願いになる 哀しみを月のしずくが 今日もまた濡らしてゆく』
「……」
「……」
「……」
「……」
蘭子『下弦の月が 謳う 永遠に続く愛を…』
「……ぉおお!」
「す、すげー! 俺感動しちゃったよ!」
ワーワー
蘭子「…………クク…」
「ん? 今お前笑った?」
「は? 何が?」
蘭子「ククク………フゥーーーハッハッハッハッハ!!!!」
「「「ッ!??」」」
ざわざわ
蘭子「ようこそ同胞たちよ……我が聖域へ」
「同、胞?」
「聖、域?」
蘭子「我が名は、魔王…神崎蘭子! 今宵の宴は、我が魂の慟哭で締めくくろう!!」バサァッ
「おおう!?」
「ローブを脱いだ!?」
「黒いドレスに、悪魔の翼!?」
「意外におっぱいある!!」
蘭子「フフ……どうだ? 私の妖艶なる魔力に当てられ、声も出せまい」
「(めっちゃ客席がザワザワ声出してる件)」
「コスプレ……?」
「僕はアリですね」
蘭子「さて、下僕を待たせるのも気が引けよう……闇の祝詞を今……!」
???「待たれよォオッ!!!!」
蘭子「ッ!? 何奴!?」バッ
「え? え?」
「何、今度は何だ!?」
???「けぷこんけぷこん! 何処の誰かと訊かれれば、答えてやるのが世の情け……」
蘭子「!?」
???「悪を切り、善と茄子! 世直し侍とは我の事! 剣豪将軍んんん……義輝ゥウッ!!!!」ババーン!!
「いや誰よ」
「(なんか始まった……)」
「…………アリ、だな」
「嘘ぉ!?」
蘭子「剣豪将軍……! また我が路の邪魔をするか、人間風情がッ!」
材木座「フハハハハ! その人間風情に、遅れを取ったのは何処の誰だと言うのだ?」
蘭子「クッ、あの時の雷神が如き早業、忘れておらぬぞ……!」
「いったい何の話をしてるんだ……」
「とりあえず、楽しそうなのは伝わってくる」
※ファミレスの時の事です。
蘭子「フン、我が同胞たちとの祝宴を邪魔するのだと言うなら、容赦はせぬぞ」
材木座「ククク、そう焦るでない。何も我は、貴様の邪魔をする気などは毛頭ない。むしろ一つ、手助けをしてやろう」
蘭子「そうか、ならば決着を……え? あれ? 台h、じゃなくて魔導書と違…」
材木座「これも我が相棒、“瀕死の魔眼”を持つ男との契約よ。悪く思うな」
蘭子「え? え?」
「なんだ? 魔王の方がなんか慌ててるぞ」
「トラブルか?」
「(瀕死の魔眼て……殺せはしないんだ)」
材木座「貴様に、これから一つの魔法をかける!」
蘭子「ま、魔法だと? 私は堕天の魔王! そんなものは効かn…」
材木座「ええい、そこは効く事にしておけい! 話が進まん!」
「言ってはいけない事を言っちゃってる気がする」
「デレプロって劇団とかもやってたんだっけ?」
「(剣豪将軍なのに魔法を使うのか……)」
材木座「そしてその魔法が……くぉれだぁ!!」スイッチポチィィッ!
「な!? ステージの壁にライトが…」
「いや違う。あれはプロジェクターで投影してるんだ。文字が出てきた」
「『演技無しで自己紹介』……?」
蘭子「え!? え、演技無しって、それってつまり……」
材木座「ほーうれ、もう既に魔法は発動しておる。早く自己紹介するのだな!」
蘭子「くっ……!」プルプル
「すげー目が泳いでるぞ」
「あ、深呼吸してる」
「んで、こっちに向き直ったな」
蘭子「………………えっと、か、神崎、蘭子です」カァァ
「ぐぁああっ!!」 ずぎゅうぅぅんん!!!
「だ、大丈夫か!?」
蘭子「え、A型の牡羊座で、14歳の中学二年生です……」
「あ、あのおっぱいで!?」
「現役の中二病かー」
蘭子「あとは、えっとえっと…………あ、趣味は、絵を描くこと、かな♪」テレッ
「ぐおぉぉぉあああ!!?」 ずばぁぁああんん!!!!
「し、しっかりしろぉぉぉおおおおお!!」
「蘭子、恐ろしい子……!」
「スリーサイズはーーッ!?」くわっ
蘭子「ふぇっ!? す、すりーさいずって……あ、も、もう魔法は無効化! 魔王復活!」カァァァ
「「「(天使か……)」」」
材木座「フッ、仕方が無い。今回はこれで勘弁してやろう」
蘭子「お、おのれ剣豪将軍……!」
材木座「さらばだ、シンデレラ! ハーハッハッハ!!」ばばっ
「あ、去っていった」
「(結局何がしたかったんだろう……)」
蘭子「クッ、奴の魔法にかかれば、魔王も一人のシンデレラという事か……」
「(あれ、なんかまとめにかかってる?)」
蘭子「……だが、これで終わりだと思うなよ? 下僕たちよ」
「へ?」
「なに、まだなんかあんの?」
ざわざわ
蘭子「シンデレラとは、“灰かぶり姫”の意。普段は日陰で過ごし、灰をかぶり、ただ淑やかに過ごす。……だが今夜は違う」
「っ! なんだ? 音楽が…」
蘭子「今宵ばかりは、月の光を浴び、輝きを放ち、祝宴の舞台へと駆け上らん! そして今一度己へと問いただせ! 私たちの名の意味を!」
「私“たち”?」
「名前ったら、やっぱ……」
「……『シンデレラプロダクション』」
蘭子「そうーーーー集え! “シンデレラガールズ”よ!!」
『お願い! シンデレラ 夢は夢で終われないーー♪』
「おおお!? 愛梨ちゃんに凛ちゃん!?」
「城ヶ崎姉妹キターーー!!」
「なるほどね、デレプロ総出演のアンコール、か」
『動き始めてる 輝く日のためにーーーー♪』
ーーワァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!
ーーーーー
ーーー
ー
*
八幡「……なんとか上手く、いったか?」
ステージで歌うアイドルたちを見て、ようやく安心する。
……あの観客の様子を見る限り、心配は無さそうだな。
結局の所、今回やった事はただ“蘭子は可愛い”という事を知ってもらっただけだ。
中二病でも、彼女は確かに可愛くて。
中二病でも、カッコ良く歌を歌える。
それを伝えるには、やっぱド直球に行く他ない。
もちろん、色々と手を回させて貰ったがな。
劇団風にする事で、中二病を演技派のように感じさせたり、途中に素の状態を出す事で、本来の可愛さ+ギャップ萌えも狙う。
やっぱ蘭子の本領を発揮するには、ステージが一番望ましいな。あいつの存在感は、舞台に良く栄える。
中二病がカッコイイという事を教えてやるとか言っておいて、ギャグ路線に走った事は多少罪悪感に駆られるが、まぁ勘弁してくれ。
最初の蘭子のソロ。あれだけで、充分に観客の心を掴んでいたしな。
そんでもう一つ。今回の作戦の立役者。
八幡「やみのま。材木座」
材木座「ふ、ふふふ。緊張のあまり、未だに膝の震えが止まらんぞ八幡……!」
中二病の大先輩。材木座義輝。
こいつがいなければ、ああも上手くはいかなかっただろうな。
ただそれだけに……
八幡「……悪かったな。嫌な役押し付けて」
実際悪役というわけではないが、材木座に任せたものは、あまり良い役割ではなかった。
要は、中二病は恥ずかしい。でも、隣にもっと恥ずかしい奴がいればマシに見える。そういう意図だ。
レベル的には大差無いが、見た目から鑑みれば差は一目瞭然。美少女とガタイの良い野郎だったら、誰だって美少女の方が良く見える。
つまり同じ中二病の材木座を隣に据える事で、相対的に蘭子の印象を緩和させたという事だ。
無意識的にではあるが、観客にもある程度の効果は見込めただろう。
だからそれだけに、この役目はあまり良いものとは言えない。
材木座「ふっ、らしくないではないか八幡よ。おぬしならこれくらい、むしろやらせて貰えただけ感謝しろと宣う所だろう。気にするな」
八幡「そっか。じゃあ気にしねぇわ」
材木座「ね、ねぇ。もちょっと気にしてもいいんだよ? 我頑張ったよ?」
どっちなんだよ。
やっぱ蘭子と違って、こいつは素に戻っても別に可愛くない。ただ、中二病モードでもそれはそれで面倒くさい。どっちにしろだった。
八幡「けど、なんで自分から引き受けたんだ? お前にゃ何の特もねぇだろう」
当初、材木座の役は俺がやるつもりだった。
別に一発屋の仕事だ。中二病じゃなくても、演技をすればどうとでもなる。そういう意味では誰もよかったのだ。
だが、打ち合わせの際に作戦を話した時、材木座は自分から引き受けた。
確かにそちらの方がリアル感も出るので、俺としては断る理由が無いので承諾したが、未だに理由は分からないままだった。
材木座「うむ。まぁ、軽い恩返しのようなものよ。いや、自分へのけじめとも言えるな」
八幡「は?」
なんのこっちゃと訝しげな目線を送っていると、材木座は笑って言った。
材木座「『周りの目ェ見て、周りの顔色伺って、その上好きなものまで犠牲にして、そんなのは……俺は真っ平だ』……この台詞、覚えているか?」
八幡「……あーなんか専業主夫志望の超絶イケメンが昔言ってた気がするな」
材木座「いやあなたですしおすし」
うるせぇな。ちょっと恥ずかしいんだよ。
確かに、そんな風な事を言った覚えはある。
というより、そんな事をちゃんと覚えていた材木座に正直驚いた。
材木座「別に見習おうというわけではない。ただ……我も、好きな物を好きなようにやろうと思ったのだ」
そう言って、材木座は笑った。
こいつも、こいつなりに考えたのだろう。
その結果、今回のこの役目を引き受けてくれた。
一体なんなんだろうね。中二病の奴らってのは。
揃いも揃って、カッケェじゃねぇか。
八幡「……膝震わしながら言っても、全然カッコ良くないぞ」
材木座「は、ハチえも~ん! 震え止める道具出して~」
その後は彼女らのライブが終わるまで、仕方ないので歩けない材木座に付き合ってダベっていた。
……まさか、由比ヶ浜や凛に加えて、材木座にまでお返しを考えなきゃならなくなるとは。
ホント、プロデューサーってのは大変だ。
*
その後、ミニライブのおかげで蘭子は無事に会社側の許しを得る事が出来た。
なんせ、あれだけ話題になったからな。ネットでも評判だ。
『史上初! 中二病アイドル神崎蘭子!!』
その人気を見れば、アニバーサリーライブへの出演を拒む理由は何も無いだろう。
これでめでたく、認めさせる事が出来たわけだ。
雪ノ下『そう。それは良かったわね』
八幡「ああ。これでようやく一息つける」
電話越しからは、雪ノ下の薄く笑ったような吐息が聞こえて来る。
この間の報告後、少なからず気にかかってはいたようだ。
雪ノ下『けれど、そのアニバーサリーライブまでそう日も無いのでしょう? あまり悠長にはしていられないのはないかしら』
八幡「まぁな。けど、何とかなるだろ。凛だってもう素人じゃない」
雪ノ下『信頼されてるのね、彼女は』クスッ
八幡「……悪いかよ」
と、ここで受話器越しに由比ヶ浜の声が若干聞こえてくる。「まだー?」とか「何の話してるのー?」とか。
雪ノ下の番号を俺は知らないので、今は由比ヶ浜のケータイを雪ノ下が借りる事で電話していたからな。大分面倒だ。
雪ノ下『もう終わるわ。……ごめんなさい。由比ヶ浜さんが急かすのでもう切るわね』
八幡「おう。こっちこそ悪かったな。一応報告しときたくてよ。しばらくそっちに行けないかもしんねぇし」
雪ノ下『そう。……比企谷くん、最後に一ついいかしら?』
八幡「なんだ?」
雪ノ下『この間も訊いた質問よ。……あなたは、誰かに認められたいと思う?』
この間。
本屋の前で偶然会い、話をした時に訊かれた質問。
俺はその時、愚問だと言った。
だから、答えは前と同じだ。
八幡「別に、認められなくたって関係ねぇよ。俺は俺を認めてるからな」
前と同じように、皮肉たっぷりに笑って言ってやった。
雪ノ下『そう。けれどね比企谷くん』
八幡「ん?」
それに対し、雪ノ下も同じように呆れて笑って、
雪ノ下「……あなたの事を認めてる人は、きっと……いえ、沢山いると、私は思うわ」
前回とは違う、穏やかな声音でそう言った。
そして「私がそうとは言わないけれどね」と最後に付け足して、雪ノ下は電話を切った。
八幡「……最後のは余計だろーが」
俺は思わず苦笑を漏らし、電話をしまし立ち上がる。
いつまでも、会社にいるわけにもいかない。
この後、ミニライブの打ち上げが行われる事になっている。
俺も早く会場へ向かわなければ、また凛に怒られてしまう。
八幡「っと、そういやライブん時の写真出来てたな」
会社を出る前に、机の上の封筒を手に取る。
中には、ライブ風景の写真。
凛はもちろん、十時に、蘭子も写っている。
観客と一緒に、笑顔を振りまいて。
八幡「……認められる、か」
何の根拠も無いが、そう言われると、確かに嬉しいと感じてしまう自分がいる。
恐らくは蘭子も、同じ気持ちなのだろう。いやきっと、俺以上に。
最後の写真を手に取る。
そこには、アイドルたちも、観客も、皆一緒にポーズを取っていた。
それを見て、思わず笑いが零れる。
それは、決して嫌な笑いではなかった。
少年や少女のように、憧れて、夢中になって、好きな物にはまり込む。
まるでそれは、病のように。
あるいは、恋に焦がれるように。
けれどーー
八幡「……やっぱり」
中二病は、恥ずかしい。
というわけで、蘭子編完結です! 途中空いたり、展開が駆け足だったりで色々と反省。
あの時ヒッキーの言葉に勇気を貰ったのは、蘭子だけじゃないよというお話でした。
次回からはいよいよクライマックスに向けていきます。絶対に完結させるんで、感想等よろしくお願いします!
あの時ヒッキーの言葉に勇気を貰ったのは、蘭子だけじゃないよというお話でした。
次回からはいよいよクライマックスに向けていきます。絶対に完結させるんで、感想等よろしくお願いします!
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