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元スレ八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「これで最後、だね」
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>>850
その1から ね
その1から ね
お前らは画面の向こうのアイドルと妄想恋愛してんだろ
キモいお前らでさえも恋愛したいなら顔が整ってるアイドルはより一層するだろっつー話じゃね
キモいお前らでさえも恋愛したいなら顔が整ってるアイドルはより一層するだろっつー話じゃね
乙!
奈緒と同じ学校の生徒だからそれを理由にしたらいかんのかね・・・
仕事で大チョンボした身としては胃に来るな
奈緒と同じ学校の生徒だからそれを理由にしたらいかんのかね・・・
仕事で大チョンボした身としては胃に来るな
奉仕部はじめ親八幡派の面々が、一丸となって悪評をひっくり返してくれると信じる!!
頼むから圧倒的ハッピーエンドで終わってくれ…!これで大団円じゃなかったら八幡も凛も報われなさすぎる…!
頼むから圧倒的ハッピーエンドで終わってくれ…!これで大団円じゃなかったら八幡も凛も報われなさすぎる…!
そういえばヒッキーのハッピーバースデイだな。シリアスはポーイで祝わないとね
今夜投下予定です。
そしてヒッキー誕生日おめでとう!
俺の中でやっぱりヒッキーが友達になりたいキャラNo.1です。
そしてヒッキー誕生日おめでとう!
俺の中でやっぱりヒッキーが友達になりたいキャラNo.1です。
頼むからハッピーエンドで終わってくれぇ…!この展開はもう胃に来てっ…
*
酷く、喉が乾く。
やけに胸の奥の辺りが気持ち悪いし、頭が痛い気もする。
ただ立っているだけの事が、辛い。
出来る事なら、今すぐにでもベッドに倒れ込みたいくらいだった。
だが、ここは俺の部屋ではないし、そんな事をしていられる余裕もない。
取り返しのつかない事を、してしまったから。
今目の前に座っている一人の男。
俺をこの業界へと誘った張本人。
彼がいなければ、俺はプロデューサーになる事はなかった。
そして凛に出会う事も、なかった。
シンデレラプロダクション社長。
未だ静かに座る彼は、意を決したかのように、俺に向かってこう言った。
社長「……何か、申し開きはあるかね?」
重く、静かに耳へと届く言葉。
俺は、何と答えればいい?
八幡「……」
……言える事など、ない。
口を開いてしまえば、情けない言い訳をべらべらと喋ってしまいそうだったから。
まともな答えを返す事が、出来ない。
口を鎖し、奥歯を噛み締める事しか、出来なかった。
社長「……キミも、まだ心の整理が出来ていないだろう」
酷く悲しそうな顔で、話す社長。
社長「キミがあの週刊誌の通りのような人間でない事は、私は理解している。だが、アイドルを自宅に招き、それを目撃されたのも事実……」
辛い選択をするように、言葉を言い淀む。
やがて社長は俺の方を見据え、ハッキリと言った。
社長「……比企谷くん。キミはしばらく、自宅謹慎だ」
八幡「ッ!」
社長「渋谷くんにも動揺の処置を取る。しばらくは会う事も禁止だ。キミ達の処分は上層部で取り決め次第追って連絡するから、それまでは待機していてくれ」
自宅…謹慎……?
俺が驚きを隠せずにいると、社長は尚も続ける。
社長「安心したまえ、決して悪い結果にはならないよう尽力する。所詮は週刊誌のゴシップ記事。ほとぼりも冷めれば、また仕事を始められるだろう。まぁ一応責任を取るという形で謹慎はしてもらうがね」
そう言う社長の言葉を、正直俺は信じられずにいた。
てっきり俺は、
クビを切られると。
本気でそう、思っていた。
八幡「……何でですか?」
社長「……それは、どういう意味だね?」
気付けば、言葉が口から出ていた。
八幡「いくら結果をそれなりに出していたとしても、所詮は一般応募のプロデューサーですよ? 正式な社員じゃない。俺の代わりなんて、それこそ掃いて捨てる程いるはずだ」
プロデューサー大作戦という企画に、一体どれだけの人材が募ったか。
その中には、俺よりも優秀な奴などいくらでもいるだろう。
八幡「はっきり言って、クビにされない方が不思議なくらいです。俺なんかは切り捨てて、新しいプロデューサーを凛につけた方がいい」
社長「……」
俺の言葉を、社長は黙って聞いている。
俺の言っている事は、正しいはずだ。だからこそ社長の決断が分からない。
俺なんかはさっさとクビにてして……
クビに、して……
……違う。
違うだろ。
俺が言いたい事は、そんな事じゃない。
クビにしてほしいわけが、ない。
……けど、
そう言わなくちゃ、いけないんだ。
俺は、責任を取らないと。
社長「……比企谷くん」
気付ば、俺は顔を俯かせていた。
言葉をかけられ、顔を上げる。
社長は、薄く微笑んでいた。
社長「キミをここに呼ぶ前に、実は他のプロデューサーと少し話をしていてね」
八幡「他の、プロデューサー?」
社長「ああ。前川くんと新田くんのプロデューサーだよ」
前川と新田のプロデューサー。
一般Pの中では、珍しくも俺とまともに関わりがあった二人。
その二人が、社長と何を……?
社長「開口一番、怒鳴られたよ。『アイツはあんな事をするような奴じゃない』とね」
八幡「ッ!」
あの二人が?
俺を、庇って……
社長「私も一緒だよ」
社長は椅子から立ち上がると、俺の前へと歩み寄ってくる。
社長「あれだけのアイドルを笑顔に出来るキミが、こんなくだらない事でクビになる必要はない。……それが、アイドルプロダクションの社長をやっている私の決断だ」
八幡「……」
社長「甘い考えだと社員たちには怒られてしまうかもしれんがね。生憎とこれが私なんだ」
苦笑しつつ、彼は俺へとそう言ってくれる。
その言葉には優しさが含まれているのを、今の俺はかろうじて感じ取れた。
ホントに、本当に、甘い。
社長「今日はもう帰りなさい。親御さんも心配しているだろう」
俺の肩へ手を置き、そう言う社長。
ただただ単純に、暖かいなと、そんな気持ちがポツリと湧いて出た。
社長「外には記者達がいるかもしれんし、車を出そう。幸い、腕ききのドライバーが我が社にはいるからね。まぁ彼女もアイドルなんだが」
八幡「……」
俺は、社長の言葉に甘えるしかなかった。
情けないが、今の俺じゃ碌に考える事も出来ない。
社長の言葉に無言で頷ずくと、重い足取りで社長室を後にする。
その後の事は、正直よく覚えてはいない。
事務所にいた何人かのアイドルに声をかけられたが、大した返事も出来なかったと思う。
車で送ってくれた女性にも、言葉少なくお礼を言ったのみだ。
ただ、その中でも覚えているのは……
会社に凛は、いなかった。
ただそれだけは、漠然と覚えていた。
*
渋谷凛のスキャンダルは、瞬く間に広がっていった。
社長は直ぐにほとぼりも冷めると言ったが、俺には、そんな楽観的には考えられない。
担当プロデューサーとしての贔屓を抜きにしても、凛は既に一人前のアイドルだとはっきり言える。
素顔で街を歩けば声をかけられ。
ライブを開催すれば直ぐにチケットは売り切れ。
シンデレラプロダクションの中でも、5本の指に入る程の人気と言ってもいい。
そんな彼女が。
そんな彼女が、スキャンダルを起こしたのだ。
平和に解決する筈がない。
誰よりも応援しているつもりだった。
あいつをトップアイドルに、頂きへと導いてやりたいと本気で思っていた。
その想いは、紛れも無い本物だった。
そんな、そんな俺が。
スキャンダルを引き起こした張本人。
あろうことか、凛のスキャンダルの相手になってしまった。
なんとも、皮肉な話だ。
滑稽ですらある。
世にいる凛のファン達は、俺を殺したいくらい憎んでるかもな。
やっぱり、どこにいっても憎まれ役は変わらないらしい。
ある意味では、古巣に帰ってきたって感じだ。
以前まで当然だったこの立場が、今は酷く懐かしい。
最近の俺は、周りのアイドルたちのおかげで少々舞い上がっていたんだと思う。
本当に、ここまで悪意を集中的に受けたのは久しぶりだ。
だが、そんな事はどうでもいいんだ。
俺の事情なんかどうだっていい。
極端に言うなら、ゴシップ記事を書いた奴らだってそこまで憎んではいない。
いや、確かに怒りは湧く。
既にアニバーサリーライブまで一ヶ月を切った。
何故そんな時期に、わざわざやらかしてくれるのかと。
色々と言いたい事はあるが、そんな事よりもーー
自分自身に、怒りが湧いて仕方が無い。
こんな事、気をつければいくらでも予想できた事だ。
さっきも言ったように、凛は既に名の売れたアイドル。
なら、自宅に招くなんて自殺行為だ。そんなの、少し考えれば分かる事だろ?
なんでそんな、バカな真似をした。
例え結果論だったとしても、そう思わずにはいられない。
何度も何度も……
後悔して、仕方が無かった。
行きたいと言った凛も、それに乗じたアイドルたちも、許可した小町も、俺には責められない。
俺が、責められるわけがない。
俺はプロデューサーなんだ。俺がプロデューサーとして、断るべきだったんだ。
本当に、
何をやってんだ、俺は。
八幡「…………」
ソファーへと寝転び、ただ呆然と天井を見上げる。
薄暗いリビングの中、聞こえるのは時計の秒針の音のみ。
ただ何の気無しに、手元にあるケータイを見る。
画面には、何件もメールや着信の知らせが表示されていた。
……由比ヶ浜の奴、連絡よこし過ぎだろ。迷惑メールに登録したくなるレベル。
一個だけ知らない番号から着信があるが、まぁ、どうせ間違い電話だろう。
他にはアイドルたちや戸塚、材木座からも来ている。どんだけ心配してくれてんだよ。泣くぞ。嬉しくて。
だが俺はそのどれ一つにも連絡を返す事なく、ケータイをテーブルの上に放る。
リビングに、カツンという小さな音が響いた。
最近の俺は、ずっとこんな感じであった。
会社は勿論、学校にも行かず、家からは一歩も出ない。
自宅謹慎なのだから当然とも言えるが、俺のそれは違う。
何に対しても気力が湧かず、ただ怠惰に時間を浪費する。
食うか寝るか、本を読む事もテレビを見る事もせず、ただただ呆然と過ごしているだけ。
心配してくれている奴らにも、何も返せずにいた。
それでも、伝えなきゃならない事はと思い、謹慎を言い渡された日にそれぞれメールを送っておいた。
今回の件は俺が招いた事だから、お前らが責任を感じる必要は無いと。
俺のせいで、お前らの顔に泥を塗ってしまってすまないと。
そう伝えておいた。
……まぁ、その後の反感のメールが凄かったんだけどな。
結局それらにも、返事は返していない。
そんな生活も、一週間近くたとうとしていた。
最初家に帰った時は、えらく両親に心配されたものだ。
気に病む必要は無いと、世間など関係無いと。
俺が無気力な生活を送っていても、何も言ってこない。
ホント、迷惑をかけてばっかりだな俺は。
謝るべきは、俺なのに。
そして小町は…………泣いていた。
八幡「……あいつの泣き顔、久しぶりに見たな」
ぽつりと、何処からとも無く言葉が漏れる。
小町は泣きながら、俺に謝ってきた。
何度も何度も、自分のせいだと。
俺は、お前からそんな言葉を聞きたいわけじゃないのに。
ただそうさせた自分自身が、情けなかった。
一体何人に迷惑をかけるつもりだろうか。
今までは、ぼっちだったが故にこんな事は無かった。
こんなにも、誰かに対して申し訳ないと思った事は無かった。
八幡「…………」
凛とは、家に来たあの日から会っていない。
会う事が禁止されている今、あいつからの連絡は二つのみだった。
自宅謹慎を告げられた日、一度だけ着信。
俺は何を言えばいいか分からず、電話に出られなかった。
謝る事も出来ず、ただただ怖かった。
そして、その後に一通だけのメール。
『ごめんね』と。
それだけ、送られてきた。
俺は、どうすればいいんだろうな。
凛に謝ればいいのか?
凛のファンたちに謝ればいいのか?
謝って済む、問題なのか?
ずっとずっと、自問自答を繰り返す。
答えの見えない迷路を彷徨うように。
……いや、本当は分かってるんだ。
俺が出すべき答えは、もう分かり切っている。
だが俺は、その選択をーー
ふと、物音が聞こえてきた。
ドアを静かに開ける音だ。
この時間帯、親は仕事に出ている。
つまりリビングに入ってくる人物はただ一人。
小町「……お兄ちゃん」
物憂げな顔で、小町はやってきた。
俺はソファから上体を起こし、顔を小町へと向ける。
八幡「……どうした?」
俺が訊くと、小町は一度小さく深呼吸をし、真剣な表情をつくる。
そして、不意に予想外の行動をおこした。
小町「この間はお恥ずかしい所をお見せしてしまい、真に申し訳ありませんでした」
そう言って、ぺこっと頭を下げたのである。
……え? どうした急に?
俺が目を丸くして見ていると、頭を上げた小町は照れくさそうに言う。
小町「いやーちょっとあまりの事態に小町も取り乱しちゃいまして。我ながらお恥ずかしい」
そして、また悲しそうな顔になる。
小町「……本当に、ごめんね」
八幡「……だから、この間も言っただろ」
俺はやれやれと、わざとおどけた風に言ってみせる。
八幡「お前を責めたら、来たいって言ったあいつらも、それを許した俺も責められなくちゃいけねぇよ。……だから、気にすんな」
そう言って、笑ってやる。
空元気のように思われるかもしれないが、それでも言った事は本心だ。
小町「お兄ちゃん……」
小町は目を見開き、やがて告げる。
小町「こんなに優しいお兄ちゃんなんて、お兄ちゃんじゃない……!」
八幡「あれ、この子反省してない?」
折角の良いお兄ちゃんで応えたのにこの仕打ち。
あんまりじゃない!?
小町「……ぷっ」
八幡「くく……」
そして小町が不意に吹き出し、俺もつられたように笑いを零す。
なんか久しぶりに笑った気がすんな。
……ありがとよ、小町。
口にするのは恥ずかしいので、俺は心の中でお礼を言った。
小町「隣、座っても?」
八幡「ご自由に。コーヒー、沸かすか?」
小町「お願いします」
小町がソファーへと座るのと入れ替わるように、立ち上がりキッチンへ向かう。
コーヒーを用意し、二人分のマグカップを持ってリビングへ戻った。
そして、一息つく。
小町「……何か、小町に出来ることは無いかな?」
ぽつりと、呟く小町。
虚空を見つめる視線。その表情は思い詰めるようで。
何か自分に出来る事は無いかと、俺に訴えかけていた。
八幡「そうだな……」
考える。
小町の事だけじゃなく、俺に出来る、俺が出来ること。
いや、何度考えたって答えは同じだろう。
俺はとっくに、その解を出している。
なら、頼める事は一つに決まってる。
……小町のおかげで、決心がついた。
八幡「小町、一つ頼めるか」
小町「っ! なに?」
食いつくように反応する小町。
だが、俺の頼みにそんなに気構える必要はない。
頼む事はただ一つ。
八幡「俺がする事を、何も言わずに見届けてくれ」
小町「……えっ…?それって……」
俺の言葉を聞き、表情を険しくしていく小町。
小町「お兄ちゃん、まさかまた……」
“また”、というワードに思わず苦笑が出る。
確かに、そう言われても仕方ないな。
八幡「また、悲しませるような事になるかもしれん。……それでも、止めないでいてくれるか?」
小町は俯き、少しだけ迷うような素振りを見せる。
だが直ぐに顔を上げ、真っ直ぐな瞳で訊いてきた。
小町「それしか、方法は無いの?」
八幡「分からん。けど、俺がやりたいんだ」
小町「……そっか。じゃあ、小町は止められないかな」
言って、また微笑む。
それは無理につくったような笑顔で、さっきの表情よりも、余計哀しさを感じさせた。
八幡「……悪いな」
小町「いいですよ。小町はお兄ちゃんの妹だからね。あ、今の小町的に…」
八幡「ポイント高ぇよ。八幡的にもな」
小町「あはは♪」
こうして何気ない日常を送るだけで、少し勇気が貰えた気がする。
きっと、あの日家に来たアイドルたちは皆一様に小町のような責任を感じているのだろう。
だが、これは俺がけじめをつける問題なんだ。
だから後は、選択をするだけ。
その後は雑談も程々に、部屋へ戻る。
クローゼットを開けると、そこには一着のスーツ。
こいつを着るのも、おそらくは明日で最後だな。
まぁ、卒業して就職すれば着る事もあるかもしれんが。
それでも、一つの意味で、こいつを着る事はもう最後だろう。
本当にーー
八幡「本当に、一年間ありがとな」
優しくクローゼットに戻し、決意を固める。
俺はケータイを取り出して、一本の電話をかけた。
*
社長「……それで、話というのは何かね?」
場所はシンデレラプロダクション社長室。
一週間前と同じ場所。
そしてこの人と相対するのも、同じ状況だ。
本当であれば俺は謹慎中。
社長に無理を言って、この場を設けてもらった。
今会社には、恐らく俺と社長のみ。
他の社員やアイドル、パパラッチなんかに見つかったら面倒だからな。
人目につかないよう、営業時間外の夜に訪れた。
八幡「今日は、お願いがあってきました」
真っ直ぐに相手を見据え、拳を握りしめる。
言うべき事は決まっている。
俺が導き出した答え。
これが、俺の最後のプロデュース。
俺が凛にしてやれる最後の事で。
これしか、もう俺にしてやれる事は無い。
目を閉じ、数泊置いて、ゆっくりと開く。
俺は、その言葉を告げる。
八幡「俺はーーーーこの会社を、辞めます」
自分でも不思議なくらい、すんなりと言葉は出てくれた。
これが、俺の出した答えだ。
社長「…………一応、訊いてもいいかね?」
ある程度は予想していたのか、以前落ち着いた様子で話す社長。
八幡「どうぞ」
社長「確かに責任は取らねばならない。だが、私はそこまでする必要は無いと先日言ったね」
八幡「ええ」
社長「なら、何故自分からわざわざそう言い出すのかね?」
その真意が分からないと、社長は眉をよせる。
確かに、その疑問はもっともだ。
社長が辞めなくていいと言っているのに、自分からそれを申し出る。
別に俺はこの会社に不満も無いし、辞めたいとも思っていなかった。
なら何故か。
答えは単純。
八幡「凛の、ファンの為です」
俺の言葉に、社長は一瞬だけ目を見開く。
だが俺のその言葉に思い当たる事があるのか、そのまま黙って話の続きを待ってくれた。
八幡「今俺は、凛のファンにとっちゃ邪魔でしょうがない存在でしょう。妬ましくて、恨めしくて、消えてほしい。そう思われていても何ら不思議はない。あなたなら分かる筈です」
俺の言葉に、社長は何も言わない。
八幡「そんな俺が、たかが自宅謹慎程度で復帰して、何食わぬ顔で凛のプロデュースを続けて、……ファンがそれで黙ってるわけがないですよ」
社長「……」
八幡「謹慎なんて軽い処置じゃダメなんです。俺が辞めて、凛ともう関わらないと言わなければ、彼らは納得しない」
俺がずっと応援していた765プロのやよいちゃん。
そんな彼女に手を出した輩がいるとすれば、俺はそいつを絶対に憎むだろう。
……いや、違う。
今は、凛の話だ。
八幡「もしも、もしも俺が凛のプロデューサーじゃなくただのファンの一人だったとして」
これは仮定の話。
だが、絶対と言っていい程に断言できる。
八幡「凛が顔も知らないプロデューサーとスキャンダルを起こしたなんて聞いたら…………きっと、俺は絶対にそいつを許しません」
社長「……ッ…」
八幡「そして俺は、今、その立場にいる」
ファンからの敵意を一身に受ける、その立場に。
実際、男の存在を一切感じさせない事など不可能なのだろう。
アイドルとて一人の女の子。恋もすれば、いずれは結婚だってする。
仮に全ての恋愛感情を捨て、アイドルに徹したとしても、それでもそれは全員には伝わらない。
家族が。
兄弟が。
共演者が。
業界人が。
……プロデューサーが。
その存在が、実は、本当は、裏では、という考えを生み出す。
男の陰を排除し切る等、不可能なんだ。
八幡「だから、俺は辞めるべきなんです。俺が辞めるだけで、ファンの憤りも多少は軽減できるでしょう」
それでも全てのファンは納得させられないだろう。
スキャンダルを起こした事実は変わらないし、凛への不信感も拭い切れない。
だが、謹慎だけなんていう生温い処置よりは圧倒的にマシな筈だ。
これが、俺に出来る最善の手なんだ。
社長「……確かに、キミの言う通りなのは認めよう。そうした方が、ファンにとってもいいのは事実だ」
そう言って苦い顔をする社長。
社長「……だが」
それでも、何処か納得をしていない様子であった。
社長「キミが辞めてしまえば、それこそあの記者達の思う壷だろう!? あそこに書かれていた嘘の報道まで認めるようなものじゃないか!」
八幡「……」
社長「確かにスキャンダルは起こしたが、それでも受け入れる必要のない虚偽を抱え込む事はないんだ」
社長は、俺を説得するように必死に訴えかける。
尚も、俺に言葉をぶつけてくる。
社長「確かに自宅には招いたが、記事に書かれたような嘘の事実は無かったと、そう公表しよう。きちんと謝罪すれば、きっと全員でなくともファンは分かってくれる」
八幡「……」
社長「キミが辞める必要は無いんだよ。比企谷くん」
社長の言う事は、ある意味では正攻法だろう。
俺が辞める意外の選択で言えば、一番の手だと言える。
だが、
それでも俺は、その手は使えないんだ。
八幡「すいませんが、それだけは出来ません」
社長「っ! 何故だ?」
理解に苦しむように、俺へ問いかける社長。
けど、俺が取れる選択は一つだけ。
八幡「確かにあの記事は嘘だらけで、それを認める必要はないと思います」
社長「なら……!」
八幡「全部が嘘、ならの話です」
その言葉に、社長の顔が驚愕に歪む。
だが、勘違いしてもらっては困る。
八幡「安心してください。前に説明した通り、あの日はゲームをやったくらいでやましい事は一切していません。凛とも、交際なんてしていない」
ならば、一体何が問題なのか。
答えは単純。
八幡「問題なのは……俺の、気持ちです」
社長「……どういう、意味だね」
八幡「あの記事が全部デタラメで、俺と凛はただのプロデューサーとアイドルで、仕事上だけの関係なら、俺は社長の言った通りの手を取ったでしょう」
だが、そうじゃない。
実際には、そうじゃないんだ。
凛は、アイドルだ。
俺はプロデューサーで、仕事の上での関係なんだ。
けどーー
八幡「けど俺はーーーー仕事なんて関係なく、あいつの側にいたいと思ってしまった」
特別な感情を、抱いてしまった。
あいつは本当に真っ直ぐで。
こんな俺を信じてくれて。
ずっと隣に立っていてやりたくて。
いつまでも支えてやりたくて。
だからこそ、俺は顔向けが出来ない。
凛の、ファンたちに。
八幡「そんな俺が、あの記事は全部嘘だと、凛とは何も無いと、言えるわけがないんだ」
言ってしまえば、それが嘘になってしまう。
そんな事、と言われるかもしれない。
些細な事、と思われるかもしれない。
だが、俺にとっては譲れない事だ。
八幡「俺があいつに向けちまった感情は、誤摩化していいものじゃない。そこに嘘をついたら、それこそファンを裏切る事になる」
プロデューサーがアイドルに、そんな感情を抱くなんてあってはならない。
そしてそれを、無かった事になんて出来る筈がない。
だから、俺は責任を取らなければならない。
凛の、プロデューサーとして。
社長「比企谷くん……」
何も言えず、ただただ俺を見つめる社長。
そんな社長の前に、俺は膝をつく。
社長「っ!? 比企谷くん、何を……!」
社長が止めにかかるが、そんなものはお構いなしだ。
地面に手を置き、俺は頭を垂れる。
八幡「お願いです社長。まだ俺をプロデューサーだと思ってくれてるなら、俺の我が侭をきいて下さい…」
社長「比企谷くん!」
八幡「初めてなんです…ッ……誰かの為に、何をしてでも護りたいと思ったのは……!」
みっともなく、懇願する。
声に、嗚咽が混じっていくのが自分でも分かる。
八幡「俺は、プロデューサー失格だッ……だから……これが、俺の出来る最後のプロデュースなんですッ……!」
こんな時でも、思い浮かぶのは彼女の顔。
その表情はいつも笑顔で、だからこそ、それを失わせていい訳がないと思った。
八幡「お願いしますッ……社長ッ!!」
本当に、らしくない。
こんなにも惨めったらしく喚くなんて。
それだけ、大切なものが出来るなんて。
社長「……」
俺の凶弾を聞いた社長は、静かに佇むままだった。
やがて、歩み寄ってくるのを足音で感じる。
俺の近くまで来ると、かがみ込み、肩へと手を手を添えるのを感じた。
社長「比企谷くん、顔を上げてくれ」
その言葉で俺は頭を上げ、社長に支えられるようにして立ち上がる。
社長「……キミの気持ちは分かった」
俺に対し、ただ静かにそう告げる。
そして苦笑したかと思うと、哀しそうに、言う。
社長「自分が情けないね……社員一人の生活も、守ってやれないとは」
八幡「社長……」
社長「……比企谷くん。キミの最後のプロデュースを認めよう」
そう言うと、社長は俺に真っ直ぐに向き合い、俺の目を見る。
社長「しかし条件もある。あのゴシップ記事の記載は誤りで、キミはアイドルを自宅に招いたという事実への責任で自主退社する。……それで会見を開く。それでいいね?」
八幡「……はい」
俺は、静かに頷く。
本当であれば、何の説明もせずに懲戒免職にした方が世間への効果はある。
俺が無理矢理アイドルに手を出したと、そういった憶測が飛び交ってくれるから。
アイドルへの不信も、そうすれば多少は減るだろう。
だが、社長はそれでも俺の身を案じてくれた。
少しでも俺の身を守ろうと、今言った手段で手を打ってくれたのだ。
アイドルプロダクションの社長としては、甘い処置もいい所。
正式な社員でもない、俺なんかを心配してくれる。
そんな気持ちが、俺には嬉しかった。
八幡「これまで、お世話になりました……それと」
深く礼をし、一年近く前の事を思い出す。
いつもの、学校からの何気ない帰り道。
ともすれば、全てのきっかけとも言える出会い。
八幡「あの日、俺を誘ってくれて……ありがとうございました」
本当に、感謝してもしきれない。
この人のおかげで、俺は大切なものを沢山貰えたのだから。
社長は俺の言葉に目を丸くし、そして、微笑む。
社長「いつか、キミが成人したら飲みに行こう。もちろん私の奢りでね」
その申し出に、俺は無言で頷いた。
*
薄暗い事務所内。
もう既に社員もアイドルたちも帰り、静けさが残るばかり。
ここに来る事も、もう二度と無いだろう。
今の内に私物は持って帰らないとな。
事務スペースへ行き、自分のデスクを見る。
……まぁ、元々俺の席ではないのだが。
ここにいると、これまでの事を必然的に思い出してしまう。
アイドルと、プロデューサーと、事務員と。
まるで部活でもやっているかのような居場所。
仕事は辛かったが、それでも、楽しいと感じる時はいくらでもあった。
おっと、ダメだな。
思いを馳せている場合ではない。
誰か来ないとも限らないからな。
さっさと片付けて、この場を後にしよう。
改めてデスクを見る。
しかし私物と言っても、殆どが仕事関係の物ばかり。
持って帰るような物は僅かしか無かった。
八幡「筆記用具に、充電器、後は何があったか……」
と、そこで気配を感じる。
気付けば、彼女はそこにいた。
手に持つのは、俺の数少ない私物の一つ。
ちひろ「マグカップ、忘れてますよ」
千川ちひろさんが、立っていた。
八幡「ちひろ、さん……」
ちひろ「社長に聞きましたよ。本当、何も相談せずに決めちゃうんですから」
腰に手を当て、ぷんぷんと怒ったように言うちひろさん。
しかし、その仕草は何処か芝居がかっている。
ちひろ「そうだ! 折角ですし、最後にスタドリでも…」
八幡「結構です」
折角の申し出を、即答で拒否する。
それを聞いたちひろさんは大袈裟過ぎる程にショックを受け、項垂れる。
ちひろ「そ、そうですか。残念でs…」
八幡「ちひろさん」
俺は、不意に声をかける。
いや、気付いたら呼びかけていたと言った方が正しい。
そんなつもりは無かったのに、言葉を口をついて出ていた。
八幡「コーヒー、淹れてもらえますか?」
ちひろ「……ッ…………はいっ」
ちひろさんは、すぐに用意してくれた。
持ち帰る予定だったマグカップに、コーヒーが注がれる。
八幡「ありがとうございます」
ちひろ「いえいえ」
ちひろさんも自分のマグカップに注ぎ、お互い、向かい合うように席へと座る。
この位置で、ずっと一年近くもやってきた。
カップに口を付け、一口飲む。
その暖かさが、何故だか懐かしく感じた。
ちひろ「……本当に、辞めちゃうんですね」
不意に、ちひろさんが呟いた。
それに対し、俺は一言だけ返す。
八幡「ええ」
俺のそんな憮然とした態度にちひろさんは苦笑すると、昔を懐かしむように話し出す。
ちひろ「初めて比企谷くんが来た時は、色んな意味で印象的だったな~」
八幡「どうせ、目が腐ってると思ったんでしょう?」
大体俺の第一印象はそれである。
正直眼鏡でも使おうか真剣に悩む所。男の眼鏡が果たして上条さんに需要はあるのだろうか。
ちひろ「まぁそれもありますけど……」
やっぱあるんですね。
だが、その次にちひろさんは続ける。
ちひろ「どうして、いつもそんなに辛そうな顔してるのかなって、そう思ったんです」
八幡「辛そうな、顔?」
マジか。自分では分からなかったが、俺そんな顔してたの?
初めて言われた事実に俺が困惑していると、ちひろさんは笑いながら問うてくる。
ちひろ「ねぇ、比企谷くんは私の第一印象はどうだった?」
八幡「は?」
ちひろさんの第一印象?
そんなの、言えるわけが……
……いや。
八幡「美人な人だなーと、思いました」
敢えての直球で言ってみる。
ちひろ「え? は!? いや、その、ぅ……お、お世辞はいいですって!」
面白いくらいに顔を赤くして狼狽するちひろさん。
だがまぁ、実際事実だしなぁ。
八幡「俺が今までにお世辞言った事、ありました?」
ちひろ「うっ……そう言われると確かに…………あ、ありがとう、ございます……?」
いや、別に俺を言われるような事ではないんだがな。
俺は、正直に答えただけだ。
……こうして、ちひろさんと話すのも最後になる。
なら、きちんと伝えておくべき事は、今伝えるべきだ。
ちひろ「比企谷くん?」
俺は無言で椅子から立ち上がり、ちひろさんに向かって頭を下げる。
八幡「今まで、ありがとうございました」
ちひろ「えっ?」
呆けた様子のちひろさん。
俺はそのまま話続ける。
八幡「ちひろさんのおかげで、これまで仕事をこなせてきました。席を頂けた事にも感謝しています」
ちひろ「ちょ、ちょっと待って比企谷くん…」
八幡「俺がプロデューサーとして無事やってこれたのも、ちひろさんのおかげです」
ちひろ「だから……!」
八幡「迷惑も沢山かけて、申し訳なく…」
ちひろ「比企谷くんっ!!」
その大きな声で、俺は思わず言葉を止める。
ちひろさんも立ち上がり、少し怒ったように言ってきた。
ちひろ「何なんですか比企谷くん。さっきからまるで今生の別れみたいに喋って!」
八幡「いや、もう辞めるから、最後にお礼を…」
ちひろ「だからって、もう会えなくなるわけじゃないでしょう!」
俺へ向けるその目から、ちひろさんが本当に怒ってるのが分かる。
そんな事は言ってほしくないと、暗に告げているような気がした。
八幡「……俺がシンデレラプロダクションの関係者と会うのは、もう極力避けた方が良い。なら、ちひろさんとだって…」
ふっ、と。
突然、暖かい感触が身体を包み込んだ。
ちひろ「そんなの、どうとでもなります」
ちひろさんが抱きしめてくれていると気付くのに、そう時間はかからなかった。
まるで子供をあやすように、優しく頭を撫でてくれた。
……俺の方が背高いのに、無理をする。
ちひろ「バレないように会えばいいし、ほとぼりが冷めれば、私みたいな事務員ぐらい会えますよ」
普段なら、羞恥から直ぐに振りほどいていただろう。
だが、何故か今はそれが出来ない。
ちひろ「お茶でもいいですし、大人になったら、お酒も酌み交わしましょう。……だから、これで最後だなんて言わないでください」
八幡「……はい」
お互い、顔は見えない。
だが、不思議とどんな顔をしているかは想像できた。
きっと、相手も。
八幡「コーヒー、ごちそうさまでした」
ちひろ「こちらこそ、お粗末様でした。……また、いつでも淹れますよ」
私物を片付け、洗ってもらったマグカップも持ち、帰る仕度を整える。
ちひろさんは、最後まで付き合ってくれた。
ちひろ「比企谷くん」
八幡「はい?」
事務所を出ようとした所で、声をかけられる。
俺が振り向き聞き返すと、ちひろさんは照れたように言ってくる。
ちひろ「さっきはああ言いましたけど……お礼、嬉しかったです」
微笑み、そう言ってくれる。
ちひろ「こちらこそ、ありがとうございました。……また会いましょう♪」
八幡「……はい」
俺も思わず笑いを零し、その場を後にした。
会社を出ると、ひんやりとした風が頬を撫でる。
もう既に時間も遅く、辺りは暗かった。
まぁ電車には余裕で乗れる。特に急ぐ必要もない。
最後にシンデレラプロダクションを目に焼き付け、足を踏み出そうとーー
「ーーーープロデューサーっ!!」
その声に、足が止まった。
いや、足だけではない。
身体が、思考が、一瞬止まる。
聞き間違えるわけがない。
ゆっくりと、振り返る。
ぜぇぜぇと息を切らし、膝に手を付いて立っている少女。
渋谷凛は、俺の事を真っ直ぐに見ていた。
八幡「……凛」
俺は、咄嗟に何も言う事が出来なかった。
こんな所を目撃されれば、またいらぬ誤解を招く。
早く立ち去らないといけない。
だが、足は動かない。
言葉も、出てこない。
何で来たんだ……
もう、会うつもりは無かったのに。
凛「……ちひろさんから、連絡を貰ったんだ」
落ち着いたのか、髪を払い、そう言う凛。
そうか、ちひろさんが呼んだのか。
……本当に、最後までお節介な人だ。
凛「全部、聞いたよ」
その言葉で、理解する。
既に凛は、俺がプロデューサーを辞める事を知っている。
なら、俺の意図する事も分かる筈だ。
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