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元スレ上条「恋人って具体的に何すんだ?」 五和「さ、さぁ...」
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―――――
「それじゃあシスターちゃん、姫神ちゃん、気をつけて帰るのですよ」
夕刻、結標淡希は小萌と共に、姫神秋沙とインデックスが部屋を出るところを見送っていた。
結標とインデックスによる微笑ましい包丁の練習の後、女四人によるキムチ鍋パーティは特に何事もなく平和に終わった。
インデックスの食べる量と勢いが凄まじかったことなど見所はそこそこにあったが。
かくいう結標は何をしているのかというと、玄関先で見送ってくれる小萌の後ろで腕を組み、所在無さげに立ち尽くしていた。
何だかんだ文句を言いつつ自分も今日のこの謎の集まりを楽しんでしまったことに我ながら呆れる。
完全に小萌に踊らされたなとため息をついた。
「こもえ、お鍋美味しかったんだよ!また食べさせてね!」
「お安い御用なのです! 次はシスターちゃんの包丁捌きがもっともっと上手になっているように、先生は応援しているのですよ」
「うん! とうまやいつわに教えてもらっておくんだよ!」
穢れの無い笑顔を浮かべるインデックスに、やれやれと息をつく。
何がそんなに楽しいのだろうか。
無垢で純粋そう。毎日が幸せなんだろうなと結標は少しだけうらやましく思った。
「じゃあ小萌先生。また明日」
「はーい。宿題を忘れちゃ駄目なのですよー」
「そんなものは知らない」
結標は本当に久方ぶりに太陽の下で生きる人間との出会いを終えた。
結標は学園都市暗部『グループ』に属する女だった。
日陰者である自分には、姫神やインデックスの存在はとても眩しく映る。
だが、小萌も含めて彼女達のような人たちと交わることは結標にとってはギリギリ表舞台との接点を保っていられることの
唯一の証だった。
自分に未だそんな未練があったのかと呆れて自嘲する。
すると、小萌に別れを告げて帰ろうとしていたインデックスがこちらにひょこっと顔を出して輝く笑顔を向けてきた。
「あわき、 またね!」
「……」
また。
どうやら自分は、もうしばらくこの陽だまりの中に留まっていられるようだった。
目的のためにそんなもの必要ないと断じて、自ら飛び込んだ闇の中であるはずなのに、
彼女たちがまだ私にそんな風に言ってくれるのなら。
「ええ、またね」
ヒラヒラと手を振って返してやる。
意外と悪くない。
もう一度笑みを零して去っていく背中を見て、結標はポツリと呟いた。
「明日の朝は……私が作ろうかな」
その言葉に驚いたように小萌が振り返る。
どんぐりのようなまん丸の眼が嬉しそうに細められた。
「はいっ、先生は楽しみにしているのですよ!
明日の朝はクラブハウスサンドが食べたいのです」
「んなもん作れるわけないでしょ。不味くても文句言わないでよね」
髪をわしゃわしゃとかきながら部屋に戻る。
ふぅとため息をついて部屋の隅の雑多に本が詰め込まれた棚に視線を送る。
さあ、味噌汁の作り方はどうだったっけ?
―――――
外はもうすっかり暗がりに包まれていた。
腕時計を見ると、時刻は夜6時。この季節なら既に夜の帳を下ろしている時間帯だ。
五和は自らの膝の上でかれこれ3時間以上眠っている彼の寝顔を見ていたら、いつの間にかこんな時間になってしまった。
河川敷には自分たち以外もう誰もいないし、バーベキューをしていた女子達はこちらをクスクス笑いながら帰っていった。
遠くに見える明かりだけが、すぐそばにある彼の顔を仄かに照らしている。
規則正しい寝息と、ときおり動く頭が太ももをくすぐってくる。
膝から下の感覚はもうとっくの昔になくなっていた。
だが脚の痛みなんて、今の五和には気にもならなかった。
彼の顔がこんなにもすぐ傍にある。
この表情を見れるのは、今この瞬間世界で自分だけ。
その事実だけで、五和の五体は幸福感に充たされ、肉体的な疲労や痛みなどまるで感じなかった。
たまらず五和は上条の頬にそっと触れる。先ほどから幾度と無く彼の頬や唇に指先を触れさせて、
その感触で悦に入っている。
(上条さん…かわいいな…)
静寂がトクトクという鼓動の速さを鮮明にする。
綺麗な肌。
しかし服の裾や袖から生傷が覗いている。男性的なその肉体。服の下にある彼の肢体を想像して、五和は顔を真っ赤にさせて俯いた。
五和は唇を噛んで自分の中から溢れてくる衝動をこらえている。
彼への想いがどんどんと膨らんで、今にも決壊しそうだった。
(彼氏か……)
昼間、麦野という女に去り際に言われた言葉が何度も頭の中を行き来していた。
他の人から見れば、自分たちは恋人同士に見えるらしい。
正直嬉しかった。
彼と恋人同士になって、寄り添い街を歩けたらという妄想が嫌が応にも頭の中に広がっていく。
遠距離恋愛だけど、たまに会えたときには思い切り彼に甘えて、抱きしめられたい。
時には彼がロンドン日本人街にある自分の部屋に来たりして。
天草式のみんなに冷やかされながら、思い出を築いていく。
涙が出そうな程。
哀しい程。
彼のことが好きだ。
「ん……んー……」
ずっと頬を撫でてそんなことを考えていたからだろうか。
彼がわずかに唸ってうっすらと眼を開けた。
「い……つわ……」
「あ……お、おはようございます……」
心の中を覗かれたような気がして、五和の声は羞恥に震えていた。
こちらの姿を確認した彼は、眼を大きく見開いてガバッと勢いよく起き上がった。
この恋人同士のような戯れももうお仕舞い。五和は寂しい想いに駆られて自嘲するように息を吐いた。
「悪い! 寝すぎちまった! ごめんな五和、せっかく来たのに…」
申し訳なさそうに謝ってくる彼。
五和は薄く微笑んでそれに応えた。何を謝る必要があるというのか。
彼とこうした穏やかな時間を過ごすことが、自分にとっての最上の望みだったというのに。
彼とたくさん話をして。一緒にお弁当を食べて。彼とお昼寝をして。日が暮れたら家に帰る。
五和にとって本当に夢のような一日だった。
「気にしないで下さい。私もうとうとしてちょっと寝ちゃいましたから」
それは嘘だった。
3時間以上、ずっと彼を見ていた。
彼の顔だけを見つめていた。
彼の寝顔に、心はたゆたう波のように優しく揺れている。
「時間は……もう六時回ってるな……」
上条はポケットから携帯電話を取り出して時間を確認する。
しかし、五和の視界にはただ一つの物しか映らなかった。
携帯の本体から短く伸びる、半分に別れた鉄色のハートのストラップ。
「あ……上条さんこれ……」
思わず五和は彼のストラップを掴んでいた。
彼は五和の手からそっとそれを取って少し照れくさそうに笑う。
「せっかく買ったもんだからな。おそろいだな、五和」
「っ!」
歯を見せて爽やかな笑顔を向けてくる彼に、息を呑む五和。
「おそろい……ですね。嬉しいです」
自然と笑顔が零れる。
まるで願ったことが現実になるかのような、優しい時間だった。
>405失敗した!おそろいのくだり移動したのに残ったままだった。修正版こっちで
申し訳なさそうに謝ってくる彼。
五和は薄く微笑んでそれに応えた。何を謝る必要があるというのか。
彼とこうした穏やかな時間を過ごすことが、自分にとっての最上の望みだったというのに。
彼とたくさん話をして。一緒にお弁当を食べて。彼とお昼寝をして。日が暮れたら家に帰る。
五和にとって本当に夢のような一日だった。
「気にしないで下さい。私もうとうとしてちょっと寝ちゃいましたから」
それは嘘だった。
3時間以上、ずっと彼を見ていた。
彼の顔だけを見つめていた。
彼の寝顔に、心はたゆたう波のように優しく揺れていた。
「時間は……もう六時回ってるな……」
上条はポケットから携帯電話を取り出して時間を確認する。
「さてと。そろそろ帰らないとインデックスも戻ってるかもな」
彼は立ち上がり、まだ眠気を訴えているであろう体で伸びをする。
男性的なラインの体にドキリとなりながら、五和は寂しげに頷いた。
楽しい夢もこれで幕引き。
本当はもう少しだけ、彼と一緒にいたかった。
「帰るか。五和」
けれど、彼がそんな風に笑って手を差し伸べてくれたから。
儚い夢の残響を心に聴きながら、五和は微笑みその手をとるのだった。
「そうですね。今日はとても楽しかったです」
申し訳なさそうに謝ってくる彼。
五和は薄く微笑んでそれに応えた。何を謝る必要があるというのか。
彼とこうした穏やかな時間を過ごすことが、自分にとっての最上の望みだったというのに。
彼とたくさん話をして。一緒にお弁当を食べて。彼とお昼寝をして。日が暮れたら家に帰る。
五和にとって本当に夢のような一日だった。
「気にしないで下さい。私もうとうとしてちょっと寝ちゃいましたから」
それは嘘だった。
3時間以上、ずっと彼を見ていた。
彼の顔だけを見つめていた。
彼の寝顔に、心はたゆたう波のように優しく揺れていた。
「時間は……もう六時回ってるな……」
上条はポケットから携帯電話を取り出して時間を確認する。
「さてと。そろそろ帰らないとインデックスも戻ってるかもな」
彼は立ち上がり、まだ眠気を訴えているであろう体で伸びをする。
男性的なラインの体にドキリとなりながら、五和は寂しげに頷いた。
楽しい夢もこれで幕引き。
本当はもう少しだけ、彼と一緒にいたかった。
「帰るか。五和」
けれど、彼がそんな風に笑って手を差し伸べてくれたから。
儚い夢の残響を心に聴きながら、五和は微笑みその手をとるのだった。
「そうですね。今日はとても楽しかったです」
集約されるただその一言。
付け加えるなら。
幸せだった
「俺もだ。何もしてないけど、充実した……おっと!」
このとき、五和は一つの事を失念していた。
いや、本当は分かっていたのかもしれない。
彼をこの場にあと少しだけ繋ぎ止めていたいという気持ちが、頭の中からその事柄を完全に隠してしまっていたのだろうか。
彼の手を取り、立ち上がろうとするも、脚が痺れて力が入らなかった。
小さな悲鳴と、驚く彼の声が聴こえた。
星の少ない夜空がくるりと回る。
ドサリ。
二人の体は重なり合うようにしてビニールシートの上に倒れこんだ。
痛み無く、寒さも無く。
温もりの上に自らの体を捧げるように投げ出してしまった。
五和は、上条の胸の上で抱き止められていたのだった。
「ごめん……なさい……」
言葉と裏腹に、五和は彼の胸に頬を押し当てるようにしてすがりついた。
ずっと抱きしめてくれることを望んでいたその体との距離はゼロ。
彼の左胸の奥にある心臓の鼓動は、自分の速度とまるきり同じだった。
「五和、脚痺れてるなら言ってくれよ」
呆れて笑う彼の声。それは、自分と同じにように、ほんのわずかに震えていた。
くすりと笑みをこぼし、彼を見つめる。
「実は分かっていてやりました」
「っ……」
驚いたように彼が目を丸くする。
自分の言葉に自分で恥ずかしくなってしまった。
本当はわざとじゃないけど、そう言ったら彼はもっとドキドキしてくれるから。
自分よりも、もっとドキドキして欲しいから。
五和は彼のTシャツをギュッと掴んで胸板に顔を押し付けた。
彼の匂いがする。彼の温度を感じる。
彼もまた、五和の頭にそっと手を添え、もう片方の腕でぎゅっと抱きしめてきた。
チラリと一瞥すると、唇を引き結んで照れているようだが、宵闇の所為で見えなかったことにした。
「本当に、素敵な一日でした。ありがとうございます」
「何一つとしてお礼を言われるようなことをしてやれてない気がするんだけど……」
「そんなことないです。こんなに楽しい日は、きっと生まれて初めてです」
心からそう思えた。
だって自分は今彼に抱きしめられているのだから。
「そう言ってもらえたら俺も嬉しいよ。
なぁ五和……」
突如彼の声色が変わった。真剣な声。
何を言おうとしているのか、雰囲気で分かる。五和はギュッと瞳を閉じて、彼の服を掴む力を強めた。
「はい……」
聴きたかった言葉を聞かせてくれるのだろうか。
自分が望んでいた事を、現実にしてくれるのだろうか。
五和の鼓動は本日最大の速度を記録した。
「俺お前に……」
「……っ」
呼吸が止まる。
彼の抱きしめる力が強くなる。
私は、幸せだ
「少年、こんなとこで何やってんじゃん?」
女の声が聴こえた。
桃色の柔らかい空気が一瞬にして消え去り、元の河川敷の風景を映し出す。
慌てて体を起こしてそちらを見ると、長い黒髪を後ろで束ね、ジャージに身を包んだ美人の女性が腰に手を当て立っていた。
年は二十代後半くらいだろうか。
お洒落や化粧に無頓着という様相なのに、そこに立っているだけで大人の色香と美しさが見て取れた。
「よ、黄泉川先生……?」
彼の通う高校の教師のようだ。
苦笑する彼女の様子から、今の会話を聞かれていたのかも知れないと思い、五和は顔を真っ赤にして俯いた。
「道路からゴソゴソやってるのが見えたから何やってるのか思えば。
ったく、恋愛はいいけど、不純異性交遊を見逃すわけにはいかないじゃん」
「ちっ! 違いますって! そんなんじゃなくて……!」
「そう、まあ何でもいいけどもう暗いからそろそろ帰るじゃんよ。この辺は不良少年達がよく溜まってる場所だしね」
口元に笑みを浮かべて、諭すように上条の肩をぽんぽんと叩く女教師。
恥ずかしいところ見られてしまったどころか、暗がりで卑猥なことをしていると誤解されているらしい。
五和はあまりの恥ずかしさに頭を抱えた。
「じゃ、私は行くけど、ちゃんと帰るじゃんよー?
彼女をしっかり送り届けてからね、少年」
ウィンクを残して去っていくジャージの女教師。
呆然とその後姿を見送る五和。
妙に気まずい空気が二人の間に流れた。
「か、片付けるか!」
「そ、そうですね! そうしましょう!」
ぎこちない会話の後、五和は彼と共に無言でビニールシートを畳み、河川敷を後にしようと石作りの階段を上る。
五和はショックを受けていた。
もう少しで彼の口から素敵な言葉が聴けたかもしれないのに。
前を歩く彼の背中を切なげに見つめる。
先ほどまでの幸せな気分が一転。一気に暗く陰鬱な気持ちになってきた。
深いため息をついて階段を上りきると、上条は急に立ち止まる。
「上条さん?」
五和が不思議に思って声をかけると、彼は急にこちらを向いて五和の左手をとった。
「かっ、上条さんっ!? ななななんですか?! ててて手なんか握って…!」
「帰るぞ、五和!」
頬を赤くさせて、叫ぶように告げられる。
こちらの返事も待たず、彼はスタスタと歩き出した。
五和は再び呼吸が止まるのを感じた。
彼の右手から、この左手を通って全身に彼の温かさが伝わってくる。
少し早歩きで前を行く彼の背中を驚き見つめながら、五和はやはり自分が単純で分かりやすい人間なんだと思い、
表情を綻ばせるのだった。
―――――
時間は少しだけ巻き戻る。
五和が上条に膝枕を始めて2時間半ほど経過したころだ。
辺りは夕焼けに染まり、まもなく世界は闇に包まれた。
河川敷傍の道の上から、二人を見つめる人影があった。
「どうしてよ……」
零れ落ちる言葉。
彼女の名は御坂美琴。今日まで上条当麻に思いを寄せ続けてきた少女である。
この道を通ったのは、本当に偶然だった。
かつて彼に勝負を挑んで喧嘩をしたこの河川敷。
なんとなくこの辺りを散策して彼に会えたらなと思い、来てみれば、信じがたいものを目の当たりにしてしまった。
(あの女……やっぱアイツのこと好きだったの……?)
先日彼の通学路で、彼と共に歩いていた黒髪の少女が見える。
彼の頭を太ももに乗せて穏やかな空気を放っていた。
それを見ていると、哀しい気持ちがどんどん溢れてくる。
確かに可愛いし、胸も大きいし、性格も良さそうだった。彼の家事を手伝っているようなこともチラリと言っていた気がする。
(……これって、失恋ってこと……?)
現実感がまだ湧いてこない。
本当はあの位置に居るのは自分なんじゃないのかとすら思えてきた。
だけど、それはただ脳がこの事実を受け入れるのをただ拒絶しているだけで。
しっかりと御坂の体は反応を示していた。
「ちょっ…や、やだ何泣いてんのよ私っ!…ばかっ!」
頬を一筋流れ落ちる涙。
誰にとも無くそう言い、あわてて袖口で拭い取る。
突如目の前に突きつけられた現実を理解し始めたのだ。
ずっと好きだった。
いつも自分と対等に接してくれた彼。
ぼやきながらも自分に付き合ってくれた彼。
自分のために、危険を冒して戦ってくれた彼。
そんな彼が、ずっとずっと好きだった。
「……アホらし……グスッ……」
絶望的なその光景に別れを告げるように踵を返し、歩きながらポツリと一言呟いた。
何がなんて、言えるわけもなく。
誰にも想いを告げることはなく。
少女の初恋は今終わった。
それを見つめる影がさらに一つ。
「お姉様…」
秋の夜風に揺れるツインテール。常盤台中学の制服を着た小柄な女生徒が電柱の影から、
お姉様と慕う御坂の背中に哀しげな視線を送っている。
(嗚呼…お姉様お姉様…。なんという寂しげな背中なのでしょう…。殿方への恋に敗れた女の切なさに満ち満ちていますの…。
抱きしめて差し上げたい。慰めて差し上げたい…)
ギリギリと奥歯を噛み、ツインテールをうねうねと動かしてほろりと涙を零す。
その熱い視線に悪寒を感じたのか、御坂は立ち止まって一度こちらを振り向いた。
慌てて身を隠すツインテール。
赤く腫れた目を不思議そうに細め、首を傾げて彼女は再び夕焼けの向こうに歩いていった。
(っぶないところでしたわ…。
さぁ、お姉様。お部屋で黒子が笑顔でお待ちしておりますの。どうぞ黒子の胸で存分にお泣きになってっ!
お姉様の恋を応援するのも後輩であるわたくしの務めなら、恋に敗れたお姉様をお慰めするのもわたくしの役目ですのよ。
冷たい夜風に冷え切ったお姉様の身も心も、黒子が温めて差し上げますわぁあああ、グヘヘヘヘ)
夕暮れの空の下。
常盤台のツインテールが零す怪しい笑い声が不気味に街に木霊する。
余談だが、夕暮れ時に河川敷近くの電柱を通ると、ケタケタと笑うツインテールの少女が追いかけてくるという都市伝説が本日新たに生まれたという。
―――――
「なんか最後恥ずかしい目にあっちまったな」
五和は上条に手を引かれ、彼の学生寮へと戻ってきていた。
エレベータに乗り込み、ポツリポツリと言葉を落としていく彼に、曖昧に頷く。
「ま、まあでもほら、あとあと思い返すとそれもいい思い出になるんじゃないでしょうか」
ショックを受けている様子の彼を励ますように言葉をかける五和。
だが、気が気でないのは自分も同じだった。
ふざけているのかと思うタイミングでやってきた女教師のおかげで、彼が話そうとしていた言葉の内容が最後まで聞けなかった。
一体何を言おうとしていたのか、思い出すだけでやきもきする。
正直あの瞬間はアックアと戦った時と同じくらい殺意が湧いた。
何もあのタイミングで来なくたっていいじゃないか。
チラリと彼の横顔を見つめると、今は何を考えているのか、特に表情に険しさはなくぼんやりとエレベータ内の階数表示盤を見上げている。
彼の部屋がある七階に辿り着き、二人はエレベータを降りて廊下に出た。
「七時か。インデックスさすがにもう帰ってるよな。
腹空かして怒ってんじゃねえかな。俺は正直全然腹減ってないけど」
「私もです。お弁当食べてからほとんど動いてないですもんね。夜は私たちはお茶漬けとか簡単なものにしましょうか」
「だな。インデックス最近頑張ってるみたいだし、二人がかりですげえもん食わせてやりたいな」
「わぁ、楽しそうです。食べたいモノをあの子に聴いてみなきゃですね」
いつも通り他愛の無い会話をしながら部屋の扉の前に立つ。
ここまでずっと手を繋いでいたが、鍵を取り出すためそこでようやく二人の手は離れた。
名残惜しく思いながらも、今日繋げたのだから明日だって繋いでいいはずだ。
五和はよしっと心の中でガッツポーズをしながら鍵を開ける彼の背中に視線を送った。
「ただいまー。インデックスいるかー?」
扉を開けると、部屋は出た時のまま明かりはついていないし、人の気配も無かった。
まだ帰っていないようだ。
五和は不思議そうにする彼と目配せして部屋の中へと足を踏み入れる。
明かりをつけても、やはりどこにも彼女はいなかった。
「おかしいな、遅くならないって言ってたのに」
学園都市で七時、それも明日も学校があると考えればそこそこに遅い時間だ。
まあ空いている店はまだまだいくらでもあるし、繁華街なら人は大勢いるが、インデックスが行くとは考えにくい。
お腹を空かせているらしいスフィンクスがにゃーにゃー擦り寄ってきたので、五和は餌を用意してやりながら
そんなことを考えていた。
「上条さんの担任の先生とご一緒なんですよね? 電話してみてはどうですか?」
「そうだな。小萌先生の番号は……」
皿に盛られた猫缶をもりもり食べ始めたスフィンクスを撫でてやりそう告げると、上条は頷いて携帯電話を操作し始めた。
耳に当て、コール音が小さくこちらにも聴こえてくる。
「あ、もしもし先生。上条ですけど、こんばんは。あの、インデックスそっちにいますか?」
彼が電話している声を聞きながら、室内を見て回る。
驚かせようと隠れている気配は無い。ユニットバスやベランダなども見てみるが、やはり姿は見当たらない。
「え?帰った?…えっと…いや。あー…大丈夫です!とりあえず姫神に電話してみますね、それじゃ」
少し焦ったような表情で電話を切っている。
五和の胸中も彼と同じだった。嫌な予感が胸を掠める。
「どうでした?」
「もうとっくに帰ったって。もしかしたら姫神と一緒かも。電話してみる」
そう言って再度携帯を操作して耳に当てている。
数度のコールの後、彼は先ほどより少し口速く言葉を放った。
「姫神か? なあ、今インデックスと一緒にいるか?」
五和も眉をひそめて彼の反応を見る。
だが、事態は芳しくは無いようで、彼の表情から最後の余裕が消えていた。
「……そうか。ん?ああ、何でもないんだ。……ほんとだって。また明日な」
電話を切る。わずかに彼の顔色が悪くなっていた。
五和は彼に一歩近寄り、顔を覗き込んで問いかける。
「あの子……一緒じゃないんですか?」
「……らしい」
どうするか髪をくしゃくしゃかきまわしながら考えている様子の彼。
「インデックス……どこにいっちまったんだ?」
ベッドの上に崩れるように座り込む上条。
五和は慌ててそれを支える。
書置きもなく、連絡もない。
どういうことだ、何が起こっている?
五和の背中に緊張が走る。
五和には、インデックスがいない理由が分からなかった。
超乙!
インデックスに一体何があったのだろうか?!五和とあわきん可愛ぃー
美琴……そして黒子は自重w
次回も楽しみにしてます
インデックスに一体何があったのだろうか?!五和とあわきん可愛ぃー
美琴……そして黒子は自重w
次回も楽しみにしてます
膝枕のところは五和もうたた寝しておっぱいと太ももでサンドイッチになると妄想した俺キメエ
―――――
数日前、五和はロンドンで腐っていた。
『後方のアックア』との死闘の後、想いを寄せる上条当麻と特に何の進展もないまま帰国するハメになってしまったことに原因がある。
当時は天草式の面々も負傷して病院で治療を受けていたのでそれどころでは無かったということもあるが、
今になって思えばもう少し積極的に行動していればほんの短時間でも彼と病院で甘い時間を過ごせたのではないかと後悔していた。
「そもそもあれは反則ですよ……女教皇様(プリエステス)…」
アックア戦後、上条の病室で五和は彼と共に天使を目撃した。
それもただの天使ではない。
彼女が敬愛する天草式の女教皇、神裂火織が堕天使エロメイドとか言うコスチュームで現れたのだ。
彼女の超攻撃的な肉体がそこかしこで露出された、神への冒涜甚だしいどころか新たな神として信者を生み出してしまいそうな
恐ろしい姿だった。
あまりに扇情的なその姿に、上条は全身の傷が開いて入院期間が一日延びたとか。
とにもかくにも、神裂が凄まじいインパクトでオチを着けてくれたおかげで、五和の精一杯のアピールやら何やらが
全て水泡に帰してぶっ飛んでしまったわけである。
そんなことがあり、ロンドンの日本人街、天草式がいつも溜まっているとある一室で、五和は芋焼酎片手に今日もやけ酒を煽っていた。
「…ひっく……結局私なんて、女教皇様のかませ犬でしか無かったわけですよね……ひくっ…」
帰ってきてから一度も化粧はしていないし、着ているものも常にジャージ。
身の回りの掃除から美容ケアまで、何一つとして行っていない五和。
朝からずっと丸い卓袱台に突っ伏して酒の瓶と会話をしている。
そんな彼女を見守る姿があった。
「うむぅ、これはそろそろまずいのよな…」
クワガタのような真っ黒い髪に十字架を模した数個の小型扇風機を首からぶら下げ、ダボダボの服に身を包んだ
天草式十字凄教元教皇代理、建宮斎字は、朝からいもっぽいジャージ姿で焼酎を煽る女の成れの果てを隣の部屋から見守っていた。
周りには天草式のメンバーも数人いる。
「かれこれ2日もあの調子だ。いい加減止めたほうがよさそうだな…」
初老の諫早が重々しい口調で賛同する。
「どうします?女としてどうとか言う前に五和の体が心配ですよ。そしてアレ、俺の最後のとっておきだったんです…」
そう言ったの大柄な男、牛深。
五和に秘蔵の酒を散々飲み尽くされ、失うものの無くなった彼は半泣きで建宮にすがり付く。
「どうするってお前さん…誰があれを止めるのよ?」
建宮が指差すと、今度は五和が一升瓶と喧嘩を始めていた。
「ねえ聴いてますー?透明感のある顔してぇ……どうせ私はご飯炊くくらいしか能の無い地味ーな子ですよー…うぇっぷ…」
無色透明な日本酒に透明感とか言われてもと、誰かが突っ込んだ。
「さすがにヤバイす。でも近づいたら絶対絡まれるっすよ?」
小柄な香焼がビクビクしながら口元を引きつらせている。
五和に近づけないでいる一同の横から、一人の影が躍り出た。
「ったく情けないわねアンタらは……。いいわよ、私がいくから」
ふわふわ金髪の女性、対馬が五和の方へと近づいていく。
「さっすが対馬先輩、頼りになるっす!」
「対馬、頼んだぞー」
荒ぶる獅子の待つ地へ向う対馬を送り出す男衆。
対馬はため息をつきながら五和の隣に座って一升瓶とグラスを取り上げた。
「五和、そのへんにしときなさい。お肌にも悪いし、お酒臭い女は嫌われるわよ?」
「返してください対馬さん……! どうせあの人には当分会えないんですから…」
くっちゃくっちゃとスルメを噛みながら、対馬に覆いかぶさるように体重を預けて五和が涙を浮かべている。
スルメのパックも彼女から取り上げ、対馬は諭すような口調で語りかけた。
「そうとは限らないわよ? 『左方のテッラ』から『後方のアックア』まで、10日も空いてないんだから。
案外すぐにこっちに来る用事でもできるかも。
そんな時、あなたはそのお酒臭い口と酔っ払って真っ赤になった顔で彼に会うつもり?」
「それは……」
対馬から一升瓶を奪い返そうと体重をかけていた五和だが、その言葉にペタリと座りこんだ。
「見ろ、五和が大人しくなっていくぞ!」
「おー! 説得に成功したみたいですよ!」
「……」
「あれ、どうしたんすか建宮さん?」
対馬との会話でしおらしくなっていった五和を見て歓声をあげる男衆。
あんな朝から酒かっ食らっている五和など誰も見たくなどないのだ。
しかし、その様子を顎に手を当て考え込むような仕草で見据えている建宮。
「対馬さん、どうすればあの人ともっと距離を縮められるんでしょうか……」
酒の匂いのするため息をついて、五和が哀しげに問いかける。
彼女にしては珍しい言葉だ。いつもは照れたりあたふたして遠慮がちな話しかしないが、
アックア戦で彼に対する想いがさらに募ったか、酒の力を借りての真っ直ぐな恋愛相談だった。
対馬はくすりと笑い、五和の隣に寄って頭を撫でてやる。
「そうね……例えば、手紙を送ってみるとかどう?」
「手紙……ですか?」
「ええ。距離も離れてるし、どうせ連絡をとるなら電話やメールじゃ味気ない。
手紙だったら書いてるときも、返事を待っているときもドキドキできて楽しいんじゃないかしら?」
年上の対馬だが、彼女は皆の想像以上にピュアなようだった。
「それ……いいですね。遠く離れたあの人とお手紙の交換って、何だか素敵ですっ!」
さっきまでのオヤジのような態度はどこへやら。
乙女の顔をして五和が対馬に食いつく。
「えー!」と離れたところでざわつく男衆
「対馬先輩、文通とか言っちゃってるすよ……何の解決にもなってないっすけど」
「だな。それは余計時間がかかるんじゃなかろうか……」
「けど五和もなんだか乗り気だしなぁ」
「建宮さん、あの二人このままだとまだしばらく動きそうに……って、建宮さんどうしたんすか?」
突如神妙な面持ちで五和達の方へ歩いていく建宮。
五和と対馬も彼が近づいてくるのに気付いて、不思議そうに首を傾げた。
「五和お前、もう一回学園都市に行くか?」
「え?」
建宮は真剣な顔つきのまま低い声でそう問いかけた。
彼以外の全員の表情が固まる。
「もう一回あいつのところに行きたいかって聴いてるのよ」
「え、いや、だって。私たち魔術師は学園都市にそうそう簡単には入れないんじゃ……」
彼の言うとおり、学園都市内での魔術師の集団行動は本来なら禁止されているものだ。
前回のように強大な敵が攻めてくるということなら特例も認められるが、五和の恋路のために天草式が学園都市に潜入することなど
できるのだろうか?
首を傾げる五和に、建宮もどっかりと腰を下ろして真っ直ぐに五和を見据える。
「まあそのへんは何とかしてやるのよ。アックアを倒したことで学園都市にも恩を売ったし、
魔術の使用は禁じられるかもしれねえけど、たぶんどうにかなるのよな」
「ほ……ほんとに……あの人に会えるんですか?」
飲みすぎでいまいち焦点の合わなかった五和の目がしっかりと建宮を捉える。
希望を与えられて、キラキラと輝く眼差しを向けていた。
「見ちゃいらんねえのよ。お前さん帰国してから寝ても覚めてもずっとその調子だ。
そんなんで肝心な時にぶっ倒れられて戦えねえってのも困るのよ」
「建宮さん……」
もう上条との生活を想像しているのか、五和の表情が綻んでいく。
「か、かっこいいす建宮さん!」
「我々も五和をサポートしてやらねばな」
「五和もう妄想モード入ってるな。たぶんあれ聴こえてないぞ」
がやがやとテンションを上げている男衆の声が向こうから聴こえてくる。
「それにな五和」
黒いツンツン頭をくしゃくしゃとかきながら、建宮は言葉を続ける。
「科学サイドと魔術サイドの関係は、世界情勢を見りゃ分かると思うが今非常に危ういのよ。
今は『イギリス清教』と学園都市は共同歩調を取っちゃいるが、それもいつ変わっちまうか分からねえのよな。
そうなりゃ当然あいつに会うことも難しくなるかもしれん。
勝負に出るならもう今しかねえのよ」
そっか。
そう五和は呟く。今は世界が魔術と科学に分かれての戦争が始まろうとしている状況下だ。
イギリス清教にコネクションを持つ彼も、所属しているのはあくまで学園都市。
戦争が始まれば、魔術側の人間である五和と袂を分かつときが来てしまうかもしれない。
「まあでも……もし上手くいってもあいつとそうやって会い辛い状況が来ちまうかもしれねえのよな。
それでもお前さんが構わないって言うんなら、俺も全力で協力するのよ」
言い難そうに建宮がそう付け加えた。
確かに、学園都市とイギリス清教の関係が崩れた時、仮にこの恋が上手くいっても彼と離れ離れになる可能性はある。
だが、五和は迷い無く頷く。
「いえ、行きます。行かせてください」
「想いも伝えずに長い戦いに臨むことなんてできない。そういうことよね、五和」
対馬の微笑みに、五和が深く首肯する。
「そうか。そういうことなら……」
建宮はフッと笑みを零す。
そして次の瞬間、彼はどこからともなくクイズ番組で使うようなフリップボードを取り出してちゃぶ台の上にドンッと立てた。
「じゃーん! 既に策は用意してあるのよ!
この建宮斎字が昨日寝ずに考えた最高に面白……素晴らしい五和の恋成就作戦なのよな!」
「なっ!」
口をあんぐりと開けて言葉を失った五和と対馬。
背の男連中が盛大な叫び声をあげて、そのフリップボードの前にすべりこんだ。
こんな面白そうなことを見逃してなるものかと。
どうやら建宮は五和の恋を成就させる作戦をあらかじめ考えていて、それをいつ実行に移すかを考えていただけだったようだ。
「ちょっとは見直した私が馬鹿だったわ……」
「建宮さん!作戦て何すか!」
「そいつはすげぇ! 早く聞かせてください!」
「落ち着くんだ牛深。ようし、順を追って説明してみろ」
「ふふーん、そうかそうかお前さん達も乗り気よな」
目を丸くして呆気にとらえている五和を他所に、男連中は異様な盛り上がりを見せている。
フリップボードにつらつらと書いてある文字を指差しながら、建宮は説明を始めた。
「まずは今回も敵の襲撃ということにして五和をあいつのところに護衛に派遣するのよな」
「確かに、それならアックアの時と同じで細かい説明は不要ですもんね!」
「そういうことよな。敵の名前は……まあ適当に『下方のヤミテタ』とでもしておくといいのよ」
ヤミテタ。右から読むとまんま『タテミヤ』だ。いくらなんでもすぐバレるんじゃないだろうか。
五和の隣では対馬がもう何も言えないという感じでため息をついて首を横に振っている。
「こいつがアックアの時みたく襲撃してくるってことにして、あいつの家に数日住み込んで既成事実を作っちまうのよ」
「き、既成事実っ!?」
五和が仰け反る。そもそもそんな大胆な行動が出来ていれば今頃こんなに悩まなくて済むはずなのだが、
彼女にはそれ以上に納得いかないことがあった。
「ちょ、ちょっと待ってください! いくらなんでもあの人を騙すような真似はっ!」
「なんだ、気に入らないか?」
「き、気に入らないという問題ではなくて、あの人に心配かけるようなことは駄目です!」
上条には嘘をつきたくない五和としては、その作戦はそもそも前提から賛同するわけにはいかなかった。
大体命を狙われているなんて嘘、冗談にしては少々タチが悪い。
同じように思ったか、隣で対馬も頷いている。
だが建宮は、五和に人差し指をビシッと突きつけて返答する。
「甘いのよ五和。お前さんそんなこと言ってられる状況か? 世界はお前さんの良心になんてお構いなく動いてる。
嫌ならこの話は無かったことにするのよ」
「ま、待ってください! 嫌なんて……言ってないじゃないですか……」
五和は懇願するようにそう言った。
方法はどうあれ、彼に会いたいという気持ちを抑え切れなかったのだ。
その様子に建宮は口元に笑みを滲ませる。
「仕方ない。じゃあ来るかどうかも分からねえ極秘情報を頼りに念のために来たってことにするのよな。
それなら後々やっぱ勘違いでそんな奴はいなかったってことにもできるのよ」
「な、なるほど……」
「ちょっと待ちなさい。彼の家には例のシスターの子もいるのよ。
既成事実はともかく、それじゃあ前回と同じで大して進展なんてないんじゃない?」
「対馬、お前さんはそんなだから恋人がいつまで経ってもできんのよ」
「んなっ! かかか関係ないでしょ!」
深々とため息をつかれて対馬が憤る。
思わぬところで自分に矛先が向いて、顔を真っ赤にして怒っているが、建宮はチッチッチと指を振って余裕の対応をして見せた。
「これはもう周知の事実だと思うが、あの嬢ちゃんはとにかくよく食う。
五和の特技は何だ? 牛深、言ってみるのよ」
「はあ、えっと。運転と家事全般……ハッ!そうか!」
何かに納得したように手を叩く牛深。諫早や香焼もなるほどと唸っている。
五和は対馬と視線を合わせて首を傾げるも、言わんとしていることが分からなかった。
「将を射んとするならまず馬を射るのよ。いいかよく聴け。つまりは―――」
そう言ってキュッキュッとフリップボードの裏にマジックで微妙なイラストを書きなぐっていく建宮。
こちらに向けたそれには、こんなことが書いてあった。
インデックス「わーお腹減ったんだよとうまー」
上条「すまねえなインデックス。上条さんお金がなくてご飯が買えないんだ」
インデックス「うわーん! ひもじいんだよー!」
五和「私に任せてくださいっ!」
上条「その声は、五和っ!」
五和「食材ならここにっ! 私が料理をしてお腹いっぱい食べさせてあげます!」
インデックス「五和すごいんだよー! とうまのお嫁さんになってくれればいいのに!」
五和「そ、そんな恥ずかしいっ!」
上条「いや、インデックスも気に入ってることだ。結婚しよう五和っ!」
五和「はいっ! 抱いてくださいっ!」
「―――と、こうなるわけよな」
ぱちぱちぱちと男性陣の中で拍手が巻き起こる。
五和が開いた口が塞がらなかった。
「ふざけんのも大概にしなさいよアンタらねえ! 五和は真剣なんだから、遊びでやってるんならやめてっ!」
とうとう対馬が怒って立ち上がる。
悪ノリが過ぎる男衆を睨みつけて本気で憤っているようだった。
だが建宮はまたしても真剣な表情になり、がなっている対馬を見上げて低い声で告げた。
「座れ対馬……俺はいつだってマジなのよ」
「何言ってるの!? そんな方法で上手くいくわけないでしょ!? 前回だって同じようにして……」
「分かってないのはお前さんだ対馬」
建宮は視線を逸らさない。フリップボードを床に立て、元教皇代理としてのカリスマ性を如何なく発揮して対馬を説き伏せる。
「あの嬢ちゃんを邪魔者扱いして、それであいつと五和の関係が上手くいくとでも思ってるのか?」
「じゃ、邪魔者扱いなんて……」
「上条当麻と禁書目録は切っても切れねえ関係よな。五和はそこに割って入ろうってのよ。
あいつとの良好な関係を築くには嬢ちゃんとも上手くやってかなきゃならねえ。
分かるな、五和?」
「はっ、はい!」
突如話をふられたので驚いて頷く五和。
確かに建宮の言っていることはその通りだった。
五和が学園都市の学校に通うただの学生だったのなら、インデックスのことは気にしなくたってよかったのかもしれない。
彼とは時間を決めて外で会うことなどいくらでも出来るし、いつだって会える。
だが、現実はそうではないのだ。
五和は魔術サイド、それもインデックスと近い組織に属している。
「あいつを手に入れて、あの嬢ちゃんを切り捨てるような結末は駄目だ。
それじゃ結局誰も幸せにはなれねえのよ」
それは上条にだって言えることだ。
彼もまたただの学生ではなく、インデックスとは運命共同体。
彼女の存在を受け止め、また彼女にもこちらの存在を理解してもらわなければ、上条と本当に深く付き合っていくことは出来ないだろう。
もちろん五和には始めからインデックスをどうこうするつもりなど無い。
だが改めて言われると確かにあの子のことを何も知らないのだなと思うのだった。
「それに前回と今回は違う。今回は別に敵が攻めてくるわけじゃねえからな。
そんなに長期間の潜入は無理だろうが、もう下地は充分に整ってる。
お前さんがあと少しだけ勇気を出してあいつに気持ちを伝えれば、短期決戦でも勝算はあるのよ」
不敵に笑う建宮。
正直ここまで真剣に考えてくれているとは五和も思っていなかった。
いつも応援してくれてはいるが、それは話のネタ半分で、自分の胸の痛みなど分かってないだろうなと思っていた。
しかしそうではなかったようだ。
建宮はインデックスのことまでしっかりと考えて、五和に決断を迫っている。
あの二人の間に割って入る覚悟はあるのかと。
五和はゴクリと唾を飲み込んだ。
酔いは急激に冷めていった。
あの二人の絆は生半可なものではないことは、五和にもよく分かっている。
それでも
「……分かりました」
五和は頷いた。
彼に対する想いが何よりも勝ったのだ。座して大人しく彼を待つ女ではなく、彼に挑んで飛び込んでいく女でいたいと思ったから。
「五和、いいの?」
「はい。皆さんにもご迷惑をお掛けしましたし、ここでスッパリと決着を着けたほうがいいと思うんです」
「五和、一応言っておくが、当たって砕けるなんて考えは捨てるのよな。
相手がアックアだろうと、上条当麻だろうと変わらねえ。
俺たちが戦場に向う時はいつだって全員で、勝って帰還しなくちゃならねえのよ」
建宮につられるように、周りの男連中も笑みを浮かべて頷く。
対馬も、一つため息をついて五和の肩に手を添えた。
「焦らずにね。ちゃんと伝えれば大丈夫よ。あなたは本当に素敵な子だもの。
あなたが選んだ男に、それが伝わらないはずが無いわ」
「対馬さん……」
最後には対馬も笑顔を向けてくれた。
五和は彼女の視線に力をもらい、もう一度建宮を真っ直ぐに見つめ返し、唇を動かす。
「建宮さん、みんな。私に力を貸してください!」
その言葉に、建宮はニヤリと雄々しく笑みを滲ませる。
「当然よな。お前さんのような奴に手を差し伸べることが、我らが女教皇の教えよ」
五和は久方ぶりに、彼の教皇代理としての表情を見た気がした。
それからほんの二日後、五和は建宮を始めとする数人と共に日本へと飛び立ったのだった。
―――――
事の顛末は以上だ。
五和がこの学園都市にやって来た理由としてはそれが全てだった。
つまり『下方のヤミテタ』などというものは存在せず、護衛というのも嘘っぱちで、彼に想いを告げるためだけにこの街に
再び足を踏み入れた。
建宮達とは学園都市に到着したときに別れ、どこかにしばらく留まる部屋を用意したらしい。
五和が困った時には助け舟を出してくれるようだった。
だからこそ五和には、インデックスがいない理由が分からない。
こんな作戦内容など聞かされていないから。
もしかして何者かに攫われたのではないだろうか。
不安が胸を掠め、きっと同じように思っているだろう上条もベッドに力なく座り込み、頭を抱えている。
「くそっ、どうしちまったんだインデックス」
「上条さん。辺りを探しに行きましょう」
「五和……」
五和が傍に寄り声をかける。
「目撃した人がいるかもしれませんし、どこかに寄り道をしている可能性だってまだあります」
五和がそう言うと、上条はハッとなって頷いた。
「そ……そうだな! 何を迷ってんだよ俺は。どうせその辺で道草食ってんだろ。行こう五和!」
「はい!」
彼は再び力強い視線で立ち上がる。
急いで玄関に戻って靴を穿いていると、先に外に出た上条がこちらを振り返って言った。
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