元スレ岡部「みんな俺から離れていく……」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★×9
1 :
買ったばかりの携帯から──
ピリリリリ
着信音。見覚えのない番号──
ピリリリリ
底知れぬ不安が思考を支配する。
出たくない。
ピリリリリ
だがそれが止まる気配はない。
意を決して指に力を込める──
ピッ
その瞬間、周りの景色が琥珀色に包まれ、ぐにゃぐにゃと揺れ始める。
平衡感覚は失われ、立っていられなくなり──
女性「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!? しっかりして!」
ごめん……なさい……。
Chapter 1 『分離喪失のデジャヴュ』
2 :
詠矢と同じ匂いがする
3 = 1 :
……熱い。
からだが──
あたまが──
煮えたぎる熱湯の中にいるみたい。
ボコボコと湧き上がる泡が産まれては消え、産まれては消え──
延々と繰り返される。
見覚えのない記憶の泡が産まれては消え、産まれては消え──
延々と繰り返される。
永遠にも感じられる時間。
まゆり……。
たすけられない?
このまましぬ?
熱はやがて引いていく。
今、深く暗い海の底にいる。
無意識に息が漏れる。また泡。
くりす……。
くりす?
くりすってだれ?
4 :
ほう
5 = 1 :
2000年 1月14日
岡部「……ぁ」
女性「あっ!」
岡部「あれ……」
女性「良かった。目を覚ましたのね、倫太郎くん」
岡部「……あ、叔母……さん? あれ……ぼくは……」
叔母「あなた一ヶ月も熱にうかされてて……もう大変だったのよ」
叔母「でも、もう大丈夫だからね」
岡部「ねえねえそんなことより聞いてよ!」
叔母「?」
岡部「夢を見たんだ、すごく長い夢」
岡部「ぼくが大人になるまでの夢!」
岡部「それでね? けんきゅうじょをつくって、色んな仲間もいて!」
岡部「それで……あれ?」
6 :
まゆりがリーディングシュタイナーを持っていたSSを書いた人?
7 :
ショタリン可愛い
8 :
続けて
9 = 1 :
岡部「ぼく……なんで泣いてるんだろう……。おかしいな、夢の話なのに……」
叔母「……大丈夫、叔母さんが付いてるから……」
岡部「ねえ……まゆりは? まゆりに会いたい」
叔母「まゆ……り? 誰かしら」
義叔父「友だちかなんかだろう」
叔母「でも、2000年クラッシュの直後だし……今は東京中が混乱してて……とてもお友達と連絡なんて……」
義叔父「日本──いや世界中も大混乱だ。そのせいで義兄さんたちの葬儀もいつになるか──」
岡部(そう……ぎ……?)
叔母「ちょっとあなた!」
義叔父「まだ8歳だ、葬儀の意味なんて分からんさ」
10 = 1 :
岡部「ねえ、お父さんとお母さん死んじゃったの?」
叔母「え、え!? す、少し遠くに行っちゃっただけよ」
岡部「今、そうぎって……」
義叔父「……っ」
岡部「うそだ、夢の中では二人ともずっと生きてて……」
岡部「うそだうそだうそだ……」
叔母「倫太郎くん……」
岡部「なんだよこれ……なんだよこれぇぇぇ!」
叔母「倫太郎くん……大丈夫、大丈夫だから……!」
12 = 1 :
2001年
~小学校~
少年「おかべって頭いいよなー」
岡部「そんなことないと思う」
少年「親がすぱるたなのか?」
岡部「いや、そういう訳じゃないんだけどさ。なんとなく解き方が閃くっていうか、覚えてるっていうか」
少年「またまたー、ガリ勉してんじゃねーのー?」
岡部「はは……」
13 = 1 :
青年「なあ……母さん、俺、あいつ苦手だよ」
叔母「あいつって誰よ」
青年「倫太郎。年下のくせに妙に落ち着いてるっていうかさ、なんか生意気」
叔母「あんたが子供すぎるの、中学生でしょ?」
青年「そうだけどさー……」
叔母「でも、もうちょっと子供らしくしてもいいのにねぇ……」
叔母「まだ私達に遠慮してるのかしら、もう随分経つのに」
叔母「少し可愛げないわよね」
岡部「……」
岡部(聞かなかったことに……)
ギッ
青年・叔母「!?」
岡部「……あ」
叔母「あ、や、やだ……いたの? あはは……」
岡部「……す、すみません」
14 = 1 :
2004年
~中学校~
少年A「なあ、数学の宿題見せてくれよー」
岡部「またか、いい加減自分でやってこいよ」
少年A「いいだろー? 岡部なら宿題なんてちょちょいのちょいだろ!」
岡部「……たく、仕方ないな」
少年A「へへっ、サンキュー!」
16 = 1 :
~トイレ~
少年A「ったくよー。岡部の奴、また宿題ガチでやってやがった」
少年B「空気読めってんだよな、全問正解とか怪しまれるっつーの」
少年C「つか、ズルでもしてんじゃね?」
少年A「なくはねーよなぁ」
少年B「それで調子乗ってるとしたら痛すぎだろ」
少年C「たまに予言じみたこと言うのも痛いよなー」
少年B「そうそう、あいつの口癖、”なんか見覚えがある”だからな」
少年A「いてーいてー! はははっ」
岡部「……っ」
18 = 1 :
TV「連れてなど行かせぬぞ! 貴様はこの私の人質なのだからな!」
青年「はははっ!」
岡部「……っ」
岡部「くだらない……ただの厨二病じゃないか」 ボソッ
青年「は?」
岡部「……何がマッドサイエンティストだ!」
青年「……なにTVにケチつけてんだよ」
叔母「ちょ、ちょっと……」
岡部「あ……いや……」
青年「意味分かんね」
義叔父「おいおい、食事中だぞ、二人とも」
岡部「……すみません」
青年「……」
TV「フゥーハハハ!」
19 :
この平然と少年とか出しちゃう感じ
20 = 1 :
岡部(なんだよ……何なんだよコレ)
岡部(デジャブってやつなのか?)
岡部(まゆり……まゆりは今どこで何をしてるんだ)
岡部「……」
岡部(眠れないな、トイレにでも行こう)
21 = 1 :
『もう限界だっつの』
岡部「……?」
『でもねぇ……』
『俺だって我慢してんの、でもあいつはいつまで経っても塞ぎこんだままだし、暗いし笑わねーし』
『今日の晩飯んときだって聞いたろ? 事あるごとにわけわかんねーことばっか言ってさ』
『そう言うな、倫太郎も両親を無くして辛い思いをしてきているんだよ』
『2000年を境に色々と変わってしまって、混乱してるのよ……』
『でももう4年だぜ!? 俺だって友達亡くしてたりなぁ!』
『最近は言わなくなったけど、最初の頃はまゆりがどーとかこーとか煩かったよな!』
『俺だって、あの頃は辛かったんだぞ!?』
『論点がずれてきている、ともかく倫太郎はまだ中学生だ、追い出すなんてとてもじゃないができない』
『そうよ、少なくとも中学卒業までは……ねぇ』
岡部「……っ」
岡部(俺の居場所は……ここじゃない)
岡部(学校にも……家にもないんだ)
22 = 1 :
2005年春
岡部「記憶を頼りに来てみたが……本当にあったんだな。来たことなんてないはずなのに……」
岡部「大檜山ビル二階……」
岡部「……空き部屋……か」
岡部「……ははっ、ははは」
岡部(ここに来ればまゆりに会えるんじゃないか、そう思ったんだけどな)
岡部(会えるわけがない。当たり前だよな……)
岡部(俺にはもう居場所もないし、家族も、幼馴染もいないんだ……)
男「おい、何してんだ店の前で。客か?」
岡部「え? あ、いや……俺は……」
男「んだよ、ガキか。客って訳じゃあなさそうだな」
岡部「俺はガキじゃ……」
男「ガキだろ、高校生……ってとこか?」
岡部「……中学生です」
23 :
ほう
24 = 1 :
男「マジかよ、にしては大人しいな。最近の中坊っつったらギャーギャーと騒がしいのによ」
岡部「……」
男「で? ここらじゃ見ない顔だし、うちの客でもないみてーだけどよ、なんの用だ?」
岡部「……ここの二階って、ずっと空き部屋なんですか?」
男「あん? そうだけどよ」
岡部「なんだかここ、すごく懐かしくて……俺の居場所だった……そんな感じがするんです」
男「居場所? 変なこと言うじゃねーか」
岡部「……俺には居場所がないんです、家にも学校にも」
男「なんだよ、家にも学校にもいたくねえってか?」
男「……なぁ、真冬のマンホールの中──いや、ガキにする話じゃねーな」
岡部「……」
男「……おめーどっから来たんだ? 家は?」
岡部「中野……いや、池袋」
男「池袋っていやー、2000年クラッシュで特に被害がでかかった……」
26 = 1 :
男「悪かったよ……」
男「……おめーみてーなガキにも色々あるってわけだな」
岡部「……」
男「俺は天王寺裕吾。おめー、名前は?」
岡部(てん……のうじ……)
岡部「岡部」 ボソッ
天王寺「あん?」
岡部「岡部……倫太郎」
天王寺「なんだと? 岡部倫太郎?」
岡部「……はい」
27 = 17 :
ミスターブラウン
28 = 25 :
鈴さん来てたのか
30 = 1 :
天王寺「なぁおめぇ、鈴さん……橋田鈴って知ってるか?」
岡部(はしだ……はしだ……すず……?)
岡部「聞いたことは……あるような」
天王寺「……そりゃそうだよな、仮に会ったことあるっつっても覚えてるわきゃねーよな……」
岡部「……?」
天王寺「いや、こっちの話だ」
天王寺「なあ岡部、おめー今日からうちでバイトしねーか」
岡部「え? バイト?」
天王寺「っつっても、まだ中坊だからよ、実質手伝いみてーなもんだ」
天王寺「もちろん謝礼もそれなりに出してやる。そんで、おめーが中学卒業したら、ここの二階、格安で貸してやるよ」
岡部「え……?」
32 = 1 :
天王寺「そうだな、家賃1000円でどうだ?」
岡部「……中学生の俺でも分かるくらい安いですよねそれ……。いや、それとも、一日1000円とかですか?」
天王寺「んなわけねーだろ、月だよ月」
天王寺「あぁ、後、ブラウン管ちゃんを壊したら、家賃アップな」
岡部「……」
天王寺「どうする? 自信なかったら断ってもいいんだがな。欲しいんだろ? 居場所ってやつが」
岡部「いえ、やります、やらせてください」
天王寺「へへっ」
チャリンチャリンチャリン ガコン
岡部「……?」
天王寺「ほらよ」
岡部「これって……」
天王寺「マウンテンジュー、ガキは好きだろ? こういうの」
34 = 1 :
岡部「だから俺はガキじゃ……」
天王寺「いいから飲んどけって」
岡部「……」
カチッ プシュ
岡部「……美味い」
天王寺「そうか、そりゃ良かった」
こうして俺は、手伝いとしてブラウン管工房に出入りすることなった。
とは言え、時代はブラウン管テレビよりも液晶テレビ。
工房の手伝いは忙しさとは無縁だった。
たまに来る貧乏そうなお客の接客の他は、店内の掃除、店長の娘である綯の世話ばかり。
それでも俺は、中野にある叔母の家に帰らない日もあるほど、この場所に入り浸った。
居場所を求めて。
記憶の奥底にある、この場所を──
Chapter 1 『分離喪失のデジャヴュ』END
36 = 1 :
Chapter 2 『焦躁のサクリファイス』
2006年 12月
天王寺「んじゃ俺はちょっと遠出するからよ、綯の世話と店番、頼んだぞ」
岡部「いってらっしゃい、店長」
天王寺「あ、言っとくが綯に手ぇ出したら殺す」
岡部「だ、出しませんよ……」
37 :
ほう
38 = 1 :
綯「ねーねー、バイトのお兄ちゃん、今日は何して遊ぶの?」
岡部「ごめんな綯、今日は店内の掃除しときたいから……」
綯「そっかー……じゃあ私、一人で遊んでるね」
岡部「ホントにごめんな」
岡部(物分りの良い子で助かる)
岡部「さて、と……」
岡部「よっ……」
岡部(TV重っ……)
39 :
ラウンダーになるお話か
40 = 1 :
天王寺「帰ったぞー」
綯「あ、お父さ~ん!」
天王寺「おー、よしよし、いい子にしてたか綯~?」
綯「うん!」
岡部「お帰りなさい、店長」
天王寺「おう、どうだ? 客は来たか?」
岡部「いえ、今日は一人も……」
天王寺「……かー、世知辛ぇなぁ」
岡部「それじゃあ俺、帰りますんで」
天王寺「おい、今日はうちで飯食って行けよ」
岡部「え、でも……」
天王寺「遠慮すんなって、シュークリームも買ってきてるしよ」
綯「わーい! ありがとうお父さ~ん!」
岡部「じゃあ、お言葉に甘えて……」
天王寺「んじゃ車用意してるから、店閉めといてくれや」
42 = 1 :
天王寺「しっかしおめーもたくましくなったな」
岡部「そうですかね」
天王寺「会った頃なんて、ひょろっひょろしてやがってよ。あー、おい、肉食え肉」
岡部「はい、頂きます」
綯「お父さん、シュークリーム!」
天王寺「おいおい、だめだぞ綯~、デザートは食後って決まってんだよ」
綯「え~」
岡部「はは……」
43 :
マッチョオカリンか
44 = 1 :
岡部「それじゃあ俺はそろそろ帰りますね、ごちそうさまでした」
天王寺「送ってってやるよ」
岡部「でも、そこまでして頂くわけには……」
天王寺「おめーの老け顔なら夜道歩いてても大丈夫だろうが、まだ中学生だろ? いらねぇ遠慮すんなって」
岡部「……はは、酷いですよ、それ」
天王寺「うるっせぇ、男はなぁ、ちょっとくれー老けてたほうが貫禄あんだよ!」
岡部(なるほど、そう自分に言い聞かせてるんですね)
45 :
見てるぞ
46 = 1 :
~車の中~
天王寺「ったく、また信号まちかよ……」
岡部「……」
天王寺「……もうすぐ高校受験だな、勉強はしてんのか」
岡部「いえ、あんまり」
天王寺「おいおい、高校浪人とかシャレになんねーからな、やっとけよ?」
岡部「大丈夫です、学校の授業はちゃんと受けてますし」
48 = 1 :
天王寺「まあ、落ちたときは正式にうちのバイトとして雇ってやるからよ、ははっ」
フラッ……
岡部「……っ」
天王寺「おい、冗談だよ、本気にすんなって」
岡部(あの……女……!?)
岡部「店長! ここまでで結構です!」
天王寺「あ、おい!」
ガチャ バタン
天王寺「おい、岡部! おめーどこに──」
49 :
いいぞ
50 = 1 :
岡部(さっき道を歩いてた女……どこかで……!)
岡部(どこだ、どこへ行った!)
岡部「はぁっ……はぁっ……」
岡部「くそ……どこに……」
岡部(見たことあるんだ……どこかで! 気になる……会って話がしたい……)
みんなの評価 : ★★★×9
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