元スレ唯「あずにゃん、エレベーター動かない…」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
51 :
ああ!りったん!
52 = 1 :
【2010年08月08日 04:15/平沢家 玄関前】
おはようございます!
わたくし桜ヶ丘高校三年、平沢唯です。
いつもは九時まで眠っている私ですが、今日はがんばって早起きしちゃいました!
だって今日は、念願のあずにゃんとの……
唯「あっあずにゃん、おはよー!」
梓「ひゃ!? もう、自転車止めるまで抱きつくの待ってください」
唯「待てないよぉ! だって、昨日の夜から楽しみにしてたんだよ?」
制服姿のあずにゃんを見つけて、気が付いたら抱きついちゃってました。
そんな私の腕をやんわりと外したあずにゃんはくすっと笑って、ちゃんと寝れたんですか、なんて聞いてきます。
当たり前じゃん…そう言おうとしたのに、
唯「あたり…ま……ふあぁあ…ん……」
あくびが出ちゃいました。
53 = 1 :
梓「日の出見るから早く寝てくださいって言ったじゃないですかっ」
小さい肩をちょっといからせてむくれるあずにゃん。
唯「ごめんあずにゃん、だってデートが楽しみで眠れなかったんだもん。あずにゃんは違うの?」
梓「なっ……私だってがんばって寝ました!」
あずにゃんは笑ってるのか怒ってるのかわからない顔でそっぽを向きます。
あは、かわいいな…! 私は思わず抱きしめちゃいました。ぎゅー。
梓「ごっ、ごまかさないでください」
唯「違うよ。素直になってくれないから、腕の中でちょーえき12秒の刑なんだよあずにゃん」
梓「……なんですか、それ」
むくれたあずにゃんも可愛いけど、十二秒経つころには……ほら。
やっぱりほほえんでくれています。
目を閉じてほほえみを浮かべて私の肩に頭を乗せるあずにゃんに、私もちょっと見とれちゃってました。
54 = 1 :
【2010年08月15日 04:15/平沢家 玄関前】
おはようございます!
わたくし桜ヶ丘高校三年、平沢唯です。
いつもは九時まで眠っている私ですが、今日はがんばって早起きしちゃいました!
だって今日は、念願のあずにゃんとの……
唯「あっあずにゃん、おはよー!」
梓「ひゃ!? もう、自転車止めるまで抱きつくの待ってください」
唯「待てないよぉ! だって、昨日の夜から楽しみにしてたんだよ?」
制服姿のあずにゃんを見つけて、気が付いたら抱きついちゃってました。
そんな私の腕をやんわりと外したあずにゃんはくすっと笑って、ちゃんと寝れたんですか、なんて聞いてきます。
当たり前じゃん…そう言おうとしたのに、
唯「あたり…ま……ふあぁあ…ん……」
あくびが出ちゃいました。
55 = 1 :
梓「――って! こんなことしてる場合じゃないですよ、早く行きましょう!」
いきなり大きな声で言われちゃいました。
えー? もうちょっといいじゃん、あずにゃん分は私の必須栄養素なんだよ?
梓「だーめーでーすー! 日の出の時間わかってるんですか?」
ええっと……日の出って何時だっけ?
梓「この辺りはこの時期だと五時ぐらいです。ビルまで自転車で三十分はかかりますから、急ぎましょう」
早口で言うとあずにゃんは自転車に乗り込みました。
私もあわてて自転車に飛び乗って、走り出したもう一台の自転車を追います。
後ろから眺めていると、二つに分けた髪が風に揺れて風鈴みたいできれいです。
私もロングヘアーにしてみよっかな。あずにゃん、気に入ってくれるかな?
56 = 1 :
携帯をちらっと見ると……現在時刻、04時30分。
新聞配達のバイク以外は誰一人いない明け方の街をあずにゃんと二人で走り抜けます。
空の色も少しずつ黒から青に変わっていき、砂金のようなに小さな星も自転車のライトの光も少しずつ薄まっていきます。
信号と電灯だけがぽつぽつと灯されたこの街は、そのときまるで私たちふたりのものになったように思えました。
――二人だけの世界も、悪くないかな。
そんなこと言ったら、りっちゃんたちに怒られそうだけどね。
梓「でも、起きててくれたんですね」
唯「へ?」
赤信号で止まってたら、突然話しかけられてびっくり。
梓「ほら・・・・今日、曇っちゃったじゃないですか」
唯「あ、うん…そだね。でもそれがどうしたの?」
梓「……私たちの目的忘れてませんか?」
唯「忘れてるわけないよ!」
っていうか、私なんだもん。
この街の高いところから、明けていく街を見下ろしてみたいなんて言い出したのは。
57 :
梓→唯はいいが唯→梓はピンとこない
58 = 1 :
昨日の帰り道のことです。
あずにゃんとふたりっきりになった時にこう聞かれました。
梓『唯先輩、みなさんってこれから毎日勉強会なんですか?』
唯『そうだよ、だって受験生ですもん!』
梓『…わき目もふらず、ギターにもさわらず?』
あの時も変にするどいあずにゃんでした。
しょうがなく私は白状します。
唯『ギー太は、ちょっと夜中にかまってあげたりしてるかな・・・・てへへ』
受験生なんだけど、やっぱ身体が覚えちゃってるんだよね。しょうがないよ、うん。
あー…あずにゃんに引かれたかな、ってそのときは落ち込んでました。
梓『はぁ…そんなことだろうと思いました。ちゃんと勉強もしなきゃダメですよ?』
やっぱり注意されちゃいました。めんぼくないな、私。
でも、そういうあずにゃんはなぜかちょっとうれしそうでした。
59 = 2 :
唯→○そのものがピンとこない俺も
唯→梓だけはガチだと信じてる
60 = 8 :
アニメは唯→梓要素が凄いじゃないか
もうちょっと梓→唯要素を直接的にしてくれたら完璧
61 = 1 :
梓『でも、学園祭のライブのことも忘れないでくださね?』
そのとき私に見えた夕焼け色のほほえみは、どこかさみしそうでした。
そっか……最後のライブだもんね。
それでうれしそうだったんだね、あずにゃん。
唯『大丈夫だよ、みんなとやる最後のライブ、絶対成功させるからね!』
言い切って、Vサイン。
あずにゃんはくすっと笑って、そしたら勉強の方を忘れそうですね、なんて言ってた。
本当にそうなりそうで今でもこわい…。
62 = 1 :
梓『でも、学園祭のライブのことも忘れないでくださいね?』
そのとき私に見えた夕焼け色のほほえみは、どこかさみしそうでした。
そっか……最後のライブだもんね。
それでうれしそうだったんだね、あずにゃん。
唯『大丈夫だよ、みんなとやる最後のライブ、絶対成功させるからね!』
言い切って、Vサイン。
あずにゃんはくすっと笑って、そしたら勉強の方を忘れそうですね、なんて言ってた。
本当にそうなりそうで今もちょっとこわい…。
63 = 1 :
唯『じゃあ、また今度ね!』
梓『……あの』
別れぎわ、私はあずにゃんに呼び止められます。
空はもう赤から青に変わり始めていて、家々の明かりがぽつぽつもれ出す頃でした。
梓『一日ぐらい、気晴らしにどっか出かけませんか?』
64 = 1 :
わーお……あずにゃんの方からデートのお誘いです!
昼間の暑くてだるい空気が一瞬で変わった気がしました。
なんだかあずにゃんの言葉が冷たくて甘いもののように感じます。
もしかして、あずにゃんの前世ってアイス?
梓『なんか変なこと考えてませんか? 唯先輩』
変な目でみられちゃった。
梓『憂が「お姉ちゃんをどっかに連れてってあげて」って言ってたんです』
私は勉強の邪魔だからって言ったんですけど、なんて言うあずにゃんがなんかわざとらしくて、
梓『ひとが真剣に話してるのになに笑ってるんですかっ』
……また怒られちゃった。
梓『それで唯先輩、なにか見たいものとか行きたいとことかありますか?』
65 = 1 :
唯『でもあずにゃんとデートかぁ……うーん、もうちょっと悩んでいい?』
梓『デートとか言わないでください! 気晴らしに二人で出かけるだけなんですから』
なんか恋人みたいで恥ずかしいですよ……あずにゃんはうつむきがちにつぶやいていました。
いいじゃん、一日ぐらい。……恋人に、なってもいいならさぁ。
デートに誘ってくれたのは、ほんとうにすっごくうれしかったです。
でも、夏休みはぜんぶ夏期講習か勉強会にするって決めていました。
受験生だから勉強が第一です。勉強以外のことは考えない方がいいって、澪ちゃんも言ってたもん。
それに……なんだろ。
あずにゃんといると離れられなくなりそうな気がして、ちょっと怖かったのかも。
66 = 1 :
私はちょっと考えて、一緒に日の出を見に行こうって誘ってみました。
梓『またずいぶん予想外ですね……でも、なんでですか?』
唯『ごめんね、一日中開いてる日はたぶん難しいんだ。だから、せっかくだし家の近くできれいなもの見たいなって』
一年ぐらい前、軽音部のみんなで初日の出を見に行ったのを思い出します。
あの時もあずにゃん、耳つけっぱで可愛かったな……。
梓『……わかりました。じゃあ、ちょうどいいとこがありますよ』
えっ? 初日の出のとき行ったあそこじゃないのかな。
梓『秘密の場所なんです。……まだ行けるかわかんないけど、すごく見晴らしがいいんですよ』
67 = 1 :
梓「唯先輩、着きましたよ」
昨日のことを思い出していたら、いつの間にか知らないところに着いていました。
目の前に建っているのは、住宅街から少し離れたところにある古びたビルです。
雨風にさらされて少し塗装のはげたそのビルは……なんだろう、人を寄せ付けない感じがします。
澪ちゃんが見たら怖がりそうかも。
唯「え……ここなの?」
梓「小学生のころ、この近くに住んでたんです。そのときこのビルの最上階でたまに景色とか見てたんです」
唯「友達とみんなで?」
梓「いや……ここに来るときはいつも一人でした。でも、本当の親友とか大事な子だけは内緒で連れてってあげたりしてたんです」
なんてったって、秘密の場所ですからね――いたずらっ子みたいな笑みを浮かべるあずにゃん。
でもそこに連れてきてくれたってことは……
梓「ああもうなんでもないです! 早く行きましょうよ」
そう言ってずかずかとビルに入っていくあずにゃん。
私は慌てて自転車をとめ、降りるときに自転車を倒しそうになりながらも追いかけます。
梓「もう、こっちですよ?」
エレベーターの中であずにゃんが手招きしてました。まねきあずにゃん、なんちゃって。
梓「……変なこと考えましたよね」
ええっ、なんで分かるの?!
68 = 1 :
梓「唯先輩の考えてることぐらい分かりますよ」
唯「ねぇあずにゃん、私ってそんなに分かりやすい?」
梓「うらやましくなるぐらい分かりやすいですけど」
あずにゃんがエレベーターでR階のボタンを押すと、ドアが閉まりました。
二人っきりの空間。……って、変な意識とかしなくてもいいのに、私。
私はエレベーターの手すりにもたれかかって、なんとなく天井を見上げます。
室内照明と、人が一人通り抜けられるぐらいの作業用の小さな扉だけがある、殺風景な空間です。
ここに何時間もいたいとはちょっと思えません。
梓「このエレベーター、夏場はすごく蒸し暑くなるんですよ」
唯「へー…なんで?」
梓「空調設備がうまくきいてないんじゃないですか? 誤作動とかも多かったらしいですし」
唯「ふーん」
っと、着きました。
69 = 1 :
エレベーターから出ると、下への階段とドアが一つ。
なんだか床がほこりっぽいので、早く外に出たいです。
あずにゃんはドアノブを上下にがちゃがちゃやって、下の方をごつんと少し蹴っていました。
梓「ここをこうすると開くんですよ、無用心極まりないですよね」
すごい、本当にドアが開いた!
私はあずにゃんが持つドアから勢いよく屋上に飛び出しました。
やったあ、一番乗り!
梓「あっ、そこ階段になってて危ない…!」
唯「えっ――きゃっ」
どてん。
思いっきり転んじゃった……。
71 = 1 :
唯「ったあ…!」
梓「まったくもう、人の話きかないからですよ」
うう……ぶつけたひざがちょっと痛いです。
キズにはなってなくてよかったけどね。
気を取り直して立ち上がり、私は空を見上げます。
唯「うわあ……なんか空が近い…!」
相変わらずくもったまんまでしたが、その分やわらかそうな雲が視界ぜんぶを満たしていました。
雨や雲が好きって言ったらりっちゃんが変な顔してたけど、なんだか包み込んでくれそうな雲も冷たい雨も嫌いじゃないんだよね。
私は屋上の向こう側に走り寄りました。
そこには――私たちの住んでる町がミニチュアのように広がっていました。
夜が明けてもまだ点いたままの街頭が星のように見えて、
でも車やバイクの音が高速道路の方から少しずつ聞こえて、
なんだか街そのものが朝になって目覚めようとしているみたいですごくドキドキしました。
72 = 1 :
梓「ここ……すごいですよね」
唯「そうだねぇ」
フェンスの網目の隙間に広がる街を眺めていたら、いつの間にかあずにゃんが居ました。
梓「高台で他に高い建物もなくて、街全体がこうして見渡せるんですよ」
唯「なんだか二人だけで、飛行船に乗ったみたいだね」
梓「……唯先輩らしい考えですね」
隣にいたあずにゃんが、くすくす笑っていました。
すぐそばでフェンスの網目をにぎる、小さな手。
私はそこに自分の手をなんとなく添えてみます。
その手はほんの少しだけぴくんと揺れて、でもそのまま網目を握りしめていました。
自分の手が、少しだけ汗ばんだ気がします。
梓「唯先輩」
73 = 1 :
ひとりごとのように私を呼んだあずにゃんに何かを言おうとして――何一つ言えません。
あずにゃんは――なにかすがるように、フェンスの向こう側を見つめていました。
私はそのとき、むかし憂と見た映画をなぜか思い出しました。
愛し合う二人が人種の差に引き裂かれ、離れ離れにさせられながらも求め合う……そんな話だったと思います。
映画の中で国家警察に連れ去られていく女の人の諦めたような諦め切れないような顔。
すぐ隣のあずにゃんにその顔を見出してしまって、怖くなって手を握り締めました。
――離れないで。そばにいて。ずっと抱きしめさせて。
――でも、ダメだよ。
――私たちは付き合ってはいけないんだ。
映画の台詞が、なぜかずっと頭の中に響くのです。
《答えは二人とも分かっていて、けれど口に出したら終わってしまうんだ。》
あの映画は、私とあずにゃんのことを言っていたんでしょうか…?
そんなことをしばらく考えながら、私は何も言えずに手を握っていました。
74 = 1 :
梓「曇ってて見れなかったし、そろそろ帰りましょうよ」
突然、振り切るようにあずにゃんが立ち上がりました。
唯「えっ――あずにゃん、まだ六時にもなってないしもうちょっと居ても…」
梓「こんな時間に変なとこに連れ出してすいませんでした。唯先輩も家に帰って、勉強会まで仮眠取ったらどうですか?」
唯「……うん」
立ち上がって距離をとったあずにゃんを、いつものように抱きしめようとして――なぜかできませんでした。
あずにゃんはあずにゃんなのに、私とあずにゃんの間に見えないカベがあるような気がして。
フェンスの手を離した瞬間から急速にあずにゃんが離れていくようで、
あの映画の女の人がひたすらフラッシュバックして、
せめて繋ごうと伸ばした私の手も、空に浮かべたまま動かせずにいたんです。
唯「そうだね、帰ろっか」
梓「受験勉強がんばってくださいね」
唯「仮定法が難しいんだよね、英語とか」
梓「授業ちゃんと聞いてたんですか?」
ありあわせの言葉で場の空気を埋めてみたって、はめこんだそばからこぼれていくような。
そう思うと自分がどうしようもなく無力に感じました。
いつしか蝉の声が響きだし、少しずつ暑くなっていきます。
私は太陽が雲に遮られているうちに、ドアの中へと戻りました。
75 = 1 :
気まずい空気のまま、私たちはエレベーターに乗り込みます。
メールでも見ようと思って携帯を開くと圏外になっていました。
誰かの送る電波すら届かない、二人っきりの場所。
なのにあずにゃんと私は違う人に感じて、狭い密室の中でも距離を感じていました。
梓「……唯先輩、ボタン押さないと降りられませんよ?」
唯「あ、そうだった。てへへ」
いろいろ考えごとしてて忘れちゃってた。
私はあわてて1階のボタンを押しました。
エレベーターが揺れだして、小さな引力を感じます。
5階、4階と階数が下がっていったその時。
突然エレベーターが音を立てて揺れ始めました。
78 = 1 :
梓「きゃ…!」
悲鳴を上げて私の肩に飛びつくあずにゃん。
急に体重が掛かってよろめいた私はなんとか手すりにつかまります。
エレベーターが振動で急停止しました。
私はあずにゃんの肩をぎゅっと抱いて、揺れが収まるのを待ちます。
唯「……だいじょうぶ?」
梓「はい…すいません」
揺れが収まった後もあずにゃんもしばらくそばにいました。
ほっと息をついて、私の胸に少しもたれるあずにゃん。
唯「地震、だよね?」
梓「こんなところで起きるとは思いませんでした…」
こわかったんだねー、よしよし。
元気になってほしくて、わざとあずにゃんの頭を子供みたいになでてみます。
……なのに、あずにゃんはそのまま私にぎゅっとしがみついたままでした。
正直、ひっぱたかれると思ってたのに。
本当に怖かったんだ……変なことしちゃったな。
私はもう一度、今度は本当にあずにゃんの小さな頭をそっとなでなおしました。
なんとなく、申し訳ない気分です。
79 = 1 :
梓「もう大丈夫です、取り乱してすみません」
唯「いーのいーの! あずにゃんは泣かない強い子だねぇ」
もう、子供扱いしないでください。
そう言ってむくれたあずにゃんを見て、ようやく安心できました。
唯「あ、じゃあうちでちょっと休んできなよ! いろいろあって疲れたでしょ?」
梓「そうですね。でも、突然押しかけて大丈夫なんですか?」
唯「うち今日、憂しかいないもん。あずにゃんだったらきっとよろこんでくれるよ!」
梓「いや、朝ごはんの支度とか……もういいです、行きますよ」
やっと自然にあずにゃんが笑ってくれました!
こっちも落ち着いたら、なんだかワクワクしてきちゃったよ。
あずにゃんと憂と、三人で朝ごはん! はーやく食べたいなっと。
私はエレベーターの1階のボタンをもう一度押しました。
唯「……あれ?」
80 = 1 :
ボタンの「1」のところのランプが点きません。
おっかしいなあ……もう一回、ぽちっとな。
ダメでした。
梓「ちょ…どうしたんですか? 唯先輩」
後ろから不安げな声が聞こえます。
私は何度もボタンを押しましたが……ぜんぜん動く気配がありません。
胸の奥に、いやな熱がともるのを感じました。
心臓が変にドクドク言ってる気がして怖くなります。
このまま――いや、そんなはずないよ。大丈夫だよ。
っていうか出ちゃえばいいよね、階段で行けばいいじゃん。
無理やり言い聞かせて、今度は「開」のボタンを押しました。
ボタンは……点きませんでした。
めまいを覚えました。
唯「……あずにゃん」
梓「なんですか? どうしたんですか、唯先輩?!」
これ以上あずにゃんを怯えさせたくなかったのに。
言いたくなかったけど、私は伝えました。
唯「……エレベーター、動かない」
81 = 1 :
またいったん休止
りっちゃんが学校着いたころ再開する
82 :
追いついた
期待
83 = 4 :
時間合わせてるみたいだからF5アタッコの影響が心配だけどがんばれ
84 :
このSS、誰か死んだりしないよな?
85 = 1 :
【2010年07月13日 8:0/桜ヶ丘高校 図書室】
澪「唯、遅いな…どうしたんだろう」
律「寝坊でもしたんじゃねーの? 唯ってそういうキャラじゃん」
そう言って澪の不安をわざと茶化してみる。
本気でそうは思ってないけど、胸の奥に変なものを残すのはいやだったから。
私は澪と片耳だけ入れたイヤホンが外れないように気をつけて鞄からチョコレートを二粒つまみ出す。
一個は私の口に放り込み、もう一つは澪の口元に持ってく。
律「ほら、ストレスにはポリフェノールでしゅよー澪しゃん」
澪「あのな……まがりなりにも学校の図書館だぞ? 今は私と律しかいないけど」
えーいいじゃん別に。誰も見てないんだぜ?
受験生向けに図書室が開放されてるってったって、日曜の朝も使ってるのはほとんど私たちだけなんだし。
澪「そう言ってこないだポッキーの袋落としてバレたんだろ、学習しろ」
律「澪って誰も見てない赤信号で止まって遅刻するタイプだよな」
澪「信号も見ないで突っ走ってひかれそうな人に言われたくない。ってか、遅刻は唯だろ?」
言ったそばから澪の唇が私の指からチョコをぱくっと奪い取った。なんだ、結局食べるんじゃん。
てーか話戻っちゃったし。ちぇ。
86 = 1 :
【2010年07月13日 8:00/桜ヶ丘高校 図書室】
澪「唯、遅いな…どうしたんだろう」
律「寝坊でもしたんじゃねーの? 唯ってそういうキャラじゃん」
そう言って澪の不安をわざと茶化してみる。
本気でそうは思ってないけど、胸の奥に変なものを残すのはいやだったから。
私は澪と片耳だけ入れたイヤホンが外れないように気をつけて鞄からチョコレートを二粒つまみ出す。
一個は私の口に放り込み、もう一つは澪の口元に持ってく。
律「ほら、ストレスにはポリフェノールでしゅよー澪しゃん」
澪「あのな……まがりなりにも学校の図書館だぞ? 今は私と律しかいないけど」
えーいいじゃん別に。誰も見てないんだぜ?
受験生向けに図書室が開放されてるってったって、日曜の朝も使ってるのはほとんど私たちだけなんだし。
澪「そう言ってこないだポッキーの袋落としてバレたんだろ、学習しろ」
律「澪って誰も見てない赤信号で止まって遅刻するタイプだよな」
澪「信号も見ないで突っ走ってひかれそうな人に言われたくない。ってか、遅刻は唯だろ?」
言ったそばから澪の唇が私の指からチョコをぱくっと奪い取った。なんだ、結局食べるんじゃん。
てーか話戻っちゃったし。ちぇ。
87 = 1 :
【2010年08月15日 8:00/桜ヶ丘高校 図書室】
澪「唯、遅いな…どうしたんだろう」
律「寝坊でもしたんじゃねーの? 唯ってそういうキャラじゃん」
そう言って澪の不安をわざと茶化してみる。
本気でそうは思ってないけど、胸の奥に変なものを残すのはいやだったから。
私は澪と片耳だけ入れたイヤホンが外れないように気をつけて鞄からチョコレートを二粒つまみ出す。
一個は私の口に放り込み、もう一つは澪の口元に持ってく。
律「ほら、ストレスにはポリフェノールでしゅよー澪しゃん」
澪「あのな……まがりなりにも学校の図書館だぞ? 今は私と律しかいないけど」
えーいいじゃん別に。誰も見てないんだぜ?
受験生向けに図書室が開放されてるってったって、日曜の朝も使ってるのはほとんど私たちだけなんだし。
澪「そう言ってこないだポッキーの袋落としてバレたんだろ、学習しろ」
律「澪って誰も見てない赤信号で止まって遅刻するタイプだよな」
澪「信号も見ないで突っ走ってひかれそうな人に言われたくない。ってか、遅刻は唯だろ?」
言ったそばから澪の唇が私の指からチョコをぱくっと奪い取った。なんだ、結局食べるんじゃん。
てーか話戻っちゃったし。ちぇ。
88 = 1 :
律「……ほら、今日って変な天気だし傘とか取りに戻ったんじゃないのか?」
言ったら妙に天気が気になって、なんとなく澪の背後の窓に目を向ける。
もやもやした雲が空を覆っていた。熱帯夜で汗を吸ったシーツのような、そんなしけった雲。
唯や梓は雨が好きって言ってたけど……私はやっぱ苦手だ、こういう日。
澪「そんなの唯は気にしないだろ。っていうか、律ぼーっとするなよ。手とまってる」
律「え? わりーわりー、だってこんな天気だとなんかアンニュイになってきちゃうじゃん?」
澪「律、アンニュイの意味わかってる?」
澪が少し吹き出す。
あっみおバカにしたなー、ゆるさんぞーっ。……ってな感じで場を持たせとけばいいかな。
律「うるせーし。だいたいアンニュイなんて言葉知ってるから澪とか梓はアンニュイになるんだよ」
澪「梓? ……ああ、そうかもね」
うわ、墓穴掘った。りっちゃん不覚。
昨日の話は持ち出さないって決めてたのに。
89 = 1 :
澪「……勉強しよ」
律「そうだな、受験生だしな、よく忘れるけどさ」
澪はなにも言わずに私のMDプレイヤーからイヤホンを引き抜いて、自分のiPodに差し替える。
律「あっボヘミアンラプソディまだ聞いてたのに! こっから展開変わって盛り上がるんだぞ?!」
澪「勉強には向かないんだよ」
機嫌悪いなー。っていうか、なんか話すの避けてる?
まあ、人のこといえないけど。
それから澪が再生したのはシガーロスの三枚目だった。Hoppipollaとか入ってるやつ。いや、嫌いじゃないけどさ……
律「これ、眠くならないか?」
澪「まだ勉強とか図書室とかに合ってるだろ。うるさいのはやだ」
ああそうですか。
フレディ、あの世で泣くぞ?
90 = 1 :
それからほんの数分はペンを走らせていられた、と思う。
私と澪はそろって世界史選択で、今は前近代のラスボスこと中国死、もとい中国史を復習していた。
もう中国史だけは死ぬ。漢字で死にまくる。
細かい年号の暗記から世界史に逃げ込んだってのにさ。
つーか「かんがん」とか「てんそく」とか書けるJKいるのかよ?
澪「ひらがなで答え書いてるといつまでも覚えられないぞ」
……いたし。目の前に。裏切られたし。
律「あーもう! 天気悪いし唯来ないしムギはフィンランドだし、やる気ぜんぜん出ねえ!」
澪「いつものことだろ、まったく…」
あーだめだ。勉強スイッチ完全に切れたわ。
91 = 1 :
ちまっこい漢字を書いて覚えるのにうんざりしてきたから、しばらく音楽に耳を傾けていた。
マイブラとかライドにも似た、澪いわく「ひたすら別世界に行けるような」曲調。
透明な空気をそのまま音にしたようなギターサウンドと、大地を駆け抜けるようなドラミング。
聴き入っているだけで行ったことも見たこともないアイスランドの景色が浮かぶ。
……のだ、そうだ。澪が言うには。
まあ私はもっとロックロックした曲のが好きだけどさ。クイーンとか。
律「シガーロスのボーカルって、ゲイらしいよ」
澪「……知ってる。それが?」
律「いや…意味はないけど。ただなんか……どっかのバンドマンが言ってたよ」
澪「なんて?」
律「同性愛者とか、性的マイノリティの生み出す楽曲はどうしようもなく素晴らしい、ってさ」
ボールペンを止めて澪が顔を上げる。はたかれると思ったら冷たい目を向けられて、言葉に詰まった。
律「…いや、勉強するってば」
私、逃げ足速いな……。
92 = 1 :
澪「唯、遅いな……。八時半になるのに、メール一つ来ないなんて」
五分ほど勉強を続けてた澪もさすがに手を止めてつぶやく。
同じこと考えてたらしい。さっきの話とは関係なく。さすが幼なじみ。
ふと、メールでも来てるかもしれないと思って携帯を開く。
ただいまの時刻、8時28分。新着メール、なし。
律「まさか。唯のやつ、まさか通学中に国道から不意に走ってきたトラックの――」
私の深刻そうな顔に、澪も思わず顔をひきつらせる。
胸の奥によぎった悪い予感をそのまま告げるべきか、一瞬迷った。
本当のことを言ったら、澪を傷つけてしまうかもしれない。
けれど――言うしかないんだ。
律「――トラックの運ちゃんに道聞かれて車乗って道案内してたりしてー!」
ぽかっ。
本日一発目、いただきました。いてー!
93 = 1 :
澪「あったけど! そんな話もあったけどさ! 今はそういう話をしてるんじゃない!」
そうそうあったよなあ、二年の時だっけ。
トラックの運転手に搬入先のデパートまでの道を聞かれて、そのまま乗り込んで道案内して高校に遅刻したのって。
唯いわく、「デパート前のバス停でバス乗れば間に合うと思ったんだけど、お財布忘れちゃったんだよねえ」と。
どんなお人好しだよ。いや、唯のそういうとこ割と好きなんだけどさ。
ってそんな話じゃなかった。ごめん澪。唯のことだよな。
澪「そういえばあのデパート、最近つぶれたらしいぞ? 不況のあおりって怖いな」
えっ、そっちの流れなの?
94 = 1 :
そうして唯のことを気にかけつつもチョコレートをほおばって澪と近所の商店街の衰退を嘆いてた頃、扉の開く音がした。
私は慌ててMDプレイヤーを右胸のポケットにしまってチョコレートの袋を鞄に押し込む。
憂「こんにちは、お勉強のお邪魔でしたか?」
なんだ憂ちゃんか、先生かと思ったよ。
澪「いや、邪魔は律からさんざんされてたから気にしないよ」
おい。
律「あ。そうそう憂ちゃん、唯のことなんだけど――」
憂「お姉ちゃん、トイレですか?」
96 = 1 :
澪「えっ? 唯、まだ来てないけど」
とたんに憂ちゃんの表情が曇る。
あれ、唯と何かあったのか?
憂「……お姉ちゃんまだ来てないんですか?」
律「来てない来てない。あっもしかして唯のやつ、寝坊して憂ちゃんとケンカしたのか? そしたら」
澪「やめろ律。それで唯のことなんだけど」
憂「お姉ちゃん、朝の四時半に梓ちゃんと出かけたっきり戻ってきてないんです」
言葉を失った。
窓の向こうで、蝉の音が悲鳴のように強く聞こえ出した。
97 :
くっ…
寝る、保守頼んだ
98 = 1 :
澪「……おい、律」
律「分かってる。ちょっと落ち着こうって」
落ち着こう、なんて口に出してしまうぐらい私も落ち着いちゃいなかった。
憂「お姉ちゃん、何かあったんですか?」
私たちの不安はすぐに憂ちゃんにも伝わる。
居ても立ってもいられず、かといってどこにも行けないような、そんな焦燥感。
それは次の言葉を見つけられないでいる私もたぶん一緒で。
澪「私も律も居場所までは分からないんだ。憂ちゃん、唯は梓と一緒にいるのか?」
憂「お姉ちゃんは、梓ちゃんと日の出を見に行くって言ってました!」
ひ、日の出?
唯らしい訳わかんない発想だな…。
澪「でも、それだったら今日曇りだし早く家帰ったり学校来たりしててもおかしくないよな」
澪の言葉が不安を増幅させる。
たぶん私はトラックとか縁起でもないこと考えてたせいで、変に杞憂してるだけなんだ。
そう言い聞かせて落ち着けようとする。
本当に気にかかってるのは別のことだったけど。
99 = 1 :
律「憂ちゃんの方にもメールとか電話とか来てないのか?」
憂「音沙汰ないです、梓ちゃんにも電話したんですが圏外みたいで――」
その瞬間、私の右太ももで携帯が振動しだす。
すぐに手を突っ込んで取り出す。
《着信 平沢唯》
考える間もなく通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。
澪「おい律、誰からかかってきたんだ?!」
律「ちょっと静かにしてろ! いま唯から――」
梓『り、律先輩ですか!? 私です!』
律「どうしたんだよ梓、唯はそこにいるのか? みんな心配して」
梓『エレベーターに閉じこめられてるんです、私たち!』
律「は?」
……は?
ええっ?!
100 = 1 :
梓『五時過ぎぐらいに地震ありましたよね? それでエレベーター止まっちゃって出られなくて、やっと電波つながったと思ったら』
律「落ち着け梓、今どこにいるんだ?」
梓『えっと……これ〈ピーッ〉明しま〈ピーッ〉助けをよんd』
律「おい、電波大丈夫か?!」
私の声は梓に届かず、通話は切れた。
憂「お姉ちゃんどうしたんですか、何かあったんですか?!」
血相を変えた憂が詰め寄ってくるけどそれどころじゃない。
私は梓にリダイヤルする。
《お掛けになった電話番号は、現在電波の――》
もう一度。
《お掛けに――》
くそっ! なんでつながんねーんだよ!
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