元スレ新ジャンル「常連客」
新ジャンル覧 / PC版 /みんなの評価 : ○
151 :
女(写真、写真。ちゃんと写ってるかな)
バサバサ
女(へぇー、わりとまともに撮れてる)
女(暗かったから心配だったけど、やっぱり50mmf1.4、奮発して買ってよかった。競馬場では使い道無いけど)
女(あはっ、AさんもBさんも笑ってくれてる。いいなぁ)
女(お店の様子もばっちりだし、あ、これDさんの手元かな。これはこれで渋くていいな)
女(うーん、店員さんがこっち向いてくれてる写真がないなぁ)
パサパサ
女「え?こ、これ」
女(私と店員さんの、写真・・・)
女(あの時、Dさんが写した写真・・・)
女(私だけじゃなくて、店員さんもちゃんと入ってる。綺麗な、構図)
女「すごい・・・」
女(これって、Dさんって、カメラにすごく詳しいんじゃ)
女(もしかして、レンズのことも分かってて。Dさん・・・)
女(あ、最後は記念写真だ)
女(うわぁ、みんな笑ってくれてる。Dさんも、あ、店員さんも!・・・よかった)
女(あ、私も、笑ってる・・・)
女(すぐ焼き増ししに行こう、いつ仕上がるかな)
152 = 151 :
女「こんにちは」
店員「おかえりなさい」
客A「やぁ、雪乃ちゃん」
客B「おかえりー」
女「あ、よかった、みなさん揃ってる」
客C「相変わらずさ」
女「みなさん、お待たせしてしまってすみませんでした。写真、持って来ました」
客A「おー、待ってたよ」
客B「どれどれ」
女「みなさんが写ってる分、焼き増ししてきましたので、はいCさん」
客C「お、ありがと」
女「これがAさん、こっちがBさん」
女「で、これがDさんです」
女「そして、これが店員さん」
店員「私の分もあるんですか?なんか、恥ずかしいですね」
女「そして、これが全部の写真です。後でみなさんで回してください」
客A「いやー、やっぱり照れるな」
客B「なんかAさんと一緒の写真ばっかりだな」
客C「うわぁ、なんかウチのに見せたら怒られそうだ。酔っ払いだな」
客D「ありがとうございます。いい写真ですね」
店員「私、仕事しているときってこんな感じなんですね。ありがとうございます、雪乃さん。大切にします」
女「いえ、へたくそな写真でごめんなさい」
女「それと、あの、これ」
ガサゴソ
女「記念写真、引き伸ばしてきました。4切サイズで、あの、安物ですけど、一応フレームも」
女「ちょっとみなさんが小さめだったので、大きくしました」
客B「おおー、すごい」
客A「いいなー、これ」
客C「飾ろうよ、ここにさ」
店員「いいですね。本当にいい写真です。飾りましょう、ここに」
女「飾ってもらえるんですか?よかった」
店員「もちろんですよ。また店がにぎやかになりました。ありがとうございます」
客C「あれ、そういえば、雪乃ちゃんの写った写真、記念写真だけだね」
客B「Dさん、撮ってたよね」
客D「・・・だめ、でしたか」
女「あ、いえ、違うんです、違うんです」
店員「?」
女「あ、あの、その、これです・・・」
153 = 151 :
客A「どれどれ」
客B「おおお」
客C「これは、また」
客D「・・・」
女「Dさん、ありがとうございました。すごく、いい写真だと思います」
女「私が写ってるのが、すごく恥ずかしいですけど、でも、すごく嬉しい写真です」
客D「いいカメラでしたから、それと、いいレンズでしたし」
女「!!」(やっぱり、Dさん)
店員「Dさん、ありがとうございます」
女「あ、この写真、店員さんの分です」
店員「え、雪乃さんの分は?」
女「私のは、もう、持ってます。大丈夫です」
客A「記念写真もだけどさ、これも引き伸ばせばよかったのに」
客C「そうだよな」
女「そ、そそ、それは無理です。さすがに恥ずかしいです」
店員「私も、かなり照れくさいですよ。勘弁してください」
客B「んじゃさ、オレにも焼き増ししてくれない?この写真」
女「え?え?どうしてですか」
客B「いやさ、オレも雪乃ちゃんの写真、1枚くらい持っていたいしさ」
客A「いいねー、オレも欲しいな。店員が写ってる部分はどうでもいいけど」
客C「オレも欲しい。ウチのに見せてやりたいな。怒られるかな」
女「わ、わわ、分かりました。みなさんの分、焼き増ししてきます」
客D「・・・あの、できれば、私の分もお願いできますか?」
店員「Dさん」
女「分かりました、来週持ってきます。あんまり他の人に見せないでくださいね」
客C「そういや写真代は?」
客A「おお、そうだ、忘れてた」
女「いえ、いいんです。みなさんにはかなりお世話になってますし」
客B「そういうわけにもいかないだろ」
客D「店員さん、雪乃さんにおでんを、ひとつ」
店員「はい、分かりました。今日は雪乃さんのメニュー、全部半額です。雪乃さん、写真、ありがとうございます」
女「え?いいんですか?そんなつもりじゃ」
客A「分かってるよ、雪乃ちゃん。じゃ、オレは、串盛り合わせ3人分、みんなにな」
客B「熱燗みっつと、雪乃ちゃんはライムサワー、薄めだっけ?」
客C「出遅れた。店員さん、なんか適当に」
店員「はい」
客A「さあ、飲みなおすか」
154 :
なんか、少しづつ雰囲気が出てきたなぁ
良い感じだなぁ
って言うか、競馬にカメラに深い知識を持っててびっくりだわ
趣味を生かした書き込み乙です
155 :
Dさんがながもんに見えてきた
156 :
女「こんにちは」
店員「おかえりなさい」
女「あれ、今日は誰も来てないんですね」
店員「その内来ると思いますよ。雪乃さんはいつものでいいですか?」
女「はい、いつものでお願いします」
店員「じゃ、ちょっと待っててください」
女「結局、誰も来ませんでしたね」
店員「そうですね。でも結構あるんですよ、こんなこと」
女「ふぅ」
店員「どうしました、元気ないですね」
女「い、いえ、たいしたことじゃないんです」
店員「やっぱり常連さんがいないと寂しいですか」
女「それもあるんですけど、昨日仕事で失敗してしまって、多分それで私」
店員「私でよければ、聞きますよ」
女「・・・ありがとう。熱燗でいいです?飲みながら聞いてもらえれば」
店員「はい、ご馳走になります」
店員「そうですか、失敗したのも辛いけど、フォローしてもらえなかったのも辛かったんですね」
女「私、職場でうまくいっていないから、どうしてもこうなっちゃうんです」
店員「職場の方とうまくいくようには、できませんか?」
女「でも、私、そういうの不得意だし」
女「いいんです。私にはココがありますから。だから、大丈夫なんです」
店員「・・・」
157 = 156 :
店員「・・・雪乃さん」
女「はい?」
店員「確かにこの店を特別に思ってくれている雪乃さんには感謝します」
店員「でも、それだけでいいんですか?職場でも笑っていたく、ありませんか?」
女「え?」
店員「以前に言ってましたよね、ここに入るのにすごく勇気が必要だったって」
女「え、はい」
店員「誰かと分かり合えるようになったり、どこかにいられるようになるためには、どうしても壁を乗り越える勇気が必要なんじゃないでしょうか」
女「でも、ここと、職場とでは、その」
店員「・・・すみません。職場のことも知らない私が、こんな無責任なことを言ってしまって申し訳ないと思います」
女「・・・」
店員「本当にすみません、なんか変な言い方になってしまいました」
女「いえ、そんな」
店員「あの、照れくさいですけど、正直に言います」
女「あ、は、はい」
店員「私はここで笑っている雪乃さんしか知らないんです」
店員「だから、常連のみなさんにとって、私にとって、雪乃さんは笑っている人なんです」
店員「ですけど、ここに来ることが出来るのは、週に2日だけです」
店員「残り5日が笑っていない雪乃さんだと思うと・・・」
女「・・・」
店員「私は、笑っている雪乃さんが、本当の雪乃さんであってほしいと思っています」
店員「すみません。こんな言い方、私の勝手な思い込みですね」
女「店員さん・・・私も、笑っている自分が本当の自分なのが、いいです」
女「私、決めてかかっていたのかもしれません。職場はうまくいかなくて当たり前だって」
女「そんなこと、決まっているはずないのに。ここにはじめた入った時の勇気を、思い出してみます」
女「今日はありがとうございます。愚痴まで聞いてもらってしまって」
店員「いえ、私こそ本当にすみません。私が勝手に思ったことなんです。いまさらではありますけど、あまり気にしないでください」
店員「・・・あの、最後に、いいですか」
女「はい」
店員「雪乃さんがその、職場でもうまくいくようになって、笑えるようになったとして、ですよ?」
店員「それでも、できれば、ここに通ってもらえますか?」
女「当たり前です。私はここの常連、なんですよね」
店員「はい、雪乃さんはここの常連です。安心しました」
女「安心、ですか?」
店員「え、あの、ほら、せっかく雪乃さんが来るようになってくれて、ここ明るくなったし、常連さんも楽しいそうですし」
店員「・・・その、私も、楽しいんです。ああ、酔っ払ってるのかな」
女「店員さん・・・」
そのころ隣の店では
客A「どんな話してんのかねー、ふたりで」
客B「たまには二人にしたら面白いって言ったの、Aさんだろ」
客C「店員も雪乃ちゃんも、オレらの子供みたいなもんだしな」
客D「なるようにしかなりませんよ。けど、うまくいくといいですね」
158 :
女「こんにちは」
店員「おかえりなさい」
客A「おかえり雪乃ちゃん」
客C「おかえりー」
女「あ、今日はみなさんお揃いですね。よかった」
店員「いつものでいいですか?」
女「はい、いつものでお願いします。どうしたんですかAさん?にこにこして」
客A「いやいや、今日、ちょっとみんなで賭けしてるんだ」
女「賭け事は競馬だけで十分じゃないですか。それで、何賭けてるんですか?」
客B「いや、後で教えるよ」
客C「それより座りなよ。まだ寒いだろ」
店員「はい雪乃さん、いつものです」
女「ありがとうございます。いただきます」
客C「で、どう思う」
客B「あの、袋の大きさは、やばいなぁ」
客A「オレ見た瞬間に勝ちを確信してるぞ」
女「どうしたんです、今日はなんか声が小さいですね」
客A「いやいやいや、今日も冷えるってね。寒いと声も、ね、ほら」
客C「ほら、声出してくぞ」
女「なんですか、それ。あ、それと・・・これ」
客A「!!」客B「!!」客C「!!」
女「バレンタインですから、これ、持ってきたんです」
客C「うっしゃ!」客A「うしっ!」客B「あああ」
女「どうしたんですか?甘いもの迷惑でした?」
店員「みなさん、いいかげんにした方がいいですよ」
女「え?」
159 = 158 :
女「それで、私が、バレンタインのチョコをみなさんに持ってくるかどうか、賭けていた、ということですか」
客A「ごめん、はしゃぎすぎた」
客B「悪かった」
客C「ごめんな」
女「あはは、みなさんらしいですね。気にしてません」
女「はいAさん、Bさん、Cさん」
客C「ありがとう」
女「これ、Dさん」
客D「私もですか。ありがとうございます」
女「それと、はい店員さんも」
店員「あ、ありがとうございます。いいんですか?」
女「当たり前じゃないですか。はい」
店員「どうも・・・って、みなさん、なに覗き込んでるんですか?」
客A「同じだよ」
客B「オレらのと一緒だ」
客C「あらら」
女「な、なな、なんですか。同じに、きき、き、決まってるじゃないですか」
店員「みなさん、いいかげんにしましょう」
女「ふぅ、それで誰が勝って、誰が負けたんですか?」
客A「オレと、Cさんの勝ち。あ、後、店員も、な」
店員「!!」
女「てて、店員さんまで!?」
店員「すみません!なんか、のせられてしまって」
女「今回はいいですけど、あんまり私を賭けの対象にしないでください」
店員「すみません」
女「あれ?Dさんは?」
客D「私、賭け事は競馬だけにしてるんです」
女「Dさんらしいですね。みなさんも少し見習ってください」
客C「かなわないなぁ」
女「結局負けたのはBさんですか。私がみなさんに持ってこないわけ、ないじゃないですか」
客A「いや、持ってこない方に賭けたんじゃないんだよ、Bさんは」
160 = 158 :
女「え?」
客B「店員だけに持ってきて、それでオレらがいるから渡しにくくて、オレらが帰った後に渡す」
女「な、ななな、なんですか、それ!!」
客A「まぁ、雪乃ちゃんの持ってきた袋の大きさで勝ちは見えたけどな」
客B「オレの読みが甘かったか」
女「いいかげんにしてください」
客C「ごめんごめん。ほらBさん」
客B「ほら、3人の分、3000円」
客A「店員、それじゃこれで、適当に見繕って」
店員「はい、用意します」
客C「結局、身内で賭けても、こうなるんだよな」
客D「私も、これを」
店員「どうしたんですか?1000円」
客D「私も読み間違えてました」
女「Dさんまで」
客D「冗談です。これで私も仲間に入れてください」
客B「さすがはDさんだ。店員、4000円分、適当にな。もちろん店員も食えよー」
店員「ありがとうございます」
客B「じゃあ、乾杯いくぞ」
客A「今日は何によ?」
客C「決まってるだろ。雪乃ちゃん、ありがとう!!」
「「かんぱーい」」
161 = 158 :
競馬談義中
客C「しかし富男も突然穴あけてくれるから、やりにくいよな」
客A「13番人気だったんだって?」
女「私、ユメノトビラ買ってました」
客B「なんで?」
女「名前が素敵だな、って」
客B「雪乃ちゃん、馬券当てる気あるの?」
女「どうしても、名前とか血統とかから買っちゃう癖があるみたいで」
客D「Aさん、ちょっといいですか?」
客A「おう、どうした、Dさん」
客D「雪乃さんのあの紙袋、まだ何か入ってますよ、あれ」
客A「・・・ああ、そういうこと、か。わかった。Dさん、Cさんに声かけといて」
客D「了解です」
客A「Bさん、ちょっと」
客B「ん、どうした?」
客B「店員、勘定頼むわ。オレ今日は帰らんと」
店員「早いですね。ちょっと待っててください」
客A「すまん、オレもだ。なんか酔っ払っちまった」
女「大丈夫ですか?Aさん」
客A「ああ、大丈夫、年をとると酒に弱くなっていかんな」
客C「オレも、今日、娘来てるんだわ。あがるよ」
客D「じゃあ、私もあがります」
店員「ありがとうございました。また来週」
女「お疲れ様でした」
客A「雪乃ちゃん、今日は本当にありがとな」
客B「味わって食べるよ」
客C「ウチのに見せ付けてやる」
客D「それじゃ」
162 = 158 :
女「今日はみなさん早かったですね」
店員「そうですね。でも、みなさん喜んでましたよ」
女「喜んでもらえたなら、なによりです」
店員「私も、久しぶりにこんなの貰いました。ありがとうございます」
女「ほんとうですか?結構貰ってるんじゃ」
店員「ほんとですよ。くれる相手なんかいません」
女「・・・そうなんですか。私も、渡す相手が、その、いなかったんです」
店員「あの、お付き合いしてる方とか、いないんですか?」
女「いるわけないじゃないですか。毎週土日、ここに来て、そんなの分かってるはずです」
店員「はい、分かってはいましたが、ちょっと確認してみました」
女「店員さん、意地悪いですよ。私もちょっと確認させてください」
女「店員さんは、付き合っているヒト、いるんですか?」
店員「はい、いません。言い切ります」
女「そうですか」
女「じゃぁ」
ガサゴソ
女「これ・・・」
店員「これ、バンダナですよね」
女「はい、店員さんの今してるの、もう大分古そうだったから」
店員「ありがとうございます」
店員「・・・ちょっと待っててください」
店員「してみました、どうです?」
女「こんなの買ったのはじめてでしたから、私、よくわからなくって」
女「でも、よかった。バンダナしてくれて。よく似合ってます。かなり贔屓目かもしれないけど」
店員「ありがとうございます。来週から早速、使わせてもらいます」
女「はい、受け取っていただけて、嬉しいです」
店員「今日は本当にありがとうございました」
女「ごちそうさまでした。また、来週ですね」
店員「ええ、また来週」
163 :
Dさんとフラグ立つかと思ったら違ったorz
でもこのオッサン達いいなぁーwwwwwwこんな飲み屋いいよなーwwwwww
164 :
女「こんにちはー」
店員「おかえりなさい。今日は早いですね、まだメイン前なのに」
女「ええ、ちょっといいことあって」
店員「どうしました?」
女「珍しく、大きいの取れたんですよ」
店員「それは良かった」
店員「お話は飲んでから、ほら、座ってください。いつもの、ですね?」
女「ええ、いつもので。でも今日は沢山いきますよ」
店員「ありがとうございます。少々お待ちください」
客A「やぁ雪乃ちゃん」
客B「よう」
客C「おかえりー」
女「あ、みなさんも今日は早いんですね」
客B「どうだった?」
女「今日はご機嫌です。久しぶりに奢らせてください」
客A「おー、豪気だねー」
客C「これ飲み終わったら、遠慮なくいただくよ」
店員「はい、お待たせしました」
女「ありがとうございます。みなさん、乾杯してもいいです?」
客B「おおお、珍しいね、雪乃ちゃんから言い出すのは」
女「たまにはテンション高いときもあります」
客D「せっかくですから。乾杯しましょう」
客A「おう」
客B「で、何に乾杯するの?雪乃ちゃん」
女「え、えと、あの、その、たまに馬券を取った私に、ではまずいですか?」
店員「いいんじゃないですか、たまになんですから」
女「あんまり、たまに、たまに、って言われるとちょっとひっかかりますけど」
客C「気にしなさんな。ほらいくよー」
「「乾杯!!」」
165 = 164 :
女「みなさんに、熱燗、えっと4本ですか、お願いします。私もライムサワーおかわりで」
店員「はい、わかりました」
客A「いやー、雪乃ちゃん、今日はほんとにご機嫌だね」
女「ええ、こんなに気分いいの、久しぶりです」
女「・・・あの、今、気づいたんですけど、みなさん、なにかおかしくありません?」
客B「ん?なにが?」
女「なんというかこう、にこにこ、というか、にやにや」
客C「そうかなぁ」
店員「ぷっ」
女「店員さんっ!?」
店員「い、いや、なんでもありません」
客A「雪乃ちゃん、今日馬券取ったんだよね」
女「え、ええ」
客B「いつもなら、どのレースで、どの馬でって、すぐに言うはずなのに、今日は言ってないよね、まだ」
女「え、あ、そういえば、あの、まだでした」
客C「当ててみせようか?」
女「え?え?」
客B「中山9R、クロッカスステークス、4歳オープン」
女「!!!」
客D「多分、雪乃さんの買い目は、いつもの馬券から想像して、単勝8番を1000円」
客A「配当は3万4千円か」
女「・・・はい、そうです。金額まで、ぴたりです」
客B「さすがはDさん。よく見てるわ」
女「だって、だって、私の名前で、しかも美人だなんて」
女「買って嬉しかったし、勝って嬉しかったし、でも、恥ずかしくて言えないじゃないですか」
女「うーーーー、恥ずかしい」
客A「雪乃ちゃん、これなーんだ?」
女「え?それ、私と同じ馬券」
客B「はい、オレもまったく同じ馬券」
客C「Bさんと同じく、単勝8番1000円」
女「えー?みなさん買ってたんですか?」
客D「私はビコーアルファー本命でしたので、外しました」
客B「Dさんは、相変わらず、ちゃんと馬券買うんだねぇ」
166 = 164 :
客D「でもなぜか、私も同じ馬券を持っています。ほら」
女「Dさん、まで・・・」
客D「応援馬券なんて、久しぶりです」
客D「気持ちがいいものですね。昔を思い出しました」
客A「いつになくDさんが語るねぇ」
客D「あ、いや」
女「みなさん・・・」
店員「あの、実は私も、持ってます」
女「店員さん」
客C「なにをいまさら、店員さんなら持ってて当然だろ」
客A「全然驚かないんだけど」
女「最初から、みなさん分かってたんですね」
客B「いや、みんなで示し合わせたわけじゃないんだよ」
客A「そうそう、店に来たとき、Bさん、Cさんが買ってるのは聞いたんだけど、Dさんと店員が買ってるのは知らなかったし」
店員「私は自信がありましたよ、みなさん買ってるって。さすがにDさんが買ってるかどうかは自信なかったですけど」
女「うー」
店員「雪乃さん、多分まだ馬券、換金してないですよね?」
女「ええ、明日コピーしてから換金しようか、って」
店員「今、換金してきますよ。もちろんコピーもとってきます」
店員「みなさんも馬券、預けてもらえます?」
客A「おう、頼むよ」
客B「はい、悪いね」
客C「のむなよー」
客D「お願いします」
女「えと、はい、それじゃ」
店員「じゃぁ、ちょっと待っててください。すぐ戻りますから」
167 = 164 :
店員「お待たせしました」
店員「みなさんの分の払い戻しと、馬券のコピーです。間違ってたら言ってください」
客A「おー、ありがとう」
店員「それとですね、実はコピーは2枚づつとってきたんです」
女「え?」
店員「この応援馬券6枚、そこの、この間、雪乃さんが持ってきてくれた記念写真と一緒に、飾りましょう」
客B「いいねー、いい考えだ」
客C「いいぞ、いいぞ」
客D「いい記念になりますね」
女「いいんですか?」
客A「ここの常連が、みんな同じ馬券を買ったのなんて、こりゃはじめてだよ。ほんとに、いい記念だ」
店員「じゃあ、飾りますよ」
女「みなさん・・・」
客B「というわけで、最初は雪乃ちゃんの奢りだったわけだけど、実のところ今日は全員が勝っていたわけだ」
女「みなさん、意地悪ですよ」
客C「お詫びにここからは、店員さん、なんでもいいから、じゃんじゃん持って来い!!」
客A「今日は飲むぞー」
店員「じゃあ、まずは乾杯からですね」
客C「ほら、恥ずかしがらずに。雪乃ちゃん」
女「・・・わかりました。じゃぁ、いきます」
全員「「ユキノビジンに」」
「「乾杯!!」」
1993年2月27日中山9Rクロッカスステークス(4歳オープン)芝1600m
この日、地方、岩手からの移籍後、中央初参戦した一頭の牝馬がいた。
綺麗な栗毛と、丁寧に編みこまれた美しいたてがみ。
10頭中、9番人気であったにも関わらず、その馬は、このレースを見事に勝利する。
この後、その馬は、1993年の牝馬クラシック路線を賑わせる、歴史に名を残すサラブレッドの一頭となる。
単勝8番、配当3430円、鞍上は安田富男。
馬名、ユキノビジン
その日、その馬の前途を祝うがごとく、府中の片隅に歓喜の声が鳴り響いた。
168 :
これって…実話か?
169 = 164 :
実話ではないですよ。
だけど、ディテールはかなり詳細なところまで、事実を拾ってきています。
170 = 164 :
というわけで、常連日常編、これで完了です。
次からは最終章、常連発動編なんですけど、ラストは決まっていますが、内容がまだ、ちょっと考えています。
競馬の話とかは簡単なんですけど、男女の機微は難しいものです。
172 :
女「こんにちは・・・」
店員「おかえりなさい。今日は随分早いですね。まだメイン前なのに」
女「ええ、ちょっと・・・、あ、いつもの、お願いします」
店員「・・・はい、お待ちください」
客A「やぁ雪乃ちゃん。早いね」
女「Aさんこそ」
客A「いやぁ、もうメインまで買い終わったからさ」
女「そうなんですか・・・」
客A「どうした?なんか元気ないぞ」
女「・・・ええ」
店員「お待たせしました。いつものです」
女「ありがとうございます。いただきます」
店員「雪乃さん、どうしました?今日は、本当に元気ないですよ?」
客A「馬券外したか?」
店員「体調でも悪いんですか?」
女「いえ、そうじゃなくて、あの・・・」
客A「話、聞かせてよ。どうしたのさ」
店員「・・・」
女「・・・私、転勤することになりました」
店員「!!」
客A「え!?いつさ?どこへ?」
女「4月からです。行き先は北海道支社」
客A「北海道!?」
店員「・・・」
女「私のいる会社が今度、北海道支社を立ち上げることになりまして、それで北海道出身の人たちが、かなり移動になるんです」
女「私も、北海道組ですし」
店員「・・・ずっと、北海道なんですか?」
女「分かりません・・・、でも多分、余程のことがないと、こっちには戻れないと、思います」
女「うわさでは聞いていたんですけど、まさかこんなに早く決まるなんて思ってなかった」
店員「・・・」
客A「その、転勤さ、断るわけにはいかないの?」
女「・・・無理です。私みたいな2年目に。ひとりですし」
女「一緒に行くチーフなんて、この間、お子さんが生まれて、こっちにマンションを買ったばかりで、それでも行くんです」
客A「そうか、会社員だもんな」
女「断ることって、辞めるのと一緒みたいなものです。昨日、辞令出ちゃいました」
店員「・・・もう、決まってしまった、ことなんですね」
173 = 172 :
客B「うーす」
客D「こんにちは」
店員「あ、おかえりなさい」
客D「どうしたんです?」
客B「ん?なにがだ、Dさん」
客D「いえ、なにか、深刻そうな感じで」
客A「・・・あのさ、雪乃ちゃん、4月に転勤なんだって、さ」
客B「ええっ!?」
客D「!!」
客B「え、え?どういうこと?」
女「4月から北海道に行くことになりました」
客D「・・・そうですか」
客C「きたよー」
店員「おかりなさい・・・」
客C「ん、どうしたの?みんな立ち上がっちゃって」
客A「あー、分かった。オレが説明するから、Cさんはそこ座って」
客B「じゃぁ、雪乃ちゃんがココに来れるのも、今月一杯なんだ」
女「そういうことになります」
女「あと、全部で、7回です」
客C「残念だ。ほんとに残念だ」
客D「残念、です」
女「ありがとうございます。みなさんには本当に良くしてもらって・・・」
客A「でも、ほらさ、今日で最後ってわけじゃないんだし」
客B「そうだよ。ほら後7回も来れるんだろ」
客C「オレ、なるだけ来るようにするから」
女「すみません、今日は帰ります」
女「暗い話しちゃってごめんなさい。私、明日からの残り、楽しみます」
店員「雪乃さん・・・」
女「ほんとうにごめんなさい、店員さん。ここを暗い場にしちゃって」
店員「・・・また、明日、来ていただけますか?」
女「ええ、もちろん。大切な一月にしなきゃならないですから」
店員「・・・はい」
女「あの、店員さん?」
店員「はい、どうしました?」
女「あ、あの・・・、いえ、なんでもありません。じゃあ、また明日」
店員「・・・ありがとうございました。また、明日」
174 = 172 :
女「こんにちはー」
店員「おかえりなさい」
客A「おー、来たな。雪乃ちゃん」
客B「おかえりー」
女「あ、店員さん。いつもので、お願いします」
店員「はい、いつものですね」
客C「今日はどうだった?」
女「またもやダメでした。サンドピープルが軸でした」
客A「そっかー」
店員「はい、お待たせしました」
女「ありがとうございます。いただきます」
客B「雪乃ちゃんと、こうして飲むのも、今日と、明日だけかぁ」
客D「Bさん・・・」
女「気を使わないでください。とりあえず乾杯しませんか?」
客A「いやー、今月何回乾杯したかなぁ」
店員「ほんとうに、毎回、最低でも3回以上は乾杯でしたね」
客C「アル中になるなよ、雪乃ちゃん」
女「あはは、すでにそうかもしれません」
客B「結構飲めるようになったよね?」
店員「最初はあんなに弱かったのに」
女「そうですか?あんまり意識してませんでした」
客A「ささ、本日1回目、やるぞー」
「「かんぱーい!」」
客B「明日はなに買うの?Dさん」
客D「まだ決めてませんけど、ラガーチャンピオンとかが面白いかな、と思ってます」
客C「聞いたか?またDさんの穴だ。みんな印付けとけよ」
客A「おうよ。雪乃ちゃんは?」
女「ナカミアンデス、かな」
店員「それもまた、穴ですね」
客B「でもなー、雪乃ちゃんの穴は根拠がなぁ」
女「そうです。名前が面白いだけですから。ほら、中身が餡です」
客C「たいやき、みたいだね」
女「でしょ、そこがいいんです」
175 = 172 :
競馬談義中
女「あはは、たのしかったですー、ほんと、たのしかったですー」
客A「4ヶ月ってとこか、オレも楽しかった」
客B「店が明るくってなぁ」
客C「雪乃ちゃん、オレらの娘みたいなもんだからなー」
客D「・・・」
女「Dさーん、しゃしん、ありがとうございました。あれ、すっごくたいせつにしてるんですよー」
客D「よかった。喜んでもらえて、私も嬉しいですよ」
女「てーいんさんもー、いっつも、おいしいとりかわ、ほんとに、おいしかったですよー」
店員「・・・雪乃さん。ありがとうございます・・・」
女「Aさんも、Bさんも、Cさんもー。たっくさん、ごちそーになっちゃって、ありがとーございました」
客A「お、おう・・・」
客B「Aさん・・・、明るく、さ」
客C「・・・」
女「ほらっ、かんぱいしましょー、もう、なんかいも、できないんですから、かんぱい」
客B「そうだな、ほら、乾杯するか」
店員「・・・待っててください。今、持ってきます」
女「てんいんさん、ほら、はやくー」
客A「店員、一緒に乾杯しよう」
店員「・・・ええ、そうですね」
客C「ほら、やるぞ。明日の勝利に、だ」
「「かんぱい!!」」
店員「雪乃さん、大丈夫ですか?」
女「だいじょうぶ、ですよ。うん、だいじょうぶ、です」
店員「あんまり無理して飲んだらだめですよ」
女「てんいんさん、さいごまで、やさしい、ですね」
店員「雪乃さん・・・」
女「・・・てんいんさん?」
店員「どうしました?」
女「・・・わたし、いきたくない」
店員「雪乃さん、そんなこと」
女「いきたくない!」
女「ほっかいどう、いきたくない。いきたくない」
客A「!!」客B「!!」客C「!!」客D「・・・」
女「ね?てんいんさん。いくな、っていってください」
女「おねがいです。行くなって」
女「行かないでくれって、言ってください!!店員さん。お願いだから」
女「私、店員さんが、店員さんのことが・・・」
176 :
店員「・・・雪乃さん」
女「っ・・・」
店員「なに・・・、言ってるんですか、雪乃さん」
店員「ほら、飲みすぎですよ」
店員「前に、言ったじゃないですか。ここでだけじゃなく、職場の人たちとも、仲良くやっていくんだ、って」
女「店員、さん?」
店員「ここは・・・、ここは、毎週土日の夢みたいなところなんです」
店員「現実があって、夢があるんです。現実を壊して、夢を見ても、いいことなんかありません」
女「店員さん・・・それが、答え、なんですか?」
店員「・・・それと、私は、ここを、この店を守るのが精一杯の、小さな人間なんです」
店員「雪乃さんのお気持ち、ありがとうございます。嬉しいです。ですけど・・・すみません」
女「・・・わかりました」
女「ごめんなさい。今日は、帰ります。明日、来ますから。最後の日だから、来ますから」
女「これ、お勘定です。じゃぁ」
店員「・・・」
客A「Bさん、Dさん、あっち。頼むわ」
客D「わかりました」
客B「Aさん、Cさん、店員な。締め上げとけ」
客C「まかしといてくれ、今回ばかりは厳しくいくわ」
客D「頼みます」
女「店員、さん、店員さん。どうして、どうして・・・、私、なんてことを」
女「わあああぁぁぁぁん」
隣の店員「ちょっと、店の前で、どうしたんですか?」
客B「隣の、ちょっとごめんな」
隣の店員「え?あ、Bさん」
客D「すぐ、すみますから」
客B「わりい、外のテーブル借りるよ。それと、熱燗ふたつと熱いお茶だ。それなら客だろ」
客D「無理言ってすみません。それとティッシュ、箱で」
隣の店員「うーん、わかりましたよ」
177 = 176 :
客B「雪乃ちゃん?大丈夫」
女「ごめんなさい。ごめんなさい」
客B「ほら、お茶飲みな」
女「・・・すみません」
客B「辛かったよな。楽しかったのかもしれないけど、その分、苦しかったんだよな」
女「・・・はい」
客B「お酒、強くなんか、なってないよな。楽しいって、思わなきゃならなくて、それで、飲んでたんだよな」
女「はい」
客B「店員な、ここらの店にしちゃ、若いだろ」
女「え、たしかに、そうかもしれません」
客B「あの店は、2代目なんだよ。先代は、店員の母親がやっていたんだ」
女「え?お母さん?・・・じゃあ、なぜ店員さんが・・・」
客B「4年前、だったかな、亡くなったんだ」
客B「父親を早くに亡くしていたから、店員、小さい頃から、あの店でうろちょろばかりでなぁ。オレらの子供みたいなもんだ」
客B「店員が大学出て、就職して、先代はそれをすごく喜んでた。その矢先だったよ。気が抜けたのかな」
女「・・・」
客B「それで、店員さ。店を継ぐって言い出して。職場も無理だから、辞めてさ」
客B「あの店、土日しかやってないだろ?当然それだけじゃ食ってけるわけ、ないんだよ」
客B「先代も平日はパートで、土日はあの店でって、店員と二人で生きてたんだ」
客B「店員もさ、平日は警備員のバイトやってるよ。そうやって、あの店を続けてるんだ」
女「そうだったんですか」
客B「ここからはオレの想像だけど、多分合ってる自信はある。店員とも付き合い、長いからな」
客B「もし雪乃ちゃんを引き止めて、雪乃ちゃんが今の職場を辞めちゃったら、生活、困るだろ?」
客B「かといって、遠距離恋愛っていうんだっけ?若い連中は。そうしようとしたって、休めない体だ、雪乃ちゃんに寂しい思いをさせる」
客B「そして店員が北海道に行こうにも、あの店を閉めるわけにもいかない。母親の形見みたいなもんだからな」
女「・・・」
客B「ま、そんなところだ。理屈っぽくて、店員らしい」
客B「それともうひとつ。店員、今の店を守るって意識が強いからさ、それと照らしあわてるのかな、雪乃ちゃんが一時の感情で今の職場を辞めるってのが、納得いかないんだよ」
客B「ま、そんなところだな」
客B「だけどな。オレらは、納得しないよ」
女「え?」
客B「それが今ここで、オレとDさんがここにいて、雪乃ちゃんと話してる理由だ。どんな理由であれ、善意であれ、理屈だって」
客B「雪乃ちゃんを泣き顔だけは、見たくないんだ」
178 = 176 :
客A「おい、店員」
店員「はい」
客C「わかってるんだろうな」
店員「・・・はい」
客C「確かに店員さんの言ってることは、その通りだよ。いかにも店員さんらしい考え方だ」
客C「雪乃ちゃんだって、北海道へ行って、幾らか泣けば、ふっきって普通の生活に戻れるだろうな」
客A「ここでオレらみたいな年寄りと、あんなに仲良くやれる娘だ。ちょっと勇気出せばどこでも明るくやってけるさ」
客A「だけどな。店員。おまえさん、オレらの雪乃ちゃん、泣かせたんだぞ」
店員「はい。そうです。その通りです」
店員「みなさんのお怒りはもっともです。私がもっとしっかりしてれば・・・」
客C「そうじゃねぇ!!」
客C「いい加減にしろ!そうやって取り繕うんじゃない。理屈だけか?悪いのは自分だけで十分です、か?」
店員「・・・じゃあ、どうしろっていうんですか!?」
店員「私には、この店も、雪乃さんも、選ぶことができない!!」
店員「だったら!雪乃さんはいいヒトです。ここにこれなくたって、必ず幸せになれます」
店員「そうして、私はここの店を守れば、それでいいじゃないですか。それじゃまずいんですか!?」
客A「久しぶりだな」
客C「ああ、久しぶりだ。店員が、そんな大声あげるの。なんか、懐かしいよ」
店員「Cさん・・・」
客A「おまえさん、店継いでから、頑張りすぎだよ。たまには昔の、やかましかった昔に戻れよ」
店員「Aさん・・・」
客C「それとな、店員さんの理屈には、気がついてるだろ?大きな穴があるぞ」
客C「店員さんの心は、どうなんだよ、痛まないのか?」
店員「・・・痛いです。こんなに痛いのは、母さんがいなくなったとき、以来です」
客C「そうか。痛いか。そうだろうな」
客A「なぁ店員、この店、大切か?」
店員「それは、それは当然です」
客A「店を継ぐって、なんだ?のれんを降ろさないことか?」
店員「それは・・・」
客A「先代が言ってたよ。この店では、自分が笑ってる、みんなが笑ってるってな。だからみんなも自分も笑えるんだって」
店員「!!」
客C「なぁ、店員さん。雪乃ちゃんがいなくなって、笑えるか?作り笑いじゃないぞ?笑えるか?」
客C「店を継ぐっていうのは、ただ店を開けることじゃない。思いを継ぐってことだ」
客A「この店の、ここらの店の、売りは何だ?みんなが笑う店だろうが、誰かが泣く店じゃない。笑えない店員がいる店で、みんなが笑えるか?」
客A「それとだな、気がついてるんだぞ。オレら、全員だ」
客A「おまえさんのバンダナってんだっけ?それ」
店員「気づいて、たんですか・・・」
客C「当たり前だろ」
179 = 176 :
客D「雪乃さん、2月14日、店員さんにバンダナ、渡しましたよね」
女「え?どうして、それ」
客D「みなさん、気づいてますよ。あの古いバンダナ、先代が店員さんに買ってあげたものなんです」
客D「店員さんが学生の頃でしたか、あんまり店を手伝う手伝うって、ね」
客D「それならって、先代が。嬉しそうでした。先代も、店員さんも」
客D「それ以来、ずっと。あのバンダナは、あの店と一緒に、店員さんにとって、数少ない母親の残してくれたものだったんです」
女「そんな、私、そんなこと知らなくて」
客D「雪乃さんのバンダナをしている店員さんを見て、驚きましたよ。同時に嬉しかった」
客D「やっと、店員さんが、私の息子みたいな存在が、雪乃さんを、私の娘みたいな方を受け入れたんだ、って」
客D「自分の母親と同じくらい、それ以上に大切なヒトを」
客B「Dさん?どうしたの、らしくなく、話多いぞ」
客D「今、いいコトを言っているところです。黙っていてください」
客B「ああ、はい、わかりました」
客D「雪乃さん、あなたは、店員さんにとって、そういう存在なんです」
客D「先代、店員さんの母親と同じか、それ以上の。店員さんにとって」
女「Dさん・・・私」
客D「ほら、あの店はまだ閉まっていませんよ。明日じゃだめです。今行かないと、だめですよ」
女「はい、もう一度行ってきます。Bさん、Dさんありがとうございます!」
客D「行きなさい、雪乃さん」
女「はいっ!!」
客D「Bさん、急いでお勘定お願いします。私は、見届けてきます」
客B「ずるいぞ。ちょっとまて、オレも行く」
隣の店員「あ、お勘定、ちょっとー」
客B/D「そんなもの、後でだ」
客A「ったく、オレらがどれくらい、店員のこと見てたと思ってるんだ?」
客A「母親のバンダナを外して、雪乃ちゃんのバンダナつけたんだろ、それが正直な心なんだろ?」
客A「いいか、嘘つくなよ。絶対に。店員、雪乃ちゃんの事、どう思ってる」
店員「・・・好きです。そうです、好きです」
客C「それは、雪乃ちゃんの転勤とか、自分の事情とか、そういうもので、消せるものなのか?」
店員「消せません。消せるわけ、ないじゃないですか」
客C「じゃあ。分かってるだろ。BさんとDさんが雪乃ちゃんの面倒みてる」
客A「ほら、行ってこい」
店員「はいっ、行ってきます!!」
180 = 176 :
女「あっ!!店員さん」
店員「っ!!雪乃、さん」
女「店員さん。店員さん。あの、私、私、店員さんが、店員さんのことが・・・」
店員「雪乃さん。私から言わせてください。私が言わなきゃいけないんです」
女「店員さん・・・」
店員「さっきはごめんなさい。雪乃さん、好きです。私は雪乃さんが、好きなんです」
女「・・・店員さんっ」
店員「仕事とか、お店とか、勝手なことばかり、すみませんでした。今はそんなことはどうでもいい。好きです」
女「私も、私も、店員さんのことが」
女「大好きです」
店員「雪乃さん・・・」
女「大好きです。店員さん」
181 = 176 :
客A「ふぅ」
客B「よう、Aさん、Cさん。言ってやってくれたかい?」
客C「おうよ。Bさんはいいやな、雪乃ちゃんと話できて」
客B「それがな、美味しいところDさんに持ってかれた」
客D「すみません」
客A「さすがはDさんだ」
客D「でも、いまさら言えたものでもないですが、無責任に炊きつけちゃって、よかったんですかね」
客B「いいんじゃないの。まずは、本当のコトを言うことからだよ」
客C「後はなるように、なる、ってね」
客A「若いってのは、いいなぁ。オレがあと30若かったら、雪乃ちゃんを泣かせなかったのに」
客B「ところでお二人さん、そろそろ、座らないかー?」
女「!!」
店員「!!」
客A「店の前でさ、夜はまだ寒いだろ」
女「え?なんでみなさん」
客C「なんで、じゃないだろ」
店員「あ、ああ、そういえば」
客B「こっちは最初からずっと、ここにいたんだけど」
女「そ、そそ、そうでしたよね」
隣の店員「それどころじゃないですよ」
店員「あ、隣さん!?」
隣の店員「あれだけ店の前で大騒ぎして、ここらの人たちがどうすると思います?」
女「あ、あああ」
客G「いやー。すごいもの見た」
客H「ねーちゃん、よかったなー」
客I「店員、うまいことしたなー」
以下略
女「あーーーーー」
182 = 176 :
客D「隣さん、これ」
隣の店員「あ、さっきのお代ですか。いいです。あんな面白いもの見せてもらえましたし」
客D「そうですか。今度、そちらにも顔出します」
隣の店員「ありがとうございます。いっそ、こっちの常連になりませんか?」
客D「そういうわけにはいきません。私は、ここの常連なんです」
隣の店員「そうですよね」
隣の店員「どうです?今日は、こちらと合同で、ってことで」
客A「いいねぇ」
客C「おっし、テーブル運ぶぞ」
女「な、そんな」
店員「・・・仕方ないですね」
隣の店員「売り上げは、折半ですよ」
店員「はい、わかりました」
客B「それと店員。今日はこれ以上、雪乃ちゃんに近づくなよ」
店員「え、どうしてですか」
客D「どうしてか、言わせたいですか?」
客A「雪乃ちゃんは、みんなの雪乃ちゃん、だからだよ」
客C「じゃあみなさん、グラスは行き渡ったか?」
客G「おー」
客B「いいぞー」
客H「そらこい」
客A「雪乃ちゃんと、店員に、だ。気合入れていくぞー」
「「乾杯!!!!」」
その日、府中、西門の片隅に歓声が沸きあがった。
普段なら、雑多な、とりとめのない、ノイズの様な声が、この日だけは一点を向いて。
小さな出会いは、小さな出会いを繋ぎ、少しだけ大きな輪を作る。
ここは、府中西門飲み屋街、アスファルトのグレーと、電灯のオレンジの彩る一角。
いつもの土日より、少しだけ長い喧騒がそこにある。
183 = 176 :
というわけです。後はエピローグとなります。
多分、明日の夜、書くと思います。
184 :
ちょっと感動しちゃったぜ…
185 = 176 :
ありがとうございます。書いたかいが、あるってもんです。
186 = 168 :
いや、感動した
続き楽しみにしとく
187 = 176 :
決まってるじゃないですか。最後は、ハッピーエンドです。
188 :
ごめん。泣いた
189 :
ありがとうございます。ほんと、このスレ見つけてよかった、って思っています。
190 :
文章書くのうますぐる…………
感動した
191 :
女「あ、えと、こんにちは」
店員「お、おかえりなさい。雪乃さん」
客A「おお、来たな」
客C「昨日はお疲れさん」
女「昨日は、本当にありがとうございました」
客B「年寄りのお節介だよ。でも、よかったな」
女「あ、はい・・・」
客A「ほら、照れるなよ、いまさら」
客D「立ち話もなんですから、座ってください」
店員「雪乃さん、いつものですか?」
女「はい、お願いします」
店員「お待たせしました」
女「ありがとうございます。いただきます」
客A「それじゃ、乾杯するか?」
女「あ、あの、その前に、いいですか?」
客D「・・・席、外しましょうか?」
女「いえ、いてください。みなさんにも聞いて欲しいんです。お願いします」
客C「わかった、聞くよ」
女「ありがとうございます」
女「私、やっぱり、今日が最終日です」
客B「えっ?」
女「私、北海道に行きます」
192 = 191 :
店員「・・・」
客D「決めたんですか」
女「はい。昨日帰ってから、それと今日一日、ずっと考えました」
女「店員さんと、その、昨日のあれ、私の思いが、その伝わって・・・あーやっぱり恥ずかしい」
客A「わかったわかった、それで?」
女「もう明日にでも辞表を出そうか、とか、そんなことを思ってたんです」
女「でも、よく考えてみたんです」
女「今いきなり職場を辞めたら、職場の人たちに迷惑をかけてしまいます」
女「こんな風に考えたのは、昨日、BさんとDさんから、このお店のお話を聞いたからだと思います」
客B「オレは、そんなつもりじゃ」
女「いえ、感謝しています。ほんとうに」
女「自分ひとりだけで生きているわけじゃないんです。誰かに大きな迷惑をかけて、それでこの店で笑っていることなんて、できません」
女「そんな勝手な生き方、いいはずありません」
女「ちょっと前までの私だったら、こんな考え方じゃなかったと思います。嫌だと思ったら、逃げ出していたと思います」
女「でも、みなさんと、店員さんと、沢山お話させてもらって。私、ちょっとだけ成長できたと思ってます。だから、すごく感謝しています」
客D「そうですか。でも、それにしても今日で最後というのは」
客C「そうだよ、休みとかにこっち来れば、いいじゃない」
女「ごめんなさい、最終日って言ったのは、そう言った方がみなさん、くいついてくれるかなって」
客A「おいおい」
女「私、休みには、なるだけ来るようにします。みなさんと、会いたいから」
客B「店員じゃなくって?」
女「なっ、あの・・・、はいそうです。店員さんに会いたいからです。でも、みなさんとも会いたいのも本当です」
女「そして、私、必ず帰ってきます」
女「きちんと仕事して、胸を張って帰ってきます」
女「もしどうしても転勤できなかったら、その時はこっちで別の職場を探して、そして帰ってきます」
女「もちろん、ちゃんと仕事して、ちゃんと引継ぎして、なるべく人に迷惑をかけないようにして」
女「店員さん・・・待っていて、貰えますか?」
193 = 191 :
客A「店員」
店員「あ、あの、雪乃さんの、決めたことです。いいと思います」
客C「ほら、違うだろ。昨日を思い出せ」
店員「・・・はい。正直寂しいです。でも、雪乃さんの考えたこと、私もそれが一番いい答えだと思います」
店員「待っています。雪乃さんが戻って来るのを、必ず待っています」
店員「それと、土日はここがあるから無理ですけど、私もどこかで北海道に会いに行きます」
女「店員さん。ありがとう」
女「私、寂しいですけど、心配はしてません。昨日と今日で、その、伝わりましたから。伝えてもらえましたから」
店員「雪乃さん・・・」
客B「そこで・・・ちゅう、しないの?」
店員「!!」
女「なっ!!」
女「す、すす、するわけないじゃないですか」
客C「雪乃ちゃんが24で、店員さんが26だろ?そんな恥ずかしがることもなぁ」
女「年齢の問題じゃありません。見世物でもありません」
客D「ほら、そろそろ座って乾杯しませんか?」
店員「そうですよ。座ってください、みなさん」
客D「それに、今日はカメラがありません」
女「Dさん!!」
客A「じゃあ、乾杯いくぞ!!音頭は、店員」
店員「はい。・・・雪乃さんの前途に」
客C「やっぱり当事者じゃ、だめか。雪乃ちゃんと店員さんの前途に、だ」
客D「ふたりに」
店員「みなさんに」
客B「この先もずっと、な」
「「乾杯!!」」
194 = 191 :
客A「今日さ、ここまで全然競馬の話してなかったな、そういや」
女「あ、そうだ、2着だったけどラガーチャンピオン来ましたね。Dさんはすごいなぁ」
客D「相手を間違えました。外しましたよ」
客C「あら、そうなの?オレ、昨日Dさんが押したもんだから、適当に流して取っちゃったよ。万券」
客D「店員さん。熱燗ひとつください。勘定はCさんで」
客C「わかったよ」
客B「西はガチガチだったしなぁ。極端だったよ、今日は」
客A「そういえば、来月だよね、桜花賞」
店員「ユキノビジン、出るでしょうね」
女「勝てるかな」
客D「わかりません。ベガは強いと思います」
女「私は、ユキノビジンの他だと、マザートウショウとマックスジョリーから買う予定です」
客A「2週間も前に買い目が決まってるあたり、雪乃ちゃんらしいな」
女「私、札幌で買いますから」
客B「こっちも買うよ。別の場所で応援してても、同じレースで同じ馬を応援するんだ。ちゃんとどこかで、繋がっているんだよ」
女「はい。そうですね」
客C「Bさんが、これまた、クサいことを」
競馬談義中
店員「雪乃さん。あの、これを受け取ってもらえますか?」
客B「それって」
女「店員さんの、お母さんの、バンダナ・・・」
店員「古くて、汚くて申し訳ないんですけど、できれば」
女「いいんですか?大切なモノじゃないんですか?」
店員「はい。とても大切な物です。だからなんです。私が雪乃さんに渡せるので、これ以上の物はありません」
客A「店員にしちゃ、上出来だ。雪乃ちゃん、受け取ってあげな」
客D「そして、それを持って、ここに帰ってきてください」
客B「待ってるからさ」
女「わかりました。ありがとうございます。とても嬉しいです」
客A「雪乃ちゃんが戻ってくるまで、こりゃ常連やめられないな」
客B「どの道いつも来てるくせに」
女「ほんとう。でも、病気とか怪我とかしないでくださいね」
客C「その前に馬でパンクしないようにしないと、な」
女「私も、気をつけます。切実かも」
店員「雪乃さん・・・」
195 = 191 :
客B「さ、名残惜しいが、そろそろおいとましよう」
客A「そうだな。雪乃ちゃん元気でやれよ」
客C「寂しいなぁ」
客D「お元気で、雪乃さん。戻ってくるのを、こっちで待っています」
女「みなさん・・・、本当にいろいろ、ありがとうございました」
女「私、私、みなさんに会えて、ほんとうに良かった」
客A「こっちこそ、だよ」
客C「雪乃ちゃん、あんたはオレらの娘だよ。自慢の娘だ」
客B「じゃあな」
女「また、また、お会いしましょう」
店員「・・・大丈夫ですか?」
女「ぐす、ぐす、ぐす・・・」
店員「どうぞ、お茶です。落ち着きますよ」
女「ぐすぐす、ありがとうございます」
店員「あー、照れますね、二人きりは、やっぱり」
女「何度もふたりで話しましたけど、やっぱり昨日の今日だと、ですね」
店員「みなさん、遠慮して早くに帰ったんでしょうね」
女「優しい人たちですね」
店員「昨日つくづく思いました。敵わないな、って」
店員「・・・雪乃さん」
女「あ、あの、えっと」
店員「!!」
女「どうしました?」
店員「まさかとは思いますけど、帰ったフリして、隠れているんじゃ」
女「まさか」
ガタン!!
店員「!!」女「!!」
客B「悪かった。ごめん」
客A「Bさんが隠れてようっていうからさ」
客D「人のせいにしない」
客C「本当に帰るから、今度は本当だから、ごゆっくりー」
女「たしかに、敵いませんね」
店員「格好いいんだか、格好悪いんだか」
女「店員さん?」
店員「はい?」
女「あ、あの、その、えっと、さっきの、つづき」
店員「・・・はい」
197 = 196 :
ありゃ?
200 = 191 :
客B「雪乃ちゃん、今日は馬券買ったの?」
女「ええ、ここに来る前に急いで」
客A「どうだった?」
女「システィーナ、から買っていたんです。惜しかった」
客C「また名前?」
女「はい、それとサクラユタカオーですし。栗毛も綺麗です」
客D「あの馬、結構強いと思いますよ。重賞も、もしかしたら届くかも」
女「そうなんですか。私、追いかけるつもりなんです」
競馬談義中
女「あ、そうだ、これお土産です。みなさんで食べてください」
客B「おおきい紙袋だなって思ってたよ」
客A「これ、なに?」
女「北海道名物、鮭トバです。おいしいですよ。店員さん、包丁借りますね」
店員「おつまみですか。営業妨害スレスレですよ」
客C「固いこというな」
店員「はは、冗談です」
女「そっか、あんまり考えないで持ってきてしまいました」
女「うーん、そうなると出しにくいなぁ」
店員「え?」
客D「まだ何かあるんですか」
女「これ・・・」
客A「日本酒だ」
客B「一升瓶で2本」
女「北海道の地酒で、国希って言います。私のお勧めです」
女「これはもう、完全に、営業妨害です、よね?」
店員「・・・」
女「すみません」
店員「はい。今日はもう売り上げ無視です。実は私も飲んでみたいし、食べてみたい」
客C「そうこなくっちゃ」
客B「店員、猪口6つ」
店員「はい、今行きます」
女「あ、私、つぎます」
その日、久しぶりの種類の喧騒が、その店に帰ってきた。
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