元スレ久「あんたが三年生で良かった」京太郎「……お別れだな」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ○
251 = 1 :
『お名前と連絡先、教えていただけませんかっ』
京太郎「うっ……」
『愛しています、京太郎様』
京太郎「こ、まき……」
『好き、好きなの……あなたが好きなの』
京太郎「うぁ……」
『お願い、今だけだから……明日からはいつもの私に戻るから……』
京太郎「お、れは……」
京太郎「――っ」ガバッ
京太郎「……はぁ、なんつー夢見てんだ」
252 = 1 :
霞「おはよう、今日は遅いのね」
京太郎「なんだよ、また勝手に入ってたのか」
霞「だってあなた、私が作らないとちゃんと朝ご飯食べないじゃない」
京太郎「ちょっとぐらいなら食べなくっても大丈夫だって」
霞「いいから食べて。もうできてるわ」
京太郎「ああ、いい匂いすんな……」グゥ
霞「お腹は正直なのね」クスクス
京太郎「別に食べたくないわけじゃないから」
霞「じゃあ用意しちゃうわね」
253 = 1 :
京太郎「ごちそうさま」
霞「おそまつさま」
霞「ねえ、今日は?」
京太郎「珍しいことに暇。たまにはごろごろしてようかな」
霞「そうね、ゆっくり休んで。家事は私がやっておくから」
京太郎「お前だって仕事あるだろ。いいよ、別に」
霞「今日はお休みなの」
京太郎「……あー、そうだったか」
霞「だから気にしなくてもいいの」
京太郎「じゃあちょっと出かけるわ」
霞「なら掃除しておくわ」
京太郎「だから、お前がそこまでする必要ないって」
霞「いいえ、だって私は――」
京太郎「ただのお隣さん、そうだろ?」
254 = 1 :
京太郎「だからさ、俺のことなんて気にしなくてもいいんだよ」
霞「……どうして、そんなことを言うの?」
京太郎「もう十分だってことだよ。いつまでも引きずってないで前を向かないとな」
霞「――いやっ!」
霞「あなたの口からそんな言葉聞きたくない!」
霞「あんなことになっても私を引き留めたのにっ、傍に置いたくせに……!」
霞「突き放すなら最初から突き放してよ!」
霞「それなら、私もあなたを……」フラッ
京太郎「おい、霞っ」ガシッ
霞「あなたを……諦められたのに」
京太郎「……もういいから。寝てろよ、顔色悪いぞ」
霞「……部屋に戻るわ」ヨロヨロ
京太郎「どうせ隣に戻るだけだったらここで休んでろ。俺はなんか買ってくる」
霞「あ、待って――」
京太郎「んじゃ、おとなしくしてろよー」バタン
霞「……ただのお隣さんだったら放っておけばいいじゃない」
255 = 1 :
小蒔「葉桜……」
『――っと、ギリセーフ……大丈夫か? お転婆姫さんよ』
小蒔「もう、随分前のことみたいです」
小蒔「そのころの私はまだなにも知らなくて」
小蒔「大好きな人たちと会えなくなるなんて思いもしないで……」
春「姫様、そろそろ」
小蒔「わかりました、今行きます」
春「……大丈夫?」
小蒔「春が心配するようなことはありませんよ」
春「そう……」
『関節キスは好きな人と、本当のキスは契りを結んだ殿方と』
小蒔「今なら、お母様の言葉の意味が分かる気がします」
小蒔「……本当に好きな人とは結ばれないから、なんですね」
小蒔「京太郎様、霞ちゃん……」
小蒔(小蒔は今日、夫婦となる殿方と顔を合わせます)
小蒔(……京太郎様以外の男性と)
256 = 1 :
巴「姫様の様子、どうだった?」
春「いつも通りに見えた」
巴「そう……」
春「でも、平気なはずない」
巴「……どうしてこうなっちゃったんだろうね」
春「そんな決まってる。……全部、あの人のせい」
巴「はるる、それは――」
春「私は絶対許さない……許せない」
巴「……」
巴(はるるがこんなに怒るなんて……)
巴(そっか、好きだったんだもんね)
巴(私も……)
257 = 1 :
初美「はいはいはーい、暇ならこっちを手伝うのですよー」
初美「ほら、はるるは向こう。明星たちがテンパってるのですよ」
春「ん、わかった」タタタ
巴「ごめんね、ちょっと姫様が心配で」
初美「それは無理もないのですよ」
巴「でも、はっちゃんは変わらないね」
初美「私まで沈んでたら、暗くてどうしようもないですからねー」
巴「……うん、そうだね」
初美「ささ、巴ちゃんは表のお掃除を手伝うのですよ」
巴「えっと、ちょっと難しいかな」
初美「まぁまぁ、サボりたい気持ちはわかりますがねー」
巴「そうじゃなくて、はるるが向こう行っちゃったから私が姫様についてないと」
初美「うげっ、じゃあ広い境内をひとりきりで掃除ですかー!?」
258 = 1 :
京太郎「引きずってないで前を向け、ね」
京太郎「……まぁ、自分のこと棚に上げないと何も言えなくなるよな」
「あら? たしかあなた石戸さんの……」
京太郎「えーっと、どちらさまでしたっけ?」
「やだもう、忘れちゃったの!?」
京太郎「んー……」
京太郎(いや、本当にだれだっけ?)
京太郎(というかこのおばさん、なんとなくうちの母親と同じにおいがする……)
京太郎(……母さん、元気かな)
京太郎「……そうだ、たしか霞の職場の先輩でしたっけ」
「そうそう、やっと思い出してくれた?」
京太郎「すいません、ど忘れしちゃってたみたいで」
京太郎(てか、一度ちらっと顔合わせただけだよな、たしか)
259 = 1 :
「霞ちゃん、無理しないようにちゃんと見ててあげてね。昨日だって大変だったんだから」
京太郎「昨日? なにかあったんですか?」
「フラフラしてたし、吐き気で食欲もなかったみたいなの」
京太郎「そんなに具合悪かったのか……」
「だからカレシのあなたがしっかり看病してあげること。いい?」
京太郎「彼氏じゃないです」
「そうなの? 時々一緒に帰ってるみたいだし、てっきり同棲してるものだと思ってた」
京太郎「昔からの知り合いで、今はただのお隣りさんですよ。親切にしてもらってますけど」
「えー? 霞ちゃんはあなたにラブだと思うんだけど」
京太郎「ははは、そんなまさか」
「さてはあなた……朴念仁で唐変木ね!」
京太郎「そんなわけ……」
京太郎(……ないわけないよなぁ)
「とにかく、霞ちゃんの気持ちにしっかり応えてあげること! それとも、カノジョさんいたりするの?」
京太郎「いない、ですね」
「じゃあなんも問題ないわね!」
260 = 1 :
京太郎(あるよ、ありありだよ)
京太郎(そもそも俺は……)
『……俺は小蒔と一緒に生きていくことにした』
京太郎(一回断ったようなもんだろ)
京太郎(そんな都合よくいってたまるか)
京太郎「すいません、買い物あるんでそろそろ」
「あ、もしかして霞ちゃんのお見舞い?」
京太郎「今朝も具合悪そうにしてましたから」
「やっぱり? じゃあお大事にって伝えておいてくれる?」
京太郎「もちろん」
「それと、風邪だったら誰かに移せばって言うし……ね?」
京太郎「……」
261 = 1 :
京太郎(ね? じゃねーよ)
京太郎(ホントこういう手合いは……)
「じゃあ、うちの本屋のアイドルをよろしくね」
京太郎「アイドル?」
「知らない? 霞ちゃん目当てのお客さん、結構いるんだけど」
京太郎「初耳ですね」
「うかうかしてたら取られちゃうかも……じゃあね~」
京太郎「……ま、その方が全然いいよな、今よりは」
京太郎「あいつにとっても、俺にとっても」
京太郎「だけど……もう半年か」
京太郎「潮時ってやつなのかもな」
262 = 1 :
『……俺は小蒔と一緒に生きていくことにした』
霞(わかってる。彼は小蒔ちゃんを選んだ)
『お前にだけは言っとかなきゃいけないと思ったから』
霞(やめて……そんなこと聞きたくもない)
『……さぁ、ここでサービスタイムだ。恨み言でも罵倒でも、なんだったら包丁まではギリオーケーだ』
霞(だけど、私は我慢して……)
霞(我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して――)
『お願い、今だけだから……明日からはいつもの私に戻るから……』
霞(――取り返しのつかない間違いを一つ、犯してしまった)
263 = 1 :
霞「んっ……」
霞(……寝ちゃってたのね)
霞(それにしても……)
霞「なんて、ひどい夢なの……」
霞「すごい寝汗……着替えたいわ」
京太郎「ほら、サイズ合わないだろうけど」
霞「どうしてここに……」
京太郎「自分の部屋にいるのは当然だろ」
霞「そう、だったわね」
京太郎「具合は?」
霞「平気よ」
京太郎「本当か? お前の先輩に昨日も具合悪かったって聞いたけど」
霞「……だから今日はお休みになったの」
京太郎「なるほど、休まされたのか。お前の平気、大丈夫は信用できないからな」
霞「あなたも人のことは言えないじゃない」
京太郎「自分のことは棚上げしなきゃ、なんにも言えないからな」
霞「呆れた開き直り……」
京太郎「それよりも飯とシャワー、どっちにする?」
264 = 1 :
霞「ごちそうさまでした」
京太郎「おそまつさまでした」
京太郎「はは、今朝とは逆だな」
霞「ごめんなさい、あなたの手をわずらわせてしまって」
京太郎「いいって。普段世話になってるし、それに料理も久しぶりで楽しかったし」
霞「でも私は……」
京太郎「はい、ここでデザートの登場だ」
霞「あなたに対してもとても償いきれない――むぐっ」
京太郎「いいからオレンジ食え」
霞「……しゃべらせてくれてもいいじゃない」
京太郎「今日のお前は辛気臭いことばっかだしな。……それに、そもそも悪いのは俺だから」
霞「それは――むぐっ」
京太郎「はいもう一個ぉ」
265 = 1 :
初美「うへぇ……やっと終わったのですよ」
初美「まったく……こーんな広いところを一人で掃除しろとか、罰ゲーム以外の何物でもないですねー」
久「やっほー、元気してた?」
初美「あれれ、お久しぶりなのですよ」
久「久しぶり。他の人たちは?」
初美「中ですね」
久「じゃあちょっと上がらせて……って、いきなりアポなしで来ちゃったけど大丈夫?」
初美「思いっきり来客予定があるのですよ」
久「あらら、我ながらバッドタイミングね……それじゃ、手短に挨拶だけにしようかな」
初美「えーっと、それは、なんといいますか……」
久「京太郎たち、いるんじゃないの?」
初美「……もういないのですよ」
久「もしかして出かけちゃった? あちゃー、本当にタイミング悪いわねぇ」
初美「……」
266 = 1 :
初美「もう帰っては来ない、という意味なのですよ」
久「えーっと、浮気でもして追い出されたとか?」
初美「……」
久「え、やだ、黙らないでよ。本当にそうなの?」
初美「それは……」
久「はぁ……まぁいいや。じゃあ神代さんに聞いてくる」
初美「ダメなのですよ」
久「しょうがない……じゃあ大人しく帰って――」
久「――やるわけないでしょっ」ダッ
初美「あっ、待つのですよ!」
久「そう言われて待つ奴なんているわけないでしょ!」
初美「たしかに!」
267 = 1 :
『ごめん、俺にはもうここにいる資格がないんだよ』
『それでもっ、私は京太郎様と……!』
『……ホントごめんな、小蒔』
小蒔(あの時、無理にでもついていけたら)
小蒔(お母様の言いつけを破ってでも、外に出ていっていれば)
小蒔(私は、今も京太郎様と……)
『霞ちゃん……』
『みんなのこと、お願いね』
『……はい』
小蒔(一人で背負いこんでいることには気づいていたはずなのに)
小蒔(聞きたいことがあったはずなのに)
小蒔(それとずっと向き合わないまま、私は……)
268 = 1 :
『こらー! 観念するのですよっ』
『あーもう、しつっこいわねぇ!』
巴「あれ? はっちゃんと……だれ?」
小蒔「だれか、来客でしょうか?」
巴「なんだか聞き覚えのある声のような」
久「お邪魔します!」
巴「た、竹井さん!?」
久「京太郎、どこ行った――うわっ」
初美「やーっと捕まえたのですよ!」
久「ちょっと、放してよ……!」
初美「放せと言われて放す奴はいないのですよ!」
久「さっきの意趣返しかっ」
初美「その通り!」
269 = 1 :
巴「えっと、何事なのかな?」
初美「不法侵入なのですよ!」
久「そっちがはっきりしたこと教えないからでしょ!」
久「一体京太郎に何があったっていうのよ!」
巴「えっと、それは……」
久「ほら、口つぐむ」
初美「とにかく、今日はお客さんが来るからもう帰るのですよっ」
小蒔「二人とも、下がってください」
巴「……わかりました」
初美「むぅ、姫様がそういうなら」
270 = 1 :
久「それで、なにがあったの?」
小蒔「あの二人……京太郎様と霞ちゃんは、問題を起こして追放された……それだけです」
久「問題って?」
小蒔「お答えできません」
久「あのバカが石戸さんと浮気したとか?」
小蒔「お答えできません」
久「……しばらく会わないうちにすっかり他人行儀ね」
小蒔「……今までがおかしかったんだと思います」
小蒔「あの夏の日に、あなたたちを迎え入れなければ」
小蒔「私は恋も嫉妬も……なにも知らないままでいられた」
小蒔「……お引き取りください。もう話すことはありません」
久「そうね……だけど一個だけ言わせて」
久「悲劇のヒロイン気取り?」
久「自分からはなにもしようとしないで被害者面?」
久「要するに諦めたんでしょ。あいつのことも石戸さんのことも」
久「アホらしい……こんな女に取られたなんてね」
久「それじゃ、さようなら。なんにもできないかわいそうなお姫様」
小蒔「帰って! 帰ってください!」
久「言われなくても!」
271 = 1 :
久「あーもう、むしゃくしゃする……!」
久「信じて送り出した幼馴染が行方不明って? しかも破局してるし!」
久「こんなことならもっと……」
初美「ちょっと待つのですよー」
久「なに、お礼参り?」
初美「どこの不良ですか」
久「違うの?」
初美「ちょっと姫様のフォローをと」
久「……まあ、こっちも多少八つ当たりは混じってたけどね」
初美「やっぱり。フラれた女の未練は――いひゃいいひゃい!」
久「喧嘩なら買うわよ?」ギリギリ
272 = 1 :
霞「……」ムスッ
京太郎「まだ怒ってるのかよ……悪かったよ。たしかにあのオレンジはちょっと酸っぱかった」
霞「……オレンジはおいしかったわ」
京太郎「じゃあなに、問答無用で口に突っ込んだことか?」
霞「……」
京太郎「やっぱそれかぁ。無理やりはよくないよな、うん」
霞(違う、そうじゃない)
霞(私が何よりも許せないのは、自分)
『自分のしたことの意味、わかっていますね?』
『……はい。どのような罰も甘んじて受け入れます』
『ならば、ここを去りなさい。それがあなたに与える罰です』
『わかり、ました』
霞(現状に、幸せを感じてしまっている自分が許せない)
霞(私のせいでなにもかも壊れてしまったのに)
霞(それなのに、どうしてこの人は……)
273 = 1 :
霞「どうして、あの時私を引き留めたの? 私なんてほうっておけばよかったのに」
京太郎「あのなぁ、あんな糸の切れた凧みたいなやつ、放っておけるわけないだろ」
霞「……そうね、あなたはそんな理由で無茶をする人だったわね」
京太郎「……あとはさ、居場所がほしかったんだよ」
京太郎「あそこにいられなくなって、今更帰るわけにもいかなくてさ」
京太郎「じゃあ俺はどこに行ったらいいんだろうって」
京太郎「そしたらお前が隣にいて……よし、こいつのために頑張ってみようって」
京太郎「……いや、結局は自分のためだな」
霞「自分のため……」
京太郎「ああ、思えば強引につき合わせちゃってたよな」
霞「それで、あんな倒れるまで無理して働いて……」
京太郎「……二部屋分の家賃はさすがに失敗したと思ってるよ」
霞「同じ部屋でも構わなかったわ」
京太郎「それでも線引きはいるだろ、やっぱり」
霞「今は、必要?」
京太郎「……霞」
274 = 1 :
『それでもっ、私は京太郎様と……!』
京太郎「悪い、まだ……」
霞「……でも、あなたは私を傍に置いた」
京太郎「ああ」
霞「私を、必要としてくれたのよね?」
京太郎「そうだよ」
霞「そう……」
霞「今日は帰るわ……また明日」
275 = 1 :
『あなたは、あの子の傍にいる資格を失った』
『……』
『その意味はわかりますね?』
『……はい』
『それならば、早いうちに去ることです。……これ以上辛くなる前に』
『お世話に、なりました……』
『……結局、こうなってしまうのですね』
京太郎「……俺は、もうあそこには戻れない」
京太郎「小蒔と一緒にいる資格も、ない」
京太郎「ここが俺の今の居場所」
京太郎「そしてここにはあいつが、霞がいる」
京太郎「それなら、このままあいつと……」
『私も……愛しています、京太郎様』
京太郎「――っ」ダンッ
京太郎「どんだけ未練ったらしいんだ、俺はっ……!」
276 = 1 :
『そしたらお前が隣にいて……よし、こいつのために頑張ってみようって』
霞(……もし、許されるならこのまま)
霞(過去を全部捨てて、彼と一緒にいられるなら……)
――ピンポーン
霞(来客? こんな朝早くに)
霞(彼は仕事に行ったし……)
『あれ、こっちも留守?』
霞(この、声は……)
277 = 1 :
久「えーっと、ここかな?」
久「……うん、住所も建物の名前もあってる」
久「201は……あった」ピンポーン
久「……出ない」
久「まぁ、働いてるならしょうがないか」
久「じゃあ次は隣ね」ピンポーン
久「あれ、こっちも留守?」
久「まいったわねぇ……」
久「んー、場所はわかったし、また夕方にでも――」
霞「やっぱり、竹井さん」
278 = 1 :
久「あら、いたんだ」
霞「どうしてここが……」
久「まぁ、色々伝手があって、調べてもらったの」
霞「……何の用?」
久「元気にしてるかの確認。神境では色々とあったみたいだし」
霞「そう……小蒔ちゃんたちに会ったのね」
久「色々とわけわからなくてさ、みんな口つぐんじゃうし」
霞「無理もないわ。……いい思い出とはとても言えないもの」
久「それで、当事者のあなたならどうかなって」
霞「悪趣味ね」
久「だってそれであいつが苦しんでるんだったら、なんとかしたいし」
霞「……そう、彼のために」
久「あ、本人には言わないでよ。恥ずかしいから」
霞「わかっているわ」
久「それで、話す気ある?」
霞「……」
279 = 1 :
久「……大体わかったわ。それでここに来たわけ」
霞「ええ……神境を出た後は、彼がこの部屋を見つけてくれて……私の分の家賃まで賄って」
久「はぁ? そんな無茶してたの?」
霞「一度、倒れたわ」
久「あのバカ……」
霞「……彼は悪くないわ。私が精神的にまいっていたせいよ」
久「それなら意地張らないで、一部屋だけにしちゃえばよかったじゃない」
霞「線引き、なんだって」
久「はぁ……そういう関係じゃないからってことでしょ」
霞「……ええ」
久「ありがと……それとごめんなさい」
霞「悪かったのは私よ。あなたが気にすることはないわ」
久「それでも、辛くなかったわけじゃないでしょ?」
霞「……どうかしら」
久「思うに、それが一番悪いのよ。我慢しすぎ」
霞「初美ちゃんにも、同じことを言われたわ」
久「じゃあ2対1ね」
久「それじゃ、そろそろお暇するわ」
霞「これからどうするの?」
久「あいつの顔見てから決める」
280 = 1 :
京太郎「デネブ、アルタイル、ベガ……夏の大三角か」
京太郎「今頃インハイか……なつかしいな」
京太郎「ん?」ガチャ
京太郎(鍵、開いてる?)
京太郎(また霞が上がってるのか)
久「あ、おっかえりー」
京太郎「……久ちゃん? なんで?」
久「鍵だったら石戸さんにちょっと貸してもらったから」
京太郎「いやいや、そこじゃなくて」
久「大学なら休みだから。ほら、夏休み」
京太郎「そこでもないから……どうしてここにいるってわかったんだよ」
久「龍門渕さんとか智葉とか、あと獅子原さんのカムイ? とか色々協力してもらったのよ」
京太郎「なにそれこわい」
久「とりあえず、体は大丈夫そうで安心した」
京太郎「ま、丈夫なのが取り柄だしな」
久「でも一回倒れたんだって?」
京太郎「うぐっ」
久「それも変な意地張って」
京太郎「ま、まあ……もうそれは過去の話だから」
久「そうね……じゃあ本題」
281 = 1 :
久「神代さんと別れたんだって?」
京太郎「……」
久「……はぁ、やっぱりそうなるか」
京太郎「もう終わったことだって」
久「って口で言ってるだけでしょ」
京太郎「そんなこと――」
久「全部聞いたから」
京太郎「……霞からか?」
久「ちょっと気の毒なことしたけど」
京太郎「できるならそっとしておいてほしいんだけど」
久「あんたがさ、もう振り切って幸せそうにしてるなら、それでもいいと思った」
京太郎「幸せだよ、十分にさ」
久「そうそう、薄墨さんから聞いたんだけどね」
282 = 1 :
久「神代さん、新しい婿を取るんだって」
京太郎「……そりゃそうなるだろ」
久「それで、感想は?」
京太郎「別に」
久「その割には辛そうな顔してるじゃない」
京太郎「俺にはもう関係ない」
久「なんでそう思うのよ」
京太郎「だから、もう終わったことだって――」
久「ウソつくな」
久「私があんたのウソを見抜けないわけないでしょ」
久「終わったなんて思えてない」
京太郎「……やめろ」
久「関係ないなんて思えてない」
京太郎「やめろ」
久「あんたはまだ、神代さんのことが――」
283 = 1 :
京太郎「――やめろって言ってるんだよ!!」
京太郎「未練なんてあるに決まってんだろ!」
京太郎「今でも夢に見る! 起きたら隣にいないことがたまらなく辛い!」
京太郎「だけど俺になにができる!?」
京太郎「俺はもうあそこにいる資格がないんだよ!」
京太郎「はぁ、はぁ……」
久「……」
京太郎「だから、もう……ほっといてくれ」
久「資格ってなに?」
京太郎「それは――」
久「あんた、要するに逃げたんでしょ」
久「俺には幸せにする自信がないからって」
久「それでこんなところで腐って……」
久「いい加減にしろ、この種無し野郎っ!!」
284 = 1 :
京太郎「このっ、ピンポイントでデリケートゾーン抉りやがって!」
久「相手のことを考えて? そうしたほうが幸せだから?」
京太郎「ああ、そうだよ!」
久「大人になったつもりかこの朴念仁!」
久「ストーカーまでして私を麻雀に引き戻したあんたはどこ行った!」
久「好きなら、愛してるなら、自分の手で幸せにしてみせなさいよ!」
久「それであんたも幸せになってさ……私を、安心させてよ」
久「この女と一緒になって、良かったんだって」
京太郎「……結局、自分のためかよ」
久「そうよ、悪い?」
京太郎「いや、わかりやすくていい」
久「それで、どうするのよ」
京太郎「あの日、伝えられなかったことを伝えに行く」
久「向こうの都合は?」
京太郎「知るかよ、そんなの」
久「……それでいいのよ」
285 = 1 :
『未練なんてあるに決まってんだろ!』
『今でも夢に見る! 起きたら隣にいないことがたまらなく辛い!』
『だけど俺になにができる!?』
『俺はもうあそこにいる資格がないんだよ!』
霞「……」
霞(わかってる……いえ、わかってた)
霞(だって、朝起こそうとしたら寝言で呟いてるし)
霞(彼は今でも小蒔ちゃんを愛しているんだって)
霞(まだ半年しか経ってないのに……忘れられるわけないじゃない)
霞(私なんて、一年経っても無理だったんだから……)
霞「だれかのため、自分のため……」
霞(私は……)
286 = 1 :
久「せいぜいフラれないようにね」
京太郎「そうしたらまた日本一周でもして、それからまたアタックするよ」
久「なにそれ、すっごい迷惑」
京太郎「焚き付けたのは久ちゃんだからな」
京太郎「じゃ、ちょっと行ってくる」
久「……やっぱり人間、そうそう変わらないわよね」
霞「あなたの気持ちも?」
久「さぁ、どうかな」
霞「……私も行くわ」
久「我慢はやめるの?」
霞「さぁ、どうかしら」
久「……なんにしても、後悔だけはしないようにね」
霞「大丈夫よ、もうそれには慣れっこだから」
霞「それに……もう一人じゃないから」
287 = 1 :
小蒔「……」
巴「姫様、もうお休みになったほうが――」
小蒔「もう少し、星を見ていたいんです」
巴「……わかりました。それじゃあ、お茶とお茶請け、持ってきますね」
小蒔「はい、お願いします」
小蒔(……ダメですね。まだみんなを心配させちゃってます)
小蒔(霞ちゃんもこんな気持ちだったんでしょうか?)
小蒔「今日会った殿方……私は、あの方と」グッ
小蒔「ふぅ……いけませんね、ちょっと気晴らし……また木に登ってみましょうか」
小蒔「その方が、星もよく見えますよね」
288 = 1 :
小蒔「んしょ、よいしょ……登れました!」
『あーもう、気ぃつけろよー』
小蒔「……心配しなくても、もう慣れちゃいました」
小蒔「あなたがいない、日常にも……」
小蒔「だから、私は……」ポロッ
小蒔「あれ、おかしいです……悲しくなんて、ないのに」
小蒔「……ウソです」
小蒔「全部全部ウソです」
小蒔「好きです、傍にいてほしいです、愛しています」
小蒔「京太郎様……!」
京太郎「呼んだかー?」
小蒔「え……きゃっ――」ガサッ
289 = 1 :
京太郎「――っと、ギリセーフ……大丈夫か? 小蒔」
小蒔「どう、して……」
京太郎「あの日さ、やり残したこと思い出して」
小蒔「……お引き取りください、あなたはもう」
京太郎「知らねーよ。しきたりとか立場とかお役目とか、そういうのはもううんざりだ」
京太郎「資格がないって、お前はダメだって言われて諦めてた」
京太郎「そんで、その方がお前のためになるって決めつけて逃げてた」
京太郎「でも、それでいいわけないんだよ」
京太郎「だって俺は、あの時全部伝えてなかったんだから」
京太郎「俺がどうしたいか、俺がなにをしたくないか」
京太郎「そんな当たり前なことを、伝えられなかったんだ」
『それでもっ、私は京太郎様と……!』
京太郎「お前は、ちゃんと言おうとしてくれたのにな」
小蒔「……」
京太郎「だから言うよ」
290 = 1 :
京太郎「小蒔、お前と一緒にいたい。離れたくない」
京太郎「資格なんて知らないし、いらない」
京太郎「お前に人並みの幸せをやることはできないかもしれないけど、俺なりに幸せにする」
京太郎「だから、ずっと俺の傍にいてくれないか」
小蒔「どうして……どうして今更そんなこと言うんですか」
小蒔「二人がいなくても頑張ろうって、みんなを支えていこうって思ってたのに……」
小蒔「全部、全部ダメになっちゃいました……!」ポロポロ
京太郎「じゃあ俺の目論見通りだ」
小蒔「ひどいですっ、最低ですっ、人非人ですっ」
京太郎「それぐらいで一緒にいられるなら安いもんだよな」
小蒔「京太郎様なんて、京太郎様なんて……」
291 = 1 :
巴「……姫様」
小蒔「と、巴ちゃん」
巴「正直になってください」
小蒔「そんな、私はっ」
巴「寝言で自分がなんて言っているか、わかってます?」
小蒔「うっ……」
巴「そんな夢に見るぐらいなのに、大丈夫なわけないじゃないですか」
小蒔「でも、私は霞ちゃんからみんなのことを……!」
292 = 1 :
春「よろしくされる側の姫様がよく言う」
小蒔「春まで!」
春「姫様が頑張ったらむしろ空回るし」
小蒔「ひどいです!」
春「大丈夫大丈夫って言って余計心配させてるし」
小蒔「そんなことないですっ」
春「知らぬは当人ばかりとはこのこと」
小蒔「あうっ」
293 = 1 :
初美「まぁ、努力だけは花丸ですけどねー」
小蒔「初美ちゃん!」
初美「中身が伴ってないので結局ダメダメなのですよ」
小蒔「ダメダメじゃないです!」
初美「それはそうとですね」
小蒔「わきに置かないでください!」
初美「特別ゲスト、つれてきたのですよ」
294 = 1 :
霞「……久しぶりね」
小蒔「え……」
巴「霞、さん」
春「……」
京太郎「……お前もついてきてたのか」
初美「入り口でうろうろしてたのを確保したのですよ」
霞「……ちょっと、入りづらくて」
京太郎「まぁ、気持ちはわかるよ」
初美「何を言うのですか。ずけずけと入ってきたくせに」
京太郎「それで遠慮するかどうかは別問題だろ」
小蒔「ちょっと待ってください!」
小蒔「正直に言います……私は、また二人に会えて嬉しいです。でも……」
霞「……ええ、もう元には戻れない」
小蒔「――っ」
霞「みんな、少し小蒔ちゃんと二人きりにしてもらってもいいかしら?」
295 = 1 :
初美「好きにするのですよ」
巴「……姫様がいいなら」
春「……知らない」
霞「ありがとう、みんな」
京太郎「じゃあ、待ってる間お茶でももらうか」
初美「どんだけ図々しいのですかっ」
京太郎「まぁまぁ、来客だと思ってひとつ」
春「黒糖、用意する」
巴「お茶、冷めちゃったから淹れなおしてきますね」
初美「それでなんで歓迎ムードですか!」
296 = 1 :
小蒔「……霞ちゃん」
霞「半年ね、あれから」
小蒔「はい、半年ぶりです」
霞「……実は、ここに来る途中、小蒔ちゃんのお母様と連絡を取ってきたの」
小蒔「お母様と、ですか?」
霞「ええ……」
297 = 1 :
『それが、どういう意味か分かっているのですか?』
霞「はい、重々承知しています」
『あなたの役目はたしかにあの子の身代わり……しかし、それが神代に成り代わるなど』
霞「私は神代にはなれません……でも、この子なら」
『まさか……』
霞「ええ、彼の子供です」
『ありえません……だからこそ彼は居場所を失ったというのに』
霞「可能性はゼロではなかったはずです」
『それでも、限りなく低い。なぜなら――』
霞「はい、それは他ならぬ私が一番よくわかっています」
霞(もう大丈夫だと思ってた)
霞(でも、抑えきれなかった)
霞(私はあの日――)
『好き、好きなの……あなたが好きなの』
『お願い、今だけだから……明日からはいつもの私に戻るから……』
298 = 1 :
霞(彼は、私をやさしく引き離して、首を横に振った)
霞(そして我に返った私は、その場を逃れようと走り出して……)
『霞っ』
霞(私をかばった彼は、交通事故で生殖機能をほぼ失った)
霞(神代の婿の役目は、子をなすこと)
霞(それを果たせないのであれば、その資格を失う)
霞「彼はきっと小蒔ちゃんを連れ出します。そうなったら、代わりが必要かと思われます」
『……』
霞「それとも、ウソだと疑いますか?」
『……いいえ、あなたはそんなつまらないことはしないはず』
霞「……」
霞(彼は何も知らない)
霞(この子のことも、私を抱いたことも)
霞(いいえ、あれは私が彼を術で眠らせて……)
299 = 1 :
『いいでしょう……あなたの覚悟をくみ取ります』
霞「ありがとうございます」
『……これで小蒔は幸せになれると思いますか?』
霞「ええ、彼とならきっと」
『私は、あなたにも幸せになってほしかった』
霞「私に、ですか?」
『あなたは、昔の私に似ていたから……』
霞「……」
『なんだよ、また勝手に入ってたのか』
『だってあなた、私が作らないとちゃんと朝ご飯食べないじゃない』
『ちょっとぐらいなら食べなくっても大丈夫だって』
『いいから食べて。もうできてるわ』
『ああ、いい匂いすんな……』グゥ
『お腹は正直なのね』クスクス
『別に食べたくないわけじゃないから』
『じゃあ用意しちゃうわね』
霞「私は幸せでした……だから、きっと大丈夫です」
300 = 1 :
小蒔「霞ちゃんたちが戻ってこられるようになった……そうですよね?」
霞「……戻るのは私だけよ」
小蒔「え、じゃあ京太郎様は……」
霞「それはもう、どうしようもないの」
小蒔「そんな……」
霞「だから、あなたが一緒に行ってあげて」
小蒔「……え?」
霞「私があなたの代わりになる……だから」
小蒔「そ、そんなのダメですっ」
霞「どうして?」
小蒔「……ずっと、怖くて聞けませんでした」
小蒔「霞ちゃんはずっとお役目のために我慢してて……」
小蒔「それはとても辛いことだったんじゃないかって」
小蒔「私の、身代わりという立場が」
みんなの評価 : ○
類似してるかもしれないスレッド
- 久「何か食べたいわねぇ」 京太郎「また買出しッスか」 (223) - [45%] - 2015/10/4 20:15 ★★
- 咲「ぎ、義理だからね。京ちゃん」京太郎「おう、ありがとな」 (149) - [45%] - 2015/6/5 21:30 ★★★×4
- 久「私は団体戦に出たいのよ!!」京太郎「俺には関係ない」 (476) - [44%] - 2013/3/1 12:15 ☆
- 凛「あんたが私のサーヴァント?」 ぐだお「……イシュタル?」 (252) - [43%] - 2018/8/23 13:30 ☆
- 久「ロッカーの中で」京太郎「襲わないから」 (617) - [40%] - 2013/6/14 15:00 ★
- 八幡「お前の21歳の誕生日、祝ってやるよ」雪乃「……ありがとう」 (1001) - [38%] - 2015/4/23 18:30 ★
トップメニューへ / →のくす牧場書庫について