元スレ久「あんたが三年生で良かった」京太郎「……お別れだな」
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651 :
んじゃ、始めます
652 = 1 :
京太郎「……怜」
怜「どしたん――うわっ」
怜「……ついに我慢の限界?」
京太郎「いいから黙って抱きしめられてろ」
怜「まぁ、うちは無理っぽいから竜華にでも――」
京太郎「言うなっ!」
京太郎「頼むから、何も言うな……」
怜「……そか、聞いてもうたんやな」
京太郎「お前……知ってたのかよ」
怜「もうダメなのわかっとったし、それなら早めに知らせてやーって」
京太郎「なんで、そんなに落ち着いてるんだよ」
怜「もう未来も視えへんから……素敵な未来でも視えたらよかったんやけどなぁ」
京太郎「素敵な、未来……」
653 = 1 :
『名前、もう考えとる?』
『ああ……男だったら望で、女だったら希とかいいんじゃないか?』
『そらまた希望に溢れとるなぁ』
『まだ全然膨らんでないのに気が早いかな?』
『今から未来でパンパンになるんやな、うちのお腹』
『まぁ、そうだな』
『目一杯パンパンされた結果やな』
『怜……もうちょっと言い方ないのか?』
『じゃあ、まぐわったとか?』
『また直球だな』
『ええやん。ともかくヤってデキちゃったんやから認知してな、ダーリン』
『結婚してるのに認知もなにもないだろうが……』
『ふふ、せやな』
654 = 1 :
京太郎(ああ、俺は……こいつをあの未来に連れて行けなかったんだな)
京太郎「く、そ……」
京太郎(もうダメだった)
京太郎(今まで出なかった涙は、あっさりと堰を切って)
京太郎(嗚咽をかみ殺すのに精一杯で、ただただ抱きしめる)
怜「……あかんなぁ」
京太郎「うっ、くっ……」
怜「せめて笑って見送って欲しいんやけど」
京太郎「無茶言うな、バカ野郎……!」
怜「だって、そうやないと……うぅ」
怜「うちも、我慢できへんやんかぁ……」
655 = 1 :
京太郎「怜、お前泣いて……」
怜「うっさいあほぉ!」
怜「生きたい、まだ生きてたい、死にたくなんかない……!」
怜「まだしたいことたくさんある。行きたいとこもたくさんある!」
怜「せやけど泣かんようにって、みんな笑ってられるようにって我慢した!」
怜「あほっ、あほあほっ、この浮気者ぉ! なんで竜華に手ぇ出した!」
怜「みんなご破産! 台無し! 怜ちゃんの笑って旅立とう計画全部パー!」
怜「京太郎なんて、京太郎なんて――けほっ、けほっ」
京太郎「わかった、わかったから……もう無理すんな」
怜「はぁ、はぁ……じゃあ、最後に一個だけ約束して」
京太郎「ああ」
怜「最後まで、傍にいてほしい」
京太郎「お安い御用だな」
656 = 1 :
京太郎(怜の叫びは、ずっと俺が聞きたかったものだった)
京太郎(何もかも取り払った、素の感情)
京太郎(だから俺は一つ決意した)
京太郎「最後まで、一緒だ」
京太郎(必ず、こいつを救ってみせると)
京太郎(……どんな手を使ってでも)
657 = 1 :
京太郎「清水谷、一応聞くけど……俺の心臓は使えないよな?」
竜華「無理。体格も合わんし、血液型も違うから」
京太郎「そうか……」
竜華「それに、須賀くんの心臓をもらっても、怜は喜ばへんよ」
京太郎「だよな……移植に必要な条件って?」
竜華「さっき言った体格や血液型、それにその心臓が健康かどうか」
京太郎「病気の心臓もらっても確かに困るよな」
竜華「……須賀くん、まさか変なこと考えてる?」
京太郎「知っておきたかっただけだ。いつドナーが現れるかわからないしな」
竜華「怜を悲しませんようにして……お願いだから」
京太郎「心配すんな。俺がまた笑い合えるようにしてやるよ」
京太郎「体格、血液型、健康かどうか……」
京太郎(正規の手段で手に入らないのなら、非正規の手段に頼るしかない)
京太郎(即ち――臓器売買)
658 = 1 :
智葉『……久しぶりの電話がそれか』
京太郎「悪いな。でももう後がないんだ」
智葉『自分が何を言っているか、わかっているのか?』
京太郎「ああ……もしなにか知ってるなら、教えて欲しい」
智葉『残念ながら、うちの組はそういったことに手を出していない』
京太郎「そうか……なら他をあたってみる」
智葉『須賀、考え直すなら今だぞ』
京太郎「……ありがとな。でも、もう決めちまったからさ」
智葉『……バカだな、お前は』
京太郎「そんなの、自分が一番知ってるよ」
京太郎「ガイトがダメとなると……やばい、他に伝手がない」
京太郎「……いや、あるにはあるけど」
京太郎「これ下手したら縁切られるな」
京太郎「だけど……やるしかない」
659 = 1 :
透華『却下ですわ』
京太郎「情報だけでいいんだ。龍門渕グループなら世界中で糸を張れるだろ?」
透華『それでその情報を渡して……あなたはどうするつもりですの?』
京太郎「俺はあいつを救う。それだけだ」
透華『……売買される臓器が、どのように用意されるかは知っていて?』
京太郎「大体、予想はつく」
透華『それでも……だれかの犠牲の上に成り立っているかもしれない臓器を、手に入れると?』
京太郎「そうだよ……それぐらいしか方法がないからな」
透華『……こんな時に、自分の無力を痛感するとは……』
京太郎「頼むよ。俺には後がないんだ」
透華『……考え直す気は?』
京太郎「それができたら、こんなこと頼んでない」
透華『私は……あなたのことを兄のように思ってましたわ』
京太郎「意外だな。嫌われてるとは思ってなかったけど」
透華『ですが、それも今日まで――』
660 = 1 :
京太郎「……二度と連絡するな、か」
京太郎「当たり前だ。これからやらかそうって人間と関わりたくなんかないよな」
京太郎「……それよりも、どうする?」
京太郎「こうなったらもう、それっぽい建物に乗り込んで直談判しか……」
京太郎「――いや、待て……もしかしてあいつなら」プルルル
『もしもし』
京太郎「リュージか?」
リュージ『その声は……須賀か』
京太郎「話がある。今から会えないか?」
661 = 1 :
リュージ「……追い詰められているとは思ってたけどよ」
京太郎「……どうにかならないか?」
リュージ「そもそもなんで俺に頼んだ」
京太郎「そういう連中と関係があるって小耳に挟んだ」
リュージ「チッ……まぁ、事実だがよ」
京太郎「いきなりこんなこと頼むのはどうかと思う……けど、やり方を選んでられないんだ」
リュージ「関わり合いにならないならそれが一番だと思わねぇのか?」
京太郎「やり方を選んでられないって言ってるだろ」
リュージ「……そんなに大事か?」
京太郎「やれるなら俺の心臓でもいいぐらいだ」
リュージ「羨ましいな……俺も久しぶりにあいつに会いたくなってきたよ」
京太郎「会いに行かないのか?」
リュージ「しがらみがあるんだよ。カタギのお前にはわからないかもしれないけどな」
662 = 1 :
リュージ「俺がしてやれるのは話を取り次ぐところまでだ」
京太郎「十分だ」
リュージ「金に関しては一切面倒見ない」
京太郎「なんとかする。なんだったら俺の臓器をいくらかくれてやってもいい」
リュージ「ところで、移植をするにしても医者のアテはあるのか?」
京太郎「あ……普通の病院じゃダメ、だよな?」
リュージ「当たり前だろバカ野郎……チッ、しょうがねえから知り合いを紹介してやる。腕はいい」
京太郎「すまないな……お前にメリットがあるわけでもないのに」
リュージ「そうでもないさ。お前に恩を売れる」
京太郎「金が欲しいならもうちょっと待て。心臓にいくらかかるかもわからないんだ」
リュージ「そういうのはいらねぇよ。いざとなった時の替え玉とかだ」
京太郎「……ラーメンじゃないよな?」
リュージ「身代わりって言えばいいか? 似たような体格してるしな」
京太郎「やばい、命の危険を感じるぜ……」
リュージ「いざとなったらの話だよ。ま、仲良くしようや」
663 = 1 :
怜「今日は京太郎、来ぉへんな」
竜華「どないしたんやろな」
怜「ついに愛想尽かしたんかなぁ」
竜華「それだけは絶対ない」
怜「……傍にいてって言うたのに」
竜華「大丈夫、須賀くんが怜をほったらかしにするなんてありえへんから」
怜「せやろか?」
竜華「せやせや」
京太郎「――怜っ」ガラッ
664 = 1 :
竜華「ほら、来た」
京太郎「悪い悪い、ちょっと遅くなっちまった」
竜華「もうちょい静かにしてな?」
京太郎「おっと、ちょっと興奮してたから」
怜「えらいご機嫌やん。キャバクラ帰り?」
京太郎「ちげーよ」
怜「じゃあおっパブ?」
京太郎「さらに酷くなってんじゃねーか」
怜「じゃあ現地妻?」
京太郎「いねーよ!」
竜華「ふふ……須賀くんが遅かったから、不安で不安でしかたなかったやんな?」
怜「まぁ、小指の先程度には」
京太郎「全然平気じゃねーかよ」
竜華「照れ隠し照れ隠し」
京太郎「わかってるよ……遅れて悪かった」
怜「誠意、プリーズ」
京太郎「なんだ、山吹色のお菓子か?」
怜「お主も悪よのぉ……やなくて、ちょい寝るから手ぇ握っててな」
京太郎「はいはい、おやすみ」
怜「うん」
665 = 1 :
怜「――」スゥスゥ
京太郎「がっちりホールドされた」
竜華「これやと動けへんね」
京太郎「俺も帰ってちょっと寝たいんだけどな」
竜華「このまま寝る? せやったら、かけるもん持ってくるけど」
京太郎「そうだな。勝手にいなくなったら、次は本当に山吹色のお菓子を要求されそうだし」
竜華「夜勤多いから、体は大事にせなあかんよ?」
京太郎「慣れればどうってことないよ」
竜華「……怜のため、なんやな。昼間に時間ができるようにって」
京太郎「俺がしたいようにしてるだけだ」
竜華「須賀くん、変なこと考えとらんよね?」
京太郎「大丈夫だ。きっと全部良くなる」
竜華「それって……」
京太郎「悪い、眠くなってきた」
竜華「あ、うん……ちょっと待っててな」
666 = 1 :
竜華「きっと全部よくなる……一体須賀くんはなにを」
『清水谷、一応聞くけど……俺の心臓は使えないよな?』
竜華(ううん……いくら心臓が必要とはいえ、使えへんのを用意しても意味なんてない)
竜華(須賀くんもそれはわかっとるはず)
竜華(じゃあ、全部良うなるって?)
竜華(それがもし、心臓をどうにかして手に入れるという事なら……)
竜華「――まさかっ」
667 = 1 :
怜「ぶー、詐欺やん。詐欺詐欺」
京太郎「仕方ないだろ。働かざる者食うべからずだ」
怜「世知辛い世の中やなぁ」
京太郎「なにかあったら呼んでくれ。すぐ駆けつける」
怜「ホンマに?」
京太郎「ああ」
怜「トイレ行きたいから来てって言うたら?」
京太郎「それはさすがに怒る」
怜「やっぱ詐欺やん」
京太郎「けどちゃんと行くよ」
怜「や、さすがにトイレの介護はまだいらんし」
京太郎「ったく……じゃあ行ってくる」
怜「おでかけのちゅーは?」
京太郎「顔上げて」
怜「んっ――」
京太郎「あんまり清水谷に心配させるなよ」
怜「膝枕ぐらいやで」
京太郎「むしろ俺がされたいぜ」
怜「浮気者ー」
京太郎「ははっ、じゃあまた明日な」
668 = 1 :
怜「ふぅ……やっぱ体力落ちとんなぁ」
竜華「――怜っ、須賀くんは!?」
怜「仕事行くって」
竜華「そう……」
怜「イタズラでもされたん?」
竜華「う、ううん、なんでもあらへんから」
竜華(須賀くん……)
669 = 1 :
京太郎「明日だ……明日になれば全部良くなる」
京太郎「あいつの病気も、なにもかも」
リュージ『用意できるってよ』
京太郎『本当か!?』
リュージ『運が良かったな。品薄で、今回を逃せば当分……半年は手に入りそうにないとよ』
京太郎『そうか……』
リュージ『あと、お前の健康状態が知りたいそうだ』
京太郎『この前受けた健康診断の結果でいいなら』
リュージ『十分だ』
京太郎『それは、俺から持ってくってことだよな?』
リュージ『金を用意できないならそうなる。大丈夫か?』
京太郎『大丈夫に決まってるだろ』
京太郎「そのためなら、俺の体を切ることだって……」プルルル
『リュージ』
京太郎「もしもし、リュージか?」
リュージ『須賀か? くっ――事情が変わった』
京太郎「なにか、あったのか?」
リュージ『……とりあえず今すぐ合流したい』
京太郎「わかった」
670 = 1 :
リュージ「……よう」
京太郎「お前、その怪我」
リュージ「単刀直入に言う。心臓は手に入らない」
京太郎「どういう、意味だよ」
リュージ「横取りされた。どこぞの組のお偉いさんの娘が入用だそうだ」
京太郎「……こっちが先に話をつけた。そうだよな?」
リュージ「お前は客としての信用がない。だからより確実に金を出す方に靡いた。そういうことだ」
京太郎「――ざけんなっ」ガンッ
京太郎「ここに来てっ、どうしてっ、そんな邪魔が入るっ!」ガンッガンッ
京太郎「くそっ――」
リュージ「やめろ。そんなことをしてもなんにもならない」ガシッ
京太郎「お前はどうにもできなかったのかよ!?」グイッ
リュージ「悪い……直談判しに行ってこのザマだ」
京太郎「その怪我……」
リュージ「かすり傷だ……くっ」
京太郎「放置しておくわけにはいかないだろ……それに、一度落ち着いて相談したい」
671 = 1 :
竜華「傷口が開きますので、しばらくはむやみに動かさないでください」
リュージ「ああ、すまないな、先生」
竜華「……あなたは、須賀くんとどういう関係なんですか?」
リュージ「なんだ、先生はあいつの知り合いか」
竜華「答えてください」
リュージ「ただの同僚だよ」
竜華「本当ですか?」
リュージ「ウソは言ってない」
竜華「でも、本当のことも言ってない」
リュージ「先生……あんた鋭いな」
竜華「呼吸とか目の動き、表情筋の強張りでそれぐらいは」
リュージ「とんでもねぇ知り合いがいたもんだ」
竜華「話していただけますか?」
リュージ「……いいぜ。ただし、一つだけ頼みを聞いてもらいたい」
672 = 1 :
京太郎「傷は?」
リュージ「この通りだ。無理するなって言われたがよ」
京太郎「そうか……それで、どうする」
リュージ「どうもこうもない……詰みだ」
京太郎「渡す臓器を増やしてもか?」
リュージ「渡すって保証がないからな」
京太郎「……くそっ」
リュージ「……もし、向こう以上の金を直接叩きつけられるなら、話は別だがな」
京太郎「結局、金か……」
竜華「須賀くん……!」
リュージ「おっと、お前の浮気相手が来たようだな」
京太郎「お前、なんでそれを」
リュージ「引っかかったな。カマ掛けだ」
京太郎「……やられた」
リュージ「俺は退散するぜ」
673 = 1 :
竜華「どうして、相談してくれなかったん?」
京太郎「何の話だよ……悪いけど、今は時間が――」
竜華「全部聞いた、あの人から」
京太郎「リュージの野郎……」
竜華「須賀くん、ダメ……いくらなんでも、そない」
京太郎「じゃあ他にどうすればいい!」
竜華「怜の望み通りにしてあげて!」
京太郎「それじゃああいつは……!」
竜華「それでも!」
竜華「それでも……怜は喜ばへんよ」
京太郎「……生きていれば、希望はあるだろ」
竜華「須賀くんが犠牲になっても?」
京太郎「犠牲になるつもりなんてない……それに、俺はあいつを失うなんて耐えられないんだよ」
竜華「ずるいわぁ、そんなん」
京太郎「ああ、結局は自分のためだ」
竜華「……なら、うちのためにって言うたら、思いとどまってくれる?」
京太郎「……悪い」
竜華「あはは……また振られてもうた」
674 = 1 :
ハギヨシ「お取り込み中のところ、失礼」
京太郎「ハギヨシさん、どうしてここに」
ハギヨシ「お嬢様が、最後に渡すものがあると……こちらを」
京太郎「このケースは?」
ハギヨシ「中に一億円、現金で入っています」
竜華「い、一億!?」
ハギヨシ「手切れ金だと仰せつかりました」
京太郎「はは……また律儀な」
ハギヨシ「それでは、私はこれで失礼いたします」
ハギヨシ「……君の友人としてなにもできなかった私を許してください」
京太郎(そうか……これで)
京太郎(これで、お別れなんだな)
京太郎(この金を受け取るなら……)
京太郎「……でも、これで希望ができた」
675 = 1 :
リュージ「はぁ……ったくよ。ままならねぇなぁ」
リュージ「あいつはうまくいくと思ったんだけどな」
リュージ「……チッ、ここらが潮時か」
京太郎「リュージ!」
リュージ「なんだ、妙案でも浮かんだか?」
京太郎「これだけあればイケルよなっ」
リュージ「お前これ……銀行強盗か?」
京太郎「ちげーよ、もらいもんだ」
リュージ「金の出処はともかく……これだけあればお釣りが来るな」
京太郎「じゃあ!」
リュージ「ああ、早速――待て」
京太郎「どうした」
リュージ「マズい、嗅ぎつけられた」
京太郎「どういうことだよ」
リュージ「――伏せろっ」グイッ
――パンッパンッ
京太郎「なんだこれっ、撃たれてるのか!?」
リュージ「走るぞ!」
京太郎「くそっ」
676 = 1 :
京太郎「どうなってんだよ……!」
リュージ「俺たちの妨害をするなら、考えられるのは一つだ」
京太郎「心臓を横取りした連中が手を回したってのか」
リュージ「……悪い、おそらくマークされてたのは俺だ」
京太郎「なんでだよ、どうしてこうなった!」
リュージ「文句を言いに行って揉めてな……そのせいだろうな」
京太郎「なんでそんなことしたんだよ。そうしなけりゃ怪我だってしなかったろ」
リュージ「さぁな……許せなかったんだろうさ」
京太郎「許せなかった?」
リュージ「筋を通さねぇやつは嫌いでね」
京太郎「……ありがとう」
リュージ「なんだよ気持ち悪い」
京太郎「少しでも俺のことを気にしてくれたんだろ?」
リュージ「……勝手に言ってろよ」
677 = 1 :
リュージ「これからの話だが……まず第一にこいつを守り通す必要がある」
京太郎「これを直接見せないといけないんだよな」
リュージ「百聞は一見に如かずってやつだ」
京太郎「それで心臓を買い取って」
リュージ「俺の知り合いに移植手術を頼む」
京太郎「問題は、道中安心できないってことか」
リュージ「よっぽど娘の命が大事なんだろうな」
京太郎「……俺と同じか」
リュージ「同情なんてするな。キリがないぞ」
京太郎「わかってる」
リュージ「それじゃあ、まずはここを切り抜けるところからだ」
京太郎「……囲まれてるのか?」
リュージ「完全に囲まれる前に逃げるぞ!」
678 = 1 :
京太郎「はぁ、はぁ……まだ来るのか?」
リュージ「わか、らねぇ……けど、これで終わるはずがない」
京太郎「マジかよ……」
リュージ「ほら早速――おらぁっ」バキッ
「がっ――」
京太郎「しつこすぎるだろうが――よっ!」ドカッ
「ぐぅっ」
リュージ「意外に動けるな。なにかやってたのか?」
京太郎「ハンドボールと、執事殺法を少々」
リュージ「執事殺法?」
京太郎「次来るぞ!」
リュージ「チッ、キリがねぇな!」
679 = 1 :
京太郎「今、どこだ……」
リュージ「もう、そろそろ、着くはずだ……」
京太郎「そうか……さすがにキツいな」
リュージ「あと、ちょっとだ……気張れ」
京太郎「言われなくてもっ」
「残念だがここでおしまいだ」
「ここで張っていれば、その内来るだろうと思っていた」
リュージ「先回りされてたってのかよ」
「目的を読めばわかるということだ」
京太郎「……おい、囲まれてるぞ」
「長々と喋るつもりはない――やれ」
680 = 1 :
京太郎「く、そ……」
リュージ「チクショウが……」
「ふんっ、あれだけ暴れまわった割にはあっけない」
京太郎「ど、けよ……俺には、やらなきゃいけないことが……」
「それで、これが起死回生の一手というわけか――ほう、中々の額だ」
京太郎「返せ、返してくれ……!」
「燃やせ」
京太郎「やめろぉ――がっ」
「動くな。こいつが完全に燃えるまで見てろ」
京太郎「くそっ、くそっ……!」
681 = 1 :
「……燃え尽きたか」
京太郎「あぁ、あぁ……」
リュージ「須賀、しっかりしろ」
「放っておけ。それよりリュージ、戻ってくる気にならないか?」
リュージ「俺のことこそ放っておいてくれ……こういうのがイヤで抜けたんだよ」
「そうか……」
リュージ「俺たちをこのままにしていいのか?」
「そいつはもう抜け殻だ。そしてお前はそいつに付き合ってただけだろう?」
「じゃあな」
京太郎「……怜」
リュージ「……ゲームオーバーか」
682 = 1 :
京太郎(もう、ダメだ……全部終わった)
京太郎(もう心臓は手に入らない)
京太郎(あいつがいないなら、もう生きてる意味なんて……)
『生きたい、まだ生きてたい、死にたくなんかない……!』
京太郎(……なんて言ったら、ぶっ飛ばされるな)
京太郎(まだ生きられる俺が、それを諦めるのは失礼だ)
京太郎(なら、あいつの命も諦めるわけにはいかないな)
683 = 1 :
京太郎「……リュージ」
リュージ「なんだ、生きてたか」
京太郎「最後に一つ、協力してくれ」
リュージ「供養か?」
京太郎「……心臓を、奪う」
リュージ「冗談でも、狂っているわけでもなさそうだな」
京太郎「ああ」
リュージ「よし、なら付き合うぜ」
京太郎「……いいのか?」
リュージ「乗りかかった船ってやつだ」
684 = 1 :
リュージ「ただし、これはもう誤魔化しようのない犯罪になる」
京太郎「わかってる」
リュージ「正体がバレるのも、もたついて捕まるのもダメだ」
京太郎「だろうな」
リュージ「それでもやるのか?」
京太郎「あいつのためなら……って何度目だよこれ」
リュージ「ブレないな、お前……羨ましいぜ」
リュージ「さて……じゃあ俺は下準備に回る。お前は?」
京太郎「手伝えることはあるか?」
リュージ「いや、俺だけで十分だな」
京太郎「なら、あいつの顔を見てくる」
685 = 1 :
怜「ん……京太郎?」
京太郎「ああ、おそよう」
怜「仕事はええの?」
京太郎「急に休みになった」
怜「……なんかボロボロに見える」
京太郎「ちょっと採石場でバトってきただけだ」
怜「特撮やん。変身するん?」
京太郎「できたらいいよなぁ」
京太郎「……キスしてもいいか?」
怜「キムチでもいい?」
京太郎「どんな難聴だ」
怜「言われた当の本人は居眠りこいとるしなぁ」
京太郎「いいからするぞ」
怜「やん、強引――んっ」
京太郎「じゃあ、おやすみ」
怜「えー?」
京太郎「もう面会時間ギリギリなんだよ」
怜「しゃあないなぁ。ほな、おやすみー」
京太郎「ああ」
686 = 1 :
竜華「須賀くん……?」
京太郎「よう、まだ仕事か?」
竜華「宿直やから……って、ボロボロやんっ」
京太郎「転んだだけだ」
竜華「ええからこっち来ぃや!」グイッ
687 = 1 :
京太郎「……悪いな、手当してもらって」
竜華「危ないことに首、突っ込んどらんよね?」
京太郎「もちろんだ」
竜華「……それ絶対ウソやん」
京太郎「やっぱごまかせないよなぁ」
竜華「須賀くん、お願い……もうええやん」
京太郎「ありがとう……でも、ごめんな」
竜華「……わかった。じゃあ見逃す代わりにひとつ約束して」
京太郎「なんだ?」
竜華「怜のためならどうなってもかまへんのやろ? なら――」
竜華「見逃す代わりに、うちのものになって」
688 = 1 :
京太郎「お前、それは」
竜華「どない? できる?」
京太郎「……ああ、その後は俺の人生、全部お前にやっても構わない」
竜華「……そか」
竜華(嘘つき……)
竜華「じゃあ、約束の印に……んっ」
京太郎「――んっ」
竜華「……これでバッチリやんな」
京太郎「ああ……」
竜華「あと、これ」
京太郎「ペンダント」
竜華「もいっこ約束……うちの大切なペンダント、無事に返してな」
京太郎「わかった。ちょうどお守りがほしいって思ってたんだ」
689 = 1 :
京太郎「おはよう。サボりか?」
リュージ「そういうてめぇも昨日サボっただろうが」
京太郎「まぁな……で、準備の方は?」
リュージ「大体終わってる。心臓がいつ運ばれるのかも調べがついた」
京太郎「それで?」
リュージ「今日の夕方、モノが病院へ運び込まれる」
京太郎「その病院は?」
リュージ「いや、病院はダメだ。多分護衛がわんさといるからな」
京太郎「じゃあ、輸送中に奪うんだな?」
リュージ「そうなる」
690 = 1 :
リュージ「……臓器は、鮮度が大事だ」
京太郎「ああ、そうだろうな」
リュージ「心臓を摘出するのは、病院についてから」
京太郎「まさか……」
リュージ「脳死したやつの体ごと、救急車で運ぶってことだ」
京太郎「……心臓は、動いているんだな?」
リュージ「考え方によっては、俺たちが引導を渡すことになる」
京太郎「……今更だ」
リュージ「そうか……」
リュージ「作戦は単純。救急車をジャック、適当なとこで車を乗り換えてから、お前の恋人を乗っけて医者のところへ向かう」
京太郎「乗り換える車ってのは?」
リュージ「それも手配してる」
京太郎「お前、本当に何者だよ」
リュージ「しがない元ヤクザだ。まぁ、まだ足を洗いきれてないけどよ」
691 = 1 :
リュージ「須賀っ、早く乗れ!」
京太郎「ああ!」
京太郎「……ジャックするって聞いたときはどうなるかと思ったけど、案外うまくいったな」
リュージ「安心には早すぎる。まずはサツが来るだろうし、ことに気づいた組の奴らも追ってくる」
京太郎「ここからが正念場か」
リュージ「そういうことだ」
京太郎「……悪いな、巻き込んで」
リュージ「いい機会だ。俺もここにおさらばしてあいつに会いにいくさ」
京太郎「そのためにはしくらないようにしないとな」
リュージ「もちろんだ。……ここらへんだな。乗り換えるぞ」
692 = 1 :
リュージ「慎重に運べよ?」
京太郎「わかってる」
リュージ「よし……須賀、お前は後ろでそいつの面倒見てくれ」
京太郎「行き先はわかってるよな」
リュージ「ああ、お前の恋人を迎えに行くぞ」
――パンッパンッ
「そこまでだ。車はパンクさせた……逃げられんぞ」
京太郎「あんたは……!」
「あれだけ打ちのめしても這い上がってくるとはな」
京太郎「邪魔すんなよ!」
「こいつを外に出せ」
京太郎「くそ、離せ……!」
693 = 1 :
「さて、リュージ……よくもやってくれたな」
リュージ「脇が甘いからこんなことになるんだよ」
「だまれ!」バキッ
リュージ「ぐっ」
「ここで始末する」
リュージ「はっ、だからあの時殺しときゃよかったんだよ」
「今度こそそうしてやる」
京太郎「リュージ!」
「お前はそこで見てろ。ほんの少し先のお前の姿だ」
京太郎「くそっ……やめろ!」
――ファンファンファンファン
「兄貴! サツが来ます!」
「わかってる! さっさと済ますさ」
京太郎「離せ、この野郎……!」ドンッ
「うわっ」
694 = 1 :
――カランカラン
京太郎(突き飛ばしたやつの懐から落ちた拳銃)
京太郎(それを拾い、俺は――)
京太郎「やめろっつってんだろ、このクソ野郎が!」
――パンッ
京太郎(乾いた音が一回)
京太郎(そして、何かが地面に倒れる音)
「兄貴!」
リュージ「須賀、お前……」
京太郎「俺、俺は……」
京太郎(俺はその日、初めて人を殺した)
695 = 1 :
「出ろ。お前に面会だ」
京太郎「……はい」
京太郎「怜……」
怜「……」
京太郎「俺……」
怜「……嘘つき」
怜「ずっと傍にいるって言うたやん」
怜「それがなんで……なんでこないなとこにおんねん」
怜「なんで約束、破るん?」
京太郎「ごめんな……」
怜「……もうええよ。あんたのことなんて知らんし、もう会わん」
京太郎「俺は、お前を治そうと……!」
怜「だれが頼んだ!」
京太郎「――っ」
怜「うちは、最後まで一緒にいられれば、それで十分やったのに……」
怜「……さよなら」
696 = 1 :
京太郎「……」
竜華「ちゃんと、食べとる?」
京太郎「あまり、食欲ないんだ……俺は、人を……」
竜華「……今は体を大事にして」
京太郎「もう、俺には……」
竜華「それでも食べること……ええ?」
京太郎「……そうだ、これ」
竜華「いらん。それは須賀くんが自分から返しに来て」
京太郎「……何年かかるかもわからないぞ?」
竜華「いつまでも待っとるから」
京太郎「でも、あいつは……」
竜華「……須賀くん、あの人に気をつけて」
京太郎「あの人……まさかリュージか?」
竜華「うん……絶対なにか企んでどる」
697 = 1 :
リュージ「よう、生きてるか?」
京太郎「……檻の中なのになんでそんな元気なんだよ」
リュージ「まぁ、初めてじゃないからな」
京太郎「そうかよ」
リュージ「お前は目に見えて元気ないじゃねぇか」
京太郎「……わかってるだろ」
リュージ「俺もお前も懲役刑くらって、お前は十年だったか?」
京太郎「執行猶予とかってなかったか」
リュージ「今回に関してはダメだ。組の奴らが手を回した」
京太郎「……ヤクザ怒らせると怖いな」
リュージ「ああ、そして……お前は間に合わない」
リュージ「そこで提案だ」
京太郎「脱獄か?」
リュージ「ご名答だ。刑務所に送られたら面倒になる」
京太郎「だからその前にってか……」
リュージ「どうだ、乗るか?」
京太郎「……」
698 = 1 :
『……須賀くん、あの人に気をつけて』
京太郎(こいつは、何を考えてる?)
京太郎(俺は……)
京太郎「……乗ってやるよ」
リュージ「それでこそだ」
京太郎「人殺しの手だけど、最後まであいつの手を握っててやりたい」
リュージ「……」
京太郎「どうした?」
リュージ「ここまで女の子としか考えてない奴は初めて見た」
京太郎「お前は違うのか?」
リュージ「さぁな」
699 = 1 :
リュージ「走れ、走れ走れっ!」
京太郎「お前っ、あんな抜け道っ、なんで知ってたんだよっ?」
リュージ「前入ったときっ、色々調べたんだっ」
京太郎「この悪党がっ」
リュージ「うるせぇよ人殺しっ」
リュージ「この先に小屋があるっ」
京太郎「小屋っ?」
リュージ「そこで一回死ぬぞっ!」
京太郎「はぁ!?」
700 = 1 :
京太郎「おい、リュージ、ここでいいんだよな? ここでなにすりゃいいんだ!?」
リュージ「ああ……俺は死体を持ってくるから、お前はここに火をつけてくれ」
京太郎「火? 放火かよ……遺体の偽装のためか?」
リュージ「そうだ。似たような体型だったら燃やせば簡単には判別がつかなくなる」
京太郎「……俺の持ち物も残しておけば完璧か?」
リュージ「確実とは言えないがな」
京太郎「そう、か」
リュージ「怖気づいたか?」
京太郎「だったらこんなとこまできてないだろ……火、貸してくれ」
リュージ「ほらよ」
京太郎(そうだよ、俺はもう普通には外を歩けない)
京太郎(だったら俺は俺を殺す)
京太郎(俺が死んだことになれば、またあいつと……!)
みんなの評価 : ○
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