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    元スレ永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」

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    301 = 300 :



    薬売り「確かに、会ったばかりのあっしに、貴方の全てを理解できる道理はありませぬ」

    薬売り「ただし……それが、”貴方をよく知る者”だったら、どうでしょう」


    レイセン「は”…………?」


    薬売り「過去から現在に駆けて、貴方の存在をよく知る者が……」

    薬売り「”貴方はこう言う存在ですよ”と、あっしにこっそり教えていたとすれば……」

    薬売り「意味合いは、少し変わります……」


     「誰だそいつは――――」兎はまたも、擦り切れそうな声でそう吠えた。
     自分を知る者を名乗る者が、自身の事を勝手に第三者に語っていたとあらばなおさらである。



    【定石】


     だが、少なくとも身共は、その怒りにはやや賛同しかねるな。
     だって、そうではないか。よく考えてもみよ。
     別に、「悪口を言っていた」とは限らぬであろう?
     さもあれば、もしかすると……身共の事を陰ながら”讃えておる”かもしれぬではないか。



    【大高目】



    302 = 300 :



    薬売り「貴方が恐れ敬う師・永琳……つい先刻、モノノ怪に憑りつかれ、どこぞの果てに消え失せた」

    薬売り「しかしその顏はどうでしょう……苦痛に歪んでおりましたか? 恐怖に怯えておりましたか?」

    薬売り「あっしにはとてもそのようには……まるで、”自ら望んで消えた”ようにすら見えました」



    レイセン「望ん”デ……消え”ダ……?」



    薬売り「永琳も、最初から知っていたんですよ――――貴方の事を、”もう一人の貴方を含めて”ね」



    レイセン「あだジを”……知っでダだど……!?」



    【相似】



    薬売り「ともすれば、”未曾有の危機は絶交の機会である”とでも思っていたのかもしれません」

    薬売り「まるで……この機に乗じて逃げ出そうとしている、貴方のように」



     確かに、あの時の永琳は、恐れる表情など微塵も見せておらなかったな。
     御身に無数の目が蔓延る最中にて。
     異形同然になり果てど、さりとてその姿勢は、最後まで「威風堂々」を貫いたままであった。
     「永琳程の賢人になると、恐れを跳ね除ける強靭な胆力が備わっておる」とも考えられるがの。
     が、あの場合は……”そもそも恐れる必要がなかった”と考えた方が、幾ばくか自然であろうて。

    303 = 300 :




    薬売り「そんな、貴方を深く知る永琳が、消える間際にあっしへ五つの示唆を託しました」

    薬売り「それは、貴方を深く知る永琳をも深く知る、永遠亭の真の主からの教授でした」



    薬売り「――――”姫君が残せし五枚の符”。そこに貴方の、答えがある」



    レイセン「ズベル…………ガード…………?」



     そうそう永琳と言えば、これを忘れてはならなかったな。
     永琳が薬売りに託せし「符」は、別に姫君だけのものではなく、この幻想郷では広く知れ渡った常識なのじゃ。
     幻想郷に住まう者なら誰しもが持っておる物。故にその使い方も多種多様。


    /nox/remoteimages/ab/61/66ea02de5d018cee357b96b73c7e.jpeg とは言いつつも、此度の符は、この幻想郷に置いてもやや特殊だったようで……
     流石の身共も、少してこずらされたわい。
     



    【難題】龍の頸の玉-五色の弾丸-
    【神宝】ブディストダイアモンド
    【難題】火鼠の皮衣-焦れぬ心-
    【神宝】ライフスプリングインフィニティ
    【難題】蓬莱の弾の枝-虹色の弾幕-




    ――――この符が示す、”答えの解き方”にはな。



    304 = 300 :



    薬売り「この符は……竹取物語における五つの難題を模した物」

    薬売り「して五つの難題とは、かぐや姫が求婚を断る為に用いた方便」

    薬売り「故に”難題”。これらの品々は、どこを探そうと、どこにもありはしない」


     そう、かぐや姫が課した難題は、最初からこの世に存在せぬ物。
     存在せぬが故に提示できるはずもなく、よって大手を振って求婚を断れると言う、なんともまぁ~意地の悪い難題じゃ。
     さりとて「はいそうですか」と引き下がれぬのが貴公子の辛い所。
     果たせぬとわかりつつ、あの手この手で何とか難題に答えんと奮闘していた小話は、まぁ皆も知る所じゃろう。
     

    薬売り「しかしどうでしょう……果たせぬが故の【難題】。にも拘らずその頭文字には、確かに【神宝】の文字があるではありませんか」

    薬売り「あるはずがないのに、あたかもそこにあるように置かれる【神宝】の頭文字」

    薬売り「これは一体……何を意味するのでしょう」


     【難題】が果たせぬ「幻」を意味するならば、【神宝】は存在そのものを指す「現」。
     言い換えれば「在る・無し」と置き換える事が出来よう。
     姫君の符は、その名の通り「五つの難題」を模した者である。
     その中に「在る」を意味する頭文字が混ざる、その所以は――――


    薬売り「言い換えるならば、【難題】と【神宝】の頭文字こそが、姫が示した”答え”」

    薬売り「ほら、よくご覧なさい……三つの【難題】と二つの【神宝】」

    薬売り「この中に、確かに……”貴方を指す”言葉が、あるじゃありませんか」


     ふふ……ッと失礼。いやはや、関心しておったのだよ。
     「嫁ぎたくない」ただそれだけの為に咄嗟に出た方便にしては、よくできた御題目じゃと思うての。
     かの書を読んだ際は「なんだこの性悪女は」とタカをくくっていたが、しかし改めて見てみれば、こう……
     確かにこの難題ならば、相手の身分に関係なく、まんまと求婚を断り抜けようものぞ。



    薬売り「目を背けてはなりません。貴方を知る者が、貴方を一体どう思っているのか」


    薬売り「それこそが貴方の望みを果たす唯一の術……隔てし境を打ち破る、唯一の答え」



     この姫君、やるのぅ。どうして中々、存外に賢しき姫君じゃ。 
     これほどに頭の回る姫ならば、うむ。なるほどの。
     咄嗟の間際であろうとも、このような示唆も十分できようものぞ。




    薬売り「その全てが……ここにある……!」




     確かにこの符には、しかと記されておるわ――――”兎はモノノ怪ではない”とな。



    305 = 300 :



    薬売り「今一度思い出すのです。かつて貴方が、何を欲していたのか」

    薬売り「欲した物を手に入れるために何を交わしたか。奈落の底に堕ちてまで手に入れたかった物は何か」


    レイセン(――――???)


    薬売り「してそれは――――誰に与えられた物だったのか」


    レイセン「ぞ…………レバ…………」





    【鈴仙】





    (随分……待たせてしまいました)

    (あの約束を交わしたあの時から……何がふさわしいか、ずっと悩んでいたのです)

    (ずっとずっと、長い時間をかけて……考えてたのです……)

    (……姫様と、二人でね)




    レイセン「アダジガ…………欲ジガッダ物…………」




    (こうして渡せる日が訪れた事を……心から感謝します)

    (さあ、受け取りなさい……今日から貴方は――――)




    薬売り「その言葉は、永遠を生む枝から咲く、一輪の花から取った言葉だった……」



    【憶】



    うどんげ「――――その意味を知ったのは、此処へ来てしばらく後だった」




    レイセン(じゃあ…………)


    レイセン(うどんげって…………!)




    【覚】

    306 = 300 :



    薬売り「ずっと……気になっておりました……」

    薬売り「存在せぬはずの五つの難題の中で……何故姫君は、蓬莱の玉の枝のみ”本物を所持している”と、言い張っているのか」



    【蓬莱の玉の枝】



    うどんげ「あたしがこいつに……教えたのよ……」


    レイセン(じゃあ…………)



     先ほど述べた通り、蓬莱の玉の枝とは、不老不死の薬の元になる原料である。
     多少の差異はあれど、不老不死に纏わる大抵の物語に出てくる故な。
     五つの難題の中では、最も名の知れた品なのではないだろうか。

     さもあれば、不老不死と言う広く知られた表の顏もさることながら……
     実はこの蓬莱の玉の枝。もう一つ”裏の顏”がある事は、ご存じかな?



    レイセン(”本物の蓬莱の玉の枝”って…………!)



     それは――――枝に咲く花の逸話じゃ。
     蓬莱の玉の枝には、もう一つの伝説があっての。
     それもズバリ”三千年に一度だけ花を咲かす”と言う伝説じゃ。



    【咲】



     三千年に一度……おそらく大多数の者共が一生お目にかかる事はないであろう、大変に珍しい花よ。
     そんな、あまりに度を超えた希少さが故に、じゃ。
     一度咲けば――――”三千年分の吉祥を振りまく”と言う、これまた大層な逸話もあるのだ。



    薬売り「あくまで、推測にすぎません……が」



     そんな二つの顏を持つ蓬莱の玉の枝。
     その枝に咲く花は、誰がつけたかこう名付けられた――――

    307 = 300 :








    【開花】






    薬売り「――――”貴方の事”だったんじゃないですか」


    薬売り「姫君だけが所持する……”本物の蓬莱の玉の枝”とは」




    【――優曇華ノ花――】



     ……もう、お分かり頂けただろう。
     優曇華の花を咲かす蓬莱の玉の枝に、無しを意味する【難題】が頭についておる。
     よってこれらを結び合わせれば、浮かび上がる意は「蓬莱の玉の枝は無し」となる。
     つまり、言い換えれば――――「モノノ怪は優曇華ではない」と読める。と、言う事じゃな。


    /nox/remoteimages/24/ce/791cfec8e098e57af8b177dcfeda.jpeg

    308 = 300 :

    メシ

    309 :

    一旦乙

    310 :

    スペカが難度取り混ぜだったのはこういう仕掛けか、見事

    311 = 300 :



    レイセン(ウソ……)


     いやぁ、にしても……何と言おうか……
     竹取物語などさして興味はなかったが……なんだか、段々と身共も興が湧いて来たわ。



    レイセン(じゃあ……あたしは……あたしには……!)



     月よりいずるかぐや姫……か。
     まだこの地上におるならば、是非一度お会いしたいものよ。



    薬売り「恐れる必要はなかった……いや、恐れなど、最初からありはしなかった」

    うどんげ「ありもしない恐れに怯え、ありもしない幻に、勝手に狂気に満ちた鬼を想像していた……」



    ……阿呆! 求婚を申し込みに行くわけではないわ!
     身共はただ、測りたいのだよ。 
     この聡明精錬にして明晰な頭脳を存分に発揮できる、知恵比べ相手としてな。
     


    【至】



    薬売り「あるのただ、単純な一つの事実のみだった」

    うどんげ「あたしがお師匠様から最初に教わった、教え……それが全てだった」



    レイセン(あたしが…………あたしも…………)





    【答】





    薬売り・うどんげ「――――(私・貴方)は”愛されていた”」




     ブワリ――――その瞬間、薬売りが貸し与えた札が、辺り一面に飛び散った。
     ひらひらと周囲に舞い散り、瞬く間に闇夜に消えゆく札。
     それはまるで、春の終わりを告げる桜の花びらのようであった。


    /nox/remoteimages/bb/99/b55a9c724142db6e4458731c9f63.png しかしそこに、風はなかった。
     風無き空に札だけが舞う……そうじゃ。
     兎の中の”恐れ”だけが、形を失ったのだ。




    【解】     【恐】     【之】

        【放】     【怖】     【殻】



      

    312 = 300 :




    レイセン(嗚呼…………)



    【塵】



    レイセン(消えていく……あたしが……あたしの存在そのものが……)



    【理知】



    薬売り「貴方を知る者は……何も、貴方自身だけとは限りません」

    薬売り「貴方と同じ過去を過ごした他人もまた……貴方を知る者の一人であるのです」



    【反転】



    レイセン(じゃあ……あたしも……他人なの……?)


    薬売り「あなたは一体誰なのか――――そんな事は、最初から分かり切った事だったのですよ」



     してそれらの舞い散る札を、薬売りは気にも留めぬままに、懐からまた私物を一つ取り出した。
     それは、モノノ怪を斬る退魔の剣にあらず。
     掌に収まる程度の、おなごが身なりを整える際に使われる物――――
     一枚の、手鏡である。


    313 = 300 :




    薬売り「ほら、ここには……”最初から一羽の兎しかいない”」



    【反射】



    レイセン(ほんとだ……)


    レイセン(おんなじ…………だ…………)



     鏡越しに見る闇夜には、しかと映っておった。
     舞い散る札の一枚一枚の、その中心に――――
     優曇華と名付けられし、一羽の兎が。



    レイセン(最初から……おんなじだったんだ……)



    /nox/remoteimages/a5/07/753485308a4f009e9ea522754df8.jpeg――――故に願いも、また同じとなりし。




    【同】



    【願】



    【――――安ラギヨ永遠ニ】


           
    /nox/remoteimages/fe/e5/1094e678de1fa57a13496988d250.jpeg

    314 = 300 :

    本日は此処迄

    315 :

    乙!
    お見事です…!

    316 :

    いよいよクライマックスかな

    317 :



    ドーン


    【散】



    ゴーン



    【札】



    ボーン



    【紛・闇夜之中】



    ――――静寂が、辺りを包んだ。
     丑三つ時に相応しき、闇夜にあるべき静けさである。
     その静けさは、意図的に作られた静けさであった。
     薬売りと兎。
     この両名が黙す事によって、出(いず)る事を許された、いとも儚き静寂なのだ。
     


    薬売り「…………行くのですか」


    うどんげ「…………ええ」



     儚きが故、打ち破るのもまた容易な事で――――
     薬売りが、ポツリと訪ねた。
     してその返答は、すぐに返ってきた。
     そしてその返答を気に、飛び交う音のやり取り。
     結果、あっという間に静寂は消え申した。
     しかし返事の主の姿は、もはや背中でしか見えなくなっていたのである。 


    /nox/remoteimages/11/1b/2316ac7f8eae10fd72c7d8246828.jpeg 薬売り「そんなに息を押し殺して……一体何処へ行こうと言うのです」

    うどんげ「行くんじゃない。生むの」

    うどんげ「永遠亭が永遠足りえる……いつまでも変わらない静寂を」


     玉兎の決意は、この一言に集約されておった。
     こうまで言われては、もはや誰にも止める事はできぬ。
     まぁ、なんだ……結局また、振り出しに戻ったわけだ。
     紆余曲折を経て導き出された答えは、最初の通り、亭から逃げ出す事のままだったのだ。



    【元ノ鞘】

    318 = 317 :



    【満】


    うどんげ「止めないの?」

    薬売り「止める必要がない……貴方がモノノ怪ではないのなら、どこで何をしようが貴方の勝手」

    うどんげ「冷たい奴。こういう時は、社交辞令でも止めるフリくらいはするものよ」

    薬売り「それに……自信がないのですよ」

    うどんげ「自信?」

    薬売り「あっしにはどうも……兎の脚に追いつける自信がありませぬ」


     それは何も心のあり様の話ではない。実際問題無理なのだ。
     一度逃げ始めた兎を捕らえる事は、本当に至極困難である。
     と言うのも――――単純に”速い”のだよ。


    うどんげ「頼りない奴……ほんとに大丈夫なの?」

    うどんげ「あんた……言ったわよね? ”モノノ怪は必ず斬る”って」


     知っておるか? 兎は時として、馬よりも速く駆けるのだ。
     さもあれば、人の脚程度では到底追いつけぬ速さである。
     「脱兎の如く」の語源は、まさにそこにあるのだ。

     そんな兎の脚を止めるには、何か別の手段が必要となろう。
     そうじゃな……まぁ、強いて言うならば、だ。
     「罠を仕掛ける」事。それが一つの、定石であろう。


    薬売り「ええ……斬りますよ、モノノ怪はね」

    うどんげ「だったら……モノノ怪を斬り終えた暁には……」


     玉兎は、言伝を頼んだ。
     それはモノノ怪が去りしこの地にて、残されし者への”声明”であった。

     玉兎はその身に宿せし思いを、こう言い表した。
     「永遠は終はらず」――――。
     自分が逃げ続ける限り、亭の永遠は潰える事はないと言う意である。


    薬売り「確かに……承りました」

    うどんげ「……はぁ、あたしもヤキが回ったわ」

    うどんげ「あんたみたいなうさんくさい奴にしか、こんな大事な頼み事をできないなんて」


     モノノ怪を斬るのが薬売りの仕事なら、亭を守るのが玉兎の仕事。
     一見なんら関係のない責務であるが、両者の利害が一致しているとあらば、手を組まぬ道理はない。

     しかし玉兎からすれば……まぁ、やはり不安であろうよの。
     手を組む相手が、どうにも”うさんくさすぎる”。



    【夜八つ】

    319 = 317 :



    薬売り「僭越ながら、あっしからも、お節介を一つ……」

    うどんげ「あによ」

    薬売り「貴方の中に在りし、もう一人の貴方の事です」


     亭を守るのが玉兎の仕事なら、モノノ怪を斬るのが薬売りの仕事。
     玉兎が不安を感じると同時に、薬売りもまた、一抹の不安を抱えておったのだ。
     
     よって薬売りは、身の丈もわきまえず、釘を刺した。
     姉弟子に対し末弟子の分際で、指図紛いの忠告を、最後の最後に言い放ったのである。


    薬売り「モノノ怪を成すのは、人の因果と縁(えにし)――――」

    薬売り「人の情念や怨念がアヤカシに取り憑いた時、それはモノノ怪となる」


    うどんげ「……」


    薬売り「貴方の中のもう一人の貴方……モノノ怪でこそなかったものの、その情念は十分モノノ怪を成すに足り得る」

    薬売り「よって万が一、優曇華の幕が下り、レイセンなる一匹のモノノ怪の幕が開けた、その暁には……」

    薬売り「斬りに来ますよ――――”約束通り”ね」 


     にしても、言い方が……
     要するに「お前がモノノ怪になったら、追い掛け回してぶった斬る」と言う事だろう。
     別れの言葉とは思えん。これではまるで脅迫ではないか……
     彼奴の態度もまた、永遠なのかのぅ。



    うどんげ「……”そうなったら”ね」



     陰ながら切に願っておるぞ……二度と再開せぬ事を。


    320 = 317 :




    うどんげ「んじゃ――――」



    薬売り「お達者で――――」




    【疾風】


    【消失】




    薬売り「…………」



    ――――別れは、存外に淡泊な終わり方であった。
     大層な餞もなく、淡々と。まるで一時の別れであるかのようである。
     しかしながら、双方共に、再び会いまみえるなど思っていない。




    【土煙】




    薬売り「…………ふぅ」




    【脱兎の如く】




     「脱」――――兎が蹴った駆け足だけが、最後の音であった。




    【来たる】


    【――――暁七つ】




    321 = 317 :



    薬売り「いやぁ…………」


    薬売り「にしても…………」


    薬売り「なんと言いましょうか…………」


    薬売り「存外に…………”良い話だった”と言いますか…………」



     兎は、本当に瞬きをする間もなく、闇夜に消えた。
     その地には、兎が掘った穴と、兎が蹴った痕しか見えなかったと言う。

     そして一人残されし薬売りは……月を見上げながら、ポツリ言葉を呟いた。
     傍から見ればまるで、月に語り掛ける、面妖なうさんくさい男が一人である。
     しかしそれは――――確かに”会話”であったのだ。



    薬売り「”守る為に逃げる”ですか……確かに、少々わかりづらいでしょうな」

    薬売り「ですがその理は、確かに繋がっていた……兎の、嘘偽りなき真と」



     薬売りは語った。
     玉兎の秘めし思い。決意。そしてそこから伴う行動が、やや”分かりにくかった”事を。
     しかし幸運にも、兎が話し上手であった為か。
     その理は、最後には”理解足り得る物”であった事も。



    薬売り「臆病な兎だから……いや、臆病な兎だからこそ、辿り着く事のできた兎の理」

    薬売り「だったのかも知れません……ねぇ?」



     理解足り得るが故に、結ぶことができたのだ。
     兎なき後の永遠亭の、あってはならぬ”怪”を排除する役目。
     「モノノ怪を斬り払え」――――薬売りにしか託せぬ、兎の命である。



    薬売り「そう、思いませんか…………」



     だからこそ、だろうなぁ……
     如何に見聞に長けた兎とて、よもや、露も思わなんだろう。

     




    /nox/remoteimages/8c/2a/727fe168c2fdc66c8de34bca538f.jpeg その薬売りが、まさか――――先に”モノノ怪と手を結んでいようとは”。



    322 = 317 :

    メシ

    323 :




    (ハァ――――……ハァ――――……)



    【同刻】



    (ハァ――――ハァ――――)




    【兎側】




    「ハァ――――ハァ――――ッ!」



    【止】



    うどんげ「あ”~……」




    【竹林の境にて】




    うどんげ「喉……渇いたぁ……」




    ――――ウサギは、あっという間にゴールまで到着しました。
     馬より速いと評判のウサギの瞬足を持ってすれば、どこであろうと、辿り着くのはいとも容易い事だったのです。


     ですが最終的にその脚は、カメより遅い鈍足となってしまいます。
     瞬足にかまけ、あろうことか、ゴールの手前で居眠りをしてしまうからです。



    うどんげ「またあんたなの……」


    324 = 323 :



     ウサギがのんきに熟睡している間に、カメはウサギを抜かし、結果カメはウサギより早くゴールに辿り着きました。
     そうです。これは所謂「ウサギとカメ」。
     このまさかの結果に終わった事で有名な、ウサギとカメのかけっこですが……
     実はこの話には、続きがあったのはご存じでしょうか。


    うどんげ「…………」


     負けたウサギはその後どうなったのか。
     勝ったカメは何を得たのか。
     勝者と敗者。栄光と挫折。
     この相反する二匹が辿る、数奇な運命とは一体――――


    うどんげ「…………」



    ――――知りません。
     むしろこっちが聞きたいくらいです。
     話し手はまだ、続きを読んでいないですから。 



    うどんげ「ってオイ」


    325 = 323 :



     だって……しょうがないじゃない。
     読もう読もうって言ってたくせに、今やすっかり忘れちゃってるんだから。


    うどんげ「っさいな~、あんときゃ勉強で忙しかったのよ」


     だったら、最初の行先は人里で決定ね。
     頼めば一冊くらい、貸してくれるかもよ?


    うどんげ「バカね、なんでわざわざこんな夜更けに童話を読みに行かないといけないのよ」

    うどんげ「あたしらと違って、人は夜眠る生き物なのよ。人里に向かうなら、その辺考えないと――――」



    (ぐぅ~)



    うどんげ「……」



    ――――とか言いつつも、やっぱり最初の行先は人里でした。



    うどんげ「……食料よ! 食料の調達に行くのよ!」

    うどんげ「ほら、腹が減ってはなんとやらって言うじゃない!? ていうか、そもそもまだなんも食べてなかったし!?」


     はいはい、そういう事にしてあげる……
     別に、どうとでも言えばいいんです。
     どんな屁理屈を述べたって、結局は意味がないんだから。
     いくら言い訳を並べたって、結局は筒抜けなんだから。



    うどんげ「ほら、行くわよ…………”一緒に”ね!」



     だって、あたし達はずっと一緒なんだから。


    326 = 323 :



    うどんげ「……でも」


     でも?


    うどんげ「許されるなら、まだ……」

    うどんげ「あんたさえよければ、もうちょっと、あと少しだけ……」



     あ~……


     ……どうぞ、ご自由に。



    うどんげ「…………」



     優曇華は、体を前にしたまま、首だけでくるりと振り返りました。
     そしてしばしの間、夜のくらぁい竹林を、じ~っと見つめ続けていました。


    /nox/remoteimages/43/57/a4f5b1e7eade369a3364d49b05df.jpeg じぃ~……ちょっとだけと言う割には、結構な間です。
     やっぱりこいつは、嘘つきだと思いました。



    うどんげ(さよなら……あたしの永遠亭……)



     でも、「別にいいんじゃない?」って感じです。
     もう互いに、目を逸らし合う必要はないんですから。
     誰にも言う必要はないんです。
     その時の優曇華が何を考えていたのかは、あたしだけが知ってれば、それでいいんです。



    うどんげ(さよなら……あたしの故郷だった場所)



    327 = 323 :



     思い出を過去に。未来を眼に。
     これから兎は、ご自慢の逃げ脚で、どこまでも走り続けます。
     


    うどんげ(さよなら…………永遠と思ってた今)



     時に疲れてしまう事もあるでしょう。
     時には脚を止め、休息に浸る事もあるでしょう。 
     それらと同じく、もしいつか、今のように振り返りたくなる時が訪れたなら……
     いつだって、目を合わせてあげるつもりです。



    うどんげ(さよ…………なら…………)



     だって、あたしはあなた。あなたはあたし。
     鈴仙と優曇華は、どっちも同じ、兎なのだから――――。




    うどんげ(――――)




    ――――そして今から、始まるのです。







    /nox/remoteimages/31/e0/54053d76ed947523fb73a865b769.png 新しい二人のk






    ――――





    ――











    【鈴仙・優曇華院・イナバ】×


    328 = 323 :




    薬売り「…………」



     薬売りは兎が去りし後、立ち上がる事すらせぬままに、じぃ~っとその場に座し続けておった。
     喋らず、動かず、瞼すら開かず。
     兎去りし夜の竹林にて、ただ、静かなるままに……


     ……何? この時薬売りが何を考えていたかだと? 
     知るか。どうせ眠くなったから目を閉じたとかそんな所だろう。
     というか、わかるわけがなかろう……身共とこやつは、赤の他人なのだから。



    薬売り「……逝ったか」



     ああでも、一つだけわかるぞ。
     ……いやだから、薬売りの事ではないと申すに。
     そっちじゃなくて、身共が言いたいのは、ここの”面子”の事よ。



    薬売り「ではこちらも……そろそろ、参りましょうか」



     ひーふーみー……ほれ、おぬしらもやってみよ。

     よいか、最初に面子は「六」人おったのじゃ。
     そして後に「三」人がいなくなり、「一」人は無関係とわかり、たった今「一」羽が逃げ出した。
     ならば残りし数は何とならん。

     如何に平民風情とて、このくらいはできるであろう?


    329 = 323 :





    【八意永琳】×

    【鈴仙・優曇華院・イナバ】×

    【蓬莱山輝夜】×

    【八雲紫】×

    【藤原妹紅】×





     ま、と言うわけで、残りし数は後一人……いや、一羽じゃな。





    【残】因幡てゐ



     

     果たしてこの最後の因幡兎は、一体どんな因果を抱えておるのやら。
     してその因果は、一体どのような形でモノノ怪と結びついておるのやら。
     目玉を形作るモノノ怪は一体何を見据え、薬売りはその視線に、一体いかような理を見出したのやら。
     


    /nox/remoteimages/f8/b5/46d37e3834bb41f5081a943a3705.jpeg 全てが明らかとなる時は近い。
     ではでは皆の衆。
     直に訪れる終幕を、努々見逃すことなかれ――――。
     



    【突入】



    【寅の刻】




    薬売り「残る因果は――――”後一つ”!」





                             【後編へつづく】



    330 = 323 :



    【御知らせ】

    またしても書き溜めが尽きました
    なのでしばらく休みます
    感覚は前と同じくらいだと思います
    例によって、再開の目途が立てば報告しにきます
    一応次の再開で完結する予定です

    ではではそういうわけで、しばし御免

    331 :

    乙でございまする!

    332 :

    乙!

    こんだけ意味ありげな回だったのにうどんげ犯人ではなかったというw

    333 :

    紫以外で目に関係するキャラってうどんげしかいないと思ってたが、違うのか

    334 :

    スペカのヒントおかしくね?
    読み方はわかったけどこれだと犯人二人いる事になるじゃん

    335 :

    んんんマジかぁ!
    楽しみに待ってるよ!

    336 :

    >>334
    共犯がいるって事だろ

    338 :

    【御知らせ】
    すんませんもうちょいかかりそうです

    339 :

    了解

    340 :

    待ってるよー

    341 :

    おk
    焦らず無理なくやってね

    342 :

    追いついた
    これは近年稀に見る東方SSですねえ・・・

    343 :


    【定時報告】

    少女書溜中……………………

    344 :

    がんがれ

    345 :

    俺の退魔の剣がカチカチ言ってる

    346 :

    【定時報告】

    /nox/remoteimages/11/a9/35e2c5a057b494beae0692155f4a.jpeg

    347 = 346 :



    ■■■■■■■■■■■■□□□□
                     ↑
                   今この辺

    349 :

    舞ってる

    350 :

    このスレ好き
    何時までも待ってる


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