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元スレ永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」
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薬売り「モノノ怪は、決して消える事はない……人の情念がある限り、そこにモノノ怪は必ず現れる」
薬売り「言い換えれば、無限に続く面倒事とも言えます……あっしにはとてもじゃありませんが、愛しいとは思えませぬ」
紫「そう言わないの、もしも見事払えたなら、ご褒美として……そうだ!」
紫「モノノ怪怪奇譚とでも名付けて、浮世中に広めてあげようかしら」
紫「容姿端麗な薬売りの織成す、麗しくもどこか物悲しい英雄譚として、ね」
【着想】
薬売り「どこぞの修験者に……言いように扱われる光景が、目に浮かびます」
紫「でもほら、やる気出たでしょ。さぁ――――」
【見込】
紫「はてさて、今度に消えるの、一体だぁれ――――」
【期待】
(最後に残るは――――一体だぁれ――――)
【凱旋】
【火急之永遠亭】
【八意永琳】
【鈴仙・優曇華院・イナバ】
【因幡てゐ】
【蓬莱山輝夜】×
【八雲紫】×
【藤原妹紅】×
おつ
他キャラが弾幕勝負に参戦するクロスかと思いきや原作さながらの本格ミステリでびっくりだ
他キャラが弾幕勝負に参戦するクロスかと思いきや原作さながらの本格ミステリでびっくりだ
永琳「薬売りさん……!」
うどんげ「あああ、あんた! どっから湧いて出たのよ!?」
薬売り「おや……」
しかし毎度ながら、まことに神出鬼没極まりない男であるな。
外にいたかと思いきやいつのまにやら内側に。遠くにいるかと思いきや傍らに。
上から下へ、左から右へ。そんな事は、この薬売りにとっては日常茶飯事なのである。
こちらとすれば、心の臓が飛び出る程に仰天せしめると言う物なのだが……
しかし当の本人はまるで意に介す様子もないから困り物じゃ。
いやはや、そういう効能の薬でもあるのかう……己が身を朧と化する、そういう薬でも。
薬売り「お師匠様…………”そのお姿は”!」
永琳「どうやら私も――――”モノノ怪に当てられてしまった”ようです」
しかし今回ばかりは薬売りとて、仰天させる側ではなくする側であったようで。
まっこと好い気味じゃ。身共も是非見たかった物じゃのう……
見知った知人が、”全身目玉だらけになる姿”を見た反応を。
うどんげ「あああ、ああんた! モノノ怪斬りに来たでしょ!? ほっほら! 早く斬りなさいよ!」
永琳「お気になさらず、薬売りさん……”今はまだ斬れない”」
永琳「でしょ?」
退魔の剣「~~~~」カタカタカタ
薬売り「そのようで……」
にしてもこの状況。乱れた間の様子から察するにだな。
部屋に閉じこもる玉兎を見かねた師・永琳が、その閉じられし戸を強引に開いたのが始まりのようであるな。
そしていざ説き伏せんと対面せしば、その直後……
現れたしは、御身に蔓延る無数の目玉であった、と。
【八意永琳――――之・理】
永琳「見に行ったのですね……私の真を」
薬売り「しかと、見届け申した」
永琳「なら、もうご存知ですね……私には、モノノ怪を成すに値する因果があった、と」
薬売り「そしてモノノ怪は今、貴方の存在其の物に憑りついている」
【同調】
永琳「してその心は」
薬売り「ただ一つ」
【解離】
薬売り・永琳「モノノ怪は(私・貴方)ではなかった――――」
うどんげ「? ? ? ?」
モノノ怪の真は、八意永琳ではなかった。
己がかつて犯した罪と、薬売りの教示とを合わせれば、「よもや、モノノ怪の正体は自分ではないのか」。
頭脳明晰な八意永琳にして、その結論に至るは至極当然であろうて。
うどんげ「そ、そんな事どうでもイイッ! ほら、目の前にいるじゃない!」
うどんげ「早くしないと……お師匠様が……!」
薬売り「しかし退魔の剣は未だ真と理を得てませぬ」
薬売り「これではとても……斬る事など……」
薬売りも同様に、当初からこの八意永琳にアタリをつけておったのやもしれぬな。
しかしそうではないと分かれば、事はまた振り出しに戻る道理。
薬売りも大層うんざりとなすった事であろうなぁ……
いかにいけすかぬ薬売りとて、その心中はまぁ~察するに余りある。
永琳「ご安心ください、薬売りさん」
永琳「姫様は、ちゃんと残しておいででした……この地に潜む、”怪の示唆”を」
薬売り「……なに?」
寸先見えぬ暗の渦。
向かえど進めど出口の見えぬ、複雑怪奇な真理の迷宮。
しかしそこに、一つの光明が差した――――
げに有難きかな。姫君自らが与えたもう、”明示の一手”である。
永琳「蓬莱山輝夜姫の残せし……”姫君のスペルカード”に御座います」
薬売り(これは……)
【難題】龍の頸の玉-五色の弾丸-
【神宝】ブディストダイアモンド
【難題】火鼠の皮衣-焦れぬ心-
【神宝】ライフスプリングインフィニティ
【難題】蓬莱の弾の枝-虹色の弾幕-
永琳「私が師として命じた言付……覚えておいでですね?」
薬売り「無論です。必ずや――――」
(そのモノノ怪とやら、必ずや斬り屠って見せなさい)
――――時に皆の衆、モノノ怪の”怪”とは何か知っておるか?
病の事よ……そしてモノとは荒ぶる神の事。
その名の所以の通り、モノノ怪とは、人を病のように祟る存在。
怨み・悲しみ・憎しみ。様々な激しい人の情念が妖と結びつくことによって生まれる魔羅の鬼。
これらの事を顧みれば、八意永琳が薬売りに託した”命”の真意も、自然と推し量れよう物よの。
永琳「私は薬師。そこに患者がいる限り、世に病が蔓延る限り」
永琳「努めてこの身、捧げましょう――――人々が、苦しみから解き放たれますように」
八意永琳の身に巣食った目玉の群れが、さらに増えていく。
そしてその透き通った麗しき肌は、直に白と黒との二色に分かれ、その内の黒が集いて、一つの大きなる瞳となった。
もはやモノノ怪と永琳の区別もつかぬ、いと大きなる眼……
してその瞳は、”最後の時”まで、じ~っと見つめていたそうな。
うどんげ「お師匠様…………!」
愛弟子・鈴仙――――其の本名「鈴仙・優曇華院・イナバ」を。
【愛】
【八意永琳】×
【鈴仙・優曇華院・イナバ】
【因幡てゐ】
【蓬莱山輝夜】×
【八雲紫】×
【藤原妹紅】×
【刻】
【刻】
【刻】
【――――丑の刻】
うどんげ「う、うう……お師匠様……お師匠様ぁ……」
うどんげ「お師匠様……お師匠様…………!」
嗚咽の混じった声なき声……言葉にならぬとは、まさにこのような状態の事を言うのであろう。
無理もない……つい今しがたの出来事だったのだ。
目の前で、師が空に消え失せる様を目の当たりにしたのは、な。
薬売り「……おや」
てゐ「――――も~、さっきからうるっさいな~」
てゐ「ちょっとちんどん屋。そこのギャン泣きやらかしてるバカ、なんとかしてくんない?」
薬売り(因幡てゐ……)
こうなれば、普段の振る舞いが逆に際立って浮いた物になるよの。
妖兎・てゐ――――この兎の佇まいとくれば、この期に及んでもまだ気の抜けた態度のままであった。
如何に楽観的な気質であろうとて、この状況を理解しておらぬとは到底思えぬのだが。
その場におらずとも、”そこで一体何が起こったか”など……
この玉兎の様子と、「床に落ちた師の帽子」とを見れば一目瞭然であろうに。
てゐ「ギャーギャーワーキャー、ワンワンギャンギャン……こんなんじゃ、眠たくっても眠れやしないわ」
薬売り「眠り薬でも……調合しやしょうか?」
てゐ「いらない。そこのヒスバカが発狂やめればいいだけだから」
てゐ「むしろそいつにこそ薬いるでしょ。全身動けなくなる痺れ薬的な奴」
薬売り「それはただの……毒ですよ」
薬売りに賛同するわけではないが、身共もこの不自然さには、ほとほと違和感を感じておるでな。
姫・師・友人と、縁ある者共が端から消えていく最中にて。
まるで明日の雲行きを気にする程度にしか気を止めておらぬとはこれ如何に。
それは今この時に置いてもそうだ。
姉妹弟子の玉兎が悲しみで涙を流すのに対し、この妖兎が零すのは、あくびによる涙なのだ。
”あまりに普段通りすぎる”――――薬売りの目つきがつい鋭くなるその心情、身共もよぉく推し量れようぞ。
てゐ「あ~……ねむ」
うどんげ「あんた……よくそんな悠長にできるわね……お師匠様が! みんなが!」
うどんげ「みんないなくなっていくのに……あんたは……あんたって奴は…………!」
てゐ「ちっうぜぇ……八つ当たりかよ」
本当に同じ兎なのかと疑うほどに、対照的な二匹の兎。
このものの見事な対照さ加減は、元から持って生まれた性なのであろうか。
それが故だろうなぁ……と言うのもこの兎共。同じ一門の分際で、いささか仲が悪すぎるよの。
生まれは違えど同じ兎同士……もうちょっとこう、仲睦まじく出来ぬものかのう。
うどんげ「本当に何も感じないの!? 誰もかれもが消えてくのよ!?」
うどんげ「そうなればその内アンタだって……」
うどんげ「そうなればもう、”知恵”どころじゃないのよ!?」
【癪】
てゐ「…………せええええ! お前がそれを口にするんじゃねェーーーーッ!」
薬売り(今……”琴線に触れた”か……?)
【禁句】
門下と言えばそうだ。身共が修行の身であった頃の記憶が蘇る。
修験の道を志す者は多い……二人所か、古今東西からあらゆる者共がこぞって集まってきよった物ぞ。
しかしそれでも、こんな事は一切なかったぞ?
修験の修行は、喧嘩する暇などありはせぬ程、それはもう生半可な物では無かった故な。
てゐ「こっちだって体ぶち抜かれて大変なんだ! だからこそ早く寝て体を休めるんだろーが!」
うどんげ「何がぶちぬかれたよ! 大げさに言って、結局ただの掠り傷だったじゃないのよ!」
てゐ「掠り傷じゃねーよ! 古傷抱えてんのはお前も知ってるだろ!」
てゐ「何も知らねー癖に何様だ! じゃあお前も、いっぺん生皮剥がされてみろっつーの!」
人里から遠く離れた山々の、さらに奥深くにて。
時には滝に打たれ、時には食を断ち、さらにさらに、時には全力で山から山へと駆け巡るのじゃ。
これを”奥駆け”と言ってな……いやはや、あれが一番辛うござった。
断崖絶壁を駆ける苦痛もさることながら、稀に道中に熊なんぞが現れよったりしての。
いやはや、あの時はまっこと、肝を冷やした物じゃ。
うどんげ「そもそも! あんたがこんな奴を連れ込んだからこんな事になったのよ!」
うどんげ「一体どーしてくれる! あんた責任とりなさいよ!」
てゐ「はぁぁぁぁ!?!?!? 何人のせいにしてんのぉぉぉぉ!? そのちんどん屋は最初っから中にいたっつーのォォォォ!」
修験の教義の一つに”擬死再生”と言う考えがある。
死にも劣らぬ苦痛をその身に受け、その苦痛で持って穢れた罪を清め払い、新たなる存在として再生せんと言う考えじゃ。
修験者が山籠りに明け暮れるのは、その考えが根底にあるからじゃな。
してその修験の教えは全ての教えに通ずると、かつてわが師が言っておった。
無論それは、薬師の道にも……の、はずなのだが。
てゐ「そもそもお前だってこっそり二人で妹紅の所に行こうとしてただろ! アイツがいなくなったのもそのせいじゃねーの!?」
てゐ「関係なかったのに巻き込まれて、おーカワイソウ。落とし穴に落とされるのは必然ね!」
うどんげ「なんですって!? 大体それは、あんたが薬の事漏らしたからでしょーがァ!」
うどんげ「アンタが余計な事言わなきゃ妹紅になんて会いに行ってなかったわよ! 蓬莱の薬は、絶対に知られてはいけなかったのに!」
この竹林は我らで言う山。竹を媒介に自然と調和し、御身を清めて他者をも清める悟りの道……
と思いたいのは山々なのだが、肝心の修行人がこのありさまでは、まだまだ悟りは遠いよの。
主観ながら、薬師の修学よりもまずは、基礎的な作法から学んだ方がよいのではないかと思う今日この頃である。
まぁ、今更こんな事を言うた所で……もはやもう、後の祭り、か
【大喧嘩】
うどんげ「何が幸運の使者よ! 余計な事ばっかして、そんなに人が苦しむのが楽しい!?」
うどんげ「お師匠様に近づいたのも、どうせよからぬ事を考えてたんでしょ!? あんたは不幸の元凶よ!」
あーあーもう……始まりよった。おなごの争いはいつ見ても見苦しい物よ。
こうなったおなごはある意味アヤカシよりもタチが悪い。一度堰を切ればそれはまさに災いと同義。
故に、万一遭遇してもむやみに首を突っ込んではならぬぞ?
嵐が過ぎ去るまで、ひたすらに、ただひたすら~に耐え忍ぶが吉と、そう心得よ。
てゐ「んだとゴルァ! じゃあお前に四つ葉のクローバーが見つけられんのか!?」
てゐ「月の兎の分際で百発百中で罠にかかりやがって! お前みたいな阿呆がまだ残ってるのが不思議でしょうがねーよ!」
薬売りもその辺はしかと心得ているようで、二人の兎の言い争いをじぃ~っと耐え忍んでおった。
……わけではなく。どうやらこの時、静かに聞き耳を立てていたらしい。
曰く、傍から見ればただの醜き言い争い。
しかしまた一方から見れば、言葉の節々から、歪に歪んだ”理の欠片”が、密やかに漏れ出ていたとか、なんとか。
うどんげ「今日と言う今日は許せないわ……てゐ、覚悟しなさい!」
てゐ「あ? 上等だこの野郎! その弾幕勝負、受けて立ってやるよ!」
言い争いはいよいよ持って行き着く所に行き着かんとしていたが、それでもまだ、薬売りはただ静かに聞き耳を立て続けるままであった。
間もなくして、ペラリと小さな音が聞こえた……例の「すぺるかぅど」とやらである。
言い争いは決闘に形を変えようとしている。
だがそれでも薬売りは依然として静寂を貫き、二匹と同じく例の「すぺるかぅど」を手に取り、これまた二匹と同じく、ペラリと小さな音を立てた。
薬売り「…………」
それは――――姫君の残せし”最後の一手”であった。
【永遠亭――――】
【薬師】【賢者】【弟子】【一門】【好奇】【防犯】
【安堵】【鋭敏】【怪我】【穢】【流刑】【無礼】
【消失】【作法】【幻想】【患部】【感染】【万能薬】
【欲望】【病魔】【隙間】【収集】【地獄耳】【夕飯】
【満月】【月人】【侮辱】【脅威】【木霊】【息吹】
うどんげ「くたばれぇぇぇぇてゐィィィィ!」
【暗闇】【天】【明】【拒】【隠居】【供物】
【印象】【相違】【夕暮】【童】【使者】【高貴】
【間】【永遠】【傍観】【嘲笑】【今昔】【幕】
【桃源郷】【異変】【神隠し】【母性】【楽観】【禁句】
【生皮】【対称】【喧嘩】【阿呆】【歪】【覚悟】
てゐ「こいやぁぁぁぁオラァァァァ!」
【玉兎】【妖兎】
【迷】【貫】【命令】【故郷】【望】【庇】【声】
【居場所】【境】【創造】【箱庭】【籠目】【収穫】
【覆】【線】【守】【名聞】【開運】【蓬莱の薬】
――――揉め合う兎共と同調するように、薬売りの頭の中にも今、小さな争いが巻き起こっておった。
それは今現在の薬売りと、過去の薬売り達の争いである。
過去の薬売り達はあらゆる言葉を弾と変え、無数の数で持って薬売りに放ってくる。
札に記されたあらゆる言霊の群れは、まるで、すぐ背後にて交差する弾幕のようである。
そう言う「いめぃじ」なのだ。この永遠亭にて聞かされた、弾幕の言葉に対する、な。
【怨念】【不死】【煤】【香】
【覗見】【赤子】【升目】【御節介】
【罪】【逃亡】【奪】【迎】
【乱】【波長】【恐怖】【籠城】
【幸運】【シロツメクサ】【知恵】【古傷】
しかし薬売りの脳裏に散らばる弾幕は、通常の仕様とは少々異なる。
もう一度言うが、あくまで「いめぃじ」なのだ。
故に何ら問題ない。
この弾幕は、”当たれば当たるほどよい”としてもな。
【御知らせ】
書き溜めが尽きたんでしばらく休みます。
再開は一週間以上~一か月以内を予定
例によって無理そうならなんかしら言いに来ます(多分大丈夫だと思うけど)
と言うわけで、しばらく御免
ここでかぁ。乙
思えば形がなかなかわからないことってあんまりないよな。敵は割りとすぐ出てくるから
上で言われてる目々連かな?
思えば形がなかなかわからないことってあんまりないよな。敵は割りとすぐ出てくるから
上で言われてる目々連かな?
目目連でほぼ確定だと思う
『煙霞跡なくして、むかしたれか栖し家のすみずみに目を多くもちしは、碁打のすみし跡ならんか』
↑これ本家目目連の話に出てくる一文だから
『煙霞跡なくして、むかしたれか栖し家のすみずみに目を多くもちしは、碁打のすみし跡ならんか』
↑これ本家目目連の話に出てくる一文だから
――――浮世に重なる幻想郷
一歩その地に踏み入れば、迎うは蠢く妖の園
決して見る事叶わず、決して入る事叶わず
されど確かにそこにある、幻の地
彼の地、寄り添い集うは、幻となりし生
生は取り戻さん。再び現を
生は取り戻さん。命の暦を
そして見る。幻が、自らの幻たる夢を
幻が幻を生む地、幻想郷
幻が真となる地、幻想郷
誰が呼んだか幻想郷
どこにあるやら幻想郷――――
【永遠亭】――――大詰め
草木も眠る丑三つ時。
月明かりも薄れる程闇に沈む、深き竹林の真っ只中にて。
そこには、闇夜の間を縫うように動き回る、一つの影があった。
「ハッ――――ハッ――――ハッ――――」
影は、同時に音を漏らしておった。
盛りのついた犬のような激しい吐息を漏らし、影に触れし竹葉も、釣られてしばしの間歌いだす程である。
しかしそれでも、影は決して速度を落とさなかった。
漏れる吐息も、竹葉の擦音も、自身の心の鼓動でさえも――――
その影に取っては、「進」の前には後回しでしかなかったのだ。
「――――うわっ!」
だが、あまりにないがしろにし過ぎた罰が当たったのだろうなぁ……。
「進」にかまけて「視」までも置き去りにした罰か。
影は、不意に進むのをやめた。
代わりに――――落ちた。
奈落の入口と見間違うほどに、深い深い穴の中へ。
「あっ……たぁ……もう……」
「またかよ……アイツ……」
「――――おや、まぁ」
「誰だ――――ッ!?」
して影が、穴へと落ちたその機を見計らうようにして、もう一つの影が現れた。
この新たに現れしもう一つの影は、先ほどの影と違い、足音一つ立てぬままに静を保っておった。
忍び足同然の接近である。しかしそこは影同士。
穴の中であろうと闇夜であろうと、影は、影の気配を十分捉える事ができるのである。
「いけませんねぇ……こんな闇夜の中は、明かりもなしに出歩いてはいけませぬ……」
「特に兎は……”耳が良い代わりに目が悪い”んだから」
視界が効かずとも……影の持つ”鋭敏な耳”を持ってすれば。
薬売り「ねえ……姉弟子様」
うどんげ「薬売り……!」
薬売りの持つ小さな明かりが、ようやっと影の形を照らし出した。
うどんげ「お前の……仕業か……!」
薬売り「違いますよ……この穴は、元々ここにあった穴です」
薬売り「こんなに深く掘って、あっしも、後始末が大変だろうと思っていたのですが……」
薬売り「どうやら……ほったらかしにしていたようで」
うどんげ「くっそォ! あのバカウサギだきゃほんと……!」
穴は、元からそこにあった。
よくよく目を凝らせば、暗がりながらなんとか見えなくもない。
注視さえしていれば、その一部分だけの不自然さに、なんとか気づけたはずなのだが……。
しかし見えなかった。それはやはり、闇夜に紛れていたが故。
言い換えれば、”目を凝らす事をしなかった”からとも言える。
薬売り「にしても、そんなに息を切らして……一体何処へ行こうと言うのです」
薬売り「今はまだ丑の刻……夜明けにはまだ、少々速いですぜ」
影。元い玉兎の行動は、夜分に相応しくない不可思議な物であった。
穴に落ちて止まったからよかったものの、穴がなければ今頃疾風と化し、とおの昔にどこぞの地へとたどり着いていた事であろう。
その行動は一言で言う「逃亡」に等しい。
師も、姫も、友も。安住の地の全てを放り出してまで――――
一体この玉兎は、どこに向かおうと言うのだろうか。
うどんげ「お前には……関係ない……!」
薬売り「おやまぁ、関係ない事ございやせんでしょう? だって……そうじゃないですか」
薬売り「モノノ怪に攫われた三人の哀れな供物……それをも霞掛ける、貴方の内に御座す”闇”」
薬売り「もう、気づいているんでしょう? その闇こそが……モノノ怪をこの地へ誘う”糧”であると」
うどんげ「ぐぅ…………!」
ぐぅの音も出ぬとはまさにこの事である。
もはや言い逃れの出来ぬこの状況。
玉兎は、ついに観念したか……その重い口を、ようやっと開きなすった。
その口から出る言葉からして――――やはり玉兎も、最初から気づいていたのだ。
薬売りの言う「モノノ怪を成す因果と縁」。
その説を聞いた時点から、モノノ怪の主体は、”我が身に押し込めた因果にある”、と。
【鈴仙・優曇華院・イナバ――――之・理】
うどんげ「あたし達が月から来たってのは……もう話したわよね」
薬売り「覚えてますとも……絵空事と見間違うかのような話でしたから」
うどんげ「でも、その”順番”はまだ、言ってなかったわよね」
薬売り「なんとなく……察しは尽きますがね」
地上に下りし月の民の数。
ひょっとすれば他にもおるやもしれぬが、とりあえずこの場に限っては、計三名としておこう。
してその着順はこうだ。
まず最初に、姫君が下りた
次に、後を追うように永琳が下りた
そして最後に、この玉兎が下りた。
一見すると、何ら関係のないただの着順に見える……
のだが、実はこの二番目と三番目の間。
すなわち永琳と玉兎の間には「大きな隔たり」があるのだと、玉兎は強く語り申したのだ。
薬売り「隔たり……?」
うどんげ「お師匠様は一応”月からの命令”って建前があった。まぁ、結果は遂行されなかったけど」
うどんげ「でもあたしは、何もない。誰からも何も言われず、あの栄華極まる月の都から、自分の意思で地上へと降りた」
その隔たりは、一言で簡単に言い表す事ができる。
玉兎は――――逃げたのだ。
誰にも言われず、誰にも告げず、己が意思のみで、月からこの地上へと”勝手に”馳せ参じたのだ。
薬売り「つまりそれは……」
まんま今この瞬間と、全く同様にな。
【再犯】
うどんげ「あたしが来たのは……実は、つい最近の話なの」
うどんげ「と言っても、人間の基準じゃ十分昔だけどね」
【推定】
【数十年前】
薬売り「月……絵巻や伝承にも幾度となく現れる都」
薬売り「しかしそれらは全て、文明の栄えるいと優雅な世であると描かれる」
薬売り「まさに貴方の言う、栄華極まるかの都……とてもじゃありませんが、逃げ出したくなる場所とは思えませぬ」
うどんげ「栄華極まる……からよ」
確かに、伝え聞く話からして逃げ出したくなるような都とは思えぬな。
ともすればその実、飢饉や徴収、または戦が蔓延る阿鼻叫喚の地。
まるで愚王の政かのような情景が、頭に浮かぶのだが……
だとすれば今度は、逃げ出す民の数が少なすぎる。
人の半生分を「つい最近」と言ってのけるほど、長き歴史を持つ都じゃ。
そこまで酷いならば、他にもっともっと、逃亡者がおってもよさそうな物なのだが……
うどんげ「栄えすぎた文明は、その地に生ける、全ての命を堕落に落とす……」
うどんげ「それはまるで病魔の如く……人知れず、その地の全てを腐らせていく」
じゃが、月の都を覆う惨状は、そのどれにも当てはまらなんだ。
玉兎の口ぶりからして、やはり月は、話に聞く通りの栄華成る都だったのじゃ。
まさに豊かに溢れた桃源郷そのもの。
やはりとてもじゃないが、逃亡を決意させるとは到底思えぬわ。
うどんげ「かの都……”栄”に犯された、末期の都」
まるで頓知じゃ。さっぱりわからんわ……
玉兎が曰く、「栄こそ堕」の、その意味が。
【実情・月之都】
うどんげ「月の都の生活は……うーん、なんつったらいいか……」
うどんげ「説明が難しいわね……あんたら地上人には、絶対想像つかないだろうし」
薬売り「平たくで、結構ですよ」
玉兎は「大雑把」と前置きをした上で、こう言った。
「――――月の都の生活は、地上の民が浮かべる夢物語とほぼ同等である」。
……いや、大雑把すぎないか?
ならばならば、水を酒に変える実や、雷を落とす杖。
突風を生む扇子に、振るだけで財宝の溢れる小槌。
他にも数多あるあの宝具の数々が、月には一挙に集っておるとでも言うのか!
うどんげ「簡単に言うと――――”文明が望む物全てを与えてくれる”。って所かしらね」
薬売り「全てを……?」
ぐぬぬ、あなどり難し月の都。
想像を遥かに超えておったわ……それらはまさに魔術と言っても差し支えないであろう。
言うに事欠いて「文明が全てを与えてくれる」だと……?
ええい! なんとかこちらから月に向かう方法はないものか!
うどんげ「何でもかんでも文明が全てを肩代わりしてくれる……何もせずとも、栄た文明が勝手に全てを与えてくれる」
うどんげ「だからこそなのよ。だからこそ……」
きぃ~何と羨ましい!
ならばならば、毎日毎日昼まで眠り、肉や酒をかっ食らい、夜分遅くまで家に帰らずともよいと申すのか……!
まこと、気が狂いそうなほどに羨ましき文明じゃ。
だって、そうであろうに。
勝手に実るならば農民はいらぬ。
勝手に届くならば飛脚はいらぬ。
勝手に残るなら書はいらぬ。
勝手に唄うなら、琵琶法師はいらぬ……
薬売り「だからこそ……?」
まさに奉公から解き放たれし享楽の園。
――――しかししかししかぁし!
これまた何故なのか。本ッ当に何故なのか。
それらの享楽を否定した酔狂な者が一人……いや、一羽だけ、月にはおったのだ。
うどんげ「いつしか……人々は自分から動こうとしなくなった」
うどんげ「いつしか誰も……夢を見なくなった」
うどんげ「いつしか、ただ、無限に等しい時を……無駄に消費するだけの存在に、成り下がった」
この柳幻殃斉。生まれてこの方、ここまで同意できぬ意見に出会った事はない。
身共とて、あの地獄の修行の日々の最中。
あの日ほど、修験志して後悔した時はなかったと言うのに……
しかしそこで終わらぬのが、この柳幻殃斉という男よ。
それらの修行を耐えきった身共だからこそ、ピーンと来たぞ。
平民にはわからぬであろうなぁ。
修験道を骨の髄まで叩き込まれた身共だからこそわかる、一種の悟りじゃ。
うどんげ「穢れなき月には死の穢れがない……故にどこまでも堕ちていく」
うどんげ「極限まで薄まった寿命が、人知れず消えていくその時まで、ね」
よいか? このあらゆる意味でかけ離れた、月人と地上人の最大の違い。
それは――――”死生観”なのじゃ。
我ら地上の民は、皆「命は限りある物」と捉えておる。
修験の教義がまさにその典型例なのだが、限りある命が故に「生の限り尽くす」とは、まさにこの事よ。
しかし月人はそこが違う。
月人の寿命は長い。本当に長い。
それがどの程度までかは存ぜぬが、少なくとも人の一生を「一瞬」と捉えれる程度に長い。
故に見えぬのだ。「死」が如何様な物なのか……
あまりに遠すぎるが故に、漠然と想像する事すらできぬのだ。
薬売り「月の民は、永劫に等しき生を、ただ流れるように生きている……」
うどんげ「あたしは嫌だった……永遠に畜生のままで、永遠にその辺の石ころと同価値の”物”として生きるのが」
よって月人は死を”穢れ”と呼ぶに至る。
よくわからぬが、何となしに汚し物。
よく知らぬが、何となしによろしくない物。
よく考えた事もないが、周りがそういうのだから、まぁそうなのだろうとしか思わぬ物。
してそんな「わけのわからぬ物」に苦悩する地上は、やはり穢れた地なのだ。
そして得体が知れぬ故に、余計に感じるのだ……「怖い」と。
うどんげ「気が付けば、あたしは月を跳び出してた……気が付けば、あたしは穢れた地に堕ちてた」
穢れなき都――――月。
死の存在を知らず、「生の限り」を知らぬ月の人々は、果たして幸せと言えるのであろうか。
玉兎はそこに「否」と答えたのだ。
その所以こそが玉兎の曰く、体が生き続ける代わりに「心が死んでゆくから」である。
うどんげ「皮肉よね。あれほど穢れだなんだって蔑んでた場所に、自分が堕ちてりゃ世話ないわよ」
月の者でありながら、その悟りに至ったのは、やはり「人」ではなく「兎」であったが故であろうか。
得てして結果、独自の悟りを開いた玉兎は――――堕ちた。
まさに今、激しく着いた尻餅が如く。
穢れた地へと、その身を落ち着けるに至ったのだ。
薬売り「しかし死の穢れと引き換えに手に入れたこの場所を、貴方はこうしてまた、捨てようとしている……」
薬売り「ほったらかしですか? 姫も、師も、友も……」
薬売り「未だモノノ怪の……腹の中だと言うのに」
かのような独自の感性を持つ玉兎。
それは月の躾の賜物か、はたまた元から持つ兎の性が故であろうか。
とにもかくにも、文字通り「人」並み外れた感性なのは確かである。
それが故に、玉兎の抱くモノノ怪像も、これまたえらく独特な感性で捉えておったのだ。
うどんげ「……思えなかったのよ」
薬売り「思えなかった……?」
兎とは、元来臆病な生き物じゃ。
皆も見た事があるだろう? ふと目が合うただけで、大慌てで逃げていく野兎を。
いやいや、危害を加えるつもりなど寸でもないと言うに……
そこまで怯えられば、こちらとしても夢見が悪いと言う物よの。
うどんげ「その、モノノ怪が……なんていうか……その……」
ひょっとすれば、兎からすれば、我ら人は腹をすかせた熊にでも見えておるやもしれぬな。
まぁその辺は兎にしかわかるまい。
だが――――その兎が言うのだ。
うどんげ「悪い奴には、到底思えなくって……」
モノノ怪から、敵意を感じないと。
薬売り「これはまた……酔狂な事を言いますね」
うどんげ「あたしも上手く言えないんだけど……でも、不思議よね」
うどんげ「この期に及んでも、アンタの言う”斬らねばならぬ存在”だと、あたしには到底思えないの」
薬売り「近しい縁者が、悉く攫われているのに?」
”モノノ怪は斬るべき存在ではない”。
薬売りの存在意義そのものを揺るがすその台詞は、数多のモノノ怪を払いし薬売りには、到底理解できぬ物であった。
しかし代わりに、一つ思い出した。
かつて、似たような事を口走った者がいた事を――――「モノノ怪を産み落とす」と啖呵を切った、身重の女の事を。
うどんげ「確かにやり口は褒められない。勝手に現れて勝手に攫って行くなんて、言語道断もいい所よ」
うどんげ「でも……なんと言うか……その……」
うどんげ「…………アレなのよ」
薬売り「また……アレですか」
この時玉兎が何を言いたかったかは、誰にもわからない。
しかしまぁあくまで予測ではあるが、口ぶりから察するに「同情に値する場合もある」とでも言いたかったのだろう。
確かに……そういう者もおった。身共も遭遇したあの海坊主が、まさにそれだ。
龍の三角をアヤカシの海へと変貌せしめた、あの禍々しきモノノ怪。
してその正体は、実は徳高き者の”後悔”の念から生まれ出る物だったとは……あの時の身共は、露も思わなかった故な。
うどんげ「だってあんた、気づいてる? 今まで攫われた人達……」
うどんげ「よく考えたら、みんな”蓬莱の薬の服用者”なのよ。永遠を手にした、本物の不死者達よ」
うどんげ「そんな不死の存在が”殺された”なんてのは、まず絶対にありえない」
うどんげ「モノノ怪だかなんだかしんないけど、薬が齎す”永遠”すら侵すとは、到底思えない」
蓬莱の薬――――かつて時の権力者が命を賭して欲した、不老不死の秘薬。
その効能は、語り継がれし伝承よりも、よりすざましき物であった。
曰く、仮に御身が細切れになろうとも、髪の一本程度もあれば瞬く間に再生する事が可能との事である。
納得に足る、推察である。
確かにその効果を持ってすれば、まず亡き者になる事はないであろう。
それが仮に、人の道理から外れたモノノ怪の所業であろうとも。
うどんげ「だからさ……もしかしたら」
うどんげ「”匿ってる”んじゃないか……って。そう思えなくも、なくってさ」
薬売り「匿う……? モノノ怪が……?」
「モノノ怪が人を匿っている」。
不可思議極まりない結論ではあるが、それでもあくまで個人の感想なのだから、そこは何も言うまい。
ではモノノ怪は、永遠亭の連中を「何から匿っている」と言うのか。
その答えは至極単純である。
月の者しか存ぜぬ、月の者にしか訪れぬ、月の者にとって、モノノ怪よりも恐ろしき存在と言えば……
それは、ただの一つしかないのである。
うどんげ「月の使者――――あいつらは未だ、私達を探している」
薬売り「……」
逃亡者の末路はいつだって二択しかない。
逃げ切るか、捕まるか――――。
玉兎はすでに立っていたのだ。命運分かつ二つの岐路の、その瀬戸際に。
うどんげ「ここから見る月は、空に輝くただの盆にしか見えないでしょうけどね」
うどんげ「月から見た地上は……違うわよ」
時に皆は、月と言う存在にどういう情感を覚える?
美麗・優雅・幻想……まぁ大抵、この手の感傷が大半であろう。
身共だってそうじゃ。月見うどんに月見そば。月見団子を頬張りながら月見で一杯……
っと失敬。少し偏ってしまったの。
しかし月は違う。月の者は地上を奉ったりはせぬ。
その根本は、先ほど申した通り、月は地上を”穢れた地と見ている”点にある。
うどんげ「月の文明で最も発達した物。それは……”観察”」
うどんげ「月の発展はいつだって地上の監視と共にあった……長い時を掛けて、より細かに、より隅々まで見渡せるように」
月都文明が総力を挙げて生み出した、最大の利器――――。
玉兎はそれを「瞳」と呼んだ。
曰く、都の中心には、「眼を模したいと大きなる筒」があるのだとか。
その眼力はもはや「月の模様が兎の餅つきに見える」程度の話ではない。
・いつ
・どこで
・誰が
・どのような身なりで
そして
・今現在何をしているのか
これらの全てを、一目瞭然に映し出す程なのだとか。
うどんげ「そして月の瞳はもちろん、裏切者の捜索にも応用が利く」
うどんげ「穢れに塗れた地上に、穢れなき月の者が混ざってたら……あの瞳なら、きっと一発で判別できるわ」
月の発展はすなわち監視の歴史。
月に存在する数多の利器は、その全てが瞳から枝分かれした物なのだ。
逆説的に言えば、こうとも言える。
それほどまでに、月は恐れていた――――得体の知れぬ死の穢れを。
うどんげ「月が何故夜に輝くかわかる?――――地上を見やすくする為よ」
薬売り「そうなの……ですか?」
幽霊・怪異・百鬼夜行。
人は得体の知れぬ存在に恐怖すると言うが、月人にとっては、穢れこそがそれに当たるのだ。
しかも穢れは正体不明ながら、いつでも見れる場所に存在する。
確かに……そう考えれば恐怖そのものじゃろうな。
なんせすぐ目の前にあるのじゃ。ならば、未来の可能性も容易に想定できるであろう。
”穢れが月に持ち込まれる時”が、いつか来るやも知れぬと。
薬売り「ではあの月は……今もあっしらのやり取りを、あそこから見ているんですかね」
うどんげ「いや……ここは多分特別。よくわかんないけど、お師匠様がその辺上手い事ごまかしてるみたい」
薬売り「おやまぁ、ならば安心だ……」
うどんげ「でもそれも”絶対じゃない”。何がキッカケで見つかってしまうか、誰にもわかったもんじゃない」
薬売り「しかも当の永琳はもういない……」
うどんげ「そうよ……わかる? 永遠亭だなんて言ってるけどね」
うどんげ「永遠亭の永遠は、吹けば飛ぶような、か細い永遠なのよ」
永遠……それは終わりのなき様。
変化を迎えず、未来永劫其の儘である事の意。
しかし変化なき物など存在せぬ。
人も、世も、夜空に輝く月でさえも。
絶えず変化を繰り返し、そしていつしか終わりを迎える。
誰が産んだかその言葉……いと儚きかな。
「永遠」の言葉こそが、永遠に存在せぬ事の証明であるとは。
うどんげ「だからまぁ……匿ってるってのはちょっと言い過ぎたわ」
うどんげ「けど、”都合がいい”のは事実」
うどんげ「今のあたし達にとっては、モノノ怪の腹の中程、安全な場所はないんだから」
そしてモノノ怪による神隠しを免れた唯一の月の者である自分が、此れを機に、遠く果てまで逃げおおせたなら……
”少なくとも、永遠亭が見つかる事はないであろう”。
――――と、言うのが玉兎の真意である。
全く……兎ながら天晴な忠義心であるな。
江戸の武士共に言い聞かせてやれば、こぞって感涙の涙を流すであろうて。
うどんげ「……はぁ。なんか、言わなくていい事まで言っちゃったわね」
薬売り「いえいえ滅相もない……貴方様の”秘めたる思い”、しかと聞かせていただきました故」
【爽快】
【内心吐露】
うどんげ「そもそもあんたが尋ねたんでしょうが……ま、んな事どうでもいいから、とりあえず手ぇ貸してよ」
うどんげ「この穴、無駄に深くって……登りにくいったらありゃしないわ」
薬売り「おおせのままに……」
(ひとりでできるでちょ じぶんでやりなちゃい)
うどんげ「ったく……あのバカウサギだけは……」
うどんげ「本当に……最後の最後まで……」
(バカなんだから)
全ての心情を吐露した玉兎は、悪態を突きつつも、どこか満足気な面持ちであった。
まぁ、スッキリしたのだろう。秘め事は絶対である程、誰かに言いたくなる性が故な。
――――だが、そんな折角の爽快感は、またしても台無しとなる。
原因はもちろん、この図々しい薬売りのせいである。
薬売り「……どうぞ」
うどんげ「あんがと…………ん?」
うどんげ「……なにこれ」
薬売り「何って……”天秤”ですよ」
うどんげ「いや、天秤ですよじゃなくて……ふざけてんの?」
薬売り「ふざけてなどいませんよ……手を貸せとおっしゃるから、貸したまでです」
うどんげ「こんなちっちゃいので……どーやって昇んのよ!」
にしても、いちいち人の神経を逆なでしよるなこいつは……
手を貸せと言われて、差し出したるは天秤。その心はまさに「テ違い」と言った所か。
……下らん洒落じゃ。言っとる場合か、この阿呆が。
うどんげ「バカ! もういい! 手伝ってくんないなら、自分で昇るわ!」
薬売り「左様ですか……」
うどんげ「全くもう、どいつもこいつも――――」
(――――バカばかり)
薬売り「しかし……天秤の手伝いなしに……できるんですか?」
薬売り「さっきから、あなたの周りを取り巻く……この”声”を聞くことが」
うどんげ「……は?」
しかしいくら下らぬ洒落であろうと、言ってる本人が大真面目ならば、こちらも反応に困ると言う物よの。
だったら……掛かったのは偶然か?
薬売りは決してふざけていたわけではなく、どうやら本当に「テ違い」だったらしい。
(できるわけないじゃない)
(あんな穢れまみれの、汚らしい連中に)
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