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元スレ提督「おかえりなさい」
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乙
暖かさに触れてそれを向上のエネルギーにしてか、見てる方まで優しくなれるような話だ。
キャラの多様性は個人的に大歓迎、朝潮が意外とお茶目だなww
暖かさに触れてそれを向上のエネルギーにしてか、見てる方まで優しくなれるような話だ。
キャラの多様性は個人的に大歓迎、朝潮が意外とお茶目だなww
鎮守府には一人、必ず配備される者がいる。
高い戦闘能力と広い知識、深い洞察力を有し、そして何よりも絶対的な艦娘への信頼を有すると判断された者。
本来人類の至宝である艦娘であり、艦娘が生まれた当初と比較すればその認識は広く浸透している。
彼女達を護国の英雄と多くの人々は認識している。
しかし、人とは異なることは確かであり、そんな彼女達を化け物或いは単なる一消耗品としか見ない者達もまた多く存在する。
そんな、彼女達に守られる人間でありながら害為す者達から守るために遣わされた者。
「おはようございます、憲兵さん」
「よう、憲兵」
それを「憲兵」と呼ぶ。
憲兵は門を潜る少女二人に深々と頭を下げる。
鎮守府から出てくる彼女達はただの少女ではない。
艦娘、護国を担う国の宝であり、同時に憲兵がその身を賭して守るべき存在である。
艤装は勿論、普段の女学生のようないでたちでもない。
町に出かけるのだろう、二人は共に私服を身に着けていた。
天龍はジーンズにブーツ、ライダースーツジャケットがスタイルの良い彼女によく似合っている。
潮もまた、紺色のロングスカートに、ファーケープが付いた淡いミント色ポンチョがおっとりとした彼女の魅力を引き出している。
普通の人生を歩いていれば彼女らの年頃ならば当然している年相応の服装のように憲兵には思えた。
「今日は非番なのですね」
「ハイ。それで天龍さんとお買い物に行こうと思いまして」
「俺は特訓してあとは寝てたかったんだよ」
「そんな事言って天龍さんきちんとお休み取ってるじゃないですか天龍」
「あいつ非番取らないとうるせぇんだよ」
あいつというのはおそらく提督のことであろう。素直ではない天龍の物言いに憲兵は微かに頬を緩める。
この鎮守府の提督程艦娘を大切にする提督を憲兵知らない。
彼が娘のように艦娘達を大切に見守り、育てていることを憲兵は知っていた。
そして、その思いに艦娘達もまた気付いている。だからこそ、口では文句を言いながらもこうして素直に従っているのであろう。
「その服、お二人ともとてもよくお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
「お、おう、サンキュー」
潮は嬉しそうに、天龍は照れくさそうに頬を赤くする。こうしていると普通の少女達だ。
「憲兵さんはお休み取らないんですか?」
潮がじっと見上げてくる。優しい娘だと憲兵は思う。
「いえ、自分も来週にはお休みをいただくことになっていますので」
「そうだ!今度はお休み合わせて憲兵さんも一緒にお買いものに行きませんか?」
「それいいな。付き合えよ憲兵も」
「自分もですか?」
余り表情の変わらない憲兵が困った顔をするのを楽しげに見つめる少女達。
からかわれていることはわかっているが、強く叱ることも出来ない。
憲兵は軍人ではあるが、規律を重んじるだけの頭の固い軍人ではない。
彼女達の使命を理解するものの、年相応に青春を謳歌する時間もあるべきだと考えている。
そんな彼女達の無邪気な笑顔を目の前にして、それを曇らせるようなことは出来なかった。
「付き合えといえばよ、明日訓練に付き合ってくれよ」
「木曽殿がいらっしゃるではありませんか。自分など」
「明日は木曽が非番なんだよ。それに憲兵の方が強いだろ?」
天龍が言っているのは剣道のことだろう。
「自分には仕事がありますので…それに提督殿のお許しも無く勝手には」
「あら?私は全然オッケーよ?」
三人が声のした方へと振り返る。
「おはよう憲兵ちゃん」
「はっ!おはようございます、提督殿!!」
憲兵は踵をそろえ、素早く敬礼をする。
潮は慌ててぺこりと頭を下げる。ただ、天龍だけは唇を尖らせて提督を睨む。
「いやぁねぇ、そんな嫌そうな顔しないでよ天龍ちゃん。お姉さん傷付いちゃう」
「何の用だよ。言われた通りこれから出かけるんだぜ?」
「そうみたいね、潮ちゃん、そのポンチョやっぱり似合ってるわよ」
「は、はい、ありがとうございます!!」
潮にウインクすると、提督は手にしていたトートバックを憲兵に渡す。
「提督殿…これは?」
「今日は食堂がお休みなの。だから、代わりにこれをお昼にしてちょうだいね」
受け取ったうさぎ柄のランチトートバックと提督の顔を見比べる。
「何だよ、弁当作ったのかよ。暇なのか?」
「あら、ひっど~い。可愛い部下に美味しいご飯を食べさせてあげるのも上司のお仕事でしょ?」
「ということらしいから、受け取ってやったらいいんじゃねぇのか?」
どうして良いのか困っている憲兵を気の毒に思った天龍の助け舟だった。
「勿体ないお心遣いですが、頂戴いたします」
「それよか、明日の特訓、許可出してくれるってことでいいんだな?」
「憲兵ちゃん忙しいんだから、ほどほどにしなさいよ?憲兵ちゃんも、きちんと残業申請出しておいてね」
「よっしゃ!憲兵、明日は特訓だからな!!おい、首洗って待ってろよ」
挑戦的な目を提督に向けると、天龍は去っていく。
潮は提督と憲兵に頭を下げると慌ててその後をついていく。
「首を洗ってって…物騒な事言うのね」
「天龍殿の目標は提督殿ですからね」
「まぁ、怖い。憲兵ちゃんも止めてちょうだいよ」
「強くなろうとする彼女を止めること等できません自分には。お力になれず申し訳ございません」
「マジレスなのそこで!ホント真面目さんなんだから」
溜息を吐く提督に済まなそうに微かに眉を寄せる。
天龍が剣道で勝負を挑むたび、審判をするのは憲兵だ。
現在18戦1勝17敗。
どちらが17敗なのかは言うまでもない。
1勝は提督に急な招集がかかったための不戦敗だ。
艤装がない艦娘は超人的な肉体の強さは無い。せいぜいが身体能力が優れた人間というレベルだ。
艤装は、適合する艦娘がそれを装備することで、艦娘の能力を倍増させる。
艤装に蓄積されたデータが艦娘の経験値となり、練度となる。
しかし、普段の鍛錬というのが無意味かというとそうではない。
基礎能力を倍増させるのが艤装である以上、基礎となるスペックは高ければ高い程艤装を装備した時のスペックも異なる。
同型艦、同練度の艦娘であるにも関わらず被弾率、命中率が異なるのはこれが原因といわれる。
鍛え方には様々な方法があるが、武道を習い覚えることもその一つだ。
天龍や木曽等はその最たる例である。そして、そんな彼女達の目標としている相手が憲兵や提督である。
上官である提督を「いつか必ずぶちのめす!」等という天龍の言葉はともかく、彼女が強くなることの手助けが出来ることは喜ばしいと憲兵は思う。
憲兵は艦娘を大切に思っている。天龍へ肩入れしているという自覚もある。
憲兵は以前天龍と同じ鎮守府に赴任していた。
前の鎮守府にて、彼女は提督から関係を迫られていた。天龍という少女は流されて関係を持つような少女ではない。
それがたとえ上官である提督であっても毅然と拒むことが出来る少女である。
しかし、自分の寵愛を拒まれた提督はそれを強い屈辱と捉えた。
男が無理に女に関係を迫り、拒絶されたことを根に持つ結果愚かな行為に走るということは珍しいことでも何でもない。
新聞やテレビなど、毎日かならず痴情のもつれからくる醜聞は目にする。
ただ嘆かわしいことに、それはエリートとされる提督であっても色欲に目がくらみ愚かな行為をしてしまうことが往々にしてあるということが問題であった。
天龍に拒まれた提督は腹いせのように連日低練度の駆逐艦を率いての無謀な出撃を彼女に再三命じた。
天龍は荒っぽい口調とは裏腹に面倒見の良い性格をしている。駆逐艦のような小さな少女達には特に優しかった。
彼女一人ならば我慢できたが、彼女への逆恨みに駆逐艦の少女達を巻き込むことは看過できなかった。
度重なる出撃により、彼女を慕う駆逐艦が次々と轟沈していくのを目の当たりにし続けた結果――― 彼女は提督を殺しかけた。
止めたのは憲兵だ。姉妹艦龍田が知らせてくれたのだ。提督を殺しかけることなど言語道断。
龍田や他の艦娘達の訴えだけでは天龍の解体は必然であっただろう。
それを食い止めたのは憲兵の嘆願と現在の提督の助力があったからだ。
憲兵はある意味提督と同等の存在とも言えた。
艦娘を統括する者と、それを正しく行えているかを監視する者として。
しかし、殺人未遂に何の処罰も下さないわけにはいかなかった。
人間ならば逮捕するところだが、貴重な戦力である艦娘を拘束しておくことは非効率であった。
結果、天龍は他所の鎮守府に転属となり、彼女のお目付け役として憲兵もまた転属となった。
憲兵も一緒に転属になるなど異例の事態であったが、艦娘が提督を斬り殺そうとすること事態がそもそも異例のことであったため、この件はすぐに話題に上らなくなった。
異例だろうと何であろうと、憲兵にとっては大した問題ではなかった。
天龍が新たな鎮守府で生き生きと過ごしていることを素直に喜ばしく思うばかりだ。
「憲兵ちゃん、唇荒れてるわよ?」
提督が自分の唇を指さすのに倣って、憲兵は自分の唇に指を触れるとかさかさとした感触が指先に伝わる。
「お肌も荒れてるし、ちゃんと睡眠とってるの?」
「三時間は確保しています」
「ダメよ、そんなんじゃ。体調管理も仕事の内なんだから」
出来た上官だとつくづく思う。目先の効率や成果に囚われて人材をすり減らす様な真似をしない。
根性論を未だ振りかざす軍人は徐々に過去の遺物と化し、正しい教育をこのように適度な
休息や栄養摂取、メンタルケアを重視する下士官が増えてきていると聞く。
彼もその新しい世代の一人なのだろう。
「憲兵ちゃん、これあげるわ」
「これは…」
「私のリップクリーム。安心して、買ってきたばかりの新品だから」
前の無くしちゃったのよねぇ。イチゴの香りがする私のお気に入りだったのにと続ける提督の言葉を聞きながら、手の中の可愛らしいリップクリームに目をやる。
随分と不釣り合いなものに思えたが、提督はそんな憲兵の心の内を見透かしたかのように微笑む。
「お節介でウザいなって思ってるでしょうけど、ちゃんとそれ使いなさいね」
「いえ、そ、そのようなこと!」
ふふふと、提督は微笑ましげに憲兵を見つめる。
「私にお節介されないように、きちんとお手入れしないとダメよ?憲兵ちゃんは軍人の前に女の子なんだから」
艦娘達は皆結果死が待っていたとしても出撃を拒みはしない。
それは好戦的な天龍も心優しい潮も変わらない。
国を守るという使命感と、それ以上に戦艦の魂持つ戦いの記憶が彼女達から戦場から逃げ出すという選択肢を奪うのだ。
艦娘に撤退という概念は無い。人と変わらぬ知能と感情を持つ彼女達が、唯一己の意思で判断できないこと、それが「撤退」である。
故に、それを見極め撤退させる指示を下せる「提督」という存在が必要なのだ。
「天龍さん」
「何だ?」
「天龍さんはどうして朝潮ちゃんには挑戦しないんですか?」
「…しない」
「でも前に朝潮ちゃんと試合して負けたって聞きましたけど?」
「……だって」
『聞きましたよ天龍さん。お仕事でお疲れの司令官を無理やり道場に連れ込むなんて破廉恥な真似をしていらしたそうで』
『は、破廉恥!?単にアイツにフルボッコにされてただけで。』
『何ですかそれ自慢ですか?存分に司令官の竹刀で打ち据えられた上におんぶでお風呂まで運ばれるなんて』
『何でお前風呂まで知ってるんだよ!!』
『カマをかけただけです。お優しい司令官ならば身の程知らずを叩きのめしてそのまま放置するはずがありませんから。何という羨ましね』
『ディスった!?あと最後!最後殺意隠せよ!!』
『そうだ天龍さん。今から試合やりましょう。天龍さんのお洒落な眼帯が一つ増えるまで』
『片目潰すって言ってる!?』
「死ぬかと思ったぜあん時は…」
「だから前日遠征しかなかったのにずっと入渠してたんですね…」
「朝潮、何かいい匂いするな」
「このリップクリームの匂いですよ摩耶さん」
「イチゴか?お前がそういうの付けてるなんて珍しいな」
「いただいたんです」
「そういや憲兵も同じの使ってたな」
「そうなんですか…」
「あ、朝潮?」
>前の無くしちゃったのよねぇ。イチゴの香りがする私のお気に入りだったのに
朝潮ェ……
朝潮ェ……
超絶紳士だと思ってた憲兵と朝潮とで二段落ちやられちゃったわ
信頼される存在でありながら日和れば吹雪の時みたいなケースは手遅れになりそうだし機能させるのもまた難しそうだな
お話の温かみすき乙
信頼される存在でありながら日和れば吹雪の時みたいなケースは手遅れになりそうだし機能させるのもまた難しそうだな
お話の温かみすき乙
私達の司令官はとてもお優しい方です。
凛々しく、聡明でとても魅力的な方です。
オネエですが、それを差し引いても素晴らしい方です。
いえ、寧ろオネエである故にその振る舞いは上品であり、乙女心を理解し得るのかもしれません。
しかし、そんな司令官にも例外というのはあるようです。
「司令官、朝潮只今帰還しました!」
「おかえりなさい、ケガはない?」
「ハイ!貴方の、貴方の朝潮は深海棲艦に後れを取ることなどありません!!」
(二回言った…)
(二度言いやがった…)
吹雪さんと摩耶さんが何か言いたげに私を見ます。
一体どうしたのでしょうか?司令官の視線が私に向けられていることが悔しいのでしょうか?フフン!秘書艦の格というものです(ドヤァ)
「吹雪ちゃんも摩耶ちゃんもおつかれ様。あら?摩耶ちゃんったらほっぺた怪我してるじゃないの。入渠してきなさいな」
確かに摩耶さんの頬には小さな切り傷がある。敵を撃沈した時の破片で切ったのだろうか。
というか司令官に頬を撫でられている摩耶さん、羨ましすぎて連装砲が火を吹いてしまいそうです。
「ちょ、馬鹿さわんな。これくらい入渠する程じゃねぇよ」
「ダメよ。顔は女の子の命なんだから。彼氏が悲しむわよ?」
「彼氏なんていね…悲しむもんなのか?男って」
「女の子の顔が怪我しているのを見て喜ぶ男なんていないわよ。っていうかいたら連れてきなさい。お灸を据えてあげるから」
「彼氏なんていねーってんだよオカマ野郎が…けど、サンキュ」
プイと顔を背ける摩耶さん。照れているのでしょうか。
それにしても司令官をオカマ呼ばわりとは…
曙さんもですが、照れ隠しの憎まれ口も程ほどにしないと……出撃の時背後に気を付けてくださいね?
そんな事を思っていると、慌ただしい足音が提督室に近づいてきます。
誰の足音なのか、考えるまでもありません。
「ヘェーーイ!!提督ぅぅぅぅぅぅ~~~~~!!!たっだいまネェェェーーーーー!!」
「ぐぇッ」
部屋に突入すると同時にダイブ。
ダイブと共に提督にハグ。
司令官のうめき声。
全体重が回された腕から首に一気にかかったのだから無理もありません。
倒れなかった司令官を賞賛すべきでしょう。
それにしても流れるようです。
あまりにも流れるような行動に私も撃墜が間に合いませんでした。私も抱きつきたいです。朝潮不覚。
「提督!今日のMVPは私ネ。ご褒美は提督の熱いキッスを…アウチ!!」
事もあろうに司令官に口づけを迫るという万死に値する金剛さんの行為は司令官の華麗な手刀によって阻まれました。
流石は私の司令官です。
「このお馬鹿!!半裸で何をはしたないこと言ってるのよ。一人だけ大破なんてしちゃって。このお馬鹿!お馬鹿!お馬鹿!お馬艦!!」
「あう、あう、あうち、ぐふっ」
テンポよく頭に振り落とされる手刀、からの喉への一撃。
頭上に意識が向いていたところでの急襲。流石です司令官。
(地獄突きですね摩耶さん)
(地獄突きだな吹雪)
「がはっ、ごほっ、て、ていとくぅ……喉は反則ネ!!」
「中破し段階で無理せず引き帰しなさいっていつも言ってるでしょ。また突っ込んだんでしょ?」
「私のバーニングラブが止まらなかったから仕方ないネー…ごはぁっ!?」
(逆水平チョップですね摩耶さん)
(小橋ばりだな吹雪)
「司令!お姉さまを責めないでください!お姉さまは見事な活躍だったんです!!チチフンジンの活躍だったんです!!」
「父が奮闘してどうするのよ。このお馬鹿の場合は猪突猛進って言うのよ。まったく…比叡ちゃんもこのお馬鹿を甘やかしちゃダメ。早くお風呂入ってきなさい」
無傷だった私を除き、皆が(摩耶さんも含めて)入渠するべく部屋を後にした。
食事も済んで秘書艦の仕事をしようと思ったけれど、すぐに司令官に止められてしまいました。
「今日はもう休みなさい。無傷だからって疲れないわけじゃないんだからね朝潮ちゃん」
「司令官のお側にいることが私の一番の休息になります」
「あら?うふふふ、嬉しいこと言ってくれるのね。だったら今日はもう店仕舞いにして、お茶にしましょうか」
司令官は慣れた手つきで紅茶をいれ始める。
畏れ多く、また勿体ないお心づかいだけれど、司令官からお茶の提案をされて自分が入れると名乗り出る艦娘はいない。
お茶をいれること、料理を作ることを司令官は好む。
司令官の楽しみを奪い取る等という愚行を犯すことなど出来るはずもない。
肘まで捲り上げた白いシャツと細く引き締まった筋肉のコントラストが素敵です提督。
細く、長く、けれども男性を感じさせる指は女性っぽさを持ち味にする昨今の軟弱な男性と比べるまでもない。
十分に茶葉が蒸されたのを確認し、丁寧にカップに注いでいく真剣な横顔を私はポケットティッシュで鼻血を拭きながら見つめる。
紅茶をいれていく姿を動画に撮影するのも忘れない。
コポコポと心地よい音だけが指令室に響く。心地よい音と心地よい紅茶の香り、そして心地よい司令官の匂い。
「はい、どうぞ朝潮ちゃん」
「ありがとうございます司令官。大好きです司令官」
「まぁ、嬉しい。ありがとうね」
ローズティーの甘い香りに出撃から帰還しても今尚心の中にあった強張りが解け、落ち着いていく。
司令官の匂いを深く深く吸い込む。司令官の匂いに落ち着いた心が高揚していく。
今日は先週の水曜日に購入された香水をつけていらっしゃるようだ。
「司令官、お聞きしたいことがあるのですが」
ホッと一息ついたところで私は常々気になっていたことを司令官にお聞きする。
「なぁに?」
「司令官は金剛さんに対する態度が、少し他とは違う気がするのですが」
「ああ…ごめんなさいね。本当は女の子を叩くなんていけないことだものね」
「い、いえ!司令官を糾弾しようというのではありません。司令官が慈悲深く寛大な方であることはこの朝潮理解しています。
金剛さんへの態度もスキンシップの一環だと理解していますし、それで司令官へ反感を持つような艦娘はいません。いても潰します。
ただ、金剛さんにはその、少し気安いというか、特別扱いというか、羨ましいというか、私も叩いて欲しいというか、親しげな感じがいたしましたので…」
思い当たる節があるのか、司令官は苦笑を浮かべる。
「朝潮ちゃんはよく見てるのね」
「はい」
おっしゃる通りです。朝潮、司令官しか見ていません。
司令官はテーブルにカップを置くと、窓の外へと少し遠くを見るような眼差しを向ける。
視線の先には何処までも広がる海。深海棲艦はおろか、船の一隻すら見えない。
司令官の瞳はかつてそこであった過去を見つめているような、そんな眼差しだ。
憂いを帯びた横顔もとても素敵です。私は鼻血を二つめのポケットティッシュで拭う。
「ねぇ、朝潮ちゃん。艦娘になる前の記憶って…覚えている?」
以上で今回の投下を終わります。前後編です。短くて申し訳ないです。
どうでもいい報告を一つ。ようやくケッコンカッコカリをしました。摩耶と。
それではまた ノシ
どうでもいい報告を一つ。ようやくケッコンカッコカリをしました。摩耶と。
それではまた ノシ
ふおぉ……なんてこったい。こいつぁ俺のドストライク、常駐確定ね
是非とも完結してくれることを願うわ
是非とも完結してくれることを願うわ
>>90
キモッ
キモッ
艦娘とは嘗てあったと言われる大戦において散って行った艦の魂を女の肉体に憑依させることで生まれる存在だ。
一体いつから深海棲艦が現れ、いつから艦娘が生まれたのかは誰も知らない。
艦娘になれるのは十代の乙女。
艦娘になると外見は魂に引きずられ変化する。
仮に十人の外見も年齢も異なる少女たちが同じ「吹雪」の魂を宿せば生まれるのは全く同じ外見をした十人の艦娘「吹雪」である。
生れてくる艦娘には「戦艦だった頃」の記憶はあっても「人間であった頃」の記憶はない。
少女達は記憶ではなく記録において自らが人間の少女であったことを知っているに過ぎない。
十代の少女の未熟な自我が悲惨で重々しい艦の魂に塗りつぶされるからだと言われている。
戦艦はそれぞれ建造された時期、目的、場所、そして建造にあたって関わった人々の想い等、各々が異なる背景を持っている。
強力かつ有名な戦艦程そこに絡みつくしがらみは多く、重い。
故に艦娘は建造に要する資材も時間も異なるのだ。
「嘗ては巫女やイタコに魂を憑依させていたと聞いたことがあります」
「よく知ってるわね。魂を宿して戦わせるのだから、神職に携わるもの、霊能関係の女の子達が呼ばれたわ。
その頃は艦娘に対するノウハウが今ほど無かったからね」
当然十代という条件も無い。
国から受け取ることが出来る褒賞と口減らしを目的として、霊能力者と偽って娘を売り飛ばす親も珍しくはなかった。
理解も期待も無い時代だった。
悲しいと呼ぶには救いの無い、とにかく人の心が荒んでいた時代だったのだと、提督はカップに視線を落とす。
朝潮は話でしか知らない時代を、体験してきた人間の言葉の重さがその響きにはあった。
「今は違うわよ。科学的に艦娘としての適性の有無を調べて基準値をパスした子がなるシステムだし」
「それをパスしていないとどうなるのですか?」
「聞いてあまり気分の良い話じゃないわよ…そもそも魂が定着せずに突然元に戻る子、能力が安定しない子、
肉体強度は人間の頃と変わらずに轟沈する子…それに人間だった頃の記憶と戦艦の記憶が混ざって混乱する子もいたわね」
背筋が凍るような思いがした。朝潮は想像する。
仮に海戦の最中突然自分が水に浮くことすら出来ないただの人間の少女に戻ってしまったら。
ただの人間の少女が深海棲艦の砲弾を受けたら硝子細工のように砕け散ってしまうだろう。
「不安定な艦娘の能力に懐疑的な声の方が多かった。でも艦娘達に頼らなければ深海棲艦は倒せない。
当時の軍は今よりももっとピリピリしていたの。苛立ってたのよね。
艦娘だけじゃない、軍人なんて偉そうな肩書のくせに女の子に頼らないといけない自分の無力さに」
朝潮はただ提督の言葉に耳を傾ける。
朝潮はただ提督の横顔を見つめ続ける。
一言も聞き漏らさないように。
「当時の私はまだ士官学校も卒業してない下っ端でね…ここからは悲しいお話よ…?」
朝潮はこくりと頷く。
覚悟などとうに決めていると言いたげな表情に提督は笑みを浮かべる。
「あれは目を掛けてくれてた先輩が提督になったからその補佐についていた頃だったかしら ―― 」
艦娘がまばらにいる程度の鎮守府だった。
それは特別なことではない。艦娘の建造のノウハウは今に及ぶべくもなく、十回に一回建造が成功すれば御の字だった。
艦娘が生まれたとしても、その性能は保証されたものではない。
不安定な欠陥兵器。そんな目を向ける提督は少なくなかった。
ただでさえ精神的に不安定な艦娘達はそんな人間の視線を受けてさらに心を歪ませていった。
私は当時まだ少年と呼ばれる士官学校の一生徒だった。
けれど私が当時配属されていた鎮守府はまだまともだった。
提督に就いていたのは私が懇意にしていた先輩だったからだ。
強く、逞しく、凛々しく、正義感にあふれた人。
多少融通が利かず、頑固なところもあったけれど、軍人としてはそれすら美徳に写った。
「貴様は有能だが、背中を預けるのには少々不安だな」
「そりゃあ先輩から見ればまだまだ頼りないひよっこですものね」
「いや、背中を見せたら尻を狙われるんじゃないかと気が気でないからな」
「失礼ね!!私にだって好みってのがあるのよ!!先輩みたいな筋肉ゴリラなんてお断りなんだからね」
「この筋肉の美しさがわからんから貴様はまだまだなんだ」
憎まれ口を叩き合える仲だった。
質実剛健という感じだったけれども、冗談がわからない人ではなかった。
「どうした扶桑!元気が無いぞ!」
「提督…いいんです、どうせ私なんて…」
「馬鹿者。下を向くだけで何がわかる。情けない自分しか見えんぞ」
「提督…でも…」
「それよりも筋トレだ。身体を動かしていれば暗い気持ちなど吹き飛ぶ。
筋肉が付けば不安など消え失せる。筋肉さえあれば何でも出来る!!」
「ちょっと、アンタ何扶桑ちゃんにダンベル持たせようとしてるのよ。それ50キロって書いてあるじゃないの!」
艦娘達に対しても時に叱り、時に励まし、まるで妹のように彼女達を大切にしていた。
気さくで、豪放磊落が服を着ているような人だった。
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