私的良スレ書庫
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元スレ沙希「ねぇ…」 八幡「」
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みなさんご無沙汰です。
初めましての方は初めましてです。
【過去作】
いろは「せーんぱいっ」八幡「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412859595/
↑の過去作を現行時に読んでくれてた人は知ってるかもしれませんが、書き溜めもないので投稿スピード遅いですすいません。
また、今回はオリジナルの設定が強くなるかもです。もし10.5巻等で違う設定になっていた場合はすいません。
それでもよければ最後まで読んでくれると嬉しいです!
ではお願いします!
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1425303270
* * *
流れる平穏。
俺こと比企谷八幡にとっての平穏とは、休日に家に居てMAXコーヒー片手に読書、あるいはゲームなんかをしながら、時たま退屈げにくっついてくるふてぶてしい愛猫を撫でたり、あるいは溺愛する可愛い妹と他愛のない会話をする、そんなダラダラとした、ただ流れゆく時間を指す。
八幡「…」
特に、今日のような雨雲からポツポツと水が落ちてくる日はテンションも落ちるてわけで、そんな日は家でダラダラ過ごすに限る。
念のため付け加えておくと、普段からテンションは落ちていて、俺のテンションが上がる唯一の出来事と言えば学校で天使こと戸塚彩加に逢うことくらいである。
小町「あ、お兄ちゃんおかえりー」
本日土曜日。
2月の中頃となった現在、小町はなんとか兄である俺の通う総武高校に合格を果たして以降、休日をまったりと過ごしている。
かくいう俺はこんな休日の雨の降る中、どこへ出かけていたかというと、1月末に発売されたラノベを買い損ねたのでその重版が発売されたという事で、書店まで買いに行っていたのだった。
それから先ほど帰ってきて玄関を開けるなり異変に気付いた。
………靴が、多い…。
そして現在、とりあえず靴を脱ぎ、リビングのドアを開けた俺は、目の前の光景に息を呑んだ。
ああ、俺だってある程度の予想はしていたさ。
見るからに小さい子供用の靴と少し汚れた白いスニーカーがあり、水滴がまばらに着いた我が家にはない傘が壁にかけてあった。
だからリビングの扉を開けるとどんな光景が待っているかをある程度心構えしていた。
だが予想していても衝撃が強ければ簡単に心は折れる。
小町「……ん?お兄ちゃん?いつまでそんなとこにつったってるの?」
小町が怪訝な視線を送ってくるが無理もない。なぜなら小町が眠っている小さな子どもをおんぶしているのである。
混乱する頭で冷静さを欠いたまま、一気に思考速度が加速する。
おそらくあのスニーカーは男のものだ。
大きさ的には中学生以上だろう。
何より白を基調としたスニーカーの汚れはよく目立ち、またその汚れが薄っすらとした茶色なので、男子学生がグラウンド等で遊ぶなり体育なりで付いた土埃などだろう事は容易に想像がつく。
故に思考が一つの可能性を示唆する。
小町の、子ども………?
ましてやそんな思考中に我が家のトイレからシャッと水の流れる音がしたかと思うと、そこから出てくる一つの影にこの可能性が証明された様な気になる。
大志「あっ、お兄さん!お邪魔してるっす」
八幡「」
脳内が完全に真っ白になっていくのが分かる。
こ、ここ、こいつは……!
開いた口が塞がらないとは正にこの事だろう。
トイレから出てきた少しナヨナヨした感じの今時風(笑)の男の子は俺と同じクラスの通称川なんとかさんの弟・大志である。
以前、彼から奉仕部への依頼を受けたりと、顔見知りではあったがまさかこんな形で再び会うことになろうとは…。
そのあっけらかんとした笑顔を向けてくる大志を見ていると突如として頭に血が昇る。
コイツは遂に、遂に我が妹を…!!
小町と大志の顔を交互に睨み付け、ようやく第一声を放った。
八幡「認めないからな…」
小町「ほぇ?」
八幡「俺はこんな事絶対に認めないからなっ」
大志「あの、お、お兄さん?」
小町と大志の頭上にはクエスチョンマークが浮いているようだ。
それが余計に俺の頭に血を運ぶ。
大志にだけ視線を向けて啖呵を切るように言葉を出す。
八幡「お前、前々からその『お兄さん』はやめろっつってんだろうが。つうかなに人様ん家のトイレに勝手に入ってんの?俺はお前にそんな事を許可した覚えはない。つかむしろお前に小町と話す権利をやった覚えはない」
次に小町に視線を向ける。
八幡「だいたい小町、お前なに俺が家に居ない時に男を家に上げてんだ。そもそも俺はお前がコイツとこんな関係だったなんて聞いてねぇからな。あのバカな父親が認めると思わねえが仮に認めても俺は絶対に認めねぇからな」
ほとんど早口ではあったがそれでもビシッとバシッと言ってやった。
そんな俺の言葉に小町と大志は視線で会話をする。
その行為がまたしても俺の妹愛という名の良からぬ琴線に触れ、再び言葉を出そうとするが小町の言葉でそれは遮られた。
小町「……ゴミいちゃん、何言ってんの?小町と大志君がなんだって?」
八幡「いや、だからお前とソイツがその、ほら、アレな感じでアレっつうか…」
小町「あり得ないから。ホントないからホントやめて」
小町の目がすっと冷めたものに変わり、俺はまたしても言葉に詰まり、大志は諦観した顔であはは…と苦笑している。
だが俺だって引くわけにはいかない。
ここで俺もようやく血の気が引いてきたようで冷静さを取り戻してきた。
確かにこの二人が男女の仲で、ましてや子どもが居る様な間柄というのはあまりに可能性が低過ぎる。
たが今目の前に広がる光景は事実である。
川崎大志が居て、小町が子どもをおんぶしている。
八幡「……ならその子どもは…」
大志「あれ、お兄さん知らないんですか?」
八幡「お兄さんって言うな。つか俺が知ってるわけねぇだろうが。交友関係狭いっつうかもはや無いまであるが、そんな俺がこんな子どもと知り合いなわけねぇだろ」
小町「自分で言うことじゃないよお兄ちゃん…」
大志「姉ちゃん聞いたら泣くかも…」
それぞれ2人がボソッと呟くがコチラの耳には届かない。
そんな時その幼子が小町の背でんんっ、と目をこすりながら目覚めた。
そして寝ぼけ眼で周りの状況を確認し、俺と目を合わせた時、ぱっと顔を輝かせた。
「はーちゃんっ!」
小町の背中に顔を埋めていたため、今になってその子どもが女の子だと理解した。
綺麗に二つに分けられ、シュシュでまとめられた青みがかった黒髪、あどけない表情、俺こと比企谷八幡を見てはーちゃんと呼んでくる幼女。
すぐに記憶が蘇る。
大志「あっ、やっぱ知り合いだったんすね」
八幡「……あぁ、今思い出したわ」
大志の言葉にボソッと相槌を打つ。
クリスマスイベントの時に出会った幼女・川崎沙希の妹のけーちゃんだ。
小町に下ろして、と頼み床に下ろしてもらった京華は、俺の足元まで駆け寄ってきてチノパンの裾をくいくいっと引っ張ってくる。
以前と同じようにその幼女の目の高さまで腰を下ろした。
京華「今日ね、さーちゃんいないの。でもね、たーちゃんがはーちゃんとこ行くって言ってたから来ちゃった!」
八幡「お、おぉそうか、けーちゃん俺の事覚えててくれたのかー、エライなぁ」
京華「えへへー」
京華の頭をまとめられた髪が崩れない様に優しくポンポンッと叩いてやる。
そんな俺の姿を意外そうに見ていた大志が口を開いた。
大志「お兄さんもそんな風に人と喋ることができるんすね」
八幡「どういう意味だおい」
京華の手前、そんな怒気を込める事はできないが大志に一瞥をくれてやる。
小町「お兄ちゃんは自分から人に関わらないだけで、相手の方から来たら少しは受け応えできるもんね?」
八幡「少しはは余計だろ…」
俺と大志の会話をクスッと笑いながらフォローにならないフォローをしてくれる心優しい妹が持てて俺は嬉しい。
それから少しの間、大志を敵対視することは忘れず京華のお絵描きを眺めていたり、おんぶしたり、ママゴトをしながら過ごした。
小町「大志くん、来たよー」
大志「あ、うん。それじゃそろそろ姉ちゃんも帰ってくるだろうし、帰ろうか?」
遊び疲れたのか、少し眠たそうな顔をした京華の手を取って大志は喋り掛ける。
家の前で車のランプが点滅している。
さすがに雨の中にこの眠そうな京華を連れて帰らせるのは忍びないので、タクシーを呼んでおいたのだ。
しかし京華は首を横に振ってそれを断った。
もう片方の手で隣に座る俺の指をキュッと握ってくる。
…………はぅっ!
そんな京華の行動に一瞬危ない領域に思考が飛びそうになるが、必死にそれを堪え、京華の小さな手を握ってゆっくりと話しかける。
八幡「けーちゃんはお兄ちゃんの言うこと聞かない悪い子じゃないよな?」
その問いに京華はコクリと頷く。
そんな京華の頭をそっと撫でてやる。
京華の前に腰を下ろした小町がそっと喋り掛ける。
小町「けーちゃんが良い子にしてたらまたいつでも来て良いから、今日はもうお兄ちゃんと帰ろう?お姉ちゃんがけーちゃんのこと待ってるから、ね?」
再びコクッと頷くと京華はヨロッと立ち上がり大志に抱っこのポーズをとる。
それを合図に大志も京華を抱き上げ立ち上がった。
そのまま大志は自分と京華の荷物を持つと玄関まで移動して、靴を履き、そこに小町が京華の靴をナイロン袋に入れて大志に手渡した。
大志「すいませんっす、長々と。本当はこの前風邪で寝込んでた分のノートを比企谷さんに見せてもらうだけのつもりだったんすけど、出る時けーちゃん1人にしとくわけにもいかなくて」
いや、なんでそこで小町なんだよ…と問いつめたい所ではあったが、すでにスゥスゥと寝息を立てている京華を起こしては悪いので今は心の中に閉まっておく。
八幡「……別に良い、その、なんだ、まぁ、俺もそれなりに楽しかったからな」
大志「それなら良かったです。それとわざわざタクシー代まで出してもらって本当すいませんっす」
八幡「それは良い、今度お前の姉に請求しとくから」
小町「お兄ちゃんっ!」
八幡「…冗談だ、気にするな」
ホントは8割方本心だったのだが…
いやだってね?お金ってやっぱ大事じゃん?お金なくちゃ生きてけないじゃん?現実って愛とか勇気とか友情とかじゃまず生きてけないじゃん?
夢も希望もあったもんじゃない思考をしているうちに大志は傘を持ち完全に帰り支度を済ます。
大志「ありがとうございます。じゃ、また遊びに来まs」
八幡「お前は来なくて良いから」
大志「はいっ、それじゃあまた!お邪魔しました」
小町「うん、またねー」
なんだかサラッと俺の言葉をかわされた気がしたが、まぁ良かろう。
眠っている京華にのみ手を少しぎこちなく振って、玄関の扉が閉まるのをじっと見つめていた。
………な、なんだこの感じ…
急に静まり返った我が家に疑問を持ったのは俺だけじゃないらしく、隣の小町も渋い顔をしている。
八幡「あー、まぁそのなんだ、やっぱ子供って良いな」
小町「えっ?!」
八幡「あ?」
小町のこの驚きようはなんだろうか…?
急に頬を染めて目を左右に動かしている挙動不審な小町。
小町「お、お兄ちゃん、それってどういう…」
八幡「どうもこうも、普通に子供って良いなって思っただけだぞ」
小町「そ、そかだよねっ。で、でもさ、お兄ちゃんは自分の子供欲しいって思わないの?」
八幡「あー、思わなくはないけど、今んとこ俺は将来とりあえず自分が働かず楽して飯食えりゃそれで良い」
俺の言葉にしれっとした冷たい視線を送ってくる妹の心理がいまいち分からないのでもう話はそこまでにして踵を返し、リビングへと戻ろうとする。
だが少し歩いた所で背中に重い衝撃が走り思わずうおっ!と声が出た。
衝撃とほぼ同時に柔らかな物体が首をホールドする。
八幡「………なんだよ」
小町「べっつにー。ただ久々にお兄ちゃんに甘えたくなったの。あ、今の小町的にポイント高いっ」
小町が背中に飛び乗ってきたのだ。
はぁ、とわざとらしく溜息をついて、小町の膝裏に手を回しそのままおんぶを続行する。
数十分前には京華が乗っていた背中。
京華に比べてみると断然重たいが、なぜかそれが一番心地いいとさえ感じている俺のブラコン具合に自分でもちょっと引く。
八幡「お前な…」
むふふー、とご満悦そうな声を出して顔をスリスリしてくる妹がもうホント可愛いと思う。
何が可愛いって中学3年生にもなって兄妹でこんなスキンシップを取ってくるのがもうなんかヤバい。
あれ?なんかもう俺たち兄妹って新婚さんよりもキャッキャウフフしてるくね?そろそろ本気で将来小町に養ってもらうかどうか考えようかしら…。
………うん、これはもうアレだな。もう色々と危ない所までキてるな。
八幡「歳考えろよな」
小町「まだ小町は子供だもーん!それにシスコンの兄にしてみればこんな嬉しいことはないでしょっ」
八幡「ばっか、俺はシスコンはシスコンでも妹と触れ合って喜ぶほど悪化してないからな。ただ妹に世話してもらえればそれで良いんだからな」
小町「斜め上過ぎだし、それはそれで社会的に問題だよ…。まぁそんなお兄ちゃんでもお兄ちゃんだから良いんだけどね。あ、今の小町的にポイント高いっ」
八幡「だったらやっぱ俺の貰い手がいなかったら小町に養ってもらうわ。あー、お兄ちゃんホント小町がいないとダメだわー。あ、今の八幡的にポイント高いっ」
小町「うわー…」
ひかれてしまった。
まぁでもなんだかんだ小町は俺を引き取ってくれそうだからなぁ…あれ?
俺の妹、めっちゃ良い娘じゃないっ?!
やっぱこの際だから最初から小町に養ってもらう方向でいこうかなっ!お兄ちゃんったらマジごみいちゃんっ!!
小町「ね、お兄ちゃん」
八幡「ん?」
リビングに入ったとこで小町を下ろそうとするが話しかけられてその動作は止まる。
小町「なーんかさ」
八幡「おう」
小町「寂しいね」
八幡「………おう」
先ほどまで賑やかだったリビングは静まり返り、来客が来てからどこかへ避難していた愛猫のカマクラがノスノスと部屋に入ってきて床に寝転がる。
子供というのは不思議なものだ。
そこにいるだけで、俺でさえも世話を焼きたくなる。その空間を温かい空気で包み、明るくしてくれる。
故に思う。
………願わくば、いつか自分にも子供がほしい、と。
* * *
そんな事があった土曜日から二夜明け、現在月曜日である。
昼休憩になった今、俺は暖房の効いた教室には居ない。
むしろ真逆の環境下にいた。
サキサキスレと見せかけた小町スレだったとは……
続きはよ!
サキサキでも小町でも両方でもいいから続きはよ!!!
続きはよ!
サキサキでも小町でも両方でもいいから続きはよ!!!
ヒューっと風が音をたて、剥き出しの顔から温度をさらっていく。
季節はまだ2月。
春が近いとはいえ、まだ冬である。
そんな季節にも関わらず、俺は学校の屋上に立っているのだ。
目の前の女の子の長くてシュシュでまとめられた青みがかった黒髪が風に激しくなびかれている。
気怠そうな目は下のタイルを捉え、こんな寒空の下でもその頬はわずかに赤い。
沙希「あ、あのさ……」
八幡「お、おう」
えっ…嘘、ヤダなにこれ告白っ?!
絶対そんなことありえないけどそんな事でも思考してなきゃ寒くて凍死してしちゃいそう。
もし死ぬ時は良い夢見ながら死にたいの…
沙希「その、この前は、なんていうか、あ、ありがとう」
八幡「………は?」
体の前で手をモジモジと動かし、一層赤くなった顔で感謝を述べてくるのは通称川なんとかさん、つまり川崎沙希である。
沙希「その、この前、あんたに弟と妹が世話になったらしいから…。タクシー代まで出してくれたみたいで…、ちゃんとお金は払うから」
八幡「いや別に良い。俺の財布から出した金じゃねぇし、世話したのは妹の方だから」
沙希「えっ?でも大志もけーちゃんも…」
八幡「良いって言ってんだろ。まぁ、そのなんだ、お前んとこの妹にまたいつでも来いよって伝えとけ。うちの妹が会いたがってるから、それでこの話はチャラだ」
沙希「う、うん……。あんたがそういうなら…」
納得いかなそうな顔をしているがコチラとしてはすでに納得しているので早々と話を切り上げて、立ち去ろうとするが、彼女の横を通り過ぎた瞬間、ブレザーの袖をつままれる。
怪訝な顔で振り返ると、川崎は伏し目がちに顔を真っ赤にしながらポソリと呟いた。
ヤダ、そんな顔されたら困っちゃう…
俺までモジモジしちゃうじゃないの…
沙希「で、でもさ、個人的にもお、お礼がしたい、んだけど…」
八幡「は?お礼?」
沙希「その、あんたが嫌なら全然良いんだけど…」
八幡「いや別に嫌なんてことはない…出かけたりすんのか?」
沙希「ううん別に…」
八幡「お、おう。まぁこっちとしては悪い気はしないから問題ないけど…」
そう言うと川崎は顔を上げて嬉しそうな顔をする。
うーむ、いつもそんな顔してたらコイツはぼっちにならないんじゃなかろうか。
普段の気怠げな目といい口調といい態度といい、俺もこうして少し接してみるまでは単なる不良だと思っていたのだが実際の川崎はそんな事は全くないのだ。
むしろ編みぐるみとかシュシュ作ったりとかの裁縫が趣味みたいだし、以前大志が食事も作ってもらっていたと言ってたし、予備校のない日は妹の京華を迎えに行くしで、正直そこらの女子よりも遥かに女子力高いと思われる。
沙希「な、なに?」
八幡「え?あ、あぁ、悪い。なんでもない」
そんな思考をしているとじっと川崎を見つめていたようで、照れたように互いに顔を背ける。
八幡「あー、そろそろ戻っていいか?昼、まだなんだが」
沙希「あ、ごめん」
そこで川崎は袖をつまんでいたのを離し立ち去ろうとする俺に声をかけてくる。
沙希「あのさ」
まだ話あるのかよ、パン売り切れちゃうじゃん…
面倒臭そうに川崎に視線を向けるとまたモジモジと視線を宙に彷徨わす川崎。
沙希「べ、べ弁当、その、作ってきてあげようか?」
川崎が何を言っているのか少し理解が追いつかなかった。
弁当?それってアレか?学校で昼休みに大半の生徒たちが口にしているアレか?
八幡「……は?えっと、つまりそれがお礼の内容か?」
沙希「それとはまた別、っていうか、まぁこれもお礼って言えばお礼になるかもしれないけど、さっき言ったお礼とは違うっていうか…」
歯切れの悪い言葉を並べられ、より一層川崎の言っている事が理解できない。
えっと、つまりどゆこと???
俺の怪訝な視線を感じ取ったのか、川崎は更に顔を紅潮させる。
沙希「い、いやっ、あんたっていっつもパンばっかみたいだし…あたしたまに下の子の弁当作ること、あるし…だから、ついでに良いかな、って…」
お、おおう、つまりだからどういう事だってばよ?
そのいかにも後付けされた様な理由は全く理解できないが、とりあえず川崎が俺に弁当を作ってきてくれる、これだけは理解した。
なので首を横に振って応える。
八幡「別にお前にそこまでしてもらう程なんかした覚えはねぇよ」
沙希「そ、そう……」
なぜかシュンと寂しそうな目をするのが見えて、居心地が悪くなる。
え、なに?作りたかったの?俺に弁当作りたかったの?
八幡「大体俺は将来専業主婦になって養われたいとは思ってるが施しを受けるつもりはないからな」
沙希「………は?よく分かんないんだけど」
八幡「まぁつまり弁当までは良いってことだ。ホントそこまでしてもらう理由がない」
沙希「………あんたってホント面倒臭い性格してるよね」
八幡「だてにぼっち極めてねぇからな」
沙希「あんた、ホントにまだ自分がそのぼっち?だと思ってんの?」
八幡「……」
なぜか言葉につまった。
頭の中に色んな顔が浮かび上がったからだ。
だがその一瞬の沈黙を破る様に、その沈黙の理由を見つけないように声を発した。
八幡「ったりめーだろ。じゃなきゃすでに葉山みてぇになってる」
沙希「そう…。………あんたは、別にあんなのにならなくても全然良いと思うけど…」
川崎が何やらぼそっと呟いたのが聞こえたが、そこを追求してはいけない気がして屋上のドアノブに手をかける。
八幡「んじゃ俺は戻るぞ」
沙希「………うん、お礼の準備できたらまた呼ぶから」
その言葉にヒラヒラと手を振って応え、屋上をあとにした。
なぜか諦観した様な、それでいて寂し気な目をした川崎から、早く遠ざかりたかった。
結衣「ヒッキー!」
放課後、生徒たちが部活やら帰宅やらでまばらに教室を去っていく中、その波に流されるように出て、教室からしばらく歩いた所で後ろから由比ヶ浜が声をかけてくる。
なぜか口をへの字に曲げ、眉間に少し皺が寄っている。
八幡「…なんだよ」
結衣「部室一緒行こっ!」
……なんか怒ってね?
少し怒気を孕んだ声に少し不安を募らせながら歩き出す。
30cmも離れていない、少し寄れば肩がぶつかりそうな距離を同じペースで歩く。
しばしお互いに黙っていたが、こちらの方が気になってしまって先に喋った。
八幡「なんかあったのか?」
結衣「別にっ!」
八幡「…何か怒ってんだろ」
結衣「自分の胸に聞いてみてっ!」
八幡「……昼のあのスパムメールが原因か?」
結衣「あたしのメールそんな扱いなんだっ?!」
昼、川崎と話し終えてパンを買い、教室に戻った頃には昼休憩は残り10分足らずで急いでパンを頬張ったのだが、そんな時に携帯に着信があったようなのだ。
というのも気付いたのはつい先ほどで、さらに名前欄がスパムメールよろしく長ったらしいモノだったので、由比ヶ浜と分かりながらもどうせすぐに部室で会うと思って返信しなかったのだ。
八幡「気付いたのさっきなんだよ」
結衣「ふーん」
煮え切らなそうに横目で俺を見てくるが、こればかりは真実なので大して動揺もしない。
はぁ、と溜息と共に言葉を発する。
八幡「んでなんの用だったんだよ?」
結衣「メールの内容まで見てないのっ?!」
八幡「どうせすぐ部室で会うから良いかと思ったんだよ。んで、内容は?」
由比ヶ浜は諦観混じりに肩を落として溜息を吐くと、少し頬を膨らませる。
結衣「ヒッキー、昼休憩サキサキと何してたのかなーって思っただけ」
八幡「は?」
見られていたのだろうか?
いや見られても大した事はないわけだが…
そもそもクラスでぼっちの二人が会話をして、尚且つ一緒に教室を出て行ったらアホらしい輩が変に噂をたてたりするかもしれないと思ったので別々に出て行ったはずだが…
結衣「昼休憩サキサキに話しかけられた後教室から出てったじゃん」
まぁここで嘘をついたり変に誤魔化す必要もないのでザックリと聞かれた事だけを話す。
八幡「アレだ、土曜日にあいつんトコの弟と妹がウチに来ててな」
結衣「あー、えっと、大志くん、だっけ?ん?妹?」
八幡「あぁ、クリスマスイベントん時にその妹と知り合ってな。ちなみに保育園児な」
結衣「あ、良かった」
八幡「なにがだよ…。まぁそれで帰りも雨降ってたからタクシー呼んでやって、金も出したからな。その礼を言われただけだ」
結衣「へー、ヒッキーがお金出したげるなんて何か意外かも」
八幡「ばっか俺だってそこまでケチじゃねえよ。昔の小町を思い出して情が移っただけだ」
結衣「うわー何かヒッキーらしい…」
八幡「なんだ俺らしいって」
どこに引かれる要素があったのか皆目見当もつかないが、一応聞かれた事には応えたのでそこで互いに黙ってまた歩を進める。
しばらく歩いて奉仕部ももうすぐという所で再び由比ヶ浜が口を開いた。
結衣「でもさっきの話だとヒッキーちゃんと小さい子と遊べるんだね」
似たようなセリフをつい最近誰かにも言われた気がするのでこちらも似たようなセリフで返す。
八幡「どういう意味だよ」
結衣「やっ、だってヒッキーが人と話してるのでさえすごい珍しいのに知り合い程度の女の子と遊んだげるって何か想像つかないし」
八幡「俺のお兄ちゃんスキルはオート発動だからな。だから小さい子で尚且つ俺に好意的な子にはギリギリ対処できる」
結衣「ギリギリなんだ…」
雪乃「あなたに好意的なその子どもの将来が不安だわ」
八幡「だからどういう意味だってうぉいっ!」
結衣「ゆきのんっ!」
いきなり何の前触れも違和感もなく入り込んできた声にかなりビビる俺マジチキンハート。
ていうかいきなり後ろに現れんなよ…雪ノ下さんついに瞬間移動とか身に付けたんすか?知り合いにヤードラット星の方でもいるのかしら?
後ろの雪ノ下に気付いた由比ヶ浜がやっはろー!といつも通りのアホの娘らしい挨拶をしてそのまま飛び付く。
雪乃「その、由比ヶ浜さん苦しい」
主に雪ノ下にはほとんどなくて由比ヶ浜には有り余るほどある何かが雪ノ下の身体を圧迫しているのだろう事は容易に想像がつく。
故に雪ノ下が俺の思考を読み取って百獣の王さえも射殺しそうな視線を送ってくる事も容易に想像できた。
由比ヶ浜から解放された雪ノ下ははぁ、と全然嫌そうじゃない、むしろ少し頬を紅潮させて制服の乱れを直し、それを見届けてから3人一緒に廊下を歩く。
結衣「あれ?ていうか今日はゆきのん遅かったね」
雪乃「ええ、先生に呼ばれていて」
八幡「お前でも教師に呼ばれることあるんだな」
雪乃「どういう意味かしら?返答次第では[ピーーー]わよ?」
八幡「恐えよ…。まぁ別に他意はねえよ」
雪乃「そう、なら良かったわ」
結衣「ねぇゆきのんゆきのんっ!あのねーーー」
女子2人が会話を始めた事で俺は黙々と足を進めた。
奉仕部前に着く頃には女子同士の会話は終わっており、雪ノ下は持っていた鍵で教室のドアを開けながら尋ねてくる。
雪乃「それでロリ谷くん、今度はどんな幼女を手にかけたのかしら?」
八幡「お前な…」
>>11
凄くいい。原作で小町が全然甘えてくれないというか、以外とさっぱりしてるというか。精神的にはお姉さん的感じだし、ハグとかもないしなー。ちくしょう。。
凄くいい。原作で小町が全然甘えてくれないというか、以外とさっぱりしてるというか。精神的にはお姉さん的感じだし、ハグとかもないしなー。ちくしょう。。
>>26
そういや、いろはすにもナデナデしてたな。たぶん小町にする感じでのナデナデだったが
そういや、いろはすにもナデナデしてたな。たぶん小町にする感じでのナデナデだったが
結衣「サキサキの妹だって。まだ保育園児らしいよ」
雪乃「なん…ですって……」
八幡「いや、携帯出さなくて良いから。110番通報される様な事してねぇからな。ちょ、マシでやめて、やめて下さいお願いします」
雪ノ下ならマジで電話をかけかねないので必死に懇願する。
いやホントそんな事されたら俺の人生終わるから。
ただでさえ終わってる様なもんなのにこれ以上酷くなられたら真剣に自殺考えちゃうからね?
雪乃「そう言えばロリ谷くん、その子、あなたに好意的らしいわね?」
八幡「ん?あぁ、何かほぼ2ヶ月ぶりに会ったのに俺の名前覚えてたしな」
結衣「へー、小さい子なのにヒッキーの名前ちゃんと覚えてるなんてすごいねー」
八幡「いやフルネームで覚えてたわけじゃないぞ?会った時からあだ名っつうか何つうか、まぁそのあだ名を覚えてたってだけだ」
雪乃「比企谷くんにあだ名?オバケとかゾンビとか死霊とか、そんな感じかしら?」
八幡「アホか、初対面の保育園児の子にそんな呼ばれ方したらもう生きていけなくなるわ。はーちゃんだよ、はーちゃん」
結衣・雪乃「はーちゃん?」
二人ともキョトンとして顔を見合わせる。
その様子を見て自分の失態に気付いた。
は、はーちゃん…と口に手を当てながらプププッと笑いを堪えている由比ヶ浜。
視線を明後日の方向に向けて必死に堪えているが口角が上がり、今にも吹き出しそうに口がワナワナしている雪ノ下。
自分に今日、新たな黒歴史が生まれそうな予感がして既に冷や汗をかいている俺。
雪乃「は、はーちゃん?鍵、開いたわよ?……くくっ…」
結衣「ほ、ほら!は、はは、はーちゃん、中入ろ?……ぷっ…」
八幡「や、やめろぉっ!」
予想は見事に未来を言い当ててしまったのであった。
数多くの黒歴史を持つ俺の人生だが、これは中々に上位に食い込みそうだ。
なぜ京華にはーちゃんと呼ばれた時は、あんなに世界が花畑になったような感覚に陥るのに、この2人からそう呼ばれると死にたくなるのか…。
本当にこの2人に言ってしまった事を後悔している俺は、きっと近いうちにタイムリープしてこの世界線の俺を救ってみせるぜっ!!
雪乃「お茶どうぞ、はーちゃん」
結衣「お菓子もあるよはーちゃんっ!」
八幡「お前らいい加減に…」
結衣「いーじゃん別にっ!今までヒッキーなんて可哀想な呼び方してゴメンね。これからははーちゃんって呼ぶからっ」
八幡「可哀想だと思ってたならやめろよ。つかマジでそれだけはやめてくれ」
雪乃「良いじゃない、私も全然良いと思うわよはーちゃんって呼び方」
八幡「お前ら俺をどうしたいんだよ…」
あれから数分後、既に彼女たちの中ではーちゃん呼びが定着した様で、どうやら今後ずっとこのままらしい事を考えると自殺願望の芽がスクスクと育つ。
そんな時、教室のドアがノックされ、例の如く雪ノ下がそれに応える。
入ってきた人物に三者三様に息を呑んだ。
沙希「今、空いてる?」
疑問に思って調べてみたら結衣のサキサキの呼び方って沙希だったんですね、皆さん今までのとこ脳内補完お願いします
雪乃「ええ」
そのままどうぞ、と言って川崎に席に着くよう促す。
川崎が席に着いたのを確認すると、由比ヶ浜がずいっと川崎に身体を向けた。
結衣「今ちょうどはーちゃn」
八幡「おい」
明らかにさっきまでの流れで喋ろうとする由比ヶ浜を制し、由比ヶ浜も慌ててコホンと咳払いをする。
その一連の流れに川崎は少し怪訝そうな視線を投げかけてくるが、すぐにそれを収めた。
結衣「今ちょうどヒッキーと沙希の話してたとこなんだっ」
沙希「あたしの?」
雪乃「川崎さんというよりはあなたの身内の話よ。あなた、弟さんの下に妹さんも居たのね」
沙希「え、あ、まあうん。うちの下の子たちに何かあるわけ?」
雪乃「いえ、単にこの前その子たちが彼の家に遊びに行ったと聞いたものだから、ついロリ谷くんがあなたの妹さんに何かいかがわしい事をしていないか確認していただけよ」
沙希「は?………ちょっと、何もしてないよね?」
ブラコンであり、且つシスコンでもある川崎にギロリと睨まれ少し身体に力が入るこれでファザコンでマザコンだったら川崎の事をファミコンと呼ぼう!
あらやだっ、なにその愛着ありまくりなあだ名っ!懐かし過ぎて抱き締めちゃいそう!
とりあえずここで事実をはっきり言っておかないとマジで殺されそうなので、しっかりと言葉を口にする。
八幡「するかよ、ただおんぶしてやったり絵描いてるの眺めてたりプチママゴトに付き合ってただけだ。心配ならあの弟にも聞いてみろ」
沙希「……別に良い。こんな事で嘘つくとは思わないし」
どうやら一命は取り留めたようだ。
そんな中、由比ヶ浜がほえー、と感心したような声を出す。
結衣「別にヒッキーを疑ってたわけじゃないけど、ヒッキーホントに子どもとちゃんと遊んだげるんだね」
八幡「いや、別に俺はそんな…」
沙希「また遊びたいって喜んでたよ」
八幡「お、おうそうか…」
普段人から褒められたりする事がないのでこういう時どういう反応をすれば良いのかが分からない。
というより、なぜ京華が俺の事を覚えてて且つ俺に好印象を抱いたのだろうか?
雪ノ下ではないが、俺の様な犯罪者予備軍っぽい目つきした人間に懐いてしまっているあの娘の将来が色々と不安である。
結衣「ヒッキーって案外良いパパになるかもねっ」
八幡「あ?」
結衣「だってもし本当に専業主婦になったらちゃんと家事してくれるだろうし、そうやって子どもの世話もしてくれそうだし」
雪乃「確かに仕事をしていない面を除けば理想的な父親像かもしれないわね」
八幡「自分で言うのもなんだが仕事してないっていうのが決定的な気もするがな」
本当に自分で言っていたら世話はないだろうが、そんな俺の言葉を無視して他の3人は妄想の世界へと飛び立つ。
結衣「ヒッキーが旦那さんかぁ……大変そう…」
雪乃「……っ!…」
沙希「…………良いかも…」
八幡「おい…」
女子が何やらよからぬ妄想をしている気がして、ゴホンッとわざとらしく大きく咳払いをして彼女たちの意識を連れ戻す。
川崎が来てから一向に話が進まず、むしろ自分にはよろしくない話が続いているのでここらで本題に戻した。
八幡「それで川崎、何か依頼か?」
沙希「へ?…えっ、あ、うん」
だいぶ話が脱線していたがーーーもとから本線には乗っていなかったがーーー、依頼の話となると雪ノ下も由比ヶ浜も身を引き締めて、川崎に視線を向ける。
雪ノ下はコホンと上品に咳払いしてから川崎に話を促す。
雪乃「それで、どんな依頼かしら?」
沙希「あー、えっと……」
八幡「?」
なぜ俺を見る?
その視線には由比ヶ浜も雪ノ下も気付いた様で俺を睨み付けてくるが、こちらとしても川崎の視線の意味が分からず2人に首を横に振って応える。
そんな俺たちの動作には気付かず川崎は机に視線を落とし、昼休憩の時のように何かを言い辛そうにモジモジとしていた。
沙希「その、ある人に、弁当、作ってきてあげたい、んだけど…」
八幡「っ!」
その言葉に思わず息を呑んだ。
先ほどの川崎の視線を『それ』だと捉えたのは俺だけではないらしく、由比ヶ浜がクワッと目を見開いて俺を見てくる。
さらに負の連鎖は続き、由比ヶ浜の視線の意味するところを察した雪ノ下までも目を細めて俺と川崎を交互に見た。
……どうすんだよコレ。
可能性を確信に変えようと雪ノ下が話の核心を聞いた。
雪乃「川崎さん、そのお弁当を作ってあげたいという相手は誰かしら?」
先ほどまでの談笑とは明らかに違う雪ノ下の声に、川崎は更に言い淀む。
沙希「えっと、、それは…」
顔を下に向けたまま目だけ動かし俺をチラリと見てくる。
その視線の動きは俺にしか見えていないだろうが、あとの2人には川崎が言い淀んだこと自体が解答のようなモノで、より一層目がギラリと輝く。
結衣「ヒッキー、今日のお昼呼ばれたのはお礼言われただけ、なんだよね?」
八幡「お、おおう」
俺は間違った事は何も言っていない。
俺は無罪だ。やましい事など何もない。
沙希「べ、べべ別に相手がこいつなんて誰も言ってないじゃんっ!」
すでにその呂律の回ってなさが答えを言っているようなものですよ川崎さん…。
雪ノ下が冷静に反論に反論を返す。
雪乃「そうね、でも相手が比企谷くんでないとは誰も言ってないわよね」
沙希「っ!」
…………あ、コレ詰んだ。
ーーーと思ったのと同時に川崎がガタッと椅子がそのまま倒れそうなほど勢いよく立ち上がった。
沙希「別にあたしがコイツに弁当作ったってアンタ達には関係ないでしょっ」
ビシッと人差し指を俺に向け、視線を雪ノ下と由比ヶ浜の間で行き来しながら言い切る。
先ほどまでのモジモジした感じはないが、いかんせん顔が真っ赤に染まっているため迫力がない。
むしろ可愛い。
結衣「そ、それは…」
沙希「あ、あたしはコイツにこの前の事もだし他にも色々と恩があるからそのお礼をしようと思ってるだけだからっ。何か問題あるわけ?」
結衣・雪乃「………」
川崎の言っていることを当然この2人は否定できる材料を持っていないので無言になる。
ていうか言い返せなくてちょっとシュンとなってる雪ノ下が普段とのギャップ萌えで可愛い。
八幡「なぁ話の腰折って悪いけど、俺、お前のその提案断ったよな?」
沙希「………」
今度は川崎が黙る番だ。
俺の言葉に雪ノ下と由比ヶ浜がキョトンとした顔を向けてくるので端的に説明をする。
八幡「今日の昼休憩こいつに呼び出されて今の弁当うんぬんの事言われたんだよ。でも俺にはそこまでしてもらう程の義理も理由もねぇって言って断ったんだよ」
結衣「ヒッキー…」
雪乃「比企谷くん…」
二人の相槌とも呼べる言葉を聞き、川崎に振り返る。
八幡「だからこの依頼は無効だ。すでに話はついてるだーーー」
結衣「サイテー」
雪乃「クズね」
八幡「ーーーろ、、は?」
思わぬ所からの伏兵に八幡城の守備は一気に瓦解する。
普段から言われ慣れている言葉ではあるが、今のこの教室の空気、会話の流れからしてまさかの言葉に動揺を隠せない俺。
結衣「女の子が男の子にお弁当作ってあげるなんてそうそう言えるもんじゃないよっ!それをそんな下らない事で断るなんてホントヒッキー最低っ!」
雪乃「全くだわ。あなたにいかなる思慮があったとしても、それは相手の勇気を踏みにじって良い事にはならないわ、さすがゴミ谷くんね」
八幡「え?ちょっ、お前ら、、は?」
いや絶対今までの流れからしたら奉仕部的にこの依頼を受けない、あるいは受けたくないというモノではなかっただろうか?
それを先陣切ってやった俺にこの言いようはなんだ?
え?なに?今度は俺が一人のパターン?
いや俺は普段からぼっちだから常に独りなわけで、確かに小学生の頃は独りデュエルする時とかは複数の人格を操って仮装複数人になったことはあるが…あれ?俺なに言ってるの?
沙希「えっと、、つまり受けてくれるってこと?」
というよりすごい今更だけど、わざわざこんな事で依頼に来るとか川崎、お前どんだけ俺に弁当作ってきたかったんだよ…。
もう何ならこの先ずっと弁当作ってくれよ。
いや何ならもう毎食作ってくれないかな?
そしたら将来の就職先は川崎んとこで良いんじゃないの?
っべー、見つけたわー、マジ見つけたわ、っべー。
まぁ俺が良くても川崎はイくないだろうけどねっ!
とりあえずこれ以上よく分からん乙女心を刺激して辛辣な精神攻撃を受けたくないし、実際弁当を作ってきてもらえるのならコチラとしてはパン代は浮くし、きっと川崎の手料理は美味いだろうしでメリットしかないと思われるので、話を切りにかかる。
八幡「わかった、この依頼はなしだ。川崎、お前がそんなに言うならわざわざここに依頼するまでもない。その、お前の、お前の作った弁当、食わせろよ…」
沙希「べ、べべ別にまだアンタにあげるって言ってないじゃん!」
八幡「え?違うの?ここまで来て違うの?え?マジで?」
沙希「いや、その、アンタに、だけど…」
あっ、良かった。ホント良かった。
もし違ってたらこの瞬間が黒歴史になる前に教室の窓開けて飛び立つ所だったよ?そしたらきっと天国に行って大天使・戸塚に癒してもらうんだ。天国には天使の戸塚がいっぱいだよね?ね?
結衣「……なんかそれはそれで、うーん、、やな感じかも…」
なぜか由比ヶ浜が腕を組み考え事をしているが、あえて無視する。
それに反して雪ノ下はうむ、と頷いきながら口を開く。
雪乃「そう、まぁ当事者同士で話がついたのなら奉仕部部長として何も言うことはないわ」
八幡「ってなわけだ。その代わりクラス内で目立ちたくはないから、どっか誰にも怪しまれない所で渡してくれ」
沙希「う、うん分かった」
結衣「ちょっ、ヒッキー?!なんかやらしいっ!ダメダメ!そんなの絶対ダメッ!」
八幡「お前な、ちょっと落ち着け。別に弁当渡されるだけだろ?どこもやらしくねぇよ」
結衣「むー、でも……」
全然納得がいかないという顔でムスッとしている由比ヶ浜をしばし見て、雪ノ下は溜息を吐く。
雪乃「ならこうしましょう。お弁当を渡す場所はここ。ここならお昼、私も由比ヶ浜さんも一緒にいるから由比ヶ浜さんも文句ないでしょう?」
結衣「う、うんまぁそれなら…」
雪乃「川崎さんはどう?」
沙希「あたしは渡せるんならどこでも良い」
ここで全く言い淀むこともなくスラッと言葉を出した川崎に妙な違和感を覚えたが、それはすぐにどこかへと消える。
雪乃「ではこの話は終わりにしましょう」
沙希「そ、じゃあたしはこれで」
カバンを手に取り、立ち上がると颯爽と教室を去っていく。
川崎の足音が聞こえなくなるまで誰も一言も発しなかった。
雪乃「お茶も冷えてしまったわね、いれ直しましょう」
八幡「あぁ、悪いな」
雪乃「あなたから素直に感謝の言葉がでるだなんて、明日は槍が降ってきそうね」
八幡「ばっか、俺だってちゃんと自分に非があれば認めるし、悪いことしたら謝る。その逆の言葉も然りだっつの」
雪乃「あら、そんな世渡り上手ならこんなに目は腐らないと思うのだけれど」
八幡「世渡りが上手すぎるがゆえの現状だ」
雪乃「違いないわね」
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