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    元スレエリカ「あなたが勝つって、信じていますから」

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    251 = 236 :

    「大丈夫です。悩みは晴れました。ありがとうナツメさん」

    「え!? あ、そっそう……。でもよかったわ。これからジムに挑むんでしょ? 私も同行してもいいかしら?」

    「ええ。もちろんです」

     セキチクジムはにすぐに到着した。中に入ると、キョウがジム中央のバトルスペースで目をつむり正座している。その後ろにはキョウの娘のアンズが控えていた。

    「来たか……む、ナツメ殿も」

    「えっと、ジムのギミックの監修に来たんだけど……。先にやった方がいいかしら? ごめんね。すぐに終わるから」

     しかしキョウがレッドとナツメに手をかざす。
      
    「否、その小童に小細工は不要。ナツメ殿、この戦いが終わるまで待っていただきたいが宜しいか」

    「いいわ。頑張ってねレッド」

    「はい」

     ナツメが観客席に移動する。レッドの顔は、覚悟を決めた戦士の顔。

    (ほう……)

     キョウがその顔を見て、笑った。

    「下がれ、アンズ」

    「うん」

     キョウがバトルスペースに立つ。目を閉じて軽く顎を引き、直立するその姿はまさに時を待つ忍びそのもの。

     レッドもまた、モンスターボールをその手にしながら目を閉じた。

     嵐の前の静寂。突如訪れた張り詰めた空気に、ナツメとアンズも息を呑む。

    「答えは変わらぬか、小童」

    「一度ポケモンの手を取り、心を通わせたならば、確かな光が心に宿る。俺はそう学びました。ポケモントレーナーならば、ポケモントレーナーとしてぶつからないと分からない事がある。伝えられない事がある」

     レッドは目を開き、モンスターボールをキョウにかざす。

    「俺がポケモントレーナーの道を進み続けるのは、バトルを通して得られる確かな絆があるからだ。共に戦う仲間だけじゃない。戦ってきたライバル達にも、俺は心のつながりを感じている」

     その言葉に、ナツメは驚く。

    (レッド……!? まさか、あなた、サカキにも……)

    「ファファファファ! まさかロケット団と戦いあんな目にあっておきながら、その道を進み続ける意味を確信したというのか!」

    「ええ。キョウさん。あなたがサイクリングロードでやっていたことは、被害を迅速に食い止めるためには最善の手段でしょう。だけどやはり俺は、一人ひとりとポケモンバトルを通して、光ある道に気づく手助けがしたい」

     レッドは微笑んだ。自分が進む道が今、また一つ扉を開けた。

    「俺達は、ポケモントレーナーなのですから」

    252 = 236 :

    「ならば小童。そのポケモン達とともに、拙者の心を震わせられるか?」

     レッドはモンスターボールを構えることで答えた。

    「ファファファファ!! 始めるぞ小童! 行け! モルフォン!」

    「行け! ピジョット!」

    『バトル開始ィ!』

    「モルフォン、どくどく!」

    「ピジョット、空をとぶ!」

     モルフォンがジグザグに羽ばたきながら毒をまき散らすが、ピジョットは身にかかる毒に構うことなく突貫する。
     
     そのままピジョットの加速した体当たりが直撃し、モルフォンが地に落ちてバウンドする。

    「影分身!」

    「つばさでうつ!」

     モルフォンはすぐに体勢を立て直すと、その体がぶれて残像のように姿が分身する。ピジョットはその内の一つを翼で切ったがなんの感触もなく、切ったモルフォンの姿は空に消えた。

    「つばさでうつ!」

    「吸血!」

     両者の戦法は一気に分かれた。影分身、そして毒と吸血で持久戦に持ち込むモルフォン。タイプ相性を生かし一気に勝負を決めたいピジョット。

    253 = 236 :

     観客席のナツメも冷静に戦況を見つめる。

    (どくどくは普通の毒よりも消耗が早い……。だけど下手にピジョットを変えれば、それこそ毒を用いた持久戦を得意とするキョウの術中。ピジョットの一撃なら後一回当たりさえすればモルフォンを仕留められる。当たればだけど……)

    「モルフォン、影分身!」

    「くっ! つばさでうつ!」

     ピジョットの毒が回り始めるのと対照的に、モルフォンは冷静に吸血して体力を回復していく。

    「ファファ! どうした小童! その程度では人の魂を震わすなど、夢のまた夢!」

    「証明してみせるさ。俺とピジョットならば、どんな逆境だって跳ね返すことができる! ピジョット! かぜおこし!」

    「無駄だ!」

     ピジョットのかぜおこしはモルフォンの分身を一つ消すだけ。しかし、レッドは繰り返す。

    「かぜおこし」

    「ふん! やけになったか……いや、これは!?」

     ピジョットはマッハ2で飛ぶ事ができる羽の持ち主、その翼が全力で風を起こせば、閉めきったポケモンジム内に強烈な気流が巻き起こる。

    (あれは、シルフカンパニーで見せた……!)

     ナツメも気づいた。レッドとピジョットは風の流れを利用できる。

    「ぬ……モルフォン!」

     モルフォンはピジョットがおこした乱気流にバランスを保つのがやっと。そのせいで、モルフォンとモルフォンの分身達の動きが鈍り始める。

    (ピジョット! タイミングはお前に任せる。お前ならば、この乱気流の中で全てのモルフォンが一列になる瞬間を貫ける!)

     ピジョットの眼が見開いたのを、レッドは見逃さなかった!

    「ピジョット、突進だあっ!」

    「ピジョォ!!」

     ピジョットが羽ばたき、急旋回してモルフォン達に突撃する。自らが作り出し、ピジョットだけが入ることができる一瞬の風の道筋、そこには風に流されて身動きが取れないモルフォン達が直列していた。

     一つ、二つ、三つとモルフォンの分身がピジョットの突撃で消え、最後に残ったモルフォンがピジョットのくちばしに弾き飛ばされる。

     風の流れが止むと同時に、ピジョットは足で降り立ち、モルフォンは背中から落ちで動かなくなった。

    『モルフォン、戦闘不能!』

    254 = 236 :

    「よくやったなピジョット。戻れ」

     レッドは消耗したピジョットを戻す。ピジョットが再び戦うには毒を直さなければならない故、実質的には相打ちだった。

    「まずはお見事! 行け! マタドガス!」

    「行け! バタフリー!」

    「マタドガス、えんまく!」

    「バタフリー! サイケこうせん!」

     放出されたえんまくはバトルスペースの半分を覆い、マタドガスはバタフリーから完全に見えなくなった。バタフリーのサイケこうせんは煙幕の中に消える。

    (当たったのか!? 無闇に打ち続けるのも……)

    「マタドガス! ヘドロこうげき!」

    「フリー!?」

    「バタフリー!」

     しかしえんまくの中からはバタフリー目掛けて正確にマタドガスのヘドロこうげきが飛んでくる。

    「くっ! バタフリーあそこだ! サイケこうせん!」

     ヘドロこうげきが飛んできた場所へサイケこうせんを打ち込む。しかしマタドガスが悲鳴をあげないため、命中したのかどうかがわからない。

    (さすがだ! 勝つための戦術をポケモンに徹底させている。だがこれを打ち破ることができる戦術を、俺とバタフリーが編み出す。今ここで!)

    「……よし、バタフリー! しびれごな!」

    「むう!?」

     バタフリーが羽ばたき、煙幕に覆われたフィールド全体にしびれごなを巻いていく。

    「だが、攻撃は当たらん! ヘドロこうげき!」

     バタフリーにヘドロこうげきが直撃する。しかしレッドはそれを待っていた。

    「そこだ、バタフリー!」

    255 = 236 :

     バタフリーは煙幕内に突入した。そして、煙幕の中ガスが噴出している球体の影を見つける。

     しびれごなで動きが鈍ったマタドガス、この距離ならば外さない。

    「しとめたぞ! サイケこうせん!」

    「マタドガス、じばく!」

    「なっ!?」

     煙幕が爆風によって吹き飛ばされ、後には力尽きたマタドガスとバタフリーが残る。

     あのままならばバタフリーのサイケこうせんがマタドガスを仕留めていた。そう判断したキョウの対応は早かった。

    「非情だと思うか? 小童」

    「勝つために次の仲間へと繋げる。あなたのマタドガスの反応は早かった。勝利への意思統一と自らの犠牲を厭わない気概がなければできないことだ。お見事です」

    「……小童。いい戦いをしてきたようだな」

     互いにポケモンを戻す。キョウは笑っている自分に気づいた。

    (年甲斐もない。こんな小童の言い分に熱くなり、あまつさえこのポケモンバトルを楽しいと感じている)

    「小童。お主の目指す終着点はなんだ?」

    「ありません。仲間達と遙かなる高みに行くのみ!」

    (ポケモンリーグ優勝でもなく、ポケモンマスターでもなく、即答でそれか)

    「ちちうえー! 頑張れー!!」

     キョウは観客席で叫ぶアンズを見た。

    (アンズのポケモントレーナーとしての腕、申し分ない。拙者の後を充分に告げるだろう。その後拙者は、今までポケモントレーナーとして過ごしてきた全てを次代に伝えようと思っていたが……)

     キョウの心に、忘れかけていた火が再び灯る。

    (高みか……)

    「行くぞ小童! これが最後のポケモン! 行け! ベトベトン!」

    「行け! フシギバナ!」

     フシギバナは毒タイプを持ち、ベトベトンは草に耐性がある。残る戦いの選択肢は真っ向勝負の肉弾戦。

    「フシギバナ、突進!」

    「ベトベトン、かたくなる!」

     フシギバナの巨体を生かした突進。ベトベトンもその体を硬質化させて迎え撃つ。

    「すてみタックル!」

    「ものまね!」

     フシギバナとベトベトンの額が真っ向からぶち当たり空気が振動する。もう、レッドとキョウの命令は必要なかった。

    「フシギバナ! 一歩も引くなー!!」

    「ベトベトン! そこだ! 行けえ! ぶっとばせぇ!!」

     キョウが拳を振り乱し叱咤激励すると、ベトベトンが応えるように硬質化したヘドロで拳を作りフシギバナを殴る。

    「ち、ちちうえ……?」

    「あらあら……」

     父親の変貌に戸惑うアンズと、顎に手を当てて微笑むナツメ。

    256 = 236 :

    「あんなちちうえ、初めて見る……」

    「いいんじゃない? こういう暑苦しいのも、ポケモンバトルでしょ」

    「バナぁ!!」

    「ベトォ!」

     異種ガチンコファイトはお互いのずつきが炸裂し、両者倒れてゴングが鳴った。

     そして、ふらつきながら立ち上がったのは……。

    『ベトベトン戦闘不能! 勝者、挑戦者レッド!』

    「見事小童。いや、マサラタウンのレッド!」

    「こちらこそ。いい戦いができて、本当に嬉しかったです」

     キョウとレッドが近づき、笑顔で握手する。しかしすぐにキョウは手を離し、レッドに背を向けて歩き出した。

    「そら! ピンクバッジを受け取れ!」

    「おっと」

     キョウはレッドを見ずにピンクバッジを放り投げる。バッジはレッドの手元へ寸分の狂いなく収まった。

    「ち、ちちうえ。どこへ……」

    「ナツメ、戻ってポケモン協会へ伝えろ。本日を持って、キョウはジムリーダー代理として、娘アンズを指名する。キョウは今任期を持って退任し、後任にはアンズを推薦するとな!」

    「ちょ、ちょっと。いきなりどこへ行くつもり!?」

     ナツメも慌ててキョウに叫ぶ。しかしキョウは気にせず自分の言いたいことをぶちまける。

    「アンズよ。迷うことあれば今日(こんにち)のバトルを思い出せ。お前の実力は父が認める!」

    「は、はい!」

    「レッドよ。年甲斐もなく拙者を熱くさせてくれたな。拙者にとってジムリーダーは終着ではないと、錯覚してしまったではないか!」

     キョウは怒りながら笑っているようだった。

    「ファファ! まずは手始めにサイクリングロードのトレーナーに片っ端から挑んでくるとするか。さらばだレッド! 高みでな!」

    「……はい!」

     アンズとナツメはキョウの突然の変貌ぶりにキョトンとしていたが、レッドはその背中を逞しく思っていた。

    (今、サイクリングロードの"トレーナー"って……。……高みか)

     また一つ、約束が増えた。しかし、嬉しさしかない。

    「えっと、じゃあアンズ? その、ジムのギミックの監修いいかしら。バリヤードで見えない壁の点検するから、図面見せてもらっていいかしら?」

    「え、あ、はい! こちらです! ええと、どこに置いてたっけちちうえ……」

     どうやらアンズの初仕事は、やけに事務的なことから始まったようだ。

     レッドはその様子を微笑んで見守りながら、ピンクバッジを胸元に取り付けた。

    257 = 236 :

     その後レッドはナツメに腕を引かれて共にサファリゾーンに入ったり、何故かポケモンの戦い方についてアンズに相談されたが、大した話ではない。

     ナツメとアンズと別れ、レッドが次に向かうはふたご島、そしてその先のグレン島。

    「えっと、ここからは海を超えるか。ギャラドスなら……ん?」

     海岸でギャラドスを出そうとした矢先、海の向こうから波に乗ってサーフィンする少女が見えた。

    「待っていたわよーレッド! 波乗りの極意! このカスミが教えてあげるわー!! いやっほー!!」

     波から空に舞い上がりポーズを決める、スターミーをサーフボードにして乗っているカスミ。黒い水着が体のラインをくっきりと写し、太陽に照りつけられて鈍く光っている。

     ほどなくレッドがいる海岸まで猛スピードで海上を滑ってくる。

    「えへへー。また会ったわねレッド!」

    「カスミ、なんでここに?」

    「だから言ったでしょ! ポケモンで海を超える波乗りの極意、この私が教えてあげるわ。不満かしら」

    「それは、ありがたいよ。でも、ジムは?」

    「今は休暇中よ、さ、レッドも水着に着替えて着替えて♪」

    「え、水着持ってないけど……」

    「なんですって!? じゃあさっそく買いに行きましょ! セキチクシティなら売ってるでしょ!」

     今度はカスミがレッドの腕を引っ張って行く。レッドは苦笑いしながらも、旅で出会う様々な人たちとの交流を、胸に刻んでいた。

     所変わってタマムシシティ。エリカの自宅。カイリュー便からレッドからの手紙が届く。

     それをエリカは自室で綺麗に封を空け、愛おしそうに微笑みながらその書面に目を走らせる。

    (まあ、キョウさんがジムを空けたのはそんなことがあったのですね。レッドも怪我がなくてなにより……ん?)

     ナツメとカスミに関する記述でエリカの目がとまる。

    (………ナツメさん、一緒にサファリゾーン行く意味ないですよね。それに、ジムを休んでまでカスミは……しかも水着って……)

    「ふふ、ふふふ。ふふふふふふ」

     クサイハナが主の微笑みに、生まれて初めて恐怖した。
     

    258 = 236 :

    今日はここまで。明日からグレン島編です。

    >>232
    もう一作品忘れてましたのでこちらもどうぞ。

    カトレア「ジムリーダー風情がトウヤに近づかないでくれる?」

    >>246
    >>247
    >>248
    実験的に会話練習で書いた話だったんですけど、意外と評判よくてびっくりしました。ありがとうございます。

    259 :

    乙!今回も楽しかったよ!

    260 :

    その名の通り熱くさせる男よ…

    261 :

    それもお前かよ

    262 :


     グレンタウン。そこはカントー地方南西の火山島、グレン島の唯一の街。

     そびえ立つ火山を除けば、民家、グレンジム、ポケモン研究所、そして今では野生のポケモンが住み着いているポケモン研究所の廃墟、ポケモンやしきがあるのみの静かな街。

     レッドはギャラドスで上陸したあとさっそくグレンジムへと向かったが、ジムの受付の男性からカツラの不在を聞かされた。

    「ん、ジムの挑戦者かい? すまないねえ。今休憩中で、カツラさんはポケモンやしきの方に行ってるよ。そうだ、休憩が終わるのももうすぐだし、カツラさんを呼びに言ってもらえないかい?」

    「ええ。構いませんけど……。ポケモンやしきと言うのは?」

    「昔、ポケモン研究所だった場所さ。事故で爆発があったとかで今は廃墟になっていて、野生のポケモンが住み着いてる。ほのおタイプのポケモンが出現するから、カツラさんもよくトレーニングに行っているんだ」

    (ポケモン研究所の廃墟か……)

     その場所はかつては荘厳だった。豪邸と言ってもいい広さ、当時最先端の研究施設、そして新種のポケモンがいた場所。
     
     今は壁は崩れ地面に穴はあき、朽ち果てた研究器具と資料が散乱し、当時を知る人間も老いて人々の記憶からも風化しようとしている。

     そんな場所に、定期的に来る人物がいる。光るつるりとした頭と丸縁のサングラス、そして鼻と口の間から伸びる白い立派な髭。

     グレンジムリーダーカツラは、オレンジ色のたてがみをなびかせる大型の狛犬に似たポケモン、ウインディを伴って廃墟の奥に進んでいた。

    (人の業、許される時は来るのだろうか、フジよ)

     カツラは廃墟の一室に入ると、ひび割れた机の上に転がっていた写真立てを手に取る。

    (おや、まだこんな写真があったのか)

     ひび割れた写真立ての中の写真。若き日のカツラと、そして無二の友人フジ。肩を組んで朗らかに笑う二人、写真の中のシワの少ない顔とまだ豊かな頭部が、過ぎたった年月の深きを残酷に物語っている。

    263 = 262 :

     カツラはグレン島にポケモン研究所ができる前から、この島に住んでいた。それは当時とても珍しく彼を変人扱いするものもいたが、カツラの生来の明るさとポケモントレーナーとしての造詣の深さが、この島にやってきた研究員たちとカツラの関係を深くした。

     その中でも特に気が合ったのが、親友フジ。フジはグレン島にやってきた研究員の中でも特に優れた科学者で、彼が特に得意としていたの遺伝子工学の分野。ポケモンの出生、進化の秘密を題目とした研究においては随一の科学者だった。

     フジの活気あふれる研究意欲に、カツラも協力した。純粋な欲求だった。ポケモンのことをもっと知りたい。ポケモンはなぜ生まれたのか、どこから来たのか、そしてどこへ行くのか。彼らにとって生活のパートナーを理解するための、あくまでポジティブな感情に満ちた探求だった。

     そしてカツラとフジの二人は、南アメリカのギアナへポケモン研究の遠征に赴いた際に、世紀の発見に成功する。

     普通のポケモンとは明らかに違う、はっきりとした形の手足と尻尾、そして流線型のフォルム。薄い桃色の光沢ある肌。羽を持たずに滑るように空を自在に飛ぶポケモン。

     紆余曲折の末そのポケモンの捕獲に成功した二人は、研究所でその生体を調べ、このポケモンが非情に特異な遺伝子の特徴を持つポケモンだということを解明した。

     まるで全てのポケモンのコピー、まるで祖先。発見されていたあらゆるポケモンの遺伝子配列データを持つこのポケモンを、フジは自然界では到底ありえない個体として突然変異体(ミュータント)、ミュウと名づけた。

     カツラを含めたあらゆるグレン島の研究者がこのポケモンに熱中した。あらゆる技を覚え、しかも高水準でこなすことができる。火を吐き氷を作り植物を生み出すポケモンなど、夢を見ているようだった。

     時が経つとある日、ミュウは子供を生んでいた。元々妊娠していたのかどころか、オスかメスかもわからなかった研究員達にとっては、意図せず大量の黄金を掘り当てた炭鉱夫よりも幸福だったに違いない。

     ミュウの子。名付けられた名はミュウツー。

     しかし、過ぎた幸運は諸刃であることを、彼らは身を持って思い知ることになる。

     ある日ミュウの子の処遇を聞いたカツラは、フジに激昂した。

    「あの子の遺伝子を操作する!? 正気かフジ!!」

    「正気さカツラ。あのミュウの子だぞ。我々が今まで培ってきた遺伝子研究を活かす時が来たのだ! 俺たち皆の力を合わせれば、誰も見たことがない最高のポケモンを作り出すことができる!」

    「馬鹿を言うな! ミュウツーは命あるポケモンだぞ!? その遺伝子を身勝手にわれらが操作するなど……!」

    「カツラ。俺達は誓ったはずだ。ポケモンの全ての謎を解き明かす。この機会を逃してどうする!? ポケモンの出産、次代への継承! 遺伝子の変遷! その全ての謎の答えの扉がミュウツーだ! カツラとてわかっているはずだ。ミュウは二度、三度として捕まえられるようなポケモンではない。我ら研究者がこの機を逃してどうする!? それとも、今更生命への冒涜だとでも抜かすきか? お前だってポケモンに使う薬の臨床実験がいかにして行われているか、知らないはずがあるまい! それと違うとでも言う気か……!」

    「……それは……!」

    「とまるなカツラ。俺達はどこまでも進むんだ。ポケモンの謎を解き明かすために……!」

     カツラは己に沸き起こった道徳観念を胸の奥にしまい込み、無視した。

    (……フジの、言うとおりかもしれない。我らの研究は、全てのポケモン研究者たちにとっての悲願だ。もしミュウの秘密が解き明かせれば、ポケモン研究は10年、いや100年進むと言っても過言ではない)

    264 = 262 :

     ミュウツーは日に日に成長していった。

    「すごい……! ミュウツーのサイコキネシスはフーディンの10倍の数値を記録しています!」

    「ミュウ程多くの技は覚えられないけど、自己再生能力も耐久性も他のポケモンと段違いだ。ミュウツーに勝てるポケモン等存在しない!」

     フジを含めた研究者たちが口々に己らの功績を褒め称え合う。ミュウツーのあるゆるポテンシャルをテストし、実験が終わればすぐに冬眠状態に入るミュウツー。

     カツラは、専用の貯水槽の中で眠るミュウツーの姿を見る。親のミュウとはかけ離れていた。

    (……これでいいのだ。ポケモンの持つ可能性。その解明は確実に成果が出始めている。ポケモンの謎を解き明かす事ができれば、お前も自由になるだろう。それまで、付き合ってくれ)

     しかし、ミュウツーの成長はある日を境に下り坂に入った。あらゆる能力の数値が下降していき、ミュウツーの姿も日に日にやせ細っていく。

     しかし逆に、貯水槽にいるミュウツーへの実験は熾烈を極めた。

    「なんだこの数値は、もっと投薬を増やせ!」

    「やめろフジ! これ以上投薬すればミュウツーが死んでしまうぞ! あんなに苦しんでいるのにわからないのか!!」

    「何を言っているカツラ! 計器の数値はまだ充分に余裕がある! かまわん! 投薬を増やせ!!」

     そうフジが言った時、貯水槽がバラバラに砕け散った。ミュウツーが雄叫びを上げながらあらゆるエスパー能力を発現させさせ、壁をずたずたに引き裂いていく。

    「!? 鎮静剤を!! 早く!」

     鎮静剤を打たれたミュウツーは、すぐに眠りについた。

     それからミュウツーの力は飛躍的に上がった。しかし、制御が効かない。あらゆる実験器具と拘束具が破壊され、研究員にも負傷者が出る始末。

     フジとカツラは研究者ではなく、いつの間にか暴れる囚人を押さえつける看守になっていた。

    「……どうすれば、どうすればいい! あんなポケモン制御できるわけがない! あれが世に出てしまえば、大変なことになる! 我らは……怪物を創りだしてしまった……」

    「フジ……」

    265 = 262 :

     そしてその日は、程なく訪れた。

    「ミュウツーのサイコキネシス! 止まりません!」

    「鎮静剤の投与を増やせ!! ありったけの鎮静剤を……!!」

    「もうやってます!! ああ!」

     何重にも付けられたミュウツーの拘束具にひびが広がっていく。極めつけは、研究者の壁に風穴を開けて侵入してきたミュウだった。

     ミュウがサイコキネシスで、ミュウツーの拘束具を破壊していく。

    「ミュウがなんでここに!! 別棟で隔離していたはずだ!!」

     カツラは、ようやく悟った。

    「……子供を、救いに来たのだろう。俺達はここまでだフジ。全員研究所から避難しろ! サイコキネシスに巻き込まれるぞ! ウインディ!」

     カツラがウインディを出して、近くにいた研究者達を乗せていく。

    「やめろカツラ! 俺達は、俺達は……!!」

    「見ろ、フジ。私達は、間違っていたのだ……」

     嵐吹き荒れる中、ミュウとミュウツーが互いへ手を伸ばしていた。ミュウツーの瞳には、雫が溢れいてる。

    「駆けろ! ウインディ!」

     カツラ達が研究所から脱出したのと、同時に、研究所から天へ光の筋がのび、瓦礫と化した研究所と共に天へのぼっていく。

     光の中では、ミュウとミュウツーが笑顔で手を合わせている。

     その光景を、フジとカツラは様々な感情とともに見上げていた。

     フジは地面へと跪き、くぐもった声で涙を地面に落とす。

    「カツラ……俺は……俺は…………!」

    「フジ……」

     ミュウとミュウツーの研究は頓挫した。一部の研究員はグレン島でなおもポケモン研究を続けたが、カツラはポケモントレーナーとしての道を歩み、フジは何処かへと姿を消した。

    266 = 262 :

    今日はここまで。明日でグレンタウン編終了の予定です。

    268 :

    ハナダのどうくつにいるのかな?

    269 = 262 :


    「あの、すいません」

    「!?」

     カツラが写真を眺めていた時に、ドアを無くした入り口からひょっこりと顔を出す一人の少年。レッドだった。

    「ジムリーダーのカツラさん……ですよね。あのジムの方に頼まれて迎いに来たんですけど……」

    「おお、すまんな!」

     カツラは明るくひょうきんな声を出しながら、写真を机に置き直す。

    「おや、君は……レッド君かな?」

    「え!?」

    「他のジムリーダーの面々から噂は聞いておるよ! 随分と熱いポケモントレーナーがいるとな! いかにもわしが炎のジムリーダーカツラ! わざわざ迎えに来てもらってありがとう!」

    「いえ。こちらこそ……あれ、その写真は?」

    「ん……ああ……古い写真だよ」

     レッドが部屋に入り、机の上の写真に近づいていく。遠目にだが、レッドはその写真の人物に見覚えがある気がした。

     カツラは一瞬、その写真を胸にしまおうかと思ったがやめた。自分が犯した罪を、隠すような気がして。

    「……これは、カツラさん? す、すいません!」

    「はっはっ! 昔はふさふさだったんだがのう!」

     カツラは気にした様子もなくからりと笑う。しかし、レッドはカツラと肩を組んで笑顔でいる隣の人物の方が気になった。

    「あれ、これってまさか……フジ老人? 似てるけど……」

    「な!?」

     幾年も出してなかったカツラの驚きの声。カツラはあんぐりと口を空けたあと、レッドへ思わず詰め寄る。

    270 = 262 :

    「レ、レッド君!? フジを知っておるのかね!?」

    「え! ええ。シオンタウンでお世話になった方です。今はシオンタウンでポケモンの保護活動を行ってて……」

    「……!!」

    (あの、フジが……、……ポケモンの保護活動……)

    「そうか……おっと、すまんな! わしとしたことが取り乱してしまった」

    「フジ老人とは、仲がよかったんですね」

     レッドが写真を見ながら言う。

    「ああ。共にポケモンの研究に明け暮れていた仲じゃ。そうか、フジも元気にやってるようで何よりじゃ」

    「ここの研究所ってことは……カツラさんも、ミュウの研究を?」

    「!? レッド君! どこでそれを!?」

    「え!? ここの地下に入っていったら、研究資料の一部が残ってて……」

    「むむ……そうか、地下か……あそこは人が寄り付かんから、すっかり忘れておったな! うむ。それを見てしまったなら色々と気になるじゃろう。ジム戦の前に少し昔話をしようか」

     よっこいしょと、カツラは瓦礫の上へと座る。その瞳はサングラスに隠れてうかがい知れない。

    「かつてフジと私は、共にポケモンの研究をここでしていた。まだオーキド博士が一大発表をする前、ポケモン図鑑のずの字もない時代だ。わしとフジはポケモンが大好きでな。そりゃあもう没頭した!」

     カツラの声は明るい。レッドも貴重な話を聞いている事を自覚して、テンションが高まる。

    「研究を続けるある日、わしとフジはとある新種のポケモン、レッド君が見つけた資料にも書かれているミュウを発見した。とてもめずらしい特徴と、神秘的な魅力を持ったポケモンだった……」

     カツラは一旦そこで言葉を止め、レッドへ問う。

    「時にレッド君。君はポケモンと接するときに一番気をつけていることはなにかな?」

    「気をつけていること……友達になりたいっていう、想いですね。こちらから心を開いて、相手を理解したい。そうだ」

     レッドは気づいたようにモンスターボールを放り、ガラガラを出現させる。

    「この子も、元々はフジ老人が保護していた子なんです。親をなくしたショックで塞ぎこんでいて、俺はこの子の力になりたかった。一緒に旅を続けてきた今では心を開いてくれて、大切な相棒になりました」

     レッドがガラガラへ軽く拳を突き出すと、ガラガラも鳴き声を上げて拳を突き合わせて応じる。

    (親をなくしたショック……)

     カツラの脳裏に浮かぶ2つの映像。拘束具につつまれたポケモン、そして、親子の再会を見て地面に突っ伏した友人。

    271 = 262 :

    「そうか……フジが親をなくしたポケモンを……」

    「ええ。フジ老人には、ポケモンと接する人として、大事な事を学びました」

     レッドはガラガラを撫でながら笑顔で言う。

     それ見たカツラの心に、今まで感じたことのない感情が沸き上がっている。

    『今更生命への冒涜だとでも抜かす気か?』

    (……フジ………………)

    「カツラさん?」

    「お!? はっはっ! いやすまん! まだまだぼける年齢ではないと思っていたがいやはや……。話の続きだったな、ミュウのこと」

    「はい!」

     レッドが目をきらめかせながら頷く。

    「ミュウは凄かった! なんとあらゆる技を覚えたのだ! 火をはき水を出し岩も草も出現させる! おまけにメタモンのように変身だってできてしまう!」

    「おお……!!」

    「あらゆるポケモンの常識を覆したポケモンだった。しかし、強い力と押せばでる新たな知識に……わし達研究員は大事な事を忘れてしまっていた」

    「大事なこと……?」

    「さて、レッド君、これはクイズとしておこう。わし達がミュウを研究する上で、忘れてしまっていたことはなにか……、解答はジム戦の後に聞こうかの!」

     カツラがウインディに跨がり、「先に行っておるぞー!」と叫びながらジムへと駆けていく。レッドも慌ててピジョットを出して脚に捕まり、カツラとウインディを追いかけていった。

    272 = 262 :

     グレンジム。そこは炎タイプのエキスパートが集うクイズの館。

    「しねしねこうせん……? えっと"いいえ"で」

     レッドが恐る恐るドアの電子ロックに表示されたクイズに答える。

     すると、ピンポーンと小気味良い音がなった後、ジムの最奥にあるバトルスペースが姿を表した。

     奥に待つは、炎のジムリーダー。

    (さてと!)

     カツラは大きく息を吸い込む。そして、

    「うおおーす! 待っていたぞレッド君! 火傷治しの準備はいいかあ!! 熱い戦いにするぞ!」

     カツラの気合のはった宣誓に、レッドも気を引き締め、そして笑顔で応えた。

    「はい! 全力で行きます!」

    「炎を司るジムリーダー、カツラ!」

    「マサラタウンのレッド!」

    『バトル開始い!』

    「行け! ギャラドス!」

    「行け! ギャロップ!」

    「バブルこうせん!」 

    「ほのおのうず!」

     ギャラドスのバブルこうせんをギャロップがなんとかほのおのうずで防ごうとするが、やはりタイプ相性の差は大きかった。

    「むむ! これはまずい! ギャロップ!」

    「ヒヒーン!!」

     炎が水をかぶれば蒸気が生まれる。ギャロップは自身の体から溢れる炎をバブルこうせんに放射して、蒸気の目眩ましを作った。

    「しまった!」

     レッドは失策を悟る。あたりが蒸気に覆われ一時でも姿を見失えば、ポケモンの中でも随一の脚を持つギャロップを捉えるのは非情に困難。

    「ギャロップ、ふみつけ!」

    「ギャラ!?」

     ギャロップは蒸気の中バブルこうせんを迂回して駆けて飛び上がり、ギャラドスの頭を正確に踏み抜く。

    「ギャラドス、かみつく!」

     ギャラドスがすぐさまギャロップに牙を剥くが、その時にはギャロップは蒸気の中へ消えている。

    「今はがまんだ! ギャラドス」

    「もう一度だギャロップ! ふみつけ!」

     ギャラドスは長いからだを縮めて急所を覆い、ギャロップのふみつけに耐える。

    (ふむ、蒸気が晴れるのを待っているのか。だが、そうはいかない。その前に勝負を決めさせてもらおう!)

    「ギャロップ! つのドリル!」

     動かないギャラドスに対し、ギャロップは大技に入る。

    (それを待っていたんだ!)

    「ギャラドス! がまんを解放しろ!」

    「なに!?」

     雄叫びを上げ尻尾をギャロップ目掛けて旋回させるギャラドス。がまんによって蓄積されたパワーは、角を構えて突進体勢に入っていたギャロップを横殴りにして吹き飛ばした。

    『ギャロップ! 戦闘不能!』

    273 = 262 :

    「これは一本取られた! 戻れギャロップ。行け! キュウコン! あやしいひかり!」

     キュウコンが出始めと共に放ったあやしいひかりはギャラドスに命中し、ギャラドスは敵のいない場所を尻尾で意味なく叩き始める。

    「混乱してしまった……!?」

    「ここは力押しだキュウコン! はかいこうせん!」

     キュウコンの口から高圧縮されたエネルギー波に、さしものギャラドスも耐えられなかった。

    『ギャラドス! 戦闘不能!』

    「なんて威力だ……! でも決して俺達は怖気づいたりしない! 行け! ラッタ!」

    「ほう……! キュウコンは並大抵の攻撃では潰れないぞ! ラッタでどう戦う!?」

    (キュウコンは技の反動で動きが鈍っている。仕留めるなら今!)

    「ラッタにはラッタの戦い方がある。行け、いかりのまえば!」

    「むお!?」

     ラッタがキュウコンの体のつぼを正確に攻撃する。痛みを感じずにはいれないつぼを強烈な前歯で挟み込み、どんなポケモンの体力も半減させてしまうラッタの特有技。

    「くっ! かえんほうしゃ!」

    「ラッタ! ひっさつまえば!」

     ラッタは火炎の中を猛進し、キュウコンの体を正確に攻撃して通過する。そして、

    「でんこうせっか!」

     即座に反転して背中に一撃を加えた。

    『キュウコン! 戦闘不能!』

    「見事な連携だ! 一朝一夕のものではないな?」

    「ラッタも大事な相棒ですから。よくやったなラッタ、戻れ。そして! 行け! ガラガラ!」

    (相棒か……)

     付き合い方が違えば、あの二匹ともそんな関係になれたのだろうか。

    「……行くぞレッド君! わしの最後のポケモン! ウインディ!」

    274 = 262 :

     カツラの相棒ウインディ。その速力はギャロップに勝るとも劣らない。

    「行くぞ! 突進!」

    「ホネこんぼう……はっはやい!?」

     レッドもガラガラも、ウインディの速力に驚いた。即座に眼前に迫ったウインディの突進を、ガラガラはなんとかホネこんぼうでガードする。

    「くっ距離をとれ、ガラガラ!」

    「甘い! 大文字!」

     距離を取ると今度はウインディの口から極大の炎が噴出する。当たれば体力が満タンだろうとひとたまりもない。

    (とった!)

     カツラは確信した。レッドは状況に反応しきれていない。しかし、

    「あなをほる!……と、ナイスだガラガラ!」
     
    「な、なんと!」

     レッドの技の叫びより数コンマ早く、ガラガラはあなをほるを実行して大文字を避けた。

    (決してレッド君が後付で叫んだのではない。レッド君とガラガラの考えがシンクロしていた! まだほんの少年に、こんな事ができるのか……!)

    「だがレッド君! ウインディは鼻が利くぞ!」

     ウインディはガラガラが出てきた瞬間に大文字の餌食とする気だ。

    「それはどうかな……!」

    (ほう……! いい顔をするではないか!)

     ウインディがガラガラを仕留める確率はもう極めて高い。しかし、カツラは決して闘志の衰えないレッドの顔を見て、期待した。

     そして、フィールドの一部の場所の土が盛り上がり、そこから影が飛び上がる!

    「大文字!!」

     大文字は飛び出した影を正確に捉えた! が……。

    「あれはホネこんぼう!? しまっ……」

     ウインディの顎が突如として上空に跳ね上がり、ウインディがひっくり返ると同時に素手のガラガラがフィールドに着地した。

    『ウインディ、戦闘不能! 勝者、挑戦者レッド!』

    275 :

    「やったぞ! よくやったな! ガラガラ! おわっ!?」

     ガラガラがレッドに向けて駈け出して飛びつき、レッドはそのまま押し倒される。しかしすぐに聞こえてくるレッドの笑い声。

    「お見事だレッド君。ガラガラのあの動きも、偶然ではなさそうだな」

     レッドがガラガラをあやしながら答えた。

    「ほのおタイプの技を駆使してくる相手なら、やっぱり地面技は必要になるって考えてたんです。だけどあなをほるだと、潜った後に待ち伏せされやすいから、なんとか注意をひく方法ないかって、ガラガラと一緒に編み出したんです! うまく行って良かった……! はははっ!」

     ガラガラとレッドが共に掴んだ勝利で喜び合う。

     人とポケモンが抱き合い、最高の信頼関係を築いている姿。

     カツラはかつての自分たちを幻視する。

     カツラ、フジ、ミュウ、ミュウツー。もし、自分たちが付き合い方を間違えなかったら……。

    (抱き合い、笑い合うことも、できたのかな……。ポケモンと人との絆を、忘れさえしなければ……)

    「おっと、ガラガラ!?」

     すると、ガラガラはレッドから離れ、カツラの元へてくてくと歩いて行く。

    「むっどうしたのかね?」

     ガラガラは手を差し出す。カツラは驚いた。ポケモンが、互いの健闘をたたえ合って、手を差し伸ばすとは。

    「あっ! すいません! ガラガラには相手に敬意を示すようにって教えてたんですけど、教えてた俺が先をこされちゃだめですね。勝負ありがとうございました」

    「……ふふ、うむ! 忘れなければ大丈夫さ。こちらこそ素晴らしい戦いをありがとう。レッド君、そして、ガラガラ」

     カツラがガラガラの小さな手を取り握手する。

    (このガラガラは元々、フジが……。人は、変われるんじゃな。いやはや、わしも負けてられんな!)

    「さあ、レッド君、これぞクリムゾンバッジじゃ。受け取ってくれ」

    「はい! ありがとうございます! あっそうだカツラさん、その、すいません、クイズの答えなんですけど、実はどうしてもわからなくて……カツラさんやフジ老人が忘れていたことって……?」

    「安心しなさい。レッド君は答えをちゃんと知ってるよ。ここにね」

     カツラはレッドの心臓の位置を拳で軽く叩く。そして、レッドに喝采した。

    「さあレッド君、残るジムは一つ、バッジ8つを集めたその先に待つ事はなにかな?」

    「……セキエイ高原、ポケモンリーグです!」

    「大正解! もう目と鼻の先だ! 行ってらっしゃい! 炎のトレーナー!」

    「はい!」

     レッドはまた元気に旅立っていく。

    「……さて、古い友人に会ってくるとするかな!」

     カツラもまた、晴れやかな想いを手にして。

    276 = 275 :

    今日はここまで。明日も更新予定です。

    >>267
    ゲームのポケモンやしき内で見つかる資料と写真を元にしました。
    私はミュウツーはアニメのイメージが強かったんですけど、ゲームだとミュウと親子だったんですね。

    >>232
    以前のっとりで書いた物があったのでこちらもどうぞ。エロ注意。

    ミニスカート「長旅で溜まってるんでしょ…いいよ///」

    277 :

    乙。変に鬱だったりしない爽やかな展開で見てるこっちも気持ちよくなれる

    278 :

    ガラガラ△

    279 :

    このssのガラガラがイケメンすぎる

    280 :

    >>1です。
    本日はお休みします。明日も厳しいかも……繋ぎに1レスぐらいのヒロイン中心短編入れるかも。

    281 :

    無理はしないでねー 乙

    282 :

    すいません。今日も本編お休みします。
    変わりに外伝にもならないネタレス投稿。

    以下ナツメの下品ネタなので、本編の雰囲気を失いたくない方はご注意ください。

    283 = 282 :

    レッドがセキチクジムを突破した直後の話。

    サファリーゾーン! 超!エキサイティン! なポケモンゲットツアー施設を訪れたナツメとレッド。

    その5分前。自分の手持ちのポケモン達と相談するナツメ。

    「レッドと二人きり……一気に二人の仲を詰めるなにかいい案はないかしら」

    (欲望を開放するのです……)

    「ちょなにをするのスリーパーそれさいみんじゅつじゃないやめ」

    「はぁはぁ。ありがとうレッド。はぁんふ。私どうしてもポケモンがいない施設って心細くって。すううぅはぁああ」

     ナツメがレッドの腕に抱きついていた。ていうかもうレッドの半身に抱き着いている。

    「え、えっと。構いませんよ。俺も一人で回るより二人のほうが……ってナツメさん? 息尋常じゃなく荒いけど大丈夫ですか? 顔も赤いし……」

    「大丈夫よ。レッドもバトルで興奮すると息が荒くなるでしょ? それと同じ(はあレッドの匂い最高イイ匂いレッドもちょっと顔赤くなっててかわいいでもバトルになるととても凛々しくてああ腕だけじゃ我慢できないこのまま茂みに押し倒してレッドに大人の階段をのぼ)」

    「あっ! 野生のケンタロスおわ!?」

    「きゃあ! あ!? ごめんなさいレッド。驚いた拍子にあなたに抱きついてしまって。あなたと私って抱きあうとすっぽり合わさってちょうどいいわね」

    「すっぽり……? あっ野生のラッキーはぶっ!?」

    「きゃあ! あっ!? ごめんなさいレッド。驚いた拍子に押し倒してしまって。おまけにあなたの首に私の唇が着いてしまったわ。怪我はない?」

    「え、ええ。大丈夫ってあれはミニリュうううう!?」

    「ああっ!? ごめんなさいレッド。驚いた拍子にあなたのズボンとパンツを下ろして股間に顔をうずめてしまったわ。お詫びに私が今履いてるパンツをレッドに」

    「いっいいです! 事故だってわかってますから! あ、時間切れ……」

    「ふふっ。それじゃあ再チャレンジしましょ。レッドがここのポケモン制覇するまで私が代金払うから。あ、レッドいいこと考えたわ。お互い裸で抱き合いながらサファリーゾーンを回るの。そしたらお互い身軽になる上後ろをカバーできてポケモンを見逃さずに」

    「あなたさっきその子のスボン下ろしてたわよね? ちょっと署まで来てくれる?」 

     人が逮捕される瞬間と容疑者を弁護する経験を一度に体験したレッドだった。


    (レッドの……あそこ……)

     正気に戻ってからも変に意識してしまい、どんどんレッドへの想いが斜め上に向かうナツメだった。

    284 :

    ナツメェ…

    285 :

    エリカさんこっちです

    286 :

    なんてこったい

    287 :

    ロリーパー何やってる

    288 = 282 :

     マサラタウン。そこは草原と吹き抜ける風、小川のせせらぎ、小型ポケモン達の可愛らしい声が響くのどかな場所。
     
    (これが、俺の町)
     
     レッドは久々に見る光景が妙に美しく見えた。見慣れたはずの景色。生まれいで育った大地。

     グリーンと共に駆けまわった場所。

     レッドは町に入り、近くに見える自宅とポケモン研究所を見、その間の道と広場を見た。

     今よりも頭一つ小さかったレッドとグリーン、二人が走っていく姿を幻視する。

     グリーンが少し先を走り、レッドは息を切らせながら必死に追いすがる。

     憧れた。敗北した。何度も泣いた。何度もあきらめかけ、そしてふてくされた。

     しかし、その背中を見失ったことはない。

     レッドは自宅へと歩き、そのドアノブを取る。

     母がいるだろう。色々と話したいことがある。旅で出会った人たち。時には美しき、時にはたくましいポケモン達。

     共に駆けた自分と一心同体の仲間達。

     まだ旅が終わったわけでは決してないが、それでも逸る気持ちでこの言葉を発したい。

    「……ただいま!」

     驚きと喜びの入り混じった声で、レッドは出迎えられた。

    289 = 282 :

    今日はこれだけです……。明日から本格的に更新します。

    290 :

    グレンまでいってマサラに戻るあの感じ最高の演出だと思う

    291 :

     ニビシティ。そこには固い意思を持ち合わせたジムリーダーがいる。

     ニビジム内の岩に囲まれたバトルスペースの中で、今日もタケシの熱烈な教導が続く。

    「そうだ!! ポケモンの行動の継ぎ目を見逃すな! 命令をこなしきったらすぐに次の判断をくだせ! 矢継ぎ早に命令しても混乱させるだけだぞ!」

    「は……はい!」

     タケシがイワークを操りながら、ジム所属の若きたんパンこぞうとイシツブテに声を飛ばす。

     イシツブテがイワークのたいあたりの猛攻を耐える。イワークは息切れしたのか、動きが止まった。

    「今だ! イシツブテ! がまんを開放しろ!」

     イシツブテの渾身の拳がイワークのボディにヒビを入れる。

    「良い攻撃だ! だが俺もまだまだ負けないぞ!」

    「はい!!」

    「イワーク! いわおとし!」

     レッドとの戦い以来、ジム所属を希望するトレーナーが殺到し、タケシは忙しい毎日を送っている。しかしその日々の中に、かつてタケシが持っていた戦うことへの疑問はない。

    (俺はポケモン達が好きだ。ポケモンバトルはポケモンと息を合わせ困難に立ち向かい、素晴らしい勝利を分かち合える舞台。レッド君、君は俺に気づかせてくれた)

     タケシはカントー地方で誰よりも、岩タイプのポケモンと息を合わせられる。

    (その素晴らしさを、俺は多くの人に伝えたい。強さを望むポケモントレーナーの手助けをしたい。その先にこそ、俺と俺の相棒達が望む強さがあると、今なら信じることができる!)

    「さあ、勝つぞ! イワーク!」

    「グオオオオオ!!」

     どんな相手でも全力を尽くし、真の強さへの道を教導するタケシ。ニビジムは今日も、固い闘志の声が響き渡っている。

    292 = 291 :


     ハナダジム。ポケモン達が自在に泳げるバトルフィールドのプールに、カスミの怒号が飛ぶ。

    「サクラ姉ぇ!! 腰が引けてる! お姉ちゃんのヒトデマンは臆病なんだから、お姉ちゃんの腰が引けてたら余計に逃げまわっちゃうでしょ!」

    「そ、そう言われてもお……」

     カスミのタッツーが水鉄砲で猛攻をしかけ、カスミの姉のサクラが繰り出したヒトデマンがフィールドを逃げまわっている。

    「私が帰ってきたからサボれるなんて思ったら大間違いよ! 私が家を飛び出す前はあんなにまじめだったくせに……!」

    「だ、だって……」

     ジムリーダー姉妹の次女アヤメと三女ボタンも戦々恐々で見守っている。

    「だってもなにもない! サクラ姉が終わったらアヤメ姉とボタン姉だがんね! ほらサクラ姉、ヒトデマンをよく見て!」

    「よ、よく見てって……もう私のヒトデマンに戦う意志は……」

    「ち・が・う! ヒトデマンは臆病だけど戦う意志を失ってなんかないわ! 直接的な接触を避ける分、普通のヒトデマンよりも素早い動きができる。お姉ちゃんがそれを活かしてあげるの!」

    「……あ! なるほどね……今よヒトデマン! スピードスター!」

     ヒトデマンがその速力を生かし、避けながらスピードスターを放出しタッツーの猛攻を止める。

    「やった……!」

    「ふふ、やればできるじゃない! ほら、ジムリーダーは私達四姉妹なんだから!」

     カスミの顔が笑顔に変わる。カスミが飛び出す時にトレーナーとしての道を説き、レッドとの戦いも見守った三女のボタンがカスミを見て誇らしげに言う。

    「ふふ、カスミもジムリーダーとしての貫禄がでてきたわね」

    「ボタン、昨日カスミに6タテされてたわよね」

    「い、言わないでよ……アヤメ姉も一緒じゃない……」

    「……うん。でもせめて、カスミの姉って胸張って言えるぐらいの実力は身につけたいわね」

    「……ええ!」

     ハナダの4姉妹、それぞれの実力は違えど、4人の揺らいでいた目標が重なってきている。

    (レッド、あなたはきっと凄いトレーナーになる。でも私だって、すぐにあんたに見劣りしないトレーナーになってみせるから!)

    「ひるまないでタッツー! あなたのいじっぱりな所、見せてあげなさい!」

    「タッツゥ!」

     カスミの笑顔の激励にタッツーが応える。

     ハナダジムの末妹が、女の子の魅力とトレーナーとしての素晴らしさを兼ね備えた少女として有名になるのは、そう時間がかからないだろう。

    293 = 291 :

     クチバシティのマチス。クチバシティジムリーダーにして、ポケモンだいすきクラブ会員。そして、定期的に行われる『ポケモンとの暮らし』無料セミナーのメイン講師。

    「マチスおじさん! ピカチュウってどんな遊びをしてあげればいいのかな?」

     ジムで行われるセミナーには老若男女問わない多くの人たちが、パートナーのポケモン達を出して情報交換をしている。

     そんな中でピカチュウを従えた男の子が、ライチュウを従えたマチスに質問した。

    「ピカチュウは電気を使った遊びがダーイ好きネ! 電気タイプのポケモン用の遊び道具があるから、ピカチュウが気に入るのを選んであげるネ!」

    「わーありがとー!」

     マチスがポーチから様々なグッズを取り出して、男の子に使い方を伝授していく。ピカチュウが気にいるものが見つかったのか、男の子はマチスに礼を言ってピカチュウと駆けていった。

     すると入れ替わりで、今度はサンドを連れた老女がマチスに話しかけてきた。

    「マチスさん、実は私の家に先日強盗が入ってね……」

    「オーノー!? そんな!? ミー知らなかったね! 怪我はなかったノ!?」

    「ええ、私が襲われそうになったところを、うちのサンドが飛び出して見事強盗を撃退してくれてね。マチスさんがセミナーでサンドを鍛えてくれたおかげだよ。本当にありがとう……!」

     老女がマチスに深々と頭を下げる。

    「オー!! 頭を上げて! ミーが少しでも役に立てたのなら、とってもハッピーネ! サンドとお婆さんの間に強い絆があったからこそネ!」

     マチスがその外見に似合わず、やんややんやと笑顔でサンドを称える。

     そんなマチスにまた、ポケモンだいすきクラブの会長が声をかけた。

    「マチスさん……。いつもありがとう。皆大切なパートナーを守るだけでなく、さらに強い絆を繋ぐことができた。あなたの協力のおかげじゃ」

    「オー! ミーもポケモンだいすきクラブに入れてもらって嬉しかったネ! ポケモンの事いっぱい話せる仲間ができてハッピーネ! でもそれは……」

     マチスが、窓に切り取られた海の景色を見る。

    「ミーと会長サン達を繋げてくれた、ボーイの事も忘れちゃいけないヨ」

    「……ああ。もちろんじゃ」

     マチスの脳裏に浮かぶ、マチスとレッドの戦い。大歓声の中、フシギソウの勝利とともに両の拳を天に突き上げたレッドの姿。

    「ユーならきっと、ベストポケモントレーナーになれるね……」

     マチスの呟きの相手が誰に向けられたものなのか、会長にもすぐわかった。

    (レッド君、君がポケモントレーナーとして、海の向こうまで聞こえるような活躍ができるよう、わしも応援しているぞ)

     会長の想い。マチスの期待。レッドの背を押す目に見えない力が届くのは、もうすぐだった。

    294 = 291 :

    「挑戦状?」

     ナツメはヤマブキジムの最奥にて、ジム所属のトレーナーの知らせに疑問の声を上げた。

    「ええ、隣の格闘道場からです。トレーナー達で各自ポケモンを持ち寄り、ポケモンバトルの真剣勝負をしようと……」

    「……はあ。またヤマブキジムの称号をかけてとでも言う気かしら?」

     ナツメはため息を吐く。今日のヤマブキジムと隣の格闘道場はかつてヤマブキジムの座を争った(実際には格闘道場にジム認定の話は来てないが、妙に対抗意識を燃やした)間柄で、事あるごとにポケモンバトルを行っては、ナツメ達がエスパータイプのポケモンで追い返すのが常だった。

     それもシルフカンパニーの件で一時的に協力関係を結び、事件が収まってからは静かなものだったのだが……。

    「はあ、わかったわ。適当に人を集めて。場所はまた向こうでしょ? 今から行くから準備してと伝えて」

    「はい!」

    (もう、どうせ手紙を送ってくるならレッドがくれればいいのに。はあ……会いたいな……)

     ナツメが再びため息を吐きながら、手持ちのポケモン達の状態をチェックする。

     ほどなくトレーナーが集まり、皆隣の格闘道場へ移動した。ヤマブキジムで行わないのは、戦いで傷つくバトルスペースの補修費も馬鹿にならないからである。ジム戦でない限り、挑戦を突きつけた側が戦いの場所を用意していなければ、まず相手にしない。

     ナツメ達が入ると、格闘道場の空手王5人が正座して待ち構えていた。

    「ナツメ殿。挑戦を受けてくれたこと感謝する!」

    「さっさと始めましょ。誰から行くの?」

    「待ってくれ。我らが空手王五人衆、気合の音頭を入れるのを待って欲しい」

     空手王達が一斉に立ち上がり、それぞれ空手の型を取りながら叫ぶ。

    「せいっ! 我ら空手王! せいっ! 恥辱に塗れた敗北と嘘を拭うため! せいっ! 何者にも負けない強さを身につけるため! せいっ! 街を守り救ってくれた少年に心からの感謝と敬意を持って。せいっ!!」

    「……!」

     ナツメも驚く。空手王達が言う少年が誰のことがすぐにわかった。

    「せいやあ!! 我ら全員、全身全霊を持って、この勝負に勝つ!! 以上! 静聴、感謝する!」

    「……ふふ。随分な気合ね、だけど」

     ナツメとヤマブキジムのジムトレーナー達の瞳にも、戦意が灯った。あの日敗北し、そして一人の少年に心を奮い立たされ、再起を誓ったのはこちらも同じ。

    「ヤマブキジムのエスパーポケモン。気と心を兼ね備えた念力の妙技、見せてあげる」

     ナツメが微笑み、モンスターボールを構える。

    「行くぞ! 格闘道場師範、空手大王のノブヒコ!」

    「エスパーを司るヤマブキジムリーダー、ナツメ」

    『バトル開始!!』

    「行け! エビワラー!」

    「行きなさいフーディン!」

     ナツメは黒い長髪をなびかせながら、フーディンに手をかざす。

     負ける気がしない。別に相手を侮っているわけではない。自分の魂に誓った想いがあるから。

    (悪いけど、負ける訳にはいかないの。私がレッドともう一度戦う、その時までは!)

    295 = 291 :

     サイクリングロード。その一角で、バイクに跨がったパンクルックの男達が、皆愕然として頭を垂れていた。

    「嘘だろ……俺達サイクリングロード暴走団が全滅……!?、たった一人のトレーナーに……!」

     相対していたのは、元セキチクジムリーダー、忍者の末裔キョウ。時代錯誤の忍者ルック。

    「ファファファファ! お主らポケモンバトルの筋は悪くない。成る程、戦ってみなければ分からない事も確かにある」

    「くそっ……。嫌味はよせ! 俺達にもう戦う力はない。ジュンサーに突き出すなり好きにしやがれ!」

    「ファファ。もちろんお主らが犯した罪についてはジュンサー達に任せるとする。だがその先の道については、一つ助言をしておこう」

    「助言だと……?」

     スキンヘッドの男がキョウに問う。

    「ポケモンとの絆、貴様らが最初にポケモンと出会った時のことを思い出せ。またポケモンを持った時既に悪の道に染まっていたというのなら、今一度ポケモンと向き合い生き方を問うがいい。各地のジムリーダー達はどんなトレーナーが相手でも戸を開けている!」

    「ポケモンとの、絆……」

    「ファファファファ! それでも納得できないというのなら、このキョウがいつでも相手をしよう! 拙者は忍びはするが逃げも隠れもしない! ポケモントレーナーのキョウだ!」

     そう言ってキョウは橋から飛び降り、ゴルバットに肩を掴まれて飛んでいった。

     残されたサイクリングロード暴走団のメンバーが口々に隣の仲間に相談する。

    「おい、どうするよ」「俺はいやだぜ、ジュンサーに今更捕まるなんて!」「だけど、このままじゃあまたキョウに……」

    「俺は行くぜ」

     スキンヘッドの男が一人バイクのエンジンを入れる。別の仲間が焦った声で話しかける

    「おい! おまえ本気か!?」

     スキンヘッドの男は振り返らずに言った。

    「ああ。俺は二度も負けちまった。俺と俺のオコリザルはこんなタマじゃねえ。強くなるために、今まで腐っていた俺を、まずはマイナスからゼロに戻すためにな」

    『俺はマサラタウンのレッド。ポケモントレーナーです ポケモン勝負なら、いつでも受け付けます。……いい戦いでした』

    『このキョウがいつでも相手をしよう! 拙者は忍びはするが逃げも隠れもしない! ポケモントレーナーのキョウだ!』

    「ポケモントレーナー……そう胸を張って、名乗れるようになるためによ」

     スキンヘッドの男はその言葉を最後に、サイクリングロードを南へ疾走していった。サイクリングロード暴走団のメンバーも、様々な表情をしながらまた一人、また一人とバイクのエンジンを入れてその場を後にする。

     しばらくして、サイクリングロードにガラの悪い男はちょくちょくいるものの、ワイヤーを使った事故はめっきりなくなった。

     さらに時がたったのち、償いを終えた男たちがこぞってセキチクジムに挑戦し、アンズが突如として訪れた強面の集団に四苦八苦するのだが、大した話ではない。ポケモントレーナーとして、よくある日常だった。

    296 :


     シオンタウン。その町中の公園で、ニドリーノとコダックを放って町の子どもたちの遊び相手をさせている老人がいる。

    「あまり遠くへいっちゃいかんよ」

    「はーい!」

     よく晴れた日だった。老人は公園でかけ回る子供とポケモン達を眺めながら、木陰に覆われたベンチへと腰掛ける。
     
     ニドリーノとコダック。かつて飼い主に傷つけられ、そして捨てられたポケモン。今では笑顔を取り戻し、外に出て元気に遊べるまでに回復した。

     かつて人によって母を殺されたカラカラも、今はきっと元気な日々を送っているだろう。

     しかし、フジ老人には決して記憶から消えない暗黒がある。

    (ミュウ……ミュウツーよ…………)

     ただ、知りたかった。最初は純粋な欲求だったはずが、ポケモンを傷つけていることにすら気づかなかった。

     フジ老人はグレン島を去ってから、オーキド博士とタマムシ大学に働きかけ、ポケモンに使う薬の臨床試験についてポケモンの安全性を重視した決まりを全国に徹底させ、その後は傷ついたポケモン達を保護するポケモンハウスを設立した。

     それから四半世紀。

     多くのポケモンの心を回復させ、そして新たな旅立ちを見送ってきた今でも、胸に残る罪は決して消えてはくれない。

    (もう、会うこともないじゃろう。だが、もう一度会ってあやまりたい。わしの自己満足だとしても、わしが死ぬ前にもう一度……)

    「隣、よろしいですかな」

    「ええ、どうぞ」

     フジ老人の隣に初老の男性が座る。フジ老人と違い腰はまだ曲がっていないようだった。髭がなくきりりとした眼、側頭部に残った髪の白髪が、まだまだ現役と暗に言っているようだった。

    「よい笑顔をしたポケモンたちですな。あれはあなたの?」

    「ええ。あの子たちの笑顔に、わしも助けられていますよ」

    「なるほど……。全く、いい年の取り方をしているじゃないか。連絡ぐらいよこさんか」

    「え……?」

     フジ老人の隣に座っていた男性が、丸縁のサングラスを掛け、白い立派な付け髭をし、側頭部に髪が生えていたカツラをとる。つるりとした頭が光っていた。

    「カ……カツラ……!?」

    「まったく何年ぶりか忘れたぞ! フジ!」

    「カ……カツラ……。なんで……」

    「グレンジムでガラガラを伴ったトレーナーに出会ってな。話を聞けば、そのガラガラは親を殺された所をとある老人に保護されていたと言うではないか! ポケモンを大切に思う老人がどんな人か、会いに来たくなってな!」

    「……カツラ……わしは…………ただ……」

     フジ老人は眼を手で覆い、声を震わせた。カツラは友人に語りかける。

    「罪滅ぼしなんて言うまいぞ。お前は昔からポケモンが好きすぎるポケモン馬鹿ということは知っている! それに、あの日の罪はあの場にいた全員が背負い込んだ物だ。一人で全部背負うでない!」

    「カツラ……」

    「話したいことがたくさんあるぞ。時計の針は元に戻らんが、それでも前に進んだフジの話を是非聞きたい。もちろん、こちらのことも話したい。どうかな」

     カツラは手を差し出した。その手は、どんな時でも共にポケモンの未知を求めた、親友の手。

    「ああ……そうか……。そうだな……。そうするとしようか……!」

     フジ老人は涙を拭うのを忘れ、カツラと握手する。一人の少年がガラガラを救い、また一人の少年がガラガラを伴って旅立ち、そしてここに過去の絆を導いてくれた、今一度繋げてくれた。その全てに感謝しながら。

    297 = 296 :

    今日はここまで。明日も更新予定です。

    299 :

    全米が泣いた

    300 :

    ぱねぇ


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