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    元スレエリカ「あなたが勝つって、信じていますから」

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    101 = 99 :

    「話の続きじゃったな。レッド君は、ポケモンタワーには行ってみたかな?」

    「いいえまだ。ポケモンタワーとは一体どういうところなんです?」

    「ポケモンタワー、あれはポケモンたちのお墓じゃ。死んだポケモンたちを埋葬し、安らかな眠りにつく場所なのじゃ」

     レッドが家の窓からポケモンタワーを眺める。

    「そうなんですか……。それで、グリーンは」

    「事の始まりは、あのポケモンタワーをロケット団が占拠したことから始まる」

    「ロケット団……! でも、ポケモンのお墓を占拠って……?」

    「狙いはわしじゃった。昔わしはポケモンの研究に携わっていてな。ロケット団はわしの知恵を必要としていたのじゃ。しかし愚かにもわしがそれに気づいたのは、占拠をやめるよう単身乗り込み、奴らに捕らえられた後じゃった……」

     遊んでいたニドリーノとコダックが、部屋の隅に置かれていたぬいぐるみに近づく。いや、ぬいぐるみではなかった。

     部屋に入ってからぴくりとも動かなかったため、レッドは勘違いをしていた。

     茶色い小さな体に、頭に被ったポケモンの頭部の骨、そして手に持つホネこんぼう。

     そのポケモンはニドリーノに小突かれて遊びに誘われていたが、悲しげに声を出すだけだった。

    「カラァ……」

    「あのポケモンは……?」

    「ポケモンタワーには野生のポケモンが住み着いていてな。その内の一匹のカラカラじゃ」

     カラカラはニドリーノに応えない。しばらくすると、また部屋の隅で背を向けて動かなくなった。

    「……あのカラカラの親のガラガラは、ロケット団がシオンタワーを占拠した時に、奴らに殺さたんじゃ」

    「!」

    102 = 99 :

    「わしはそれを見ていることしかできず、挙句の果てに捕らわれて奴らに連れて行かれるのも時間の問題じゃった。しかしそこで助けてくれたのが、マサラタウンから来た少年、グリーン君じゃった」

    「あのグリーンが……」

     レッドはグリーンとはトキワシティで戦って以来会っていない。ポケモントレーナーとして旅は続けているだろうと思っていたが、まさかこんな人助けをしているとは……。

    (……いやグリーンだって、目の前でこんな事が起きればロケット団を許せないだろう。けど、やっぱり驚いたな……)

    「わしはロケット団が拠点を作っていたシオンタワーの最上階で捕らえられていた。グリーン君がやってきたのは、大勢いたロケット団が野生のポケモンを痛めつけていた時じゃ……」


     数日前のシオンタワー最上階。そこでは多くのロケット団員が、縛り上げられたフジ老人をにやついた目で見下していた。

    「まったく手間取らせやがって。あんまりにも来るのが遅いから、この辺のポケモンを暇つぶしに狩り尽くしちまったぜ」

     回りにはシオンタワーに住んでいたであろう多くのポケモン達が倒れている。

    「経験値をかせぐならここまで痛めつける必要はなかろう! 野生のポケモンといえども殺していいはずはあるまい!」

    「俺たちロケット団は悪事を働いてなんぼ。人だろうがポケモンだろうが、ロケット団の行動一つ一つに全ては恐れおののくさ」

     倒れ伏しているガラガラに、その子であろうカラカラが泣きついている。

    「こんなふうにな!!」

     ロケット団が手持ちのポケモンをけしかけ、泣きじゃくるカラカラに迫る。

    「やめるんじゃ!!」

     その攻撃はカラカラに届かなかった。ガラガラが最後の力を振り絞って立ち上がり、カラカラを庇ったのだ。

     庇ったガラガラは壁にたたきつけられ、今度こそ完全に動かなくなった。

    「なんてことを……!」

    「はっは! よかったじゃないか死んだのが墓場で。埋葬にも時間を取らないぜ」

    「そうだな。ここには墓石もたくさんあるし、新しく人が埋葬されたって構いやしないよな」

    「!?」

     聞きなれない少年の声、ロケット団員達は一斉に階段の入り口に振り返る。

    103 = 99 :

    「おい、小僧てめえはなんだ。下にいた奴らは……」

    「少し小突いたらすぐに裸足で逃げ出してったぜ。ったく、野生のポケモンより根性がねえとは、呆れてものも言えねえぜ」

     尖った茶髪、紫色のTシャツに黒のズボンというスマートな出で立ちに、圧倒的な敵意がこもったギラついた瞳。

     言いながらその手に握っていたモンスターボールを放り、相方を君臨させる。
     
     現れたのは、古に伝わるドラゴンそのものの容姿を誇るオレンジ色の炎の龍。

    「リ、リザードンだと!? こんなガキが!?」

    「グルルルル……!」

     リザードンにグリーンの怒りが伝染している。

     それでもグリーンはニヒルに笑い、ロケット団を指で招く。

    「こいよ、遊んでやる」

    「っ!? ガキが! 野郎ども!!」

    「おうっ!」

     ロケット団はルール無用だった。全ての団員がポケモンを出現させ、一斉にリザードンへ襲いかかる、

    「いかん! これはいくらなんでも、逃げるんじゃ!!」

     フジ老人の言葉はもっともだった。しかし、

    「リザードン。かえんほうしゃ」

     グリーンの心境に変化はない。リザードンが炎の意思を代弁する。

     ロケット団のポケモンは一匹残らず火炎放射に吹き飛ばされ、ロケット団員達は唖然とした表情で手元に戻すしかなかった。

    104 = 99 :

    「くっくそ、こうなったら……!!」

    「ありがとなストライク」

    「なっ!?」

     いつの間にかフジ老人の後ろに回っていたグリーンのストライクが、フジ老人の縄を切り、そのまま老人を足で抱えてグリーンの元へ運んでいた。

    「さてと、こうなったら確かに、このまま俺のリザードンに焼かれるか、下で待ち構えてるジュンサー達に捕まるかの二択かな。さてどうすんだ?」

    「そっ……そんな……」

     ロケット団員達は一人残らず膝をつき、完全に戦意喪失していた。グリーンは一息つく。

    「あんたがフジ老人だよな?」

    「あっああ。君は?」

    「町の人に頼まれてな。ゴーストポケモンも手持ちに欲しかったから、そのついでだ」

     グリーンにとってはあくまで手持ちを強化するついでだったらしい。

    「ったく、このポケモン達に死なれちゃさすがに目覚めが悪いな。おいあんたら」

     グリーンがロケット団員達を睨みつける。

    「ひっ!?」

    「言わなきゃわかんねえか?」

     倒れているポケモン達を回復させろということだろう。

    「わ、わかった……」

     ロケット団員達が回復アイテムを取り出し、野生のポケモン達にほどこしていく。程なくジュンサー達がやってきたが、ロケット団のやっていることを認め、ポケモン達の回復を手伝っていった。

    105 = 99 :

     それを見ていたグリーンは倒れたまま動かなくなったガラガラに近づいていく。

    「……」

     グリーンはポケットからげんきのかたまりを取り出したが、やめた。既に無駄であると気づいてしまった。

     その傍らには泣きじゃくって鳴き声をあげるカラカラが立ち尽くしている。

    「悪いなフジ老人。このカラカラ頼む」

    「あっああ。しかし君は……」

    「俺もまだまだだ。あんな連中に手間取らなければ、こんな事には……マサラタウンのポケモントレーナーが聞いて呆れるぜ」

     グリーンはリザードンを戻しガラガラを抱えあげ、階段へ歩いていく。

    「ま、待ってくれ。君のおかげで本当に助かった。礼を言う。君が来てくれなければ、もっと酷い事態になっていたよ」

    「さあな。フジ老人、カラカラに後で伝えてくれ。世の中には辛いことがあってその度に泣くようなやつでも、何度も立ち向かって勝利を目指してくる奴がいる。自分を最強だと思ってた俺はそんな奴がいるとは気付かず、冷水を浴びせられた。情けねえ話だがな」

     グリーンは立ち止まる。

    「つまりだ。辛くて認められないことがあっても、絶対立ち直れる。他人に助けられたっていい。色んな物に助けられたっていい。絶対立ち直るんだ。そうすれば前を向いて、また歩いていける」

     グリーンは腰のモンスターボールを見る。彼もまた旅を通して感じることがあったのだろうか。

    「カラカラが立ち直ってるかどうか、また会いに来るぜ。バイビー」

     そうしてグリーンはガラガラを埋葬して去っていった。彼に依頼した町の住人のお礼も受け取らず、疾風のように。

    106 = 99 :

     聞き終えたレッドは、呆然として動けなかった。

     ロケット団の横暴もそうだが、なによりグリーンの行動と強さに驚嘆した。

     レッドも認めざるをえない。グリーンに一度勝利したとはいえ、グリーンはまだまだレッドの先を行っている。

    「さすが、グリーンですね……。彼は昔からなんでもうまくこなしたけど、そこまでとは……」

    「うむ。わしも長年ポケモントレーナーを見てきたが、あそこまで圧倒的な強さを見せつけられたの初めてじゃった。それにポケモンへの優しさも……」

    「……」

     レッドはそれを聞いて無言で考えた後、立ち上がって壁の隅のカラカラへ近づいていく。

    「レッド君?」

     グリーンはガラガラを埋葬し、カラカラの回復を願った。

     自分もなにかしたい。ポケモンを愛するものとして、心に深い傷を負ってしまったカラカラに。

    「カラカラ、俺はレッド。フシギソウ達と一緒に旅をしてるんだ」

     背を向けるカラカラに話しかける。言葉は通じていないだろうが、カラカラはすこしばかりレッドに振り返る。

    「親を失った悲しみは、俺には想像もできないほどだ……立ち上がって元気を出せなんて言えるわけもない」

     レッドはカラカラに手を差し伸べる。この旅でレッドは、多くの人から優しさと暖かさを貰って来た。今、自分からカラカラに伝えたい。

    「カラカラ、悲しみを乗り越えるのは自分のペースでいい。ゆっくりと自分の心を癒やす方法を探していこう。俺も、君の力になるよ」

     レッドの手はカラカラの背に触れないで中空で止まっている。

     カラカラはレッドを見たまま、動かない。潤んだ瞳は何を思っているのだろう。

    107 = 99 :

     レッドは辛抱強く待った。カラカラが今回手を取らなくても、カラカラの助けになれるまで、この町を離れない。そう心に決めていた。

    (カラカラ……)

     カラカラが背負っている悲しみを想うと、レッドの瞳に涙が溜め込まれていく。

     それを見たカラカラは……。

    「あっ……!?」

    「おおう……!?」

     カラカラの手がゆっくりと伸び、レッドの手のひらの上に置かれる。フジ老人も驚いて声を上げた。

     レッドはその手を優しく、しっかりと握った。

    「カラカラ……?」

     カラカラが立ち上がると、レッドの手を引いて歩いて行く。

    「どこかに行きたいのかい?」

    「ああ、カラカラは、多分……」

     フジ老人は察していた。カラカラが行きたいのはおそらく……。

     シオンタワー。その墓石が立ち並ぶなかで、カラカラに手を引かれたレッドもどこに連れて行かれるか察した。

     ポツンと立つ墓石の一つに多くの献花が手向けられている。つい先日起こった悲劇で犠牲になった、一匹のポケモンに対して。

    108 = 99 :

    「カラァ……」

     カラカラがその墓の前で止まる。目には涙があふれ、寂しげな鳴き声が響く。

    (カラカラ……)

    「レッド君、これを」

    「あっ」

     レッドはフジ老人から献花用の花を託される。

    「……カラカラ、祈ろう。ガラガラの安らかな眠りを……」

     レッドはカラカラと合わせた手の間に花を差し込み、共に墓へ供える。

     レッドはゆっくりとカラカラの手を離すと、カラカラは上を向いて、叫んだ。

    「……カラー! カラー! カラー! カラー! カラー!……」

     母へ捧げる雄叫びが、いつまでもシオンタワーに木霊する。あの日、カラカラが母を失った時から続く悲しみを受け止めるための、最初の一歩だった。


     レッドは程なく、旅立ちの時を迎えた。カラカラはもう、一人でちゃんと立っている。

    「色々ありがとうございました。フジ老人」

    「礼を言わなければならないのはこちらじゃよ。元気でな」

    「はい、カラカラ、また会いに来るよ」

     レッドは体勢を低くしてカラカラに視線を合わせ、頭骨をかぶる頭をなでた。

     しかしカラカラはその撫でる手を無視し、レッドの服の裾を掴んで離さない。

    「カラカラ?」

    「……連れて行ってくだされ。カラカラはあなたについて行きたいようじゃ」

    「えっ!? そうなのか、カラカラ……?」

    「カラァ……」

     その瞳が、レッドを真っ直ぐに見つめる。

    「グリーン君が来た時にはわしから言っておこう。信頼できるトレーナーに託したとな」

    「……わかりました。それじゃあフジ老人、お元気で」

    「レッド君とカラカラも息災でな。カラカラに広い世界を見せてやってくれ」

    「はい。行こうか、カラカラ」

    「カラ……!」

     カラカラの手を引いていく。今度は共に旅を歩む仲間として。

     そしてレッドはカラカラへの優しさと、今もなお先を行くライバルを想い、前を向いて一歩一歩新たな冒険へと足を踏みしめていった。

    109 = 99 :

    今日はここまで。すいません、予告に反してシオンタウン編でした。本当は続いてタマムシ編まで投稿したかったんですが時間が取れず……
    明日からタマムシ編です。それではまた。

    >>94
    >>95
    >>96
    >>97
    ありがとうございます。マジで励みになります。

    >>98
    登場人物の描写については本当に一部を覗いて、悪人物にしないよう心がけてます。
    初代のポケモンのゲームに出てくる人って、なんか皆変に愛嬌があるように感じるんですよね。

    110 :

    >>109
    毎日楽しみにしてます
    無理はせずに

    111 :

    おつ

    初代のシオンタウンは音楽がとにかく怖くて絶対自転車乗ってたなあ

    112 :

    乙、毎回面白くて次を楽しみにしてる

    今の手持ちはフシギソウ、ポッポ(ピジョン?)、ラッタ、バタフリー、ギャラドス、カラカラ(NEW!)かな?
    お月見山で名前が出ただけのバタフリーさんに出番はありますか?

    113 = 99 :

     マサラタウン、レッド旅立ちの日。レッドは自室で荷物をまとめ、最後にパソコンの電源を落としていた。この部屋に帰ってくることは、当分ないだろう。

    (行ってきます)

     快く送り出してくれた母に感謝し、町の外へ繋がる草むらに向かう。

     レッドが現時点で知る最高のポケモントレーナーは、その場所でレッドの見送りに来ていた。

     緑と赤を基調とした袴姿の淑女。それでいて少女と言っても過言ではない艶のある黒髪のボブカットと可憐な唇と瞳。

    「エリカさん、ありがとう。僕はフシギダネと一緒に……立派なポケモントレーナーを目指します」

    「ええ。期待していますよ」

     穏やかな微笑みと共に可愛らしく首をかしげる。レッドはドキンとした胸の高鳴りに戸惑いながら、紅くなった顔を隠すように帽子のつばでエリカの視線をさけた。

     しかしそんなレッドをお構いなしに、エリカはレッドに数センチというところまで近づき、レッドの両肩を優しく掴んでほぐす。

    「力を抜いて……。旅は長く、つらいこともあるかもしれません。それに奮起するのもよし、けれど人に頼ること、ポケモンに頼ることも忘れないで。あなたは決して、一人ではないのですから」

    「……うん」

     レッドは立派な敬語を言えたものではなかったが、エリカは気にしなかった。ポケモントレーナーとして高みを目指す同士、彼とは近い関係を望んでいる。

    「セキエイ高原へ行く手順は大丈夫ですか?」

    「うん。各地のジムバッチを8つ集めるんだよね。エリカさんも、セキエイ高原を?」

    「……いいえ」

     意外だった。彼女がレッドの指導の中で見せてくれた草ポケモンの扱い方は、初心者のレッドから見ても凄まじい練度であることが見て取れたからだ。

    「各地にはポケモンと様々な付き合い方をしている方たちがいます。私もその一人……例えポケモン達と戦いに赴く身でも、目指すものはセキエイ高原とは限りません」

    「……」

     レッドには想像もつかない。一体彼女は、どうしてポケモンバトルをしているのだろう。

    「私はタマムシシティにいます。レッドさん、あなたがその町に来るとき、私がどこであなたを待っているのか、わかってくれるのを期待していますよ」

     彼女の声は優しさに満ち、それでいて人を発奮させる魅力と愛が込められている。レッドはその全てを飲み込んで心体に循環させ、前を向いた。

    「……はい」

    「それでは、行ってらっしゃい」

    「行ってきます!」

    114 = 99 :

     街を見下ろせる丘でレッドは目をつむっていた。そして今、傍らのフシギソウと共にゆっくりと目を開く。
     
     眼下にあるはタマムシシティ。そこはタマムシデパートやマンションが存在感を放つ、栄えある街。

    「……ついに来たな。フシギソウ」

    「フシ!」

     ポケモントレーナーの最初の扉を開く、その時に背を押してくれた人がこの街で待っている。  

     レッドの心には熱い感情が二つ渦を巻いて高揚している。新しいバトルへの期待。そして大切な人に自分の成長を見せたい。

     戦力も心も整えた。あとはあの人に恥ずかしくないようなバトルをし、仲間たちと勝利を手にするだけ。

    (あの人が待っている場所は、きっと……!)

     タケシ、カスミ、マチス。彼らとの熱い戦いの経験がレッドに囁いている。レッドは叫び出したい気持ちを懸命におさえながら、フシギソウと共に彼女が待つ場所へと向かって走りだした。

     タマムシシティジム。そこは草木に囲まれ、このジムがどのタイプを司るのか外観から物語っていた。

     レッドとフシギソウはそれを前にしてごくりとつばを飲む。

    「……」

     レッドは扉のドアノブを掴む。逡巡する理由はない。この先であの人が……!

    「あれ、挑戦者の方? エリカさんいないよー」

     と、がっくりとバランスを崩しドアに頭をぶつけた。なんて軽い声色で確信を持つことになろうとは……。

    「なにやってんの?」

     レッドに話しかけたジム所属のミニスカートの少女はレッドの行動を訝しげに見つめる。

    「……ええと。ジムは今日お休みですか?」

    「ちょっとジム戦だけ臨時休業なのよ。エリカさん、今ロケットゲームコーナーにどうしても外せない用事があるみたいで。あっこれ言っちゃいけないんだっけ? まいいや」

    「ロケットゲームコーナー……?」

     レッドは不思議がった。ロケットゲームコーナーをレッドは知らないが、名前からしてどういうところかは想像できる。

     エリカがゲームコーナーに……彼女の外観からすれば、ちょっとミスマッチに過ぎはしないか。

    115 = 99 :

    (ロケット……まさかね)

    「わかりました。それじゃあまた出直します」

    「ごめんね~」

     さて、出鼻をくじかれた形になったが仕方がない。レッドは一気に退屈そうになったフシギソウをモンスターボールに戻し、これからどうするか検討する。

    (幸い時間を潰せるところは多そうだな。エリカさんが行ってるロケットゲームコーナーが気になる……)

     どこから行くか。タマムシデパートの品揃えも気になるが、特別な用事があるわけじゃない。

    (やっぱり気になるな、ロケットゲームコーナー。ここから行こう)

     ジムから歩き程なく到着すると、レッドは見たことない喧騒空間に驚いた。ロケットゲームコーナーの内部に鳴り響くゲーム音とコインの音、そして人の歓声。

     ゲームを一通り見てみたが、どうやらエリカはいないようだ。次いで壁に貼られた張り紙とポップを見る。

    (コインでポケモンの交換も行ってるんだ……。ストライク、ポリゴン、聞いたことないポケモンだ)

     そういえばこういったゲームはグリーンが得意だったなと、レッドは思い出してくすりと笑った。協力ゲームでは常にレッドをリードして助けてくれた……。

    (あ、今俺……)

     グリーンの事を思い出して明るい気持ちになれたことなど、かつてあっただろうか。レッドは手持ちのカラカラの入ったモンスターボールに手をやる。

    (早く追いこさないとな。カラカラ見たらどんな顔するだろう)

     先を行くライバルを思いながら、レッドはゲームコーナーの端にたどり着く。

    (特にこれといって変なところはなかったな。エリカさんもいないし、少し遊んでくか……? あれ?)

    116 = 99 :

     レッドが視界の端にとらえた、黒い制服。オツキミ山で見覚えがある。

    (まさか!?)

     レッドは駆け出す。黒い制服の男は遊ぶ人とゲームの間を慣れた様子でぬって進み、ゲームが立ち並んで死角になっている場所へと進んでいった。

    (あそこはポスターが貼ってあるだけでなにもない!)

     レッドはやつを追い詰めたと確信し、曲がり角を曲がってロケット団が入っていった死角を視認した。

    「え……!?」

     ロケット団員が消えた。そこには壁にそって貼られたゲームポスターしかない。

    (馬鹿な!? 奴は一体どこへ……!?)

     驚愕しているレッドをよそに、一枚のポスターの端がペラリと剥がれる。

    「……?」

     レッドは気になって、一部が剥がれたポスターに手をやった。

    (裏に何かある……?)

     少し力を入れて剥がす。するとそこにあったのは一つのスイッチ。

    「……」

     レッドは恐る恐る押して見る。ポチっと音がなったあと、スイッチがあった壁の一部が横にスライドしていく……。

     現れたのは下へと続く階段。

    (ロケットゲームコーナー。エリカさんの臨時休業。消えたロケット団員……)

     レッドの脳裏に描かれる予想絵図。ポケモンとの絆を説いたあの人が、故郷に巣食う悪を許せるだろうか。

    (……行こう)

     この先で、今何かが起こっている。

    117 = 99 :

    今日はここまで。ちょっと今週は忙しいんで更新が牛になるかもしれません。
    ただ報告は日1で行います。投稿できなくても書き具合はその時に。

    >>110
    ありがとうございます。
    リアルの都合上書けるのは夜なんで、体調には特に気をつけないといけないですね……

    >>111
    あれ怖いですよね。雰囲気もあいまって歴代でも最怖だと思います。プレイした時の年齢もあるとも思うけど。

    >>112
    楽しみにしてもらって本当に光栄です。完結までしっかりと書いていきたいと思います。
    ストーリーとは別で、手持ちとポケモンのバトルについては結構その場のノリで書いてます。
    とりあえずトキワの森で何も捕まえないということはないだろうとバタフリーを入れたんですけど、どうしようかな……。

    119 :

    ご報告。本日はお休みします。
    が、今日投稿するはずだったものは書き上がってますので、誤字脱字確認次第明日の夜に投稿します。
    期待されてた方は申し訳ない。もう少々お待ちを。

    120 :

    期待して待っていますですわよ

    121 = 119 :


     階段を降りた暗闇の先。そこが悪がはびこるロケット団のアジトということは、フロアに点在する黒い団員達の姿ですぐにレッドは理解できた。

     しかしレッドは警戒よりも、戸惑いの方が大きかった。 

    (皆寝てる……? 手持ちのポケモンは出してるみたいだけど……どういうことだ?)

     あるものは地ベタで、あるものは椅子に座って。ポケモンを出していても主人ポケモン共々深い眠りに落ちている。

    (……)

     いつどこでなにが出てくるかわからない。レッドはフシギソウを出して周辺を警戒したが、人の話し声や動く音は聞こえず、ただ寝息しか聞こえてこない。

    (あそこのエレベーターで下に行けそうだな。お)

     よく見れば先ほどレッドが追っていた男が道端で寝入っている。しかも倒れた拍子にだろうか、ポケットからエレベーターで使うであろうカードキーが覗いている。

    (ラッキー)

    「うわ!?」

     レッドが取りに行こうとした瞬間、フシギソウがレッドの前をつるで制する。

    「どうしたフシギソウ?……!」

     これ以上進んではならないとフシギソウは暗に言っている。皆寝入っているこの状況、そして争った形跡はない。

     フシギソウはレッドを見ながら鼻を鳴らす動作をしたあと、花粉を舞い散らせるかのように背の蕾を揺らす。その動作のおかげでレッドは気づいた。

    「ねむりごなが漂っている……。行け、ピジョン。ふきとばし」

     ピジョンが男の周りの空気をふきとばすと、フシギソウもつるを降ろした。レッドはピジョンとフシギソウの頭をなでカードキーを手に取る。

     エレベーターに差し込むとすぐに動き出し、レッドは乗り込んで地下へ降りていく。

    (フシギソウが気づいたことから、草ポケモンによるねむりごなだろう。やはり、エリカさんか?)

    122 = 119 :


     エレベーターが開くと、これまたロケット団員の二人組とニャースが寝入っている。

    「なんだ……かんだと……聞かれたらぁ……むにゃ……」

    「答えて……あげるが……世の情けぇ……むにゃ……」

    「待ってる……むにゃむにゃ……」

    (あれ今しゃべんなかったか?)

     気になったが今はそれどころじゃない。先に進むと、今度はさらに開けた場所に出た。ジムで見るバトルスペースに似ている。

     大型のポケモンが闊歩できるほどの十分な奥行きがあり、天井も高い。

    (地下にこんな場所が……)

     レッドはあたりを伺いながら、バトルスペースのトレーナーゾーンに立つ。

     その瞬間、レッドと対面のトレーナーゾーンにスポットライトが集中する。

    「! なんだ!?」

     突然の光にレッドは目を細めたが、懸命に対面の相手の顔を確認しようとした。そして、ゆっくりと鮮明になっていく。

    「ほほう。こんなところまで、よく来た」

     壮年の男性の声。スーツを着込んだ落ち着いた佇まい。しかし、その眼光は鷹よりも鋭い。

    (っ!? この圧力は!?)

     畏怖と威厳が入り混じった圧倒的な戦意が、レッド一人に向けられている。

    (あいつもポケモントレーナーなのか!?)

    「エリカ嬢がしかけたねむりごなの罠、ここのわたしの部下は誰一人として潜り抜けることができなかったが、君みたいな子供が踏破するとはね。中々に楽しめそうじゃないか」

    「あなたは誰だ!?」

    「ふむ、色々と肩書は持っているが、サービスだ。子供の君にもわかりやすく教えてあげよう」

     男は自らの顔を親指で指差し、笑った。

     レッドは生まれて初めて他人に恐怖した。

    「世界中のポケモンを悪巧みに使いまくって金儲けするロケット団! 私がそのリーダー、サカキだ!」

    「……サ……カキ……!」

     この男が。いや、あいつは聞き捨てならない名前を言った。

    「そうだ、エリカさんはどうした!?」

    「彼女ならここだ」

    「!」

    123 = 119 :

     スポットライトがサカキのさらに後方の壁に集中する。そこには壁に付けられた鎖で両手を吊るされたエリカの姿があった。傷は見えず、身につけている袴が乱れている様子はないが、エリカはぐったりとして動かない。

    「なっ……!?」

    「安心して欲しい。さすがにタマムシの名士の娘を傷つけたとあっては、この街で金を握らせている連中も黙ってはいないからね。少々実力を知ってもらいはしたが」

    「実力……まさか……!?」

    (エリカさんが、負けた!?)

    「さて、今私の手持ちは回復をしているから、部下のポケモンを借りるが……。せめてワンサイドゲームは避けてくれよ」

     サカキがどこからともなくモンスターボールを手にする。レッドは激高した。

    「おまえ、こんな状況で……! エリカさんを開放しろ!!」

    「ふむ……。元々エリカ嬢や君にアジトがばれる体たらくの稼ぎ口だ。今日引き払うのが潮だろう。そうなると、どんな条件がいいか? よし、それではこうしよう。君が勝てば、エリカ嬢をこの場で開放する。しかし君が負ければ、君が持っている技能、知識、ポケモン、その全てをロケット団員として悪事に捧げるのだ」

    「貴様……!! ポケモンバトルをなんだと思っている!!」

    「君こそなんだと思っているのかね? まさか一トレーナーとして勝負から逃げるのか? 案外弱虫なのだな」
     
     ブチッ。

    「お前のような人間がトレーナーを語るな! 恥を知れ!」

    「難しい言い回しをよく知っている。さてはエリカ嬢の関係者かな? 男としていいところを見せるチャンスだぞ?」

     レッドの眼が血走り歯が軋む。初めて怒りのままモンスターボールを握り構えた。
     
     対してサカキは一貫して笑みを浮かべている。

    「ロケット団リーダー、サカキ」

    「貴様に名乗る名前はないっ!!」

    「ふははっ、バトル開始。行け、イワーク」

    「行け! フシギソウ!」

    (レッド……さん……いけ……ません……。その人は……カントー最強の……)

     おぼろげな意識のエリカの声は届かない。

    124 = 119 :

    「イワーク、いやなおと」

    「フシギソウ、つるのムチ!」

    (このまま攻めきってやる!)

    「いい攻めだ。思い切りがある。イワークは捨て石にするかな。いやなおと」

    「捨て石だと……!?」

     タケシならば絶対に言わないし思わない。

    (こんな奴に負ける訳にはいかない!)

    「フシギソウ、やどり」「戻れ、イワーク。行け、ガルーラ」

    「なっ!?」

    「れんぞくパンチ」

    「フシっ!?」

     流れるような攻撃だった。イワークの戻り際もガルーラを出すタイミングも、そして攻撃に移るタイミングも一切のムダがなく、フシギソウが乱打を浴びて一瞬で地に沈む。

     奇しくもレッドが学び信奉してきた、ポケモンとトレーナーの連携が為せる技だった。

    「くっ戻れ! 行け、ギャラドス!」

    「それが切り札か? 少し期待しすぎたか」

    「ぬかせえ! かみつく!!」

    「ガルーラ、かみつく」

    125 = 119 :

    「ギャ!!」

     ギャラドスがガルーラの肩にかみつき、ガルーラも負けじとギャラドスの長い首にかみつく。

    (ギャラドスの方が力が上だ。このまま押し切る!)

    「ポケモントレーナーとは常に、物事を大局で見なければならない。ギャラドスには手足がないが、ガルーラには4つの手が残っているぞ、少年!」

    「! しまっ!?」

     ガルーラからすれば相手が至近距離で固定さえされればよかった。

    「れんぞくパンチ」

    「ガルゥ!」

     ガルーラの腹袋の中の子ガルーラが吠え、母親とともに痛撃のラッシュをギャラドスに浴びせる。

    「ググ……グググ……!!……ギャラァ!?」

     ガルーラに痛手を負わせることには成功したが、ギャラドスは耐え切れず倒れる。

    (……やけにギャラドスが耐えたな。ガルーラの消耗も激しい。……! 宿り木か。あの一瞬でよく当てたものだ)

    「まだだ! 行け! ピジョン!」

    「戻れガルーラ。行け、サイホーン」

    (くっ……タイプ相性が……!)

     レッドの思考は狭まっていた。元々が怒りで捕らわれ、現状は二体のポケモンが倒されて不利。結局なんのきっかけも掴めないまま、ピジョンはサイホーンに競り負ける。

    「……戻れ、ピジョン」

    126 = 119 :

    「座興としては少し足りんな。もう少し頑張ってくれたまえ」

    「……っ! 行け、バタフリー!! ねんりき!」

     バタフリーの速攻はサイホーンに攻撃の隙をあたえなかった。レッドは3体を失い、やっと一匹目を撃破する。

    「行け、イワーク。いやなおと」

    「ねんりき!」

    (……くっ、やっと意識が……。レッドさんは……!?)

     エリカは顔を上げ、なんとかレッドを視認する。なんてことか、レッドの顔は焦りで満ちている。

    「グォォ……」

    「やったぞ! バタフリー!」

     蝶によってその巨体が沈む。元々消耗していたイワークの犠牲、サカキにとっては予定調和だった。

    「ガルーラ、れんぞくパンチ」

    「ああっ!?」

     体力が満タンだったバタフリーが一瞬で沈む。

    127 = 119 :

    「……行け、ラッタ……!」

     もうレッドに最初の威勢はない。ガルーラだけは別格、フシギソウとバタフリーが一瞬で倒され、ギャラドスですら倒すには至らなかった。このままではラッタも……。

     しかし、ラッタは雄々しく吠える。

    「ラッタ!」

    (ラッタ……お前……)

     ラッタが微塵も諦めていない事はレッドにも分かった。しかしレッドは……。

    (あのエリカさんですら勝てなかった相手だ。……あのサカキは戦略もポケモンとの練度も、今まで会ってきたどのトレーナーよりも上だ。……俺が、勝てるような相手では……)

     レッドはガルーラとサカキを見る。ここまで敵が大きく見えたことは今までない。後ろには、捕らわれたエリカがいるというのに……。

    (ごめんなさいエリカさん……俺は……)

     最後にエリカの顔を見た。なにか薬でも打たれたのか、顔色が悪い。

     しかし、エリカの口が動いている。

    (なんて……?)

     お・ち・つ・い・て。

     そしてエリカは、微笑む。頬に汗を流し、身に残る苦痛に耐えながら。レッドの勝利を、レッドの成長の成果を、期待しているかのように。

    (エリカ、さん)

     そこで初めて、レッドはラッタの異変に気づいた。さっきまでガルーラを威嚇していたラッタが吠えるのをやめ、振り返ってレッドをじっと見ている。

    (…………!)

     ラッタはコラッタの頃にレッドが初めてゲットしたポケモンだ。付き合いはフシギソウの次に長い。

    128 = 119 :

     今、ラッタは何をしている? 焦る主人に戸惑っているのか? レッドと同じく戦意を無くしたのか?

    (ラッタは待っている。俺の命令を。俺を待っているんだ。俺に信頼を寄せ、勝利を勝ち取るために、俺の命令を待っているんだ)

    「ははっ」

     レッドは下を向いて吹き出す。本当にかっこ悪いところを見せてしまった。

     そしてレッドは顔を上げる。もう、恥ずかしい姿は見せてられない。あの人にも、自分を信じて待つ仲間にも。
     
     そしてサカキのガルーラの動きを冷静に把握し、レッドはラッタに命令を下した。

    (奴の動きが鈍くなったな。万全を期させてもらおう)

    「ガルーラ、回復だ」

    「ガルっ」

     ガルーラがサカキの近くに寄り回復を施される。この距離ならば攻めにきたラッタを充分に迎撃できる。

     サカキからすれば、少年にさらなる絶望を与えるためのデモンストレーションも兼ねていた。

    (さあ、どんな命令を下したか……ん?)

     ガルーラの回復が終わったが、ラッタが攻撃にこない。

    「ラッタ、きあいだめだ」

    (ほう……こちらの回復をみこし、唯一のくもの糸を見つけたか。確かにラッタの火力を考えればそれしかない。自棄にならなかったのは評価しよう)

    129 = 119 :

    「だが、うまいくかな。れんぞくパンチ」

    「ラッタ、ひっさつまえば!!」

     ラッタは駆ける。ガルーラのパンチを四方から浴びるが、一切ひるまない。

    (むっ!? このラッタ、避ける気がない!)

     ラッタのひっさつまえばは、ガルーラの脂肪が薄い首筋の急所にあたった。そしてラッタは距離を取り、なおもあきらめない。

    「くっ。ガルーラ、かみつく!」

    「でんこうせっか!」

     れんぞくパンチより命中率が高いかみつく、サカキがとった安全策が仇となった。ガルーラが顔を前面に出したため、ラッタのでんこうせっかがまたも首筋の急所に当たる。

     それでもなんとかガルーラはかみつくを命中させ、ラッタを仕留めた。

    「よくやったラッタ。後は任せろ」

    (たぐりよせた強運が戦意を呼び起こしたか。少し舐めすぎていたかな)

    130 = 119 :

    「ガルーラはあと一撃といったところだ。さあ少年、勝ちきれるか?」

    「既に答えは俺のポケモン達に貰っている。行け、カラカラ!」

    「カラァ!」

    「一瞬で決める。ガルーラ、れんぞくパンチ!」

    「カラカラ、ホネブーメラン!」

     ガルーラがカラカラに突進する中、カラカラが先手を打ってホネブーメランを投合する。

    「カラぁ!」

    「良い技を持っている。だが甘い!」

     迫り来るホネブーメランをガルーラは首を傾けて躱す。ホネブーメランは後方に吹っ飛んていく。

     しかしレッドとカラカラは微動だにしない。既に勝負は決まったとばかりに。

    (……あの少年! そうか!)

    「ガルーラ、かがめ!」

     ガルーラが即時に反応し、走行を中断してかがむ。その上をカーブして戻ってきたホネブーメランが通過する。

    「……惜しかったな少年」

     しかしレッドは笑い、地面に消えたカラカラにサムズアップした。

    「”あなをほる”。ナイスだカラカラ」

     かがんだガルーラは目の前を地面が盛り上がるのを確認した途端、現れた骨被りの小さな闘士に顎を正確に撃ちぬかれ、バトルスペースにその身を沈ませた。

    131 = 119 :

    「……君はとても大事にポケモンを育てているな。そんな子供に私の考えはとても理解できないだろう。……! ここは一度身を引こう」

     ガルーラを戻したサカキが奥の闇に消えていく。去り際に指をパチンと鳴らすと、エリカをつないでいた鎖が解かれた。

    「君とはまた、どこかで戦いたいものだ……!」

    「まて……!」

     レッドの声も空しく、サカキが暗黒に消えると同時に扉の締まる音がした。もう、追っても無駄だろう。

    (サカキは本当の手持ちではなかった……。あんなに強い人がいたなんて……)

    「……エリカさん!」

     レッドは鎖から解かれて地面に手をついているエリカに駆け寄る。

    「レッドさん……」

    「エリカさん、手を……」

    「あっ……」

     エリカがバランスを崩し、レッドが抱きとめる。エリカの声は、弱々しい。

    「強くなりましたね……レッドさん。それに比べて……私は……私は……!」

    「いいえ……! そんなこと、そんなことないです! エリカさんがいなきゃ、僕は……」

     抱きしめられたエリカがレッドの肩に顔をうずめ、レッドもエリカを抱きしめる強さを強くする。

     カラカラが骨棍棒を首の後ろに回して回れ右し、主人の逢引を邪魔すまいと空気を呼んだ。

    132 = 119 :

    今日はここまで。次回タマムシ後編です。

    135 :

    ついにか

    136 :

    ムサシとコジロウおるんか

    137 :

    ジャリボーイ

    138 :

    カラカラ△

    それにしても急所に当たったをこうやって文字面に起こすと、まあエグいなww

    139 :

    このカラカラはスピードワゴンばりにクールだな

    140 :

     ロケットゲームコーナーはこの後通報したレッドによって、地下で睡眠をとっていたロケット団員のほとんどが御用となった。

     しかし当然、その中にサカキの姿はなかった。

     エリカが単身乗り込んだのは、突入を図る治安機構からロケット団員への密告者が出ても手遅れにするためだったらしい。ロケット団員が街で大手を振って稼ぐゲームコーナー、街の有力者に賄賂が及んでいることは想像に難くない。

     そのための草ポケモン達によるねむりごなの罠によって、エリカの思惑は8割方成功したと言えた。ただ最後、サカキに敗れるまでは……。

     エリカが受けたのはサカキが使ったニドクインからの毒針だったらしい。しかしエリカは草のエキスパート、草ポケモンは毒タイプとの複合タイプが多く、解毒は自家製漢方薬で済ませてジムに出向いた。

     レッドとタマムシジムの所属トレーナーは、まさかエリカはポケモンの技を受けた身で即日ジムを再開するのかと勘違いしエリカに思い直させようとしていたが、それは杞憂に終わった。

    「皆さんありがとう。ここには今日忘れ物を取りに来ただけですから、どうか安心してください。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」

     エリカは深々とジムのトレーナー達に頭を下げる。

    「謝らないでくださいエリカさん!」「エリカさんが無事でよかった……!」「街では既に悪を打ち倒したエリカさんって話題が持ちきりですよ!」

     エリカの薫陶を受けてきたジムトレーナーの女性たち。皆一様にエリカの無事と功績に歓喜している。

    「でもー、私達に心配かけるのはこれっきりにしてくださいね! 大事な私達のリーダーなんですから!」

     レッドにエリカの行く先をもらしたミニスカートの少女がぴしゃりとエリカに言う。エリカも申し訳無さそうに今一度謝罪した。

     そしてミニスカートの少女はレッドにウインクする。

    (あの時言ったのは、わざとだったのか?)

     レッドが驚いていると、エリカが用を済ませたのかレッドのそばまで来る。

    「今日は本当にありがとうございました。あなたが来なければ、私はどうなっていたか……」

    「いえそんな! ぼ……俺が勝てたのは、エリカさんのアドバイスがあったからだよ。"落ち着いて"って。それがなければ、俺は大切なものを失っていた……」

    「レッドさん」

     エリカはレッドにさらに近づき、レッドの手を取り両手で包む。

    141 = 140 :


    「そうかもしれません。しかし、一番の勝利の要因はあなたとポケモンが最後まで勝利を信じたからです。それを忘れないで」

    「……はい」

     しかしレッドの心には、靄がかかっていた。

    『さて、今私の手持ちは回復をしているから、部下のポケモンを借りるが……』

     おそらく、サカキの言葉はエリカとのバトルによるものだったのだろう。レッドはサカキの3体のポケモンに対し6体でやっとの勝利だった。

     別にポケモン達の頑張りを否定するつもりは全くない。

    (もし、サカキが万全の手持ちだったら……)

     それが脳裏からどうしても拭えなかった。

    「レッドさん。タマムシにいる間はどうか、私の家を宿として使ってください。私とタマムシを救っていただいた礼を、是非させてください」

     驚くレッド、そしてジムの女性たちが歓声を上げる。

    「えっでも……」

     エリカはレッドだけに聞こえるよう耳元でつぶやく。

    「サカキの事で、お話したいことがあります」

    「!……わかった」

     そんな二人に割って入るようにミニスカートの少女がレッドを指さす。

    「ちょっとあんた! エリカさんに手を出したら承知しないわよ!」

    「いやいや子供になに心配してんのよ……」

     大人のお姉さんが呆れたように言い、屈んでレッドに視線を合わせ、

    「ありがとね坊や。私達のリーダーを助けてくれて……あら?」

     レッドはグラマラスな大人の女性の接近に、つい頬を紅潮させ顔を背けてしまう。

    (む)

    「……行きますよ、レッドさん」

     するとエリカが口を尖らせながらレッドの手を引き、そそくさとジムを後にする。背中にジムトレーナーの冷やかしやら暖かい視線を受けながら、エリカはレッドを伴って帰路についた。

    142 = 140 :

     レッドが案内されたエリカ宅は、見たこともないような和の邸宅だった。庭だけでレッドの家の敷地の何倍あるかわからない。

     多くの使用人がレッドとエリカを出迎え、客室に案内されたレッドはそわそわと最初は落ち着かなかったが、部屋から見える庭でのんびりと過ごす草ポケモン達を見ていくらか和んだ。

     程なくエリカが部屋に来て、夕食をそのまま二人で馳走になった後、エリカから今日の話を切りだした。

    「あのポケモントレーナー、サカキについてお話します。彼はかつて、カントー地方で"大地のサカキ"と恐れられた伝説のポケモントレーナーです。当時はカントー最強の呼び声高く、ポケモンリーグ優勝も時間の問題と言う人もいたほど。しかし彼は何の前触れもなく、表の世界から姿を消しました」

     レッドは戦慄したが、しかし驚きはなかった。あれほどの実力者が世に知られていないはずがない。

    「私がロケットゲームコーナーの最深部に到着した時、彼と対戦になりました。……結果は、言うまでもありません」

    「エリカさん……」

     エリカの顔は沈鬱だ。レッドは声をかけるが、あまり彼女を慰める有用な言葉が思いつかない。

     それでもエリカは顔を上げ、レッドへ笑顔を向ける。

    「本当のタマムシの英雄はレッドさんです。サカキを退け、私を助けてくれました。あなたには、ジムリーダーが認めたこのバッジを……」

     レッドが信じられないような目をしながらエリカを止める。

    「ま、待ってエリカさん。俺はまだ、エリカさんと直接バトルをしてない。気持ちは嬉しいけど、今まで正規の方法で手に入れてきたし、これじゃあ他のジムバッジを目指すトレーナーに申し訳が立たないよ……」

    「しかし……」

     なおも渋るエリカに、今度はレッドが優しくエリカの手を取る。

    「俺にとって一番のお礼は、エリカさんがまた元気な姿で元のジムリーダーに戻ることだよ。俺に協力できることがあったら、なんでもするから」

    「あ…………」

     エリカはしばしポカンとしていたが、すぐに穏やかな笑みを作りレッドの手を優しく握り返す。

    「本当に見違えました。あなたに教授した身として、恥ずかしい姿は見せられませんね。わかりました。このジムバッジは、また改めて」

    「はい」

     あとは他愛無い雑談に変わり、夜も更けたためレッドは来客用の寝室に案内された。

    「さて……寝るかな」

     レッドは厠から縁側を通って寝室に向かっていた。月が綺麗な夜空、庭にはポケモンの寝息が聞こえてくる。

    (ん……エリカさん?)

     庭にエリカがクサイハナを伴って立っている。

    (……え?)

     心配そうにエリカを見上げるクサイハナ、エリカはモンスターボールを握った手を、目を細め口を一文字に結んで見つめている。

     声をかけられるような雰囲気に見えない。レッドは寝室に戻ったあと目を瞑ったが、どうにも寝れなかった。

     庭で見たエリカの表情が、何故か忘れられない。

    (なにか、心配事でもあったのだろうか)

     明日、機会があったら聞いてみようか。そんなことを考えていたが、レッドも昼間の緊張感が切れたのか、久々の暖かい布団の中で深い眠りについた。

    143 = 140 :

     明くる日。

    (ジム戦は休みか……)

    「レッドさん、申し訳ありません……」

    「そんな、むしろ当然だよ」

    「そうですよー。ジムに来るのだって心配なのに」

     ミニスカートの少女がエリカをジト目で見る。ジムのスタッフ達の判断で、タマムシジムのジム戦はエリカの大事を取り今日も休みとなった。

     それでもなんとかエリカはスタッフに掛け合い、せめてトレーナーたちへの簡単な指導だけでもと譲らなかった。

     結局スタッフたちが折れたため、エリカはジムに残りレッドもそれを見守っている。

    「今のタイミングを忘れないで。もう一度技を使ってみましょう」

    「はい!」

     レッドよりも年下の少女が今エリカの指導を受けている。

    「エリカさん! ちょっとお手本見せて」

    「ええ、もちろん……」

     エリカが少女に変わり、ポケモンの前に立つ。すると……。

    (エリカさん……?)

     レッドはすぐにエリカの異変に気づいた。エリカが声を出そうとした状態で呆然としたように固まっている。

    「……は、はっぱカッター」

    「わあ! エリカさん、ありがとう!」

     少女は自身のポケモンに駆け寄ってあやす。エリカのそばに寄ったレッドの顔はひどく心配そうだった。

    「エリカさん、あなたは……」

    「大丈夫です」

     エリカは振り向き、レッドへ微笑む。

    「大丈夫」

     そう言われてしまっては、レッドはエリカを見ているしかない。

    「エリカさーん! モンスターボールの投げ方教えて!」

     また別の少女が、エリカに羨望の眼差しを向けながらポケモンの捕獲方法を乞う。既に街中にエリカの功績が知れ渡っていたから、新しくジムに来る子供が大勢いた。

    「ええ。まず相手を弱らせたあと、ボールを握って……」

     エリカが少女からモンスターボールを受け取る。しかし、なんでもないはずの動作の中で、エリカはボールを落とした。

     彼女の手が、震えている。

    「ご、ごめんさい。相手を弱らせた後に、ボールをこう握って投げます。ボールを当てる位置も気をつけて」

    「はい!」

    (……)
     
     レッドはその一部始終を見ていた。険しい顔になり、覚悟を決めた顔になる。

     エリカはジム戦の再開を明日にすることをジム関係者に告げ、レッドを伴い笑顔で帰路についた。

    144 = 140 :

    (明日はちゃんと、レッドさんとのジム戦を行わなければ……)

     夜半、エリカはまたもクサイハナを伴い邸宅の庭に立っている。

    (せめて、せめてこの震えだけは……)

     エリカはモンスターボールを手にしている。しかし、今にも手から零れ落ちそうだった。エリカの顔が悲痛にそまる。

    (どうして……!)

    「エリカさん」

    「!」

     エリカはすぐさまレッドに顔を向けたが、すぐに表情を崩した。

    「まあレッドさん。こんな時間まで夜更かしなんて感心しませんよ」

     いつもの穏やかな笑みでことなげな事を言う。しかし、レッドの視線はエリカを貫いていた。

     エリカはその意思と闘志がこもったレッドの瞳に気づき、表情を引き締める。

    「俺の夜更かしよりも、大事なことがあります」

    「なんでしょう?」

    「とぼけないで。あなたは今、ジム戦に復帰するべきじゃない」

    「心配は嬉しい限りです。しかし、体はもう大丈夫。医師の許可もとっています」

    「かもしれない。しかし、あなたのポケモンは敏感に気づいているはずだ。そこにいるクサイハナも……」

     その言葉で初めて、エリカの体がぴくりと震えた。

    145 = 140 :

    「私がポケモンバトルをこなせる状態ではないと、そう言いたいのですか」

     今エリカが言葉の刺を隠せないことが、なによりの証拠だった。

    「あなたのポケモンに対する接し方に迷いがあった。あなたはサカキとの戦いで、深い傷を負ってしまったのではないのか?」

     レッドのその言葉で、エリカの目が見開かれる。心優しい少年と思っていた相手から信じられないような言葉を聞いて、エリカは感情のまま放つ。

    「あなたにっ……あなたに何がわかるんですか! ポケモンとの絆も、努力も研鑽も! 負けてしまったら何の意味もない! あのゲームコーナーでは、多くのポケモン達が金儲けの道具にされ、各地に出荷されてしまった……。もう救うことができない! サカキも取り逃がして、私はなにも、することができなかった……!」

     レッドは、エリカの言葉を真正面から受け止める。

    「サカキを倒さなければならなかった。あんなポケモンを金儲けの道具に使う人間を倒し、ポケモンとの信頼を築き、絆を得ることが正しい道だと、示さなければならなかった。私達ポケモントレーナーが進む道が正しいのだと……、でも私はできなかった。ポケモン達が蹂躙されるのを、見ているだけしか、できなかったんです……」

     エリカがどれほどの絶望を味わったのか。正しいと信じて進んできた道が、圧倒的な力によって破壊された。結局レッドもエリカもサカキの気まぐれによって平穏無事でいることを理解している。

     理解しながら、レッドは前を向いていた。

    「勝てないならば、勝てるようになればいい」

     エリカはレッドの言葉に顔を背けて自嘲した。

    「……勝ち目があると、本当にあなたは思っているのですか」

     レッドはあの日変わった。そしてあの日から、

    「結果はこの世界の誰にもわかりはしない。大事なのは」

     レッドの気持ちは、変わっていない。

    「勝ちたいという、意思があるかどうか」

    (……!)

     エリカは目を見開く。その言葉は、かつてエリカがレッドを導いたときと同じ道。

    「自分のポケモン達が傷つくのは、誰だって嫌だ。それでもバトルの道を選んだのは、ポケモンと共に得られる光があるからだ。何にも変えがたい絆の力があるからだ!」

     レッドはモンスターボールを放り、フシギソウを出現させる。フシギソウはレッドの意思を汲み取り、咆哮する。

    「俺はあなたから学んだ。ポケモンとトレーナー二つの心を一つにすることを。仲間の力を! 正義の心を! 不屈の闘志を! あなたが道に迷い戸惑っているというのなら!」

     レッドは帽子をかぶり直し、フシギソウと共に熱い闘志を魅せつける。

    「俺があなたを導く! 今まで旅をし、仲間と培ってきた全ての想いをのせて! 一人のポケモントレーナーとして!!」

     エリカはゆっくり顔を上げ、月を見た。クサイハナがエリカの裾を引く。

     このクサイハナは特別だ。エリカが幼少の頃にはじめて手に入れたポケモンナゾノクサ。このポケモンだけは家で大事に育て、レベルこそ上げたものの、荒事には程遠い生活をしてきた。

    (それでも、あなたは……)

     クサイハナは全身で語っている。主の役に立ちたいと。エリカの中で縮み燻っているものを、今一度新しく芽吹かせたいと。

     そのために力になると。

     時計の鐘がなった。レッドとエリカの静寂の中、日を跨いだ。

    「……!」

     レッドはプレッシャーを感じた。揺らぐようにエリカがクサイハナを携えて、レッドに向き直る。

     しかし、その瞳には戻っている。レッドを導いた光が。

     ポケモントレーナーの意思が。

     清廉なる戦士が、レッドの前で月を背に桜色の唇を開く。

    「……草ポケモンを司るタマムシジムリーダー、エリカ」

    「マサラタウンのレッド!」

     バトル開始。

    146 = 140 :

    終わりませんでした。明日タマムシ編決着します。

    147 :

    熱い

    148 :

    やっぱりエリカさんがヒロインだよな

    149 :


    そういえばエリカって何歳なんだろう
    なんか描写あったっけか

    150 :

    >>149
    公式では年齢不明
    アニメとかから判断するに、15歳前後くらいじゃないかとは言われている


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