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    元スレエリカ「あなたが勝つって、信じていますから」

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    51 = 44 :

    今日はここまで。読んでくれた方ありがとうございます。
    感想もありがとうございます。雰囲気を壊さないよう気をつけないと……

    52 :

    毎日更新あって嬉しい

    53 :

    描写がかなり丁寧で良い!これからも期待!

    54 :

     前方に一人、後方に一人。洞窟の道を塞ぎレッドとカスミ二人を閉じ込める黒尽くめの男たち。

    「ロケット団……!?」

    「気をつけてレッド。やつらはポケモンを使って悪事を働く不逞者よ。まさかこんな場所にまでいるなんてね……」

     驚くレッドと対照的にカスミは落ち着いていた。少女の一人旅、この程度の修羅場は慣れているし、打開できる実力があると自身確信している。

    「行くぞ、坊主の相手は俺だ」

    「じゃあ俺は女の子だな。任せてよ兄貴!」

     しかし位置がまずかった。前後ろに陣取られてはカスミが二人同時に相手にできない。

    (まずいわね……レッドは今回復に向かおうとしていたばかり。戦えるポケモンは)

    「大丈夫だよ、カスミ」

    「え」

     カスミの心配を悟ったのだろう、レッドが落ち着いた言葉を発する。

     レッドの手持ちはコイキング以外大分疲弊している事をカスミはわかっていたが……。

    「わかったわ。レッドはそっちをお願い」

    「うん」

     相対する4人が一斉にモンスターボールを構える。試合とはまた違う、息の詰まる戦いはレッドは初めてだった。

    55 = 54 :

    「行けっ!ズバット!!」「イシツブテ!」

    「行きなさい! ヒトデマン!」

    「行け! コイキング!」

    『えっ!?』

     驚愕。この状況でレッドが繰り出したのはコイキング!

    「ぶっはははあははっは!!! なんだそのポケモンは! やけくそか!?」

    「兄貴ぃ! 楽勝じゃないっすかあ!」

    「れッレッド! 今はレベル上げなんてしてる場合じゃないのよ!?」

    「ふざけてなんかないさ」

     レッドは大真面目だった。帽子から垣間見える鋭い眼光にレッドに対していたロケット団の笑い声が止まる。

    「……ほう。なら存分に痛めつけてやる! ズバット! きゅうけつ!」

    「レッド! もうっ!」

    「やっちまえ兄貴!」

    (すぐにこいつを倒してレッドの援護に向かわなきゃ!)

     カスミからすればレッドが何を考えているかわからない。幸いイシツブテを出したこの相手は大したことなさそうだった。

    56 = 54 :

    「ヒトデマン! ハイドロポンプ!」

    「ぐえっ!?」

     カスミがイシツブテを出したロケット団の手持ちを蹂躙していく。

     対して、レッドは全員の予想通り苦戦していた。

    「どうしたどうしたぁ! この程度かよ」

    「……頑張れ、コイキング」

     レッドは静かに待っていた。勝利のチャンスを。

    「ぐああ! 兄貴!」

    「レッド! 今行く!」

     そうこうしているうちにカスミが決着をつけたようだった。しかし、

    「うおお! 兄貴の邪魔はさせねえ!」

    「え!? しまった!」

     カスミは逸る気持ちで油断していたのだろう。相手がまだ一体残していたことに気がつけなかった。そして最後に繰り出してきたイシツブテの狙いは、天井。

    「いわおとしだ!」

    「あっ!?」

     狭い通路の中で岩の天井が崩れる。カスミは間一髪でかわしながらヒトデマンを操りイシツブテとロケット団の一人を戦闘不能にしたが、レッドと完全に分断されてしまった。

    「レッド!」

    57 = 54 :

    「ははは、そんな弱っちいポケモン出してよくカッコつけれたもんだな坊主!」

    「……」

     しかしレッドの眼光の鋭さは変わらない。コイキングもよく耐えていた。

    「ちっ! 気に入らねえなその眼! ズバット!」

    「ギャア!!」

     コイキングを襲っていた刃がレッドの頬をかすめる。

    「あっあんた! レッド! どうして他のポケモンを出さないの!」

     岩をどかし、かろうじて顔が見える程度に穴が空いた土砂からカスミの悲鳴が響く。

    「違う」

    「なに?」

     レッドの声は、憤怒に満ちていた。

    「あんたにはわからないのか。ズバットの気持ちが」

    「ズバットの気持ちだあ? なにを訳のわからないことを」

    「コイキングがここまでなぜ耐える事ができていると思う。あんたの命令に対して、どうして俺がこの程度ですんでいると思う?」

    「なにぃ?」

     ロケット団の男はレッドの顔を見る。確かに顔を切り裂いたつもりだったが、かすり傷程度ですんでいる。コイキングも思えば、硬すぎるような……

    58 = 54 :

    「ポケモントレーナーはポケモンと息を一つに合わせ、お互い理解しあわないと力を発揮できない。あんたが何回ズバットに命令しようと、俺と俺のポケモンは倒せない」

    「何を馬鹿な! いい加減とどめを刺せ! ズバット!」

     ズバットが何度もレッドの顔や体を襲う。しかし、レッドを守るかのようにコイキングがズバットの回りを跳ねまわった。

    「ちょこざいな魚が! ……え?」

     そこでロケット団の男は初めて気づいた。ズバットが傷んでいる。

     水ポケモンのエキスパートであったカスミも、その言葉でやっと気づいた。

    (コイキングははねてたんじゃない! あれは、"わるあがき")

    「想いが通じあっていない力など、ありはしない! あんたもポケモントレーナーのはしくれなら、ズバットの声に耳をかたむけてみろ!」

    「なっ……!?」

     ズバットの羽ばたきが疲労からか、がくんと落ちた。

    「そこだコイキング!」

     コイキングのわるあがきは急所にあたった! ズバットは倒れた。

    「嘘だろ……!?」

    「嘘……!?」

     カスミですら目を疑った。こんな勝利見たことがない。

    59 = 54 :

    「ぐっ……!」

    「レッド!」

     レッドも経験したことのない痛みに膝をつく。しかし、それでもなお彼は語りかけた。

    「くっ……ポケモンを道具になんか使わないでくれ。俺は……あんなつらそうに戦うズバットを……見たくない……」

    「なっ……!?」

    (つらそうだと……こいつ、ポケモンの気持ちがわかるとでもいうのか!?)

    「レッド!!」

     カスミがレッドに駆け寄る。ロケット団の男の手持ちは残っていたが、コイキングが見せた常識外のガッツ、そして年端もいかない少年の感情に満ちた言葉に、なぜか体が動かない。

    「小僧……お前は」

    「あっ……兄貴! ジュンサーが!!」

     オツキミ山で誰かが騒ぎを聞きつけて通報したのだろう。ロケット団二人はあっという間にお縄になった。

    「レッド……」

    「大丈夫、ありがとうカスミ」

     レッドがカスミの手を借りて、なんとか立ち上がる。

    60 = 54 :

    「小僧、一つ聞かせろ」

     ジュンサーに手錠をかけられた男が、レッドに問う。

    「どうして、お前はコイキングで勝てると思った」

     レッドは迷わずに言った。

    「コイキングの熱い闘志が、伝わってきたからだ」

     シラフでこんなことを言う奴がいる。ポケモントレーナーという称号は、こんな少年を生むのか……

    「熱い、闘志……」
     
     カスミも思わず、レッドの言葉をつぶやく。

    「……そうか。俺のズバットは、なんて言っていたのかな……」

    「ちゃんと向き合うんだ。その手にモンスターボールを掴んだのなら。聞こえる日が来るはずだ」

    「……」

    「兄貴……?」

     ロケット団の男は連れいてかれる最後に、微笑んだような気がした。

    61 = 54 :

    「ふう、もうすぐ山頂だねカスミ」

    「……そうね」

     一度ニビシティまでもどった二人はレッドの傷の回復を待ち、オツキミ山の踏破に望んだ。

     正直カスミは途中でレッドを残して引き返すつもりでいた。カスミはただ今家出中である。

     しかしレッドと別れるのが名残惜しく、結局ここまでついてきてしまった。

    「カスミ! あれピッピだよね!」

     洞窟から外に出た山頂付近、満月の下の円形にくぼんだ場所にピッピが群れで円を作って踊っている。

    「えっうそなにあれ!? 私もあんなの初めて見た……」

     そのうちの一匹が円から外れ、レッドとカスミの手を引く。突然の友好的な動きにポケモンを出すという選択肢が頭に沸いてこない。

     戸惑いながらも円の中心に導かれるレッドとカスミ。一匹のピッピが、レッドのポケットをしきりにつついている。

    「あっ……そうか、博物館で見たのとやっぱり同じ、これは月の石か」

     レッドはそれをピッピに導かれるまま、天高くかかげる。月の石が輝き、円になって踊っていたピッピ達が光の粒子をまとって宙に浮いていく。

     可愛らしい鳴き声と共に夜空に光のカーテンを作りながら、月の石の力を得たピッピが夜空に舞いながらピクシーへと進化していく……

    「綺麗……」

    「すごい……」

    62 = 54 :

    「レッドへの、ご褒美かもね」

    「ご褒美?」

    「オツキミ山の平和を魔の手から守ってくれたっていう、ご褒美」

    「それだったら、カスミも同じじゃないか」

    「私は別にいいわ」

     光のカーテンが終わり、ピクシーが夜空へ消えていく。

     それと同時に、カスミはレッドから距離をとった。

    「カスミ?」

    「ここからは一本道だから、ハナダシティまで迷うことはないわ。私は一足先に行ってるね」

    「カスミ……?」

     カスミがレッドへ背中を向ける。

    「ハナダで待ってる」

     その一言でカスミは闇に消え、レッドから見えなくなった。
     
     カスミが待っているであろう場所が、レッドの頭に浮かぶ。

     なんの根拠もなかったが、不思議な確信があった。

     コイキングの勝利を疑わなかったのと同じような確信が。

    63 = 54 :

    (私があの時、レッドと同じ状況だったらコイキングを勝利に導けただろうか)

     ハナダジムは波立っていた。久方ぶりの帰還。ジムリーダーだけが許される最奥の間、出て行く時は陰鬱でしかなかったこの場所が、今は妙に馴染んでいる。

    「一体どういう風の吹き回し、カスミ」

    「お姉ちゃん……」

     姉はカスミを咎めなかった。今の言葉も笑顔で言っている。

    「勝手してごめんね、おねえちゃん。私がここで抱いた疑問、お姉ちゃんに言われた言葉……私の心に霧がかっていたものの形が見え始めてる」

     あのロケット団の男の心には確かに、ポケモントレーナーの火がくすぶり始めていた。そうさせたのは間違いなく……。

    (ただ勝つだけじゃない。ポケモンと人との心のつながり)

    「その霧は、あの子によって晴れるのかしら」

     姉が入り口に現れた男の子を見つめる。

    「わからない。でも私は、確かめたい!」

     おてんば娘はモンスターボールを手にする。

    64 = 54 :

    「待っていたわレッド」

    「カスミ……」

    「ふふっ。驚いた?」

    「少しね。でも、納得したかな。今のカスミはきっと、俺が今まで相手してきた誰よりも手強い気がする」

    「気がする、じゃないわよ」

     水辺のバトルスペース。互いに好戦的な笑顔を向け合い、構える。

    「私はハナダジムリーダーのカスミ。水を司るポケモントレーナーよ!」

    「マサラタウンのレッド!」

    『バトル開始ぃ!』

    65 = 54 :

    「行け! フシギソウ!」

    「行きなさい! ヒトデマン!」

     フシギソウのつるのムチを、ヒトデマンが水鉄砲の水圧ではたき落とす。

    (私は勝利こそがポケモントレーナーの至上の喜びだと思っていた。勝利を目指せない奴はただの根性無しで眼中に入れる必要なし。そう思っていた。だけど、レッドの考えは違う。ポケモントレーナーで一番必要なのは勝利じゃない! ポケモンは私達と同じ、感情のある生き物)

     フシギソウのつるのムチが逃げるヒトデマンを追い詰めるが、ヒトデマンはひるまずフシギソウに肉薄する。

     カスミは懸命にヒトデマンを見つめる。今草ポケモンに追い詰められたヒトデマンになにを命令すればいい。

    (ヒトデマンはフシギソウを恐れてない! ならば!)

    「ヒトデマン! スピードスター!」

    「なに!?」

    『フシギソウ戦闘不能!』

    (昔の私だったら、ヒトデマンをあきらめて即効で次のポケモンで仕留めようと考えてたわね……)

    「さすがだ。カスミ」

    「当然よ。さあまだ終わりじゃないでしょ」

    「もちろん。行け! コイキング」

    「容赦しないわよ」

     しかし、ヒトデマンの動きが鈍った。蔦が絡みついてる。

    (やどりぎ!?)

    「コイキング、たいあたり!」

    『ヒトデマン、戦闘不能!』

    66 = 54 :

    (そうよねレッド。私達は強くなれる。ポケモンと二つ心を合わせれば、どこまでも!)

    「行きなさい! スターミー」

     コイキングが光がかやき、青き龍となってスターミーに相対する。

     レッドが図鑑を確認し微笑む。

    「すごい……やったなコイキング。いや、ギャラドス! 行くぞカスミ!」 

    「ええ、この戦いで決めるわよ!」

    「バブルこうせん!!」

    「かみつく!!」

     大口を開けたギャラドスがスターミーに迫り、その口めがけてスターミーのバブルこうせんが炸裂する。

     迫るギャラドスの動きはゆっくりになるが、確実にスターミーに迫る。スターミーのバブルこうせんの勢いは止まらなかったが、ギャラドスの勢いもまた、止まらなかった。

     ガシッ!

    「行けっ! ギャラドス!!」

    「スターミー!!」

     カスミは勝利のためスターミーを懸命に見た。そして、理解した。スターミーが引いている。

    (あ………あんた、結構臆病だったのね……ごめん)

    『スターミー戦闘不能! 挑戦者レッドの勝利!』

    67 = 54 :

    「新しいポケモンかと思ったわ……」

    「まさかあれが預かりボックス開発者のマサキさんとは……」

     戦いが終わり、レッドはカスミにそのまま腕を引かれハナダの岬にまで来ていた。

     名目はポケモントレーナーならば一度ポケモン預かりボックス開発者のマサキさんに会った方がいいという事だったが、どうやら本命はその帰り道にあったらしい。

    「かっカスミ……ここって」

    「ふふ、なに恥ずかしがってるの?」

     二人がいるのはハナダで話題のデートスポット。夕焼けが綺麗に見えるハナダの岬。レッドとカスミの回りには多くのカップルが自分たちの世界に浸っている。

    「私達もそう見えるかしら?」

     カスミはいたずらっぽい笑みを浮かべて舌を出す。レッドからすれば本気なのか冗談なのかわかりかねる。

    「えっと……」

    「レッド、目をつむって」

    「え」

     レッドの顔が赤くなる。恐る恐る目を瞑ると、カスミがレッドに近づき……

    「はい、これ」

    「あ」

     カスミがレッドの手を取り、何かを握らせる。目を開けるとハナダジムバッチが輝いていた。

    「ハナダジムリーダーカスミがレッドの実力を認め、これを進呈します」
     
    「ぷっ、似合わないよ」

    68 = 54 :

     二人静かに笑い合う。そして、ゆっくりと見つめ合う。

    「私、もう一度ジムで頑張ってみる。ポケモントレーナーとして強く、大きくなりたいから」

    「そっか、じゃあお別れだね」

    「レッドは、これからどこへ?」

    「とりあえず、タマムシシティを目指すよ。フシギダネとの付き合い方を教えてくれた、大切な人がいるんだ」

    「それって……」

     カスミに芽生えた静かな対抗心。

    「レッド、眼を瞑って」

    「え、さすがに二回目は……」

     と言いながらも目を瞑るレッド。

     

     チュッ


    「…………!?!?!?」

     呆然としたレッドをよそに、真赤になった顔を悟られまいとカスミが逃げ出し、距離があいたところで振り返って叫ぶ。

    「中途半端な所であきらめちゃだめよ! レッド!」

    「……ああ!」

     ハナダの岬で、二人のポケモントレーナーが一つ扉を開く……。

    69 = 54 :

    今日はここまで。ハナダ編終わりです。
    明日はお休みします。つづきは金曜日に。

    72 :

    青春ですなあ

    73 :

    「そこだフシギソウ!」

    「フシ!」

     フシギソウが木々から落ちる葉っぱをつるのムチで正確に撃ち落としていく。

     豪華客船サントアンヌ号が停泊する港町クチバシティ。レッドは3個目のバッチ、クチバシティジムへの挑戦のため郊外でポケモン達とトレーニングを進めていた。

    「OKだフシギソウ。少し休憩にしよう」

    「フシー」

     レッドは地面から突き出た木の根に腰を下ろし、フシギソウにポケモンフードを投げた。フシギソウは元気に口で受け取る。

     レッドの気分は期待で高翌揚していた。ニビのタケシ、ハナダのカスミ、二人共ポケモン達と強い絆で結ばれている素晴らしいポケモントレーナーであり、そのバトルは非常に心躍るものだった。

     クチバシティジムリーダーとはどんなポケモントレーナーなのか、どんな熱いバトルができるのか。今から楽しみで仕方がない。

    「わあ、すごい!」

    「ポケモンだぁ!」

    「ん?」

    「フシ?」

     レッドよりも背の低い男の子と女の子。二人はフシギソウの事を物珍しそうにキラキラとした目で見つめている。

    74 = 73 :

    「フシギソウを見るのは初めてかい?」

     レッドは優しく微笑んで二人に話しかける。

    「うん!」

    「ねえ、触ってもいい?」

    「ああ、フシギソウ」

     レッドが声をかけるとフシギソウが二人に近づいていく。二人は歓声を上げてフシギソウに手を伸ばして頭をさすった。フシギソウも嬉しそうだ。

    「ねえ、お兄ちゃんはポケモントレーナーなの?」

    「ああ。ジムバッジ8つ集めて出場できる、ポケモンリーグを目指してるんだ」

    「すごい! 今何個?」

    「今は二つ。これからクチバシティのジムに行くつもりだよ」

    「いいなあ」

    「私もポケモン欲しい……」

    「慌てなくても大丈夫さ。10歳になれば誰だってポケモントレーナーになれるんだ。君たちだってすぐに……?」

    「……」

     そこまで言って、レッドは二人の顔が沈んでいることに気づいた。レッドも戸惑う。

    75 = 73 :

    「旅の方、その子たちはポケモントレーナーになれないんじゃよ」

    「え」

     レッドたちから少し離れたところから、紳士服に黒のシルクハット、白い立派なひげにサングラスをかけていながら、丸々とした体で愛嬌のある老人が歩いてきていた。

    「あなたは……?」

    「失礼、わしはこの街に居を持つポケモンだいすきクラブの会長じゃ」

    「ポケモンだいすきクラブ?」

    「ポケモンが好きな者達が集まる集会のことじゃ。その子たちの親もポケモンだいすきクラブの会員なんじゃよ」

    「そんなクラブが……えっ、でもそれならなぜこの子たちはポケモントレーナーになれないんですか?」

    「……ポケモンだいすきクラブへの入会にはいかなる制限も設けておらん。ただポケモンが好きならば誰でも歓迎するクラブなんじゃ。じゃが……」

     老人がサングラスの奥に悲しさを臨ませる。

    「中にはポケモンを好きなあまり、ポケモンを戦わせるのを良しとしない者達もいるのじゃ。他人のポケモンでもバトルを見るだけで拒否反応をしめしてしまう。その子たちの親もな……」

    「……!……だからポケモントレーナーにはさせないと……!?」

     レッドは驚愕で目を見開き、固まってしまった。フシギダネと出会い、バトルを通して様々な人とポケモンと大切な絆を築き上げてきたレッドからすれば、この事実は晴天の霹靂だった。

    「ねえ、お兄ちゃん。ポケモンで戦うことってだめなことなの?」

    「無理やり戦わせることは、野蛮なことなの?」

    「え……」

    76 = 73 :

     二人の少年少女の純粋な視線が突き刺さる。会長もレッドを見ていた。

     レッドは目をつむり、心を落ち着かせる。そして湧き上がる自分の正直な気持ちを伝えた。

    「そんなことはないさ。俺とフシギソウは今まで様々なトレーナーと戦ってきたけど、戦わなかった方がよかったなんて思ったことはない」

     レッドがフシギソウを手招きし、フシギソウがレッドが差し出したてに頬を寄せる。

    「ポケモンは感情のある生き物。だからこそ共に心を通わせて自分たちが目指す高みに一緒に登ることができる。喜びも悲しみも分かち合い、辛くて諦めそうになっても自分の中の弱さに打ち勝ち、新しい自分に成長できる」

     あの人が最初に教えてくれた、ポケモントレーナーで最初に必要で、もっとも大切なこと。

    「熱いバトルを通して絆を深めることができる、それがポケモントレーナーのポケモンバトルなんだ!」
     
     二人の少年少女にレッドの熱が伝染したのか、二人は拳を握りしめて頬を緩ませわくわくしている。 

     老人は一度下を向き、なにか意を決したのかレッドに向き直る。

    「旅の方、その心意気を見込んで、一つ頼まれてはくれんか」

    「頼み?」

    「クチバシティのジムリーダーマチスは、戦争帰りのポケモントレーナー。戦いを冗長させるとして、最近うちの一部の者達と一悶着おきてしまってのう」

    「……それで、俺がなにを?」

    「クチバシティジムリーダーに挑むさい、マチスとトラブルを起こした者達を観戦させたいのじゃ」

    「え!? でもそれって」

    「ポケモンと人とはそれぞれに合った千差万別の付き合い方がある。ポケモンをだいすきと称する者達として、ポケモンバトルに好悪があっても理解はして欲しいのじゃ……」

    「会長さんは、バトルのことは?」

    「積極的に戦いはせんし、観戦する趣味も持っとらん。だがのう、ポケモンと人とが一つになれる舞台であるとは思うておる」

    「……」

    「君はポケモンと確かな絆を築いているようにわしは見た。どうか、ポケモンを愛するが故視野が狭くなった者たちに、あっと目を覚まさせるようなバトルを見せてくれんか」

    77 = 73 :

    (俺は……)

     レッドの脳裏に、穏やかな草ポケモン使いの淑女が浮かぶ。

    『ポケモンに一つ命令するのもこんなに難しいんだね。フシギダネと呼吸を合わせられない……』

    『なら諦めますか』

    『まさか。……でもフシギダネは、命令を聞くのが嫌なのかな』

    『最初から心を通じ合うことはそうありません。相手の気持ちを考え、そして自分の考えを伝える。通じるまで伝え合うことが肝要です』

    『通じるまで、か……。でも例え全部伝え合っても、考えが違ったら? 考えの違いで衝突することもあるんじゃない?』

    『結構なことじゃないですか。お互いの本音をぶつけ合わずに得た絆など、紙のように薄いものです。一体何を目指しているのか、目指しているものがぶれなければ、その道程で曲がりくねっても引き返しても、歩みは決して無駄なものではありません』

    『目指している、もの……』

     レッドの瞳を真っ直ぐに貫き、厳しさと優しさを伴った彼女の言葉を、レッドは心に刻んでいる。 

    『"その先にある喜びを、大切な仲間と共に"。……その心を忘れなければ、ポケモン達はきっと、応えてくれますよ』


    「……やります。俺と仲間で、ポケモンとポケモントレーナーとして、できることがあるなら」

    78 = 73 :

    今日はここまで。明日はクチバシティ後編です。

    79 :

    文章が洗練されてて凄い読みやすい

    80 :

     クチバシティジム、そこは電気ポケモン達の館。

     ゴミ箱に秘められた電磁ロックを解き明かした先に待ちかまえるは、ジムリーダーの中でも屈強な経歴を持つアメリカン。

    (元軍人……一体どんな……)

     レッドの短い人生経験では想像もつかない。文字通り命をかけて戦場を駆けたポケモントレーナーが、レッドの実力を量るために待ち受けているのだ。

     目に見えぬプレッシャーに耐え、ゆっくりと扉をくぐる。そこには……。

    「ヘーイ! コン、ニチハ! ミーがここのジムリーダーのマチスね! プアリトルボーイのチャレンジャーでもぉ、フゥルパワーネェ!」

    「……は?……はい……?」

     迷彩服の上からでもわかる分厚い胸板に大柄な体、四方に尖った金髪にいかつい顔。その全てに似つかわしくないハイテンションな笑顔で、マチスはグッと拳を突き出したポーズでレッドを歓迎した。

     だいすきクラブの会長から聞いた話から、もっと厳格な壮年の男性を想像していたのだが……。いや、見た目は割りと想像通りだが、纏う空気が斜め上に行っている。

    「オー、あれは……」

     マチスが観客席を見て目を細める。レッドも気づいた。ポケモンだいすきクラブの会長と大勢の大人達、そしてレッドに以前話しかけてきた二人の子供もいる。

    「お兄ちゃーん!」

    「頑張ってー!」

    「ああ!」

     はしゃぐ子供と笑顔で応えるレッドをよそに、他の大人達は皆一様に渋い顔だった。会長がどう言って連れてきたのかは知らないが、彼らはこの状況が面白くないのだろう。

    「マチスさん」

    「オー! ソーリーネ! ユーとのバトル、ミーもとっても楽しみネー!」

    「はい、俺もです。一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

    「モチロンネー!」

    81 = 80 :

    「マチスさんはどうして、バトルを嫌うあの人達をポケモンバトルに誘ったのですか? それが原因で喧嘩の一歩手前までいったと、会長さんから聞きました」

    「……」

     マチスの纏う空気から陽気さが消える。

    「ユーには関係ないネ」

    「!」

     マチスは別にレッドを睨みつけたわけでもなければ、語気を強めて言ったわけでもない。むしろ余計な事には首を突っ込むだけ面倒になるというような、気遣いすら感じた。

     しかしここで引くわけにはいかない。

    「俺も考えていました。もし俺と俺のポケモン達が続けてきたバトルが否定されたら、どんなに悲しいか。バトルを嫌う人たちにも考えがあるのはわかってる。だけど、俺の感情がどう動いてしまうのか想像もつかない。あの人達になんて言えばいいのか、答えがでない」

     レッドは声を張り上げる。観客席にも聞こえているだろう。
     
    「やめるネ。ボーイみたいなチルドレンは純粋にバトルを楽しめばいいネ」

    「俺は昔、無口で泣き虫だった。ずっと自分を変えたくても弱い自分に打ち勝つ勇気がなかった。そんなときフシギダネと出会って、ポケモンとの絆の大切さを教えてくれた人がいた。努力と研鑽の上に、人とポケモン二つの心を合わせたバトルの勝利が、新しい世界の扉を開いてくれた!」

    「……」

     観客からざわめきが聞こえる。マチスは笑顔を消し、レッドの言葉を待っている。

     レッドはフシギソウが入っているモンスターボールを握りしめる。

    「見方を変えれば暴力のぶつかり合い。だけど、バトルを通して得られる確かな光があることを伝えたい。言葉では言い表せない、心を震わせる光を!」

    「……ユーは本当にホットなポケモントレーナーネ。タケシとカスミの言うとおりネ」

    「え」

     レッドが疑問の声を上げるまもなく、マチスがモンスターボールを構える。戦場で好敵手と相対した時のような笑顔を張り付かせて。

    82 = 80 :

    「それじゃあ、エキセントリックなバトゥ! 見せてみるネェ! 電気を操るクチバシティジムリーダー、マチス!」

    「マサラタウンのレッド!」

    「GO! ライチュウ!」

    「行け! フシギソウ!」

    『バトル開始ぃ!』

    「そこまで言うならミーの一撃、耐えてみるネェ! ライチュウ! 10万ボルト!!」

    「ラーイィ!!」

     レッドが今まで見たことない痛烈な一撃。あまりの電撃の眩しさにレッドは目を細める。

    「フシギソウ!!」

    「フシぃ……!!」

     フシギソウの立っている場所、その横の地面にすざましい焦げ跡残っている。

    「なんとかダイレクトを避けたネ。だけど……」

    「よしフシギソウ、反撃だ!……えっ!?」

    「フっフシ」

     フシギソウの様子がおかしい、動きがぎこちなく反応が遅い。

    83 = 80 :

    「ミーのライチュウの10万ボルトは凄いパワーを持ってるネ! 足が止まれば、エレキトリカルカーニバルネ!」

    「まずい! フシギソウ! はっぱかったー!」

    「フッ……!?」

    (ダメだ! しびれて動けない)

    「今度は直撃ネ! ライチュウ! 10万ボルト!!」

    「ラー……イィ!!」

    「避けろ、フシギソウ!」

     無情だ。レッドの悲鳴は意味が無い。

    「フシィァァァ!!?」

     フシギソウに10万ボルトが直撃する。草タイプは電気技に強いとは言え、強烈な一撃にフシギソウの悲鳴が響く。

    「ああっ!」「フシギソウ!」

     観客席の二人の子供の声が木霊した。それだけじゃない。

    「一気にとどめね! ライチュウ! 10万ボルトワンモア!!」

    「くっ……フシギソウ! つるのムチ!」

     しかしつるはライチュウに伸びず、10万ボルトがまたもフシギソウに直撃する。

    「フシィィィ!?」

    (耐えてくれ! フシギソウ!……この声は!?)

    『……なんてかわいそう』『やっぱり野蛮ねバトルなんて』『会長に言われてきたが、これはよくない』

    「ほら二人共、帰るわよ。ポケモンが苦しむところなんて見てどうするの」

    「え……でも」

    「ん………」

    (レッド君……)

     会長は何も言わず、戦況を見つめている。

    84 = 80 :

    (違う……)

    「……悲しいけど、これもポケモンバトルネ」

     マチスの顔から好戦的な笑顔が消えていた。ただ、戦場で傷を負う相手を介錯するようにライチュウに命令を下す。

    (違う)

     ライチュウが帯電し、マチスの命令を待つ。フシギソウは動かない。

    (違うよなフシギソウ)

    「ジ・エンドネ。ライチュウ! 10万ボルト!」

     特大の電光がフシギソウへ走る。

    『おめでとうレッド君。こんな清々しいバトルは久しぶりだった』

    『中途半端な所であきらめちゃだめよ! レッド!』

    『"その先にある喜びを、大切な仲間と共に"。……その心を忘れなければ、ポケモン達はきっと、応えてくれますよ』



    (俺達のバトルはっ! なによりも強靭な……絆の証だあ!!)



    「……今だあ!! フシギソウ!!」




     フシギソウの眼がかっと開き、フシギソウの体から伸びていたつるのムチが脈動する。

    (ワッツ!? あの動きは何ネ!? ……あ!)

     フシギソウのつるのムチはしっかりと発動していた。しかし目的は攻撃ではなく、地面。地面に突き刺さったつるのムチが地表をすくい上げるように張り巡らされ、一気に跳ね上がる。

    (地面を、めくり上げる!!)

     つるによって繰り上がった地面がフシギソウの前面に展開され、電撃と相[ピーーー]る!

    『なっなんだ!?』『いつあんな命令をしたの!?』『あのフシギソウ、痛くないのか……?』

    「……すごい!!すごいよお兄ちゃん!フシギソウ!!」

    「こ、こら……!」

    「頑張れー!!」

     地面と電撃の衝突でライチュウとフシギソウの間に砂埃が舞う。レッドは畳み掛ける。

    「はっぱカッター!!」

    「フッシー!!」

    「ラィィ!?」

    「オーノー!?」 

     砂塵を切り裂き現れたはっぱカッターがライチュウに直撃する。

    85 = 80 :

    「フシギソウ!」

    「フシ!」

     それだけで二人は通じあっていた。ライチュウが怯んでいる隙にフシギソウがレッドのもとに駆け戻り、レッドは回復アイテムを施す。

    「卑怯とは言いませんよね?」

    「モチロンネ! 状況を見て的確にアイテムを使うのも、ポケモントレーナーネ!」

     ライチュウが体制を立て直すと同時に、マチスがレッドに笑顔でサムズアップする。

    「さあ、仕切りなおしだ! 勝つぞ! フシギソウ!!」

    「フシ!!」

    「迎え撃つネ! ライチュウ!」

    「ラァイ!」

    『なんて息のあった動きが……』『どうやったらあんなに分かり合えるんだ?』『戦っているのに、どうして』

    「楽しそうなのか、かな?」

    「え」

     連れてきた観客のつぶやきに、会長が答える。

    「傷ついても、倒れてもなお、フシギソウは前を向いて戦う。それは、レッド君が強制させているからじゃろうか」

     フシギソウとライチュウの技がぶつかる。二匹は、笑っていた。

    「皆、あの子、レッド君とフシギソウを見てどう思う」

    「……」

    「……かっこいい!」

     小さな男の子は、眼を輝かしている。

    「私も、ポケモンとあんな関係を築きたい」

     小さな女の子は、胸に手を当ててポケモンから目を離さない。

    「……わしもじゃ。ポケモンとトレーナー、共に頑張り、共に理解し、共に苦難に立ち向かう。そんな事ができるのは彼らが」

     戦う彼らが輝いて見える。

    「ポケモンが、大好きだからじゃろう」

    『……………!!!!』

    86 = 80 :

    「行けー!お兄ちゃーん!!」

    「フシギソウも頑張ってー!!」

     二人の子供の声援が、観客席から届く。

    「……ああ! やれるよなフシギソウ!」

    「フシ!!」

    「…………頑張れー!」

    (!!今のは!?)

     子供の声じゃない。この声援は……!?

    『頑張れー!』『そこだー!行けー!』『もっといいとこ見せてー!!』

    「レッドくーん! 頑張るのじゃあー!!」

     あの大人たちが、ポケモンバトルに反対していた大人たちが叫んでいる。会長まで。

    「……凄いね、ユーは」

     レッドは首をふる。

    「俺のフシギソウとあなたの素晴らしいライチュウの熱い闘志が、伝わったんです。彼らが傷つき、それでも立ち上がって見せる不屈の精神と頑張りが、暖かく熱を持った声援となって帰ってきた」

     ポケモン達が中央で対峙する。帯電するライチュウ、葉っぱカッターを蕾の発射台に備えるフシギソウ。

    「さあ、決めるぞ。フシギソウ」

    「フシ!!」

    「クライマックスね! ライチュウ!」

    「ラィ!」

    87 = 80 :

     戦いの中、ライチュウの位置取りは絶妙だった。フシギソウが追い詰められていたのは自分がめくり上げた地面の場所。土が柔なかくなっておりこれでは砂埃しかあげられない。

    「もう地面のバリアは使えないネ! ライチュウラストアタック! 10万っボルトォォォ!!」

     レッドも慌てない。フシギソウもしっかりと前を見据えていた。

    「はっぱ、カッタァァ!!!」

    「ノー!? はっぱカッターが曲がる!?」

     フシギソウが放ったはっぱカッターはライチュウの電撃には真向から当たらず、フシギソウの左右から弧を描くようにカーブしてライチュウに直撃した。

     しかし当然、フシギソウに10万ボルトが直撃する。

    「フシっ!?……フシィィィィ!!」

    「ラァァァァイ!!」

     悲鳴ではない、勝利を得るための戦士の雄叫び。痛みに耐えながら、フシギソウが、ライチュウが絶え間なく相手に攻撃し続ける。

    「ゴオォォォォォォ!!! ライチュウ!!!」

    「行けええぇぇぇぇ!!!」

     少年と少女は、この日を一生忘れないだろう。

    「凄い……」

    「これが、ポケモントレーナー……」

     決着がつこうとしている。

    88 = 80 :

     フシギソウがライチュウの10万ボルトに押され、後退している。

    「ライチュウ!! ユーアーザ・ベストネー!!」

    「フシギソウ……!!」

    「フシィ……!!」

     それでもフシギソウは、はっぱカッターのカーブを正確に制御して打ち続ける。

    (フシギソウの闘志は、決して諦めていない!! 俺がここでフシギソウの力になってやらなければ! なにか、なにか勝利の手立ては……)

     レッドは閃く。しかしこれは大きな賭け。失敗すれば均衡がやぶれ敗北は確実。しかしこのままでは。

    『やれる!!』

    (!!)

     幻聴か。いや。

    「……フシギソウ! つるのムチ!!」

    「ワッツ!?」

     信じられないことが起きた。フシギソウはライチュウの10万ボルトを受けながら、はっぱカッターを放ちながら、つるを勢い良く伸ばしてライチュウに叩きおろした!

    「ラ!?」

     ムチは正確にライチュウの脳天を叩き、10万ボルトの勢いが弱まる。そして、

    「ラァ……ィ」

     10万ボルトとはっぱカッターの放出の終わりはほぼ同じ。しかし地面に伏すライチュウと、悠然と立つフシギソウ。
     
     レッドは両の拳を天に突き上げて、感情を爆発させた。

    『ライチュウ戦闘不能! 勝者、挑戦者レッド!』

    89 = 80 :

     クチバシティジムのバトルスペース。今は回復させたライチュウと共に、マチスは観客達を招いてバッジの授与式を行った。

    「ナイスファイトネ! これがジムリーダーが認めた証、オレンジバッジネ! コングラッチュレーション!」

    「ありがとうございます……! やった……!」

    「わしからも言わせてくれ。おめでとうレッド君」

    「会長……!」

    「お兄ちゃん!おめでとう!」
     
     男の子と女の子もレッドに駆け寄ってくる。

    「けどミーもびっくりしたネ! あそこでつるのムチを使うなんて! ユーにはなにか確信があったノ?」

     レッドは気恥ずかしそうに答える。

    「フシギソウの、声が聞こえた気がしたんです。やれるって。今思えば、変な話なんですけど」

    「全然、変じゃないヨ!! それはユーとポケモンの心が通じあってる証、スペシャルフレンドなら当然ネー!」

     笑顔でレッドを称えるマチスに、会長が連れてきた大人の一人が近づく。

    「マチスさん、私達はあなたを誤解していた。あなたが話しかけてきた時、ロクに話も聞かずに敵視して……」

    「ミーの経歴を考えれば仕方ないね。でもミーはただ、最近ロケット団がポケモン泥棒を行ってるから、ポケモンをセーブするための講習に誘いたかっただけネ」

    「なっ……そうだったのか……。私達はそうとも知らず……」

    「お母さん、受けよう」

    「そうだよ。バトルのやり方くらい覚えとかないと、なにかあった時に守れないよ! 大切なパートナーなんだから!」

     二人の子供が親に訴える。いや、ここにいる全員に訴えていた。

    「! あなた達……そうね。そうよね」

    90 = 80 :

    「マチスさん」

     会長がマチスに話しかける。

    「ポケモンだいすきクラブを代表してお願いしたい。どうか私達に、大切なパートナーを守る術を授けてはくれまいか」

    「モチロンネ! バット、一つだけ条件ありまーす!」

    「条件とは……?」

    「ミーも、ポケモンだいすきクラブに入れてほしいネ! ミーはピカチュウがだーいすきネ!」

     後ろでライチュウがおいとツッコミを入れてる気がするが気にしないほうがいいだろう。

    「……っ。もちろんじゃ!」

    「イヤッホー!! じゃあさっそく、今日の午後からネー!」

    「それと、レッド君。本当にありがとう、心ばかりの礼に、これを……」

    「これは……!」

     レッドが受け取ったのはポケモンだいすきクラブの会員証。そしてもう一つは高級マウンテンバイクの引換券、レッドの年齢ではまず手が出せない代物だ。

    「ありがとうございます! でもこの引換券は……」

    「君とポケモンとの絆には、それ以上の価値があるとわしは思っているよ」

    「はい……ありがとうございます!」

    91 = 80 :

     クチバシティジムを出ると、レッドは旅支度を整えてクチバシティの端に来ていた。

    「もう、行っちゃうの?」

     見送りには少年と少女、そしてポケモンだいすきクラブの会長が来ている。

    「ああ、まだまだ新しいポケモンと冒険が待っているんだ。またクチバシティに寄ることもあるだろうから、その時は……」

    「違うよ」

    「え」

    「私達、こことは遠い場所の出身なの、明日、サントアンヌ号で帰っちゃう」

    「そうだったのか……。じゃあこれならどうかな」

     レッドが二人の手を握る。

    「俺はここで、誰よりも強いポケモントレーナーになって有名になる。そしたら君たちもポケモントレーナーになって名を挙げるんだ。そうすればどこに行ったってお互いの事がわかるし、会うことができるだろう?」

    「そっか」

    「うん、そうだね」

    「……っと。そいういえば二人の名前を聞いてなかったな。聞かせてくれないか?」

    「ブラック!」

    「私はホワイト」

    「ブラック、ホワイト。俺は絶対に、二人を忘れないよ」

    「「うん!!」」

    92 = 80 :



    「レッド君、ポケモンだいすきクラブは、いつでも君を待っている」

    「はい、また必ず伺います。会長もお元気で」

    「うむ」

    「ヘーイ! プアリトルボーイ!!」

     大声をあげながら走ってくるマチスは怖い。

    「マチスさん!?」

    「オーキド博士から伝言ネ! ニビシティの博士の助手に元に行って、届け物を取りに来て欲しいって言ってマース!」

    「ニビシティ!? 仕方ないか。少し遠回りになるけど……」

     レッドはタウンマップを開く。すると会長が指差し、

    「ニビシティならここからディグダの穴を抜けてすぐじゃ。それからハナダに行けば引換券の使える自転車屋がある。今ヤマブキへは通行止めになっているから、ハナダからイワヤマトンネルを通ってシオンタウンに行き、地下道からタマムシシティに行くのがいいじゃろう」

    「なるほど……ありがとうございます!……それじゃあ、行ってきます!!」

     レッドは会長、マチス、そして未来のポケモントレーナーに手を振って旅立つ。

     ポケモンを大好きな心と、熱い闘志をその胸に宿して。

    93 = 80 :

    今日はここまでです。明日はついにあの人メインで……
    >>79 ホントありがとうございます。

    なんとかこのペースで最後まで駆け抜けたい。

    94 :

    おつ

    97 :

    面白いよ
    続きに期待

    98 :

    いいなぁ
    今のところ登場人物が根が純粋な人ばっかりで安心して読める
    今後どうなるかわからんけど>>1の文章ならどんな展開でも楽しめそうだ

    99 :

     シオンタウン。そこはイワヤマトンネルの先にひっそりと軒を連ねる小さな町。

     目を引くのはカントー地方全体を見ても一二を争うであろう高さを誇る、ポケモンタワー。

    (タケシさんと特訓したり、カスミを自転車の後ろに乗せて遠乗りに行ったりで、妙に時間がかかってしまった)

     イワヤマトンネルを悪戦苦闘の末に突破したレッドは、自転車を降りてこの小さな町が放つ異様な雰囲気に戸惑っていた。

    (なんだか、寂しげなところだな……。とりあえず、今日はこの街で一泊しよう)

    「おや、旅の方かい」

    「!?」

     静かな町で不意に穏やかな声で話しかけられたために、レッドは珍しく体をびくつかせた。

     しかし見れば、話しかけてきたのはこれまた声と同じく穏やかそうな御老人。レッドは向き直り、

    「はい、マサラタウンから来たレッドと言います」

    「おや、マサラ……つい先日もマサラタウンからポケモントレーナーがこの町に訪れたよ」

    「え」

     マサラタウンのポケモントレーナー。レッドの頭に浮かぶのは一人しかいない。

    「その様子だと、君のお知り合いかな」

    「ええ多分。そのポケモントレーナーの名前って……?」

    「すまんねえ。その子は名乗らずにさっさと町を出て行ってしまったんだ。お礼を言いたかったんじゃが……」

    「その子って俺と同じぐらいの年頃で、茶髪でツンツンとした髪の子ではありませんでしたか?」

    「おおそうじゃ。その子の名前を教えてくれんか?」

    「……グリーンです。オーキド博士の孫の……」

     レッドは努めて落ち着いていった。レッドの心には、まだグリーンへの複雑な感情が残っている。

    100 = 99 :

    「おお、あれがユキナリの……。長く生きていると、不思議な事もあるもんじゃ……」

    「さっきお礼と言ってましたが、グリーンが何か?」

    「ふむ、そうじゃな。立ち話もなんじゃし、わしのポケモンハウスに案内しよう」

     ポケモンハウスとは、外から見れば一般的な住宅と変わらない。しかし中は、ポケモンたちが窮屈を感じずに動けるよう広く改造されている。

     家の中央ではニドリーノとコダックがのんびりと昼寝している。レッドは老人に案内されて椅子に腰掛けた。

    「わしはフジという。町の皆にはフジ老人と呼ばれているから、そう呼んでもらっても構わんよ」

    「はい。ここのポケモン達は……」

    「このポケモンハウスでは、捨てられたり傷ついたポケモン達の保護を行っているんじゃ。保護したポケモンの里親になってくれる者も探しておる」

    「そうなんですか……」

     ニドリーノとコダックが眼をこすりながら起き、レッドが物珍しいのか興味深そうに近づいてくる。

     レッドは微笑んでモンスターボールを取り出し、

    「遊んでおいで、フシギソウ、ラッタ」

     レッドが出した二匹のポケモンがニドリーノとコダックに近づき、友好的に鳴き声を出す。ニドリーノとコダックもそれに答え、4匹でじゃれあいながら家の中を駆けていく。


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