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    元スレエリカ「あなたが勝つって、信じていますから」

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    201 = 196 :

    しかし、レッドの起き上がりは早かった。動けないバタフリーを襲おうとしていたゴルバットの攻撃を、またしても庇う。

    今度は、踏みとどまる。

    「ぐっ……!!」

    「なっ……お前……なんで」

    レッドの全身が焼けるように痛い。しかし、レッドの足は止まらない。またしてもゴルバットの攻撃を、動けないラッタに覆いかぶさって庇う。

    「……ぐ……はは……」

    (この坊主……いっちまったのか?)

    「レッド……?」

    ナツメもレッドが分からない。そんなことはやめて逃げろといいたいが、レッドの突拍子もない行動に驚きの度合いの方強くなってしまった。

    サカキは、先程から動かない。

    レッドは、笑っていた。

    「痛い……痛いな……。こんな痛い思いをしながら、皆は今まで、俺の指示で戦ってくれてたんだな……。凄いよ……」

    (レッド……! あなた……!)

    ナツメの心が一気に締め付けられる。レッドの意図にやっと気づいた。レッドが袖に懸命に隠して使っている、キズぐすりに気づいた。レッドは勝負を諦めて自暴自棄になっているのではない。

    レッドは一瞬足りとも、目指す道から外れていない。

    (レッド……あなたは本当に……どんな状況でも、あきらめないのね……。私は……)

    なんて情けないことかと、ナツメの頬に涙が伝う。自分よりも年下の少年が、圧倒的な暴力の前でも膝を屈さない。

    (それに比べて私は……ロクに戦いもせず、敗北が決定した未来を受け入れて……このざま。ロケット団の内部に入って彼らを軟化させるなんて、なんて甘いことを……!)

    202 = 196 :

    ナツメが見た予知が、目の前で完成しようとしている。

    (だけど……、その先はせめて……、レッドとレッドのポケモン達を……救うことだけでも……)

    ナツメの首には相変わらずサカキのニドキングの爪。モンスターボールを投げた瞬間、その爪はナツメを襲うだろう。

    しかし、ナツメは覚悟を決めた。未来は変わらないかもしれない。抗うことはできないのかもしれない。

    だが、真のポケモントレーナーを見殺しになんて出来はしない。

    (……レッド、あなたを救う。ジムリーダーが膝を屈しても、あなたなら……。私の命に代えても、あなたを救う!)

    ナツメは自身のエスパー能力、テレパシーを使いボールの中のフーディンとバリヤードに命令を先送りする。

    あとは、ボールを投げるだけ。

    (レッド……。どうか、生きて!)

    ナツメは自身の首に食い込む爪を無視して、両手から2つのモンスターボールを投合した。現れたバリヤードとフーディンがレッドへと向かう。

    ナツメは瞼を強く絞り、最後の時を待つ。が、

    「え……?」

    いつまでも来ないニドキングの爪。ナツメが目を開けると、ニドキングは腕をおろしており、サカキは腕を組んだままレッドを眺めている。まるでそれ以外なんの興味もないように。

    (……今はレッドの方が先!)

    ナツメはレッドの元へ駆け出す。

    「レッド!!」

    ナツメのバリヤードがレッドたちの前に躍り出て、バリアーを展開する。フーディンはゴルバットをサイコキネシスで弾き返す。

    「なっ、ゴルバットかみつく!」

    「フーディン、サイコキネシス! レッド、返事をして! レッド!」

    203 = 196 :

    ラッタを守るようにして抱きしめていたレッドへ、ナツメが懸命に語りかける。

    「ナツメ……さん」

    「!! 良かった……!! ……フーディンと私の力を合わせてテレポートを使うわ。すぐにビルの外へ行くわよ」

    ナツメのテレポートは最終手段だった。これだけのポケモン達と共にテレポートを使えば、ナツメも消耗してろくに動けなくなるだろう。

    (だけど、今は逃げるしかない! サカキが動かないうちに!)

    それはごもっともだがレッドの考えは違った。

    「待って……ください。俺と、サカキのバトルは、決着が、ついてない……」

    「……っ!? 馬鹿な事を言わないで! 今そんな場合じゃ……」

    「……決着が、ついてないんです! 俺とポケモン達のバトルが……!」

    「!?」

    レッドの闘志に満ちた瞳に、ナツメは吸い込まれた。

    「お願いがあります、ナツメさん。俺の、ポケモンたちに……この薬を……」

    「…………」

    ナツメは迷った。だが、ここで彼の戦いを否定したら、いけないような気がする。

    「……わかったわ。任せて」

    バリヤードとフーディンが時間を稼いでいる間、ナツメはレッドのポケモン達に回復を施していく。ナツメが緊急用に取っておいた最高級品、かいふくのくすりも惜しみなく使った。

    (この子たちも、レッドと同じ……。どうして、こんな瞳ができるの?)

    レッドとそのポケモン達の、魂が燃えている。

    204 = 196 :

    「くそ、サカキ様! どうか援護を! 俺だけのポケモンでは……うわ!?」

    バリヤードがバリアーを解除し、攻撃態勢に写る。

    「いい加減に、しなさい! フーディン、バリヤード! サイコキネシス!」

    「ぐわああああああ!?」

    一点集中させた念力がゴルバットを吹き飛ばし、ロケット団員の男もそのゴルバットに巻き込まれて社長室の扉を壊しながら彼方に飛んでいった。

    ナツメはすぐさまサカキに向き直る。奴がその力をこちらに向ければ、ナツメも全力で反抗しなければならない。

    (レッドと私で勝てるかどうか……。いえ、今のレッドにやっぱり無理は……)

    ナツメのそんな思惑は、なんとか立ち上がったレッドの一言で却下される。

    「仕切りなおしだサカキ。お前もポケモンを回復させろ」

    「!?!?」

    「……本気かね。レッド君」

    「ああ……本気だ」

    レッドだけじゃない。先ほどまで倒れ伏していたフシギソウ、ピジョン、ギャラドス、カラカラ、ラッタ、バタフリーが、傷こそ治療されたものの疲労困憊の体で立ち上がる。

    そして、例外なく戦意で満ちている。

    「レッド……」

    ナツメは呆然と眺める。

    (なぜこんな瞳ができるの? 人も、ポケモンも!)

    サカキが組んでいた腕をとき、自身のポケモンたちを全て出して懐からかいふくのくすりを取り出す。

    205 = 196 :

    「レッド君、どうしてそこまで君はポケモンバトルにこだわる。君自身骨が折れているかもしれない体で、どうして中断されたバトルにこだわる?」

    レッドとレッドのポケモン達の眼光は、全てを圧倒していた。

    「俺がポケモントレーナーだからだ。信頼できる仲間たちと共に、正々堂々と戦った先にこそ、本当の勝利を得る事ができるからだ。俺の魂に刻まれた想いだけは、例えどんな状況であろうと、例え相手が悪の根源であろうと、変わりはしない」

    ふらつくレッドの体を、ナツメが慌てて支える。レッドはありがとうとナツメへ微笑む。

    「レッド……、せめて、あなたをこのまま支えさせて。倒れないように……」

    ナツメの涙が被った願いを、レッドは優しく受け入れた。

    サカキがポケモンの回復を完了させる。

    そして初めて、笑顔をなくしてレッドに対峙する。

    「……レッド君。私は君を見誤っていた。君は私の片腕候補では決してない。今持てる私の全てを持って君を敗者に落としめなくてはならない、私の敵だ」

    レッドは笑った。その敵意、バトルでもってサカキの全力を後押しするならばこれ以上のことはない。

    最後に、レッドは振り返って自らのポケモン達を見渡した。

    「皆、行けるか?」

    「グオオオオオオオオオ!!!」

    一際声量があるギャラドスの雄叫びが響いたが、レッドの全てのポケモンが沸騰する激情で叫んでいる。

    皆思いは同じ、正々堂々と戦い、勝つ。

    206 = 196 :

    「レッドのポケモンが戦闘不能と判断したら、私のバリヤードがバリアーを張って、フーディンで回収するわ。両者異論はないわね」

    「いいだろう」

    「ありがとうナツメさん。バトル再開だ。行け! バタフリー!」

    「行け、ニドリーノ」

    「バタフリー。っ……サイケっこうせん!!」

    声と共にレッドの全身に激痛が走る。しかし倒れる訳にはいかない。

    「ニドリーノ、きあいだめ」

    「バタフリー、もう一度だ!」

    (すごいなバタフリー。キャタピーの時はあんなにちっちゃかったのに……本当に強くなったな)

    「ニドリーノ! つのでつく!」

    サカキの采配は全く曇らない。ニドリーノがサイケこうせんを耐え、バタフリーが息をついた瞬間渾身の一撃を与える。

    バタフリーの急所にあたり、バタフリーは一気に吹き飛んで地面を転がる。ナツメがすぐさま判断する。

    「バタフリー、戦闘不能」

    レッドには見えた。バタフリーが最後、確かに笑った。

    (お前の想い、無駄にはしない!!)

    「行け! ピジョン! 空をとぶ!」

    ピジョンの突撃をニドリーノが迎撃する。ニドリーノの角がピジョンに迫るが、ピジョンはすんでの所で体をずらし、ニドリーノを弾きとばして戦闘不能に追い込む。

    「戻れニドリーノ。む」

    サカキの手が止まる。レッドのピジョンが光り輝いている。

    現れたのはポッポの最終進化系、ピジョット。優雅な羽ばたきとともに、高らかに叫ぶ。

    (なんだポッポ。そんなに綺麗だったのか……)

    207 = 196 :

    「行け! サイホーン」

    サカキは動じない。岩タイプとひこうタイプの激突、その相性を遺憾なく発揮してサカキは肉弾戦をものにした。

    サイホーンとピジョンとのお互い渾身の力込めた正面衝突は、サイホーンの硬い体にヒビが入ったものの、ピジョットは力を使い果たして倒れる。

    「ピジョット、戦闘不能」

    「行け、カラカラ。ホネこんぼう!」

    カラカラはサイホーンの突進を読んでかわし、ピジョットがヒビを入れた場所を正確に打ち砕く。サイホーンは唸り声を上げて倒れた。

    サカキがサイホーンを戻す。そして、カラカラの体が光り輝く。

    (悲しみを乗り越えたお前は、冷静に状況が見る事ができる勇者だ。お前の力、存分に見せてくれ! ガラガラ!!)

    勇敢に自身を守った母と同じ姿、ガラガラは溢れ出る闘気を雄叫びに変える。

    「行け! ガルーラ!」

    「ガラガラ、ホネブーメラン!」

    ガラガラがガルーラへホネーブーメランを投合する。

    「二度同じ手は通用しないぞ。……なに?」

    サカキの予想に反し、ガラガラは投げたあとすぐにガルーラへ走る。ガルーラはホネーブーメランをかわし、ガラガラに肉迫する。

    「よけろ! ガルーラ!」

    カーブして後ろから戻ってきたホネブーメランをガルーラが身を捩ってかわす。しかし、ガルーラが避けた所でガラガラが飛び上がり、ホネブーメランを片手で受け取る。

    「ホネこんぼう!」

    そのままガラガラはガルーラへの脳天へと振り下ろす。しかし、サカキのガルーラは真剣白刃取りでホネこんぼうを受け止める。

    「れんぞくパンチ!」

    ガルーラが手を離し、中空のガラガラにパンチのラッシュを浴びせた。

    「ガラガラ、戦闘不能」

    208 = 196 :


    「行け、ギャラドス!」

    (ガラガラのホネこんぼうと今のラッシュで、ガルーラの拳はもう使えんな。だがガルーラにはまだ牙がある。そして!)

    「ギャラドス! 噛み付く!」

    「ガルーラ! 噛み付く!」

    (ギャラドス! お前は進化する前から勇敢な戦士だった! お前の勇猛な姿は、俺をいつだって勇気づけてくれた!)

    三度のかみつきあい。顎の力はギャラドスに分があり、今ガルーラは拳を封じられている。

    「そのまま押し切れるぞ! ギャラドス!」

    いや、ガルーラに拳はあった。ガルーラの腹袋の中に。

    「ガルーラ……れんぞくパンチ!」

    腹袋の中の子ガルーラが雄叫びを上げる。そして母に変わりギャラドスへ、拳、拳、拳、拳のラッシュ。

    「ガルガルガルガルガルガルガルガル!!」

    マシンガンのような子ガルーラのラッシュがギャラドスの首裏を殴り続ける。ギャラドスの顎が、開いた。

    「トドメだ。ガルーラ、そのままかみ砕け!」

    「ギャラドス! バブルこうせん!」

    ギャラドスが倒れ伏す直前、バブルこうせんでガルーラの脚をすくった。

    ガルーラの戦意はまだ途切れていないが、膝が震えている。

    「ギャラドス、戦闘不能!」

    209 = 196 :

    「行け、フシギソウ!」

    フシギソウとガルーラは一切の迷いなく駈け出し、お互いの距離を詰めていく。

    しかしガルーラは途中で脚がおぼつかなくなり、バランスを崩す。

    「フシギソウ! つるのムチ!」

    「ガルーラ! かみつく!」

    口を開けて前傾姿勢になったガルーラの足を、フシギソウはつるで正確に掴んだ。そして自身はサイドステップしてガルーラの牙を避ける。

    ガルーラは前のめりになったまま転ぶ。

    「フシギソウ、しびれごな!」

    「ガルーラ!」

    (しびれて動けんか……)

    「フシギソウ! ソーラービーム!!」 

    ガルーラが動けないところを、フシギソウは蕾をガルーラの顔の前へと持って行き、0距離でソーラービームを炸裂させた。

    「戻れ、ガルーラ。……久々だよ。私の本当の手持ちを使うのは、行けニドキング!」

    悠然と立つニドキング。

    対して、ポケモンとして最後のピースを得たフシギソウが光り輝きながら、背の花を開かせる。

    (これが……ポケモンとトレーナーの持つ力……)

    ナツメは手が震えていた。恐怖ではない、魂を震わせる何かによって。

    (行こう、相棒。どこまでも!)

    「フシギバナ、勝つぞ!」

    「バナアアアアアア!!」

    210 = 196 :

    お互い最後のポケモン。奇しくもレッドとサカキの考えは一致していた。

    小細工一切なし、今自分の相棒が放てる最高の技で相手を葬り去る。

    フシギバナの花の中心に光が集中する。ニドキングの角が緩やかに回転し始め空間を振動させる。

    二匹とも、主の考えとシンクロしていた。

    「フシギバナ!!」

    「ニドキング!!」

    お互いに手をかざす。勝利を信じて。

    「ソーラー! ビームウウウ!!」

    「つのドリル!」

    フシギバナの大輪から放たれた煌々と輝く太陽の光。ニドキングは一歩も引かず、その光を超速回転する角で受け止める。

    「行けええええ!!!」

    「くっ!!」

    ニドキングが角でソーラービームを受け止めながら、ゆっくりと一歩ずつ地面にヒビを作りながらフシギバナに近づいていく。その角でフシギバナを貫くために。

    対して、フシギバナのソーラービームは輝きを増すばかりだった。ニドキングの角へと放たれるビームが時をおう毎に太さを増していく。

    しかしニドキングもひるまない。角をさらに高速回転させて、放たれるソーラービームを拡散させる。拡散したビームが放射状に広がって部屋の壁、天井、窓、床を破壊していく。

    「レッド!!」

    ナツメがたまらず叫ぶ。このままではビルが持たない。

    だが、遅かった。

    「!?」

    すさまじい轟音と共に、レッド達が立っていた床が大きく波打ち、ひび割れる間もなく完全に崩れ去る。天井も落ちてきた。

    ニドキングへと向かっていたソーラービームの軌道が逸れてビルに風穴を開ける。

    211 = 196 :


    「サカキ!!」

    レッドは中空に放り出されながら、瓦礫に消えていくサカキとニドキングに叫ぶ。

    「勝負はおあずけだな。待っているぞ!」

    サカキはそうレッドに叫んだ後、崩れ落ちる瓦礫で見えなくなった。

    レッドはその一言を聞いて、緊張の糸が切れた。

    (皆……今度は絶対に、勝とう……)

    レッドは浮遊感を気にする間もなく、意識を闇に沈ませていく。

    しかし、最後に頼りがいのある綺麗な声を聞いた。

    「レッド!! フーディン力を貸して……! テレポート!!」

    212 = 196 :

    ヤマブキシティ。ロケット団によって封鎖されていたこの街は、一人のリザードン使いの通報によって、各地のジュンサーとジムリーダーが包囲していた。

    タケシとカスミもヤマブキシティの北から進入し、逃げ出してきたロケット団達を捕らえるのに協力している。

    しかし、突然シルフカンパニーから光の筋が天に伸び、轟音ともに崩れ去っていくのを二人は目撃する。

    「なにが起こっているんだ……!?」

    「早く! タケシ! あそこに向かうわよ!」

    「待てカスミ危険だ! おい!」

    シルフカンパニーへと走りだすカスミ。タケシも追うしかない。

    「あれは……」

    西から駆けつけたジムリーダーエリカも、シルフカンパニーから伸びる光を目撃していた。草ポケモン使いの彼女は、あれがなんの光がすぐにわかった。

    (レッドさん……!!)

    彼女は走る。胸に宿るは確信と焦り。なにか、いやな予感がする。

    (ここは……一体……)

    ナツメは目を覚ます。体の節々が痛いが、動けない程ではない。また、やけに回りが暗いことに気づいた。

    (どこかの……洞穴? レッドたちは!?)

    無我夢中で行った最後のテレポート。ここがどこかもわからないが、レッドたちのテレポートがうまく行ったかも確信が持てなかった。

    だが、ナツメは気がついた。やけに体が重いと思ったら、レッドがナツメの上にのしかかって気絶している。レッドとナツメのポケモンたちも傍らにいるようだ。

    「レッド……息、あるわね。よかった……」

    ナツメがレッドの口に手を当てて確認し、安心する。また、少し離れた場所に光があるのにも気づいた。外は遠くないようだ。

    (でも動ける状態じゃないわね。なんとかして外に助けを……)

    213 = 196 :

    「ラッタ!」

    「! あなた……」

    ナツメが鳴き声の方を振り向くと、レッドのラッタが光がある方角から駆けて来た。サカキとのバトルでは出番が来なかったために、余った力で回りを偵察してきてくれたようだ。

    そして、ラッタの背後に迫る黒い影。

    「ゴルバッ!!」

    「!?」

    突如としてゴルバットがナツメ達の前で羽ばたく。ナツメは戦慄した。まさか、あのロケット団員が……!

    「あれ……このゴルバット……」

    「レッド! 気がついたのね!」

    レッドはナツメに支えられながら体を起き上がらせる。レッドはゴルバットの頭を軽く撫でる。

    「オツキミ山の時の……。助けに来てくれたんだ」

    レッドは微笑む。そして、光の方から声がした。

    「おーい! ジュンサーさん来てくれ! 俺のゴルバットが見つけた。おーい!」

    徐々に声の主の顔が鮮明になる。

    「オツキミ山の時ぶりだな少年! まさかとは思ってロケット団用の秘密通路をあたってみたが、大当たりだ!」

    「いい、ゴルバットですね。あの時のズバット……」

    「ああ。俺もロケット団から足を洗って、今回ジュンサーに協力してたんだ。ロケット団員だけが知ってる秘密通路はいくつもあるからな!」

    そして多くのジュンサー達がレッド達の元に駆けつける。レッドもナツメも、やっと本当の意味で安心した。体から力がどっと抜ける。

    「ラッタ、よくやってくれたな……」

    レッドがラッタを撫でると、ラッタも心からホッとした顔でレッドに身を任せる。

    「ナツメさん、ありがとう。あなたがいてくれて、本当によかった」

    レッドも気を失う前の脱力感に身を任せ、ナツメにもたれかかって顔を寄せた。

    ナツメはそんなレッドに、微笑みながら涙を流す。

    「バカ。私にお礼なんて言っちゃ駄目よ……でも、お疲れ様。格好良かったわ」

    ナツメは自身の予知を初めて覆した存在をそっと抱き寄せ、腕の中のレッドの頬に口付ける。

    少年はポケモンたちと共にやっと、休息を得た。

    214 = 196 :

    今日はここまで。明日でヤマブキ編終わりの予定です。

    215 :


    少年の心は時として大人に伝播する……ちょっとずつサカキも変わりだしてきたね

    216 :


    追いついた…このクオリティで毎日続けられるのは凄いわ

    217 :

    やばい。俺が今まで見たポケモンssでNo1だわ。
    1乙!毎回楽しませてもらってるよ!

    218 :

    レッドが目を覚ましたのは、白い病室。

    体がひどくだるい。しかしポケモン達の事が頭に浮かび、ゆっくりと体を起こそうとする。

    「おはようレッド。無理しない方がいいわ」

    「! ナツメさん……」

    レッドが病室のドアへ顔を向けると、ちょうどナツメが入ってきたところだった。

    「あなたのポケモンは皆無事よ。安心して」

    「!……よかった。そうだ! 人質に取られていたポケモンは!?」

    「私も気になってたんだけど、前にグリーンがフレンドリィショップの在庫を回収しに来てたでしょ? あそこに混ざってたみたいなの。持ち主への返却は昨日までに終わったわ」

    「……そうなんですか。グリーンが……あれ?」

     椅子に座りながらレッドのベッドへ突っ伏している誰かがいる。レッドが起き上がった際に毛布が被ってしまったのだろう。

    (誰だ……?)

    レッドはゆっくりと毛布をめくる。すると現れたのは、タマムシの淑女。

    「エ……エリ……!?」

    驚きの声を喉で飲み込む。エリカは眠りが深いのか、規則正しい静かな寝息を立てながら安らかな寝顔をレッドに晒していた。

    「あなたが入院してから一時もここを離れなかったのよ。あとでお礼を言っておきなさい」

    「……ええ」

    レッドの手がエリカの頭を優しく撫でる。エリカが少し微笑んだ気がした。ナツメが茶化すように笑う。

    「レッドも今は体をゆっくり休めて。あなたに面会したい人が大勢いるわ」

    「わかりました。ナツメさん、俺のポケモン達は……」

    「すぐ持ってくるわ。あなたの新しいモンスターボールに入れてね。……どうしたの?」

    「いや……」

    レッドはベッドに体を預けて天井を見る。

    (グリーンにも助けられちゃったな。それに、あの時のリザードン……。それに、サカキ)

    脳裏に浮かぶは果てしなき強者。

    もっと強くなりたい。レッドは決意を新たにしながら、来てくれたエリカにお礼を言おうと彼女の覚醒を待つ。

    219 = 218 :


     その時は程なく訪れた。

    「ん……あれ……私……」

    「おはよ、エリカさん」

    「レッ……!?」

     レッドの声掛けと同時にエリカがすぐさま顔を上げる。

     エリカは涙を耐えている顔で、ゆっくりレッドの顔へと両手を伸ばして頬を包む。

     そして顔を近づけていき、頭を前に倒してレッドと額を合わせて目を瞑り、微笑んだ。

    「本当に……もう……。心配したんですから……」

    「ごめんなさい……。ありがとうエリカさん。看病してくれて……」

     レッドもエリカの頬へ手を伸ばし、エリカの瞳からこぼれた涙を指で拭う。

     エリカも耐え切れなくなったのか、レッドが怪我をしている部分を刺激しないように、ゆっくりと抱きしめる。

    「あなたが目を覚まさなかったら……! こんな再会、もう二度とごめんですよ……」

     エリカがレッドの肩へ顔をのせ、レッドに頬ずりするように首を傾ける。

    「うん。……約束します」

     レッドもエリカの背へ片腕を回す。

    220 = 218 :

     ちなみにナツメが部屋の隅にいた。

    (…………むう)

    「ごほんっ」

    「「はっ!?」」

     ナツメの咳払いで二人が顔を赤くしながら素早く離れる。

    「そろそろ皆を呼んできてもいいかしら?」

    「は、はい。よろしくナツメさん」

    「ええ、私も後で来るから。またね。そうだレッド」

    「はい?」

    「レッドが気を失う前にしたあれ。私のファーストキスだから。んっ」

     ナツメはウインクしながらレッドへ投げキッスして退室した。

     レッドが呆然と見送る。エリカの顔が見えない。

    「……事情を聞かせていただいても? レッドさん?」

    「い、いや待って!? 一体何のことだか……!?」

    「女性の唇を奪っておいて、知らぬふりをするのですか?」

    「エ、エリカさん! 本当になんのことだかわからないんだ! 信じて!」

    「つーん」

    221 = 218 :

     閑話休題。レッドの面会者は多種多様だった。

    「レッド君、少し無茶をしすぎだぞ」

    「そうよ! もう、心配させないでよ……バカ」

    「ありがとう、タケシさん、カスミ」

    「ミーもいるよ! ボーイは本当にデンジャラスね!」

    「はは、すみませんマチスさん」

     ジムリーダー達。彼らが集まったのはヤマブキシティを包囲してロケット団を捕らえるためだったが、奇しくも全員レッドが戦ってきた者達だった。

     タケシが安心したように微笑み、カスミはレッドを心底心配している顔でレッドの手を握る。マチスだけはレッドの勇気をたたえているようだった。

     そして次に訪れたのは、ヤマブキの空手王達。

    「すまなかったあああ!!!」

     見事な五連土下座だった。レッドも乾いた笑いをするしかない。お礼にと格闘道場免許皆伝の証であるポケモン、サワムラーかエビワラーを受け取ってくれとせがまれたが、レッドはそのポケモンを使ってヤマブキシティを守ってほしいとやんわりと断った。空手王達はレッドの一言で男泣きし、医者と看護婦によって強制退場させられた。

     そして次に訪れたのは、シルフカンパニーの社長と社員達だった。

    「ご、ごめんなさい! 俺のせいで、ビルがあんなことに……!!」

    「いやいや。君の活躍のおかげで、ヤマブキにいるロケット団が壊滅したとグリーン君から聞いたよ。ビルはまた立て直せばいい」

    「グリーン!? どうしてグリーンのことを社長は……」

    「在庫をとりかえしてくれるように頼んだのは私なんだよ。ビルが占拠されたとき、ナツメさんとジムトレーナー達、そして空手王達が社員の逃げる時間を稼いでくれてね。私もその隙にフレンドリィショップに避難して、店員に身をやつしてロケット団の目をくらませていたんだ」

    「成る程……」

    「これは心ばかりのお礼だ。是非受け取ってくれ」

    「……マスターボール! こんな貴重なものを……!!」

    「ポケモンアイテムはトレーナーに使われてこそだ。君のこれからの良き旅路を祈っているよ」
     
     レッドは深々と頭を下げると、社長は朗らかに笑いながら去って行った。

    222 = 218 :

    「さて、皆さん出て行かれましたね。とりあえず今日は私達が最後です」

    「そうね」

     今部屋にいるのはエリカとナツメ。しかし甘ったるい雰囲気は一切ない。

     真面目な顔をしたエリカが話を切り出す。

    「レッドさん。怪我をしている所恐縮ですが、正直に言いますね。私は……あなたを病院で見た時、身も心も凍る想いでした。あの時別れてから、こんなにも早く、こんな形で再会することになるなんて……」

     レッドもエリカの気持ちがわかる。故に、彼女を心配させてしまった申し訳ない気持ちと、自分の実力のなさが情けなかった。

    「心配かけて、本当にごめんなさい……」

     レッドも頭を下げて謝罪する。そんなレッドに、ナツメが助け舟を出す。

    「エリカ、レッドがこんなことになったのは、私が……」

    「そのことについては、特に怒りはありません。ただ一つ別に、私がナツメさんに怒っていることがあります」

    「? それは……?」

     ナツメには予想がつかない。

    「ナツメさん。ポケモン協会に辞表を出しましたね」

    「!」

     レッドが目を見開いてナツメを見つめる。

    「……当然よ。私は街のジムリーダーでありながら、誰よりも早くロケット団に膝を屈した。それだけでなく、レッドを、こんな目に合わせてしまった……!」

    「そんな、ナツメさん!! 俺は!」

    「レッドさん?」

     エリカの笑顔でありながら語気のこもった声にレッドが押し黙る。

     しかし、エリカはふっと表情を柔らかくして言葉を続けた。

    「その辞表は私がポケモン協会に言って握りつぶしてもらいました。ナツメさんには追って数日の謹慎処分がくだるでしょう」

    「エリカ!? 私はもうジムリーダーにふさわしくなんてっ」

    「少し黙ってください。レッドさん、ナツメさんはレッドさんに対して罪の意識を感じています。レッドさんはどんな償いをしてほしいですか?」

    「償いなんて……あ」

    223 = 218 :

    (そういうことか……)

     レッドはエリカの考えを理解した。

    「それじゃあナツメさん、俺と今度ジム戦してください。全力でポケモンを操る元気な姿を見せるのが、俺にとっては最大の償いになります」

    「……馬鹿。いえ、本当の馬鹿は、私ね……。わかったわ、レッド。ありがとう……」

     今までで一番の綺麗なナツメの微笑みをレッドは見た気がした。レッドもつられて微笑む。

    「……レッドさん、私からは最後に一言」

    「は、はい!」

     急にまたエリカの語気が強くなった。レッドは思わず背筋を伸ばす。

     しかし、エリカは目を閉じてレッドの手を両手で包むように握り、自身の顔まで持ってきて鼻と唇を軽くレッドの手の甲につける。

    「……どんなときでも、無事に帰ってきて。元気でいてください。あなたの体は、決して一人のものではないのです」

    「……はい……!」

    「……はい、終わり。レッドさん。それじゃあ私はタマムシジムに戻ります。いつまでも空けてはいられないですから」

    「はい、また」

    「ええ、また。……ナツメさん」

     エリカは去り際、ナツメの耳元でつぶやく。

    「譲る気は毛頭ありませんので」

    「!?」

     ナツメが驚いて振り返るが、エリカは気にした風もなく病室を去って行った。

    「どうしたのナツメ」

    「……いえ、なんでもないわ。レッド、私の謹慎が終わる頃には、体治っているといいわね」

    「もちろん! ナツメさんとのバトル、楽しみですから!」

    「ええ! 私も、とっても楽しみ……」

     レッドとナツメが二人で笑いあう。ナツメは一つ、心に決めた事がある。

    (楽しい未来は、予測できないからこそ、ね)

     数週間後、レッドは退院と共に向かった先は……。

    224 = 218 :


    「おーす! 未来のチャンピオン! ここのジムリーダーは……っていう必要はなさそうだな! 奥で待ってるぞ!」

     ヤマブキジムの受付兼案内人が笑顔でレッドを見送る。

     レッドがワープゾーンに翻弄されながらもたどり着いた先、そこには……。

    「ようこそ。私はジムリーダーのナツメ。あなたが来ることは既にわかっていたわ……なんてね?」

     ナツメが首を傾げながらレッドに微笑む。レッドは帽子をかぶり直し、好戦的な笑みをナツメに向ける。

    「それじゃあ、俺が今から何をするかもわかりますか?」

    「ええ、もちろんわかるわ。でもそれは、私がエスパー少女だからじゃない。私が、ポケモントレーナーだから」

    「……行きます!、マサラタウンのレッド!」

    「エスパータイプを司るジムリーダー、ナツメ!」

    『バトル開始ィ!』

    「行け、ラッタ!」

    「行きなさい、ユンゲラー!」

     心地良い高揚感で体が軽く感じ、自然と声がはずむ。レッドとナツメから溢れ出る熱くて楽しい感情が、二人のポケモンにも伝染する。

    「ユンゲラー、サイケこうせん!」

    「ラッタ、でんこうせっか!」

     ユンゲラーがテレポートで移動しながらサイケ光線を放つと、ラッタも負けじと高速移動してかわしていく。

    (レッド……。サカキと戦うあなたは、逞しくも危うく見えた。そして、対峙して初めてわかる事が一つある。あなたの純粋な魂は、戦っている相手ですら熱くさせる)

    「負けるなラッタ! ひっさつまえば!」

    「ユンゲラー、サイコキネシス!」

     ラッタのひっさつまえばがユンゲラーにクリーンヒットするが、ユンゲラーも苦い顔しながら最後の力を振り絞りサイコキネシスをラッタに当てた。

    『ラッタ、ユンゲラー、戦闘不能!』

    225 = 218 :

    「戻れラッタ。行け! ガラガラ!」

    「行って、バリヤード! さすがねレッド」

    「ナツメさんこそ! でも俺も負けません!」

    (私、笑ってる。ポケモンバトルを笑いながらできるなんて、思っても見なかった……)

     ナツメにとって、未来予知は絶対だった。しかしもう違う。予測できない勝負がこんなに楽しいなんて知らなかった。

     そして、それを教えてくれたのは目の前の少年。

    「ガラガラ、ホネこんぼう!」

    「バリヤード、バリアー!」

    (バリヤードの考えていることが伝わってくる。エスパーじゃない、今まで共に過ごしてきたからこそわかる。心の繋がり……)

    「バリヤード、サイコキネシス!」

    「今だ、ホネブーメラン!」

     バリヤードが攻勢に移ったのを見計らい、ガラガラはバリアーを迂回するようにカーブをかけてホネブーメランを投合する。 

     しかし、投げた時にはバリヤードのサイコキネシスがガラガラに届いていた。

    「ガラ!?」

     しかし、ホネブーメランもすぐにバリヤードの後頭部に直撃する。

    「バリ!?」

    『ガラガラ、バリヤード、戦闘不能!』

    226 = 218 :

    (羨ましいな……。レッドはこんなバトルを、ずっと前から知っていたのね)

    「さあ、これが最後よレッド。用意はいい?」

    「もちろん! 行けギャラドス!」

    「行きなさい! フーディン! サイコキネシス!」

    「ギャラドス、バブルこうせん!」

     フーディンが速攻でギャラドスを削っていくが、ギャラドスは持ち前の体力で耐える。ギャラドスの攻撃は当たれば、防御の低いフーディンを一撃で倒せる威力がある。

     ナツメはそれがわかっているから、万全の策を取る。

    「テレポート。そう、その調子よ」

    「くっ! ギャラドス、バブルこうせん!」

     ヒットアンドアウェイのフーディンを、ギャラドスのバブルこうせんが追う形。

    (このまま行けば、ギャラドスを削りきれ……あっ!)

     ナツメがレッドの策に気づいた時にはもう遅かった。バブルこうせんの泡がバトルフィールドにとどまり、フーディンの動けるスペースがなくなってきている。

     テレポートとはいえ、泡がまとわりつけば行動が遅くなるのは必定。

    「ギャラドス、かみつく!」

    「!? テレポート!」

     フーディンの動きが遅くなり、すんでのところでギャラドスのかみつきをかわす。しかし、慌てたフーディンはテレポートする場所を誤った。

    「フッ!? フー……!!」

     フーディンがテレポートしてしまったのはフィールドの泡溜まり。体にまとわりついて次の行動が遅れる。

    「たたきつける!」

     レッドのギャラドスも、今度は外さなかった。

    『フーディン、戦闘不能! 挑戦者レッドの勝利!』

    227 = 218 :

     バトルが終わり、お互いのポケモンを手元に戻す。

    (負けちゃった……)
     
     しかし、ナツメの心には涼やかな風が吹いている。一度目をつむって感慨にふけった後、レッドへと近づいてく。

    「バトルありがとうございました」

    「ええ。私も楽しかったわ。それじゃあ、はい。ゴールデンバッジ。つけてあげるわ」

    「わっ」

     ナツメがレッドの上着を軽く持ち上げ、ゴールデンバッジをつける。

     つけ終わると、また二人向い合って微笑みあう。

    「ねえレッド。もし助けが欲しかったら、なんでも言って。レッドのためなら、どこへだってすぐに駆けつけるわ」

    「ありがとう、ナツメさん。それじゃあもしものときは、頼りにさせてもらいます」

     残念ながらレッドは女性の魅力についてはわかっても、自分自身が色恋に積極的になるにはあと少し年齢が足りないようだった。

    (あら。でもこれなら、私にも……。ファッションとか気をつけた方がいいわよね……)

    「そういえば、あなた本当に覚えてないの?」

    「? なにをですか?」

    「……シルフカンパニーの時、ロケット団の秘密通路であなたが気を失う前の事……」

    「……?」

     レッドはキョトンとしている。本当に覚えてないようだった。

    (レッドって天然ジゴロ……? まあ、いいわ)

    「そう、じゃあ今度は忘れないでね。私の、感謝の証なんだからっ」

    「え、わっ!?」

     ナツメがレッドを抱き寄せ、レッドの頬には……。

    「へくちゅっ。あら……風邪かしら?」

     タマムシの淑女も、ただ想い人を待つだけではまずいかもしれない。 

    228 = 218 :

    ヤマブキ編終わりです。明日からセキチクシティ編です。

    >>215
    書いてる側としては一番動かしにくいんですけどね。なに考えてんだろこの人。

    >>216
    ありがとうございます。
    日更新でどこまでできるかなって思いで書き初めたので、その言葉はやばいす。嬉しいです。

    ただ誤字脱字が酷い、本当に申し訳ないです。修正したい……。そもそも日更新できてねえし。

    >>217
    最高の賛辞、ありがたい!
    ご期待に添えるようまた早い更新をしていきますね。




    真面目な話書いた後ってなんか反動でドエロな話が書きたくなったけどこのスレには合わないね。

    229 :


    投稿前に一言入れれば問題ないんじゃないかな

    231 :

    このクオリティのラストバトルとか胸熱
    オリジンなんてなかったんや!

    233 :

    ギリギリを攻めればいいじゃない

    234 :

    一気に読んだが面白かった

    235 :

    >>230
    そんなナツメさん見たくなーい

    236 :

     タマムシシティ。レッドは次のジムがあるセキチクシティを目指すため、ヤマブキシティを離れ、タマムシシティの西からセキチクシティへ繋がるサイクリングロードを目指していた。

     レッドは怪我から回復した姿をエリカに見せるためタマムシジムに寄り、エリカに見送られながら再び旅立とうとしていた。

    「怪我のないようになさってくださいね。ハンカチとティッシュは持っていますか? 回復の薬と食料の携帯は? ポケモン達の回復は? 怪我の具合は本当に……」

    「だ、大丈夫だよエリカさんっ。本当にもう怪我は治ってるし、準備も万全だよ!」

     ベタベタとレッドの体を触りまくるエリカ。本人は心配であるがゆえに行っているために、レッドも無碍に振り払えず、声を上ずらせながら答えるしかない。

    「……わかりました。でも、本当に気をつけてくださいね」

     エリカもやっとレッドから離れる。以前タマムシでレッドと戦い旅に送り出した途端、再会したのが彼の病室だったショックを、エリカは表面上大丈夫そうにしながらも引きずっているようだった。

    「うん。エリカさん。これを……」

     そんなエリカを察して、レッドは用意しているものがあった。それは日記帳。

    「これは……?」

    「俺がマサラタウンを出た時からつけている、旅のレポート」

    「え……そんな大事なものを、私に……?」

    「エリカさんに持っていて欲しいんだ。これからも、カイリュー便でエリカさんに届けるよ。それにエリカさんはタマムシ大学でポケモンの研究をしてるんでしょ? ポケモン達と一緒にいて気づいた事も書いてあるから、役に立てるかなって思って」

     レッドがポケモン達と辿ってきた旅の記録。エリカはその重みをひしひしと感じながら、大事に受け取る。

    「……わかりました。ですが、一時的に預かるだけです。必ず、取りに来てください」

    「……もちろん。それじゃあ、行ってきます」

    「……行ってらっしゃい。サイクリングロードは最近暴走族が出ると聞いています。どうか、お気をつけて……」

    「うん!」

     さよならは言わない。レッドは後ろ髪が引かれる思いを振り切り、自転車にまたがってエリカへ手を振りながらサイクリングロードへ向かった。

    237 = 236 :

     サイクリングロード。そこはタマムシシティから西南へ降った半島の先から、海上に架かってセキチクシティへの道を繋ぐ二輪車専用橋。

     橋そのものがセキチクシティへ下る坂状になっており、タマムシシティからセキチクシティへ向かう自転車搭乗者はペダルをこがずに一気に抜ける事ができる。

    「おー!!」

     レッドも多くの利用者の例にもれず、自転車に座っているだけで風を切ることができる楽しさに興奮していた。海上を通っているだけあり、自転車から見える景色はまるで空を飛んでいるかのような光景だった。

    (そういえば、こんな場所に暴走族ってどういうことだろう? この坂では皆坂に身を任せてスピードを出すだろうから、暴走も何もないと思うけど……。でも、あんな怪我をしたあとだ。気を引き締めて行こう。もう、仲間達に心配かけるわけにもいかないしね)

     そんなレッドの気の引き締めは、無駄に終わった。レッドが降っていた先、自転車の前輪の高さに合わせて張られたワイヤーが、猛スピードで来たレッドの自転車にひっかかる。

    「へ」

     レッドが見る景色が空に舞い上がり、逆転した。自転車がワイヤーによって空に跳ね上がり、乗っていたレッドもまた、自転車のサドルから大きく上方に投げ出される。

     幸か不幸か、レッドが投げ出された場所は走者が緩やかに減速するためのカーブ地帯。レッドは自転車と共に落下防止柵を高々に超えて海上に投げ出され、どぼんという水音と共に気を失った。

    (ん……あれ……? ここは……)

     潮の香りと共に、さざ波の音が聞こえる。また、レッドがいる場所がゆらりゆらりと揺れていた。海上に浮かぶ小舟だった。

    「気がついたよ、ちちうえ」

    「!? え……」

     レッドの顔を覗いていたのは覆面の忍び装束の少女。高い声とレッドよりも低い背丈、その少女が小舟の先端に立つ人物へと報告する。

    「うむ! お主。怪我はないようだな」

     落ち着いていて少ししわがれた男性の声だった。しかし、少女と同じく彼も覆面、忍び装束を着ている。レッドは状況を把握した。どうやらサイクリングロードから海に投げ出され、彼らによって救われたのだろう。

    「助けていただき、ありがとうございます。あ、俺の荷物……」

    「ここだよ」

     少女がレッドの寝ていた横を指さす。荷物は水に濡れているが、中を荒らされた形跡はない。自転車も無事だった。

    「あの、あなた達は……」

    「すまぬな。お主をすぐに陸へ届けたいところだが、拙者達の用事がすんでからとなる。今は体を休めておくといい」

    「え、ええ。あの、どうして覆面を?」

    「あたいたちにも、事情あるのだ!」

     少女が舌足らずなしゃべり方で胸を張る。覆面の男は特に反応しなかった。

    (答える気はないってことか……。悪い人たちじゃあなさそうだけど。仕方ない、今は言うとおり体を休めとこう)

     ピジョットを使って空をとぶ事も考えたが、現在地がつかめない場所でいたずらに飛ぶのはかえって危険だと思い直し、レッドは目を瞑った。

    238 = 236 :

     覆面の者達も特に会話せず、海の上の小舟は静かに進んでいく。晴天だったが、しばらくすると海上を霧が覆い始める。

    (……船が止まった?)

    レッドは目を開ける。小舟は海上の大きな橋の下、その支柱に着けていた。覆面の少女がロープで船と支柱を固定する。

    「一人船の上にいるのは危険だ。お主も上に上がれ。ポケモンは持っているか?」

    「う、うん。ピジョットがいるから」

    「よし、出てこいモルフォン!」

     覆面の男がモルフォンを出す。覆面の男と少女がモルフォンに掴まって橋に上がり、レッドもピジョットと一緒に上がった。

    (ここサイクリングロード、だよね)

     ここまでくればレッドは彼らに付き従う必要もなさそうだったが、レッドは彼らが気になった。

     覆面の二人は霧の中を進んでいく。その先に人の笑い声が聞こえた。

     複数の野太い男の声だった。声の主達は皆派手なパンクルック。派手なバイクに跨がり談笑しているようだった。

    (彼らは一体なにをするつもりなんだ……?)

    「行け、モルフォン!」

    「いけ! ズバット!」

    「げっ! 忍者だ!!」

    「やべえ逃げるぞ!!」

    「え!?」

     覆面の男がモルフォン、少女がズバットを出現させると、パンクルックの男たちがバイクを発進させて逃げようとする。

    「逃しはせんよ! 観念してもらおう!」

     しかしモルフォンとズバットがすぐさま行く手を阻む。

    「ちい! やるぞ! 行け! ゴーリ……うわあ!」

     モンスターボールを投げようとした瞬間、モルフォンが男にサイケこうせんを発射して吹き飛ばす。

     もう一人のほうも少女のズバットによって、モンスターボールを握っていた手を打たれていた。 

    「勝負をする気はない。さあ、荷物を全て出してもらおうか! そちらの男もだ」

     覆面の男が恫喝するとパンクルックの男たちは苦虫を噛み潰した表情で従う。レッドは驚愕した。

    「なっ!? なにをしているんですか!? くっ!」

    (こんな事をする人たちだったとは! 早くポケモンを出さないと……!)

    239 = 236 :

    「お主、動かん方がいい」

    「!?」

     レッドは覆面の男に言われ初めて気づいた。レッドの背後にポケモンの気配がある。

    「ドガア……」

    (ドガース!? いつのまに!?)

    「ポケモンを出して拙者達の邪魔をするのはやめてもらおう。さあ、荷物を全て出した後は両手を上げて跪くのだ」

    「くそっ!」
      
     レッドが見ているしかないなか、パンクルックの男たちは持ち物を覆面の二人に回収され、今度は手足を縛られた上目隠しをされた。

    「よし、後はいつも通りに」

    「うん、行けズバット!」

     少女がズバットに命令すると、ズバットがサイクリングロードの地面すれすれを攻撃した。レッドが注意深く見ると、細い紐のような物が地面に落ちている。

    (あれは……ワイヤー? 地面に張られていたのか?……!)

     レッドは自分が海に投げ出された時の事を思い出した。確かあの時、自転車が地面に張られたワイヤーで……。

    「終わったよ、ちちうえ」

    「うむ。少年も気づいたようだな。ドガース、戻れ」

     レッドの後ろにいたドガースが覆面の男のモンスターボールに戻る。 

    「あのワイヤーは、彼らが張っていたんですが?」

     レッドはもうポケモンを出す気はなかったが、覆面の者達を見る眼は険しい。

    「そうだ。奴らはこのサイクリングロードを根城にする暴走族。ふっ、暴走するだけならまだしも奴らは、コースにワイヤーを張って利用者が飛び上がるのを面白がっている上、けが人が出ても通報せずに荷物を強奪する始末。少年だって、拙者達がいなければ命が危なかっただろう」

    「……そのことについては、感謝します。彼らが悪い人だとういうのも。しかしそれは、ジュンサーさん達の役割では?」

    「ジュンサーなんて!」

     覆面の少女が叫ぶ。覆面の男はすぐに少女をいさめる。

    「よせ。少年の言う事もわかる。だが、現状ジュンサー達の動きを待っていても被害が広がるばかり。現に彼らはこの霧を利用してワイヤーを張って獲物を待っていた。我らが海上から潜入して虚をつかねば、捕まえるのは難しかっただろう」

    「……確かに。彼らはこれから?」

    「船に乗せてセキチクシティに運ぶ。その後はこいつらの悪事の証拠をまとめて一緒にジュンサー達の元に引き渡す。匿名でな」

     覆面の者達が慣れた様子で男たちをポケモンで船に運んでいく。

    「さて、少年。ここから自転車で下に降りていけばセキチクシティに行けるが、どうする?」

    「……俺も、乗せてくだい」

    「? なんで乗るんだ?」

     少女が不思議そうに言ったが、男は特に気にした様子はなかった。

    「いいだろう」

     パンクルックの男二人が増え、また船が海上に出る。レッドは船に揺られながら、思案にふけっていた。

    240 = 236 :

    「逃げようとしても無駄だ。荷物は全てこちらが持っている上、ここは海上。下手な事はしないことだ!」

     覆面の男の声に、パンクルックの男たちは怯えた声を出す。ポケモンの技を向けられた事もこたえているのかもしれない。

    (この覆面の二人、相当な使い手だ。ジムリーダー達と比べても遜色ないかもしれない。だが……)

     レッドが思い出すのは、先ほどのモルフォンとズバットに追い詰められて怯えるパンクルックの男たち。

     確かに治安を乱す者達を自主的な活動で捕らえるのは、称賛される事だろう。しかしレッドの脳裏に浮かぶのは、シルフカンパニーで自らを襲ったゴルバットの凶刃。

    (ポケモンの技を人に向ける……。いや、覆面の人たちはいたずらに人を傷つけるために戦っているわけじゃない。正式なバトルでない以上仕方のない事だ。エリカさんだってゲームコーナーではねむりごなを使っている。わかってはいる。わかってはいるのだが……)

     レッドの心に残る謎のしこり。しかし、レッドがその謎を解く前に、船がまたしてもサイクリングロードの支柱に取り付く。

    「行くぞ。少年もついてくるなら、飛べるポケモンをだすことだ」

    「……」

     サイクリングロードに出ると、覆面の男がベトベトンを出し、パンクルックの男たちをその背中に乗せて運んでいく。

     覆面の少女はズバットと共に、レッドと覆面の男よりも先駆けしていき、しばらくすると戻ってきた。

    「いたよ、ちちうえ。あそこの物陰に一人」

    「うむ。行け、モルフォン! かぜおこし!」

    (!! 相手が気づいてないところを!?)

     モルフォンが物陰でニヤついた笑みを浮かべているスキンヘッドの暴走族の男に迫る。すると男は気付いたのか、一気に恐怖の顔に歪んだ。

    「ひいっ!?」

    「……ピジョットお!」

    「なに!?」

     スキンヘッドの暴走族にモルフォンのかぜおこしが当たる直前、レッドがピジョットをしかけ、ピジョットのかぜおこしで相殺した。

    241 = 236 :

    「なっなんだ。お前ら!?」

     スキンヘッドの男は訳が分からず混乱している。レッドは覆面の男たちと暴走族の間にピジョットと共に立つ。

     覆面の男と少女のレッドを見る瞳が、一気に敵意に変わる。

    「なんのつもりだ、小童」

     レッドは表面上落ちつていたが、その胸中は迷っていた。

    (今俺がやったことは、正しいことではないかもしれない。覆面の人たちは治安を守るため、正義のためにポケモンと一緒に戦っている。だけど……)

    「……ポケモンが人を傷つけるところを、黙ってみている訳にはいかない」

     レッドとピジョットの体が勝手に動いていた。本当の正義など、レッドにはわからないし考えたこともない。ただ、レッドが言っていることだけが全てだった。

    「ほう……」

    「お前なにを言っているんだ! そいつは暴走族だぞ!」

    「まあ待て」
     
     覆面の男が少女を制し、少女は不満げに押し黙る。

     レッドと覆面の男が無言で対峙する。すると、レッドの後ろにいた暴走族がモンスターボールを構えた。レッドも敏感にそれに気づいて振り返る。

    「なんだか知らねえが、俺の前から消えな。俺はサイクリングロード暴走団の一人! 下手に歯向かえば痛い目を見るぜ!」

     スキンヘッドの男はレッドに助けられた事を微塵も気に止めず、モンスターボールを放りオコリザルを出現させる。

     レッドはふっと笑う。

    「ポケモン勝負か? なら受けて立つ!」

    「ああん? なんだこのガキ」

     暴走族はレッドをよくわからない生き物を見るような目で見る。 

    「まあいい! オコリザル、奴を蹴散らせ! メガトンパンチ!」

    「ピジョット! かぜおこし!」

     レッドはタイプ相性をいかし、ピジョットを上空に羽ばたかせてメガトンパンチを避け、オコリザルの背中にかぜおこしをクリーンヒットさせる。

    「くそ! メガトンキック!」

     しかし負けじとオコリザルも飛び上がり、メガトンキックでピジョットに突撃する。

    「ピジョット、つばさでうつ!」

     ピジョットも肉弾戦に応じる。つばさでうつとメガトンキックの激突は、以外にもオコリザルに軍配が上がった。

    「よっしゃあ! もう一度だ! オコリザル! メガトンキック!」

    「負けるなピジョット! つばさでうつ!」

    (この少年……)

     覆面の男は静観していた。

    242 = 236 :

     再びのピジョットとオコリザルの激突。今度は相打ちで両者吹き飛び、オコリザルが着地に失敗する。対してピジョットは空中で身を翻し体勢を立て直した。

    「くそ! オコリザル!」

    「ピジョット、かぜおこし!」

     オコリザルはかわしきれずに吹き飛び、力なく声を上げて倒れた。

    「な!? くそ! 負けた……!」

     暴走族の男はオコリザルを戻し、苦い顔をしながらレッドを睨む。

    「俺はマサラタウンのレッド。ポケモントレーナーです ポケモン勝負なら、いつでも受け付けます。……いい戦いでした」

     レッドはピジョットをボールに戻して、自ら暴走族の男に近づいていく。そして、握手をするように手を差し出した。

    「なっ……なんのつもりだ……!!」

    「あなたのオコリザル、凄く連携がとれていました。タイプ相性をものともせずに戦う姿は手ごわかった。大事にされてるんですね」

     スキンヘッドの男はキョトンとした後、吹き出して笑った。そしてレッドの握手に応じる。

    「ははっ! わかる奴じゃねえか!……マサラタウンのレッドか。次は負けねえぜ」

     そしてレッドの握手に応じた。レッドは続けて話す。

    「一つ知っていたら教えていただきたいことがあるんでいいですか?」

    「ああん? なんだ?」

    「今サイクリングロードで、コースにワイヤーをつけて利用客に怪我をさせる事件が起きています。なにかご存知でしたら、教えていただきたいのです」

    「……」

    243 = 236 :

     スキンヘッドの男はレッドの握手を離すと、罰が悪そうに自分の頭を掻いた。

    「ああ、それは俺がいるサイクリングロード暴走団の一部の連中がやってる事だ。俺たちはジュンサーの眼を掻い潜るのに慣れてるからな。好き放題する奴らもいるってことだ」

    「なるほど……ご協力ありがとうございます。もし知っていたら、そういった事が頻発する場所を教えてもらえませんか?」

    「……俺がやってるとは、疑わねえのか?」

    「ポケモントレーナーに、悪い人はいませんから」

     レッドの裏表のない笑顔に、暴走族の男は少しひるんだ。

    「……この先のカーブと、セキチクシティ最後の直線の中間地点にある休憩所に行ってみろ。ただ、坊主。行くなら一人では行くな。必ずジュンサーか大人の奴と行け。世の中皆、聞き分けがいいやつばかりじゃねえからな」

    「ありがとう。それじゃあ」

    「……おう」

     スキンヘッドの男がバイクに跨って去っていく。

    「甘すぎるな」

     消えていた覆面の男が霧から現れる。レッドも覆面の男に向き直る。

    「奴は暴走団の一員。奴がワイヤーを張ったことがあれば、利用客の荷物を強奪したことがあるかもしれない」

    「……そうかもしれない。……でも、俺は……」

     レッドは自らのモンスターボールを取り出し、見つめる。

    「ポケモンと確かな絆を築いている人を信じたい。例えさっきの人が罪を犯していたとしても、オコリザルと共にガムシャラに頑張っていた事を思い出せば、自分の誤ちを自ら正そうと、行動を改めてくれると信じたい。被害を最小限に抑えることはもちろんです。だけど、ポケモンと一緒にいるがゆえに途中で道を誤ってしまった人の心を改める事も、同じくらい大事な事だと、俺は思います」

     シルフカンパニーでビルが倒壊した後、レッドがテレポートした場所で真っ先に助けに来てくれたロケット団員。さっきのスキンヘッドの男もきっと、バトルを通してなにか感じることがあったと、レッドは信じている。

    「……甘いだけでなく、欲張りな小童だ。だが、だからこそポケモンとの絆の深きトレーナーとなれた、か」

     覆面の男が覆面を外し、素顔をレッドに晒した。

    「ちちうえ!? なんで!?」

    「あなたは……?」

     男は少女の声を無視し、レッドに名乗った。

    「拙者はセキチクシティでジムリーダーをしているキョウ。こちらは我が娘のアンズ。お主のことは、各地のジムリーダーから話を聞いていた。大分無茶な事をしてたようだな」

    「ジムリーダー!? 通りで……」

    「小童。お主の言う事、拙者は実現不可能のことだと思う。世界には光があれば影があり、悪がいるから正義がいる。各地のロケット団と戦った君ならば、ポケモンを使い理不尽な事をするどうしようもない連中がいるのはわかるはずだ」

    244 = 236 :

     キョウの言葉に、レッドは目を閉じる。そしてゆっくりと開き、自分に言い聞かせるように言った。

    「ええ。だからこそ、ポケモントレーナーとして、自分にできることを俺はやるだけです。ポケモン達は皆純粋です。ポケモンと触れ合って生活している人であれば必ず、ポケモンと一緒にいられる喜びが記憶の底に眠っている。それを思い出すことができれば、必ず……」

    「そんなの関係ない! あいつらは悪だ! すぐにとっちめてやらなきゃ」

    「やめろアンズ、帰るぞ」

    「ちちうえ!?」

    「奴らが潜んでいる場所がわかった。さすがのジュンサーも、あらかじめ場所がわかっていれば取り逃すことはあるまい。拙者達は与えられた本分に戻る」

    「……」

     アンズは納得していないようだったが、しぶしぶキョウに従った。

    「お主もここからはサイクリングロードを降れ。脇の側道を通れば、奴らもいないだろう。さっきのスキンヘッドの男の言葉を信じるならな。まさか、一人で奴らのところに行くきはあるまいな?」

    「……ありませんよ。大人の方の忠告は聞くものですから。あなたの本分がジムリーダーでありトレーナーを迎える事であるように、ジュンサーさん達も道を間違った人たちを捕まえて、更生させるのが本分ですから。今はそれを信じて、俺はセキチクシティのジムに向かいます」

    (……純粋に過ぎるな。その純粋さが、濁らない世界でありたいものだ……。)

     しかしキョウはそう思いながらも、あえて視線をきつくしてレッドを見る。

    「……先ほどの大言、貫くならばトレーナーとしての力をジムで見せてみろ。口だけでなくな」

     そう言ってキョウ達は霧に消えた。

     レッドは自転車に跨がり、緊急時に対応できるようピジョットを出して並走するようにする。

    「ピジョット、戦ったお前はどうだった? さっきのスキンヘッドの人は、本当に悪い人だったのかな」

    「ピジョォ!」

    「はは、そうだよな。俺も、そう思うよ。行くか!」

     レッドはピジョットに微笑み、一気に坂を降る。霧が晴れ、視界にセキチクシティが現れた。

    245 = 236 :

    今日はここまで。明日でセキチクシティ編終わりの予定です。

    >>229
    >>230
    すいません。言ってみただけでこのスレでエロ話を投稿する気は元々ないです。
    やるとしたらこのスレの最後に告知した後に別スレを立てる予定です。やるとしたらですが。

    >>231
    オリジンは私結構好きですよ! タケシの話は大分参考にさせてもらいましたし……

    >>232
    ポケモン作品に限るとこんな感じです。

    フウロ「君とアタシの理想郷」
    エリカ「雨空の君へ」
    グリーン「レッドがタマムシジムから進まない」

    普通にググってもらえば某所でまとめてるので見ていただけるかと。

    >>233
    その辺は一般作品の醍醐味ですね。
    ナツメさんを少しキス魔にしちゃったけど、安直だったかな? まあいいや。

    >>234
    ありがとうございます。長々と書いた分、新規に一気に読んでくれる方がいるのは嬉しいですね。

    246 :

    >>245
    乙! 過去作全部読んでたことにびっくり

    247 :

    タマムシから進まないSSの大好きだわ

    248 :

    >>245
    タマムシからの人か
    あれは良かった

    249 = 236 :

     セキチクシティ、そこは自然多き豊かな街。

     この街の目玉は自然の豊かさを生かしたポケモンゲットツアー施設サファリゾーン。

     サファリゾーンでしか手に入らない珍しいポケモンを求めて、多くのトレーナーが訪れる。

     レッドはそれを一瞥し後で寄ってみようと思いながら、キョウが待つセキチクシティジムを目指していた。

     しかし道中、目の前につい最近出会った女性が現れる。

    「……あら、レッド! 嘘……すごい偶然………!」

    「ナツメさん! どうしてここに?」

     ナツメがレッドに駆け寄って来てレッドの両手を握る。

    「セキチクジムに使われてるギミックの監修に来たのよ。ジムを今度新しくするからって頼まれて……あ。これ、オフレコでお願いね」

     ナツメが顔をレッドに近づけウインクする。

    「ジムを新しく? じゃあ、今日のジムの営業は……」

    「それは大丈夫。ジムの営業に支障がでないようにスケジュールされてるから。今日も通常通り行われるはずよ」

    「そうですか……」

     レッドは難しい顔をしている。

    「どうしたの? なにかあったの?」

    「いえ……。そのナツメさん。セキチクシティのジムリーダーって……?」

    250 = 236 :

    「そうね……。セキチクシティジムリーダーはキョウ。専門は毒タイプで、ジムリーダーの中でも古参の方ね。私もバトルを見たことあるけど、毒ポケモン使いの中ではカントーいちでしょうね」

    「どんな方なんですか?」

    「どんな、ねえ……。忍者の末裔っていうのは聞いたことあるわ。毒に対抗するための薬の知識も豊富。サファリゾーンや周辺をボランティアでパトロールしてて、市民の人からも信頼されているそうよ」

    「……」

    『小童。お主の言う事、拙者は実現不可能のことだと思う。世界には光があれば影があり、悪がいるから正義がいる。各地のロケット団と戦った君ならば、ポケモンを使い理不尽な事をするどうしようもない連中がいるのはわかるはずだ』

    (キョウさんのあの言葉は、やはり経験に裏打ちされたものだったのだろう。だけど……、俺が戦うのは悪を倒すため……いや、素晴らしいバトルがしたいからだ。マチスさんと戦った時のような、見ている人すらも熱くさせる、そんなバトルを……)

     そしてレッドの脳裏にエリカの顔が浮かぶ。

    (エリカさんも、故郷を守るために戦った。それは正しいことだ。だが、エリカさんが再び心に光を取り戻した時、キョウさんがやった事をするだろうか。ポケモンと共に、悪を打つ……)

     言葉だけならヒロイック。しかし、レッドは自身の行動を思い出す。オツキミ山の時のロケット団員。サイクリングロードでのスキンヘッドの男。そしてシルフカンパニーでのサカキ……。

    「レッド? どうしたのそんなに眉間にしわ寄せて……。なにか、悩み事?」

    「ああ、いえ。えっと……」

    「言ったでしょ。あなたの力になるって。相談ならいつでものるわよ」

    「ナツメさん……」

     レッドはナツメの顔を見て、今まで戦ってきた人たちの顔を思い出す。タケシ、カスミ、マチス、エリカ、ナツメ。そして……。

    『勝負はおあずけだな! 待っているぞ!』

    (皆……どこか晴れやかな顔をしていた)

     しかし、ただひとつの心残り。

    『こんな……こんなの認めねえ! 畜生!』

    (グリーン……)

     彼とはシルフカンパニーで出会った時、何倍もたくましくなっているように見えた。だが、レッドはグリーンの今の本質を、まだ知らない。


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