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元スレ京太郎「夢の彼方」
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■
京太郎「…もう、あの6人じゃ居られないんだなー」
久「須賀君、なんか年寄り臭いわよ」
京太郎「まだ引きずってたんすか…とにかく俺は、今の面子で居るのが楽しいです」
久「それに未練がましい」
京太郎「それだけ大事に思ってたんですよ。麻雀部のこと」
京太郎「そうでなきゃ、ろくに麻雀勝てないからって部活を辞めちゃったりしてたかもしれませんよ?」
久「それはないわね」
京太郎「即答!?」
久「拗ねて腐ったままでいるような子じゃないって、確信があった」
京太郎「どこに根拠があったんですか…」
久「そんなのないわよ。言ってしまえばただの直感」
京太郎「うわ…」
久「でもそれは間違いじゃなかった…でしょ?」
京太郎「買い被りかもしれませんよ?」
久「そうかしら。まあ、答えならそのうち出るわよ」
久「貴方が麻雀を好きでいられるかどうか、言ってしまえばそれだけのことだもの」
京太郎「…」
京太郎「…そう、ですね」
京太郎「でもどうせなら、今の面子で十二分に楽しみたかった」
京太郎「その気持ちは多分変わらないだろうし…俺にとって、それはある意味原点なんです」
久「そうさせた理由の一つは、私」
京太郎「けど、それを選んだのは俺です。もどかしくなる道を選んだのは」
京太郎「それが嫌なら、県大会の後にでも辞めてしまえばよかった。でも無理だった」
久「…楽しかったから?」
京太郎「はい。とりあえずは、それで十分だった」
京太郎「…それだけで、よかった」
京太郎「…みんなのようになりたいと。みんなのように打ちたいと」
京太郎「そう思って、自分なりに頑張って、けど…思うようにはいかなくて」
京太郎「けど、思い通りにいかないからこそ…より追い求める気持ちが強くなった」
久「…ドMかしら?」
京太郎「言い方が引っ掛かりますが、そうかも」
京太郎「そうして…出来るようになったのは、こんなことばかりだ」パクッ
久「あのね…」
京太郎「…寄り道ばっかで、いつ辿り着くかわかりゃしない」
久「……」
京太郎「それでも諦めないでいるのは、これでいいんだと思えるから…でしょうか」
京太郎「…あ、もうなくなっちまった」
久「あー!いつの間に全部食べちゃって!」
京太郎「慣れない話してたら腹減っちゃって…」
久「ペンギンみたいに吐けとは言わない。それより、私の分だけ作り直して頂戴」
京太郎「えー…自分の分なら自分で作ってくださいよー」
久「それを貴方が食べたんでしょ!?」
■
京太郎「…もうちょっとだけ、6人で一緒にいたかったな」
久「2人で、じゃなくて?」
京太郎「からかわないでくださいよ。俺達別にそんな仲じゃないでしょ」
久「そうなんだけどね。それとも須賀君、まだ私に扱き使われたいの?」
京太郎「いや、それは勘弁して欲しいです」
久「そりゃあね」
京太郎「けどそれがある種拠り所でもありましたから、一概には」
京太郎「…こういうのって何ていうんでしたっけ。確かその、レーなんとかって」
久「レーゾンデートル、ね」
京太郎「そうそう。レーゾンデートルレーゾンデートル」
久「一応聞くけど、意味は知ってるかしら?」
京太郎「ええと…うーん…生きがいとかそういうのですか?」
久「…それもあるけど、存在意義とか存在理由とかって意味もあるのよ」
京太郎「存在意義…なんか難しそうな単語が」
久「ようするにね『自分はここに居てもいいのか?』ってことよ」
久「須賀君の言ってることからすると、貴方はずっとそのことが引っ掛かっていたように思えるわ」
久「私達の居る、麻雀部に自分の居場所はあるのかなって」
京太郎「……」
京太郎「…そう、でしょうか?」
久「唯一の初心者に、そう思わずに居ろというのは酷かもしれないけど」
京太郎「とんでもない!」
久「…そうね、言い過ぎたわ。それで擦れてダメになるほど、貴方は弱くなんかないのにね」
久「いや…弱いのは私か。悪いことしたかなって、許して欲しくて」
京太郎「…許すも何も、お互いこれでよかったんですよ」
京太郎「ただ…今の麻雀部がもうすぐなくなっちゃいますから、それが惜しくなってるんです」
京太郎「…惜しみすぎて、それが過去への後悔になっちまうくらいに」
久「…」
京太郎「…ああ、嫌だな。今のままじゃなくなったら俺、麻雀部にいられるのかな」
京太郎「そんな不安を持つのって、おかしなことなんですかね?」
久「雑用をする自分が、麻雀部での価値あるだって思ってるならおかしくないわね」
久「けど…一緒に麻雀を楽しもうとする仲間としては、この上なく間違ってる」
京太郎「…」
久「…」
京太郎「…周りからは色々言われてますけど、俺にとっては今の部活、とっても居心地いいんですよ」
久「だから失くしたくない、と」
京太郎「…はい」
久「…別になくなったりはしないわよ。ええ、貴方がそれを捨てない限りは」
京太郎「元のままでなくなったら?」
久「なるべくなら、私は貴方にそれを受け入れて欲しいかな」
京太郎「…難しいな」
久「そうかしら。須賀君になら出来ると思うけど」
京太郎「出来ないとは言いませんけど、挫けてはしまいそうで」
久「みんながいるじゃない」
京太郎「けど、一番の助けはいないでしょう」
久「和だって居るのに?」
京太郎「和は…少なくとも、麻雀のことじゃ誰も甘やかしたりはしませんし」
久「それもそうね。むしろ傷口に塩を塗っちゃうかも」
京太郎「でしょ?」
久「でも私に甘えようとしてもダメよ」
京太郎「まさか。悩みの答えは言ったりしてくれますけど」
久「それもじきになくなるわ。これからはみんな、自分で答えを見つけなきゃいけなくなる」
久「…みんながみんなそれに必死だから、いつも互いを助け合えって言っても難しいわよね」
京太郎「…そういやウチ、監督なんていませんからね」
久「顧問ならいるけど」
京太郎「…部長でしょ」
久「議会長ね」
京太郎「それ、どっちも竹井先輩ですよね」
久「…」
久「…急に言い方変わったけど、どうしたのかしら」
京太郎「なに、先輩が居なくなるのを俺なりに受け入れようってしてるんです」
久「…もし」
久「もしも部活に、ちゃんとした顧問がやってきたら…須賀君、あなたはどうする?」
京太郎「扱き使ったりしない人なら、誰でも」
久「あら」
京太郎「…嘘です。俺、竹井先輩以外のリーダーなんて考えにくいですよ」
久「…」
京太郎「ですけど…先輩が受け入れろというのなら、どうしたって受け入れますよ」
久「…」
久「…出来るだけ、出来るだけ私の方で捜してみるわね」
京太郎「ぜひ」
久「手近な所なら、藤田プロとかどうかしら?」
京太郎「…ああ、子供とカツ丼が好きな」
久「…子供が好き?」
京太郎「ありゃ、知らないんですか?あの人が龍門渕の大将にあれこれしてるって」
久「えっ…」
京太郎「一応、いかがわしい事じゃありませんよ?それならすぐ、保護者の皆さんが止めるでしょうし」
久「…付き合い方、考え直そうかしら」
京太郎「…やっぱり俺、部長がいいなあ」
久「呼び方戻ってるわよ?」
京太郎「もう少しはそう呼ばせて欲しいっす」
久「…今の部長はまこだからね」
京太郎「それは俺も分かってるはずなんですけど、ね」
久「…たまに私が部長と呼ばれると、いつもあの子は凹んでるのよ?」
京太郎「…気をつけます」
久「須賀君に限った事じゃないけどね。私の方も、部長って声を聞くとつい反応しちゃうし」
京太郎「子離れが出来ない親、か」
久「そして須賀君やみんなが、親離れの出来ない子達ね」
京太郎「…難しいな」
久「私だってそうよ。今のままがいいとも思うのは、須賀君と一緒」
久「けど時間は過ぎて行くの。止まったままでも、巻き戻ったりもしない」
京太郎「…だからこそ俺は今を、そしてこれからを大事にしますよ。それくらいは、ちゃんと分かってますから」
久「…なら、いいのだけど」
京太郎「信じられません?」
久「心配なのよ」
京太郎「…」
京太郎「…はあ」
京太郎「…そのうち、お互いを気にしてられなくなるのかあ」
久「…」
京太郎「離れ離れになったら、どうしたって今みたいには出来ない」
京太郎「一緒に過ごす誰かの方を優先しなくちゃいけないのは、当然だから」
久「合理的ではあるのだろうけど、寂しい話ね」
京太郎「別れるってそういうことですしね。だからこそ、忘れないようにしたいと俺は思うんですが」
久「それって凄く辛いことよ?」
京太郎「それでも大事だって思うから。忘れてしまう時だってあるでしょうけど」
久「…分からないなあ。忘れた方がいいかもしれないのに」
京太郎「…俺にはそれが分からない」
久「…本当の気持ちなんて、どこにもないのかもね」
京太郎「分かってたら、悩んだりなんてしないでしょう」
京太郎「それらしいことを、その時々の状況とかで判断してるだけで」
久「なんだか直感みたいね」
京太郎「実際問題そうなんですよ。それに部長が好きな悪待ちだって、同じことです」
京太郎「こういうのにも、方程式とかあったらなあ」
久「それじゃあロマンがないわ。論理と計算づくで成り立つなんて、そんなものは」
久「それなら人じゃなくっていい。機械を動かすプログラムのように、ただ理路整然に動けばいいんだから」
京太郎「…機械だったら、こうやってウジウジ悩んだりもしませんし」
久「…それって面白いかしら」
京太郎「勿論つまらないですよ。しかしそれに近い生き方なら、知らないうちにしてるかもしれない」
京太郎「…それが生きてるって言えるかどうかは、学者とかにでも決めてもらえばいい」
京太郎「当人が幸せなら、とりあえずはそれでいいんじゃないっすかね?」
久「…ああ、分かった」
久「その『とりあえず』がよかったのかって、須賀君はそれを不安に思っているのね」
京太郎「基本ノリだけで生きてますから。でなきゃ、麻雀部なんて来ちゃいないでしょう」
久「まあ、酷い言い草」
京太郎「けど最初は、気楽にダベれりゃいいやって思ってましたよ。そんな雰囲気だってありましたし」
久「…否定は出来ないわ」
京太郎「それが変わったのは、俺が『とりあえず、数合わせで』咲を連れて来たからでした」
京太郎「…だからなのかもしれませんね。もう少し、賢く生きてりゃこんなことにはって」
久「…」
久「…須賀君がそんな人なら、私は貴方をここに入れたりしていない」
久「そもそも咲だって、貴方がそんなズルい相手ならもっと警戒してたと思うわよ?」
京太郎「…考えてみれば、俺は」
京太郎「俺は…その、周りにどう思われてるなんてあんまり考えてなかったですね」
久「『とりあえず』なんでしょ、須賀君は」
久「『とりあえず』で動いてきたから、今があるのよ。それが最善かどうかなんて、どうでもいいこと」
京太郎「どうでも、いい?」
久「言ってしまえば、貴方のそれはただの贅沢で…それに不毛。もっといい結果をだなんて、過去に求めるのは」
久「『とりあえず』で生きているなら、そんなのはらしくない」
京太郎「……」
久「だからこの先も『とりあえず』で行きましょうよ。今よりも少し、手札は増やした方がいいと思うけど」
久「須賀君の場合、出来る事を増やせば何とかなる気がするもの」
京太郎「……」
京太郎「あの…料理とかじゃダメですか?」
久「…どうせなら麻雀にしなさい」
■
適当というか、『なんとなく』で麻雀部に入って、それからも『なんとなく』で過ごしてきた。
須賀京太郎とは、そんな風に捉えることも出来る人物である。
京太郎「…おい優希」
優希「ひゃんひゃひょ?」パクパク
京太郎「タコス食いながら話すなはしたない…それはそうと、お前も少しは新入生を勧誘しろよ」
優希「それならお前や他のみんながいるだろー?」
京太郎「確かにそうだが、あの格好じゃみんな勘違いするだろ…」
優希「…あー」
京太郎「なに考えてんだよ部長…メイド姿で勧誘とか、まあ…和の奴は最高だったけど」
優希「どうせなら私も着たかったじぇ」
京太郎「着れなかったの、お前が勧誘めんどくさがったからだろー?」
優希「そうとも言う!」
京太郎「そうとしか言わねえよ…」
そんな須賀だが、彼は決していい加減な人間ではない。
軽い調子で振舞っているが、その割には存外気苦労するタイプの人柄だ。
「…あの、ちょっといいですか?」
京太郎「おっ、麻雀に興味があるのかな?」
優希「来るもの拒まず、だじょ!」
優希(…ん?この人どこかで見たような)
「いえ、そうではなくて…宮永さん達、連れて行かれちゃいましたよ?」
京太郎「…あらら」
「ここは私が見ていますから、どうか早く行ってください」
京太郎「わ、わかった!」
タッタッタッタッ
京太郎(ちくしょう!やっぱりあの格好は、風紀的に色々アウトだったか!)
京太郎(…特に和が!)
そんな彼の気苦労は、彼女が加わる事で更に増していくだろう。
京太郎(部長が…竹井先輩が守った部活を、俺は守る!)
そう意気込み、メイド3人の所へと走っていく京太郎。
その頃…
優希「…」ジーッ
「…なんでしょうか、私の顔をじーっと見て」
優希「…」
優希「…貴女とは、前にどこかで会いましたよね?」
「えっ…なんのことでしょう?」
優希「質問に質問で答えるなんておかしいじょ。南浦さん」
「…バレていたんですか」
優希「気付いたのはさっきだけどな!私と打った時じゃ、リボンなんかほどけてなかったし!」
思わぬ所で、思わぬ人が彼らの前に現れていた。
そしてそれはきっと、いや、もしかしなくても竹井久の差し金だ。
■
久「…」
美穂子「どうかしました?物思いにふけったりして」
久「長野にいる後輩のことを考えててね」
美穂子「そんな風に思ってもらえるなんて、その子達は幸せ者ね」
久「でしょう?」
美穂子「ただ、久が誰かを扱き使ったって噂も耳にするけど」
久「…気のせい気のせい」
美穂子「もう…ほどほどにしてくれないと困りますよ?」
美穂子「貴女に憧れる身としては、幻滅なんてしたくありませんしね」ニコッ
久(やば、ちょっと怒ってるかも…まあいいか)
久(イタズラの代償としては、このくらいで済めば御の字よね)
彼女の言うイタズラ。
そのイタズラは、京太郎達に何をもたらすのか。
彼らの今後については、いずれまた語られる日が来るだろう。
清澄高校麻雀部の、最初の6人…その未来に幸あれ。
fin
>>72の続きから
京太郎「…」グテー
「帰ってくるなり、ソファーでだらけるのはやめなさい」
京太郎「だってさお袋。俺、やることなくて暇なんだよ」
「勉強しろ」
京太郎「そんなのテスト前でいいし…」
「麻雀があるじゃないの」
京太郎「麻雀?」
「麻雀するなとは言われてないんでしょ?部活の方は、アンタが雑用したがるから休ませただけで」
京太郎「…それもそうか」
カチ...カチッ
京太郎(おお、初っ端から聴牌じゃん。今日はツイてるなー)
京太郎(…ここはやっぱりダブリーかな)
『リーチ』
京太郎(よし、後は和了るのを待つだけで)
『ロン』
京太郎「…はい?」
『国士。対局終了です』
京太郎「……」
京太郎「……」ピクピクッ
京太郎「…はっ、はぁぁあぁぁぁあああっ!?」
京太郎(マジかよ…全然ツイてなんかないじゃん俺……)
京太郎「畜生…次だ次!」
○
『天和』
京太郎「げぇ!」
京太郎(け、けどさっきよりはマシだし)カタカタ
『地和。対局終了です』
京太郎(はい終わりー!)
○
京太郎「…」
京太郎(…一位だ。ラスじゃない、一位だ)
京太郎(たとえ親の倍満直撃でも、これなら逆転出来ねーだろ)
京太郎(いつもこうならいいんだけどな。とりあえずここはベタオリで行こうか…)
『ロン』
京太郎「いい!?」
『国士。対局終了です』
京太郎「…」
京太郎「…だーもーう!またお前かよ!何なんだよ!」プンスコ
カチカチ
京太郎「…」
『ロン』
京太郎「あ…」
『断幺、七対子、対局終了』
京太郎「…」
京太郎(…また、負けた。これで何回目だっけな)
京太郎(もう起こる気力も湧かねえ。ただただ疲れちまったって感じ)
京太郎「…おもんねーわ」
京太郎「こんなんじゃ、ホントおもんねーわー……」
京太郎「…ふぁ」
京太郎(なんか眠くなってきた。当然だけど)ウツラウツラ
京太郎(こんだけ負けてばっかだとさ、気疲れして起きてるのが辛くなるし…)
カチカチ カチッ
京太郎「…」
『シャットダウンしています...』
京太郎「…」
京太郎(…ちょっとばかし休むか)
京太郎「…」zzz...
■
京太郎「…」
...カチッ
『宮永咲 プラマイゼロの謎に迫る!』
『末原恭子 凡人の打ち筋』
『対木もこ ちっちゃな大型ルーキーさん』
京太郎(今じゃ咲もちょっとした有名人か。随分と差がついちまったな…)
京太郎(小馬鹿にしてた方の俺が、今じゃ小馬鹿にされる方ときたもんだ。実際は馬鹿にされちゃいがいが)
京太郎(…でもいっそのこと、馬鹿にしてくれた方が助かるかもしれない)
『お姉さんについてはどう思っていますか?』
『ご家族は今どうなっていますか?』
京太郎(…アイツも苦労してんなあ)
『清澄の宮永咲選手とは、三度卓を囲むことになった訳ですが…』
恭子『恥ずかしながら、私は一度も彼女に勝てなかった』
恭子『ですがそれを悪いと思ったことはありません。むしろいい刺激になりました』
『宮永選手をどう思いますか?』
恭子『怖いですね。正直、戦わずに逃げ出したくなる気持ちさえ抱けます』
恭子『それでも最後まで打てたのは、やはり私が麻雀を楽しんでいたからでしょう』
『…お強いですね』
恭子『恐縮です。現状において、私はただの負け犬に過ぎませんから』
恭子『次に宮永さんと戦える機会はいつか分かりませんが、なるべく早めに再戦したいものです』
『やはり次こそは勝ちたいですか?』
恭子『勝ちたくなければ、私は彼女と三度も打たなかったし、負けることもなかったでしょう』
恭子『悔しくて仕方ありません。まして相手には、相当なブランクがありました』
恭子『経験・環境などにおいて私は有利だったのに、それを十分に生かせなかったのは、私の怠慢です』
『ご自分に驕りがあったと?』
恭子『はい。私は自身を凡人と自称していましたが、結局は自惚れていた』
恭子『それが自分の打ち筋にも影響したと考えています。私は、万全ではなかったのです』
『その口ぶりですと、万全であれば勝ち目があったと言いたげですが?』
恭子『そのように言いました。これは決して自惚れではなく、確固たる自信です』
恭子『万全を期せば私に負けは無い。ですがそうでなければ、自信はまた自惚れに変わってしまうでしょう』
恭子『そういう意味では、私の敵は私自身…そのように言えるのかもしれませんね』
『最後に一言お願いします』
恭子『運だろうと牌だろうと、結局は掴み取ってこそ。その為の労力は決して惜しんではいけない』
『―――本日はお忙しい中、インタビューに応じていただきありがとうございました』
恭子『ありがとうございました』
京太郎(おお、なんかカッコいい)
京太郎(この人、決勝戦じゃ涙目になってたんだけどな。いじらしい)
京太郎(いやいや、いじらしいとか思っちゃダメだ。ろくに打てない俺が、この人を馬鹿にしちゃダメだろ!)
京太郎(…これも自惚れなんだろうな)
カチッ、カチッ
京太郎(さて、次はこの対木さんの記事でも見てみるか)
『麻雀を始めたきっかけは?』
もこ『…なんとなく』
『なんとなく、ですか。東海王者になったことも、その、なんとなくですか?』
もこ『…違います。まさかああなるとまでは思っていませんでしたが』
『あの優勝は想定外だったと?』
もこ『…はい。私は麻雀初心者で、まして独学だった訳ですから』
『まさか』
もこ『嘘ではありません…事実私は、当時の監督からも指導を受けていませんでした』
『それはどうして?』
もこ『…早い話、私は他の部員とうまくいっていませんでした。ですから部活にも顔を出すことも稀で』
もこ『監督は何度か私を訪ねてくれましたけど、そのことであらぬ噂まで立てられて…といった感じです』
『あらぬ噂?』
もこ『…私がこの容姿ですから、それを構うのはロリコ…幼児性愛者だのなんだのと』
『…なんだか世知辛く感じますね』
もこ『…実際問題、私の身体はとても小さいです』
もこ『それでからかわれるのは珍しくないですし…普段着もそれを強調づけるもので』
『その格好はいつから?』
もこ『…丁度麻雀部に入った頃くらいです。私、この格好の自分になら自信が持てましたから』
『自信、と言いますと?』
もこ『小さくたっていい。小さいなら、小さいなりの生き方があるんだって』
もこ『…自慢みたいでなんですけど、この格好って似合ってませんか?』
『ええ、よくお似合いですよ』
もこ『…恐悦至極』
『…ところで今は麻雀部に所属していないとか』
もこ『…はい』
『やはり中学時代が原因で?』
もこ『…それもありますが、私はあまり口数が多くないですから』
『そうでしょうか。少し間をおきつつも、ちゃんと話は出来てるように思えますが…』
もこ『…友人が出来ましたので』
『ご友人といいますと?』
もこ『…中学時代の実績から、インハイ個人戦のMVPがやって来るようになりました』
もこ『そのうちの荒川さんグループ…特に、后土学園の百鬼さんとは懇意にしていただいてます』
『三箇牧の荒川選手…そのグループと言えば、全国でも指折りの面子ですね』
もこ『…そうですね。あの人たちと麻雀を打っているのが、今現在の一番充実した時間です』
もこ『…もっとも戦績については、よく私がラスを引いてます』
『…失礼ですが、そう仰られる割には悔しさを見受けられませんね』
もこ『…今の所、それよりも楽しさの方が優っています。中学では、こうはいかなかった』
もこ『ネット麻雀以外で、誰かと打つ機会はそれこそ大会くらいしか無かった訳ですから…』
『なるほど。嬉しそうに笑っているその為ですか』
もこ『…私、今笑ってました?』
『ええ、それはもう』
もこ『……』///
京太郎(なんでこの子だけ動画なのか分からんかったが…なるほどなー)
京太郎(…ウチのタコス娘とは好対照だ。いや、アイツはアイツで多分可愛らしいんだろうけどさ)
京太郎(にしても凄い子だよなー…)
京太郎(あんなに小さいけど、麻雀はかなり強いってのが)
京太郎(…龍門渕の天江さんとかもそんなだったな。咲のお姉さん…照さんと同じくらい強かったし)
京太郎(今思えば、清澄はよくインハイなんかに行けたよ…)
京太郎(すげーよなあ。あんまりすげーから、俺じゃとてもついていけねえ)
京太郎(初心者の俺じゃあな…この子みたいに、始めてすぐにチャンピオンだなんてとても)
京太郎(…)
京太郎(…いけね。俺ってばなに考えてんだ)
京太郎(あの時咲が天江さんに負けていれば、だなんて…そんなこと、考えてどうすんだよ)
京太郎(あそこで咲が負けて、それで…俺はアイツを慰めでもしたかったか?)
京太郎(そうすりゃ俺は、アイツのことを下に見ようと出来るから…なんて、考えちまえるのはどうしてだろう)
京太郎(…やな奴だな。須賀京太郎ってのは)
京太郎(身近だった奴が遠くに行って寂しいって気持ちを、少しも受け入れられてない)
京太郎(それに…咲の面倒を見ていたって自負が、今じゃただの虚栄心みたいになってる)
京太郎(凄いのは咲の方で…アイツを麻雀部に誘った俺は、全然大した事ないのに)
京太郎(あの面子と一緒に麻雀部にいた俺ってすげーだろ、ってか)
京太郎(…あーやだやだ。やってらんねえ)
京太郎(みんなに比べて俺は…みたいなことを言われたこともあった)
京太郎(その度に俺は、みんなが活躍するのを助けたんだからって…何にも出来ない奴じゃないって)
京太郎(そう思って、軽く流してきた)
京太郎(けどさ…雑用出来るからって、麻雀が出来なきゃ麻雀部員としちゃ話にならないんだ)
京太郎(俺、マネージャーとかじゃないしさ…)
恭子『私は一生凡人のままでありたいと、そう思います』
恭子『でなければ戦う前から負けてしまう。誰かと戦う前…自分自身に負けてしまうと、そう思いますから』
この人がそうなら、俺は一体どうなってしまうんだ。
京太郎はそう思った。
彼は自分が自惚れてると意識している。
インハイで実績を挙げた麻雀部、その一員である自分を凄いと思いたがるくらいにはと。
…彼は自分を等身大に見たいのだ。
尊大でもない、かといって卑屈でもない視点で。
自分がこれから何をしたくて、何をすべきかを探したいのだ。
けれどそれは阻まれてしまう。
麻雀部の仲間たち…その実績は、今の京太郎とはあまりにスケールが違いすぎるから。
俺もみんなみたいに凄くなれたら、という気持ち。
それが彼を堂々巡りさせる。
足りていない。
京太郎が仲間達のようになるには、必要なものがあまりに足りていない。
それは彼自身も分かっている。
先日はっきり自覚して、しかし納得は出来ていないのだ。
納得しようとするも、それがなかなか叶わない。
その上、納得から遠ざけてしまうものまで現れて。
京太郎(…俺にも、この子みたいな才能があったらな)
だから逃避する。
理想と現実の狭間で揺れ動く彼の心に、行き場は無い。
京太郎にとって、5人の活躍はとても誇らしい。
まぶしいほどに。その輝きを、自分のものにしてしまいたいくらいに。
あの輝きのいくらかは、自分のお陰なのだと彼は言いたかった。
だが言えなかった。
言えば自分がみじめになり、5人の事を仲間だなんて言えなくなるから。
京太郎は、なおさら辛くなった。
麻雀部がインハイに出ていなければ、自分と対比する必然性は生まれなかったろうから。
咲、和、優希、まこ、久。
5人はそれぞれ次を見据えて前を進む。
先の戦いなんかはもう過去のこと。少なくとも、固着するほどではない。
その当事者にはなれなかった京太郎。
あれが彼にはまぶしく見えた。
いつも一緒にいる彼女らが、その時はまるでスターのようであったから。
…京太郎は、過去のまぶしさに目をくらませているのだ。
身近ゆえ目に付きやすく、離れにくい。
それが彼には厄介だった。
周りの声が仲間を称えることで、厄介さはより強くなる。
あんな風になれたらという、その思いは。
憧れろ。
そんな風に、周りからは強要されているようだ。
…京太郎と5人の成果は、決して比較されてはいない。
しかし前者は称えられず、後者は称えられる。
だから、羨ましくなる。
咲「…」テクテク
咲(京ちゃんが居なくなって、麻雀部は少し寂しくなっちゃったなあ)
咲(数日くらいならって思ってたけど、くらいじゃ済まなかった)
京太郎「…」スタスタ
咲(あ、京ちゃんだ)パァァッ
咲(迷子になった訳でもないのに、なんだろうこの安心感)
咲(…やば、テンション上がってきた)
シュタッ!
京太郎「…」
タッタッタッ...
咲「…きょーちゃーん!」
京太郎「…」
咲「京ちゃんってば、ねー聞いてるのー?」
京太郎「…」
咲「…ねーってばー!」
京太郎「…」クルッ
咲「…え?」
咲(あれ…京ちゃんだっけ…なんか右目に眼帯とかしてるんだけど……)
京太郎「…るな」
咲「え?」
京太郎「…俺に、話しかけるな。俺の…この呪われた右目が、疼いてしまうだろうが……!」
咲「」
京太郎「…分かったか。もし警告を無視すれば、たとえお前でもどうしちまうか分からん」
咲「」
京太郎「…では、さらばだ」スタスタスタ
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