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    元スレ咲「命にかえてもお嬢をお守りします」

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    201 :

    雲雀ちゃんかわいい。面白かったー乙!

    202 :

    乙 楽しかったよ

    203 :

    乙 かっこ可愛い咲さん良かったよ

    204 :

    おつ!最高だった!

    205 :

    乙ありがとうございます
    咲と智葉の子供とかじゅモモ達の子供が絡む後日談を書こうか考え中です

    206 :


    咲さんがカッコ良くて可愛くてとても満足です
    後日談書いてくれるとありがたいです

    207 :

    乙、後日談も楽しみにしてる

    208 :



    可能なら後日談もみたい!

    209 :

    後日談だけじゃなく新作も期待してる
    もちろん咲さんやガイトさんメインで
    乙です

    210 :

    真冬の中庭は人気がない。
    他の季節は賑わうその場所は、単純にいえば、寒いのだ。

    コートを着こんでマフラーをぐるぐる巻きにしてもまだ寒いその場所に集まる意味は
    つまり、人の少ないところを希望したためだった。

    亦野淡香「いやでもさ、もっといい場所あったんじゃない?生徒会室解放してよーゆりちゃん」

    加治木ゆり「生徒会室は他の生徒が作業中っす。いくら私が会長だからってそこまでの横暴はできないっすよ」

    愛宕瑛「生徒会室は無理でも、麻雀部の準備室とかでもええんやない?」

    弘世夕子「麻雀準備室は顧問が昼間使ってるだろ」

    わいわいと騒ぎながら、夕子が広げた敷物の上に麻雀部の皆が群がる。
    真ん中には弘世家の家紋入りの大きな重箱が3つ並んでいる。

    女子校生が食べるにしては多く感じるボリュームだったが、
    このメンバーでこのくらいなら10分もしない間にすべてなくなってしまうことは容易に想像できた。

    淡香や瑛などは「足りない」と言って菓子パンや駄菓子を準備してきているほどである。

    重箱を広げ終わったところで、それぞれ箸箱から箸を取り、
    皿におにぎりや卵焼き、からあげやウインナーを取って食べている。

    211 = 210 :

    和やかな雰囲気の中、ここに麻雀部部長である辻垣内雲雀がいればいいのに、とみな同じことを思う。
    雲雀は2日前から“組織”の本部に召集されているらしく、帰ってくるのは明日らしい。

    それにしても……とゆりはウインナーを咀嚼しながら言った。
     
    ゆり「なぁんか雲雀って、最近いないことが多いっすね。なんかあるんすか?」

    夕子「ああ。どうやら私や雲雀目当ての誘拐計画があるらしくてな」

    淡香「ブッ!?」

    「ぶほっ!!」

    夕子の口からさらっと出た言葉に、淡香と瑛が勢いよく吹き出す。
    「行儀が悪いぞおまえ達」と夕子はにべもなく言った。

    淡香「ゆ、夕子……っ!それはさらりと言うことじゃないよ!」

    「ごふっ……ごっ……ふっ……」

    ゆり「2人とも狙われてるんすか…?極道の娘だから?」

    夕子「そうらしいな。…だが私は雲雀と違って落ちこぼれだから、重要な組織の会議にも呼ばれない…」

    ぼそりと寂しげに夕子が呟く。
    ほうれん草の白和えを姿勢よく上品に食べている彼女は、心なしか肩を落としているように見える。

    212 = 210 :

    一学年上の友人、辻垣内雲雀。

    同じ極道の世界に生きる彼女とは幼い頃から何かと比べられていたが。
    護身術や銃技等、彼女に敵う事柄など何一つない。勉学や麻雀の腕でさえ。

    淡香「ねーねー、そういえばさ。最近園田のこと見ないよねー」

    ポテトチップスを取り出しながら淡香が言った。
    パンッ、と小気味良い音がして袋が開封される。

    咀嚼音は北風の中に紛れた。
    「うーさむ」と震えながらも淡香は黙々と袋の中身を減らしていく。

    「雲雀の古参の側近園田か。あの人なら別件で現場を離れてるって雲雀が言ってたで。何か用事なん?」

    淡香「んーん。別に。でもなぁんか……」

    嫌な感じがしたんだよね。
    淡香は呟く。

    その話題はそれきり持ち出されることはなかったが、
    皆の胸中には水面が揺らめくようなかすかな不安と変化の予感が訪れていた。


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――



    213 = 210 :


    ――――
    ――――――――
    ――――――――――――


    昼休み終了のチャイムが鳴り、淡香は気分よく教室へと戻っていった。
    麻雀部の皆との昼食会は楽しい。中庭は寒いけれど。

    淡香「雲雀がいれば、もっと楽しかったんだけどねー…」

    ぼそりと呟いた瞬間。

    大坂「……えー、遅くなりま してスミマセン。急遽会議が入りまして、えー…」

    扉が開いたかと思うと、淡香のクラスの担任であり英語教諭の大坂が、
    口癖の「えー」を連発して入ってきた。

    そうか、5限目は大坂の英語の授業か。

    大坂は、トレードマークのダサい黒ぶち眼鏡と長い前髪と老人のような猫背が特徴的で、
    いつも自信なさそうに俯いていた。

    彼の授業は間延びしていて要領を得ず、簡単に言えば眠くなる。
    よし昼寝するか、と淡香は教科書すら出さず机に突っ伏そうとしたが。

    そうしなかったのは大坂が物騒な単語を発したからだ。

    大坂「えー、みなさん。さきほど裏門前の十字路を歩いていた近所の方が、えー、不審者に切りつけられる事件がおきまして…」

    ざわっ、とクラス全体に動揺が走った。淡香も同じく目を見開く。
    通り魔事件なんて昨今珍しくもなんともないが、自身のすぐ身近で起こったとなると話は別だ。

    ざわつく教室内を俯きがちに見回しながら大坂は言う。

    大坂「えー、特に近頃、この周辺で不審な人物の目撃情報が増えています」

    大坂「えー、ですので、みなさん、しばらくは学校で待機し、集団下校を……」

    214 = 210 :

    「――せんせー。にんげんって、生きてる意味あるんデスカー」

    クラス中央の席の女子生徒が手を挙げて大坂の言葉を遮った。
    手を下ろした彼女は長い髪をくるくると弄び、語尾を伸ばす独特の敬語でクラス中に聞こえる声で言う。

    「よわっちいやつはぁ。死んでもいいじゃないデスカー。そいつが死んだのなんてよわかったからデショー」

    大坂「……えー、長谷川さん、切りつけられた人はまだ死んだというわけではなく…」

    「トモコのゆーとーりだよぉ、せんせー。世の中じゃくにくきょーしょくデショ?そんなの死んで当然ジャーン」

    大坂「安田さん……えー……だからまだ……」

    別の女子生徒が挙手した女子生徒に賛同する。

    長谷川友子に安田真由美。クラスの問題児。
    学校で堂々と酒や煙草に手を出す彼女らは、よく停学処分になったりしてクラスを騒がせていた。

    発言者が彼女らであることを確認して淡香は顔をしかめる。

    長谷川「結局さ、世の中ヤったもん勝ちなんだよね。強ければ勝つし、弱けりゃ負けるし」

    安田「勝って生き残ったヤツだけが全てだよねー。みんな死んじゃえば同じだもん。死ねば喋れもしないしサ」

    彼女たちの妙に傲慢な物言いと態度に腹が立つ。

    それはほとんどのクラスメイト達が同じようで、ある者は長谷川と安田を睨みながら、
    ある者はひそひそと指をさしながら、それぞれ彼女らを非難している。

    そんな雰囲気に長谷川と安田がハッと鼻で笑った、そのときだった。

    安田「ツマンネー」

    長谷川「いいじゃんマユミ。どうせこいつら、ここでみんな」

    ドォン! と地鳴りがした。

    長谷川「死んじゃうんだからさ」

    215 = 210 :

    とりあえずここまでです。
    後日談とは名ばかりのオリキャラオンリーになっちゃいましたが。

    217 :

    乙乙

    218 :

    地が割れるような重低音が響き、教室全体がぐらりと揺れる。
    淡香は不安定な床の上に立っていられず思わずしゃがみこむ。

    地震だろうか。
    揺れが落ちつくのを待っていると、すぐ隣から甲高い笑い声が聞こえた。

    安田「キャハハハハ!もっと!もっとヤっちゃってよ!」

    長谷川「クソ野郎ども!みんな死ね!死んでアタシらに詫びろ!アハハハハ!」

    二人とも気がふれたように高らかに笑っている。

    未だに揺れの収まらない床と、どこからか漂ってくる焦げ臭い匂いと相俟って
    異様な空気を作りだしていた。

    淡香の近くにいた生徒が二人、唾液を呑み込むリアルな音が聞こえる。
    恐る恐る、彼女らは笑い続ける長谷川と安田に話しかける。

    生徒1「……あんたたち、こんなときに何言ってんの。頭おかしいの?」

    生徒2「長谷川さんも安田さんも、落ちつきなよ。先生の指示を待たないと……」

    長谷川「見て、このピアス!ちょーかわいいでしょぉ?」

    くるり、と長谷川は短いスカートと長い茶髪を踊らせて回った。
    彼女の耳には、大ぶりの黒い石がついたピアスがついていた。

    今まで髪に隠されて気付かなかったが、石は揺れる度にプラスチックのように人工的な安さで輝いたり、
    かと思えば黒曜石のように優美な面持ちで光ったりした。

    髪をかきあげた安田の耳にも同じものが付いている。
    長谷川は自慢げにピアスに触れながら、にんまりと笑う。

    219 = 218 :

    長谷川「このピアスは仲間のアカシなんだぁ」

    長谷川「アタシら二人は選ばれた、生き残るべきニンゲンなの」

    安田「他のやつらは全員死ぬのよ。散々アタシらのことバカにしやがって、ガッコウに潰されて死んじまえカスども」

    長谷川はにんまりと笑ったまま、安田は殺意すら込めて吐き捨てる。
    黙ってられずに淡香は床に座り込んだまま呟く。

    淡香「あんたたち、最低だよ」

    長谷川「あ?何だってぇ?」

    安田「ほっとけよそんな奴。どうせ殺されるんだからさ」

    安田「助かるのはアタシらだけよ。みんな死んじゃえばいいんだよ。アハハハハ!」

    再び気が狂ったように笑い出す安田。

    その瞬間教壇側の扉が勢いよく開いた。
    入ってきた人物を見て、淡香は目を見開いた。


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――

    220 = 218 :

    同時刻、夕子の教室内は淡香のクラスよりもさらに緊迫した状況と化していた。

    生徒1「きゃああああ!」

    生徒2「い、いたっ……いたい、いたいぃ!!」

    唐突に入ってきたスーツ姿の二人の男の手にはナイフと銃があり、
    一人は帽子を目深に被り、一人はレンズが黄色く光るサングラスをつけていた。

    サングラスの男は教室に入るなり一番近くにいた生徒の髪を掴み、高く持ち上げてゆすっている。
    生徒が痛みに泣き叫んでもお構いなしで、嗜虐的な笑みを浮かべる男は心の底から楽しそうだった。

    生徒2「い、いたいっ……たすけて……たすけて……」

    男>1「イタイ、タスケテだってー。ねえねえ可愛いねー、聞いた?」

    男>2「やめてやれ。カタギに手を出したところでろくなことにならないぞ。降ろしてやれ」

    男>1「えー?」

    帽子の男が言うと、サングラスの男は渋々少女を床に下ろした。

    しかし彼は少女の髪からを手を離すことなく、
    そのまま体を引き寄せると彼女の頬に銃口を当てて突っついている。

    少女の顔は紙のように白く、全身をがくがくと震わせている。

    221 = 218 :

    生徒2「あ……あ……やだぁ……」

    男>1「ねえねえ、しあわせだねぇキミ達。親の金でガッコ通って、メシ食って、かわいいべべ着て。しあわせだねぇ」

    男>1「よぉく見ておくといいよお嬢ちゃん。しあわせなんて、ちょっと突いただけで簡単に壊れちゃうんだからねぇ? 」

    生徒2「い……ひっ……ひっく……やだぁ……」

    男>1「泣いちゃうの? 泣いちゃうんだ。かぁわいいなぁー」

    銃口を少女の頬にぐりぐりと押しつけるサングラスの男は実に楽しそうだ。

    夕子には、男はただ遊んでいるだけで少女を傷つけるつもりはないと分かる。
    銃はセーフティも外されていないし、引き金に手を置いてもいないどころか持ち方が変だ。

    しかし見慣れない『凶器』を頬に突きつけられた少女の恐怖はいかほどだろう。
    夕子の隣で「ミカ…」と彼女の友人らしき少女が呻いたが、彼女は彼女で腰が抜けていて一歩も動けないようだった。

    男>1「アキレス腱切って逃げられないようにして、喉潰して叫べないようにした上で嬲るっていうのはどうかな?」

    男>2「やめておけと言っている。お前の目的はその子どもを使って遊ぶことか。違うだろう」

    男>1「えー、そうだけど。辻垣内の娘は今日はいないんでしょ?つまんないよー」

    夕子「……っ!!」

    やはり狙いは雲雀と、そして自分か。

    夕子はすっと立ち上がる。
    隣で先ほどまでは寝ていたはずの瑛が「夕子?」と驚き混じりに自分を呼ぶ声が聞こえた。

    222 = 218 :

    夕子「お前達の目的はなんだ」

    男>1「ん?なに、きみ。この子の代わりに嬲られてくれちゃう系?」

    男>2「……弘世組の娘か」

    帽子の男が低い声で言う。

    夕子「お前達の目的はなんだ、と聞いている。質問に答えろ」

    男>2「目的……ね」

    男は帽子を少しずらし、真っ直ぐに夕子の目を見た――次の瞬間だった。

    およそ3メートルはあった距離を、あっという間に詰められた。
    そのまま逃げる間もなく捕まる。

    夕子「ぐうっ!」

    男>2「おれも雇われただけだ。金でな。悪く思うな」

    男の低い声が聞こえたが動けなかった。
    みぞおちに鋭い一発を浴び、その場にずるずると崩れ落ちる。

    「夕子!」

    瑛の焦った声が聞こえたが、夕子の意識はそのまま薄れた。

    223 = 218 :

    銃とナイフを持った男二人に臆さず対峙した夕子はさすがだと思ったが、やはり無謀と言わざるを得ない。
    雲雀の名前を聞いて頭に血がのぼったのだろうか。

    帽子の男が教室を出ていく前に、やつに飛びかかって助けるべきかどうか瑛は迷う。
    しかしなんとか奇襲に成功したとしても、あのサングラスの男がいるのだ。

    ただの女子高生の自分が、訓練された大人を相手に善戦できるほどの腕はない。

    「夕子!」

    ガタリ、と椅子を引く音がする。
    教室の真ん中付近からの音だった。

    立ち上がった少女の姿に瑛は見覚えがある。
    藤木綾。よく夕子に構っていた剣道部の少女だった。

    藤木「ちょっと何してるのよ!話が違うじゃない!私の大事な友達には手を出さないっていうから協力したのに!」

    男>1「え?なになに?何の話?」

    男>2「……オレは行く。あとはお前に任せたぞ」

    藤木「ちょっと!ほら、これ!」

    少女が髪をかき上げると、両耳に黒い石の揺れるピアスが付いていた。

    あんなの付けててよく今までバレなかったな、と瑛が思っていると
    帽子の男が立ち止まって振り返り、サングラスの男は首を傾げている。

    224 = 218 :

    男>1「……なんだっけ、あれ」

    男>2「手引き者の印だ。それくらい覚えておけ」

    男>1「えー……あ、わかった!思い出した!侵入経路確保に尽くしてくれた協力者ってやつか」

    男>2「覚えてるんじゃないか」

    男>1「うん。そいつらだけは殺していいんでしょ?」

    え、と小さな声がして藤木はあっという間にサングラスの男に捕まった。
    帽子の男の姿はもうない。気絶した夕子をかついでどこかへ消えてしまった。

    残されたのは青い顔をした藤木と、未だ恐怖心を拭いきれない瑛達クラスの皆だ。
    藤木は声を震わせる。

    藤木「……な、なに……?」

    男>1「さあお嬢ちゃん、オレと遊ぼうか。手始めに耳を削ごうか?それとも爪?どうやって遊ぶ?」

    藤木「……や、やだ!離して!」

    暴れる藤木をサングラス男はなんなく押さえつけて、あまつさえ髪の毛の匂いを嗅ぐ真似をしてからかっている。
    明らかに玩具扱いされているのに藤木は気付かず、嫌だ嫌だと全身をばたつかせている。

    藤木「さ、さわるな!このっ!離して!」

    225 = 218 :

    男>1「へえ、自分がされるのはイヤなんだ。だってボスに協力したんでしょ?だったらなんでキミだけは大丈夫だと思ったの?」

    藤木「それは……っ」

    男>1「いやいや、責めてるわけじゃないんだよ?たのしーんだ。オレ、そういうのだいすき」

    男>1「そういう、自分は安全だよってタカ括ってのうのうとしてるヤツらを殺すのがオレの仕事なの。わかる?」

    藤木「ヒッ……」

    サングラスの男が取り出したのはナイフだった。
    切りつけられれば血が出て傷つくと、いくら物分かりの悪い子どもでも分かる。

    男>1「このキレーな髪の毛、皮ごと削いでもいいなぁ。それとも足の指に同時にナイフを落として、どれが駄目になるか試そうか」

    男>1「ナイフと銃と、あと毒でも針でもいいんだけど、ねえお嬢ちゃん」

    藤木「あ……あ……あ……」

    男>1「震えちゃって、かわいい」

    サングラスの男は藤木をぺろりと舐める。

    226 = 218 :

    藤木は顔をぐちゃぐちゃにして、涙を流しながら教室内を見渡す。
    しかし誰も彼女を助けようとはしない。

    助けようと動いたところで返り討ちにあうだけだろうし、
    そもそもサングラスの男や帽子の男の言うことが本当なら、藤木は自分達を売ろうとした女なのだ。

    どんな目に遭おうと自業自得だろう。
    誰も危険をおかしてまで彼女を助けたいとは思わなかった。

    藤木「だれ、か…たすけ」

    少女が大粒の涙を流したときだった。


    ――ガラリ、と突然扉が開いた。
    現れたのは、茶色の髪をなびかせた少女。


    雲雀「世の中には2種類の人間がいると聞きます」

    雲雀「引き金を躊躇いなく引ける人間と、引き金の重さに戸惑う人間」

    彼女は静かに言う。
    そうして片手を上に挙げて真っ直ぐに構えてみせて、

    雲雀「―――あなたは、どちらですか?」

    躊躇いなく、引き金を引いた。

    227 = 218 :

    次くらいで終わります。

    228 :

    乙 雲雀ちゃんは咲さん似なのかな

    230 :



    雲雀ちゃんかっこいい

    231 :

    まだかなー

    232 :

    早く来て

    233 :



    ――――
    ――――――――
    ――――――――――――


    つい数分前までは余裕の表情が浮かんでいたのに、いまや見る影もない。

    長谷川は細身で前髪の長い男に、
    安田は張り付いたような笑顔を浮かべる釣り目の男にそれぞれ捕えられていた。

    首に腕を回され、床にぎりぎり足がつくくらいの高さのところまで持ち上げられ、もがいている。

    長谷川「ぃっ……たっ」

    安田「な……んで、アタシがこんなメに……っ」

    男>1「証拠は消すのがコロシの第一歩ダーヨ。ナァ?」

    男>2「黙って仕事しなさい」

    二人の男は少女が二人大声で泣き叫び、苦しがって嫌がっても慈悲も見せなかった。
    マイペースにただ少女達の首を絞めている。

    長谷川「ぐ……えっ……」

    男>1「ワタシたちの仕事、爆破物の設置とオマエラの始末ダーヨ。悪く思う思っちゃ駄目ネ」

    長谷川「し、しまつ……?」

    男>2「私達の顔を見られたからには、君達を含めたここにいるガキ全員片付けなければなりません」

    男>2「どちらにしろこの建物は爆破するのが目的ですので、逃げられないように置いておくだけなんですけどね」

    長谷川「イ、イヤ、イヤだ! なんでもするから助けて!」

    安田「アタシたちは協力してあげたでしょう!? 助けるっていう話だったじゃない!」

    234 = 233 :

    男>1「そんな話聞いてないのダネ。お前は?」

    男>2「いえ、聞いていませんね」

    さらりと言われた男二人の言葉に、少女達は青を通り越して真っ白になっている。
    本当に殺されてしまうかもしれないという恐怖に声も出ないようだった。

    男たちは無抵抗になった少女を二人、俵のように抱え上げて
    教室の真ん中をずいっと進んだ。

    クラスメイト達は慌てて避けた。
    もちろん淡香も同様で、あっという間に拳銃を持った男たちのための花道が出来あがる。

    二人は教室の後ろにある柱の前に、長谷川と安田を並べて下ろした。
    懐から取り出した紐で目にもとまらぬ早さで手足を縛って柱に括り付ける。

    その上で男の一人は二人の腹の上に手のひら大の四角い箱を乗せ、ぐるぐると縛った。
    見る間に箱は固定され、仕上げとばかりに箱側面のスイッチを押す。

    すると中からカチ、カチリという、
    地獄の底から響くような不規則で不吉な音がし始める。

    長谷川と安田はどちらともなく顎をガチガチと鳴らして震え始めた。

    安田「な、なに、こ、これ……」

    長谷川「な、なに……なんなの……っ」

    男>1「さて、なんだろうダネ」

    男>2「考える必要もないでしょう。あと3分もすればキミ達全員サヨナラなんですから」

    235 = 233 :

    一仕事やり終えたと男たちは立ち上がる。
    男が降り返り、にやりと笑った。

    ガンッ!

    生徒「ヒッ!」

    男>1「そこのオマエ、この部屋から出ようとするんじゃねーダーヨ。一歩でも出たら先にHevenに連れてってやるダネ」

    男二人の隙をつき、匍匐前進で逃げ出そうとしていた少女の頭上に消炎の匂いがする穴が開いた。
    あの銃は本物だ。発砲された。

    教室全体が恐怖に震えた。
    殺される、死んでしまう、と誰もが思った。

    抱き合って声もなく嗚咽を漏らしている者もいる。
    だが、誰一人動けなかった。逃げようと思う心すら挫かれていた。

    男>1「めんどうダネ。ここにいる全員縛っとこうネ」

    男>2「そうですね。ロープ、足りるでしょうか……」

    男たち二人が唸った時だった。
    がらり、と扉が開いたのは。

    男>1「――なッ」

    目にもとまらぬスピードで少女が駆けてくる。
    高く跳躍した少女の膝は、細めの奇妙な語尾の男の顔面に直撃した。

    236 = 233 :

    それだけで少女は止まらず、男の肩に両手を置くと空中でくるりと体制を変え、彼の背にもう一発。
    カハ……ッ、と肺と口から空気を押しだすようなうめき声を上げて、男は膝から崩れ落ちた。

    何が起きているか分からずただ条件反射のように銃を構えているもう一人の男に向かい、
    少女は今度はナイフを投げる。

    鮮やかな血が男の腕から噴き出し、銃を取り落としたところにタックルを入れ、
    床に落ちたところで腕を使って首を絞める。

    淡香「ひ、雲雀!!」

    いち、に、さん、よん、ご。
    いくつか数えたところで男はがくりと首を落とした。気絶したようだった。

    華麗と表現する他ない踊るような雲雀の手際である。
    見惚れていると廊下が再度騒がしくなり、転がるように2人の少女が入って来た。

    「淡香!」

    ゆり「無事っすか!?」

    淡香「あ、瑛にゆり!無事だったんだね!」

    皆の無事を確認して、淡香はほっと息を付いた。

    237 = 233 :

    その隣では雲雀が手慣れた所作で男2人を縛り上げ、
    逃げられないようにぎゅうぎゅうと締めあげている。

    クラスメイト達はぽかんとして、
    現在過多状態の情報を収集し理解しようと勤めていた。

    生徒1「なに、なにが……」

    生徒2「3年の辻垣内、だよな?」

    生徒3「一体どうなってるの……?」


    淡香「――雲雀!コレ、なんかやばいよ!!」

    そんな中淡香は大声で雲雀を呼んだ。

    男二人を教室の隅にごろんと転がし終えた雲雀が、
    柱に縛られたまま動けないでいる少女たち二人に近づいていく。

    238 = 233 :

    ゆり「コレ、なんかカチカチ言ってるっす。ひょっとして爆弾とかっすかね」

    「やばいでコレ、取れへんわ!なあ雲雀!これこのままここに置いておくのマズイんやない?」

    雲雀「……熱感知タイプだね。心音に呼応して動くタイプらしい」

    雲雀「先に縛りつけられているほうを殺してから解体する方法もあったんだけど、その手は使えないね」

    長谷川「ヒッ」

    長谷川も安田も、物騒なことを言い出す雲雀を恐怖の対象として見上げた。
    雲雀はといえば箱の溶接部をナイフでこじ開けて中身を露出させ、それをじっと見下ろすだけだ。

    彼女はすくっと立ち上がり、

    雲雀「―――大坂。減点」

    そう言って雲雀がナイフを投げた先には、
    教師用の机と教卓の間で腰を抜かしている大坂の姿があった。

    トレードマークのダサい黒ぶち眼鏡、
    長い前髪と老人のような猫背が特徴的な男。

    大坂はぽかんとしている。
    その指の間には、雲雀の投げたナイフ。

    淡香「え……」

    「は……?」

    239 = 233 :

    雲雀「こんなになるまで放っておいていい御身分だね。…そこの棚の中に必要道具は全て入ってる」

    雲雀「あなたは爆弾解体も学んでいたはず。これ以上サボれば減給処分だよ」

    淡々と言った。出来の悪い生徒を叱る教師のように。
    大坂はナイフを挟んだ指を床に下ろした。

    大坂「ふっ……ハハハハハ!」

    人が変わったように笑いだした。
    淡香も瑛もゆりも、その場にいた雲雀以外の全員が驚いている。

    大坂と言えば言葉の節々に「えー」と接続詞が入っていて、
    いつも自信がなさそうに俯いていて。

    前髪の長さなんてホラー映画の幽霊になれるだろうと
    学校中からからかわれていて。

    大坂はぐいっとその前髪をかきあげた。
    はじめてみるその瞳は青く、肉食獣のようにぎらついていた。

    大坂「ひょえー。アンタがお嬢か。わっからんわけや。園田のおっちゃんも一切そぶりみせへんかったし」

    大坂「わし、本物のお嬢を当てんのに10万賭けとったのに!」

    淡香「おおさかせんせい……?」

    「おおさかが壊れてもうた……」

    雲雀「何をバカな遊びをしてるの。構成員のプライベートにまで干渉する気はないけど、品位は保ちなさい」

    雲雀「園田はあなたに何を教えたの」

    大坂「園田のおっちゃんは関係あらへん!あんなカタブツの言うこといちいち聞いてられへんしぃ!」

    240 = 233 :

    大坂「なぁお嬢。減給処分だけは勘弁したって?わし、こないだ競馬で50万スったばっかやねん。な?殺生なこといわんと!」

    ぱんぱんと膝についた誇りを払うそぶりをして立ち上がり、
    大坂はくるりと握ったナイフを回した。

    それを、投げる。

    近くにいた生徒がヒッと小さな悲鳴を上げたが、
    彼の投げたそれは廊下でこちらの行動を伺っていた男の肩に華麗に吸い込まれた。

    大坂「ちゃんと働くさかいに。な?」

    その言葉を最後に、
    大坂は目にもとまらぬスピードで駆けて行った。

    廊下からは野太い悲鳴が聞こえる。
    銃の発砲音と、生々しい鉄の匂いも。

    大坂の姿を見送った雲雀はふうと溜息を吐いた。

    雲雀「……私が命じたのは爆弾解体だったはずなんだけどな」

    淡香「もしかして大坂先生もそっちの人間…?」

    雲雀「大坂は他の組から呼んだ助っ人だよ。他にも何人か潜り込んでる。一応組織の機密なのでこれ以上は言えないけど」

    ゆり「雲雀!そんなことよりコレをどうにかするっすよ!」

    241 = 233 :

    そうしている間にも長谷川と安田に取り付けられた箱の中の時計は進んでいた。
    雲雀は「心音に連動して動く」と言っていたが、この調子ではあと5分ほどで0時を指してしまう。

    素人目だが、この時計の針がすべて同じ場所で重なったら危ないのではないだろうか。
    あ、そうだったと今思い出したかのように雲雀は呟いた。

    教師机の後ろに備え付けられた棚からリュックを取り出してきて、
    さらにその中から工具箱を取り出す。

    中にはペンチやスパナ、ドライバーといったメジャーなものから、
    用途すら分からない不思議な形状をしたものまである。

    雲雀はなんの戸惑いもなく適切な工具を取り出して、爆弾の解体作業をはじめる。

    ぺちん、ぺちんと静かな室内に配線を切る音がやけに重々しく響く。
    淀みなく、無表情に冷静に、雲雀は作業をしていく。
    それはおおよそ3分ほどで終わりを迎えた。

    雲雀「…終わったよ。体育館をひとまずの避難所として手配したので、誘導するから」

    そう言った雲雀の手にはリュックの中から取り出された新しいナイフと拳銃があった。

    243 :

    雲雀ちゃんのハイスペックぶり

    247 :

    雲雀が淡香のクラスに乗り込んだほぼ同時刻。
    臨海女子高校のとある場所にて、女は腕を組んで部下からの報告を待っていた。

    部下1「ボス、第三区への爆薬設置は完了です」

    部下2「メンバーの配置もすべて終わりました」

    部下3「あとは第一区が終われば完了です」

    「そう。アリガト」

    女は報告に来た部下に微笑みかける。
    彼らは少し頬を赤くして、けれど無言でその場を去った。

    年齢不詳の怪しげな色香を伴った女はその反応に満足する。
    さすがは優秀な手駒たち。無駄口を叩かず余計なことをせず、すこぶる有能だ。

    「あとは第一区だけだけど、どうなっているのかしら 」

    部下1「そのことなんですが……ボス。黒川からの定期通信がありません」

    「なに……?」

    部下2「同じく、第一区に配置した乾から河野、及び他の構成員からのすべての報告が途絶えました」

    部下3「ボス、これは“組織”に妨害されているとしか」

    248 = 247 :

    「そうね。辻垣内の娘、雲雀ちゃんがきたのかもね」

    彼女が何気なくそう呟くと、
    その場にいた部下達が全員息を飲んだ。

    この世界に生きる人間で、辻垣内組の名を知らない者はいない。
    関東一の勢力を持つその名は常に畏怖の象徴とされてきた。
    だからこそ、その芽を摘もうと娘の誘拐計画を立てたわけだが。

    「ふふ……、もうすぐ逢えるわね。咲ちゃんの娘さん」

    彼女はそう呟いて、その部屋を後にした。

    数分後には時限爆弾が作動して、
    ここにある証拠品は残らず始末される手はずになっていた。


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――

    249 = 247 :

    雲雀の背中を追って、淡香達は移動する。

    生徒1「つよー……」

    生徒2「雲雀無双……」

    生徒3「私、ゲームの世界にいんのかな……」

    目の前に現れる屈強な男たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
    使用されれば銃でも対応するが、雲雀はほとんどナイフと素手で応戦していた。
    銃は発砲音が煩いから、そのためだろうと思った。

    彼女の倍以上の背丈はあろうかという男相手でも一切屈せず、
    鮮やかとしか表現できない手並みでなぎ倒して行く。

    雲雀についていけば大丈夫……
    誰もがそう思った。

    雲雀の後に続いて階段を下りる。
    その背後には自分達についてきた他クラスの生徒や教師の他に
    倒れ伏して気絶した男達や生々しい血液も大量にあったが、そこは見て見ぬふりをする。

    生き延びること。
    緊迫した状況で、自分達が目指すのはそれだけだ。

    250 = 247 :

    「なあ雲雀!どこに向かってるん!?」

    雲雀「ひとまず体育館に。他の部下も配置してるから」

    ゆり「そこに夕子がいるんすか!?」

    雲雀「さぁ、どうかな」

    言いながら雲雀はシュッと細身のナイフを投げた。
    目の前で銃を構えていた男二人が取り落とし、その隙をついて高く跳躍し蹴りを入れる。

    あっという間に障害物を二つ片付けた雲雀は階段を右に曲がる。
    あとは渡り廊下を行けば体育館だ。

    雲雀は勢いをまったく殺すことなく駆けていき、
    体育館の前で急ブレーキを掛けると扉を開けた。


    田中「お嬢!」

    佐藤「雲雀様」

    そこには他学年の生徒や教師が大量に集まって身を寄せ合っている他、
    精力的に動いているいくつかの影があった。

    この間新任したばかりの養護教諭の田中。
    去年自分達の入学と共に新任した鈴木と佐藤。バレー部監督で外部教師の加藤。

    他にも淡香達が知らない作業着やスーツを着た男女(おそらく用務員や事務員だ)が、
    手慣れた様子で負傷者の手当てに回っていた。

    彼らは雲雀の姿を認めると一斉に集まってくる。


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