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    元スレ咲「命にかえてもお嬢をお守りします」

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    51 :

    >>46
    女のヤの人が居ても良いと思うの、出来ればね

    とにかく待ってた期待!

    52 = 50 :

    「んで」

    青筋を浮かべながら、淡が言う。
    その隣には憩。
    その背後には、咲。

    「なんでトイレにまで着いてくるのよ!」

    「いや、だって、一人になるなって言われたやん」

    手を洗い終わった憩がタオルで拭きながら呆れたように言う。
    咲はというと、終始無表情かつ無言だった。

    「そんなの知らないよ!智葉の友達だから狙われてるとか危ないとか」

    「でも現に私ら、初日は大分危なかったやない?」

    「あれはあの時だけでしょ?今もそーだって保証は何もないわけじゃん」

    「もう、淡は強情なんやから……宮永さんも何か言ってやったらどうや?」

    「…はい?」

    「淡は宮永さんが何にも言わないことに腹立ててるんやないかな?」

    「私が、ですか?」

    憩が振り返ると、咲はかすかに首を傾げた。

    「せや。たとえば高校の時のインハイ以来姿を消してた理由とか」

    一体どういう経緯で咲が極道の世界に首を突っ込んだのか。

    53 = 50 :

    「……それは、知らない方がいいと思いますよ」

    咲はたっぷり時間を取って、小さいがよく通る声で言った。

    「聞いてもあまり気分の良い話ではありませんので」

    「え…」

    淡が眉根を寄せたそのときだった。
    入り口のほうで、からからと明るい女性の笑い声がしたのだ。

    白鷺「悪いけど、筆頭を苛めるのはその辺にしといてあげてよ」

    「!?」

    そこにいたのは、マネージャーであり智葉の配下でもある白鷺だった。
    咲は彼女の姿を見て、むっと顔をしかめた。

    「……白鷺さん。誰の目につくか分からない場所で、その呼び方はやめてください」

    白鷺「誰もいやしないわよー、筆頭。そもそも筆頭って私より気配読むの得意じゃない」

    「いる、いないは関係ありません。盗聴の心配も考えてください」

    白鷺「相変わらずお堅いわねー。細かいことはいいでしょ?」

    そういうトコも可愛いけど、と白鷺は悪びれる様子もなかった。
    壁に凭れかかって足を組み、長い人差し指を唇に当てながら彼女は言う。

    白鷺「さ、帰りましょ皆」

    白鷺が踵を返し、咲が無言で後ろに続く。
    憩も彼女らに着いて行ったので、仕方なく淡も歩きだした。

    54 = 50 :

    翌日。

    今日も試合会場へ移動するため智葉達はバンへと向かう。
    咲は、最後尾を影のように着いてきている。

    そんな彼女を淡はちらちらと盗み見ていた。
    昨日咲が言っていた言葉が、まるで虫にさされた痕のように痒くて気になって仕方ない。


    『……それは、知らない方がいいと思いますよ』


    (何よ、思わせぶりなこと言って。結局何も教えてくんないじゃない…)

    淡が苛々して舌打ちをした、そのときだった。


    「待ってください!」


    バンに乗り込もうとした智葉達に向かって、咲が殊更強く声を上げた。
    振り返ると、いつも表情の無い咲が珍しく感情を露わにしている。

    警戒心、という感情を。

    ゆみ「宮永、どうかしたのか?」

    洋榎「どないしたん、乗らへんの?」

    「…白鷺さん、あなたは今日はバンの運転担当だったはず。何故こちらへ来ているのですか?」

    白鷺を射るように睨んでいる咲の様子に、智葉ははっと息を呑んだ。

    55 = 50 :

    咲と智葉が警戒心を露にしていることに気づいているのかいないのか、
    白鷺は曖昧に微笑んで唇に人差し指を当てる。

    白鷺「あら、園田から聞いてない?当番を変えたのよ」

    「そんな報告は受けていません」

    白鷺「あらあらー。園田ってば 案外うっかりさんなところもあるのねー」

    「……白鷺さん」

    次の咲の一言に、空気が凍った。


    「その運転手の男は誰ですか」


    まずは智葉が反応して、運転手の男が園田ではないことを目視する。
    他の皆も異変を感じて表情を強張らせた、そのときだった。

    56 = 50 :



    白鷺「―――やだわぁ。勘の良いガキって、これだから」


    背後から重たいものが落ちるような鈍い音がして、咲が前のめりに倒れる。

    「ぐぅっ…」

    智葉「咲!!」

    咲の後ろから現れたのは、鉄パイプを持った男だった。
    耳と下唇にたくさんのピアスを開けていて、
    明らかに智葉の部下と名乗る者たちとは雰囲気が違う。

    男はにやにや笑っている。
    白鷺も、笑っている。


    白鷺「全員、中に入りなさい。じゃなきゃ……分かるわよね?」

    智葉「くっ…」


    智葉達は皆苦い表情をしながら、黙って白鷺の言葉に従う。
    そして車内に入った途端、急激な眠気に襲われて意識を失った。


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――

    57 = 50 :

    先ほどまではホテルの駐車場にいたはずなのに、
    目を覚ますと湿っぽい石畳の上だった。
    遠くから汽笛の音が聞こえてくるから、海の近くなのは確かだろう。

    洋榎「うっ…」

    ゆみ「ここは…どこだ?」

    「…あったま、いったー…気持ち悪いー…」

    「いたた…潮の匂いがするなぁー……って宮永さん!?」

    憩が痛みに呻きながら目を開けると、
    そこには自分達より大分離れた場所に転がされている咲の姿があった。

    憩が起きあがって立ち上がろうとするも叶わず、体勢を崩して再び崩れ落ちる。
    いつの間にか腕と足をロープで縛られていた。
    それは咲を含む他の5人も同じだった。

    「あれ?智葉が…いない?」

    憩の言葉に、すでに目覚めている洋榎らがハッと息を呑む。
    確かに、4人がどこを探しても智葉が見当たらない。

    58 = 50 :

    白鷺「―――ハァイ、プロ雀士達。ご機嫌いかが?」

    目の前に、黒いエナメルのハイヒールを履いた白鷺が現れる。

    彼女は埃っぽく薄暗いこの場所にまるで不似合いな楽しそうな笑みを浮かべて、
    今にも踊り出しそうなリズミカルな靴音を立てながら憩達へと近づいてくる。

    ゆみ「白鷺さん…」

    洋榎「一体どういうことやねん!白鷺」

    「智葉をどこに連れてったんや」

    「この縄を今すぐ解いてよ!」

    白鷺「あらあら。わんわん喚いて子犬みたい。まあ、嫌いじゃないわよ?でもあなたたちって、ちょぉっと大きすぎるのよねぇ」

    白鷺は上機嫌に笑いながら、寝転がっている淡の頭をつんとつつく。
    淡が嫌がって頭を振ると、白鷺は「失礼しちゃうわ」と少しも不快感を滲ませない声で言った。

    59 = 50 :

    白鷺「智葉様?彼女なら別のところで拘束してるわ。こんな埃っぽいところじゃなくて、もうちょっと綺麗なトコ」

    白鷺「それから白鷺って呼ばないでくれるかしら?この仕事でのコードネームはもう捨てることにしたから」

    白鷺はスッと立ち上がり、自分達がいるのとは反対側、咲の方へと足を進めた。
    咲の傍へ来てしゃがんだ白鷺は、咲の頭部を草でも毟るように掴んで引っ張り上げた。

    「……う……」

    白鷺「ねえ、筆頭。起きて」

    咲がかすかに呻いて、瞼を開ける。
    その顔は煤だらけで、石畳にこすれたためかうっすらと血が滲んでいた。

    白鷺「ふふっ。ご機嫌はいかが?ああ、ここの傷跡とか、ここの痣とか。筆頭ってほんとに私好み」

    「…白鷺さん……」

    白鷺「ああ、もう筆頭じゃないんだったわ。なら咲ちゃんって呼んでもいい?」

    「…………」

    白鷺「咲って、ちゃんとした本名なんでしょ?ねえ、智葉様お気に入りの咲ちゃん?」

    「…………」

    60 = 50 :

    白鷺「ねーえ、答えてってば。何だったら、咲ちゃんのこと何でも知ってるらしい智葉様の身体に聞いてもいいのよ?」

    「ッ!やめなさい!!」

    咲が珍しく声を張り上げたので、淡達は全員驚いて目を見開く。
    白鷺はにんまりと口角を持ち上げた。

    人差し指で咲の唇をついと触り、その指で肌の柔らかさを確かめるように頬を撫でる。

    白鷺「んふ。かぁわいー…。ねえ、咲ちゃん。智葉様の護衛なんて止めて、私と一緒に来ない?」

    「……何を、言っているんです」

    白鷺「そのまんまの意味よ?今ここで頷いたら、咲ちゃんの命だけは助けてあげる」

    白鷺「私の今の雇い主はなかなか羽振りがいいの。今回の仕事も智葉様を誘拐するだけで1年は遊んで暮らせるおカネをくれるんですって」

    「…………」

    白鷺「素敵だと思わない?権力を傘に掛けて威張り散らしてるしか脳の無いお嬢なんか捨てちゃって、毎日面白おかしく暮らしましょうよ」

    「…………」

    白鷺「もちろん今すぐ返事しろとは言わないわ。明朝に雇い主のオジサマが来るから、それまでに考えておいて」

    にこりと言って、白鷺は咲から手を離した。
    唐突に拘束を失った勢いで、石畳に頬が激突する。

    埃が舞い上がり、げふげふと咲は咳き込んだ。

    61 = 50 :

    すっと立ち上がった白鷺はそのまま振り返らず、別の部屋へと姿を消した。

    憩達は咲に大丈夫かと駆け寄りたかったが、
    手足を縛られているせいで叶わなかった。

    「サキ!だいじょう……」

    大丈夫か、と淡が声をかけようとしたその時。

    咲が身体をひょいと起きあがらせたと思ったら、
    彼女は右足の靴を脱いで踵の部分を摘まんだ。

    その手に握られているのは、一本のショートナイフである。

    あれ、どこから取り出した?とぽかんとする淡達を横目に、
    シュッシュッと足と手を拘束する縄を切った咲は立ち上がって埃を払い、
    屈伸運動をして緊張した身体を解す。

    その間、わずかに20秒。

    目が点になっている4人に気付く様子もなく、
    咲はスタスタと彼女らに近づいて全員のロープを切った。

    「みなさん、動けますか?」

    平然と咲は言った。

    62 = 50 :

    今回はここまでです。

    64 :

    おつ
    すげー面白い。続きも楽しみにしてる

    65 :

    咲さんカッコいい

    66 :

    乙乙

    67 :

    咲さんか陵辱されて智葉に救われたんだな、楽しみにしてます

    69 :

    今日こそは!

    70 :

    淡はぽかんとして縄に擦れて痕が付いた手首をさするが、
    他の3人は泡を食ったように咲に詰め寄った。

    「み、宮永さん?白鷺さんの話聞いてなかったん?」

    「……?話とは?」

    長く伸ばした髪をかきあげながら咲が尋ねる。

    ゆみ「智葉の側近を辞めてという話だ」

    あ、そういえばそんな話もしていたな。
    淡は手のひらの埃を叩きながらそう思って、しかし黙っている。

    洋榎「ちょっとくらい動揺するもんやろ?」

    「はあ…お嬢の側近をやめても私にはメリットがないですし」

    「メリットて……いやだから、毎日遊んで暮らすっていう……」

    「毎日遊んで暮らす?……くだらない」

    きっぱりと跳ね除ける咲、その反応が予想外で驚く4人。

    71 = 70 :

    ゆみ「で、でも金さえあれば、宮永もボディガードなんていう危ない仕事をせずに済むんじゃないのか?」

    洋榎「せや。こんな恐ろしい世界から抜け出せるチャンスやないん―――」

    「 ―――終わりました」

    立ち上がって靴のつま先をとんとんと叩く咲の手には、二本のショートナイフと一つの小さな箱。
    咲はその箱を4人の近くに置くと、不思議そうに見ている皆に「発信器です」と小声で告げた。

    「まもなく園田さんも到着するでしょう。それまでここで声を出すことなく待てますか」

    ゆみ「……ああ、待てるが」

    「サキはどこに行くの?」

    「私はこのまま主犯のところへ乗り込みます」

    淡達は目を剥いた。
    いくら強いとはいえ華奢な女性である咲が、たった一人で

    そんな頼りない短いナイフを二本持っただけで敵陣へ乗り込むなどと、死にに行くようなものだ。

    72 = 70 :

    洋榎「そんな、一人でか!?」

    「お嬢が捕まったままです。私の仕事はお嬢をお守りすることですので」

    ゆみ「仕事って…宮永、ひどい怪我じゃないか!」

    「痛くないの!?」

    「これくらいは、日常の範囲です」

    「日常の範囲って……」

    咲の右腕には、一昨日の夜つけられたという傷がまだ残っている。

    それに今までは上着を羽織っていたため気付かなかったが、
    咲の腕や足にはあちこちに生々しい痣や傷があった。

    そのほとんどが今日昨日でついたものではないことくらい素人目でも分かった。
    息を飲む4人を見て、いつもの無表情で小首を傾げる咲。

    「手足をもがれたわけでもない。腹に穴を開けられたわけじゃない。動けます」

    洋榎「う、動ける動けないの問題やないわ!」

    ゆみ「そうだ。応援が来るのなら、待った方が懸命だ 」

    「一人で行くなんて危ないで」

    「危険など関係ありません」

    「関係なくないでしょ!?」

    73 = 70 :

    淡は立ち上がって叫んだ。

    「何で進んで危険な真似するの!?わざわざ一人で行って、死ぬかもしれないんだよ!?」

    「…それがどうかしましたか?」

    「!!」

    咲の言い様にカッとなってつい出してしまった手を、咲は最小限の動きで避ける。
    行き場を失った手が空を切り、淡は体勢を崩して前のめりに倒れた。

    そんな淡を見下ろしている咲は、しかし先程よりほんの少し眉根を寄せて首を傾げていた。
    淡はふと、もしかしたらこれは咲の困っているときの表情なのかもしれないと思った。

    「大星さん達が私を心配してくれているのは嬉しいです。でも……」

    「私には、こういう風にしか生きれませんので……」

    そのとき淡が見た咲の瞳はどこまでも暗く深く、
    底知れない闇を抱えているように感じられた。

    74 = 70 :

    「では、私はもう行きますので、皆さんはここでじっとしていてください」

    「待ってよ」

    去ろうとする咲を、淡は引きとめた。

    覚悟は決まった。
    あとはもうどうにでもなれと思う。

    「私も一緒に行く。連れてってよ」

    ゆみ「淡!?」

    洋榎「あんたまで何言ってんねん!」

    「うっさい」

    思わず声をあげるゆみや洋榎の言葉を、淡は一喝して遮った。

    「友達のピンチでしょ。ここで動かないで、何が仲間だよ」

    その言葉に他の3人は息を飲む。

    1番最初に我に帰ったのは、憩だった。
    そうして諦めたように溜息を付いた彼女は立ち上がって呟く。

    「……分かった。なら私も行くで」

    75 = 70 :

    ゆみ「憩!?」

    「淡だけを危険な目にはあわせられんわ。何より智葉は私の仲間でもあるしな」

    洋榎「ああ……もう!」

    次いで立ち上がったのは洋榎だった。
    洋榎は顔をぐじょぐじょしょにしながら鼻を啜ると、やけくそのように叫んだ。

    洋榎「うちも行けばええんやろ!もう、どこまでも付き合ったるわ!」

    ゆみも静かに立ち上がった。

    ゆみ「ならば私も行かないわけには いかないな」


    「いえ、結構です」


    盛り上がってきた雰囲気をぶち壊す、咲の一言。

    「貴方たち、弱いじゃないですか。そんなに弱いくせに、ついてきて何をするんです」

    その言葉を聞いた面々はぽかんとし。
    次の瞬間、淡が暴れた。

    76 = 70 :

    今回はここまでです。

    77 :

    乙乙

    79 :

    乙 咲さんw

    80 :

    当たり前だよね
    着いてきて死なれたり、それで智葉救う確率下がるんじゃねえ?
    草生やすような話じゃないよ

    一乙

    81 :



    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――


    智葉が目覚めるとそこには黒スーツ姿の男が十数人、
    倉庫のような場所で思い思いにたむろしていた。

    酒と男たちの下卑た笑い声の向こうに、潮の匂いと波の音。
    建物の上部に付けられている明かり取りの窓の外には夜空が広がっているところをみると、
    自分は相当長い間気を失っていたらしい。

    灯りは電池で動くタイプのランタンで、必要な分だけ木箱の上に置かれていた。

    智葉「……う…」

    白鷺「ハァイ、智葉様。ご機嫌いかが?」

    智葉「…白鷺」

    白鷺「やぁだお嬢まで。筆頭みたいな返し方しないでくださらない?」

    自分の髪を無遠慮に引っ張る指に、強制的に意識を向かされる。

    ネイルアートを施された細い指の正体は、智葉達プロ麻雀チームの敏腕マネージャー、
    そして智葉が信頼していた自分の側近である白鷺。

    82 = 81 :

    智葉は彼女の手を振りほどこうとしたが、椅子に座らされて縄で縛られているため腕が上がらない。

    頭皮が剥がされてしまいそうな痛みに思わず呻くと、
    ランタンの傍でカードゲームに興じていた男たちが赤ら顔で茶化してきた。

    男>1「へえ、姉ちゃん、白鷺って名前なのか。洒落てんじゃねーか」

    男>2「おう、白鷺の姉ちゃん、ちょっとこっちきて遊ぼーや」

    白鷺「あらやだ。私に名前なんかないわよ」

    白鷺はからからと笑う。
    耳障りな声が不快だったので、智葉は思いきり顔をしかめた。

    智葉「白鷺が嫌なら、元マネージャーとでも呼べばいいのか。どちらにしろ裏切り者の名になど興味は無い」

    白鷺「ふうん。お嬢って、相変わらずおバカさんよね。自分の立場分かってるのかしら?」

    智葉「グッ」

    白鷺「こーんな無様に捕まっちゃってるのに威張っちゃって。その点筆頭…じゃなかった、咲ちゃんは素直で可愛いわァ」

    白鷺は智葉の髪を引っ張っていた手を離して、ぺろりと唇を舐めた。
    そんな彼女を智葉は小馬鹿にした視線で睨む。

    智葉「お前にそんな趣味があったとはな」

    白鷺「ふん。お嬢だって同じ穴のムジナじゃない」

    白鷺もまた、智葉を小馬鹿にしたように吐き捨てた。

    83 = 81 :

    白鷺「その横柄な態度、いつまで持つのかしら」

    白鷺「捕えられて私たちの道具にされて、その上信頼しきってた筆頭に裏切られたプライドの塊みたいなお嬢なんて、見物だわぁ」

    智葉「何……?」

    白鷺「私、咲ちゃんを誘っているの。お嬢なんか見捨てて、私と一緒に来ないかって」

    彼女の言葉に、智葉はぴくりと眉を動かした。
    それを焦りと取ったらしい白鷺は智葉を見下すような笑みを浮かべ、舞台女優のごとく声を張り上げる。

    白鷺「溢れる宝石!世界中の珍味!酒も、男も思いのまま!こんな好条件、見逃す子なんていると思う?」

    智葉「……」

    白鷺「ましてや咲ちゃんはまだ子どもなのよ。傲慢な雇い主なんて放っておいて遊びたいに決まっているわ。私には分かる」

    白鷺「普段は我慢してるだけで、咲ちゃんだって本当は美味しいお菓子と綺麗なものが大好きなのよ」

    智葉 「……」

    白鷺「きっとあの表情の下に、とんでもない孤独を抱えているの。私がそれを癒して…」

    智葉「言いたいことは、それだけか?」

    智葉は心底白けきって、自らの言葉に陶酔している彼女の言葉を途中で切り捨てた。
    白鷺はむっとしている。

    84 = 81 :

    智葉「お前は咲を何も分かっちゃいない」

    白鷺「…っ」

    智葉「お前が今までどんな奴を相手にしてきたか知らないが、咲をそこらの奴と一緒にするな」

    白鷺「な、なによ。あんたが咲ちゃんを縛りつけてる張本人のくせして!」

    智葉「縛りつけてなどいない。咲は、私の―――」

    智葉がにやりと笑った。


    智葉「最高の相棒だ」


    その瞬間。
    閉ざしていたはずの倉庫の扉が、ふいにギィと音を立てて開いた。

    倉庫中の人間の視線が一斉に入り口のほうへ向く。
    人払いはしておいた。見張りも立てていたはずだ。

    そうして彼らの目に飛び込んできたのは、茶色の長い髪をなびかせた年若い女。
    女は視線を物ともせずスタスタと中に入ると、一度倉庫内をぐるりと一瞥し、

    手に持ったマシンガンを乱射した。

    85 = 81 :



    『あなた方は私の補助をお願いします』

    大星さんと荒川さんはこのナイフを持ってお嬢のところへ。
    加治木さんと愛宕さんは、私が処理していった男達をこのロープで縛ってください。
    その他に余計なことはせず、危なくなったら逃げること。

    『…いいですね?』

    てきぱきと指示されて、4人はただこくこくと首を縦に振った。


    (宮永さん…すさまじいなァ……)

    洋榎(これ、宮永一人でも良かったんやないん?)


    智葉が捕えられているらしい場所を特定してからの咲は素早かった。

    見張り役の男を発見した咲は光の速さで彼らを気絶させ、
    身体中をまさぐりナイフを二本と拳銃を二本入手する。

    その後彼女は手助けを買って出た4人に当たり障りのない指示を出した上で
    余計なことはしないよう厳命し、
    その上でどこからかご立派なマシンガンを見付けて持ち出してきた。

    86 = 81 :

    ぎょっとしたゆみが「それはどこに?」と聞くと咲は「私達がいた倉庫にありました」と答え、
    「うちもそれ使いたいわー!」と洋榎が言うと「素人が持つ物じゃありませんよ」とやんわり断った。

    そうして、現在。

    てっきり裏口から回ってこっそり智葉を救出するものだと思っていた淡達の予想は、大きく外れた。
    咲はなんと堂々と真正面から開けると、無表情のまま何一つ恐れることなく倉庫内に入ったのだ。

    ざわつく室内を物ともせずぐるりと見渡した咲は、智葉の姿を見つけると、こくりと一度頷き。
    唐突にマシンガンを構えて、乱射し始めた。

    男>1「ヒッ、なッ、なんだっ!?」

    男>2「お、女!?誰だ…って、うわー!!」

    男>3「怯むな、反撃するぞ、わっ、わああああ!!」

    木箱が銃弾に貫かれて粉々になる。
    中から白い砂のようなものが大量に流れ出す。

    咲はマシンガンを操りながら徐々に前に進み出て、
    あっという間に男たちの半数以上を蹴散らした。

    87 = 81 :

    男>1「うわっ、なんだよこの女!?」

    男>2「この人数でまるで歯が立たないな、んて、うわー!!」

    男>3「こんなの命がいくつあっても足んねーよッ!!」

    白鷺「ちょっと、何逃げてるのこの愚図ども!!図体ばっかりでかくて、これだから××の生えたファ××ン野郎は!!」

    最初は息巻いていた男たちがみるみるうちに戦意を喪失し、
    中には逃亡するものまで現れ、白鷺は口汚い言葉を吐いて喚いている。

    その後銃弾を使いきったらしい咲が近づいてくる敵に向かってマシンガンを投げ付け、
    さらにそのすぐ傍にいた男に掌底を繰り出し気絶させる。

    そんな光景を目の当たりにし、4人は腰を低くして移動しつつ戦慄していた。

    「すごー……」

    洋榎「もはや現実じゃないみたいやな…」

    88 = 81 :


    智葉「――ああ、みな御苦労だったな」

    いつの間にか自力でロープを切り、両手両足が自由になっていた智葉が4人に声をかける。

    白鷺「なッ、なにやってんの、このッ―――」

    白鷺が4人の姿を見咎めて、腰のホルスターから銃を取り出す。
    智葉はすぐに身をかがめて相手の懐に入りこみ、みぞおちに向かって思いきり拳をねじ込んだ。

    カハッと息を吐いて気を失った白鷺が倒れ込む。

    「智葉やるぅ~」

    洋榎「さすがは極道の娘やな」

    智葉「おいお前たち、ちょっとは危機感を持て」

    ゆみ「いや、あまりに非現実すぎてな。感覚が麻痺してしまってるんだ」

    やれやれとため息をひとつ吐き、智葉は周囲を睥睨する。
    視線の先では咲が黒スーツの男と相対していた。

    89 = 81 :

    対峙といっても黒スーツの男はしゃがみこんで咲に何かしら懇願しているところで、
    咲は男を無表情に見下ろすと、拳銃を構えて無言で撃った。

    男は泡を噴いて失神した。

    ちなみに咲は男を殺したのではなく、頬のすぐ横を打ち抜いただけだ。
    ゆみと洋榎はせっせと伸びきっている男たちをまとめてロープで縛っている。

    咲は敵全員が倒れているのを確認すると、銃を持ったままこちらへ近づいてきた。
    あれだけの大立ち回りをしておいて、彼女は全くの無傷だった。

    「お嬢、お怪我は」

    智葉「大丈夫だ、何ともない。お嬢と呼ぶな」

    「これは失礼を」

    咲が智葉に向かって、慇懃に腰を折る。

    それから間もなくして園田が数人の黒服の男たちを引き連れて現れ、
    5人は無事に保護された。


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――

    90 = 81 :


    数日後。
    辻垣内組の息の掛かった病院で4人は精密検査を受けていた。
    もちろん費用は全て智葉持ちで、念のため、という前提が付いていたが。

    今は検査が全て終わり、5人で検査着姿でティータイムと洒落こんでいるところである。

    病院の最上階の見晴らしのいいラウンジを貸し切りにして、
    辻垣内家の使用人が香り高い紅茶を淹れている。

    テーブルの上には、瑞々しいフルーツと生クリームをたっぷり使ったケーキが、
    ホールサイズで数種類。

    湯気が立ち上るスコーンにはクロテッドクリームとカスタードクリームが添えられていて、
    サンドイッチすらどれを取っても美味だった。

    これは智葉曰く“今回迷惑をかけたお詫び”らしい。

    淡や憩は目をキラキラさせてお菓子にがっついているが、
    洋榎は甘いものより肉が好きな性質なので素直に文句をつける。

    智葉は「では夕食に肉も用意させよう」とあっさり言った。

    91 = 81 :

    「あむっ、このケーキ美味しい、むぐむぐ」

    「淡、こっちのスコーンもいけるで、んぐんぐっ」

    洋榎「お前らそんなにがっつくなや。…ってそういえば宮永がおらへんな」

    智葉「咲ならまだ事後処理中だ。ただ今日中に終わるらしいから、終わり次第ここに来るよう伝えてある」

    ゆみ「そうか。宮永にはあれからまともに会っていないし、礼くらい言わなければならないな」

    「……」

    サンドイッチとケーキをたくさん食べ、しかし夜のために腹4分目でセーブした淡は、
    咲の名前を聞いてふと彼女が言っていた言葉を思い出した。


    『……それは、知らない方がいいと思いますよ』


    智葉「どうした、淡。お前が考えごととは珍しいな」

    「……いや……あのさ、智葉」

    智葉「なんだ」

    「サキのこと……教えてくれない?」

    その言葉に、智葉はカップをテーブルに置いた。
    皆の視線が彼女に集中する中、腕を組み静かに呟く。

    智葉「――咲は6年前、正式に契約を結び私の組の者になった。ただそれだけだ」

    智葉「その他のことは、お前たちは知らない方がいいだろう」

    智葉はきっぱりと切り捨てる。
    それは本当に、知らない方がいいことなのだろう。

    6年前とはまるで面影の変わった咲。

    あの尋常ではない強さ、ナイフ捌きの華麗さ、銃の扱いの慣れ具合。
    それら全てを総合すれば、おのずと答えは見えてくるのだから。

    92 = 81 :

    今回はここまでです。

    94 :

    乙 スコーン食べたくなってきた

    95 :

    ぐぬぬ…気になるところで終わってしまった
    乙。続き楽しみにしてる

    96 :

    すっげー気になる終わりなんだが続き欲しいわー

    97 :


    夕食の時間になり、皆が最高級のヒレ肉を使ったステーキに舌鼓を打っていた頃。
    事後処理を終えた咲がようやく姿を現した。

    「お嬢、遅れて申し訳ありません」

    智葉「いや。遅くまでご苦労だったな。お嬢と呼ぶな」

    「これは失礼を」

    いつものやり取りを聞きつつ、洋榎や憩が食べる手を休めずにいると。
    淡がすっくと立ち上がり、咲の手を取った。

    「…ちょっと話があるんだ。付き合ってよ」

    「私に、ですか?」

    驚いた咲は、主人へと視線をやる。
    智葉は無言で首を縦に振った。

    「…分かりました」

    そのまま淡の手に引かれ、咲はドアの向こうへと姿を消した。
    3人はぽかんとその行動を見やる。
    が、智葉は全てを見通したかのように呟いた。

    智葉「…やれやれ。知らない方がいいと忠告したのにな」

    ゆみ「智葉?」

    智葉「いや、何でもない。それより肉はまだまだあるぞ。食べないのか?」

    洋榎「もちろん食べるでー!あ、ライスのお替りよろしくな!」

    「私も!大盛りでよろしくですぅ」

    ゆみ「お前らはもっと遠慮しろよ…」

    98 = 97 :

    人気のない廊下の隅まで移動して、
    淡は引いていた咲の手を離した。

    「それで、大星さん。お話とは一体…」

    「私、どうしてもサキのことが知りたい」

    咲の言葉を途中で遮り、淡はそう告げる。
    一瞬開きかけた口を閉じ、咲はしばし沈黙する。

    「……私ね。高校の時のインハイで、サキに負けたことが悔しかった」

    「……」

    「でも、それ以上に楽しかったの。全力を出し切って、それでも敵わなかったサキの圧倒的な麻雀にワクワクした」

    「だから、またサキと打ちたいと思った。プロになれば、サキとずっと麻雀勝負が楽しめると思ったの」

    「……大星さん」

    「ねえ!今からでも遅くないでしょ。ボディガードなんてやめてプロになりなよサキ!」

    がしっと肩を掴まれ、淡に揺さぶられる。
    その手をやんわりと放し、咲は静かに言った。

    「私は、お嬢の傍を離れるつもりはありません」

    「何で!何で智葉にそこまで拘るの!?」

    「………」

    「じゃあ せめて2人の間に何があったのかだけでも教えてよ!」

    淡は必死に言い募る。
    その真剣な表情に、咲は意を決したようにひとつ息を吐き、呟いた。

    「……分かりました。私の過去を、お話します」


    ――――――――――――
    ――――――――
    ――――

    99 = 97 :



    ――――
    ――――――――
    ――――――――――――



    その日咲は父に連れられ、とあるマンションの一室に来ていた。
    部屋に入った途端充満する煙草の匂いにむせそうになる。

    中央に置かれた麻雀卓に3人の男が座っている。
    男たちは制服姿の咲を見るなり下卑た薄笑いを浮かべた。

    咲はビクリと体を震わせ、咄嗟に父の後ろに隠れる。
    だが父の界はそんな咲を引っ張り出し、男たちの目前へと押し出した。

    「お、お父さん!?」

    「…約束どおり連れてきたぞ。俺の娘だ」

    男>1「ふうん。なかなか可愛いじゃねえの」

    男>2「あんま似てねえな」

    男たちの不躾な視線に咲は耐えかねたようにぎゅっと目を瞑る。

    100 = 97 :

    「娘はプロ顔負けの麻雀の打ち手だ。代打ちにでも使ってくれ」

    男>1「へえ、この嬢ちゃんがなぁ」

    男>2「いいぜ。これまでの貸しはこれでチャラにしてやるよ」

    「感謝する」

    「え……どういうことなの、お父さん!?」

    「……」

    男>3「お嬢ちゃん、あんたはこの親父に売られたんだよ」

    男>1「可哀想になぁ。こんなろくでもない男の娘に生まれたばかりに」

    男>2「って俺らがいうのも何だけどな」

    沈黙したままの父の代わりに男たちが答える。
    告げられた事実に咲は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。

    「う、嘘……嘘だよね、お父さん……?」

    「……」

    「ねえ、何とか言ってよ!お父さん!」

    男>1「もう諦めな。お嬢ちゃんは既にこのオッサンとは無縁になったんだ」

    男>2「あ、オッサンはもう帰っていいぞ」

    「…分かった」

    そのまま踵を返し、父が立ち去ろうとする。
    咲は必死で追いすがった。

    「待って!置いていかないで!お父さ…」

    男>3「おっと。お嬢ちゃんはもうここの住人なんだ」

    「い、いやっ!離して!お父さん助けて!」

    男の一人に後ろから羽交い絞めにされ、咲はもがきながら父に助けを請う。
    が、父は振り返らない。

    「……すまない。咲……」

    その一言を残し、父はマンションを出て行った。


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