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元スレ勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」
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少女「……」
僧侶「どういうことだ」
戦士「彼女は影武者で、真の魔王はべつにいるとでも言うのかい?」
男「そうじゃないよ。
魔王。お前はたぶんさ、オレと同じなんじゃないか?」
僧侶「同じ……人工的に作られたと!?」
男「どうなんだ?」
少女「……どうしてそう思った?」
男「……オレが魔法陣を仕込んだ護符を利用して、お前を背後から斬った。たぶん、そのあとだ。
あのあと、お前はたぶんオレと同じ景色を見たはずなんだ」
少女「……あれを、見たのね」
男「今までにもあったんだ。真っ暗闇の景色の中に、突然、色んな記憶みたいなのが流れてくるのを」
少女「あんな曖昧なものだけで、私を魔王じゃないって判断したの?」
男「もう一つある。オレ自身のなにかが、お前に反応している。
最初は勘違いしてた。正直、魔王であるお前にビビってて、身体がおかしくなったのかと思ってた。でもちがった」
少女「共鳴、ね」
男「共鳴?」
少女「認めるわ。あなたの言ったとおり、私はあなたと同じ造られしモノよ」
戦士「……!」
僧侶「信じ、られない……」
魔法使い「……」
少女「……これで終わりでいい?」
男「いやいや、早すぎるだろ! むしろ、これから真実を解明するところだろ」
少女「私はあなたたちを殺そうとした。それなのに、こうやって呑気に話してるっておかしいわよ」
男「まあ、たしかにそうだけど……そこは闘った中というか……」
少女「今の私は魔力もほぼ空だし、見ての通りの有り様。殺すのには、絶好のチャンスだと思うのだけど」
男「な、なに言ってんだ……!?」
戦士「勇者くん、落ち着きなよ。
キミを殺すだけならね、たしかに楽勝さ。ただ、ここは仮にも魔王様の本拠地だ。
そんな場所に近衛兵や部下がいないとは、思えない」
少女「……安心したわ。きちんと気づいてくれていて」
魔法使い「初めから逃げる算段はしていた」
少女「魔力を込めた護符……空間転移の簡易魔法陣は用意していたのね」
僧侶「魔王一人でもこの様だった。増援を呼ばれたら、勝ち目はなかった。なぜそうしなかった?」
少女「……最後の最後、私は自分の力を制御できず暴走したわ」
男「あれは、暴走だったのか」
少女「あなたにだって覚えはあるはずよ。自我が飲み込まれ、得体の知れない力に身体が支配される不気味な感覚を」
男「……今までに何回かあったな」
少女「万が一二人が暴走したら、誰も止めることはできないわ。だから、臣下たちは皇宮の外に待機させたわ。
私の暴走がさらにエスカレートしたときは、皇宮ごと吹き飛ばさせるつもりだったから」
男「……そ、そこまでの力なのか、オレたちの力は」
少女「私とあなたの中にあるのは、それほどまでに強大な力なのよ。
……で、結局私をどうするの? このまま見逃してもらえるなら、ありがたいけど。それは都合が良すぎる発想よね」
戦士「なら、こういうのはどうだい? キミを見逃してある。その代わりに勇者くんに真実を教えてあげてほしい」
男「戦士……いいのか?」
戦士「まあ、ボクも色々と気になってるからね。みんなもそれでいいかい?」
魔法使い「……うん」
僧侶「私も聞きたい」
少女「……すごくいい仲間ね」
男「え?」
少女「あなたのパーティ。とても仲間思いで、素敵ね」
男「……そうだよ。自慢のパーティだよ」
少女「……あなたは真実を知りたいのよね?」
男「ああ。お前はオレについてもなにか知ってるな?
オレは、自分も知らない自分のことを知りたいんだ、頼む」
少女「いいわ……ただ、その前に彼女、エルフを呼びたい。いいかしら?」
男「わかった」
…………………………………………………
エルフ「陛下……姫っ、これはいったい!?」
少女「見ての通りよ。私は彼らに負けたのよ。それと姫はやめなさいって何度も言ってるでしょ。
大丈夫よ、ボロボロだけど死に至るほどの傷ではないわ」
エルフ「今すぐ治癒を施し……」
少女「大丈夫よ。簡単な応急処置なら、彼女がやってくれたから」
魔法使い「……」
エルフ「……陛下。なぜ、増援を要請しなかったのですか……?
そうすればここまでの傷を負うこともなければ、彼らを……」
少女「いいのよ。この傷は、私が自分の力をきちんと制御できなかったことこそが、真の原因なんだもの。
私はすでに自分の力の半分以上を制御できなくなっている」
男「どういうことだ、自分の力を制御できないって?」
少女「さすがにね、私も寿命が近づいているのよ」
エルフ「姫……そのことを他言してよろしいのですか……?」
少女「だから姫はやめてって言ってるでしょ。
彼らは私の寿命について知ったところで、どうもしないわ」
戦士「わかんないよ? ボクらだって……」
僧侶「うるさい。話がこじれるようなことを、わざわざ言うな」
少女「エルフ。彼らを例の空間へ」
エルフ「……あそこへ、この者たちを案内するのですか?」
少女「彼らはすでに私の正体を知っているわ。そして、その先にある真実を知りたい、ってね。
そこの彼がそう言ってるのよ」
エルフ「……あなたが?」
男「どうしても知りたいんだ。どうしてかはわからない、けど、知らなきゃいけないって本能がそう言ってるんだ」
エルフ「…………なるほど。まっすぐな瞳ですわね
昔のあなたを見ているみたいですわね、陛下」
少女「そう? それはよくわからないわ。でも、彼らに真実を語ってもいいと思うに値する瞳でしょ?」
男「目? なんかオレの目が特別なのか?」
戦士「……勇者くん。とりあえずは、目のことは気にしなくていいよ」
エルフ「陛下、立つことはできますか?」
少女「なんとか、ね」
僧侶「どこかへ行くのか?」
少女「ええ。真実を知るのに相応しい場所へ、案内するわ……おねがい、エルフ」
エルフ「ええ」
魔法使い「魔方陣……」
…………………………………………………………
男「……っうぅ………ここは?」
戦士「ていうか、魔方陣やるなら唐突にやらないでほしいなあ! びっくりしちゃったよ……ええ!?」
僧侶「な、なんだこれは!?」
魔法使い「巨大なドラゴン……」
竜「あなた方は……陛下に伯爵閣下……なぜ勇者様一行がここに?」
少女「魔王の間に用があって来たのよ」
竜「……その傷を見た限り、勇者様たちに打ち負かされたのでしょうが……よろしいのですか?
ここから先の空間に足を踏み入れた者は、内部の人間でさえ、ほとんど存在しないというのに。
外部の人間をこの空間内に立ち入らせるなど……」
少女「いいのよ」
男「しかし、本当にデカいドラゴンだな。最近、超ちっこい竜を見てたから、ギャップがすごいな。
あいつも最終的には、これぐらい大きくなるのかな」
竜「お言葉ですが、そのちっこいドラゴンというのは、おそらく私のことを言っているのですよね?」
男「え……?」
竜「街へと繰り出すときに、この姿では不便極まりないですからね。あなたがたの前では、極小サイズでいましたが、これが本来の私のサイズなんです」
僧侶「あの小さな竜が、私たちが散々いじくり回した竜の真の姿が、これ……?」
魔法使い「……」
竜「ちょっとちょっと、驚きすぎですよ」
少女「気持ちはわからなくもないわ。でも、あなたたちに見せたいのはこの子じゃないわ」
戦士「いやあ。でも、このドラゴンのギャップを体感した後だと、たいていのことでは驚かなくなれそうだね」
少女「……ドラゴン。ゲートを開けてちょうだい」
竜「承りました。勇者様……」
男「ん? どうした?」
竜「いえ、なにかを言おうと思いましたが……やはりいいです」
男「なんだよ、そりゃ? まあ、また会おうぜ」
竜「ええ」
エルフ「ゲートを開きますわ。皆様、少しお下がりくださいまし」
僧侶「この扉の先には、いったいなにがあるんだ?」
少女「見ればわかるわ。行きましょう」
男(……なんだろう。オレはこの先にあるものを知っている気がする……)
…………………………………………………………………………
魔法使い「……っ」
僧侶「ここは……妙な息苦しさを感じるが、どうなっているんだ。暗くて周りもよく見えないし……
少女「あたり一帯にある一定の割合で空間に魔力を放出する、魔方陣を展開しているから。
慣れていないと苦しいかもしれないわ。けど、三分もしないうちに慣れるはずよ」
男「オレは特になんともないな」
戦士「勇者くんは鈍いから、わかんないんじゃないの?」
男「んー、そうなのかなあ……」
僧侶「結局ここには、なにがあるんだ? まさか、こんな暗闇空間だけ見せて、終わりではないだろ?」
少女「もちろん。エルフ、灯りを」
エルフ「はい……陛下があなたたちに見せたかったのは、これです」
戦士「灯りがついたとはいえ、まだ少しくらいね。
……この巨大な水槽みたいなのは、培養槽みたいだけど、中に入っているのはなんだい?」
少女「目を凝らしてみて。そこにあるものが見えるはずよ」
僧侶「たしかに集中すれば見えてきたが、これは……ヒト型の魔物?」
戦士「この魔物はいったいなんなんだい?」
男「魔王だ」
戦士「!?」
魔法使い「じゃあ、これが、本当の魔王……?」
少女「ええ。あなたには彼の記憶があるのね。だから彼が魔王だってわかる……そうね?」
男「記憶、っていうか、まあ。それに近いものを何度か見たことがある」
僧侶「どうなっているんだ?」
少女「なにが?」
僧侶「この魔王からはまるで魔力を感じない。まるで、死んでいるかのようだ。
いや、そもそもコイツは生きているのか?」
少女「生きているとも言えるし、死んでいるとも言えるわね。仮死状態というのが、正確ね」
戦士「これが真の魔王だって言うなら、なぜキミが魔王として魔界に君臨してるんだ?
それに、なぜこんな状態になっているんだ? いや、そもそもこれは本当の魔王なのかい?」
少女「むぅ……質問は一つずつにしてほしいわね。ところで、最後の質問はどういう意図で言っているのかしら?
まさか彼も、私みたいに造られしものだって言うの?」
戦士「キミの寿命はつきかけている。そう言ってたでしょ?
ならば、新しい魔王を作ろうとする発想は、べつに不思議ではないでしょ?」
少女「そうね。たしかに発想としては間違っていないのかも。でもね、その考えは外れよ」
戦士「なぜ? この五百年間の間、勇者も魔王も生まれてこなかった。
どうして彼らがこの世に現れないのかは、定かではない。
けど、勇者と魔王は常に同時に存在し続けた。もしその法則に則るなら、魔王だけがこの世に生きているのはおかしいじゃないか」
僧侶「たしかに。戦士の言っていることはもっともだ」
少女「……なるほど。あなたたちはそういう考え方をするわけね。
じゃあ、一つ私から質問してもいいかしら?」
僧侶「なんだ?」
少女「どうして、私は彼……勇者を殺してその力を奪おうとしたんだと思う?」
男「それは……おそらくオレの中にある、なにかの力を奪おうとしたからだろ?」
少女「そう、正解。では、そのあなたが言う『なにか』とはいったいなんなのかしら?」
男「それは……魔王とかの力か……ちがうか?」
少女「いいえ、ほとんど正解よ」
魔法使い「……彼の中にある秘められた力は、魔王のもの……?」
少女「私の予想では、魔王、そして勇者の力も彼の中には眠っているはずなの」
戦士「じゃあ、キミが勇者くんを殺して、その力を奪おうとしたのは……?」
少女「彼の力を奪って、それをもとに魔王を完全に封印しようとしたのよ。
私では、どんなに力を尽くしても彼を復活させられなかったから」
男「なんでだ? お前は魔王ではないかもしれないけど、それでも魔王のようにとても強かったじゃないか」
少女「そうね。全盛期の私であれば、あなたたちを殺すのは容易かったでしょうね。
けれども今や私も、死を待つだけの身となってるのよ」
僧侶「じゃあやっぱり、自分の代わりとなる新たな国王を作るため?」
少女「それもまったくないとは言えないわ。でも、本当の目的はそうじゃない」
男「その……わかりやすくサクッと説明してくれないか?」
戦士「そうだね。ボクもかなり回りくどいおしゃべりの仕方をするけど、ここで焦らされるのは、ちょっとね」
少女「回りくどいかしら? まあいいわ。
つい五百年前までは、勇者と魔王は争い続けていた。そして、魔王と勇者が死ねば、また新たな魔王と勇者が世界に誕生する」
男「でも今は、魔王は……」
少女「新しい魔王が現れないのは、かろうじて生命を繋ぎとめてこの世に生きているからよ」
僧侶「ということは、この魔王が死んだら、新しい魔王が生まれるってことか?」
男「あっ……」
男(――魔王と勇者の闘いは時代があとのものになればなるほど、その規模は大きくなっている――)
男「その、新しい魔王になったら、また強くなって……えっと、なんだ……」
少女「そうね、それもあるわね。でも、それだけじゃない。
新たに生まれる魔王が、どんな魔王かわからない。制御が効くのかも。破綻した人格の持ち主かもしれない。
もしかすれば、この国をメチャクチャにする可能性さえあるわ」
戦士「だから、今ここにいる魔王を復活させようって言うのかい?
だけどこの魔王だって、もしかしたら、とんでもない人格の持ち主かもしれないじゃないか」
少女「勝手なことを言わないで! 彼はそんなヒトじゃないわ……!」
戦士「し、失礼……」
少女「……ごめんなさい。私の方こそ、感情すらも制御できなくなっているのかも……」
男「……ちょっと待った。おかしくないか?」
僧侶「どうした勇者? なにか引っかかることでもあったのか?」
男「ああ。おかしいだろ? 魔王は死にかけとはいえ生きている。なのにどうして勇者はいないんだ?」
少女「……」
戦士「……たしかに。勇者くんの言うとおりだ。
ボクらはすっかり魔王がいて、勇者がいないことを当たり前だと思っていたけど、これってよくよく考えれば、やっぱりおかしいことだ」
魔法使い「……あなたは、最初、八百年前に封印された勇者……ということになっていた」
男「……そういえばそうなんだよな。すっかり忘れてかけてたけど。
オレは八百年前の勇者で、長い封印のせいで記憶をなくしていたって。でも、それは単なる王様の嘘ってことじゃあ……」
少女「じゃあ、あなたのその断片的な八百年前の記憶は、どこから――いいえ、誰から拝借してきたの?」
魔法使い「……そう、彼女の言うとおり。
いかに賢者と言えども、無から有は生み出せない。記憶は記憶の在り処からしか引き出せない」
戦士「そうだよ! それにボクらが八百年云々信じたのだって、その封印の記録自体はあったからだ。
もちろん、詳細についての記録はまるでなかったけど……」
僧侶「それじゃあ……」
少女「そう。これらの要素を突き詰めて考えていけば、一つの事実が浮かび上がってくるわ」
男「つまり――」
少女「本当の勇者は今もどこかで生きている」
今日はここまで。そして次回でこの話は終わり(のはず)です。
読んでくれてる人ありがとうございます
感想レスにありましたけど、名前で勇者が男になっていたり、魔王が少女になっていたのは
こいつらがニセモノであるってヒントのつもりでした
ではまた
読んでくれてる人ありがとうございます
感想レスにありましたけど、名前で勇者が男になっていたり、魔王が少女になっていたのは
こいつらがニセモノであるってヒントのつもりでした
ではまた
再開します
その前に
>>617
少女「彼の力を奪って、それをもとに魔王を完全に『封印』しようとしたのよ。
私では、どんなに力を尽くしても彼を復活させられなかったから」
ここ、『封印』じゃなく、『復活』です。すみません
その前に
>>617
少女「彼の力を奪って、それをもとに魔王を完全に『封印』しようとしたのよ。
私では、どんなに力を尽くしても彼を復活させられなかったから」
ここ、『封印』じゃなく、『復活』です。すみません
僧侶「勇者が生きてる。
……お前は本当の勇者に会ったことがあるのか?」
少女「……さあね。これに関しては答えるつもりはないわ」
僧侶「どうして?」
少女「その勇者について、『直接は』私には関係ないもの」
僧侶「……」
戦士「ちなみに先に言っておくけど、ボクはそんなことは知らなかったよ。
と言うより、発想としてまず、浮かばなかったね」
男「本当の勇者、か……」
魔法使い「…………」
僧侶「なら質問を変えよう。お前は誰に造られた?」
男 「そうだ! オレは王様の命令で造られた。じゃあお前は誰に造られたんだ?
そもそもお前って、何歳なんだ?」
少女「細かい年齢は記録を調べればわかるけど……四百五十は確実に超えてるかしらね」
男「よ、四百五十!? そ、そんなに長生きできるものなのか……」
少女「魔族の寿命はもとから人間より長い。その上、私には魔王の力があるから」
戦士「見た目はボクらなんかよりも若いのになあ……」
僧侶「年齢も……まあ、たしかに気になることではあったが、本当に気になることはそこじゃない」
少女「ずいぶんと私の顔を凝視してくるけど。私の顔がなにか?『お姉さん』」
僧侶「……。どこかで見たことのある顔だと思ってた。でも、ずっと誰かわからなかった。
だが、お前が魔王だと名乗ったときに気づいた。ある女王にそっくりだって」
戦士「ある女王? …………ああっ!? あ、あの災厄の女王……そうだよ!
言われてみれば、そっくりだ! ボクが見たことがあるのは成人後のだけだけど……」
少女「…………」
男「お前は、姫様のことを知ってたよな? それに他にもオレたちの国のことについて、色々と知ってた」
少女「そうね、せっかくだから、かいつまんで教えてあげる。私はあなたたちの国が、混乱期に陥る以前よりも更に前。
私はあなたたちが、災厄の女王と呼ぶ彼女によって生まれた」
男「え……それってつまりはどういうことなんだ?」
戦士「……つまり、彼女はボクらの国で生まれたってことだよ……」
男「オレたちの国で!?」
僧侶「混乱期より前ってことは五百年近く昔ってことか……」
男「そんな昔に、お前は生まれたのか……」
少女「今のでいっきに様々な疑問が湧いたでしょうね。でも、畳みかけるような質問の仕方はやめてね」
男「じゃ、じゃあ。どうしてオレたちの国で生まれたお前が、今は魔王としてこの国に君臨しているんだ?」
少女「あなたが、勇者の代替え品として造られたように、私は魔王の代替え品として造られたのよ」
戦士「魔王の代替え品……?」
少女「先にこれだけは言っておくわ。女王……彼女は誰よりも、この世界の平和を考えられていた方だった」
戦士「あの女王が世界の平和を?」
少女「結果から見れば、自国を滅ぼしかけたけど。それでも彼女は、たしかに世界を守ろうとしたの」
僧侶「だが、女王はどうやって世界を守ろうとしたんだ?
彼女がやろうとした政策ならいくつか知っているが、世界を守るという名目のものなんてなかったはずだ」
少女「当然よ。なにせ、彼女がやろうとした世界の守り方は、世界の理そのものを敵に回すようなものだったから。
彼女は、人工的に勇者と魔王を造り上げ、世界を騙そうとしたのよ」
戦士「そ、そんな……馬鹿げたことを……?」
魔法使い「……マジックエデュケーションプログラムは、その計画の一環だったということ?」
少女「……さすが、魔法使いね。そう、人工勇者と魔王を造るのになにより必要だったのは、最も魔法を扱うのに長けた魔法使いだった。
そうしてその育てられた魔法使い――そのさらに上のランクに属する賢者たちによって造られたのが、私とその他大勢の私と同じものたちだった」
少女(そして――)
『はじめまして』
『……あなたはだれ? わたしは……だれ?』
『私はこの国の女王。よろしくね』
『じょーおー? じょーお……あなたは、じょーおー。じゃあ、わたしはー?』
『……あなたはまだ、今は……誰でもないわ。……ごめんなさい』
『……どうして泣いてるの?』
『ごめんなさい。あなたがね、生まれるまでに……私、色んな人や魔物たちを犠牲にしてきたの。
……こんなはずじゃ、なかったのに』
『……よく、わからないよ。
……わたしがわるいの?』
『あなたは悪くない……そう、悪いのは私なの。あのヒトとの約束を守らなきゃいけないのに……』
遥か昔の記憶は、あまりに断片的でとりとめがない。
ただ、彼女が私の小さな身体を抱きしめて、肩を震わせていたことは明確に覚えている。
今思うと、私と二人きりのときは、彼女は泣いていることが多かった。
『どうして私は、いつも勉強したり色んなところを見に行ったりするの?』
『……ごめんなさい。でも、あなたにしか頼めないからよ』
『質問の答えになってないよ。質問に答えて』
『あなたは、もしかしたら上に立つ存在になるかもしれないから』
『上に立つ? なんの?』
『それはまだ定かではないわ。人かもしれないし、もしかしたら……』
彼女は常に色んなものに謝っていた気がする。どうして謝っているのかはわからない。
そしてふと、彼女は会話の中で言葉を切ることがよくあった。そんなときは決まって私は、彼女の横顔を窺った。
でも頬に落ちる金色の髪が邪魔をして、彼女の表情はわからなかった。
それでも、きつく結んだ唇の白さだけは、今でも目に焼きついている。
『女王陛下は私に勉強をしろって言うけど、その勉強って色んなものがあるんだよね?』
『そうよ。学ぶっていう行為は、机上だけじゃできないのよ。色々なものを見て、色々なことを体験する。
言ってみれば、生きることじたいが、ひとつの勉強なのよ』
『勉強をするとどうなるの? した先にはなにがあるの?』
『……それは誰にもわからないわ。あなたが勉強をして、自分で探すんだもの』
『それには答えはあるの?』
『それすらも、あなたが探すのよ』
今思えば、彼女が私に向けた言葉の大半は、同時に自分自身に言い聞かせているようでもあった。
私をまるで、鏡の向こうにいる自分に見立てているように。
自分の行動が本当に正しいのか。そんな脅えとも迷いともつかないものが、彼女との日常の端々から見てとれた。
『これはなに……?』
『料理……なのだけど』
『なんだか普段食べてるものと比べると、見た目が変だよ? 大丈夫なの?』
『……料理なんて初めてだったから』
『どうして陛下が料理をするの? そんなの他の人にやらせればいいのに』
『……親は、自分の子どもにご飯を食べさせるものなのよ』
『……私はあなたの子どもじゃないよ?』
『いいの、おねがい……あなたに食べてほしいの』
『……わかった』
彼女が作った料理を食べた。そのときの私の反応を見る彼女の真剣な顔こそ、まさに子どものそれだった。
口にした料理は、見た目から想像した味よりは美味しかった。
私が料理の感想を言うと、彼女は悔しそうで――けれども、とても生き生きとしていた。
もっとそういう表情を見せてほしい、と私は思った。
『こんなとこにいたんだ。なにを見ているの?』
『……べつに』
『培養槽……この中にはなにがいるの? また私とおなじもの?』
『いいえ』
『じゃあ、なに?』
『そうね……強いて言うなら、あなたの……いいえ、やっぱり秘密』
『なにそれ。意味が分かんないよ』
『……今はまだ、教えられないの。でも、そうね。いつか、あなたにもこのヒトを教えてあげる』
彼女は濁りきった培養槽の中身を、食い入るように見つめていた。白い指がその表面を慈しむようになぞる。
彼女の目は雄弁になにかを語っていた。その培養槽の中の、なにかへと。
そして、その唇がゆっくりと動くのを私は見逃さなかった――『魔王』と。
『一般市民の記憶喪失の件、異端審問局が処理するんだってね。どうして彼ら異端審問官が出てくるの?』
『あなたには関係のないことよ。あなたはこの国のことではなく、あっちのことだけを考えていればいい』
『……そうもいかないんだけど。私の同僚……いや、同胞と言うべきかな。
ここ最近になって、彼らが次々と正気を失って暴走を起こしている。他にも実験に使われた魔物たちが研究所から抜け出して、街に甚大な被害をもたらしている。
なんなら私が止めようか? 私なら止められるかもしれない』
『……私だってそうしたい、けど、ダメよ。あなたは知られてはいけない存在。
それに、勇者様も今回の討伐任務には参加しているから……あなたはなにもしなくていい』
『……世界を平和にするのが陛下の夢だったんだよね? なのにどうして?
国の民に危険が迫っている。助けなくていいの?』
『ごめんなさい……ごめんなさい、私が情けない女王だから……』
彼女が縋りつくように私を抱きしめた。自分の肩に顔を埋める彼女は、記憶の中の彼女とどうしてか、一致しない。
こんなに彼女は小さかっただろうか?
彼女の嗚咽を聞いていたら、なぜか私の目頭まで熱くなっていた。頬を伝うものを拭いもせず、ただ私は小さくなった彼女を見つめていた。
実験の失敗が生んだ勇者と魔王の出来損ない、そして、その過程で使われた魔物たちが暴走し、国は混乱期を迎えた。
そして、彼女は――魔物に襲われた。勇者の助けは、寸分で間に合わなかった。
私がかけつけたときには、彼女はすでに死にかけの状態だった。勇者が彼女の治癒にあたっていた。
『陛下! しっかりして……!
勇者、なんとか……なんとかならないの!?』
『今治癒しているがダメだ……! 毒が酷すぎる……解毒しようとしているが、間に合わない……!』
『誰か……誰かっ!? 回復魔法を使える者は……!?』
『……無理だ。大半の魔法使いが異端審問局に捕まってる。そうじゃない連中もあちこちに駆り出されている……くそっ!』
『……私が彼女を助ける……』
私の能力の一つに、触れた対象の器官や一部を取り込む、というものがあった。実験の副産物的なものだった。
対象相手がある程度弱ってさえいれば、この能力は行使できる。彼女の傷口に触れた。
深呼吸をする。毒だけを抜き取る必要がある。失敗は許されなかった。口の中の水分はなぜか干上がっていた。
まるでなにかを恐れているかのように。恐怖に硬直した私の腕を、ふと誰かの手が握った。
彼女の手だった。彼女は意識を取り戻していた。しかし、開いた瞳は濁っていて、どこを見ているのかすら判別がつかない。
そこで決心がついた。自身の能力を使う。彼女の身体の中へ意識を潜らせる。
失敗したら彼女が死ぬ。
彼女の血液やなんらかの器官。毒以外のものを吸収すれば、瀕死の状態の彼女は死ぬ。
その恐怖を振り払い、彼女の毒をすべて抜き取る――そうしようとした私へ、なにかが入ってくる。
今までにも経験がある。感情の奔流。だが、なぜ――彼女は生死をさまようほどの重症を負っているのに。
血が身体をかけめぐるように、私の中が彼女の感情で満たされていく。
私は理解した。彼女が私になにかを伝えようとしているのを。
意識を傾ける。感情の奔流から、彼女の言葉を探し出す。
(……私は、もう長くない……)
私は否定をしようとしたが、彼女が言葉で遮る。
(……この国は今なお、混乱してる。それもこれも私のせい。私が『あの男』の魂胆に気づけなかったから……)
(黙って……集中できないっ! 集中しないと……あなたが死んじゃう……だからっ!)
(いいの……私は罪人。死ななければいけない)
(うるさいっ! 勝手に死ぬとか言うな……! 勝手に思想を押し付けて……勝手に役目を押し付けて! 勝手に死ぬなんて、許さないっ…………!)
(ふふっ……あなたがそんなに感情的になるのは初めてよね?)
なぜこんな場面で微笑う?
私はそんな疑問さえも声にできなかった。ただ、嗚咽を漏らすことしかできない。
自分の中に彼女の感情以外にも、なにかが侵入してくるのを感じた。血のように滾る熱いなにかが、自分の一部となって溶けていく。
彼女はここで死ぬ気だ。私に想いの一部を託して。
『なんで……!?』
(本当にごめんなさい――)
彼女の指が私の唇に当たった。目は見えないはずなのに、彼女は私の方を見ていた。彼女は笑った。
そして言った――いってらっしゃい、と。
私の唇に触れていた手が、音もなく地面に落ちる。彼女の命が終わった瞬間だった。
『ひ、姫……そんな……』
背後で勇者が茫然と呟いた。
彼女が死んだ。
生まれてからずっと、私を母親のように、家族のように育ててくれた彼女が。
世界でたった一人、心を許せる彼女が。
『俺が……俺が彼女を止めていれば…………こんなことには……』
背後の勇者の声が遠くなっていく。
自分のとも彼女のともつかない感情が、私の中で混ざり、溶けて、氾濫しそうになる。
頭が割れそうなほどの痛み。獣のような悲鳴が近くで聞こえた。意識が遠のいていく。
薄れて行く意識の中で私は誓った。
彼女との約束を絶対に果たす、と。
少女「結局、当初の勇者と魔王を混合した究極の存在を造るという、研究は人口の勇者と魔王を造るという研究に成り下がり、それすらも失敗した。
国は半壊するまでに追い詰められた。その後の国の混乱期のことについては、あなたたちも知っているでしょう」
男「お前は、女王様が死んだあとはどうしたんだ?」
少女「魔方陣を用いて、同胞と魔王の培養槽と一緒にあの国を出た。そして、時間をかけて魔物たちを統一して……今のこの国を築いた」
戦士「ずっと気になっていたことが、これで一つ解決したよ」
僧侶「……なにがだ?」
戦士「たぶん、魔法使いと僧侶ちゃんも疑問に思ったことはあると思うよ。どうして魔界の言語がボクらの国のものと同じなのかってさ」
僧侶「……そうか、こういうことだったんだな」
少女「そう、私が支配する以上は私が知っている最も使いやすい言語がよかった。他にも、何ヶ国語かは候補があったけど」
魔法使い「……ひとつ、質問」
少女「なにかしら?」
魔法使い「この国の魔族は、通常の魔物よりも遥かに人間に近い容姿をしている。さらに、魔界の住人はほとんどが人型の魔物……なぜ?」
少女「そもそもあなたたちは、例の研究機関について知っているのだから、だいたいのところは検討がついているんじゃないの?」
魔法使い「……人により近い魔物たち。人間奴隷の、補給制度。そして、例の研究機関」
少女「やっぱり。八割ぐらいはもう答えをわかってるじゃない」
男「あ、それって昨日話してたことだよな。結局それってなんなんだ?」
少女「……あの研究機関の本来の設立目的は、自分自身の強化と魔王を復活させるためのものなのよ」
戦士「単なる研究機関ではないと思っていたけど、やっぱりね……わざわざ地下牢とセットだったりと、気づけそうな要素ではあったよね」
男「意味がよくわからん。つまり、どういうことだよ? いや、待て。やっぱり少し考え……」
戦士「残念、今回はシンキングタイムはなしだよ。答えを言ってしまうと、犯罪者を実験の材料として使ってた。そんなところじゃない?」
少女「ええ。死刑に該当するものをね」
男「そんな……」
僧侶「人材補給制度も、その研究の一環として利用されていたんじゃないのか?」
少女「鋭いわね。そう、人間奴隷を研究材料として使っていたわ」
魔法使い「人に近い、魔物の正体は……」
男「……う、ウソだろ。まさか魔物が人型ばっかりなのも、昔よりも人間に近いのも……」
少女「ええ。魔王を復活させる実験としてね、人間奴隷を使っているわ。ただし……」
男「……おまえっ!!」
エルフ「落ち着いてくださいませ、勇者様」
戦士「そうだよ、勇者くん。彼女の話はまだ途中だ。最後まで聞こうよ」
男「最後まで聞こうが、やってることが変わるわけじゃないだろ!」
戦士「勇者くん」
男「…………わかったよ、聞くよ」
少女「あなたの言う通りよ。私が真実を語ったところで、やってきたことが変わるわけではないわ」
エルフ「ですが……いえ、なんでもありませんわ、陛下。続けてください」
少女「……人間奴隷を使う実験。これなんだけど、一応は任意よ」
男「任意? でも、そんな……自分から実験材料にされようとするヤツがいるわけが……」
戦士「いや、でも被験者になる代わりになんらかの報酬があったとしたら? そうしたら状況はちがってくるんじゃないかな」
僧侶「そうだな。たとえば……実験を受ける代わりに、高位高官にしてやる、とかな。
犯罪者なら減刑とか……その類の交換条件を人にもちかけるわけか」
魔法使い「……ハイリスク、ハイリターン」
少女「そう。特にね、奴隷として貧しい人生を送ってきた人間は意外と多く、この取引にのるのよ」
男「……でも、実験は成功するとはかぎらないんだろ? 失敗する確率だって……」
少女「六割。現在でやっと、ここまで確率をあげることができるようになったわ」
戦士「奴隷という立場は色んな意味で、実験に都合がいいね。しかも、この人材補給制度……大半が子どもだったらしいね。
失敗しても公になることはない、そういうことだね」
男「失敗したら……実験が失敗したら死ぬのか、その実験を受けた人は」
少女「死ぬ、場合もある。色々な実験結果があるけど、少なくともどれも悲惨であることはたしかね」
男「最悪じゃねーかよ。結局、そんな実験を受けなきゃいけないぐらいに、追い詰められてる人たちを利用してるんだろ!?」
戦士(勇者くんがここまで怒るのは初めてだな……いや、そうじゃなくても彼は怒ることなんて、今までなかった……)
エルフ「そうですわね。道徳的な視点で見れば、最低な実験でしょう。
あなたもそう思ってるから、お怒りになられているんでしょう?」
男「ああ、そうだ」
エルフ「でも、その実験のおかげで幸せを掴んだ人間はいるのです、確実に」
男「…………」
エルフ「お気持ちはわかりますし、私たちのやっていることを理解し納得してもらおうなどとは思いませんわ。
でも、そういう存在がいることを、どうか覚えておいてくれませんか?」
男「……納得はできない。それに、理解もしたくない、でも、そのことだけは、覚えておく」
エルフ「ありがとうございます」
少女「……」
僧侶(人間から魔物になった者たち。
つまり、元人間の魔物はこの魔界の人間と魔物の共存という形を作る上で、必要不可欠というわけか……)
少女「そろそろ時間かしら……」
僧侶「え?」
少女「ここに来るときは、私は絶対にこの姿でいることにしているの。どうしてかわかる?」
男「……」
少女「魔王……私よ。今日も来たわよ」
魔王『 …… ■……ひ、 …… め …… 』
魔法使い「……!」
僧侶「生きてるのか!?」
少女「だから死にかけであっても、生きてると言ってるでしょ?
指一本動かすことすらできないけど、それでも私の……彼女の声には反応するのよ」
男「……お前のその声にしか、反応しないのか?」
少女「そうよ。私、ずっと不思議だったの。なにをしても反応しない彼が、唯一反応する手段が彼女の声で呼びかけることだったことが」
少女「最初は不思議で仕方無かった。けどね、あるときふと思いついたの。魔王と彼女は愛し合っていたんじゃないのかって」
僧侶「……魔王と女王が?」
少女「いいえ、彼女が生きている頃からそんな気はしてた。それに魔王を見ていると、私の胸の奥が熱くなるの。どう思う?」
僧侶「どう思うって……そんなことを言われても……」
戦士「演劇の中には、そういった種族間や身分の違いの問題を抱えた悲恋を描いたものもある。
そして……そういう話は現実にもたくさんある。とても悲しいけどロマンチックな恋物語がね」
少女「もしかしたら、恋じゃないかもしれない。
でも、この二人の間にはとても深くて太い絆があると思うの」
男「種族を超えた絆、か」
少女「まあ、この話はこれまでにしましょう。重要な話が一つあるの、あなたに」
男「オレに?」
少女「ええ。あなたになら、頼めるんじゃないのかって思ってたこと。あなたたちと闘う前から決めていたこと」
男「オレに頼みごとって? オレにできることなんてなんもないぞ」
少女「今はね。でも、時間をかければあなたなら、できるんじゃないのかしら。いいえ、できると思うの」
男「なにをだ?」
少女「この魔界の王になることよ」
僧侶「なに……?」
戦士「……いやいや、勇者くんのおツムの悪さは半端じゃないんだよ、国を統治する王なんて無理だよ」
男「そこじゃないだろ! なんでオレが……」
少女「理由はシンプル。あなたが私に一番近い、からよ」
男「近いって……産まれ方が似てるだけだろ?」
少女「そうよ。だからこそ、あなたには問題も抱えている。
でも、長寿や潜在的な力は、うまく制御できるようになれば、間違いなく後々役に立つわ」
男「……本気で言ってるのか?」
少女「こんなことを冗談で言える神経は、もちあわせていないわ」
男「なんでだ? 寿命が迫ってるからか?
だったら自分の臣下に任せるなりすればいい。エルフさんだっているだろ?」
エルフ「……私ではダメなんですよ。私も決して残りの寿命は長くはありませんから。王として君臨できる器でもありませんし」
男「でも、だったらなんとか寿命を延ばす努力をすればいいだろ? いや、もうしてるのかもしれないけど……」
少女「もちろんそれはしているし、これからも続けるつもりよ。
でも、私もいつかは死ななきゃいけない。と言うより、後任者が決まっているなら死ぬべきなのよ」
男「なんで!?」
少女「長く生きすぎたからよ」
男「……それのなにが悪いんだ? 生きてる時間が長いことは、べつに悪いことではないだろ」
少女「ええ、もちろん。そのこと自体を、悪いことだとは言うつもりはないわ。
長く生きすぎることにより、価値観が凝り固まっていくことが問題なの」
少女「年月は積み重ねた分だけ、まぶたにのしかかって視野を狭めていくわ」
戦士「まあたしかにね。何事にも新陳代謝は必要だよね」
男「でも、だからってオレである意味が……」
少女「どうして?あなたはまだ誰のものでもないはずよ。だいたいあなたは、自分がなんのか、自分自身でもわかっていないじゃない。
なにものでもないあなただから、私は頼んでいるのよ」
男「なにものでもない……」
少女「もちろん、王に相応しい存在になってもらうために、色んな勉強はしてもらうけど」
エルフ「でも、この国を手に入れ、王として君臨することができますわよ?」
男「……」
魔法使い「……」
僧侶「勇者……」
戦士「勇者くん……」
少女「どう? もう一回言う――この魔界の魔王になってくれない?」
………………………………………
戦士「そこまで長い冒険、ってわけではなかったけど。それでも過酷だったし密度が濃かったからか、ずいぶんと長く魔界にいた気がするね」
魔法使い「……まだ、終わってはいない」
戦士「まあね。自業自得とは言え、魔方陣壊しちゃってるからね、いや、壊したのはボクじゃないけど。
そして帰りは船旅……まあこれもなかなか味があっていいけどね。
ただなあ、帰っても今回の報告とか例の赤ローブの連中のこととか、色々と問題は残ってるからね」
魔法使い「……これからのほうが大変かも」
戦士「そうだね。ていうか、僧侶ちゃんはさっきからなんでそんな難しい顔をしてるんだい?」
僧侶「いや、なんだか今ここで気を抜いたら、倒れてしまうような気がして……それに」
戦士「それに?」
僧侶「結局、彼女は教えてもらってないが、私たちの国と魔界の国はどうやって繋がっていたんだろうって気になってな」
戦士「ああ……そういえばね。ボクもどういうきっかけで、魔界との関係ができたのかは知らないな。魔法使い、知ってる?」
魔法使い「……いいえ」
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