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元スレ勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」
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僧侶「お前はどう思った?」
男「なにが?」
僧侶「私たちを騙していた、というわけではないが、それでもあの二人については、私は釈然としない」
男「……」
僧侶「いや、仕方ないのはわかる。わかってる……」
男「あのさ」
僧侶「なんだ?」
男「お前はオレのことを知ったんだよな? オレがニセモノだって」
僧侶「……ああ」
僧侶「正直なことを言わせてもらうが、よくわからない。お前は作られた勇者であり、魔王の血すら取り込んでいるかもしれない……」
男「そうだ、オレはめちゃくちゃな存在だ」
僧侶「たしかに私はお前が異形の存在になる瞬間を見た。だが……」
サキュバス「 はーい、すみませーん。メニューお持ちいましたー。
ていうか人間が来るとか久々だね。なに、二人は学生かなにか……ってそんな感じじゃないね」
僧侶「……」
サキュバス「なに? なんかアタシの顔になんかついてる? あ、もしかしてこんな定食屋で働いてるサキュバスが珍しい、みたいな?」
僧侶「いや……」
サキュバス「いやあ、アタシだってそういう方面の職業につこうかな、とか思ったけどね。
みんながみんな似たような職業つくのも面白くないじゃん? まあそういうわけで、こんなビミョーなメシ屋で働いてんの」
サキュバス「まあ、これでもアタシもサキュバスのはしくれだし、けっこう男客なら連れてこれんのよね」
僧侶「……それだけ胸元が開いた制服なら、男はそれにつられるんだろうな」
サキュバス「あはは、わかる? アタシけっこう胸大きいからさー。あれ? お姉さんったら、ちょっとムッとしてない? もしかして、ひん……」
僧侶「さっさと仕事にもどれ……!」
サキュバス「うわー、こわーい。ねえねえ、あなたのお連れの方、すごくコワイよー?」
男「え? オレに言ってるの?」
サキュバス「やっだー! お兄さん以外に誰がいるの? なにか悩みでもあるの? 悩みがあるなら聞いてあげようか?」
男「……人間の客は珍しいって言ったけど、キミは人間についてはどう思ってるんだ?」
サキュバス「なになに、どーゆう質問これ? えー、べつに人間ってだけで特に思うことはないなあ」
男「……じゃあオレのことはどう思った?」
僧侶「……?」
僧侶(なにを考えてるんだ、勇者のやつ)
サキュバス「オレのことはどう思ったって……もしかして新手のナンパ? やだなあ、人間にナンパされたのはじめてー」
男「いや、そういうわけじゃないんだけど」
サキュバス「お兄さんの印象ねえー、うーん。なんかフツー」
男「なんだよ、普通って」
サキュバス「あ、でもなんかやさしそー」
男「……そうか」
サキュバス「まあ、印象良くみせたいならもっと、シャキッとすることだねー。あ、注文入っちゃったから、またねー」
僧侶「魔物にあんなことを聞いて、いったいどういうもりだ?」
男「……なんとなく、魔物から自分を見るとどう思われるかを知りたかった、それだけだ。
そういえば、なにか言いかけてお前、やめたよな?
」
僧侶「……お前は自分をめちゃくちゃな存在だと言ったな?」
男「まあ、言ったな」
僧侶「じゃあ聞くが、そんな自分をどうするべきだと思う?」
男「どうするべきって……そんなことを言われてもな。そんなもんわかんねーよ」
僧侶「……少しだけ、私の身の上話を聞いてくれないか?」
男「身の上話? べつにいいけど」
僧侶「ありがとう。まあ、とは言っても大した話なんかじゃない」
僧侶「私がなあなあに生きてきて、父に言われるまま教会に入れられた話はしたよな?」
男「うん。たしか、オレが意外だなってそれに対して言ったんだよな」
僧侶「一時期、教会の生活に嫌気がさして家に帰ったことがあった」
男「なんか本当に想像つかないな」
僧侶「私の家はそこそこ裕福な家だったんだ。だから、多少は甘やかされて育てられた。
なのに、途中から急に教育方針が変わって、厳しくなったものだから、当時の私は理不尽な怒りのようなものを感じた」
男「教会に入れられたのも、そういうのが原因なのか?」
僧侶「そうだ。学校を卒業して意味なく武術を鍛える日々を送っていた私は、父によって教会に入ったが、その厳しさに耐えられなかったんだ」
男「そんで家に帰ったら、なんて言われたんだ?」
僧侶「色々口論したが、最終的になぜかどっかの家に嫁入りしろって話になってな」
男「嫁入り……?」
僧侶「私も最初は驚いた。しかし、同時に結婚すれば少なくとも教会の暮らしから逃れられると考えると、当時の馬鹿だった私にはそこそこ魅力に思えたんだ」
男「でも、こうしてるってことは……」
僧侶「ああ、もちろんその話は最終的には断った。結局、私は教会に謝って戻させてもらった」
男「そう、なのか……」
僧侶「人生は選択肢だらけだ。いつでも取るか取らないかを迫られる。
そして、同時にそんな選択肢を放棄することもできる」
男「……」
僧侶「私はずっと、選択することから逃げて生きてきたけど。嫁ぐか、教会に戻るか。その選択肢からは逃げなかった。
それだけは絶対に選択肢を考えないって選択はなかった」
男「後悔はしてないのか?」
僧侶「したさ。たくさん、未だにすることはある。でも、この選択の結果が生まれたものはかけがえのないものだって、私はそう思ってる」
男「かけがえのないもの……」
僧侶「初めての決心だったとも言える。でも、その選択肢から逃げないことを決めた瞬間の私の選択は、私自身の新たな可能性にもなった」
男「オレは……」
僧侶「お前だって、選択を迫られる瞬間は簡単に訪れる。いや、今がそのときかもしれない。お前はこれからどうする?」
男「わかんねーよ。どうしたらいいんだよ……ニセモノにして化物のオレは……」
僧侶「お前が化物だろうが、ニセモノだろうが選ばなければならないときはくる」
男「わかってるよ。でも……」
僧侶「ケルベロスと戦ったとき、私はお前を庇った。お前がニセモノだろうと本物だろうと、少なくとも私は、お前を庇おうと思ったから。
そして、私が死にかけたとき、魔法使いとともに助けてくれたのはお前だ」
男「……そうだな」
僧侶「お前が私を助けようとした気持ち、それはうそか?」
男「……ちがう」
僧侶「たとえ、お前がニセモノだとしても。私を助けてくれたお前の気持ちまでが、ニセモノだとは思たくない」
男「……」
僧侶「その意思は本物だと思うし、お前がその選択肢をとってくれなかったら私は死んでいた。この事実に本物もニセモノもない」
男「……」
僧侶「どうするかを決めるのは、すべて自分だ……私がえらそうなことを言える立場なんかじゃないけど」
男「……僧侶」
僧侶「ああ」
男「オレも、考えてみるよ。自分なりの選択肢を。僧侶」
僧侶「……なんだ?」
男「ありがとう」
今日はここまで
最近シリアスな話が多くて疲れてたので息抜きに中身がなさすぎるss
勇者「魔王が仲良くしようとか言い出したがそんなの関係ねえ」
書いたのでよかったら息抜きにみてください
それではまたこんど
最近シリアスな話が多くて疲れてたので息抜きに中身がなさすぎるss
勇者「魔王が仲良くしようとか言い出したがそんなの関係ねえ」
書いたのでよかったら息抜きにみてください
それではまたこんど
乙
あれ>>1のだったのかww面白かったよ!wwww
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再開します
あのうんこみたいなss見てくれる人がいて嬉しいです
あのうんこみたいなss見てくれる人がいて嬉しいです
……………………………………………………
サキュバス「また来てね、お兄さんとお兄さん」
男「わざわざ見送ってくれるんだな」
サキュバス「今はお客さんが、あんまり入らない時間だからね。あと、人間にナンパされたのは初めてだし」
僧侶「……また来るかどうかは知らないが、食事はうまかった」
サキュバス「あはは、それはよかった。お姉さん、いっぱい食べないとおっぱい大き……」
僧侶「……」
サキュバス「いや、そんなに睨まないでよ。冗談だから、じょーだん。
……それにしてもお兄さん、さっきと雰囲気少し変わった?」
男「オレ?」
サキュバス「なんか心なしか、さっきよりも男前に見えるよ? 少しだけ憑き物が取れたみたいな?」
男「よくわかんないな」
サキュバス「ねえ、お姉さんもそう思うよね?」
僧侶「……いや、私にもわからない」
サキュバス「それにしても最近、常連のお客さんがことごとく来ないから困ってるのよね」
男「客が来ないのはたしかに困るな」
サキュバス「ここのところ色々と街がざわついてるのよね。至るところに警備の連中とかもいるし」
僧侶(魔王がいなくなったからな……とは言えはしないな、さすがに)
サキュバス「ただ、ここんとこの二日間はさらに警備が強化されてるみたいなんだよね」
男「オレが眠ってる間になにかあったか、僧侶?」
僧侶「いや……私が知るかぎり、警備強化をしなければならないようなことは、なかったと思う」
僧侶(私たちやあの赤いローブの連中のことと関係あるのか?)
サキュバス「あ、でも一つ気づいたんだけどさ。ここ二日間ぐらいね、街の警備にあたってた連中なんだけど。
ミレットの警備にあたってるみたいだね、なぜかは知らないけど」
男「ミレットって人間地区のことだよな? だけどそれがなんだって言うんだ?」
サキュバス「ミレットは帝都の入口でもあるんだよね」
僧侶「街の入口の警備を急に固める、それって……」
サキュバス「そう。まるで今誰かに侵入されたら困っちゃうみたいな、ね」
…………………………………………………………
僧侶「今、屋敷に戻っても手持ち無沙汰になるな。どうする、他にどこか行くか?
いや、あまり動かない方がいいか。憲兵も少ないとは言え、いるにはいるからな」
男「そうだな……あ」
僧侶「どうした?」
男「いや、あのサキュバスを見ててなにか違和感のようなものが胸につっかえてたんだけどさ。今、なんとなくわかった。それの正体が」
僧侶「違和感? なんだ?」
男「オレの中にある記憶……その中のサキュバスの記憶っていうか、イメージなのかな?
それと一致しなかったんだよ、全然」
僧侶「それはつまり、昔の勇者の記録、それと一致しないってことか?」
男「ああ。オレが知ってるサキュバスは、あんな人間と寸分変わらない姿をしていなかった」
僧侶「より魔物として、わかりやすいような姿だったってことか? 彼女も翼はあったが……」
男「でも、オレの知ってるサキュバスはもっと翼も大きかった」
僧侶「でも、だからってなんなんだ? 時代の変化とともに魔物の姿が変わったってことか?
だいたい、魔物だって生き物だ。個体差がある。
さっきのサキュバスのように人間よりのものがいる一方で、お前の記憶の中のように魔物としての色を濃くするサキュバスもいる」
男「……」
僧侶「そういうことじゃないのか?」
男「……すまん。やっぱりオレの勘違いなのかもしれない」
僧侶(勘違い、その可能性は十分あるが、あの魔物を作る研究機関……あんな施設があることを考えれば、勘違いで済ますのは……)
男(オレの記憶違いなのかな? なにか調べる方法はないのか?)
僧侶「そうだ、帰ってきたら魔法使いに聞くのはどうだ? 魔法使いなら、魔物についてはかなり明るいからな」
男「なるほど、そうだな。だが、それまでに自分でもなにか調べておきたいな」
男(そういえば、まだあの姫様の手記をきちんと読んでいなかったか。あれ、読みたいな……)
僧侶「私は少し、街の様子を見て回る。ついでに図書館にも寄っておきたい。お前は?」
男「屋敷に戻る。少し気になることがあるんだ」
僧侶「……」
男「な、なんだよ。そんなじーっと見られても……」
僧侶「帰ったら体調の確認を兼ねた手合わせをしよう」
男「ん、ああ、それはありがたい」
僧侶「じゃあまたあとで」
男「おう」
…………………………………………………………
男「ってなわけで、屋敷に戻ってきたわけだけど……」
男(少し、気分も落ち着いたのか? よくわからないけど、僧侶の話を聞いたらなんだか胸のモヤモヤが消えた気がする……)
竜「おやおや、ずいぶんと早く戻られましたね。お連れの方は一緒ではないのですか?」
男「あいつはまだ街にいるよ。オレは例の手記の続きが読みたくて戻ってきたんだ」
竜「左様で」
男「……いま思い出したんだが、お前のご主人はどうしたんだ? バイトか?」
竜「主は……まあ、そんなところです」
男「あやふやな言い方だな。あの子のおかげでオレは助かったからさ、礼を言いたかったんだよな」
竜「また会ったときにでも。会えたなら、ですが……」
男「……?」
竜「それでは私はこれで」
男「ああ、またな。さて……」
男(なぜかは、わからない。なぜこの手記に惹かれるのかはわからないが、オレはこの中身を見なければならない気がする)
…………………………………………………
ある日のこと。私は気になることがあって、ひたすら本を読み漁っていた。
片付けるのは面倒だったので、そのまま本は出しっ放しにしておいた。普段は誰かがてきとうに片付けてくるので、私には片付けの習慣はなかった。
ちょうど、そのとき彼が部屋に入ってきた。彼は部屋に入ってきたとたん、顔をしためた。私はすぐ本に視線を戻す。
『いくらなんでも散らかしすぎじゃないか……?』
『べつに。あなたが来なくて暇だったから。ねえ、魔王様?』
『……』
『やっぱり、勇者様と魔王は世界に存在し続ける……これは太陽が登って沈むぐらい自然なことなのね』
『今さらそれがどうした? オレでもそんな当たり前のことはわかるぞ』
『そうね、そのことはたいして重要ではないわ。問題は、存在し続ける勇者様と魔王の関係……そうね、なんて言ったらいいのかしら』
私が言葉を探して黙ったりしているときに、彼の表情を盗み見るのは、密かな楽しみになっていた。
まるで忠犬が餌を待ってるような、そんな佇まいなのだ。きっと彼自身が聞いたら怒ってしまうだろうから、それについては私は特に言わない。
その代わり、私だけの小さな楽しみということにしておいた。
ようやく言葉がまとまる。私がしゃべろうとすると、彼が身を乗り出す。これも私が知った彼の癖のひとつだ。
『魔王対勇者……この対立構造ってある意味、もっとも犠牲の出ない形なの。
軍隊は街を守る。そういう名目で動かない。そして、勇者たち一行だけが、魔王たちを倒しに行く』
『まるで魔王への貢物のようだな。それだけを聞いていると』
『ある意味そうなのかもね。それに色々と奇妙よね……』
『どういう意味だ?』
『だって、少人数でパーティを組ませているのは、本来勇者一行の存在を魔物たちに知られないためよね?』
『……そーなんだろうな』
どうやら私の思考はまだまとまってはいなかったみたい。
考えが次々に沸き起こって、意味があるのかないのか、あやふやな言葉に変わっていく。
『でも国民は勇者という存在がなければ、不満が出る……絶対に存在する回復魔法を使える者の存在……確実にそろう勇者パーティ……』
近年、回復魔法について疑問の声があがっている。魔法による回復の人体への影響。
勇者様と魔王の戦いはまるで誰かに仕組まれているようだ。
しかも、なるべく犠牲を出さない形をとっている。私はふと、自分が目を通して積み上げた本たちを見た。
『よく、これだけ、きちんと勇者様たちの記録が残ってるわよね』
『ん、そうだな。誰が記録を残しているんだろうな』
戦い続ける勇者様と魔王。
犠牲を出さない最小限の戦争。
半永久的な争い。
誰かによって記され続ける記録。
『そう、まるで誰かが勇者様と魔王の争いを仕組んでるみたい』
積み上げられた記録たちを、私は見た。なにかが、おかしい。
だが、よくよく考えれば、私と彼の関係もひどく奇妙なものか。
私は答えを見つけられない。魔王の顔を見る。彼の瞳に映る私の顔は、不安に揺れていた。
……………………………………………………
男(なんか、 たまたま開いたページだったけど、あやふやだし、本人もなにが言いたいのかわからないって感じの内容だな……)
男「んー、もうちょっと読もうかな……あ、これは……」
男(勇者パーティについてか)
…………………………………………………………
男「ふむふむ……なるほど」
エルフ「少しよろしいですか?」
男「ああ、はい……って、うおわあ!?」
エルフ「あの方が言っていた通り、反応が大仰ですわね」
男「それは急に話しかけられたから……」
エルフ「部屋に入る際にもノックはしましたがね。あなたが帰ってきてることは、伝え聞いていたものですから」
男「ああ……それは、申し訳ない」
エルフ「いえいえ。私も、もう少し配慮すればよかったですね。
それにしても、ずいぶんと熱心に手記を読んでますね。本の内容はどうですか?」
男「えっと……そう言えばこの手記ってあんた……あ、あなた……のものなんだよな?」
エルフ「まあ、一応そういうことになっていますわ」
男「あやふやな言い方だな」
エルフ「物事に対して断言できない。私の悪い癖ですわ……あら? そんなに凝視されると照れますわね、なにか私に言いたいことでも?」
男「あのさ、えっと、あなたたち……魔物は……」
男(なんか、このヒトの前だと妙に緊張するな……なんか、すごい変わった雰囲気というか……)
エルフ「ストップ。私たちは自分たちのことを魔物なんて言いません。魔族と言います」
男「あ、はい……魔族……」
エルフ「ええ。魔物って言い方を私たち魔族は好みません。あしからず」
男「はあ……」
エルフ「それで、私になにを聞こうと思ったのですか?」
男「魔物……じゃなくて、魔族であるアンタたちは、人間についてどう思うんだ?」
エルフ「ずいぶんと抽象的な質問ですね。もう少し具体性が欲しいですわ」
男「だから、たとえば……人間に対して憎しみを抱いたり、とか嫌悪感を覚えたりしないのか?」
エルフ「人それぞれですよ、そんなもの」
男「えらいあっさりと言ってくれるな。そりゃあ、人それぞれだろうけど……アンタはどうなんだ?」
エルフ「少なくとも人間だから、という理由で嫌悪感を他人に抱いたことはありませんわ。
と言うより、私が人間だから、という理由他人に嫌悪を感じたりはしませんわ」
男「えらくはっきりと言うな」
エルフ「ええ。間違いなく、人間だからという理由で嫌悪を感じることは私にはありませんわ。
逆に質問しますけど、人間相手にあなたは腹を立てないと言い切れますか?」
男「それは……そりゃあ、人間相手に腹立つことなんて、いくらでもあるだろ」
エルフ「そう、結局そういうことでしょう?」
男「……あ」
エルフ「湧き上がる感情が、魔族だから……人間だから。そんな理由で変わるなんて愚かなことこの上ないですわ」
男「たしかに……」
エルフ「この街を見てあなたはわかったはずです。人間だろうが魔族だろうが、変わらないってことが」
男「……」
エルフ「たとえ、あなたが何者でもない誰かだとしても、その胸に抱いた感情は本物でしょう?」
男「抱いた感情は本物、か」
エルフ「だから、もしなにか胸の内になにかを溜め込んでるなら、吐き出すべきですわ」
男「……魔界の魔族はみんな、アンタみたいな考え方なのか?」
エルフ「ほとんどは。ただ、やっぱりいさかいが全くないわけじゃないですわ」
男「まあ、仕方ないことなんだよな。それもアンタの言う通りなら」
エルフ「いさかいや争いは同じ種族でも起きる。当然、と言えば当然です。
でも、歩み寄ることは心の持ちようで、いくらでもできますわ」
男「……心の持ちよう、か」
エルフ「ええ、大事なのは心ですわ」
…………………………………………………………
戦士「……で、勇者くん。はるばる視察から帰ってきたボクらに、いったいなんの用だい?」
男「オレのリハビリ会だ。眠ってたせいで、カラダが訛っちゃったからな」
僧侶「……なにを考えてる?」
男「なあに、本を読んでたら心と心を交わすのには拳が一番、って書いてあったんだよ」
魔法使い「……」
魔法使い(自分なりのアプローチをする、か。やはり勇者くんは常に変化し続けてる)
戦士「なにに影響を受けたのかは知らないけど、いいだろう。実力の差を見せてあげよう」
男「本気でこい。オレも本気でいく」
僧侶「私とは手合わせしよう、と言っていたが、なぜ戦士となんだ?」
男「……この前の決着がついてないから」
戦士「決着って、いったいなんの話をしているんだい?」
男「あの牢獄で、オレとお前は闘ったろ。忘れたのかよ」
戦士「あれのことか。あれはボクの完敗だったよ、あと少しで殺されかけた。今さらなにを蒸し返そうっていうんだい?」
男「あれはオレじゃない。オレの中のなにかがお前を殺しかけた。でも、『オレ自身』は完敗だった。
だからこそ、リベンジしたいんだよ。オレのままでオレはお前に勝つ」
戦士「……なるほど。魔法使いちゃんや僧侶ちゃんもせっかくだ、見ててくれよ」
魔法使い(戦いによって闘争本能が刺激され、またあの力が暴走する可能性がある。
だからこそ、私や彼女もこの場にいたほうがいい、か)
僧侶(なにか考えてるのか……勇者は)
男「さっきも言ったが、本気でこい」
戦士「闘いの状況次第では本気を出してあげるよ」
男「……いくぞ!」
男(たぶん、勝負の時間が長くなればなるほどオレの勝算は減ってく……ならっ!)
魔法使い(これは……)
僧侶「なにを考えてるんだ……?」
戦士「……っ!?」
戦士が思わず声をあげてしまったのは、勇者が手にしていた剣に極端すぎるほどの魔力を込めていたからだ。
ほとんど身に宿したすべての魔力を注いでいると言ってもいい。刀身は、その膨大な魔力によって輪郭を朧げなものにしていた。
くらえばおそらくそれ相応のダメージを負う、いや、そんな生易しいものではない。
大怪我ですら、生ぬるい。間違いなくやられる。
戦士は素早く魔力を剣に先端に手繰り寄せ、火を操る。狙いは……
男「うおおおおおおおおおっ!!」
勇者の咆哮。屋敷の庭全体に広がる叫び声が、雲すらも震わせる。
勇者が地面を蹴る。体勢を低くして、いっきに駆けてくる。以前よりもスピードが速い。戦士は魔法を放つ目測を一瞬でつけ――火の粉を放った。
戦士と勇者の距離はそこまでない。距離をとらなければ、あの剣の餌食にされるかもしれない。
後退しようとして、戦士は気づいた。剣をいつの間にか片手持ちにしているのだ。
刀身どころか、持ち主の手までも魔力が包みこんでいた。投げの構え、あの膨大た魔力の塊をあろことか、この男は投げるつもりなのだ。
戦士「ほ、本気なのか!?」
焦るあまり、声をあげていた。魔力をいっきに高める。剣の投げよりは先に魔法を放たなければならない。
間に合うか間に合わないかの限界を見切り、青い炎を放った。
しかし、火の球の狙いはあくまで勇者の足もと。そして、彼の手もとをギリギリ掠めるぐらいの位置。
牽制こそがこの魔法の狙い。
男「悪いけど、予想通りだ……全部なっ!」
戦士「……!?」
勇者の口もとのはしが釣り上がる。獲物が網にかかったことを喜ぶ狩人のようだった。ようやく戦士は自分の間違いを知った。
投げの構えをとっていたはずの勇者は、気づけば刺突の構えをしてそこまで迫っていた。
戦士(フェイク!?)
投げの構えは見せかけなだけだった。
彼の手に目がけて放った火球は、魔力の剣に当たって消滅した。足もとを狙った火を無視して、勇者は突き進んで――
戦士「くっ……!」
魔法使い「勝負あり、ね」
勇者はその剣を戦士の首に当たる直前で止めた。剣に注がれた魔力が解かれていく。
わずかな時間でありながら、勇者の額にはたまの汗が浮いて輝いている。
勇者は剣を鞘にしまうと、得意げに言った。
男「……言ったろ? 本気でいくって」
戦士「素直に驚いたよ、勇者くん……」
僧侶「よく、あんな思い切ったことをしたな」
男「いやあ、僧侶とわかれて一人になったあとずっと考えていたんだ」
戦士「考えていたって、ボクに勝つ方法をかい?」
男「いや、自分のことを考えてて、次にパーティのみんなのことをずっと考えてた」
僧侶「どうして?」
男「最初はさ、自分のことをほとんど知らないから、自分について考えてたんだ。でも、そうしてるうちにお前らのことも全然知らないことに気づいてさ。
だから、なにかわかることはないかって考えてた。それで、オレがわかるみんなのことは戦闘のことだ。
というか、オレ自身が戦闘のことしかわからなかった」
戦士「でも、それがどうボクのリベンジに結びつくんだい?」
男「んー、なんていうか、考えて考えて、その考えの結果って感じだな。
オレが考えた結果が正しいのか、知りたかった」
男「戦士とは一番手合わせしていたし、僧侶からオレが暴走したときのことも、戦士が帰ってくる前に聞いてたんだ」
僧侶「いったいなんで私に、あのときのことを聞いたのかと思ったがこういうことだったんだな」
男「うん。暴走したオレ相手でも、本気で殺そうとはしなかった……そのことを聞いたときに確信したよ。
模擬戦でも、戦士は呪文を牽制にしか使わなかった。
だから、オレがむやみやたらに突っ込んだとしても、確実に攻撃は当たらないだろうなってさ」
戦士「……ボクの性格を考えた上での、戦法だったわけか」
戦士(戦略を考える上で、敵の性格を考慮するのは基本中の基本だ。
もっとも勇者くんの場合は、仲間であるボクだからこそとれた戦略、か)
男「まあ、こんなインチキみたいなやり方で勝ったと言うのは、ちょっと卑怯だけど。でも、オレにしちゃあ上出来だろ?」
戦士「そうだね、『ボクの油断』を見事についたイイ作戦だったよ」
僧侶「そうだな。どういう形であれ、戦士は負けたわけだからな」
戦士「……まあね」
戦士「で? 結局、勇者くんはなんのためにこんなことをしたんだっけ?」
男「いや、なんて言うのかな? 心を通わせるには、こういう風に全力でぶつかるのが一番だって聞いたからさ」
戦士(……経験もなければ、記憶もない。そんな勇者くんなりの歩み寄り方ってわけか)
男「オレは作られた偽物だ。だから……」
僧侶「だから、なんだ?」
男「……わからない。いや、なんとなく自分がダメな存在だっていうことはわかる」
戦士「なんとなくなんだろ? 絶対にダメってわけじゃないんでしょ、キミの存在」
男「……それは、わからない」
戦士「だったらいいじゃん。なんとなく程度のダメな存在なら。絶対にダメじゃないなら、ボクがキミとこうして一緒にいる理由に十分になるさ」
僧侶「私も前にも言った。お前を助けたいと思って、お前を助けたこともあるし。
助けられたこともある。そういう意味じゃあ、私にとっての勇者はお前だ」
男「……そ、そうなのか」
僧侶「魔法使いはどうだ?」
魔法使い「……あなたは、危険な存在」
男「……うん」
魔法使い「内に秘めた力を、暴走させればすべてのものを、不幸にするだけの力があるかもしれない。でも……。
それだけ危険な力を暴走させながら、それを最後に制御できたのは、他でもない。あなたの強い意思」
男「魔法使い……」
魔法使い「私はそんなあなたの強い意思を、信じたい」
戦士「なにより、ボクたちはパーティだ。ボクはこのパーティ、まあまあいいと思うよ。
急遽集められた、言ってしまえば単なる寄せ集め集団だけどさ」
僧侶「妙に上から目線なのが気になるが。でも、同意だ。私たちはこの数日間だけで、いくつかのピンチを乗り越えることをしている」
魔法使い「……うん、悪くない」
男「……みんな」
戦士「きちんと言っておくよ。僧侶ちゃんや、魔法使いちゃん、そして……勇者くん。
ボクは任務が終わるまでは、このパーティで頑張っていきたい。そう思っている」
僧侶「そうだな。私も同じだ」
魔法使い「うん」
男「……」
僧侶「どうした?」
男「……なんか、すごく変な感じなんだ。なんだろ、この感覚。嬉しいとかそういうのに似た感じなんだけど」
魔法使い(植え付けられた記憶は、やはり不完全。それゆえに、幼少期から段階を踏んで経験から感情を学ぶのとはちがう。
自分の感情の発露に戸惑うことが多々ある、か)
戦士「おやおや、もしかして勇者くんは感動してるんじゃないの?」
男「感動……ってこういうことなのか? ああ、でも、なんかそういうのなのかな、この感覚は」
戦士「まあ、これからもよろしく頼むよ」
男「戦士……おう! こっちこそ、これからもよろしく頼む、みんな!」
魔法使い「……よろしく」
僧侶「うん、これからもこのパーティでがんばっていこう」
……………………………………………………………
三日後
男(そういえば、この三日間で結局あの子に会うことはなかったな。
情報屋だから、あそこまで国の事情や秘密に詳しかったのか……)
男「色々と気になるんだけどな、あの子の言っていたこと」
男(……目が疲れてるみたいだな。なんだか眠りも浅いし、こういうのは感情が昂ぶってたりするからなのかな)
僧侶『勇者、入っていいか?』
男「おう、入っていいよ」
僧侶「おはよう」
男「うん、おはよう」
僧侶「明かりがついてたから来たんだが、ずいぶんと早くから起きてるんだな」
男「んー、まあな。でも、僧侶はもっと早くから起きてたんだろ?」
僧侶「私の場合は、その分だけ先に寝ているからな。それにこの早起きは習慣だからな。
お前の場合、あまり眠れてないんじゃないか? 昨日も夜、遅かったらしいし早く起きてただろ?」
男「なんでか知らないけど、寝てもすぐ目が覚めちゃうんだよな。まあ、でも寝てはいるし大丈夫だよ」
僧侶「私が選んだ本、読んでたのか?」
男「うん。本、これを読むと色々とわかるんだな」
僧侶「まあ、そういうものだからな。本というものは」
僧侶(ちがう、勇者にとってはそんな私たちにとって当たり前のことさえも、当たり前じゃなくなるのか)
男「記憶としてはわかってるし覚えてるのにな。
不思議だな、こうやって体験することで、ようやく記憶に自信……っていうか、まあそんな感じのものを感じられる」
僧侶「そうか。だけど少し、今詰めて読みすぎな気がしないでもないけどな」
男「そうかな?」
僧侶「時間があったら剣技についての鍛錬をするか、読書をするか、それしかしてなくないか?」
男「たしかにな。なんか焦ってんのかな?」
僧侶「焦ってる?」
男「自分でもわからないんだ。ただ、オレは誰よりもなにも知らない。だからさ、がんばろうかなと思ってさ」
僧侶「……そうか」
男「昨日も夜に、魔法使いから魔力の効率のいい使い方を聞いてたんだ。あいつの話を聞いて、自分の知識のなさに驚いたよ」
僧侶「魔法使いは魔力や魔物に関して、並の人間より精通しているからな」
男「うん。知識は実践経験と同じぐらい大切なんだって思ったんだ」
僧侶「だから、今も本を読んでたのか?」
男「んーまあ、それもあるのかもな」
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- 勇者「パーティーの中で、俺が一番弱いんだよな……」 (358) - [50%] - 2012/7/5 10:15 ★
- 志希「フレちゃんがうつになりまして。」 (224) - [47%] - 2016/3/28 12:30 ☆
- 八幡「ストーカーされているみたいなんだが」 (744) - [46%] - 2014/7/10 13:45 ★★
- 提督「セクハラの時間だあああああああああ」 (119) - [45%] - 2016/6/5 2:45 ☆
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