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元スレ勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」
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?「どうしたどうした!? 二人がかりでこの程度か……!?」
男「くっ……」
男(こいつ……やっぱり強い……!)
戦士(さっきの戦いでボクの魔力はだいぶもってかれたみたいだ……くそっ、下級魔法を連発することもできないなんて)
?「さっきの強さはどうした勇者!? 戦士を圧倒したように俺もあの力で圧倒してみせろよっ!」
男「お前相手にあの力は必要ねーんだよっ!」
勇者はなにか思いついたのか、素早く飛び退き男との距離をとる。
戦士「おいおい、勇者くん。なにキミ、勝手に戻ってきてんだい」
男「べつに勝てないと思って逃げたわけじゃない。戦士、一つ提案がある」
戦士「言ってみてよ」
男「……………………………………………………って、ことだ。どうだ?」
僧侶「……本気で言ってるのか?」
男「一通りの攻撃は試した。その上で、この提案をしてんだよ」
戦士「まあ、たしかに意外と言えば意外な方法だけど……」
魔法使い「成功の保証はない。はっきり言って危険すぎる」
男「でもこのままじゃあ、オレたち、死ぬぞ。あいつに全員殺される。だったらオレだけが死ぬけど、あいつを倒せる可能性にかけるべきじゃないか?
なによりオレは特別だ……オレが適任だろ」
?「いいかげんに飽きたなあ……終わりにしよう」
男「……やらなきゃやられるぞ!」
戦士「今回ばかりはあまりに気が進まないけど……」
男「さっきまでオレたちは戦ってんだ。その延長だと思えよ」
戦士(他に思いつく手段はない……これしかない、ってことか)
戦士「キミたちは回復の準備を頼むよ……」
僧侶「本当にやる気なのか……?」
男「安心しろ。オレはこいつを倒す。そしてその上で生き延びる」
魔法使い(記憶がないゆえにできる暴走か……あるいは
、そういう風に勇者として…………)
男「いくぞっ!」
?「ふっ……また懲りもせずに突っ込んでくるばかりか!」
?(なにか相談していたが……だが少なくともこいつ一人ではなにもできまい)
男(勝負は一瞬……オレはただこいつと直線ラインに立っているだけでいい!)
男「終わりだああああああ」
男は最初なにが起きたのかわからなかった。
ただ、急に脇腹のあたりが溶岩でも垂らされたかのように熱くなったのだ。
そこに視線を移動させる。杖が脇腹に刺さっていた。
そして次の瞬間、杖から男の全身に魔力が行き渡り、激痛が走り男は膝をついた。
なにが起きているのかまったく理解できなかった。
?「ぐっ……ぐあああああぁ!! な、なにをしたっ……!? いったいどうやって……!?」
勇者がなにかやったのかと思ったがちがった。彼もまた同じように、膝からくずおれて腹を押さえていた。
男「……どうだ、オレたちの……攻撃は…………見えなかったろ?」
顔から血の気が失せた勇者がニヤリと紫に変色した唇を歪める。
ようやく男は理解した。勇者パーティの攻撃方法を。
?「貴様……自分を盾にし視界に入らぬように……っ!」
男「……正解だっ、見える攻撃じゃあ…………お前に、かわされることは……わかってた、からな」
しかも杖を投擲したせいで余計にわからなかった。
戦士「杖はもっとも魔法に長けた魔法使いが扱い、魔法を媒介とする上では一番適しているからね。
ボクの魔力をかなり消費させてもらったけどね」
?「ぐっ……まさかこんな手段をとってくるとはな……」
戦士「勇者くんをなめすぎだよ、そしてそれが今の状況にそのままつながったんだよ」
?「まったく……ヤキが回るとはこういうことか……」
戦士「さあ、おとなしく捕まってもらおうか。リザードマンを殺したのはキミなんだろ?」
?「……ふっ、俺がたたで捕まると思うのか?」
?「悪いがこんな状態になってしまえば、もはや生きていても仕方ない。どの道、近いうちに死ぬだろうしな」
不意に男の身体が光る。全身に謎の術式が浮かび上がる。
戦士「しまっ……死ぬ気か!?」
?「貴様のような若造に利用されるなんてごめんだからなあ!
くくくっ、勇者よ……いや、ニセモノの勇者よ」
男「……なん、だ……?」
?「見事な攻撃だったなあ! 怖くはなかったのか、なにも感じなかったのか!?」
男「お前を倒すためだったからな……これぐらいしなきゃ勝てないと思ってな……」
勇者は必死で途切れかかる意識をつなぎとめる。が、指先から冷えていく。痛みが意識を侵食していく。
?「勇者の亡霊よ、貴様はニセモノにしてはよくやったな」
男「ニセモノだと……なにを……言って、る?」
?「わからないのか……あんな状態になっても自分が勇者だと思えるのか?
気になるならそこの戦士か魔法使いにでも聞けばいい」
魔法使い「……」
男「……なにが、言いたい……?」
景色がゆがんでいく。痛みが流れ出る血と共にどんどん大きくなっていく。
?「……くくくっ、人の手により作られし哀れなニセモノよ…………」
男(ニセモノ……オレは封印された……昔の勇者ではない、ということなのか……?)
男の声がどんどん遠くなっていく。
僧侶や戦士の声が上から降ってくるが、なにも答えられない。景色は暗くなっていく。
ニセモノ。その言葉だけは消えていく意識の中でも、ぼんやりと浮かび上がっていた。
地面がなぜか近づいてくる。なにかが倒れる鈍い音。まばゆい光。遅れて衝撃と爆発音。
男(ニセモノ……オレは……)
勇者の意識はそこで途絶えた。
乙
人造ねぇ…
そんな気がしてたけどやっぱり…か
薬も対勇者ように
世界を滅ぼさない為に作ったんだろうな
人造ねぇ…
そんな気がしてたけどやっぱり…か
薬も対勇者ように
世界を滅ぼさない為に作ったんだろうな
………………………………………………
男(ここは……オレは死んだのか?)
なにもない真っ白な空間。そこに自分は羽のようにぼんやりと浮いていた。
どうにかして敵を倒したのは覚えている。いや、本当に倒せたかどうかは自身がない。
男(これは……)
真っ白な景色にうっすらとなにか浮かんで来る。様々な景色が波紋が広がるように浮かび上がる。
男(オレの記憶なのか……いや、ちがうか)
色々な景色や出来事。空間を埋め尽くす様々な光景は、しかし、自分の記憶ではない。
それだけはなぜか本能的に理解できた。
ふと様々な記憶の中で、一つの光景だけが大きくなっていく。
男「あっ……」
その光景に一人の少女が映る。勇者はなぜかその人が姫だとわかった。
姫の背後には……魔王がいた。姫の対面にいるのは剣を構えた男。
男(こいつは……勇者だ。なんで勇者と姫が対立してるんだ?)
姫は両手を広げてなにか、その勇者である男に言っている。必死でなにかをうったえようとしている。
一方で男もなにかを必死にうったえている。
よく見れば姫の背後の魔王はかなりの傷を負っていた。
男(なんで姫が魔王を庇うんだ……?)
さらに先を見ようと身を乗りだす。
だが、またべつの光景が現れる。
男(なんだ……)
凄惨な光景が広がっていた。人々が逃げ惑う街は魔物が暴れ、建物を破壊していた。
勇者と思わしき男が魔物と戦っている。他にも兵士たちが戦っている。だが、明らかに魔物が多すぎた。
男がなにか叫んでいる。
男の視線の先には姫の面影を残した女性がいた。そしてその女性は、魔物に襲われようしていた。
一つ目の巨大な身体を持つ魔物が、腕を振り上げる。男が手を伸ばす。
それ以上は勇者が先を見ることはできなかった。
ふっ、とその景色が消えてしまう。
淡い光。空間が光で満たされてその光景が淡くなっていく。
不意に勇者は目が覚めた。
……………………………………………………
男「……っあ」
竜「おや……お目覚めですか?」
男「お前は……たしかあの女の子の……」
竜「ええ。四日前、あなたを例の牢獄へ案内しようとして……」
男「そういや、あの赤いローブのやつから逃げるために魔法陣使ったんだよな……。
あのあとお前はどうしたんだ? 逃げたのか?」
竜「はい。身の危険を感じたものですから。あと、手記についてはなんとか回収しましたよ」
男「ああ、ありがと。で、あの赤いヤツはどうなったんだ?」
竜「わかりません。私は逃げましたし、特に情報は入ってきていません」
男「そうか……って、さっき四日前って言わなかったか!?」
竜「ええ、言いましたけど」
竜「あなたは三日間、ずっと眠っていたのですよ。一瞬だけ意識を取り戻したりもしていたみたいですが……」
男(……三日間も寝ていたのか、オレは。あのときあの赤いローブの一人を倒すためにオレと戦士は……)
男「そうだ! みんなは!?」
竜「戦士様と僧侶様は、ある公爵家に向かわれましたよ。
目的は私は聞いていませんが、もしあなたが目覚めたらそのときはそう伝えるようにと言われていました」
男「公爵……?」
男(そういえば本来はオレたちは、最初の魔法陣で直接帝都に行って、魔王に会う予定だったんだよな。
そうだとすると、その公爵のとこが本来最初に向かうところだったのかな)
竜「魔法使い様は少し席を外しているだけなので、次期に戻られると思います」
男「……そうか」
男「ていうか、ここはどこだ?」
竜「エルフ様の屋敷です……もう身体を起こして大丈夫なんですか?」
男「んー、そういえば身体には異常はないみたいだな」
竜「それはなによりです」
男 「なんかまだ記憶がぼんやりとしてるが……そうだ! オレたち、本当なら捕まってたんだよな? みんな大丈夫なんだよな?」
竜「先に言ったとおりです」
魔法使い「私たちは無事」
男「魔法使い! よかった、無事だったんだな!」
魔法使い「……」
魔法使い「……あなたは大丈夫? 人間地区の方から町医者を呼び出して、診てもらった。大丈夫みたい、だけど……」
男「ああ、特になんともない。好調みたいだ」
魔法使い「そう……」
男「……」
魔法使い「……」
男「ああー、あのさ……」
魔法使い「少し、待ってて。部屋からものをとってくる」
男「お、おう。なにをとってくるんだ?」
魔法使い「……お酒」
…………………………………………………………
魔法使い「ふふっ……あぁ……うん、少し飲み過ぎだかしらね」
男「なんでわざわざ酒を飲む必要があるんだよ?」
魔法使い「このほうが、色々と話しやすいのよ。素面だと、これからあなたに話そうとすることをうまく伝えられるか自信ないし」
男「そうか……まあたしかに、色々と疑問が残ってるしな」
魔法使い「ところで記憶はしっかりしてる? あなたは酔った勢いでサキュバスを襲って、返り討ちにされて今に至るのよ?」
男「堂々とうそをつくな。オレは死に物狂いで、あの赤いローブのヤツを倒そうとして、今の状態になってんだよ」
魔法使い「ふふっ、安心したわ。これ以上記憶をなくされても困るからね」
男「ひどいこと言うなあ……」
魔法使い「……ごめんなさい。なんとか明るい雰囲気を作ろうとしたのだけど」
男「あー、いや、気をつかってくれたのか……」
男「単刀直入に聞く。オレはいったいなんなんだ?」
魔法使い「……」
男「悪いけど、覚えているよ。オレは勇者なんかじゃないんだろ? 本当はオレは何者なんだ? いや、なんなんだ?」
魔法使い「……意外と冷静なのね。私、実はマントの下に杖を隠しているのよ」
男「なんでだよ?」
魔法使い「目覚めた瞬間に暴走……なんて可能性を考えていたからよ」
男「なるほど……自分で言うのもなんだけど今のところは冷静だよ。
なんでだろうな……なんて言うか、こういうときはやっぱり取り乱したりするもんなのか?」
魔法使い「……」
魔法使い(記憶を蓄積して人格を形成していく普通の人間とは、やはりずれているのかしら……?)
魔法使い「どうかしら、ね。あなたって意外と冷めてるのかも」
男「冷めてる、か」
魔法使い「あなたは勇者じゃない。まして、普通の人間ですらない」
男「……そうなんだろうな。まあ普通の人間は腕からツタ出したり、翼生やしたりはしないんだろうな。
でも、だったらなんなんだ? どうしてそんな異常なことがオレの身体には起こる?」
魔法使い「いつか話した『マジックエデュケーションプログラム』については覚えてる?」
男「ああ、話してたな」
魔法使い「そしてそのプログラムの発足から起きた記憶喪失事件は……覚えてる?」
男「ああ、なんかあった気がする……」
魔法使い「覚えてなくてもいいわ。
このプログラム……災厄をもたらした女王による人工勇者を作るために発足されたプログラムなのよ」
男「ああ、知ってる」
魔法使い「知ってる? どういうこと……? 説明した覚えはないけど」
男(オレは例の情報屋の女の子から、聞いたことを魔法使いに伝えた。
魔法使いは不思議そうだったが、とりあえずは話を続けるために少女には触れなかった)
魔法使い「このプログラム……一つはそういう方面に特化するであろう魔法使いを選定することだった。
そしてもう一つは、人の記憶に干渉することができる魔法使いの選定」
男「人の記憶に干渉なんて、魔法でそんなことまでできるのか?」
魔法使い「できるわ、ただし肉体だけに影響を与える魔法よりも遥かに高度だから、本当にごく少数だけどね」
男「まさか、オレの記憶は……」
魔法使い「……そうよ」
魔法使い「あなたの記憶は失われてなんかいなかったのよ。人の手で作られたあなたには、そもそも肉体だけがあった。
けど記憶や感情、それらによって形成されていく人格がない。そう、あなたには、はじめから記憶なんてなかった……だから無理やり作ったのよ」
男「ちょ、ちょっと待ってくれ。えーと、うまく整理できない。先にプログラムの説明の続きをしてくれ」
魔法使い「……プログラムは表向きは魔法教育の強化が目的だった。実際にはある方面に特化した魔法使いを育てることだけどね。
そして、その魔法使い……その中でもとびっきり魔法使い、ようは賢者ね。
その人たちによって人工的に作った勇者にさらに記憶干渉できる賢者が記憶を与えたのよ」
男「つまり、そのプログラムは人工勇者を作るためだったってことだった。でも結果的に災いが起きたんだよな?」
魔法使い「ええ、人の記憶の干渉はかなり高度な上に危険そのものだったわ。
しかも記憶を引っ張り出す実験体に一般市民を用いたのよ」
男「まさかそれが例の魔女狩りにつながった記憶消失事件なのか……?」
魔法使い「あら、よく覚えていたわね」
男「わりと最近に情報屋の子から聞いたからな」
魔法使い「そう、魔法使いたちは最後は情報漏洩を恐れた政府によって大勢殺されたわ。
異端審問局を利用した大量抹殺……まあでもまったくの嘘でもないのよね」
男「……」
魔法使い「魔法使いたちが記憶を一般市民から奪っていたのは本当だし、彼らがいなくなったあとは記憶の消失事件はなくなったわけだしね」
男「でも、そんなのって……」
魔法使い「あんまりだと思うけど、でも過去の話よ。それに、本当に重要なのは、人工勇者を作るために行われた前段階の実験による被害」
男「前段階の実験って……他にもなにかしてたのか?」
魔法使い「人の記憶を他のものに定着させる。これがとどんな結果を生むかわからなかった、だから実験機関では、盗った記憶を魔物に定着させたのよ」
男「……」
魔法使い「さらに、魔王と勇者、両方の血をもつ存在を作るための前段階として魔物の混合もやったわ。
そうしてこの実験はエスカレートしていって、最終的には魔物の暴走」
男「それで国は魔物たちによってめちゃくちゃになったんだな」
魔法使い「そしてその混乱期に女王は死んだ……魔物手にかかってね。自業自得よね、どうして人口の勇者を作ろうとしたのか……。
まして、魔王の血を合わせもつ勇者なんて……」
男(あの子はたしかそのことも言ってたような……いや、今はそのことはいいか)
男「そのプログラムのことについてはわかった。で、次はオレだ。オレのこの半端な記憶はどこから引っ張ってきた?」
魔法使い「ごめんなさい、私も正確な情報はわからないわ」
男「そもそもオレは八百年前に生まれた勇者なんかじゃないんだよな?」
魔法使い「ええ、ごく最近生まれた勇者とはちがう人工の誰か。それが、あなた」
男「でも、オレには八百年前のうっすらとした記憶がある……それって八百年前の勇者の記憶を流用したってことなんじゃないか?」
魔法使い「そうね、その可能性はないこともないわ。ただ、それだと……」
男「……なんだよ?」
魔法使い「八百年前の勇者の記憶はどうやって引っ張ってきたのかしら? 肉体については細胞を利用したりどーとでもなるわ。でも記憶は……」
魔法使い「記憶は脳にあると言われているわ……でも現時点では死んだ脳から記憶を持ってくるのは不可能なのよ」
男「だんだんわからなくなってきたな。オレの身体ってでも明らかに勇者の身体だけがもとにはなってないよな?」
魔法使い「……おそらく」
男「たとえば魔王とかの肉体がもとになっていたりしないか?」
魔法使い「どうしてそう思ったの?」
男「わからん。ただ、なんとなく魔王だと思わしき記憶が時々よぎるんだよ」
魔法使い「興味深い話ね」
男「しかし、なんで魔王の身体をオレに使う必要があったんだ? 勇者の身体だけをベースにしちゃダメだったのか?」
魔法使い「……わからないわ」
男「ていうか、なんでお前はオレの身体について知ってるんだ? 戦士も知ってるみたいだったけど」
魔法使い「それは簡単よ。私もあなたを作り出した実験機関に所属しているからよ。
と、言っても中途半端な位置にいる私は、あなたに関してはなにも携わっていないのだけど」
男「ったく、わけわかんねーよ。ややこしくて頭に入らない……イライラするな」
魔法使い「……」
魔法使い(自分の中のもどかしさをどう解消していいのかもわからない……か)
魔法使い「あとのことは……彼に聞いたほうがいいわね。ねえ?」
男「よお……」
戦士「やあ、勇者くん。気分はどうだい?
色々な疑問が残るだろうけど、それについてはボクがお答えするよ」
乙です
今後の魔法使いに期待
この物語ってヒロインは誰なの?
魔法使い? 僧侶?
今後の魔法使いに期待
この物語ってヒロインは誰なの?
魔法使い? 僧侶?
まったりさいかい
ヒロインかあ
ヒロインについては……ええ、ちょっと迷ってるというか、正直あんま考えてませんでした
ヒロインかあ
ヒロインについては……ええ、ちょっと迷ってるというか、正直あんま考えてませんでした
男「……」
戦士「どうしたんだい? なんだか元気がない気がするんだけど?」
男「いや……ていうか、みんな無事だったんだなって思ってさ」
戦士「キミのおかげでね。真面目な話、助かったよ。ありがとう」
男「……」
戦士「さっきから沈黙が多いけど、本当に大丈夫なのかい?」
男「いや、べつに……それより気になってることが色々ありすぎる。
あの赤ローブのヤツらとかのこととかな」
戦士「彼らについての詳細はボクも知らない。一応彼らについては、陛下から直接聞いてはいたけどね。
彼の本来の役割はボクらのバックアップだったんだ」
男「バックアップ? あいつら、オレたちを襲ったじゃないか!?」
戦士「それどころか、魔法使いちゃんと僧侶ちゃんは殺されそうになったしね。まあ、ケルベロスを仕掛けた彼は自害したけどね。
バックアップって言うのは万が一、キミが暴走したときのためのね」
男「お前と魔法使いはオレが……作られた勇者だって知ってたんだよな?」
戦士「黙っていたことは謝る。すまなかった」
魔法使い「……ごめんなさい」
男「口止めされてたのか、王様から」
戦士「うん。キミのことは黙っているように承ってはいたよ。だけどまあ、そういうこととは関係なく、黙っていたのは事実だ」
男「……まあ、今はまだ正直なところさ、よくわかってねーんだよ。自分が実は作られてました、とか言われてもさ。
だから、そんなことよりその赤ローブのヤツらについての話、続けてくれ」
戦士「さっきも言った通り、詳しいことは不明。陛下もなぜか彼らについての情報は開示しなかった。
ボクが伝えられたのは、ボクらよりあとで来るということと……」
男「なんでそこで止めるんだよ?」
戦士「……キミが暴走したときは、キミの始末をしろって言われたんだよ」
男「……王様はオレがああなることをわかってたのか」
戦士「いや、あくまで可能性の一つとして、だよ。そして、キミが暴走したらボクでもどうにもならない可能性があった。
だから保険としての彼らってわけさ」
男「でも、あの連中はオレたちより先に来てたじゃないか」
戦士「これはボクの予想なんだけどね。彼らはもしかしたら、とある宗教の一味なんじゃないかって」
男「ある宗教?」
戦士「魔物を敵視し、根絶やしにして人間だけの楽園を築くことを目的にしてるという過激な新興宗教団体。
例の赤ローブの連中がその一味なんじゃないかってね」
男「そんなヤツらがいるのか……」
戦士「まあ、可能性だ。それに異端審問局とかも捜査にはあたってるけど、未だに実態はわかっていない」
戦士「そういうわけで、彼らは陛下の命のとおりに動かなかった。そして、さらにボクらを追い込みにきたわけだ」
男「……」
戦士「だが、あのとき。ボクがキミを殺そうとしたのは本気だった。
ヤツらと組んでキミを始末しようと思った」
男「……みんなを危険な目に合わせる可能性もあったもんな。お前を殺しかけたし……。
でも、じゃあなんでお前はオレを殺すのをやめたんだ?」
戦士「キミの暴走はギリギリのところで止まった。だからだよ」
男「……そう、か」
戦士「キミを殺そうとしたことも謝る……と言いたいところだけど、さすがに殺人未遂を謝罪の一言で終わらすのはさすがに図々しいね」
男「いや、オレは……」
男(…………)
戦士「そういえば、例の人については話したかい?」
魔法使い「まだ」
戦士「なら、キミにも話しておこう。さっきまでボクと僧侶ちゃんは、ボクらの協力者にして魔王のもとへの案内人でもある、公爵の屋敷にいたんだ」
男「本来最初に行くはずだったところだろ?」
戦士「そう。公爵様のとこに行ってそのまま魔王様のもとへ行く……っていうのが本来の予定だった。
ところがどっこい。魔王がいない今、どうするかって話なんだよ」
男「その公爵の屋敷に行って来たんだろ? なにかしら話しあったのか?」
戦士「とりあえずは、彼らの施設を見て回ることになったよ。
これはもともとの予定としてあったけど、本来は魔王に謁見したあとの予定だったんだよね」
魔法使い「この視察については私と彼とで行うわ。あなたはまだしばらくは、養生するといいわ」
戦士「そうだね。ああ、そうだ。
しばらくしたら、僧侶ちゃんが帰ってくるしなんなら二人でどっか見て回れば?」
男「んー、そうだな……」
戦士「なんだい、なんか言いたそうに見える気がするけど」
男「…………いや、なんにもだ」
戦士「そうかい? 魔法使い、あとはキミから伝えておくことはある?」
魔法使い「なにか言おうと思ってたけど、いいわ。忘れちゃったし。そういうあなたはもうなにか言うことはないの?」
戦士「……べつに。とりあえずはこれですべてさ」
男「……」
…………………………………………………………
戦士「さて、勇者くんのことは僧侶ちゃんに任せたし、ボクらは公爵閣下――ハルピュイア殿が来るまで休憩していよう」
魔法使い「ずいぶんと彼に対して、説明を省いたわね」
戦士「あれ? いつもだったらとっくに回復魔法使って酔い覚まししてるのに、今日はしないのかい?」
魔法使い「少し酔っていたい気分なのよ」
戦士「珍しいね。キミは酔いが顔には出ないから、そんなにちがいがわからないけど。
……で? 説明を省いたって、ボクがなにか説明し忘れたことなんてあったかな?」
魔法使い「わざとらしいわね。自分のことで頭がいっぱいになってるから、彼は気づいてなかったみたいだけど。
たとえば、リザードマンの殺害。あれを通報したのはあなただけど、それについての説明は?」
戦士「それを言ったら、どうしてキミがあの牢獄に魔物の研究機関があったことを知っていたのか、とかもだろ?
それについては話したのかい?」
魔法使い「……いいえ。てっきりあなたから説明があるかと思ったから」
戦士「まあたしかにね。でもさ、そもそもあの研究機関で魔物開発のデータについて、陛下から頼まれていたのはキミのはずだ」
魔法使い「ええ。一応、彼が気絶したあと多少はあの機関については調べたけど。あなたのやり方が強引すぎたのよ。
まさかリザードマンが殺害されたのを利用して、進んで牢獄に入って機関に潜り込む……そんなやり方をするなんて予想外だったわ」
戦士「今回、ある意味一番難しい課題だったからね。仮に彼が殺害されてなかったら、機関に入り込むことはできなかったかもしれない」
魔法使い「結局、リザードマンが殺されたのは……」
戦士「ああ。ボクらのバックアップである、あの赤ローブの連中で十中八九間違いない」
魔法使い「私たちが牢獄にいるとき、同時進行で城にあの連中の一人が侵入してる。おそらく、混乱を起こすため」
戦士「そして、ボクらと同じように研究機関のデータを盗もうとしていた」
魔法使い「あなたはあの連中が侵入したのに気づいて、わざと私たちとはぐれて、機関に侵入した」
戦士「あの機関を調べるのに一番適していたのは、キミだったんだろうけどね。
しかし、そうも言っていられない。なにせ、赤ローブのヤツらが先に侵入していた可能性があった。
さらに戦闘になる可能性があった。ならば、ボクが行くべきだった」
魔法使い「思い返してみると、奇妙なことはまだあるわよね?」
戦士「陛下のことだね」
魔法使い「ええ」
戦士「あの赤ローブの連中が、例の新興宗教の一味だという情報はボクでも知っていた」
魔法使い「あなたが知っていることを陛下が知らないわけがない。そして、そんな嫌疑を密使のバックアップに選ぶわけがない。
あなたの独断で、あの魔法陣を破壊したものの先手を打たれていた」
戦士「あの赤ローブのヤツらの仕業で、たぶん間違いない。魔法陣の座標を変えられたせいで、ボクらは予定外の場所に来ちゃったわけだ……」
魔法使い「そして、まだ三人のうちの二人は捕まっていない……」
戦士「まったく……課題は増えていくばかりだ」
戦士(そして、賢者が大怪我を負った爆発事故。あれは勇者くんが作られ、生まれた時期とほぼ一致している……)
魔法使い「ずっと聞こうと思ってたんだけど、あなたは彼らを利用しつつ、あの時点では勇者くんをどうするつもりだったの?」
戦士「……そもそも、あのときは色々と際どかったんだよ。
キミらが機関に入ってきたのにボクはすぐ気づいた。彼の背中から翼が生えていたのも確認した。
だけど、勇者くんは正気を保ってた。だから、あの赤ローブのヤツにキミらが気づかれないように必死だったよ」
魔法使い「場合によっては、彼を利用しつつ勇者くんを殺すつもりだった?」
戦士「うん……まあ、ギリギリまで迷った結果が戦って確かめるってことだったけど」
魔法使い「私たち、よく生き残ったと思うの。まさかあの連中だけじゃなく、ケルベロスが出てきたときは死を覚悟したわ」
戦士「ボクがキミに持たせたものもほとんど役に立たなかったみたいだね」
魔法使い「例の対勇者くん用の魔力封じのヤツだけね、まともに使えたのは」
魔法使い「結局あなたは彼を殺さなかった。いいえ、本当のところ、あなたは彼を殺す気なんてなかったんでしょ?」
戦士「さあ、どうだかね」
魔法使い「ふふっ……はぐらかさなくてもわかるわよ」
戦士「キミこそ、わざわざアルコールを接種して勇者くんと話をしようとしたのはなぜなんだい?」
魔法使い「……べつに。説明するならお酒モードのほうが都合よかっただけ」
戦士「そうかい? 状況を説明するだけならそんなことをしなくても、素面のままでよかったと思うけどね。
わざわざ饒舌になるようにアルコールをとったりしたのには、なにか意味があったと思ったんだけどなあ」
魔法使い「……そういうあなたも、なにか言葉を探しあぐねてたように見えたけどね、私には」
戦士「……女の子への口説き文句はすぐ浮かぶのにね。
まあ、とりあえずはキミの魔術と例のクスリで彼の潜在能力は封じた」
魔法使い「彼女は勇者くんに対して不安はないのかしらね?」
戦士「今回、ボクらとちがってほとんど事情を知らないからね、僧侶ちゃんは。
まあ彼女にも一応持たせるものは持してある。大丈夫さ」
遣い「失礼します。ハルピュイア公爵の遣いの者が参られました」
戦士「おや、ずいぶんと早いね。仕方ない、行こうか」
魔法使い「……ええ。気を引き締めて行きましょ」
戦士「うん、敵陣に突入だ」
………………………………………………………………
僧侶「……」
男「……」
僧侶「……お腹、空かないか? どこかへ入らないか?」
男「んー、そうだな……てきとーなとこに入るか」
僧侶 「あ、でもここは魔物圏の場所だからな……まあ、この貴族の遣いであることを示すブレスレットがあれば、大丈夫みたいだが」
男「そーだな」
僧侶「……まあ、入るか」
………………………………………………………………
僧侶「戦士と魔法使いから、どこまで話は聞いてる?」
男「……」
僧侶「……私の話、聞いてる……?」
男「……ん? ああ……ごめん。なんだって?」
僧侶「どこまであの二人から聞いてるのかって、聞いてるんだ」
男「ああ、そういうことか。オレ自身のこと。あと、なんか近況報告も聞いたな。
そういえば、お前らオレが気絶したあと、すぐ牢獄を脱出したのか?」
僧侶「いや、あのあと無理やり回復させたお前をつれて、脱出を試みたが結局憲兵に捕まったんだ」
男「でも、今はこうして自由の身になってるよな?」
僧侶「それなんだが、不思議なことに二日で私たちは釈放された」
男「なにか理由があるのか?」
僧侶「しいて挙げられるとするなら、あの赤いローブの男がリザードマンを殺していた……その証拠が見つかった。
いや、だが、やはりおかしいと思う。私たちをそんな簡単に釈放するなんて……」
男「でも、助かったんだしよかったんじゃないか?」
僧侶「それはそうだが……」
男「気になるのか?」
僧侶「ああ、やっぱり不安要素は少ないほうがいい。なにより、私はあの二人からきちんとした話は聞いていなかった」
男「……」
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