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元スレ勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」
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僧侶「せっかくだ。先に朝ごはんを食べてしまおう」
男「……先に食べちゃうのか?」
僧侶「お腹すいてるだろ? それに読書や運動、とにかくなにかをするならその前に栄養をとっておくべきだ」
男「まあ、それもそうか」
僧侶「今日は私の新作料理を食べてもらいたい」
男「へー、それは楽しみだな。いったいどんな料理なんだ?」
僧侶「名前はまだ決めていない。よかったら食べたあとにでも決めてくれ」
…………………………………………………………
僧侶「で、どうだった?」
男「……正直に言っていいんだよな? 朝ごはんはおいしいよ」
僧侶「朝ごはん自体はたいしたものではないし、ここの遣いの者に教えてもらったものだ」
男「そういえば、遣いの人に朝ごはんだけは、わざわざ自分で作るように言ったんだよな」
僧侶「ああ。私の教会は人数が少ないからな。ほとんど毎日、食事は私が作ってる。こっちに来てもその習慣ぐらいは続けておきたかったんだ」
男「どうして?」
僧侶「そうやって継続的になんでもやっていないと、意思の弱い私は料理をすることをやめてしまうかもしれないからだ」
男「そんなことないと思うけどな。むしろ、なんかすげー頑固って感じがするのに」
僧侶「たぶん、お前が見ている私と、私が知っている私はちがうんだ。
私は一番、私を信用していない。自分のことは自分が一番よくわかっている」
男「…………自分のことは自分が一番よくわかっている、か」
僧侶「……一番、付き合いが長いからな」
男「ん? どういうことだ?」
僧侶「なんでもだ」
男(……もしかして、オレに気をつかって冗談でも言ったのか?)
僧侶「話が脱線したな。新作料理の評価を私は聞きたいんだ」
男「えーっと、正直に言うぞ?」
僧侶「構わない。むしろ、こういうことは正直に言ってくれないと困る」
男「……すごく、まずい」
僧侶「……まあ、 そうだろうな」
男「え?」
僧侶「だが、そちらの人参料理はそこそこうまいと思うんだが、どうだった?」
男「ああ、これはなかなか食べやすいし、おいしかったと思う」
僧侶「前々から色々と試行錯誤していた料理なんだ。酢に塩や砂糖、そして細かく刻んだ人参を二日ほど漬けたものなんだ。
ただそれだけだと、どうにも物足りなくてな。色々と考えた末に、にんにくを摩り下ろして一緒に漬けておいたんだが。
これがなかなかによくてな。ぼやけてた味がパンチがきくようになった」
男(なんか料理のことを話してる僧侶は、すごい生き生きしてるように見えるな。これで、料理をしなくなるなんてことがあるのか?)
男「へー、よくわかんないけどこれはなかなかおいしかったよ。ただ……」
僧侶「こっちか?」
男「うん。なんだったんだ、このなんかよくわからない、煮込み料理は? なんか妙に赤いんだけど」
僧侶「赤いのはトマトだ。トマトは加熱した方が栄養価が上がるからな」
男「じゃあ、この謎の肉塊は?」
僧侶「いや、それは私にもわからない。遣いからもらったんだ。栄養価が高いらしい」
男「……なんか他にも色々と入ってるけど、この料理を僧侶は味見したのか?」
僧侶「当たり前だろう。料理をして味見をしない人間などいない。
仮にいるとするなら、そいつは間違いなく料理が下手だろうな」
男「……じゃあ、これがおいしいわけがないってことぐらい、わかるよな?」
僧侶「もちろん。だから、私はおいしいかは聞かなかっただろう。私が聞きたいのは食べられるかどうかだからな」
男「食べれると言えば食べれる。でも、食べないですむなら、食べたくない。そんな味だ」
僧侶「やっぱりそうなのか」
男「なんでこんなまずいものを食わせたんだ?」
僧侶「この料理はたしかに間違いなく美味しくないが、でも、確実に栄養価は高いからだ」
男「そうなのか?」
僧侶「そもそもこの料理は、うまいものを作ろうと思って作ったわけじゃないからな。
栄養がきちんと摂取できる料理、それが今回のテーマだ」
男「まあ、理由はわかったけど、もう少し味はなんとかならなかったのか?」
僧侶「……数年前に世界各地を歴訪してきた元軍人の方が教会を訪れたことがあった」
男「なんの話だ?」
僧侶「まあ聞いてくれ。そのとき、その人と話したんだが、野戦食の話になってな。彼らにとって、食糧というのはなかなか重要な課題らしい。
大量かつ保存もきき、衛生面の安全も確保する野戦食というのは、なかなかできないらしい。なにより、味は最悪そのものだそうだ」
男「うん……」
僧侶「その人から聞いた野戦食で、もっともまずい代わりに一番栄養価の高いというもの……それを参考にしたのがこの料理だ」
男「なるほど、まずいわけだ」
僧侶「その人が言ってたんだ、野戦食はまずいが栄養はそこそことれる。むしろ、まずいほど栄養が確保できる、と。
その彼の話を聞いてから、私の料理の持論は『栄養価が高い料理はまずい』になった」
男「なんか暴論なような気がするぞ」
僧侶「暴論と言えば暴論だが、言った人が言った人なだけに、含蓄のある言葉になんじゃないか。
その話を聞いてから、私も日持ちする料理を考えるようになった。特に野菜の類なんかだな」
男「酢に漬けたりしておくと、長持ちするのか?」
僧侶「ああ。だいぶちがうな。塩揉みとかでもいいんだが」
男「なるほどな。まあでも、そうだな……」
僧侶「なんだ?」
男「オレも料理を覚えようかなってちょっと思ったんだ。いつも僧侶に作ってもらってばかりだし」
僧侶「それは私が進んでやってることだからだ。気にしなくていい」
男「まあ、そうなんだけどさ。いずれは魔界を出るだろ?」
僧侶「そうだな」
男「そうしたら、ご飯のことで僧侶に頼ることはできない。自分で作らなきゃいけないだろ?
だから、自分でも作れるようになるべきかな、ってさ」
僧侶「……」
男「それにこの三日間は、メシも腹六分目までって戦士に言われてるから、この任務が終わったら、たらふくご飯くいたいしな」
僧侶「ささやかだけど、いい目標だな」
男「今までご飯作ってくれたお礼に、僧侶には真っ先にオレの作ったのをご馳走するぜ」
僧侶「ふっ……楽しみにしてるよ」
男「なんで今ちょっとだけ笑ったんだよ?」
僧侶「べつに、気にするな。楽しみがひとつ増えた、それだけのことだから」
僧侶(そうだ、私たちは帰るんだ。任務を終えたら自分たちの国へ。そして……)
……………………………………………………
男(さて、ご飯も食べ終わったし、とりあえず、まだ寝てるだろう魔法使いを起こしに行くかな)
男「魔法使いの部屋はどこだっけ? 本当にここの屋敷広いよなあ。迷いそうになるな……ん?」
男(なんだ、この感覚……)
魔法使い「私なら、ここ」
男「のわあっ!?」
魔法使い「相変わらず大きいリアクション」
男「そ、そりゃあリアクションも大きくなるだろ!? どうやって背後から突然現れた!?」
魔法使い「……まだ秘密」
男「ん、ていうか起きてたんだな」
魔法使い「さっき目が覚めたところ。とりあえず部屋まで、来て」
男「……なんでだよ?」
魔法使い「寝巻き、だから」
…………………………………………………
男(起きてすぐに、部屋を抜けたのか……いや、なんらかの魔法を使ったのか、よくわからないけど。
起きてから着替えもせずに、オレを驚かせに来たせいで、着替えてなかったらしい)
魔法使い「お待たせ」
男「えっと、入っていいのか?」
魔法使い「……うん」
男「おジャマします……カーテン、開けないのか?」
魔法使い「……開ける」
男(なんかいつにも増して、しゃべり方がゆったりしてるな。寝起きだからか……テーブルに空き瓶があるけど、これって酒だよな)
男「昨日、酒飲んでたのか?」
魔法使い「飲んでた」
魔法使い「飲酒は彼から禁止はされていない。自分が飲める量はきちんと把握している。アルコール分解の魔法もあるから、問題ない」
男「……そうか。それで、なんでわざわざ部屋まで連れてきたんだ?」
魔法使い「言いたいことがあった」
男「言いたいこと?」
魔法使い「……うまく言葉にできない」
男「は?」
魔法使い「……このことについては、また、今度。それよりこれを……」
男「これって魔具だっけ? 魔力が込められてるっていう道具で、たしか、ケンタウロスと戦ったときにも使ったよな?」
魔法使い「そう。これはあのとき使ったものとは、べつ。使い方は、あとで三人にも教える」
男「ありがと、助かる」
魔法使い「……」
男「……ん」
魔法使い「……」
男「あー、そういえばさ、魔法使いは酒を飲むのが好きなんだよな?」
魔法使い「そう、だけど」
男「どんなときに酒を飲みたくなるんだ? 前から少し気になってたんだ」
魔法使い「……飲みたい、と思ったとき」
男「いや、その飲みたいって思うきっかけをオレは知りたいんだよ」
魔法使い「……いやなことがあったとき、基本的には」
男「そういえば、酒は気分を高揚させてくれるんだってな。飲んだけど、オレにはよくわかんなかった」
魔法使い「他にも、ある。人と本音で話したいときとか……」
男「魔法使いの場合は、お酒飲むと別人みたいになるもんな」
魔法使い「……自分でも、変っていうのは、わかってる」
男「……そうだな、きっと変なんだよな」
魔法使い「……」
男「……あ、ごめん」
魔法使い「……事実だから、いい」
男「戦士に言われたけど、もっとオレはクールになったほうがいいらしいな。なんか、女にはその方がいいとか」
魔法使い「……意味、わかってる?」
男「……たぶん。一応、わかってるつもり」
魔法使い「彼の言ってることは、間違ってない。でも、今は必要のないこと」
男「そうなのか? てっきり、魔法使いとか僧侶とかも女だから、パーティについての話なのかなと思ったんだけどな」
魔法使い「……」
男「あれ? もしかして今、笑ったか?」
魔法使い「……気のせい」
男「……ホントにか?」
魔法使い「……ん」
魔法使い「……お酒の話」
男「え?」
魔法使い「……なんでお酒を飲むのか、って話」
男「おう」
魔法使い「みんなで酒を飲むのは、楽しい」
男「そういえば、まだ全員では酒を飲みに行ったことはないんだよな」
魔法使い「……だから、すべてのことが終わったら……」
男「そうだな」
魔法使い「飲みに行きましょう」
…………………………………………………………
男(さて、と。まだ戦士には会ってないな。戦士のヤツ、まだ寝てんのか?
昨日も帰ってくるの遅かったみたいだしな……って、テラスにいた)
男「……なにやってんだろ、戦士のやつ」
男(紙になんか色々と書いてるみたいだな。なんか、あーでもないこーでもないと、唸ってるようにも見えるな。
……あ、紙をぐちゃぐちゃにしちゃった。ちょっと覗いてみるか)
戦士「……ふーむ、なんだか台詞回しがおかしい気がするなあ。うーん……」
男「……」
男(なんか殴り書きしてるけど、なんだこれ……)
戦士「……勇者くん。盗み見とはずいぶんとお行儀が悪いんじゃない?」
男「気づいていたのか……べつに盗み見するつもりはあったけど……なにやってるんだ?」
戦士「息抜きに今度の脚本を書いてるのさ」
男「脚本? 脚本って劇の物語のシナリオとかのことだよな?」
戦士「ボクの父が買い取った小さな劇場があるんだけど、そこで月一で演劇を披露して、今はそこの劇場はボクのものになっている」
男「お前が演技したりするのか?」
戦士「ボクは監督兼脚本家だよ。仕事の合間をぬって、趣味でやってるんだ。なかなか面白いんだ」
男「よくわかんないけど、とにかくなんか劇のシナリオを書いてたってことなんだよな?」
戦士「報告書を書くのに疲れたからね。使われてる兵器や、人材、その人材の育成やらまあとにかく色々レポートがあってね」
男「すっかり忘れかけてたけど、本当はこの国の技術がどんなもんか見極めるのが、目的だったんだよな」
戦士「より正確に言えば、契約を結んで魔界の技術者たちをうちの国で雇うのが、密使であるボクらの本来与えられた任務だった」
男「そうなんだよな。色々とありすぎて本来の目的を忘れてたな」
戦士「さすがだね、勇者くん」
戦士(勇者くん以外のメンバーにはなにかしらの報告書を書く義務が与えらているんだけど、それを言う必要はないか)
戦士「まあ、以前の君主は酷くてね、お雇い外国人を連れてくるだけ連れてきて、技術を自国の技術者たちに習得させようとはしなかった。
そのせいで、お雇い外国人や他国の雇用者が離反したときには痛い目を見ることになった。
さすがに陛下は、そんな二の舞を演じたりすることはないだろうけど」
男「…………なるほど」
戦士(勇者くんはここのところ、人が話しているときに、その言葉を吟味するかのように考え込むことが増えたな……。
知識のなさを少しでも考えて補おうとしてる、そういうことなのかな)
男「ところで、いったいどんな話を書いてるんだ?」
戦士「残念ながらこれはオフレコなのさ。まだ世に出ていない、ボクの作品だからね」
男(気になると言えば気になるけど、まあいっか)
戦士「そういえば勇者くん、キミには趣味とかはないのかい?」
男「趣味か? うーん、特にはないと思うな」
戦士「だったらなにか見つけたらどうだい? 趣味とかやりたいことがないって、なかなか悲しいことだと思うよ。
ボクにとって、人生の価値っていうのは限られた時間の中でどれだけ好きなことを見つけ、それをやれるかってことだと思ってる」
男「……やりたいことを見つける」
戦士「ボクの場合はやりたいことが多すぎて、時間が足りないぐらいなんだけどね」
男「多趣味ってやつか。なんとなくだけど羨ましいな」
戦士「もっとも趣味だからって、なんでもやっていいってわけでもないしね。特にいわゆる芸術なんて種類のものはそうだ。
父にも言われたんだ、演劇などがいったいなんの役に立つのかってね」
男「はあ……」
戦士「もちろん、理屈を詰めて反論することはできたよ。
演劇における演技が実は非常に実用性があり、かつ、様々なことに活かせるということについて、語ろうと思えばいくらでも語れたさ」
戦士「まあ、とは言っても結局は趣味の話で、究極的には自分のやりたいことをやりたいようにしているだけだからね。
好きという理由に理屈をつけて、うだうだ語るのもアホらしいと思って結局やめたのだけどね」
男「……なんの話をしてるんだ?」
戦士「ああ……ごめんよ勇者くん。ついついこの手の話には熱くなってしまうんだ、悪い癖だ」
男「なんか意外だな」
戦士「なにがだい?」
男「だって、お前はこの前もオレに向かって男はクールであるべきとか言ってたじゃん。
だから、そういうふうなことを言い出すとは思わなかったんだよ」
戦士「おやおや。ボクとしたことが……そうだね、いささか熱くなってしまったね。
でもさあ、勇者くん。たしかにボクはそんなことは言ったけど常にクールなんてヤツはたいていつまらない人間だよ」
男「そうなのか?」
戦士「普段はクールに、けれども好きなことには熱く。これこそがボクのモットーなのさ」
男「なるほどなあ」
戦士「どうせ、人生の中で好きなことができる時間なんて、やりたくないことをやる時間より遥かに短いんだからさ。
だったら、好きなことや、やりたいと思うことはできるときにやるべきだ」
男「オレにもやりたいこと、見つかるのかな」
戦士「さあね、やりたいことや好きなことなんて、人それぞれだ。漠然と人生を終わらせてしまう人だっているだろうね」
男「……なんか、それは悲しいな」
戦士「ボクもそう思うよ。で、キミもそう思うなら探しなよ」
男「なにを探すんだよ?」
戦士「決まってるだろ? やりたいことだよ」
男「やりたいこと、か。なんなんだろうな、いったい。ていうか、そもそもオレがオレ自身のことをわかってないのにそんな、やりたいことだなんて……」
戦士「関係ないでしょ、それは」
男「関係ないのか? オレはまず自分のことを知って、それから……」
戦士「そんな悠長なことを言っていると、あっという間に人生が終わるよ。
いいじゃん、べつに。キミがどんなヤツだろうと、好きなことを見つけるのには関係ないだろ?」
男「なんかてきとうに言ってないか?」
戦士「そんなことはないよ。まあ、そういう風に聞こえるかもしれないけどさ。
好きなこともやりたいことも見つけられない、もしくはあってもなにもできないまま、死んでいった人をボクは色々と見てきた。
ボクなんかがどう言おうが、最終的に決めるのは勇者くんだ。」
男「……そうだな」
戦士「いいじゃん。色んなことをどんどんやっていけば。そうすればそのうち、色々と見えてくるよ。きっと」
男「……そうだな。さっさと任務終わらせて、趣味を探す旅にでも出ようかな」
戦士「自分探しの旅に似てるね。まあ、とにかくまずは目の前の課題を潰さないとね」
男「おう」
……………………………………………………
二日後
戦士「さて、とりあえず最終調整としてはこんなものかな」
男「……っいてて、容赦無くやってくれたな、戦士」
戦士「悪いね。油断すると負けてしまうということが判明したからね。
手合わせとは言え、ボクを一度は屈服させたキミ相手に手加減や油断なんてとんでもないと思って本気でやらせてもらった次第だよ」
男「へっ、まあそういうことなら、気分は悪くないかな」
僧侶「まったく、これから敵陣に乗り込むというのに、ずいぶんと余裕だな、二人とも。
手合わせでケガでもしたらどうするつもりなんだ?」
魔法使い「彼女の言う通り」
戦士「そうだね。今後は気をつけるよ」
僧侶「戦士、魔法使い。二人はこれから……」
戦士「そう、当初の打ち合わせ通り、ボクたちは公爵閣下の屋敷を訪問しに行くよ。勇者くん、わかってるだろうけど、常に気を張って待っててよ。
あと、エルフさんにも……ってまあ、そっちの準備は大丈夫か」
男「きっちりオレと僧侶は待機してるし、あっちも準備はすでにできてるみたいだ」
戦士「じゃあ、行ってくるよ」
男「ああ、頼んだ」
…………………………………………………………
ハルピュイア「毎度、ご足労を煩わせて申し訳ないな」
戦士「こちらこそご多忙にも関わりませず、こうして謁見を賜る機会をいただけたこと、感謝いたします」
魔法使い「……」
ハルピュイア「どうした? えらくカタイな。もう少しラクにしてくれたほうが私としては話しやすいのだが」
戦士「そうですか? それではお言葉に甘えてもう少しらくーに話させてもらいますよ」
ハルピュイア「構わん。しかし、急遽私のもとを訪ねてきたがいったい全体なんの用だ?」
戦士「こうしてわざわざ閣下のもとを訪ねてきたのにはわけがありまして。
実は気になることがありましてね、それについて聞きたくて……」
ハルピュイア「回りくどいな。さっさと話せ。私も暇ではない」
戦士「すみませんね、回りくどい性分なもんで。公爵閣下、我々とあなたは本来であればもっと早く邂逅をすませているはずでした」
ハルピュイア「そうだな。だが、結果としてこちらの魔方陣の不備によって、そなたらは当初の予定地点とはまったく違うポイントに着くことになってしまった」
戦士「勘違いしないでくださいね、べつにそのことを今さら詰ろうなどという気は、毛頭ないですよ。
しかし、本来なら我々は閣下を介して魔王……国王との謁見を実現するはずでした」
ハルピュイア「だから、言っておるだろうが。こちらの不備によってそれは叶わなかったと」
戦士「さらに、魔界での滞在期間中は、我々は閣下の屋敷でお世話になるって聞いてたんですけどね。
エルフ殿、つまら伯爵閣下のもとでお世話になることになりました」
ハルピュイア「そなたらも知っておるだろう、国王陛下が不在であることは。それゆえ、私がそなたらの面倒を見る余裕がなかったのだ」
戦士「なるほど、わかりました。しかし、本当にそうなんですかね?」
ハルピュイア「……なにが言いたい?」
戦士「実は空いてる時間を利用して、閣下について調べているうちに、さらにあることが判明しました。
例の牢獄にある研究機関、あれの最高責任者が閣下であるということがわかったんですよ」
戦士「さて、ここでボクらの最初の魔界にたどり着いた状況を振り返ってみ ましょうか。
街から離れた港、そしてゴブリンとオークに囲まれた状態」
ハルピュイア「その話も聞いた。だが、それがいったい私とどう関係があるというのだ?」
戦士「そろそろダラダラ語るのもめんどくさくなってきましたね。
あとは謎を解く要素だけを並べてみましょう、そうすれば自ずと答えが顔を出すはずです」
ハルピュイア「……」
戦士「到着地点を変えられた魔方陣。
そして、到着と同時に現れた魔物たち。
あの日、ボクらが魔方陣を使うことを知っていた人物は誰か……おやおや、これはいったいどういうことなんでしょうか?」
ハルピュイア「言いたいことはそれだけか?」
戦士「まだあるんですよ。魔界常備軍03小隊隊長のリザードマン。
彼の殺害の容疑がかかっている、ボクらと同じようにこの魔界へ来た例の赤いローブの一味。
その連中とボクらは何度か交戦をしているんですが、魔物を引き連れていた」
ハルピュイア「……」
戦士「しかし、いったいそれはどこから連れて来たんでしょうか? ケンタウロスや、ましてケルベロスなんて大型の魔物を引き連れていたら、間違いなく目立つでしょう?
自国から魔方陣を使って連れてこようにも、魔方陣は魔法使いが破壊してしまっている」
魔法使い「……」
戦士「そうなると、魔物を連れてくる方法はただ一つ。こちら側で調達する、それしかない。
しかし、ゴブリンやオークも含めて、あれほど戦闘に特化した魔物だけをいったいどうやって調達するか」
ハルピュイア「ふっ、つくづく回りくどいな」
戦士「魔物の研究機関の最高責任者である閣下なら、簡単にヤツらに横流しできますよね?
あの魔物たちをヤツらによこし、勅使であるボクらを殺す……そうすることでいったいどうなるか。
なにが目的なのかはだいたい検討はつきます。わざわざ比較的平和主義である、現魔王の不在を狙ってこんなことをするあたりからもね」
ハルピュイア「で、わざわざ私の屋敷にまで出向いて、どうするつもりだ? 殺されにでも来たのか?」
戦士「答える義理はないね。
魔法使い、準備はオーケーかな?」
魔法使い「……時間稼ぎ、ありがと」
ハルピュイア「……ふっ、なにをコソコソと話しているのかは知らんが、そなたらを帰すことはできなくなった」
戦士「……なるほど、これはこれは。なかなかヤバそうな魔物だね」
魔法使い「……この、魔物はいったい……?」
ハルピュイア「泥や土といった無機物から生み出した巨人型の魔物、ゴーレムだ!」
魔法使い「ゴーレム……」
戦士「まったく、本当に魔界っていうのは恐ろしいところだね。こんな化物を産み落とすなんてさ」
ハルピュイア「愚かだな。あんな風に長広舌をふるっている暇があるなら、さっさと私を殺しにかかるべきだったな」
戦士「たしかに、と言いたいところだけどおそらく、そうしていても、ボクにとって都合の良い展開へと運ぶことはできなかっただろうね」
ハルピュイア「なら、なおさら愚かだな。他にもやりようはあったはずなのにな」
戦士「はあ……ボクはこれでも脚本家なんだよ? 物語の展開をいかに運ぶかを考えるかが、ボクの仕事だ」
ハルピュイア「まだ、減らず口を叩くか。ならば……」
戦士「個人的にはもう少し引っ張りたかったんだけど、まあいいか。魔法使い――頼んだよ!」
魔法使い「りょうかい」
ハルピュイア「なっ……これは、魔方陣!? いつの間にこんなものを仕込んでいたんだ!?」
いつの間にか床に仕込まれた魔方陣が光り輝く。
真っ白な光。空間を包む輝きが終わるとともに、二つの人影が浮かび上がってくる。
勇者と僧侶が、魔方陣の中心に背中合わせで現れた。
僧侶「ようやく私たちの出番……か」
戦士「いやあ、遅くなって申し訳ないね。予想外に時間を喰ってしまったよ」
男「まあ、なにはともあれ、さっさと終わらせるぞ」
魔法使い「……かまえて」
ハルピュイア「なるほど。長ったらしい語りは無駄ではなかった、ということか」
戦士「さて、ボクたち勇者パーティの実力、ここで披露させてもらおうか」
乙
なんか勇者がTOAのルークみたいだなwwwwwwww
魔法使い可愛いよ魔法使い
なんか勇者がTOAのルークみたいだなwwwwwwww
魔法使い可愛いよ魔法使い
男「これがハルピュイア、まるで鳥人間だな」
ハルピュイア「ふっ……おぬしが例の勇者か」
魔法使い(限りなく人間に近い容姿をした魔物……魔界に来るまでは、私も見たことはなかった。
ハルピュイアの亜種である、ハーピーなら確認されるようになったけど、それすらも数は多くない)
戦士「勇者くん、公爵のことは意識をしつつも、今は目の前のゴーレムだよ」
僧侶「私と勇者で前衛をやる……いくぞっ!」
男「後方支援は頼んだぞ!」
勇者は軽く息を吸った。外気を吸うと同時に自身の魔力を高めていく。剣の刀身へと魔力を滾らせる。
ゴーレムが低い唸り声をあげる。土と泥で構成される巨体は軽く見積もっても、勇者二人分の高さがある。
この広い空間でさえも、三体のゴーレムのせいで狭く思えた。
ゴーレム三体が同時に動き出す。見た目に反して、素早い動き。
ゴーレムの一体が勇者へと振り上げた拳を振り落とす。なんとか避ける。泥の拳が地面へと叩きつけられる。
それだけで、立っていられないほどの衝撃が起きた。なんとか体勢を整え、その拳目がけて剣を振り下ろす。甲高い音。
男「……っ! カタイっ!」
刃が文字通り、歯が立たなかった。魔力を込めたにも関わらず、剣はあっさりと弾き返された。
僧侶「させるかっ!」
僧侶がゴーレムの拳をかわし、高く跳ぶ。魔力を増幅させやすい素材でできたブーツ。
それに魔力が行き渡ったのが、勇者にも確認できた。だが、その跳躍をもってしても高さが足りない。
男「僧侶……っ!」
勇者の心配は杞憂に終わった。僧侶は起用にゴーレムの顔を蹴り、背後へと回る。
華麗に地面に着地。拳を容赦なく叩き込む。あのゴーレムの巨体が背後からの衝撃でたたらを踏んだ。
だが、致命傷には程遠い。
僧侶「拳では致命傷にならないか」
男「こいつらめちゃくちゃカタいぞ……」
拳や剣では到底ダメージを与えられない。自分たちの役割がだいたい見えてきた、と思ったときだった。
戦士「じゃあ、試しにボクがやってみようかな」
青い巨大な火の塊が、宙空に現れる。魔力の塊はそのままどんどん膨張し、四散した。三体のゴーレムへと直撃する。
ゴーレムの低い唸り声が、鼓膜を震わせる。だが、ダメージを食らっているようにはとうてい見えない。
僧侶「いや、これは……!」
僧侶の拳が真っ赤に燃え盛る。ゴーレムの拳をかいくぐる。再び跳躍。炎の拳を胴体に直撃させる。
素早く飛び退き、僧侶は距離をとる。
僧侶「やはり、か」
戦士「……なるほど、そういうことか」
男「なにが、やっぱりなんだ?」
戦士「勇者くん、今ボクの炎と……」
僧侶「私の『ほのおのパンチ』が直撃したところを見てみろ」
男「あっ……」
勇者もそこでようやく気づいた。ゴーレムを見れば、すぐわかることだった。
二人の火に当たった部分は見事にただれたかのように、どす黒い泥が剥がれて、赤黒い肌のようなものを窺わせた。
男「こいつら、火に弱い!」
戦士「そのとおり!」
魔法使い「例のものをつかって」
男「言われなくても!」
魔法使いが次々と水弾を生成して、ゴーレムを牽制していく。地面が水で満たされてなお、攻撃を続ける。
僧侶が地面へと拳を打ち込む。衝撃波とともに地面から突起が生え、足もとからゴーレムを攻撃する。
なまじ上背がありすぎる分、足もとの攻撃はそこそこに効果があるようだった。
徐々にゴーレムたちを一角に追い詰めて行く。ふと、勇者は屋敷の主に視線を移した。
ハルピュイア「……」
魔物……否、本人たちは魔族と言っていたか……はひたすらこの戦いを観戦しているだけだった。
だが、ハルピュイアからは確かな魔力を感じた。だが、いったいなにに使っているというのか?
戦士「勇者くん! とりあえず今はゴーレムに集中だっ!」
戦士も気にはしていたらしい。が、彼がそう言うなら、そうするべきだろう。
魔法使い「いま……」
不意に空間の温度が急激に下がる。足もとの水がパリパリと音を立てて、凍りついていく。
戦士「僧侶ちゃん、頼んだよ!」
僧侶「任せてくれ!」
僧侶の拳から炎があがる。超高温の熱を放つ。放たれた炎はうねりのように広がりゴーレムを襲う。
戦士「勇者くん! 例のヤツおねがい!」
男「おうっ!」
戦士も魔法による炎を起こす。場所は、ゴーレム三体の中心。青い炎が渦のように湧き上がった。
急激に空間の温度が上昇。
そして、勇者は取り出した球体へと魔力を込める。すでに何度かお試しで何度か使ったことがあった。
練習時と同じように魔力を込め、全身全霊で投げる。
僧侶と戦士に続き、勇者も全速力で距離をとった。
魔法使い「――発動」
足もとの氷が勢いよくせり上がる。分厚い氷の壁だ。しかも、一つじゃない。
次々と氷の壁が作られていく。作りすぎなのでは……と、思ったが魔法使いの行動が正解だと、勇者が知ったのはその直後だった。
強烈な爆発が起きた。予想していたよりも遥かに強い衝撃が建物を揺らした。空間そのものが軋むかのようだった。
魔法使いが片っ端から氷壁作るが紙細工でも破るように瓦解して行く。
鼓膜を貫かれるのでは、と思えるほどの轟音に焦ったが、それは自分だけではなかった。戦士も僧侶もさすがに驚いたらしい。
僧侶「……なるほど。魔法使いが氷を作ったのはこのためか」
戦士「……そういうことか。急激な温度変化を利用したわけね」
魔法使い「そう」
男「えーと、どういうことだよ?」
戦士「まあ、それはまた暇なときに教えてあげるよ。
それよりは今は、目の前の敵がどうなったかでしょ?」
魔法使いが作った氷は、爆発の衝撃で跡形もなく消え失せている。
煙が立ち込めているせいで、なにが起きているかわからなかった。
魔力の流れを感じて、勇者が目を細める。魔力の正体は風だった。煙を振り払うように現れた風の拳。
直感で勇者はその風が、ハルピュイアのものであると確信した。
視界を遮っていた煙から見えたのは、粉々に砕け散ったゴーレムだった。
戦士「……さすがにあの爆発で死なないわけはない、か」
ハルピュイア「ふっ……見事だな、人間」
ハルピュイアは片翼こそ、もがれていたがそれ以外はところどころ煤を浴びて黒ずんでいるだけで無事だった。
男「よくあの爆発で無事だったな……」
ハルピュイア「無事……? 無事なものか。魔術で無理やり治癒して、ようやくここまでだ」
戦士「あのさ、ボクらも鬼じゃないからさ。ここらで投降してくんないかな?」
ハルピュイア「人間相手に降伏か……私がこんなとこで終わるのか?
国王がいない今こそ、私は死ぬわけにはいかないのに……本懐を遂げずして終われ、だと?」
男「アンタのしもべはやられた、残るのはアンタだけだ」
戦士「ついでに忠告すると、あなたの部下の大半はあなたを守りにはこないだろうね」
ハルピュイア「伯爵か……そなたらのことは監視はしていたが、しかしきっちり手回ししてくるとはな……」
戦士(伯爵がどのようにして部下を懐柔したかは、正確には知らないけど。まあ予想はつく)
男「そう。あのエルフさんの協力によってアンタの逃げ道はもうない」
僧侶「潔く諦めるんだな」
ハルピュイア「笑止。我らより遥かに生物として劣る人間に降伏? それなら最後まで見苦しく足掻く方が、数段マシというもの……」
戦士「魔族としての矜恃ってやつかい? まったく、命を捨ててまで守るものなのかなあ、そういうのって」
ハルピュイア「どうだかな。だが、私はまだ死なない。そしてこいつもまだ死んでいない」
魔法使い「……まずい」
最初に異常に気づいたのは魔法使いだった。
魔法陣に仕込んでいた転移用の術式とはべつの、もう一つの魔法陣の能力を発動させる。
魔法使い「雷を……」
言われてようやく僧侶も、原型をまるで成していないゴーレムだった土塊たちに、魔力が集まっていくのに気づく。
魔力を操っているのは無論、あの魔物だ。
僧侶は一瞬で魔力を電撃へと変換し、グローブを介して増幅させた。
魔法使いは魔法陣を展開する一方で、魔法による水弾を繰り出す。普通の魔法使いにはできない芸当だった。
狙いは術者であろうハルピュイア。
ハルピュイアは片翼をはためかせ、水を弾き返す。
僧侶「魔法陣に入れっ!」
パーティ全員で魔法陣へと飛び込む。地面を満たす水が集約する。一筋の川がハルピュイアに向かって伸びる。
それに向かって僧侶は雷の拳を放つ。魔法陣の光と雷の奔流が視界を空間を真っ白に染め上げた。
僧侶(術者本人を狙うなら、火よりも速い電撃。だが……)
手応えを感じなかった。光が淡いものになっていく。
男「つ、土の壁……?」
電流を魔法のように現れた、巨大な土の壁が遮断していた。
ただ、でかいだけではない。極端に分厚いのだ。だが、いったいどこからこんなものを出したというのか。
ハルピュイア「攻撃のバリエーションが意外と多くて焦ったよ。つくづく、こいつを開発しておいてよかった、そう思うよ」
言葉とは裏腹に口調にはまるで焦りなどなかった。
タクトでも降るかのように魔物は、手を掲げた。
土の塊が崩壊していく……ように見えたが、ちがった。土塊だったものはその姿を変えて、先ほどよりもさらに巨大なゴーレムへと変貌する。
男「あの壁はゴーレムだったのか……」
戦士「……たくっ、これはまたずいぶんと大きくなったものだね」
すでに戦士は魔法で巨大な青火を出現させている。ゴーレムに炎が直撃。
ハルピュイア「ふっ……なかなか手が早いな。ただ、す同じことを繰り返すことほど愚かなことはない。
これは戦いに限った話ではないが……」
ゴーレムの腕に火炎球は直撃したものの、腕はあっという間に原型を取り戻している。
明らかに先ほどのゴーレム三体より強い。
男「だったらもう一度、さっきと同じように……」
ハルピュイア「やるというのか?」
僧侶「攻略の術をすでに知ってるからな」
ハルピュイア「……ならば、その攻略手段をさせる気すら起こさせないようにしてくれよう」
魔法使い(魔力が流れている……足もと……いや、天井……ちがう、これは……この空間のすべて…………)
魔力の激しい流れがどこから起きているのか、それを知った瞬間、魔法使いの無表情が凍りつく。
男「な、なんだこれは!?」
ゴーレムの足はいつの間にか、地面と一体化している。
まるで植物が根から栄養を吸収するかのように、足もとから魔力を吸い上げていく。
ゴーレムの巨体は馬鹿みたいに高い天井に、頭がつくほどまでに大きくなっていた。
魔法使い(あの爆発でもこの空間は、無事だった。それは、この空間一帯に、魔力が仕組まれていたから。
今の魔力の流れで魔法陣もかき消された……)
戦士が連続で炎を放つが、まるで効いていない。
戦士「でかくなっただけでなく、カタさも見事なものみたいだね」
男「反則だろ、こんなの……」
僧侶「ゴーレムを狙うな、勇者。こうなったらゴーレムを操っているハルピュイアをやるしかない」
男「ああ……」
そうは言ったものの、ハルピュイアに攻撃が通ることはなかった。
それどころかゴーレムに傷を負わせることすら、満足にできない。しかもゴーレムの動きは、その巨体からは想像もつかないほど速い。
逃げるので手一杯だった。魔法使いがなんとか転移の魔法陣を展開しようとするも、守るので手一杯でその隙すら与えられない。
ハルピュイア「いずれはそなたらを殺すつもりだった。が、こうも早くに始末することになるとはな。もう少しそなたらの国の情報が欲しかったが……」
淡々とした口調でハルピュイアはそう言った。このままでは、あと十分もしないうちに本当に始末されてしまう。
男「……戦士、これってけっこうヤバイんじゃないか?」
戦士「今さら気づいたのかい?」
男「さっきまで、こんな強いヤツ出せるなら最初から出せよ、とか思ってたけど出されなくてよかったな」
戦士「同感だよ。あんな巨大ゴーレムが最初から出てきたら、やる気出なくなっちゃって、即死していたかもしれないよ」
僧侶「なに馬鹿なこと言ってるんだ。どうにかしないと……」
男「一つ、オレに案がある。この前、魔法使いに教えてもらった魔力の使い方なんだけど」
戦士「残念ながら説明を悠長に聞いてる暇はないよ、勇者くん」
男「なら……っと!?」
僧侶「言ってるそばから攻撃がくるな……」
戦士「攻略手段があるなら、実行してくれよ! できるかぎり手伝うからっ!」
男「頼む……!」
男(おそらく、やれるのは一回限り……一撃に集中するっ……)
状況は極めて悪かったが、絶望的だとは思えなかった。少なくとも勇者にとっては。
いや、戦士にしろ僧侶にしろ、魔法使いにしろ、彼らの闘志は消えていない。
男(こいつはデカい上に速い……けど、だんだん動きが目で追えるようになってきた)
横薙ぎの拳を、地面を滑るように避ける。間一髪、やはり余裕はない。
勇者と戦士、そして僧侶の三人がかりで土の魔物を攻撃する。魔法使いは魔法で後方支援。
勇者は攻撃をひたすらかわしつつ、ゴーレムの堂々たる巨躯を精一杯観察する。
だが、魔力だけでなく体力にも限界がある。さすがに動きすぎて、肺が酷使に悲鳴をあげそうになっていた。
時間がない。魔力も体力も尽きれば、なにもかもが終わる。
もはや決断するしかない……勇者は叫んだ。
男「三人とも! みぞおちだ! そこに攻撃……とおっ!?」
ゴーレムの拳が再び迫ってきて、勇者はなんとかこれをやり過ごす。
戦士「オーケー! みんないくよっ!」
三人の技が発動する。
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