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    元スレ黒井「765のプロデューサーは静かに笑う」

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    101 = 1 :

      オ レ は  お 前 を 許 さ な い

      オ レ の 人 生 を 壊 し た  お 前 を 許 さ な い

      地 獄 に 落 ち ろ  人 殺 し



    黒井「これは…………!?」


    黒井(あの男に宛てた手紙……それはおそらく間違いない……)

    黒井(このカミソリレターは、何を意味するのだ……)

    102 = 1 :

    ~翌日、某テレビ局~

    千早「それでは、行ってきます」

    「千早なら大丈夫さ。練習通り、しっかりな」

    千早「はいっ」

    テクテク…


    「ふぅ……さてと……」


    コツコツ…

    「? ……あぁ、黒井社長」

    「どうもお世話様です。昨日はもんじゃ焼きにお連れできなくて、すみませんでした」ペコリ

    黒井「そんな事はどうだって良い……少し、話があるんだが」

    「話、ですか? いいですけど」

    103 = 1 :

    黒井「昨日、ジュピターの楽屋のファンレターボックスに、これが入っていた」スッ

    「? ……俺宛て、ですか?」

    黒井「勝手に中身を見てしまった事は、謝っておく」

    「…………?」スッ


    「…………あぁ~、なるほど」

    黒井「心当たりがあるのか?」

    「いや……たぶん、前の仕事の関係でしょうね」


    「ほら、以前お話したかも知れませんけど、俺の前の職場って、クレーマーが多くて……
      しかも、お金を扱う仕事だから、結構シビアな苦情を言いに来るお客さんも多いんですよ」

    「『お前のせいで俺の人生真っ暗だ!』とか、『俺が死んだら責任取れんのか!』とか……
      もっと酷いと、『死んじまえ!』とか『地獄に落ちろ!』とかしょっちゅうでしたよ」

    黒井「そんな職場だったのか、銀行員というのは」

    「客商売ですからね。まぁ、コレもそういう類の一つなんでしょう、きっと。
      わざわざ俺の転職先を追いかけてまで送ってくるあたり、かなりタチ悪いですけど」

    104 = 1 :

    「まぁ、ありがたく受け取っておきます。すみません、お騒がせしてしまって」

    黒井「いや、私には関係の無い事だから別に構わん」

    「ははは、それはそうですね。それじゃあ、次の仕事があるもので、これで」ペコリ

    黒井「あぁ」


    「……あぁ、そうだ。最近妙にコーヒーの注文頻度が多いですけど、どうしたんですか?」

    黒井「どうもしない。早く無くなりすぎるだけだ」

    「他の人に振舞ってたり?」

    黒井「飲むのは私だけだ。他の者になど与えるか」

    「ははは、そうでしたね。すみません、では」ペコリ

    テクテク…


    黒井(…………気にする事でもないか)

    105 = 1 :

    ~数日後、961プロ~

    コンコン

    黒井「入れ」ズズ…


    ガチャッ

    秘書「失礼致します」

    黒井「何の用だ」

    秘書「社長……実は、先ほどプロジェクト・フェアリーの面々から寄せられたのですが……」


    秘書「これらが、今日の仕事先のファンレターボックスに……」ガサッ…

    黒井「…………!」


    【 765プロのプロデューサーへ 】

    【 765プロ プロデューサー 【必読サレタシ!】 】


    秘書「いかが致しましょう。このまま、765プロへお送り…」

    黒井「いや……今度、高木と会う用事があるので、その時に渡すことにしよう。
       これは私が預かっておく」

    秘書「かしこまりました」

    106 = 1 :

    秘書「では、失礼致します」

    黒井「あぁ、それと」

    秘書「お替わりでございますね? かしこまりました」ペコリ

    ガチャッ バタン



    黒井「………………」ズズ…


    黒井(少し文体は違うが……内容はどれも同じだな)

    黒井(人殺し……)

    黒井(人生を滅茶苦茶にされた、という意味、か……)


    黒井(ただの銀行勤めが、そのような苛烈な非難を受けるものなのか……?)


    黒井「………………」ズズ…

    107 = 1 :

    ~翌日、961プロ~

    黒井「……奴はまだ来ていないのか」トントン…

    秘書「はっ。もう間もなく約束のお時間ですので、そろそろ来るかと……」

    黒井「メインエントランスのモニターを」

    秘書「はっ」ポチッ

    ヴィン…


    黒井「…………?」

    秘書「これは……プロデューサーが、我が社の社員達と、何やら話を……?」

    黒井「………………」

    ガタッ

    秘書「あっ、社長」

    108 = 1 :

    コツコツ…

    黒井「…………!」



    「あははは、あぁそうなんですか。確かにあの日、帰り遅かったですもんね」

    社員A「そうなんですよ。プロデューサーさんがもう一軒とか言うから」

    「いやいや、Aさんもノリノリでカラオケ歌ってたじゃないですか」

    部長B「おーっす。おう、おたくか」

    「あっ、広報部長さん。この間第二子が生まれたんですよね、おめでとうございます」

    部長B「そうなんですよ~、もうかわいくてかわいくて。でも長男が拗ねるんだよなぁ」

    課長C「ご家庭が円満なだけ良いじゃないですか。私の所なんて嫁がもう口うるさくて」

    「管理課長さんも家族サービスしてあげれば良いんですよ。
      お休みもらえるように、俺が黒井社長に口利きしておきましょうか?」

    受付譲D「アハハハ、止めといた方が良いですって。余計に仕事回されますよ」

    コーチE「事務方は大変ですよねぇ。とは言え、こっちもいつ切り捨てられるか……」

    「大丈夫ですって。あの人そんな悪い人じゃないですし、話せば分かりますよ」

    非正規F「プロデューサーさんがいてこそですよ。黒井社長との交渉はお願いしますね」

    「いやいや、だから俺会社違いますってば」

    ハハハハハハ…

    109 = 1 :

    黒井「おい」

    「あははは、へっ? あぁ、黒井社長!」

    社員一同「!? …………」ペコリ


    黒井「何をこんな所で油を売っている。さっさと私の部屋へ来い」スッ

    コツコツ…

    「す、すみません、すぐ行きます!」

    「あ、それじゃあそう言う事で。失礼します」ペコリ

    社員A「お疲れ様です」ペコリ

    タタタ…


    課長C「……やれやれ、今の見られたのは少しヤバかったかな」

    部長B「当たり前だろ。ただでさえ765プロが嫌いな人なんだから」

    受付嬢D「でも、あのプロデューサーさん良い人ですよねぇ」

    社員A「社長、あの人のことだけは肩を持ってるみたいですしね」

    コーチE「何事も無ければ良いのですが……」

    110 = 1 :

    ガチャッ

    「へぇー……確か、黒井社長の仕事場に入るのは初めてですよね」

    黒井「そうだったか。まぁいい、そこにかけろ」ギシッ

    「あ、はい。失礼します……」ギシッ


    黒井「貴様を呼んだのは、他でもない」

    黒井「コレが、またウチのアイドルのファンレターボックスに入っていた」ガサッ

    スッ

    「えぇ、また?」

    黒井「体裁を見るに、この間の脅迫状の送り主とは、どちらともおそらく別人に思える」


    黒井「このような脅迫状が、一度ならず何通も届くとはな」

    黒井「例えば、こっちの脅迫状……」

    「ん?」

    111 = 1 :

      あ な た の 売 り 込 み の せ い で

      私 の 一 家 は  離 散 し ま し た

      死 ん で 償 え


    「………………」

    黒井「売り込み、とは、営業の事だろうか……
       私には良く分からないが、銀行員というのは、営業のような事も行うものなのか?」

    「えっ? ……えぇ、まぁ、そうですね」


    「支店での窓口応対とは別に、融資できる案件を探して回る営業っていうのも、
      銀行は行うんですよ」

    「銀行の主な収入源は、お金を貸し付けた際の利息なのですから、
      時には数十件も案件を抱えて、お金を貸すための営業に行く訳なんです」

    「で、まぁ……行員の中には、結果を出そうと遮二無二貸し付けて、問題を起こす人もいるんですね。
      かく言う俺も、少なからずそういう貸付先とのトラブルを引き起こした事もありました」

    「たぶん、これはそういう類のクレームなんじゃないかなぁ。
      まぁ、こんなのをいちいち気にしてたら行員なんて務まりませんけどね」

    112 = 1 :

    黒井「…………なるほどな」

    黒井「ところで……貴様、銀行員としては何年勤めていた?」

    「えっ? えーと……そうですね、3年くらい、ですかね」

    黒井「その間、窓口応対と営業のどちらとも、継続して行っていたと」

    「えぇ、そうです。大変でしたよ、そういう意味では、えぇ」

    黒井「そうか……分かった」


    黒井「また、こういう脅迫状が誤ってこちらに届くような事があれば、連絡する。
       貴様も気をつけておくがいい」

    「あ、はい……珍しいですね、黒井社長が俺の事を気遣ってくれるなんて」

    黒井「コーヒーの取引先が潰れてしまっては困るのでな」

    「俺はそういう扱いですか、ははは」

    黒井「フン」ズズ…


    黒井「話は以上だ。帰れ」

    113 = 1 :

    「どうもありがとうございました。追加のコーヒーは、明後日までにはお届けしますね」

    黒井「明日までだ。それ以上は待たん」

    「うへぇ……了解です。それでは」ペコリ

    ガチャッ バタン



    黒井「………………」ポチッ ピピピ…


    ガチャッ バタン

    秘書「お呼びでしょうか、社長」


    黒井「即刻、あのプロデューサーの経歴を洗いざらい調べ上げろ。二日以内でだ」

    秘書「は、はっ……と言いますと?」


    黒井「奴にカマをかけて分かった……奴は私にまだ隠している事がある」

    114 :

    脅迫に銀行員だったのが関係あるってのはピンと来たな
    クロサギのせいだろう

    115 = 1 :

    秘書「カマをかけた……?」

    黒井「今日奴に見せた脅迫状は、私が作ったものなのだよ」


    黒井「銀行員の業務が、大きく窓口応対と営業に分かれるのは、あの男の言うとおりだ」

    黒井「しかし、その場合は職種が異なる。
       営業業務は総合職、支店での窓口応対は一般職だ」

    黒井「研修の一環として、総合職採用の新人が窓口応対を行う事はあるだろうが、
       3年間も窓口応対と営業を平行して行う事はほとんど無いはずだ」

    黒井「よほどの事情が無い限り、な……
       それか、元々そんな事を……銀行員を行っていた事すらも怪しくなる」

    秘書「えぇ」


    黒井「となると、なぜ、奴が私を騙す必要があるのか……
       それを直ちに明らかにしなければならない」

    秘書「左様で」


    黒井「いいか、途中経過でも良い。遅くとも二日後には、実のある報告を私にするのだ」

    秘書「かしこまりました。腕利きの探偵をすぐさま手配致します」ペコリ

    ガチャッ バタン


    黒井(…………あの男……胸騒ぎがする)

    116 = 1 :

    ~二日後、某テレビ局~

    司会者「はい、それではこのクイズの正解はこちら、ドンッ!」ジャン!

    司会者「『お前も政治家なら、【税金】をバンバン使っちまえ』が正解でしたー。
        天海春香さんのみ、大正解ー!」

    春香「やったぁー!」バンザーイ!


    司会者「いやいや、さすがですねー。こういう黒いクイズには滅法強いのが春閣下さん」

    タレント「いやいや、敵わんなー」

    芸人A「アレやで、実際そういう人とお付き合いあるんとちゃうの?」

    貴音「真、抜け目の無い人ですね、天海春香」

    春香「そ、そんな事ないですよ! 貴音さんは知ってるでしょう、私の懐事情!」

    司会者「ほう、どんな事があったんですか?」

    春香「私と千早ちゃんと雪歩、961プロの響ちゃんと貴音さんでマックに行ったんです。
       それで、皆で出し合ったんですけど、お会計でお金が足りなくなって……」

    貴音「皆の手持ちが足りなかったばかりに、私は“はんばぁがぁ”を三つほど
       我慢せざるを得なくなり……」スッ
    つ【愛 LIKE ハンバーガー】

    芸人B「新曲紹介の仕方ムリヤリすぎでしょ!」

    司会者「ていうか、その流れだと貴音ちゃんが皆に奢らせてんじゃねぇか! ブハハハハ!」

    ワハハハハハハ…!

    117 :

    まさかこれ、Pが悪役なのか……?

    118 = 1 :

    スタッフ「お疲れ様でしたー!」

    春香「ありがとうございましたー!」ペコリ


    「お疲れ様。相変わらず良い調子だったぞ、色んな意味で」

    春香「はいっ! ありが……って、どういう意味ですかそれ?」


    司会者「春香ちゃん、お疲れ様ー。またよろしくね」

    芸人A「マックくらいなら俺がいくらでも奢ったるで」

    春香「あ、お疲れ様です! って、私じゃなくて貴音さんに言って下さい!」

    「どうもありがとうございました。またよろしくお願い致します」ペコリ

    芸人B「相変わらず礼儀正しいっすねぇ。お疲れっしたー」

    テクテク…


    貴音「どうもお世話様でございました、天海春香。そしてプロデューサー」

    春香「あ、貴音さん! 貴音さんのせいで変なイメージ付いちゃいましたよ~」

    貴音「貴女の魅力は、存分に皆に伝わっておりましたよ」ニコッ

    春香「そ、そうかなぁ?」

    「貴音もナイスパスだったぞ、ははは」

    春香「何で笑うんですか、おかしいでしょ」

    119 = 1 :

    「さてと……悪いが、今日は自力で帰ってもらえるか?」

    春香「えっ? あっ、別に送ってもらわなくても大丈夫ですけど……?」

    貴音「今日は、何かあるのですか?」

    「ん、まぁな。事務所に帰る前に、ちょっと寄る所があって」

    春香「ふぅ~ん……?」


    貴音「春香はともかく、私は元々961プロの者なのですから、お気遣いは無用です」

    春香「私も、別に電車で帰るだけなので大丈夫ですよ」

    「悪いな、いつもだったら送ってやれるんだが」

    春香「大丈夫ですって、気にしないで下さい。それじゃあ」

    「あぁ、お疲れさん」

    貴音「お目にかかれるまたの日を楽しみに」ペコリ

    「おう」

    テクテク…


    春香「んー、何でしょうね、用事って? まぁいいか、帰りましょう貴音さん」

    貴音「……いえ、実は私にも用事が……」

    春香「えっ、あ、そ……そうですか」シュン…

    120 = 1 :

    ~961プロ~

    秘書「……では、報告をさせていただきます」

    黒井「ウム」ズズ…


    秘書「まず、765プロの履歴にあったという銀行に問い合わせましたが……
       彼が勤めていたという事実はございませんでした」

    黒井「やはりな。それで」

    秘書「彼が何者なのかを、生い立ちから振り返りますと……」


    秘書「実家は京都にあり、両親は町医者を経営していたとのことです」

    121 = 114 :

    なん……だと……?

    122 = 1 :

    黒井「医者か……“経営していた”と言うと、つまり……」

    秘書「今は潰れています。10年ほど前に、両親が死亡した事により」

    黒井「…………」

    秘書「薬物の服用による、自殺とのことです」


    秘書「両親の自殺の動機は、明らかにされておりません。
       あまりに突然の出来事で、近所の住民も驚きを隠せなかったようです」

    秘書「その後、彼は農業を営む近所の叔父の家へ引き取られ、高校卒業まで暮らします」

    秘書「そして、京都大の薬学部へストレートで進学」


    秘書「しかし、わずか1ヶ月で退学し……
       アメリカ、メリーランド州のジョンズ・ホプキンス大学へ進学しました」

    黒井「何だと?」

    秘書「ご案内の通り、ハーバードやペンシルベニア大と並ぶ、アメリカ東部を代表する医学校の一つです。
       そこで、同じく薬学を専攻しています」

    黒井「………………」

    123 :

    コーヒーのくだりから雲行きが怪しいと思ってたが…

    124 = 1 :

    秘書「大学卒業後は、アメリカの大手投資銀行、モルゲンシュテルン社に就職」

    秘書「優秀なトレーダーとして、その才覚を発揮したようです」

    秘書「ですが、そこも2年余りで退職……」

    秘書「その後、日本に戻り、ふらりとアイドルのイベント会場へ足を踏み入れたところを、
       765プロの高木社長の目に留まります」

    秘書「そして、畑違いのプロデューサーとなり、現在に至る……」

    秘書「以上が、彼の経歴になります」


    黒井「……地方のしがない銀行員だと? よくもいけしゃあしゃあと……」

    黒井「肝心の、『なぜ奴が私に嘘をついたのか』は分からないのか?」

    秘書「なぜ彼が、アメリカの大手銀行を離れ、日本に戻ったのか……
       その点も含め、目下調査中でございます」


    秘書「しかし、彼について、気になる点が……」

    黒井「もったいぶらずにさっさと話せ」


    秘書「彼の引っ越しや転学、転職の前には……必ず、周囲で人が死んでいるようなのです」

    秘書「彼の両親然り、学生時代の友人や職場の人間に至るまで、です」

    125 :

    なんだこのミステリー…

    126 = 68 :

    教典だったか

    127 = 1 :

    黒井「人が死んでいる……だと?」


    秘書「パラコート、という薬物をご存知でしょうか?」

    黒井「……確か、昔ニュースか何かで…」

    秘書「かつては除草剤として使用されていましたが、そのあまりに強い毒性から、
       世界的に使用が規制されてきている薬物です」

    秘書「社長がおっしゃる通り、我が国でも、かつてこのパラコートによる自殺、
       他殺が続発し、社会問題となったこともあります」

    黒井「…………それで」


    秘書「パラコートの服用による中毒症状は、主に肺、肝臓、腎臓の機能障害。
       致死率も極めて高く、大量に服用すればショック死するケースもあります」

    秘書「神経系統は正常に保たれるため、中毒者は1週間前後意識を保ったまま、
       苦しみ抜いて死んでしまうことがほとんどという、悲惨なものです」


    秘書「彼の身の回りで、同様の症状を経て死亡する者が続出しています」

    黒井「! …………」

    128 :

    たしか某漫画で「最も苦しい自殺方法」として描かれてたな。>パラコート

    129 = 1 :

    秘書「さらに付け加えますと、先日、車両火災を起こした我が社の車の運転手ですが……」

    秘書「昨日、死亡が確認されました」

    黒井「なっ!?」

    秘書「当初、火災時の不完全燃焼による一酸化炭素中毒と見られていましたが……
       死因は、肺繊維症と呼ばれる肺疾患による呼吸不全でした」


    秘書「なお、自殺した彼の両親の死因も呼吸不全……
       急性の肺水腫で、ほぼショック死に近い状態であったと」

    秘書「いずれの症例も、パラコートの服用による中毒症状と酷似しています」

    黒井「! 何だと……!!」

    黒井「一連の死亡例と、奴との関連性は?」

    秘書「これまでの警察等の調査では、その都度、無関係とされてきています。
       職場での事例は、人間関係のトラブルによる他殺として、別の逮捕者が出ています」

    黒井「……無関係、だと?」


    秘書「彼を知る者の、彼に対する評価はいずれも非常に高いものです」

    秘書「学業において非常に優秀な成績を収めている事もさることながら、
       彼の天性の明るさ、人懐こさ、明朗で快活なさまが、周囲の関心を得るのでしょう」

    秘書「彼の悲劇的な過去や苦労を知るほどに、学歴を裏打ちする彼の非常な努力や、
       それらを感じさせない心根の優しさに胸を打たれる、と語る知人もいたようです」

    秘書「しかし……」

    130 = 1 :

    黒井「………………」

    黒井「……とても無視する事は出来ない男のようだな」

    秘書「左様で」


    黒井「なぜ、奴は経歴を偽っていたのか」

    黒井「なぜ、奴はアメリカの大手会社での仕事を蹴って日本に帰ってきたのか」

    黒井「何より、奴の周辺人物が同じような症状で死んでいくのは、偶然か否か」


    黒井「以上の事を直ちに明らかにしろ、いいな」

    黒井「それと、運転手の葬儀には私と星井美希も行く」

    秘書「はっ、かしこまりました。失礼致します」

    ガチャッ バタン


    黒井「………………」スッ

    黒井「! …………」

    カチャッ…

    黒井(このコーヒーに、パラコートが……?)

    黒井(いや、それは無い……入っていればとっくに私は死んでいる)

    131 = 1 :

    コツコツ…

    秘書「………………」


    秘書「!?」ピタッ

    「……おっ」


    「あぁどうも、お待ちしておりました。765プロのプロデューサーです」ペコリ

    秘書「存じております。いつもお世話になっております」ペコリ

    「あぁ、いえ。えへへ」


    秘書「待っていた、とは……弊社の社長と、何かお約束を?」

    「いえ、黒井社長ではありません」

    「秘書である貴方と、少しお話をさせていただきたいなぁと思いまして……
      今、お時間よろしいですか?」

    秘書「私に、ですか? ……えぇ、構いませんが」

    「良かった。それじゃあ、そこの喫茶店にでも」

    132 = 1 :

    ~喫茶店~

    「すみません、突然お引止めしてしまって」

    秘書「いえ」


    「ジュピターとプロジェクト・フェアリーが、どちらも今度開催される
      『アイドル・クラシック・トーナメント』にエントリーするんですよね」

    「やはり、961プロさんは勢いがあって羨ましいです。
      私達は、せいぜい1ユニットでエントリーするのが精一杯でして、ハハハ」


    秘書「話というのは、何でしょうか?」

    「あぁ、そうですね……実は、折り入ってお願いがあるんです」

    秘書「お願い?」


    「今、弊社には9人のアイドルがおります」

    「天海春香、水瀬伊織、三浦あずさ、如月千早、高槻やよい、菊地真、萩原雪歩、双海亜美、双海真美……」

    「皆、明るく前向きで、トップアイドルという夢に向かって一生懸命な良い子達です」


    「どうか……彼女達を、961プロさんの所で預かっていただけないでしょうか」

    秘書「!!? えっ……!?」

    133 = 1 :

    「ご存知の通り、765プロには事業力が無い」

    「レッスンはともかく、各メディアで仕事をもらってくるにしても、
      広報活動に充てる資金も満足に用意できない弊社では、会社としての底力に限界があるのです」


    「その点、961プロさんは業界でも顔が広いし、資金力では比べるまでも無いでしょう」

    「彼女達の今後を考えれば、場末の765プロに籍を置くよりも、
      961プロでバンバン仕事を得て実力を磨かせることが、彼女達のためになるはずです」

    「そう……961プロでキラキラに輝く、生き生きとした美希を見て、私はそう確信しました」


    秘書「……し、しかし、765プロはどうなるのですか」

    「当然、解体は免れないでしょうが……
      あわよくば、961プロにて吸収合併していただくことを考えております」

    秘書「!」

    「そのための相談なのです。
      高木には私が話をつけるので、貴方には黒井社長にその旨をお伝えいただきたい」

    「必要とあれば、私も高木を連れて同席致します」

    秘書「な、なぜそこまで……ご自分の会社でしょう?
       第一、高木社長達が納得するとは思えない」


    「納得させます。そのために、種を撒いてきたのです」

    秘書「? 種……?」

    134 = 1 :

    「私は予てより、高木社長と黒井社長が袂を分けている事に疑問を抱いていました」

    「無論、主義主張は異なるでしょうが……
      それでも、アイドル業界の未来を憂いているのは二人とも一緒のはずです」

    「なのに、大人達のつまらない意地の張り合いにアイドル達は振り回され、疲弊する……
      私だけでなく、高木本人もその矛盾は感じておりました」

    「主役は決して裏方である我々ではなく、あくまであの子達なんです」


    「せっかく、お互いにここまで仲良くなれたんです。
      高木もきっと、黒井社長になら自分のアイドルを任せられると言ってくれるでしょう」

    「弊社のアイドル達だって、今では美希や響、貴音だけでなく、
      ジュピターの3人とも仲良くやっています」

    「あの子達の未来を考えるのなら、皆一緒の環境で刺激し合い、実力を高めていく方が良い」


    秘書「…………」

    秘書「貴方が足しげく弊社を訪れ、黒井社長のみならず、
       他の社員達とも親密になっていたのは、この時のためだったのですか?」

    秘書「いずれ世話になるであろう961プロの者達に、少しでも良い印象を残しておこうと」

    「私は不器用ですから、こんな事くらいしかできませんが」

    秘書「………………」

    135 = 1 :

    秘書「……分かりました。黒井には、明後日そのように伝えておきます。
       明日は、一日外出のため不在ですので」

    「どうかよろしくお願い致します」ペコリ


    秘書「しかし、貴方はどうするのですか?
       765プロのアイドルだけでなく、弊社の者も皆、貴方の事を慕っているのは事実です」

    「いえ……私は、身を引こうと思っています」

    秘書「えっ……?」


    「調べてましたよね…………私の経歴」

    秘書「!!」

    「あぁいえ、気にしないでください。疑惑を持たれるような事をしたのは私ですし…」

    「故があるとは言え、私に、償いきれないような後ろ暗い過去があるのは事実ですから」


    「だから……私は、ここまでにしておきます」

    「これ以上は、皆さんに迷惑を掛ける事になるでしょうから」

    秘書「………………」


    「一つ、お願いをさせていただけるのだとしたら……」

    「どうか、私の過去については、他言しないでいただきたいのです」

    「過去の罪は悔いている……それを、今の仕事で償っていきたかっただけなんです」

    136 = 114 :

    嘘だッ!

    137 = 1 :

    秘書「……私共の、星井美希の運転手を務めていた者が、先日亡くなりました」

    秘書「それにも……まさか、貴方が関与していたと?」

    「えっ? あの、燃えていた車の中にいた方ですか?」

    秘書「? ……それはご存知無いのですか?」

    「一酸化炭素中毒で病院に運ばれたことは知っています。
      その場に居合わせていたのですから」

    「まさか、亡くなられたとは……ご冥福をお祈りします」


    秘書「……貴方の言う、後ろ暗い過去とは?」

    「………………」

    「……学生時代に、臨床実験で友人を死なせた事が………」

    「末期の大腸がんでした。彼を救いたいと、新薬を開発し投与していたのですが……」

    「快方に向かわず……気づいた時には、彼は私の目を盗み、薬物を飲んで自殺を……」

    秘書「!」


    「パラコート、という薬をご存知でしょうか」

    「薬物の知識が薄い彼は、昔自殺によく使われていたパラコートの存在を知り、
      私の研究室のキャビネットから盗んだのでしょう」

    「苦しまずに死にたかったのなら、せめてそれを叶えてやることだってできたのに……
      私は、彼の苦しみを理解してやることができなかった」

    138 = 1 :

    「現実から逃れたくて、就職後は昼も夜も無い生活を送り、忘れようとしましたが……」

    「今度は、その会社の役員が、同じくパラコートによる他殺で死にました」

    秘書「…………」


    「上層部内での陰謀だったようです。面識もない役員でしたが……
      同じパラコートで亡くなった彼の姿が、どうしてもちらついてしまうのですね」

    「これ以上、あの国にいるのが耐え切れなくなり、
      こうしておめおめと、日本に逃げ戻ってきた訳でして……」


    秘書「………………」

    「ふふっ、だからまぁ、せめて今後は誰かのためになる事をしたいだけなんです」

    秘書「……辛い事をお話させてしまい、申し訳ございません」

    「いえ……」


    「私の事は、気にしないでください」

    「その代わり、彼女達の未来のために、どうか貴方にもひと肌脱いでいただきたい」

    「よろしくお願い致します」ペコリ

    139 :

    タイトルのプロデューサーは静かに笑う…を見た時『笑う』→『嗤う』を思わず連想したが…このPには言い知れぬ狂怖を感じる…な(;゚д゚)ゴクリ

    140 = 1 :

    秘書「………………」

    秘書「…………………………」


    ガタッ

    秘書「これは私の独り言ですが……」

    秘書「黒井社長は、実力のあるアイドルであれば誰でも分け隔てなく受け入れ、
       必ずトップへと導いてくれることでしょう」

    秘書「そして……ゆくゆくは、961の6人と765の9人、
       総勢15人による混成ユニットでドームを沸かせる日が来るのかも知れませんね」


    「……ありがとうございます………本当に、ありがとうございます」ペコリ

    秘書「では、失礼」ペコリ

    コツコツ…



    「……………………」



    渋澤「………………」ニヤリ…

    141 :

    なんかきな臭いんだよな、このプロデューサー
    どこまで信じていいやら怪しすぎる

    142 = 1 :

    コツコツ…

    秘書「…………」

    秘書(まさか、そのような事情を抱えていたとはな)

    秘書(なるべく、彼の意を汲んでやりたいが……)


    秘書「………? あ、あれ……?」ゴソゴソ…

    秘書「な、無い……車の鍵が………社長の車の……」


    秘書(うわぁ……マジかよ、しまったなぁ……)

    秘書(盗難届を出しておくとして……さて、黒井社長に何て報告しようか……)

    コツコツ…



    スッ…

    貴音「……………………」

    143 = 1 :

    ~二日後、961プロ~

    コンコン…

    黒井「入れ」


    ガチャッ

    秘書「失礼致します。社長、本日のスケジュールですが…」


    黒井「貴様は誰だ」

    秘書「えっ」

    黒井「私は貴様のような男は知らないのだが」


    秘書「はっ……えっ、何を……?」

    144 = 1 :

    コンコン…

    黒井「入れ」


    ガチャッ

    新秘書「失礼致します。コーヒーをお持ち致しました」カチャッ

    黒井「ウム、ご苦労」

    秘書「!? なっ……!?」


    新秘書「僭越ながら、社長に代わりご説明申し上げますと……」

    新秘書「貴方は、今日限りで961プロをクビになりました」

    秘書「!!?」


    ガサッ

    新秘書「今朝の週刊誌をご覧になって?」

    秘書「いや……な、何を……?」

    新秘書「【765と961 プロデューサーと秘書との密会現場に密着!】と」

    秘書「!?」

    145 :

    これは黒井社長に頑張ってもらいたい

    146 = 1 :

    新秘書「この記事によれば、貴方は度々765プロのプロデューサーと密会を重ね、
        お互いに社の内部情報を交換していたようですね」

    新秘書「そして、金銭の授受を行い、私腹を肥やしていた」

    秘書「ば、馬鹿な事を言うな! 金銭の授受などと、私達は何も……!」

    新秘書「記者によれば、貴方が去り際に961と765の混成ユニットを汲もうとしている、
        という事を匂わせる発言をしたとも書かれています」

    秘書「そ、それはその場の、言葉のあやで……!!」

    新秘書「言った事は認めるのですね」

    秘書「ぐっ!?」


    新秘書「たとえゴシップであろうと無かろうと、黒井社長に無断で
        他社の人間と密会することは、許されざる行為です」

    新秘書「挙句、このような下賤な週刊誌に取り上げられ、社の印象を著しく下げる始末」

    秘書「ちょっと待って下さい!
       私も彼も、私利私欲のためになる話をしていた訳では決して無いっ!!」

    147 = 1 :

    黒井「貴様、さっきから誰の許しを得てそこに突っ立っている」

    秘書「!? ……く、黒井社長……!」

    黒井「目障りだ、つまみ出せ」

    新秘書「かしこまりました」パチン

    ザザッ!

    秘書「うおっ!? こ、この黒服達は!」

    黒服「どうかお引き取り願います」ガシッ!

    秘書「わっ、ちょ、ちょちょちょまっ!!」ジタバタ!


    秘書「待って下さい!! 私は、いつだって961プロのために……!!」

    黒井「不愉快だ、早く出ていけ」

    秘書「息子が……俺のせがれが、今度小学校に上がるんだよぉ!!」

    秘書「いつだって俺は、家族水入らずの時間を潰してまで、貴方に尽くしてきて……!!」


    秘書「待ってくれよ!! こんな所で切られたら、俺の家庭はどうなるんだ!!」


    秘書「待って!! 聞いてっ!! 聞いてくれぇっ……!!!」

    バタン…

    148 = 1 :

    新秘書「では社長、そろそろお時間ですので」

    黒井「ウム」ズズ…

    ガタッ

    黒井「前の秘書は、良いと言うのに毎日スケジュールを確認してきたものだ。
       鬱陶しくて敵わん」

    新秘書「はっ、左様で」


    コツコツ…

    黒井「どうも私も、気づかぬ内に765プロに毒されてきていたようだ」

    黒井「あんな弱小事務所に少しでも心を許すとは、どうかしていた」


    黒井「765プロとの交友は、金輪際禁止とする。ジュピターとフェアリーにもそう伝えろ」

    新秘書「はっ」


    黒井「『孤独こそが人を強くする』……」

    黒井「この理念こそが、我が961プロが強者たる所以」

    黒井「甘ったるい人間関係を築いていては、やがて自らの身を滅ぼす」

    黒井「正しい事を知らしめるのだ……この私がな!」

    150 :

    こうやってPは怨みを買ってきたのか……


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