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    元スレエレン「ま、やれるだけやるさ」

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    タグ : - 進撃の巨人 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    1 :

    ※似非シリアス※
    ※エレンがほぼ別人※
    ※10巻ぐらいまでのネタバレあるかも※

    SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1369409240

    2 = 1 :

    キース「貴様は何者だ!」

    教官の声が響くグラウンドに、104期生一同が並んでいる。

    頭突きされ、アイアンクローを受け、怒鳴られ、ランニングを命令され、多くの同期が倒れていく中。

    キース「貴様は何者だ!」

    エレン「…………エレン・イェーガーです」

    キース「そうかバカみてえな名前だな! 親につけてもらったのか!」

    エレン「分かりません、親はもういないので確かめられません」

    キース「そうかそうか、じゃあ戦場に出てすぐに親元に行って、名前の由来を聞いてくるがいい!」

    直立不動、薄い微笑を顔に貼り付けたままの男が一人いた。



    教官a「おや、彼はシガンシナ区出身のはずだ、巨人の洗礼を受けたにもかかわらず怒鳴られているね」

    教官b「え、あれでですか? なんというか、虫も殺せそうにないというか、気配がないというか……」

    教官a(あの目……あの目、なんていうか……底が見えない……)ゾクッ

    3 = 1 :

    夕食の時間になれば、訓練生たちが親睦を深める時間もくる。

    話題の中心となるのはやはり巨人だからか、巨人を見たことのある人間――すなわちシガンシナ区出身の人間に注目が集まっていた。

    コニー「おい、お前ってあのさ、巨人見たことあるんだろ?」

    エレン「ああ、そうだな」

    コニー「あの超大型巨人ってやつもか!?」

    エレン「バカみたいにデカかったぜ。多分お前が1000人いても届かない」

    コニー「そ、それは言いすぎだろ! チビだって気にしてんだぞ!?」

    エレン「ははは、悪い悪い」

    柔らかい笑みを唇にたたえながら、エレンはスープを口に運んだ。

    ジャン「……味が薄いな」

    彼の正面に座っていたジャンがふと愚痴をこぼす。

    エレン「そうか? 美味いぞこれ」

    ニコニコと笑みを絶やさず、エレンは夕食の皿を空にした。

    4 = 1 :

    エレン「そういえばお前は憲兵団志望だったっけ」

    スプーンを置いてエレンが問う。まっすぐに見つめられ、ジャンは思わず目をそらした。

    何か、エレンの瞳をずっと見ていると、少し気分が悪くなってきそうだった。

    ちょうど底の見えない井戸を覗き込むような感覚。

    ジャン「あ、ああそうだよ! 俺は内地に行って楽するんだ! 絶対お前に10位以内は渡さねえからな!」

    エレン「そうか、がんばれよ。俺もまあ、やれるだけやるさ」

    変わらず表情を崩さないエレンに、ジャンは圧倒的な違和感を拭えない。

    ここまで顔色の変わらない人間がいるのか。初対面の相手に敵意のこもった言葉を投げられ、悪意のかけらも見せない男がいるのか。

    エレン「どう生きようと人の勝手だからな。お前がそうしたいんならそうするべきだ」

    エレン「あとで後悔するとしても自分の選択ならずっとマシだ。他人に流されちまって、それで後悔するのが一番取り返しがつかない」

    エレン「がんばれよ」

    ジャン(…………なんか、よく分からんが、負けた)

    席を立ったエレンの背中が、少し大きく見えた。

    コニー「なんか落ち着いてんな、雰囲気も考え方も」

    ジャン「……ああ」

    でもそれだけとは、やはり思えなかった。

    5 :

    オオゥ確かにエレンが何か違うwwwwwwwwwwwwwwww

    6 = 1 :

    数日後、104期生に最初の関門が立ちふさがった。立体機動装置の訓練だ。

    実際に飛ぶわけではないが、ここで適正が見られなければ兵士になれない。

    コニー「意外と楽だな」

    サシャ「お昼ご飯まだですかね」

    ジャン(……あいつは?)

    エレンの番になっても、彼はやはり薄く微笑んだままだった。

    ワイヤーを体にくくりつけ、持ち上げられる。足が中に浮き、瞬間、ぐるんと彼の体は勢いよく回転した。

    ジャン(ッ! しっぱ――)

    エレン「うおっあぶね」

    何が起きたのかよく分からなかった。エレンが失敗したように見えて、一瞬で体勢を立て直した。

    なぜかホッとしている自分がいることに気づき、ジャンは少し居心地が悪くなる。

    ジャン(まあ、ライバルがいるに越したことはねえな)

    キース(ベルトの金具が壊れている……!? この状態で姿勢を保っているのか、こいつ)

    結局エレンは十分な評価を得て、適正訓練をパスした。

    7 :

    ミカサとアルミンは……

    8 = 1 :

    格闘訓練や馬術訓練、立体機動訓練など訓練生は多様な訓練をこなす必要がある。

    数ヶ月もすれば、皆ある程度なれて来ていた。訓練の仲でも気が緩みやすい――というよりは適度に力を抜いてやれるのが格闘訓練だ。

    この訓練を真面目にこなす者などほとんどいない、が、その分真面目にしている者は嫌でも目立つことになる。

    たとえば、エレン・イェーガーとアニ・レオンハート。

    エレン「アニ、蹴りが早すぎ早すぎ」

    重心を低く保ったまま、連撃の嵐をすり抜けるようにして距離をつめる。

    蹴りの弾幕が破られたことに固執せずすばやくアニは下がった。ここで下手に食い下がると痛い目に会うのは学習済みだ。

    アニ「今のを避けられると自信無くすねぇ」

    エレン「よく言うぜ、こっちは余裕なんてぜんぜんないのにさ」

    彼我の距離にかかわらず二人の攻撃は錯綜する。距離が開くなら踏み込む。自分のリズムで打ち込み、相手のリズムを叩き壊す。

    アニ「あんた本当にどんな手品使ってるんだい?」

    蹴り技を受け流し、勢いのままアニを押し倒す。日をさえぎって逆光のエレンに、アニは目を細めながら聞いた。

    エレン「やれるだけやってるだけだ、手品とかじゃねえよ」

    その姿勢の二人を見て、しばらくエレンとアニが会話するだけで、あちこちからからかいの言葉が飛んできた。

    9 :

    >>7
    しっ…今のエレン状態…この先に進むと分かる(多分)

    10 = 1 :

    エレン「やりたいこと?」

    立体機動訓練を終えて、エレンは汗を拭いながら同じ班のクリスタに顔を向けた。

    クリスタ「うん。エレンは訓練すごいがんばってるから、目標があるのかなーって」

    チラリと森のほうに目をやる。エレンの機動は実際のところあまり参考にならない。――凄まじすぎて真似ができないのだ。

    最近こそ班員に合わせた飛び方だが、習い始めたばかりのころは周りとの差があまりに顕著で、キース教官ですら言葉を失っていた。

    巨人を模した大型の木板はうなじの部分を切り裂かれていた。角度、深さ、どれもぴったり正確に、まるで機械で測ったかのように。

    エレン「そういうのはあんまり人に言わないようにしてんだよ」

    軽く微笑んで言う。その笑い方が、クリスタは、少し見ていて不安になる。

    彼の笑みはおかしい。誰も言わない、けれど誰もが感じる。言葉も態度もなにもおかしくないはずなのに、笑顔を見ていると、瞳を覗くと、胸が締め付けられるような感覚になる。

    あの笑い方は、自分が鏡を見るたびに見ている気がするのだ。

    11 :

    これは…そうゆうことか…

    12 = 1 :

    クリスタ「じゃあ、憲兵団に入りたいとか、駐屯兵団に入りたいとかは?」

    エレン「ぼんやりとは決めてるけどなー」

    話題を変える。クリスタとしても、エレンのことを根掘り葉掘り聴いたところでどうというわけでもない。

    エレン「クリスタは?」

    答えに詰まった。自分は死に場所を探して、自己破滅願望のままにここに流れ着いた。それをどう言えと。

    クリスタ「私も、秘密」

    エレン「なんだよそれ」

    秘密のある人には、秘密をついてやり返すんだよ。クリスタは笑顔を顔に貼り付け直した。

    エレンの笑顔に揺らぎはなかった。

    13 = 1 :

    ジャン「おらあコニー! サシャー! ついてこいあっち狙うぞ!」

    サシャ「飛ばしすぎですよジャン!」

    ジャン「ガスの使用量はお前より少ねーぞ! 早くかっとんで来い!」

    コニー「スイッチはいってんなあいつー」

    林の中を駆け抜ける。ジャンの率いる班は、今のところ三回連続で2位の成績だ。

    1位は不動と言われている。

    ジャン「今日こそは勝ってやんぞ、エレェェェェン!!」

    また一体仮想巨人を屠る。

    意地っ張りというか、そのある意味悲痛な叫び声に、コニーとサシャは肩をすくめた。

    コニー「歴代随一の逸材にどうやって勝つんだよ」

    サシャ「ですよねー」

    14 :

    エレン強っ!!

    15 = 1 :

    訓練の後の風呂は、食事を除けば唯一といっていいくつろぎの場だ。

    大浴場でタオルもつけずに男子一同息を吐く。

    ライナー「今日もハードな訓練だったな」

    ベルトルト「ご飯も少ないし、元気はあまり出ないね」

    確かに訓練生に支給される食事はお世辞にも立派とは言いがたい。

    エレン「そうかぁ? 美味いし、三色食えるだけでも感謝しねえと」

    サシャとエレンだけだった、いまだに食事のたびに笑顔を崩さず、本当に美味しそうに平らげるのは。

    二人が並んで食事を取れば、貧相な中身でもなぜか本当に、自分の食までもが美味しく思えると皆言う。

    ジャン「変わってるよお前……っとと」

    遅れて風呂に入ろうとしたジャンが、足を滑らせた。

    エレン「危ねぇ!」

    瞬発力が爆発する。エレンが飛び出し、ジャンを受け止めた。勢いはそのままに、エレンを下にして二人は風呂場の床に打ちつけられる。

    16 :

    あれ、ミカサとアルミン…

    17 = 1 :

    ベルトルト「だ、大丈夫!?」

    ジャン「俺は大丈夫だ、おいエレン!?」

    エレン「心配するな」

    何事もなかったかのように立ち上がる。ライナーたちは自分の目を疑った。

    ――見間違いか? あいつ、明らかに頭を打っていただろう!?

    ライナー「……なあお前、訓練中でも、あまり痛がったりしないよな。どれほど頑丈なんだ?」

    エレン「ん、ああ」

    湯船に浸かりながら、エレンは少し口を吊り上げた。

    普段の微笑みと微妙に違う。

    エレン「痛いとか、よくわかんねえや。痛いっていうのがどんな感じだったか忘れちまった」

    あの分厚い仮面の笑顔じゃない。水に溶けて破れてしまいそうな儚い笑み。

    風呂から上がりベッドに入っても、まだジャンの脳裏にはその笑みが焼きついていた。

    18 :

    >>14
    他人のスレで名前付きコメントするのはNGっすよ


    エレンこえええええええええ

    19 = 1 :

    ――■え

    ――なにやってんだよ――俺は――違う、そんな――

    ――迎えに来るから

    ――だから待ってろ

    ――待っていてくれ、        ――


    エレン「っ」

    毛布を跳ね飛ばす。

    起床のラッパにはまだ時間がある。

    大きく息を吐いて、汗を拭った。

    そろそろ卒業が迫る時期になっている。

    エレンは、ぼんやりとした目標が、手の届くところに近づいてきているのを実感していた。

    20 = 1 :

    訓練課程を修了し、ついに104期生は正式な兵士となった。

    上位10名になれば配属先を自分で決めることができる。大半は憲兵団を志望するのが通例だ。

    キース「貴様らも卒業だ! これより104期生の成績上位者10名を発表する!」

    全員『ハッ!』

    整列を乱さず敬礼。教官の言葉を待つ。

    キース「第1位! エレン・イェーガー!」

    エレン「ハッ!」

    順当な結果だった。

    ライナー、ベルトルト、アニと続き、ここでジャンをはさんでマルコ、コニー、サシャが並んだ。9位にはクリスタ、そのちょうど一つ下にユミルが名を連ねる。

    キース「名を呼ばれたものは配属先を考えておけ! その培った巨人殺しの技術を無碍にするなよ!」

    全員で最後の敬礼を返す。

    きっとみんなはもう配属先など最初から決めているのだろう。

    それでもエレンは、今やっと、自分が何をしたいのかわかってきている、というような気がしていた。

    21 = 1 :

    解散式の夜に、食堂でジャンはスープを豪快にすすっていた。

    ――これで内地行きが確定だ! 俺は楽に安全に生きることができるんだ! それに……憲兵団なら、母さんだって……!

    エレン「うれしそうだな」

    正面に座っていたエレンがスプーンを先をジャンに向ける。

    ジャン「うるせえ、これからの同僚に不遜だぞ」

    エレン「同僚?」

    ジャン「お前もくるんだろ、憲兵団に」

    思わずエレンは周りを見回した。予想を裏切り、みんながさも当然だろうという風にジャンの発言を聞いていた。

    それもそうだ。壁の外に出た人間がどのような目にあうのか、エレンとて見てきている。

    なんのために訓練するのか。内地に入った安全にすごすため。

    なんのために巨人を殺す技術を会得したのか。巨人から遠ざかるため。

    エレンは失笑した。

    いつもどおりの笑みが破れたことに、少しジャンは驚く。

    エレン「俺は内地には行かない」

    全員、次の瞬間には度肝を抜かれた。

    エレン「俺は調査兵団に入る」

    22 :

    おもしろい、見てるよ

    23 = 1 :

    ジャン「は、はぁっ……!?」

    コニー「正気かよエレン!?」

    食堂中がざわめきに包まれる。

    あのアニでさえもが表情を崩して驚いていた。クリスタにいたっては口を手で覆い、全身で驚きを表している。

    サシャ「な、なんでですか!? 危ないですよ壁の外なんて!」

    あのサシャが食事を一旦やめてエレンに噛み付いていた。

    エレン「や、知り合いの受け売りなんだけどさ、壁の外が見てみたいんだよ」

    コニー「そんなのやめとけって、せっかく憲兵団に入れるのに」

    エレン「そいつからその夢を託されたんだ、俺が、他ならぬ俺が」

    一気に食堂の温度が下がる。ライナーもベルトルトも居住まいを正した。

    普段の微笑はもうない。エレンは視線を伏せ、笑っているような泣いているような、ごちゃごちゃに感情を混ぜ合わせた色を浮かべている。

    エレン「受け継いだんだ。絶対壁の外を探検する。炎の水や氷の大地、砂の雪原、塩水の湖。そういったのが壁の外にはあるんだ、すげえだろ。ずっと本でしか見てない世界が実際にあるんだ!」

    マルコ「で、でも」

    エレン「俺の身の危険とかじゃなくて、約束したんだ、そいつと! 絶対にそいつの夢を俺が代わりに叶えるって! 俺は絶対に諦めない。立ちふさがるのなら、巨人なんて下等生物、一匹残らず駆逐しつくしてやる……ッ!」

    拳を握りエレンは吼えた。今までずっと押し込め続けてきたドロドロのマグマが一気にあふれ出すかのように。

    24 = 1 :

    104期生は解散した。今はもう、それぞれ所属の部隊に配置されるのを待つだけだ。

    明日にそれを控え、ひとまずエレンを班長とする固定砲整備4班は駐屯兵団の仕事を手伝っている。

    エレン「砲弾良しと。アニ、そっちはどうだ?」

    アニ「問題ないね」

    班員たちもそろそろ作業が終わりそうだ。

    アニ「……ねえ、あんた」

    エレン「んあ?」

    アニ「嘘ついてるでしょ、昨日のあれ」

    エレン「なんのことだ? 嘘なんてついてないぜ?」

    二人で壁の外を見ながら話す。

    少し離れて、トーマスやコニーからからかう言葉が飛んできたが、すぐ悲鳴に変わった。

    何があったのかと見れば、サシャが肉を持っている。肉。貴重な食料だ。

    エレン「あいつまた教官の保管庫から盗んだのか、こりねーな」

    アニ「話題を変えるんじゃないよ」

    サシャ「何を話してるんですか、二人で」

    肉を箱の中に仕込んで、サシャが歩いてくる。

    アニは意地悪い表情を浮かべた。

    アニ「こいつが調査兵団に入った本当に理由、知りたくない?」

    サシャ「ええ!? このあいだの話嘘なんですか!? コニーあれのせいで志望配置変えたんですよ!?」

    エレン「嘘ではねえよ嘘では。つーかコニー本当かよ」

    食って掛かるサシャをなだめつつ、エレンは困ったように頭をかいた。

    25 = 1 :

    エレン「あれだぞ、昨日の話は本当だ。つーかアニはなんで俺の誤魔化しが分かったんだよ」

    アニ「格闘訓練で、あんた嘘のフェイントしかけるときちょっと表情が変わるんだ。それで」

    サシャ「さすがめざといアニめざといですねぇ~」

    エレン「話すにはいいけど、手短に話すぞ」

    エレンは改めて壁の外を見た。人類を守る二枚目の壁、ウォール・ローゼ。

    最も外側にあるウォール・マリアは5年前に破られた。

    シガンシナ区――かつて自分が幸せな日々を過ごしていた場所。

    家族。

    親友。

    少女。

    エレン「迎えに行かなきゃならないんだ、母さんを、友達を、家族を」

    26 = 1 :

    アニ「は?」

    彼の表情をうかがい知ることはできない。だがなぜだろうか、アニは足元を縫いとめられたかのように動けなかった。

    隣のサシャも同様であるようだ。向こう側とここで世界が断絶されているような圧迫感。息が苦しい。エレンの発する雰囲気が、何か、違う。

    「俺はシガンシナ区出身って言っただろ? ウォール・マリアが破られた5年前、俺は避難する時に、家族を置いてきちまったんだ」

    「優しい母さんと、物知りな親友と、それと、ずっとずっと一緒にいた大切な、誰より何より大切な女の子」

    「みんなを置いてきちまったんだ、だから迎えに行かなきゃならない」

    「寂しがってんだろうなあ。ああいや、俺がいなくても死んだりはしないだろうけど、でも、やっぱり一緒にいたいっていう気持ちは同じはずだ。はずだよな?」

    「ハンネスさんはこの夢を人に言うなって言ってるんだ、おかしいよな、夢なんだから宣言したっていいはずだ」

    「俺はあいつらを迎えに行く。早く行かなきゃいけない。迎えにいって、母さんのご飯食べて、アルミンと本読んで、ミカサと手ぇつないで歩いて、それで、それで、それで…………」

    27 = 1 :

    エレンが振り向いた。

    アニは、彼のそんな表情を見たくなかった。

    満面の喜色――違う違うこれは絶対に違うこんなものが笑顔だと認めるか認めてたまるものか。

    隣で縮み上がっているサシャを捨て置いて、アニは一歩踏み出す。

    アニ「ウォール・マリア内部に取り残されてたってことだろ? じゃあ、迎えに行っても、その……巨人に食われてるんじゃ」

    エレン「ああ、巨人に食われてるな」

    思考が真っ白になった。今度こそアニも言葉を失った。

    目の前の少年は何を言っているのか。類まれなる才能と粘り強い努力とリーダーシップと思慮深さとを兼ね備えていた、はずの、皆の憧れの彼と、会話が通じない。

    サシャ「巨人に、食べられた? その人たちを……どう迎えに行くんですか……?」

    エレン「ははっ、サシャ何言ってんだお前、巨人に食べられたからって死ぬわけじゃないだろ。確かに目の前で母さんは踏み潰されてアルミンは千切られてミカサは噛み砕かれたけどだからって死んだわけじゃないだろなにいってるんだよさしゃ」

    28 = 1 :

    これが、エレン・イェーガーなのか。

    これが、彼の笑みに隠れていた本当の姿なのか。

    ああもうだめだとアニは眩暈に参った。

    アニ「……あんた、それで、調査兵団に?」

    エレン「おう」


    人を惹きつける笑み。高く掲げた理想の旗。


    それらを焼き尽くしてまだ余りある熱を放つ、狂気の焔が、少年の瞳に宿っていた。


    こいつを敵に回してはいけない。アニはそう直感する。

    ただ――

    サシャ「エレン、今日はもう休みましょう……私……疲れちゃいました」

    エレン「ん? しかたねーな」

    顔面蒼白のサシャを気遣うエレンは正常そのもので。

    集まってくる班員たちは素直にエレンを慕っていて。先ほどのエレンが現実のものとは思えず、アニは頭がくらくらする。

    だからだろうか。

    知っていたはずの事態に、対応が遅れた。

    稲妻。

    眼前に聳え立つ、皮を全部剥いだ人体模型。ただ50mの壁の上から顔を覗かせている。

    超大型巨人。

    29 = 1 :

    エレン「――飛び降りろ!!」

    全員がその声に従った。風圧で吹き飛ばされながらも、体勢を立て直し壁にアンカーを突き立てる。全員意識ははっきりとしている。

    コニー「なんだ!? なんなんだ!?」

    次の瞬間、なぎ払われた固定砲台が地に落ちる間すらなく、超大型巨人の蹴りが門を突き破った。

    エレン「……ッ! この野郎!」

    立体機動装置が作動する。

    エレン「固定砲整備4班! 各員は本部に引き返し事態報告!」

    アニ「あんたは!?」

    悲鳴じみた声にエレンはいつもの微笑を返した。

    エレン「やれるだけやる、時間をかせぐから先に行け」

    瞬間、彼の動きをアニは目で追えなかった。

    30 = 1 :

    混乱にざわめく町を、避難民たちが駆け抜ける。

    迅速な避難だった。破られた門から巨人たちが入ってくる。

    それに備えなければならない。

    前衛には駐屯兵団の兵士が、中衛と後衛には、配置を目前にしていた104期生たちも並んでいた。

    104期生「最悪だ……なんで、巨人と……」

    104期生「だめだ、死ぬんだ……」

    エレン「おいアニ、ジャン、大丈夫か」

    家屋の屋根に座り込む同期に、エレンは努めて明るく声をかけた。

    ジャン「大丈夫なわけねえだろ、明日から俺は内地暮らしのはずだったんだ。それなのになんでこんな……」

    アニ「正直キツいね。あんたが超大型を相手取って、撃退したってのがせめてもの士気の支えどころか」

    エレン「撃退したんじゃない、あっちが俺を見逃しやがったんだ。次は必ず殺す」

    ブレードを硬く握り締めて言葉を漏らす。

    その様子を見て、ジャンは取り乱した。

    ジャン「なんでだよ……なんでそんな冷静なんだよ!」

    エレン「俺は死なないからだ」

    断言した。

    31 :

    エレンさん…

    32 :

    このエレンは必殺技とか持ってそう

    33 = 1 :

    エレン「俺には果たせていない使命がある、だから死なない」

    双眸に決意の光が閃く。

    エレン「お前はどうだ、ジャン」

    ジャン「……ックソ! マルコ、ガス補給所周辺の見取り図もっかい見とくぞ!」

    立ち上がり、彼はずんずんと歩き去っていった。

    ベルトルト「アニ、前衛の様子は」

    アニ「分からない……いや、待って」

    砂煙が上がる。

    はるか前方で行われていた戦闘は、いつの間にか中衛へと差し掛かっていた。

    ライナー「巨人が目視できる……!?」

    エレン「全員戦闘準備ッ!」

    抜刀の音が響いた。唾を飲み下す。死の権化が迫る。

    エレン「やれる! 俺たちはやれる! あいつらを皆殺しにして、俺たちは生き残るんだ!」

    ブレードの切っ先を巨人の群れに突きつけた。

    エレン「人々を守れ! 人類を守れ! 下等生物から、人類の誇りを守れッ!!」

    104期生『うっ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

    34 = 1 :

    ――――――――――――――――――――――――

    ――――――――――――――――

    ――――――――

    エレン「……ッチ」

    家屋の屋根を走り抜ける。最小限のガス噴射で加速、そのまま巨人の周りを一周、視線を完全に振り切ったところでアンカーを対岸に打ち込み飛翔。すれ違いざまの斬撃が巨人を絶命に至らしめる。

    エレン「討伐数4! ガス補給部隊はまだか、俺はともかくもうガス切れのやつだっているんだ!」

    視認できる巨人は7体。すぐ左に15m級。左肩にアンカーを打ち込んで巻き取り、円弧を描くようにして狙い通りのアタック。

    討伐数5、一際高い塔の上に着地する。

    あちこちから悲鳴が聞こえてきた。絶命の咀嚼音に奇妙なデジャヴを感じる。

    既視感がひどい。耳鳴りがする。頭が内側から激しくノックされている。

    エレン「俺は、これを知っている。こうして、巨人に嬲られている町を知っている……」

    ぼうっとしている間に、塔の下を3m級が通り過ぎていく。避難中の住民たちのいる方向へ向かおうとする巨体をロックオン。飛び降りる。ガス噴射のみで自由落下にさらに加速。

    エレン「らあああっ!!」

    切り裂いた。血が辺りに撒き散らされる。

    ミーナ「いやぁっ!! 誰か、誰か!!」

    上のほうから、プシュッ、プシュッというガス切れ特有の音がした。

    同じ班の黒髪お下げの少女だ。すぐさま上昇し応援に駆けつけようとする。向こう側からコニーも来ていた。

    エレン「は?」

    一瞬だけ混乱した。助けを求めていたはずのミーナの姿が見当たらない。

    コニー「テッメェェェェェ!!」

    突然コニーが雄たけびを上げ怒り狂った。

    目の前の巨人を見上げる。15m級だ。

    口から、人の腕がはみ出ている。なんどもなんども咀嚼のため噛み砕こうとしていてガムでも食べるように何度もあごをうごかしてその度に鮮血が舞い肉が零れ落ちていって――脳が白熱した。

    35 = 1 :

    エレン「討伐数7」

    自分でも驚くほど無駄なく速やかに首を刈り取った。

    まだ飲み込んでいなかったのか、巨人の口からミーナだったものがこぼれる。駆け寄ろうとしたコニーも、エレンも、足を止めた。

    コニー「……な、なぁ、これ、ミーナなのか? 嘘、だよな?」

    エレン「…………」

    コニー「ああ、チクショウ、なんだよ、なんなんだよこれは」

    巨人に食われると、こうなるのか。

    まるで初めて知ったような気分だった。

    今まで知らなかった、知りたくなかった、巨人に食べられた人間の末路を。

    だって、だってそれじゃあ、アルミンやミカサは、自分が追い求めていた人間たちは。

    エレン「……ははっ、はははは」

    コニー「え、エレン?」

    エレン「そうかそうかそうだったのか、そうかぁ……」

    空を見上げた。

    ふうを息を吐く。

    もう普段貼り付けている笑顔は脱ぎ捨てた。

    エレン「コニー、本部から撤退の狼煙が上がっているのは見えるな?」

    コニー「ああ」

    エレン「まずガスを補給しないと本部に戻れるかどうか怪しい。ただガス補給所には補給部隊が篭城してて巨人が張り付いてやがる」

    耳を立てていたジャンが驚いたようにこちらに近づいてきた。

    ジャン「あれを突破するっていうのか!?」

    36 = 1 :

    すまんな、今日はここまでなんだ。
    明日には終わると思うよ。

    37 :

    覚醒エレンか

    38 :

    明日には終わるか、乙

    39 :


    エレン別人のわりに雰囲気はかなり本編に近くていいなこれ

    展開とか持ってき方がいちいち胸に迫る

    40 :

    こういうタイプの話はたまに読むと面白い

    42 :

    乙です。
    進撃でシリアスにすると表現をしづらく作る人は居なかったですが、最近になって増えてきて良かったです。

    43 :

    アルミンとミカサが死んだかわりに2人並みの能力をえたかんじか

    44 :



    あの三人が一人に収束した感じか…
    このエレンは間違い無く人類最強クラス

    45 :

    >ライナー、ベルトルト、アニと続き、ここでジャンをはさんでマルコ、コニー、サシャが並んだ。9位にはクリスタ、そのちょうど一つ下にユミルが名を連ねる。

    この表現だけ違和感感じた。なんだかジャンにおまけ臭が
    普通に名前並べればいいのに逆にややこしくなった感じ

    46 :

    いい
    好きだよ

    47 :

    このエレンはハンネスの代わりにアルミンが助けに来た世界か。

    49 :

    シチューの話がしたいようなので貼っておきますね

    「彼氏の実家に行ったらご飯にシチューをかけて食べてた。正直、将来うまくやっていけるかどうか不安になった。
    一瞬、結婚できないとも思った」と語るのは、都内の商社勤務のOL智子さん(26歳)。
    彼女は当編集部の記者の知人女性で、同僚の男性と今年のクリスマスに挙式の予定。
     
    ・ご飯にシチューをかけて食べはじめた
    そんな彼女が先日、彼氏の実家に3度目の訪問をしたという。今回は、はじめて彼氏の実家に宿泊。
    夕食を彼氏の母親が作ったらしいのだが、そこでとんでもない出来事があったとのこと。
    彼氏、その父親と母親、そして彼氏の弟全員が、ご飯にシチューをかけて食べはじめたというのだ。

    50 :

    >>25
    嘘のフェイントっておかしくね?

    頭痛が痛いみたいな

    まぁ、どうでもいいか


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