元スレP「765プロに潜入、ですか?」
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301 :
"プロジェクト歌姫"の最初の肝は、三週間後に控えた『THE DEBUT』への出演にある。
この番組はいわゆる"アイドル発掘"を主なテーマとしており、まさしくデビュー前の新人にとっては登竜門と言える存在だ。
他の類似番組との相違点として"生放送"と言う形態を取っている点が上げられるが、これは実力の無い事務所にとっては大きな利点と言える。
TV局側の都合で内容を編集されることが無く、アイドルのありのままの姿を視聴者に見せることが出来るからな。
もちろん、言い方を変えれば一切の誤魔化しが効かないと言うことでもあるのだが…。
P「(当然、失敗は許されない)」
この番組でいかに"歌手"如月千早の存在を世間に知らしめることが出来るか…それが今後の展開に大きく関わってくるのは間違い無い。
だからこそ残りの三週間で、出来ることは全てやっておく必要がある。
P「千早、行くぞ」
千早「はい!」
食事の時間すらままならないほど、スケジュールには予定をぎっしり詰めてある。
弱音を吐く暇すら与えない…それくらいの気概でなければ結果は残せないからな。
302 = 34 :
まずは『THE DEBUT』にて披露する千早の新曲を完成させなくてはならない。
プロジェクト始動前から既に曲の製作は進んでおり、今日はスタジオにてオケ録りが行われることになっていた。
アレンジャー「やあ、君が如月千早さんだね。今日はよろしく」
千早「よろしくお願いします」
歌ダビはまだ先の予定だが、一先ずアレンジャーには千早のイメージを知っておいてもらう必要がある。
でなければ完成度の高い作品は生まれないからな。
アレンジャー「できれば今ここで何曲か歌ってもらいたいんだけど」
P「そうですね。千早、いけるか?」
千早「はい、大丈夫です」
P「…」
千早「…~♪」
アレンジャー「…!」
こういう場で歌うのは慣れていないはずだが、千早は全く臆することなく、その見事な歌声をアレンジャーに披露した。
…予想通り、人並み以上の度胸も備わっているようだな。
伊達に『自分には歌しかない』と豪語するだけのことはあるか。
303 = 34 :
アレンジャー「…いやはや、それにしても大した逸材だね彼女は」
オケ録りも無事に終了し、今後の日程について打ち合わせている最中の一言である。
唐突な話だが、どうやらお世辞というわけではないようだ。
P「光栄です…が、まだまだこれからですよ」
アレンジャー「いやいや、今まで何人もの歌手の編曲を担当してきたけど、これだけ衝撃を受けたのは初めてだ。こちらこそ彼女の担当が出来て光栄だよ」
過剰なほど賞賛されている気もするが、やはりプロの耳でも千早の歌声に感じるものがあるのは間違い無い様だ。
まあ、そうでなければこのプロジェクトを立ち上げた意味が無いわけだが…。
…ともかく、オケ録りが完了した以上、後は本番までの間はひたすらレッスン漬けの日々になる。
問題は千早が根を上げずに付いてこれるかどうかだが…。
千早「はぁ…」
P「どうした?溜め息なんか吐いて」
千早「"目が逢う瞬間"…とても素晴らしい曲なんですが、私の歌ではまだこの曲を完全に表現することが出来ません。だからもっと精進しないと…」
P「…」
…心配するだけ無駄なようだな。
だが、それでこそ選んだ価値があるというものだ。
304 = 34 :
千早「~♪~♪…やっぱりダメ…」ボソッ
トレーナー「どうしたの?」
千早「…すみません、もう一度今のフレーズをお願いします」
レッスンスタジオに来ても、千早の姿勢は全く変わることが無かった。
俺の耳からすれば十分に満足できる歌声でも、どうやら千早にとってはまだまだ納得とは言えないらしい。
いい意味で俺の予想を裏切ってくれているが…千早をここまで突き動かすものは一体何なのだろうか?
P「(…まあ、それがプラスに働いてるのであれば、さして気にする必要も無いか)」
千早「プロデューサー」
P「何だ?」
千早「すみません、近くのコンビニまで飲み物を買いに行ってもいいですか?」
P「ああ、気が付かなくて悪かったな。それくらいなら一々許可を取らなくてもいいぞ」
千早「はい」
ガチャ
歌手にとっては喉を労わるのも仕事の内だからな。
レッスンに力を入れるのもいいが、それで喉を潰しては元も子もない。
トレーナー「…あの、少しよろしいですか?」
P「?」
305 :
トレーナー「彼女の歌唱力は既にかなりのレベルに達しています。それこそ私に教えられることはもう無いくらいですね」
P「…そこまでですか」
トレーナー「三ヶ月間地道に基礎トレーニングを繰り返してきた結果でもありますが…やはり彼女自身の才能が大きいです」
アレンジャーの話といい、まさに"逸材"と言うわけか。
弱小プロダクションにこれほどの金の卵が眠っていたとは、流石の黒井社長と言えど予想が付かなかっただろうな。
P「でしたら、後は少しでも完成度を高めてもらうだけです。歌唱力が高過ぎて困ることはありませんから」
トレーナー「そうなんですが…今の段階でもう95%と言っていい完成度ですからね。ここから更に伸ばすと言うのは簡単ではないと思います」
P「後5%か…」
成果としては十分と言えるが、突き詰められるのならそれに越したことは無い。
だが、千早に足りない残り5%が何なのか…それが重要だ。
トレーナー「…あえて言うなら感情移入でしょうか」
P「感情移入?」
トレーナー「ええ、今回の楽曲"目が逢う瞬間"の歌詞は恋愛をテーマにしてますから。そういった気持ちを理解出来ていなければ、この歌を完全に表現するのは難しいかもしれないですね」
P「…」
306 = 34 :
小鳥「難しい顔して何か悩み事ですか?」
レッスンスタジオに千早を残し、一人で先に事務所に戻った俺に音無さんが話しかけてきた。
俺と律子がそれぞれのプロジェクトに掛かりきりになったことで、音無さんが処理しなくてはならない仕事も増えたわけだが…。
他人を心配できるだけの余裕はまだあるみたいだな。
P「ええまあ、千早の歌のことで少し」
小鳥「千早ちゃんの歌ですか?悩むようなことは無いと思いますけど」
P「技術的には文句無いんですが、感情表現が足りてないと言うか…」
小鳥「…なるほど」
とは言え、こんなこと俺が悩んでも仕方が無い話ではあるが。
そもそも恋愛感情なんて本来ならアイドルには御法度な話と言えるしな。
P「千早はその手の話には興味が無いみたいなんですよね」
…正直な話、千早には浮いた話が全くイメージできない。
それは決して悪いことでないし、プロデューサーとしてはむしろ安心できるのだが。
小鳥「それはプロデューサーさんにも言えるんじゃ…」ボソッ
P「何か言いましたか?」
小鳥「いえ何も」
307 :
P「何かいい方法でもあればいいんですが」
小鳥「そうですねえ…♪」
P「…」
音無さんがこうやって含み笑いをするのは、大抵の場合妙ちきりんな事を考え付いた時だ。
この様子だとまた何か変なことを思いついたようだな。
小鳥「それならプロデューサーさんが千早ちゃんとデート…」
P「…冗談を言う余裕もあるみたいですね。もう少し仕事を増やしても大丈夫ということでしょうか」
小鳥「ぴよっ!?」
P「常識で考えてください」
プロデューサーとアイドルの関係は、誰がどう考えてもシビアでなくてはならないものだ。
音無さんの言うデートが単なる"振り"だったとしても、傍から見ればどう思われるか分かったものではないからな。
デビュー前に厄介事を増やすほど俺も愚かではない。
小鳥「まあ、それはそうですけど…」
P「ほかに何かいい考えは無いんですか?」
小鳥「うーん…映画とか漫画で学ぶというのはどうでしょう?」
308 :
小鳥「ちょうど事務所の皆にオススメしたい漫画がありまして…」
映画…か。
大した効果は無さそうだが、少しでも恋する少女の気持ちとやらを知ることが出来れば儲けものか。
小鳥「…愛し合う二人はやがて引き裂かれ、お互いを信じられなくなっていく…ああ、運命はなんて…」
P「音無さん?」
小鳥「ぴよっ!?何でしょうか?」
P「映画、悪くないですね。早速明日にでも行かせてみることにします」
小鳥「え?プロデューサーさんは行かないんですか?」
P「俺が見に行ってどうするんですか」
コテコテの恋愛映画を見ても胸焼けするだけだからな。
映画を見るだけならわざわざ俺が同行する必要は無い…と言うか下手すればあらぬ誤解を招くことになりかねない。
小鳥「なら私と今度一…」
P「気付いたらもうこんな時間か…。そろそろ千早を迎えに行ってきますね」
小鳥「…」
まあ、確かに千早一人で行かせるのも心配だし…春香辺りにでも声をかけておくか。
309 = 34 :
P「…と言うわけで、今日は二人で映画を見に行ってきてくれ」
千早「はあ」
春香「私もいいんですか?」
P「これもレッスンの一環だからな。チケット代と交通費は事務所持ちだから気にしなくていい」
千早一人で行かせたところで効果が薄い可能性がある。
その点、春香はいかにもな"年頃の少女"だからな。
一緒にいれば少しは感覚の共有が出来るだろう。
春香「今やってる映画で恋愛ものとなると…千早ちゃん、これなんてどうかな?」
千早「私は良く分からないから春香に任せるわ」
P「(さて、俺はどうするか…)」
千早は春香に任せるとして…俺は適当に営業と情報収集でもしてくるか。
310 = 34 :
…で、最寄のTV局まで来たわけだが。
P「…ん?」
?「あんたは…?」
廊下を歩いていると、正面から見知った顔が近づいてきた。
異性だけでなく同性をも惹き付けそうな整った顔立ち。
漆黒の衣装に身を包み、頭の上にはアンテナのようなアホ毛。
P「鬼ヶ島羅刹か…久しいな」
冬馬「"ヶ"しか合ってねぇじゃねぇか!俺は"天ヶ瀬冬馬"だ!」
P「冗談だ。相変わらずからかい甲斐のある奴だな」
冬馬「あんたも相変わらず嫌な奴だな…」
311 :
天ヶ瀬冬馬…黒井社長が直々にプロデュースしたアイドルで、デビューと同時に大ブレイクした新進気鋭の存在と言える。
俺がまだ黒井社長のすぐ下で働いていた頃、当時まだ研修生だった冬馬と知り合った。
黒井社長プロデュースと言えど、スケジュール管理等の細かい雑務は俺が担当させられていたので、一時的にこいつのマネージャー代わりをしていた形になる。
正式に担当が決まった後は、961プロの社屋で何回か顔を合わす程度の間柄になったわけだが。
冬馬「…ったく、何であんたがこんなとこにいるんだよ」
高圧的な俺様系の態度が少し気になったが、常に高みを目指す姿勢の持ち主でもあり、俺から見ても冬馬は育て甲斐のある人材と言えた。
それと同時に純粋で熱くなりやすい性格の持ち主でもあり、961プロ所属アイドルの中でも非常にいじられやすいキャラだったわけだが…。
P「…お前も今では押しも押されぬ人気ユニット"ジュピター"のリーダーだからな。大したものだ」
冬馬「あんたに言われると素直に褒められてる気がしねぇ…」
P「少し意外に思ってるだけだ。仲間同士の馴れ合いを嫌ってたお前がユニットを組んだことがな」
冬馬「まあ最初は黒井のおっさんの命令で無理やりユニット組まされて嫌々だったけどよ…。確かにあいつらと一緒ならもっと上にいける気が…って、別にあんたには関係無いだろっ!」
P「(心境の変化…と言う奴か。仲間を持てば誰でもそうなるのか?)」
冬馬「そう言うあんたは今何やってんだ?最近事務所でも顔を見てなかったが」
P「俺は…今は765プロにいる」
冬馬「へー…って、ええっ!?」
312 :
冬馬「765プロってたまにおっさんの話に出てくるあの…」
P「弱小プロのことだな」
冬馬「だよな…。なんでまたそんな事務所に…!」ピーン
P「…?」
冬馬「…なるほどな。大方、おっさんのパシリに耐えられなくなったってとこだろ?」
P「…そんなところだ」
どうやら冬馬は俺が黒井社長に見切りをつけて961プロを辞めたと思っているらしい。
まあ、そう思ってもらった方が下手な誤解が無い分ややこしくなくて済む。
…普段の黒井社長のやり口を知るには、こいつはいささか純真過ぎるからな。
本当のことを伝える必要は無い。
P「そういうわけだから、今後お前とは敵同士になるわけだ」
冬馬「おっさんに対抗して765プロ…ってわけか。なんだ、あんたも意外と骨があるじゃねえか!」
P「…」
冬馬「あんたがどんなアイドルを育ててるのか分かんねぇけどよ、やるとなったら正々堂々と相手してやるぜ!」
P「ああ、精々よろしくな」
冬馬「…おっと、これから打ち合わせがあるんだった。じゃあな!」
最初から最後まで清々しいほどに真っ直ぐな奴だ。
黒井社長の下にいてよく性格が捻じ曲がらないものだな…と言うより黒井社長が冬馬には裏の顔を見せていないだけか。
何も知らない今のままの性格の方が利用しやすいだろうからな。
結局あいつも…あの男にとっては使いやすい駒に過ぎないわけだ。
P「…そろそろ二人を迎えに行くか」
313 = 34 :
映画館まで車で迎えに行くと、既に映画を見終わった二人が入り口前で待っていた。
P「…で、何か得るものはあったか?」
千早「ええまあ、中々見応えがありましたし、少しは心情を理解することも出来ました」
P「それならいい、ところで…」
春香「ううっ…えぐっ…二人が結ばれて良かったよぉ…」ポロポロ
P「…どうしてこうなった」
千早「感動的な映画でしたから…」
…感受性が豊か過ぎるのも問題かも知れない。
やはり千早は今のままくらいで丁度いいようだな。
314 = 34 :
そして瞬く間に日は流れて行き、ついに『THE DEBUT』収録当日を迎えた。
P「(出来る限りの準備は整えた…後は結果を出すだけか)」
律子「いよいよですね、プロデューサー」
P「ああ」
竜宮小町が出演する『アミューズメントミュージック』の方は既に収録が終わっているが、律子曰く上々の結果が残せたらしい。
あの三人も律子指導の下、かなり厳しいレッスンを積んできたみたいだからな。
…ならば後は俺達もそれに続くだけだ。
P「(だがこちらは生番組である以上、録り直しもきかない一発勝負になる…)」
すなわち、全ては千早の歌にかかっているわけだ。
…まあ、その点では特に心配はしていないんだがな。
315 :
春香「凄く似合ってるよ!」
やよい「とってもきれいですぅー」
千早「そ、そうかしら…」
美希「羨ましいの!」
事務所の方では千早が春香にせがまれて衣装のお披露目をしていた。
今回のために特別に用意したスレンダーラインの藍色のドレス。
年齢を考えれば少し大人びすぎている気もするが、音無さん曰くこれくらいの方が"歌姫"には丁度いいらしい。
P「(確かに千早のイメージには合ってるな…)」
小鳥「うふふ、プロデューサーさんも見蕩れちゃいましたか?」
P「そうですね…今回ばかりは素直に認めますよ」
もしかしたら音無さんにはスタイリストとしての才能もあるかも知れないな。
…いや、それだけアイドル達のことを良く見ているということか。
小鳥「…千早ちゃんのこと、よろしくお願いしますね」
P「ええ…」
珍しく真剣な面持ちの音無さんだが、それは言われるまでもないことだ。
全ては今日のために用意してきたんだからな。
…さて、そろそろ時間だ。
P「千早、準備はいいか?」
千早「…はい!」
春香「千早ちゃん、頑張ってね!」
春香達の声援を背に、俺と千早は『THE DEBUT』の会場へ向かった。
316 = 34 :
千早「…会場に着きましたが、まず何をすればいいんでしょうか?」
P「打ち合わせとリハまでまだ時間がある。最初は挨拶回りだ」
千早「挨拶回り、ですか」
P「ああ」
新人アイドルが集まると言っても、事務所の実力的に言えば俺達の立場は一番下だ。
目上の共演者にはしっかり挨拶をしておかねば、心象を悪くして今後の活動に影響が出る可能性もある。
それに『THE DEBUT』には新人だけでなく、毎回ゲストとして今話題のアイドルが登場することになっているからな。
肝心の今回のゲストは…"こだまプロ"の"新幹少女"だ。
P「(最低限、そこには顔を出しとく必要があるか…)」
…戦略的に大きく関係してくる相手でもあるわけだからな。
内情を探る意味でも行かねばなるまい。
317 :
コンコン
ガチャ
こだまP「はい?」
P「あ、どうもお忙しいところすみません。765プロでプロデューサーをしております、Pと申します」
こだまP「ああ、確か今日一緒に出ることになってる…」
P「ええ。尊敬しておりますこだまプロのプロデューサー殿と新幹少女の方々には、何より先に挨拶せねばと思いまして」
千早「如月千早です。今日はよろしくお願いします」
こだまP「へぇ~、君は中々分かってるみたいだねぇ。ま、今日はうちの新幹少女が主役で、君達は引き立て役に過ぎないわけだけど、精一杯アピールして目立つように頑張ってね。何しろうちの新幹少女はこの前のライブでも…」
P「…」
…聞きもしないことをベラベラと良く喋る男だ。
余程自分の育てているアイドルに自信があるのだろうが…。
P「…はい。今日は胸をお借りするつもりで共演させてもらいますね」
過ぎた自信は過信となり、過信はいずれ自身の足を掬われる要因となる。
…精々胸をお借りさせていただきますよ、こだまプロの皆様方。
今日の本当の主役が誰なのか、本番の舞台で決することにしましょう。
318 :
P「…意外そうな顔だな?」
千早「すみません、いつものプロデューサーとは全然雰囲気が違ったので…」
P「俺も相手によっては口調くらい変えるさ」
そうでなければ普段の営業も成り立たないからな。
とは言え、こいつらからすれば違和感があっても仕方無いかも知れないが。
P「…まあ、それも今だけだろうがな」ボソッ
千早「…?」
今日のタイムスケジュールでは千早の出番は新幹少女のすぐ後になっている。
本来なら誰もが嫌がる最悪な順番だが、俺はあえてその位置に入れさせてもらった。
新幹少女は確かに今売れているアイドルユニットではあるが、その人気のほとんどはビジュアル面に集中している。
ことダンスと歌に関しては特に飛びぬけて優れているわけではないので、舞台の上でのパフォーマンスと言う意味ではこちらに分があると言えよう。
これが竜宮小町なら三人組ユニット同士と言うことで否が応でも比べられることになるが、千早ならその心配も無い。
P「(…千早の歌なら絶対に新幹少女に負けることは無い)」
厳しいレッスンの中でも決して弱音を吐かず、こいつはただひた向きに自身の歌を磨いてきた。
だからこれは自信でも過信でもない…今までの過程から言える確信だ。
今夜、恐らく"如月千早"の名は新たなスターとして日本全国に轟くことになるだろう。
319 = 34 :
千早「…」ブルッ
P「何だ、緊張してるのか」
挨拶回り、打ち合わせ、リハーサルを終え、ついに『THE DEBUT』本番が始まった。
既に番組も折り返し地点を向かえ、もうすぐ新幹少女の出番が終わり千早の番が回ってくるところだ。
千早「いえ、ただの武者震いです」
P「…随分頼もしいな」
ちなみにリハーサルではあえて千早には本気を出させていない。
無駄に周りに警戒されては折角のお膳立てが台無しになるからな。
つまり視聴者のみならず、共演者もスタッフも千早の真の実力をまだ知らないということになる。
P「(インパクトは大きければ大きいほど効果があるからな…)」
320 = 34 :
千早「プロデューサー…」
P「何だ?」
千早「…ありがとうございます。私のためにこんな大きな舞台を用意してもらって」
P「お前も唐突な奴だな…今は自分のことだけ考えてればいい」
厳密には千早のためと言うわけではなく、結局は俺自身のためなんだからな。
…とは言え俺もこいつの歌に魅力された一人だ。
損得勘定無しで千早の歌をより多くの人に聞かせたい…そういう気持ちが少なからずあるのは否定できない。
P「お前はお前の歌を歌え。そうすれば必ず結果は付いて来る」
司会『…新幹少女の三人でしたー!それでは次のアイドル…765プロの如月千早さんです!』
P「…行ってこい」
そう言って千早の背中を押す。
今の俺にはこれくらいしか出来ないが、誰よりもお前の歌への執念を知っているつもりだ。
だから…。
千早「はいっ!!」
…今はただ全力で、お前の"夢"を叶えてみせろ。
321 :
良い所だが今日は終わりか?
乙
322 :
飯食ってました。
区切りいいとこですが、もうちょこっとだけあります。
323 :
……………
………
…
結果から言えば『THE DEBUT』での千早の歌は俺の想像を遥かに超えるものだった。
役者の中には、本番の舞台に立つことで練習以上の演技力を発揮する者がいるが、そういう意味では千早も同様の人種と言えよう。
視聴者も共演者もスタッフも…他ならぬ俺自身も、千早の歌の前ではただただ呆然とするしかなかった。
…皆等しく千早の圧倒的な歌唱力に魅了されたのだ。
歌い終わった千早が一礼すると、一瞬の沈黙の後、会場には割れんばかりの拍手が巻き起こった。
最早、新幹少女を飲むどころの話ではない…。
それは紛れも無く、真の"歌姫"が誕生した瞬間だった。
324 = 34 :
プルルルルルルルル、ガチャ
小鳥「お電話ありがとうございます、765プロです。はい、はい、インタビューの依頼ですか?すみません今はお受けすることが…」
『THE DEBUT』放送から三日経ったが、事務所には千早に関する電話が頻繁にかかってきていた。
それに加えて竜宮小町出演の『アミューズメントミュージック』も放送され、今ではそちらに関する問い合わせも増えているところだ。
お蔭様で音無さんはもっぱら電話の対応でてんてこ舞いみたいだな。
律子「うわー、またHP落ちちゃってますね…」
千早と竜宮小町のデビューに先んじて、765プロの公式HPを立ち上げておいたのだが、どうやらそちらもパンク状態になってしまったようだ。
…早急にサーバーの増強をしておく必要があるな。
P「(…これも嬉しい悲鳴と言うことか)」
プルルルルルルルル
小鳥「ひーん、仕事が進まない~」ピヨピヨ
結果としては予想を超えることになったが、双方のプロジェクトの展開としては全く問題無い。
後はCDの売上げを少しでも伸ばせるよう、用意した仕掛けを発動していくだけだが…。
P「…」
…一つだけ解せないことがある。
それは今俺の目の前に置いてあるこの三冊の週刊誌だ。
325 = 34 :
この内の一冊は、俺が前もって仕掛けておいたものだ。
高木社長と旧知の仲である善澤記者に頼んで、千早と竜宮小町の独占インタビューを載せてもらってある。
それぞれの番組の尺の都合で、アピールしきれなかった分を補完する目的で用意していた。
…問題は残りの二冊。
どちらも今朝発売されたばかりのものなのだが…。
P「(『765プロ期待の新星"竜宮小町"と"如月千早"!』、『新時代アイドル"竜宮小町"&"如月千早"特集!』…か)」
記事の内容としてはどちらも見開き二ページ程度で、あまり大したことは書かれていない。
765プロの簡単な来歴、メンバー構成、それぞれのプロフィール…そして今後の活動の予想。
否定的な意見は全く書かれておらず、むしろ俺が仕掛けた週刊誌より部数が多い雑誌なので、宣伝と言う意味では大きなプラスになる。
そういう意味では本来ならば喜ぶべきなのだろう。
だが…。
P「(いくらなんでも早過ぎる…)」
326 = 34 :
千早は三日前、竜宮小町に関しては一昨日にデビューしたばかりだ。
番組終了後にすぐさま記事を用意したとしても、到底間に合うはずが無い。
まるで、前もって千早と竜宮小町のデビューを知っていたとしか思えない手際の良さだ。
出版社に確認しても、適当にお茶を濁されるのは目に見えているが…何者かが意図的に介入しているのは火を見るよりも明らかと言える。
P「…」
千早と竜宮小町のデビューを前もって知っており、かつ大手出版社にも容易に圧力をかけることが出来る人物…。
…そんな人物と言えば、俺には一人しか思いつかない。
P「(…分からない)」
…あの男がここまでする理由は何だ?
765プロを持ち上げて、あの男に何の利点があるんだ?
俺にはあの男の考えが全く読めない…。
俺はもしかして…とんでもない思い違いをしているのではないのか…。
…結局、俺も765プロもあの男の手の中で踊らされているだけなのかもしれない…。
続く。
327 :
不穏な臭いがしますなぁ
乙乙
328 :
黒井社長マジ961!
おつおつ
329 = 34 :
改めて、遅くなってしまい申し訳ありません。
次はもう少し早めにあげるようにします。
某スレでプロデューサーの自己主張が強いのはあまり好まれないと言われ、
少々モチベーションを落としかけてましたが、今では開き直って気にしないで書いてます。
最後まで書き切るのがSSの最低限の礼儀ですからね。
それではまた近いうちに。
330 :
1乙
1の書くPが好きだから気にせずに書いてほしいよ
331 :
乙
プロデューサーを前面に出しすぎると万能主人公になるパターンがおおいから敬遠されるんじゃないかな?
ちょっとピカレスクというかノワール小説っぽい感じだと特にそうなりがちじゃん?
とにかく期待してるので続きはよ
332 = 321 :
おつおつ
333 = 295 :
外野なんて気にすんな
このP好きだぜ
334 :
乙
確かに万能Pはウザクなりそうだけど>>1のは全然おk
335 = 327 :
周りの反応なんて気にしなければいいじゃない
皆が同じなわけではないし
336 = 296 :
>>329
全然問題ないだろ。
万能Pってのは大した仕事もしてないくせに、何故かアイドル全員から
モテモテの男の欲望丸出しのPの事だ。潜入Pはちゃんと仕事してるし、
こいつならモテるわと納得出来る描写もある。気にするな。
337 :
おつ
気にせず書きたまえ
338 :
乙
このPは好きだよ
339 :
1乙
なにやら気にしてるようだけど
その辺声高に言う人たちにじゃぁどんなSSが好きなの?と聞いたら
「アイドル同士がキャッキャウフフフ」してるSSだと答えるはずだ
根本的にアイマスの捉え方が違うんだから、気にするべきじゃない
Pがどうこうじゃない、興味の中心が「女と女」に偏ってるだけだ
たとえ違うといわれても、そうだと思って切り捨てるべき、じゃないと惨いことになる
340 :
なんか臭い
341 :
…ですね。
皆さんの仰る通り、人の意見を無駄に気にし過ぎていたようです。
自分自身今書いてるPが好きですしね。
実は>>289-293の流れを見てモチベーションが回復したのは内緒ですw
342 :
いわゆるにこポ撫でポじゃないし問題ないだろ
345 = 343 :
ちゃんと書けたか。
乙、楽しみにしてるで
346 :
「765プロという通過点」が好きな俺はこのSS好きだな
1頑張ってくれ!
347 :
>>346
あれも印象深いSSだったな。
スッキリしない感じは残ったが。
349 :
面白いなこれ!
ピヨちゃんの扱いがちょくちょく可哀想だけどwwww
350 :
だがそこがいい!
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