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元スレ垣根「ただいま」
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垣根「ネットじゃ伝説になっている“オジギソウ”がテメェだとは…」
男「……そうか。君も豊崎さんのファンだったのか」
垣根「“も”ってことは……」
男「そうさ。私も彼女の甘く優しい声に心が癒されている一人なのだよ」
垣根「……マジかよ」
男「同士に殺されるのなら思い残すことはない。来月にリリースされるDillを聞けないのは残念だがね……」
垣根「……だろ」
男「?」
垣根「殺せるわけねぇだろ!!」
男「……」
垣根「愛生ちゃんが収録を頑張って、一人でも多くの人間に届けたいと思ってる曲が来月リリースだぞ!?」
男「……」
垣根「あんな神曲を聞かずに死ぬなんて、俺が許さねぇ!!!」
垣根「それに、今日はおかえりラジオの日だ。
愛生ちゃんはあんたの、“オジギソウ”のお便りを待ってるに決まってる!」
垣根「彼女が“おかえり”って言ってくれるのに、テメェは“ただいま”を言わねぇつもりかよ!!」
男「……」
垣根「何とか言えよクソ野郎」
男「……君の言いたいことは、とてもよく分かる。しかし私を殺そうとしているのは君だろう」
垣根「……あ」
男「君は馬鹿なのだな」
垣根「はぁ!?」
男「しかし今の言葉、胸に響いたよ」
垣根「……」
男「そうだな。Dillを聞くまでは私は死ねない。少し悪あがきをしようじゃないか」
そう言うと『メンバー』の男は懐から銃を取り出した。
銃を持っているのなら、もっと抵抗できた筈だ。
それでも何もしなかったのは本当に死ぬつもりだったのだろう。
男「レベル5の君に、こんな物が通用するとは思えないがね」
銃口は真っ直ぐ垣根を捉えていた。
引き金が惹かれる。
パンと乾いた音が響いた。
垣根「――っ!」
男「な、なんのつもりだ」
レベル5に銃など通用するわけがない。
それなのに、弾は垣根の肩を貫き、肉を抉っていた。
垣根「痛ってぇな……クソッ」
男「何故防がなかった、垣根少年」
垣根「これは戒めだ」
男「戒め?」
垣根「伝説のリスナーを消そうとしちまった、俺への罰だ」
男「……」
垣根「『スクール』のリーダーは負傷。テメェの前から逃げ出す。追ったがテメェは俺を見失う。いいな?」
男「君は、本当に馬鹿だな」
垣根「何とでも言えクソジジィ」
くくく、と喉をならして男が笑う。
それにつられて垣根も笑った。
垣根「オッサン、名前は?」
博士「皆からは“博士”と呼ばれているよ」
垣根「博士、か……。あと、もう一つだけ教えてくれ」
博士「なんだね?」
垣根「メールを読まれる秘訣は?」
博士「ふむ……。少々長くなるがいいかな?」
垣根「……時間がない。次の行動に移らねぇと」
博士「ならメールアドレスを教えたまえ。私の心掛けていることを全て教えようじゃないか」
垣根「本当か!?」
博士「その代わり君がなぜ学園都市に逆らうのか、何を変えたいのか、教えて貰ってもいいかな?」
垣根「……聞いても面白くねぇぞ?」
博士「構わない。ただ純粋に興味があるのだよ」
垣根「……分かった」
二人は携帯を取り出し、赤外線通信でお互いのアドレスを送り合った。
そして垣根は、博士に全てを話した。
自分がこの街に何をされたのか。
自分がこの街の何を変えたいのか。
垣根はそれを誰にも話したことはない。
なぜなら悲劇を口にするのは嫌だったからだ。
しかし、目の前の男になら話すべきだと思った。
博士「…………」
垣根「これが俺の命をかける理由だ」
博士「……」
垣根「つまらねぇだろ?」
博士「そんなことないさ。君が、少し羨ましい」
垣根「は?」
博士「若いというのは良いことだな。悲しみを行動に変える力がある」
垣根「……」
博士「私もその経験をしたことがある。きっと、同じ悲劇を味わった者はたくさん居るだろう」
垣根「やっぱりそうか。この街は腐ってやがる……!」
博士「何も出来ないがひっそりと応援しようじゃないか」
垣根「心強いぜ“オジギソウ”」
博士「……リアルでラジオネームを呼ばれるのは少し恥ずかしいものだな」
垣根「ふーん。そうかよ」
博士「ところで垣根少年、さっきからニヤけているがどうかしたか?」
垣根「いや、……愛生ちゃんファンとメアド交換したのなんて初めてで……」
博士「そんな些細なことに喜びを感じる男だったとはな」
垣根「うっせーな。……なぁ、ラジオの感想とかアニメの感想もメールしていい?」
博士「勿論だとも。豊崎さんについて語ろうじゃないか」
垣根「やった!さっそく今日送るからな!無視すんなよ!?無視したら泣くぞ!?」
博士「ああ、待っているよ」
垣根「死ぬなよ博士。少しでも長生きして愛生ちゃんを応援してくれ」
博士「言われるまでもないさ」
そう言うと、背を向けゆっくりと手を振る。
二人はそれぞれ、別の道を歩いて行く。
二人は振り返らない。
振り返る必要などない。
今夜の“おかえり”と言ってくれるあのラジオで、“ただいま”が言えれば同じ場所に居ることになるのだから。
こうして男達は別れた。
殺し合う筈の二人の男は一人の女性により、“友”となったのだった。
やったねていとくん!友達が出来たよ!
そんな訳で今日はここまでです。
読んでくれてありがとうございます!
そんな訳で今日はここまでです。
読んでくれてありがとうございます!
なんかシュールな光景だな
殺し合いから仲間になるとか、それも声優談義でwww
殺し合いから仲間になるとか、それも声優談義でwww
一方さんにはげしく期待
ってゆーか このていとくん御花畑に会ったら発狂するんじゃね?
ってゆーか このていとくん御花畑に会ったら発狂するんじゃね?
>>62
運転手は豊崎愛生のファンじゃ無かったから仕方ない
運転手は豊崎愛生のファンじゃ無かったから仕方ない
一方通行「クカカカ……伊藤かな恵ちゃン……いいねいいね最ッ高だねェ!!」
レスありがとうございます。
読み返すと誤字脱字だらけですね。すいません。
投下します。
読み返すと誤字脱字だらけですね。すいません。
投下します。
運転手が居なくなったのをいいことに、車の中では自分で編集した
“うんたん♪うんたん♪”をループさせていた。
いい気分に浸っていると、第三学区の隠れ家に『アイテム』が来たという連絡を受けた。
車で行けばあまり時間はかからなかったけれど、車内の居心地の良さに、つい遠回りをしてしまった。
数十分後、第三学区に着くと名残惜しそうに曲(?)を消して車を止めた。
垣根(さっき撃たれた所は能力で止血したし、腕は動くし平気だな)
垣根「……」
垣根(俺の能力ってマジ便利だよな。なのになんで2位なんだよ……)
どうでもいいことを考えながら、連絡を受けた地点に向かう。
アイテムの隠れ家があるらしい高層ビルの一角。
スポーツジムやプールなどの屋内レジャーを利用するのにはそれなりの資格が要る。
建物に入るだけで会員証を求められたり、各施設を利用するのに会員証のランクを調べられたりするのだ。
垣根はいつか憧れの女性と二人で来る時のために、会員証は発行したが一度も使ったことがない。
垣根(こんな目立つ所を隠れ家に選ぶなんて『アイテム』はアホか?)
ビルを見上げ垣根は目を細めた。
金持ち共が乳繰り合いながら屋内レジャーで遊んでいると思うと腹が立つ。リア充死ね。
絶対に愛生ちゃんと来てやる。
垣根は一つの決意を胸に『アイテム』の元へ向かった。
―――――――――――――――――――――
麦野と絹旗と滝壺、そして浜面の四人はVIP用の個室に居た。
研究所の襲撃以来、フレンダの姿はない。
もちろんリーダーの麦野は探しに行くなどせず、『スクール』への反撃を考えていた。
麦野「『アイテム』の存在意義は上層部や極秘集団の暴走を防ぐこと。そいつをまっとうしてやろうじゃない」
滝壺「検索対象は『未元物質』でいい?」
浜面「誰だそりゃ」
麦野「第2位のレベル5。『スクール』を指揮してるクソ野郎だよ」
浜面「ふーん……」
そういえば、と浜面は思った。
今日は浜面が楽しみにしているラジオの日だ。
今日は色々あるが夜には帰れるのだろうか?
聞き逃したとしても、録音はセットしてあるので問題ないけれど、やはりリアルタイムで聞きたい。
浜面(最近よくお便り読まれるし、今日も読まれたりして……)
期待を膨らませながら、『アイテム』のメンバーに目をやると滝壺が『体晶』を使用してる。
絹旗「滝壺さんも超難儀していますよね。『体晶』がないと能力を発動できないなんて」
滝壺「別に。私にとってはこっちの方が普通だから」
能力者も色々居るらしい。
浜面は興味無さそうにそのやりとりを見る。
今日のラジオのテーマは何だろうか?と考えていると滝壺が口を開いた。
滝壺「結論。『未元物質』は、この建物の中に居る」
麦野「――ッ!?」
絹旗「!?」
二人の目が見開かれる。
何故、こんなに早く?
何故、隠れ家がバレている?
しらみつぶしに探して辿り着ける筈がない。
誰かがこの場所をリークしたというのだろうか?
そんな疑問を無視するようにサロンの壁が蹴り破られる。
蹴り破ったのが誰かなんて見なくても分かる。
研究所で対峙した忌々しい男。
麦野「『未元物質』………ッ!」
垣根「名前で呼んで欲しいもんだな。俺には垣根帝督って名前があるんだからよ」
垣根の手にはピンセットが装着されている。
機械でできた奇妙な『爪』だ。
それを見て浜面はだせぇ、と思った。口には絶対に出せないが。
麦野「『ピンセット』か……」
垣根「カッコイーだろ。勝利宣言しに来たぜ」
レベル5同士のやりとりに部屋の空気が張り詰める。
垣根と麦野は睨みあったまま会話を続けていたが、いきなり途切れた。
ソファに座った絹旗が垣根に向かって数十キロありそうなテーブルを投げつけたからだ。
しかし、テーブルが垣根にダメージを与えることは出来ない。
垣根「痛ってぇなぁ」
浜面(いや、全然痛そうじゃねぇよ……。やっぱりレベル5ってキチガイばっかりだな)
垣根「そしてムカついた。まずはテメェから粉々にしてやるよ」
垣根はとても機嫌が悪かった。
ここに来る間、仲の良さそうなカップルをたくさん見て来たからだ。
それに加え、絹旗は垣根の頭を狙ってテーブルを投げつけてきた。
能力が無かったら、垣根の頭部に直撃していただろう。
そんなことになったらどうなる?
死ぬかもしれない。
死なないとしても、耳が聞こえなくなるかもしれない。
耳が聞こえなくなったら?
耳が聞こえなくなったら、おかえりラジオを聞くことは出来ない。
いや、おかえりラジオだけではない。
マイエンジェル愛生ちゃんのほっこりヴォイスが聞けなくなってしまうのだ。
垣根(このクソガキ、絶対に許さない!)
垣根がくだらないことを考えていると(本人にとっては深刻なことだが)、
絹旗は二人の手を取って麦野に目配せし、壊れた壁の奥に飛び込んでいった。
麦野「テメェの相手は私だ。包茎野郎」
垣根「見たこともねぇのに勝手に決めんな」
麦野「テメェの狙いは『能力追跡』だな?」
垣根「さぁ?お前かもよ?あぁ、でもお前って口汚いからタイプじゃねぇや。わりぃな」
麦野「死ね!」
麦野の言葉を合図に二人は同時に動き出した。
―――――――――――――――――――――
浜面と滝壺はエレベーターホールまで来ていた。
一緒に居た絹旗は二人を逃がす為に再び戦場へと戻って行ったのだった。
絹旗の話によれば、能力追跡を持っている滝壺が『アイテム』の要らしい。
彼女さえいれば状況が巻き返せるというのだ。
だから滝壺を車に乗せ逃げろ、と言われたのだが……。
浜面(あの二人は待たなくていいのか?つーか車なんかで第2位から逃げ切れるのかよ)
滝壺(はまづら、不安そうな顔してる……。だいじょうぶかな?)
この緊迫した状況で滝壺は場違いなことを考えていた。
自分を逃がす為に『アイテム』の仲間が危険な戦いに挑んでいることは十分に理解している。
している、けれど。
時として乙女は、理性が感情に押し流されてしまうのである。
不安と緊張と殺伐がまじった空間で、滝壺は胸を高鳴らせていた。
滝壺(こんなに長くはまづらと二人きりで居るの、はじめて……)
そう。滝壺理后は浜面仕上に恋をしているのだ。
彼女が浜面を好きになった理由はとても単純だ。
浜面が優しいからだ。
役に立たない人間はゴミとして扱う暗部で、滝壺はずっと過ごしてきた。
そんな彼女にとって人を殺す依頼で嫌そうな顔をしたり、
誰かも分からない死体の処理で心痛める少年の姿は眩しかった。
最初は少し気になっていただけのだが、今では大好きになってしまっている。
滝壺(どうしよう……二人きり、それに、エレベーターって密室……)
浜面「……」
―――とにかく優しくしてあげればいいんじゃないですかね!
滝壺(……あきちゃんはそう言ってたけど、優しくってどうすればいいのかな?)
すっかり恋する乙女モードになってしまった滝壺は頭を悩ませていた。
そんな彼女を現実に引き戻すように、エレベーターが止まった。
扉がゆっくりと開いていく。
垣根「いたいた」
浜面(嘘だろっ!何でこんなに早く……!む、麦野は?絹旗は?)
滝壺(はまづら、あせってる…)
垣根は二人に向かって何かを投げてきた。
それは二人がよく見たことのある小柄な少女。
絹旗最愛。レベル4の窒素装甲。
可愛らしい外見だが、戦闘力の高さは確かだった。
なのに、それなのに……。
ぐったりと倒れる絹旗を見て、浜面はレベル5の強さに恐怖を覚えた。
垣根「そいつの判断は良かったな」
二人が言葉を返さなくても垣根は一人でベラベラ喋っている。
浜面は、絶望的な顔していた。汗が頬をつたう。
一方で滝壺はこの状況に希望を感じていた。
滝壺(はまづらが怖いなら、私が助ける)
滝壺(きっとそれが“優しくする”っていうことだから)
滝壺(これが俗に言うアピールチャンス。頑張らなきゃ)
優しくすれば自分の想いに浜面は答えてくれるかもしれない。
そう思うと目の前のレベル5なんか怖くなかった。
恋する乙女は、強いのだ。
不意に隣に居る想い人が小声で話かけてくる。
いつもより吐息が多くて低い声に、滝壺はドキッとした。
浜面「…(お前はエレベーターに乗って降りろ)」
滝壺「…(でも、はまづら)」
浜面「…(どっちみち、ここでテメェを見捨てて『スクール』から逃げたって、
そんな事をすれば『アイテム』に潰されんだ!板挟みなんだよ、ちくしょう!!)」
垣根「で、どうするよ?別れのあいさつってどれくらい時間がかかるものなんだ?」
別れ?
滝壺はその言葉に反応して垣根の顔を見る。
目の前の男が自分たちを引き裂くというのなら手段は選ばない。
滝壺が垣根を倒すなんて奇跡が起きても不可能だ。
でも、大丈夫。
滝壺には、とっておきの切り札がある。
これを使えば愛おしい彼を助けることができる筈だ。
浜面「―――ッ!!行け!!」
浜面は滝壺の体をエレベーターに押しこもうとしたが、逆に押し込まれてしまった。
滝壺の行動が予想外だったため、浜面は尻もちをついた。
浜面「テメェ、何してん―――」
滝壺「ごめん、はまづら」
浜面の顔は驚きに染まっていた。
何か言いたそうに口を開いているが、言葉を出すことはできなかった。
滝壺「大丈夫。私はレベル4だから。レベル0のはまづらを、きっと守ってみせる」
閉じていく扉の向こうに微笑んで、彼を見送った。
高速でエレベーターが降りていくのを見て安心する。
垣根「すげぇな。レベル0の役立たずを守るために自分を犠牲にするとは」
滝壺「……」
垣根は笑いながら言った。
その言葉に滝壺は激しい怒りを覚えた。
滝壺「役立たずじゃないよ」
垣根「あ?」
滝壺「はまづらは役立たずじゃないよ。何も知らないのに、そんなこと言わないで」
垣根「……っく、ははは」
堪え切れない、というように垣根は笑いだした。
滝壺は黙ってそれを見えていた。
垣根「お前バッカじゃねぇの?組織の要の自覚が全然ねぇな」
滝壺「……」
垣根「あの男が殺されてる間に逃げれば良かっただろーが」
滝壺「それは無理」
滝壺は即答した。
それに対して垣根は眉を潜めた。
『アイテム』の要である女が命張って守る男に何の価値ある?
もしかして、あの男が『アイテム』の要だったりするのか?
下っ端という役職はカモフラージュで、本当はリーダーだったり?
いくつかの可能性を考えたが、フレンダが提供した情報と合致せず頭から考えを消した。
滝壺「たとえ『アイテム』が無くなってもはまづらは無くしたくない」
垣根「はぁ?」
滝壺「それに、優しくすればいいってあきちゃんが言ってた」
垣根「…………あ?」
滝壺「だからはまづらを置いて逃げるなんて、そんな酷いこと絶対にできない」
滝壺はジャージのポケットに手を突っ込んだ。
何かしてくるのか、と垣根は身構える。
緊迫した雰囲気で彼女が取りだしたのは、一枚の小さな紙だった。
滝壺「これ、何かわかるよね?」
垣根「!?」
垣根の目が大きく見開かれる。
滝壺が手に持っている紙は人によってはゴミになるが、一部の人にとっては宝物になる紙だった。
そして垣根は後者に当てはまる。
滝壺が持っている物は正確には紙ではなく、栞だった。
栞には赤いリボンが付いている。
表面にはチューリップが描かれていた。
チューリップの隣には可愛らしいフォントでこう書かれている。
“豊崎愛生のおかえりラジオ”
それはラジオでお便りを採用された者だけに送られる栄光の証だった。
栞を手放すのは少し寂しいけれど、守りたいものがあるのだ。
大切な物を失ったとしても、好きな人は助けて見せる。
自分も絶対に生き延びる。
そして、この想いを彼に伝えたい。
強い決心を胸に垣根を見据えた。
その目には迷いも恐怖もない。
恋する乙女は、強いのだ。
ネットの画像でしか見たことのない栞が目の前にある。
初めて生で見た感動が垣根を興奮させた。
滝壺はその様子を見て、内心ニヤリとする。
滝壺「これ欲しい?」
垣根「!?」
滝壺「あげるよ」
垣根「!!!!???」
それは喜ばしい提案だった。しかし栞を譲ってもらって手に入れるなど邪道すぎる。
垣根の顔が歪む。
欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。
けれど、自分のお便りが読まれてこそ手にする意味があるのだ。
しかし、欲しい。
垣根(クソがッ……!!なんで、この女がこの栞を持ってやがる……!!!)
滝壺「あと10秒で返事しないと破いちゃうよ?」
垣根「あ?え、は、ちょっと、ま―――」
滝壺「本気だよ?」
垣根は唇を噛み締めた。
全身に嫌な汗を搔いている。
滝壺「1、2、3、」
垣根「!?」
淡々とした声でカウントが始まる。
滝壺「4、5、6、」
滝壺は栞を両手で持った。
滝壺「7、」
栞はいつでも破ける状態だ。
滝壺「8、」
でも、指に力は入っていない。
滝壺「9、」
カウントと同時に指に力がこもる。
垣根「おい、待て、そんなこと、」
あとは、裂くだけ。
滝壺「じゅ、」
垣根「欲しい!!!!!!!!!!!」
堪え切れなくなった垣根は力一杯に叫んだ。
叫びと共に滝壺は栞を破こうとするのを止めた。
滝壺「……でもね、条件がある」
垣根「……」
栞が彼女の手にある限りは一歩も動けない。
垣根は滝壺を睨みつけることしか出来なかった。
滝壺「『アイテム』を見逃して」
垣根「却下だ」
吐き捨てるように返した。
栞は欲しい。
しかし『アイテム』を見逃すなどできるわけなかった。
滝壺「……そっか。じゃあこれはあげられない」
そう言うと滝壺は栞をくしゃくしゃに丸めようとした。
垣根「待て待て待て待てぇぇぇぇぇ!!!!」
滝壺「だっていらないんでしょ?」
垣根「いらないなんて言ってねぇだろ!!」
滝壺「『アイテム』を見逃さない=栞はいらないってことだよ?」
垣根はこめかみを引きつらせた。
長いこと暗部に身を置いている垣根だったが、ここまで外道な女は見たことが無い。
いっそのこと、この女を殺して栞を奪いとればいいのではないか?
―――しかし、それは、
滝壺「私を殺して栞を手に入れるの?そんなことしたら、この栞は汚れちゃうと思う」
垣根「……ッ!!」
考えが読まれた垣根はビクリと体を震わせた。
垣根の両手は血で染まっている。
今までの人生も汚れて腐りきっている。
でも、それでも。
愛生ちゃんだけは、汚すことが出来なかった。
滝壺「『スクール』の人員を全て撤退させたら交渉成立。あと、これからも『アイテム』の邪魔はしないで欲しい」
垣根「要求することが増えてねぇか?」
滝壺「ないよ。『アイテム』を見逃せばいいだけだよ」
滝壺はまっすぐ垣根を見つめている。
その瞳には一歩も引かない、という強い意志が表れている。
垣根(クソッ、こんな女の言うことなんざ聞きたくねぇ!
愛生ちゃんを交渉手段に利用するゲスが……!!)
滝壺(本当は、しおりをこんなことに使いたくない。でも、今はこれしかないから…)
突然、滝壺の後ろの扉が開いた。
下に降りた筈のエレベーターが戻ってきたのだ。
このタイミングで誰が来るというのだろうか?
二人は同時に視線をそちらに送る。
浜面「滝壺!無事か!?」
エレベーターの中からは、逃げた筈のレベル0が走ってきた。
そのまま滝壺の前に立ち垣根を睨みつける。
滝壺「…な、なんで?はまづら、」
浜面「一人で逃げれる訳ねぇだろ!!怪我はしてないか?」
てっきりレベル5にコテンパにやられてると思ったけれど外傷は無いようだ。
別れる前と違う所と言えば、滝壺が手に持つ小さい紙。
浜面「あれ、その栞、おかえりラジオのやつ?」
滝壺「……え、うん」
浜面「それ、俺も持ってる」
その言葉に、滝壺と垣根は驚きを隠せなかった。
なんでこの男が栞の存在、ラジオの存在を知っているのか?
垣根(どうなってやがる…!!なんで『アイテム』の連中が栞のことを…。もしかして、こいつらも、)
滝壺(なんで、はまづらがあきちゃんのラジオを……)
垣根(しかも、お便りを読まれてる、だと……?)
浜面「なんでこんな状況で栞?」
浜面の疑問は当然のことだ。
レベル5に追い詰められて、いつ殺されても可笑しくない状況。
栞はこの雰囲気に相応しくない。
滝壺「……交渉中」
浜面「は?」
垣根「その栞を譲る代わりに『アイテム』を見逃せだとよ」
浜面「……え」
浜面は垣根と滝壺を交互に見た。
その顔は驚いてるようにも怒っているようにも見える。
浜面「ふざけるなよ…」
滝壺「……」
垣根「……」
浜面の声は震えていた。
垣根に背を向けて、滝壺を見ている。
浜面「その栞を持ってるってことはお前も聞いてんだろ!?」
浜面「しかも、メール読まれたんだろ!?」
浜面「ふざけんな、ふざけんなよっ……!!!」
浜面は滝壺の肩に手を置いた。
悲しそうな瞳で彼女を見つめる。
滝壺は浜面のこんな顔を見るのは、こんな声を聞くのは初めてだった。
浜面「どんな理由があろうとも、読まれた証を他人に譲るなんてしちゃいけねぇ!!」
浜面「しかも、こんなクソ野郎に!!」
浜面「お便り送るほど好きなんだろ?だったら本当はそれを手放したくないんだろ!!」
滝壺「……はまづら」
浜面「それが家に送られてきた時の喜びを思い出してみろよ!!」
滝壺は栞を優しく握り、俯いた。
初めて、家に届いた時のこと――
とても嬉しく、一生の宝物にしようと思った。
滝壺「ごめんね、はまづら。これしか突破口がなかったから」
浜面「……」
垣根「……」
浜面を助けることが優しさだと思っていた。
そうすれば、自分の恋が報われるのではないかと期待していた。
滝壺「……」
浜面「……」
でも、愛おしい彼は怒りをぶつけてきた。
浜面が自分を助けようとしてくれた時は、嬉しかったのに……。
滝壺は目から溢れて来そうな感情を必死に堪え顔を上げる。
滝壺「……優しくするって難しいね」
浜面「え?」
いつもボーッとしている滝壺の顔は悲しそうだった。
その顔に浜面は酷く動揺する。
滝壺は他の『アイテム』のメンバーと違い、浜面に優しかった。
だから逃げずに戻って来たのだ。
浜面(こいつのこんな顔、見たくねぇのに……言いすぎたか?)
二人のやり取りを見ている垣根は完全に置いてけぼりだった。
暇すぎて欠伸がでそうだ。
垣根(優しく、ねぇ……。そういえばこいつら、
どんな内容のお便り送ったんだ?…………参考まで教えてくれねぇかな……)
垣根「……」
垣根(つーか俺空気過ぎんだろ。こいつら見つめ合ってるし……
もしかして、そういう関係なのか?ちくしょう…リア充し、)
垣根「……ん?」
垣根「……」
垣根「!?」
一つの予想が垣根の頭をよぎる。
こないだの放送で、愛生ちゃんが“優しくしてあげればいい”とアドバイスをしていたお便りがあった。
強気な態度。必死な行動。選ばない手段。
ここまで女が頑張ることなんて一つしかない。
それが分からないほど、垣根は馬鹿ではなかった。
垣根「おい、能力追跡、ちょっとこっち来い」
浜面「はぁ!?お前なんか、」
垣根「テメェが居ると出来ない話だ」
滝壺「?」
いきなりの提案に二人が振り向く。
浜面は警戒している。
それに引き換え滝壺は落ち着いているみたいだ。
垣根「無理に栞取ったりしねぇよ。あと殺さないし」
浜面「行くな滝壺!」
滝壺は垣根の顔をジッと見た。嘘を吐いているようには見えない。
何かあったとしても、手の中に栞があれば平気だろう。
そう判断し滝壺は足を動かした。
滝壺「平気だよ。待ってて、はまづら」
垣根「テメェは来るなよ?絶対来るなよ?来たら怒るからな」
浜面「くそ…」
浜面は戻ってきても滝壺を守れない無力さに情けなくなった。
何かあったら銃で……しかし、相手はレベル5。
こんな物が効くとは思えない。
ギリッと奥歯を噛み締める。
浜面が出来ることは二人を見ることだけだった。
滝壺「何?」
垣根「お前“つぼつぼ”だろ」ボソボソ
滝壺「!?」
垣根「そんで好きな男はあそこのレベル0か」ボソボソ
滝壺「……何でわかったの?」ボソボソ
垣根「第2位の頭脳舐めんな」ボソボソ
滝壺「すごいね」ボソボソ
垣根「で、あいつを助けるのが優しさだと思ったわけだ」ボソボソ
滝壺「……」コクン
垣根「なるほどな……」ハァ
滝壺「?」
垣根「お前のしたこと、許してやるよ」
滝壺「え?」
垣根「愛生ちゃんは、アンタを応援するって言ってたろ?
だから栞をそんな風に使っても、愛生ちゃんは怒らねぇよ」
滝壺「……」
垣根「だから俺も怒らねぇ。上手くいくといいな?」
滝壺「……ありがとう」
垣根「礼なんかいらねぇよ。同士だろ?」
滝壺「……優しいんだね」
垣根「そんなことない。つーか何で俺が愛生ちゃん好きって知ってたんだ?」
滝壺「とうちょう」
垣根「あ?」
滝壺「盗聴したの。車に仕掛けて」
垣根「……いつだよ。全然気付かなかったんだけど」
滝壺「研究所でつけてみた」
垣根「つけてみたって……」
滝壺「ごめん」
垣根「いや、別にいいけど……」
垣根(こいつ、大人しそうな顔しておっかねぇな……。やっぱり要だ……)
滝壺「どうかした?」
垣根「別に。あと俺からのアドバイス」
滝壺「なに?」
垣根「優しくするのもいいけど、お前はスタイルがいいんだ。
それも使え。あと病院行っとけよ。能力使って体に負担かかってんだろ」ボソボソ
滝壺「……わかった」ボソボソ
垣根「ここでは見逃してやるが、それでも『アイテム』が
追ってくるなら殺さなきゃならねぇ。それだけ覚えとけ」
滝壺「へいき。追いかけたりしない。元々そういう指示を受けた訳ではないし」
垣根「でもお前らのリーダーが黙ってるとは思えねぇよ」
滝壺「むぎのは話が分かる人だよ?」
垣根「あと、ハーフっぽい女はどうするつもりだ?盗聴してたなら知ってんだろ?」
滝壺「それにも平気。フレンダは私がちゃんと迎えに行くから」
垣根「まぁ、『アイテム』の内部事情は俺には関係ねぇし……。頑張れ」
滝壺「うん」
垣根「じゃあな。俺はもう行くぜ」
話が終わり垣根は歩き出した。
滝壺は慌てて垣根の袖を掴む。
垣根が振り向くと、名残惜しそうに栞を差し出しだ。
垣根「何だよ?」
滝壺「これ、」
垣根「いらねぇよ。自分で手に入れなきゃ意味がねぇ」
滝壺「……見逃してくれるの?」
垣根「ピンセットは手に入れたんだ。雑魚には用はねぇよ」
垣根は言いながらポケットから何かを取り出した。
小さいケースに入った粉。それは体晶だった。
滝壺は急いで自分のポケットに手を入れる。
そこには何も入っていない。
体晶は滝壺が能力を使用する際に使う特殊な粉だ。
これが無いと滝壺は何も出来ない。
無力な女の子になってしまう。
滝壺「いつの間に……」
垣根「内緒話してる時だよ。これでお前は無害だ。殺す必要はねぇ」
浜面「おい!!!!!」
浜面は二人の会話を遮るように叫んだ。
仲良く内緒話をしたあげく爽やかに別れようとしている。
状況が理解出来ない浜面は、駆け足で二人の近くへ行った。
浜面「何でいきなり見逃すなんて流れになってんだよ」
垣根「うるせぇな。殺さないでやるんだからもっと喜べよ」
浜面「訳分かんねぇよ……」
垣根「説明してやれ。じゃ、今度こそ行くから」
滝壺「うん」
滝壺は垣根の背中を見つめた。
殺し合う、いや、一方的に虐殺されるかもしれなかったのに、恋の応援までしてくれた。
頑張ろう。
滝壺「はまづら、未元物質が私達を見逃してくれた理由、話すね」
浜面「おう……」
滝壺は話した。
垣根が豊崎愛生を大好きなこと。
自分が彼女のラジオ聴いていること。
垣根は同士である滝壺を見逃したこと。
でも、自分の恋愛については一言も言わなかった。
浜面「アイツが、おかえりラジオ大好きだったとはな……」
滝壺「だから栞で交渉してたの」
浜面「なるほど……」
滝壺「はまづらも知ってるんだよね?」
浜面「おう。俺もお便り読まれたことあるんだぜ!」
滝壺「どんな内容?」
浜面「それは……えっと、秘密。そういうお前は?」
滝壺「私もひみつ」
浜面「何だよ……」
浜面はお便りの内容を言えなかった。
オブラートに包んでいるとはいえ麦野への不満だったからだ。
滝壺もお便りの内容を言えなかった。
自分の想いを伝えるのは、もっと別の方法が良かったからだ。
滝壺「はまづら、むぎのを探そう。それで『スクール』から手を引いてもらおう」
浜面「え……それは無理だろ…」
滝壺「平気だよ。私が説得してみる」
そして、滝壺は浜面に抱きついた。
彼女の豊満な膨らみがダイレクトに伝わってきて浜面は赤面した。
浜面「な!?いいいきなりどうした!?」
滝壺「こうしたかったから」
浜面「ええええ」
滝壺「いや?」
浜面「そうじゃないけど、え、えっと……その」
滝壺「?」
浜面「言いにくいんだけど、その…」
滝壺「はまづら、いいの」
浜面「へ?」
滝壺は少し背伸びをして、浜面の耳元で囁いた。
滝壺「あててるから」
浜面「!?」
滝壺「あと、今日のらじお、一緒に聞きたい」
浜面「ももももちもちろんいいですよ」
滝壺が何を言ったか一瞬理解出来なかった。
理解した途端、赤い顔がますます赤くなる。
その様子を見て、満足した滝壺は浜面から離れる。
滝壺「きぬはたを運んであげないと」
浜面「そうだな。麦野も怪我してるかもしれないし、早く行こう」
滝壺「うん」
合流した麦野はブチ切れていた。
二人で麦野を宥めたが全く効果は無い。
そこで滝壺は、麦野と二人で話をすると言って個室に籠ってしまった。
浜面は滝壺が殺されないか、不安だったのだが……
数分後、個室から出てきた滝壺はいつもと変わらずボーっとしていた。
そして、麦野は真っ赤になり俯いていた。
浜面「……どうした?」
麦野「……なんでも、ない」
浜面「?」
とにかく滝壺の説得(?)が通じたのか『スクール』を追うのは中止となったのだった。
その後、絹旗の病院に運んだ。
命に関わるような怪我ではなく、すぐに目を覚ました。
『スクール』を追うのを中止、と聞くと意外そうな顔していたが、不満を言うことなくそれに従った。
そして、滝壺がどこからかフレンダを連れてきた。
フレンダは泣きながら麦野に抱きつき、“ごめんね”と言っていたが、麦野は怒ることなくフレンダを撫でた。
浜面はその光景を見て、胸が温かくなった。
『アイテム』はあまり好きじゃない組織だったけれど、
彼女たちにの為にもっと働いてやってもいいのではないかと思った。
ここまでです。
滝壺が麦野をどうやって説得したかは、滝壺と麦野だけが知っています。
読んでくれてありがとうございます。
滝壺が麦野をどうやって説得したかは、滝壺と麦野だけが知っています。
読んでくれてありがとうございます。
すっごく感謝してますの人か。
待ってたよ!
速攻でブクマ入り余裕でした。
これていとくんが初春ちゃんの声聴いたらいろいろとやばそうだね。
おつんつん。
待ってたよ!
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これていとくんが初春ちゃんの声聴いたらいろいろとやばそうだね。
おつんつん。
乙
ていとくんが初春さんに出会ったらどうなるか気になって眠れませんwwww
ていとくんが初春さんに出会ったらどうなるか気になって眠れませんwwww
>>97
確かに。クラスで知ってるの俺くらいだったしな。
なぜ俺は?
ふふ…二年前からディープな声ヲタやってるからな‥
中三で、あきチャンファンは珍しいかな?
くるってる?それ誉め言葉ね。
イット ア ツルー ワールド
確かに。クラスで知ってるの俺くらいだったしな。
なぜ俺は?
ふふ…二年前からディープな声ヲタやってるからな‥
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