私的良スレ書庫
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元スレ垣根「ただいま」

みんなの評価 : ★
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※この作品はフィクションです。実在の人物、番組、ゲームなどにはいっさい関係ありません※
台本形式だったり地の文だったりします。
ラジオ『背伸び寝転びクッション完備』
ラジオ『あなたに届けるお喋りセラピー』
ラジオ『はじまるよっ!』
垣根「はぁー、木曜日はやっぱりこれだよなぁ…」
ラジオ『豊崎愛生のおかえりらじお』
ラジオ『みなさん、おかえりなさい。豊崎愛生です』
垣根「ただいま」
ラジオ『さぁ、この番組はお疲れモードで帰宅した貴方を私、豊崎
愛生がおかえり!っとお出迎え』
ラジオ『心通わすほっこりトークで、溜まった疲れをゆる~りとほぐしてしまおうというリアルタイムプログラムです』
ラジオ『9月最後じゃん!今日!』
ラジオ『おかえりラジオは半年になりました♪』
垣根「はぁ…冒頭だけでも超癒されるぜ……」
心理「ねぇ、」
垣根「うるせぇなぶっ殺すぞ出てけ」
心理「……」イラッ
心理(ピンセット強奪が迫ってるっていうのに、ふざけないでよ)
スタスタ
バタン
垣根(もっとドアゆっくり閉めろよ。音うるせぇだろクソが…!)
ラジオ『今日はぁ、リスナーの皆さまに何を聞きたいかっていうと』
ラジオ『許せない食べ物!を聞きたいと思います』
垣根「メール送るか」メルメル
垣根「読まれないかなぁ……」
ラジオ『まずはDillの話をしますね!』
垣根「きたきたきた!え、クラムボン!?愛生ちゃんすげぇ!!」
ラジオ『え、じゃあここで一曲お届けしたいと思います』
ラジオ『発売日は11月10日です!』
ラジオ『豊崎愛生でDill!』
ラジオ<~♪~♪
垣根「うおおおお!!なんだこの曲、神曲じゃねぇか…」
垣根「やべぇ…はやくCD欲しいぜ……」
垣根「とかくに感想メール送るか」メルメル
垣根「けいおん!の映画も楽しみだ。舞台挨拶とかあんのか?」
垣根「ちょ、なんだ今の声…可愛すぎんだろ…」
垣根「アキオきたーーー!!!」
垣根「やっべぇwww腹いてぇwww」
ラジオ『番組中に届いたお便りもどんどん読んでいきますね!』
ラジオ『おかえりネーム、“ゼロさん”からです。いつもありがとねー!』
ラジオ『“豊崎さん、ただいま”』
ラジオ『おかえり!あ、これ今日のテーマですね』
ラジオ『“僕の許せない食べ物はシャケ弁です”』
ラジオ『えぇー、なんで?美味しいよねぇ?シャケ弁。私好きですよ?』
ラジオ『“なぜなら、今の上司がシャケ弁が好きだからです”』
ラジオ『“その上司は僕にとても厳しく横暴です”』
ラジオ『“しかもファミレスで店のメニューを頼まずシャケ弁を貪ってます”』
ラジオ『へへっへぇー!すごー!普通、そんなこと出来ないよ、おもしろーい、ふふふぇっ』
ラジオ『“店員は慣れているのか何も言ってきません。そして周りのお客さんの目が痛いです”』
ラジオ『“そのせいでシャケ弁を見ると上司を思い出してしまいます”』
ラジオ『“シャケ弁は悪くないと分かっているのですが、ストレスを感じてしまうので許せません!”』
ラジオ『上司が嫌なんだぁ…。どんなお仕事してるか分からないけど、大変そう…』
ラジオ『厳しくて横暴か…。でも、厳しいっていうのは嫌なことばかりじゃないと思うんですよ』
ラジオ『確かに自分ばかりに厳しいと心折れちゃうよね』
ラジオ『でもねでもね、厳しいっていうのはゼロさんに期待してるからだと思いますよ?』
ラジオ『だってさ、考えてみて』
ラジオ『何も出来ない人には誰も期待なんかしないでしょ?』
ラジオ『上司の厳しさは期待の裏返しなんですよ!』
ラジオ『と、私は思いますねー。お便りありがとうございました!』
垣根「読まれなかったか…。つーかこのゼロってやつ、最近よく読まれてるよな……羨ましい」
ラジオ『次のお便りは、私生活のことですね!これはおんにゃのこからですね!!』
ラジオ『おかえりネーム“つぼつぼさん”ありがとうございます』
ラジオ『“あきちゃんただいま”おかえり~』
ラジオ『“私は今好きな人が居ます。でも何をどうしたらいいか分かりません”』
ラジオ『いいね!いいねこういうの!!…すいません、ちょっとテンション上がっちゃった、ふえへへへ』
垣根「恋バナでテンション上がるなんて……女の子らしいじゃねぇか……可愛い……」
ジオ『“好きな人は同じ職場の人なんですが、職場には魅力的な女の人がたくさん居ます”』
ラジオ『“なので心配です。あきちゃん、助けて”』
ラジオ『おー…恋愛相談ですよ!?恋愛相談!』
ラジオ『おかえりラジオで恋愛相談なんて前代未聞じゃないですか!?』
ラジオ『えーっとねぇ、とにかく優しくしてあげればいいんじゃないですかね!』
ラジオ『ぜんぜん、アドバイスになってないー…すいません。でも応援してるよ!』
ラジオ『良い報告まってるよー!』
ラジオ『こういうお便りもいいですよね。じゃんじゃん送ってきて下さい!』
垣根「……また読まれなかった」
ラジオ『もう一つ!生放送中に届いたお便りです』
ラジオ『おかえりネーム“オジギソウさん”です。ありがとう』
ラジオ『“豊崎さん、ただいマカロニ”。おかえリンゴ!』
ラジオ『“Dill初めて聞きました!すっごい良い曲で興奮しました!”』
ラジオ『“発売日まで待てません!”』
ラジオ『本当にありがとうござます!Dillの感想、たくさん来てますよー』
ラジオ『本当に、本当に、すっごく嬉しいです!』
ラジオ『Dillはヘッドフォン推奨ですよー』
垣根「俺もDillの感想送ったのに…」
垣根「つーか、このオジギソウってやつもよく読まれてるよな…。
しかもおかえりラジオに限ったことじゃねぇし……いいなぁ…」
ラジオ『どんどん、メール読んでいきますねぇ!』
ラジオ『そんなわけで、この番組ではリスナーの皆から話たいこと報告したいことまだまだ募集しています』
ラジオ『ではでは、今週はこれにておしまい!』
ラジオ『豊崎愛生のおかえりラジオ、明日も貴方にとって素敵な一日になりますよーに!』
ラジオ『おやすみなさーい!』
垣根「おやすみ!」
垣根「……」
垣根「もう終わりか…」
垣根「はぁ…一日の疲れが超取れたぜ……」
垣根「でも、またメール読まれなかったな……。ちくしょうッ…!!」
―――翌日
心理「ねぇ、ピンセットのことなんだけど」
垣根「俺が取りに行く。そんでお前は追ってきたやつをどうにかしろ」
心理「ピンセットって一人で持てるの?大きいんでしょ?」
垣根「能力使えば平気だろ。未元物質に常識は通用しねぇからな」
心理「……いい加減ね。そんなので上手くいくの?」
垣根「どうせ他の組織の妨害があんだろ。緻密な計画立てたって無駄だ」
心理「そうだけど…」
垣根「馬鹿共が暗殺騒動に夢中になってれば上手くいく。平気だ」
心理「すぐ気付きそうだけどね。追ってきたらどうするの?レベル5なんて相手にしたくないわ」
垣根「能力使えば逃げるくらいはできるだろ。頑張れ」
心理「はぁ…」
垣根「ピンセットが無事回収できたら合流する。いいな?」
心理「はいはい」
垣根「あと、一番大切なことなんだけど」
心理「なに?」
垣根「当日はおかえりラジオがある。だから時間までには必ず帰るぞ」
心理「…………………………」
垣根「あとは当日まで待つだけだなー。一応ラジオの録音は予約しとくか」
心理「…………………………」
心理「ねぇ、ピンセットのことなんだけど」
垣根「俺が取りに行く。そんでお前は追ってきたやつをどうにかしろ」
心理「ピンセットって一人で持てるの?大きいんでしょ?」
垣根「能力使えば平気だろ。未元物質に常識は通用しねぇからな」
心理「……いい加減ね。そんなので上手くいくの?」
垣根「どうせ他の組織の妨害があんだろ。緻密な計画立てたって無駄だ」
心理「そうだけど…」
垣根「馬鹿共が暗殺騒動に夢中になってれば上手くいく。平気だ」
心理「すぐ気付きそうだけどね。追ってきたらどうするの?レベル5なんて相手にしたくないわ」
垣根「能力使えば逃げるくらいはできるだろ。頑張れ」
心理「はぁ…」
垣根「ピンセットが無事回収できたら合流する。いいな?」
心理「はいはい」
垣根「あと、一番大切なことなんだけど」
心理「なに?」
垣根「当日はおかえりラジオがある。だから時間までには必ず帰るぞ」
心理「…………………………」
垣根「あとは当日まで待つだけだなー。一応ラジオの録音は予約しとくか」
心理「…………………………」
この日をどんなに待ちわびたことだろうか。
今日は、週に一回楽しみしているおかえりラジオの日だ。
違う。間違えた。
今日は、ピンセット強奪計画を実行に移す日だ。
この日の為に、普段はお便りの内容を考えることにしか使ってない頭を必死に回転させたのだ。
アレイスターへの突破口を必ず手に入れてやる。
腐った学園都市を変えるのは、この俺だ。
心理「順調に進んでるみたいよ。みんな暗殺に夢中だわ」
垣根「分かりやすい目くらましだと思ったが、馬鹿が多くて助かったな」
心理「狙撃手が殺された時は、ヒヤッとしたけどね」
垣根「あんなモン飾りだろ。急いで補充したことを気にされるかもしれねぇけど」
心理「そしたら厄介なんじゃない?施設で足止めされるかもしれないわよ」
垣根「狙撃手をやったのは『アイテム』の連中だ。来るとしたらアイツらだろうな」
戦力ねぇしどうにでもなんだろ、と余裕そうに言う。
そんな彼の横顔は心理定規の不安を和らげさせた。
心理定規は垣根のことが嫌いだ。なぜならキモいからだ。
声優のラジオを熱心に聞く垣根の姿はキモオタそのもので吐き気がする。
前に握手会に行こうとしたが外出許可がおりず本気で涙していた。
これらの行動は、唯一の長所である顔をもってしてもカバー出来ないほどに気持ち悪い。
心理(いつもこういう顔してればいいのに…)
垣根「やべぇな。今すっげぇ愛生ちゃんの声が聞きてぇ」
心理(死ね)
垣根「そろそろ時間だ。もし他の組織が居たら俺がどうにかする」
行くぞ、と声を掛けられ心理定規は頭を切り替える。
気持ち悪い声オタだけれど、頼りになるのだ。
垣根が学園都市の何が気に喰わないかは知らない。
垣根が学園都市の何を変えたいのは知らない。
でも彼が命をかけてこの街に革命を起こすというのなら、少しくらいは手伝っても良い。
心理「油断しすぎて殺されたりしないでよ」
垣根「ねーよ馬鹿」
下っ端が待機させているステーションワゴンに乗り込む。目指すは素粒子工学研究所。
車の中では“たくさんの奇跡が待ってる こんな何気ない一日”と優しい声が唄っていた。
こんな感じで声オタていとくんの日常を書いていく物語です。
読んでくれてありがとうございます。
読んでくれてありがとうございます。
乙!
この感じ…初春「むしろ、すっごく感謝してます!」の作者?違ったらごめん
この感じ…初春「むしろ、すっごく感謝してます!」の作者?違ったらごめん
警備が手薄になった施設に侵入するのは簡単だった。
張り合いがなくて拍子抜けしたが、計画通りに事が進んでいる証拠だ。
垣根の端整な顔に笑みが浮かぶ。
この調子ならおかえりラジオまでには余裕で帰れそうだ。
と考えた瞬間、ドゴォンという音と共にドアが吹っ飛んできた。
いやドアだけではない。普通では考えられないほどの強力な光線も飛んできた。
その全てを防ぎながら垣根は舌打ちする。
垣根(そんなに上手くはいかねーか…。つーかあいつは何やってんだ)
垣根はスクールの構成員の男の顔を思い浮かべる。
垣根(死んだのか?まぁ、そんな強いヤツでもねぇし仕方ないか)
目をやると、明るい色の半そで秋物コートを着た女が立っていた。
自分と同じレベル5、第4位の麦野沈利。
垣根「何だ?新手のナンパか?」
麦野「死ねよクソ野郎。その荷物置いてさっさと失せろ」
垣根「いくら顔が綺麗でも言動が汚いと意味ねぇぞ」
麦野「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇホスト崩れ」
明確な殺意を持った瞳が垣根を射抜く。
それでも余裕そうにしている態度は余計に麦野をイラつかせた。
麦野「暗殺騒動は囮でそれが本命か。手の込んだことしてるのね」
垣根「それに気付いてわざわざ来てくれるなんて、お前って俺のこと好きなわけ?」
からかうように垣根が言う。
ブチブチィ、という音が聞こえそうなくらいに麦野の顔が歪んだ。
麦野「んなわけねぇだろぉぉぉぉ!!!テメェみてぇなチャラ男に発情する女が居るわけねぇだろうがぁあぁぁぁ!!!」
麦野は垣根に向かって、光線を放つ。
ズバァと空気を切り裂きながら光線は雨のように垣根に降り注いだ。
大きな音を立てて壁が崩れていく。
攻撃を防いだとしても、瓦礫の下敷きになれば死んでしまうだろう。
いつもならこれで戦闘が終わる。しかし今日の相手はいつもと違うのだ。
垣根「すげぇな。研究所倒壊するぞこれ」
関心したように垣根は言う。
傷など一つもついていない。おまけに先ほどの余裕そうな顔のままだ。
攻撃前と何一つ変わっていない垣根の様子を見て麦野は唇を噛み締めた。
麦野(くそっ……2位と4位とじゃここまで力の差があるのかよ……!)
自分より上の相手と戦うことは前に一度あったけれど、目の前の男はその時とは比べ物にならない。
攻撃を防ぐ時に不自然な風が生じるが、彼の能力はそんなものではないだろう。
垣根「次はこっちの番だよな?」
そう言った瞬間、大きな瓦礫が垣根に向かって飛んできた。
しかし垣根が潰れることはなく代わりに瓦礫の方が粉々に砕けた。
垣根「不意打ちかよ。マナーわりぃな」
絹旗「人を殺すのにそんなもの超いらないですから」
垣根「それもそうだな」
瓦礫が飛んで来たほうに目を向ける。
そこには髪の短い少女が立っていた。
絹旗「流石は第2位ですね。私と麦野を前にしても超焦らないなんて」
垣根「焦ってるぜ?二人の女から、こんなに激しく迫られたのは初めてだからな」
絹旗「超黙って下さい」
麦野の殺意が膨らむ気配がした。
気が短いなんて女として致命的な欠点だろう。
俺の愛生ちゃんを見習え。
垣根(どうするか…。こいつらは別にどうにでも出来る。でも戦闘に巻き込まれてピンセットが壊れたらまずいな)
垣根(ここは逃げるか。ピンセット回収した後にこいつら潰せばいいし)
垣根(そういや、Dillの初回版は予約したけど通常版はどうするかな…?どうせ欲しくなるだろうし予約しとくか)
アイテムの二人に緊張が走る。
垣根は何かを考えている。自分達をどう処分するかでも考えているのかもしれない。
無防備な行動だが、垣根と二人とではそんな余裕を与えるほどに戦力が開いている。
麦野(クソ野郎が…、何仕掛けて来やがる…)
麦野はいつでも反応できるように、全神経を垣根に向ける。
油断すれば一瞬で殺されるだろう。
しかし垣根は二人に背を向けると、そのまま走って行った。
不意の行動に麦野は頭がついていかなかった。
どう考えても向こうが有利なこの状況で、垣根が逃げ出すなど思わなかったからだ。
麦野「に、逃げてんじゃねぇぞ!!こっち来て戦え租チン野郎!!!」
光線を打ちながら垣根を追いかける。
攻撃は背中に飛んでいくのに、一つも当たらない。
垣根の周りだけが綺麗に崩れていく。
麦野(私の攻撃を防ぐのに見る必要はないってのか…!)
絹旗「麦野、超待って下さい!無暗に攻撃しては私たちも超危ないです」
そんな声を麦野は無視した。
確かに施設は半分くらい壊れていつ全倒壊してもおかしくない。
しかしそれで垣根が死ねばラッキーなのだ。そんなことありえないが。
もう一発撃ち込んでやろうと垣根に標準を合わせていると、不意にこちらを向いた。
麦野(不味い!何かしかけて、)
そう思った瞬間、麦野は床に叩きつけられていた。
何をされたかは分からない。自分が攻撃されたことだけしか分からなかった。
垣根「ごめん、車走らせるまで大人しくしててくれ」
軽い口調で言う。命を狙われている自覚が全くないようだ。
そんな態度は麦野をさらにイラつかせた。
麦野(いつ車なんか呼びやがった…!まさか、逃げながら連絡取ってたのかよ…!)
床に転がったまま、麦野は舌打ちした。
戦力の差が開いていると分かっていたが、ここまでとは。
悔しい。ぶち殺したい。
殺意だけが麦野を支配する。
麦野「絹旗、立て。追いかけるわ」
返事がない。
どうやら小柄な少女は麦野より吹っ飛ばされてしまったようだ。
それでも心配する暇も探す暇もない。
麦野(そういえばフレンダはどうした?建物に潰されて死んだか?)
建物に入ってから一回も会ってない同僚の顔を思い出した。
まぁいい。今はあっちが先だ。
考えながらゆっくりと立ち上がる。それと同時にステーションワゴンが走り出した。
車の中の垣根と目が合った。
手を振りながらウィンクしている。
麦野(あの野郎っ……!!!!)
麦野は後を追う為に走り出した。
しかしステーションワゴンはスピードをあげ、アイテムの下っ端と緑のジャージの女の横を通り過ぎて行った。
垣根が窓から後ろを見ると、アイテムがこちらを追いかけようとしていた。
前に向きなおすとタイミング良く垣根のポケットに入った携帯が震えた。
そんな様子を後ろの席から見ている少女が一人。
フレ(ど、どうしよう…)
アイテムの構成員であるフレンダはピンチだった。
麦野達と研究所に入ったのはいい。
別れてスクールを探していたのが……
フレ(変なドレスの女に捕まっちゃうし、しかもあいつの言うことに逆らえなかったし!!)
そのドレスの少女に車に乗れと言われて、スクールのステーションワゴンに乗っているのだ。
前に座っている男は電話で話している。
第2位の垣根帝督。自分がどうにかして勝てる相手じゃない。
垣根「あ?適当に足止めしとけ。殺してもいいから」
フレ「……」
垣根「え?なんで捕まえさせたかったって?」
フレ(やばい!これって私の話じゃん!!!)
垣根「決まってんだろ」
言いながら垣根が振りかえる。
鋭い眼差しと目が合い、フレンダは心臓が停まりそうになった。
垣根「こいつにアイテムの隠れ家を聞き出すためだ」
フレ(あーーーー!!!麦野!絹旗!滝壺!助けてーーーー!!!!)
垣根「じゃあな」
ブチッっと電話が切られる。
ガタガタと震えるフレンダを無視して、垣根は運転手に声をかけた。
垣根「おい、曲流せ」
運転手「わかりました。本当に好きですよね」
垣根「好きじゃねぇよ。愛してるんだ」
運転手と垣根の会話などフレンダの耳には入ってこない。
後ろを見るとアイテムの車が鉄球で潰されている。
息を飲んでフレンダは窓に張り付いた。
フロントガラスから脱出したらしく麦野、滝壺、浜面の三人がバラバラに走る。
先ほど自分を捕まえたドレスの女が浜面の後を追いかけるのが見えて、ホッとした。
あの男なら死んでも問題ない。
フレ(結局私はここで終わりって訳よ……麦野の胸、揉みたかったな…)
組織のリーダーの顔、仲間の顔を思い浮かべた。
きっと皆とはもう会えない。
そしてファミレスで好きなことしながら皆で駄弁るのも出来ないし、
大好きなサバ缶も食べることは出来なくなる。
そう思うと涙が溢れてきた。
垣根「泣いてんじゃねぇよ」
いきなり声をかけられ肩がビクッと揺れる。
フレンダは涙目で垣根を見つめた。
垣根「別に殺すなんて言ってないだろ」
フレ「……へ」
意外すぎる言葉に首をかしげる。
この言葉が本当であるかどうかは分からないが少しだけ肩の力が抜けた。
垣根「アイテムの隠れ家と構成員、それぞれの能力をきちんと教えてくれたら、生かしてやってもいいぜ?」
フレ「え……えっと……」
垣根は意地の悪そうな笑みを浮かべながら、フレンダを見た。
思った通りかなり動揺している。
アイテムの中で一番口が軽そうなやつを選んだが、どうやら正解だったみたいだ。
教える気の無い奴はすぐに否定を口にする。
動揺するのは仲間を売ろうかどうか考えてる証拠だ。
垣根「どうすんの?」
フレ「そ、それは、できな」
垣根「へー」
プシュッと、音がした。
フレンダが音の方を見ると小さい穴が空き煙が出ている。
垣根「サイレンサーってすげぇな。本当に音が全然しねぇ」
運転手「弾、無駄にしないで下さいね」
垣根「分かってるよ」
その会話でフレンダはようやく気付いた。
垣根が銃を撃ったのだ。
垣根「車の中が血まみれになるのは気分が良くねぇ。話してくれると助かるんだけど」
ゴリッと銃口がおでこに押し付けられる。
フレンダはごくりと唾を飲んだ。
垣根「黙るなよ。それとも質問忘れたのか?」
フレ「えー…っと、その……」
長いこと暗部で働いているが、ここまでピンチになったのは初めてだ。
頭に銃を向けられるなんて数時間前は考えてもいなかった。
もし、言ったらどうなるのだろう。
きっと麦野はそんなことを許さないだろう。間違いなく殺される。
しかし言わなくても殺されるのだ。
先ほど垣根は正直に言えば生かすと言った。
それが本当ならば、正確に情報を言ってしまえばよい。
でも、そのせいでアイテムのメンバーに危機が及ぶ。
でも、言わなければこの場で殺される
フレ(どうしよう……、でも、どっちにしろ死ぬんだから、)
死ぬのなら、麦野に殺されよう。
ここで訳の分からない男に殺されるよりかはマシだ。
フレ「分かったって訳よ……。教えるから銃をおろして」
垣根「賢い選択だ。隠れ家はこれに書け」
ボールペンと紙が渡される。
全部書けよ?と念を押された。
フレンダは震える手で隠れ家の場所を記入した。
情報を伝え終わった後、垣根は安心したように言った。
垣根「前に入手した情報と違う所はないのか。良かった良かった」
フレ(知ってたなら、私に聞かなくてもいいじゃん!!)
いちゃもんをつけたかったが、そんな勇気と度胸はない。
生かして貰えるというのに垣根の機嫌を損ねるようなことなど出来なかった。
垣根「もう少ししたらお前はおろしてやるよ」
フレ「……」
垣根「後は好きにしろ。つーか早く曲かけろよ」
運転手「あ、すいません」
運転手がCDの再生ボタンを押す。
暗部の車内には相応しくない優しいメロディーが流れ始めた。
優しく甘い女性の唄声が三人を包む。
フレ(あれ、これって……もしかして、)
フレンダはその曲を知っている。最近、大好きでよく聞いている曲だった。
歌手は知らないけれど、作詞作曲の人のファンでmp3に入れているのだ。
フレ「この唄が人生最後の曲か……悪くないって訳よ……」
ポツリと独り言をつぶやく。
聞き入るために目を瞑ると、涙が頬に流れた。
垣根「おまえ、いま、なんつった?」
フレ「へ?」
垣根が不意に話しかけてきた。
表情は驚愕に染まり、声は震えている。しかしどこか嬉しそうだ。
フレ「今って…」
垣根「この唄、知ってんのか?」
フレ「え、う、うん」
フレンダは訳が分からなかった。この男はなんでこんなに動揺しているのだろうか。
今流れている曲に何かあるのか?
この曲に“スクールの機密事項”が隠されているのだろうか…。
フレ(もし、そうだったら形勢逆転のチャンスがあるかもしれない!結局、まだ死ねないって訳よ!)
フレンダはこれでも暗部の人間だ。今まで敵の不安や動揺を利用して生き延びてきたのだ。
今回だって、頑張ればどうにかなる、と自分に言い聞かせて涙をとめた。
垣根「なぁ、お前、愛生ちゃん知ってるのか?」
フレ「…………は?」
誰だそれ。
恥ずかしそうに聞いてくる垣根を見た。もしかして、歌手の名前だろうか。
フレンダは自分のmp3を取り出し操作し始めた。
作曲者のカテゴリ“谷山浩子”をクリックすると、豊崎愛生という歌手名があった。
フレ「あんたの言ってる愛生ちゃんって豊崎愛生のこと?」
垣根「ちゃんをつけろよデコ助野郎!!!!」
フレ「ご、ごごごめんなさい!」
光の速さでフレンダのひたいに銃口が突き付けられた。
垣根は今にも引き金を引きそうだ。怒りで手が震えている。
フレ「ちょおおおお落ち着いてってわけよ!今は豊崎愛生ちゃんの話じゃないの!?」
顔も知らない女性の名前をフレンダは口にした。
きっと彼女がこの状況を打破するキーとなるだろう。
フレ「銃なんてあったら愛生ちゃんの話なんて出来ないでしょ!」
その言葉を聞くと垣根は満足そうに笑い銃をおろした。
垣根「お前が知ってるとはな。アイテムにも話が分かるやつが居るじゃねぇか」
フレ「あー……実は知らなくて、」
垣根「え」
垣根の嬉しそうな顔は一瞬で曇った。
絹旗が普通に面白い映画を見終わった時の顔と同じだ。彼は落胆しているらしい。
フレ「この曲作ってる人のファンって訳よ!みんなのうたとかでよく流れるんだけど」
垣根「あ?作曲者?気にしたことねぇな」
言いながら、垣根は歌詞カードを取り出した。
なんですぐ出てくるんだ。
垣根「谷山浩子か…。もしかして、まっくら森の歌とか作ってる人?あれトラウマなんだよな…」
フレ「そう!だから“何かが空を飛んでくる”を知ってるの」
垣根「なるほどな…」
垣根は俯いて難しそうな顔している。
そして、顔をあげフレンダを真っ直ぐ見つめた。
垣根は少し緊張した声でフレンダに問いかけた。
垣根「どう思った?」
フレ「何が?」
垣根「作曲者が好きなお前は、愛生ちゃんの唄声を聞いてどう思った?」
フレンダは別に声など気にしていなかった。
歌詞と曲調が好きなだけで、あとはどうでも良かったからだ。
しかしこの男は“豊崎愛生”という女性が大切らしい。
ならば、それを利用しない手はない。
フレ「結局、素晴らしいって訳よ!谷山さんの曲と愛生ちゃんの唄声は相性抜群だと思うわけ!!!」
垣根「そうだよな!お前はやっぱり話が分かるやつだよ!」
フレ「サビに入る前の所が好き。可愛いと思う」
垣根「もうちょっとでその部分だな」
CD<指をくわえてみーてるだけー♪
フレ垣根「「ライッ♪」」
フレ「そうそうここ!結局、最高って訳よ!」
垣根「分かる!すっげぇ分かる!!お前いい奴だな!!」
垣根は暗部のリーダーを務めている男とは思えないほどの眩しい笑顔だった。
鋭い眼光は消え失せ、少年のような無邪気の笑みだ。
垣根「ファン意外の人からそう言って貰えるなんてすっげぇ嬉しいぜ!」
フレ「ファン……?えっと、その豊崎愛生ちゃんって何なの?」
垣根「天使だよ」
フレ「は?だから、誰?」
垣根「豊崎愛生(とよさき あき、1986年10月28日 - )日本の声優・歌手・女優。
ミュージックレイン所属。徳島県出身。血液型はAB型。身長169cm」
フレ「え?は?」
垣根「来歴:高校生時代は地元徳島のローカル局四国放送(JRT)のテレビ番組『土曜はナイショ!!』に出演していた。
なお、その縁で2008年6月12日放送の『530フォーカス徳島』の取材を受けている。
2005年から2006年にかけて開催された「ミュージックレイン スーパー声優オーディション」に応募・合格し、
声優としてデビューする。声優を目指したきっかけとして、『土曜はナイショ!!』に届いた視聴者からの手紙で、
それまで嫌悪していた自分の声を励みにしてくれる視聴者の存在を感じ、「声の仕事に就いて恩返ししたい」
と思ったことを挙げている。
テレビアニメでは、2007年の『ケンコー全裸系水泳部 ウミショー』(蜷川あむろ役)で
自身初のレギュラーを獲得するとともに主役デビュー。以降、名前のある役を演じるようになるとともに、
『しゅごキャラ!』シリーズ(スゥ役)といった長期レギュラー作品へも出演するようになる。
2009年2月15日に開催された「ミュージックレインgirls 春のチョコまつり」において、
同じミュージックレイン所属の寿美菜子・高垣彩陽・戸松遥とともに声優ユニット「スフィア」の
結成を発表(所属レーベルはGloryHeaven)。
2009年4月に放送されたアニメけいおん!の平沢唯役で知名度を大きく上げる。
自身23歳の誕生日となる2009年10月28日に、『love your life』で歌手デビューを果たした。
本人曰く、「偶々、誕生日の10月28日が水曜日だったからデビューの話が進んだ」とのこと。
2010年3月6日に発表された第4回声優アワードにて、新人女優賞を受賞すると同時に、
テレビアニメ『けいおん!』の劇中にて結成したユニット"放課後ティータイム"として、
日笠陽子、佐藤聡美、寿美菜子、竹達彩奈とともに歌唱賞も受賞[5]。
アニメージュ第32回アニメグランプリ声優部門においてもグランプリを受賞している(出典wikipedia)」
フレ「ちょ、待って!」
垣根「なんだよ。俺はお前の質問に答えただけだぜ?」
フレ「……声優なの?」
垣根「そうだよ!今をトキメク女性声優さんだよ!」
垣根「顔も可愛いし、演技も上手い!ラジオのトークも面白い!」
垣根「イラストを描いたり、ゲーム趣味だったり、料理が上手だったり、女の子としても超魅力的だ!!!」
垣根「八重歯と笑顔がチャームポイントなんだよ!」
垣根「巨人とか言われるけど、180㎝ある俺には関係ねぇ!むしろヒール履いて横に立ってほしいぜ!!」
垣根「愛生ちゃんのせいでアニメも大好きになっちまったよ!これは愛生ちゃんに責任とって貰うしかねぇ!!!」
垣根「これから、たくさん活躍するに決まってる!でも無理して倒れたりして欲しくないぜ…」
垣根「それに、」
フレ「すとーーーっぷ!!分かった!分かったから!」
垣根「そうか。なら良い。それでな、」
フレ(まだ、続けるんかい!?)
愛のトークは続けられた。
フレンダはマシンガントークに相槌を打ちつつ全てを聞き流していた。
途中で携帯に電話が着たが“ばーか死ね”と一言だけ言うとブチリと切り、キモい話は続行された。
フレンダはもう垣根に恐怖を感じていなかった。その代わり心の底から気持ち悪さを感じていた。
この日、フレンダは生まれて初めて“声オタ”と接したのだった。
垣根「そろそろ降りろ」
フレ「……話に満足したから用済みなの?」
垣根「ちげぇよ。ここに隠れてろ」
垣根から小さい紙が渡された。
広げると住所と簡単な地図が描かれている。
フレ「は?何言ってんの?」
垣根「このままじゃお前、あの怖いお姉さんに殺されるだろ」
フレ「あー…麦野のことね…」
垣根「だから、そこに身を隠せって言ってるんだよ」
フレ「へ?」
その言葉にフレンダは目を見開いた。この男は一体どういうつもりなのか。
自分を生かしておいて何か価値があるのだろうか?
絹旗や麦野のように戦闘力なんかない。滝壺のように便利な能力もない。
生かしておくメリットはない筈だ。
フレ「ど、どうして?これってスクールの隠れ家じゃ…」
垣根「そうだけど?」
フレ「だって、私はアイテムで、あんたの敵じゃない」
垣根「そうだな。でも、」
垣根は一呼吸置いてから言った。
垣根「愛生ちゃんの魅力を分かるやつを、見殺しにできる訳ねぇだろ」
.
それはとても優しい声で心底フレンダを心配していると分かる。
しかし、台詞が台詞だ。
“お前が可愛いから”だの“運命を感じた”だの言われたら、
ロマンスが始まったかもしれない。けれど残念ながらそれはない。
正直ありがたいとは思わなかったが、フレンダは顔を引きつらせてお礼を言っておいた。
垣根「じゃあなー。そこの隠れ家におかえりラジオの録音したやつあるから聞いてていいぜー」
意味の分からないこと言いながら上機嫌に去って行った。
殺されなくて良かったけれど、なんだか素直に喜べなかった。
フレ「なんだったの。……結局、意味分からないって訳よ」
フレ(麦野達に連絡した方がいいかな、…って携帯はドレスの女に取られたんだった!)
今の地点からだとアイテムの隠れ家は遠い。
しかし他に行く宛てなどない。
はぁ……とため息をつくと、垣根に渡されたメモの住所に足を向けた。
あの方か
前作からファンでした!
乙
ところでこれもしかして帝春?
前作からファンでした!
乙
ところでこれもしかして帝春?
レスありがとうございます。
今のところ、このSSは恋愛ものになる予定はありません。
初春は出てきますが帝春にはなりません。
期待してる人はすいません。
投下します。
今のところ、このSSは恋愛ものになる予定はありません。
初春は出てきますが帝春にはなりません。
期待してる人はすいません。
投下します。
フレンダと別れた垣根達は第四学区に居た。
この学区は料理店が多く、食品に関する施設も多い。
それらの一つである食肉用の冷凍倉庫の中にステーションワゴンを隠していた。
運転手「いいんですか?『アイテム』の構成員を生かしておいて」
垣根「いいんだよ。愛生ちゃんの魅力を理解できるヤツに悪人は居ない」
運転手「……」
垣根「でも『アイテム』の存在は潰さないとな。あいつらの役割は計画の邪魔になるだろうし」
運転手「役割……確か、上層部や極秘集団の暴走を防ぐこと、でしたっけ?」
垣根「そうだ。しかもプライド高そうな女がリーダーやってんだ。きっと地獄の底まで追いかけてくるぜ?」
運転手「……厄介ですね」
垣根「力は大したことねぇから平気だろ。それに隠れ家も分かってる」
運転手「隠れ家はたくさんありますけど、目星はついてるんですか?」
垣根「下っ端に全ての隠れ家を見張らせてんだよ。『アイテム』の連中が来たら俺に連絡が入る」
垣根は会話を打ち切り強奪したピンセットを開け、小さくするために組み直し始めた。
壊してしまうんですか?と部下に問われたが手を休めることなく作業に集中した。
そういえば、あの女はおかえりラジオを聞いているだろうか?
でも録音だとリアルタイムでメールを送ることが出来ない。
もしかしたらあの女は歯がゆい気持ちでラジオを聴いているかもしれない。
そして放送中にメールを送りたいが為に、おかえりラジオを聴き始めるのだろう。
やったね愛生ちゃん、リスナーが増えたぜ!
とか考えていると、バギン!という鋭い金属音が倉庫に響いた。
倉庫の分厚い壁が崩れて外から光が差し込んでいる。
光は差し込んでいるけれど、そこには誰も立っていなかった。
垣根(誰だ?思ったよりも早く見つかったな。もしかしてアイテムの連中か?)
運転手「ぎゃっ。ぐああああああああああああああああッ!?」
いきなり運転手が悲鳴をあげた。
目を向けると、運転手の顔の皮膚や脂肪、筋肉が順番に消えていく。
最後には脳みそもなくなり、服と骨だけになって地面に崩れた。
垣根(おいおい、なんだこのグロいのは。
やべぇな…愛生ちゃんがこんなの見たら泣いちまうだろ……優しく抱きしめてあげてぇな…)
馬鹿げた妄想にニヤけそうになったが、敵は近くに居るので不抜けた顔は晒せない。
垣根はわずかに眉をひそめてニヤけるのを我慢した。
しかし人影は一切見えない。中年男性の声だけが倉庫に響いてきた。
男「垣根帝督か。レベル5をここで失うのは惜しい事だ」
垣根(……どこに居やがる。テメェの気持ち悪い声なんて不愉快なだけだクソ野郎。愛生ちゃん連れてこいコラ)
垣根は全方位に注意を向けながら、ピンセットを起動した。
垣根「……『グループ』か、それとも『アイテム』か」
男「残念だが、私は『メンバー』だ。時に垣根少年、君は煙草を吸ったことがあるかね?」
垣根「……」
男「箱から煙草を取り出す時、指でトントンと叩くだろう?私は子供の頃、あの動作の意味が分からなかった」
垣根(……愛生ちゃんに俺のをトントンして貰いてぇな)
男「しかしとにかく見栄え良く思えたんだな。だから私は、菓子箱をトントンと叩いたものだ」
垣根「ああ?」
男「今の君がしているのは、そういう事だと言っているのだよ」
垣根「ナメてやがるな。よほど愉快な死体になりてぇと見える」
ピンセットからピッと電子音が鳴る。
モニタに目をやると、採取した空気中の粒子の中に機械の粒のようなものが見えた。
電子顕微鏡サイズの世界の中に明らかな人工物が混じっている。
垣根「ナノデバイスか。人間の細胞を一つ一つ毟り取っていやがったんだな」
男「いや、私のはそんなに大層なものではないよ。回路も動力もない。
特定の周波数に応じて特定の反応を示すだけの、単なる反射合金の粒だ」
垣根(つまんねぇ話だな。さっさとぶっ殺したい…)
男「私は、“オジギソウ”と呼んでいるがね」
垣根「!!!!?」
垣根は酷く動揺した。
“オジギソウ”
その単語には酷く聞き覚えがあった。
スフィアのラジオでも、らじおん!でも、おかえりラジオでも、
愛生ちゃんが携わっているラジオでは必ず耳にするラジオネーム。
垣根が尊敬すると同時に嫉妬しているリスナーの名前だ。
垣根(馬鹿な…!こいつがあの“オジギソウ”なのか…!)
垣根が動揺している間も中年男は何かを言っていたが、何も耳に入ってこなかった。
垣根(いや、たまたまだ。暗部に所属してる人間のお便りなんかが、頻繁に読まれるわけがねぇ……!!!)
ザァ!!という音が垣根をの周囲を取り囲む。
戦闘から思考が離れていた頭がようやく現実に引き戻された。
辺りを見たが、逃げ道を見つける前に襲いかかってくる。
垣根(これが“オジギソウ”?…なんだ、大したことねぇな……ラジオでは無双してるくせによ)
中年男性の声が聞こえる。
芸術に絶望したのは12の冬だったとか、見所が多くて疲れるだの、数式が大好きだとか、アレイスターの犬でもいいだの……。
内容は興味を持てなかったが、彼の言い廻しは耳触りが良かった。
頭の良い人物なのだろう。でなければ、こういう話し方はできない。
垣根(こいつが“オジギソウ”だったら納得できるな……。頭使って思わず読みたくなるようなお便り送ってんだろ……)
垣根(クソッ……もしそうだったら秘訣とか聞きてぇけど、こいつ敵だしな……)
垣根(つーか、今はこの状況をどうにかしねぇと)
オジギソウを能力で防いで垣根は思考を巡らす。
反射合金の粒。
目に見えないほどの小さい粒が空気に乗って細胞を毟り取るなど恐ろしいな、と思う。
だが空気中の粒子と共に滞空しているのなら、簡単に風に流されてしまうだろう。
垣根(……だったら、爆風でも起こしてどっかにやっちまえばいいだろ)
別に未元物質で防ぎながら戦うことも出来たのだが、それはめんどうすぎる。
まとめて薙ぎ払ってしまった方が簡単だ。
垣根(『メンバー』のクソ野郎は完全に油断してやがる。……チャンスだな)
この世にはない物質を使い、大爆発を起こす。
ゴッ!という音と共に倉庫の壁が粉々に吹き飛ばされた。
あまりの爆発力に周囲のビルが崩れ、人々が逃げ惑っている。
そんな光景には目もくれず、垣根はゆっくりと歩き出した。
外に出ると驚いた顔をした中年男性が居る。
こいつが『メンバー』なのだろう。
垣根「よぉ、絶望したのは12歳の冬っつったよな」
目の前の中年男性は小型端末を慌てて操作するが何も起こらない。
オジギソウを遠くへ追いやるのは成功したみたいだ。
それでも男性はカチカチと操作を繰り返す。
もちろん反応が無く、彼は不思議そうにキョロキョロしている。
いい年した大人が慌てるのは、とても滑稽だ。
可笑しくて我慢できす、垣根は笑いながら言った。
垣根「もう一度ここで絶望しろコラ」
.
目の前の中年男性は諦めたようにため息をついた。
小型端末を白衣のポケットにしまい、垣根に向き直る。
垣根「ずい分、潔いじゃねぇか?さっきまで慌ててたくせによ」
男「現状を打破する策がなければ何をしても無駄だからな。残念だが私に切り札はない」
垣根「へぇ、殺されるのが怖くねぇってのか?」
男「怖くない訳ではない。しかしこんな生き方を選んだ以上は仕方の無いことだ」
垣根「そりゃそうだな。じゃあ死ね」
男「少し待ってもらっても良いかな?垣根少年」
垣根「あ?何言ってんだテメェ」
男「電話がしたい。安心したまえ、仲間を呼んだりなどしない」
垣根「……呼んでも意味ねぇから、別にいいけどよ」
男「君は案外優しいのだな」
垣根「うるせぇな。早くしねぇと殺すぞコラ」
男は薄く笑いながら、携帯電話を取り出した。
使い古した黒い携帯電話は彼の雰囲気に似合っている。
垣根(何のつもりだ?もしかして家族とかに電話すんのか?それって俺が悪役みたいじゃねぇか……)
男「あぁ、私だ。いや、平気だ。ただ、頼みたいことがある」
垣根(最後の頼みなんてよっぽど大切なことなんだろうな。俺には関係ねぇけど)
男「来月の件についてだ。あぁ、そうだ。私が行くと言ったが行けそうにない」
通話をしている男を垣根は警戒しながら見つめる。
男は実に残念そうな顔をしながら通話を続けた。
男「別に曲を聞くことが出来なくても、売上に貢献できれば良いのだよ」
垣根(……曲?来月の件?売上?…………まさか、な)
一つの予想が垣根の頭を過る。
いや、でもありえない。こんな男性が、まさか……。
垣根が自分の考えを否定していると、男性の口から決定的な言葉がはきだされた。
男「……いいさ、“オジギソウ”の名は君が使いたまえ」
垣根「!?」
通話を終了すると男は携帯をしまった。
ゆっくりとした動作で、再び垣根に向き直る。
男「電話が終わるまで待つとは暗部のリーダーらしからぬ行為だな」
垣根「テメェ……」
男「どうした垣根少年。敵は速やかに処分するのがこの世界の基本だろう?遠慮はしなくていい」
垣根「………」
男「垣根少年?」
垣根「……」
男「……」
垣根「……」
男「……」
垣根「背伸び寝転び?」
男「クッション完備!」
垣根「あなにとどける?」
男「お喋りセラピー!」
垣根男「「はじまるよっ!」」
垣根「……」
男「……」
垣根「……おまえ、まさか、本当に、」
男「君がそのフレーズを知っているとは想定外だったな」
垣根「おま、お前のラジオネームは、も、もしかして」
男「“オジギソウ”という」
垣根「!!!!!!!!!!!」
男「ずい分驚いているな垣根少年。私は運が良く人より多く読まれているから一度くらいは耳にしているのかな?」
垣根「一度なんかじゃねぇ……!!」
男「……」
垣根「愛生ちゃんが出てるラジオを聞いた限りじゃ絶対に耳にする名前だ!!」
男「……」
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