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    元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★★×5
    タグ : - とある魔術の禁書目録 + - 上条当麻 + - 御坂 + - 御坂美琴 + - 麦野沈利 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    751 = 719 :

    今日はここまでです
    >>730でsaga忘れがありましたが、伏字の下は分かってしまうと思うので特に訂正はしません

    食蜂さんは仕方がないのでテンプレ的お嬢様のまま継続と言うことにします
    いつか別の作品で小悪魔な食蜂さんも書けると良いな

    次回は一端覧祭三日目、妹達とのお買い物メインの話の予定です
    だいたい一週間以内をめどに頑張ります

    それではまた

    752 :

    おつおつ
    このスレは生きる糧やで……
    次も期待してますぜ

    753 :


    相変わらずのハイクオリティと分量ですね

    754 :

    おつ
    木山先生さりげなく手がかりおいていったなww

    755 :

    大丈夫だ、すでに多種多様な心理掌握さんが量産されているんだ問題ない
    ここの食蜂さんはメチャ好みであります乙!

    756 :



    相変わらず面白い

    次も期待

    757 :

    乙!
    待っていたぜぃ!

    ほんとクオリティー高い。
    毎回が楽しいわ。

    これから、このSSでは食蜂さんどうすんだろ?
    オリキャラのままでいくんかね?

    とにかく次も期待。

    758 :

    自分の書いてるスレほっぽって見に来てしまうスレNo.1

    759 :

    乙なんだよ

    760 :

    乙!

    木山先生素敵!

    761 :

    一端覧祭早く原作でもやってほしいなあ
    もう美琴の活躍はそこくらいでしか見られなそうだし…

    762 :

    本編でも着々と参戦フラグ立ててますがな
    崩壊した自分だけの現実とか、素養格付の引き合いに出されるとか

    763 :

    >>761
    新約1巻でインちゃんと対比されてたことを考えるとそれはないと思うから
    安心して新約の続きを待つんだ

    764 :

    次に出る新刊はステイルSSの再録らしいが、美琴出ないよな……

    765 :

    再録本のステイルSS、火星SS、初春SSのうち初春SSで
    ラストにちょこっと出てくるだけじゃなかったかな

    766 :

    こんばんは
    なんとかギリ一週間間に合った……かな?

    ついに新約二巻発売決定ktkr
    今から待ちどおしいですね、展開そげぶされそうですけど
    このスレは続いてるかも終わってるかもわからん状況ですが

    というわけで今日の分を投下していきます

    767 = 766 :


    12月3日。

    親船最中は自らのオフィスで、来客の為に紅茶を淹れていた。
    応接セットに腰かけているのは金髪の少年。
    『グループ』の司令塔、土御門元春だ。

    「『第三次製造計画』については、未だ進展なしということですか」

    同じ部屋には秘書もおらず、親船手ずから客へ紅茶を配膳しながら、彼女特有のやわらかい口調でたずねる。

    「そういうことだにゃー。少なくとも、今の情報網では探るにも限度がある。
     統括理事の誰かが関わっていることまでは分かっても、その誰が糸を引いているのかは分からないのだろう?」

    「ええ。きっと統括理事としてではなく、裏の顔であくどいことを企んでいるのでしょうね」

    「『同権限者視察制度』を使って、ガサ入れをするというのはどうかにゃー」

    「少なくとも誰が関わっているかを突きとめてからでなければ厳しいでしょうね。
     闇雲に行ってハズレを引いてしまえば、その間に真犯人さんに隠蔽工作をすまされてしまうでしょう」

    どうしたものか、と考え込む親船。

    『第三次製造計画』潰しの任務は、親船から『グループ』へ依頼されたということになっている。
    これは親船がアレイスターから命令を下されたのではなく、彼女の情報網に引っかかった情報をもとに独自に依頼を出したのであるが、
    真に恐ろしいのは、意図的に情報をリークまたは封鎖し、彼女にそう行動させるように仕組んだアレイスターの手腕だろう。
    仕組まれたとはいざ知らず、自分が命令を出したと思っている親船を前に、土御門はアレイスターの恐ろしさを改めて再認識する。

    「となると、統括理事会からのルートでの解明は難しいか……」

    『滞空回線(アンダーライン)』が使えれば話はとんとん拍子に進むのだろうが、あいにくそれを使えるのはアレイスターだけ。
    隠し持っている『ピンセット』では『滞空回線』の解析はできても操作まではできない。
    統括理事クラスが関わっているのであれば、情報の秘匿レベルは暗部組織を上回る。
    やや手詰まり感に近いものを感じる。

    768 = 766 :


    「そういえば、一方通行は見つかりましたか?」

    「目撃情報はあるし、餌にも食い付いてる。と言っても、一端覧祭の真っ最中でこの人出だ。
     接触して騒ぎにでもなればマズいし、一端覧祭が終わるまではヤツには接触はできない」

    「第三次世界大戦中、彼がロシアにいたという話は聞きましたか?」

    「初耳だな。借金のカタに戦地に投入でもされたのか?」

    「これを見てください」

    親船が手渡したのは、数枚のレポート。
    そのタイトルは、『一方通行殺害計画』。

    「何らかの事情があり最終信号と共にロシアへと渡った一方通行に対し、統括理事会の一部が結託し、彼を抹殺しようとしたようなのです。
     そのレポートが、苦労して手に入れた彼らの計画書です」

    「能力制限されているとはいえ、仮にも第一位だぞ。独自に電極への介入に対する対策もしていたし、アレを殺す手段など限られているだろう。
     あいつの知人を人質にでもしたのか?」

    「そのレポートの二枚目を」

    土御門が紙をめくると、そこには少女の写真が張り付けてあった。
    髪をばらばらと振りみだし、目の下にはドス黒い隈がある。

    769 = 766 :


    「『超電磁砲』……? いや、これは『妹達』か?」

    「『番外個体(ミサカワースト)』と言うそうですよ。
     なんでも『一方通行を確実に壊す』ための個体だとか」

    つまりは非正規ナンバー。
    『絶対能力者進化計画』に投入された20001号とは全く異なる個体。
    年のころはオリジナルよりも上の約16歳相当、能力強度は二億ボルトでレベル4相当。
    人間のクローンを作るのにかかる手間を考えれば、一人だけ作りだすというのはひどく非効率的だ。
    もしかして、もしかすると。

    「……彼女はどうなった? 一方通行が生きているということは、彼女は任務に失敗したのだろう」

    「一方通行と共に学園都市に帰還したことまでは彼女に埋め込まれたチップで確認していますが、その後は消息不明です。
     どうにかしてチップを摘出したのではないかと、情報班は推測しているようですが」

    「まだ生きて、学園都市にいる……か。どうにかして、彼女と接触したいな。
     あわよくば、芋づる式に一方通行も釣れるかもしれない」

    「彼女の捜索の為に、人員を裂きましょうか?」

    「いや、いい。一方通行が彼女をどう扱っているかは知らないが、"この顔"の少女に酷い扱いはしないはずだ。
     まずはあいつのお姫様の周りを探ってみよう。
     それよりも、追加されるだろう『妹達』の受け入れ先の調整を頼む。
     生産能力がどれだけかは知らないが、『番外個体』の派遣から一月が経ってる。
     計算上はもう2回『妹達』が生まれてることになるな」

    「あまり多くなければいいのですけれどね。
     大人数を動かせばそれだけ情報漏えいのリスクは増えますし」

    「……じゃあ、何かあればまた顔を見せる。そっちも何かあれば頼む」

    「ええ。……ああ、それと、最後に、元教師としてもう一つ」

    きょとんとする土御門に、親船は柔らかく微笑む。

    「せっかくのお祭りなんですから、一端覧祭も楽しんでらっしゃい」

    「……ああ」

    770 = 766 :


    「──すごーいすごーい! 見て見てお姉様、あれまだ発売してないゲームだよーってミサカはミサカはお姉様の手を引っ張ってみる!」

    「分かったから、順番よ、順番」

    美琴、打ち止め、番外個体の三人は試作ゲームの展覧会が行われているアミューズメント系の大学を訪れていた。
    いくつもの大学や企業が合同で展覧会を行っており、広いイベントホールには所狭しとスクリーンが並んでいる。
    新作ゲームソフトだけではなく試作中のハードやアーケード筐体も並んでおり、それぞれに人がひしめき合っている、といった様子だ。

    「打ち止めはどんなゲームはやりたいの?」

    「えーとね、まずはロボットの格闘ゲームの新しいの! ヨミカワの家で、ヨシカワと特訓したんだから、ってミサカはミサカは胸を張ってみる!」

    「ロボット、ねぇ。私はやったことないなぁ」

    あまり女の子っぽくない趣味ではあるが、それは人の好き好きと言うものだろう。
    いつの間にかパンフレットを手に入れていた番外個体が会場の一角を指差す。

    「んーと、それはあっちのブースみたいだよ」

    「じゃあ、行ってみましょうか」

    771 = 766 :


    「──くぬっ! このっ! なんで当たらないのよ!」

    「ワーストの動き、速すぎるよー! ってミサカはミサカはなにくそ精神で対抗してみる!」

    「くっくくくくくく、あはははははは、例えどれだけ火力が高くても、当たらなければどうということはない!! なーんてね!」

    このゲームはそれぞれ性能の違うロボットを操り、宇宙空間にてバトルロイヤル形式で戦うものだ。
    未経験の美琴は極めてスタンダードな機体を、打ち止めは火力重視の機体を選んだのに対し、番外個体は装甲が薄い代わりに最高速と機動性の高い可変機体を選んだ。
    人型モードと戦闘機モードを巧みに操り二人の攻撃をひょいひょいと避けつつ、時折放つレーザーでじわじわと二人の装甲を削っていく。

    「あ、最終信号そこ危ないよ」

    「えっ? あああああああああああああっ!?」

    機動力で撹乱しつつ番外個体が大量にばらまいていたのは小型の機雷。
    番外個体の機体を追いかけてそこに突っ込んでしまった打ち止めの機体はそれに触れ、誘爆した機雷によって装甲ががんがん削られていく。
    やがで耐えきれなくなり装甲値が無くなった機体は機能停止し、爆発四散してしまった。

    「お、お姉様ぁ~、ぜひともミサカの仇を取って!」

    「任せて置きなさい!」

    「ふふふ、『高速個体(ミサカハイマニューバ)』と化したこのミサカに勝てるのかな!?」

    772 = 766 :


    ようやくゲームに慣れてきた美琴の機体が放つのは長射程でホーミング性の高いミサイル。
    いくら機動力が高いとはいえ避け切る事はできず、爆風が番外個体の機体をかすめていく。

    とはいえ、ここまでの戦闘で互いの装甲値の残量は段違いだ。正面から撃ち合えばどちらが勝つかははっきりしている。
    そのことを確信した番外個体は機体を戦闘機モードに切り替え、勢いよく美琴の機体へと突っ込んで行く。
    この状態での機体速度は人型の比ではなく、いくらホーミングミサイルと言えども追い付けなければ意味がない。

    「くっ、あ、当たりなさいよ!」

    美琴が慌てて武装を切り替え頭部のバルカンで番外個体の機体を狙い撃つが、温存されていた装甲値の前では多少当たったところで痛くもない。
    もの凄い速度で迫りくる戦闘機。

    「行っけええええ!!」

    美琴の機体が振り抜いたビームサーベルをひらりと紙一重で避け、人型へと変形。
    その勢いのまま、こちらも両手にビームサーベルを展開し……。

    「……あーあ」

    直後、胴体を切り裂かれた美琴の機体が爆発し、番外個体のプレイヤー番号である「2P WIN!」の文字がファンファーレと共に画面に表示される。
    成績表示と共に番外機体の機体が決めポーズを取ったところで、テストプレイは終わりだ。

    「あのまま撃ち合っても良かったけど、やっぱりとどめは近接攻撃が一番だよねぇ」

    どや、と勝ち誇る番外個体を尻目に、美琴はため息をつきながらコントローラーを置いた。

    773 = 766 :


    「ゲームの体験、ありがとうございましたー!」

    今までプレイしていたロボットゲームの販促アイテムを受け取り、ブースを出る。
    テストプレイで使えたロボットの絵が描かれた使い捨てカイロだ。
    女子中学生としてはなんとも使いにくい。

    「打ち止め、これいる?」

    「いいの? わーい、ありがとう!」

    美琴からカイロを受け取り、打ち止めはいそいそと可愛らしいポシェットにしまい込む。

    「ミサカはお小遣いを貯めて、今のゲームを買うことにしたのだ! ってミサカはミサカは宣言してみる!」

    「なかなか面白かったよね。最終信号、買ったら教えてよ。ゲーム機ごと借りて行くから」

    「なっ!? ソフトはこのミサカので、ゲーム機本体はヨミカワのだよ!? ってミサカはミサカは驚異の強奪計画に戦慄してみたり……」

    「こーら、やりたいなら自分でもう一つ買うか、半分ずつお金出しあって二人でやりなさい。
     というか、それくらいなら……」

    買ってあげる、と言いかけ、途中でやめてしまう。
    自分の金銭感覚のおかしさはここ最近痛感してばかりだ。
    打ち止めが自分から「小遣いを貯めて買う」と言ったのだから、ここで買い与えてしまうのは悪影響だろう。
    欲しいものは与えて貰うのではなく、自分で手に入れるようにしなければいけない。
    そう考え、なんでもないと誤魔化した。

    774 = 766 :


    「お姉様も中々上手だったけど、ゲームとか好きなの?」

    「私だって中学生だもん、ゲームくらいするわよ。
     でも寮はゲーム類持ち込み不可だし、メインはゲーセンにあるようなアーケードかなぁ」

    「アーケード系はあっちだね」


    華やかな筐体の画面の中央で、3Dモデルの女の子が音楽に合わせて軽やかに踊っている。
    それと共に画面の上部から落ちてくる矢印と同じものを、足元のパネルで踏む。
    どこにでもあるような、典型的なダンスゲームだ。

    ただし、普通と違うのは採点基準がリズム感や足さばきだけでなく、全体的なダンスでも評価されるということにある。
    随所に仕掛けられた赤外線センサーや重量感知センサーによって体の重心の動きやブレなどを分析し、採点される。
    つまりは例えリズム感がパーフェクトでも、体の動かし方が不格好であれば評価は低く出てしまうのだ。

    そのパネルの上を華麗に舞うのは美琴。
    一曲踊り終え、パネルの中央で動きを止めると採点が開始される。

    どこが良かったか、どこで減点されたかと言うリストの下に得点が表示され、「テスト期間中歴代第二位!」の文字と共に名前の入力を求められる。
    どうやらランキング入りを果たしたようで、後ろに並んでいた他の客たちから感嘆の声がかけられた。
    恥ずかしかったので適当に「Mikoto」と入れ、そそくさと先にプレイを済ませていた妹二人の元へ向かう。

    「こんなものかしら」

    「お姉様、カッコよかったよ! ってミサカはミサカは羨望のまなざしを向けてみる」

    「このミサカだってノーミスだったと思うんだけどなぁ……解せぬ」

    「ワーストは足さばきは良かったんだけど、それに気を取られて上半身の動きがおろそかだったのよ。
     そのせいじゃない?」

    「なるほど。いやぁ、重たいもの抱えてるときびきび動くのも大変なんだよね」

    「……あっそ」

    「……あっそ」

    何が重いかは言わずもがな。
    美琴と打ち止めは深いため息をついた。

    775 = 766 :


    「うわああ~~っ!」

    「か、かわいい……っ!」

    美琴と打ち止めが目を輝かせて張り付いているのはクレーンゲームの筐体だ。
    筐体そのものは新作ではないものの、中に入っている景品はこの展示会の為に先行投入されているものだ。
    白いウサギと、緑のカエルのぬいぐるみ。
    確か女児向けアニメのキャラクターだったか。
    二人の背後で番外個体がため息をつく。

    「ふぅん、最終信号や他のミサカのお子ちゃま趣味はお姉様ゆずりだったんだ」

    「いいじゃない! 可愛いんだし!!」

    「やれやれだぜ。中学生にもなって対象年齢一ケタのアニメキャラクターに夢中とはね。
     その点このミサカはあらゆる意味で他のミサカとは一線を画すアダルティーな……」

    「この間病室で食い入るようにこのアニメ見てたよねってミサカはミサカは暴露してみたり」

    「…………」

    「なっ、何その目! 違うよ、最終信号が興味を持ってるアニメはどれだけガキ臭いのかなって嘲笑おうと……ッ!」

    ぽん、と美琴の右手が番外個体の肩に置かれ、びくりと背筋を震わせる。

    「ねぇワースト、良い言葉を教えてあげる」

    「な、なにかな……?」

    「可愛いは正義、なのよ。何か異論はある?」

    妙に目が据わった美琴の迫力に、番外個体はぶるぶると首を横に振る他なかった。

    776 = 766 :


    「…………あ゙ぁー、やってられないですの」

    第七学区を縦断する大通り。
    交通を遮断して実施されている歩行者天国の中で、白井はぶつぶつと呟く。
    彼女の右腕にはいつもの風紀委員の腕章の他に、「一端覧祭 特別警戒中!」と書かれた別の目立つ腕章がくっついている。
    人が多いと言うことはつまりスリや万引き、置き引きなどが起こりやすいと言うことでもある。
    雑踏の中を巡回し自らの存在をアピールすることで、事件を未然に防ぐのも風紀委員の仕事の一つだ。

    「御坂さんのことですか?」

    隣を歩く初春もまた、同じ腕章をつけている。

    「従姉妹さんたちと遊びに行ってるんでしたっけ?」

    初春の反対側を歩く佐天は腕章をつけていない。
    「暇だから」という理由で、巡回中の二人について回ってるのだ。

    「風紀委員の仕事さえなければわたくしもお姉様やその従姉妹の方々と存分に戯れられますのに……。
     ああっ、普段は誇りにすら思うこの腕章が憎い……ッ!」

    「仕事がなくても、御坂さんは白井さんを従姉妹さんたちに近づけさせてくれないと思いますよー?」

    「……何を根拠にそんなことを」

    「だって白井さん、大覇星祭の時御坂さんのお母さんに対して大暴走してたじゃないですか。
     大怪我? なにそれ食えるの? ってくらいの勢いで」

    「……アレを見ちゃうと、白井さんに仕事がある日に従姉妹さんたちを案内しようとする御坂さんの気持ちもわかっちゃうなぁ」

    「んなっ! あれらは全て、この白井黒子の胸から溢れんばかりの愛を表現するためのものですのに!」

    「それが重いんじゃないですか?」

    素知らぬ顔で初春が呟けば、佐天がうんうんと首を縦に振る。

    777 = 766 :


    「んー、愛と言えば」

    佐天が人差し指を顎に当てて呟く。

    「御坂さんは、噂のカレシさんをデートに誘えたのかなぁ?」

    「御坂さんに、か、か、彼氏ですかぁ~!?」

    初春が赤面する横で、鬼神のような顔をする白井。

    「…………万が一にもお姉様に手を出すようなことがあれば、この白井黒子、刺し違えてでもあの方の息の根を止めますの」

    「あれ? 白井さんは御坂さんのカレシさんをご存じなんですか?」

    「別にお姉様の恋人じゃありませんの。お姉様の一方的な片恋ですわ」

    あえてここは強調しておく。

    「どんな人なんですか?」

    「どんな人と言われましても……」

    白井は整った眉を歪め、しばし考え込む。
    良く考えれば、白井と上条はあまり何度も顔を合わせたわけではない。
    そのうちの多くは美琴と共にいる上条に制裁を加えた時ばかりだ。

    778 = 766 :


    「まず高校生で」

    「高校生!? 御坂さんは年上趣味なんですね!」

    「あまり頭のよろしいようには見えなくて」

    「……えー、王子様タイプじゃないんですかぁ……」

    「粗暴で不幸体質で気品の欠片もなくあまり知的には見えずがさつで紳士としてのマナーもわきまえてらっしゃらないような粗野っぷりで」

    これでもかとばかりに罵詈雑言を並びたてていく白井に、初春や佐天の頭の中ではとんでもない想像図が出来上がっていく。
    ……御坂さーん、あなた騙されてませんかー?
    だが、


         「でも、お姉様が心を奪われるほどには、立派な方ですの」


    その言葉に、息をつまらせる。
    白井は日々美琴の露払いであることを公言してはばからない。
    彼女の周りに男の影があればすぐに潰しに行くのが彼女の使命(自称)だ。
    そんな彼女に、ここまで言わせる男とは。

    「お姉様がおっしゃるには、あの方は誰よりも心が強いのだと」

    「心……」

    「お姉様の能力を打ち消すほどの力を持ちながら決して驕らず、困っている人がいれば迷わず手を差し伸べ、
     時には自らの危険を顧みることなく、出会ったばかりの誰かのために全力で戦える方だそうですわ」

    あの崩れかけたビルで、結標の攻撃に押しつぶされそうになった白井を助けに来てくれたように。
    きっといつの日か、美琴も彼に救われたのだろう。
    それはきっと、夏休みのさ中。美琴の様子がおかしかったころのことだろうか。

    779 = 766 :


    「……やっぱり王子様タイプですよね」

    「さあ? 普段はいいとこどこぞの兵士Aみたいな方ですの」

    「御坂さんの能力すら打ち消すってことは……もしかして、レベル5とか!?」

    「…………あー、それが……」

    すわ学園都市一のビッグカップル成立か!? と目を輝かす佐天に、白井は首をかしげながら、

    「レベル5ではないそうですの。何やらとてもピーキーな能力で、出力は強大でも効果範囲がとてもせまいのだとか。
     お姉様の電撃を消せるのですから、出力としてはレベル5に匹敵するのかもしれませんが」

    「御坂さんの電撃を消せるってことはつまり……どういう能力なんでしょう?」

    「わたくしも詳しいことは聞いたことがありませんの。お姉様の電撃を打ち消したり、わたくしの空間移動を阻害したり。
     ……ああ、そう言えば"残骸"事件の時、結標淡希の大質量転送の前兆である空間の歪みを『叩いて』消したりもしていましたわね。
     恐らく『能力を打ち消す能力』、ということでよろしいのではないかと」

    「やっぱり凄い人は凄い人に惹かれるんですねぇ……」

    「あー! もしかして、都市伝説の『どんな能力も効かない能力を持つ男』って!」

    「きっと、あの方の事なのでは?」

    はー……っと感心したように息を吐く初春と佐天。
    まさか都市伝説の正体をこんな所で知る事になるとは。

    「なんて名前の能力なんですか? 『能力を打ち消す能力』なんて聞いたことないですよ」

    「なんと言いましたかしら……」

    九月頭のテロ事件の時か、それとも八月半ばに寮を訪れてきた時か。
    どちらかでぽろっと能力名を呟いていたような……。

    「……確か、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という名前だったと思いますの」

    幻想殺し。能力を殺す能力。
    未知の能力に、初春と佐天は胸をときめかせたのだった。

    781 = 766 :


    「おー、お寿司が回ってるー♪ ってミサカはミサカははしゃいでみたり!」

    「これが噂に聞く"カイテンズシ"か……」

    第七学区にあるショッピングセンター、セブンスミスト。
    テレビゲームやアーケードゲームをたっぷり堪能した美琴、打ち止め、番外個体の三人は、一軒丸々洋服店であるこの大型店舗に移動していた。

    中高生の好きそうな洋食店が並ぶ飲食店街に、何故か存在する回転寿司。
    ゲームに夢中になり昼食を取りそこねていたので、ここで奮発することにした。

    店の中を周回するレールとその上を流れる寿司の乗った皿に打ち止めと番外個体は興味しんしんだ。
    学園都市の例に漏れず奇妙なネタがいっぱいあったり、レール自体も席以外のところでは愉快な軌道を描いていたりする。
    まるで観覧車のように一回転したり、二本のレールがらせんを描きつつ上昇していったりしているのは一体どういうことだろう。

    「好きなだけ食べていいわよ。でもこのあとは服を見て回るから、それを考えてね」

    「しまったなぁ、だったら夜ご飯にしてもらうべきだった。
     ミサカ初めてお寿司食べるのに、お腹一杯食べられないとは」

    「……ずっと病院だったのよね」

    「そう。病院食漬けの前は点滴と錠剤と味のない栄養チューブ食ばっかりだったし。
     あぁ、『食べる』って幸せなことなんだねぇ」

    中高生向けのショッピングセンターにあるにしてはずいぶんと本格的なネタを使っているようで、
    ○○産本マグロだの最高級ウニだの高級ネタを次々と平らげて行く番外個体を見て、美琴はある妹の事を思い出す。

    忘れもしない、初めて出会った検体番号すらも分からぬ妹。
    子猫を助けて、色々と食べ歩き、そしてカエルのピンバッジをあげた。
    ジャンクフードを美味しそうにほおばる彼女の横顔は、今も目に焼き付いている。

    その別れ際、彼女は美琴に何を伝えようとしたのか。
    どうしてもっときつく問い詰めなかったのか。彼女を引きとめなかったのか。
    後悔しなかった日はない。

    だからこそ、今生きている妹たちは何としても守り抜くし、彼女らがそれぞれの幸せを掴むための努力は惜しまない。
    そう改めて決意した美琴は、まずは隣の打ち止めの頬にくっついているご飯粒を取ってやる。

    782 = 766 :


    「ほーら、ほっぺにくっついてるわよ。がっつかないでゆっくり食べなさい」

    「うぅー、だってイクラもネギトロも食べ放題なんだもの、ってミサカはミサカは釈明してみる。
     ヨシカワもイクラ大好きだから、いっつもちゃんと数を決めて食べてるの」

    「?? 病院でお寿司が出るの?」

    「お姉様、そのちびっ子は情操教育も兼ねて、普段は保護者の家に預けられてるんだよ」

    めぼしいネタは一通り味わい、アガリを冷ましつつ口をつける番外個体が補足する。
    いつの間にか彼女の目の前には高級なネタの皿が積み重なっていた。

    「調整の時以外はそのヨシカワさんと一緒に住んでるってこと? 確か研究員の人よね?」

    「正確には芳川も居候。家主は黄泉川って言うおっぱいの大きい警備員だよ」

    『巨乳』『黄泉川』『警備員』。美琴の頭の中で、これらのワードに当てはまる人物は一人しかいない。

    「って、あんた黄泉川先生のところに住んでるの?」

    「お姉様はヨミカワを知ってるの?」

    「後輩に風紀委員がいて、その仕事にくっついて行った時に何度かね。
     そっかぁ、あの先生のところにいるのか。一度あいさつしに行かなきゃね。
     黄泉川先生は優しくしてくれる?」

    「うん! どんな料理でも炊飯器で作っちゃうんだよ! ってミサカはミサカは報告してみたり。
     ヨミカワの煮込みハンバーグはとってもおいしいの!」

    「そう、炊飯器で………………炊飯器? 煮込みハンバーグを?」

    なんという錬金術、主婦は台所の魔術師ってレベルじゃない。
    一体何をどうすれば炊飯器で煮込みハンバーグができるのか、美琴は心底不思議がった。

    783 = 766 :


    「──これでどう?」

    「うん、いいんじゃない?」

    今は一端覧祭の期間中であり、本来であれば客は学園祭のほうに取られ店舗は閑散とするはずなのだが、
    そこは店側も考えており、一端覧祭セールと称し大幅な値引きを行っている。
    結果、「一週間もあるし一日くらいは買い物に使おう」という考えの客でごった返しているのだ。

    試着室の中にいるのは番外個体。
    襟の大きい黒のYシャツにグレーで深いVネックのセーター、その裾に隠れそうなくらい短い黒のミニスカート。
    黒のオーバーニーソックスにロングブーツと、何だか全体的に黒めのコーディネートだ。

    「だけど、ちょっと黒っぽすぎないかしら」

    「黒はワルの色だぜ。ミサカの名前にぴったりじゃない?」

    「うーん、打ち止めはどう思う?」

    「この前のアオザイよりはワーストっぽくていいと思うってミサカはミサカは正直なところを述べてみる」

    「あれ、やたら可愛らしかったものね」

    「あ、あれはミサカの趣味じゃないの! 芳川に押し付けられたから、仕方がなく着たの!」

    自分でも自嘲気味に「似合わない」と言っていたのに、何故かむきになる番外個体。

    「可愛らしいとは言ったけど、似合ってなかったなんて言ってないわよ。
     ……ひょっとして、意外とあれ気に入ってた?」

    「うるさいなぁっ。お姉様、ミサカの服はこれで決定!」

    ぴしゃり、と試着室のカーテンを閉め、中に閉じこもってしまう。
    そんな末妹の様子を見て、美琴と打ち止めは顔を合わせてくすりと笑い合う。

    784 = 766 :


    他にも数着の服を選び、美琴がカードでそれを支払う。
    店員に頼んでタグを外してもらい、最初に選んだ服を着る番外個体。
    その上から黒のモッズコートを着て、もう防寒対策はバッチリだ。

    「……意外とオシャレって楽しいもんだね。
     19090号がファッション誌に傾倒しつつあるのも分かる気がする」

    「あのミサカは夜中こっそり鏡の前で服を合わせたりしてるもんねー、ってミサカはミサカは夜中トイレに起きた時に見たことを暴露してみる」

    「私は寝るときと帰省した時以外はずっと制服だから、ちょっと羨ましいな」

    「お姉様も買えばいいのに。着られなくてもしまっておけばいいじゃん」

    「あまり部屋もスペースあるわけじゃないしねぇ。高校生になって私服可になるまでの辛抱かなぁ」

    どうせ着られないししまってもおけないのなら買う意味はないし、他校の友人たちとショッピングに来ても美琴は見ているだけの事が多い。
    それでも年頃の少女だし、着飾りたいという気持ちももちろんある。
    花の髪飾りはそのせめてもの気持ちの表れだ。

    「打ち止めは何か欲しい服とかないの?」

    「お姉様が選んでくれると嬉しいなー、ってミサカはミサカはおねだりしてみたり」

    「最終信号に似合いそうな服は違う階じゃない?」

    「じゃあ、次はそっちを見て回ろっか」

    785 = 766 :


    「……こんな感じでどうかな?」

    「おぉ……」

    緑の生地に花柄をあしらったワンピースに袖の緩やかな桃色の上着を着せてみる。
    「ワンピに大きいシャツはミサカのトレードマークなのー!」という主張があったために
    今日着ていた服とシルエットはあまり変わらないが、柄と色次第で服の印象は大きく変わるものだ。

    「馬子にも衣装、ってやつかな」

    「それ、自分含めて姉妹全員にブーメランが刺さるわよ。同じ顔なんだし」

    「おっと失敬」

    「お姉様、似合うー? ってミサカはミサカはくるくる回ってみたり」

    「うん。すっごく可愛いわよ」

    「お姉様、それは自画自賛になるんじゃないの?同じ顔なんだし」

    「プラスのことは良いのよ。あんたたちが私の可愛い妹たちってことに間違いはないんだから」

    新しい服を着てご満悦の打ち止めを、今にも頬ずりせんばかりのとろけた表情で美琴が言う。

    「ミサカたちもお姉様のことが大好きだよーって、ミサカはミサカはネットワーク上のセリフを代弁してみる」

    「海外組のミサカからずるいずるいって苦情が来るのは何とかしてほしいんだけど……」

    嫉妬や羨みだって立派な負の感情だ。
    ネットワーク上の負の感情を一手に引き受ける番外個体としてはキツいものがある。

    「……いつか、海外にいる子たちとも遊びに行けたらいいなぁ」

    786 = 766 :


    ゲームの展示会で得た戦利品や服の詰まった紙袋を脇に置き、フードコートで一休み。
    三人でベンチに並び、アイスクリームを舐める。

    「お姉様のイチゴ味、一口ちょうだい」

    「はいどうぞ」

    差し出されたアイスをスプーンですくい、番外個体は口元へ運ぶ。
    舌の上で溶ける甘味をひとしきり堪能した後、呟いた。

    「うーん、寒い時に冷たいものを食べるとかバカじゃないのって思ってたけど、なかなかどうして」

    「暖房効いてるからねー。さすがにお店の外でアイス食べようとは思わないけど」

    「お姉様ー、あたりを探検してきていい? ってミサカはミサカは許可を求めてみる」

    「迷子にならないように気をつけなさいよ」

    分かったー、と言い残し、アイスを食べ終えた打ち止めは新しい靴をぱたぱたと言わせながらフードコートの外へと出て行く。
    あまり来たことのないところへ来て、テンションが上がっているのかもしれない。
    ベンチには美琴と番外個体が残された。

    「……こうしてアイスを食べてると、さ」

    「うん」

    「……初めて出会った子のことを思い出すのよね」

    787 = 766 :


    あの暑い夏の日。
    美琴の人生を急転させた出来事。
    自身のクローン、『妹達』と初めて出会った。

    美琴は伏し目がちに呟く。

    「よく考えたら、私あの子の検体番号知らないんだ。自分の素性は機密事項だ禁則事項だって結局ほとんど話してくれなかったから」

    「……9982号だよ。お姉様が初めて出会ったミサカは」

    「そっか。私にとって9982番目の妹だったんだ」

    美琴の様子に、番外個体も茶化すことなく答える。
    各個体の記憶はネットワークを介して他の個体にも共有され、例えその個体が死亡しようとも記憶のバックアップは残る。
    彼女が今脳内で参照しているのは、9982号の記憶。
    茶化せるはずもない。

    「あの子と一緒に、アイスを食べたのよ」

    一緒に子猫を助けて、素性を聞き出そうとしてもはぐらかされ、口論してる所にアイス屋のおじさんが通りかかり、喧嘩するなとくれたアイス。
    あれそう言えば私あの時一口も食べてないやと思ったがそれはスルー。

    「紅茶を飲んで、ケーキを食べて、ハンバーガーを分け合って。
     まるで本当に姉妹みたいだなぁ、なんて思っちゃったりして」

    ずっと9982号のペースに戸惑わされ、調子を狂わされっぱなしで。
    それでも不思議と不快ではなかった。

    あの時、9982号は何を考えていたのだろう?
    別れ際、彼女は美琴に何を言いかけたのだろう?

    「あの時、もっとあの子のお願いを聞いてあげれば良かった。
     あの子の追及を途中で切り上げなければ、あの子は助かったんじゃないかって……!」

    ずっと、その後悔が美琴の心の奥底に突き刺さっていた。

    788 = 766 :


    「9982号はさ」

    番外個体が呟く。

    「死んでしまったミサカたちの中では、一番幸せだったんじゃないかな」

    「……どうして?」

    「どうしてって、お姉様に会えたからだよ」

    目尻に涙を浮かべた美琴に、番外個体はそっとハンカチを差し出した。

    「お姉様と会って、お姉様とおしゃべりして、お姉様と食べ歩いて、そしてお姉様からプレゼントまで貰った。
     そんな幸せなミサカは、9982号だけだった」

    各個体が大事だと思った記憶は、記憶のバックアップを兼ね共有情報としてネットワーク上に公開される。
    美琴と共に過ごした時間の記憶の全てを、9982号は"最重要"なものとしてネットワーク上に保存していた。

    「"もし"なんて存在しないけどさ、仮に9982号が生きていたら、『ありがとう』ってお姉様に言うと思うよ」

    「……そっか」

    789 = 766 :


    番外個体から借りたハンカチで、美琴は何度も目をぬぐう。
    9982号や死なせてしまった妹たちに報いるためには何ができるだろう。
    父親がそうすると言ったように、美琴もまた姉として妹たちを守らなければならない。
    そう改めて決心した美琴は、すっくと勢いよく立ちあがった。

    「……湿っぽい話しちゃったわね。ごめんね、せっかく遊びに来たって言うのに。
     もう夕方だし打ち止めを探して帰りましょ。病院まで送って行くわ」

    「……うん」

    溶けかけたアイスを口に押し込むと、番外個体もまた立ちあがる。
    荷物を持ちあげたその腕で、美琴に後ろから抱きついた。

    「ちょっ、ワースト?」

    「……さっきさ、最終信号が『ミサカたちはみんなお姉様が大好き』って言ったでしょ?
     あれは本当だよ。お姉様が嫌いなミサカなんていない。このミサカが保証してあげる」

    「……………………でも、私の、私が……っ」

    狼狽する美琴の耳元に、番外個体は言葉を囁き続ける。

    「お姉様がDNAマップを提供してくれたから、ミサカたちは今ここにいるんだよ。
     そのことでお姉様を恨んでるミサカはいない。そんなミサカがいたらこのミサカの態度も180度反転してる。
     このミサカは"そういう"仕様なんだから」

    『一方通行を殺す』ためだけに生まれた番外個体は、生まれた当初は世界のすべてに対し悪意を振りまいていた。
    でも、殺すべき宿敵の手を取って、周囲の人間の善意に触れて、彼女は生まれ変わりつつある。
    否、今こそ彼女は代替不能の一つの命として生まれつつあるのかもしれない。
    そんな彼女だからこそ、姉とも母とも言える目の前の少女には感謝を。

    「だから、お姉様は胸を張ってよね。ミサカたちの大事な『お姉様』なんだからさ」

    「……うん」

    ぐすり、と鼻を一つ鳴らし、番外個体を振り返る。
    目尻は少し赤いけれども、美琴はにこりと笑って見せた。

    790 = 766 :


    そんな美琴の胸を、番外個体はむんずと掴んだ。

    「しっかし、お姉様の胸って本当に小さいよね。ミサカも培養器から出される前はこんなだったのかな」

    「あ、あんた! どどどこ触ってるのよ!?」

    「どこって、お姉様のおっぱい?」

    「公衆の面前でそんなこと堂々と言うなぁ!」

    直前までのいい話だなー的雰囲気が台無しに。
    番外個体の額にチョップを入れて引き剥がしつつ、頬を膨らませる。

    「いいんだもん、まだまだこれからよ!」

    「ところがどっこい、現実は非情である」

    「うるさい!」

    ぴしゃりと叱りつけ、美琴はフードコートの周囲を見回す」

    791 :

    ずんどこべろんちょ

    792 = 766 :


    「……それにしても、打ち止めはどこまで行っちゃったのかしら」

    「呼んだー? ってミサカはミサカはお姉様に飛びついてみたり―!」

    「のわぁっ!?」

    いきなり背中に飛び付かれ、たたらを踏んでしまう。

    「う、打ち止め!? さすがにいきなり飛び付くのは……」

    「お姉様お姉様、100円玉持ってない? ってミサカはミサカは聞いてみる」

    「100円玉? 何に使うの?」

    打ち止めが差し出したのはカプセルトイの中の商品案内のチラシと、パンダの模様が描かれたピンバッジだ。

    「このカエルのが欲しかったんだけど、ミサカは一枚しか100円玉を持ってなかったのってミサカはミサカはしょんぼりしてみる」

    「両替しようにも、ちびっこのお小遣いじゃあねぇ。
     ……お姉様? どうかしたの?」

    「……ん? なんでもない! それより、ガチャガチャだったわよね?
     ようし、童心に帰って当たるまでやるわよー!」

    それってオトナ買いじゃないのー? と尋ねる打ち止めを引き連れ、美琴はずんずんと進んで行く。
    その背に一瞬妙な雰囲気を感じた番外個体は、まあ気のせいかと首を振って考えを頭から追い出した。


    番外個体が美琴の小さな異変の理由を悟ったのは、カプセルトイの機械を2つ3つ空にして目当てのバッジを手に入れた時。

     

    793 = 766 :


    その夜。

    「よォ」

    「おや、夜に来るのは珍しいね」

    病室のドアを開けて入ってきたのは一方通行だ。

    「土御門の情報はつかめたか?」

    「そもそもあなたの元同僚でしょ? あなたのほうが連絡手段多いんじゃないの」

    「連絡するための携帯は砕いちまったし、プライベートに踏み込む間柄でもなかったからなァ」

    「一応"書庫"にハッキングして、『表』の情報ならぶっこ抜いてあるけど」

    「見せろ」

    「おや、ねぎらいの言葉もなしかい」

    794 = 766 :


    番外個体はノートパソコンを立ちあげ、画面を一方通行に見せた。

    「土御門元春、高校一年生で年は16歳。レベル0『肉体再生』の能力者……。いらねェ情報ばかりだな」

    「それでも住所は分かるでしょ。文句は"書庫"に言ってくれる?
     ちなみにこの人の事を調べる過程で、面白いことがわかったんだけどにゃー。聞きたい?」

    「出し惜しみは三下のする事だってロシアで教えてやっただろ。もう一度教育されたいか?」

    はぁ、と番外個体はため息を一つつく。

    「この人、ヒーローさんと同じ学校で同じクラスだよ。ついでに言うなら寮の部屋は隣同士」

    「あの無能力者と土御門が隣同士、ねェ」

    普通に考えれば偶然だ。同じ学校ならば隣同士になるのは不思議じゃない。そんなのはくじびきによる確率の問題だ。
    だが、『土御門元春』と『あの無能力者』は両者ともにただものではなく、そこに何かの意図を感じてしまうのは考え過ぎだろうか?

    暗部の人間である土御門元春。
    表の世界の人間でありながら、一方通行よりもなお世界の深部に踏み込んだ無能力者。
    奇妙な符号が、ここにありはしないか。

    795 = 766 :


    今は考えても仕方がない。
    物事の優先順位を再認識し、求める物を探す。

    「電話番号かメールアドレスは」

    「寮の電話番号はあるけど、携帯のはないね。こっちは高校のデータベースに忍び込まないとないかも。どうする?」

    「家の番号が分かればいい。さすがにずっと留守ってことはないだろォしな」

    「あっそ」

    ノートパソコンを閉じ、番外個体は再びため息をつく。

    「少しは礼でも言ったらどうなのさ。ミサカはあなたの部下でもなんでもないんだよ?」

    「感謝はしてる。だが、まだコトが片付いたわけじゃねェ。道半ばで気ィ抜いてどうすンだ」

    「はいはい。あーあ、お姉様はあんなに優しいのに、こっちの白もやしと来たら。
     同じレベル5なのにどうしてここまで違うんだか」

    半ば愚痴りながらベッドに転がる番外個体。

    「……オリジナルとの外出は、楽しかったか?」

    「まあね。見たことないものを見て、食べたことのないものを食べて、おしゃれして、買い食いして……。
     なんていうか、世界が輝いて見えたよ。
     少なくともあなたの前に現れた時の空虚な黒と白の風景とは全く違う、すごくきれいな色だった」

    どこか遠い目で、番外個体はカーテンの隙間から夜空を見上げる。
    生まれたばかりの彼女たちにとって、目に映るものすべてが新鮮だ。
    だからこそあらゆるものに感化されるし、日々成長と変化を遂げて行く。

    「……うん、あの感覚が『楽しい』なんだね。お姉様と話すのは『楽しい』し、最終信号をからかうのも『楽しい』。また味わいたい感情だな」

    796 = 766 :


    「ところで、チビガキはどォしてた?」

    「気になるのかい、親御さん? ゲームにぬいぐるみにと大はしゃぎしてたよ。
     そのあとはお姉様に甘えまくって服をいっぱい買ってもらってた。ま、それはミサカもだけどさ」

    ほれ、と一方通行に投げつけたのは白いウサギの大きなぬいぐるみ。
    白い毛に赤い目があなたみたいだ、と言われ顔をしかめる。

    「今は他のミサカと一緒にお風呂に入ってる。
     そろそろ帰ってくるんじゃないの?」

    「ンで、それは?」

    一方通行が顎でしゃくったのは、打ち止めのベッドの上に散らばる大量のピンバッジ。
    優に100は下らない数だ。

    「そうそう、それが傑作なんだよ。最終信号とお姉様がある柄のバッジ目当てにガチャガチャ始めたんだけどさ、これが全然当たらないの。
     最終的に3ヶ所空にしてやっと出たんだよ」

    「その戦利品がコイツらって訳か」

    「欲しいのあったら持ってっちゃっていいんじゃない?」

    「……いらねェ」

    797 = 766 :


    真新しいピンクのパジャマを纏った打ち止めが、病室に入ってくる。
    その胸元ではこれまた新しいピンバッジが光る。

    「──あ! 来てたんだ、ってミサカはミサカはあなたに駆けよってみる!」

    ぴょんと打ち止めに抱きつかれ、華奢な一方通行は大きくよろける。

    「来るんだったら連絡くれればいいのにー、ってミサカはミサカは頬を膨らませてみるんだけど」

    「今日は番外個体に用事があったンだよ。すぐ帰るつもりだった」

    「そうなんだ、ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる。
     ……だけどミサカもすぐ用事があるし、おあいこなのかな」

    「どこか行くのか?」

    「他のミサカたちとピンバッジを分け合う約束をしたの。
     ワーストは欲しいのないのー? ってミサカはミサカはなんだかあきれ顔のワーストに問いかけてみる」

    「ないない。いいから他のミサカと分けてきなよ」

    はーい、またね! と言い残して、バッジを菓子の空き缶へとかき集めた打ち止めは怒涛のごとく部屋を飛び出して行く。


    「……手の中のひよこのバッジはなンなンだ?」

    一方通行の指摘に、番外個体はびくりと背筋を震わせた。

    798 = 766 :


    「……ねえ、第一位」

    「なンだよ」

    「最終信号のピンバッジ、気づいた?」

    「チビガキとオリジナルが大人げなくガチャガチャ回して手に入れたっていうヤツじゃねェのか」

    「その柄のことだよ」

    「柄ァ?」

    ピンクのパジャマとは全く違う色だったから印象に残っている。
    確か緑色で、キャラクターは羽の生えたカエル。
    ……カエル? どこかで見たような?

    「あのバッジはね、お姉様が初めて会ったミサカにあげたのと同じ柄なんだってさ」

    その言葉に、一方通行の記憶が急速に蘇る。
    御坂美琴と初めて遭遇した日。
    彼女は目の前で『妹達』が殺害されたことに激昂し攻撃を仕掛けてきた。
    その直前に死んだ『妹達』が、最期に抱き締めたもの。
    左足を失ってもなお、這ってでも手の内に取り戻したかったもの。

    打ち止めがつけていたものと、寸分たがわぬデザインのピンバッジ。

    自分はそれを見て、何を思った?
    そして、彼女に何をした?

    引きちぎった左足。
    バッジを抱きしめる彼女の上に落下させた列車。
    そして狂ったように泣き叫び突撃してくる御坂美琴。

    フラッシュバックのように蘇る情景に、くらりとめまいのような感覚がした。

    799 = 766 :


    「お姉様があのバッジを必死に手に入れようと思ったのも分かる気がする。
     最終信号が『もういいよ』って言っても諦めなかったんだもの。
     それだけ、お姉様にとってはいろいろな感情がぎっしり詰まったものなんじゃないかな」

    そして、それを打ち止めに与えた。
    御坂美琴にはそんなつもりはなかっただろう。
    打ち止めだって、純粋にデザインに惹かれて欲しがったのかもしれない。

    けれど一方通行には己の罪の証をありありと見せつけられたような気がしてならなかった。

    「……それを俺に聞かせて、どォしようってンだ」

    「別に。たださ、あなたとお姉様が出会った時に、どうなるのかなって思っただけだよ。
     同じ第七学区に住んでるんだ。街角で、コンビニで、あるいはこの病院で。いつ遭遇したっておかしくないでしょ?」

    いくら遭遇しないように気をつけていても、『不慮の事故』というものは必ず発生する。
    発生確率を下げるためには生活圏を完全にかぶらないようにすればいいのかもしれないが、そうできないのは自分のエゴゆえか。

    800 = 766 :


    「お姉さまは絶対にあなたを許さない。そして、かつてのこのミサカのように『妹達』を傷つけようとはしない。
     そんな最強最悪の"敵"があなたの前に現れた時、あなたはどうするのかな?」

    言うまでもなく、御坂美琴は『妹達』と全く同じ顔をしている。
    決して傷つけないと誓った範疇に、彼女だって含まれている。

    『妹達』と同じ顔を持ち、彼女たちを守り抜く覚悟があり、そしてレベル5という強大な力を持っている。
    ある意味では木原数多よりも、垣根帝督よりも、エイワスよりも、そしてかつての番外個体よりも恐ろしい敵。

    「……どうすンだろォな」

    正直、想像などしたくない。
    には「『妹達』を虐殺された」という大義名分があり、自分には「『妹達』を虐殺した」という消せぬ大罪がある。
    御坂美琴が断罪と復讐の刃を振りかざした時、一方通行はどのような行動を取るべきなのか。

    「…………どうすりゃいいンだろォな」


    学園都市第一位の演算能力を持ってしても、最適解は出ない。

     

    そんな一方通行の苦悩する横顔を見ながら、番外個体は頭の中のデータベースを探る。
    「一方通行への復讐」という目的を行動原理に据えられて作られた彼女は、死亡した全ての個体の死因をプリインストールされている。

    (……9982号の死因が、『圧死』じゃなくて、『失血死』なのは、どういうことなのかな?)

    わずかな違和感、拭えぬ不信感。
    だけども言ったところで仕方がないこと。
    彼女が既に死亡しているのは明らかなのだから。

    そう結論付けた番外個体は、そのことを自分の心の中へと秘めた。


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