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    元スレ美琴「極光の海に消えたあいつを追って」

    SS+覧 / PC版 /
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    みんなの評価 : ★★★×5
    タグ : - とある魔術の禁書目録 + - 上条当麻 + - 御坂 + - 御坂美琴 + - 麦野沈利 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    601 = 585 :


    「…………南南西から信号が来てる」

    不意にもぞもぞと動き、起き出した滝壺。
    目をこすりながら、きょろきょろとあたりを見回す。

    「はまづら、近くにきぬはたのAIM拡散力場を感じるよ」

    「やっと来たのか」

    ベンチに座って約一時間以上。
    立ち上がって冷えて固まった体を伸ばしていると、公園の入り口に小さい影が見えた。
    栗色の髪に、体にフィットしたニットのワンピース。
    まごう事なき懐かしい仲間、絹旗最愛の影だ。

    「おーい、絹旗ー」

    手を振り呼びかければ、向こうもこちらに気付いたようで、駆け足で寄ってくる。
    ここまで近寄ればわかる。彼女の口元には笑みが浮かんでいる。

    「はーまーづーらー!」

    「はっはっはーさあ来い絹hぎゅぷるっ!?」

    冗談のつもりで行った、両手を大きく開いたウェルカムポーズ。
    当然足は大きく開かれている。
    浜面の腕の中に飛び込むかと思った瞬間、絹旗はボールを思い切り蹴るかのごとく大きく足を振り上げた。
    つまり、それは浜面の足と足の間を一直線に上昇したわけで。
    簡単に言えば、絹旗はその細い足で浜面の急所を蹴り飛ばしたのだ。
    ボールには間違いない。

    602 = 585 :


    地面に這いつくばり時折びくんびくんと痙攣する浜面を踏みにじり、絹旗はゴミを見るような視線を飛ばす。

    「超浜面の癖に相変わらず超キモいんですよ。能力を使わなかっただけ超感謝するんですね」

    「……き、きにゅはた……そこはマジでシャレににゃんねぇっつの……」

    「きぬはた、さすがに今のははまづらが可哀想だと思う」

    「いいんですよ! 聞けばもう一か月前には超帰ってきてたらしいじゃないですか! 私を一月も超放置した罰です!」

    絹旗は小さな体を最大限に膨らませて怒りを表現する。
    内股で体をぷるぷる震わせながらもなんとか立ち上がった浜面が、青い顔で呟いた。

    「お前……もしきゃして、しゃみしきゃったのか……?」

    「なっ!?」

    対照的に赤くなった絹旗が浜面の脛を蹴飛ばす。

    「超そんなわけないじゃないですか超不快です超不愉快です超浜面の癖に超ナメた口きいてくれますね超コノヤロー!!」

    「痛ェ! 痛いっつーの! 頼むからスネをつま先で連打するのやめてくださいお願いします!」

    じゃあ踵です! 余計痛いわ! などとじゃれあう二人を見て、滝壺は柔らかく微笑む。

    603 = 585 :


    「はまづらも、きぬはたも、まるできょうだいみたいだね」

    「滝壺さん、それは超酷いです! こんな図体ばかり超デカくてデリカシーゼロの弟なんて死んでも超いりません!」

    「そろそろ俺の心の装甲もへし折れてきますけどね! つーかなんで俺が弟なんだよ!」

    「そこはほら精神年齢的にですね……」

    「じゃあ、私が一番上のお姉ちゃん」

    なおも浜面の脛を蹴飛ばし続ける絹旗を、滝壺は後ろから優しく抱きしめた。

    「ただいま、きぬはた」

    「…………お帰りなさい、滝壺さん」

    わずかに頬を染め、伏し目がちながらも、絹旗は嬉しそうにつぶやいたのだった。




    「………………………………………………………………………………………………俺にはお帰りなさいはないの?」

    「超どうでもいいです。いっそ帰ってこなくても超良かったのに」

    「……さいですか」

    604 = 585 :


    「──そっか、今は他の組織に入れられたのか」

    「臨時の代替要員ですけどね。今のオシゴトが終われば超オサラバです」

    歩きながら、簡単に互いの近況を報告し合う。

    「あくまで私の所属は『アイテム』ですから」

    「……うん、そうだよね。きぬはたは大事な私たちの仲間だもん」

    「そういうこったな」

    「……なんで浜面が私や滝壷さんと同格ぶってるんですか。
     あくまで浜面の立場は『アイテム』の超小間使いなんですから、そこはきちっと超弁えて下さい」

    「……やっぱり俺の扱いはひどいのね」

    「犬のしつけは最初が超肝心というでしょう? この駄犬」

    「だいじょうぶ。私はいつまでも下っ端扱いのはまづらも応援してる」

    「滝壺まで!?」

    605 = 585 :


    「……そう言えば、二人はロシアへ脱出したのでしょう? 戦争の超中心地でしたけど超大丈夫でしたか?」

    「いんやぁ、ずっとヒヤヒヤしっぱなしだったよ。なぁ、滝壺?」

    「私はずっとはまづらのお世話になってたからそれほどでもないけど、はまづらはきっとずっと大変だったよね?」

    「そんなことねーよ。世話になったのはお互い様だし。滝壺がいなかったら俺だって今頃は死んでただろうしさ」

    「はまづら……」

    (…………なんですかこの空気、超不快です)

    いつの間にこの二人の間にはこんなピンク色の空気が漂うようになったのだろう。
    ああ、無糖のコーヒーが飲みたくなる。


    「第三次世界大戦ではなんだがずいぶんと超オカルティックな現象が目撃されたようですが、何か超面白そうなものは見れましたか?」

    「……面白いもんなんてなかったよ。どこへ行っても、どこまで行っても血と硝煙と死と陰謀の匂いしかしなかったさ。
     ただ、まあ、なんというか……?」

    そこで浜面は言葉を切る。
    彼自身にもどう説明したら良いか分からない。

    例えば雪原で助けてくれた、大剣を片手で振るい水を自在に操る「後方のアックア」と名乗った大男。
    例えば滝壺の治療をほどこしてくれた「エリザリーナ」という女性。
    この二人には共通点がある。

    『マジュツ』
    エリザリーナは滝壺の治療手段を指して、確かにそう言った。
    「科学技術」とも「超能力」とも違うソレを、浜面は確かに見た。

    だが、それをどう表現すべきか、浜面には分からない。
    学園都市の超能力とは別種の、通常の法則を超越する『未知の法則』。
    そんなものの説明など、どうすればよいのか。

    とりあえず、見たまま聞いたままを話してみた。
    一笑に付されるかと思いきや、絹旗は意外にもそんなことはせず、考え込むようなそぶりを見せる。

    606 = 585 :


    「『超能力』とは異なる、学園都市外の人間の『能力』ですか……」

    「絹旗、何か心当たりでもあるのか?」

    「いえ、暗部にいると"不可解な"事件の情報が得られることが超あるんですよ。
     七月末の『民家爆発事件』とか、九月頭の『岩石の巨人を操る女』とか。
     直近では0930事件ですね。学園都市の技術や能力では単騎で学園都市を落としかけるなんて超無理ですよ。
     あの時の侵入者に応対した警備員や暗部の人間は、みんな不自然な形で倒れてたそうですし」
     
    「体内の酸素濃度が異常に低くてほとんど仮死か冬眠みたいな状態、だっけ。
     あの時の侵入者も『マジュツ』を使っていたのかな……?
     学園都市が『ローマ正教は魔術という名の能力開発をしている』と声明出したのはあの直後だったよね」

    「"上層部"は『マジュツ』の存在を知っているんでしょうか……?」

    「0930事件と言えば、『天使』が目撃されたっていう事件でもあるよな」

    「そうです! 私もその『天使』、超見ましたもん!
     直接は見えなかったんですけど、こうビルの間を縫って、雷みたいな翼が超ブワーーッ!! と広がったり、
     翼の間からビームみたいなものが超ズドーーン!! とですねー!」

    その光景が余りにも印象的だったのだろう、大興奮で絹旗ははしゃぐ。

    607 = 585 :


    「あの『天使』、一体なんだったんでしょうね?」

    「少なくとも侵入者が使ったものじゃないと思う。
     学園都市の九割が陥落した状態であんなもの使う意味がないし、仮にそうだったら私たちは今ごろ生きてないよ」

    「そうだろうなぁ……。まあ、ぶっ倒れてて気づいたら全部終わってた俺が言うのもなんだけどさ」

    「えっ、やはり浜面は超浜面でしたか。あんな映画みたいに面白いものを放って寝てるなんて超もったいないです」

    「いやな、あの日は大雨が降ってたろ。
     だからスキルアウトの仲間たちとアジトでごろごろだらだらしてたんだよ。
     面白い番組もないからテキトーにテレビのチャンネル回してたら急に眠くなって、気付いたら翌朝で街が大ダメージよ。
     皆が皆そんな感じだったから、あの時は皆で首を捻ったなぁ」

    「それ、ただ単に皆で超寝過しただけじゃないんですか?」

    「皆同じところまで記憶があって、同じ時刻に起きたんだぜ?
     酒飲んだわけでも、疲れてるわけでもないのに十数時間も寝てたわけだし、妙だなぁって思ったんだ。
     ……今にして思えば、アレが『マジュツ』だったのかもな」

    608 = 585 :


    浜面は立ち止まり、絹旗のほうを向く。

    「──絹旗は、これから予定とかあるのか?」

    「あったら今日は来ませんよ」

    「……これからね、むぎののお見舞いに行こうかと思ってるの」

    「……麦野、ですか」

    絹旗は複雑な顔をする。
    それは当然かもしれない。

    仲間を売ったフレンダか、仲間を殺した麦野か。
    『アイテム』崩壊の責任がどちらにあるかと言われれば、決めるのは難しい。
    片方を一方的に責められる問題ではない。

    所属する組織を売ると言う行為は、どのような場合においてもご法度だ。
    それが利害関係のみで動き、信用はしても信頼はない暗部であればなおさらのことだ。
    我が身かわいさに組織を危険にさらした、その事実だけで『事実上の敵』認定されてもなにもおかしくはない。

    一方で、組織を売った人間を粛清するという行為には二つの意味がある。
    一つはそれ以上の情報流出を防ぎ、組織への被害の拡大を阻止するということ。
    もう一つは、それ以上の離反者を出さないための組織内の人間への示威行為だ。

    それは鉄火場に身を置く組織において頂上に立つ者の責務。
    あの時麦野がフレンダの上半身を持って現れたのは後者の意味でだろう。

    609 = 585 :


    暗部に身をやつす者であれば半ば当然の事。
    だが、暗部に落とされて間もない浜面にはとうてい受け入れられるものではなかった。
    結果彼は麦野と対立し、三度にわたる死闘の因縁はここに起因する。

    麦野の責務も浜面の感情も理解できるからこそ、絹旗は何も言わない。
    任務から離れたところでは、彼女は仲間を思いやれる少女だ。
    だから、あえて的を外したことを言う。

    「じゃあ、シャケ弁を超山ほど買っていかなければいけませんね。
     そろそろ血中のシャケ成分が超切れて、看護婦さんに半狂乱で超掴みかかるころなんじゃないですか?」

    そんな彼女の思いやりを、浜面もしっかりと受け止める。

    「そうだな。どっかコンビニによっていこうぜ。
     パックのサーモンとか鮭とばとかも大量に買いこんで行ってやるか」

    「浜面の超オゴリですからね」

    「…………おう」

    610 = 585 :


    浜面の両手にぶら下がるビニール袋の中には、ぎっしりと鮭製品が詰め込まれている。
    恋人に男の甲斐性を見せる前に、絹旗に「これは浜面の超仕事ですよね」と持たされたのだ。
    これを平らげようとしたらどう控えめに見ても塩分過多になるだろうが、見舞い相手が喜ぶのなら構わないだろう。

    院内にアルコール飲料などを持ちこまないよう、見舞いの品はチェックされる。
    鮭フレーク、鮭とば、鮭、鮭、鮭……と次から次へ出てくる鮭製品に受付は戸惑うも、無事に許可は出た。
    唯一、鮭弁当だけは病院食が出るからと没収されてしまったが。

    麦野に見舞いに行くことは知らせていなかった。
    どのみち病院からは出られそうにない体調だし、そもそも携帯の使えない院内では麦野から連絡を取ろうと思わなければ取るに取れない。
    そして、何か思うところがあったのか彼女が浜面や滝壺に連絡を取ってくることはほとんどなかった。

    だから、病室を訪れた時不在であれば、どこへ行ったのだろうと心配にもなる。

    「……シャケ成分の禁断症状が出て、売店でも超襲撃しに行ったのでしょうか」

    「売店は一階にあったろ。あそこ襲ったならすれ違うくらいはするさ」

    「では、知り合った他の患者さんのところに超遊びに行っているとか?」

    「……麦野にそんなコミュ力があると思うのか?」

    「あーあ、麦野に超チクったろ」

    「あっ、てめぇ!」

    「ねぇ、二人とも」

    にわかに始まりかけた取っ組み合いは、滝壺の一言で終わった。

    「屋上から、むぎののAIM拡散力場を感じるよ」

    611 = 585 :


    滝壺理后の能力は、『能力追跡(AIMストーカー)』という。
    一度記録したAIM拡散力場の持ち主を、たとえ太陽系の外に出ても追い続け検索・補足出来る。
    他にもAIM拡散力場に干渉して能力者のパーソナルリアリティを乱すことで、攻撃への応用も可能であるが、
    その発動の為には『体晶』という能力を暴走させるための劇薬が必要不可欠であった、はずなのだが。

    「……『体晶』なしで、ある程度の能力使用ができるようになったんですか?」

    「うん。さすがにフルスペックでの能力使用はできないけどね」

    滝壺はVサインを作って見せる。

    「だけど、たくさんの人の中からよく知ってるAIM拡散力場を感知するくらいはできるよ。
     判別はできなくても、知らない人のAIM拡散力場の強弱くらいも」

    「はー……なんだか超便利になりましたねぇ」

    「屋上って、確かビオトープと庭園があったよな?
     天気いいし、そこで日向ぼっこでもしてるのかね」

    浜面は適当な予測を呟くが、その時、


    「……むぎのの近くに、強いAIM拡散力場を放っている人がいる。レベル4、ううん、多分それ以上の」

    滝壺の言葉に、浜面と絹旗に緊張が走る。

    麦野沈利は満身創痍だ。
    一月近く病院で体を休めていたとはいえ、本調子にはほど遠い。
    『アイテム』、特に麦野に潰された人間は数知れず、報復をするならば今しかないだろう。
    あるいは、浜面らを消すために彼女をロシアに送り込んだ連中が口封じに現れたか。

    三人は弾かれるように病室を飛び出し、看護婦の注意も聞かずに廊下を走り抜け、階段を駆け上がる。
    麦野を消しに来たのだとすれば、相手は暗部の人間である可能性が高い。
    こちらでまともに戦力になりそうな戦力はレベル4の絹旗だけだ。慎重に行かなければ返り討ちにあうかもしれない。

    屋上への扉は開いていた。
    三人は姿を不用意にさらさぬよう慎重に死角へと隠れ、そっと屋上の様子をうかがう。

    612 = 585 :


    屋上には、人は二人だけ。
    一人は三人もよく知る麦野沈利だ。
    ビオトープの向こうでもう一人を見据えながら、何か面白そうなものを見つけたような表情をしている。

    もう一人は、シャンパンゴールドの髪を風になびかせた、どこかの制服を着た少女。
    浜面たちに背を向けているため表情は見えないが、レベル5の前に立ってなお堂々としている。

    浜面がそっと顔をのぞかせると、少女はぴくりと反応するも、振り返りはしない。
    もしかしたら滝壺のような探知系の能力者なのかもしれない、と浜面は推測した。

    だが、実際は違う。
    少女のレーダーに浜面が触れた、というだけのこと。
    相手の位置さえ捉えていれば、例え背後からだろうと彼女への不意討ちは不意討ちにならない。
    それよりも、警戒しなければならない相手が目の前にいる。

    レベル5第四位、麦野沈利。
    かつて刃を交わした相手だ。
    かろうじて退けはしたものの、それが今回もできるとは限らない。


    「……久しぶりじゃねぇか、『超電磁砲』」

    栗色の美しい髪を風に流し、『原子崩し』は不遜に笑う。
    彼女の目の前に立つのはレベル5第三位、『超電磁砲』だ。

    第三位と第四位。因縁を持つ少女たちは、今ここに再び対峙した。

    613 = 585 :

    今日はここまでです

    美琴は出ないと言ったな、アレは嘘だ
    なんで麦野とにらみ合っているのかはまた次回に

    614 = 587 :

    乙!

    なん……だと……?
    生殺しかよっ!?
    次の期待が高まるじゃねーかよ!

    615 :

    乙!!
    アイテムのみんな久しぶり

    次回に超期待します!!!!

    616 :

    最近は生殺しが得意なSS書きが多いな…

    乙です

    617 :

    おつおつ
    全裸で待ってますね

    618 :

    おいおいなんか穏やかな雰囲気じゃないな…
    絹旗は美琴とは面識ないんだっけ?

    620 :


    これは生殺しすぎる

    621 :


    なんかこの麦野は超電磁砲五巻の表紙の麦野を思い浮かべる。
    あの麦野はまるで極道の女・・・・・・

    622 :

    滝壺って美琴のAIM拡散力場を記憶してるけど
    超電磁砲と分からなかったのか、それとも敢えて言わなかったのか。
    少し気になるな。

    623 :

    >>622
    お前はもう少し本文を読め
    具体的には>>611あたりを

    624 = 622 :

    >>623
    美琴と特定できない場合
     フルスペックでの使用じゃないから
     単純に美琴のことを憶えていない
     (能力的にではなく印象的な意味で、つまりよく知った人とは言えない)
     その他

    相手を敢えて伝えなかった場合
     その方が有利になるなんらかの理由がある。

    能力的に一方さんや三次計画やらの探索に関わる可能性もあるかも知れないなあ、
    それだったら能力の限界というか性能が展開に影響を与えるかも知れないなあ、
    という妄想をしたから気になっただけで、原作と違う、原作を反映させてねえぞっていう
    アドバイス(笑)で言ってるわけじゃねえんですよ。

     

    625 = 617 :

    なにいってだこいつ

    626 :

    >>624
    深読みしないで普通に上でいいと思うの
    作者でもないのに長々と自分の妄想垂れ流すのはさすがにどうかと…

    627 :

    もし絹旗がワーストに遭遇したらいろいろとんとん拍子に話が進んじゃうな

    628 :

    こんばんは

    と言ってももう深夜ですけれど

    前回は生殺しで申し訳ありません
    『アイテム』視線で書いてみたかったのと、「さすがに50レス近くを一度に投稿するのは書くのも読むのもしんどいだろjk……」的な事情がありまして

    では投下していきます

    629 = 628 :


    時は少し遡る。

    御坂美琴は今日も上条当麻の見舞いに訪れていた。
    一端覧祭の準備を終えてしまった学校は多いが、一部例外もある。
    例えば調理販売を行うようなところは今頃食材の調達に走っているだろうし、
    どこかの教室を占有して出し物をするところは前日に手際よく組みたてられるようにしておかなければならない。
    準備期間ギリギリまでクオリティアップに余念がない、というところもある。

    上条のクラスもそのタイプのようで、ここ数日は見舞いに来てくれる時間もないらしい。
    なので見舞いに行けばしばらくは二人きりでおしゃべりし放題と言う、美琴にとってはある意味至福の瞬間だったのだが、
    今日はちょっと様子が違った。

    「お姉様っ!」

    「うわ、ちょっ、打ち止め!?」

    病室の戸を開けるなりぴょーんと飛びついて来たのは、美琴の妹の一人である打ち止めだ。
    その向こうで、ベッドに腰かけた上条が苦笑している。

    「あんた、なんでここに?」

    「カミジョーのお兄ちゃんに遊んでもらっていたのだ! ってミサカはミサカはお姉様に報告してみる!」

    見れば、ベッドの上にはカードゲームやボードゲームがいろいろと乗っていた。

    「へぇ、良かったじゃない。あんたたち、いつのまにか仲良くなったのね」

    「初めて会ったのは9月30日だよ、ってミサカはミサカは思い返してみる。
     あの時お姉様にも会えたのに、結局お話する機会はなかったんだよね、ってミサカはミサカは残念がってみたり」

    「ゔっ、あの時は私もイロイロとイッパイイッパイだったのよ。
     10032号のネックレスとか、コイツに抱きついたりとかー!」

    「……何の話だ、それ?」

    わたわたと上条を指さしながら釈明する美琴に、彼は訝しげな視線を向ける。

    630 = 628 :


    「10032号がオープンハートのネックレスをしてるのは知ってるよね? ってミサカはミサカは確認を取ってみる」

    「あのハートの中をチェーンが通ってる奴だろ?」

    「それ、あなたがあのミサカに買ってあげたものなんだよ、ってミサカはミサカは暴露してみる」

    「……そうなの?」

    上条の頭の中に、彼女にネックレスを買い与えているところの想像図が浮かぶ。
    なんだかずいぶんとキザなことをしていたのかもしれない。

    「……私としては、あの子にどーいう名目でネックレスをあげたのか気になるんだケド」

    「…………俺に聞かれても覚えていませんことよ、お姉様」

    「あの時の10032号はミサカがゴーグル持って行ったせいでお姉様や他のミサカと見分けがつかなくなっちゃったから、
     その識別のための臨時のものだったんだよ、ってミサカはミサカはなんだか怖い雰囲気のお姉様をなだめてみる……」

    「……特に、やましいところは何もなかったのね?」

    「だと思うけど……、ってミサカはミサカは自信なさげに答えてみる。10032号が喜んでたのは事実だし」

    「ならばよろしい」

    纏っていた怒気を拡散させ、美琴はふぅと息を吐く。

    631 = 628 :


    「お姉様もネックレス欲しいの? ってミサカはミサカは素朴な質問をぶつけてみる」

    「ふぇ!? わ、私は別に、その、なんていうか……。校則で禁止されてるし、その、貰っても困るっていうか……」

    校則うんぬんなんてのは照れ隠しだ。貰えたら嬉しいに決まってる。それどころか有頂天になるだろう。
    だが自分から「欲しい」というのも恥ずかしいし、なんだか厚かましい気がする。
    そんな二律背反の思考からモジモジしていると、

    「いろいろと頃世話になってるしその礼ってことで、俺のこづかいで買える程度なら買ってあげても良いぞ」

    「ほ、ほんと!?」

    相手から言い出してくれたなら別の話だ。

    「か、可愛いのがいいなぁ」

    「うーん、俺には女の子が喜びそうなのはわかんないしなぁ。退院したら一緒に見に行こうぜ」

    「……約束よ、絶対だからね!」

    図らずもデートの約束まで取り付けられてしまった。
    上条はなんとも思っていないかもしれないが、こちらがデートと思えばデートだ。

    632 = 628 :


    そんな二人をにまにまと眺める少女が一人。
    打ち止めはぴょんっと上条の膝の上へと飛び乗る。

    「むふふー」

    「うわっと、あぶねー」

    小さいとはいえ、10歳相当の少女が飛び乗ればそれは相当の衝撃となる。
    うまく彼女を抱え込むことで、上条は二人ともバランスを崩すことを避けた。

    「こうしてると、カミジョーのお兄ちゃんは本当のお兄ちゃんみたいだよね、ってミサカはミサカは感想を述べてみる」

    「そうかぁ? 俺一人っ子だから兄貴ってのがどんなものかわかんねーぞ」

    「ミサカだけじゃないよ。他のミサカたちもカミジョーのお兄ちゃんを実の兄のように思ってるんだよ、
     ってミサカはミサカは驚愕の事実を伝えてみる」

    「お兄ちゃん、ねぇ」

    これは少し語弊がある表現かもしれない。
    妹たちの感覚はいまだ未分化であり、自己の感情を冷静に分析できる個体は少ない。
    兄に対する憧れ、想い人に対する慕情。
    その両者がごちゃ混ぜになっている、というのが正しいだろう。

    633 = 628 :


    「だから」

    だが、今はそれを横に置く。目的は目の前の純情な姉をからかうことにあるのだから。

    「もしお姉様とカミジョーのお兄ちゃんが恋人同士になったら、ミサカたちはお兄ちゃんを『お義兄様』って呼んだ方がいいのかなぁ?
     ってミサカはミサカはにまーっとほくそ笑んでみたり」

    「は、はぁっ!?」

    「あー、もしそういうことになったら、そうなるの……かなぁ?」

    瞬間湯沸かし器のように沸騰した美琴に対し、上条の反応は鈍い。

    「な、な、なんでそんなことになるのよぅっ!?」

    怒りか羞恥かぷるぷると震えだす美琴に、打ち止めは追い打ちをかけていく。

    「あれれー? お姉様的にはありえない未来予想図なのかなー? とミサカはミサカは火に油を注いでみる」

    「~~ッ!? ちょ、ちょっと電話かけなきゃ行けない用事があるから、出てくるっ!」

    逃げ出すように、美琴は病室からあわただしく走り去ってしまった。


    ぽつんと置いて行かれた様子の上条がつぶやく。

    「なんだったんだ、あいつ……痛っ」

    打ち止めの右足のかかとが、鈍感野郎の脛に制裁を加えた。

    634 = 628 :


    早歩きで、美琴は病院の廊下を行く。

    (い、一体なんだってのよもう!)

    一番小さな妹にまでやり込められてしまった。
    危うく想い人の前で想いを暴露されかけた羞恥と、微塵も気づいてくれなかった怒りに震え、自然と足は速くなる。


    (…………なんだか、最近こんな感じばかりだなぁ)

    上条のそばにいるとつい浮かれてしまうのか、最近は随分と知人にからかわれることが多くなった。
    そのたびに赤くなったりしていては身が持たない。

    想いを自覚してからこちら、なんだか自分の心が弱くなった気がする。
    ロシアで上条が死んだと思い、そして生還したことも関係しているのだろうか。

    何にせよ、頬の赤みはしばらくとれそうにない。
    友人と一端覧祭について話でもしようと思い、美琴は屋上の庭園を目指した。

    635 = 628 :


    屋上には人が一人。
    比較的元気な入院患者で、昼食を庭園で取ったのだろう。
    "彼女"はその手に空になった盆を持っていた。

    美琴は彼女の顔に見覚えがあった。
    忘れもしない、あの真夏の悪夢の一週間の中で殺し合いをした女。

    麦野沈利。レベル5第四位『原子崩し』。
    学園都市の"闇"に潜む、暗部組織の一員だ。


    「……久しぶりじゃねぇか、『超電磁砲』」

    向こうもこちらに気づいたようで、その唇を弦月のように曲げる。

    シャンパンゴールドの髪を揺らし、美琴はその敵意を正面から受け止めた。

    636 = 628 :


    「ど、どうするんだよオイ……」

    浜面仕上は庭園の様子を伺いながら、仲間へと尋ねる。
    片手で確かめるのはジャージの下に隠した固い感触。
    『取引』の結果平穏を取り戻したとしても、学園都市を完全に信用し切ったわけではない。
    そのための用心が今日ここで役に立つかもしれない。

    レベル5第三位『超電磁砲』。
    "あの"麦野沈利よりもさらに上位に立つ少女だ。
    そんな相手に、自分たち三人と傷ついた麦野で対処できるのだろうか。

    「……だいじょうぶ、『超電磁砲』は暗部の人間じゃないよ」

    答えたのは滝壺だ。
    その答えに浜面はほっと胸を撫で下ろす。
    が、

    「だけど、むぎのから手を出したとしたら、例えむぎのの体調が万全だったとしても勝てないと思う」

    続いた言葉に戦慄した。
    麦野の破壊力は、対峙した浜面自身がよく知っている。
    暗部の人間でもないのに、彼女が万全の状態としても勝てないというのは、つまり対峙する少女が更にそれを越える破壊力を持つということになる。

    かつて垣間見た、第一位や第二位の能力。
    あの麦野"すら"、『たかが第四位』と侮れるほどの実力。
    そして、『超電磁砲』はその次に列せられる能力者だ。
    彼らに匹敵する力を持っていても不思議ではない。

    かつて見た最上位二人の能力を思い出し、浜面は震える。

    637 = 628 :


    「……『超電磁砲』って、そんなに超強いんですか?」

    訝しげに絹旗が問う。

    「そっか、きぬはたはあの時いなかったもんね。『超電磁砲』の体をよく見て」

    頭部も、腕も、足も、見える範囲には傷一つない。

    「特に変わったところはねぇぞ……?」

    「うん、傷一つないよね。
     あの子、夏休みに『アイテム』とたった一人で交戦したんだよ」

    「!?」

    浜面と絹旗は顔を見合わせる。

    「あの時ははまづらはまだいなかったし、きぬはたは別動任務だったよね。
     私と、むぎのと、フレンダで『超電磁砲』と戦ったの。その結果が、今のあの子」

    「あの時の『インベーダー』ですか……」

    「『AIMストーカー』を発動させた私と、むぎのの『原子崩し』。
     それから無傷で逃げ切った人は、あの子が初めて」

    638 = 628 :


    アイテムの主砲たる麦野の攻撃の貫通能力は折り紙つきだ。
    常に位置情報を得られる滝壺との組み合わせは暗部でも最強クラスの攻撃力と言っていい。
    その威力はまさに一撃必殺、死ぬとはいかなくても当たれば確実に後遺症の残る怪我は負うはずだ。

    だが、彼女は五体満足のまま今再び麦野の前に立っている。
    つまりは、麦野の攻撃を『超電磁砲』は難なくいなせるということであり、その底力は計り知れない。
    そこまでの実力差。現状の不利さは圧倒的だ。

    「……ということは、彼女のAIM拡散力場を滝壺さんは超記憶していたのでは?」

    「……なんでかな」

    滝壺は小首をかしげる。

    「『超電磁砲』のAIM拡散力場が、夏休みの時とはちょっと異質な感じがするの。
     揺らいでるというか、変質してると言うか、とにかく覚えてるのとは微妙に違うみたい。
     何か、精神的に大きな刺激を受けたような……」

    「……中坊だし、多感な時期だからか?」

    「それだけじゃないの。『超電磁砲』と似たようなAIM拡散力場がこの病院のあちこちから感じる。
     それらと相互に影響し合ってるせいで、あの子のAIM拡散力場はなんだか上手く捕捉できないみたい」

    639 = 628 :


    夏休みはまったくそんなことはなかったのに。
    経験したことのない未知の現象に、滝壺は珍しく困惑の表情を浮かべる。
    それは浜面も同様だ。

    ただ一人、絹旗だけは思案顔をしている。
    『グループ』の作戦に従事している彼女は、付帯情報として美琴が時折『妹達』の元を訪れていることを知っている。
    既存の『妹達』に関してはどうでもいいと読み流していたが、その病院がおそらくここなのだ。
    滝壺を混乱させているAIM拡散力場は『妹達』のものだろう。

    『グループ』の情報では、彼女が『第三次製造計画』に携わっていると言う情報はない。
    ならば、麦野が害されない限りは捨て置いておいても問題はないか。


    絹旗は物心ついたころから学園都市の闇の中にいた。
    闇の中の流儀というものは体の髄まで染みついている。

    だからこそ、本来の味方に対しても「任務従事者以外への秘密漏えいはご法度」という鉄則を堅持した。
    この事が時流の流れを大きく変えることとなる。

    もし絹旗が『妹達』や『グループの任務』のことを仲間に話していたら。
    または『アイテム』として動いていたこの時に、偶然にも絹旗が番外個体に遭遇していたら。
    きっと物語は違った様相を見せただろう。

    だが、物語は『そう』はならなかった。
    誰かの『悪意』が刷り込まれ、かと言ってそれを功を奏すこともなく。
    シナリオは歪まされたまま、別の道筋をたどる事となる。

    640 = 628 :


    にらみ合いを続ける美琴と麦野。

    「……私も久しぶり、って返せばいいのかしら、『第四位』?」

    「おやおや、つれねぇなぁ『第三位』。あの夜はあーんなに激しくヤり合った仲だってのによ」

    「お生憎様。私は私より強い男にしか興味がないの」

    「マセガキが。中坊のくせに男にケツを振るズベ公とは、"常盤台のエース"の名が泣くんじゃねぇのか?」

    言葉の端はしに棘がこもる。
    獲物を見つけた猛獣のような獰猛な笑みを浮かべる麦野に対し、美琴の瞳は冷ややかだ。

    「そんな周りが勝手に囃したててるもんなんて勝手に泣かせておきゃーいいのよ。
     どう言葉で飾り立てたところで、どうせ私は私でしかないんだから」

    「おーおー、カッコいい台詞だねぇ。
     世界が自分を中心に回ってると勘違いしてるチューガクセーの痛い考え方だ」

    「……はぁ、めんどくさ。
     何よ、何か用でもあるの? また大暴れするつもり? それともリベンジマッチでもしに来たの?」

    ならば止める、とばかりに美琴は周囲に意識を向ける。
    ここは病院だ。強力な電力も磁力も使えない。
    けれど、ここには妹たちや上条がいるのだ。何としても止めなければならない。

    だが、麦野から返ってきた答えは拍子抜けするものだった。


    「はぁ? なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ。
     暴れたいほどカラダを持て余してるなら、家に帰って一人でオナニーでもしてるんだね」

    641 = 628 :


    「は、はァッ!?」

    つややかな唇が紡いだ言葉に、美琴はたじろいでしまう。

    「あぁ? なんか変なこと言ったかよ」

    「いやアンタ今こんなところでその、オ、オ、やっぱりなんでもないっ!」

    「……ほーぅ?」

    美琴がうろたえている理由を突きとめて、麦野の口端がにぃと持ちあがる。

    「んだよ、温室育ちのお嬢様はオナニ ーも知らないってかぁ? 気取ってんじゃねぇぞ。
     野郎の[ピーーー]突っ込まれる妄想でもしながらテメェの[ピーーー]に指突っ込んで[らめぇぇっ!]って喘いでりゃいいんだよ!
     それとも後ろの[ピーーー]に[禁則事項です]突っ込むほうがお好みってかぁ!?」

    「な、な……、な……ッ!」

    麦野が矢継ぎ早にまくしたてる淫語の数々に、美琴は羞恥に震える。
    白井とは別ベクトルのセクハラ攻撃ではなかろうか。

    642 = 628 :


    「こっ、公衆の面前でそんなことを平然と叫ぶなんて! この変態!」

    「けっ、どーせテメェだって全部意味分かってんだろぉ? カマトトぶってんじゃねぇぞ売女ァ!」

    「あーうるさい! いたいけな中学生にセクハラすんな!」

    赤みを帯びた頬を、美琴は手で仰ぐことで冷やそうとする。

    「女性としての品格に欠けるわね。それとも枯れたオバサンだからしょうがないのかしら!?」


    ああ、あの子死んだな、と浜面は思った。
    この距離でも麦野の額の血管が千切れる幻聴が聞こえる。
    それほどまでに麦野の憤怒のオーラはすさまじかった。


    「だ……誰がババァだこのクソガキィィィ!!」

    これでも未成年だ。
    怒りのままに、麦野は空の盆を放り投げ、右腕を振るう。
    その軌跡に現れたのは青白い光。

    『粒機波形高速砲』。

    麦野の能力により『曖昧なまま固定された』電子を強制的に動かし、放たれた速度のまま対象を貫く特殊な電子線は、
    その性質故にあらゆるものを貫く最強の矛にも、あらゆるものを防ぐ盾にもなる。
    麦野が放った悪意の光は、そのまま美琴を貫くはずだった。

    643 = 628 :


    バヂィ!! と空気が爆ぜる音がした。
    『粒機波形高速砲』が美琴に当たる瞬間、彼女は右手をかざし、紫電を纏っただけ。
    それだけのことで、放たれた光線は美琴の手前で虚空へと掻き消える。
    当然、美琴は無傷だ。


    「す、すげぇ……」

    麦野の光線を弾いた美琴を、浜面は驚愕の表情で見つめる。
    万全の状態ではないとはいえ、仮にもレベル5の出力だ。
    それを微動だにせず防いでみせた少女もまたレベル5。
    しかも、恐らく本気は出していない。


    (……妙だな)

    能力を掻き消された麦野は、妙なイメージを受ける。
    麦野も美琴も能力の根本は同じ電子操作だ。
    より強い力にねじ伏せられるという理屈は分かる。
    だが、

    644 = 628 :


    (私の粒機波形高速砲を『かき消した』……? 夏休みはせいぜい弾くのがやっとだったってのに)

    無論、麦野の出力が低下していることは自覚している。
    だが、例えば最大出力10億ボルトの『超電磁砲』の出力が一割に減ったところで、レベル4相当の1億ボルトは扱えるように、
    麦野の能力に制限がかけられたところで、決して凶悪な殺傷性が消滅したわけではない。
    自身の能力の低下。相手の能力の向上。
    それを考慮しても、納得のいく現象ではない。


    (何? 今の感じ?)

    違和感を感じたのは、美琴も同じ。
    夏休みの経験から、彼女は粒機波形高速砲を『弾く』のが精一杯だと判断し、そう行動した。
    だが、結果は予想以上。
    美琴の干渉により、粒機波形高速砲は弾かれもせず、ただの電子へと還って行った。

    ある程度以上の強度で能力を使ったのは久しぶりだ。
    だから、能力の制御が甘いのだろうか。
    演算式に問題はないが、どことなくピントが合わないような、そんな不快感。

    だが、今はそんなことにかまってはいられない。

    「……あんたがその気なら、こっちにだって考えがあるわよ」

    表情を引き締めた美琴が取りだしたのは数枚のコイン。
    『超電磁砲』は直撃せずともその余波だけで人を吹き飛ばすくらいはできる。
    麦野がこの場で大暴れしようと言うのなら、その前に止める。
    その覚悟を美琴は決めていた。
    だが、

    「……ちょっとじゃれただけでしょうが。本気にしてんじゃねーよ。
     そもそも自分が入院してる病院を吹き飛ばそうとするアホがどこにいるのよ」

    645 = 628 :


    良く見れば、麦野が纏っているのはこの病院の入院着だ。
    上からコートを羽織っているせいで今の今まで気づかなかった。

    「だから言ってんだろうが。『なんでそんなことしなきゃいけない』ってよ」

    「……いまいち信用できないわね」

    進んでヒトゴロシを行う人間の言葉など、信用するに値しない。
    麦野は見たところ、どこも悪いようには見えない。
    しっかりと自分の足で立っているし、顔色だって悪くはない。

    「入院してんのは本当よ。ほら」

    そういうなり、麦野は自分の顔の右側に手を当て、かぱっとまるで"仮面を外すかのように"手を離した。

    「…………ッ!?」

    「ほーら、ビビってんじゃねーよ」

    その手の下は、一言で言えば"崩壊"していた。
    瞬き一つしない目は義眼だろう。
    その周囲は赤黒くただれたケロイド状になっており、右目を掻っ切るように一筋の大きな傷が走っている。

    646 = 628 :


    その傷痕に戸惑い、怯えるような美琴の表情を満足げに見つめ、麦野は特殊メイクを元に戻す。

    「ついでに言うと、左腕はこんな感じ」

    コートの左腕の袖を、ぐいっとめくって見せた。
    白い手袋をはめ、手首から先は普通の手のような先の構造になっていたので見た目からはわからなかったが、
    腕の部分は全く異質の、板状のパーツで構成されていた。
    当然、生身のものではない。

    「ま、こんなんでも実の腕以上には動かせるんだけどよ」

    手袋を外し、手首や肘などを自在に動かして見せる。
    本来なら曲がらないであろう角度にまで関節が曲がる義腕を見て、麦野はケタケタ笑った。

    「まだまだこんなもんじゃねーぞ。胸や腹は銃痕だらけだし、内臓を補助するための機械は埋め込まれてるし。
     有名な映画になぞらえるなら、『わが夫となるものはさらにおぞましきものを見るだろう』ってとこか」

    美琴は痛々しそうに義手を見つめる。
    夏休みに戦った時はその応酬の中でたがいに傷を負い、その時は麦野の左腕も顔の右半分も普通に流血していたように思う。
    だが、今やその箇所は見るも無残な様相を呈している。

    「……なんで、そんなことになっちゃったのよ」

    麦野の惨状に圧倒されたまま、美琴は呆然とつぶやく。

    「なんでって、そりゃ派手にヤりあった怪我に決まってんだろーが。
     殺すも殺されるも紙一重の暗部にいるんだ。ちょいとトチればこんな感じになるのは当たり前だろ。
     ……ま、生きてるだけマシってとこかね」

    美琴から目を反らし、空を見上げる。
    思い浮かべたのはこの手で命を絶った元仲間のこと。
    一体、どのような思いが胸の中を渦巻いているのだろうか。

    647 = 628 :


    「……ねぇ」

    「なんだよ」

    「……あんた達は、どうして平気で殺し合いができるのよ」

    人を殺してはいけないなどと、子供でも分かるような倫理だ。

    「決まってんだろ。そうでもしないと生きていけねぇからだよ」

    麦野はつまらなさそうに答える。
    以前の麦野なら、適当に美琴をあしらって終わりにしただろう。
    機密保持は暗部組織の鉄則だ。

    だが、今日の麦野は何故だか口が軽い。
    『闇』のくびきを、わずかながら外されたからか。

    「……世の中には『必要悪』ってもんが存在すんだよ。
     光の当たる世界があれば、その裏には確実に闇の世界がある。
     私たちみてぇなクズの塊でも、ゴミ掃除くらいには役に立つ」

    「……ゴミ掃除」

    「そんくれぇクソガキでも分かんだろ? 学園都市に害をもたらすアホどもの"処分"だよ。
     指定されたポイントにいってターゲットの頭を吹き飛ばして終わり。
     あるいは捕まえてクライアントに引き渡してシューリョー、てなもんだ」

    学園都市の闇に蠢き、不穏な動きを見せる上層部や研究者たちの暴走阻止。
    それが『アイテム』に与えられていた主任務だ。
    他の組織もほとんど同じだろう。

    648 = 628 :


    「そんな境遇に堕ちて行くまで、何があったの……?」

    「"堕ちて行く"? はっ、笑わせんなよ『超電磁砲』。
     私たちみたいなゴミは"堕ちた"んじゃない。"初めからそこにいた"のさ」

    例えば行き場のない重犯罪者。例えば親に捨てられた置き去り。
    この都市の闇に囚われた人間に、人権など存在しない。
    脳みそをケーキのように切り開かれた人間も、死ぬよりひどいことになった人間もいる。
    暗部の人間としてうまく活(生)かされているだけ、自分たちはまだマシなのではないか。

    「まあ別に、だからどうこうってわけでもねぇけどな。
     適当に能力使ってターゲットを吹き飛ばせば金が手に入る。傭兵と一緒だ。
     自分の能力を最大限に活かした天職ってやつなのかもしんねぇな。
     金目当てに命をかけて戦えるなんていうクズのウォーマニアックスどもには、心地良い場所なのさ」

    麦野はくっくっと喉を低く鳴らす。
    だが、自分を自嘲気味に「ゴミ」「クズ」と表現する麦野の姿は、何故だか美琴には妙に寂しげに見えた。
    だから、つい呟いてしまった。


         「あんたは、後悔してるの……?」


    その言葉に、麦野の眼が見開かれた。

    649 = 628 :


    「……てめぇ、今なんつった?」

    「だってそうでしょ? 本当に"そこ"が心地良いと思ったなら、"辛い"なんて口に出ない。
     押しつけがましく、『感謝しろ』だなんて言わない。
     それは、あんたがまだ『表の世界』に未練があるからこそ出た言葉なんじゃないの?」

    「……テメェみたいなガキに何が分かる!!」

    麦野は怒りもあらわに美琴に掴みかかり、その胸倉をつかみ上げる。
    ぶちぶちと千切れるYシャツのボタン。

    「テメェみたいに世界の本質が優しさで出来てると勘違いしてるガキが、偉そうなこと言ってんじゃねぇぞ!
     この街の『闇』がどれほど深いかも知らねぇで、知ったような口を聞くんじゃねぇ!
     テメェに、私がどんな気持ちなのか、分かるってぇのかよ!」

    「……私は、あんたじゃない。あんたの気持なんて分からないわよ」

    美琴は胸元を掴む腕を掴み返す。

    「だけど、あんたほどじゃないにしろ、私だってこの街の『闇』を見た」

    その瞳は、麦野の瞳をしっかりと見据えている。

    650 = 628 :


    「……10031人。私のせいで、私の『妹』がそれだけ死んだ」

    麦野の脳裏をよぎるのは、かつての死闘後に知った『実験』の内容。
    御坂美琴のクローンを20000体用いた狂気の戦闘実験は、10032回目で中断されたと聞いた。

    「だけど、そんな私と残る妹たちを助けてくれた人がいた」

    夏休みの終盤、少しだけ流れた『第一位を殴り倒したレベル0』の噂。
    嘘か真かは知らないが、彼女を救ったのは、きっと。

    「……だから、今度はテメェが私らを救おうってか?」

    「そうは言わない。世の中には死んだ方がマシって人間がいるってことを、私はあの一週間で知った。
     "そう"か、"そうでない"かで言えば、きっとあんたたちは"そう"の部類に入るんでしょうよ。
     ……だけど、あんたたちが『救われよう』と思うなら、そのために最大限の努力をするんなら、私はそれを否定したりはしない」

    それは、上条に教えられたこと。
    人の心の中にはどうしようもない闇や欲望と共に、どんなちっぽけでも力強い光が存在する。
    ならば、御坂美琴は決してそれを否定することはない。


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