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元スレ球磨川「学園都市は面白いなぁ」
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予定通り11時から始めます
すこし早いですが投下します
――日曜日
「くまがわ、おかわり!」
いつもの如くインデックスが食料を催促してくる。
その要求に球磨川と打ち止めはうんざりしたような表情を浮かべた。
『ねぇインデックスちゃん……君は我慢という言葉を知らないのかな?』
「今日のタワーは一際すごいね……ってミサカはミサカはげんなりしてみる……」
二人の目の前にはインデックスによって築かれた暴食のタワーがそびえ立っていた。二人にとってそれは、自らの食欲を
失わせる邪悪なモノに他ならない。
球磨川と打ち止めは同時にため息をつく。
「わたしの辞書に我慢なんて言葉は存在しないんだよ! だからさっさとカップ麺をもってくるんだよ、くまがわ!」
どこまでも自分勝手なインデックス。しかしそんな彼女に対し球磨川は不敵な笑みを浮かべる。
『残念ながら、ついさっき君が食べたカップ麺でうちの食料は尽きたんだ。君の所望する物はもう、うちにはないよ』
存在しないものは出すことができない。球磨川はインデックスの暴食もここまでだとニヤニヤしながら彼女を見る。
しかし、インデックスは落ち着いた感じでこう言った。
「食べるものが無ければ買ってこればいいじゃない。というわけで何か買ってきて!」
その言葉を聞いた球磨川は――
『……インデックスちゃんのバカーーーーー!!』
あまりの傍若無人っぷりに我慢できなくなったのか部屋を飛び出してしまった。
球磨川が出て行った後、インデックスがぽつりと呟く。
「くまがわ……わたしはとんでもないミスをしちゃったかも……」
その神妙な面持ちに珍しく反省でもしたのかと思い、打ち止めはインデックスに声をかけようとするのだが……
「麺の達人は飽きたから麺職人買ってきてって言えばよかったかも……」
その言葉に打ち止めは思わず、ずっこけてしまう。
インデックスは反省などしていなかった。
「あの人はなんでインデックスを見放さないんだろうってミサカはミサカは疑問に思ってみたり……」
それは心の底から出た言葉だった――
――学園都市某所
『まったくもう! インデックスちゃんには困ったもんだよ! 空腹感を虚構にしたら、怒ってかじってくるし!』
ぶつぶつと愚痴を言いながら街を歩く球磨川。
『……おや? あの人だかりはなんだろう?』
興味津々といった様子で人だかりができている場所へと向かう。
そして何事かと見てみると、どうやら福引をやっているらしい。景品は一等がイギリス旅行券、二等がカップ麺一年分と
書かれてある。
『あ、そういえば……』
球磨川は福引券を持っていたことを思い出し、財布から券を取り出す。
まるで運命の思し召しのように感じた球磨川は福引をすることに決めた。マイナスの自分にも福引の神が微笑んでくれる
かもしれない。
『あのー、福引やりたいんですけど』
「あいよ!」
店員に券を渡し、ガラガラと福引を回す。
狙うはもちろん二等のカップ麺一年分。恐らく二ヶ月も持たないだろうが気休め程度にはなるだろう。
そして音を立てて回る福引から玉が出てきた。その玉の色は
『これって……』
玉の色は金色だった。ということはつまり――
「大当たりー! 一等イギリス旅行ー!」
そう、一等の色である。
大当たりが出たことにより周りの人々が大いに盛り上がる。しかし一等を当てた当の本人は時が止まったかのように
固まっていた。
『これ二等と交換ってできませんか?』
答えはもちろんNOだった。仕方なく一等のイギリス旅行招待券を貰い、渋々その場を後にする。
『イギリス旅行かぁ……。カップ麺1年分のほうが良かったなぁ』
不満そうに呟く球磨川。しかし今週は丁度四連休。行けない事はない。
『四名様ご招待か。インデックスちゃん達と行くとして、後一人分席が余ることになるね。誰か誘おうかなぁ?』
しかし、よくよく考えてみると自分には友達と呼べる人間がほとんどいないことに気付く。
『神裂ちゃんやステイルちゃんは少なくとも学園都市にはいないしなぁ。となると身近な友達ってことになるけど……。
ん?』
球磨川はふと公園の方を見やる。そこには明るい茶髪をした、見覚えのある少女が自販機の前に立っていた。
顎に手を当てているところから何を買おうか迷っていることが窺える。
「ココナッツサイダーにしようかしら。うーん、でもイチゴおでんも捨てがたいわねぇ……」
『やぁ美琴ちゃん! 相変わらず飲み物の趣味が悪いね!』
いきなり背後から声をかけられたからか、美琴の体がびくりと震える。
「うわっ! ……な、なんだあんたか。驚かせないでよ!」
『あははは、ごめんごめん。それにしてもこんなところで会うなんて偶然だねぇ』
全く悪びれた様子のない球磨川に対し、美琴は
「そ、そうね……」
と、どこかよそよそしさを感じさせるような返事をする。
彼女がそんな態度を取るのには理由があった。
美琴は未だに妹達の件について礼を言っていない。あれ以降何度となく球磨川とは顔を合わせているのだが、面と向かって
礼を言うというのは彼女にとって気恥ずかしく、中々言えない。彼女はそれに負い目を感じているのだ。
(き、今日こそはしっかりお礼を言わなくちゃ……!)
そして美琴は意を決し、
「あ、あのさっ!」
と口を開いたのだが……
『実はさ、僕ついさっき福引でイギリス旅行券を当てたんだ! それで四名様って書いてあるから、あと誰か一人誘おうと
思ったんだけど誘える人がいなくてね、美琴ちゃんがよければ僕達と一緒にイギリス旅行行かない?』
という球磨川の提案によって彼女の決意はかき消されてしまった。
「り、旅行!?」
美琴の顔が真っ赤になる。
男性が女性を旅行にさそうということはつまり……。美琴の中で様々な妄想が飛び交う。
『えっと、ダメかな? 美琴ちゃんが嫌なら無理には誘わないけど……』
「あ、あんたがどうしてもって言うなら行ってあげても……い、いいわよ!」
美琴はそう言って、ぷいっとそっぽを向く。その顔は先ほどよりも赤くなっている。傍から見れば誘われて嬉しいという
感情が見え見えだったのだが、球磨川はそこには触れず、
『じゃ、決定だね。待ち合わせ場所とかは決まり次第また連絡するから!』
と言ってその場を去ろうとしたのだが……
『うわっ!?』
突如、球磨川の体に衝撃が走る。それはまるで背後から蹴りを入れられたかのような感覚。球磨川は背後を振り返った。
「お姉さま……お話は全て聞かせていただきましたの……」
そこにはツインテールと独特な喋り方が特徴的な少女――白井黒子が立っていた。
「く、黒子!?」
「お姉さま! 殿方と二人で旅行などいかがわしいですわ! 破廉恥ですわ! 黒子は反対ですの!!」
黒子が凄まじい剣幕で美琴に言い寄る。
『く、黒子ちゃん! 別に二人っきりってわけじゃないよ? 僕と美琴ちゃん以外に二人いるし、その子たちは皆、女の子
だから問題な……』
「問題大有りですの!! それではまるでハーレム!! そのようなことをする汚らわしいケダモノのような方とお姉さまを
一緒にいさせるわけにはいきません!!」
その後も口論(主に黒子による球磨川への罵倒)が続いたのだが
「わかりました……わたくしもお姉さまについて行きますの!!」
という黒子の一言によって口論に決着が付いた。
『でも四人しか行けないんだよ? もう美琴ちゃん入れて四人なんだけど……』
「愚問ですの! お姉さまのためならば自腹を切ってでも行く所存です!!」
その剣幕に球磨川はある種の尊敬すら覚えていた――
――月曜日
『じゃ、行って来まーす!』
元気よく二人にそう言うと球磨川は部屋を出た。
彼は一応学生である。夏休みなどの長期休暇でもなければ平日に学校へ行くのは当然のこと。そして球磨川は自らが通う高校
に到着。いつも通りクラスに入り、いつも通り自分の席に座る。
『おや? 隣の子が席についてないね』
球磨川の隣の席の生徒はとにかく真面目な生徒だった。誰よりも早くに学校に来て一人で本を読んでいる、教科書を置き勉
することなど絶対にしない。そんな隣人がこの時間に席についていないというのはおかしい。しかし球磨川はさして気にせず
今日は欠席したのだろうと考えた。
球磨川がそんなことを考えているうちにHR開始のチャイムが鳴る。それと同時に、
「はーい皆さん席についてくださーい!」
と言いながら幼女にしか見えない担任教師――月詠子萌が教室に入ってきた。
『子萌先生は今日も可愛いなぁ』
球磨川の頬が思わず緩む。
子萌は確実に二十代後半に達している大人の女性。しかしその容姿はどう見ても幼女である。そんなところが彼にとっては、
初恋の女性に似て魅力的なのだ。
そして子萌は教壇につくと、
「突然ですが皆さんに嬉しいお知らせがあります! 今日は転校生ちゃんが来ているのですよー!」
と笑顔で話した。その言葉に何か嫌な予感が走る球磨川。しかしそれを気のせいだと必死に否定する。
「では転校生ちゃん、入ってきてください!」
子萌にそう言われ、教室に入ってきた転校生は――
「はじめまして、安心院なじみといいます。親しみを込めて、あんしんいんさんと呼んでくれると嬉しいな」
セーラー服姿の安心院なじみだった。
安心院が自己紹介を終えた瞬間、クラスの男子達がヒートアップする。そのあまりにも魅力的過ぎる容姿は男子を虜にして
当然だろう。いや、男子どころか女子すらも顔を赤らめている。
今このクラスで安心院に対して興奮していない者はいない。ただ一人の過負荷(マイナス)を除いて……
「えーっと球磨川ちゃんの隣の席が空いてますね。じゃあとりあえず安心院ちゃんはそこに座ってください」
「はい」
安心院はその指示に従い、球磨川の隣の席に座る。
クラスの者達は球磨川に羨望の眼差しを向けるが、それを受ける当人はそんな眼差しを向けてくる連中全員の目に螺子を
螺子込んでやりたい気分だった。
「どうしたんだい、球磨川君? そんなしかめっ面をして」
そう話しかけてきた安心院は、相も変わらず何を考えているのかわからないような笑みを浮かべている。
球磨川はそんな安心院を恨めしそうな目で見ながら尋ねた。
『安心院さん……君は僕に嫌がらせがしたいの?』
「まさか! 僕がここに来たのは単なる暇潰しさ」
その答えに怪訝な表情を見せる球磨川。
『暇潰し?』
「そう、暇潰し。復活できたもののまだ何をするかは決めてなくてね。あっち同様に『フラスコ計画』でもやってみようかと
考えてはいるんだけど、まだ詳細は未定なんだ。それが決まるまでは君とゆるふわな学園コメディでもやってお茶を濁すのも
一興かと思ったのさ」
その答えが真意か否か、それを彼女の表情から読み取るのは不可能だった。
しかし球磨川にとってそのようなことはどうでもいいらしく、
『ふぅん、あっそう』
そう答えて彼はぷいっとそっぽを向く。
「全く、つれないなぁ」
球磨川の態度に安心院は、苦笑しながらぼそりと呟いた。
その後は何事も無く学校での時間が過ぎ、時刻は午後四時。放課後となった。
「球磨川君、一緒に帰……」
『今日もひ・と・りで! 寂しく帰ろっと』
球磨川は安心院の誘いを暗に断りながら、そそくさと教室をあとにする。
しかしそんなことをしても無駄だった。
「おや、遅かったね」
球磨川のほうが先に出たはずだというのに、安心院なじみは校門前にいた。そしていつも浮かべている微笑を向けてくる。
そんな彼女に球磨川はげんなりとせざるを得なかった。
――下校までの道のりで安心院は様々な話題を球磨川に振ったのだが球磨川はそれらに対し、へぇとかふぅんとか一言
二言返しただけで他には何の反応も示さなかった。そんな球磨川の態度に腹を立てることもなくただ微笑を浮かべる安心院。
そして、球磨川が住むマンションが見えてきた。これで安心院と分かれることができる、そう思って球磨川は安堵するの
だが……
『……ねぇ、安心院さん。君どこまでついてくるつもりなの?』
マンションは目の前である。なのにもかかわらず安心院は別の道を行こうとしない。これが意味することは……
「ん? どこまでってこのマンションの中までだけど?」
球磨川はその答えを聞いた瞬間、心にヒビが入ったかのような感覚に襲われる。
『まさかとは思うけど……このマンションに住んでるの?』
恐る恐るそう尋ねる球磨川。
先ほどの答えからしてそれは確定的である。しかしながら、彼はその事実を信じたくなかった。
そんな彼の問いに安心院は処刑宣言の如き答えを返した。
「あれ? 言ってなかったっけ? 僕が住んでるのは君の部屋のすぐ隣の部屋だよ」
――終わった。
球磨川の心の中で、その言葉が反芻する。これから先、彼は毎日のように安心院と朝、顔を合わせ共に学校に行くことに
なる。いや、それだけではない。幼少期からの幼馴染が如く自分を起こしに来るかもしれないし、以前のように夕飯時にやって
きて共に食事をしなければならないかもしれない。
昔のように安心院に恋心を抱いているならば嬉しい状況ではあるが、安心院の本性を知った彼は彼女に対しての恋心など
とうに捨てていた。残っているのは不快感だけである。
『……』
今後の安心院による嫌がらせを想像した球磨川は唇を噛み締め血の涙を流した。
そんな彼に対し安心院は意地の悪そうな笑みを浮かべ
「おや、血の涙を流すほど嬉しかったのかい?」
などと心底愉快そうに言ってくる。
無論、彼が流している涙は嬉し涙などではない。まだ一日が終わっていないというのに、球磨川の心は疲弊しきって
いた――
――学園都市某研究所
「おぉ、意識が戻ったぞ!」
「まさか、このような実験が成功するとは……!」
研究所内はその場にいる研究員達の声によって騒然としている。
彼等の視線の先には目を瞑っている白髪の少年がいた。
そして少年の目がゆっくりと開かれ、その特徴的な赤い瞳が見えてくる。
「く……ま……がわァ……」
そう呟いた少年の目に宿りしものは――
これで投下終了です
次の投下はプロットが出来ているので1ヶ月以内には出来る……といいなぁ……
では短い時間でしたが1の駄文にお付き合いくださりありがとうございました!
次の投下はプロットが出来ているので1ヶ月以内には出来る……といいなぁ……
では短い時間でしたが1の駄文にお付き合いくださりありがとうございました!
乙
復活した彼は以前のままだろうか、それとも球磨川に感化されて墜ちたか…
復活した彼は以前のままだろうか、それとも球磨川に感化されて墜ちたか…
ようやく8割以上完成しました……
今週の土日には投下できそうです
多分今回で最後になると思います では
今週の土日には投下できそうです
多分今回で最後になると思います では
予定通り9時から開始します
恐らく原作の設定と違う描写等あると思いますが……そこは目を瞑ってください
では
恐らく原作の設定と違う描写等あると思いますが……そこは目を瞑ってください
では
これから投下します
――イギリス
約十二時間ほど空の旅を楽しんだ後、球磨川一行はイギリスへと到着。
ホテルへのチェックインを済ませた後、街へと繰り出していた。
「わー! イギリスって綺麗なところだね! ってミサカはミサカは初めてきた土地に興奮してみたり!」
「イギリスはいいところなんだよ!」
故郷を褒められて嬉しかったのか、インデックスは誇らしげに胸を張った。
「二人ともはしゃぎすぎて転ばないようにしてくださいましよ」
黒子が二人をなだめるように注意した。
「それにしても……」
視線を打ち止めに集中させる。それと同時に、口から涎がダラダラと流れ始めた。
「本当にお姉さまそっくりですのね……。しかも幼女! お姉さまそっくりの顔でしかも幼女! もう黒子辛抱堪りませ
んの!」
黒子はまるで犯罪者の如く鼻息を荒くする。そんな彼女を美琴は流し目で見ながら
「襲い掛かったりしたら容赦なく電撃浴びせるからね」
と、呆れた様子で警告した。そして彼女は球磨川の方に視線を移す。彼もまた、初めて来た土地に興奮しているらしく
首を右に向けたり左に向けたりと楽しそうであった。
「はぁ、こっちの気も知らないで……」
せっかくの旅行だというのに彼女のテンションは全く上がらなかった。それにはもちろん理由がある。
それは待ち合わせ場所である空港でのこと。球磨川達は待ち合わせ時間を十分ほど遅刻してきた。ギリギリまで準備して
いたことが理由らしい。しかし美琴にとってそれは些細なことだった。問題なのは球磨川がつれてきた少女二人のうちの
一人、打ち止めである。美琴は打ち止めのことなど全く知らなかった。
出会いがしらに打ち止めが
「はじめまして美琴お姉さま! ってミサカはミサカはお姉さまに会えたことを喜んでみたり!」
と挨拶してきたため、打ち止めが妹達の一人であることは予想できる。しかし、他の妹達とは全く姿形が違う。一体この
少女は何者なのかと球磨川に問いただそうとしたのだが、
『まぁそれはおいおい話すよ。あ! もう飛行機が出るみたいだよ!』
と、うやむやにされてしまった。
「絶対に説明してもらうわよ……」
美琴は不満げにそう呟いた――
――???
なぜこんなことになった。
『随分と困惑してるね まるでどこぞの珍妙な頭をしたフランス人みたいでとても面白いよ』
学園都市最強の第一位たる自分がこんな無能力者ごときに……
『さて、一方通行ちゃん。期待っていうのは大きければ大きいほど裏切られたときつらいんだよ。僕の心はもうぼろぼろさ』
攻撃しなければやられる。しかし恐怖で体が動かない。こんな三下に恐怖している、その事実がまた腹正しい。
『だから君の全てを消し去って、僕はここから去ることにするよ』
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざ……
――学園都市某研究所
「おぉ、意識が戻ったぞ!」
「まさか、このような実験が成功するとは……!」
研究所内はその場にいる研究員達の声によって騒然としている。
彼等の視線の先には目を瞑っている白髪の少年がいた。
そして少年の目がゆっくりと開かれ、その特徴的な赤い瞳が見えてくる。
「く……ま……がわァ……」
そう呟いた少年の目に宿りしものは――
「アァァァァァァァアアア!!!!」
混じりっ気なしの純粋な殺意だった。
奇跡的な復活を遂げた一方通行だったが、その心は完全には蘇らなかった。今、彼の心の中にあるものは球磨川に対する
憎しみ、殺意、そして破壊衝動のみである。
凄まじい咆哮の後、一方通行の背後からまるで天使の翼のようなものが展開。彼はその場にいる者達を瞬く間にこの世から
消し去り、施設を跡形もなく破壊するとその場から飛び去っていった。
――学園都市某所
今日も学園都市は平和だった。
ある者は誰かと待ち合わせをしているのか、一所に留まり続けている。ある者は会社に遅刻でもしそうなのか必死に走って
いる。
そう、そこにいる者達にとって、この日はいつも通りの平和的日常だったのだ。
――天使のような姿をした悪魔が現れるまでは。
「ん? ありゃなんだ?」
最初に『ソレ』の存在に気付いたのはスーツ姿の男だった。
彼はこの時、営業の外回りで取引先に向かっているところだった。
今日もまた取引先で嫌味を言われるのだろうか。そんな鬱屈とした気分でトボトボと歩いている最中、空から何か叫び声の
ようなものが聞こえてきた。
まさか空から人でも落ちてきたのかと思い、空を見上げたその瞬間……
「えっ?」
それが彼の最後の言葉。
その時を目撃した者達は当初何が起きたのか理解できなかった。光り輝く翼のような物体が彼を襲ったかと思えば、次の
瞬間には確かにそこにいた彼が塵一つ残らず消え去っている。
突然の事態に疑問符が頭の中で飛び交う。そして次第に考えが纏まって行き、答えにたどり着く。
――彼の人生は自分達の目の前にいる『ソレ』によって強制的に終了させられたのだ。
「くゥゥゥまァァァがァァァわァァァ!」
そして突如として現れた『ソレ』は激しい憎悪が込められた咆哮の後、目に付いたもの全てを破壊し始めた。その理由が
なんなのかは誰にもわからない。わかっていることはその場にいる者達全てにとって『ソレ』は恐怖すべき存在であること
だけである。
「バ、バケモノだぁぁぁぁぁ!!」
「う、うわああああああああああああ!!」
人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。『ソレ』はそんな人々を無慈悲に虐殺する。
つい先ほどまで平和そのものだった学園都市はいまや地獄絵図と化していた。
――窓の無いビル
「まさかあの実験が成功するとは……」
学園都市統括理事長アレイスター・クロウリーは楽しげに呟いた。
そして眼前にいる者に向けて語りかける。
「今回の賭けは私の負けのようだな」
彼の双眸の先にいる巫女服姿の少女は、いつも通りの微笑を浮かべながら
「だから言っただろう? 僕の力を使えば人を天使にするくらい造作もないってさ」
と嘯いた。
「まぁそれはさておき、一方通行君をどうするつもりだい? 僕がリミッターをかけてるとはいえ、放っておくとものの
数時間もたたないうちに学園都市が崩壊するぜ?」
そう言われたアレイスターはどこか残念そうな表情を浮かべて答える。
「個人的にはもう少し静観したいんだがな。立場上対処せねばなるまい」
「へぇ、どう対処するつもりだい? 僕としては君が直接出張ると面白いんだけど」
「私自らが出るほどのものでもないだろう。そうだな……今回は『現』第一位のお手並みを拝見させてもらおうか。サポート
は……『現』第三位あたりにしよう」
「第一位……あぁ、あのようやく一位になれたのに未だスペアプラン扱いされてる彼のことか。どうにかなると思うかい?」
その質問に対しアレイスターは意地の悪そうな笑みを浮かべながら答えた。
「賭けてみるか?」
それに対し少女もまた、彼と同様に意地の悪そうな笑みを浮かべながら返す。
「賭けになるならね」
どうやら互いに結果は見えていると考えているらしい。それを察した両者は愉快そうに笑い声を上げる。
アレイスター・クロウリーとその傍らにいる少女――安心院なじみ――は、この緊急事態を面白そうに『観察』するので
あった――
「アァァァァァァァァァァァァア!」
学園都市に突如として降臨した一方通行は未だ尚、破壊を続けている。
そしてその攻撃が停止した瞬間だった。
「グゥッ!?」
まるでレーザーのような輝く光線が彼の背後から襲ってきたのだ。
不意打ちの形であったため避けられるはずもなく、その光線は一方通行に直撃。彼に確かなダメージを与えた。
その攻撃によって、一方通行の鬼のような形相がさらに険しくなる。そして後ろを振り向くと、そこにはホストのような
男と、いかにもお嬢様といった外見をした女が立っていた。
「おいおい、直撃したのにあの程度のダメージかよ。お前手ぇ抜いてんじゃねぇぞ?」
ホスト風の男が女に向けて不愉快そうにそう言った。
彼の名は垣根帝督。『現学園都市の第一位』であり、『現学園都市最強の超能力者』である。
球磨川と交戦後、一方通行は消息不明とされた。その後レベル5内の順位が繰り上げられ、垣根提督は念願であった第一位
となったのだ。
「手なんか抜いてないわよ!」
そう反論した女の名は麦野沈利。「原子崩し(メルトダウナー)」の二つ名を持つ学園都市の『現第三位』。
彼女の能力は電子を操作し白く輝く光線として放出するというものである。粒機波形高速砲と呼ばれるそれは絶大な威力を
持ち、いままであらゆる物、そしてあらゆる者を破壊してきた。
しかし――
「なんだってのよ、あれは……」
眼前にいる標的にはダメージを与えた程度。
彼女の目論見では最初に見舞った一撃で決着がつくはずだったのだ。
しかしそうはならなかった。放出すれば全てを破壊し、抹殺してきた彼女の力は一方通行を死に至らしめることはなく、
与えたダメージもすでに回復している。
そんな化物のような存在に彼女は戦慄せざるを得なかった。
「おい、ビビってんじゃねぇぞ。ダメージは与えられたんだ。殺れないってわけじゃねぇ」
彼女の心情を察したのか、垣根は呆れた口調で叱咤する。
一方通行の驚異的な力を目の当たりにしたというのに、垣根の表情からは恐れなど微塵もなかった。
「ウゥゥゥゥゥ……」
二人を見据える一方通行が力を溜めるが如く体を屈ませた。翼の輝きがより一層強くなる。
そんな眼前の敵を前にして垣根は笑う。
「おーおー、怖い顔しやがって。……来やがれ、『元』一位」
そう吐き捨てると垣根は戦闘態勢に入った。
「はぁ、生きて帰れるかしら……」
弱気な言葉とは裏腹に、麦野沈利の表情からは強い覚悟が感じられる。
両者共に戦いに臨む準備は万端という感じであった。
その場を沈黙が支配する。そして数瞬の間を置いた後、戦いの火蓋は切って落とされた――
――結論から言おう。
垣根帝督、麦野沈利の両名は、文字通り手も足も出ずに敗北した。
まず最初にやられたのは麦野だった。
一方通行の絶え間ない攻撃を最初のうちは光線で迎撃することによって対処していたのだが、攻撃の手は止むどころか激しさ
を増す一方。そのような状況で迎撃を続けることなど出来よう筈もなく、とうとう彼女は翼に捉えられてしまった。
翼を受けたその肉体は原形をとどめているものの、左腕は肩から消し去られ、頭部の右側がまるで抉り取られたかのよう
に無くなっている。
そして麦野がやられたことにより、垣根の運命も完全に決定付けられてしまった。
一方通行の攻撃は麦野だけが受けていたのではない。垣根もまたその攻撃を防いでいたのだ。
つまり、二人がかりでようやく攻撃を防げていたということになる。だが前述したように麦野は迎撃しきれなくなりやられて
しまった。そうなれば当然、全ての攻撃が垣根に向かうこととなる。
二人でも対処しきれなくなった攻撃を一人でどうにかできるわけが無い。垣根の肉体は無数の翼を受け、跡形も無く消滅して
しまった。
垣根帝督と麦野沈利が攻撃できたのは最初の不意打ちのみ。それ以降、ただの一度も攻撃できぬまま二人は一方的に『虐殺』
された。
「アァァァァァァアアアア!!」
一方通行の咆哮がその場に響き渡る。それはまるで勝利の雄叫びのようだった。
その後、一方通行は再度学園都市を破壊せんと翼を輝かせる。そして翼が放たれようとしたその瞬間――
「はい、ストップ」
突如、目の前に巫女服姿の少女が現れた。
一方通行がその少女を確認した瞬間、翼の輝きがなりを潜める。それに満足したのか少女はニッコリと笑いながら
「球磨川君ならイギリスにいるよ」
と話した。
それを聞いた一方通行の顔が憤怒で歪み、
「くゥゥゥまァァァがァァァわァァァ!!」
地響きを起こすほどの叫び声を上げながら一方通行は飛び去っていった。
「……さて彼を倒したときに得られる経験値はいかほどかな」
一方通行を微笑みと共に見送った彼女は、まるで計画通りという顔をしながらそう呟いた――
――イギリス某所
「ねぇ、もうそろそろご飯が食べたいんだよ!」
インデックスが腹の虫を盛大に鳴らせながら言った。
恥じらいなど皆無である。
『そうだね、時間的にもご飯時だし何か食べに行こうか』
球磨川はインデックスの提案を快諾したが、他の三人は不安げな顔を浮かべていた。
「そ、それはいいんだけど……」
「イギリスといいますと……」
「ご飯が絶望的に不味い事で有名なんだよねってミサカはミサカは不安になってみたり……」
三人の失礼な物言いに、インデックスが憤慨しながら反論する。
「むー! イギリスにだって美味しい食べ物はたくさんあるんだよ!」
ぷんすかという擬音が聞こえてくるような怒り様である。
そんな彼女に対し球磨川と打ち止めが、この子はきっと食べることのできる物なら何でも美味しいというんだろうなぁ、と
感じたことは言うまでもない。
球磨川達の旅行はここまでは平和的であった。
――そう、ここまでは。
「球磨川ァァァァァァァァァァァアアアアアア!!」
どこからか凄まじい絶叫が聞こえてくる。
『えっ?』
自らの名を呼ばれて思わず反応する球磨川。どこから聞こえてきたのかと探してみるのだが周りにはどこにもそれらしき
人物はいない。
気のせいだったかと思った瞬間、球磨川の肉体がまるでこの世に最初からいなかったが如く消え失せ、彼の……否、『彼等』
の意識はこの世から完全に消滅した。
しかし、球磨川禊は死んでも死なない男である。彼の肉体が消え去った後、自動的に大嘘憑きが発動。球磨川禊はまるで何事
もなかったかのように復活した。
『やれやれ、僕はコナン君じゃないんだ。旅行中ぐらい平和でいさせて欲しいよ』
そうぼやいた後、周りを見回してみると、自分が立っている場所を中心に半径数十メートルがクレーターになっていた。
それを見れば嫌でも理解できる。
自分が凄まじい攻撃を受けたこと、そして……その場にいた自分以外の四人もまた死んでしまったことを。
球磨川の顔から表情が完全に消え去る。
『……』
彼は無言のまま死んでしまった四人を復活させた。
球磨川の前に無傷の四人が姿を現す。
「な、何が起きたの!?」
復活した美琴がその場の状況を見て叫んだ。
「なにか眩しい光に包まれたような気がしましたが……」
自分達の身に何が起きたのか理解できていないのか、黒子が不安げに呟く。
そんな二人とは正反対に、
「シスターとしては死んで蘇るって経験をするのはなんだか複雑かも……」
「人生で二回も死ぬって中々経験できないよね……ってミサカはミサカはため息をついてみたり」
以前一度経験したからかインデックスと打ち止めは全く動揺していなかった。
『そんなことより君達、あれをご覧よ』
と言って空に向かって指を指す球磨川。彼が指し示した場所に浮かんでいるモノは――
「ア、一方通行!?」
それを見た瞬間、美琴が驚愕の声を上げた。
「一方通行……確か失踪した学園都市の元第一位がそのような名前でしたわね。しかし何故そんな方がここに……」
『……とりえあえず今言えることは一つ。ここは僕に任せて、早く逃げるんだ。大嘘憑きで何度だって復活させられるけど
君達が何度も死ぬ姿は見たくないからね』
と四人に向かって言う球磨川。その表情は普段、決して見せない真剣な面持ちだった。
「そうね。黒子、あんたは二人を連れて安全な場所まで飛びなさい。あいつは『私達』がなんとかするわ」
『……美琴ちゃん?』
美琴ははっきりと『私達』と言った。それはつまり自分も残るという意思表示である。そんなことをすれば危険な目に
あうことは明白。球磨川としては賛成しかねることだ。そしてそれは黒子も同じだった。
「お姉さま! あんなのと戦っては命がいくつあっても足りませんの! わたくし達と来てくださいまし!」
必死の思いで美琴を説得しようとする黒子。しかし美琴の決意は固かった。
「私はあいつに借りがあるのよ。それを返さないと収まりがつかないわ。それに……」
そこまで言うと黒子から球磨川に視線を移す。
「あんたを一人残していくのは気分が悪いもの」
そう言ってわずかに微笑んだ。
『……美琴ちゃんって男の子だったらモテモテだろうね』
球磨川もまた、そう言って笑う。
そんな二人のやり取りを見て折れたのか黒子は
「わかりましたの……」
俯きながら呟き、インデックスと打ち止めの肩に触れる。
「お姉さま……御武運を!」
そう言い残して黒子は何処かへと飛んだ。
その瞬間、美琴は球磨川から離れた場所へと移動する。
先ほどから一方通行は球磨川の事しか見ていない。奴の目的は確実に球磨川。ならば自分は彼から離れた位置に陣取り、彼等
の戦いを見つつ隙をうかがう、彼女はそう判断した。
「私を眼中にいれなかったこと……後悔させてやるわ……!」
美琴はコインを構えながら、静かに闘志を燃やす。
一方、球磨川はというと、
『一度やられた後にパワーアップして復活だなんて、ジャンプの悪役過ぎるぜ。一方通行ちゃん』
やはり、いつものように緊張感がなかった。しかしその目は一切笑っていない。
「球磨川ァァァァア……」
一方通行の顔が憤怒で歪んでいく。いつ襲い掛かってくるかわからないという感じだ。
『おいおい、そんな怖い顔するなよ。僕が何をしたって言うんだい? それにしてもその翼、中二チックでかっこいいね!
羨ましいなぁ。とりあえずその翼を虚構に……』
そこまで言った瞬間、彼は言い知れぬ違和感を感じた。
何かがおかしい。しかしそれが一体なんなのかがわからない。
――そんな違和感に気を向けていたのが悪かった。
『あ……』
宙に浮いていた一方通行が突如球磨川の目の前に出現。そして彼は凶暴な笑顔を浮かべながら、その拳を球磨川に向けて
全力で振るった。
天使と化した一方通行は以前のようなベクトル操作は行えない。しかしその拳はベクトル操作によって強化されたそれ
よりもはるかに強力な威力を持っていた。
そんな一撃が直撃した球磨川の肉体は、超高速で地面に激突したトマトの如く爆散。一方通行の体が血飛沫に染まった――
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