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元スレ球磨川「学園都市は面白いなぁ」
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――とあるマンションの一室
『最近、明らかに負(マイナス)のオーラを放ってる科学者と巨乳眼鏡っ子がよく夢に出てくるんだけど何かの予兆かな?』
「きっと気のせいなんだよ!」
いつもの様にインデックスが球磨川に反応する。
しかし今回はインデックス以外にもう一人反応を示す者がいた。
「そうそう、気のせい気のせい! ってミサカはミサカは同意してみる!」
そう言ったのは、まるで御坂美琴を幼児化したかのような幼女『打ち止め』であった。
打ち止めが来てから早二週間。その期間中、打ち止めが謎の高熱によってうなされ奇怪な言語を話し始めるという
奇妙な事件が起きたが、球磨川の大嘘憑きによってその高熱は原因ごと虚構にされた。
その際、とある一人の研究員が車にはねられ死亡するという事故が発生。そのほか諸々の事情(全て球磨川のせい)
もあり、別世界では起きるはずであった様々な事件が虚構となってしまっていたのだが、球磨川がそれを知る由はない。
しばらく談笑していた球磨川達だったが、インターホンの音によって会話が止まる。
『おや、誰だろう? ……まさかインデックスちゃん、君また前みたいにピザ30人分とか注文したのかい!?』
「違うんだよ! 今はピザじゃなくてお蕎麦が食べたい気分かも! だからお蕎麦を最低20人分注文し……」
『じゃあ、打ち止めちゃんの知り合いか何かかな?』
言わせないとばかりに、インデックスの台詞を遮る球磨川。
「ミサカに知り合いはいないよ……ってミサカはミサカは寂しがってみる。うわーん!」
『そっか。じゃあ僕ちょっと出てくるね』
そう言って玄関に向かう球磨川。
二回、三回と押されるインターホンに少々うんざりしながらドアを開ける。
『はいはい、そんなに押さなくても今出るってば』
ドアを開けた先にいた人物、それは――
「……お邪魔させてもらうよ」
長身に赤い髪。そして奇妙な服装をした20代にしか見えない10代の少年、ステイル=マグヌスだった。
『……』
彼の姿を確認した球磨川は、無言でドアを閉めようとする。
しかしステイルはそんな彼の行動を読んでいたのかドアの間に足を挟み、それを阻止した。
「なぜ閉めようとする?」
『あははは! やだなぁ、ちょっとしたお茶目だよ、お・ちゃ・め! だからそんなに怖い顔しちゃイヤンっ☆』
そう言って無邪気に笑う球磨川を見て苛立たしげにため息をつくステイル。
「で、お邪魔してもいいのかい?」
『うん、いいよ。入って入って!』
ステイルは球磨川に促され、部屋に入る。
一番最初に目に留まったのは、オレンジ色の髪をした少女だった。以前自分が来たときはこのような少女は
いなかったはず。少々気にはなったが今はそんなことはどうでもいいと思い、その少女から視線を外した。
「久しぶりだね、ステイル!」
銀髪の少女――インデックス――が声をかけて来る。
そういえばこの子に会うのは、球磨川がこの子のアイデンティティ全てを虚構にし『ただの少女』にして以来だ。
あの時は全てが崩れたかのような感覚にとらわれこの部屋を後にしてしまった。
それ以降なんと無しにばつが悪く、様子を見に行くことができなかったのだがどうやら元気そうだ。
そう思うとステイルの頬が自然と緩む。
「ねぇねぇ、この人誰? ってミサカはミサカは見知らぬ人の素性をあなたに聞いてみる!」
打ち止めが球磨川にそう尋ねた。
無理もない。彼女とステイルに面識などないのだから。
『ん? あぁ打ち止めちゃんはステイルちゃんと会うのは初めてだったね』
球磨川はステイルと自分達の関係を簡潔に話した。
『あ、そういえば僕が虚構にできなかったあの魔法! あれってどんな仕組みしてたの?』
以前、考えても考えても答えが出なかった疑問をふと思い出した球磨川はステイルに答えを求める。
「法の書は知ってるな?」
しかしステイルは球磨川を無視して、インデックスに話しかける。
「もちろん知ってるんだよ。著者はエドワード・アレクサンダー。誰にも解読できないってことで有名な書だよね?」
「そう、10万3000冊を記憶している……いや、記憶していた君でも解読不可能な法の書。これを解読可能な
人間が現れたんだ」
「えぇ!? あの法の書を解読可能な人間!? そんな人がいるなんて、とてもじゃないけど信じられないんだよ!
だ、誰なの一体!?」
『あれ? ステイルちゃん? おーい、聞いてるー?』
ステイルの目の前で手を振る球磨川。しかしそんな球磨川をまるで気にせず、ステイル達は話を進める。
「ローマ正教の修道女、オルソラ=アクィナスという者らしい。そしてここからが本題だが……」
『あの後、僕は君の魔法が気になって気になって眠れない夜を過ごしたんだよ? 君には僕に魔法の仕組みを教える
義務が……』
「その法の書とオルソラ両方が盗まれた」
ステイルは球磨川の台詞を遮り、話を進め続ける。
ステイルの一言にインデックスは驚くが、すぐに冷静になり
「犯人の目星はついてるの?」
と尋ねた。
「あぁ、法の書を盗み、オルソラを誘拐したのは……天草式十字凄教だ」
『なんだか、かっこいい名前の組織だね! それってどういう組織なの?』
興味を示した球磨川がインデックスに聞くがインデックスもまたステイルと同様、球磨川を無視する。
「天草式!? なんで天草式が法の書なんかを!?」
『こういう重要な用語とかは解説を入れたほうがいいと思うなー 原作知らない人もいるんだしさ。だから
天なんとかって言うのはいったい何か僕に教え……』
「僕も聞いたときは驚いたよ。でも事実だ」
球磨川の言っていることなど完全に聞こえていない、もしくはその存在すら認識していないかのような感じで
球磨川の台詞を遮るステイル。
ことごとく無視され続けたのが応えたのか、球磨川の頬に血の涙が伝いその表情は憤怒に染まっていた。
「……それでステイルがここに来た理由っていうのはやっぱり……」
「そう、協力を頼みに来た。君、もしくはコレにね」
そう言ってステイルは心底不愉快といった顔をしながら球磨川を一瞥する。
『あ、ようやく構ってくれるの!? じゃあとりあえず君の魔法の話から……』
「僕としては……インデックス、君を巻き込みたくはない。協力させるのはアレだけにしたいんだが……」
構ってもらえると思い表情がいつものにこやかな表情に戻った球磨川だったが、またもや無視されとうとう
壁に向かって項垂れてしまった。
「無視されるぐらいいいじゃない! ミサカなんか話の輪の外にすら入れていないんだよってミサカはミサカは自虐的な
フォローを入れてみる!」
『そうだね……あの二人の話が終わるまで一緒にお喋りしてようか打ち止めちゃん……』
ハブられ者の二人は、まるで大人達の話に混ざりこめない子供のような肩身の狭さを感じながら会話を開始する。
一方、インデックスとステイルはそんな外部のことなど気にもせず、シリアスな雰囲気を保ちながら会話を続けて
いた。
「ごめんねステイル……今の私じゃ役に立てないんだよ……足手まといになるだけかも……」
「いや、問題ない。僕は君を巻き込みたくはないからね。そもそもアレの協力だって必要ないんだ。あの女狐に
言われなければ……」
マイナスのオーラを発している球磨川達を尻目にどんどん話が進んでいく。そして球磨川のみ協力する
という形で話がついた。当事者を完全無視して。
「では、今夜午後7時に学園都市の外にある廃劇場跡地に来てくれ。協力者達と共に天草式から法の書及び
オルソラを奪還する」
「くまがわ! 頑張るんだよ!」
ステイルとインデックスは球磨川にそう声をかけたのだが……
『それでさーそのめだかちゃんって子が酷いんだよ! いきなり僕をボコボコにしてさー』
「いや、それはあなたが悪いよ! ってミサカはミサカはドン引きしてみたり……」
『えぇー、僕は自分の愛を確かめただけなんだよ? あんなに怒らなくてもいいと思うんだけどなぁ』
「愛を確かめる手段が顔の皮を剥ぐってどういうことなの……ってミサカはミサカは言葉を失う……」
球磨川達はステイルとインデックスの話など聞いてはいなかった。そう、これっぽっちも。
「ふぅぅぅたぁぁぁりぃぃぃとぉぉぉもぉぉぉ!! 人の話はちゃんと聞くんだよぉぉぉ!!!!」
『ぎゃああああああ!! なんで僕ばっかり!! そもそも最初に無視した君達が悪いんじゃないか! だから僕は
悪くな……』
「その台詞をブチ殺す! むきー!!」
球磨川の台詞を遮りながら飛び掛るインデックス。部屋に球磨川の断末魔の叫びが響き渡った――
「あれ? もしかしてミサカ達の出番はこれで終わり? ってミサカはミサカは自分達の境遇を呪ってみたり……」
「出番とご飯をくれると嬉しいかも……」
――廃劇場跡地
球磨川はステイルの言った通り午後7時丁度に廃劇場跡地へとやってきた。そこには大勢の修道女達がいて、なにやら
話し込んでいる。
『おや、あそこにいるのはステイルちゃんかな?』
ステイルを見つけ駆け寄っていく球磨川。
『おーいステイルちゃーん。約束通り来たよ!』
そして明るく声をかけるのだが……
「……」
ステイルは何の反応も示さない。
『あれ? ステイルちゃん? 聞こえてないのかなぁ? おーいステイルちゃーん! 老け顔のステイルちゃーん!
ロリコンのステイルちゃーん!?』
「……何の用だ。あと僕はロリコンじゃない」
しつこく話しかけた結果、ようやく球磨川に反応を示すステイル。しかしその反応は友好的なものではなく、
表情からは「鬱陶しいからさっさと消えて欲しい」という内情がありありと現れていた。
『いやぁ、ここにいるのって女の子ばかりじゃない? なんだか疎外感を感じちゃって寂しくてさぁ。というわけで何か
お喋りしようよ!』
「僕は君と喋ることなんて特にないんだが」
そう言ってステイルはまるで犬を追い払うかのようにシッシッと手を振るが、球磨川はそんなことまるで気にせず
ステイルの隣に立つと
『ところで法の書っていうのはどういうものなの? こんな大人数が出張らなきゃいけないほど価値のあるものなの
かな?』
と聞いた。
ステイルはマイペースな球磨川にため息をつきながらも
「もしそれが使われれば十字教が支配する今の世界が終わりを告げるとまで言われている。価値があるとかそういう
レベルじゃない」
と答える。
『ふぅん……そんなにすごいものなんだ。争いの種になるわけだよねぇ』
そう言った球磨川の顔は、悪戯が大好きな少年のような顔だった。
その表情を見てステイルは確信する。「コイツ確実に何か企んでいる」と。
「……今度は一体何を企んでる?」
『何も企んでいないよ。ステイルちゃんは僕のことどう思ってんのさ?』
「腹の中に暗黒物質が入ってると思ってる」
『本当に酷いなぁ。僕は清廉潔白な人間なんだよ?』
お前が清廉潔白なら自分はキリストを上回る聖人として崇められるだろうよ。ステイルは心の底からそう思った。
その後も他愛のないやり取りがしばらく続いたのだが、一人の修道女が来たことによって二人の会話は終了する。
「はぁ……はぁ……状況の説明を始めちまいたいんですけど」
かなり急いで来たようだ。息が乱れている。
そんな彼女にステイルは
「あぁ頼む」
と至極普通の反応を返したのだが……
『ねぇねぇ、その靴って凄い厚底だよね。もしかして身長気にしてるの? 君はちっちゃいほうが可愛くて素敵だと
思うけどなぁ』
球磨川の反応はデリカシー? 何それ美味しいの? と言わんばかりだった。
そんな反応に腹を立てたのか、修道女は鬼のような形相で球磨川を睨みつけてくる。
だが、それを向けられた当人は悪びれることもなく笑顔のままであった。
「この馬鹿のことは無視して話を進めてくれ」
ステイルの言葉に修道女はハッとなり、緊急事態だというのに気を緩めたことを恥じたのか顔を少し赤くする。
しかし咳払いと共に気を取り直し、状況説明を開始した。
「現状、オルソラ=アクィナスは確実に天草式の手にあります。今回の件に出張っている天草式の数は推定で50人弱。
現在、パラレルスイーツパークに追い詰め包囲しています。これを現在いる戦力全てをもって襲撃します。決行は
今から1時間後の予定ですが……何か質問は?」
「いや、特にないよ」
『じゃあ質問! 僕は球磨川禊って言うんだけど君はなんて名前なの?』
それは果たして現状、聞くべきことなのだろうか? 修道女は球磨川の質問に対し不快感を覚えながらも名乗って
きた相手に名乗り返さないのは失礼と思い、球磨川の質問に答えることにした。
「……アニェーゼ=サンクティスです」
『へぇかっこいい名前だね! よろしく!』
そう言って笑顔で手を差し出し握手を求める球磨川。
アニェーゼは露骨に嫌そうな顔をしながらその手を無視して
「では短い時間ですが協力お願いします」
と言い修道女達の元に戻っていく。
――パラレルスイーツパーク前
「これより天草式に奇襲を仕掛けます。我々が正面から襲撃し囮となるので、貴方達はその隙に法の書とオルソラ
を見つけて確保しちまってください」
アニェーゼは今回の作戦を簡潔に話す。
『それはいいんだけどさ、そのオルソラちゃんはどんな見た目なの? 見た目がわからないと確保の仕様がないんだ
けど』
球磨川が珍しく真っ当なことを言った。
確かに球磨川はオルソラの顔を知らない。これでは探しようがない。
それを聞いたステイルは
「僕が持ってるオルソラの写真をやるからそれを頼りにして探すといい」
と言って懐から一枚の写真を取り出し、球磨川に渡す。
『結構美人な修道女さんだねぇ。これならすぐにわかるよ!』
写真を見た球磨川はニコニコしながらそう言った。
「修道女に発情したら天罰が下るぞ。いや、いっそのこと下して欲しいもんだね」
しかし、この少年に天罰を下せる者など果たしているのだろうか……もしいるのなら、その方法をご教授願いたいと
彼は思った。
――アニェーゼ達がパーク内を襲撃してから20分ほど経過。そして攻撃が始まったらしく、あちこちから爆発音や
衝撃音が響いてくる。
「……陽動が始まったか。行くぞ」
『了解! なんだか少年漫画のワンシーンにいるみたいでワクワクするね!』
球磨川達はパークの裏口からフェンスを越えて侵入。オルソラと法の書を見つけ確保すべく行動を開始した。
『……少年漫画ではここら辺で敵が襲ってきたりするんだよねぇ』
「現実と漫画をごっちゃにするんじゃない。そんな都合よく敵が襲ってくるわけが……」
そんなステイルの台詞は突然の来訪者によって遮られてしまった。
そう、来るわけがないとさっき言った敵が来てしまったのだ。
『おぉっと危ない!』
天草式と思われる少女の斬撃を紙一重でかわす球磨川。
その後、一人また一人と敵が建物の影からどんどん飛び出てくる。
「球磨川禊! 君にこれをやる!」
ステイルはそう叫ぶと、球磨川に十字架の形をしたネックレスを投げ渡した。
『ステイルちゃん、これって一体何!?』
いきなり渡されたネックレスに戸惑う球磨川。しかしステイルから返ってきた答えは
「いいから肌身離さず持ってろ!」
という、答えになっていない答えだった。そのうえ――
『あ、あれステイルちゃん?』
ステイルはルーンが描かれたカードを取り出し、そのカードの力なのか突如その姿が消失。
その場には球磨川だけが残る形となった。
『……あれ? もしかして僕、囮にされちゃった?』
球磨川は首をかしげながら言う。そしてその場にいる全員の視線が球磨川に向けられる。皆、いつでも球磨川を
襲撃できる態勢である。
『えーっと、話し合いは……してくれそうにないよねっ!』
と言うや否や球磨川は一目散に逃げ出した。
「……くそっ! どこに行った!?」
「まだ近くにいるはずだ! 探せ!」
天草式の面々が叫ぶ。どうやら球磨川を見失ったらしい。
そして当人はというと――
『ん、どうやら上手く撒けたみたいだね』
近くにあった置物に隠れていた。
『一か八か隠れてみたけど案外うまくいくもんなんだねぇ。絶対ばれると思ったんだけどなぁ』
そう言ってふぅ、と息を吐く。
そしてつい先ほどステイルから渡されたネックレスをポケットから取り出した。
『本当、これって何の意味があるんだろう?』
色々と考えてみるが全く答えが出てこない。
『まぁ、とりあえずネックレスなんだし首にかけてみようかな。ポケットに入れておくと落としちゃいそうだし』
球磨川は首にネックレスをかけた。
『似合ってるかなぁ? 十字架のネックレスなんて中二チックでなんだかいいよ……ね……?』
そこまで言って、自分の体に何か違和感を感じる球磨川。
自分の体をよく見てみると、どういうことか胸から剣が生えているではないか。その部分から血が吹き出ている
ことから察するにどうやら剣で貫かれたらしい。
「……恨まないでくださいね」
剣を引き抜き、少女が少し悲しげな顔をしてそう言った。
服装を見ただけではイギリス清教側なのかローマ正教側なのか判別はつかない。いや、どちらの側であれ犠牲者など
出したくはなかった。だが自分達の目的のためにはこれも仕方のないことなのだ。彼女はそう自分に言い聞かせる。
――しかし少女のそんな感傷はあっさりと台無しにされる。
『えっ? なんで僕が君を恨むんだい?』
言いながら背後を振り向く球磨川。
「なっ!?」
まるで何事もなかったかのようにニコニコしている球磨川を見て少女は得体の知れない気持ち悪さを感じた。
「そ、そんな……確かに心臓を貫いたのに……」
そう、自分が貫いたのは心臓。普通なら振り向くことなく倒れている。確実に即死しているはずなのだ。
それなのに目の前にいる少年は平然としている。一体何が起こっているのか少女には理解できなかった。
『女の子に手荒な真似はしたくないけど仕方ないよね!』
球磨川はそう言うと少女と自分の距離を虚構にして一瞬で距離をつめる。
「えっ?」
殺したはずなのに生きている少年がいきなり目前にいる。もはや少女の頭の中はパニック状態どころの話では
なかった。そんな精神状態では相手の動きに反応できるはずもない。
そして球磨川は何の躊躇いもなく、少女の胸に螺子をねじ込んだ。少女の体がドサリと音を立てて地面に倒れる。
『大丈夫、死にはしないから! ……って聞こえてないか』
やれやれと言った具合で肩を竦める。
『それにしてもオルソラちゃんはどこにいるんだろう? 向こうからやってきてくれな……っ!?』
またもや喋っている途中で体に衝撃が走る。
しかし今回の衝撃は剣が刺さったり鈍器で殴られたわけではなく、誰かがぶつかってきたことによる衝撃であった。
一体何者かと、ぶつかってきた者に視線を向ける球磨川。
『修道女?』
ぶつかってきたのは修道女だった。その口にはまるで×に似たマークが書かれた紙が貼られてある。
どうやらその紙のせいで喋ることができないらしい。
『不便そうだから取ってあげるよ! ……あれ? 取れないや。じゃあこうしようかな』
球磨川は修道女の口に貼られた紙を虚構にした。
「貴方様は一体どなたなんですか!? さきほどのは一体どうやって……?」
紙が消え、喋ることのできるようになった修道女は矢継ぎ早に質問する。
しかしそんな彼女に球磨川はマイペースを崩すことなく、
『それはとりあえず置いといてさ、まず僕の質問に答えてよ。君ってもしかしてオルソラちゃんだったりする?』
と尋ねた。
その修道女の顔は見れば見るほど写真に写っていたオルソラにそっくりである。
そして返ってきた答えは――
「は、はい。そうでございますけど……」
肯定の言葉であった。
これで彼女がオルソラ=アクィナスであることは確定したことになる。
球磨川はついさっき言った相手のほうから来てくれないか、という言葉が真となりニヤリとほくそ笑む。
「あ、あのう、それで貴方様は……?」
オルソラはおどおどしながら、目の前の素性の知れない少年の素性を尋ねた。
『あぁさっきの質問? 僕は球磨川禊って言うんだ! そうだね、さしずめ君を助けに来たヒーローってところかなぁ』
球磨川は笑顔でそう答えた。
どうやって口に貼られた紙を消去したのかは答えていないのだが、オルソラは球磨川を危険人物ではないと判断した
らしく、追求することはしなかった。
「……法の書を探しておられるのですか?」
そう尋ねたオルソラの顔は極めて真剣な面持ちであり、もし答えによっては舌を噛むほどの覚悟を感じさせた。
そんなオルソラに球磨川は
『いや全然。僕は法の書なんかに興味ないし、それはステイルちゃんに任せるよ』
と、法の書など心底どうでもいいといった感じで答えた。
実際球磨川にとって法の書など、どうでもいいことである。それの持つ力や価値になど何の興味もない。
オルソラはそれを悟ったのか、ほっと息を撫で下ろした。
「貴方はローマ正教の方なのですか?」
『違うよ。僕はただの善良な一市民さ』
「一般の方がなぜこんなところに……?」
『あぁそれはね……』
球磨川は自分がここにいる理由を簡単に説明した。
「そのようなことがあったとは……なんといいますか……ご愁傷様です」
『その言葉は今使うべき言葉ではないと思うけど……まぁいいや。そんなことよりなんでこんなことをうろついてたの?
僕はてっきり、敵のボスが君を取られないように守ってると思ってたんだけど』
「えぇ、混乱に乗じて何とか抜け出すことができたのでございますけど……」
『ふぅん、そうなんだ。とりあえずその腕を拘束してる物も虚構にしてあげるね。窮屈そうだしさ』
球磨川はオルソラを拘束していた道具を虚構にする。
拘束されていた腕が自由になったことで開放感を感じるオルソラ。それと同時にさっきまでは深く追求しないで
おこうとした疑問が気になり始めた。
「さきほどもお聞きしましたが……本当に信じられない能力をお持ちなのですね。もしよろしければ一体どのような
力なのか教えていただきたいのですが……」
『別にたいした事じゃないよ。僕はこの世のあらゆる事象を虚構にできるんだ。君の拘束もその力を使って虚構にしたんだよ』
「全てを虚構にする……」
オルソラは球磨川の言ったことを信じることができなかった。なぜならそんな力、どれほどの大魔術師であろうと
人の身では有り得ないほどの力だからだ。
もしそれが事実だとするなら目の前にいる少年は最早神に等しい存在ではないか。そんなことはありえるはずがない。
大方、何らかの魔術を誇大にして言っているのだろうとオルソラは結論付けた。
『さて、じゃあここを出ようか。後のことはステイルちゃんや、アニェーゼちゃんに任せてさ!』
そんなオルソラの様子などお構い無しに、球磨川は明るく声をかける。
オルソラは考え事をやめ俯いていた顔を上げて、球磨川に視線を向けた。すると球磨川の首にかけられたネックレスに
気が行く。先程まではいつ捕まるかわからないという緊迫感に包まれていたため、ネックレスなど気にかけなかったのだが
よくよく見てみればかなり綺麗なデザインである。
オルソラは十字架を模したかのようなそのネックレスを欲しいと思ってしまった。
『……オルソラちゃん? このネックレスがそんなに気になるの?』
そう言われたオルソラはハッとなる。
どうやら気付かないうちに熱烈な視線を送ってしまっていたらしい。
「あ、申し訳ございません。あまりに綺麗だったものですから、つい……」
『そっか、じゃあこれオルソラちゃんにプレゼントするよ!』
球磨川が身に着けているネックレスはステイルから肌身離さず持っていろと言われた物である。しかし球磨川は
そんなことすっかり忘れてしまっていた。
「え? でも、大切な物なのでは?」
オルソラは球磨川の提案に遠慮がちに言うが、その視線はネックレスに釘付けの状態である。
体は正直とはこのことか。
『いいんだよ、これはついさっき貰ったものだし。僕なんかが身に着けてるよりオルソラちゃんみたいな可愛い子が
かけてたほうがきっとネックレスも喜ぶよ!』
「え? 可愛い?」
球磨川の一言に顔を赤らめるオルソラ。しかし球磨川はそんなオルソラを無視して、
『じゃあ、かけてあげるね』
と言ってネックレスをオルソラの首にかける。
『うん、やっぱり似合ってるよオルソラちゃん!』
「そ、そうでございますか? ありがとうございます!」
首にかけられたネックレスを見ながらオルソラは嬉しそうに微笑んだ。
『ところでさ、なぜ法の書の解読なんかしようとしたの?』
パークを抜け出す道中、球磨川がオルソラにそう尋ねた。
「法の書の破壊方法を調べていたのです……」
オルソラは俯きながら答える。
オルソラが言うには今まで法の書によって様々な争いが生まれてきた。それを悲しく思ったオルソラは法の書など
無くなってしまえばいいと考え、法の書を消去する方法を調べるうちに解読法に至ってしまったのだと言う。それを話
しているオルソラはとても悲しげな顔をしており、普通の人間であれば不憫に思い顔をしかめるだろう。しかし球磨川は違った。
『そっか、じゃあ僕がハッピーエンドに導いてあげるよ』
球磨川はオルソラにそう笑顔で囁いた。
――パラレルスイーツパーク出口前
『あ、どうやらあそこが出口みたいだね!』
二人の前方に出口らしき場所が見えてきた。
これでここから出ることができる。出てからどうしようなどと球磨川は考えるが、突如空から降ってきたモノによって
その思考は停止させられた。
『……あれ? ステイルちゃん?』
空から降ってきたモノそれはステイルであった。いや正確にはもう一人降ってきた者がいるのだが、球磨川はその
存在を気にも留めなかった。
『どうせ降ってくるならステイルちゃんじゃなくて美少女が良かったなぁ。あ、でも僕はラピュタ派じゃなくて
ナウシカ派……』
「くだらないこと言ってないで早く逃げろ!」
どこまでも緊張感のない球磨川を怒鳴りつけるステイル。
もし球磨川が単独でそこにいるならそのようなことは言わない。どうせ死にはしないのだから。しかし球磨川の隣にいる女性は
おそらくオルソラであろう。癪な事ではあるが球磨川はオルソラを見つけ出し確保したと言うことになる。しかし、またさらわれ
てしまっては何の意味もない。だが、球磨川はそんなステイルの心労などお構いなしだった。
『えー、下らなくないよー あ、オルソラちゃんはどの作品が好きなの?』
「え? その……」
逃げるどころかオルソラにそんなことを聞く始末である。
>>243
クマの場合は『「」』で正解
クマの場合は『「」』で正解
「おいおい随分と余裕じゃねーのよ?」
球磨川達は声の主に視線を向ける。そこに立っていたのは髪を逆立て、剣を携えた20代の男性であった。
『あぁごめん君の存在を忘れてたよ。えーっと、ところで君は誰なのかな? なんだか中ボスみたいな見た目だから
中ボスちゃんでいい?』
「いいわけねぇだろ。俺には建宮斎字っつぅ立派な名前があんのよ」
『ふぅん、建宮ちゃんね。僕は球磨川……』
「何度も説明したはずなんだがなぁ、オルソラ=アクィナス。我々は貴女に危害を加えるつもりはない」
『今日はとことん無視される日だなぁ……』
球磨川はそう言って口を尖らせる。
「確かに貴方様のお言葉は希望に満ちていたと存じ上げてございますが、わたくしは武器を振り回し訴える平和など
信じられないのでございますよ」
「無念だなぁ。ローマ正教などに戻っても仕方ないだろうによぉ!」
そう言うや否や臨戦態勢をとる建宮。その表情からは力ずくでオルソラを取り返そうという意志が感じられた。
『オルソラちゃん、ちょっと下がってて』
球磨川はそう言って前に出る。そして建宮と対峙した。
球磨川の出で立ちを見た建宮は
「ふん、丸腰か」
と嘲笑う。
『あれ? 丸腰の相手はやりにくかったりする? じゃあ武器を出そうかな』
と言ってどこからともなく巨大な螺子を取り出し両手に持つ球磨川。
「随分とおかしな武器じゃねぇのよ。というかそれは武器なのか?」
『あぁそう言われると武器かどうか判断に困るねぇ。なんせこれを使って人を傷つけたことなんて今まで一度もないし』
球磨川は螺子を見ながらそう言った。
事実彼はこの螺子で人を傷つけたことはない。普通ならこんなものをねじ込まれたなら死亡するか大怪我を負うはず
なのだが、大嘘憑きの効果なのか気絶する程度で外傷は一切つかない。
「へっ、まぁなんでもいいさ。そろそろはじめようじゃねぇの!」
じりじりと距離をつめてくる建宮。
そんな彼に球磨川は
『あ、ちょっとストップ。いまさらな気がするんだけど話し合いしない? 僕は暴力が嫌いだからね。そこにいる
ステイルちゃんとも話し合いをした結果分かり合うことができたんだし』
と言うが
「聞く耳もたねぇのよ!」
球磨川の説得など馬耳東風といった感じで一気に距離を詰め斬りかかってきた。
普通ならここで回避行動を取るなり、防御したりするだろう。しかし球磨川はそのどちらも行わず、敢えて斬られた。
球磨川の肉体は袈裟懸けに両断され、ズルリと体が歪んだかと思えば、音を立てて地面に落ちた。
「おいおい、随分と他愛ねぇのよなぁ」
随分と余裕がありそうな佇まいだったのでどれほどの手練かと思えばこんなものか。
期待外れだといわんばかりに肩をすくめて見せる建宮。
「さて、こうなりたくなければ大人しくオルソラを渡すのよ?」
ステイルに剣を向けて忠告する。
しかしステイルは仲間がやられたショックなど微塵も見せず、それどころか憮然とした態度で
「おい、遊ぶのはやめてさっさと終わらせたらどうだい?」
と言った。
建宮はステイルが何を言っているのかわからなかった。その言葉は明らかに自分に向けられた言葉ではない。
では誰に向けられた言葉なのか? この場には現在自分とオルソラ、そしてつい先ほど切り伏せた少年がステイルと呼んでいた
男しかいないはず。もしや周囲に敵が潜んでいるのか? そう思案している建宮にありえない声が聞こえた。
『遊んじゃいないよ。僕は平和的に解決をだね……』
その声が耳に入ってきた瞬間、建宮の背筋が凍る。
この声は――!?
声のしたほうを振り向く建宮。そこにいたのは――
「な、なんでてめぇがいんのよ!?」
彼が見たのはつい先ほど自分が切り伏せたはずの少年の姿だった。
建宮の頬に冷や汗が伝う。
少年は確かに死んだはずだ。胴体を袈裟懸けに斬り裂かれ一刀両断された少年の体は臓物を撒き散らしながら
地面に転がった。その瞬間を建宮はその目でしっかりと見ていた。少年からは魔力の類など感じなかったし、あの手応えから
して幻覚を見せられたとは思いがたい。
ではなぜこの少年は何事もなかったかのように立っていて薄ら笑いを浮かべていると言うのだ?
建宮の頭の中はパニック寸前だった。
『おや? 随分と驚いてるね建宮ちゃん。君が今何を考えているか当ててみようか。そうだね、さしずめなんでコイツ
生きてるんだ? ってところかな?』
「……その通りなのよ。で、なんでお前さんが生きてんのか、種明かししてくれると嬉しいんだが?」
『簡単なことだよ。自分が死んだという事実を虚構にしたのさ。僕はこの世のあらゆる事象を虚構にすることができるんだ!』
その説明を聞いた建宮は、それを鼻で笑った。
全てを虚構にする? そんなことはありえない。どうやらおかしな力を持っているというのは事実なのだろう。とりあえず
戦いながら奴の能力の謎を突き止めればいい。
建宮はそう思い、先ほどのように球磨川と自分の距離を詰め――
「これならどうよ!?」
球磨川の首を跳ね落とした。
首を失った球磨川の肉体は地面へと崩れ落ち――なかった。
なんと、失ったはずの首がいつのまにか元に戻っている。
『おっと、危ない』
そう言って球磨川は踏みとどまる。
『さて、建宮ちゃん。君の攻撃は僕には通用しないってことが理解できたと思うけど……』
そこまで言うと球磨川は息を吸い、口端をこれでもかというほどに吊り上げ
『まだやるかい?』
と尋ねた。
その顔はまるで悪魔が微笑んでいるかのように感じられ、それを向けられた建宮が吐き気を催すほどに醜悪なものであった。
「こ、この化物があああああああ!」
悲痛な叫びを上げながら球磨川に向かっていく建宮。
内心では「勝てないかもしれない」そう思いながらも彼は諦めるという選択肢を選ばなかった。
――球磨川と建宮が戦闘を開始して10分ほどが経過。その間、球磨川は何もせずただ立っていただけだった。
傍から見ればおかしな光景であろう。一方的な虐殺であるというのに、斬られている方は余裕の笑みを浮かべ、斬っている
方が憔悴している。
建宮はどうやっても殺せない球磨川に心が折れる寸前まで追い込まれていた。
『もう何度も聞いてるけどさ。さすがの僕もそろそろ殺され続けるのは飽きちゃったし、今回で最後にするよ。……まだやる
かい?』
「俺達は……俺達は負けるわけにはいかねぇんだよぉぉぉぉ!」
球磨川の忠告を完全に無視して突っ込んでいく建宮。
そんな彼を細目で見ながら球磨川は
『ふぅん……そう』
――勝負の決着は一瞬であっけなくついた。
球磨川は突進してくる建宮の攻撃をかわし、カウンターの要領で建て宮の心臓部分に螺子を螺子込んだ。
建宮は腐っても現十字凄教トップである。普段のベストな状態であったならこのような展開にはならなかっただろう。
しかし心が折られかけ、まともな心理状態でない彼には球磨川の攻撃をかわすことなど到底不可能だった。
その後、頭である建宮が捕縛されたのを皮切りに天草式は次々と捕縛され、この事件は完全に決着がついたかのように
思えたのだが……
『あーあ、なんで建宮ちゃんの見張りなんかしなきゃいけないんだろう。どうせなら僕を刺したあの女の子を見張りたいよ』
そうぼやく球磨川の側には、何らかの魔術的道具で拘束された建宮の姿があった。
建宮を見張っているようアニェーゼに言われた球磨川は『えー、やだよ面倒臭い』と断りを入れたがアニェーゼの鬼の形相に、
はいと首を縦に振ってしまったのだ。そして現在に至るというわけである。
『はぁ、そもそもなんで一般人の僕を見張り役にするかなぁ。僕、この件には何にも関係ないのにさ』
球磨川はなおもぼやき続ける。
「おい、悪いがこいつを解いちゃくれんか?」
そんな球磨川に拘束されている建宮がそんなことを言ってきた。
球磨川は建宮に視線を向けると
『あれ? 目が覚めたんだ? 普通ならまだ目覚めないんだけどなぁ』
そう返したのだが、
「いいから解いてくれ」
球磨川の言ったことなど無視して、そっけない感じで要求した。
建宮は内心、どうせ解かないだろうと思っていた。当然である。自分はこの騒ぎを起こした組織の頭なのだ。それが何を
言おうと相手は信じるわけがない。自分達は正義であり、オルソラを奪還しに来たローマ正教こそが悪なのだとどれほど
訴えかけても無駄だろう……。だが完全に諦めるわけにはいかない。どうにかしてこの少年を説得し、この拘束を……
『うんいいよ』
そう、うんいいよ……
「ってなにぃ!?」
球磨川は建宮を拘束していた道具を虚構にし、建宮を開放した。
建宮は困惑の色を隠せない。この少年がなぜ自分の拘束を解いたのか全く理解できないのだ。
「……なぜ俺の拘束を解いたのよ?」
当然尋ねる。もし返答次第では、これは罠である可能性が高いからだ。
しかし球磨川は笑いながら、建宮にとって意外な答えを口にする。
『戦う前に言ったとおり僕は君と話し合いがしたいんだよ。君が全く応じてくれないから仕方なく倒したけどね。それに君が
最後の最後で僕に突っ込んできたとき確信したよ。君には何か事情があるってさ。それを僕に話してくれないかな? もしか
したら力になれるかもしれないし』
建宮は球磨川に自分の知ることを話していいものか悩んだ。
はっきり言って得体が知れなさすぎる。先ほどまで自分を切り刻んでいた人間にここまで親身に接するなど常人では
有り得ない。その精神性はまるで聖人ではないか。しかし球磨川は、その雰囲気からして聖人君子などではない。確実に
おぞましい何かである。
少し悩んだ後、建宮は……
「わかったのよ」
自らの事情を話すことを決意した。
確かに球磨川は得体が知れない。事態が悪化する可能性もある。しかし強い。それはもう有り得ないほどに。事情を話して
味方にでもなってくれれば……。そう思ったのだ。
味方になったとしても何の頼りにもならないのが球磨川の本質であると言うことも知らずに……
そして建宮は事情を話すべく、口を開いた。
建宮曰く、天草式は法の書など盗んではおらず、あくまで目的はオルソラの保護であったと言う。
そして、この後オルソラはローマ正教によって殺されるらしい。その理由としては法の書の解読法を知ったオルソラを
ローマ正教は危険人物とみなしているためらしい
『なるほど、確かに筋は通ってるねぇ……。よし、僕は君に協力するよ!』
建宮の思惑通り、球磨川は天草式に加担することを決めた。それはもうあっさりと。
「お前本当にズバズバと判断するのな……。どういう頭してんのよ」
呆れた様子で言う建宮。
しかし内心では、球磨川が味方になったことにほっとしていた。
「そうと決まればオルソラ=アクィナスを保護しに行くぞ!」
建宮がそういった瞬間、悲鳴が聞こえてきた。
声からして女性のものであることがわかる。そして悲鳴を上げた女性は球磨川と建宮がよく知る人物だった。
「っ!? ちぃ! 手遅れだったか!」
『何がどうなってるの? 今の悲鳴、オルソラちゃんだよね?』
「奴等はここでオルソラを始末することはできんのよ。奴等は自分達の領内でやるつもりだ。そこでなら何が起ころうが
ローマ正教のごたごたとして処理されるからな。そうなるとイギリス清も我々天草式も手が出せなくなっちまうのよ……!」
『つまりオルソラちゃんはローマ正教に誘拐されたってこと?』
球磨川の問いに黙ってうなずく建宮。
『やれやれ、君達に誘拐されたと思ったら今度はローマ正教に誘拐されるなんてね。本当モテモテで羨ましいなぁ』
「奴等の行き先には心当たりがある。オルソラを取り戻しに行くのよ」
言ったと同時に動き出す建宮。その瞬間――
「そうはいきません」
二人のものとは違う声がその場に響き渡る。
声がした方向を見る二人。すると修道女が二人こちらに歩いて向かってきているではないか。
とっさに身構える建宮。球磨川はなにやら面白い展開になってきたといった表情を浮かべている。
「どうやら聞かれてたみてぇだな。おい、球磨川とか言ったか? ここは俺に任せてオルソラ教会に行け! 恐らく奴等は
そこにいるはずなのよ!」
『僕の一度は言ってみたいことランキングの3位を言うなんてなんて羨ましい! ずるいよ建宮ちゃん!』
「無駄口叩いてねぇでとっとと行きやがれ!」
そう言われた球磨川は大人しくパーク出口へと走り出した。
しかしそんな球磨川を二人の修道女が見逃すはずもなく、
「行かせない!」
長身の修道女がその手に持った車輪のような武器を構える。そして攻撃に移ろうとした瞬間――
「やらせねぇのよ!」
建宮が修道女に斬りかかり、その攻撃を潰した。そして
「お前達の相手はこの俺なのよ」
そう言ってニヤリと笑った――
――パーク内を脱出した球磨川はオルソラ教会へ向かうべく走る。しかし重要なことに気が付き足を止めた。
『そういえばオルソラ教会って一体どこにあるんだろう?』
かっこよく脱出したはいいがよくよく考えると教会の位置など全く知らない。これではオルソラを助けに行き様がないでは
ないか。
どうしたものかと唸る球磨川。そんな彼に声をかける者がいた。
「……君はこんなところで一体何をやってるんだい?」
『あ、ステイルちゃん! いいタイミングで出てきたね! 僕、今からオルソラ教会ってところに行く予定なんだけど行き方が
わからないんだ。どこにあるか教えてよ!』
そう尋ねてきた球磨川にステイルは呆れた様子でため息をつきながら
「本当に行くつもりなのかい? 知り合って一時間も経ってない相手のためになんでそこまでする?」
と聞いた。その問いに球磨川は
『えっ? 特に理由なんかないよ? 強いて言うなら面白そうだからかな?』
とふざけた感じで答えた。
その答えを聞いた瞬間、ステイルの眉間に皺が寄る。内心で、こんなシリアスな状況でもふざけやがって……と
苛立ちを覚えていた。
それを感じ取ったのか球磨川は珍しく真剣な面持ちになり、
『さっきの答えが気に入らないなら、そうだねぇ……』
少しだけ考える。そして
『彼女が本当に綺麗な心の持ち主だからってのはどうかな? 中途半端に綺麗な心を持ってる偽善者なら不幸(マイナス)に
落としてみたくなるけど、あそこまで綺麗だったなら守りたくなるんだよ。これならどう?』
と聞く。
あいも変わらず本心かどうかわからない。しかし、さっきの理由よりかは本心に近いのではないか。ステイルはそう考え、
「本当に君はわけがわからないな」
と言って苦笑する。そして球磨川にオルソラ教会への道筋を教えた。
『ありがとステイルちゃん。じゃちょっと行ってくるね!』
礼を言って走り出そうとする球磨川。しかしそんな彼をステイルは呼びとめ
「君にやった十字架はどこにやった?」
と尋ねた。
『え? あのネックレスならオルソラちゃんに上げちゃったけど……大事なものだったの?』
「いや、別にいい。……僕の用事はそれだけだ。早く行くといい」
少し引っかかりを感じた球磨川だったが、今そんなことを考えても仕方ないかと思い走り去っていった。
そんな球磨川の背中をため息と共に見送るステイル。
「はぁ、気紛れなんて起こすもんじゃないな」
面倒くさそうに呟くと、彼はとある場所へと歩き出した――
――オルソラ教会
「ぐっ……うぅ……」
金髪の修道女――オルソラ――がうめき声を上げる。その顔はところどころ怪我しており、痛めつけられたことがわかる。
そんな彼女を大勢のシスターが囲んでおり、彼女の近くにはアニェーゼが杖を持って仁王立ちしていた。
「ったく、手間をかけさせちゃダメでしょう? 残念ながら貴女の遊びに付き合ってる暇なんてないんです。わかってんなら
大人しく処刑を……聞いてんですか!?」
オルソラを怒鳴りつけるアニェーゼ。しかし反応は返ってこない。
それに腹を立てたのか
「聞いてんですかって言ってんでしょうがコラァッ!」
オルソラの腹部を蹴り上げた。その衝撃でオルソラは呻き声を上げる。
「それにしても頼れるお友達が随分少なかったみたいじゃないですか。天草式やイギリス清教なんぞに大事な命を預けちまう
からこんな目にあっちまうんですよ」
と言ってアニェーゼは盛大に笑う。
「あの方達は……騙されたのでございますか……? あなた達に協力したのではなく、騙されて……」
「そんなんどっちでもいいでしょうが!」
彼女がそう言った瞬間――
『そうだね、そんなことはどうでもいいことだよ!』
その場にアニェーゼでもなくオルソラでもない声が響き渡った。
その場にいる者全員が一斉に声の主を注目する。その声の主とは……
『僕は僕のしたいことをしただけだからね』
いつもの笑顔を浮かべた球磨川禊だった。
『いやー君達の会話シーンをもう少し見守っていても良かったんだけどね。あまりにも長すぎるもんだから割って
入っちゃったよ』
言い終わった後球磨川はオルソラとの距離を虚構にし、彼女の元へと移動した。
周りから見ればまるで球磨川が瞬間移動したように見えただろう。その場にいる者達がどよめきだす。
『随分と酷い目にあわされたみたいだねぇ。綺麗な顔が傷だらけになってるよ? でも大丈夫! 僕がその傷を虚構にして
あげるから!』
球磨川がそう言った瞬間、オルソラの体から痛みが消え、顔の傷も完全に消滅した。
それを見た修道女達はまるで神の奇跡を見たかのように驚く。アニェーゼもまた例外ではなかったが気を取り直し、
「外には結界が張ってあったはず……一体どうやって!?」
と聞いた。
『あぁ結界なら僕が虚構にしたよ』
「虚構にしたですって?」
『そういえばアニェーゼちゃんには僕の能力を教えていなかったね。僕はこの世のあらゆる事象を虚構にできるんだ。
まぁ何の自慢にもならない負完全な力だけどね』
それを聞いたアニェーゼは球磨川が今まで能力を教えた者達と同様、その言葉を信じようとはしなかった。
そんなものハッタリに決まっている。彼女はそう思い込んだ。
そして球磨川に対し臨戦態勢を取る。それと同時に周囲の修道女達も、その手に持っている武器を構えた。
『僕は君達と戦うつもりはないよ。オルソラちゃんを助けに来ただけだから!』
殺気立つアニェーゼ達にいつも通り平和的な解決を求める球磨川だったが、
「私達がオルソラを渡すと思ってんですか!? そんなわけねぇでしょうが!」
アニェーゼは聞く耳を持たない様子だった。そんな彼女を球磨川はニヤニヤと笑いながら見つめる。
『君達ってさ、オルソラちゃんが法の書を解読しちゃったからオルソラちゃんを殺したいんだよねぇ?』
「それが一体何だってんですか!?」
『いやだからさ、こんなことになっちゃったのは全部法の書が悪いって事だよね? いや、今回のことだけじゃない。法の書の
せいで大勢の人が可哀想な目にあったんだよね。僕、オルソラちゃんに聞いて思ったんだ。そんな人を不幸にするような物
あっちゃいけない! ってさ。だからね…… 法の書は僕がついさっき虚構にしたよ!』
と言ってこれで争いの種はなくなったね! と笑う球磨川。
もちろん球磨川本人は自分がどれほどとんでもないことをしたのか全く自覚がない。法の書の消失とは全世界の政治家や
指導者が全員一斉に消滅するよりもヤバイレベルの出来事である。
周りにいる修道女達は普通なら大パニックになり、取り乱すだろう。そう、球磨川が言ったこととが事実だと認識していた
のなら……
「あんた何言ってんですか? 頭がどうにかなっちまったんですかね?」
アニェーゼだけでなく、オルソラを含めその場にいる者全員がそれを信じなかった。いや、信じないどころかあまりの狂言
ぶりに笑い出す者まで出てくる始末である。
当然だろう。そもそも球磨川の能力自体を信じていないのだ。いきなり、法の書を消したなどと言っても信じるはずがない。
この場に法の書があり、それを彼女達の目の前で消してしまえば信じるかもしれないが、残念ながらこの場に法の書は存在し
ない。現在、法の書の消滅を知るのはそれを管理している者のみである。
『あれ? もしかして信じてくれてない?』
修道女達の狂人を見るかのような視線と嘲笑に球磨川が疑問の声を投げかける。
「信じられるわけねぇでしょうが! 魔道書はどうやっても消去できねぇんですよ! このド素人がッ!」
アニェーゼが球磨川を怒鳴りつける。
球磨川は困ったような顔をしながら顎に手を当て
『うーん……どうすれば信じてくれるんだろう?』
と言って考え込む。
「何をやっても信じねぇですよ!」
茶番はここまでだと言わんばかりに杖を構えるアニェーゼ。
彼女の構えた杖は 蓮の杖 (ロータスワンド) といい、杖を傷つけることで連動した他のものを同時に傷つけることができる
という武器である。
この杖によって彼女は杖に与えた衝撃を瞬間移動させる攻撃、杖をナイフで傷つけることで空間を裂く攻撃等が可能。
その攻撃は軌道が一切見えずかわすことは困難であり、どれほど硬い鎧を着ていようとそんなものお構い無しに中の人体に
ピンポイントでダメージを与えてくる。とんでもない武器だ。
そしてそんな恐ろしい武器による攻撃が今まさに始まろうとした瞬間――
『そうだ! まずは君達の持ってる物騒な武器を虚構にしよう!』
球磨川がそう言った刹那、修道女達が所持していた武器が全て消滅した。もちろんアニェーゼの蓮の杖も例外ではなく、完全に
跡形もなく消えてなくなってしまった。その事実に球磨川を除く全員が唖然とする。
『さて、これで信じてくれたかな?』
「一体何をやったんですか!? どんな魔術を……」
『まだ信じてくれないんだ? じゃあ次はこの教会を虚構にしようかな』
言い終わった瞬間に教会が消滅。ついさっきまでそこにあった椅子も祭壇も何もかもが消え失せ、そこには何一つ「教会」
としての体をなすものは存在しない。完全なる更地となってしまっていた。
その場にいる者達は最早言葉が出てこなくなってしまった。武器が一瞬で消えたのも異常だというのに、今度は教会が一瞬で
無になってしまった。そう、まるで最初からなかったかのように……
しかし球磨川は頭が真っ白になっている修道女達を慮ることなど一切せず、
『ねぇねぇ、これなら信じてくれるよねっ?』
あくまでマイペースである。
本人としてはこれならさすがに信じるだろうと自信満々だったようだが、言葉を投げかけた者達は前述したように現在頭の中が
真っ白な状態。球磨川の言葉など聞こえていない。そして不運なことに球磨川はそれを「まだ信じていない」と解釈してしまった。
『うーんどうしようかなぁ。もう虚構にできるものは……』
球磨川はそこまで言うと、何かを思いついたかのようにニヤリと笑う。
『あぁまだあったね』
そして、彼女達にとって屈辱もしくは悲劇の時が訪れる。
「あ、あれ?」
「えっ?」
彼女達が自らの異変を認識したのは球磨川が『それ』を実行して十秒後のことだった。
彼女達は最初、気温が急激に低くなったのだと判断した。だから妙に肌寒いのだと。しかしそれはただの現実逃避でしか
なかった。彼女達がゆっくり、ゆっくりと現実を受け入れ始め、そして完全にその現実を受け入れた瞬間――
「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」
全員が一斉に悲鳴を上げた。しかしそれは苦痛にまみれたものでもなければ恐怖に怯えたものでもない。
勘の鋭い方ならばもう察しは付いているだろう。球磨川が虚構にしたもの……それは『彼女達の衣服』だった。
修道女とはいえ女性である。いきなり服が無くなってしまえば悲鳴を上げるのは当然のこと。教会が虚構になっているため、
傍から見れば露出狂の痴女軍団が騒いでいるかのようにしか見えない。無関係な一般人が一切いないのが不幸中の幸いか。
修道女達は涙目になりながら前を隠し、次々と崩れ落ちていく。
『あ、大丈夫! パンツは残してあげたから! さすがに全裸は酷いもんね!』
「いえ、そういう問題ではないと思うのですが……」
オルソラは心底呆れた様子で言った。ちなみにオルソラの衣服は虚構にはなっていないのであしからず。
「本当に君は神罰を受けるべきだと思うよ……。そして地獄に落ちろ」
球磨川達の背後から最大級の嫌悪感を込めた言葉が聞こえてきた。その場にいる者全員がその言葉を発した主に視線を向ける。
声の主はステイルだった。そしてそこにいたのはステイルだけではない。
「なかなかいい光景じゃねーのよ。本当よくもまぁこんな発想しやがるもんだな、お前は」
「なにをどうしたらこういうことになるんですか……」
「男のロマンだ!」
建宮率いる天草式の面々もその場にいた。
『あれ? 建宮ちゃん生きてたの? 君って死亡フラグに強いんだねぇ』
「はっ、この俺があの程度のことで死ぬわけねーのよ」
『そっかぁ。建宮ちゃんは凄いなー』
と言って笑う球磨川。
「建宮さん、もしかしてあの人がこの惨状を……? 女の敵ですね」
黒髪のショートヘアーで二重まぶたが印象的な少女が球磨川を睨みつける。
『えー、酷い言い草だなぁ。パンツがあるから恥ずかしくないよ!』
「そういう問題ではありません!」
『いやいや、一枚のパンツがあれば明日も生きて行けるって最近のライダーが……』
「な、なんでイギリス清教のあんたがここにいるんですか!?」
アニェーゼが球磨川と少女の会話に割り込んできた。その視線はステイルに注がれている。
「内政干渉になっちまいますよ!? わかってんですか!?」
ステイルはやれやれといった感じで頭をかきながら
「今の君にそんなまともな事を言われても答える気になれないが……答えてやる。オルソラの胸を見てみろ」
と言って、オルソラの胸を指差す。
アニェーゼと球磨川の視線がオルソラの胸に向けられる。
「……ネックレス?」
アニェーゼは疑問符が顔に出てきたかのような表情を浮かべる。しかし球磨川は……
『えっと、それはオルソラちゃんが巨乳かどうかってのを言ってるのかい? 見損なったよステイルちゃん! いくらこんな状況
だからってそんなケダモノみたいな事は言っちゃダメじゃないか!』
言われたオルソラは顔を赤くして胸を隠してしまう。
『あ、恥ずかしがることはないよオルソラちゃん。君の胸は本当に立派だよ! でも僕は人吉先生みたいにつるぺたのほうが……』
「それ以上言ったら消し炭にするよ?」
「俺も手伝うのよ」
「私も」
その場にいる者全員から殺意に満ち満ちた眼差しを向けられ、さすがに黙り込む球磨川。
「話を元に戻そう。オルソラの首にかかっているネックレス。それはイギリス清教の十字架だ。その十字架を誰かにかけられる
ということは、イギリス清教の庇護を得るという事。つまり、オルソラ=アクィナスは、現在ローマ正教の者ではなく僕達
イギリス清教の一員になったと言うことだよ」
「そ、そんな屁理屈がまかり通るわけが……」
「そうかな? だったら力ずくで終わらせてもいいんだよ? 武器もなく全裸に近い君達が一体どこまでやれるか見物だね」
ステイルは余裕の笑みを浮かべながら言い放った。
だが実際その通りである。こんな状態で勝てるわけもない。いや、そもそも勝負にすらならないだろう。アニェーゼを含めた
修道女達は全員降伏。シリアスだったこの事件は最後の最後でその空気を台無しにされて完全に幕を閉じた。
――とあるマンションの一室
『カ○○ンはなんでドスファンゴをリストラしないかな! 新しい攻撃も覚えて鬱陶しさ三割り増しだよ!』
「でもガノトトスをリストラしたのは評価できるんだよ!」
「ミサカはこのゲーム初めてやったけど簡単なゲームだね! ってミサカはミサカは得意顔になってみたり!」
『……君にはこれをやってもらおうか。その天狗鼻へし折らなくっちゃね』
球磨川は打ち止めにゲームソフトを渡した。タイトルは『モンスターハンター2ndG』と書いてある。
「ティガレックスに泣かされるといいんだよ!」
「ティガレックスなんてただのトカゲでしょ? 余裕、余裕! ってミサカはミサカはソフトをPSPに入れてみる!」
『その余裕がいつまで持つかな……』
「一時間持たないにカップ麺三個賭けるんだよ……」
球磨川とインデックスがニヤニヤと笑う。そして打ち止めの顔が絶望に歪むその瞬間をまだかまだかと待つ。
しかし突然のインターホンにより、意識が玄関に向いた。
『……これってデジャブってやつかな?』
そう言いながら立ち上がり、玄関へと向かう球磨川。
今度は誰が訪問して来たのだろうと胸を躍らせながらドアを開けた。
「……お邪魔してもよろしいでしょうか?」
玄関の前に立っていたのはTシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、 腰のウエスタンベルトに刀という奇抜な
格好をした10代に見えない10代の少女、神裂火織だった。
『神裂ちゃんじゃないか! 久しぶりだねぇ。さぁ遠慮せずに入って入って!』
球磨川は満面の笑みで神裂を部屋へと招く。ステイルのときとは大違いである。
そして訪問者に対して部屋の中にいた二人は三者三様な反応を示した。
「また知らない人が来た! ってミサカはミサカは通報されそうな女の人を指差してみたり!」
「あ、かおり! 久しぶりなんだよ!」
「えぇ、お久しぶりですインデックス。……ところで球磨川、この子は一体誰ですか? 答え次第では……」
神裂は刀に手をかける。どうやら球磨川が打ち止めをさらってきたと思っているらしい。
『か、顔が怖いよ神裂ちゃん。ちゃんと説明するから落ち着いて……』
球磨川は神裂に打ち止めについて話し、打ち止めには神裂との関係について簡潔に説明した。
神裂は球磨川の話に納得したらしく、刀から手を引いた。
『さて誤解も解けたようだし、君がなんでここに来たのか聞こうか。あ、それとも用件無しで遊びに来たとか? 僕としては
大歓迎だよ!』
「いえ、用件はあります。……今回の件、申し訳ありませんでした!」
神裂は球磨川に向かって頭を下げた。
いきなりの行為に球磨川が困惑したような顔をする。
『えーっと神裂ちゃん、頭を上げてよ。一体なんで謝るのさ?』
「……貴方が交戦した天草式は元々私が率いていたものなのです。私が不甲斐ないばっかりに貴方を巻き込んでしまった……」
『あぁそうだったんだ。まぁアレだよ、僕はしたいことをしただけなんだからさ。謝る必要なんてないんだよ?』
「いえ、それでも謝らせてください! 私が謝罪したいのは今回の件だけではありません。私はあなたがインデックスを救って
くれた際、何も言わず出て行ってしまった……。あの時は本当に無礼な事をしました! 今回の件も合わせて本当に申し訳なく
思っています! この借りはいずれ必ず……!」
『よ、よしてよ。あの時の事に関しては君が気にする必要なんてないんだって!』
事実その通りである。何せあの時二人が放心状態で出て行ったのは球磨川の狙い通りであり、そのように仕組んだのだから。
しかしそんな球磨川の内心など知らない神裂はステイル同様、あの件以降ずっとそれを気にしていた。そして今回の天草式
による事件である。神裂の性格上、強い罪悪感を感じずにはいられない。
「私はこの借りを何らかの形で返したいと思っています。ですので何かお望みがあれば何でも仰って下さい! 私にできること
であればなんでもします!」
その言葉を聞いた瞬間、球磨川の口端が釣り上がる。
『なんでも? なんでもって言ったね? 神裂ちゃん』
「え、えぇ。私にできることならの話ですが……」
神裂は後悔していた。この少年に対して『なんでもする』等と言うのは自殺行為もいいところである。しかし言ってしまった
手前、いまさら前言撤回などできようはずもない。神裂は球磨川の要求を固唾を呑んで待った。
一体どんなことを言ってくるのか……神裂の心臓が高鳴り、頬には冷や汗が伝う。
そして球磨川が口を開く――
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