元スレ和「君がいない冬」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
101 :
なん…だと…
102 = 1 :
その数週間後、咲さんは東京へと転校していった。
それ以来、私は彼女に会っていない。
103 = 1 :
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……どうしてあなたは、『宮永さん』なんですか?」
気が付けば私は彼女――――宮永淡さんに向けて、そう問い掛けていた。
二年前、彼女が咲さんとほとんど入れ替わりに転校してきた時。
まさにその日に投げかけた質問と、まったく同じものだった。
「離婚した母親の旧姓が、宮永だったから、だよ。和ちゃん」
そしてその答えも、二年前と寸分違わぬものだった。
104 = 1 :
何度聞いても同じ答えだった。
私が聞いても、優希が聞いても、竹井先輩が聞いても、染谷先輩が聞いても。
須賀くんが聞いても、宮永さんは首を横に振って、それ以上のことは何も言わなかった。
「なあ、淡ちゃん」
優希が、堪えられなくなったように問いかける。
「どうして咲ちゃんは、私たちに何も言わずに、いなくなっちゃったんだ?」
105 :
今から読むから
106 = 1 :
あれから二年も経つというのに、その答えはいまだ闇の中に埋もれたままだ。
咲さんはまさに転校するその日まで……いや、転校してからも、私たちに何かを語ることはなかった。
私たちは何一つ聞かされていなかった。
ただ彼女のクラスの担任が、淡々と、トレーシングペーパーを転写したかのように、
『宮永咲は東京へ転校した』
と知らせただけだ。
彼女は携帯電話を持っていなかったし、正確な転居先が何処なのかも杳として知れなかった。
107 = 41 :
オール地の文ってこのためか
108 = 1 :
何より彼女はその後二年間、麻雀の公式大会に姿を現すことはなかった。
私は東京のみならず、すべての県予選の全部門の全記録を、目を皿のようにして眺め続けた。
しかしついに、「宮永咲」の名を高校麻雀界で目にすることはなかった。
時を同じくして「宮永照」の名もまた、日本の麻雀界から消えた。
プロ入りを確実視されていた高校生チャンプの失踪は、一時は凄まじい狂騒を巻き起こしたものだ。
そして私たちは、事ここにいたってようやく、事態の異常性をはっきりと認識したのであった。
咲さんは、消えてしまった。
この世にいた痕跡を残さず、跡形もなく、消えてしまったのだった。
ただ一つ、部室の写真立てに飾られた、六人の麻雀部員が笑い合う―――あの写真を除いては。
109 = 1 :
手掛かりがあるとすればそれは、目の前の少女の証言をおいて、他にはないはずだ。
優希が悲痛に訴える主張と同じものを、誰もが同じように、同じ胸の奥に秘めていた。
「……ごめんね、優希ちゃん。私には、何もわからないんだ」
「でも! 咲ちゃんと淡ちゃんは、入れ替わりでこの長野にきたんだ! そんで淡ちゃんは、咲ちゃんのお姉さんと同じ学校だったんだ! それで、それで……」
「それで、関係ないはずが、ないって? ……うん。それは、あたしもそう思うよ」
「だったら!」
「でも、ごめんね」
110 = 1 :
それでも。
昏い瞳をかすかに瞬かせた優希の希望は、即座に切って捨てられる。
「あたしにも、その理由まではわからないんだ。あたしはただ、母さんと一緒に、こっちに引っ越してきただけだから」
失望の暗さが、重く肩にのしかかる。
今さら有益な情報など得られはしないだろうと、わかっていても胃にずしんとくる。
彼女は。
宮永さんは。
やはり、何も知らないのだ、と。
112 :
・「宮永さん」
・「あたし」
・キラキラした金髪と、軽くウェーブがかったショートブラウン
違和感はあったがやられた
113 = 19 :
「切ない」ではなく「暗い」の意味がこれか…
114 = 101 :
さるったか
>>112
ああ、気づかんかった…
115 = 11 :
こりゃ地の文じゃなきゃあかんわな
117 = 1 :
「……だったら」
肩を落とす私と優希。
しかし彼は、悲痛そのものの泣き笑いを浮かべながら、なおも宮永さんに食い下がった。
「だったら、淡。どうしてお前は、そんな格好してるんだ?」
「……」
「どうして、髪を茶色く染めて、短く切って、整えてまで、どうして……」
「……」
119 = 1 :
「どうして、咲の真似なんかしてるんだよ」
ウェーブがかったショートブラウンの少女に向けて、問うた。
「やだなぁ、そんなの決まってるじゃん」
返答の代わりに、淡い微笑み。
「京ちゃんのこと、好きだったからだよ」
「……………………な?」
「転校してきたばっかの私に、最初に話しかけてくれたの、京ちゃんじゃん」
「それ、が、なんだって」
「それだけだよ。それだけで好きになっちゃうチョロい女の子も、この世にいないわけじゃないんだよ?」
120 = 1 :
「でも、京ちゃんの心の中には、いつだっていなくなったあの子が棲んでたから」
淡くて、消えてしまいそうな儚い笑み。
「だから、あの子の、咲ちゃんの、真似してみよう、って」
今にも壊れてしまいそうな、しかし。
「そしたら、京ちゃん、振り向いてくれるかな、って」
「――――っ」
微笑みかけられた須賀くんごと、何もかも壊してしまいそうな笑み。
121 = 116 :
咲さんはいったいどこにいったのか
122 = 1 :
「ごめんね……期待させちゃったなら、ごめんね。咲ちゃんに繋がる手掛かりがあるんじゃないかって、勘違いさせちゃったならごめんね。いきなり、好きだなんて言って――――ごめんね?」
少年が、がくりと膝から崩れ落ちた。
処理しきれない情報量が、彼の脳の内側と外側でパンクしかけている。
「違うんです……宮永さんが悪いんじゃないんです」
私は、気が付けば声を上げていた。
123 = 50 :
おぉ……
124 = 1 :
「ただ、私は悔しいんです」
気が付けば、自然に声は張り上がっていた。
「どうして、どうしてこの場に」
気が付けば、大きくかぶりを振っていた。
「どうしてこの輪の中に、咲さんがいないんですかっ!?」
気が付けば――――私もまた、泣いていた。
125 = 1 :
「なあ、淡。教えてくれ」
「俺たちは、どうすれば、咲を失わずにすんだんだ?」
「お前が、淡がいて」
「俺がいて、優希がいて、和がいて、先輩たちがいて、後輩たちもいて」
「――――咲が、いて!」
「どうして、それじゃダメだったんだ?」
「……なんでだよ?」
「なんでなんだよおおおっっ!!??」
126 = 1 :
気が付けば、その場にいる全員が泣いていた。
私は啜り泣いていた。
優希はへたりこんで嗚咽していた。
須賀くんは地に腕を叩きつけ、慟哭していた。
そして、宮永さんは。
「……残酷なことを言うようだけれど、あたしはこう思う。あたしが勝手にこう思ってる、って意味なんだけど」
はらはらと珠の様に、落涙していた。
128 = 1 :
「多分、みんなは、咲ちゃんを」
「テルに会わせちゃ、いけなかったんだよ」
「離れ離れでいることが、あの二人にとっての幸せだったんだよ」
「すべてが終わっちゃった今だから、そう言えるんだけど、ね」
終わった。
何が終わったというのか、宮永さんははっきりと言葉には出さなかった。
それでも私は、彼女の言わんとするところを、なんとなくだが理解できてしまった。
ああ、もう――――何もかも、終わってしまったことなんだ、と。
129 :
ここに来てこう来るのか
SSは最初にインパクトないと伸びないのが残念だな
131 = 1 :
山の上の空に花が咲く。
彼女が大好きだった麻雀役の由来が、私たちのあんな近くにいる……というのは、少々こじつけに過ぎるだろうか。
どこかで彼女も、この花を見ているのだろうか。
仕様もないことを考えてから、私は小さくかぶりを振った。
咲さんが、私たちの隣にいない冬。
もう戻らない夏に向かって、小さな祈りを捧げながら。
この冬という現実を、私は強く強く噛みしめた。
完
132 = 1 :
今のりつべならこのぐらいの展開はやりかねないかな、と思って書いてみた
咲さんがどうなったのかは多分あなたの想像通りです
それじゃ、お付き合いいただきありがとうございました
135 = 41 :
乙ァ…
136 = 7 :
乙だじぇ…
137 = 118 :
乙やで!
138 = 129 :
乙
しかし
>「離れ離れでいることが、あの二人にとっての幸せだったんだよ」
がわからん。本人たちはこれで幸せで、離れ離れでいることで幸せになるのは
清澄の皆じゃないの?
139 = 43 :
乙、乙
そして解決編はよ
140 = 129 :
あ、あとそれとスレタイで和が「君」っていう普段使わない言い方をしてる理由
141 :
やりかねないだろうけど、売り物としては叩かれると思う。
ここでSSとして書く分には構わないだろうけど。
お疲れ様でした。
143 = 19 :
うぎゃあー
144 :
おつ
面白かったよー
145 = 15 :
原作ではそういう存在でないことを祈ろう…
みんなの評価 : ☆
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