元スレ和「君がいない冬」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
1 :
ちょっと暗めの咲SS
諸事情によりオール地の文
苦手な人はごめんなさい
2 :
専門板に行け
3 :
ちょっと暗めの咲SS
諸事情によりオールアフィ転載用の文
苦手な人はごめんなさい
4 = 1 :
高校生活最初の夏。
今なお、忘れようと思っても忘れることのできない、あの熱かった夏の日々。
私たちは、夢のように遠いと思っていた目標――――全国制覇を成し遂げた。
正直、その瞬間のことはよく覚えていない。
まるで自らが対局しているかのごとく、熱に浮かされたまま大将戦の行方をモニターで見守って。
優勝が決まった瞬間、全員で対局室に駆け出して。
私はおそらく、いの一番に彼女に抱きついて、泣いたのだろう。
これで来年も、清澄で麻雀ができる。
この仲間たちと、これからも一緒にいられる。
ただ難しいことは考えずに、そう思って泣いたのだろう。
そして彼女は視線の先に、ずっと目標にしていたお姉さんの姿を見つけて――
5 = 1 :
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そういうこと言うのは……この口かーっ!」
「いは、いはいいはい! ……もう、京ちゃんってば!!」
通い慣れた部室の扉をくぐると、賑やかなじゃれあいが聞こえてきた。
宮永さんと須賀くんがまた他愛もないことで、可愛らしくいがみ合っていたのだろう。
この数年で、すっかりおなじみとなった光景だ。
6 = 1 :
「二人とも、こんにちは」
「おっす、和」
「あ、和ちゃん! ちょっと聞いてよ、京ちゃんったらね……!」
「それはひどいですね。謝ってください須賀くん」
「せめて最後まで聞いて!? 原告の証言すらロクに聞かないとかどんな魔女裁判だ!」
やれやれと大げさに頭を振った須賀くんに、宮永さんと二人、顔を見合せて笑う。
彼はちょっとげんなり表情を曇らせたと思ったら、次の瞬間には誰よりも快活に歯を光らせていた。
8 = 1 :
「原村部長は宮永さんばっかえこひいきしてていけないと思いまーす」
「ひいきなんてしてません。だいたいもう部長じゃありません」
「あれがひいきじゃなきゃなんだってんだよ……」
「女子をひいきしてるんじゃなくて、単に須賀くんに信用がおけないだけです」
「なお悪いわ!」
「……ふふ」
こんな軽口を彼と叩けるようになったのは、いつからのことだったろう。
思い返すにおそらく、竹井元部長の引退が契機だったのではないだろうか。
9 = 1 :
同じ女性とは思えないほど凛々しく、しかし女性らしい魅力に満ち溢れていた竹井先輩の後ろ姿は、今でも鮮明に思い出せる。
何事にも率先して先頭に立ち、常に清澄麻雀部を引っ張り続けてきた頼れるリーダーの引退は――それだけが原因ではなかったが――私たちの上に、一時的だが暗い影を落とした。
そんな時に声を張り上げたのが、須賀くんだった。
物怖じしない笑みと良く通る声で、竹井先輩がよく使っていたホワイトボードに大きく書き殴りながら、
『清澄、全国制覇おめでとう!!! 来年もきばって、目指せV2!!!!!』
と叫んだのだった。
染谷前……いや、元部長などは、あれで再始動したようなものだった。
竹井先輩の良き右腕であり、清澄のNO.2であり続けた先輩が、一つ殻を破った瞬間だったのかもしれない。
10 = 1 :
静かに不敵にふてぶてしい染谷部長。
そしてその隣で、須賀くんがみんなを鼓舞しサポートする。
私は形式上の副部長に据えられてこそいたが、元より誰かの上に立つなど性分ではなかった。
ゆえに。
本来自分がやるべきことを肩代わりしてくれたから――というわけではないが、あの時期須賀くんには感謝の気持ちでいっぱいだった。
そしてそれは、染谷先輩が引退し、私が部長に就任してからも何も変わらなかった。
私などは竹井先輩とも染谷先輩とも違って、厳しくするしか能のない部長だった。
ダメなものはダメとはっきり言いすぎる嫌いがあるし、お世辞にも後輩に慕われていたとは思えない。
自然、潤滑油としての須賀くんの負担はいたずらに増し、大変な迷惑をかけてしまったのだろう。
12 = 1 :
麻雀部について、部員について、須賀くんとは何度も話し合った。
あいつはちょっと落ち込んでたからメシおごっといた、とか。
逆にあいつは調子のりすぎ、もっと和がへこませてやるのも勉強だ、とか。
私では絶対に気の付かなかった部分まで、彼は実に細やかに心を配っていた。
須賀くんに不思議な人気があるのも頷ける話しだった。
彼は男女問わず、とても友人が多い。
けしてモテる、というわけではないのだが、人が集まってくるところに自然と彼がいる印象はあった。
宮永さんも、あるいはそうだったのかもしれない。
13 = 1 :
「まっ、京ちゃんの味方なんてハナからここにはいないってことだよ」
「言ったなテメ、なんなら今から部員全員招集して、俺とお前のどっちに非があるのか聞いてみるか?」
「須賀くんは天性のいじられキャラなんだから、ヘタに敵を増やすのはやめといた方がいいと思いまーす」
「お前に言われたくないよ」
「違うよ! あたしいじられキャラじゃないよ!」
「……だな。お前はどっちかというとぼっちキャ」
「むむーっ! ぼっちじゃないもん!」
「お前この学校来たばっかりの頃、俺以外に話すヤツいなかったじゃん」
「やーめーてー思い出さないようにしてるのに! 京ちゃんのいじわるー!!」
14 = 1 :
……もう何回も何回も、食傷気味になるほど見飽きた光景だというのに、いまだ胸がじくりと痛む。
二人はお付き合いしてるんですか。
っていうか、いっそ付き合っちゃったらどうなんですか。
我慢しきれず、そう声を掛けそうになったことが何度もある。
そして、その度に思いとどまってきた。
余人の踏み入ってはならない領域というものは、確かに人間と人間の間には存在する。
人の心の機敏に疎い私でも、どうにかそのくらいは理解できた。
須賀くんは分け隔てなく色んな人に笑いかけて、その度に人から色とりどりの笑顔を返されている。
しかし彼の心の中には、たった一人のために空けてある特等席があるのだ。
そのことを思うと、下手な口出しはできなかった。
16 = 1 :
「おおーーっす! 待たせたなお前らっ!!」
「いちいち声がでかいんだよなお前……」
「ご主人様に口答えするない、バカ犬!」
「まあまあ、優希ちゃんも京ちゃんも落ち着いて」
そのうち優希が、底抜けの陽気とともに部室に飛び込んできた。
二言三言、いつものやりとりを交わすと、誰からともなく自動卓の前に。
この四人が、清澄麻雀部の現三年生。
最も長きに渡って、苦楽を共にしたかけがえのない仲間。
この夏の大会をもって清澄高校麻雀部を引退した四人が、久々の全員集合を果たしたのであった。
17 = 1 :
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
気が付けば夕陽もすっかり沈み、窓の外は一面の闇に彩られていた。
「だああああっ!!」
「また負けたじぇぇ!!!」
須賀くんと優希、4位と3位に沈んだ二人が二人して卓に突っ伏す。
私が2位で、宮永さんがトップ。
統計的に、長期的に考えて、いつも通りの結果が出ただけだ。
それなのになぜだろう。
私はなんだか、理由もなく泣きたい気分になっていた。
「そういやさ、和はプロ入り蹴って進学すんだっけ?」
18 :
とりあえず期待はしてやんよ
20 = 1 :
須賀くんが卓に伏していた顔を上げて、何気ない口調で言った。
多分、私の内心のどうしようもないやるせなさを察して、気の紛れるような話題を振ってくれたのだ。
本当に、頭が上がらない。
「もったいないよねー、和ちゃんの実力なら活躍間違いなしなのに」
「父が、将来のために大学だけは出ておけと……かくいう私も、今回は父の考えがよくわかりますから」
「のどちゃんの人生設計は麻雀同様、実に堅実だじぇ」
優希の揶揄するような言葉に、宮永さんが頬を掻きながら苦笑する。
彼女は全国大会で見せた圧倒的な個人成績を武器に、すでにプロ入りを決めている。
彼女の実力をもってすれば、プロ入りというリスキーな選択肢もギャンブル足り得ないだろう。
21 = 1 :
「優希ちゃんと京ちゃんは……」
「私は池田……センパイと同じ大学で麻雀続けるじぇ」
「ああ。そういやお前、あの人には何かと気ぃかけてもらってたよな」
「それじゃあ、優希と私は大学ではライバル同士、ということになりますね」
「おう、負けないじぇのどちゃん!」
「ちぇー、いいよなぁみんなは。俺一人だけ一般入試でヒーヒー言ってんのにさ」
「なんならあたしんとこ、一芸入試で受けてみるかー?」
「バカ言え、俺の麻雀は大学で続けられるレベルにゃねえよ。優希だって知ってんだろ?」
「そうじゃなくて、マネージャー力でだな」
「それこそ無理に決まってんだろーが!」
22 = 1 :
須賀くんのツッコミにつられて、三人して大笑いした。
彼は憮然としてそっぽを向いたが、ポーズだけだということはこの場の全員が承知だ。
笑いながら、私は優希の提案も案外理にかなっているのでは、などと埒もないことを考えていた。
二年前に全国制覇を果たして以降、麻雀部への入部希望者は激増した。
というより長野県全体で、清澄高校進学を目指す学生の母体数そのものが、相当増えたらしい。
そうなれば当然、レギュラーに入れない後輩も出てくる。
須賀くんが今まで一人でこなしていた雑用まがいの仕事を、分担させられるだけの人数はゆうにいた。
しかし、それでも私や染谷先輩は、須賀くんのサポートこそを欲した。
無論本人の意思は尊重した上でだ。
頭数や麻雀の実力では語れない、えも言われぬ安心感を、須賀京太郎という少年は私たちにもたらしてくれる。
私たちにとって最後のインハイの直前、私は遠慮がちに話を切り出し、頭を下げた。
すると須賀くんはやはりというべきか、笑って快諾してくれたのだった。
24 = 1 :
あまりの即答ぶりに、尋ねた私の方から何度も確認をとってしまったほどだった。
いいんですか、本当にそれで。
須賀くんが自分の練習に専念したいなら、絶対に無理強いはしませんから。
だから、もう少しよく考えてみてください。
……その上で私たちを助けてくれるのなら、すごく嬉しいですけれど。
悔しくなかったはずがない、と思う。
彼だって聖人君子ではない。
私たちが何度も全国の舞台で脚光を浴びる傍ら、須賀くんは結局三年の間一度も、県予選を突破できなかった。
忸怩たる思いが、なかったはずがないのだ。
それでも須賀くんは、最後まで私たちのサポートに徹してくれて――――その結果清澄高校は、見事に二度目の入賞、すなわち全国準優勝を成し遂げたのであった。
25 = 1 :
「あー、そっか。ってことは……」
私の益体もない思索を遮ったのは、宮永さんのどこか寂しげな声だった。
「来年からは、みんなバラバラなんだね」
沈黙。
心地よさとは程遠い、肌に突き刺ささるような三十秒。
そんな気まずい空気を払拭するのは、たいていの場合彼の仕事だった。
「……うし。せっかくだから、みんなで帰ろうぜ」
26 = 1 :
「京ちゃん?」
「みんな、進路のことでこれからも色々とごたごたするんだろ? まあ一番ごたごたすんのは、間違いなく俺だろうけどな」
須賀くんが立ち上がって、頭をガシガシ掻きながら照れたように言う。
「今日だってホント、久しぶりに集まれたんだよな。今日が12月の2日だから、いったい何日ぶりに……まぁ、それはいいや」
「犬は計算が大雑把だじぇ」
「うっせ……んでさ、今後何回、こういう機会があるかもわかんないじゃんか。だったら少しでも、つまんないことでもいいから……お、思い出とか、作っとこうぜ」
27 = 1 :
……照れたように、じゃなく、本当に照れた。
それはもう、くさい台詞だったのだからしょうがない。
聞いてるこっちまで恥ずかしくなるような。
「……いいこと言うね、京ちゃん!」
頬を赤くする代わりに目を輝かせた、宮永さんを除いて、だったけど。
いそいそと通学カバンを肩にかけた彼女は、駆け足で部室を出て行く。
「玄関で待ってるねー!」
「おい、ちょ、待てってば!」
28 = 1 :
そのすぐ後を、慌てて須賀くんが追いかけていった。
暗がりを早足で駆け抜けようとする宮永さんのことが、よほど心配なのだろう。
残されたのは私と優希の二人。
「ったく、京太郎はホント過保護だじぇ」
「別に、過保護なのは宮永さんに対してだけ、じゃないと思いますよ?」
「……わかってる」
ちょっぴり拗ねたような優希をなだめる。
そう、優希だって本当はわかっている。
須賀くんは誰に対してだって、老若男女問わず“ああ”なのだ。
あるいは、私たちがそうさせてしまったのかもしれないけれど。
部室の隅っこに飾った写真立てを眺めながら、私は口の中だけでそう呟いた。
29 = 1 :
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さっむいねぇ。明日は雪降るかな?」
「あー……そりゃ勘弁だな」
「え、なんで? 京ちゃん、雪嫌いなの?」
「積もるぐらい降ったら、お前が滑りまくって学校まで辿りつけないかも、だろ」
「……えいっ」
「いってぇ! カバンで叩くなよなお前!」
数メートル先も満足に見渡せない暗がりの真っただ中。
キラキラした金髪と、軽くウェーブがかったショートブラウンが、楽しそうに嬉しそうに跳ね回っている。
私と優希は二人の少し後ろから、それを言葉少なに並んで眺めていた。
31 = 1 :
「やっぱり、さ」
優希がぼそと呟く。
消え入るような声だった。
涙を堪えているようでさえ、あった。
「京太郎には、咲ちゃんがお似合いなんだよな」
「……優希」
32 :
33 = 1 :
私にはただ、彼女の名前を呼んであげることしかできなかった。
他の言葉は、どこを探しても見つからなかった。
そんな私の心境を知ってか知らずか、優希は突然パッと顔を上げると、先を行く二人目がけて駆け出す。
「……そーれ、二人でイチャついてないで私も混ぜるじぇーい!!」
「うおっぷ!? いきなり飛びかかってくるんじゃねえよ!」
「あー優希ちゃんずるーい! 私も私もー!」
心底困った声を張り上げながらも、須賀くんが本気で二人を振り払うことはついになかった。
私はといえば、やはりその光景を遠い目で遠巻きにしていただけだ。
34 = 1 :
「どうして」
切ない。
悔しい。
やるせない。
単純な感情の羅列がのしかかるように去来して、胸のうちのどこかにしんしんと堆積した。
どうして、いったいどうして――――
「……は、あの輪に加われないんですか」
独白は誰にも受け取られることなく、冬の真っ黒な夜空に融けていった。
36 = 1 :
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あ」
「よう、和」
結局雪は降ることなく、数日後の通学途中。
高校の最寄り駅で改札をくぐったところで、須賀くんとばったり出くわした。
「おはようございます、須賀くん」
「おう、おはような」
そのままどちらからともなく並んで、校舎までの道のりを二人行く。
二年前ならばいざ知らず、今の私たちが、十分やそこらで道連れの与太話に欠くことはない。
38 = 1 :
「……須賀くん?」
ふとした瞬間、会話が途切れた。
ちらと横目で彼を見やった瞬間、反射的に眉尻が吊り上がった。
「また見てましたね」
「い、いやいやいや! 誤解するなよ和! これは男にとって、心臓が拍動するのに等しい自律行為であってだなー!」
「眼球が不随意に女性の胸部に対して自動追尾を行うなんて、そんなオカルトありえません。あなたのそれは明らかに随意運動です」
これだ。
こればかりは、彼が一年生の頃から何も変わらない。
女性の……その、何というか……豊かな、胸部……もう!
それが放つ何がしかの何かは、須賀くんの眼球運動に誘蛾灯のごとき作用をもたらしてしまう、らしいのだ。
39 = 1 :
これだから私は、彼のことを一人の男の子として見る気になれないのだ。
いや、確かにこの事実は、彼が立派な男性であることの証左ではあるのだけれど。
「私は慣れているからいいですけど」
「よっ、さすがは原村大明神! 器と胸がデカい!!」
「後輩が何かしらの訴えを提起してきたら、父に相談しますからね。弁護士として」
「おいやめてくれガチ犯罪者になっちまうよオレ」
まあ、ちなみに実際の犯行現場では、
40 = 1 :
『須賀先輩さいてーい』
『セクハラなのですセクハラ!』
『慰謝料としてアイス奢ってくださーい』
『ついでにタコスも買ってこい犬』
ぐらいの糾弾で、事件はすっかり終息を見てしまうのだが。
須賀くんの人徳が時々、逆に恐ろしくなることがある。
……被害に遭いそうにない人物からの賠償請求ばかりなのは、きっと気のせいだろう。
「ああそうだ、そう言えばさ」
須賀くんは言うが早いか、いきなり鞄に手を突っ込んでまさぐりはじめた。
どうやら何かを探しているようだ。
42 = 1 :
「ん、あったあった」
差し出してきたのは、一枚のくしゃくしゃになったチラシだった。
「へえ。諏訪湖畔で、冬の花火大会ですか。夏のそれは、全国有数の大花火大会で知られてますけれど……」
折り目があちこちに付いたチラシを丁寧に伸ばすと、力強い字体が目に飛び込んできた。
華やかながらもどこか侘びしい、空に咲く花の写真がバックを飾っている。
綺麗だな、と素直にそう思った。
「もしかして、デートのお誘いですか?」
内心の動揺を辛うじて押し殺し、にっこりと笑いかける。
すると須賀くんは頬を掻いて、
44 = 1 :
「ま、そんなところかな」
「っ」
ぎゅっ、と拳を握り締めた。
悟られないように俯いて、唇を軽く噛む。
「……うして、そんな」
「あいつらも誘ってさ、三年生四人で見に行かない?」
「……」
「ほら、ちょうどこの日はガッコないじゃん。だからってぇぇぇぇ!!!!?」
45 = 30 :
そんなオカルトはありえる
46 = 41 :
うむ
48 :
淫乱レズ畜生が嫉妬に狂う展開じゃない…だと…?
49 = 1 :
思いきり向こう脛を蹴飛ばしてやってから、悶絶してうずくまる須賀くんを無視して先を急ぐ。
紛らわしいことを思わせぶりな顔で言わないでください、このおバカ。
ため息まじりの罵倒は、胸の内に閉じ込めておいた。
「まっ、つつぅぅ…………ま、待てってば和!」
と思っていたら、あっさり立ち上がって私の背中に追いついてきた。
渾身の力でサッカーボールキックを叩きこんだつもりだったのに、こういうところはさすがに男の子である。
「……どうして、急にこんなことを?」
今度は包み隠そうともせず盛大に息をつくと、一応は話に取り合ってあげる。
なんだかんだ言っても、私は須賀くんのことを信用している。
こういう時の彼に、下卑た下心は決してない。
1%たりとも、砂粒一つ分もない、とまではさすがに言わないが。
50 :
しえん
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