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    元スレ男「あと5分で俺も魔法使いか…」

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    1 :

    「ふっざけんなよ!何が魔法使いだよ!」

    そう憤慨しながらダイエットコーラをグビリと飲み下す

    「世の中に問題があるんだよ!…そもそも政治が…」

    ブツブツと文句を言いながら予め買っておいたピザをテーブルに広げる
    それと一緒に買っておいたホールケーキも並べ、ロウソクを立てる

    「30歳…か」

    3本の大きめのロウソクを立て、それに火を灯す

    2 :

    ほう

    3 = 1 :

    時間は23時55分
    男はあと5分で30歳になろうとしていた

    「何が魔法使いだ…バカにしやがって…」

    それはインターネット上でまことしやかに囁かれている都市伝説
    「男性が性行為を行わないまま、つまり童貞のまま30歳を迎えると魔法使いになれる」
    その都市伝説は男にとって笑い飛ばせる物では無かった

    「そもそも一生童貞の何が悪いんだよ!人間なんてこれ以上増えるべきじゃないわけで…」

    イライラした様子で部屋の電気を消すと
    ロウソクに照らされ、テーブルの周りだけがボンヤリと浮かび上がる

    4 :

    ちょっと期待

    5 :

    俺らじゃん

    6 = 1 :

    「ハッピバースデートゥー俺ー!ハッピバースデートゥー俺ー!」
    「ハッピバースデーディア俺ー!ハッピバースデー  トゥー  俺ー!!!」
    「おめでとー!ほらロウソク吹き消して!」
    「一息でだよ!!」
    「おう!!」

    一人芝居を挟んでロウソクを吹き消す
    一息でロウソクの炎は消え、男の狭い部屋は暗闇に包まれる

    「何やってんだか…」

    自嘲ぎみに笑いながら、そのままバタンと仰向けに倒れこむ

    7 = 1 :

    「泣いてない」

    誰とも無しにそう呟く

    「いつからだろ…こんな風になっちゃったのは…」
    「友達も彼女もいないままただ学校を卒業して…生きるために惰性で働いて…」
    「そこまでして生きる事に執着したいわけじゃなくて…死ぬのが怖いだけで…」

    ツツ…と男の目から流れた物があった

    「泣いてない」

    男が再度呟く、恐らく「汗」であった物を腕で拭いながら

    9 :

    泣いてない

    12 :

    泣いてないし

    13 = 1 :

    ムクリと起き上がり、部屋の明かりをつける

    「さてと…腹いっぱい食べて誕生日を満喫しますかね」

    赤くなった目をこすりながらテーブルに視線を戻す

    「…?」

    視界の端に見慣れない物が映る
    『それ』は部屋の明かりを消す前までは確かに存在していなかったはずだった

    「ぬいぐるみ?」

    ベッドの上にチョコンと座る『それ』は
    ぬいぐるみの様にも人間の赤ん坊の様にも、はたまた小動物の様にも見えた

    14 :

    ズボンならもうない

    15 :

    このまま終われよ
    間違っても萌豚展開にすんじゃねーぞ

    16 :

    職業が魔法使いでも経験値0…つまり

    17 = 4 :

    二フラムじゃないだと!?

    18 :

    童貞の場合→魔法使いになれるが経験値がなくMPが足りないので魔法は使えない
    童貞ではない場合→経験値が豊富だが魔法使いではないので魔法は使えない

    19 :

    ガチムチなおっさんの尻穴で捨てるか
    マホカンタだけ使える魔法使いになるかの二択くらいで頼む

    20 = 1 :

    男がそれに目を奪われ、固まっていると

    ???「泣いてる」
    「うおぉ!!」

    それは男のほうを向いて言葉を発した

    ???「え!?」

    それが声を発した事に驚いた男を見て
    逆にそれが驚いたような声をあげる

    「な……なんなんだよ……お前…」

    21 :

    QBか

    23 :

    きたい

    25 :

    キュゥべえ?

    26 = 1 :

    「なんなんだよ!!」
    ???「え…?」

    それは自分に向けての言葉と思っていないのかキョロキョロと視線を動かす

    「お…お前だよ!ベッドの!!お前!!!」
    ???「お…俺ぇ?」

    男はその言葉をうけて頷く

    ???「なんで……見えて…まさか」
    「な…なんなんだよ…」

    28 = 1 :

    ???「俺が見えてる?」
    「あぁ…いつ入ってきたんだよ…」
    ???「いや…いつ入ってきたも何も…ずっといたけど…」
    「……ああ?嘘つくなよ!俺の部屋だぞ!賃貸だけど…」

    少しの間の後それは口を開く

    ???「…俺はあれだよ…お前の童貞」

    その言葉を男は理解できなかった

    「は?」
    ???「だから、ど・う・て・い!」

    29 = 14 :

    「は?」

    30 = 1 :

    「は?ど…童貞って?」
    童貞「童貞は童貞だよ」
    「あの性行為をしてない男の総称の?」
    童貞「そうそう、その童貞」

    男は言葉を失う

    童貞「まぁいきなりだから混乱するのは分かるけどな」
    童貞「一応生まれてから今までずっと一緒にいたんだぞ、お前は見えてなかったけど」
    「な…?は…?何かのドッキリか?」
    童貞「俺も正直驚いてるよ、何でいきなり見えるようになったのよ?」
    「冗談じゃなく?」
    童貞「冗談じゃなく」

    32 :

    続いて欲しいけどこのまま行けば魔法使い確定な俺には少しキツい

    33 = 1 :

    「うん、寝よう、疲れてんだきっと」
    童貞「なんでだろうなぁ…あ!」

    童貞が何か閃いたように手を打つ

    「…な…なんだよ?」
    童貞「あれじゃね?30になったから!魔法使いになって見えるようになったんじゃね?」
    「馬鹿言うなよ…そんな話聞いたこともない」

    男は言ったものの
    これほど現実離れした生物を目の当たりにし
    他に理由らしい理由も浮かばないのが現実だった

    34 = 1 :

    「確認するぞ?」
    童貞「どうぞ」
    「お前は俺の童貞…の化身みたいなもんなんだな?」
    童貞「化身?ああ!そうだな!そんな感じだ!」
    「んでお前にも何でこうなったか分からないんだな?」
    童貞「そうそう」

    コクコクと頷く

    「俺と生まれた時からずっと一緒にいるって…?」
    童貞「おぉ、なんなら証拠もあるぞ」
    「なんだよ?」
    童貞「初恋は小学校4年の時の同級生の子で、放課後コッソリ上履き舐めてたよな」
    「おぅわぁあああぁあぁああぁ!!!!!」

    36 :

    俺の「童貞クン」は奪われてしまったのに…

    37 = 1 :

    「な…なんでその事を!!!」

    狼狽を隠せない男に向かって童貞はなおも続ける

    童貞「中学2年の時はチン毛を好きな娘の机の中に忍ばせてたな」
    「もういい!!!もうわかったから!!!やめて!!!!」
    童貞「一番俺がびっくりしたのは高校1年の夏休みだな」
    「よし!そこまで!!信じた!!お前が俺とずっと一緒にいたのは信じたから!!」

    男の反応を見て童貞は嬉しそうに肩を揺らす

    「…はぁ…一気に疲れた……今日はもう寝ようぜ…」
    童貞「そだな、でもいいもんだな!こうやって話せるのって!」
    「…………そうだな」

    38 = 1 :

    チュンチュンと雀の鳴き声がし、朝の光が差し込む
    ほとんど睡眠はとれなかったが、出勤の為に眠気を押し殺す

    「ん…あぁ…やっぱ夢じゃなかったか…」

    チョコンと枕元に座る『そいつ』を見てひとりごちる

    童貞「あ、やっぱりまだ見える?」
    「見える見える、クッキリだ」

    夜中の残りのピザを咥えながらそう答える

    「そういやお前…飯は?これ食うか?」

    39 = 1 :

    童貞「別に何も食べないでも平気なんだけど…いいの?」
    「いいよ、冷めてて悪いけど」
    童貞「一度食ってみたかったんだー!お前いっつも旨そうに食ってんだもん」

    嬉しそうに残り物のピザを口に運ぶ
    その姿を見て、男の顔にも笑顔が浮かんだ

    「うまいか?」
    童貞「うんめぇ~!!!これ凄いな!!!こんなの食った童貞俺くらいだよ!!!」
    「……そっか」

    着替えながらも男の顔から笑みが消える事は無かった

    40 = 1 :

    「さて…そろそろ出勤だけど…留守番できんのか?」
    童貞「ムグムグ…いや…モグ俺も行くよ一緒にモグリ」
    「いや…でも…」
    童貞「誰にも見えないから平気だって、そもそも30年間ずっとそうしてきたし」
    「そうなの!?」
    童貞「そうなの、つーか頑張っても5mくらいしか離れられねーの」
    「そうなの!?」
    童貞「そうなの、だからさっさとセックスして俺を解放してくれな」
    「うぐぐ…」
    童貞「なははは!冗談冗談!せっかくこうして話せるようになったんだし!仲良く行こうや!」

    男がいつも会社に向かう前の陰鬱とした気分でない事に気付いたのはその時だった

    41 = 1 :

    「おぉ…こりゃ本当に認めなきゃならんかもなぁ…」
    童貞「どうした?」

    家を出て男は感嘆の声を上げる

    「お前みたいなのがそこらじゅうにいる」
    童貞「あー、俺以外の童貞も見えるようになってんのかー」

    家の外には隣にいる童貞によく似た、けれどもどこか違う生物が溢れていた

    「あれがみんな童貞か」
    童貞「そうだな、あれらがそばにいる奴は童貞か処女ってわけだ」
    「結構いるな!!お!あの娘は可愛いのに処女だぞ!!!」
    童貞「まぁお前くらいの歳の奴のそばにはいないけどな」
    「……言ってくれるな」

    42 = 1 :

    「これ俺にも見えない童貞とかもいんのかな?」
    童貞「いやいないと思うけど?」
    「でも…あの女の子なんてどう見ても中学生くらいなんだけど…」
    童貞「最近の中学生はすすんでるからねぇ…」
    「ちゅ…中学生で…」
    童貞「おい!落ち込むなよ!」
    「落ち込むわい!!」

    仕事に向かう足が重くなるのを感じながらも
    いつも通りの電車に乗り、いつもの会社に向かう

    童貞「なんかいいな!楽しいな!」
    「……そうかぁ?」

    44 = 1 :

    上司「おせーんだよ!!」

    出社一番、待っていたのは上司、それも年下の上司の叱責であった

    「いや…でも遅刻はしてませんが…」
    上司「何年やってんだよ!遅刻しなきゃいいってもんじゃねえだろ!」
    「すいません…何か…緊急の用事でもありましたか?」
    上司「そういう事じゃなくてだな!年上が先に出勤してねぇと示しつかねえだろが!」
    「…すいません」
    上司「アンタ自分より年下にこんな事言われて恥ずかしくないの?」
    「…………」

    その理不尽な叱責はしばらく続き
    男にはいつも通りの陰鬱な気持が蘇っていた

    45 :

    こっちは年下とか別に気にしてないのにこういう事言う奴がいると
    殺したくなるな

    46 = 1 :

    「営業…行ってきます…」
    上司「………」

    周りの人間からもクスクスと嘲笑される中
    男はいつも通り、営業回りに向かう

    「情けないとこ見せちゃったな」

    会社を出て自嘲ぎみに童貞に向かって呟く

    童貞「いつも見てたよ、心配すんな」
    「……そっか…そうだよな」
    童貞「お前が悪いようには見えないんだけどなぁ…仕事もちゃんとしてるし」
    「疎ましいんだろ…きっと」

    47 = 1 :

    童貞「あ、帰ったら俺がパンチしてやるよ!」
    「そりゃいいな…」
    童貞「ほれほれ、いつもの事なんだから元気出せって!営業行こうぜ!」
    「あぁ…」
    童貞「見返してやりゃいいんだよ!んで出世しまくって美人秘書雇うの!」
    「美人秘書はいいな」
    童貞「だろー!『今日の予定はどうなっとるかね?』とか言ってさ」
    「『今日は一日中私とホテルでしっぽりの予定です』なんつってな!」
    童貞「なはははは!いいねいいね!!」

    男に笑顔が戻る、それは昨日までの人生では考え難いほどにアッサリと

    童貞「そう!その顔!暗い顔してたんじゃ取れる契約も取れないからな!」

    48 :

    きっと俺のはこんなにいい奴じゃないだろうな

    49 = 1 :

    受付嬢「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」
    「あ、あの、営業の男と申します!アポイントは取っているんですが」
    受付嬢「はい、窺っております、少々お待ちください」
    「は、はい」

    予定にあった会社を訪問し、受付で要件を告げる
    目の前の受付嬢の横には童貞とよく似た生物が座っていた

    童貞「お!目の前の娘は処女みたいだな」
    「シー!」
    受付嬢「?」
    童貞「お前以外には聞こえてないって、心配すんなよ」

    50 = 1 :

    「検討はしてみるが今回は見送らせてくれ」
    相手からそう告げられ、男はいつものように訪問先を後にする

    童貞「残念だったな」
    「まぁこんなもんだよ、いつもの事さ」
    童貞「確かにいつもの事だ」

    エレベーターの中で二人は一息つく

    「そういやひとつ気になったんだけど」
    童貞「何?」
    「お前はそのへんにいる童貞とか処女の化身とは会話しないのか?」
    童貞「いや、普通に会話くらいするぞ」


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