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    元スレ律「バンドミーティング」

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    みんなの評価 : ★★★
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    101 = 17 :

    P「りっちゃん、ここ良い?」

    「あ、はい」

    プロデューサーは私の横に腰を下ろし、コーヒーを啜る。

    唯は休憩だと言うのにブースの中に入ったままギターをいじっている。

    最近ではスタジオに入る日に笑顔を見せる事は無い。

    差し入れのお菓子を口に頬張る事も無い。

    唯らしく無いその姿に私の心は痛む。

    102 = 17 :

    P「僕らはさ」

    「あ、はい」

    P「僕らはさ、楽で良いし、それにまあクオリティコントロールの面でも問題無いんけどさ…」

    「はい」

    P「いや、こんなに楽な子って初めてだなと思ってね」

    ?!

    P「いや、悪い意味じゃなくてさ、何となくね」

    そうしてプロデューサーはまたコンソールの方へ戻って行く。

    103 = 17 :

    なあ、唯。

    お前の衝動が周りを傷つける程に育つのと、お前が擦り切れてしまうのとどっちが早いんだろうな?

    ほとんどのバンドが音楽業界に入りたいからステージに立つ。

    ロックスターになりたいから、と言い換えても良い。

    そう言うバンドは周りを傷つけない。

    104 = 17 :

    ただ、私は唯に気付かせてしまった。

    平沢唯はアーティストで有ると言う事に。

    あるのは表現衝動だ。

    だが、その衝動の正しさ、尊大さは時に人々を傷つける。

    例えば、それを抑えてしまうとしよう。

    だが、それは太平洋を跳ねるマグロの泳ぎを止めるようなもので、窒息してすぐにも死んでしまうだろう。

    私はどっちを選ぶべき?

    105 = 17 :

    「YUI」のファーストアルバムはそこそこ売れた。

    業界全体でパッケージが売れない時代だからと言うのもあるが、初登場オリコン10位以内にも入った。

    シングルの時よりは唯のアイデアも生かされたのも事実だ。

    でも、やっぱりこれは唯の作品じゃない。

    CDが売れた事が、唯にとっても、そして私にとっても思い描いていた喜びを与えてくれるものじゃないってのは、不幸過ぎる話だ。

    106 = 17 :

    私達は唯のアパートで2人だけの打ち上げをする。

    六本木の創作料理店の個室で?

    柄じゃないだろ?

    スタッフ全員で?

    一生懸命にやってくれている彼らにどんな顔を見せたら良い?

    幸い、事務所の契約してくれた唯の部屋は部屋数が多くてさすがの唯も汚しきれないので、居間で飲むには問題ない。

    107 = 17 :

    「乾杯」

    「オリコン7位だってさ」

    「…うん、良かったよね…」

    私達はお互いに次の言葉に詰まる。

    2人ともこのアルバムに、と言うか全てに満足してない事が分かり過ぎるほどに分かっているからだ。

    108 = 17 :

    それでも、酔いが回ってくればそれなりに本音は出てくる。

    「だからさぁ、遠まわしに糞だよ、fuckin’だって言ってるのにさぁ…、ホント分かって無いのかなぁ」

    「ばっか、分かっててもそこは見ない振りってのは、やつらの一つのやり方でさ…」

    「ちょっと待ってて」

    スタッフの悪口にも飽きが来た頃、唯が隣の部屋に駆け込む。

    109 = 17 :

    「じゃーん。な~んだこれ?」

    小袋を持って戻って来る。

    「芸能界」に足を突っ込んだ中で良かった唯一の事は、こう言うものを比較的自由に使えるようになった事だ。

    110 = 17 :

    「ねえ、りっちゃん。こう言うのってさ、もしも対処出来るなら素晴らしいものだと思うんだよね。その事を理解して…、信じてさえくれれば、ベローナベラドンナってさ、アハハ…」

    「なんだよ、アイスじゃなくて良いのか?アハハ…」

    「私の好きなアイスはアイスだけだよぉ、ウフフ…。りっちゃんはマリファナ派なんでしょ?私は俄然ハイブリッドだね。何でもありっでって…」

    「ばっか、その決めつけだと、私がヤリマンみたいだろ?パンツの中のコンドーム詰めにされたものが、太平洋を渡ってくるのを待ちわびてましたって?ハハ…」

    ただひたすらに酩酊感に酔う。

    唯も私も。

    取り合えず、バッドトリップのような日々とさようなら。

    111 = 17 :

    窓から光が差し込んでいる。

    目が覚めると、日が昇る所だった。

    私は目を細めて太陽を見る。

    ここにいたら喉がつまりそうなる。

    そうだ、どっか別の場所に行く事にしよう。

    112 = 17 :

    ファーストアルバムの売上を考えれば会社は契約の延長を提示してくるだろう。

    だが、そんなものは糞喰らえだ。

    マーケティング?パッケージ?クオリティ?そんなものはくれてやる。

    良く分かってる連中がやれば良い。

    お前らの仕事だ。

    でも、素晴らしい曲を書いて、人々を魅了するアートはミュージシャンのものだ。

    それはお前らの仕事じゃない。

    113 = 65 :

    しえん

    114 = 17 :

    唯が眠そうに目を擦りながら、起きて来る。

    「もう、朝?」

    「あぁ」

    「朝だね、りっちゃん」

    「朝だな、唯」

    「新しい朝かなぁ?」

    そうさ、新しい日々の始まりだぜ。

    「なぁ、唯?」

    「ん?」

    「止めちまうか?」

    「りっちゃんに任せるよ」

    115 = 17 :

    らしく無かったってことだ。

    私は唯の才能を皆に届ける手伝いをしてやるんだ、と粋がっていたけど、
    実際には何の力も無い雇われ監督で、ただ唯を間違った方向へ進ませる事に協力して来ただけだった。

    116 = 17 :

    独立騒動?芸能界を干される?

    勝手にすれば良い。

    最後までやる事に決めたんだ。

    くたばれショウビズ。

    中指でも喰らえ。

    117 :

    しえん

    119 :

    いいところで
    寝たか?

    120 :

    しえん

    121 :

    面白い

    122 = 17 :

    さるってました。
    今は後30分ぐらい投下したら、寝落ちします。
    そして昼前ぐらいに起きて仕事行くまで出来るだけ投下して行きます。
    会社は規制で投稿出来ないと思うので、
    (残しておいて頂ければ)夜23:00ぐらいから投下するような形になると思います。

    ・・・

    「『YUI』と言う名称は使わせないぞ」

    どうぞ、それはあんた達のものだ。

    私達と、少し大袈裟な言い方をすると時代に必要なのはアートであって。

    その貴方がたが作り上げた名前は、貴方がたにお返ししよう。

    123 = 17 :

    >>121
    ありがとうございます。

    ・・・
    「他のとこのA&Rを待つか?それとも…」

    唯はあからさまに嫌悪の表情を示す。

    「上手くしてくれるなら良いけどなぁ…」

    「ですよね~」

    これは高校時代からの口癖だ。

    別に唯がアーティストだからへりくだってる訳じゃない。

    124 = 17 :

    私は、あのスタジオでの事や高校時代の出会いの事を思い返す。

    その選択の基準はどこから来たか。

    有りがちな話なのだけど、きっと言葉よりもっと深いところ。

    言語化は出来ない。

    だが、それでも自信がある。

    125 = 17 :

    それに続く言葉はこうだ。

    なるほど、それならやって見たまえ。

    そうしよう。

    パンクが世界にもたらしたもっとも素晴らしい発明品は何だったか?

    DIY精神。

    つまり、手前でやってみろって事なのだ。

    126 = 17 :

    「自分達で出そう!」

    「うん、私もそう思ったところだよ!」



    その夢がもう少しだけ長く続くように。

    いや、終わらないようにとしておこう

    127 = 17 :

    「唯が曲を作る」

    「私がアーティスト」

    「そして私がそれを売る」

    「ギャラは?」

    「5:5で」

    七三じゃないよな。

    128 = 17 :

    「レーベル名はどうするの?」

    唯がニヤニヤする。

    きっと、同じ事を考えてる。

    「いっせーのせで言おうぜ」

    「HTTレコード!」

    爆発!

    良い感じじゃないか?

    私たちはこうでないといけない。

    129 = 17 :

    レコード会社との取り決め通り、「YUI」の名前は出さない。

    まったくの別人だから。

    彼女は死んだ。

    そして平沢唯は蘇る。

    130 = 17 :

    良い音楽ほど売れない。

    こう言う決まり事は時に覆される。

    売れたのだ。

    「YUI」程では無いが、ちょっとした話題になるような売れ方をした。



    マキシシングル。

    一枚につき、ワンアイデアツーアイデアスリー…、無数のバージョン違い。

    こう言うやり方も一役買った。

    131 = 17 :

    何枚プレスしますか?

    「2万枚で!」

    それは素晴らしすぎるアイデアだ。

    凡人の頭からは出て来ない。

    よし、やってみよう。

    唯が自信があるのなら、私は反対しない。

    それがHTTレコードのやり方だからだ。

    132 = 120 :

    久しぶりに続きマダー?って思わせるSS来た

    134 :

    おもろい

    135 = 65 :

    >>1はバンドやったことありそうだね

    136 = 117 :

    138 :

    音楽ネタのSS大好きだ

    >>1頑張れ

    139 = 17 :

    レーベル立ち上げ、レコーディング、プレス、プロモーションその他諸々。

    唯がメジャーで稼いだ金は全て注ぎ込まれた。

    私の稼ぎも注ぎ込まれた。

    家族に頭を下げて借金した。

    そして、その結実として目の前に積まれた2万枚のCDケース。

    「冒険し過ぎだったかも知れないねー」

    今更?!

    馬鹿ヤロー!!

    140 = 17 :

    保守ありがとうございました。

    ・・・


    私と唯のオフィス兼自宅(唯は事務所からあてがわれたマンションを追い出されたし、私も金が無かったんだ。ルームシェアってのもオフィス兼てのもごくごく真っ当なアイデアじゃないか?)
    であるところの築三十年の一軒家に2万枚が運び込まれる様子を見た時には、自分達の決定のアホ臭さに失神しそうになる。

    その二万枚分の重さは床を歪ませ続け、ついには三十年物の床はその重さに耐え切れず抜けてしまう。

    そんな様をその一瞬に想像してしまい、私も唯もその場で嘔吐しそうになる。

    141 = 17 :

    しかし、そんな崩落の心配は杞憂に終わった。

    目に見えて箱は掃けていったからだ。

    142 = 17 :

    雑誌媒体に無視される?

    そんなら、動画サイトに上げてやる。

    リエディットしたロングバージョン、ダブバージョン、リミックスをレコード屋で配れ。

    「これ『YUI』じゃないか?」

    「売名乙」

    「あれより全然格好良いじゃん!」

    「何で名前変えてんの?」

    以前の悲しすぎる経験とは大違い。

    あれやこれやでカルトヒットと言う奴だ。

    143 = 17 :

    全てが上手く行き過ぎた。

    こうなると家内制手工業的なやり方を脱皮しなければいけなくなる。

    少なくともそう言うプレッシャーは掛かる。

    144 = 17 :

    オフィスは住宅街から、駅の近くのビルの一フロアに。

    唯の部屋はマンションに。

    営業車兼機材車は役割分担出来るように、私の自家用車兼営業車のアッパーミドルセダンと小型バスに。

    社長の私とローディとマネージャーも役割分担。

    145 = 17 :

    私も唯もただやりたかったからやって来ただけだが、
    新しく増えた船員たちはそれでは満足しない。

    146 = 17 :

    こんな事があった。
    マネージャー「メジャーから傘下に入らないかって話が来てるんですけど。

    つまり、A&R部門として有る程度の独立性を保ちつつみたいな…」

    拒否だ。

    こいつは私達のやり方をもう少し学んだ方が良い。

    147 = 17 :

    時にはこんな事もあった。

    M「メジャーの流通経路を使わせて貰うと言う話はどうっスかね?勿論、幾許かのお金は入れないといけないと思いますけど、完全独立の関係なんで前の話とは違いますよ。検討する価値あると思いますよ?うちに取っても悪い話じゃないと思うんですけど」

    なるほど、こいつは有能な奴だ。

    普通なら良いニュースだと飛び付くところだろう。

    148 = 17 :

    「そうだなー」
    次に続く言葉は驚く事に「拒否」だ。
    理由?
    感覚的なものだ。

    納得しろ。

    それが私と唯のやり方だ。

    つまり、私達の活動はある種狂信的な信念に支えられていると言う訳だ。

    149 = 17 :

    そして最終的にはこう言うこんな感じだ。

    M「プロモーションの専門家をいれましょう。そうしないと、例え今度のアルバムが売れても次は頭打ちですよ。それぐらいの金をけちるのはどうかと思いますよ。昔から言われてる損して得取れってやつですよ。」

    「そうして金儲けしてどうするんだよ。いや、私はお金を儲けるのが嫌だって言ってるんじゃないよ?お金があれば、質の良い…だって吸い放題だからね。でもさぁ、まず売るためにってのは違うんじゃないか?」

    M「でも、律さん、分かってますか?それじゃ成功はあり得ないんですよ?」

    「それだよ。成功ってなら『YUI』だって成功してた。でも、それじゃ嫌だから私達はここを始めたんだよ。もし、もっと成功したいって言うなら…」

    お前がここじゃ無い場所で頑張るしかないよな?

    「取り合えず、次のは半年後発売を目指してるって状況で良かったよ。体制を立て直す余裕があるってことだからな。唯には伝えておくから」

    150 = 17 :

    マネージャーの呆然とした表情ったら無かったな。

    でも、彼は私達のやり方の学び方が少し甘かったんだから仕方が無い。


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